【文献】
Baisheng SA et al.,Topological Insulating in GeTe/Sb2Te3 Phase-Change Superlattice,PHYSICAL REVIEW LETTERS,2012年 8月30日,Vol. 109, No. 9,pp. 096802-1−096802-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の結晶配向層が六方晶の結晶構造を有するとともに、第2の結晶配向層が立方晶の結晶構造を有し、前記第1の結晶配向層のc軸が積層方向に配向され、前記第2の結晶配向層の(111)面が前記第1の結晶配向層との隣接面に配向される請求項2に記載の結晶配向層積層構造体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向性が制御された結晶層で構成される超格子構造を形成可能な結晶配向層積層構造体、前記結晶配向層積層構造体を用いた電子メモリ及び前記結晶配向層積層構造体の製造方法に関する。
【0002】
現代文明を支えるコンピューターは、電子の流れである電流によって動作する。この電流を操作し、情報の記録・消去に応用したデバイスは、半導体によって構成されている。前記半導体中を流れる電子は、不純物やクーロン力による散乱を受けてジュール熱を発生させる。
このため、コンピューターには、冷却用のファンが必要である。また、前記ジュール熱によって入力エネルギーの一部が情報の記録・消去には利用できず、エネルギーロスが発生する。つまり、前記電子の散乱を抑制することが、前記電子デバイスの省電力化に向けた中心的な技術開発課題であることは疑う余地はない。
【0003】
その一つの解決策として、従来から前記電子デバイスを極低温で動作させ、前記電子の散乱を抑制する方法がある。例えば、超伝導体を用いることがそれに相当する。前記超伝導体では電子散乱はゼロになるので、電気抵抗がなくジュール熱も発生しない。したがって、前記電子散乱が発生しない。
しかし、この方法を用いた場合には、前記電子デバイスを数ケルビンの温度まで冷却する必要があり、このために費やすエネルギーを忘れてはならない。また、このような極低温状態を利用する電子デバイスを一般化して実用化することは、困難である。そのため、室温で前記電子散乱を抑えられる手段としては、満足できるものが存在していない状況にある。
【0004】
しかしながら、2007年ごろから状況が変わりつつある。物理学の理論として、トポロジカル絶縁体の理論的なモデルが提案されたためである。前記トポロジカル絶縁体とは、物体表面あるいは界面に生じる特殊な電子状態を利用した絶縁体であり、原子番号が比較的大きな元素の内核電子が光速に近い速さで運動するために生じる相対論的効果に基づいて説明される。
即ち、この電子の作用(スピン−軌道相互作用)によって、前記電子が形成するバンド構造のハミルトニアンにスピン−軌道相互作用の項が追加され、バンド構造とエネルギー固有値に変化が生じる。このとき、ある特殊な物質においては、真空表面での価電子帯の最上層部のバンドと伝導帯の最下部のバンドとが結合するが、他方、前記物質の内部ではバンドが開いたままの特殊なバンド構造が形成されることがある。
その結果、前記物質の表面あるいは界面では伝導体となるが、内部ではバンドがあるため絶縁体となるという、それまでに知られていなかった特殊な物性が出現する。このような特性をもつ物質を「トポロジカル絶縁体」と称す (非特許文献1参照)。
【0005】
前記トポロジカル絶縁体がもつ特殊な電子バンド構造は、時間反転対称性によって、前記物質の表面あるいは界面に存在する電子がスピンの異なる二つの電子スピン流に別れ、電圧を加えることなく流れ続けるという奇妙な特徴をもつ。このことは、裏返せば、前記不純物などによる前記電子散乱を受けないという重要な性質をもっていることと同じである。また、例えば、前記時間反転対称性を壊すような外部磁場がなければ、この特性は、非常に強固に保存される。なお、前記トポロジカル絶縁体の名称は、こうした前記電子バンド構造の有する特性が数学のトポロジー多面体論と類似した性質をもつことに由来する(非特許文献1参照)。
【0006】
前記トポロジカル絶縁体の存在が理論的に予言されて以来、実際にこの奇妙な性質をもつ材料の探索が始まった。その結果、結晶性の高いビスマス−テルル合金、アンチモン−テルル合金などが光電子分光法による実験から確認されたが、これらの実験に用いた単結晶は、熔融合金の冷却法等によって作製されたものであり、前記電子デバイスに直ちに応用できるものではない(非特許文献2参照)。
【0007】
他方、本発明者は、前記トポロジカル絶縁体とは全く関係なく、相変化型固体メモリの消費電力削減化に向けて、ゲルマニウム−テルルからなる結晶合金層とアンチモン−テルルからなる結晶合金層とを、それぞれの結晶合金層が有する(111)面軸とc軸とを整合させて積層させた超格子型相変化膜とし、ゲルマニウム原子の配列構造を結晶成長軸方向にスイッチさせてメモリ動作を可能にした超格子型相変化固体メモリを提案している(特許文献1、2及び非特許文献3参照)。
【0008】
本発明者は、この超格子型相変化固体メモリが、理想的なトポロジカル絶縁体になり得ることに気がついた。なぜなら、非特許文献1に見られるように、アンチモンとテルルの原子比率が2:3の結晶合金層(Sb
2Te
3結晶合金層)は、前記トポロジカル絶縁体とされる一方で、本発明者の前記提案では、この結晶合金層を複数配し、これらをバンドギャップをもつゲルマニウムとテルルの原子比率が1:1の結晶合金層(GeTe結晶合金層)によって隔離させた構造を正に前記超格子型相変化固体メモリの記録層としているからである。ただ、確認すべきことは、ゲルマニウムとテルルからなる結晶合金層が、真空バンドと同様な作用を持っているか否かであるが、量子力学を用いた第一原理計算によって、この結晶合金層が真空バンドと同等の役割をなすことがシミュレーションによって確認された(特許文献3参照)。
【0009】
それによれば、逆格子空間内のある点(ガンマ点)にて、フェルミバンド近傍で伝導帯の最下部と価電子帯の最上部のバンドが接するように一点でクロスする。この現象は、前記トポロジカル絶縁体のもつ特異的な特徴であり、このガンマ点は、実空間において、ちょうど前記GeTe結晶合金層の中心対称点にあたる。つまり、この層が前記電子の非散乱層となり、前記電子が二次元で自由に移動できる層であることが確認された(特許文献3参照)。
【0010】
本発明者は、前記GeTe結晶合金層のブロック数(1ブロック数は、約1nm)と、前記GeTe結晶合金層の上下に配される前記Sb
2Te
3結晶合金層のブロック数とを変えながら、前記第一原理計算を進め、計算結果に基づく人工的な超格子構造をスパッタリング装置を用いて実際に作製することに成功した(非特許文献3参照)。
また、この超格子構造を備えたメモリデバイスに外部から磁場を加えると、室温で非常に大きな磁気抵抗効果が生ずることを確認した(非特許文献4参照)。この特異な現象は、前記超格子構造が有するラシュバ効果に基づくものであり、このラシュバ効果は、これまで知られていた如何なる磁性材料と比較して驚くほど大きく、前記超格子構造に生ずるスピンバンドのエネルギー差は、200eVにも達する。また、前記磁気抵抗効果は、室温でスピン特性の違いを観測できるほど大きい(非特許文献4参照)。
【0011】
また、シリコンウエハ上に前記Sb
2Te
3結晶合金層の厚みを変えた各種の前記超格子構造を形成し、これらに外部磁場を面直方向に加えて分裂させたスピン電子密度の変化を、円偏光の光を入射させることで反射率の変化として測定した結果、前記ラシュバ効果は、2nmより薄い前記Sb
2Te
3結晶合金層の場合に顕著で、それ以上の厚みでは、スピン分裂による反射率の差が小さいことが確認された。このことは、逆を言えば、これ以上の厚みの前記超格子型相変化膜は、ラシュバ効果が小さく、前記トポロジカル絶縁体となっているものと結論付けられる(特許文献3参照)。
【0012】
ところで、こうした前記超格子構造が有する電気・磁気特性を効果的に発現させるためには、Sb
2Te
3等で形成される結晶合金層と、GeTe等で形成される結晶合金層とを共通した結晶軸を維持させながら配向成長させる必要がある。
前記配向成長を得るための手法としては、前記超格子構造の下地としてSb
2Te
3で形成される配向制御層を配することが提案されている(例えば、特許文献4、非特許文献5参照)。また、前記配向制御層を下地とする前記超格子構造を形成するための好適な温度条件が提案されている(非特許文献5参照)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(結晶配向層積層構造体)
本発明の結晶配向層積層構造体は、少なくとも、基板と、配向制御層と、第1の結晶配向層とを有し、必要に応じて、第2の結晶配向層等を有する。
【0021】
<基板>
前記基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、幅広く公知のSi基板、SiO
2基板、SiN基板、各種ガラス基板、Al
2O
3基板、MgO基板、GaAs基板、InP基板等の下地基板及びこれら下地基板上にW−Ti、Ti、Al、Pt、W、TiN等の電極が形成された電極基板を挙げることができる。
即ち、前記基板としては、以下に詳細を述べる前記配向制御層を積層可能であればよく、前記結晶配向層積層構造体は、こうした任意の基板上に前記配向制御層を下地として前記第1の結晶配向層を積層させることで、前記第1の結晶配向層、延いては、前記第1の結晶配向層上に積層される前記第2の結晶配向層の配向性を制御することを技術の核とする。
【0022】
<配向制御層>
前記配向制御層は、前記基板上に積層されるとともにゲルマニウム、シリコン、タングステン、ゲルマニウム−シリコン、ゲルマニウム−タングステン及びシリコン−タングステンのいずれかで形成され、厚みが薄くとも1nm以上である層として構成される。
前記配向制御層としては、こうした特徴を有する限り、特に制限はなく、結晶、非晶質のいずれで構成されていてもよく、任意の前記基板上に形成することができる。ただし、前記厚みが1nm未満であると、前記第1の結晶配向層の配向性を制御することが困難となる。また、前記厚みが100nmを超えると、表面凹凸が大きくなり、配向性制御が困難になることがある。
前記結晶配向層積層構造体としては、前述の通り、このような配向制御層上に前記第1の結晶配向層を積層させることで、前記第1の結晶配向層の配向性を制御でき、延いては、前記第1の結晶配向層上に形成される前記第2の結晶配向層の配向性を制御できる。
このような配向性の制御が可能となる理由は、必ずしも定かではないが、前記配向制御層と前記第1の結晶配向層とを構成する各元素同士の熱力学的な相互作用の影響であるためと考えられる。
【0023】
前記配向制御層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などが挙げられる。
【0024】
<第1の結晶配向層>
前記第1の結晶配向層は、前記配向制御層上に積層されるとともにSbTe、Sb
2Te
3、BiTe、Bi
2Te
3、BiSe及びBi
2Se
3のいずれかを主成分として形成され、一定の結晶方位に配向される層として構成される。
なお、本明細書において「主成分」とは、層の基本単位格子を形成する元素であることを示す。
【0025】
前記第1の結晶配向層としては、特に制限はないが、六方晶の結晶構造を有するとともに、そのc軸が積層方向に配向されていることが好ましい。
このような結晶構造を有すると、その次に積層される層が、この層を下地として配向を生み出すテンプレートとなって、これらの層で構成される超格子構造が得られやすい。
前記第1の結晶配向層の形成方法としては、特に制限はないが、c軸配向の前記結晶構造が得られやすいことから、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法などが好ましい。
【0026】
<第2の結晶配向層>
前記第2の結晶配向層は、前記第1の結晶配向層上に積層されるとともに下記一般式(1)で表される合金を主成分として形成され、一定の結晶方位に配向される層として構成される。前記第2の結晶配向層は、前記配向制御層により配向性が制御された前記第1の結晶配向層上に積層されることで、前記第1の結晶配向層と共通の結晶軸を有する層として構成される。
【0027】
【化2】
ただし、前記式(1)中、Mは、Ge、Al及びSiのいずれかの原子を示し、xは、0.5以上1未満の数値を示す。
前記一般式(1)で表される合金としては、中でも、誘電率の大きさから、GeTeが好ましい。
【0028】
前記第2の結晶配向層としては、特に制限はないが、立方晶の結晶構造を有するとともに、その(111)面が前記第1の結晶配向層との隣接面に積層されることが好ましい。中でも、面心立方晶の結晶構造を有するとともに、その(111)面が前記第1の結晶配向層との隣接面に積層されることがより好ましい。
このような結晶構造を有すると、その次に積層される層が、この層を下地として配向を生み出すテンプレートとなって、これらの層で構成される超格子構造が得られやすい。
前記第2の結晶配向層の形成方法としては、特に制限はないが、c軸配向の前記結晶構造が得られやすいことから、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法等が好ましい。
【0029】
ここで、前記第1の結晶配向層、前記第2の結晶配向層の積層状態について、
図1(a)及び
図1(b)を参照して説明する。なお、
図1(a)は、六方晶である前記第1の結晶配向層の結晶構造を示す説明図であり、
図1(b)は、立方晶である前記第2の結晶配向層の結晶構造を示す説明図である。
【0030】
図1(a)に示すように、前記第1の結晶配向層として、六方晶である結晶配向層51をc軸配向させると、隣接面51aは、六角形となる。このため、結晶配向層51の表面に、前記第2の結晶配向層として、立方晶である結晶配向層52を堆積させると、
図1(b)に示す(111)面が隣接面52aとなる。即ち、立方晶の(111)面は、三角形であることから、c軸配向した結晶配向層51の隣接面52aと整合する。そのため、c軸配向させた結晶配向層51の表面に立方晶である結晶配向層52を堆積させると、これらの隣接面52aを結晶配向層52の(111)面とすることができる。これに対して、結晶配向層51なしに結晶配向層52を形成すると、結晶配向層52は、例えば、(100)面に配向してしまい、その結果、これらの積層体で形成される超格子構造に格子乱れが生じやすい。
【0031】
前記結晶配向層積層構造体としては、前記第2の結晶配向層に加え、目的に応じて任意の部材が配されていてもよい。以下では、電子メモリとして用いる場合の構成について説明をする。
【0032】
(電子メモリ)
本発明の電子メモリは、少なくとも前記結晶配向層積層構造体を有し、更に必要に応じて、任意の部材を有する。
前記電子メモリとしては、このような特徴を有するものであれば、特に制限はないが、3つの実施形態を構成例として挙げ、より詳細に説明する。
【0033】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る電子メモリは、前記基板、前記配向制御層、前記第1の結晶配向層及び前記第2の結晶配向層で構成されるスピン流発生層及びスピン流蓄積層、並びに一対の電極を有し、更に、必要に応じて、磁場発生部及びスピン電子供給層等の任意の部材を有する。
【0034】
−基板及び配向制御層−
前記基板及び前記配向制御層は、前記結晶配向層積層構造体で説明と同様の構成とすることができる。
【0035】
−スピン流発生層−
前記スピン流発生層は、前記第1の結晶配向層と、前記第1の結晶配向層上に積層される前記第2の結晶配向層とを有し、前記第1の結晶配向層の厚みが0nm以上2nm未満とされる。
このように構成される前記スピン流発生層では、ラシュバ効果が発現可能で、前記電極からの電圧印加に基づき、前記第1の結晶配向層中で異なるスピン状態をとる2つのスピン電子に密度差を発生させる。即ち、前記第2の結晶配向層は、バンドギャップを有しており、また、前記第1の結晶配向層がその結晶の逆格子空間上の前記第2の結晶配向層との界面において時間反転対称性を有し、かつ前記時間反転対称中心点を除いてバンド縮退が解かれ、フェルミ準位直上の2つのスピンバンドにエネルギー差が生じることで、前記スピン流発生層は、前記ラシュバ効果を発生させる。その結果、前記第1の結晶配向層中で異なるスピン状態をとる2つのスピン電子に密度差が生じ、スピン流の発生が可能となる。なお、前記スピンとは、スピン偏極した電子を示す。
以下では、説明の便宜上、前記スピン流発生層を構成する、前記第1の結晶配向層を結晶配向層A、前記2の結晶配向層を結晶配向層Bと称する。
【0036】
前記スピン流発生層において、前記結晶配向層Bの厚みとしては、特に制限はないが、0nmより厚く4nm以下であることが好ましい。前記厚みが4nmを超えると、独立した固有の特性を示すことがある。
また、前記スピン流発生層としては、特に制限はないが、前記結晶配向層Aと前記結晶配向層Bとが交互に複数繰り返して積層される構造を有することが好ましい。このような構造を有すると、繰り返し数に応じて、大きな前記ラシュバ効果が得られやすい。
【0037】
−スピン流蓄積層−
前記スピン流蓄積層は、前記第1の結晶配向層と、前記第1の結晶配向層上に積層される前記第2の結晶配向層とを有し、前記第1の結晶配向層の厚みが2nm以上10nm以下とされる。
このように構成される前記スピン流蓄積層では、トポロジカル絶縁体としての特性が発現可能で、前記第2の結晶配向層は、バンドギャップを有しており、また、前記第1の結晶配向層がその結晶の逆格子空間上の前記第2の結晶配向層との界面において時間反転対称性を有し、かつ前記時間反転対称中心点を除いてバンド縮退が解かれ、フェルミ準位直上の2つのスピンバンドが、フェルミ準位直下の価電子帯最上部の縮退が解かれたスピンバンドと、逆空間における時間反転対称中心を境に互いに交差して連結することで、前記トポロジカル絶縁体としての特性を発現させる。その結果、前記スピン流発生層から流れ込む密度の高い方の前記スピン電子を前記第1の結晶配向層と前記第2の結晶配向層との界面又は前記第2の結晶配向層に蓄積させることが可能となる。
以下では、説明の便宜上、前記スピン流蓄積層を構成する、前記第1の結晶配向層を結晶配向層C、前記2の結晶配向層を結晶配向層Dと称する。
【0038】
前記スピン流蓄積層において、前記結晶配向層Dの厚みとしては、特に制限はないが、前記結晶配向層Bと同様に、0nmより厚く4nm以下であることが好ましい。
また、前記スピン流蓄積層としては、特に制限はないが、前記結晶配向層Cと前記結晶配向層Dとが交互に複数繰り返して積層される構造を有することが好ましい。このような構造を有すると、繰り返し数に応じて、大きな前記スピン流を蓄積させることができる。
なお、前記第1の実施形態に係る電子メモリでは、メモリ動作を簡易な構成で実現させる観点から、前記スピン流発生層と前記スピン流蓄積層とが、前記スピン流発生層の前記結晶配向層B上に前記スピン流蓄積層の前記結晶配向層Cが直接積層される構造とされることが好ましい。
【0039】
−電極−
前記一対の電極は、前記配向制御層、前記スピン流発生層及び前記スピン流蓄積層を挟持するように配される。
前記電極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の半導体素子に用いられる電極を公知の方法により配して形成することができる。
また、前記電極としては、少なくとも1つの電極(例えば、下部電極)を前記結晶配向層積層構造体で説明した前記電極基板として配することができ、また、前記下地基板上に形成することもできる。
【0040】
−磁場発生部−
前記スピン流発生層は、それ自身でも電圧を印加して内部磁場を発生させ、前記スピン電子に密度差を発生させることが可能であるが、外部から補助的な磁場を加えることにより、前記ラシュバ効果を増幅させることができる。
前記磁場発生部としては、例えば、前記第1の実施形態に係る電子メモリの付属部として磁石を外部に配してもよく、また、前記第1の実施形態に係る電子メモリの積層構造中に磁性を有する磁性層を積層させて配してもよい。
前記磁石及び前記磁性層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のものを公知の方法により配して構成することができる。ただし、前記磁性層としては、前記スピン流発生層及び前記スピン流蓄積層におけるメモリ動作を損なわないよう、これらの層間には配さず、これらの層と前記電極との間に配することが好ましい。
【0041】
−スピン電子供給層−
前記スピン流発生層は、前述の通り、それ自身でも電圧を印加して内部磁場を発生させ、前記スピン電子に密度差を発生させることが可能であるが、外部から前記スピン電子を供給することで、前記ラシュバ効果を増幅させることができる。前記第1の実施形態に係る電子メモリでは、こうした目的で、前記スピン流発生層に前記スピン電子を供給する前記スピン電子供給層を配することができる。
前記スピン電子供給層としては、特に制限はなく、例えば、コバルトや白金、あるいはこれらの合金などで形成される層が挙げられ、その形成方法としては、例えば、スパッタリング法等が挙げられる。
前記スピン電子供給層を配する場合、前記第1の実施形態に係る電子メモリとしては、前記スピン流発生層の前記スピン流蓄積層が配される面と反対側の面又は前記スピン流蓄積層の前記スピン流発生層が配される面と反対側の面に隣接して配されることが好ましい。
【0042】
前記第1の実施形態に係る電子メモリの主な構成及びそのメモリ動作を
図2を参照しつつ、より具体的に説明する。なお、
図2は、前記第1の実施形態に係る電子メモリの層構成を示す断面図である。
図2に示すように、電子メモリ10は、下部電極1(電極基板)上に、配向制御層2、スピン流発生層3、スピン流蓄積層4及び上部電極5がこの順で配されて構成される。
スピン流発生層3は、例えばSb
2Te
3を主成分とし、厚みが0nmより厚く2nm未満である結晶配向層Aと、例えばGeTeを主成分とする結晶配向層Bとが、交互に3回繰り返して積層される。
また、スピン流蓄積層4は、例えばSb
2Te
3を主成分とし、厚みが2nm以上10nm以下である結晶配向層Cと、例えばGeTeを主成分とする結晶配向層Dとが、交互に3回繰り返して積層される。
【0043】
このように構成される電子メモリ10においては、下部電極1又は上部電極5からの電圧印加に基づき、結晶配向層A中で異なるスピン状態をとる2つのスピン電子に密度差が発生する。これらのスピン電子は、スピン流発生層3からスピン流蓄積層4に流れ込み、スピン流蓄積層4の少なくとも表面の一部(例えば、スピン流蓄積層4のスピン流発生層3側の表面)に、密度の高い方のスピン電子が蓄積される。
蓄積された密度の高い方のスピン電子で構成されるスピン流は、外部に解放しない限り保存可能であり、また、逆方向からの電圧印加により、消去させることができる。
その結果、電子メモリ10は、スピン電子のスピン状態に基づくメモリ動作を行うことができる。このようなメモリ動作によれば、電圧印加に利用される電流のエネルギーをジュール熱に変換することなく、そのままスピン流の形成に利用することができるため、大幅な省電力化を実現することができる。
【0044】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る電子メモリについて説明をする。
前記第2の実施形態に係る電子メモリは、前記基板、前記配向制御層、前記第1の結晶配向層及び前記第2の結晶配向層で構成される記録層、スピン注入層及び一対の電極を有し、更に、必要に応じて、磁性部等の任意の部材を有する。
前記第1の実施形態に係る電子メモリでは、スピンを解放した状態とスピンを蓄積した状態の2通りの状態を利用してメモリ動作を行うが、前記第2の実施形態に係る電子メモリでは、更に、前記記録層の積層数に応じて多値化される情報を対象としたメモリ動作を行うことができる。
【0045】
−基板、配向制御層、電極−
前記基板、前記配向制御層、前記電極は、前記第1の実施形態に係る電子メモリで説明と同様の構成とすることができる。前記第2の実施形態に係る電子メモリでは、主として、以下に詳細を述べる前記記録層及び前記スピン注入層を有する点で、前記前記第1の実施形態に係る電子メモリと異なる。
【0046】
−記録層−
前記記録層は、前記結晶配向層積層構造体における前記第1の結晶配向層と前記第2の結晶配向層とを積層させて形成され、前記第1の結晶配向層の厚みが2nm以上10nm以下として構成される。また、前記第2の結晶配向層の厚みとしては、0nmより厚く4nm以下であることが好ましい。
前記記録層としては、1層であってもよいが、少なくとも2層以上積層することで2値以上の多値情報を記録することができる。
前記記録層は、前記第1の実施形態に係る電子メモリの前記スピン流蓄積層と同様の構成からなるが、前記第2の実施形態に係る電子メモリでは、以下に述べる前記記録層の特性に関する知見に基づき、前記記録層一層ごとにスピンを蓄積させることを目的とする。
【0047】
即ち、前記記録層における前記第1の結晶配向層は、前記トポロジカル絶縁体として作用し、前記スピン注入層から注入される前記スピンをその表面あるいは界面に存在させることができる。また、前記記録層における前記第2の結晶配向層は、更に、前記一般式(1)で表される合金中のMの配置によって、層の中心に空間反転対称性をもった構造からなる第1の結晶相と、前記空間反転対称性が崩れた第2の結晶相とに相変化可能とされる。前記第2の結晶相においては、強磁性体の磁気特性を有し、前記スピンを蓄積させることができる。また、前記第2の結晶配向層は、比較的弱い電圧を加えることで、前記第1の結晶相から前記第2の結晶相に相変化可能とされる一方、比較的強い電圧を加えることで、前記磁気特性のない第1の結晶相に相変化可能とされる。
前記第2の実施形態に係る電子メモリでは、これらの特性を利用することで、前記スピンを蓄積可能な前記第2の結晶相をセット状態とし、前記スピンが解放された前記第1の結晶相をリセット状態としたメモリ動作が可能とされる。
【0048】
−スピン注入層−
前記スピン注入層は、磁性材料で形成され、前記磁性材料が磁化された状態で前記記録層に前記スピンを注入する層として構成される。なお、前記スピン注入層では、磁化された状態で電圧を加えることにより、前記記録層に伝導される電子のスピン特性を前記磁性材料により偏極させる役割を持つ。
前記磁性材料としては、特に制限はなく、公知の磁性メモリの磁性層形成材料として用いられる材料を挙げることができ、具体的には、TbFeCo、FeCo、MnCr、MnPt等が挙げられる。これらは強磁性体であり、前記スピンの配向が磁性層としての前記スピン注入層の面に対して垂直となる磁場を形成し、前記スピン注入層と並行して配される前記記録層に対して、前記スピンの配向を揃えた状態で伝導させる目的として利用できる。
【0049】
前記スピン注入層の厚みとしては、特に制限はないが、1nm〜10nmが好ましい。
前記厚みが1nm未満であると、十分なスピン配向性が得られないことがあり、10nmを超えると、磁化が強くなり過ぎて、データの消去が困難となることがある。
また、前記スピン注入層の形成方法としては、特に制限はなく、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法等が挙げられる。
また、前記スピン注入層を配する位置としては、前記スピンを前記記録層に注入するため、前記記録層に対して、前記記録層に電子を流入させる前記電極が配される側に配される。
【0050】
−磁性部−
前記第2の実施形態に係る電子メモリにおいては、前記スピンを前記記録層に注入する観点から、前記スピン注入層の形成後、前記スピン注入層の面に垂直の磁場を加えることで、前記スピン注入層を磁化させて、前記スピンの配向を揃える役割を付与する。この磁性部としては、前記電子メモリに配することとしてもよいし、前記スピン注入層の形成後、その磁化状態を固定させた後、外してもよい。
前者の場合、更に、前記スピン注入層が形成する磁場の強さを補強する観点から、前記スピン注入層と並行して積層される層として配することで、磁化された前記スピン注入層の前記記録層に対する前記スピンの注入を補助させることとしてもよい。この場合、前記磁性部は、前記スピン注入層の面に対して垂直方向の磁場を形成し、前記スピン注入層を介して前記記録層にスピンを注入する磁性層として構成される。
また、後者の場合では、磁化状態が固定された前記スピン注入層が形成する磁場により前記スピンが前記記録層に注入される。
なお、前記磁性部としては、特に制限はなく、公知の永久磁石、電磁石等で構成することができる。
【0051】
前記第2の実施形態に係る電子メモリの主な構成を
図3を参照しつつ、より具体的に説明する。なお、
図3は、前記第2の実施形態に係る電子メモリの層構成を示す断面図である。
図3に示すように、電子メモリ100は、層状の下部電極101上に、半導体基板102、配向層103、3層の記録層106a〜106c、スピン注入層107、層状の上部電極108がこの順で配された構成とされる。
また、3層の記録層106a〜106cの各層は、例えば、Sb
2Te
3を主成分とし、厚みが2nm以上10nm以下の第1の結晶配向層104上に、例えば、GeTeを主成分とする第2の結晶配向層105が積層された構造とされる。
【0052】
なお、この電子メモリ100の構成は、一例であり、半導体基板102上に下部電極101を配してもよく、半導体基板102を用いず、下部電極101(電極基板)上に直接、配向制御層103を配してもよい。また、スピン注入層107は、記録層106a〜106cに対して、記録層106a〜106cに電子を流入させる上部電極108が配される側に配されればよく、上部電極108と積層順を入れ替えて配されてもよい。
【0053】
次に、電子メモリ100を一例として、前記第2の実施形態に係る電子メモリの作用について説明する。
記録層106a〜106cの第1の結晶配向層104は、前記トポロジカル絶縁体として作用し、前記スピンを第2の結晶配向層105に伝導させる。第2の結晶配向層105は、前記一般式(1)中のM(ゲルマニウム原子、アルミニウム原子又はシリコン原子)の配置によって、層の中心に前記空間反転対称性をもった構造からなる前記第1の結晶相と、前記空間反転対称性が崩れた前記第2の結晶相を有する。この第2の結晶相は、前記ラシュバ効果や磁性特性を発現し、前記スピンを保持可能な強磁性体として作用する。また、前記第2の結晶相を優先的に発現させるためには、比較的弱い電圧を加えればよい。この電圧の具体的な値は、予め特性を測定しておくことで確認することができる。
今、比較的弱い電圧を印加し、混合相の状態の前記第2の結晶相から前記第2の結晶相が優先的に発現した状態(セット状態)とし、外部電源から電子メモリ100に電圧を加えると、その電圧値に応じて、スピン注入層107によりスピン偏極された電子が記録層106a〜106cに流入し、記録層106a〜106cに前記スピンが蓄積可能とされる。このスピンは、前記トポロジカル絶縁体として作用する第1の結晶配向層104及び前記セット状態の第2の結晶配向層105により各自保持される。
この時、記録層106a〜106cへの前記スピンの蓄積は、電子が流入される下部電極101側に最も近い記録層106aから順々に開始され、記録層106aでの前記スピンの蓄積が飽和状態となると、次に近い記録層106bで行われ、最後に記録層106cで行われる。
【0054】
この様子を
図4(a)及び
図4(b)を用いて説明する。なお、
図4(a)は、前記第2の実施形態に係る電子メモリの電流電圧特性を説明する説明図であり、
図4(b)は、前記第2の実施形態に係る電子メモリの抵抗電圧特性を説明する説明図である。なお、各図中、符号Aは、磁場を加えない場合の特性を示し、符号Bは、磁場を加えた場合の特性を示す。
図4(a)に示すように、符号Aの特性では、電圧値に比例して電流値が大きくなるが、符号Bの特性では、電圧値の上昇に対し、電流値が段階的に低下する。即ち、電磁石等により、スピン注入層107を磁化させつつ、記録層106a〜106cの積層方向に磁場を加えた場合、記録層106a〜106cへの前記スピンの段階的な蓄積に応じて電流値が段階的に低下する。また、
図4(b)に示すように、符号Aの特性では、電圧値に比例して抵抗値が大きくなるが、符号Bの特性では、電圧値の上昇に対し、抵抗値の上昇が段階的となる。即ち、電磁石等により、磁場を加えた場合、記録層106a〜106cへの前記スピンの段階的な蓄積に応じて抵抗値が段階的に増大する。
電子メモリ100では、こうした段階的な電流値の低下現象、抵抗値の増大等の状態値変化現象を利用し、加える電圧を所定の値とすることで、記録層106a〜106cへの前記スピンの蓄積状態を制御し、多値化された情報を記録再生可能とする。
なお、本例では、前記記録層を3層として4値の情報を記録再生可能な構成としたが、前記記録層の層数を増やすことで、より大きな数で多値化させたメモリとすることができる。
【0055】
また、電子メモリ100では、比較的強い電圧を加えることで、第2の結晶配向層105の前記第2の結晶相が前記第1の結晶相に相変化して磁性が失われ、前記スピンの蓄積状態に基づく記録層106a〜106cの記録情報を消去することができる(リセット状態)。このリセット状態は、再び、比較的弱い電圧を加えることで前記セット状態に戻すことができ、電子メモリ100は、何度も繰り返して情報の記録、消去を行うことができる。なお、前記リセット状態とする電圧の具体的な値は、予め特性を測定しておくことで確認することができる。また、前記記録層への記録状態の再生を抵抗値を用いて説明したが、前記記録層の光反射率の値に基づいて前記記録状態を特定して、情報の再生を行ってもよい。
【0056】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態に係る電子メモリについて説明をする。
前記第3の実施形態に係る電子メモリは、前記基板、前記配向制御層、前記第1の結晶配向層及び前記第2の結晶配向層で構成される超格子構造、及び一対の電極を有し、更に、必要に応じて、任意の部材を有する。
前記第3の実施形態に係る電子メモリでは、前記第1の実施形態及び前記第2の実施形態に係る各電子メモリと異なり、前記超格子構造の相変化に伴う抵抗変化を利用して情報を記録する。
【0057】
−基板、配向制御層、電極−
前記基板、前記配向制御層、前記電極は、前記第1の実施形態及び前記第2の実施形態に係る各電子メモリで説明と同様の構成とすることができる。
【0058】
−超格子構造−
前記超格子構造は、前記結晶配向層積層構造体における前記第1の結晶配向層と前記第2の結晶配向層とを交互に積層させた超格子構造体で構成される。
前記第1の結晶配向層の厚みとしては、前記抵抗変化が生じる限り特に制限はないが、例えば、1nm以上10nm以下とされ、また、前記第2の結晶配向層の厚みとしては、前記抵抗変化が生じる限り特に制限はないが、例えば、0nmを超え4nm以下とされる。
また、前記超格子構造体全体の厚みとしては、前記抵抗変化が生じる限り特に制限はないが、例えば、2nm以上50nm以下とされる。
【0059】
ここで、一般の相変化型固体メモリでは、記録層がSb
2Te
3、GeTe等の金属材料を一定の比率で混ぜた合金層で構成され、メモリ動作に関するスイッチングの機構は、電流パルスの注入による前記合金層の熔融と、その後のアモルファス化及びアモルファス化された前記合金層の結晶化とを制御することで行われる。例えば、前記合金層の結晶状態における抵抗が約1kΩであり、前記合金層のアモルファス状態における抵抗が約1MΩである場合に、これら状態間で生ずる抵抗差を利用して、0,1のビット信号を判別させる。
これに対し、前記超格子構造を有する前記第3の実施形態に係る電子メモリでは、前記超格子構造が、前記第2の結晶配向層における“M”(前記式(1)参照)の結晶上の異なる原子配列により、セット相と呼ばれる低い抵抗値を示す相(例えば、約10kΩ)と、リセット相と大きな抵抗値を示す相(例えば、約1MΩ)とに相変化し、抵抗変化が生ずることを利用してスイッチングを行う。以下では、この熔融変化を伴わない、前記超格子構造を有する前記第3の実施形態に係る電子メモリを、超格子構造を用いた不揮発性固体メモリとして“TRAM”と称することとする。
前記TRAMにおいては、前述した一般の相変化型固体メモリに対して、スイッチングに熔融という操作を含まないため、原子配列に関与する熱エネルギーの一種でエントロピーと呼ばれる項のエネルギーを大幅に低減させてスイッチングを行うことができ、前述した一般の相変化型固体メモリと比べて、スイッチングに必要なエネルギーを1/10〜1/100に低減させることができる。
前記TRAMにおける前記エネルギーの低減効果には、前記超格子構造における結晶配向性が影響し、前記結晶配向層積層構造体における前記配向制御層により、前記超格子構造を構成する前記第1の結晶配向層及び前記第2の結晶配向層の配向性を制御させることが役立つ。また、前記配向制御層を配することで、任意の基板上に配向性が制御された前記超格子構造を形成することができる。
【0060】
前記第3の実施形態に係る電子メモリの主な構成及びそのメモリ動作を
図5を参照しつつ、より具体的に説明する。なお、
図5は、前記第3の実施形態に係る電子メモリの層構成を示す断面図である。
図5に示すように、電子メモリ200は、例えば、下部電極201(電極基板)上に、配向制御層203、超格子構造209及び上部電極208がこの順で配されて構成される。
超格子構造209は、例えば、Sb
2Te
3を主成分とし、厚みが1nm以上10nm以下である前記第1の結晶配向層と、例えば、GeTeを主成分とし、0nmを超え4nm以下である前記第2の結晶配向層とが交互に積層された超格子構造体として構成され、超格子構造209全体の厚みは、例えば、2nm〜50nmとされる。
【0061】
このように構成される電子メモリ200においては、電圧印加により、超格子構造209の前記セット相及び前記リセット相間の相変化を制御し、抵抗値を測定することで、0,1のビット信号の記録、読み出しを行うことができる。
【0062】
(結晶配向層積層構造体の製造方法)
本発明の結晶配向層積層構造体の製造方法は、少なくとも、配向制御層形成工程と、第1の結晶配向層形成工程とを含む。
前記結晶配向層積層構造体及び前記電子メモリでは、前記配向制御層及び前記第1の結晶配向層以外の構造を含むが、これら構造の形成方法は、前記結晶配向層積層構造体及び前記電子メモリで説明した事項と共通するため、説明を省略する。
【0063】
前記配向制御層形成工程は、不活性ガス雰囲気下で、前記基板上にゲルマニウム、シリコン、タングステン、ゲルマニウム−シリコン、ゲルマニウム−タングステン及びシリコン−タングステンのいずれかを成膜して、厚みが1nm以上の前記配向制御層を形成する工程である。
前記不活性ガスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アルゴンガス、窒素ガス等が挙げられる。
また、前記配向制御層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法などが挙げられる。
【0064】
なお、前記配向制御層形成工程の実施に際し、Si,W等で構成される基板上、電極基板上に前記配向制御層を形成する場合には、前記配向制御層形成工程の前処理工程として、前記基板の表面の酸化物層(SiO
2,WO
2等)を除去するエッチング工程を実施することが好ましい。
前記エッチング工程としては、特に制限はなく、公知の方法で実施することができ、例えば、Arガス等を用いて逆スパッタリングを行う方法等が挙げられる。
また、前記エッチング工程における前記基板に対するエッチング深さとしては、特に制限はないが、前記基板表面から5nm〜10nmの深さが好ましい。このような深さまでエッチングを行うと、前記配向制御層による前記第1の結晶配向層及び前記第2の結晶配向層の配向性を向上させることができる。
【0065】
前記第1の結晶配向層形成工程は、前記配向制御層形成工程における前記不活性ガス雰囲気を維持したまま、前記配向制御層上にSbTe、Sb
2Te
3、BiTe、Bi
2Te
3、BiSe及びBi
2Se
3のいずれかを含む成膜材料を成膜して、一定の結晶方位に配向される第1の結晶配向層を形成する工程である。
前記第1の結晶配向層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法などが挙げられる。
前記第1の結晶配向層の成膜温度としては、特に制限はないが、前記成膜材料がSb
2Te
3である場合、前記第1の結晶配向層形成工程としては、前記配向制御層を150℃以上300℃未満に加熱した状態で、Sb
2Te
3を成膜して前記第1の結晶配向層を形成する工程であることが好ましい。前記成膜温度が前記温度範囲を外れると、前記第1の結晶配向層の配向性が失われることがある。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
ガラス基板(HOYA GLASS DISK社製、WFN5 65−20−0.635PT)の表面を酸化セリウム、コロイダルシリカでポリッシュして平均表面粗さ(Ra)を2nm以下とした後、その表面を水酸化ナトリウム水溶液で脱油させて洗浄し、これをスパッタリング装置(芝浦メカトロニクス社製、CFS−4EP−LL)内にセットした。
次いで、前記スパッタリング装置内の圧力が5×10
−4Pa以下となるまで減圧させた。
次いで、前記スパッタリング装置内に不活性ガスとしてのアルゴンガスを10sccm(1sccm=1.69×10
−3Pa・m
3/sec)の流量で導入しつつ、前記スパッタリング装置内の圧力を0.5Paに維持させた。
前記スパッタリング装置内に配した直径3インチの円盤状シリコン材(三菱マテリアル社製、スパッタリングターゲット)をターゲットとし、RFパワーを100W、温度を250℃とする成膜条件で、前記ガラス基板上に配向制御層としてのアモルファスシリコン膜を厚さ50nmで成膜した(配向制御層形成工程)。
引き続いて、前記スパッタリング装置内の雰囲気を維持しつつ、直径3インチの円盤状Sb
2Te
3材(三菱マテリアル社製、スパッタリングターゲット)をターゲットとし、RFパワーを20W、温度を250℃とする成膜条件で、前記配向制御層上に第1の結晶配向層としてのSb
2Te
3膜を厚み50nmで成膜した(第1の結晶配向層形成工程)。
以上により、基板上に前記配向制御層と前記第1の結晶配向層とをこの順で積層させた実施例1に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0067】
実施例1に係る結晶配向層積層構造体に対し、X線回析装置(Rigaku社製、UltimaIV)を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(a)の回析チャートに見られる、〔001〕の結晶方位を有するSb
2Te
3膜であることが確認された。なお、
図6は、前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した結果を示す図である。
【0068】
(実施例2)
前記配向制御層形成工程において、前記ガラス基板に代えて、表面が僅かに酸化したシリコン基板(菱光産業社製、5インチ片面ミラーウェーハ)を前記スパッタリング装置内にセットし、前記配向制御層を形成する前に、前記シリコン基板の表面をアルゴンガスで110秒間、逆スパッタリングして前記シリコン基板から表面酸化物を取り除いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0069】
実施例2に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(b)の回析チャートに見られる、〔001〕の結晶方位を有するSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0070】
(実施例3)
前記配向制御層形成工程において、前記配向制御層を形成する前に、前記シリコン基板の表面をアルゴンガスで逆スパッタリングしなかったこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0071】
実施例3に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(a)の回析チャートに見られる、〔001〕の結晶方位を有するSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0072】
(実施例4)
前記配向制御層形成工程において、前記シリコン材に代えて、直径3インチの円盤状ゲルマニウム材(三菱マテリアル社製、スパッタリングターゲット)をターゲットとし、前記配向制御層としてアモルファスゲルマニウム膜を成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0073】
実施例4に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(a)の回析チャートとほぼ同様の〔001〕の結晶方位を有するSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0074】
(実施例5)
前記配向制御層形成工程において、前記シリコン材に代えて、直径3インチの円盤状タングステン材(三菱マテリアル社製、スパッタリングターゲット)をターゲットとし、前記配向制御層として結晶性タングステン膜を成膜したたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0075】
実施例5に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(a)の回析チャートとほぼ同様の〔001〕の結晶方位を有するSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0076】
(実施例6)
前記配向制御層形成工程において、前記シリコン材に代えて、直径3インチの円盤状ゲルマニウム−タングステン合金材(三菱マテリアル社製、スパッタリングターゲット)をターゲットとし、前記配向制御層としてゲルマニウム−タングステン合金膜を成膜したたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0077】
実施例6に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(a)の回析チャートとほぼ同様の〔001〕の結晶方位を有するSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0078】
(比較例1)
前記配向制御層形成工程を実施することなく、前記ガラス基板上に直接、前記第1の結晶配向層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0079】
比較例1に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(c)の回析チャートに見られる、ほとんど配向性をもたないSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0080】
(比較例2)
前記配向制御層形成工程を実施することなく、前記シリコン基板上に直接、前記第1の結晶配向層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0081】
比較例2に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(d)の回析チャートに見られる、結晶性が失われたSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0082】
(比較例3)
前記配向制御層形成工程を実施した後、前記スパッタリング装置を一旦大気解放して前記配向制御層が形成された前記シリコン基板を取出し、前記配向制御層を90分間大気に暴露し、この状態の前記シリコン基板に対して、前記第1の結晶配向層形成工程を実施したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0083】
比較例3に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(e)の回析チャートに見られる、結晶性が失われたSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0084】
(比較例4)
前記配向制御層形成工程において、前記配向制御層としての前記アモルファスシリコン膜の厚みを50nmから0.5nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0085】
比較例4に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(c)の回析チャートとほぼ同様のほとんど配向性をもたないSb
2Te
3膜であることが確認された。
【0086】
(比較例5)
前記配向制御層形成工程において、前記配向制御層としての前記アモルファスシリコン膜の厚みを50nmから0.8nmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、比較例5に係る結晶配向層積層構造体を製造した。
【0087】
比較例5に係る結晶配向層積層構造体に対し、前記X線回析装置を用いて前記第1の結晶配向層の結晶性を測定した。その結果、前記第1の結晶配向層は、
図6中(e)の回析チャートに見られる、結晶性が失われたSb
2Te
3膜であることが確認された。