【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成24年11月19日 刊行物 SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第21回講演会予稿集 第45頁 公益社団法人応用物理学会発行 〔刊行物等〕 開催日 平成24年11月19日 集会名、開催場所 SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第21回講演会 大阪市中央公会堂(大阪府大阪市)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究費及び平成23年、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究費、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、本実施形態における圧力単位はゲージ圧である。
【0016】
[炭化珪素単結晶の製造]
本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、
図1及び
図2に示す炭化珪素結晶成長装置を用いて炭化珪素単結晶を製造するものであり、原料及び装置内に設置してある断熱構造材に含まれる不純物を除去する脱ガス工程、表面研磨した炭化珪素種結晶表面に残留している加工変質層を除去するメルトバック工程、及び、炭化珪素単結晶を成長させる成長工程の3工程からなる。
【0017】
(結晶成長装置の概要)
図1及び
図2は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法で用いる結晶成長装置の全体構造を示す要部断面図であり、それぞれ上記成長工程及び上記脱ガス工程における結晶成長装置の状態を示している。
【0018】
図1に示す炭化珪素結晶成長装置は、溶液2が充填された黒鉛製原料容器1及びそれを支持する黒鉛製容器支持体8を備え、黒鉛製種結晶支持体4の下方端面に保持された炭化珪素種結晶3を溶液2に浸漬し、黒鉛製ヒーター6で加熱することによって、炭化珪素成長結晶5を形成する装置である。また、これらの周りは、保温のために、断熱構造材7で覆われており、さらに全体が、不活性ガス導入口9及びガス排気口10を備える密閉容器本体11に収容されている。さらに、密閉容器本体11の外部には、黒鉛製原料容器1等の温度を測定するための放射温度計12、並びに、電極15に接続された直流電圧印加電源14及び電流計13が備えられている。
【0019】
本実施形態においては、黒鉛製原料容器1を用いているが、他の材料からなる容器を用いてもよい。他の材料とは、成長工程における1700℃以上の加熱に耐え得る材料であれば特に制限されず、溶液2に炭素を供給できる黒鉛以外の材料でもよく、溶液2に炭素を供給しない材料であってもよい。溶液2に炭素を供給しない材料からなる容器を用いる場合には、黒鉛、炭化珪素、金属炭化物等の固体の炭素源を容器に投入する、又は、CH
4等の炭化水素ガスを、溶液2に吹き込む若しくは雰囲気ガスに混入させることによって、溶液2に炭素を供給することができる。
【0020】
溶液2は、少なくともSiとCを含んでいれば特に制限はなく、SiとCの他には例えば、アルカリ金属元素;アルカリ土類金属;Ti、Cr、Ni等の遷移金属元素;Sc、Y等の希土類元素を含んでいてもよい。その中でも、溶液2は、Si−C溶液、Si−C−Ti溶液及びSi−C−Cr溶液であることが好ましい。ここで、Si−C溶液、Si−C−Ti溶液及びSi−C−Cr溶液におけるCの少なくとも一部は、黒鉛製原料容器1から溶液2に溶解させたものである。
【0021】
炭化珪素種結晶3は、例えば昇華法により作製されたものであり、表面研磨されているものであることが好ましい。炭化珪素種結晶3の形状は、円盤形状、六角形平板形状、四角形平板等の板状でも、立方体状でもよいが、板状が好ましい。また、その大きさは、どのような大きさでもよく、例えば円盤形状であれば、直径0.1cm以上が好ましく、0.5cm以上がより好ましく、1cm以上が更に好ましい。直径の好ましい上限は特に制限されるものでなく、結晶成長装置の容量に合わせて調整すればよく、例えば10cmでも構わない。
【0022】
炭化珪素種結晶3の結晶構造は、目的とする炭化珪素成長結晶5の種類に合わせて適宜選択でき、例えば2H型、3C型、4H型、6H型等を用いることができる。4H型の炭化珪素成長結晶5を得ようとする場合には、4H型の炭化珪素種結晶3を用いることが好ましい。
【0023】
また、炭化珪素種結晶3の成長面、つまり、溶液2と向かい合う面は、本実施形態においては(000−1)面であるが、目的に応じてその他の結晶面を成長面とすることもできる。また、例えば(000−1)面を成長面とするときには、(000−1)面と成長面とを完全に一致させて(以下、この状態を「(000−1)カーボン面ジャスト」という)もよいし、(000−1)面からわずかにずれた面を成長面としてもよい。
【0024】
黒鉛製ヒーター6には、抵抗加熱方式の加熱装置を用いている。抵抗加熱方式で黒鉛製原料容器1を加熱する方法の別の実施態様として、黒鉛製原料容器1と直流電圧印加電源14とを電気的に接続し、黒鉛製原料容器1に直接電流を供給して、抵抗熱を発生させる方式が考えられる。ただしこの場合、黒鉛製原料容器1を介して溶液2に大電流が流れ、その電流により溶液2の対流が阻害される懸念がある。したがって、
図1及び
図2に示すように、黒鉛製原料容器1の周囲に配置した黒鉛製ヒーター6により加熱することが好ましい。
【0025】
また、黒鉛製ヒーター6の熱により、黒鉛製種結晶支持体4が過剰に加熱され、黒鉛製種結晶支持体4の炭化珪素種結晶3を保持している面、及び炭化珪素種結晶3の温度が溶液2の温度よりも高くなることを抑制する観点から、
図1及び
図2に示すように、黒鉛製ヒーター6の内面と黒鉛製種結晶支持体4が対向する領域では、それらの間に黒鉛製原料容器1を介在させることが好ましい。
【0026】
(脱ガス工程)
図2を適宜参照しながら、本実施形態における脱ガス工程について説明する。
【0027】
まず、黒鉛製原料容器1に溶液2の原料を充填し、黒鉛製種結晶支持体4の下方端面に保持された炭化珪素種結晶3を、溶液2の液面から上方に離して配置する。次いで、密閉容器本体11内を真空引きした後、真空排気を続けながら昇温する。ここでの真空度及び温度は、特に制限されないが、原料及び断熱構造材に含まれる不純物を除去できる程度、例えば、それぞれ−100kPa以下及び1050℃程度である。
【0028】
その後、成長雰囲気ガスを導入し、密閉容器本体11内の圧力を例えば5kPa程度、成長雰囲気ガス流量を例えば10L/min程度とし、昇温する。成長雰囲気ガスは、特に制限はないが、炭化珪素結晶及び溶液の酸化を防止するために、He、Ne、Ar等の不活性ガスであることが好ましい。又は、該不活性ガスにN
2、H
2、CH
4等のガスを混合させたものを成長雰囲気ガスとして用いてもよい。また、ここでの昇温によって、黒鉛製原料容器1内の溶液2の原料が融解し溶液化することが好ましく、例えば1800℃程度まで昇温する。
【0029】
さらに、電極−装置(容器支持体)間の電流経路16のように、電極15と黒鉛製原料容器1の間に一定の電圧をかけて電流を流し、その電流が例えば0.2mA程度まで低下しきるまで上記の温度を保持し続ける。
【0030】
以上の工程によって、原料及び断熱構造材に含まれる不純物を除去することができる。
【0031】
(メルトバック工程)
上記脱ガス工程に続いて、密閉容器本体11内の圧力を成長圧力まで昇圧し、例えば1950℃程度まで昇温する。成長圧力は、溶液2の蒸発を抑制する観点から、0.1MPa以上であることが好ましく、例えば0.8MPa程度である。
【0032】
次いで、黒鉛製種結晶支持体4及び炭化珪素種結晶3を、溶液2表面に向けてゆっくり降下させ、炭化珪素種結晶3の下方表面が溶液2に接触するところで降下を停止し、すぐにその位置から上昇させ、炭化珪素種結晶3は溶液2に浸漬するが、黒鉛製種結晶支持体4は溶液2に浸漬しない位置で保持する。
【0033】
黒鉛製種結晶支持体4が溶液2に浸漬していると、以下のような弊害が生じる可能性がある。すなわち、結晶成長時に、表面張力により溶液2が黒鉛製種結晶支持体4の側面に這い上がり、メニスカスを形成する。そしてメニスカスが形成された領域では、溶液2の体積が小さくなるので、溶液2の温度が局所的に急激に冷やされて結晶が形成される。黒鉛製種結晶支持体4の側面に結晶が形成されると、それが炭化珪素成長結晶5上に回り込み、結晶成長を阻害する。また、この現象により形成される結晶は多結晶となる可能性があり好ましくない。
【0034】
したがって、黒鉛製種結晶支持体4が溶液2に浸漬しないように、上述のとおり、炭化珪素種結晶3を溶液2に接触させた後に上昇させることが好ましいが、上昇させる距離は、結晶成長時に炭化珪素種結晶3及び炭化珪素成長結晶5に形成されるメニスカスの高さが、5mm以下となるような距離であることが好ましく、3mm以下となるような距離であることがより好ましく、1mm以下となるような距離であることが更に好ましい。上昇させる距離が上記の範囲内であることによって、上述の弊害を防止しやすくなる。
【0035】
その後、成長温度まで昇温させることで、炭化珪素種結晶3の表面を含む一部が溶融される。成長温度は、溶液2の組成によって、1700〜2400℃の範囲内で最適な温度条件に設定すればよいが、1800〜2300℃であることが好ましく、1900〜2200℃であることがより好ましく、2000〜2100℃であることが更に好ましい。なお、本実施形態における成長温度は、黒鉛製原料容器1底部の下方表面の温度を意味し、放射温度計12により測定される。
【0036】
以上により、表面研磨した炭化珪素種結晶3の表面に残留している加工変質層を除去することができる。
【0037】
(成長工程)
結晶成長のメカニズムは以下のように説明される。
【0038】
炭化珪素種結晶3近傍の溶液2の熱が、炭化珪素種結晶3及び黒鉛製種結晶支持体4を介して外部に伝達されるので、炭化珪素種結晶3近傍の溶液2の温度が低下する。このため、炭化珪素種結晶3近傍の溶液2内には温度勾配が生じる。そして、温度が低い領域では、溶液2中の炭素が過飽和状態となるため、炭化珪素種結晶3の表面に炭化珪素成長結晶5が析出する。
【0039】
ここで、本願明細書における温度勾配とは、より具体的には、黒鉛製原料容器1底部の下方表面(「点A」とする)における温度をT
A(℃)、融液表面(「点B」とする)における温度をT
B(℃)として、以下のように定義される。
温度勾配(℃/cm)=(T
A−T
B)/(点A−B間の距離(cm))
なお、上記T
A及びT
Bは、放射温度計及び熱伝対(成長中は測定しておらず別実験を行い測定)によって測定することができる。
【0040】
本実施形態において、温度勾配は、0.1〜5℃/cmであることが好ましく、0.1〜3℃/cmであることがより好ましく、0.1〜1.5℃/cmであることが更に好ましく、0.1〜1℃/cmであることが特に好ましい。温度勾配を上記範囲内にすることによって、得られる炭化珪素成長結晶5における転位密度の減少度を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態においては、温度勾配は例えばヒーターの上下出力比を変えることによって制御することができる。
【0042】
溶液2に浸漬した炭化珪素種結晶3を、例えば50μm/h程度の速度で上方に引き上げながら、必要な炭化珪素成長結晶5の厚さに応じた時間だけ、炭化珪素種結晶3上に炭化珪素成長結晶5を形成し、その後、炭化珪素種結晶3を溶液2から引き上げる。以上により、炭化珪素単結晶が得られる。
【0043】
[炭化珪素単結晶]
本実施形態の炭化珪素単結晶は、インゴット状又はウエハ状の4H型炭化珪素単結晶である。インゴット状の炭化珪素単結晶は、上述の製造法により得られる円柱状の炭化珪素成長結晶5を炭化珪素種結晶3から切り離すことにより得ることができる。炭化珪素種結晶3から炭化珪素成長結晶5を切り離す際には、炭化珪素種結晶3と炭化珪素成長結晶5との界面から炭化珪素成長結晶5側に例えば約0.3mmの位置で切り離すことができる。また、ウエハ状の炭化珪素単結晶は、得られるインゴット状の炭化珪素単結晶を、所望の厚さにスライスすることにより得ることができる。
【0044】
本実施形態の炭化珪素単結晶は、溶液2を用いて製造されているので、溶液2に含まれるアルカリ金属元素;アルカリ土類金属;Ti、Cr、Ni等の遷移金属元素;Sc、Y等の希土類元素を不純物として含んでいてもよい。例えば、炭化珪素単結晶がこれらの金属を含む場合のその濃度は、1.0×10
15〜1.0×10
19(cm
−3)となる。
【0045】
本実施形態の炭化珪素単結晶の直径は、0.1cm以上が好ましく、0.5cm以上がより好ましく、1cm以上が更に好ましい。直径の好ましい上限は特に制限されるものでなく、例えば10cmとすることができる。
【0046】
[炭化珪素単結晶の転位密度評価]
得られた炭化珪素単結晶の転位密度測定方法を、
図3を参照しながら説明する。
【0047】
図3は、転位密度測定をする際の、炭化珪素単結晶の模式図である。
図3においては、炭化珪素種結晶3上に得られた炭化珪素成長結晶5があり、炭化珪素種結晶3及び炭化珪素成長結晶5の(0001)面に対して微傾斜をつけて研磨された研磨面17が表されている。
【0048】
図3のように研磨加工された炭化珪素種結晶3及び炭化珪素成長結晶5を、溶融アルカリに浸漬することにより、研磨面上にエッチピットが形成される。溶融させるアルカリとしては、NaOH、KOH、KCl等のアルカリ金属の水酸化物又は塩を、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
形成されたエッチピットの形状から、転位の種類を判断し、各種転位密度を計測することができる。エッチピットについては、大別して、半球状の窪みとして現れるものと、流星状の窪みとして現れるものの2種類がある。前者が貫通転位、後者が基底面転位に該当する。また、結晶中の電子キャリア濃度が10
−18cm
−3以下の場合に限り、半球状の窪みのうち一部が六角錐状の窪みとして現れるようになる。この場合には、半球状の窪みが貫通刃状転位、六角錐状の窪みが貫通螺旋転位と同定でき、貫通転位の種類を判別することが可能となる。なお、上記では、炭化珪素種結晶3から炭化珪素成長結晶5が切り離される前の状態での転位密度の評価方法について説明したが、もちろん炭化珪素成長結晶5単独の場合でも同様にして転位密度を評価することができる。
【0050】
本実施形態の炭化珪素単結晶は、<0001>又は<000−1>方向における単結晶の厚さをX(単位:mm)、該厚さの位置における貫通転位密度をY
TD(X)(単位:cm
−2)としたときに、Xが0である位置における貫通転位密度Y
TD(0)、Xの最大値X
max、及びXがX
maxである位置における貫通転位密度Y
TD(X
max)が、下記式(1)及び(2)を満たす。
Y
TD(X
max)=Y
TD(0)・exp(α・X
max) ・・・(1)
−0.94≦α≦−0.19 ・・・(2)
【0051】
上記式(1)及び(2)において、αは、−0.86以上であることが好ましく、−0.78以上であることがより好ましく、−0.70以上であることが更に好ましい。また、αは、−0.27以下であることが好ましく、−0.35以下であることがより好ましく、−0.43以下であることが更に好ましい。
【0052】
また、本実施形態の炭化珪素単結晶は、<0001>又は<000−1>方向における単結晶の厚さをX(単位:mm)、該厚さの位置における基底面転位密度をY
BPD(X)(単位:cm
−2)としたときに、Xが0である位置における基底面転位密度Y
BPD(0)、Xの最大値X
max、及びXがX
maxである位置における基底面転位密度Y
BPD(X
max)が、下記式(3)及び(4)を満たす。
Y
BPD(X
max)=Y
BPD(0)・exp(β・X
max) ・・・(3)
−1.29≦β≦0.38 ・・・(4)
【0053】
上記式(3)及び(4)において、βは、−1.27以上であることが好ましく、−1.25以上であることがより好ましく、−1.23以上であることが更に好ましい。また、βは、0.36以下であることが好ましく、0.34以下であることがより好ましく、0.32以下であることが更に好ましい。
【0054】
また、本実施形態の炭化珪素単結晶は、<0001>又は<000−1>方向における単結晶の厚さをX(単位:mm)、該厚さの位置における総転位密度をY
TOTAL(X)(単位:cm
−2)としたときに、Xが0である位置における総転位密度Y
TOTAL(0)、Xの最大値X
max、及びXがX
maxである位置における総転位密度Y
TOTAL(X
max)が、下記式(5)及び(6)を満たす。
Y
TOTAL(X
max)=Y
TOTAL(0)・exp(γ・X
max) ・・・(5)
−0.81≦γ≦−0.14 ・・・(6)
【0055】
上記式(5)及び(6)において、γは、−0.73以上であることが好ましく、−0.65以上であることがより好ましく、−0.57以上であることが更に好ましい。また、γは、−0.26以下であることが好ましく、−0.30以下であることがより好ましく、−0.38以下であることが更に好ましい。
【0056】
ここで、
図4を参照しながら、上記のX、並びにY
TD、Y
BPD及びY
TOTALについて、具体例を説明する。
【0057】
図4は、転位密度測定をする対象となる炭化珪素単結晶の模式図である。
図4の炭化珪素成長結晶5は円柱状の単結晶であり、矢印によって成長方向が示されている。すなわち、
図4の炭化珪素成長結晶5は、下方から上方の方向に成長した結晶である。
図4の矢印の下端が、Xが0mmの位置であり、その位置での炭化珪素成長結晶5の貫通転位密度をY
TD(0)cm
−2とする。また、矢印の上端が、Xが最大となる位置(この位置を「X
max」mmとする)であり、その位置での炭化珪素成長結晶5の転位密度をY
TD(X
max)cm
−2である。基底面転位密度及び総転位密度についても、貫通転位密度と同様である。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
[炭化珪素単結晶の作製]
図1に示す炭化珪素結晶成長装置を用いて、炭化珪素単結晶を成長させた。工程は、原料及び炉内に設置してある断熱材に含まれる不純物の脱ガス工程、表面研磨した種結晶表面に残留している加工変質層を除去するメルトバック工程、及び、炭化珪素単結晶を成長させる成長工程の3工程からなる。以下、用いた圧力単位はゲージ圧である。また、実施例中の温度は、黒鉛製原料容器底の温度であり、放射温度計により測定した。
【0059】
<脱ガス工程>
成長雰囲気ガスとしてHeガスを用いた。溶液原料としてSi、Ti及びCを使用し、これらのうちCを除く原料(Si:Ti=80:20のモル比で総重量233g)を黒鉛製原料容器(円筒型るつぼ、内径50mm、外径70mm、高さ100mm)に充填した。Cは結晶成長中に黒鉛製原料容器から溶液内に供給される。この黒鉛製原料容器を結晶成長装置内に設置し、黒鉛製種結晶支持体の下方端面に存在する炭化珪素種結晶(円盤形状、直径22mm、厚さ0.5mm、成長面:(000−1)カーボン面ジャスト)を溶液液面から14.5cm上方に保持した。この状態で、装置内を−100kPa以下まで真空引きした後、真空排気しながら1050℃まで昇温した。
【0060】
その後、Heガスを装置内に導入し、装置内圧力を5kPa、ガス流量を10L/minとし、1800℃まで昇温後保持した。この昇温過程で黒鉛製原料容器内の溶液原料は融解し溶液化する。
図2に示すように、電極と黒鉛製原料容器間に一定の電圧をかけて電流を流し、その電流値が0.2mAに低下しきるまで、この温度を保持し続けた。
【0061】
<メルトバック工程>
この後、成長圧力である800kPaまで昇圧、1950℃まで昇温し、種結晶を溶液液面に向けてゆっくり下降させ、種結晶表面が溶液にちょうど接触するところで下降を停止し、すぐに、その種結晶位置から1mm上方に種結晶を移動させた。この種結晶位置で、成長温度である2050℃まで昇温させることで、種結晶表面を含む種結晶の一部を溶融させた。1950℃から2050℃への昇温にともなう黒鉛製種結晶支持体の熱膨張を考慮すると、成長温度2050℃における種結晶表面と液面間の距離は1mm程度と見積もられる(メニスカス高さ:1mm)。
【0062】
<成長工程>
その後、種結晶を50μm/hの速度で上方に引き上げることで成長を開始した。成長中は、種結晶近傍の温度勾配を0.75℃/cm、ガス流量を0.5L/minとした。また、種結晶と原料容器は互いに逆方向に回転させており、種結晶の回転数を24rpm、原料容器の回転数を8rpmとした。種結晶を溶液に24時間浸漬した後、溶液から引き上げた。得られた単結晶(結晶A)の成長厚さは1.1mmであった。上記の成長条件をまとめて表1に示す。
【0063】
[転位密度の測定]
結晶Aの転位密度を調べる目的で、溶融アルカリエッチング法を用いて各種転位に対応したエッチピットの密度を測定した。試料については、
図3に示すように(0001)成長面に対し微傾斜をつけて種結晶側から結晶トップに向かって研磨加工したものを用いた。溶融アルカリエッチング処理は、ニッケル製のるつぼにNaOH、KOH及びKClを、NaOH:KOH:KCl=1:1:1のモル比で入れ、500℃にて加熱溶融させた後、単結晶試料をこの融液に5〜10分間浸けることにより、研磨面上にエッチピットを形成させた。エッチピットの形状から転位の種類を判断し、各種転位密度を計測した。貫通転位密度、基底面転位密度及び総転位密度に対応するエッチピットの密度(EPD)を、それぞれ
図5、6及び7に示す。なお、
図5〜7においては、縦軸を対数スケールで表示している。
【0064】
図5、6及び7において、実施例1〜4の各プロットを最小二乗法により直線で近似した。すなわち、各転位密度yと成長距離xとを、下記式(7)で近似したことになる。結晶A中の各転位について算出した下記式(7)におけるD及びδを表2に示す。
y=D・exp(δ・x) ・・・(7)
【0065】
[単結晶の評価]
結晶Aについて評価を行ったところ、その結晶構造は4H型であり、その他の多形の混入及び気泡欠陥は確認されなかった。
【0066】
(実施例2〜4)
成長条件を、表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶(結晶B、C及びD)を得た。また、実施例1と同様にして転位密度を測定した。その結果を
図5〜7に示す。また、実施例1と同様に、最小二乗法を用いた近似によって上記式(7)におけるD及びδを算出した結果を表2に示す。なお、結晶B、C及びDについて評価を行ったところ、結晶Aと同様に、その結晶構造は4H型であり、その他の多形の混入及び気泡欠陥は確認されなかった。
【0067】
(参考例1〜2)
成長条件を、表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶(結晶E及びF)を得た。また、得られた結晶の転位密度を放射光トポグラフィーによって測定した。具体的には、(000−1)成長表面に入射光を照射し(11−28)反射を測定した。測定した放射光トポグラフ像には、直径6μm程度の白い円状スポット、直径3μm程度の白い円状スポット、湾曲した曲線状の白いラインが観測され、直径6μm程度の白い円状スポットが貫通螺旋転位、直径3μm程度の白い円状スポットが貫通刃状転位、湾曲した曲線状の白いラインが基底面転位であると同定されるため、これらの転位密度を各々算出した。貫通螺旋転位と貫通刃状転位の総称を貫通転位とした。このようにして測定された結果を
図5〜7に示す。なお、結晶E及びFについて評価を行ったところ、結晶Aと同様に、その結晶構造は4H型であり、その他の多形の混入及び気泡欠陥は確認されなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】