特許第6238285号(P6238285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238285
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】石炭燃焼装置および石炭燃焼方法
(51)【国際特許分類】
   F23G 5/02 20060101AFI20171120BHJP
   F23K 1/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F23G5/02 D
   F23K1/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-224780(P2013-224780)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-194330(P2014-194330A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-36423(P2013-36423)
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人化学工学会、化学工学会第第78年会講演会、平成25年2月18日ウェブサイト掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】池田 道隆
(72)【発明者】
【氏名】白井 裕三
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 朗
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−048392(JP,A)
【文献】 特開昭63−049233(JP,A)
【文献】 特開平06−117614(JP,A)
【文献】 特開2003−214618(JP,A)
【文献】 特開2013−011377(JP,A)
【文献】 特開2007−162164(JP,A)
【文献】 特開2011−242032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/02
F23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される石炭を粉砕して微粉炭とするローラミルと、該ローラミルで粉砕した微粉炭が燃焼される火炉とを有する石炭燃焼装置であって、
前記ローラミルの上流側に配設され、前記火炉に供給される石炭に、鉄またはカルシウムを溶融させた酢酸溶液を噴霧する噴霧手段を有し、
前記噴霧手段は、前記石炭として燃料比が異なる複数種類の石炭を個別の搬送ラインを介して搬送された後、前記ローラミルで粉砕して得る混炭を用いる際に、前記各石炭の燃料比に基づき燃料比が大きい炭種の石炭を搬送する搬送ラインから順に前記噴霧を選択的に行うようにしたことを特徴とする石炭燃焼装置。
【請求項2】
請求項1に記載する石炭燃焼装置において、
前記噴霧手段は、前記石炭の燃料比に基づき燃料比が大きいものほど噴霧するか、または噴霧量が多くなるように制御されるように構成したことを特徴とする石炭燃焼装置。
【請求項3】
ローラミルで粉砕した微粉炭を火炉内に供給して燃焼させる石炭燃焼方法において、
前記ローラミルで石炭を粉砕する上流側で、鉄またはカルシウムを溶融させた酢酸溶液を前記石炭に噴霧して前記火炉内に供給し、
前記石炭として燃料比が異なる複数種類の石炭を個別の搬送ラインを介して搬送された後、前記ローラミルで粉砕して得る混炭を用いる際に、前記各石炭の燃料比に基づき燃料比が大きい炭種の石炭から順に前記噴霧を選択的に行うようにしたことを特徴とする石炭燃焼方法。
【請求項4】
請求項3に記載する石炭燃焼方法において、
前記噴霧は、前記石炭の燃料比に基づき燃料比が大きいものほど噴霧するか、または噴霧量を多くして行うようにしたことを特徴とする石炭燃焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石炭燃焼装置および石炭燃焼方法に関し、特に微粉炭を燃料とする石炭火力発電設備等に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電設備では、その多くで微粉炭が燃料として使用されている。微粉炭は、石炭をローラミルで細かく粉砕して製造し、その後火炉に搬送して燃焼させている。そして、微粉炭を火炉で燃焼させることにより生成される石炭灰はセメント等に混入されて有効利用されている。石炭中に1割程度含まれている石炭灰の再利用を図る場合、灰中未燃焼分濃度(燃え残り成分の割合)を所定値以下にすることが求められる。具体的には、灰中未燃分濃度を3%以下にする必要がある。ここで、灰中未燃分濃度を少なくするには微粉炭の燃焼性を向上させて燃え残りを少なくする必要がある。
【0003】
なお、微粉炭として炉内に吹き込まれた微粉炭の燃焼性を向上させる燃焼方法を開示する公知文献として特許文献1がある。これは、微粉炭に酸化鉄粉を混合し、高炉に吹込んで燃焼させることにより微粉炭の燃焼性を向上させるものである。しかしながら、特許文献1に開示する燃焼方法では、亜瀝青炭等の低品位の石炭であっても充分な燃焼効率を得るという点からは充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−152369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑み、微粉炭の燃焼効率を向上させ、安価、確実に石炭灰中の未燃分濃度を低減させることができる石炭燃焼装置および石炭燃焼方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
供供給される石炭を粉砕して微粉炭とするローラミルと、該ローラミルで粉砕した微粉炭が燃焼される火炉とを有する石炭燃焼装置であって、
前記ローラミルの上流側に配設され、前記火炉に供給される石炭に、鉄またはカルシウムを溶融させた酢酸溶液を噴霧する噴霧手段を有し、
前記噴霧手段は、前記石炭として燃料比が異なる複数種類の石炭を個別の搬送ラインを介して搬送された後、前記ローラミルで粉砕して得る混炭を用いる際に、前記各石炭の燃料比に基づき燃料比が大きい炭種の石炭を搬送する搬送ラインから順に前記噴霧を選択的に行うようにしたことを特徴とする石炭燃焼装置にある。
【0007】
本態様によれば、微粉炭の表面に鉄またはカルシウムの微粒子が担持されているので、かかる微粉炭が火炉内に投入されることにより、鉄またはカルシウムの触媒効果が発揮され、微粉炭の燃焼効率を向上させることができる。この結果、石炭灰中の灰中未燃分を低く抑えることができる。
【0008】
一方、鉄またはカルシウムを酢酸に溶融させることなく粉体で石炭に噴霧しても燃焼効率の向上という効果は得られず、同様に高鉄分炭や高カルシウム炭を混炭しても相手炭に対する燃焼効率の向上という効果は得られなかった。かかる事実は、鉄またはカルシウムを酢酸溶液に溶融させた状態で石炭に噴霧しなければ、微粉炭の燃焼効率の向上という本態様の特徴的な効果は得られないことを示している。すなわち、微粉炭の表面に鉄またはカルシウムの微粒子が担持されてはじめて燃焼時における鉄またはカルシウムの触媒効果が発揮されて燃焼効率の向上に寄与し得ると考えられる。
また、ローラミルで粉砕されて得る微粉炭は火炉内に乾燥空気とともに、乾燥した状態で供給される。この結果、微粉炭が火炉のバーナ等に付着することなく、良好に火炉内に供給することができる。ちなみに、微粉炭に粉砕した後に前記酢酸溶液を噴霧すると、酢酸溶液の付着により微粉炭がバーナ等に付着して火炉内への供給が阻害される場合が懸念される。一方、粉砕前の石炭に酢酸溶液を噴霧した後、前記石炭を粉砕しても、粉砕された微粉炭には、石炭の表面から浸透した酢酸溶液とともに鉄またはカルシウムの微粒子が微粉炭の表面に付着していることが確認できた。
さらに、燃料比を考慮した炭種に応じた噴霧の適正化を図ることができる。
【0011】
本発明の第の態様は、
1の態様に記載する石炭燃焼装置において、
前記噴霧手段は、前記石炭の燃料比に基づき燃料比が大きいものほど噴霧するか、または噴霧量が多くなるように制御されるように構成したことを特徴とする石炭燃焼装置にある。
【0012】
本態様によれば、燃料比が大きいほど効果的な未燃焼率の低減効果が得られる石炭に対して選択的に所定の酢酸溶液を噴霧するようにしたので、噴霧の適正化を図ることができる。
【0015】
本発明の第の態様は、
ローラミルで粉砕した微粉炭を火炉内に供給して燃焼させる石炭燃焼方法において、
前記ローラミルで石炭を粉砕する上流側で、鉄またはカルシウムを溶融させた酢酸溶液を前記石炭に噴霧して前記火炉内に供給し、前記石炭として燃料比が異なる複数種類の石炭を個別の搬送ラインを介して搬送された後、前記ローラミルで粉砕して得る混炭を用いる際に、前記各石炭の燃料比に基づき燃料比が大きい炭種の石炭から順に前記噴霧を選択的に行うようにしたことを特徴とする石炭燃焼方法にある。
【0016】
本態様によれば、微粉炭の表面に鉄またはカルシウムの微粒子が担持されているので、
かかる微粉炭が火炉内に投入されることにより、鉄またはカルシウムの触媒効果が発揮さ
れ、微粉炭の燃焼効率を向上させることができる。この結果、石炭灰中の灰中未燃分を低
く抑えることができる。
また、ローラミルで粉砕されて得る微粉炭は火炉内に乾燥空気とともに、乾燥した状態で供給される。この結果、微粉炭が火炉のバーナ等に付着することなく、良好に火炉内に供給することができる。
さらに、燃料比が異なる複数種類の石炭の混炭を用いる場合において、噴霧の最適化を計り最も合理的な微粉炭の燃焼効率の向上を図ることができる。
【0019】
本発明の第の態様は、
3の態様に記載する石炭燃焼方法において、
前記噴霧は、前記石炭の燃料比に基づき燃料比が大きいものほど噴霧するか、または噴霧量を多くして行うようにしたことを特徴とする石炭燃焼方法にある。
【0020】
本態様によれば、上述の如き鉄またはカルシウムの触媒効果の発揮による微粉炭の燃焼効率を向上効果の最適化を計ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、鉄またはカルシウムを溶融させた酢酸溶液を石炭に噴霧しているので、火炉内に供給する微粉炭の表面に鉄またはカルシウムの微粒子を担持させることができる。この結果、火炉内における微粉炭の燃焼に際し、鉄またはカルシウムの触媒効果により燃焼効率を向上させることができ、石炭灰中の未燃分濃度を良好に低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る石炭燃焼装置を示すブロック図である。
図2】石炭中の鉄およびカルシウムの含有量と燃料比との関係を示す特性図である。
図3】鉄またはカルシウムと石炭灰中の未燃分濃度との関係を示す特性図である。
図4】鉄またはカルシウムとNO転換率との関係を示す特性図である。
図5】瀝青炭CLに亜瀝青炭ADを混炭した場合の混炭率に対する未燃焼率を、各混炭率の石炭に酢酸溶液を噴霧した場合と、そうでない場合とで調べた燃焼実験の結果を示すグラフである。
図6図5における亜瀝青炭混炭率が25%(図6(a))と、50%(図6(b))とにおいて、瀝青炭と亜瀝青炭との両方に酢酸鉄の溶液を噴霧しなかった場合、瀝青炭のみに噴霧した場合、両方に噴霧した場合のそれぞれについて未燃焼率を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施の形態に係る石炭燃焼装置を示すブロック図である。同図に示すように、ローラミル2で粉砕されて燃料となる微粉炭は、搬送用の空気を兼用する1次空気とともに微粉炭搬送管路4およびバーナ3を介して石炭燃焼装置Iの火炉1内に給される。石炭燃焼装置Iは、火炉1の下流側に二段燃焼用空気が供給される二段燃焼ボイラであり、さらにバーナ3からは1次空気の他に2次空気および3次空気が旋回流として噴射される。かくして、火炉1の下部では、燃料を過剰にして主に微粉炭のガス化を促進するととともに、上部では空気を過剰にして酸化雰囲気での燃焼を行う。かかる二段燃焼によりNOの発生を可及的に抑制している。
【0027】
ローラミル2では、そのテーブル上に供給された石炭塊がローラの回転によりテーブルとの間で粉砕されて微粉炭となる。かかる微粉炭が、乾燥用の熱風とともに微粉炭搬送管路4内を火炉1に向けて搬送される。
【0028】
本形態に係る石炭燃焼装置Iには、ローラミル2の上流側においてローラミル2に供給される石炭に酢酸溶液を噴霧する噴霧手段5が配設されている。噴霧手段5の酢酸溶液には、鉄またはカルシウムが溶融させてあり、酢酸溶液の噴霧により鉄またはカルシウムが石炭の表面に付着され、鉄またはカルシウムが酢酸溶液とともに石炭の内部に浸透される。したがって、火炉1内には、鉄またはカルシウムを表面に担持した状態で微粉炭が供給される。
【0029】
かかる本形態によれば、酢酸溶液を媒介として微粉炭の表面に付着している鉄分(Fe)やカルシウム分(Ca)による触媒効果が発揮され未燃焼率が低減される。したがって、灰中未燃分濃度も低減され所定の良質の石炭灰を得ることができる。
【0030】
ここで、本形態では、ローラミル2で粉砕されて得る微粉炭は火炉1内に乾燥空気とともに、乾燥した状態で供給される結果、微粉炭が火炉1のバーナ3等に付着することなく、良好に火炉1内に供給することができる。ちなみに、粉砕した後の微粉炭に酢酸溶液を噴霧すると、酢酸溶液の付着により微粉炭がバーナ3等に付着して火炉1内への供給が阻害される場合が懸念される。したがって、酢酸溶液の噴霧後に石炭を粉砕する方が望ましい。ただ、粉砕前に限る必要はない。
【0031】
一方、粉砕前の石炭に酢酸溶液を噴霧した後、石炭を粉砕しても、粉砕された微粉炭には、石炭の表面から浸透した酢酸溶液とともに鉄またはカルシウムの微粒子が微粉炭の表面に付着していることは電子線マイクロアナライザによる観察で確認されている。
【0032】
かかる本願発明の作用・効果は次のような実験結果により裏付けられる。本実験では、微粉炭燃焼時における鉄分およびカルシウム分の添加による未燃分低減効果を確認した。具体的には、鉄分(Fe)やカルシウム分(Ca)による触媒効果に着目し、まず、石炭灰中のこれらの成分と未燃分との関係を把握した。次に、これらの成分を別途添加し、燃焼促進効果を明らかにした。
【0033】
燃焼試験は2つの微粉炭燃焼試験炉を用いて実施した。一つは竪型炉(0.9m(W)×1.9m(L)×9.7m(H)、投入熱量2.4MWth、3段バーナ)で、他の一つは横置円筒炉(0.85m(φin)、8m(L)、投入熱量0.8MWth、単一バーナ)である。空気比1.24(火炉出口酸素濃度4%)、二段燃焼率30%(注入位置:竪型炉は中段バーナから3m、横置円筒炉はバーナ出口から3m)の一定条件において、燃焼試験を実施した。
【0034】
この結果、石炭性状と未燃焼率の関係に関し、次の知見を得た。竪型炉を用いて、12炭種について一定条件で燃焼した。この場合、既報(牧野ら、日本エネルギー学会誌、73,10,906−913(1993))と同様に、燃料比(固定炭素/揮発分量)と未燃焼率(=100−燃焼効率)の関係を比較すると、幾つかの炭種は、導出される直線関係に合致しなかった。これらの炭種について石炭性状を比較すると、鉄(Fe)またはカルシウム(Ca)が他の炭種に比べて多く含まれていることが確認できた。燃料比ごとに、石炭中の鉄(Fe)とカルシウム(Ca)の含有量が未燃焼率に及ぼす影響を比較すると、図2に示すように、鉄(Fe)とカルシウム(Ca)の含有量の増加に応じて、未燃焼率が低くなり、燃料比の高い石炭は、未燃焼率の低下が顕著になることがわかった。
【0035】
そこで、続いて、鉄分およびカルシウム分の添加による未燃分低減効果に関して調べた。燃料比が2の瀝青炭に、石炭中の鉄(Fe)とカルシウム(Ca)の含有割合が1×0−2(kg-Fe,kg-Ca/kg-coal)となるように、酢酸に溶融した鉄またはカルシウムを5×10−3(kg-Fe,kg-Ca/kg-coal)添加してから粉砕し、横置円筒炉で燃焼した際の未燃焼率を比較した。この結果を図3に示す。同図を参照すれば、石炭に鉄(Fe)やカルシウム(Ca)を添加することでも、未燃焼率が低くなり、燃料比だけでなく、鉄(Fe)やカルシウム(Ca)の含有量も未燃焼率に及ぼす影響が大きいことがわかった。鉄(Fe)やカルシウム(Ca)の添加量をさらに減少し、5×10−5(kg-Fe,kg-Ca/kg-coal)とすると、カルシウム(Ca)の場合、未燃焼率は低減しないが、鉄(Fe)の場合は、未燃焼率が低くなることが明らかとなった。かくして、鉄(Fe)やカルシウム(Ca)を溶解させた酢酸溶液を石炭に噴霧することで未燃焼率を低減させ、良質の石炭灰を提供できることが明らかになった。
【0036】
さらに、図4に示すように、鉄(Fe)やカルシウム(Ca)の添加によっても排ガス中のNO濃度は変化しないことも確認された。したがって、本発明によれば、低品質の石炭であっても、環境負荷を増大させることなく、未燃焼率を低減させて良質の石炭灰を提供し得る。
【0037】
図2に示すように、鉄(Fe)やカルシウム(Ca)を溶解させた酢酸溶液を石炭に噴霧する場合、噴霧量が多くなれば多くなるほど、未燃焼率を低減し得る。ただ、噴霧量の最適化を図るためには、噴霧量と未燃焼率の低減効果との関係を考慮する必要がある。図5は、瀝青炭CLに亜瀝青炭ADを混炭した場合の混炭率に対する未燃焼率を、各混炭率の石炭に酢酸溶液を噴霧した場合と、そうでない場合とで調べた燃焼実験の結果を示すグラフである。なお、燃料比(固定炭素/揮発分量)が大きい瀝青炭は、固定炭素の量が多いことに起因して未燃焼率が大きくなる。一方、燃料比が小さい亜瀝青炭は、水分を多く含むので、初期における燃焼はあまり良くないが、水分の蒸発後には揮発分が燃焼され、結果としては未燃焼率が小さくなる。
【0038】
図5を参照すれば、燃料比が大きい瀝青炭CLに対して燃料比が小さい亜瀝青炭ADの割合が増加する程、未燃焼率(=100−燃焼効率(%))は低下している。そして、亜瀝青炭ADの割合が増加すればするほど、酢酸溶液を石炭に噴霧した場合と、そうでない場合の未燃焼率の差が小さくなっていることが分かる。これは、亜瀝青炭ADの割合が増加するほど酢酸溶液を噴霧した効果が相対的に低減するからであると考えられる。だとすれば、揮発分量が多く燃料比が小さい石炭(例えば、亜瀝青炭)に酢酸溶液を噴霧しても顕著な未燃焼率低下の効果は、得られないことになる。かかる事実を確認するため、図6に示す特性を調べた。
【0039】
図6は、図5における混炭率が25%(図6(a))と、50%(図6(b))とにおいて、瀝青炭CLと亜瀝青炭ADとの両方に、1)酢酸鉄の溶液を噴霧しなかった場合、2)瀝青炭のみに噴霧した場合、3)両方に噴霧した場合、のそれぞれについて未燃焼率を調べた結果を示すグラフである。
【0040】
図6(a)および図6(b)に示す何れの場合においても、一方(瀝青炭)にのみ噴霧した場合(図中の灰色部分)と両方(瀝青炭および亜瀝青炭)に噴霧した場合(図中の黒色部分)とで、未燃焼率の低減効果は同等であることが認められた。このことは、燃料比が小さい亜瀝青炭に対する噴霧は、燃料比が大きい瀝青炭に対する噴霧に較べ、未燃焼率の低減効果が小さいことを示している。
【0041】
なお、図6(a)および図6(b)に示す何れの場合においても、両方(瀝青炭および亜瀝青炭)に噴霧しない場合(図中の白色部分)に対し、一方(瀝青炭)にのみ噴霧した場合(図中の灰色部分)や、両方(瀝青炭および亜瀝青炭)に噴霧した場合(図中の黒色部分)には、未燃焼率が顕著に低減されている。
【0042】
表1に、上述の実験に用いた瀝青炭CLと亜瀝青炭ADとの性質を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
上表1を参照すれば、瀝青炭CLの燃料比(=固定炭素/揮発分量)が2.16であるのに対し、亜瀝青炭ADの燃料比は0.92である。
【0045】
そこで、石炭の炭種毎に固有の燃料比に基づき酢酸溶液の噴霧を行うのが合理的である。この場合には、上述の如き鉄またはカルシウムの触媒効果の発揮による微粉炭の燃焼効率を向上効果の最適化を計ることができるからである。
【0046】
さらに、石炭として燃料比が異なる複数種類の石炭からなる混炭を用いる際には、各石炭の燃料比に基づき燃料比が大きい炭種の石炭から順に前記噴霧を選択的に行うようにすることでさらに合理的な噴霧を行なうことができる。
【0047】
図1に示す石炭燃焼装置を、上述の知見に基づき、酢酸溶液の噴霧の適正化を図り得るように構成することもできる。具体的には、噴霧手段5の下方を通過する石炭の燃料比に応じて開閉される噴霧弁を噴霧手段5に設けておき、石炭の種類に応じて選択的に酢酸溶液を噴霧するように構成すればよい。ここで、噴霧弁は、噴霧量を調整し得るように構成されたものでも良く、この場合には、石炭の燃料比を考慮して、燃料比が大きいほど多く噴霧されるように噴霧量を制御することができる。さらに、複数の搬送ラインにより異なる種類の石炭(例えば、瀝青炭と亜瀝青炭)をローラミル2に供給して混炭である微粉炭を火炉1に供給する場合には、搬送ライン毎に区別して酢酸溶液を噴霧するか、または噴霧量を調整するように構成しても良い。
【0048】
このように石炭の燃料比を考慮して酢酸溶液の噴霧の制御を行なうことにより、効果的な未燃焼率の低下を実現し得る。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は微粉炭を燃焼させてその燃焼エネルギーを利用する微粉炭火力発電等の産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
I 石炭燃焼装置
1 火炉
2 ローラミル
3 バーナ
4 微粉炭搬送管路
5 噴霧手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6