特許第6239274号(P6239274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239274
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】発振回路及びその調整方法
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/099 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   H03L7/099
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-121479(P2013-121479)
(22)【出願日】2013年6月10日
(65)【公開番号】特開2014-239365(P2014-239365A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年3月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉川 徹
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−007433(JP,A)
【文献】 特開平07−095069(JP,A)
【文献】 特開平06−112819(JP,A)
【文献】 特開平08−154050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/099
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電圧により調整された周波数の発振信号を出力する電圧制御発振器と、前記発振信号の周波数と所定の入力基準信号との誤差に対応する誤差信号パルスを出力する位相比較器と、前記誤差信号パルスを通過させて直流電圧に変換するフィルタと、を備え、前記駆動電圧が前記直流電圧を加算して更新されることで前記発振信号の周波数が所定の使用周波数にロックされるように構成された発振回路であって、
さらに、2以上の可変容量素子と、
前記2以上の可変容量素子のいずれか1つを選択して前記電圧制御発振器と接続する選択スイッチと、
前記電圧制御発振器から前記駆動電圧を入力してデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、
前記A/Dコンバータから前記駆動電圧のデジタル値を入力して所定の判定処理を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させない非動作期間に前記2以上の可変容量素子から、ロック状態の確認結果と前記駆動電圧とに基づいた所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子を1つ選択し、
前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させる動作期間に前記非動作期間から切り替える前に前記選択スイッチで前記動作用可変容量素子を接続し、
前記2以上の可変容量素子は、前記非動作期間に前記制御部により選択されて前記電圧制御発振器と接続されたときに前記使用周波数でロックされるかの確認が行われる順番に、それぞれの周波数変動域が高周波側または低周波側に順次移動し、
前記非動作期間に前記電圧制御発振器と接続したときに前記使用周波数でロックされる前記可変容量素子のうち選択の順番が最も中央に近い前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択し、
前記2以上の可変容量素子を複数の前記非動作期間に分けて順次前記選択スイッチで選択して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記2以上の可変容量素子のすべての確認を終了したときに前記動作用可変容量素子を選択する
ことを特徴とする発振回路。
【請求項2】
前記制御部は、前記2以上の可変容量素子のうち現在の前記動作用可変容量素子とその前後に選択される所定個数の前記可変容量素子に対して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記所定個数の可変容量素子のうち前記使用周波数でロックされなかった可変容量素子の個数分だけ前記現在の動作用可変容量素子から順番をずらした前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
駆動電圧により調整された周波数の発振信号を出力する電圧制御発振器と、前記発振信号の周波数と所定の入力基準信号との誤差に対応する誤差信号パルスを出力する位相比較器と、前記誤差信号パルスを通過させて直流電圧に変換するフィルタと、2以上の可変容量素子と、前記2以上の可変容量素子のいずれか1つを選択して前記電圧制御発振器と接続する選択スイッチと、前記電圧制御発振器から前記駆動電圧を入力してデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、前記A/Dコンバータから前記駆動電圧のデジタル値を入力して所定の判定処理を行う制御部と、を備え、前記駆動電圧が前記直流電圧を加算して更新されることで前記発振信号の周波数が所定の使用周波数にロックされるように構成された発振回路の調整方法であって、
前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させない非動作期間に、前記2以上の可変容量素子から、ロック状態の確認結果と前記駆動電圧とに基づいた所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子を1つ選択し、
前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させる動作期間に前記非動作期間から切り替える前に、前記選択スイッチで前記動作用可変容量素子を接続し、
前記非動作期間に前記制御部により選択されて前記電圧制御発振器と接続されたときに前記使用周波数でロックされる前記可変容量素子のうち、前記制御部により選択される順番が最も中央に近い前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択し、
前記2以上の可変容量素子を複数の前記非動作期間に分けて順次前記選択スイッチで選択して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記2以上の可変容量素子のすべての確認を終了したときに前記動作用可変容量素子を選択する
ことを特徴とする発振回路の調整方法。
【請求項4】
前記2以上の可変容量素子のうち現在の前記動作用可変容量素子とその前後に選択される所定個数の前記可変容量素子に対して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記所定個数の可変容量素子のうち前記使用周波数でロックされなかった可変容量素子の個数分だけ前記現在の動作用可変容量素子から順番をずらした前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択する
ことを特徴とする請求項3に記載の発振回路の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の使用周波数の電波を発振させる発振回路及びその調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置や各種無線通信装置では、あらかじめ定められた使用周波数の電波を用いて対象物の検知や通信を行っている。それぞれの装置は、所定の使用周波数の信号を安定的に発生させるために、PLL(Phase Locked Loop)回路のような発振回路を備えている。一般的なPLL回路を図8に示す。PLL回路900は、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)901、位相比較器902、フィルタ903、入力基準信号904、及び分周器905を備えている。
【0003】
VCO901が駆動電圧Vtune[V]で安定して動作しているPLL回路900のロック状態において、何らかの外乱が加わることで周波数が変動する可能性がある。例えば、温度変動が生じて周波数が高くなる場合を想定する。周波数が高くなると、それに対応する誤差信号パルスが位相比較器902から出力される。この誤差信号パルスは、フィルタ903を通過することで直流電圧となり、これが駆動電圧Vtuneに加算される。VCO901は、駆動電圧Vtuneが上昇すると出力信号の周波数が低下する、といった特性を有しており、駆動電圧Vtuneの上昇分だけ周波数が低下する。その結果、周波数は再び元の使用周波数に復帰する。
【0004】
PLL回路900は、上記のように、外乱による周波数のずれを駆動電圧Vtuneを変化させることで補償するフィードバックループを形成しており、これにより周波数を使用周波数に安定的に維持したロック状態で発振できるように構成されている。
【0005】
VCO901は、内部に可変容量ダイオード等の可変容量素子を有しており、駆動電圧Vtuneを変化させると容量が変化することで周波数が変化するように構成されている。可変容量素子は、1つで変動可能な容量には限りがあることから、例えば温度が大きく変化すると1つの可変容量素子では周波数のずれを補償しきれないことがある。そこで、複数の可変容量素子を切り替えて用いるように構成された発振回路が知られている(例えば特許文献1)。
【0006】
容量変動範囲の異なる可変容量素子を複数備えた発振回路の一例を図9に示す。同図に示す発振回路910は、VCO901と並列にインダクタ911とn個の可変容量素子912(912−1〜n)が配置されており、選択スイッチ913でn個の可変容量素子912のいずれか1つを選択して接続するように構成されている。同図では、1番目の可変容量素子が接続されている状態を示している。n個の可変容量素子912は、図10に例示するように、それぞれ異なる周波数変動域を有している。それぞれの可変容量素子912は、駆動電圧Vtuneを変化させることでそれぞれの周波数変動域内で周波数を変化させることができる。図10は、現在選択されている可変容量素子912−mの周波数変動域と、それに近い周波数変動域を有する可変容量素子912を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−295273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の可変容量素子を備えた発振回路では、最適な可変容量素子を選択して用いる必要がある。しかし、各可変容量素子の周波数変動域は、温度等の条件や個々の特性等によって変化する。そのため、それぞれの可変容量素子が使用周波数でロック状態になるかを確認し、ロック状態になる可変容量素子の中でも駆動電圧Vtuneによる調整幅ができるだけ大きいものを選択する必要がある。
【0009】
発振回路の運用中に、例えば温度が急激に変化すると、それまで使用していた可変容量素子の周波数変動域が変化するため、それに近い周波数変動域を有する可変容量素子から順次、例えば数秒おきに切り替えていく必要が生じる。可変容量素子の個数は、例えば100以上備えるものもあり、全数の可変容量素子に対してロック状態になるか等の確認を行っていくと、かなりの時間がかかる。一例として、1つの可変容量素子の確認に数msかかるとすると、100個の可変容量素子の確認に数百msかかることになる。その間は、発振回路を使用することができず、発振信号の出力が停止される。
【0010】
特許文献1では、ロック状態等の確認を行う可変容量素子の個数を減らして全数の確認を不要とする方法が提案されている。しかしながら、このような方法を用いてもある程度の個数の可変容量素子の確認を行う必要があり、可変容量素子の確認に時間を要している。そのため、例えば発振回路から発振信号を出力させる周期内の空き時間より長い時間を可変容量素子の確認に要する場合には、発振信号を所定の周期で出力させることができなくなり、発振回路を使用するシステムを一時的に停止させる必要が生じる、といった問題が発生する。例えば、このような発振回路を搭載した車載レーダでは、上記のように数百msの間レーダ機能を停止させる必要が生じると、その間歩行者や障害物の検知が行えず安全上大きな問題となる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、発振信号を周期的に出力する期間外の空き時間を利用して複数備える可変容量素子から最適なものを選択して切り替えることが可能な発振回路及びその調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の発振回路の第1の態様は、駆動電圧により調整された周波数の発振信号を出力する電圧制御発振器と、前記発振信号の周波数と所定の入力基準信号との誤差に対応する誤差信号パルスを出力する位相比較器と、前記誤差信号パルスを通過させて直流電圧に変換するフィルタと、を備え、前記駆動電圧が前記直流電圧を加算して更新されることで前記発振信号の周波数が所定の使用周波数にロックされるように構成された発振回路であって、さらに、2以上の可変容量素子と、前記2以上の可変容量素子のいずれか1つを選択して前記電圧制御発振器と接続する選択スイッチと、前記電圧制御発振器から前記駆動電圧を入力してデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、前記A/Dコンバータから前記駆動電圧のデジタル値を入力して所定の判定処理を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させない非動作期間に前記2以上の可変容量素子から、ロック状態の確認結果と前記駆動電圧とに基づいた所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子を1つ選択し、前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させる動作期間に前記非動作期間から切り替える前に前記選択スイッチで前記動作用可変容量素子を接続し、
前記2以上の可変容量素子は、前記非動作期間に前記制御部により選択されて前記電圧制御発振器と接続されたときに前記使用周波数でロックされるかの確認が行われる順番に、それぞれの周波数変動域が高周波側または低周波側に順次移動し、
前記非動作期間に前記電圧制御発振器と接続したときに前記使用周波数でロックされる前記可変容量素子のうち選択の順番が最も中央に近い前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択し、
前記2以上の可変容量素子を複数の前記非動作期間に分けて順次前記選択スイッチで選択して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記2以上の可変容量素子のすべての確認を終了したときに前記動作用可変容量素子を選択する
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の発振回路の他の態様は、前記制御部は、前記2以上の可変容量素子のうち現在の前記動作用可変容量素子とその前後に選択される所定個数の前記可変容量素子に対して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記所定個数の可変容量素子のうち前記使用周波数でロックされなかった可変容量素子の個数分だけ前記現在の動作用可変容量素子から順番をずらした前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択することを特徴とする。
【0017】
本発明の発振回路の調整方法の第1の態様は、駆動電圧により調整された周波数の発振信号を出力する電圧制御発振器と、前記発振信号の周波数と所定の入力基準信号との誤差に対応する誤差信号パルスを出力する位相比較器と、前記誤差信号パルスを通過させて直流電圧に変換するフィルタと、2以上の可変容量素子と、前記2以上の可変容量素子のいずれか1つを選択して前記電圧制御発振器と接続する選択スイッチと、前記電圧制御発振器から前記駆動電圧を入力してデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、前記A/Dコンバータから前記駆動電圧のデジタル値を入力して所定の判定処理を行う制御部と、を備え、前記駆動電圧が前記直流電圧を加算して更新されることで前記発振信号の周波数が所定の使用周波数にロックされるように構成された発振回路の調整方法であって、前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させない非動作期間に、前記2以上の可変容量素子から、ロック状態の確認結果と前記駆動電圧とに基づいた所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子を1つ選択し、前記電圧制御発振器から外部に前記発振信号を出力させる動作期間に前記非動作期間から切り替える前に、前記選択スイッチで前記動作用可変容量素子を接続し、
前記非動作期間に前記制御部により選択されて前記電圧制御発振器と接続されたときに前記使用周波数でロックされる前記可変容量素子のうち、前記制御部により選択される順番が最も中央に近い前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択し、
前記2以上の可変容量素子を複数の前記非動作期間に分けて順次前記選択スイッチで選択して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記2以上の可変容量素子のすべての確認を終了したときに前記動作用可変容量素子を選択する
ことを特徴とする。
【0020】
本発明の発振回路の調整方法の他の態様は、前記2以上の可変容量素子のうち現在の前記動作用可変容量素子とその前後に選択される所定個数の前記可変容量素子に対して前記使用周波数でロックされるかを確認し、前記所定個数の可変容量素子のうち前記使用周波数でロックされなかった可変容量素子の個数分だけ前記現在の動作用可変容量素子から順番をずらした前記可変容量素子を前記所定の選択条件を満たす動作用可変容量素子に選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、発振信号を周期的に出力する期間外の空き時間を利用して複数備える可変容量素子から最適なものを選択して切り替えることが可能な発振回路及びその調整方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る発振回路の構成を示すブロック図である。
図2】n個の可変容量素子の周波数変動域を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る発振回路の調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の第1実施形態に係る発振回路の調整方法の処理の流れを示すタイムチャートである。
図5】本発明の第2実施形態に係る発振回路の調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図6】発振回路のロック信号と駆動電圧Vtuneの変化の一例を示すグラフである。
図7】本発明の第3実施形態に係る発振回路の調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図8】従来の一般的なPLL回路の構成を示すブロック図である。
図9】従来の可変容量素子を複数備えた発振回路の構成を示すブロック図である。
図10】複数個の可変容量素子の周波数変動域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態における発振回路及びその調整方法について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る発振回路及びその調整方法を、図1を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態の発振回路100の構成を示すブロック図である。なお、以下の各ブロック図において、接続点の図示を省略している。本実施形態の発振回路100は、電圧制御発振器(VCO)101、位相比較器102、フィルタ103、入力基準信号104、及び分周器105を備えたPLL回路を形成しており、これに加えてVCO101と並列にインダクタ111とn個の可変容量素子112(112−1〜n)が配置されている。n個の可変容量素子112(112−1〜n)は、集積回路内に設けられた素子であってもよく、個別部品や集合部品であってもよい。また、可変容量素子112−1〜nのいずれか1つを選択して接続するための選択スイッチ113が設けられている。
【0025】
実施形態の発振回路100は、上記の構成に加えてさらに、VCO101から駆動電圧Vtuneを入力してデジタル信号に変換するA/Dコンバータ(ADC)121と、A/Dコンバータ121から駆動電圧Vtuneのデジタル値を入力して所定の演算処理を行う制御部(制御IC)122と、VCO101からの発振信号を外部に出力可能にするか否かを切り替える切替スイッチ123とを備えている。
【0026】
n個の可変容量素子112は、図2に示すように、所定の条件におけるそれぞれの周波数変動域(可変容量素子の容量の変動域に対応)が、可変容量素子112−1から112−nへと順次移動(図2では低周波側から高周波側へ移動:可変容量素子の容量の変動域が大きい側から小さい側へ移動)するように選択される。ここで、所定の条件における周波数変動域とは、例えば発振回路100の製造時の経年劣化のない状態でかつ基準温度であることを所定の条件として、位相比較器102による周波数変動のフィードバックを行わずに駆動電圧Vtuneを所定の範囲で変化させたときの周波数変動域を意味する。図2に示す各可変容量素子112の周波数変動域は、例えば温度が変化するとほぼ一様に高周波側または低周波側に移動する。
【0027】
n個の可変容量素子112−1〜nの各周波数変動域が図2に示すように設定されているとき、発振信号の出力に用いるのに最適な可変容量素子として、下記の条件を満たす可変容量素子112−mを選択し、これを動作用可変容量素子とする。最適な可変容量素子112−mを選択する条件として、
(1)使用周波数に対してロックされる(ロック状態になる)こと、
(2)駆動電圧Vtuneが、ロック状態になる最大値と最小値の中央値にできるだけ近いこと、
の2つがある。
【0028】
上記の選択条件のうち(2)の条件について、発振回路100が入力基準信号104に対応して使用周波数にロックされる状態では、各可変容量素子112の駆動電圧Vtuneの最大値と最小値を直接取得することはできない。そこで、可変容量素子112−1〜nのうちまず条件(1)のロック状態になるものを、例えば可変容量素子112−1から順番に選択して判定していく。使用周波数にロックされる可変容量素子112は、図2に例示する(m−1)番目の可変容量素子112−(m−1)、m番目の可変容量素子112−m、及び(m+1)番目の可変容量素子112−(m+1)のように、連続する3つ(あるいはそれ以上)の可変容量素子112が存在する。そこで、これら3つ(あるいはそれ以上)の可変容量素子112のうち選択される順番が最も中央に近い可変容量素子112−mを、選択条件(2)を満たすものとして選択する。
【0029】
可変容量素子112−1〜nは、それぞれの周波数変動域が順次一方向(高周波側または低周波側)に移動するように設定されていることから、使用周波数にロックさせるための駆動電圧Vtuneも単調に変化する。従って、選択条件(1)のロック状態になる可変容量素子112のうち選択される順番ができるだけ中央に近いものを選択することで、選択条件(2)を満たす可変容量素子112を選択することができる。
【0030】
選択条件(2)を満たす可変容量素子112を動作用可変容量素子として選択することで、低温側及び高温側への温度変化等の外乱に対してロック状態を維持するための駆動電圧Vtuneの調整幅をできるだけ大きくすることができる。すなわち、選択条件(2)は、駆動電圧Vtuneの電圧可変域を上昇側及び下降側の両方に同程度にするように動作用可変容量素子112を選択することを要求するものである。
【0031】
図1では、一例として発振回路100の出力端に、増幅器131を介してアンテナ132が接続されているものとしており、切替スイッチ123は、VCO101から出力される発振信号をアンテナ132に出力可能にするか否かを切り替えることができる。本実施形態の発振回路100は、例えば車両に搭載されるレーダ装置に用いることができる。車載レーダ装置では、歩行者や障害物等の対象物を検知(以下では、レーダ検知と称する)するために、使用周波数の発振信号を所定の繰り返し周期でアンテナから放射している。そして、対象物で反射された反射波を受信し、所定の処理を行うことで対象物までの距離等を検知している。
【0032】
車載レーダ装置は、上記のようなレーダ検知を所定の検知周期で行っている。この検知周期として、例えば40msに設定することができる。検知周期を40msとした場合、1回の検知周期の間に例えば時速100km/hの車両が約1.1m走行することになるが、危険を回避するには十分な検知周期と考えられる。以下では、本実施形態の発振回路100が車載レーダ装置に搭載されて用いられる場合を例に説明する。
【0033】
本実施形態の発振回路100は、発振信号を外部に出力することが可能な動作期間と、発振信号を外部に出力できないようにした非動作期間とを適宜切り替え、非動作期間に各可変容量素子112のロック状態の確認や駆動電圧Vtuneの取得を行うように構成されている。動作期間は、切替スイッチ123をオンにして発振信号がアンテナ132に出力されるようにし、非動作期間は、切替スイッチ123をオフにして発振信号がアンテナ132に出力されないようにする。
【0034】
可変容量素子112の確認は、レーダ装置の初期化時にまず行うことができる。初期化時はまだレーダ検知を行っていないことから、全数の可変容量素子112を確認するのに必要な時間を確保することができる。発振回路100が仮に100個(n=100)の可変容量素子112を備え、1つの可変容量素子112の確認に数msかかるとすると、全数の可変容量素子112の確認に数百msの時間を要することになるが、レーダ検知を開始する前であれば全く問題ない時間と考えられる。全数の可変容量素子112の確認の結果より、可変容量素子112の選択条件(1)、(2)を満たす最適なもの(図2に示す動作用可変容量素子112−m)を動作用可変容量素子として選択し、選択スイッチ113をこれに合わせる。
【0035】
レーダ装置の作動中は、初期化時のように全数の可変容量素子112の確認を一括して行うことはせず、本実施形態ではこれを複数回の非動作期間に分割して行うようにしている。1回の非動作期間に1個の可変容量素子112の確認を行うようにすると、非動作期間の長さを数msに大幅に短縮することができる。動作期間におけるレーダ検知と非動作期間における可変容量素子112の確認とを交互に切り替えて行うようにすると、これをn回繰り返すことですべての可変容量素子112の確認を終了することができる。非動作期間の時間が極めて短いことから、各検知周期においてレーダ検知を終了したのちの空き時間内に非動作期間を設けることができ、所定の検知周期でレーダ検知を継続することが可能となる。
【0036】
なお、上記では1回の非動作期間に1個の可変容量素子112の確認を行うとしているが、これに限定されず、各検知周期の空き時間内で可能な限り、1回の非動作期間に複数個の可変容量素子112の確認を行うようにすることも可能である。これにより、すべての可変容量素子112の確認を行うのに必要な非動作期間の回数を減らすことができ、再び同じ可変容量素子112の確認を行うまでの期間を短くすることができる。
【0037】
本実施形態の発振回路100では、可変容量素子112の確認や選択を制御部122で行っている。また、切替スイッチ123をオン/オフさせて動作期間と非動作期間の切り替えを、制御部122で行わせるようにすることができる。あるいは、レーダ装置の動作を制御している上位の制御部で切替スイッチ123を制御させるようにしてもよい。1回の検知周期において、動作期間でのレーダ検知を終了すると、切替スイッチ123をオフにして非動作期間に切り替え、所定個数(1個または複数個)の可変容量素子112の確認を行う。そして、所定個数の可変容量素子112の確認を終了すると、切替スイッチ123をオンに戻して再び動作期間に切り替える。
【0038】
制御部122で行う本実施形態の発振回路100の調整方法を、図3を用いて詳細に説明する。図3は、本実施形態の発振回路100の調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、1回の非動作期間に1個の可変容量素子112の確認を行うものとして説明する。
【0039】
ステップS1でレーダ装置が起動されると、ステップS2でレーダ装置の初期化時に全数の可変容量素子112の確認が行われ、条件(1)、(2)を満たす可変容量素子112−mが動作用可変容量素子に選択される。そして、選択スイッチ113が、動作用可変容量素子に選択された可変容量素子112−mに切り替えられる。つぎのステップS3以降の処理は、レーダ装置の検知周期ごとに繰り返し行われる処理である。なお、各検知周期の非動作期間にロック状態の確認が行われる可変容量素子112を、以下では可変容量素子112−Cで示すものとする。
【0040】
ステップS3では、切替スイッチ123がオンにされた動作期間に発振回路100から発振信号が出力され、アンテナ132から放射されてレーダ検知が行われる。レーダ検知が終了すると、ステップS4で切替スイッチ123をオフにして発振回路100を非動作期間に切り替える。
【0041】
次のステップS5では、ロック状態の確認を行う可変容量素子112−Cの選択が行われる。レーダ装置が起動されたのちの最初のステップS5では、C=1として可変容量素子112−1が選択される。それ以降は、Cがnに達するまで1ずつ加算されていく。また、Cがnに達したのちは、Cが再び1に戻されて可変容量素子112−1からの確認が繰り返されていく。可変容量素子112−Cが選択されると、選択スイッチ113が動作用可変容量素子である可変容量素子112−mから可変容量素子112−Cに切り替えられる。
【0042】
ステップS6では、ステップS5で選択された可変容量素子112−Cがロックされる(ロック状態になる)かを確認する。続くステップS7では、可変容量素子112−Cがロックされたときの駆動電圧Vtuneを取得する。これにより、可変容量素子112−Cの確認を終了する。
【0043】
つぎのステップS8では、すべての可変容量素子112の確認が終了したか(C=nか)を判定し、C=nが成立するときはステップS9に進む一方、C=nが成立しないときはステップS10に進む。
【0044】
ステップS9では、すべての可変容量素子112の確認結果より、ロック状態になる可変容量素子112のうち、取得された駆動電圧Vtuneが最も中心値となる可変容量素子112−m’を、条件(2)を満たす最適な動作用可変容量素子として選択する。その後ステップS10に進む。
【0045】
ステップS10では、選択スイッチ113を可変容量素子112−Cから動作用可変容量素子に切り替える。このとき、ステップS9で動作用可変容量素子が更新されているときは新たに最適とされた可変容量素子112−m’に切り替えられ、それ以外のときは元の可変容量素子112−mに切り替えられる。そして、ステップS11で切替スイッチ123をオンにして発振回路100を動作期間に戻す。以下、つぎの検知周期でステップS3から処理を繰り返す。
【0046】
上記の処理の流れを模式的にタイムチャートで表したものを図4に示す。同図において、Taがレーダ検知を行う動作期間を示し、Tbが可変容量素子112の確認を行う非動作期間を示している。検知周期Tcは、期間TaとTbを合わせた時間より長くなるように設定されている。検知周期Tcを40msとし、可変容量素子の個数nを100とすると、すべての可変容量素子112を確認して動作用可変容量素子が最適なものに更新されるまでに4sの時間がかかることになる。しかし、外乱が温度変化のときは、可変容量素子112の温度変化に伴う特性変化の時定数が4sより長いと考えられることから、可変容量素子112の特性変化に対し十分短い更新周期で動作用可変容量素子112を最適なものに更新することができる。
【0047】
本実施形態の発振回路100及びその調整方法によれば、発振信号を周期的に出力する動作期間外の空き時間を利用して複数備える可変容量素子から最適なものを選択して切り替えることが可能となっている。本実施形態では、1回の非動作期間に確認する可変容量素子の個数を少なくしていることから、検知周期内の空き時間内に可変容量素子の確認を終了させることができる。これにより、発振信号を用いた所定の処理を継続させながら、最適な可変容量素子を動作用可変容量素子に選択して切り替えることができる。また、全数の可変容量素子の確認に要する時間も、熱変動による特性変化の時定数に比べて短く、熱変動の外乱に対して十分短い周期で動作用可変容量素子を最適な可変容量素子に更新していくことが可能となっている。
【0048】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る発振回路の調整方法を、図5を用いて以下に説明する。図5は、本実施形態の発振回路の調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態の発振回路の調整方法では、図5に示すフローチャートのステップS20が追加されている。
【0049】
発振回路100では、VCO101から出力される発振信号の周波数に変動があると、位相比較器102から誤差信号パルスが出力され、この誤差信号パルスがフィルタ103を通過することで直流電圧となり、これが駆動電圧Vtuneに加算されてVCO101の周波数が調整される。ここで、フィルタ103の特性(時定数)によっては、誤差信号パルスがフィルタ103を通過して安定した直流電圧に達するまでに時間がかかることになる。そのため、使用周波数でロックされても駆動電圧Vtuneがしばらく変化することが考えられる。
【0050】
発振回路100がロックされたことを示すロック信号と駆動電圧Vtuneの変化の一例を図6に示す。同図に示すように、発振回路100がロックされてから駆動電圧Vtuneが安定するまでに時間を要することから、非動作期間における可変容量素子112の確認では、ロックされたことを確認してから所定の時間が経過したときの駆動電圧Vtuneを取得するのがよい。この所定の経過時間は、フィルタ103の特性に基づいて好適に設定するのがよく、たとえば数ms程度となる。図5に示すステップS20は、この所定の経過時間が経過するのを待つものである。
【0051】
(第3実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る発振回路の調整方法を、図7を用いて以下に説明する。図7は、本実施形態の発振回路の調整方法の処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態の発振回路の調整方法では、非動作期間にロック状態を確認する可変容量素子112の個数を大幅に低減することができる。
【0052】
可変容量素子112の特性変化は、主に温度変化や経年劣化などの外乱に起因することから、その変化は比較的ゆっくりとしている。従って、最適な可変容量素子がそれまでの可変容量素子112−mから別の可変容量素子112に変化するのは、例えば数秒後にせいぜい可変容量素子112−(m−1)または可変容量素子112−(m+1)に変化する程度である。そこで、ロック状態の確認を行う可変容量素子112を、現在動作用可変容量素子に選択されている可変容量素子112−mとその前後の可変容量素子112−(m−1)、(m+1)に限定することができる。ロック状態の確認を行う可変容量素子112をこのように限定しても、これらの確認を完了して動作用可変容量素子を最適な可変容量素子112に更新する更新周期を例えば1秒程度以下とすれば問題ないと考えられる。
【0053】
図7は、上記のようにロック状態の確認を行う可変容量素子112を3個に限定したときの処理の流れを示している。まず、ステップS2の初期化終了後に、ステップS30で最初に確認する可変容量素子112−Cとして可変容量素子112−(m−1)を選択しておく。
【0054】
また、ステップS7で駆動電圧Vtuneを取得したのち、ステップS31で現在の確認対象の可変容量素子112−Cが可変容量素子112−(m+1)に一致するか否かを判定する。可変容量素子112−(m+1)に一致しないと判定されたときは、ステップS32で確認対象の可変容量素子112−Cをつぎのものに更新する。
【0055】
一方、ステップS31で可変容量素子112−Cが可変容量素子112−(m+1)に一致すると判定されたときは、可変容量素子112−(m−1)、m、(m+1)の3つの確認が終了したことになる。そこで、ステップS33でまず可変容量素子112−(m−1)がロックされなかったかを判定し、ロックされなかったときは、ステップS34で可変容量素子112−(m+1)を動作用可変容量素子として選択する。その後、ステップS10に進む。
【0056】
また、可変容量素子112−(m−1)がロックされたときは、ステップS35で可変容量素子112−(m+1)がロックされなかったかを判定し、ロックされなかったときは、ステップS36で可変容量素子112−(m−1)を動作用可変容量素子として選択する。本実施形態の発振回路の調整方法では、動作用可変容量素子が更新されるのは、ステップS33とステップS35の判定のいずれか一方だけが成立するときとしている。
【0057】
上記のように、可変容量素子112−(m−1)がロックされないときは可変容量素子112−(m+1)が最適な可変容量素子として新たに動作用可変容量素子に設定され、可変容量素子112−(m+1)がロックされないときは可変容量素子112−(m−1)が最適な可変容量素子として新たに動作用可変容量素子に設定される。ここで、更新前の動作用可変容量素子を112−m’とし、動作用可変容量素子が可変容量素子112−(m’+1)に更新されたとすると、次回の更新周期における可変容量素子112の確認では、可変容量素子112−m’、(m’+1)、(m’+2)が確認対象となる。
【0058】
図7に示すフローチャートの処理では、確認対象の可変容量素子112を3個に限定している。検知周期を40msとすると、3個の可変容量素子112を確認して動作用可変容量素子を更新するのに要する時間、すなわち更新周期は、
40ms×3=120ms
となる。これは、温度変化や経年劣化などの外乱による可変容量素子112の特性変化に比べて、十分に短い時間となっている。
【0059】
なお、上記説明の発振回路の調整方法では、確認対象の可変容量素子112を3個としていたが、これに限定されず、例えば可変容量素子112−(m−2)、(m−1)、m、(m+1)、(m+2)のように、確認対象の可変容量素子112の個数を増やしてもよい。確認対象の可変容量素子112の個数を5個にした場合でも、動作用可変容量素子の更新周期は200msであり、十分に短い時間となる。
【0060】
本実施の形態における記述は、本発明に係る発振回路及びその調整方法の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における発振回路及びその調整方法の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
100 発振回路
101 電圧制御発振器
102 位相比較器
103 フィルタ
104 入力基準信号
105 分周器
111 インダクタ
112 可変容量素子
113 選択スイッチ
121 A/Dコンバータ
122 制御部
123 切替スイッチ
131 増幅器
132 アンテナ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10