【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者:一般社団法人日本機械学会 刊行物:No.13−2 Proceedings of the 2013 JSME Conference on Robotics and Mechatronics 発行日:平成25年5月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進制度「5感インタフェース技術を用いた拡張テレイグジスタンスの研究開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記車輪は、前記車軸側の面上であって、周方向の少なく1箇所に径方向に突設された係合部材を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のトロコイド駆動機構。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、本発明者は、不整地での運用や足場最大化のための1軸多輪構成への対応としての車輪の駆動輪化に係るトロコイド駆動機構を、先願(特願2012−120065)として提案した。ところで、特許文献1,2及び先願に記載されたトロコイド走行系の性能評価に関する解析は行われていないことから、発明者は、今般、主駆動軸を法線とする水平面上での走行についての解析を試みた。
【0005】
上記解析に当たり、不整地への適用を考慮した場合、不整地では水平性が揺らぐことになることから、接地点において常にトロコイド曲線を描くように設計されている特許文献1,2及び先願に記載のトロコイド走行系において、その揺らぎが不整地走行時の走行軌道の安定性にどのように影響するかについて、以下のような幾何学的な解析を行った。
【0006】
図1は、接地点の変動と車輪Wの進行方向の揺らぎを説明する図で、正面図(Front View)、平面図(Top View)、及び側面図(Side View)を示している。まず、主駆動軸方向にz軸を設定する。さらに仮想接地平面をxy平面とし、車輪Wの仮想接地点を原点とする。ここで車輪Wの接線方向にx軸を設定する。このとき、走行軌道の回転中心は常に同直交座標系のy軸上にあることになる。この条件下において、主駆動軸に対する接地平面の水平性の姿勢2自由度の揺らぎとして不整地性を定義する。本機構においてはz軸周りの回転はステアリング角Ψ、x軸周りの回転はキャンバー角θの変化に相当し、これらは接地点に変化を及ぼすことはない。本座標系においては水平性の揺らぎとしてx軸周りの揺らぎはキャンバー角θの変化Δθとして定義されるが、この変化によって接地点は変化せず、唯一、y軸周りの揺らぎ角Δλによって接地点が移動することになる。このとき、移動した接地点を車輪Wの位相角揺らぎΔφとすると、下記の関係が成り立つ。
【0007】
tanΔλ=tanΔφcos(θ+Δθ)
このとき、ステアリング角Ψの揺らぎ角ΔΨは、下記のように定義される。
【0008】
tanΔΨ=tanΔφsin(θ+Δθ)
両式から、不整地による水平性の揺らぎは、2自由度の揺らぎ角(Δθ,Δλ)に対して次式の関係において直進性の揺らぎ角として走行に影響を及ぼすことになることがわかる。
【0009】
tanΔΨ=tanΔλtan(θ+Δθ)
ここで、車輪Wの半径rに比して不整地面のz軸方向の凹凸が十分に小さいならば、Δλ≒0,Δθ≒0であるため、上式は、下記のように表される。
【0010】
tanΔΨ≒Δλ(tanθ+Δθ)
また、本駆動系の場合、仮想接地線であるx軸は物理静止系に対しては主駆動軸周りに回転する系であり、この回転由来の揺らぎは主駆動軸と接地面の成す角Δξに対して下記のように近似できる。
【0011】
(Δλ,Δθ)≒(Δξsinωt,Δξcosωt)
これを上式に代入することによって進行方向への揺らぎΔΨを求め、各種条件下での接地点の走行軌跡をシミュレーションすることができる。シミュレーションでは、主駆動軸がy軸周りに傾斜(例えばΔλ=π/60)した面を想定し、所定のキャンバー角で操舵操作を行った場合、キャンバー角が大きい程、本来の進行方向であるx軸方向に対して、より大きなy軸方向への移動成分を有することが判った。また、操舵操作が行われない場合、静止せず、僅かなy軸方向への移動成分を有していることが判った。さらに、接地面がΔξ傾くと、キャンバー角θ≒0付近では進行方向の揺らぎΔΨの周波数はω/π、振幅は(Δξ)
2程度であり、一方、θが十分大きいときには周波数ω/2πで、振幅値はΔξtanθが支配的となる。従って、進行方向の揺らぎΔΨを最小化する観点からはキャンバー角θは0に近く、主駆動軸は(マクロ的な)斜面平均に対して法線方向に保たれていることが望ましい。
【0012】
すなわち、高速に直進したい場合にはキャンバー角を小さく、すなわち車輪を立てた状態で、主駆動軸を接地面に垂直になるようにサスペンション等で車体姿勢を調整することが望ましい。その一方で、この場合の段差対応力は従来型の車輪運用の能力程度に留まることになる。ところで、本機構の不整地走破性を活用するためには、大キャンバー角運用を行いつつ、進行方向揺らぎを補正する制御を行うことが望ましい。また、この一方で、この特性を逆に活用して、積極的に主駆動軸を傾けることによって全方位移動を可能とする簡易型のステアリング機構を構成することが可能になる。
【0013】
以上の解析結果から、発明者は、大キャンバー角で運用する態様では、従来の機構からステアリング機構をなくした構造であっても、主駆動軸を傾けることによって、位相−90°の方向にほぼトロコイド軌道を描いて進行する全方位走行系として運用可能であるとの知見を得た。これは、また倒立振子制御による大キャンバー角単軸単輪構成の走行系への適用の場合に機構の大幅な簡略化を可能にする有望な機構構成となると考えられる。
【0014】
本発明は、上記に知見に鑑みてなされたもので、ステアリング機構及び駆動輪化機構を簡素化し、トロコイド曲線に近似した軌道の接地点移動を行って全方位への不整地安定走行を実現するトロコイド駆動機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、先端に車輪が固設された車軸を備えた少なくとも1個の作用部と、前記車軸を作用面上でみそすり運動させる運動機構部と、前記みそすり運動の旋回中心軸を傾斜させる傾斜機構部とを備えたトロコイド駆動機構である。本発明によれば、運動機構部によって作用部の車軸がみそすり運動を行うことで、先端の車輪が作用面上で接地点を移動させながらトロコイド曲線に近似した軌道を描く。車輪は車軸に固設されていることから、みそすり運動においても回転拘束されている。この状態で、傾斜機構部によって、みそすり運動の旋回中心軸が傾斜させられると、車輪は、作用面上を、旋回中心軸の傾斜方向に関連してキャンバー角度に偏りが生じ、回転位相の90°方向に進行する。傾斜方向が全方位に指示可能であれば、車輪は全方位に方向に向けて走行可能となる。
【0016】
また、本発明では、トロコイド曲線としての時間軌道的な精度の多少の不正確さと機構重心の上下動を伴うものの、ステアリング機構と駆動輪化機構を、特許文献1,2及び先願に比して簡素化することができる。また、傾斜量を調整することで、全方位速度制御を可能とし、階段も登れる段差乗り越え能力を有するなど不整地走行性も優れ、その特性から歩行移動を行う人と共存するパーソナルモービルや対人サービスロボットの走行系として高い有用性を持つ機構であると期待される。
【0017】
また、本発明は、本体を備え、前記本体に前記作用部が複数個併設され、前記傾斜機構部は、前記複数の作用部の各旋回中心軸を同一角度だけ傾斜させるものである。この構成によれば、各作用部は同一方向に並進することになる。従って、全方位への並進と回転において複合的な動きを求める建機等の作業用車両への応用では、この不整地走破性に高い価値がある。
【0018】
また、本発明は、前記運動機構部が、前記複数の作用部の各車軸を同位相でみそすり運動させるものである。この構成によれば、1つを駆動源とし、他を従動構造とすることができるので構造の簡素化が図れる。
【0019】
また、本発明は、前記車軸が、上部にユニバーサルジョイントを備え、かつ軸途中にボール継ぎ手が介在されたものであることを特徴とするものである。この構成によれば、車軸の支持が簡易構造で可能となる。
【0020】
また、本発明は、前記傾斜機構部が、静止時に前記車輪の側面を前記作用面にほぼ接地した状態にすることを特徴とするものである。この構成によれば、静止時に車輪側面をほぼ乃至は完全に接地(横臥)させた状態に移行し得ることで、静止安定性を得る構造となる。特に、90°近い大きなキャンバー角での運用を特徴とする機構の場合、磁石車輪を採用した全方位走行体への応用が期待される。また、静止時に全車両の側面を完全接地した状態で車軸上に直立する形で機構を支持する構造であるため、高い接地安定性と全方位への微動調整の組合せで移動と静止とを繰り返すようなクレーン車などへの応用に利点をもたらすと考えられる。
【0021】
また、本発明は、前記車輪は磁石からなることを特徴とするものである。この構成によれば、90°近い大きなキャンバー角での運用及び静止を特徴とする機構の場合、磁石車輪を採用して壁面移動ロボットなどへの応用が期待される。
【0022】
また、本発明は、前記車輪は、前記車軸側の面上であって、周方向の少なく1箇所に径方向に突設された係合部材を備えることを特徴とするものである。この構成によれば、階段乗り越え時に、踏面への係合性を高めることで滑落が抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ステアリング機構及び駆動輪化機構を簡素化したトロコイド駆動機構を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るトロコイド駆動機構が車輪を備えた推進機構に適用された実施形態について説明する。
図2は、本発明に係るトロコイド駆動機構の一実施形態を示す概略斜視図である。
【0026】
本トロコイド駆動機構1は、本実施形態では、上下方向に4層からなり、それぞれ略円形状の板状体が積層された本体部10を備えている。
図2では、説明の便宜上、最上位の板状体は省略されている。4層からなる板状体は、それぞれ所要間隔を置いて配置され、上側から、天井板11、上駆動板12、中間板13及び下駆動板14である。なお、
図3には、天井板11、上駆動板12、中間板13及び下駆動板14が示されている。天井板11、上駆動板12、中間板13及び下駆動板14は、それぞれ所要の形状を有し、以下のように構造的に互いに関連して支持されている。
【0027】
本トロコイド駆動機構1は、さらに作用部20、運動機構部30及び傾斜機構部40を備えている。
図3は、本体部10、作用部20及び運動機構部30の一実施形態を示す一部側面断面図である。
図4は、傾斜機構部40の一実施形態を示す一部側面断面図である。本実施形態では、
図2に示すように、作用部20、運動機構部30は、本体10の周方向に略均等な4箇所に配設されている。4個の作用部20及び運動機構部30は同一構造を有する。なお、運動機構部30の1個は駆動源となり、従動側となる残り3個と一部において構造を異にしている。
図3では、説明の便宜上、作用部20及び運動機構部30は1個のみを示している。
【0028】
作用部20は、上駆動板12と下駆動板14とに支持されている。作用部20は、上端部で上駆動板12に固設され、略中央部位で下駆動板14に、後述する継ぎ手を介して支持されている。作用部20は、上駆動板12に固設される頂部21と、頂部21から下駆動板14の下方まで延設される断面円形の車軸22と、車軸22の下端に車軸22と一体で取り付けられる所要径の車輪23とを備える。また、作用部20は、頂部21と車軸22との間にユニバーサルジョイント24が介在されている。さらに、車軸22の途中には、下駆動板14との間でボール継ぎ手25が介在されている。
【0029】
ユニバーサルジョイント24は、
図3に示すように、コの字状部分を有するヨーク241,242を交差状に向き合わせて配置し、両ヨーク241,242間を十字ピン243により連結して、ヨーク241に対してヨーク242を自在方向に傾動可能に構成したものである。ボール継ぎ手25は、車軸22を内嵌する円孔が穿設された球状筒体251と、内部に球状筒体251の一部を囲繞する球形空洞を有する継ぎ手部252と、継ぎ手部252を連結腕253を介して下駆動板14に固定する固定部254とを備える。この構成によれば、後述するように上駆動板12に対して下駆動板14が左右方向に移動すると、車軸22は、ユニバーサルジョイント24で屈曲して傾斜することになる。
【0030】
図3には、駆動源となる運動機構部30が示されている。運動機構部30は、天井板11の上面適所に、フレーム31を介して、駆動部としてのモータ32が搭載されている。モータ32の出力軸にはギア321が一体で取り付けられている。モータ32の回転力は、運動機構部30を構成するギア33〜軸38によって、天井板11及び中間板13を水平面上で回転させる。ギア33は、軸34の上端に取り付けられ、ギア321と噛合している。軸34は、天井板11の孔111に回転可能に遊嵌されている。軸34の下部には軸34周りに回動可能な所要長を有する、例えば板状の第1旋回部材35の一端が連結されている。第1旋回部材35の他端は、上駆動板12の孔121に遊嵌された軸36に可動自在に連結されている。軸36の下部には、軸36周りに回動可能な所要長を有する、例えば板状の第2旋回部材37の一端が連結されている。旋回部材37の他端は、中間板13の孔131に遊嵌された軸38に可動自在に連結されている。従って、軸34〜軸38によって2段クランクが構成されている。なお、軸34,36,38は上下方向への移動を規制する図略の位置決め部材を備えている。
【0031】
軸34,36,38の位置は、第1、第2旋回部材35,37が軸36周りで同一方向を向く(同相となる)ように設定されている。また、第1、第2旋回部材35,37は、それぞれ一端から他端までの寸法の比率が、より詳細には、第1旋回部材35の軸34,36間の寸法と、第2旋回部材37の軸36,38間の寸法との比率が所定の比率に設定されている。
【0032】
上記構造において、モータ32が駆動すると、ギア33は、ギア321からの回転力を受けて軸36周りに旋回する。この旋回動作によって、中間板13も前記の所定の比率に対応した旋回径で同期旋回する。上駆動板12と中間板13の旋回径の比率は、作用部20の車軸22の旋回中心軸に対するみそすり運動(首振り運動)の角度θ(
図5(a)参照)を規定する。車輪22はフリーホイールではなく、回転拘束力のかかった駆動輪として機能する。従って、車輪23は、角度θに対応したキャンバー角で起立して、旋回中心軸周りに接地点移動を行う。なお、運動機構部30のうち、他の3個の従動側は、モータ32,ギア321,33を省いた構造である。4個の運動機構部30は、回転位相が一致するように向きが合わせられている。
【0033】
図5は、車輪22の接地点の移り変わりを説明する図で、(a)は旋回中心が鉛直方向にある場合、(b)は旋回中心が水平方向にずらされた場合の図である。すなわち、
図5(a)のようにステアリングが切られていない状態において、旋回中心軸Ocの周りに所定の角度、すなわち前記した所定の比率に対応した角度θを持って車軸22がみそすり運動を行う。なお、車輪23の半径は、
図5(a)において、車輪23の接地点から旋回中心軸Ocが接地面と交差する点までの距離が接地点の描く円弧の半径に一致するように設定されることが好ましい。このようにすれば、ステアリングを切らないままの状態でみそすり運動をしても車輪23の転がりの一周が接地点の一周と一致することになり、捻れを生まないことになる。車輪23’の場合も同様である。
【0034】
次に、
図4に戻り、傾斜機構部40の構造を説明する。傾斜機構部40は、中間板13と下駆動板14とを左右方向に相対的にずらすためのもので、本実施形態では、中間板13に対して下駆動板14を左右方向にずらすようにしている。このスライド動作によって、みそすり運動の軸中心Ocを等価的に傾斜させて(
図5(b)参照)、本トロコイド駆動機構1を水平方向、より詳細には軸中心Ocの傾斜方向に対して水平面で90°回転方向に進んだ方向に移動させることができる。
【0035】
図4において、中間板13及び下駆動板14には必要に応じて窓部132,141が形成されている。傾斜機構部40は、中間板13と下駆動板14との間に平行に配置された中継板41を備える。そして、中継板41の上下面には、井桁状にリニアスライダ42,43が配設されている。すなわち、中間板13の下面と中継板41の上面間には、その前後(
図4の紙面方向)側位置に、左右方向に平行な1対のリニアスライダ42が配置されている。本実施形態では、リニアスライダ42は、中間板13側に設けられた所定長を有するガイド部材42gと、中継板41側に設けられた移動部材42sとから構成されている。
【0036】
一方、中継板41の下面と下駆動板14の上面間には、その左右側位置に、前後方向に平行な1対のリニアスライダ43が配置されている。本実施形態では、リニアスライダ43は、下駆動板14側に設けられた所定長を有するガイド部材43gと、中継板41側に設けられた移動部材43sとから構成されている。
【0037】
また、中継板41の上下面の略中央には駆動部としてのサーボモータ44,47が固定されている。なお、サーボモータ44,47に代えて、モータあるいは電磁ソレノイド等でもよい。そして、本実施形態では、サーボモータ44の出力軸にはピニオンギア45が一体固定されている。また、中間板13から左右方向にラック46が延設されており、ピニオンギア45とラック46とは噛合している。さらに、本実施形態では、サーボモータ47の出力軸にはピニオンギア48が一体固定されている。そして、下駆動板14から前後方向にラック49が延設されており、ピニオンギア48とラック49とは噛合している。
【0038】
従って、サーボモータ44が駆動されると、ピニオンギア45が回転してラック46上を左右方向にスライドすることで、中間板13に対してサーボモータ44と一体の中継板41が左右方向にスライドする。また、サーボモータ47が駆動されると、ピニオンギア48が回転してラック49を前後方向にスライドさせることで、中継板41に対して下駆動板14が前後方向にスライドする。この結果、サーボモータ44,47の両方が駆動されることで、下駆動板14が中間板13に対して前後左右方向に所望量だけスライド可能となる。サーボモータ44,47に電源が投入され、ロック状態になった場合、車輪23はあるキャンバー角で停止する。一方、サーボモータ44,47の電源が切られると、ロックが解除されて車軸22の傾斜姿勢が開放され、鉛直方向に戻る結果、車輪22は接地面(作用面)に接地(横臥)した状態になる。
【0039】
指示器50は、電源オンを指示する動作ボタン51、全方位に対する移動指示が可能なジョイスティック52と、指示内容を例えば電波で送信するアンテナ53とを備えている。なお、ジョイスティック52は、傾倒量に応じて直交する方向の各電圧を発生するものである。
図3において、天井板11に設置された制御部60は、指示器50からの指示内容を受信し、モータ32、及びサーボモータ44,47に所定の駆動指示を与えるものである。モータ32は指示内容に従って、回転速度が可変式であってもよい。回転速度が上昇する分、移動速度も上昇する。また、サーボモータ44,47は、ジョイスティック52の傾倒量に応じて、水平方向のずれ量を調整し、旋回中心軸Ocの傾倒量を大小可変式とすることが好ましい。傾倒量が大きい程、車輪23の接地点の移動が1周する間のキャンバー角の変化が大きくなり、移動速度は増すことになる。また、トロコイド曲線としての1周毎の進行軌道の高精度な直進性は多少低下するものの、進行方向をマクロ的に見た場合の直進性は維持される。
【0040】
図5(b)は、旋回中心軸Ocが傾倒された場合の車輪23のみそすり運動のうちの、傾倒側の位相位置(破線で示す)と、その反対側の位相位置(実線で示す)とを示す図である。図に示すように、傾倒側の位相位置では、キャンバー角が多少小さくなって車輪23が起き上がっており、より大きな曲率半径のステアリング方向に進む様子が見られ、一方、傾倒側と反対側の位相位置では、最大のキャンバー角となって車輪23が一層寝ており、最小の曲率半径のステアリング方向に進む様子が見られる。接地面上での車輪23の接地点が画く円弧が、
図5(b)の左右方向に接地面から見て楕円状に縮められた軌跡を描くと共に、接地面内での見かけの曲率と線速度が均一ではなくなり、疑似トロコイド曲線を描くようになる。すなわち、
図5の紙面方向への移動力が生じて、当該方向に進むことになる。なお、
図5(b)のように、旋回中心軸Ocの傾斜によって接地点が当該軸Oc方向からみて上下することになることから、本トロコイド駆動機構1は、その重心位置が接地点の旋回周期で上下動することとなるが、かかる上下動は、ボール継ぎ手25で車軸22を摺動可能にした構造によって大幅に吸収される。
【0041】
また、
図5(a)において、車輪23’は、車輪23に比して車輪半径の異なる(より大きい)ものである。図のように、車輪半径が大きく(又は、小さく)なる程、車軸22の長さは対応して短く(又は、長く)設定されることが判る。
【0042】
また、
図5及びサーボモータ44,47の動作で説明いたように、本トロコイド駆動機構1は、静止時に、車輪23を接地した状態とすることができ、動作中も大キャンバー角で動作するものである。従って、車輪23を磁石で形成すれば、金属(磁性体)壁面等を走行する磁石吸着型車輪を備えた走行体に応用することが可能となる。金属壁面としては、鉛直壁の他、立体的な壁面、例えば金属パイプ、金属容器類の内壁でもよく、各種検査用としての応用も可能である。なお、静止時のベタ付けした接地姿勢から磁力に抗して所要のキャンバー角まで起立する動作を確保するべく、ベタ付けの接地姿勢に規制を掛けて、僅かに起立した状態、すなわち点接地している姿勢が維持されるようにすることが望まれる。例えば、車軸22の法線方向への復帰を、例えばストッパーなどの干渉部材で構造的に規制する方法が考えられる。
【0043】
また、本トロコイド駆動機構1は、不整地対応性を備えると共に、段差乗り越え機能も備えている。段差乗り越えは、階段の段鼻に点接触の状態で摺り上がり、その状態で車輪の先端が少し進行方向に進むものの、車輪回転に伴って段鼻から摺り下り、更なる車輪回転に伴って徐々に進行するものである。しかし、かかる段差乗り越えは、車輪が階段の段鼻に点接触の係合で行われることから、途中で滑落する可能性もある。
図6は、階段乗り越え時の滑落を可及的に抑制する車輪の構造の一実施形態を示す図で、(a)は上面図、(b)は側面図である。係合部材231は車輪23の上面側に設けられたもので、角(つの)状の形状を有し、本実施形態では先端部に球状体が形成されている。係合部材231は、
図6(a)から判るように、走行動作中に接地面に接触しない程度で、車輪23の周面より外方に露出している。また、係合部材231は、1個又は所要数でもよいが、本実施形態では周方向に均等に3個設けられている。係合部材231の先端の球状体部分は、車輪23の上面との間に隙間があり、この隙間を利用して階段の踏面の段鼻に引っかかり易くしている。また、係合部材231の先端に球状体を設けることで、階段の踏面に当接して床反力を安定利用し得るようにし、さらに係合部材231の球状体を樹脂等の摩擦係数の大きな材料とすれば、踏面との係合性をより高めることとなり、滑落が一層抑制されることになる。また、係合部材231は、先端に設けた球状体に代えて、踏面との当接を確保し得る形状物であればよい。
【0044】
なお、本実施形態では、みそすり運動を行わす構造として2段クランクを採用したが、これに限定されず、種々の構造が採用可能である。例えば、円錐台を上下逆さまにして回転可能に支持し、この円錐台の周面の1箇所に、下端に車輪を有する車軸を取り付けて、さらに円錐台を傾倒可能にした態様でもよい。