(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ローラ本体と、前記ローラ本体の内側に配置された発熱体と、前記ローラ本体の外周に配置されたベルト体とを備え、加圧ローラとともに転写紙を挟持しながら搬送し、前記転写紙上のトナー像を加熱して定着させる加熱定着ローラであって、
表面に黒色耐熱塗膜層が設けられたプレコート金属箔を素材として、前記黒色耐熱塗膜層が内側に位置するように前記プレコート金属箔が断面C字状に成形されることにより、前記ローラ本体が構成されており、
前記黒色耐熱塗膜層の平均膜厚が2μm以上かつ10μm以下であり、前記黒色耐熱塗膜層の膜厚のバラツキが前記平均膜厚を基準として±30%以内である
ことを特徴とする加熱定着ローラ。
ローラ本体と、前記ローラ本体の内側に配置された発熱体と、前記ローラ本体の外周に配置されたベルト体とを備え、加圧ローラとともに転写紙を挟持しながら搬送し、前記転写紙上のトナー像を加熱して定着させる加熱定着ローラを製造するための加熱定着ローラの製造方法であり、
表面に黒色耐熱塗膜層が設けられたプレコート金属箔を前記黒色耐熱塗膜層が内側に位置するように断面C字状に成形することにより、ローラ本体を構成すること
を含み、
前記黒色耐熱塗膜層の平均膜厚が2μm以上かつ10μm以下であり、前記黒色耐熱塗膜層の膜厚のバラツキが前記平均膜厚を基準として±30%以内である
ことを特徴とする加熱定着ローラの製造方法。
ローラ本体と、前記ローラ本体の内側に配置された発熱体と、前記ローラ本体の外周に配置されたベルト体とを備え、加圧ローラとともに転写紙を挟持しながら搬送し、前記転写紙上のトナー像を加熱して定着させる加熱定着ローラの前記ローラ本体を構成するための加熱定着ローラ用のプレコート金属箔であって、
厚みが0.05mm以上かつ0.2mm以下のフェライト系ステンレス鋼箔と、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の表面に予め形成された黒色耐熱塗膜と
を備え、
前記黒色耐熱塗膜層の平均膜厚が2μm以上かつ10μm以下であり、前記黒色耐熱塗膜層の膜厚のバラツキが前記平均膜厚を基準として±30%以内であり、
前記黒色耐熱塗膜層が内側に位置するように断面C字状に成形されることで、前記ローラ本体が構成される
ことを特徴とする加熱定着ローラ用のプレコート金属箔。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態
図1は本発明の実施の形態による加熱定着ローラを含む熱定着装置1を示す構成図であり、
図2は
図1の加熱定着ローラを示す斜視図である。熱定着装置1は、例えば電子写真複写機等の画像形成装置に含まれるものであり、例えばコピー用紙等の転写紙2にトナー像を定着させるためのものである。
【0013】
図1に示すように、熱定着装置1は、加熱定着ローラ3と加圧ローラ4とを含んでいる。加熱定着ローラ3及び加圧ローラ4は、互いに接触するように配置されており、転写紙2を挟持しながら搬送する。
【0014】
図1及び
図2に示すように、加熱定着ローラ3は、ローラ本体30、定着パッド31、発熱体32及びベルト体33を備えている。ローラ本体30は、表面に黒色耐熱塗膜層30aが設けられたプレコート金属箔を素材とするものであり、黒色耐熱塗膜層30aが内側に位置するようにプレコート金属箔が断面C字状に成形されることにより構成されている。プレコート金属箔とは、断面C字状に成形される前に黒色耐熱塗膜層30aが表面に形成された金属箔を意味する。
【0015】
黒色耐熱塗膜層30aは、ローラ本体30の内周面のみに形成されており、ローラ本体30の外周面には形成されていない。黒色耐熱塗膜層30aがローラ本体30の外周面に形成されないのは、後述のベルト体33の摺動により外周面の黒色耐熱塗膜層が削れて粉状の塗膜屑が発生することを回避するためである。
【0016】
プレコート金属箔が断面C字状に成形された際のプレコート金属箔の端部間に形成される隙間30bには、定着パッド31が挿入されている。隙間30bの大きさは、定着パッド31の大きさに応じて変更することができる。隙間30b及び定着パッド31は、ベルト体33を介して定着パッド31が加圧ローラ4に当接するように配置されている。定着パッド31は、加圧ローラ4に当接されることでニップ部を形成する。
【0017】
発熱体32は、例えばハロゲンヒーター等により構成されるものであり、ローラ本体30の内側に配置されている。ベルト体33は、ローラ本体30の外周に配置された無端状部材である。発熱体32からの熱は、ローラ本体30を介してベルト体33に伝えられる。上述した黒色耐熱塗膜層30aは、発熱体32からの輻射熱の吸収効率を向上させるためのものである。転写紙2上のトナー像は、転写紙2が加熱定着ローラ3及び加圧ローラ4により挟持されながら搬送されるときに、ベルト体33の熱により加熱されて定着される。
【0018】
以下、ローラ本体30を構成するプレコート金属箔及び黒色耐熱塗膜層30aについて、より詳細に説明する。
【0019】
〔塗装原板〕
本実施の形態のプレコート金属箔は、厚みが0.05mm以上かつ0.2mm以下のフェライト系ステンレス鋼箔を塗装原板としている。
【0020】
塗装原板として、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム又は鋼(普通鋼)を用いることも考えられる。しかしながら、フェライト系ステンレス鋼の熱膨張係数が9.0×10
−6/℃であるのに対し、オーステナイト系ステンレス鋼及びアルミニウムの熱膨張係数が17.3×10
−6/℃及び23×10
−6/℃と高いため、熱膨張の観点からフェライト系ステンレス鋼を用いることが好ましい。また、鋼は熱膨張係数が11.7×10
−6/℃であることから熱膨張を適度に抑えることができるが、鉄単体では錆が発生するため、防錆のための表面処理が必要となる。すなわち、塗装原板としてフェライト系ステンレス鋼箔を用いることで、熱膨張を適度に抑えつつ、防錆のための表面処理を不要にすることができる。
【0021】
上記フェライト系ステンレス鋼箔の厚みが0.05mm以上かつ0.2mm以下である理由は、以下の通りである。すなわち、厚みが0.05mm未満であると、断面C字状にプレス成形加工したときに、強度不足から形状が保てなくなる。厚みが0.2mmを超えた場合は、プレス成形加工後の強度が著しく向上することもなく、コストアップの原因になる。また、厚みが0.2mmを超えた場合、加熱定着ローラの外面における所定温度の到達時間は長くなり、好ましくない。
【0022】
上記フェライト系ステンレス鋼箔は、10.5〜35.0質量%のクロムを含有する。このようなフェライト系ステンレス鋼箔の例には、SUH409、SUH21、SUS410、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1及びSUS447J1が含まれる。上記フェライト系ステンレス鋼箔は、塗膜の密着性をより高める観点から、表面仕上げが施されていてもよい。このような表面仕上げの例には、No.2B、No.2D、BA、No.4、HLおよびNo.8が含まれる。
【0023】
上記フェライト系ステンレス鋼箔は、塗膜の密着性を高める観点から、酸素親和力の強い元素をさらに含有することが好ましいことがある。酸素親和力の強い元素とは、ステンレス鋼箔に含まれるクロム以外の金属元素であって、酸化されることによって、水酸化物や酸化物などによる不動態を形成しうる元素である。酸素親和力の強い元素の例には、Mn、SiおよびAlが含まれる。ステンレス鋼板中における酸素親和力の強い元素の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1〜3質量%である。
【0024】
〔塗装原板の前処理及び化成処理〕
フェライト系ステンレス鋼箔は、塗膜密着性を改善するため脱脂される。脱脂方法は、特段の制約を受けることなく、定法に従って弱アルカリ又は中性の脱脂液を用い、浸漬、スプレー等でフェライト系ステンレス鋼箔の表面を清浄化する。次いで、必要に応じて酸洗、リン酸塩処理等を施すことで、フェライト系ステンレス鋼箔表面の濡れ性を向上させることができる。
【0025】
表面清浄されたフェライト系ステンレス鋼箔は、塗装に先立って化成処理され、塗膜密着性の改善に有効な化成皮膜がフェライト系ステンレス鋼箔の表面に形成される。化成処理には、クロムフリー化成処理が用いられる。クロメート化成処理を用いることも可能であるが、6価クロムの溶出による環境汚染を防ぐためには、クロムフリー化成処理の方が好ましい。
【0026】
クロムフリー化成処理液は特に限定されないが、例えばシランカップリング剤と有機樹脂を含む水系処理液(水溶液)を用いることができる。化成処理液は、芳香環を有するジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物またはポリカルボジイミド化合物が配合されていてもよい。また、化成処理液の溶媒としては、水に加えて、少量のアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤などを併用してもよい。
【0027】
化成処理液の固形分濃度は、0.1質量%以上かつ40質量%以下であることが好ましい。固形分濃度が、0.1質量%未満の場合、化成処理皮膜が機能しないおそれがある。一方、固形分濃度が40質量%超の場合、化成処理液の貯蔵安定性が低下するおそれがある。また、化成処理液のpHは、3〜12の範囲内に調整されることが好ましい。
【0028】
調製した化成処理液(pH=3〜12)を、ロールコート法、スプレー法などにより、ステンレス鋼箔の表面に塗布し、水洗することなく常温で乾燥させる。前述のように、常温で乾燥させることで化成処理皮膜を形成することも可能であるが、連続操業を考慮すると50℃以上の温度で乾燥時間を短縮することが好ましい。ただし、乾燥温度が200℃超の場合、化成処理皮膜に含まれている有機成分が熱分解するおそれがあるため好ましくない。
【0029】
〔黒色耐熱塗膜層〕
黒色耐熱塗膜層30aは、一次平均粒子径が20nm以上かつ50nm以下の黒色顔料を耐熱樹脂に配合した塗料により構成されている。黒色顔料としては、カーボンブラック、Fe−Mn−Cu系焼成顔料、Cu−Cr(III)系焼成顔料等の様々な顔料を用いることができるが、分散性に優れるカーボンブラックを用いることが好ましい。ベースとなる耐熱樹脂としては、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の少なくとも一種の耐熱樹脂が使用できる。黒色顔料の一次平均粒子径が20nm未満の場合には、吸油量が大きくなるため耐熱塗料との分散性が悪く、黒色耐熱塗料の生産性が劣ってしまう。また、黒色顔料の一次平均粒子径が50nmを超える場合は、黒色顔料の比表面積が小さくなることから、輻射熱吸収性が劣ってしまう。
【0030】
黒色顔料の配合量は、耐熱樹脂塗料の固形分に対し、5.0質量%以上かつ15質量%以下が好ましい。5.0質量%未満であると、ハロゲンランプからの輻射熱の吸収効率が悪くなる。15質量%を超える場合は、耐熱塗料との分散性が悪くなり、黒色耐熱塗料の生産ができなくなり、塗料の粘度が高くなり、塗装が困難となる。
【0031】
黒色顔料および溶剤を所定組成に調合した黒色耐熱塗料の塗料粘度は、50〜400秒の範囲内であることが好ましい。本明細書において「塗料粘度」とは、JIS K5400−4.5に準拠して、20℃の環境下でNo.4フォードカップを用いて測定される塗料のフォードカップ粘度(秒)を意味する。
【0032】
溶剤希釈によりフォードカップ粘度を50秒未満に調整した場合、塗布量が高くなり、塗膜欠陥となるワキが発生しやすくなる。また、ロールコート法で塗料を塗布する場合は、ピックアップロールでの塗料の持ち上げ不足により鋼板への塗料の付着量が不足してしまうおそれもある。さらに、オーブン内での溶剤揮発量がオーブン排気量を越えてしまい、オーブンが爆発するおそれもある。一方、塗料粘度が400秒超の場合、塗料を塗布する際に塗料の塗布量を高い精度で制御することが困難となり、焼付け乾燥後の塗膜厚みのバラツキが大きくなるおそれがある。塗料粘度は、塗料中の溶剤の量を調整することで調整されうる。
【0033】
塗料はプレコート鋼板の製造に通常使用されているロールコート、フローコート、カーテンフロー等の方法でステンレス鋼箔に塗布され、到達板温320〜400℃となるように、50〜120秒で焼き付けられる。
【0034】
黒色耐熱塗料の平均膜厚は、焼き付け後の乾燥膜厚で2μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。平均膜厚2μm未満であると、隠蔽性が低下することから輻射熱吸収性が劣ってしまい、逆に10μmを超えても輻射熱吸収性が飽和することからコストアップに繋がるだけである。また、10μmを超えた場合は、耐熱樹脂の熱伝導率が0.29〜0.38W/m.Kと低いことから、加熱定着ローラ3の外面の温度が所定温度に到達する時間が長くなり好ましくない。
【0035】
また、周長および長手方向に相当する部位において、黒色耐熱塗料は、その膜厚のバラツキが平均膜厚を基準として±30%以内に収まるように均一塗装される。黒色耐熱塗料の膜厚のバラツキが±30%を超えた場合、トナー像の定着性にバラツキが発生するため好ましくない。
【0036】
以下、本発明について実施例を挙げる。しかしながら、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0037】
供試ステンレス鋼箔として、板厚0.1mmのSUS430(BA仕上げ)を準備した。ステンレス鋼箔をアルカリ脱脂(pH8、液温60℃、浸漬時間1分間)により洗浄し、水洗、乾燥の工程を経て化成処理を行った。
【0038】
クロムフリー化成処理液は、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシランおよびカチオン性ウレタン樹脂の混合物(質量比6:4)を水に配合して、固形分濃度が5質量%の化成処理液を調製した。
【0039】
カチオン性ウレタン樹脂は、以下の手順で調製した。ポリエーテルポリオール160質量部、トリメチロールプロパン5質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン25質量部、イソホロンジイソシアナート95質量部およびメチルエチルケトン130質量部を反応容器に入れ、75℃で30分間加熱してウレタンプレポリマーを得た。次いで、ウレタンプレポリマーに硫酸ジメチル18質量部を配合し、55℃で40分間加熱して、カチオン性ウレタンプレポリマーを得た。次いで、カチオン性ウレタンプレポリマーに、水600質量部を加えて、均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して、カチオン性ウレタン樹脂を調製した。次いで、ステンレス鋼箔の表面に、調製した化成処理液をロールコート法で塗布し、110℃で乾燥させて、皮膜付着量が120mg/m
2のクロメートフリー化成処理皮膜を形成した。
【0040】
化成処理されたステンレス鋼箔の表面に、ポリエーテルサルフォン樹脂塗料として、ポリエーテルサルフォン樹脂粉末(スミカエクセル5003P;住友化学工業製)を、N−メチル-2−ピロリドンとトルエンを重量比で2:1に混合した溶剤で溶解し、ポリエーテルサルフォン樹脂の固形分が18%の塗料に黒色顔料として一次粒子径が30nmのカーボンブラックを5〜15質量%配合して黒色耐熱塗料を得た。次いで、黒色耐熱塗料をロールコート法にて均一塗布し、到達板温360℃で60秒間焼き付けて、プレコートステンレス鋼箔を得た。塗料のロールコート条件としては、3本ロールコーターを用い、アプリケーターロールとバックアップロールとの間をリバース回転とし、周速比とロール間ギャップとを調節し、目標塗布量となるように、塗布量を制御した。そして、プレコートステンレス鋼箔を所定の大きさに切り出して、下記に示す塗膜厚み測定、耐熱試験及び昇温試験に発明例として用いた。
【0041】
一方、ステンレス鋼箔を断面C字状に成形した後に、その成形部材の内にノズルを用いて塗料を塗布して、到達板温360℃で60秒間焼き付けることにより得たローラ本体(ポストコートローラ本体)についても、比較例1として塗膜厚み測定等に用いた。また、塗膜を形成しないステンレス鋼箔についても、比較例2として塗膜厚み測定等に用いた。塗膜厚み測定、耐熱試験及び昇温試験の結果を下記の表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
<塗膜厚み測定>
塗膜厚みは、以下の方法にて測定した。すなわち、加熱定着ローラ3の長手方向の長さに相当する300mmの巾を有する塗装ステンレス鋼箔から、10mm巾のサンプリング片を切り出した。サンプリング片の切り出しは、塗装ステンレス鋼箔の巾方向に均等の間隔を置いた10箇所にて行った。そして、サンプリング片をエポキシ系硬化樹脂に埋め込み、板厚方向に沿う断面の平滑研磨を行い、光学顕微鏡にて倍率1000倍で研磨面を観察することにより、塗膜厚みを測定した。比較例についても同じ方法にて測定を行った。
【0044】
表1において発明例として示すように、プレコートステンレス鋼箔の場合には、平均膜厚を基準とした塗膜のバラツキを±30%以内に収めることができた。一方で、比較例1として示すポストコートローラ本体では、塗膜のバラツキが±30%以内に収まらなかった。
【0045】
<耐熱試験>
得られたプレコートステンレス鋼箔から300mm×50mmのサンプリング片を得て、該サンプリング片を300℃で250時間連続加熱した。その後に、JIS K5400の碁盤目テープ試験に準拠して、切り傷の間隔1mmの100個の碁盤目を作り、碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の塗膜残存数を確認した。
【0046】
表1では、碁盤目の塗膜残存数が100〜95の場合を○で示し、塗膜残存数が94〜50の場合を△で示し、塗膜残存数が50未満の場合を×で示している。塗膜残存数が100〜95の場合は、耐熱性良好と考えられる。塗膜残存数が94〜50の場合は、耐熱性が劣り輻射熱吸収性を長期間保持できないと考えられる。塗膜残存数が50未満の場合は、耐熱性が劣り輻射熱吸収性が劣ると考えられる。
【0047】
表1に示すように、いずれの発明例においても、耐熱性良好と評価することができた。一方、比較例1では、塗膜のバラツキが大きいことに起因して、耐熱試験の評価が×又は△となる場合があった。
【0048】
<昇温試験>
得られたプレコートステンレス鋼箔を所定の大きさに切り出した後に、プレス加工により断面C字状に成形してローラ本体30(発明例)を構成した。このとき、黒色耐熱塗膜層30aは、ローラ本体30の内周面のみに形成されており、ローラ本体30の外周面には形成されていない。そして、ローラ本体30の内側に発熱体32としてハロゲンヒーター(タングステンフィラメント放射近赤外線型)を配置するとともに、ローラ本体30の外面に熱電対を取付けて外面温度を測定できるようにした。ハロゲンヒーターは、ローラ本体30の両端に取り付けたテフロン(登録商標)製治具により支持して、ローラ本体30の径方向の中心部に配置した。
【0049】
同様に、ポストコートローラ本体(比較例1)及び塗膜のないステンレス鋼箔のみのロール本体(比較例2)においても内側にハロゲンヒーターを配置するとともに、外面に熱電対を取り付けて外面温度を測定できるようにした。
【0050】
そして、ハロゲンヒーターの電圧(100V)投入から150℃に達するまでに要した時間と、20ms間隔で温度を計測する昇温試験を行った。150℃に到達するまでに要した時間が5秒以下の場合を昇温特性に優れていると評価した。なお、昇温試験時の初期外面温度は23℃であった。
【0051】
表1に示すように、プレコートステンレス鋼箔を用いた発明例では、150℃に到達するまでに要した時間が5秒以下であり、昇温特性に優れていると評価できた。一方、比較例1として示すポストコートローラ本体では、150℃に到達するまでに要した時間が5秒を超えており、昇温特性が劣っていた。このことから、塗膜の膜厚のバラツキが小さい発明例の優位性を確認することができた。なお、比較例2として示す塗膜が形成されていないローラ本体では、150℃に到達するまでに要した時間が9秒以上であり、昇温特性が著しく劣っていた。
【0052】
供試ステンレス鋼箔として、板厚0.05mmおよび0.2mmのSUS430、SUH409、SUH21、SUS410、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1及びSUS447J1の薄材を用いて、板厚を除いて同様の試験を行った結果、何れも耐熱試験結果は○であるとともに、昇温試験において150℃に到達するまでに要した時間が5秒以下であった。すなわち、これらの薄材であっても、良好な結果を得ることができた。
【0053】
供試塗膜中のカーボンブラック(黒色顔料)の一次平均粒子径を20nmおよび50nmに変更して同様の試験を行ったが、耐熱試験結果は○であるとともに、150℃に到達するまでに要した時間が5秒以下であった。
一方、カーボンブラックの一次平均粒子径を10nmに変更した場合、塗料分散性が悪くなり、塗料化が困難であったため、実施に至らなかった。また、カーボンブラックの一次平均粒子径を100nm、300nm及び500nmに変更した場合、昇温試験において150℃に到達するまでに要した時間が5秒超となり、昇温特性が劣っていた。また、カーボンブラックの代わりに、Fe−Mn−Cu系焼成顔料を用い、一次平均粒子径200nm及び50nmについて同様の試験を行ったところ、耐熱性試験結果は○であった。
すなわち、黒色耐熱塗膜層30aを構成する塗料における黒色顔料の一次平均粒子径が20nm以上かつ50nm以下であることの優位性が確認された。
【0054】
また、黒色顔料として、一次平均粒子径が100nm、300nm及び1μmのFe−Cr系黒色顔料を適用した場合、昇温試験の150℃到達時間は5秒超となり、昇温特性が劣っていた。すなわち、一次平均粒子径が50nmを超える黒色顔料を用いた場合、昇温試験結果が劣ることが確認された。このことからも、黒色耐熱塗膜層30aを構成する塗料における黒色顔料の一次平均粒子径が20nm以上かつ50nm以下であることの優位性が確認された。