【実施例】
【0057】
<実施例1>リポソームの調製
(1)BCG−CWS内封リポソーム
[1−1]空リポソームを含むHBSの調製
8個のアルギニン残基からなるペプチド(配列番号1;以下「R8」という。)と結合したステアリン酸(STR−R8;クラボウ社)を用意した。R8はリポソームに一定の細胞内移行能を付与することが知られているペプチドであり(国際公開WO2005/032593号パンフレット;小暮健太郎、薬学雑誌、第127巻、第10号、第1685−1691頁、2007年)、STR−R8はR8のN末にステアリン酸(STR)が結合した構造を有する。続いて、卵黄フォスファチジルコリン(EPC)、コレステール(Chol)およびSTR−R8を用いて、水和法によりリポソームを調製した。具体的には、これらの脂質を、モル比がEPC:Chol:STR−R8=70:30:2の割合でクロロホルムに溶解して、これを脂質クロロホルム溶液(総脂質濃度10mmol/L)とした。脂質クロロホルム溶液をナスフラスコに入れて、エバポレーターを用いて減圧乾燥させることにより脂質フィルムを得た。pHが7.4である5mmol/LのHEPES緩衝生理食塩水(HEPES 5mmol/L、NaCl 0.9w/v%;以下「HBS」という。)を脂質フィルムに添加して水和させ、撹拌または超音波処理をすることによりリポソームを調製し、これを空リポソームとした。空リポソームは、目的物質を内封せず、その内腔はHBSで満たされている。続いて、空リポソームをミニエクストルーダー(Avanti Polar lipids社)を用いて孔径400nmのポリカーボネート製メンブレンフィルター(Nucleopore社)に通過させて濾過処理することにより、孔径400nm以下の空リポソームを含むHBSを調製した。
【0058】
[1−2]BCG−CWSが分散した非極性溶媒溶液の調製
既報(特許文献2)に記載の方法に従い、牛型結核菌の細胞壁骨画分(BCG−CWS)を得た。続いて、予備実験として、各300μLのHBS、エタノールおよびペンタンそれぞれにBCG−CWS1mgを入れて攪拌し、外観を確認した。その結果を
図2に示す。
図2に示すように、HBS中では、BCG−CWSは凝集し、視認できる程大きい粒子を形成した。これに対し、エタノールおよびペンタン中では、BCG−CWSは凝集せずに分散した状態となった。すなわち、BCG−CWSは、有機溶媒中では、凝集せずに分散することが確認された。
【0059】
そこで、次に、極性溶媒および非極性溶媒それぞれ300μLにBCG−CWS1mgを入れて攪拌して分散させ、これらの溶媒中におけるBCG−CWSの粒子径および粒度分布指数(Phase Doppler Interferometer;PDI)をZETASIZER Nano ZEN3600(Malvern Instruments社)を用いて測定した。極性溶媒としてエタノール、2−プロパノールおよびtert−ブチルアルコールを、非極性溶媒としてペンタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびヘキサンを用いた。その結果を表1に示す。表1に示すように、粒子径およびPDIのいずれも、エタノール、2−プロパノールおよびtert−ブチルアルコールと比較して、ペンタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびヘキサンでは、顕著に小さい値であった。すなわち、非極性溶媒中のBCG−CWSは、極性溶媒中のBCG−CWSと比較して、粒子径が小さく、粒子径のバラツキも小さいことが確認された。この結果から、非極性溶媒中に分散させた細菌菌体成分は、小さな粒子径を有し、比較的均一な粒子径を有することが示された。そこで、BCG−CWS1mgをペンタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびヘキサンそれぞれ300μLに入れて分散させ、これらをBCG非極性溶媒溶液として、以下の実験に用いることとした。
【0060】
【表1】
【0061】
[1−3]水中油型エマルションの調製および非極性溶媒の減圧留去
本実施例1(1)[1−2]のBCG非極性溶媒溶液300μLに、本実施例1(1)[1−1]の空リポソームを含むHBSを700μLずつ添加し、プローブ型ソニケーターを用いて超音波処理を行うことにより混合して、水中油型エマルション(O/Wエマルション)を調製した。続いて、O/Wエマルションをナスフラスコに移し、エバポレーターを用いてエバポレーションを行い、ペンタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびヘキサンを減圧留去することによりリポソームを調製して、これをBCG−CWS内封リポソームとした。続いて、BCG−CWS内封リポソームをミニエクストルーダー(Avanti Polar lipids社)を用いて孔径200nmのポリカーボネート製メンブレンフィルター(Nucleopore社)に通過させて濾過処理した。BCG−CWS内封リポソームを含むHBSの外観を、BCG−CWSを含むHBSと比較して
図3に示す。上述した様に、BCG−CWSはHBS中で凝集して視認できる程大きい粒子を形成するのに対して、
図3に示すように、BCG−CWS内封リポソームはHBS中で分散した状態であることが確認された。本実施例1(1)[1−1]〜[1−3]のBCG−CWS内封リポソームの調製方法を
図4に模式的に示す。
【0062】
(2)比較用リポソーム
本実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に記載の方法によりリポソームを調製し、これを比較用リポソームとした。ただし、BCG非極性溶媒溶液に代えて、モル比がEPC:Chol:STR−R8=70:30:2かつ総脂質濃度23.3mmol/LとなるようにEPC、CholおよびSTR−R8を含み、かつ1mg/300μLとなるようにBCG−CWSを含むペンタンを用い、空リポソームを含むHBSに代えてHBSを用いて行った。
【0063】
(3)R8の量を変化させたリポソーム
本実施例1(1)[1−1]に記載の方法において、脂質クロロホルム溶液における脂質の割合をEPC:Chol:STR−R8=70:30:2に代えて、EPC:Chol:STR−R8=70:30:0、1、2、3、4および5としてリポソームを調製した。すなわち、R8と結合した脂質を構成脂質として含む量が、他の構成脂質総量に対して0、1、2、3、4および5%である空リポソームを調製し、これらをR8/0〜5%空リポソームとした。次に、本実施例1(1)[1−2]〜[1−3]に記載の方法において、非極性溶媒としてペンタンを、空リポソームに代えてR8/0〜5%空リポソームを、それぞれ用いてリポソームを調製し、これらをR8/0〜5%リポソームとした。
【0064】
(4)BCG−CWS含有脂質膜リポソーム
既報(国際公開WO2007/132790号パンフレット)に記載の方法に従い、BCG−CWSを含む脂質膜を有するリポソームを調製し、これをBCG−CWS含有脂質膜リポソームとした。具体的には、まず、EPCおよびCholをモル比がEPC:Chol=7:3の割合でクロロホルムに溶解してEPC/Chol溶液(総脂質濃度10mmol/L)を得た。また、STR−R8を10mmol/Lとなるよう水に溶解してSTR−R8水溶液を得た。また、BCG−CWS1mgをクロロホルム:エタノール=2:1(v:v)のクロロホルム/エタノールに懸濁してBCG−CWS懸濁液を得た。続いて、BCG−CWS懸濁液全量(BCG−CWS量1mg)に、EPC/Chol溶液およびSTR−R8水溶液を100:2(v:v)の割合で混合して、BCG混合脂質液を得た。BCG混合脂質液をエバポレーターに供して減圧乾燥させることにより脂質フィルムを調製した。脂質フィルムに700μLのHBSを添加して水和させた後、ガラスビーズを加えて、65℃で20分間、減圧せずにロータリーエバポレーターを回転させることにより攪拌してBCG−CWS含有脂質膜リポソームを調製した。続いて、孔径1,000nmおよび400nmのメンブレンフィルターに通過させて濾過処理した。本実施例1(4)のBCG−CWS含有脂質膜リポソームの調製方法を
図5に模式的に示す。
【0065】
<実施例2>リポソームの性状
(1)粒子径、PDI、ゼータ電位およびBCG−CWS内封/含有率
[1−1]測定方法
リポソームの粒子径、PDIおよびゼータ電位は、ZETASIZER Nano ZEN3600(Malvern Instruments社)を用いて、動的光散乱法により粒子径およびPDIを、電気泳動法によりゼータ電位をそれぞれ測定した。
【0066】
また、リポソームのBCG−CWS内封/含有率は次の様に測定した。まず、エタノールにBCG−CWSを0.05mg/mL、0.25mg/mLおよび0.1mg/mLとなるよう懸濁して、これらを検量用サンプルとした。また、リポソームを含むHBSを測定用サンプルとした。また、1.1%(v/v)フクシン溶液(ナカライテスク社)に水およびフェノールを加えて、フェノールの終濃度が5%(w/v)かつフクシンの終濃度が0.55%(v/v)となるよう調整し、これをフクシン/フェノール液とした。次に、マイクロチューブに、100%エタノールを1mLずつ入れた。ここに、さらに、1mLの100%エタノール(ネガティブコントロール)、1mLの検量用サンプルおよび100〜150μLの測定用サンプルをそれぞれ入れた。これらのマイクロチューブを2分間ボルテックスすることにより、BCG−CWSを析出させた。析出したBCG−CWSのペレットを目視により確認した後、15℃、6000rpmの条件下で5分間遠心分離を行って、上清を除去してペレットを回収した。続いて、100%エタノールを1mLずつ添加して同条件下で遠心分離を行い、上清を除去してペレットを回収した。ペレットを10分間風乾させた後、ヘキサン400μLを添加してボルテックスまたは超音波処理することによりBCG−CWSをヘキサン中に分散させた。続いて、フクシン/フェノール液200μLを添加して3〜4分間転倒混和することにより、BCG−CWSをフクシンにより染色した。ここで、BCG−CWSの主成分であるミコール酸は、フクシンと反応して赤色を呈することが知られている。続いて、上層のヘキサン層を250μL回収し、96穴プレートに移し、530nmにおける吸光度を測定した。ネガティブコントロールおよび検量用サンプルの測定結果に基づき、BCG−CWS濃度の検量線を作成した。作成した検量線に測定用サンプルの測定結果を当てはめることにより、測定用サンプルにおけるBCG−CWS濃度を求めた。このBCG−CWS濃度から、リポソーム全量におけるBCG−CWS量を算出し、次式1を用いて、BCG−CWS内封/含有率を求めた。
式1;BCG−CWS内封/含有率(%)=100×(リポソーム全量におけるBCG−CWS量/リポソーム調製時に用いたBCG−CWS量)。
すなわち、BCG−CWS内封/含有率は、リポソームを調製する際に用いたBCG−CWSのうち、実際にリポソームに内封またはその脂質膜に含有されたBCG−CWSの割合を示す値である。
【0067】
[1−2]BCG−CWS内封リポソームとBCG−CWS含有脂質膜リポソームとの比較
実施例1(1)のBCG−CWS内封リポソームおよび実施例1(4)のBCG−CWS含有脂質膜リポソームについて、本実施例2(1)[1−1]に記載の方法により粒子径、PDI、ゼータ電位およびBCG−CWS内封/含有率を測定した。その結果を表2に示す。表2に示すように、PDIおよびゼータ電位は、BCG−CWS内封リポソームと、BCG−CWS含有脂質膜リポソームとで、同等であった。これに対し、粒子径は、BCG−CWS内封リポソームでは、BCG−CWS含有脂質膜リポソームと比較して顕著に小さかった。また、BCG−CWS内封リポソームの粒子径は、ペンタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびヘキサンのいずれを用いて調製した場合も180nm以下であった。この結果から、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に示す方法により調製した脂質膜構造体は、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有することが示された。また、BCG−CWS内封/含有率は、ペンタンやジイソプロピルエーテルを用いて調製したBCG−CWS内封リポソームの方が、BCG−CWS含有脂質膜リポソームと比較して顕著に大きかった。この結果から、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に示す方法により、脂質膜構造体に目的物質を効率的に内封させることができることが明らかになった。
【0068】
【表2】
【0069】
以下の本実施例2(1)[1−3]および(2)〜(5)、ならびに実施例3〜5においては、実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソームとして、ペンタンを用いて調製したものを用いた。
【0070】
[1−3]BCG−CWS内封リポソームと比較用リポソームとの比較
実施例1(2)の比較用リポソームについて、本実施例2(1)[1−1]に記載の方法により粒子径、PDI、ゼータ電位およびBCG−CWS内封/含有率を測定した。その結果を実施例1(1)のBCG−CWS内封リポソームと比較して表3に示す。表3に示すように、粒子径、PDIおよびゼータ電位は、BCG−CWS内封リポソームと比較用リポソームとで、同等であった。一方、BCG−CWS内封/含有率は、BCG−CWS内封リポソームの方が、比較用リポソームと比較して顕著に大きかった。すなわち、リポソームにBCG−CWSを効率的に内封させるためには、空リポソームを含むHBSとBCG非極性溶媒溶液とを混合する必要があることが明らかになった。この結果から、脂質膜構造体に目的物質を効率的に内封させるためには、目的物質を内封しない脂質膜構造体を含む極性溶媒溶液と目的物質が分散した非極性溶媒溶液とを混合して水中油型エマルションを調製する必要があることが示された。
【0071】
【表3】
【0072】
[1−4]R8の量を変化させたリポソームにおける比較
実施例1(3)のR8/0〜5%リポソームについて、本実施例2(1)[1−1]に記載の方法により粒子径、PDI、ゼータ電位およびBCG−CWS内封/含有率を測定した。その結果を
図6に示す。
図6に示すように、粒子径は、R8/0〜5%リポソームのいずれもほぼ同等であったが、R8/2%リポソームが特に小さかった。これらの結果から、複数個のアルギニン残基からなるペプチドと結合した脂質の含有量が、他の構成脂質総量に対して1%以上3%未満である場合に、脂質膜構造体の粒子径が特に小さくなることが示された。
【0073】
次に、PDIは、R8/0〜5%リポソームのいずれもほぼ同等であったが、R8/0%リポソームが特に小さかった。これは、後述するようにR8/0%リポソームがBCG−CWSを内封しないことによると考えられた。次に、ゼータ電位は、R8/0%リポソームでは負の値(アニオン性)であったのに対して、R8/1〜5%リポソームではいずれも正の値(カチオン性)であった。これは、R8/0%リポソームが、カチオン性物質であるSTR−R8を有さないことによると考えられた。
【0074】
最後に、BCG−CWS内封/含有率は、R8/0%リポソームでは検出限界以下(Not Detected;N.D.)であったのに対して、R8/1〜5%リポソームではいずれも平均値で15%以上であった。すなわち、目的物質を内封しない脂質膜構造体がR8と結合した脂質を構成脂質として有さない場合、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体の調製は困難であったが、一定の濃度でR8と結合した脂質を構成脂質として有する場合は、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体を調製することができた。これらの結果から、アルギニン残基からなるペプチドについては、アルギニンの残基数が変化した場合でも、複数個のアルギニン残基からなるペプチドと結合した脂質の含有量を変化させて、当該ペプチドを修飾することにより、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体を調製することができることが示された。
【0075】
(2)電子顕微鏡観察
実施例1(1)のBCG−CWS内封リポソームを含むHBSを用意した。これを、2%(v/v)タングステン酸水溶液と混合した後、カーボン蒸着した400メッシュのグリッドに滴下した。過剰な水分を除去して風乾させた後、透過型電子顕微鏡JEM−1200EX(日本電子社)を用いて、加速電圧80kVで観察し、CCDカメラ(Olympus Soft Imaging Solutions社)を用いて写真撮影した。なお、BCG−CWSは、透過型電子顕微鏡による観察では、不規則な紐状またはシート状(コントラストがほとんど無く、一様な面状)の構造体として観察される(Y.Uenishiら、Journal of Microbiological Methods、第77巻、第139〜144頁、2009年)。これは、BCG−CWSが、溶媒中で長く伸びた構造や折りたたまれた構造などの不均一な構造をとるためと考えられる。一方、リポソームは均一な小胞構造であるため、同心円状の構造体として観察されると考えられる。
【0076】
写真撮影した結果を
図7に示す。
図7左図に示すように、BCG−CWS内封リポソームでは、同心円状構造体(リポソームと考えられる)の内側に不規則な紐状構造体およびシート状構造体(BCG−CWSと考えられる)が観察された。また、不規則な紐状構造体およびシート状構造体は、折りたたまれたコンパクトな粒子状であり、その周囲に、溶媒(ペンタンあるいはHBS)の存在を示す間隙はほとんど見られなかった。すなわち、BCG−CWS内封リポソームは、BCG−CWSを内封しており、かつ溶媒をほとんど内封していないことが明らかになった。また、
図7右図に示すように、BCG−CWS内封リポソームを含むHBS中においては、BCG−CWSを内封していないリポソームも観察された。BCG−CWSを内封していないリポソームでは、同心円状構造体の中心部まで脂質膜が密に詰まっており、内腔はほとんど存在しない様子が観察された。すなわち、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に示す方法において、O/Wエマルションから非極性溶媒を減圧留去すると、リポソームの内腔に存在する非極性溶媒はほぼ完全に留去されて、溶媒をほとんど内封しないリポソームが得られることが明らかになった。
【0077】
これらの結果から、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に示す方法により、非極性溶媒に分散性を有する目的物質を内封する脂質膜構造体を得ることができること、および当該脂質膜構造体が内封する溶媒の量はきわめて小さいことが示された。
【0078】
(3)リポソームが含有する極性溶媒の量;リポソームが含有する極性溶媒に由来する蛍光強度の検討
実施例1(1)[1−1]に記載の方法により空リポソームを、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に記載の方法によりBCG−CWS内封リポソームを、それぞれ調製した。ただし、HBSに代えて0.1mmol/Lのカルセインを含むHBSを用いることにより、リポソームの内外に存在するHBSを蛍光染色した。また、空リポソームの濾過処理においてメンブレンフィルターは孔径400nmおよび孔径200nmのものを用い、前者を通過させた空リポソームを大径空リポソーム、後者を通過させた空リポソームを小径空リポソームとした。調製したリポソームの粒子径をZetasizer Nano ZS(Malvern Instruments社)を用いて測定したところ、大径空リポソームは248nm、小径空リポソームは160nm、BCG−CWS内封リポソームは161nmであった。
【0079】
カルセインは塩化コバルト存在下では錯体を形成して消光することが知られている。このことに基づき、まず、リポソームの外液に塩化コバルトを添加して、外液におけるカルセインの蛍光を消失させた。続いて、蛍光光度計を用いて励起波長460nmおよび蛍光波長550nmで蛍光強度(相対蛍光強度;RFI)を測定し、これを蛍光強度Aとした。蛍光強度Aは、主としてリポソームが含有するHBS(リポソームの内腔および脂質二重層の間隙に存在するHBS)に由来する蛍光量を示す。次に、1%(v/v)TritonX−100を用いてリポソームの脂質膜を破壊することにより、リポソームが含有するHBSにおけるカルセインの蛍光も消失させた後、同様に蛍光強度を測定し、これを蛍光強度Bとした。蛍光強度Bは、リポソームの内外のカルセインが消光した後の、バックグラウンドの蛍光量を示す。また、リン脂質定量キット(和光純薬社)を用いてリポソームが含まれていた溶液の総脂質量(nmol)を測定した。測定結果に基づき、次式2により、真にリポソームが含有するHBSに由来する蛍光強度(含有HBS由来蛍光強度)を算出した。
式2;含有HBS由来蛍光強度(RFI)=蛍光強度A−蛍光強度B。
次に、含有HBS由来蛍光強度の値を総脂質量で除することにより、脂質1nmolあたりの含有HBS由来蛍光強度(RFI/nmol)を求めた。以上の本実施例2(3)の実験を4回行い、RFI/nmolについて、平均値および標準偏差を求めた。また、BCG−CWS内封リポソームのRFI/nmolについて、大径空リポソームおよび小径空リポソームに対して有意差検定(反復測定2元配置分散分析、Tukey−Kramer法)を行った。その結果を
図8に示す。
【0080】
図8に示すように、BCG−CWS内封リポソームのRFI/nmolは、大径空リポソームおよび小径空リポソームと比較して、有意に小さかった。また、BCG−CWS内封リポソームのRFI/nmolは、標準偏差の範囲を勘案しても3500より小さかった。すなわち、BCG−CWS内封リポソームが含有するHBSの量は、より大きな粒子径を有する空リポソームはもとより、ほぼ同じ粒子径を有する空リポソームと比較しても、顕著に少ないことが明らかになった。これらの結果から、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に示す方法により調製した脂質膜構造体が含有する極性溶媒の量は、顕著に小さいことが示された。また、当該脂質膜構造体が含有する極性溶媒が、終濃度が0.1mmol/Lのカルセインを含み、pHが7.4である10mmol/LのHBSである場合において、当該脂質膜構造体が含有する極性溶媒に由来するカルセインの蛍光強度は、励起波長460nmおよび蛍光波長550nmで測定した場合に、当該脂質膜構造体の構成脂質1nmolあたり3500未満となることが示された。
【0081】
(4)リポソームが含有する極性溶媒の量;蛍光強度の低下による検討
リポソームがTritonX−100により破壊されると、リポソームが含有する極性溶媒によりリポソームの外液が希釈されてカルセインの濃度が低下するため、蛍光強度が低下する。このことに基づき、リポソームが含有する極性溶媒の量を測定した。具体的には、実施例1(1)[1−1]に記載の方法により空リポソームを、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に記載の方法によりBCG−CWS内封リポソームを、それぞれ調製した。リポソームを含むHBS10μLに、970μLのHBSおよび20μLの0.1mmol/Lカルセイン溶液を添加した。これを、500μLずつ2等分して、一方に終濃度0.1%(v/v)となるよう10%(v/v)TritonX−100を5μL添加し、これをB液とした。残りの一方にはHBSを5μL添加し、これをA液とした。A液およびB液のうちおよそ300μLを100kDaのマイクロコン(ミリポア社)に添加し、5000rpm、4℃の条件下で10分間遠心分離を行うことにより限外ろ過を行った。限外ろ過を行っていないサンプルと限外ろ過を行ったサンプルとから、それぞれ100μL分取し、蛍光強度を測定した。
【0082】
その結果、蛍光強度はA液よりもB液の方が小さかった。A液とB液とを比較した蛍光強度の低下の程度は、空リポソームと比較してBCG−CWS内封リポソームの方が小さかった。これらの結果から、実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に示す方法により調製した脂質膜構造体が含有する極性溶媒の量は、顕著に小さいことが示された。
【0083】
(5)リポソームが含有する極性溶媒の量;重量測定による検討
実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に記載の方法によりBCG−CWS内封リポソームを調製した。続いて、凍結乾燥を行い、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥物の重量を測定した後、1mLのDDWを添加して再懸濁し、これを再懸濁リポソームとした。続いて、43000rpm、4℃の条件下で30分間超遠心分離を行うことにより、再懸濁リポソームと外水層とを分離した後、再懸濁リポソームの湿重量を測定した。また、リン脂質定量キット(和光純薬社)を用いて脂質濃度を測定し、測定結果に基づいて再懸濁リポソームの湿重量の補正を行った。続いて、次式3により、BCG−CWS内封リポソームが含有する水溶液の重量を測定した。
式3;補正後の再懸濁リポソーム湿重量−凍結乾燥物重量。
【0084】
<実施例3>細胞への取込み
(1)リポソームの調製
実施例1(1)[1−1]〜[1−3]に記載の方法によりBCG−CWS内封リポソームを調製し、実施例1(4)に記載の方法によりBCG−CWS含有脂質膜リポソームを調製した。ただし、脂質クロロホルム溶液およびBCG混合脂質液に、Nitro−2−1,3−Benzoxadiazol−4−yl(NBD)が結合したDOPE(NBD標識DOPE;Avanti Polar Lipids社)を他の構成脂質総量に対して、モル比1%となるようそれぞれ添加することにより、リポソームの表面をNBDで標識した。
【0085】
(2)蛍光観察
マウス膀胱癌細胞株である、MBT−2細胞(理化学研究所)を2×10
5個の濃度でプレートに播き、10%仔牛胎児血清(FCS)を添加したRPMI1640培地(FCS添加RPMI培地)を用いて、37℃、5%(v/v)CO
2雰囲気下で1日間培養した。培地を除去してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)1mLを用いて細胞を洗浄した。続いて、本実施例3(1)のBCG−CWS内封リポソームおよびBCG−CWS含有脂質膜リポソームを、それぞれ総脂質濃度75μmol/Lで含むRPMI1640培地を1mLずつ加えた。これを同条件下で1時間インキュベートすることにより、MBT−2細胞にリポソームを取り込ませた。培地を除去して、20U/mLのヘパリンを含むPBS1mLを用いて洗浄することを2回繰り返した後、FCS添加RPMI培地1mLを用いて1回洗浄した。続いて、FCS添加RPMI培地1mLを加えて、同条件下で45分間インキュベートした。次に、100μmol/LのLysoTracker Red5μLを添加してさらに15分間インキュベートすることにより、MBT−2細胞の酸性コンパートメントを染色した。その後、FCS添加RPMI培地1mLを用いて洗浄することを2回繰り返した後、FCS添加RPMI培地1mLを加えて、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM510;Carl Zeiss社)を用いてNBD(緑色)およびLysoTracker Red(赤色)の蛍光を観察した。その結果を
図9に示す。
【0086】
図9に示すように、BCG−CWS含有脂質膜リポソームおよびBCG−CWS内封リポソームいずれを取り込ませた場合も、MBT−2細胞の内部に、緑色の蛍光および緑色と赤色との重複を示す黄色の蛍光が観察された。黄色の蛍光が観察された箇所の数は、BCG−CWS含有脂質膜リポソームを取り込ませた場合と比較してBCG−CWS内封リポソームを取り込ませた場合の方が多かった。すなわち、BCG−CWS内封リポソームはMBT−2細胞に効率的に取り込まれることが明らかになった。
【0087】
(3)FACSによる測定
MBT−2細胞に、本実施例3(2)に記載の方法により、BCG−CWS内封リポソームを取り込ませた後、細胞を洗浄した。ただし、リポソームを加えた後のインキュベート時間は2時間に代えて1時間とした。続いて、FCS添加RPMI培地1mLを加えて、同条件下で1時間インキュベートし、これをサンプル群とした。また、BCG−CWS内封リポソームを取り込ませていない、同数のMBT−2細胞をコントロール群とした。サンプル群およびコントロール群の細胞におけるNBDの蛍光強度および細胞数を、フローサイトメトリー(FACSCalibur;日本BD社)を用いて測定した。また、サンプル群全体の蛍光強度については、コントロール群全体の蛍光強度に対して有意差検定(独立t検定)を行った。各群全体の蛍光強度を
図10左図に、各細胞の蛍光強度と細胞数との関係を
図10右図にそれぞれ示す。
【0088】
図10左図に示すように、サンプル群全体の蛍光強度は、コントロール群全体の蛍光強度と比較して、有意に大きかった。また、
図10右図に示すように、サンプル群では、コントロール群と比較して、蛍光強度の大きい細胞が多数検出された。サンプル群の細胞のうち、コントロール群の細胞と比較して蛍光強度が大きい細胞の数を百分率に換算したところ、96.5±2.2%であった。すなわち、サンプル群のうち、大多数の細胞がBCG−CWS内封リポソームを取り込んだことが明らかになった。
【0089】
以上の本実施例3(1)および(2)の結果から、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、複数個のアルギニン残基からなるペプチドと結合した脂質を構成脂質として含む、非極性溶媒に分散性を有する細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体は、癌細胞に効率的に取り込まれることが明らかになった。
【0090】
<実施例4>抗癌作用
(1)移植癌細胞における効果
[1−1]腫瘍体積
8週齢の雌のC3H/HeNマウス(日本エスエルシー社)を、4〜6匹ずつ、A〜Fの6群に分けた。MBT−2細胞を、FCS添加RPMI培地を用いて37℃、5%(v/v)CO
2雰囲気下で培養した後、培地を除去して3.5×10
6個ずつPBSに懸濁して、細胞懸濁液とした。細胞懸濁液と下記のリポソームとをマイクロチューブに入れて混合し、移植液を得た。26G針とツベルクリンシリンジとを用いて、各群のマウスの右腹皮下に移植液を皮下注射することにより、MBT−2細胞を移植した。その後、各群のマウスを25日間飼育した。飼育は、標準的な温度および湿度ならびに明期および暗期のいずれも12時間の条件下で行い、食餌および飲料水は自由摂取させた。移植後14、19、21および25日目に各群から1〜数匹ずつ任意に選択し、ノギスを用いて移植部位における腫瘍の長径および短径を測定した。ここで、腫瘍は、盛り上がった細胞塊として目視で容易に判別可能である。続いて、長径および短径の測定結果を基に、次式4を用いて腫瘍体積を算出した。
式4;腫瘍体積(mm
3)=0.52×長径×(短径)
2。
また、移植後25日目のC群〜F群の腫瘍体積について、A群およびB群に対して有意差検定(反復測定2元配置分散分析、Dunnett法)を行った。その結果を
図11に示す。
【0091】
『細胞懸濁液と混合したリポソーム』
A群(5匹);(細胞懸濁液のみ)
B群(5匹);実施例1(1)[1−1]の空リポソーム(脂質量2.56mg)
C群(5匹);実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム(BCG−CWS量0.3mg、脂質量2.56mg)
D群(4匹);実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム(BCG−CWS量0.1mg、脂質量0.85mg)
E群(6匹);実施例1(4)のBCG−CWS含有脂質膜リポソーム(BCG−CWS量0.3mg、脂質量2.56mg)
F群(4匹);実施例1(4)のBCG−CWS含有脂質膜リポソーム(BCG−CWS量0.1mg、脂質量0.85mg)
【0092】
図11に示すように、移植後25日目の腫瘍体積は、A群およびB群と比較して、D群およびF群では小さい傾向であり、C群およびE群では有意に小さかった。すなわち、MBT−2細胞を移植するとともにBCG−CWS内封リポソームを投与した場合は、移植したMBT−2細胞の生着や成長が抑制されることが明らかになった。
【0093】
[1−2]生存率
8週齢の雌のC3H/HeNマウス(日本エスエルシー社)を、10匹ずつ2群に分け、BCG−CWS内封リポソーム投与群および空リポソーム投与群とした。各群のマウスに本実施例4(1)[1−1]に記載の方法によりMBT−2細胞を移植して、およそ60日間飼育し、生存マウスの数を数えた。ただし、移植液において、細胞懸濁液と混合したリポソームは下記の通りとした。また、BCG−CWS内封リポソーム投与群の生存マウスの数について、空リポソーム投与群に対して有意差検定(ログランク検定)を行った。その結果を
図12に示す。
図12に示すように、BCG−CWS内封リポソーム投与群の生存マウスの数は、空リポソーム投与群と比較して、有意に大きかった。すなわち、MBT−2細胞を移植するとともにBCG−CWS内封リポソームを投与すると、生存率が上昇することが明らかになった。
【0094】
『細胞懸濁液と混合したリポソーム』
BCG−CWS内封リポソーム投与群;実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム(BCG−CWS量0.3mg、脂質量2.56mg)
空リポソーム投与群;実施例1(1)[1−1]の空リポソーム(脂質量2.56mg)
【0095】
[1−3]腫瘍組織面積および白血球数
1.0×10
6個の細胞につき、実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム(BCG−CWS量0.1mg、脂質量0.85mg)を添加したFCS添加RPMI培地を用いて、37℃、5%(v/v)CO
2雰囲気下で、MBT−2細胞を1時間培養した。その後、20U/mLのヘパリンを含むPBSを用いて細胞を洗浄することにより、細胞に取り込まれていないリポソームを除去した。この処理により、BCG−CWS内封リポソームを取り込ませたMBT−2細胞を得て、これをlipo取り込み細胞とした。
【0096】
8週齢の雌のC3H/HeNマウス(日本エスエルシー社)4匹を用意し、マウスa〜dとした。下記のとおり、各マウスにMBT−2細胞またはlipo取り込み細胞1.0×10
6個を移植するとともにリポソームを投与し、10日間飼育した。MBT−2細胞の培養および移植、リポソームの投与ならびにマウスの培養は本実施例4(1)[1−1]に記載の方法と同様に行った。その後、各マウスの腫瘍組織を採取し、定法に従いパラフィンに包埋した後、約3μm厚さの切片を作成し、ヘマトキシリン・エオシン染色およびギムザ染色を行った。ヘマトキシリン・エオシン染色した切片の画像を画像解析ソフトNIH Image Ver.1.44p(Wayne Rasband,National Institute of Health,USA)を用いて解析して腫瘍組織の総面積、生存腫瘍組織の面積、壊死腫瘍組織の面積および壊死細胞の割合(%)を測定した。また、強拡大視野(High Power Field;HPF)での観察により、腫瘍組織における各種白血球の数を測定した。
【0097】
マウスa;MBT−2細胞と実施例1(1)[1−1]の空リポソーム(脂質量0.85mg)を混合した移植液を皮下注射。
マウスb;MBT−2細胞と実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム(BCG−CWS量0.1mg、脂質量0.85mg)を混合した移植液を皮下注射。
マウスc;lipo取り込み細胞を含む細胞懸濁液を皮下注射。
マウスd;MBT−2細胞を含む細胞懸濁液と実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム(BCG−CWS量0.1mg、脂質量0.85mg)を含むPBSを、互いに離れた部位に皮下注射。
【0098】
腫瘍組織の総面積、生存腫瘍組織の面積、壊死腫瘍組織の面積および壊死細胞の割合(%)を測定した結果を
図13に示す。
図13に示すように、マウスb〜dでは、マウスaと比較して、腫瘍組織の総面積および生存腫瘍組織の面積が顕著に小さく、壊死腫瘍組織の面積が小さいもののほぼ同等レベルであり、かつ、壊死細胞の割合が大きかった。すなわち、MBT−2細胞を移植するとともにBCG−CWS内封リポソームを投与した場合は、移植したMBT−2細胞に由来する腫瘍組織の増大が抑制されるとともに、腫瘍組織における細胞の壊死が維持ないし促進されることが明らかになった。
【0099】
また、マウスbおよびマウスcでは、マウスdと比較しても、腫瘍組織の総面積および生存腫瘍組織の面積が小さく、かつ、壊死細胞の割合が顕著に大きかった。すなわち、BCG−CWS内封リポソームとMBT−2細胞とを混合して移植した場合、あるいは、BCG−CWS内封リポソームを取り込ませたMBT−2細胞を移植した場合は、腫瘍組織の増大の抑制効果や腫瘍組織における細胞の壊死の維持ないし促進効果が大きくなることが明らかになった。
【0100】
次に、腫瘍組織における各種白血球の数および割合を測定した結果を
図14に示す。なお、
図14下の写真図において、色が濃く丸い核を持つ細胞がリンパ球である。
図14に示すように、マウスb〜dでは、マウスaと比較して、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球、マスト細胞および総白血球の数が多かった。また、各種白血球の増加の割合は、マウスb〜dでは、マウスaと比較して、リンパ球が特に大きかった。すなわち、MBT−2細胞を移植するとともにBCG−CWS内封リポソームを投与した場合は、移植したMBT−2細胞に由来する腫瘍組織への免疫細胞の浸潤、特にリンパ球の浸潤が促進されることが明らかになった。
【0101】
また、マウスbおよびマウスcでは、マウスdと比較しても、腫瘍組織におけるリンパ球、好中球、好酸球、マスト細胞および総白血球の数が多く、リンパ球の増加の割合が大きかった。すなわち、BCG−CWS内封リポソームとMBT−2細胞とを混合して移植した場合、あるいは、BCG−CWS内封リポソームを取り込ませたMBT−2細胞を移植した場合は、腫瘍組織への免疫細胞の浸潤効果が大きくなることが明らかになった。
【0102】
(2)膀胱癌モデルラットにおける効果
6週齢の雄のF344/DuCrlCrljラット(日本チャールズリバー社)54匹を用意した。これらのラットを、発癌物質であるN−butyl−N−(4−hydroxybutyl)nitrosamineを0.05%含む飲料水および発癌促進物質であるアスコルビン酸ナトリウムを5%含む飼料を自由摂取させながら8週間飼育することにより膀胱癌を誘発して、膀胱癌モデルラットを作製した。膀胱癌モデルラットを9匹ずつG〜Lの6群に分け、下記のリポソームを含むリン酸緩衝液を、1週間ごとに計8回、膀胱内に投与しながら飼育した。膀胱内投与は、エーテルによる軽麻酔下でラットを仰臥位にし、圧迫により排尿させた後、24G×3/4インチの留置針を装着した外套カテーテルを外尿道口より挿入し、これを用いて投与することにより行った。また、リポソーム投与中の飼育期間は、通常の食餌および飲料水を自由摂取させ、標準的な温度および湿度ならびに明期および暗期のいずれも12時間の条件下で飼育した。
【0103】
『投与したリポソーム(〈〉中の記載は1回あたりの投与量を示す)』
G群;(何も投与しない)
H群;実施例1(1)[1−1]の空リポソーム〈脂質量(BCG−CWS量換算)0.1mg/1mL×ラット個体の体重(kg)〉
I群;実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム〈BCG−CWS量0.1mg/1mL×ラット個体の体重(kg)〉
J群;実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソーム〈BCG−CWS量0.03mg/1mL×ラット個体の体重(kg)〉
K群;実施例1(4)のBCG−CWS含有脂質膜リポソーム〈BCG−CWS量0.1mg/1mL×ラット個体の体重(kg)〉
L群;実施例1(4)のBCG−CWS含有脂質膜リポソーム〈BCG−CWS量0.03mg/1mL×ラット個体の体重(kg)〉
【0104】
最終投与から1週間飼育した後に解剖し、膀胱を摘出して10%中性緩衝ホルマリンに浸漬することにより固定した。固定後、膀胱を矢状断に分割し、電子天秤を用いて重量を測定した。ここで、膀胱重量は膀胱癌の進行に伴って大きくなると考えられる。その後、膀胱を4分割してパラフィンに包埋し、約3μm厚さの切片を作製してヘマトキシリンエオシン染色を行った。染色した切片を観察して上皮性病変(腫瘍)数を数えた。また、膀胱基底膜の長さを画像解析により測定し、測定結果に基づき、膀胱基底膜10cmあたりの上皮性病変(腫瘍)数を算出した。続いて、I群〜L群の膀胱重量および膀胱基底膜10cmあたりの上皮性病変(腫瘍)数について、G群およびH群それぞれに対して有意差検定(1元配置分散分析、Dunnett法)を行った。さらに、G群〜J群について本実施例4(1)[1−1]に記載の方法により腫瘍体積を測定し、膀胱を取り出して2つに割り、粘膜面のデジタル写真を撮影後、腫瘍病変の2値化画像を作成し、病変数と腫瘍体積を測定した。
【0105】
G群、I群およびJ群の腫瘍体積について、H群に対して有意差検定(1元配置分散分析、Dunnett法)を行った。G群〜J群の膀胱の切片を
図15に、G群〜L群の膀胱重量および膀胱基底膜10cmあたりの上皮性病変(腫瘍)数ならびにG群〜J群の腫瘍体積の測定結果を
図16に、それぞれ示す。
【0106】
図16左図に示すように、膀胱重量は、G群〜L群のうちI群およびJ群が最も小さかった。また、I群〜K群は、H群に対して有意に小さかった。すなわち、膀胱癌モデルラットにBCG−CWS内封リポソームを投与すると、膀胱重量が減少あるいは膀胱重量の増大が抑制されることが明らかになった。また、
図15に示すように、I群およびJ群では、GおよびH群と比較して、膀胱における上皮性病変(腫瘍)の数が顕著に少なかった。また、
図16中央図に示すように、膀胱基底膜10cmあたりの上皮性病変(腫瘍)数は、I群〜L群のいずれも、H群に対して有意に少なかった。J群〜L群は、G群に対しても有意に少なかった。すなわち、膀胱癌モデルラットにBCG−CWS内封リポソームを投与すると、上皮性病変(腫瘍)の数が減少あるいは上皮性病変(腫瘍)の数の増大が抑制されることが明らかになった。また、
図16右図に示すように、腫瘍体積は、I群およびJ群では、G群およびH群と比較して小さかった。特に、I群ではH群と比較して有意に小さかった。すなわち、膀胱癌モデルラットにBCG−CWS内封リポソームを投与すると、腫瘍体積が減少あるいは腫瘍体積の増大が抑制されることが明らかになった。
【0107】
以上の本実施例4(1)[1−1]〜(2)の結果から、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、複数個のアルギニン残基からなるペプチドと結合した脂質を構成脂質として含む、非極性溶媒に分散性を有する細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体は、癌の治療をすることや癌の進行を抑制することができることが示された。また、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、複数個のアルギニン残基からなるペプチドと結合した脂質を構成脂質として含む、非極性溶媒に分散性を有する細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体は、癌細胞に直接投与することにより、一層高い抗癌作用を発揮することが示された。
【0108】
<実施例5>免疫賦活作用
(1)ナイーブCD4陽性T細胞の単離
4名の健康な被験者から血液を採取し、Ficol−Paque(Pharmacia Upjohn社)を用いて末梢血単核球を単離した。続いて、FITC標識抗CD8/CD45RO抗体を反応させることにより、ナイーブCD4陽性T細胞をFITC標識した。次に、抗FITCマグネティックビーズ(Miltenyi Biotec社)およびAuto−MACSセルソーター(Miltenyi Biotec社)を用いてFITC標識した細胞を単離し、ナイーブCD4陽性T細胞を得た。
【0109】
(2)リポソームの添加
本実施例5(1)のナイーブCD4陽性T細胞の培地に、PBSに懸濁した牛型結核菌の細胞壁画分(BCG−CW)、実施例1(1)[1−1]の空リポソームおよび実施例1(1)[1−3]のBCG−CWS内封リポソームを添加し、それぞれポジティブコントロール群、ネガティブコントロール群および試験群とした。添加量は、BCG−CWまたはBCG−CWSの量で、終濃度が1、3、10および30μg/mLとした。また、何も添加しないナイーブCD4陽性T細胞を基準群とした。続いて、これらの細胞群を、Th1細胞またはTh2細胞の分化誘導用培地を用いて、37℃のCO
2インキュベーター内で1週間培養した。この1週間の培養期間のうち、始めの2日間は20μg/mLのanti−CD3抗体を各培地に添加して培養し、残りの5日間はanti−CD3抗体を添加しない培地で培養した。Th1細胞の分化誘導用培地としては、50U/mLのIL−2(Shionogi&Co社)、1ng/mLのIL−12(R6D systems社)および5μg/mLのanti−IL−4抗体(BD Bioscience社)を含む10%血清入RPMI1640培地を、Th2細胞の分化誘導用培地としては、50U/mLのIL−2(Shionogi&Co社)、1ng/mLのIL−4(R&D systems社)および5μg/mLのanti−IFN−γ抗体(BD Bioscience社)を含む10%血清入RPMI1640培地を、それぞれ用いた。その後、抗IFN−γ抗体および抗IL−4抗体を反応させ、IFN−γおよびIL−4を産生する細胞を、フローサイトメトリー(FACSCalibur;日本BD社)により検出した。4名の被験者のうち、任意に選択した1名の結果を
図17に示す。
【0110】
図17上図に示すように、Th1細胞の分化誘導用培地を用いた場合(Th1分化誘導環境)下では、IFN−γを産生し、かつIL−4を産生しない細胞(Th1細胞)の数は、試験群では、添加量に関わらず、ネガティブコントロール群と比較して大きかった。特に、添加量が30μg/mLの場合、試験群のTh1細胞数は、ネガティブコントロール群および基準群と比較して大きく、ポジティブコントロール群と比較して、同程度であった。すなわち、Th1分化誘導環境下において、BCG−CWS内封リポソームは、ナイーブCD4陽性T細胞のTh1細胞への分化を促進することが明らかになった。
【0111】
一方、
図17下図に示すように、Th2細胞の分化誘導用培地を用いた場合(Th2分化誘導環境)下では、IFN−γを産生せず、かつIL−4を産生する細胞(Th2細胞)の数は、試験群では、添加量に関わらず、ネガティブコントロール群および基準群と比較して小さく、ポジティブコントロール群と比較して、同程度であった。また、試験群のTh1細胞数は、添加量が3、10および30μg/mLの場合、ネガティブコントロール群および基準群と比較して大きく、ポジティブコントロール群と比較して、同程度であった。すなわち、Th2分化誘導環境下においても、BCG−CWS内封リポソームは、ナイーブCD4陽性T細胞のTh1細胞への分化を促進して、Th2細胞への分化を抑制することが明らかになった。
【0112】
次に、フローサイトメトリーでの測定結果に基づき、ナイーブCD4陽性T細胞がIFN−γ産生細胞またはIL−4産生細胞へ変化する率(変化率;%)を算出した。変化率は、基準群におけるIFN−γ産生細胞およびIL−4産生細胞の割合を100%としたときの、各群における各細胞の割合として算出した。続いて、変化率について、4名の被験者の結果の平均値および標準偏差を求めた。また、試験群の変化率について、ネガティブコントロール群に対して有意差検定(独立t検定)を行った。その結果を
図18に示す。
【0113】
図18に示すように、試験群におけるIFN−γ産生細胞への変化率は、Th1分化誘導環境およびTh2分化誘導環境のいずれにおいても、ネガティブコントロール群と比較して大きい傾向であった。特に、Th2分化誘導環境下で添加量が30μg/mLの場合、試験群におけるIFN−γ産生細胞への変化率は、ネガティブコントロール群と比較して有意に大きかった。また、試験群におけるTh2分化誘導環境下でのIL−4産生細胞への変化率は、添加量が3、10および30μg/mLの場合、ネガティブコントロール群と比較して有意に小さく、添加量が1μg/mLの場合も、ネガティブコントロール群と比較して小さい傾向であった。すなわち、Th1分化誘導環境およびTh2分化誘導環境のいずれにおいても、BCG−CWS内封リポソームは、ナイーブCD4陽性T細胞のTh1細胞への分化を促進することが明らかになった。また、Th2分化誘導環境下において、BCG−CWS内封リポソームは、ナイーブCD4陽性T細胞のTh2細胞への分化を抑制することが明らかになった。
【0114】
以上の本実施例5(2)の結果から、濾過滅菌処理が可能な粒子径を有し、複数個のアルギニン残基からなるペプチドと結合した脂質を構成脂質として含む、非極性溶媒に分散性を有する細菌菌体成分を内封する脂質膜構造体は、免疫細胞に作用して、細胞性免疫を賦活することが示された。