特許第6237954号(P6237954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6237954
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】セラミックス材料、静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20171120BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20171120BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C04B35/117
   C04B35/577
   H01L21/68 R
   H02N13/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-511963(P2017-511963)
(86)(22)【出願日】2017年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2017002934
【審査請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-13843(P2016-13843)
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-65345(P2016-65345)
(32)【優先日】2016年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 良樹
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】釘本 弘訓
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−295352(JP,A)
【文献】 特開平05−178657(JP,A)
【文献】 特開平06−219828(JP,A)
【文献】 特開昭61−021965(JP,A)
【文献】 特開昭61−021964(JP,A)
【文献】 特開平08−267305(JP,A)
【文献】 特開平09−283606(JP,A)
【文献】 特開平04−322904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性セラミックスと炭化ケイ素との複合焼結体であり、
前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記絶縁性セラミックスの結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界と結晶粒内とのいずれか一方または両方に分散しており、
前記炭化ケイ素の結晶粒の全体に対して、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒を60体積%より多く含み、
前記複合焼結体は、結晶粒界に存在する気孔を含み、
前記複合焼結体が前記気孔を含まないとしたときの仮想真密度に対する、前記複合焼結体の見掛け密度の割合は97%以上であり、
前記β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒同士が焼結した部分を含むセラミックス材料。
【請求項2】
前記炭化ケイ素の結晶粒のX線回折結果から求めた結晶子径は、50nm以上である請求項に記載のセラミックス材料。
【請求項3】
前記絶縁性セラミックスが酸化アルミニウムである請求項1または2に記載のセラミックス材料。
【請求項4】
酸化アルミニウムと炭化ケイ素との複合焼結体であり、
前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記酸化アルミニウムの結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界および結晶粒内に分散しており、
前記複合焼結体の表面にCuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピーク(I1)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の比率(I1/I3)が0.05以下であり、
前記X線回折パターンにおいて、2θ=34.1度付近に見られるピーク(I2)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の比率(I2/I3)が0.01以下であり、
前記炭化ケイ素の結晶粒は、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒同士が焼結した部分を含むセラミックス材料。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のセラミックス材料を形成材料とし、一主面が板状試料を載置する載置面である基体と、
前記基体において前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電吸着用電極と、を備える静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス材料、静電チャック装置に関するものである。
本願は、2016年1月27日に、日本に出願された特願2016−013843号、及び2016年3月29日に、日本に出願された特願2016−065345号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマ工程を実施する半導体製造装置では、試料台に簡単に板状試料(ウエハ)を取付けて、固定することができるとともに、そのウエハを所望の温度に維持することができる静電チャック装置が用いられている。静電チャック装置は、一主面がウエハを載置する載置面である基体と、載置面に載置したウエハとの間に静電気力(クーロン力)を発生させる静電吸着用電極と、を備えている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような静電チャック装置においては、近年、従来よりも高い吸着力で板状試料を固定し使用したいという要求が高まっている。これに対し、高い電圧を印加し吸着力を高めると、使用中に静電チャック装置内の絶縁不良が生じ、例えば放電してしまうことで破損してしまう問題が生じていた。
【0004】
このような問題に対し、近年では、静電チャック装置に用いられるセラミックス材料の高耐電圧化が図られている。例えば、特許文献2においては、絶縁破壊強度が100kV/mmを超える材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4744855号
【特許文献2】特開2012−216816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電チャック装置が有する基体の形成材料として、セラミックス複合焼結体であるAl−SiCが知られている。しかし、従来のAl−SiCを用いた静電チャック装置は、半導体技術の微細化や3D化が進み、半導体製造装置および半導体製造装置で使用する静電チャック装置の使用条件が厳しくなるに従い、静電チャック装置は、より耐久性を高くすることが求められている。そのため、静電チャック装置に用いられるセラミックス材料について、高耐電圧化が求められていた。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、静電チャック装置に好適に用いられ、耐久性に優れたセラミックス材料を提供することを目的とする。また、このようなセラミックス材料を用いた静電チャック装置を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
SiCには、結晶構造が多数あることが知られており、立方晶系で3C型(閃亜鉛鉱型)の結晶構造を有するもの、4H型、6H型等の六方晶系でウルツ鉱型の結晶構造を有するもの、菱面体晶系で15R型の結晶構造を有するもの、が挙げられる。このうち、3C型の結晶構造を有するものを「β−SiC」と称する。
【0009】
静電チャック装置を使用した際に破損した基体について、発明者が検討したところ、基体を構成するAl−SiCに含まれるα−SiC結晶粒を起点として破損しているものが多いことが分かった。
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のその1の実施形態のセラミックス材料は、絶縁性セラミックスと炭化ケイ素との複合焼結体(セラミックス材料)であり、前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記絶縁性セラミックスの結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界および結晶粒内に分散しており、前記炭化ケイ素の結晶粒の全体に対して、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒を60体積%より多く含み、前記複合焼結体は、結晶粒界に存在する気孔を含み、前記複合焼結体が前記気孔を含まないとしたときの仮想真密度に対する、前記複合焼結体の見掛け密度の割合は97%以上である静電チャック用複合焼結体(セラミックス材料)を提供する。
【0011】
本発明の一態様においては、前記炭化ケイ素の結晶粒のX線回折結果から求めた結晶子径は、50nm以上である構成としてもよい。
【0012】
本発明の一態様においては、前記β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒同士が焼結した部分を含む構成としてもよい。
【0013】
本発明の一態様においては、前記絶縁性セラミックスが酸化アルミニウムである構成としてもよい。
【0014】
本発明の一態様は、酸化アルミニウムと炭化ケイ素との複合焼結体であり、前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記酸化アルミニウムの結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界および結晶粒内に分散しており、前記複合焼結体の表面にCuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピーク(I1)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の比率(I1/I3)が0.05以下であり、前記X線回折パターンにおいて、2θ=34.1度付近に見られるピーク(I2)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の比率(I2/I3)が0.01以下である静電チャック用複合焼結体を提供する。
【0015】
本発明の一態様は、上記の静電チャック用複合焼結体を形成材料とし、一主面が板状試料を載置する載置面である基体と、前記基体において前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電吸着用電極と、を備える静電チャック装置を提供する。
【0016】
また、発明者は、上記特許文献2とは異なる考え方により、静電チャック装置に用いられる材料の高耐電圧化を図る検討を行った。
【0017】
発明者は、絶縁不良や放電が生じる原因が、静電チャック装置の使用環境において用いられるプラズマにあると考えた。すなわち、静電チャック装置がプラズマに曝されることで、静電チャック装置に用いられるセラミックス材料には電荷が蓄積し、セラミックス材料の電位が高くなる。これにより、セラミックス材料の絶縁が破壊されることで、絶縁不良や放電が生じると考えた。
【0018】
そこで発明者は、静電チャック装置に用いられるセラミックス材料として、静電チャック装置として使用可能な好適な絶縁性を有し、且つ、プラズマにより蓄積される電荷を徐々に放出することができる材料を用いることで、静電チャック装置の耐久性を高めることができると考えた。
【0019】
すなわち、上記の課題を解決するため、本発明のその2の実施形態のセラミックス材料は、
下記(i)および(ii)を満たすセラミックス材料を提供する。
(i)JIS C2110−2で規定する短時間試験に準じ、0.3mmの厚さ前記セラミックス材料の試験片を同径の直径20mmの電極で挟持し、電圧上昇速度1000V/秒にて測定したとき、前記試験片に流れる電流値が1μAを超えたときの電圧値が10kV/mm以上
(ii)上記(i)と同条件で行う試験において、前記試験片に流れる電流値を0.1秒ごとに測定したとき、電流値が0.1秒あたり10μAを超えて増加した時間に対し、前記時間の0.1秒前の電圧値に対応する電流値が5μA以上
【0020】
本発明の一態様においては、焼結体である構成としてもよい。
【0021】
本発明の一態様においては、絶縁性セラミックスと炭化ケイ素との複合焼結体である構成としてもよい。
【0022】
本発明の一態様においては、前記絶縁性セラミックスが酸化アルミニウムである構成としてもよい。
【0023】
本発明の一態様においては、アルミニウムおよびケイ素以外の金属不純物含有量が、1000ppm以下である構成としてもよい。
【0024】
また、本発明の一態様は、上記のセラミックス材料を形成材料とし、一主面が板状試料を載置する載置面である基体と、前記基体において前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電吸着用電極と、を備える静電チャック装置を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のその1の実施形態によれば、高出力のプラズマに曝露しても破損しにくい静電チャック用複合焼結体を提供することができる。また、このような静電チャック用複合焼結体を用いた静電チャック装置を提供することができる。
【0026】
本発明のその2の実施形態によれば、静電チャック装置に好適に用いられ、耐久性に優れたセラミックス材料を提供することができる。また、このようなセラミックス材料を用いた静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態の静電チャック装置を示す断面図。
図2】実施例1の測定結果を示すグラフ。
図3】実施例2の測定結果を示すグラフ。
図4】比較例1の測定結果を示すグラフ。
図5】比較例2の測定結果を示すグラフ。
図6】実施例1の複合焼結体のSIM像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のその1の実施形態のセラミックス材料は、絶縁性セラミックスと炭化ケイ素との複合焼結体であり、前記炭化ケイ素の結晶粒は、前記絶縁性セラミックスの結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界と結晶粒内とのいずれか一方または両方に分散しており、前記炭化ケイ素の結晶粒の全体に対して、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒を60体積%より多く含み、前記複合焼結体は、結晶粒界に存在する気孔を含み、前記複合焼結体が前記気孔を含まないとしたときの仮想真密度に対する、前記複合焼結体の見掛け密度の割合は97%以上である。
本発明のその2の実施形態のセラミックス材料は、下記(i)および(ii)を満たす。
(i)JIS C2110−2で規定する短時間試験に準じ、0.3mmの厚さ前記セラミックス材料の試験片を同径の直径20mmの電極で挟持し、電圧上昇速度1000V/秒にて測定したとき、前記試験片に流れる電流値が1μAを超えたときの電圧値が10kV/mm以上
(ii)上記(i)と同条件で行う試験において、前記試験片に流れる電流値を0.1秒ごとに測定したとき、電流値が0.1秒あたり10μAを超えて増加した時間に対し、前記時間の0.1秒前の電圧値に対応する電流値が5μA以上
【0029】
なお、本実施形態において「JIS C2110−2で規定する短時間試験に準じ」るとは、上記規格において規定されている直径25mmの電極の代わりに同径の直径20mmの電極を用いることとし、それ以外の条件は上記規格の条件に従うことを意味する。
【0030】
このようなセラミックス材料は、主として静電チャック装置の形成材料として好適に用いられる。そのため、以下の説明においては、まず本発明のその1及びその2の実施形態のセラミックス材料を適用する本発明の一実施形態の静電チャック装置について各構成を説明した後、それぞれの実施形態のセラミックス材料について説明する。
【0031】
なお、本明細書においては、各用語について次の意味を示すものとする。
「臨界電流」とは、セラミックス材料の試験片に流れる電流値を0.1秒ごとに測定したとき、電流値が0.1秒あたり10μAを超えて増加した時間に対し、前記時間の0.1秒前の電圧値に対応する電流のことを指す。
【0032】
例えば、時間t1、t2、t3…(各間は0.1秒)で試験片に流れる電流値を測定したとき、t1→t2では電流値の増加分が10μAを超えず、t2→t3で電流値の増加分が10μAを超えた場合は、次のようになる。すなわち、「電流値が0.1秒あたり10μAを超えて増加した時間」はt3であり、「臨界電流」は、t3の0.1秒前の電圧値に対応する電流値、すなわちt2における電流である。臨界電流値とは、t2における電流値である。
【0033】
「耐電圧」とは、セラミックス材料の試験片に流れる電流値が1μAを超えたときの電圧値のことを指す。
【0034】
上記用語を用いると、本実施形態のセラミックス材料について規定した上記(i)(ii)は、次のように表すこともできる。
(i)JIS C2110−2で規定する短時間試験に準じ、0.3mmの厚さセラミックス材料の試験片を同径の直径20mmの電極で挟持し、電圧上昇速度1000V/秒にて測定したとき、セラミックス材料の試験片の耐電圧が10kV/mm以上
(ii)上記(i)と同条件で行う試験において、セラミックス材料の試験片の臨界電流値が5μA以上
【0035】
「絶縁破壊」とは、セラミックス材料の不可逆な絶縁性の劣化のことを指す。この点において、試験中、セラミックス材料の試験片が帯電することにより絶縁性が低下したとしても、試験片が電荷を放出することで試験片の絶縁性が試験前の状態にまで回復するような場合には、「不可逆な絶縁性の劣化」を示したことにはならないため、絶縁破壊はしていないと判断する。また、同様に試験片が電荷を放出することで試験片の絶縁性が回復するとしても、試験前の状態にまでは回復しない場合には、試験前の状態と電荷放電後の状態との絶縁性の差分だけ絶縁破壊が生じていると判断する。
【0036】
「絶縁不良」とは、本実施形態のセラミックス材料を形成材料として用いた静電チャック装置について、セラミックス材料を形成材料とする部材の絶縁破壊が進行した結果、静電チャック装置として使用できなくなった状態のことを指す。
【0037】
「セラミックス材料の放電」とは、セラミックス材料から空間に生じる放電のことを指す。セラミックス材料内での絶縁破壊に伴い、セラミックス材料内の結晶粒同士で生じると考えられる放電についてはセラミックス材料の放電には含めない。
【0038】
[静電チャック装置]
以下、図1を参照しながら、本実施形態に係る静電チャック装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0039】
図1は、本実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。本実施形態の静電チャック装置1は、一主面(上面)側を載置面とした平面視円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2の下方に設けられて静電チャック部2を所望の温度に調整する厚みのある平面視円板状の温度調節用ベース部3と、を備えている。また、静電チャック部2と温度調節用ベース部3とは、静電チャック部2と温度調節用ベース部3の間に設けられた接着剤層8を介して接着されている。
以下、順に説明する。
【0040】
(静電チャック部)
静電チャック部2は、上面を半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aとした載置板11と、この載置板11と一体化され該載置板11の底部側を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用電極13および静電吸着用電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、を有している。載置板11および支持板12は、本発明における「基体」に該当する。
【0041】
載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状の部材である。載置板11および支持板12は、機械的な強度を有し、かつ腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するセラミックス焼結体からなる。載置板11および支持板12について、詳しくは後述する。
【0042】
載置板11の載置面11aには、直径が板状試料の厚みより小さい突起部11bが複数所定の間隔で形成され、これらの突起部11bが板状試料Wを支える。
【0043】
載置板11、支持板12、静電吸着用電極13および絶縁材層14を含めた全体の厚み、即ち、静電チャック部2の厚みは、一例として0.7mm以上かつ5.0mm以下である。
【0044】
例えば、静電チャック部2の厚みが0.7mmを下回ると、静電チャック部2の機械的強度を確保することが難しくなる。静電チャック部2の厚みが5.0mmを上回ると、静電チャック部2の熱容量が大きくなり、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化し、静電チャック部の横方向の熱伝達の増加により、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが難しくなる。なお、ここで説明した各部の厚さは一例であって、前記範囲に限るものではない。
【0045】
静電吸着用電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
【0046】
静電吸着用電極13は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al−Ta)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体、酸化イットリウム−モリブデン(Y−Mo)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されることが好ましい。
【0047】
静電吸着用電極13の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上かつ100μm以下の厚みを選択することができ、5μm以上かつ20μm以下の厚みがより好ましい。
【0048】
静電吸着用電極13の厚みが0.1μmを下回ると、充分な導電性を確保することが難しくなる。静電吸着用電極13の厚みが100μmを越えると、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との間の熱膨張率差に起因し、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との接合界面にクラックが入り易くなる。
【0049】
このような厚みの静電吸着用電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0050】
絶縁材層14は、静電吸着用電極13を囲繞して腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護するとともに、載置板11と支持板12との境界部、すなわち静電吸着用電極13以外の外周部領域を接合一体化するものであり、載置板11および支持板12を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0051】
(温度調整用ベース部)
温度調節用ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整するためのもので、厚みのある円板状のものである。この温度調節用ベース部3としては、例えば、その内部に冷媒を循環させる流路3Aが形成された液冷ベース等が好適である。
【0052】
この温度調節用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS) 等が好適に用いられる。この温度調節用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいは酸化アルミニウム(Al、アルミナ)等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。以下、本明細書においては、酸化アルミニウムを「Al」として示す。
【0053】
温度調節用ベース部3の上面側には、接着層6を介して絶縁板7が接着されている。接着層6はポリイミド樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性、および、絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂からなる。接着層は例えば厚み5〜100μm程度に形成される。絶縁板7はポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの耐熱性を有する樹脂の薄板、シートあるいはフィルムからなる。
【0054】
なお、絶縁板7は、樹脂シートに代え、絶縁性のセラミック板でもよく、またAl等の絶縁性を有する溶射膜でもよい。
【0055】
(フォーカスリング)
フォーカスリング10は、温度調節用ベース部3の周縁部に載置される平面視円環状の部材である。フォーカスリング10は、例えば、載置面に載置されるウエハと同等の電気伝導性を有する材料を形成材料としている。このようなフォーカスリング10を配置することにより、ウエハの周縁部においては、プラズマに対する電気的な環境をウエハと略一致させることができ、ウエハの中央部と周縁部とでプラズマ処理の差や偏りを生じにくくすることができる。
【0056】
(その他の部材)
静電吸着用電極13には、静電吸着用電極13に直流電圧を印加するための給電用端子15が接続されている。給電用端子15は、温度調節用ベース部3、接着剤層8、支持板12を厚み方向に貫通する貫通孔16の内部に挿入されている。給電用端子15の外周側には、絶縁性を有する碍子15aが設けられ、この碍子15aにより金属製の温度調節用ベース部3に対し給電用端子15が絶縁されている。
【0057】
図では、給電用端子15を一体の部材として示しているが、複数の部材が電気的に接続して給電用端子15を構成していてもよい。給電用端子15は、熱膨張係数が互いに異なる温度調節用ベース部3および支持板12に挿入されているため、例えば、温度調節用ベース部3および支持板12に挿入されている部分について、それぞれ異なる材料で構成することとするとよい。
【0058】
給電用端子15のうち、静電吸着用電極13に接続され、支持板12に挿入されている部分(取出電極)の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用電極13および支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましい。例えば、Al−TaCなどの導電性セラミック材料からなる。
【0059】
給電用端子15のうち、温度調節用ベース部3に挿入されている部分は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料からなる。
【0060】
これら2つの部材は、柔軟性と耐電性を有するシリコン系の導電性接着剤で接続するとよい。
【0061】
静電チャック部2の下面側には、ヒータエレメント5が設けられている。ヒータエレメント5は、一例として、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm程度の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えばチタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法やレーザー加工により所望のヒータ形状、例えば帯状の導電薄板を蛇行させた形状の全体輪郭を円環状に加工することで得られる。
【0062】
このようなヒータエレメント5は、静電チャック部2に非磁性金属薄板を接着した後に、静電チャック部2の表面で加工成型することで設けてもよく、静電チャック部2とは異なる位置でヒータエレメント5を加工成形したものを、静電チャック部2の表面に転写印刷することで設けてもよい。
【0063】
ヒータエレメント5は、厚みの均一な耐熱性および絶縁性を有するシート状またはフィルム状のシリコン樹脂またはアクリル樹脂からなる接着層4により支持板12の底面に接着・固定されている。
【0064】
ヒータエレメント5には、ヒータエレメント5に給電するための給電用端子17が接続されている。給電用端子17を構成する材料は先の給電用端子15を構成する材料と同等の材料を用いることができる。給電用端子17は、それぞれ温度調節用ベース部3に形成された貫通孔3bを貫通するように設けられている。
【0065】
また、ヒータエレメント5の下面側には温度センサー20が設けられている。本実施形態の静電チャック装置1では、温度調節用ベース部3と絶縁板7を厚さ方向に貫通するように設置孔21が形成され、これらの設置孔21の最上部に温度センサー20が設置されている。なお、温度センサー20はできるだけヒータエレメント5に近い位置に設置することが望ましいため、図に示す構造から更に接着剤層8側に突き出るように設置孔21を延在して形成し、温度センサー20とヒータエレメント5とを近づけることとしてもよい。
【0066】
温度センサー20は一例として石英ガラス等からなる直方体形状の透光体の上面側に蛍光体層が形成された蛍光発光型の温度センサーであり、この温度センサー20が透光性および耐熱性を有するシリコン樹脂系接着剤等によりヒータエレメント5の下面に接着されている。
【0067】
蛍光体層は、ヒータエレメント5からの入熱に応じて蛍光を発生する材料からなる。蛍光体層の形成材料としては、発熱に応じて蛍光を発生する材料であれば多種多様の蛍光材料を選択できる。蛍光体層の形成材料は、一例として、発光に適したエネルギー順位を有する希土類元素が添加された蛍光材料、AlGaAs等の半導体材料、酸化マグネシウム等の金属酸化物、ルビーやサファイア等の鉱物を挙げることができ、これらの材料の中から適宜選択して用いることができる。
【0068】
ヒータエレメント5に対応する温度センサー20はそれぞれ給電用端子などと干渉しない位置であってヒータエレメント5の下面周方向の任意の位置にそれぞれ設けられている。
【0069】
これらの温度センサー20の蛍光からヒータエレメント5の温度を測定する温度計測部22は、一例として、温度調節用ベース部3の設置孔21の外側(下側)に前記蛍光体層に対し励起光を照射する励起部23と、蛍光体層から発せられた蛍光を検出する蛍光検出器24と、励起部23および蛍光検出器24を制御するとともに前記蛍光に基づき主ヒータの温度を算出する制御部25とから構成されている。
【0070】
さらに、静電チャック装置1は、温度調節用ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられたピン挿通孔28を有している。このピン挿通孔28には、板状試料離脱用のリフトピンが挿通される。ピン挿通孔28の内周部には筒状の碍子29が設けられている。
【0071】
さらに、静電チャック装置1は、温度調節用ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられた不図示のガス穴を有している。ガス穴は、例えばピン挿通孔28と同様の構成を採用することができる。ガス穴には、板状試料Wを冷却するための冷却ガスが供給される。冷却ガスは、ガス穴を介して載置板11の上面において複数の突起部11bの間に形成される溝19に供給され、板状試料Wを冷却する。
静電チャック装置1は、以上のような構成となっている。
【0072】
次に、本発明の一実施形態の基体(載置板11および支持板12)について、詳述する。
本実施形態の載置板11および支持板12は、絶縁性セラミックスと炭化ケイ素(SiC)との複合焼結体を形成材料としている。載置板11および支持板12の形成材料は、本発明における静電チャック用複合焼結体(以下、複合焼結体又は単にセラミックス材料)である。以下、本明細書においては、炭化ケイ素を「SiC」として示す。
【0073】
[セラミックス材料(複合焼結体)その1]
本発明のその1の実施形態の複合焼結体に含まれる絶縁性セラミックスとしては、Al、酸化イットリウム(Y)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、ムライト(3Al・2SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、フッ化マグネシウム(MgF)酸化ハフニウム(HfO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ネオジム(Nd)、酸化ニオブ(Nb)、酸化サマリウム(Sm)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化エルビウム(Er)、酸化セリウム(CeO)の群から選択された1種のみからなる酸化物、または2種以上を混合してなる混合物を例示することができる。
【0074】
また、複合焼結体に含まれる絶縁性セラミックスとしては、2種以上の金属イオンを含む酸化物である複酸化物を用いてもよい。このような複酸化物としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:3Y・5Al)を例示することができる。
【0075】
これらのなかでも、特にAlは、安価で耐熱性や耐食性に優れ、複合焼結体の機械的特性も良好であるため、本実施形態の複合焼結体においても好適に用いられる。
【0076】
また、アルミニウム含有量が少ない絶縁性セラミックスを使用したい場合には、酸化イットリウム(Y)を用いることもできる。また、Alよりも耐食性をさらに高めたい場合には、Y、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:3Y・5Al)等を用いることもできる。
【0077】
本実施形態においては、絶縁性セラミックスとしてAlを用いることとして説明する。
【0078】
複合焼結体に含まれるSiCは、α−SiC型の結晶構造を有する結晶粒(以下、α−SiC粒)と、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒(以下、β−SiC粒)とを有する。
【0079】
本実施形態の基体を構成する複合焼結体において、SiCの結晶粒は、絶縁性セラミックスであるAlの結晶粒が焼結してなる主相の、結晶粒界および結晶粒内に分散している。
【0080】
この複合焼結体におけるSiCの含有率は、4体積%以上かつ23体積%以下であることが好ましく、5体積%以上かつ20体積%以下であることがより好ましく、6体積%以上かつ12体積%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
ここで、SiCの含有率を上記の範囲とした理由は、SiCの含有率が4体積%未満では、SiCの量が絶縁性セラミックスに対して少なすぎてしまい、SiCを添加したことによる静電チャックとして使用した場合の吸脱着特性や熱伝導率の改善効果が得難くなるからである。一方、導電性粒子の含有率が23質量%を超えると、導電性粒子の量が絶縁性材料に対して多すぎてしまい、静電チャックとして使用するために必要な耐電圧特性が得難くなるからである。
【0082】
複合焼結体における絶縁性セラミックスの平均粒子径は、2μm以下であることが好ましい。Al粒子の平均粒子径が2μmを越えると、この複合焼結体を用いて静電チャック装置の基材を作製した場合、この基材の板状試料を載置する側の上面がプラズマによりエッチングされ易くなる。そのため、この基材の上面にスパッタ痕が形成されることとなり、シリコンウエハ等の被吸着物を汚染させる原因となるおそれがある。
【0083】
複合焼結体におけるSiC粒子は、0.04μm以下の微細なSiC粒子が複合焼結体全体に対して0.001体積%以上含まれることが好ましく、1体積%含以上まれることがより好ましい。0.04μm以下のSiC粒子が0.001体積%以上含まれることで、0.04μm以下のSiC粒子が存在する平均間隔が1.5μm以下となる。そのため、絶縁性セラミックス粒子の平均粒子径が2μm以下の場合において、絶縁性セラミックス粒子1個に対して0.04μm以下のSiC粒子が1個以上存在することになる。このように、複合焼結体に微細なSiC粒子が含まれていることにより、複合焼結体を静電チャック装置の構成部材として使用した場合に、吸着特性、誘電特性などの電気的特性を向上させる効果が得られる。
【0084】
また、複合焼結体におけるSiC粒子は、SiC粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が、0.2μm以下であることが好ましい。なお、複合焼結体において、原料の粒子が焼結した多結晶体となって複合焼結体内に分散している場合、焼結したひとかたまりの結晶粒を同一の粒子として粒子径を計算するものとする。
また、SiC粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90は、2μm以下であることが好ましい。
また、D90に対するD10の比(D90/D10)は、3.0以上であることが好ましい。
また、D90に対するD50の比(D90/D50)は1.4以上であることが好ましい。
SiC粒子の粒子径をこれらの範囲とすることで、複合焼結体を構成部材の形成材料とした静電チャック装置の絶縁破壊を穏やかに進行させることができる。そのため、上記複合焼結体を構成部材の形成材料とした静電チャック装置の使用前または使用中に、当該構成部材に流れる電流または電気抵抗を測定することにより、緩やかに絶縁が破られていることを検出することができ、絶縁破壊の予兆を検出することができる。したがって、絶縁破壊を事前に予測することができる複合焼結体とすることが出来る。
【0085】
アルミニウム、珪素以外の金属元素を「金属不純物」としたとき、複合焼結体における金属不純物の含有率は、1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがより好ましい。また、複合焼結体に含まれるSiCと絶縁性セラミックスのそれぞれの金属不純物率が1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがよりに好ましい。金属不純物が1000ppm以下であると、半導体ウエハを汚染する可能性が低くなり、静電チャックの電気抵抗の温度依存性が小さくなるため好ましい。
【0086】
複合焼結体の耐電圧は、5kV/mm以上であることが好ましく、8kV/mm以上であることがより好ましく、10kV/mm以上であることがさらに好ましい。耐電圧が5kV/mm以上である複合焼結体は、クーロン力型静電チャック装置の構成部材として用いた場合、電圧を印加した際に、絶縁破壊することなく使用可能となる。
【0087】
また、本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、SiCの結晶粒の全体に対して、β−SiC粒を60体積%より多く含んでいる。すなわち、α−SiC粒の含有率は、SiCの結晶粒の全体に対して40体積%未満である。
【0088】
SiCの結晶粒の全体に対するβ−SiC粒の含有率は、80体積%以上であると好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。すなわち、α−SiC粒の含有率は、SiCの結晶粒の全体に対して20体積%以下であると好ましく、10体積%以下であることがより好ましく、5体積%以下であることがさらに好ましい。
【0089】
α−SiCとβ−SiCとを比較すると、α−SiCの方が熱力学的に安定である。そのため、β−SiCは種々の要因によりα−SiCに相転移することが知られている。
【0090】
SiCが相転移する温度や転移する結晶形はSiCの含まれる不純物や周囲に存在するガスなど様々な要因で異なるが、β−SiCからα−SiCへの相転移は、約1750℃以上で起こる。従来知られたAl−SiCは、焼結体を緻密化するために高温で焼結した結果、焼結時にβ−SiCがα−SiCに相転移し、耐久性が低くなる原因となるα−SiCを多く含んでいた。
【0091】
対して、本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、後述する製造方法で製造することにより、β−SiCからα−SiCへの相転移を抑制し、β−SiCの比率を60体積%より多くなるよう制御している。これにより、静電チャックとしてプラズマ処理装置中で使用した場合の耐久性が高い静電チャック用複合焼結体とすることができる。
【0092】
上述したように、α−SiCが多く含まれる複合焼結体を静電チャック装置の構成部材に用いると、静電チャック装置をプラズマ処理装置中で使用した場合、当該構成部材はα−SiC結晶粒を起点として破損することが多く耐久性が低い。このような現象の原因としては、次のようなことが考えられる。
【0093】
すなわち、複合焼結体にα−SiCが多く含まれる場合、α−SiCはβ−SiCに比べ導電性が低いため、焼結体内に微小電流が流れた際の局所的な発熱が大きくなり絶縁破壊しやすくなることが考えられる。また、複合焼結体にα−SiCが多く含まれる場合、プラズマ照射により、複合焼結体に電荷がたまりやすくなり、放電し易くなる。その結果、放電に伴い破損することが考えられる。
【0094】
また、β−SiCは、α−SiCと比べて導電性が高いため、β−SiCの比率を60体積%よりも多くなるように制御することで、複合焼結体にSiCを添加することによる、吸脱着特性や誘電率などの電気的特性を向上する効果が高くなる。吸脱着特性が向上することで、静電チャックとして使用し、ウェハを脱離する際のウェハと基体との摩耗が少なくなるため、耐久性が向上する効果もあると考えられる。
【0095】
また、SiCにα−SiCが含まれる場合、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を30体積%以下とすることが好ましく、20体積%以下とすることがより好ましく、10体積%以下とすることが好ましい。これは4H形のSiCはAlの存在などによりP型半導体となり、SiCの導電性がさらに小さくなるためである。
【0096】
また、SiCにα−SiCが含まれる場合、SiC全体に含まれる6H形のα−SiCの割合を20体積%以下とすることが好ましく、10体積%以下とすることがより好ましく、5体積%以下とすることが好ましい。
6H形のSiCは、β−SiCに比べて導電性が小さい。また、6H形のSiCの結晶粒は、4H形のSiCの結晶粒と比べてアスペクト比が大きいため、導電パスを形成しやすい。そのため、6H形のSiCが存在する場合、4H形のSiCのみが存在する場合と比べ、導電性が小さい6H形のSiCによる導電パスが形成される分だけ複合焼結体の電気的特性や耐プラズマ性が低下する。
【0097】
なお、本実施形態において、複合焼結体中のSiCの結晶形(α−SiC、β−SiC)の分析は、粉末X線回折強度を測定し、Ruskaの方法(J.Mater.Sci.,14,2013−2017(1979)))により算出した結果を用いて行う。
【0098】
SiCの結晶構造が多数あることは多形現象として知られている。SiC材料に現れる多形は、通常2H、3C,4H,6H,15Rである。一方、計算で求める結晶形は、使用する原料の結晶形や焼結温度などから出現の可能性の低いものは除外することができる。原料に使用するSiC粉末の結晶形に3Cや6Hのものを用い、焼結温度を1500℃〜2000℃とした場合には、3C,4H、6Hの3種類の結晶系のみが含まれるとして計算してもよい。SiCの多形のピークが絶縁性材料に起因するピークと近い位置にある場合には、計算には使用せずに、他のピークを計算に用いることが好ましい。
【0099】
複合焼結体中に、SiCとして3C,4H、6Hの3種類の結晶系のみが含まれるとした場合、次のようにして各結晶系の割合を求めることができる。まず、CuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピークをI1、2θ=34.1度付近に見られるピークをI2、2θ=35.8度付近に見られるピークをI3とする。また、SiCに含まれる3Cの結晶系の含まれる割合をX、4Hの結晶系の含まれる割合をY、6Hの結晶系の含まれる割合をZとする。この場合、各結晶系の割合は、以下の連立方程式を解くことで求めることができる。
I1=9.9y
I2=19.4z
I3=100.0x+25.1y+59.2z
X=x/(x+y+z)、 Y=y/(x+y+z)、 Z=z/(x+y+z)
【0100】
SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を30体積%以下とするために、CuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピーク(I1)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の積分値の比率(I1/I3)が0.04以下とすることが好ましい。また、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を20体積%以下とするために、I1/I3を0.02以下とすることが好ましく、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を10体積%以下とするために、I1/I3を0.01以下とすることが好ましい。
【0101】
上記X線回折パターンにおけるI3ピークは、SiCであればα−SiCおよびβ−SiCに共通して現れるピークである。そのためI3ピークは、SiCの全体量に対応するピークであると言える。
【0102】
一方、上記X線回折パターンにおけるI1ピークは、4H形SiCに見られるピークである。そのためI1ピークは、α−SiCのなかでも特に4H形SiCの量に対応するピークであると言える。
【0103】
そのため、I1/I3を求めることにより、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を判断することができる。
【0104】
複合焼結体は、結晶粒界に存在する気孔を含み、複合焼結体が気孔を含まないとしたときの仮想真密度に対する、複合焼結体の見掛け密度の割合が97%以上となるように緻密化されることが好ましく、98%以上とすることがより好ましい。複合焼結体においては、原料粉体の焼結が進行することで、気孔の量が減少し、見掛け密度は100%に近づく。上記割合が97%以上となると、プラズマに対する耐食性(耐プラズマ性)が良好となるため好ましいためである。
【0105】
また、複合焼結体において、SiCの結晶粒のX線回折結果から求めた結晶子径は、50nm以上であると好ましい。また、SiCの結晶子径は、200nm以下であると好ましく、100nm以下であることがより好ましい。X線回折結果から求めた結晶子径は、複合焼結体に含まれる平均的な結晶粒の大きさとして求められる。SiCの結晶子径がこのような値であると、粒界に集まったSiC粒子の間の気孔や欠陥を減らすことが出来るため、密度を高くすることが出来る。また、SiCの結晶子径がこのような値であると、複合焼結体のプラズマに対する耐久性、粒子の脱離、パーティクルの発生などに対する特性を向上することが出来る。
【0106】
また、本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、β−SiC粒同士が焼結した部分を含んでいることが好ましい。このような部分を有する複合焼結体は、焼結の際、β−SiCからα−SiCへの相転移を生じることなくβ−SiC粒同士が焼結したことを示している。
【0107】
β−SiC粒同士を焼結させることで、単一粒子に分散せずに複数の粒子が凝集して残っているSiCや、焼結過程において偏析したSiCにおいて、近接するSiC粒子の間に存在する気孔や欠陥を減らすことが出来る。そのため、複合焼結体の密度を高くすることが出来る。また、β−SiC粒同士を焼結させることで、複合焼結体のプラズマに対する耐久性を高めることができる。また、β−SiC粒同士を焼結させることで、粒子の脱離やパーティクルの発生を抑制することが出来る。
【0108】
また、焼結過程で絶縁性粒子の粒界で焼結したSiCは、焼結過程において絶縁性粒子の粒界に合わせた形状となるため、密度を高く出来る。また、絶縁性粒子とSiC粒子の境界の欠陥を減らすことが出来る。
【0109】
また、β−SiC粒同士が焼結した部分を含んでいると、SiC粒子同士が焼結せずに接触している場合に比べ、SiC粒子間の電気抵抗が低くなる。そのため、複合焼結体の電気的特性を向上することが出来る。
【0110】
[セラミックス材料(複合焼結体)その2]
次に、本発明のその2の実施形態のセラミックス材料(静電チャック用複合焼結体)について、詳述する。
上述したように、本実施形態の静電チャック装置の基体は、下記(i)および(ii)を満たすセラミックス材料を形成材料としている。
(i)JIS C2110−2で規定する短時間試験に準じ、0.3mmの厚さ前記セラミックス材料の試験片を同径の直径20mmの電極で挟持し、電圧上昇速度1000V/秒にて測定したとき、前記試験片に流れる電流値が1μAを超えたときの電圧値が10kV/mm以上
(ii)上記(i)と同条件で行う試験において、前記試験片に流れる電流値を0.1秒ごとに測定したとき、電流値が0.1秒あたり10μAを超えて増加した時間に対し、前記時間の0.1秒前の電圧値に対応する電流値が5μA以上
【0111】
本実施形態のセラミックス材料が上記(i)の要件を満たすことで、本実施形態のセラミックス材料をクーロン力型静電チャック装置の構成部材として用いた場合、電圧を印加した際に、絶縁破壊することなく使用可能となる。
【0112】
また、本実施形態のセラミックス材料が上記(ii)の要件を満たすことで、本実施形態のセラミックス材料を形成材料として用いる静電チャック装置において、セラミックス材料が放電することなく、セラミックス材料に帯電した電荷を放出することができる。そのため、絶縁不良に至るまでの期間を延ばすことができる。また、セラミックス材料の放電による、静電チャックのセラミックス材料以外の部位や、処理を行うウエハなどの板状試料、静電チャックが使用される半導体製造装置などの損傷を防ぐことができる。
【0113】
本実施形態のセラミックス材料は、上記(i)による試験片の耐電圧が20kV/mm以上であることがより好ましい。耐電圧が20kV/mm以上であると、静電チャックとして試料を吸着させる電圧において十分な耐久性を有する。
【0114】
本実施形態のセラミックス材料は、上記(i)による試験片の耐電圧が80kV/mm以下であることが好ましく、60kV/mm以下であることがより好ましい。耐電圧が80kV/mm以下であると、プラズマに曝されることで静電チャック装置に用いられるセラミックス材料に電荷が蓄積した際に、セラミックス材料の電位が高くなりにくく、放電がおきにくい。
【0115】
本実施形態のセラミックス材料は、上記(ii)による試験片の臨界電流値は10μA以上であることがより好ましく、30μA以上であることがさらに好ましい。臨界電流値を大きくすることで、静電チャックとして使用した場合の耐久性をより高くすることができる。
【0116】
本実施形態のセラミックス材料は、上記(i)による試験片の耐電圧試験を行った際に、電流値が50μAを超えるまで連続的に電流が増加する特性を持つことが好ましく、電流値が100μAを超えるまで連続的に電流が増加する特性を持つことがより好ましい。
連続的に電流が増加する電流値の範囲を広くすることで、セラミックス材料の信頼性をより高くすることができる。
【0117】
このような積載板に使用するセラミックス材料としては、上記(i)(ii)の特性を満たせば、セラミックス焼結体を平板状に加工して用いてもよく、支持板上に静電吸着用電極を形成した後、溶射コーティングにより形成したものを用いてもよい。中でも、気孔などの欠陥を減らせるほか、電気的特性や強度などの品質安定性を高めることができるため、焼結体を使用する方法が好ましい。
【0118】
セラミックス材料は、絶縁性セラミックスのみを用いてもよく、TiOなどAlと反応して化合物を生成する導電性付与材を添加して上記(i)(ii)の特性を満たす材料となるように電気的特性を調製してもよい。セラミックス材料は、絶縁性セラミックスと導電性粒子の複合体とすることが好ましい。
【0119】
絶縁性セラミックスとしては、Al、酸化イットリウム(Y)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、ムライト(3Al・2SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、フッ化マグネシウム(MgF)酸化ハフニウム(HfO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ネオジム(Nd)、酸化ニオブ(Nb)、酸化サマリウム(Sm)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化エルビウム(Er)、酸化セリウム(CeO)の群から選択された1種のみからなる酸化物、または2種以上を混合してなる混合物である絶縁性セラミックス材料、を例示することができる。
【0120】
また、絶縁性セラミックスとしては、2種以上の金属イオンを含む酸化物である複酸化物を用いてもよい。このような複酸化物としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:3Y・5Al)を例示することができる。
【0121】
これらのなかでも、特にAlは、安価で耐熱性や耐食性に優れ、複合焼結体の機械的特性も良好であるため、本実施形態の複合焼結体においても好適に用いられる。
【0122】
また、アルミニウム含有量が少ない絶縁性セラミックスを使用したい場合には、酸化イットリウム(Y)を用いることもできる。また、Alよりも耐食性をさらに高めたい場合には、Y、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:3Y・5Al)等を用いることもできる。
【0123】
導電性粒子としては、導電性炭化珪素(SiC)粒子等の導電性セラミックス粒子、モリブデン(Mo)粒子、タングステン(W)粒子、タンタル(Ta)粒子等の高融点金属粒子、炭素(C)粒子の群から選択された1種または2種以上であることが好ましい。
【0124】
なかでも、導電性粒子としては、SiC粒子が好ましい。SiC粒子を酸化アルミニウム(Al)粒子と複合化した場合、SiC粒子とAl粒子との複合焼結体は、電気的特性の温度依存性が小さいものとなるため好ましい。また、SiC粒子とAl粒子との複合焼結体は、ハロゲンガスに対する耐蝕性に優れ、耐熱性、耐熱衝撃性に富み、かつ高温下の使用においても熱応力による損傷の危険性が小さいため好ましい。
【0125】
SiCには、結晶構造が多数あることが知られており、立方晶系で3C型(閃亜鉛鉱型)の結晶構造を有するもの、4H型、6H型等の六方晶系でウルツ鉱型の結晶構造を有するもの、菱面体晶系で15R型の結晶構造を有するもの、が挙げられる。このうち、3C型の結晶構造を有するものを「β−SiC」と称する。また、それ以外の結晶構造を有するもの全てを「α−SiC」と称する。
【0126】
SiC粒子としては、導電性に優れることから、β型の結晶構造を有するSiC粒子を原料に使用することが好ましい。なお、このSiC粒子の導電性を制御するために、SiC中の窒素の含有率を適宜制御したものを用いてもよい。
【0127】
SiC粒子としては、プラズマCVD法、前駆体法、熱炭素還元法、レーザー熱分解法等の各種の方法により得られたSiC粒子を用いることができる。特に、本実施形態の誘電体材料を半導体プロセスにて用いる場合、半導体プロセスでの悪影響を防ぐために、純度の高いSiC粒子を用いることが好ましい。
【0128】
本実施形態においては、絶縁性セラミックスとしてAlを用い、導電性粒子としてSiCを用いて作製した複合焼結体を用いることとして説明する。
【0129】
複合焼結体に含まれるSiCは、α−SiC型の結晶構造を有する結晶粒(以下、α−SiC粒)と、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒(以下、β−SiC粒)とを有する。
【0130】
本実施形態の基体を構成する複合焼結体において、SiCの結晶粒は、絶縁性セラミックスであるAlの結晶粒が焼結してなる主相の、結晶粒界および結晶粒内に分散している。
【0131】
この複合焼結体におけるSiCの含有率は、4体積%以上かつ23体積%以下であることが好ましく、5体積%以上かつ20体積%以下であることがより好ましく、6体積%以上かつ12体積%以下であることがさらに好ましい。
【0132】
ここで、SiCの含有率を上記の範囲とした理由は、SiCの含有率が4体積%未満では、SiCの量が絶縁性セラミックスに対して少なすぎてしまい、SiCを添加したことによる静電チャックとして使用した場合の吸脱着特性や熱伝導率の改善効果が得難くなるからである。一方、導電性粒子の含有率が23質量%を超えると、導電性粒子の量が絶縁性材料に対して多すぎてしまい、静電チャックとして使用するために必要な耐電圧特性が得難くなるからである。
【0133】
複合焼結体における絶縁性セラミックスの平均粒子径は、2μm以下であることが好ましい。Al粒子の平均粒子径が2μmを越えると、この複合焼結体を用いて静電チャック装置の基材を作製した場合、この基材の板状試料を載置する側の上面がプラズマによりエッチングされ易くなる。そのため、この基材の上面にスパッタ痕が形成されることとなり、シリコンウエハ等の被吸着物を汚染させる原因となるおそれがある。
【0134】
複合焼結体におけるSiC粒子は、0.04μm以下の微細なSiC粒子が複合焼結体全体に対して0.001体積%以上含まれることが好ましく、1体積%含以上まれることがより好ましい。0.04μm以下のSiC粒子が0.001体積%以上含まれることで、0.04μm以下のSiC粒子が存在する平均間隔が1.5μm以下となる。そのため、絶縁性セラミックス粒子の平均粒子径が2μm以下の場合において、絶縁性セラミックス粒子1個に対して0.04μm以下のSiC粒子が1個以上存在することになる。このように、複合焼結体に微細なSiC粒子が含まれていることにより、複合焼結体を静電チャック装置の構成部材として使用した場合に、吸着特性、誘電特性などの電気的特性を向上させる効果が得られる。
【0135】
また、複合焼結体におけるSiC粒子は、SiC粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が10体積%の粒子径D10が、0.2μm以下であることが好ましい。なお、複合焼結体において、原料の粒子が焼結した多結晶体となって複合焼結体内に分散している場合、焼結したひとかたまりの結晶粒を同一の粒子として粒子径を計算するものとする。
また、SiC粒子の体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90は、2μm以下であることが好ましい。
また、D90に対するD10の比(D90/D10)は、3.0以上であることが好ましい。
また、D90に対するD50の比(D90/D50)は1.4以上であることが好ましい。
【0136】
SiC粒子の粒子径をこれらの範囲とすることで、複合焼結体を構成部材の形成材料とした静電チャック装置の絶縁破壊を穏やかに進行させることができる。
【0137】
アルミニウム、珪素以外の金属元素を「金属不純物」としたとき、複合焼結体における金属不純物の含有率は、1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがより好ましい。また、複合焼結体に含まれるSiCと絶縁性セラミックスのそれぞれの金属不純物率が1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがよりに好ましい。金属不純物が1000ppm以下であると、半導体ウエハを汚染する可能性が低くなり、静電チャック装置の電気抵抗の温度依存性が小さくなるため好ましい。
【0138】
複合焼結体に含まれるSiCは、α−SiC型の結晶構造を有する結晶粒(以下、α−SiC粒)と、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒(以下、β−SiC粒)とを有する。本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、SiCの結晶粒の全体に対して、β−SiC粒を60体積%より多く含んでいる。すなわち、α−SiC粒の含有率は、SiCの結晶粒の全体に対して40体積%未満である。
【0139】
SiCの結晶粒の全体に対するβ−SiC粒の含有率は、80体積%以上であると好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。すなわち、α−SiC粒の含有率は、SiCの結晶粒の全体に対して20体積%以下であると好ましく、10体積%以下であることがより好ましく、5体積%以下であることがさらに好ましい。
【0140】
α−SiCとβ−SiCとを比較すると、α−SiCの方が熱力学的に安定である。
【0141】
SiCが相転移する温度や転移する結晶形はSiCの含まれる不純物や周囲に存在するガスなど様々な要因で異なるが、β−SiCからα−SiCへの相転移は、約1750℃以上で起こる。従来知られたAl−SiCは、焼結体を緻密化するために高温で焼結した結果、焼結時にβ−SiCがα−SiCに相転移し、耐久性が低くなる原因となるα−SiCを多く含んでいた。
【0142】
対して、本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、後述する製造方法で製造することにより、β−SiCからα−SiCへの相転移を抑制し、β−SiCの比率を60体積%より多くなるよう制御している。これにより、本実施形態のセラミックス材料について規定した上記(i)(ii)の特性を好適に得ることができ、静電チャックとしてプラズマ処理装置中で使用した場合の耐久性が高い静電チャック用複合焼結体とすることができる。
【0143】
SiCが相転移する温度や転移する結晶形はSiCの含まれる不純物や周囲に存在するガスなど様々な要因で異なるが、β−SiCからα−SiCへの相転移は、約1750℃以上で起こる。従来知られたAl−SiCは、焼結体を緻密化するために高温で焼結した結果、焼結時にβ−SiCがα−SiCに相転移し、α−SiCを多く含んでいた。
【0144】
対して、本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、後述する製造方法で製造することにより、β−SiCからα−SiCへの相転移を抑制し、β−SiCの比率を60体積%より多くなるよう制御している。これにより、複合焼結体の電気的特性を向上させることができ、臨界電流値が大きくなり、静電着として使用した際のセラミックス材料の絶縁不良を防ぐことができる。
【0145】
このような現象の原因としては、次のようなことが考えられる。
β−SiCの比率を60体積%より多くすることで臨界電流値が高い特性が得られる理由は、α−SiCの導電性がβ−SiCの導電性に比べて低いためと考えられる。α−SiCではβ−SiCに比べ同じ電流が流れた際の発熱量が大きい。そのため、従来の複合焼結体では、電圧印加により電流が流れた際に、α−SiCにおける発熱量が大きく、α−SiC周囲の微小領域において試料の溶融が起こり、急激に電流値が増加して絶縁不良となる。
【0146】
すなわち、複合焼結体にα−SiCが多く含まれる場合、α−SiCはβ−SiCに比べ導電性が低いため、焼結体内に微小電流が流れた際の局所的な発熱が大きくなり
【0147】
また、SiCにα−SiCが含まれる場合、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を30体積%以下とすることが好ましく、20体積%以下とすることがより好ましく、10体積%以下とすることが好ましい。これは4H形のSiCはAlの存在などによりP型半導体となり、SiCの導電性がさらに小さくなるためである。
【0148】
また、SiCにα−SiCが含まれる場合、SiC全体に含まれる6H形のα−SiCの割合を20体積%以下とすることが好ましく、10体積%以下とすることがより好ましく、5体積%以下とすることが好ましい。
6H形のSiCは、β−SiCに比べて導電性が小さい。また、6H形のSiCの結晶粒は、4H形のSiCの結晶粒と比べてアスペクト比が大きいため、導電パスを形成しやすい。そのため、6H形のSiCが存在する場合、4H形のSiCのみが存在する場合と比べ、導電性が小さい6H形のSiCによる導電パスが形成される分だけ複合焼結体の電気的特性や耐プラズマ性が低下する。
【0149】
なお、本実施形態において、複合焼結体中のSiCの結晶形(α−SiC、β−SiC)の分析は、粉末X線回折強度を測定し、Ruskaの方法(J.Mater.Sci.,14,2013−2017(1979)))により算出した結果を用いて行う。
【0150】
SiCの結晶構造が多数あることは多形現象として知られている。SiC材料に現れる多形は、通常2H、3C,4H,6H,15Rである。一方、計算で求める結晶形は、使用する原料の結晶形や焼結温度などから出現の可能性の低いものは除外することができる。原料に使用するSiC粉末の結晶形に3Cや6Hのものを用い、焼結温度を1500℃〜2000℃とした場合には、3C,4H、6Hの3種類の結晶系のみが含まれるとして計算してもよい。SiCの多形のピークが絶縁性材料に起因するピークと近い位置にある場合には、計算には使用せずに、他のピークを計算に用いることが好ましい。
【0151】
複合焼結体中に、SiCとして3C,4H、6Hの3種類の結晶系のみが含まれるとした場合、次のようにして各結晶系の割合を求めることができる。まず、CuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピークをI1、2θ=34.1度付近に見られるピークをI2、2θ=35.8度付近に見られるピークをI3とする。また、SiCに含まれる3Cの結晶系の含まれる割合をX、4Hの結晶系の含まれる割合をY、6Hの結晶系の含まれる割合をZとする。この場合、各結晶系の割合は、以下の連立方程式を解くことで求めることができる。
I1=9.9y
I2=19.4z
I3=100.0x+25.1y+59.2z
X=x/(x+y+z)、 Y=y/(x+y+z)、 Z=z/(x+y+z)
【0152】
SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を30体積%以下とするために、CuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピーク(I1)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の積分値の比率(I1/I3)が0.04以下とすることが好ましい。また、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を20体積%以下とするために、I1/I3を0.02以下とすることが好ましく、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を10体積%以下とするために、I1/I3を0.01以下とすることが好ましい。
【0153】
上記X線回折パターンにおけるI3ピークは、SiCであればα−SiCおよびβ−SiCに共通して現れるピークである。
【0154】
一方、上記X線回折パターンにおけるI1ピークは、4H形SiCに見られるピークである。そのためI1ピークは、α−SiCのなかでも特に4H形SiCの量に対応するピークであると言える。
【0155】
そのため、I1/I3を求めることにより、SiC全体に含まれる4H形のα−SiCの割合を判断することができる。
【0156】
複合焼結体は、結晶粒界に存在する気孔を含み、複合焼結体が気孔を含まないとしたときの仮想真密度に対する、複合焼結体の見掛け密度の割合が97%以上となるように緻密化されることが好ましく、98%以上とすることがより好ましい。複合焼結体においては、原料粉体の焼結が進行することで、気孔の量が減少し、見掛け密度は100%に近づく。上記割合が97%以上となると、プラズマに対する耐食性(耐プラズマ性)が良好となるため好ましいためである。
【0157】
また、複合焼結体において、SiCの結晶粒のX線回折結果から求めた結晶子径は、50nm以上であると好ましい。また、SiCの結晶子径は、200nm以下であると好ましく、100nm以下であることがより好ましい。X線回折結果から求めた結晶子径は、複合焼結体に含まれる平均的な結晶粒の大きさとして求められる。SiCの結晶子径がこのような値であると、粒界に集まったSiC粒子の間の気孔や欠陥を減らすことができるため、密度を高くすることができる。また、SiCの結晶子径がこのような値であると、複合焼結体のプラズマに対する耐久性、粒子の脱離、パーティクルの発生などに対する特性を向上することができる。
【0158】
また、本実施形態の基体を構成する複合焼結体においては、β−SiC粒同士が焼結した部分を含んでいることが好ましい。このような部分を有する複合焼結体は、焼結の際、β−SiCからα−SiCへの相転移を生じることなくβ−SiC粒同士が焼結したことを示している。
【0159】
β−SiC粒同士を焼結させることで、単一粒子に分散せずに複数の粒子が凝集して残っているSiCや、焼結過程において偏析したSiCにおいて、近接するSiC粒子の間に存在する気孔や欠陥を減らすことができる。そのため、複合焼結体の密度を高くすることができる。また、β−SiC粒同士を焼結させることで、複合焼結体のプラズマに対する耐久性を高めることができる。また、β−SiC粒同士を焼結させることで、粒子の脱離やパーティクルの発生を抑制することができる。
【0160】
また、焼結過程で絶縁性粒子の粒界で焼結したSiCは、焼結過程において絶縁性粒子の粒界に合わせた形状となるため、密度を高くできる。また、絶縁性粒子とSiC粒子の境界の欠陥を減らすことができる。
【0161】
また、β−SiC粒同士が焼結した部分を含んでいると、SiC粒子同士が焼結せずに接触している場合に比べ、SiC粒子間の電気抵抗が低くなる。そのため、複合焼結体の電気的特性を向上することができる。
【0162】
本発明のその1の実施形態及びその2の実施形態のセラミックス材料および静電チャック装置は、以上のような構成となっている。
【0163】
[セラミックス材料の製造方法]
次に、本発明のその1及びその2の実施形態に係るセラミックス材料の製造方法の一実施形態について説明する。ここでは、セラミックス材料が酸化アルミニウムとSiCとの複合焼結体であることとして説明する。
【0164】
本実施形態の複合焼結体の製造方法は、絶縁性材料の原料粉体と導電性粒子の原料粉体と分散媒とを混合して複合粉末とし、この複合粉末を1MPa以上かつ100MPa以下の加圧下にて焼成して複合焼結体とする方法である。焼結条件としては、SiC粒子の相転移温度よりも低い温度で絶縁性粒子の焼結を進める第1焼結工程と、第1焼結工程よりも高く、SiC粒子の焼結が行われる温度で混合粒子を焼結させる第2焼結工程とを有している。
【0165】
絶縁性セラミックス粒子としては、焼結温度がβ−SiC型の結晶構造からα−SiC型の結晶構造へ転移する相転移温度よりも低いものを用いる。本実施形態においては、絶縁性セラミックスとしてAl粒子を用いることとして説明する。
【0166】
SiC粒子としては、β−SiC粒子を用いる。β−SiC粒子としては、金属不純物量が100ppm以下のものを用いることが好ましく、10ppm以下のものを用いることがより好ましい。中でも、Al、Fe、Bの含有量がそれぞれ1ppm以下であることが好ましい。このような高純度のSiC粒子は、CVD法やレーザー熱分解法により製造することができる。
【0167】
金属不純物量が100ppm以下であるβ−SiC粒子を用いることで、β−SiCからα−SiCへの相転移を抑制することができる。また、複合焼結体を用いた静電チャック装置をプラズマ工程に用いた際に、板状試料(ウエハ)への金属汚染を抑制することができる。
【0168】
また、SiC粒子は、窒化ケイ素が生成しない範囲において、窒素原子を多く含む方が好ましい。SiC粒子に含まれる金属不純物が少なく、かつSiC粒子の窒素含有量が多くなると、窒素原子が電子のドナーとして働き、SiC粒子の導電性を高めることができる。また、β−SiCからα−SiCへの相転移を抑制することができる。
【0169】
SiC粒子は、粒子径が50nm以下の粒子を好ましくは10体積%以上、より好ましくは40%以上含むものを用いることが好ましい。微細な粒子径のSiC粒子を使用することで、同じ体積を添加した場合の粒子の個数が増えることから、ピン止め効果により絶縁粒子の粒成長を抑制する効果を高めることができる。また、微細な粒子径のSiC粒子を使用することで、複合焼結体に微細なSiC粒子が含まれていることとなり、複合焼結体においてSiC粒子同士が接触しやすくなる。そのため、複合焼結体を静電チャック装置の構成部材として使用した場合に、吸着特性、誘電特性などの電気的特性を向上させることが出来る。
【0170】
Alの原料粉体としては、平均粒子径が1μm以下のAl粉体を用いることが好ましい。その理由は、平均粒子径が1μmを越えるAl粉体を用いて得られたSiC−Al複合焼結体においては、複合焼結体中のAl粒子の平均粒子径が2μmを越える。すると、このSiC−Al複合焼結体を用いて静電チャック装置の基材を作製すると、この基材の板状試料を載置する側の上面がプラズマによりエッチングされ易くなる。よって、この基材の上面にスパッタ痕が形成されることとなり、シリコンウエハ等の被吸着物を汚染させる原因となるおそれがあるためである。
【0171】
また、Alの原料粉体としては、高純度のものを使用することが好ましく純度が99.99%以上のものを使用することがより好ましい。高純度のAlを使用することで、SiCに不純物が固溶してα−SiCへの相転移を促進する影響を減らすことが出来、α−SiCへの相転移を減らすことが出来る。また、複合焼結体に含まれる金属不純物を1000ppm以下とすることが出来、半導体ウエハの汚染を減らすことが出来る。さらには、高純度のAlを使用することで、静電チャック装置の電気抵抗の温度依存性を小さくすることが出来る効果もある。
【0172】
絶縁性粒子とSiC粒子の混合方法としては、特に限定されないが、超音波ホモジナイザー、ビーズミル、超高圧粉砕機等の分散機を用いて分散媒中で分散処理がなされることが好ましい。
【0173】
なお、絶縁性粒子の原料粉体と導電性粒子の原料粉体を均一に混合していないと、複合化して得られる絶縁性セラミックス中のSiC粒子の分布が不均一となり、電気的特性の再現性およびその焼結体内での均一性が悪化するおそれがある。そのため、分散媒や分散剤、分散処理条件を適宜選定して均一に混合することが好ましい。なお、SiC粒子の分布は単一の粒子が凝集した2次粒子径の分布が均一となっていればよい。
【0174】
分散媒中で分散した絶縁性粒子とSiC粒子はスプレードライヤーなどの乾燥装置を使用して複合粒子とする。
【0175】
複合粉末を1MPa以上かつ100MPa以下の加圧下にて不活性ガス雰囲気中で焼成して複合焼結体とする方法としては加圧焼結装置(ホットプレス)を用いることが好ましい。
【0176】
焼結条件としては、SiC粒子の相転移温度よりも低い温度で絶縁性粒子の焼結のみを進める第1焼結工程と、第1焼結工程よりも高く、SiC粒子の焼結が行われる温度で混合粒子を焼結させる第2焼結工程とを有していることが好ましい。
【0177】
第1焼結工程で絶縁性粒子の焼結を進めた後に、第2焼結工程でSiC粒子同士を焼結させることでβ−SiCからα−SiCへの転移を抑制することが出来るためである。
【0178】
また、第1焼結工程においては、第1焼結工程が終了した段階で、焼結体の相対密度が、95%以上まで緻密化する条件で焼結することが好ましい。なお、第1焼結工程が終了した段階での相対密度は、第1焼結工程のみを行った後に取出した焼結体を作成して確認する他、加圧焼結装置のプレス機の変位計の値から算出することが出来る。
【0179】
第1焼結工程の焼結温度としては1300℃以上1700℃以下とすることが好ましく、1400℃以上1700℃以下とすることがより好ましい。また、焼結を十分に行うため、1時間以上保持することが好ましい。β−SiCからα−SiCへの相転移温度が約1800℃であるのに対し、例えば、混合粒子を1650℃で4時間加熱して焼結する。
その際、焼結体のプレス圧は、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。これにより、SiC粒子が相転移することなく、絶縁性セラミックス粒子(Al粒子)が焼結して緻密化される。また、Al結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界および結晶粒内に、SiC粒子が集まる。
【0180】
焼結体のプレス圧は、室温から1000℃までの間では加圧せず、第1焼結工程が終了するまでの間に、1MPa/分以下の昇圧速度で昇圧して最高圧力まで到達させることが好ましい。焼結が進行する温度域で温度とプレス圧との関係や昇圧速度などの焼結条件を変えることで、複合焼結体としたときのSiCの粒径分布を制御することが出来る。
【0181】
次いで、第2焼結工程においては、第1焼結工程の焼結温度よりも高く、SiCの焼結が進行する温度で混合粒子を焼結させる。絶縁性セラミックス粒子にAlを用いた場合には、焼結温度は1750℃以上1900℃以下とすることが好ましい。例えば、混合粒子を1780℃で4時間加熱して焼結する。その際、焼結体のプレス圧は、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。これにより、Al粒子の焼結がさらに進行する。それとともに、結晶粒界に集まったSiC粒子や、複合粉末内で単一の粒子が凝集した2次粒子の状態で存在していたSiCの焼結も進行する。これにより、全体が緻密化された複合焼結体が得られる。
【0182】
β−SiC粒は、焼結に伴う粒子の再配列や粒成長の過程において、α−SiCに相転移しやすいことが知られている。本実施形態の製造方法では、第1焼結工程で予め一部焼結させ全体を緻密化させ、SiC粒子を、Al結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界や結晶粒内といった狭い領域に局所的に集めている。すると、第2焼結工程でSiC粒子を焼結させた際にも、SiC粒子の周囲にはわずかな量のSiC粒子しか存在しないため、SiC粒子を焼結させたとしても、SiC粒子の粒成長に伴う相転移を抑制できると考えられる。また、焼結が進行することでプレス圧がSiC粒子に十分に伝わることで、圧力が相転移を抑制する効果が働き、α−SiCへの転移が抑制されると考えられる。さらに、Alが緻密化したことにより、Al中のアルミがSiCへ固溶し難くなり、4H相であるα−SiCへの転移が抑制されると考えられる。
【0183】
第2焼結工程の最高温度(焼結温度)で所定時間保持した後、降温時においては、焼結体の温度が1600℃以下となるまで、複合焼結体のプレス圧を、20MPa以上に保持することが好ましく、30MPa以上に保持することがより好ましい。相転移が生じる温度以下になるまでプレス圧を掛け続けると、圧力が相転移を抑制する効果により、α−SiCへの転移を防ぐことが出来る。
【0184】
さらに、複合焼結体のプレス圧は、複合焼結体の温度が1300℃以上1700℃以下、好ましくは1400℃以上1600℃以下の温度範囲において解放することが好ましい。焼結体の温度が1300℃未満となるまでプレス圧を加えたまま冷却すると、得られる複合焼結体に残留応力が多く残り、破損しやすくなるおそれがある。
【0185】
以上のような構成の静電チャック用複合焼結体によれば、耐久性に優れた静電チャック用複合焼結体(セラミックス材料)とすることができる。
【0186】
また、以上のような静電チャック装置によれば、上述の静電チャック用複合焼結体(セラミックス材料)を用いたため、耐久性に優れた静電チャック装置とすることができる。
【0187】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0188】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0189】
「実施例1」
平均粒子径0.04μmのβ型SiC粉末を10体積%と、平均粒子径0.1μmのAl粉末が90体積%となるように秤量し、これらSiC粉末及びAl粉末を水系溶媒中で、ボールミルにて5時間分散処理した。得られた分散液を、スプレードライヤーを用いて200℃にて乾燥し、AlとSiCの複合粉末を得た。
【0190】
次いで、得られた混合粉末を成形した後、アルゴン雰囲気下、圧力を加えることなく10℃/分で1300℃まで昇温させた。その後、昇温速度を10℃/分に維持したままプレス圧を0.2MPa/分で昇圧した。1650℃到達時点でプレス圧は7MPaとなった。また、1650℃で温度を保持し昇圧を続けたところ、保持時間が165分経過した時点でプレス圧は40MPaとなった。その後、プレス圧を40MPaとしたまま、1650℃での保持時間が4時間となった時点で、第1焼結工程を完了させた。
【0191】
その後、第1焼結工程で得られた成形体へのプレス圧を40MPaに保持したまま、第1焼結工程の保持温度である1650℃から1880℃にまで5℃/分で昇温させた。第1焼結工程で得られた成形体の焼結温度を1880℃、プレス圧を40MPaとしたまま4時間保持することで、第2焼結工程を行った。
【0192】
次いで、第2焼結工程で得られた成形体へのプレス圧を温度1880℃にて40MPaに維持しながら焼結炉の加熱を終了し、焼結炉を1500℃まで冷却した。
【0193】
1500℃でプレス圧を開放した後、第2焼結工程で得られた成形体を室温まで冷却し、実施例1のセラミックス材料(複合焼結体)を得た。
【0194】
「実施例2」
第1焼成工程のプレス圧を25MPa、25MPaに到達した時間が1650℃での保持開始後から90分後であり、第2焼成工程の保持温度を1780℃、第2焼成工程のプレス条件を25MPaとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のセラミックス材料(複合焼結体)を得た。
【0195】
「実施例3」
第2焼成工程の保持温度を1780℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のセラミックス材料(複合焼結体)を得た。
【0196】
「比較例1」
実施例1の方法で得られた混合粉末を成形した後、アルゴン雰囲気下、圧力を加えることなく10℃/分で1300℃まで昇温した。その後、昇温速度を10℃/分と維持したままプレス圧を0.2MPa/分で昇圧した。なお、1780℃到達時点でのプレス圧は9.6MPaであり、1880℃でのプレス圧は11.6MPaであった。
【0197】
1880℃で温度を保持し昇圧を続けたところ、保持時間が67分経過した時点でプレス圧は25MPaとなった。
【0198】
その後、プレス圧を25MPaに維持したまま1880℃での保持時間が4時間となった時点で加熱を終了し、1880℃でプレス圧を解放し、室温まで冷却して比較例1のセラミックス材料(複合焼結体)を得た。
【0199】
「比較例2」
市販の純度99.6%のAl焼結体(アスザック社製、AR−996)を、比較例2のセラミックス材料(焼結体)として用いた。
【0200】
得られた各セラミックス材料(複合焼結体)について、以下の方法で測定した。
【0201】
(結晶相の分析)
X線回折装置(PANalytial社製、機種名X’Pert PRO MPD)を用い、粉末X線回折法により、結晶相の同定を行った。
【0202】
SiCの結晶形が含まれる割合は、回折線の理論強度の計算値と、X線回折強度の測定値と用い、連立方程式を解いて解を求める方法を用いて結晶相を同定した。
【0203】
SiCの結晶形は3C,4H、6Hの3種類が含まれるとし、計算に使用するピークには、CuKα線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピーク、2θ=34.1度付近に見られるピーク、2θ=35.8度付近に見られるピークの3本のピークを使用した。SiCの結晶形と回折線の理論強度の関係の計算値は、Ruskaの計算値を使用した(J.Mater.Sci.,14,2013−2017(1979)))。
【0204】
上記X線回折パターンにおいて、2θ=33.7度付近に見られるピーク(I1)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の比率(I1/I3)が0.01程度以下の時はバックグラウンドとなるデータと重なり検出限界以下となる。そのため、I1のピーク強度はI3の値の0.01倍の値として計算した。3Cと4Hのみ含まれる場合4H形のα−SiCの検出限界は約10%となる。
【0205】
上記X線回折パターンにおいて、2θ=34.1度付近に見られるピーク(I2)と、2θ=35.8度付近に見られるピーク(I3)の比率(I2/I3)が0.01程度以下の時はバックグラウンドとなるデータと重なり検出限界以下となる。そのため、I2のピーク強度はI3の値の0.01倍の値として計算した。3Cと6Hのみ含まれる場合4H形のα−SiCの検出限界は約5%となる。
【0206】
測定結果から、SiC全体におけるβ−SiCの含有率を求めた。
【0207】
複合焼結体の密度は、SiCの理論密度を3.21とし、Alの理論密度を4.0としてアルキメデス法により求めた。
【0208】
実施例1,2、比較例1,2についてのセラミックス材料の作製条件を表1に示す。
【0209】
【表1】
【0210】
(耐電圧評価)
得られた実施例1,2、比較例1,2の板状試験片を用い、JIS C2110−2に準拠して、JIS C2110−2で規定する短時間試験を行った。
具体的には、得られた実施例1,2、比較例1,2の板状試験片を、直径20mmの電極で挟持し、厚さ方向に直流電圧を印加した。印加する電圧を1000V/秒(3.3kV/(mm・秒))の速度で昇圧しながら、電流値を測定した。電流値は0.05秒間隔で測定した。なお、0.05秒間隔で測定している電流値が瞬間的に増加し、0.05秒後には0.1秒前の測定値の2倍以下の値となる場合はノイズとみなし、評価に使用しなかった。
測定においては、電流が150μA以上となった場合に印加電圧を遮断することとした。
【0211】
図2〜5は、それぞれ実施例1,2、比較例1,2の測定結果を示すグラフである。
実施例1では電圧の増加に伴い、電流値は150μAを超えるまで連続的に増加した。
実施例2では電流値が77μAに達するまで連続的に電流値が増加した後、0.1秒後に急激に電流値が増加して150μA以上となり、電圧を印加している高電圧電源が遮断した。
比較例1では電流値が4.5μAに達するまで連続的に増加した後、0.1秒後に急激に電流値が増加して150μA以上となり、電圧を印加している高電圧電源が遮断した。
比較例2では電流値が0.8μAに達した後、0.1秒後に急激に電流値が増加して150μA以上となり、電圧を印加している高電圧電源が遮断した。
【0212】
実施例1,2、比較例1,2についての評価結果を表2に示す。表2に記載の臨界電流値および耐電圧の値は、図2〜5に示したグラフから読みとったものである。
【0213】
【表2】
【0214】
評価の結果、実施例1,2のセラミックス材料は、いずれも臨界電流値が5μAを超え、且つ耐電圧が5μA以上となった。そのため、実施例1,2のセラミックス材料は、耐久性に優れたものであると判断できる。
【0215】
対して、比較例1,2のセラミックス材料は、耐電圧は5μA以上であったが、臨界電流値が5μAを下回っていた。そのため、比較例1,2のセラミックス材料では、セラミックス材料が放電する前に、セラミックス材料に帯電した電荷を放出できず、絶縁不良に至るまでの期間が短くなると判断できる。
【0216】
(耐久性評価)
実施例1,2、比較例1,2で作製したセラミックス材料(複合焼結体)を使用して基体(載置板および支持板)を作製し、静電チャック装置を製造した。製造した静電チャック装置をプラズマエッチング装置内で1000時間使用することで、耐久性評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0217】
【表3】
【0218】
評価の結果、実施例1〜3のセラミックス材料(複合焼結体)を使用した静電チャック装置は、1000時間使用後も複合焼結体の絶縁不良等の問題は無く、耐久性が高いことが分かった。
【0219】
一方、比較例1のセラミックス材料(複合焼結体)を使用した静電チャック装置は、600時間使用した時点で、セラミックス材料が絶縁不良となり使用できなくなった。セラミックス材料の絶縁不良となった箇所についてTEM(透過型電子顕微鏡)を使用して観察したところ、α形のSiCが存在していることが確認された。
【0220】
比較例2のセラミックス材料(焼結体)を使用した静電チャック装置は、静電チャック装置に放電が生じ、使用できなかった。
【0221】
図6は、実施例1のセラミックス材料(複合焼結体)のSIM(Scanning Ion Microscope、走査イオン顕微鏡)像であり、集束イオンビーム装置にてセラミックス材料の表面を500nm削って露出した面についての像である。
【0222】
写真のコントラストの暗くなっている場所がSiC粒子である。図から分かるように、原料の粒子径(0.04μm)よりも大きく粒成長したSiC粒子が観察された。また、SiC粒子の粒子形状は不定形となっていた。また、SiC粒子同士の境界にネックを形成しているものが観察され、SiC粒子同士が焼結していることが確認された。
【0223】
以上の結果から、本発明が有用であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0224】
1…静電チャック装置、11a…載置面、13…静電吸着用電極、W…板状試料
【要約】
高出力のプラズマに曝露しても破損しにくい静電チャック用複合焼結体を提供する。また、このような静電チャック用複合焼結体を用いた静電チャック装置、および静電チャック用複合焼結体の製造方法を提供する。絶縁性セラミックスと炭化ケイ素との複合焼結体であり、炭化ケイ素の結晶粒は、絶縁性セラミックスの結晶粒が焼結してなる主相の結晶粒界および結晶粒内に分散しており、炭化ケイ素の結晶粒の全体に対して、β−SiC型の結晶構造を有する結晶粒を60体積%より多く含み、複合焼結体は、結晶粒界に存在する気孔を含み、複合焼結体が気孔を含まないとしたときの仮想真密度に対する、複合焼結体の見掛け密度の割合は97%以上である静電チャック用複合焼結体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6