【0029】
次に、本発明のヨウ素化合物吸着剤を使用した放射性廃液の処理方法について説明する。本発明の放射性廃液の処理方法は、本発明のヨウ素化合物吸着剤を
10cm以上200cm以下の層高で充填した吸着塔に、放射性廃液を通水線流速
1.9m/h以上40m/h以下
、空間速度(SV)10h−1以上200h−1以下で通水して、ヨウ素化合物吸着剤と放射性廃液とを十分に接触させることを特徴とする。通水は、下向流又は上向流のいずれでもよい。これにより放射性廃液中に残存する放射性ヨウ素及びヨウ素オキソ酸は、本発明のヨウ素化合物吸着剤に吸着され、廃液から除去することができる。
本発明は以下の態様を含む。
(1)高分子樹脂と、当該高分子樹脂100重量部あたり10重量部以上の含水希土類元素水酸化物と、を含み、当該含水希土類元素水酸化物は、乾燥物100重量部あたり1重量部以上30重量部以下の含水量を有することを特徴とする、ヨウ素化合物吸着剤。
(2)平均粒径が0.2mm以上5.0mm以下である、(1)に記載のヨウ素化合物吸着剤。
(3)前記含水希土類元素水酸化物は、二次粒子の平均粒径が0.2μm以上25μm以下となる凝集体である、(1)又は(2)に記載のヨウ素化合物吸着剤。
(4)前記高分子樹脂は、フッ素系樹脂又はポリビニル系樹脂であり、
前記含水希土類元素水酸化物を構成する希土類元素は、スカンジウムSc、イットリウムY、ルテチウムLu、ランタンLa、セリウムCe、プラセオジムPr、ネオジムNd、プロメチウムPm、サマリウムSm、ユウロピウムEu、カドリニウムGd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYb及びこれらの組み合わせから選択される、(1)〜(3)のいずれか1に記載のヨウ素化合物用吸着剤。
(5)前記含水希土類元素水酸化物は、水酸化セリウム(IV)・n水和物(Ce(OH)
4・nH
2O)である、(1)〜(4)のいずれか1に記載のヨウ素化合物吸着剤。
(6)前記含水希土類元素水酸化物の含有量は、前記高分子樹脂100重量部あたり400重量部以上である、(1)〜(5)のいずれか1に記載のヨウ素化合物吸着剤。
(7)前記高分子樹脂100重量部あたり10重量部以上の銀ゼオライトをさらに含む、(1)〜(6)のいずれか1に記載のヨウ素化合物吸着剤。
(8)前記銀ゼオライトは、A型、X型、Y型、β型、モルデナイト型、チャバサイト型又はこれらの1種以上の組み合わせから選択されるゼオライトに銀を担持してなる、平均
粒径が1μm以上10μm以下の凝集体である、(7)に記載のヨウ素化合物吸着剤。
(9)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のヨウ素化合物吸着剤を20〜200cmの層高で充填した吸着塔に、放射性廃液を通水線流速5m/h以上40m/hで通水することを含む、放射性廃液の処理方法。
(10)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のヨウ素化合物吸着剤を20〜200cmの層高で充填した吸着塔を具備する、放射性廃液の処理装置。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明のヨウ素化合物吸着剤の吸着処理能力を説明する。
吸着剤の吸着処理能力は、吸着剤を所定容積のカラム内に充填し、所定濃度のヨウ素イオン及び/又はヨウ素酸イオンを含む被処理水を吸着剤の容量に対して1〜10,000倍となるように通水し、カラム流入水中及びカラム流出水中のヨウ素濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)で分析し、及びヨウ素127濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)で分析した濃度の比率で評価した。
尚、被処理水の通水量は、通水倍率(B.V.:ヨウ素化合物吸着剤の容量当たり、何倍容量の水を流したかを表す)で示す。例えば、1Lの吸着剤で通水倍率200B.V.は、被処理水を200L流したことを意味する。
【0031】
[製造例1]実施例1で用いる吸着剤の製造
市販の含水セリウム水酸化物粒子の水分含有量を希土類元素水酸化物(乾燥物)100重量部に対して14〜16重量部に調整した。次に、高分子樹脂を有機溶媒に溶解させて高分子樹脂溶液を調製し、高分子樹脂100重量部あたり600重量部の含水希土類元素水酸化物粒子を分散させ、分散体を得た。得られた分散体を溶融造粒法にて二次粒子平均粒子径が0.2mm〜5.0mmである凝集体に成形した。成形後はよく洗浄を行い、篩にて水と吸着剤を分離し、粒径が0.35〜1.18mmのヨウ素化合物吸着剤1を分級した。
【0032】
[製造例2]実施例2〜3で用いる吸着剤の製造
市販の含水セリウム水酸化物粒子の水分含有量を希土類元素水酸化物(乾燥物)100重量部に対して14〜16重量部に調整した。次に、高分子樹脂を有機溶媒に溶解させて高分子樹脂溶液を調製し、高分子樹脂100重量部あたり425重量部の含水希土類元素水酸化物粒子と、高分子樹脂100重量部あたり50重量部の銀ゼオライト粒子を分散させ、分散体を得た。得られた分散体を溶融造粒法にて二次粒子平均粒子径が0.2mm〜5.0mmである凝集体に成形した。成形後はよく洗浄を行い、篩にて水と吸着剤を分離し
、粒径が0.35〜1.18mmのヨウ素化合物吸着剤2を分級した。
【0033】
[製造例3]実施例4で用いる吸着剤の製造
市販の含水セリウム水酸化物粒子の水分含有量を希土類元素水酸化物(乾燥物)100重量部に対して14〜16重量部に調整した。次に、高分子樹脂を有機溶媒に溶解させて高分子樹脂溶液を調製し、高分子樹脂100重量部あたり390重量部の含水希土類元素水酸化物粒子と、高分子樹脂100重量部あたり40重量部の銀ゼオライト粒子を分散させ、分散体を得た。得られた分散体を溶融造粒法にて二次粒子平均粒子径が0.2mm〜5.0mmである凝集体に成形した。成形後はよく洗浄を行い、篩にて水と吸着剤を分離し、粒径が0.35〜1.18mmのヨウ素化合物吸着剤3を分級した。
【0034】
[比較製造例1]
市販の含水セリウム水酸化物粒子の含水量(乾燥物100重量部あたり32〜36重量部の水分含有量)を調整せずに用いた以外は製造例1と同様の手順で行い、球形粒子を製造しようとしたが、安定した球形粒子を得ることができなかった。
【0035】
[実施例1]
製造例1にて製造したヨウ素化合物吸着剤1(高分子樹脂100重量部当たり600重量部の含水セリウム水酸化物粒子を含有する、粒径0.35〜1.18mmの粒子)を用い、ヨウ素酸イオンが存在する系にてカラム試験を行った。
<原水>
(1)純水にヨウ素酸ナトリウムを溶解してヨウ素酸イオンが50mg/Lになるように調整し、pH=7.0であることを確認した(以下「純水ヨウ素酸含有液」という。)。(2)10倍に希釈した海水にヨウ素酸ナトリウムを溶解してヨウ素酸イオンが50mg/Lになるように調整し、pH=7.2であることを確認した(以下「海水ヨウ素酸含有液」という。)。
<通水試験>
内径10mmのガラスカラムにヨウ素化合物吸着剤1を15ml充填し、19cmの層高を形成した。そこに原水として純水ヨウ素酸含有液を2.5mL/minの流量で通水(通水線流速LV=1.9m/h、空間速度SV=10h
−1)し、出口水を定期的に採取してヨウ素濃度をICP−AES分析(Rigaku CIROSccd)にて測定した。海水ヨウ素酸含有液についても同様に通水処理及びヨウ素濃度分析を行った。
結果を
図1に示す。
図1の横軸はB.V.、縦軸はカラム出口のヨウ素濃度(C)をカラム入口のヨウ素濃度(C0)で除した値(C/C0)であり、C/C0が1.0未満であればヨウ素酸イオンが吸着されたことを示す。
図1から、本発明のヨウ素化合物吸着剤を用いた通水処理により、純水ヨウ素酸含有液及び海水ヨウ素酸含有液のいずれについてもヨウ素酸イオンが除去可能であることがわかる。
【0036】
[実施例2]
製造例2にて製造したヨウ素化合物吸着剤2(高分子樹脂100重量部当たり425重量部の含水セリウム水酸化物粒子と、高分子樹脂100重量部当たり50重量部の銀ゼオライト粒子を含む、粒径0.35〜1.18mmの粒子)を用い、ヨウ化物イオンが存在する系にてカラム試験を行った。
<原水>福島第一原発の汚染水の模擬水
並塩の濃度が0.3wt%になるように模擬海水を調製した。次に、模擬海水に、塩化セシウム、塩化ストロンチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ヨウ化ナトリウムを添加して、セシウム濃度が1mg/L、ストロンチウム濃度が10mg/L、カルシウム濃度が400mg/L、マグネシウム濃度が400mg/L、ヨウ化物イオンが1mg/Lとなるように原水を調製した。
<通水試験>
内径16mmのガラスカラムにヨウ素化合物吸着剤2を20ml充填し、10cmの層高を形成した。そこに原水を67mL/minの流量で通水
(通水線流速LV=20m/h、空間速度SV=200h−1)し、出口水を定期的に採取してヨウ素濃度を測定した。ヨウ素濃度の分析は、ICP−MS分析(Agilent 7700x)を用いて、ヨウ
素127の定量分析を実施した。
結果を
図2に示す。
図2の横軸はB.V.、縦軸はカラム出口のヨウ素127濃度(C)をカラム入口のヨウ素127濃度(C0)で除した値(C/C0)であり、C/C0が1.0未満であればヨウ化物イオンが吸着されたことを示す。
図2から、本発明のヨウ素化合物吸着剤を用いた通水処理により、ヨウ化物イオンが除去可能であることがわかる。
【0037】
[実施例3]
製造例2にて製造したヨウ素化合物吸着剤2(高分子樹脂100重量部当たり425重量部の含水酸化セリウム粒子、及び、高分子樹脂100重量部当たり50重量部の銀ゼオライト粒子を含む、粒径0.35〜1.18mmの粒子)を用い、ヨウ素酸イオンが存在する系にてカラム試験を行った。
<原水>福島第一原発の汚染水の模擬水
並塩の濃度が0.3wt%になるように模擬海水を調製した。次に、模擬海水に、塩化セシウム、塩化ストロンチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ヨウ素酸ナトリウムを添加して、セシウム濃度が1mg/L、ストロンチウム濃度が10mg/L、カルシウム濃度が400mg/L、マグネシウム濃度が400mg/L、ヨウ素酸イオンが10mg/Lとなるように原水を調製した。
<通水試験>
内径16mmのガラスカラムにヨウ素化合物吸着剤3を20ml充填し、10cmの層高を形成した。そこに原水を67mL/minの流量で通水
(通水線流速LV=20m/h、空間速度SV=200h−1)し、出口水を定期的に採取してICP−MSAgilent 7700x)分析によりヨウ素127濃度を測定した。
結果を
図3に示す。
図3の横軸はB.V.,縦軸はカラム出口のヨウ素127濃度(C)をカラム入口のヨウ素127濃度(C0)で除した値(C/C0)であり、C/C0が1.0未満であればヨウ素酸イオンが吸着されたことを示す。
図3から、本発明のヨウ素化合物吸着剤を用いた通水処理により、ヨウ素酸イオンが除去可能であることがわかる。従って、実施例2と併せると、ヨウ化物イオンとヨウ素酸イオンの両方を吸着可能であるといえる。
【0038】
[実施例4]
製造例3で製造したヨウ素化合物吸着剤3(高分子樹脂100重量部当たり390重量部の含水セリウム水酸化物粒子、及び、高分子樹脂100重量部当たり40重量部の銀ゼオライト粒子を含む、粒径0.35〜1.18mmの粒子)を用い、ヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンが混在する系にてカラム試験を行った。
<原水>福島第一原発の汚染水の模擬水
並塩の濃度が0.3wt%になるように模擬海水を調製した。次に、模擬海水に、塩化セシウム、塩化ストロンチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウムを添加して、セシウム濃度が1mg/L、ストロンチウム濃度が10mg/L、カルシウム濃度が400mg/L、マグネシウム濃度が400mg/L、ヨウ化物イオンが1mg/L、ヨウ素酸イオンが1mg/Lとなるように原水を調製した。
<通水試験>
内径16mmのガラスカラムにヨウ素化合物吸着剤2を20ml充填し、100cmの層高を形成した。そこに原水を67mL/minの流量で通水
(通水線流速LV=20m/h、空間速度SV=20h−1)し、出口水を定期的に採取して、ICP−MS分析(Agilent 7700x)を用いて、ヨウ素127濃度を測定した。
結果を
図4に示す。
図4の横軸はB.V.、縦軸はカラム出口のヨウ素127濃度(C)をカラム入口のヨウ素127濃度(C0)で除した値(C/C0)であり、C/C0が1.0未満であればヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンが吸着されたことを示す。
図4から、本発明のヨウ素化合物吸着剤を用いた通水処理により、ヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンが除去可能であることがわかる。
【0039】
[実施例5]
製造例1と同様にして製造したヨウ素化合物吸着剤4−1〜4−9(高分子樹脂100重量部当たり0、50、80、125、200、300、400、500又は600重量部の含水セリウム水酸化物粒子を含有する、粒径0.35〜1.18mmの粒子)を用い、ヨウ素酸イオンが存在する系にてバッチ試験を行った。
<原水>
純水にヨウ素酸ナトリウムを溶解してヨウ素酸イオンが50mg/Lになるように調整し、pH=7.0であることを確認した(以下「純水ヨウ素酸含有液」という。)。
<バッチ試験>
専用容器に純水ヨウ素酸含有液1Lを充填し、ヨウ素化合物吸着剤を2ml添加し、スターラーにて300rpmにて撹拌した。専用容器から純水ヨウ素酸含有液を24時間後と48時間後に採取してヨウ素濃度をICP−AES分析(Rigaku CIROSccd)にて測定した。
ヨウ素酸の除去結果を表1に示す。表1から、本発明のヨウ素化合物吸着剤を用いたバッチ処理により、ヨウ素酸イオンが除去可能であることがわかる。
【表1】
【0040】
[実施例6]
実施例5で用いたヨウ素化合物吸着剤4−8(高分子樹脂100重量部当たり500重量部の含水酸化セリウム粒子を含有する、粒径0.35〜1.18mmの粒子)、表2に示すヨウ素化合物吸着剤と同様の手順にて製造した希土類元素水酸化物以外の異種金属元素含有吸着剤1〜4、及び市販のオキソ酸吸着剤1〜6、活性炭1、陰イオン吸着剤1〜6を用い、ヨウ素酸イオンが存在する系にてバッチ試験を行い、ヨウ素酸イオンの24時間後除去率を比較した。
<原水>福島第一原発の汚染水の模擬水
大阪薬研株式会社の人工海水製造用薬品であるマリンアートSF−1を用い、模擬海水を調製した。次に、模擬海水を10倍希釈した水溶液に、ヨウ素酸ナトリウムを添加して、ヨウ素酸イオンが10mg/Lとなるように原水を調製した。
<バッチ試験>
200ml三角フラスコに原水100mlを充填し、吸着剤1gを添加し、スターラーに
て300rpmにて撹拌した。200ml三角フラスコから原水を24時間後に採取してICP−MS分析(Agilent 7700x)を用いて、ヨウ素127の定量分析を実施した。
ヨウ素酸イオンの除去結果を表2に示す。表2から、本発明のヨウ素化合物吸着剤が市販のオキソ酸吸着剤、陰イオン吸着剤及び活性炭に比べてヨウ素酸イオンの除去性能が顕著に高いことがわかる。
【表2】