(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一工程が、電解析出浴として硝酸ニッケル水溶液を用い、集電体を作用極とし、集電体表面に平坦なβ型水酸化ニッケル被膜を電解析出させることにより正極を製造する工程である、請求項4に記載のアルカリ二次電池の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1には、α型水酸化ニッケルは、アルカリ水溶液に不安定であり、β型水酸化ニッケルに転移(transform)しやすいという問題が開示されている。また、β型水酸化ニッケルは、緻密な形態で生成するのに対し、α型水酸化ニッケルは不定形な形態で生成する傾向があるという問題があり、非特許文献1に開示されている水酸化ナトリウムと硫酸ニッケルとの混合物のスラリーから合成されたα型水酸化ニッケルは、アモルファス形態を有する。さらに、α型水酸化ニッケルは、β型水酸化ニッケルと比べて、充放電時の体積変化が大きいことが知られている。これらの理由により、α型水酸化ニッケルは、β型水酸化ニッケルに比べて、電池の正極活物質として利用しにくいとされてきた。
【0009】
非特許文献2には、ポリスチレン及びメタクリル酸からなる球状のコアの表面に、尿素を用いてアルミニウム置換α型水酸化ニッケルを生成させた後、当該コアをトルエンで除去することにより、アルミニウム置換α型水酸化ニッケルの中空球を製造する方法が開示されている。アルミニウム置換α型水酸化ニッケルは、アルカリ水溶液に安定であり、β型水酸化ニッケルに転移しにくい。しかし、非特許文献2に開示されているアルミニウム置換α型水酸化ニッケル中空球の製造方法は、その製造工程が複雑である。
【0010】
非特許文献2に開示されている製造方法によって製造されたアルミニウム置換α型水酸化ニッケル中空球は、除去されるコアの体積よりも、アルミニウム置換α型水酸化ニッケル中空球の体積がさらに大きいという問題がある。さらに、このアルミニウム置換α型水酸化ニッケル中空球には、沈殿剤として用いられる尿素のような窒素含有物が残留するという問題がある。水酸化ニッケルをニッケル水素電池の正極活物質として用いる場合、窒素含有物が自己放電を誘発することがあり、焼成により正極活物質から窒素酸化物を除去することが好ましい。しかし、水酸化ニッケルは、120℃以上で酸化ニッケル(NiO)に変化し始めるため、焼成に伴って正極活物質であるアルミニウム置換α型水酸化ニッケルの組成が変化し、電気化学的特性が低下するおそれがある。
【0011】
特許文献1では、β型水酸化ニッケルに比べて、α型水酸化ニッケルの充放電時における体積の膨張収縮が大きいという問題に対し、曲率の大きい炭素繊維の表面にα型水酸化ニッケル層を電解析出により形成させるというアプローチを取っている。そして、特許文献1には、硝酸ニッケルとアルミニウム塩(硝酸アルミニウム)と水とを含有する電解析出用溶液を用いて、炭素繊維(集電体)の表面にα型水酸化ニッケル層を電解析出させたファイバー正極を製造する方法が開示されている。
【0012】
しかし、アルミニウム塩を添加することにより電解析出用溶液が強酸性になるため、電解析出するα型水酸化ニッケルの形態制御(集電体の炭素繊維全体に水酸化ニッケルを均一の厚みで析出させる制御)が困難となる。水酸化ニッケルの電気伝導性が良くないため、不定形に厚く析出した部分では充電されにくい。一方、これを解消するために水酸化ニッケルの厚みを薄くしすぎると、正極のエネルギー密度が低下する。エネルギー密度を最大化するためにも、各繊維上に均一な厚さの活物質層を形成することが好ましい。
【0013】
本発明は、均一で緻密なα
型水酸化ニッケル層を有するアルカリ二次電池用正
極の製造方法、
及びそのようなアルカリ二次電池用正極を備えるアルカリ二次電
池の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記従来技術の問題点を解決すべく鋭意検討した。その結果、本発明者等は、β型水酸化ニッケルを、アルミニウムを特定濃度範囲となるように溶解させた苛性アルカリ水溶液に浸漬させることにより、α型水酸化ニッケルへと転移させ得ることを見出した。すなわち、β型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を、アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させた苛性アルカリ水溶液に浸漬させることにより、α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を製造し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
具体的に、本発明は、
集電体にβ型水酸化ニッケルを固定する固定工程と、
β型水酸化ニッケルを固定した集電体を、アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させた苛性アルカリ水溶液に浸漬し、β型水酸化ニッケルをα型水酸化ニッケルに転移させる浸漬工程と、
を有する、アルカリ二次電池用正極の製造方法に関する。
【0016】
β型水酸化ニッケルを固定した集電体を、アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させた苛性アルカリ水溶液に浸漬することにより、α型水酸化ニッケルを正極活物質として固定したアルカリ二次電池用正極を容易に製造することが可能である。
【0017】
ここで、アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させた苛性アルカリ水溶液とは、アルミニウムイオンをアルミニウム換算で0.1質量%以上5質量%以下の濃度で含有する苛性アルカリ水溶液を意味する。すなわち、ここでいう濃度(質量%)とは、アルミニウム化合物を苛性アルカリ水溶液に溶解させる場合には、溶解後の苛性アルカリ水溶液中のアルミニウム化合物濃度から算出される金属アルミニウム濃度を意味する。
【0018】
前記固定工程は、
電解析出浴として硝酸ニッケル水溶液を用い、集電体を作用極とし、集電体表面に平坦なβ型水酸化ニッケル被膜を電解析出させる工程であることが好ましい。ここでいう「平坦な」とは、集電体表面に電解析出する被膜(正極活物質層)が、ほぼ均一で平らな表面を有することを意味する。後述するように、集電体がカーボンファイバーである場合には、カーボンファイバー表面に形成されている正極活物質層が略円環状であることを意味する。
【0019】
特許文献1に開示されているように、電解析出浴として硝酸ニッケル水溶液を用いて、集電体を作用極とし、集電体表面にβ型水酸化ニッケルを電解析出させると、電解析出されるβ型水酸化ニッケルは、均一で緻密な被膜を形成する。このβ型水酸化ニッケル被膜を形成した集電体を、アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させた苛性アルカリ水溶液に浸漬すれば、均一で緻密なα型水酸化ニッケル被膜を集電体表面に形成させたアルカリ二次電池用正極を製造することが可能となる。
【0020】
前記集電体は、カーボンファイバーであることが好ましい。
【0021】
本発明はまた、
α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を備えるアルカリ二次電池の製造方法であって、
前記製造方法は、
集電体にβ型水酸化ニッケルを固定することにより正極を製造する第一工程と、
前記第一工程で製造された正極と、
水素吸蔵合金から構成される負極と、
正極と負極とを隔離するセパレータと、
アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させたアルカリ電解液と、
を備えるアルカリ二次電池を作製する第二工程と、
前記第二工程において作製されたアルカリ二次電池を充電及び放電させることにより、正極のβ型水酸化ニッケルをα型水酸化ニッケルへと転移させる第三工程と、
を有する、製造方法に関する。
【0022】
集電体にβ型水酸化ニッケルを固定した正極と、水素吸蔵合金から構成される負極と、セパレータと、アルミニウムを0.1質量%以上5質量%以下の範囲となるように溶解させたアルカリ電解液とを備えるアルカリ二次電池を作製した後、当該アルカリ二次電池について充電及び放電を繰り返すことによって、正極活物質であるβ型水酸化ニッケルがα型水酸化ニッケルへと転移する。その結果、第三工程後に、α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を備えるアルカリ二次電池が得られる。
【0023】
前記第一工程は、電解析出浴として硝酸ニッケル水溶液を用い、集電体を作用極とし、集電体表面にβ型水酸化ニッケル被膜を電解析出させることにより正極を製造する工程であることが好ましい。
【0024】
第一工程において、電解析出によって集電体表面に均一で緻密なβ型水酸化ニッケル被膜が形成された正極を製造することにより、第三工程後に、集電体表面に均一で緻密なα型水酸化ニッケル被膜が形成された正極を備えるアルカリ二次電池が得られる。
【0025】
本発明のアルカリ二次電池の製造方法においても、前記集電体がカーボンファイバーであることが好ましい。
【0029】
本発明は、
上記アルカリ二次電池用正極の製造方法によって製造された正極と、
水素吸蔵合金から構成される負極と、
正極と負極とを隔離するセパレータと、
アルカリ電解液と、
を用いて電池を組み立てることを特徴とする、アルカリ二次電池の製造方法にも関する。
【0030】
本発明は、
集電体の表面に、正極活物質として平坦なα型水酸化ニッケル被膜が形成されていることを特徴とする正極と、
水素吸蔵合金から構成される負極と、
正極と負極とを隔離するセパレータと、
アルカリ電解液と、
を用いて電池を組み立てることを特徴とする、アルカリ二次電池の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、β型水酸化ニッケルの形態をほとんど変えずに、容易にα型水酸化ニッケルへと転移させ得る。その結果、均一で緻密なα型水酸化ニッケル被膜を有するアルカリ二次電池用正極、及びα型水酸化ニッケル被膜を有するアルカリ二次電池用正極を備えるアルカリ二次電池を容易に製造し得る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0034】
<α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極の製造方法>
[実施例1]
(固定工程)
平均直径が7μmの黒鉛繊維(市販のポリアクリロニトリル繊維を2本用いた撚り糸を黒鉛化した繊維)に、ジメチルアミンボランの還元作用を利用したニッケル−ボロン合金めっき(ボロン1質量%)析出法による無電解ニッケルめっきを施した。その後、さらに電解ニッケルめっきを施した。電解ニッケルめっきのめっき浴として、硫酸ニッケル350g/L、塩化ニッケル45g/L及びホウ酸42g/Lを主成分として含有する、いわゆるワット浴を用いた。
【0035】
具体的には、長さ50mmの黒鉛繊維3000本を、2枚の発泡状ニッケル片で挟んで圧着することにより固定し、これを端子としてワット浴中に入れた。対極としては、厚さ2mmのニッケル板を使用した。ニッケルめっきは、繊維表面に、無電解めっきと電解めっきとを含むめっき層の厚さが、平均で0.5μmになるように施した。このようにして、ファイバー集電体を製造した。電解めっきの条件は、電流密度を20mA/cm
2、通電時間を10分間とした。
【0036】
次いで、硝酸ニッケル(6水和物)210gに水500gを加え、pH5に調整して電解析出用溶液E1を調製した。電解析出用溶液E1に、上記ファイバー集電体を陰極とし、厚さ2mmのニッケル板を陽極とし、セパレータとしてポリプロピレン製不織布を両極間に配して、電解析出を行った。電析条件は、電流密度を12mA/cm
2、電析時間を10分間とした。ファイバー集電体表面には、水酸化ニッケルが析出した。
【0037】
水酸化ニッケルが表面に析出したファイバー集電体を、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液(60℃)に1時間浸漬した。その後、水酸化ニッケルが表面に析出したファイバー集電体を水洗し、乾燥させて、正極A0を得た。正極A0は、活物質である水酸化ニッケルの充填密度が、集電体を含めて300mAh/ccであった。正極A0は、アルカリ蓄電池用の正極として機能し得る。
【0038】
図1は、正極A0表面の電子顕微鏡写真を示す。正極A0表面には、均一で緻密な円筒状の水酸化ニッケル被膜が形成されている。
【0039】
図2は、正極A0のXRD回折パターンを示す。
図2中の矢印は、β型水酸化ニッケル特有のピークであり、正極A0表面の水酸化ニッケルは、β型水酸化ニッケルであることが確認された。
【0040】
(浸漬工程)
20質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、1質量%となるように金属アルミニウムを溶解させ、苛性アルカリ水溶液S1を調製した。ここではアルカリとして、水酸化ナトリウムを使用したが、水酸化リチウム又は水酸化カリウムを使用してもよく、これらアルカリ化合物を混合して使用してもよい。
【0041】
室温(25℃)の苛性アルカリ水溶液S1に正極A0を10時間浸漬した。その後、水洗及び乾燥を経て、正極A1を得た。
【0042】
図3は、正極A1表面の電子顕微鏡写真を示す。正極A1表面には、正極A0表面と同様に、均一で緻密な円筒状の水酸化ニッケル被膜が形成されている。
【0043】
図4は、正極A1のXRD回折パターンを示す。
図4中の矢印は、α型水酸化ニッケル特有のピークを示しており、正極A1表面の水酸化ニッケルは、α型水酸化ニッケルであることが確認された。このように、本発明の浸漬工程によって、ファイバー集電体表面に形成された、均一で緻密な円筒状のβ型水酸化ニッケル被膜を、被膜の形態を維持したまま、α型水酸化ニッケル被膜へと転移させ得ることが確認された。
【0044】
ファイバー集電体自体は、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移には関与しない。このため、炭素繊維以外の集電体にβ型水酸化ニッケルを電解析出固定させた場合にも、実施例1と同様に、β型水酸化ニッケルをα型水酸化ニッケルへと転移させ得る。また、β型水酸化ニッケルそのものを、金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S1に浸漬することによっても、β型水酸化ニッケルをα型水酸化ニッケルへと転移させることが可能である。
【0045】
α型水酸化ニッケルは、アルカリ水溶液に不安定であるため(非特許文献1参照)、正極A1表面のα型水酸化ニッケルは、アルミニウム置換α型水酸化ニッケル、又は水酸化ニッケルの結晶中の原子間にアルミニウムイオンがインターカレートされたα型水酸化ニッケルであると推測される。
【0046】
苛性アルカリ水溶液に添加するアルミニウム源は、アルカリ水溶液に溶解させ得ることができれば足りる。例えば、金属アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム酸化物、又はアルミン酸のようなアルミニウム化合物が使用可能である。アルミニウムを含有する水溶液を苛性アルカリ水溶液に添加することによっても、アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液を調製し得る。金属アルミニウムは、苛性アルカリ水溶液と容易に反応して溶解するため、アルミ添加量の調整が容易であり、かつ母液となるアルカリ水溶液の濃度変化もほとんどないため、アルミニウム源として好適である。
【0047】
[比較例1]
硝酸ニッケル(6水和物)160gと硝酸アルミニウム(9水和物)42gに水500gを加え、電解析出用溶液E2を調製した。電解析出用溶液E2に、実施例1と同じファイバー集電体を陰極とし、厚さ2mmのニッケル板を陽極とし、セパレータとしてポリプロピレン製不織布を両極間に配して、電解析出を行った。電解析出条件は、電流密度を15mA/cm
2、電析時間を10分間とした。
【0048】
電解析出物が表面に電解析出したファイバー集電体を、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液(60℃)に1時間浸漬した。その後、電解析出物が表面に析出したファイバー集電体を水洗し、乾燥させて、正極B1を得た。正極B1は、活物質である水酸化ニッケルの充填密度が、集電体を含めて280mAh/ccであった。正極B1は、アルカリ蓄電池用の正極として機能し得る。
【0049】
図5は、正極B1表面の電子顕微鏡写真を示す。
図5より、正極B1表面には、不定形な形態を有する電解析出物が存在し、この電解析出物(正極活物質層)は略円環状ではないことが確認された。
【0050】
図6は、正極B1のXRD回折パターンを示す。
図6には、α型水酸化ニッケルに特有のピークが認められるため、正極B1表面の電解析出物中に、α型水酸化ニッケルが存在していることが確認された。すなわち、正極B1は、正極活物質層がα型水酸化ニッケルを含有するファイバー正極であるが、正極A1とは異なり、その正極活物質層が不定形な形態であることが確認された。
【0051】
[実施例2]
20質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、0.1質量%の金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S2を調製した。苛性アルカリ水溶液S1の代わりに苛性アルカリ水溶液S2を使用して浸漬工程を1時間とする以外、すべて実施例1と同様に操作し、正極A2を得た。
【0052】
[実施例3]
苛性アルカリ水溶液S2の温度を60℃とする以外、すべて実施例2と同様に操作し、正極A3を得た。
【0053】
図7は、正極A2及びA3のXRD回折パターンを示す。正極A2について、α型水酸化ニッケルのピークが観察されたが、β型水酸化ニッケルのピークも確認された。一方、正極A3については、β型水酸化ニッケルのピークが観察されず、α型水酸化ニッケルのピークのみが観察された。
【0054】
[実施例4]
浸漬工程を1時間とする以外、すべて実施例1と同様に操作し、正極A4を得た。
【0055】
[実施例5]
苛性アルカリ水溶液S2の温度を60℃とする以外、すべて実施例4と同様に操作し、正極A5を得た。
【0056】
図8は、正極A4及びA5のXRD回折パターンを示す。
図8より、正極A4及びA5ともに、β型水酸化ニッケルのピークは観察されず、α型水酸化ニッケルのピークが観察された。特に浸漬工程を60℃とした正極A5は、ブラッグ角12度付近にもα型水酸化ニッケルのピークが確認された。
【0057】
[実施例6]
20質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、5質量%の金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S3を調製した。苛性アルカリ水溶液S1の代わりに苛性アルカリ水溶液S3を使用して浸漬工程を1時間とする以外、すべて実施例1と同様に操作し、正極A6を得た。
【0058】
[実施例7]
苛性アルカリ水溶液S3の温度を60℃とする以外、すべて実施例6と同様に操作し、正極A7を得た。
【0059】
図9は、正極A6及びA7のXRD回折パターンを示す。
図9より、正極A6及びA7ともに、β型水酸化ニッケルのピークが観察されず、α型水酸化ニッケルの強いピークが観察された。
【0060】
(浸漬工程の温度)
実施例2〜5から、金属アルミニウムを0.1質量%溶解させた苛性アルカリ水溶液であっても、β型水酸化ニッケルがα型水酸化ニッケルへと転移することが確認された。実施例2〜5から、浸漬工程において、金属アルミニウムを0.1〜1質量%溶解させた苛性アルカリ水溶液の液温を60℃とすることにより、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移が進みやすいことも確認された。
【0061】
実施例6及び7から、金属アルミニウムを5質量%溶解させた苛性アルカリ水溶液を使用した場合、金属アルミニウム0.1質量%又は1質量%溶解させた苛性アルカリ水溶液を使用する場合と比較して、25℃及び60℃いずれの液温であっても、β型水酸化ニッケルがα型水酸化ニッケルへと転移することが確認された。
【0062】
以上から、浸漬工程における苛性アルカリ水溶液の液温は、室温でもよいが、苛性アルカリ水溶液を加温することにより、β型水酸化ニッケルのα型水酸化ニッケルの転移を促進することができると考えられた。ただし、水酸化ニッケルは、120℃以上で酸化ニッケルへと変化し始めるため、苛性アルカリ水溶液の液温は、120℃未満とすることが好ましい。
【0063】
図9より、金属アルミニウムを5質量%溶解させた苛性アルカリ水溶液を使用する場合、正極A6(液温25℃)と正極A7(液温60℃)との間でα型水酸化ニッケルのピークの相対強度に大きな差が認められなかった。このことから、苛性アルカリ水溶液に溶解させる金属アルミニウムは、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましいと判断された。
【0064】
<α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を備えるアルカリ二次電池の製造例>
[実施例8/第1の製造方法]
正極A1と、正極A1の10倍の計算容量を有する水素吸蔵合金負極と、両極間に配する厚さ150μm、多孔度50%の親水化処理ポリプロピレン不織布を用いたセパレータと、水酸化カリウム5.9mol/L及び水酸化リチウム1.3mol/Lとから構成される苛性アルカリ水溶液S4(キシダ化学株式会社製)とを用いて、特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。
【0065】
水素吸蔵合金負極は、公知の水素吸蔵合金(Al、Mn及びCoを含有するMmNi系5元合金)粉末を、1質量%のカルボキシメチルセルロース水溶液に加えることにより得られたスラリーを、鉄にニッケルめっきしたパンチングメタル(集電体)の両面に塗着することにより作製された。
【0066】
図10は、実施例8の特性試験評価用セルの放電特性に関するグラフを示す。横軸のSOCは、State of Charge の略であり、100%=289mAh/gである。
図10から、正極A1は、α型水酸化ニッケルを用いたニッケル水素電池の放電電圧と同じ放電電圧1.3Vを示すことが確認された。β型水酸化ニッケルを用いた従来のニッケル水素電池の放電電圧は、1.2Vであることから、正極A1を備えるアルカリ二次電池は、従来のニッケル水素電池を上回る放電電圧を発揮することが確認された。
図10に示される放電特性と、
図7〜9のXRD回折パターンから、正極A2〜A7も、正極A1と同様、放電電圧1.3Vを示すことが推測された。
【0067】
[実施例9/第2の製造方法1]
(第一工程及び第二工程)
正極A0と、実施例8と同じ水素吸蔵合金負極及びセパレータと、苛性アルカリ水溶液S4に1質量%となるように金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S5とを用いて、特性試験評価用セルを作製した。
【0068】
(第三工程)
まず、苛性アルカリ水溶液S5の液温を25℃とし、カットオフ電圧を0.8Vとして、0.1Cの電流で15サイクル充放電することにより、特性試験評価用セルを活性化させた。充放電は、1サイクルであってもよいが、2サイクル以上の充放電を繰り返すことによって、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへと転移が促進される。ファイバー電極の場合には、10〜20サイクル以上の充放電を繰り返すことが好ましい。
【0069】
活性化処理終了後、特性試験評価用セルの充放電特性を調べた。さらに、充放電特性を調べた後、特性試験評価用セルから正極(正極A8)を取り出し、正極A8のX線回折を行った。
【0070】
図11は、実施例9の特性試験評価用セルの放電特性に関するグラフを示す。
図11から、電解液として苛性アルカリ水溶液S5を用い、活性化処理を行った特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)は、実施例8の特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)と同様、放電電圧1.3Vを示した。
【0071】
図12は、正極A0及びアルカリ二次電池から取り出された正極A8のXRD回折パターンを示す。正極A0のXRD回折パターンには、β型水酸化ニッケルの強いピークが観察されたが、
図12に示される正極A8のXRD回折パターンには、β型水酸化ニッケルの強いピークは観察されず、α型水酸化ニッケルの強いピークが観察された。このことから、正極A0のβ型水酸化ニッケルは、金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S5を電解液とするアルカリ二次電池を充放電して活性化処理することにより、α型水酸化ニッケルへと転移することが確認された。
【0072】
このように、β型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極と、金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液(電解液)とを用いてアルカリ二次電池を作製し、室温で活性化処理を行うことによっても、α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を備えるアルカリ二次電池を製造し得ることが確認された。
【0073】
[比較例2]
苛性アルカリ水溶液S5の代わりに苛性アルカリ水溶液S4を使用すること以外、すべて実施例9と同様にして特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。その後、特性試験評価用セルから正極B2を取り出し、活性化処理後の正極B2のX線回折を行った。
【0074】
図13は、比較例2の特性試験評価用セルの放電特性に関するグラフを示す。
図13から、金属アルミニウムを溶解させていない苛性アルカリ水溶液を電解液として使用するアルカリ二次電池は、活性化処理を行うと放電電圧がなだらかに1.2Vに低下し、概ね放電が完了するまで放電電圧は1.2Vであった。
【0075】
図14は、正極A0及びB2のXRD回折パターンを示す。
図14から、正極B2には、β型水酸化ニッケルの強いピークが観察され、α型水酸化ニッケルのピークは観察されなかった。このため、電解液である苛性アルカリ水溶液に金属アルミニウムが溶解されていなければ、正極活物質であるβ型水酸化ニッケルがα型水酸化ニッケルへと転移しないことが確認された。
【0076】
[実施例10/第2の製造方法2]
苛性アルカリ水溶液S5の代わりに、苛性アルカリ水溶液S4に0.1質量%となるように金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S6を使用すること以外、すべて実施例9と同様にして特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。
【0077】
図15は、実施例10の特性試験評価用セルの放電特性に関するグラフを示す。
図15から、電解液として苛性アルカリ水溶液S6を用い、活性化処理を行った特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)は、実施例8の特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)と同様、放電電圧1.3Vを示し、概ね放電が完了するまで放電電圧は1.3Vで安定であった。
【0078】
[実施例11/第2の製造方法3]
苛性アルカリ水溶液S5の代わりに、苛性アルカリ水溶液S4に5質量%となるように金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液S7を使用すること以外、すべて実施例9と同様にして特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。
【0079】
図16は、実施例11の特性試験評価用セルの放電特性に関するグラフを示す。
図16から、電解液として苛性アルカリ水溶液S7を用い、活性化処理を行った特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)は、実施例8の特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)と同様、放電電圧1.3Vを示した。SOCが10〜50%の範囲では、1.28V程度の放電電圧が保持されていた。
【0080】
[実施例12/第2の製造方法4]
(第一工程)
水酸化コバルトを表面コーティングしたβ型水酸化ニッケル粉末100gに対して、増粘剤であるカルボキシルメチルセルロース(CMC)0.25g及びイオン交換水25gを加えて均一に混合し、発泡ニッケル基材へ充填した。その後、発泡ニッケル基材を60℃で5時間乾燥させた後、プレス処理することよって、ペースト式ニッケル正極B3を作製した。
【0081】
(第二工程及び第三工程)
正極B3と、実施例9と同じ水素吸蔵合金負極、セパレータ及び苛性アルカリ水溶液S5を用いて、特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。
【0082】
実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。その後、特性試験評価用セルから正極A9を取り出し、活性化処理後の正極A9のX線回折を行った。
【0083】
[実施例13/第2の製造方法5]
苛性アルカリ水溶液S5の代わりに、苛性アルカリ水溶液S6を使用すること以外、すべて実施例12と同様にして特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。
【0084】
実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。その後、特性試験評価用セルから正極A10を取り出し、活性化処理後の正極A10のX線回折を行った。
【0085】
[実施例14/第2の製造方法6]
苛性アルカリ水溶液S5の代わりに、苛性アルカリ水溶液S7を使用すること以外、すべて実施例
12と同様にして特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。
【0086】
実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。その後、特性試験評価用セルから正極A11を取り出し、活性化処理後の正極A11のX線回折を行った。
【0087】
[比較例3]
苛性アルカリ水溶液S5の代わりに、苛性アルカリ水溶液S4を使用すること以外、すべて実施例
12と同様にして特性試験評価用セル(アルカリ二次電池)を作製した。
【0088】
実施例9と同一条件で活性化処理を行い、活性化処理が終わった後、充放電特性を調べた。その後、特性試験評価用セルから正極(正極B3が変化した正極B4)を取り出し、活性化処理後の正極B4のX線回折を行った。
【0089】
図17(a)〜(d)は、正極A9〜A11及びB4表面の外観写真をそれぞれ示す。
図17(a)〜(d)より、発泡ニッケル基材からの水酸化ニッケルの脱落は、正極A11(
図17(c))の場合に若干目立つ程度であることが確認された。
【0090】
図18は、正極A9〜A11及びB4のXRD回折パターンを示す。
図18より、正極B4には、β型水酸化ニッケルの強いピークが観察され、α型水酸化ニッケルのピークは観察されなかった。一方、正極A9〜A11には、β型水酸化ニッケルのピークは観察されず、α型水酸化ニッケルのピークのみが観察された。電解液である苛性アルカリ水溶液に溶解させた金属アルミニウム濃度が高いほど、α型水酸化ニッケルのピークが強くなることも確認された。
【0091】
従来、(1) アルミニウム化合物のような共存物を含有しない純粋なα型水酸化ニッケルは、アルカリ水溶液中でβ型水酸化ニッケルに転移しやすい;(2) α型水酸化ニッケルは、不定形な形態で生成しやすく、市販のβ型水酸化ニッケルのように高密度な材料を得にくい;(3) α型水酸化ニッケルとγ型オキシ水酸化ニッケルとの充放電反応は、β型水酸化ニッケルの充放電反応と比べて活物質の体積変化が大きい:とされていた。
【0092】
実施例12〜14及び比較例3より、金属アルミニウムを溶解させた苛性アルカリ水溶液を電解液として使用してアルカリ二次電池を作製すれば、活性化処理を行った後、従来型の水酸化コバルトコートした球状β型水酸化ニッケルであっても、α型水酸化ニッケルへと転移化させることが可能であることが確認された。
図17(a)〜(d)からは、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへと転移した後の正極(正極A9〜A11)が、β型水酸化ニッケルのままである正極(正極B4)と比べて、著しく脱落する状態は確認されなかった。高密度の球状β型水酸化ニッケルを出発材料とし、β型水酸化ニッケルをα型水酸化ニッケルに変化させたことで、最初からα型水酸化ニッケルとして生成させた場合よりも比較的高密度な状態を保持できていることも期待し得る。
【0093】
(本発明において使用される好適な電解液)
電解液に溶解させる金属アルミニウム量は、0.1質量%以上であることが好ましい。実施例9〜14と、比較例2及び3の結果から、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移を活性化処理により促進するためには、電解液中に溶解させる金属アルミニウム量が0.1質量%以上であることが好ましいと推測されるためである。
【0094】
一方、電解液に溶解させる金属アルミニウム量は、5質量%以下であることが好ましい。α型水酸化ニッケルとγ型オキシ水酸化ニッケルとの間の多電子反応を積極的に利用できない正極については、電解液中に含有されるアルミニウムイオンにより、正極におけるβ型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移が、活性化処理のみならず通常の充放電により進行する。このため、多電子反応が正極の抵抗を増大させるように働くおそれがある。この場合、実施例11及び12については、α型水酸化ニッケルの形態が維持されていたため、電解液に溶解させる金属アルミニウム量は、1質量%以下に抑えることが好ましいと推測される。
【0095】
ただし、多電子反応を積極的に利用できるファイバー正極の場合には、電解液に溶解させる金属アルミニウム量が5質量%以下であれば使用し得ると推測される。
【0096】
第2の製造方法に関する実施例9〜14において、充放電による活性化処理(第三工程)を行った後に、アルカリ二次電池内の電解液を、アルミニウムイオンを含有しない通常の苛性アルカリ水溶液から構成される電解液に入れ替えてもよい。これにより、電解液中のアルミニウム濃度を減少させ、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移の緩慢化又は抑制が可能になる。正極活物質層にα型水酸化ニッケルとβ型水酸化ニッケルが混在することになるため、体積変化をある程度抑えつつ、1.3Vの高い放電電圧域も保持可能と考えられる。電池用途に応じて、適宜正極活物質の組成を調整することも可能となる。
【0097】
α型水酸化ニッケルを正極活物質として使用するファイバー正極の実用的な量産においては、α型水酸化ニッケルの形態制御(繊維状集電体の表面に均一なα型水酸化ニッケル層を容易に形成すること)、及びα型水酸化ニッケル層の形成工程の簡便化が課題であった。本発明により、形態制御がしやすく、均一で緻密な形態を有するβ型水酸化ニッケル被膜を形成させた後、β型水酸化ニッケルをα型水酸化ニッケルへと転移させることにより、均一で緻密な形態を保持したα型水酸化ニッケル被膜を、簡便な工程で製造することがはじめて可能となった。
【0098】
本発明において、β型水酸化ニッケルから転移したα型水酸化ニッケルは、水酸化ニッケルのニッケル原子がアルミニウム原子に置換された「アルミニウム置換α型水酸化ニッケル」ではなく、層状構造を有する水酸化ニッケル結晶中のニッケル及び酸素からなる層の間にアルミニウムがインターカレートされた「アルミニウム含有α型水酸化ニッケル」であると推察される。その理由は、以下の通りである。
【0099】
第1に、ニッケル塩にアルミニウム塩を添加した水溶液を作製し、この水溶液とアルカリとを中和させてα型水酸化ニッケルを得る従来の方法においては、アルミニウムは主に水酸化ニッケルのニッケルサイトをアルミニウムに置換すると考えられている。一方、β型水酸化ニッケルの結晶中のニッケル原子は、酸素原子と強く結合しており、ニッケル原子はアルミニウム原子と置換することは容易ではない。本発明においては、金属アルミニウムを溶解させた(アルミニウムイオンを含有する)苛性アルカリ水溶液にβ型水酸化ニッケルを浸漬するか、又は金属アルミニウムを溶解させた(アルミニウムイオンを含有する)苛性アルカリ水溶液と、β型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極を使用してアルカリ二次電池を製造した後、アルカリ二次電池の活性化処理を行うことによって、α型水酸化ニッケルを正極活物質とする正極が得られる。このため、本発明で得られるα型水酸化ニッケルは、β型水酸化ニッケルのニッケル原子がアルミニウム原子に置換された「アルミニウム置換α型水酸化ニッケル」ではないと推察される。
【0100】
第2に、水酸化ニッケルの結晶を含むどのような結晶にも欠損があるが、β型水酸化ニッケルの結晶の欠損をアルミニウム原子が占有するだけでは、β型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移が誘発されるには至らないと考えられる。従って、本発明で得られるα型水酸化ニッケルは、β型水酸化ニッケルの結晶中の層間、特にニッケル原子と酸素原子との間にアルミニウムがインターカレートされることによって層間の距離を広がり、これによりβ型水酸化ニッケルからα型水酸化ニッケルへの転移が誘発されていると推察される。