【実施例1】
【0018】
以下、
図1乃至
図6を用いて、本発明の実施例を説明する。本発明は、半導体ウエハ等の被処理材をプラズマを用いてエッチングする際に、プラズマの発光から検出した光の強度の変化を示す波形の長期的な変化(長い周期を有した
変化、長い波長域の変化)の傾向を示すデータや情報(ベースライン)を高精度に推定し、得られたベースラインの値を上記波形から除くことにより、急激な或いは大きな変化の成分を示すデータや情報を検出するものである。
【0019】
図1を用いて、本発明にかかるエッチング量(マスク材の残存膜厚またはシリコンのエッチング深さ)測定装置を備えた半導体素子が形成される半導体ウエハのエッチング装置であるプラズマ処理装置の全体構成を説明する。
【0020】
本実施例のエッチング装置(プラズマ処理装置)101は、内部の空間の形状に合わせて形状が円筒形状を有した真空容器102を備えており、その内部の空間である円筒形状を有した処理室に図示を省略したガス導入手段から導入されたエッチング処理用のガスがマイクロ波電力等の電界または真空容器の処理室外周に配置されたソレノイド等の磁場形成のための手段により供給された磁界により励起されて処理室内にプラズマ103が形成される。処理室の下部には、円筒形状を有して、実質的に円形の半導体ウエハ等の基板状の被処理材の試料(以下、ウエハ)104がその円形を有した上面に載せられる試料台105が配置されこのプラズマ103により試料台105上のウエハ104上面に予め形成された複数の薄膜の層が上下に積層されて構成された膜構造の処理対象の膜層がエッチング処理される。
【0021】
本実施例のプラズマ処理装置101は、処理中にプラズマによる処理の状態、特にエッチングの量(膜構造の上方の膜を構成するマスク材の残存膜厚や処理対象の膜層であるシリコン(ポリシリコン、Poly−Si)のエッチング深さ)を検出する検出器112が連結されて配置されている。この検出器112は、光ファイバー107を介して真空容器102または内部の処理室と接続されて連結され処理室内からの光を受ける分光器108と、分光器108から出力される所定の波長の前記光の強度を用いて当該光の強度の変化を検出して出力する変化強調部109と、変化強調部109からの出力を用いてプラズマによる対象膜の処理が終点へ到達したかを判定する終点判定部110とを有している。
【0022】
本実施例では、ウエハ104の処理中に、分光器108が有する測定用光源(例えばハロゲン光源)からの多波長の放射光106が、光ファイバー107を介して真空容器102の処理室内に導かれ、エッチングの際に生じる処理室内またはプラズマ中の反応生成物に垂直の入射角で照射される。光ファイバー107の処理室側の先端部は、真空容器の処理室の天井面または円筒形状の側壁の内面に配置された開口あるいはこれら内側の処理室に面した透光性を有した部材で構成された窓部と連結され、窓または開口を通して光が処理室の内部及び外部の光ファイバー107の先端の間を伝達される。
【0023】
反応生成物から反射した光は、再度光ファイバー107を介して検出器112の分光器108に導かれ、検出器では、分光器108から得られた所定の波長の光の強度の変化から検出されるエッチング処理の状態に基づいて終点の到達の判定が行われる。検出器112の変化強調部109では、エッチング処理に伴う反応生成物の影響により発光の強度の変化が生じる波長の時間波形からプラズマまたは処理室内からの光(発光)の強度の変化を抽出する部分である。
【0024】
終点判定部110では、発光の強度が特定の変化を示せば処理は終点に到達したものと判定される。このような発光の変化の特定の変化を検出した結果を用いる処理の終点の判定は、従来から知られた技術を用いることができる。本実施例では、発光の強度の時間的な変化(時間の変化に対する強度の発光の変化)が極値を示す、つまりその時間についての微分(時間微分)が0となる(ゼロクロスする)位置を算出することで行う。このような処理により求められたウエハのエッチング量についての情報は、検出器112から出力されプラズマ処理装置101に備えられた液晶やCRTのモニタ等の表示器111により表示される。
【0025】
本構成における変化強調部109の詳細なブロック構成を
図2に示す。
図2は、
図1に示す実施例における変化強調部の構成の概略を示すブロック図である。本図において、雑音除去部201では、入力された発光の強度の変化を示す信号の波形のうちエッチングに伴って形成された反応生成物の影響により発光の強度に変化が生じる波長の時間波形(時間の変化に対する強度の変化)から、これと無相関な白色雑音の除去または低減する処理を、検出する予め設定されたサンプリングの時間間隔毎に行う。
【0026】
白色雑音の除去は、デジタルフィルタによるローパスフィルタを用いることは可能である。しかし、時間波形の変化の成分は、ベースラインと比べて高周波数であるため、この白色雑音を効率的に除去する目的でローパスフィルタのカットオフ周波数をベースラインの周波数近辺に設定すると、時間波形中の変化成分を除去してしまうことになり、以後の処理で目標とするエッチングの量の変化を示す発光の強度の特定の成分の抽出が困難となってしまう。
【0027】
そこで本実施例では、雑音除去部201では、無限インパルス応答フィルタであるカルマンフィルタ(R.E. Kalman, ``A new approach to linear filtering and prediction problems, '' Trans. ASME, J. Basic Eng., vol. 82 D, no. 1, pp. 34--45, 1960.)を用いて、時間の変化に無相関な白色雑音の成分を低減する構成を備えた。本実施例では、エッチングに伴う反応生成物の影響により発光強度の変化が生じる波長の時間波形を状態方程式
Xt=H (Xt-1)+ut
でモデル化する。ここで、Xtは、対象とする時間波形中の白色雑音を含まない成分である。Hは過去の状態からの状態遷移行列である。utは、時間波形の時間変化成分である。
【0028】
また、実際に得られる発光の強度の時間に対する変化(時間変化)をYtとし、白色雑音を含まない成分との間の対応関係を
Yt=CXt+vt
としてモデル化する。vtは観測雑音項と呼ばれ、除去するべき白色雑音をモデル化した項である。Cは状態変数の中(またはその線形結合)の内、観測される成分を特定する出力行列である。
【0029】
utを0平均のガウス分布とみなし、各時間毎のばらつきの大きさを表す共分散行列をRuとする。同様に、vtを0平均のガウス分布としみなし、vtの共分散行列をRvとする。RuとRvは、予め定めるパラメータとする。Ruは、1行1列目のみσs^2で定義される値を持ち、残りの要素は0となる行列として定義する。
【0030】
σs^2/Rvが大きい程、白色雑音除去量が小さくなり、逆に小さい程、白色雑音除去量が大きくなる。白色雑音を含まない時間波形の推定値を以下のように求める。
【0031】
予測処理:Xt|(t-1) = H (Xt-1|t-1)、
フィルタリング処理:Xt|t= Xt|(t-1)+K(Yt-CXt|t-1)
ここで、Kはカルマンゲインと呼ばれ、観測信号の情報をどの程度、雑音を含まない時間波形の推定値にフィードバックするかを制御する変数である。KはK=Rxt|(t-1)C
T (Rv+ C Rxt|(t-1)C
T)
-1で求めることができる。
【0032】
ここで、Rxt|(t-1)は、各時刻毎の予測誤差を意味し、Rxt|(t-1)=H Rx(t-1)|(t-1)H
T+Ruとなる。更に、Rxt|t=(I-KC) Rxt|(t-1)でもとまる。上記の流れは、全ての変数がガウス分布に従う確率変数とみなした時の平均二乗誤差最小化規範(MMSE)解に相当している。
【0033】
本実施例では、Hの1行目を、[2,-1]、2行目を[1,0]とする2行2列の行列とする。これは、雑音除去後の波形が過去2点からの直線近似で予測できることを前提としていることに相当する。Cは、[1,0]の1行2列とすることで、雑音除去後の波形が観測した時間波形のちょうど中央を通る信号として推定されることになる。
【0034】
カルマンフィルタ後の信号は、カルマンスムーザーによる補正を施される。カルマンスムーザーとは、雑音抑圧対象の時間よりも先の時間の信号を利用して、雑音抑圧性能を高めるような構成を指す。カルマンスムーザーでは、現在の信号を以下の流れで補正する。
【0035】
Rxt|Lt= Rxt|t-At(Rxt+1|t- Rxt+1|Lt)At
T
Xt|Lt= Xt|t+At(Xt+1|Lt- Xt+1|t)
At= Rxt|t C
T Rxt+1|t
-1
ここで、Lt=t+Lは、時間tの雑音を低減する対象の信号の補正に利用する複数のサンプリング時間の最大時間のものの番号(インデックス)とする。つまり、白色雑音の除去の処理後の時間波形が出力される時間がLの分だけ時間の進行の方向に遅れることになる。雑音除去部201はカルマンスムーザーで補正した信号を出力する。
【0036】
ベースライン推定部202は、雑音除去部201からの出力を受けて白色雑音が除かれた後の発光の強度の時間波形を用いて反応生成物の発生に伴う変化を含まない成分(ベースライン)を検出する。本実施例のベースライン推定部202は、カルマンフィルタに基づく構成となるが、過去の状態からの変動を外挿により推定する際に用いる過去のサンプリング時刻の時点の数である外挿次数Nを、雑音除去部201のカルマンフィルタのものよりも大きい値(3以上)に設定する。
【0037】
このことにより、時間毎に緩やかにしか傾きが変化しないベースライン成分をより強調してより明確に抽出する。N=2の場合であっても、Ruと、観測雑音の分散パラメータRvの比率を、雑音除去201の1構成として示したカルマンフィルタよりも、小さい値に設定することで、時間毎に緩やかにしか傾きが変化しないベースライン成分を強調して抽出することが可能となる。
【0038】
有限の外挿次数Nを用いてベースラインの推定を行うことにより、時間の経過とともに緩やかに変化するベースラインの値は、その変化の割合あるいは変化率の時間的な変動に追従しつつ高い精度で検出または推定される。また、発光の強度の信号のベースラインの検出に用いる外挿次数Nの大きさを反応生成物に起因する発光の変化の成分の抽出に用いる外挿次数Nより大きくすることで、より長い周期のベースラインの変化とより短い周期の反応生成物に起因する発光の変化とを明確に分けて検出し、その検出の精度を向上させることで、後述する終点の判定等のプラズマの形成や処理の条件の変化、調節というプラズマ処理装置101の動作の制御を高精度に行うことができる。
【0039】
図10に外挿次数Nをパラメータとして変化させた場合の検出器112から得られる変化の推定値の値の変化を示す。
図10は、
図1に示す実施例の検出器の出力の外挿次数Nをパラメータとした変化を示すグラフである。本図では、100秒直後の変化成分が、Nの増大に伴ってより大きく明確に検出出来ていることが判る。
【0040】
ベースライン推定部202のより詳細な構成を
図3に示す。
図3は、
図1に示す実施例におけるベースライン推定部の構成の概略を示すブロック図である。
【0041】
本図に示す通り、ベースライン推定部202は、雑音が除去された雑音除去波形を受信して内分処理した結果を外挿係数により補正してベースライン推定値として出力するとともに、当該ベースライン推定値をベースラインのデータベースに記憶あるいは格納する。まず、内分パラメータ設定部307は、状態遷移時の雑音の分散パラメータRuと、観測雑音の分散パラメータRvを、設定ファイルから読み込んだり、表示器111上に表示される画面でのPCのキーボードやマウス等の入出力手段を用いたもの等の標準的なユーザーインターフェース機構を用いて設定される。
【0042】
そして、読み込んだRu,Rvは、ベースライン推定部202の処理を行うコンピュータ等の制御用の装置上にあるメモリやハードディスク等の記憶領域内に設定された内分パラメータデータベース306に記憶される。
図11に、Rv/Ruの比率のlog10を取った値(O/P)を示す。O/Pが大きくなるほど、100秒直後の変化が明確に検出出来ていることが判る。
【0043】
外挿係数算出部304では、カルマンフィルタにおいて外挿処理によりベースラインを推定する際に、用いる過去のベースラインのポイント数(外挿次数)を設定ファイルから読み込んだり標準的なユーザーインターフェース機構を用いて設定される。ここで、設定された次数をNとする。外挿係数算出部304では、外挿次数Nに応じて外挿係数Gが算出あるいは予め得られた複数のデータのうちから選択される。
【0044】
外挿係数Gを推定する流れを
図4に示す。
図4は、
図1に示す実施例に係る検出器の外挿処理の流れを示すフローチャートである。
【0045】
上記のユーザーインターフェースが用いられて、外挿次数Nが設定される(ステップ401、以下同)。次に、設定された外挿次数Nから、外挿係数Gの算出に用いる1行2列のベクトルkが(N+1,1)として設定される(402)。
【0046】
次に、N行2列の行列Hが、2列目が全て1、1列目のn行目がnとなるように設定される(403)。次に、Hの擬似逆行列HがH+=H
T(HH
T)
-1となるように算出される(404)。
【0047】
N行N列の行列Gの1行目をkH+とする。それ以外の行を0とする(405)。算出した行列Gを出力する(406)。
このようにして求めた外挿係数Gは、二乗誤差最小化の観点で最適となる過去N点のベースライン推定値から次のポイントのベースライン推定値を求めるための外挿曲線の係数となる。
【0048】
外挿係数算出部304では、求めた外挿曲線の係数Gを、上記の記憶領域内に設定された外挿係数データベース303に記憶する。バッファ部301では、補正処理部308から出力される時刻tでのベースラインの推定値xt|tを異なる時刻で受け取るたびに、これをベースラインバッファデータベース311にFIFO(Fast In Fast Out)で送信してこれに記憶させる。本実施例のベースラインバッファデータベース311は、少なくともN点のベースライン推定値を保持できるだけの記憶容量を有するものとする。
【0049】
また、バッファ部301は、ベースラインバッファデータベース311に記憶された過去N点のベースライン推定値(xt|t, xt-1|t-1, …, xt-N+1|t-N+1)を用いて、これらのベースライン推定値を各行に並べたベクトルXt-1|t-1を生成する。
【0050】
外挿入処理部302では、Xt-1|t-1に左から外挿係数GをかけたXt|t-1=GXt-1|t-1(外挿値)を算出する。Xt|t-1の第1行の値が、tポイント目におけるベースラインの予測値となる。
【0051】
内分処理部305では、まず、誤差予測部310が推定する誤差予測値Vt|t-1から、内分用の行列K(内分量)をK=Vt|t-1C
T(Vt|t-1+Ru)
-1として算出し出力する。ここで、Cは1行N列のベクトルであり、1列目が1で、残りの列は0となる行列とする。
【0052】
補正処理部308では、内分処理部305が出力する内分量Kと、雑音除去波形ytから、ベースライン推定値Xt|tを、Xt|t=Xt|t-1+K(yt-CXt|t-1)で求める。そして、Xt|tの1行目を出力する。
【0053】
誤差更新部309では、誤差予測部310が出力するVt|t-1と、内分処理部305が出力するKから、誤差推定値Vt|tを、Vt|t=(I-KC)Vt|t-1として算出し出力する。誤差予測310では、誤差更新部309が出力するVt|tをVt-1|t-1と読み替え、外挿処理部302が出力する外挿係数Gと内分パラメータ306に格納されている内分パラメータRuから、Vt|t-1=GVt-1|t-1G
T+RuとしてVt|t-1を求めて出力する。
【0054】
ベースライン推定部202は、補正処理部308が出力するベースライン推定値xt|tを
図2の引き算203に出力して終了する。引き算部203では、雑音が除去された後の発光の強度の時間変化を示す信号ytからxt|tを引いた信号ztを出力する。xt|tがベースライン推定値であるため、信号ztは、雑音が低減された後の信号中の反応生成物発生に伴う波形の変化の成分を示すものとなり、これはベースラインよりも周期の短い(波長の長い)変化の成分をより多くの割合で含むものとなる。
【0055】
雑音除去部204では、雑音除去部201と同様の処理により、zt中の白色雑音を取り除いた信号(変化成分の雑音除去波形)atを出力する。差分処理部205では、bt=at-at-1で、atの一階差分値btを算出する。算出された値は、発光の強度の信号のベースラインの成分が除かれた変化の成分としての差分値を示している。
【0056】
更に、雑音除去部206では、btから雑音除去部201で行われる処理と同様に、白色雑音を除去した信号が出力される。この出力の信号は、ベースラインの成分が除かれた発光の強度の信号の差分であって処理の進行に伴う、より周期(波長の)の短い変化である、処理対象の膜あるいはプラズマ中の粒子または処理室内部の状態の変化が強調された信号を示している。
【0057】
これが変化強調部209による演算の結果の出力として出力される。変化強調部109中の全ての雑音を除去する部分でカルマンフィルタを用いることにより、ベースラインが緩やかな変動を持つ場合であっても、その影響を強く受けずより明確に変化の成分を抽出することができる。
【0058】
図5で、本実施例における終点の判定を行う処理のフローを記載する。
図5は、
図1に示す実施例に係る検出器の終点の検出の流れを示すフローチャートである。
【0059】
本図において、まず変化強調部109の内部で用いられるパラメータが処理開始前に設定される(ステップ501、以下同)。この設定は、上記と同様に設定ファイルから読み込んだり、表示器111上に表示される画面でのPCのキーボードやマウス等の入出力手段を用いたもの等の標準的なユーザーインターフェース機構を用いて設定される。
【0060】
次に、発光の強度を示す信号を予め設定された時間のサンプリング間隔毎に検出するサンプリングを開始する(502)。新しい信号を検出する毎にその信号に対して変化強調処理を実行する(503)。
【0061】
そして、終点の判定の処理を実施して(504)、終点と判定された場合にサンプリングが終了する(505)。終点と判定されない場合は、次のサンプリングを行うステップに戻り得られた信号の変化強調の処理を繰り返す。
【0062】
図6が本実施例により、雑音や右下がりのベースラインを含んだ時間波形から変化成分を抽出した結果を示すもの。
図6は、
図1に示す実施例に係る検出器による検出の結果の例を示したグラフである。
【0063】
この図に示す通り、受光して分光器108から出力された信号の波形では90秒前後の変化が存在すると推定されていた時間帯での変化は、変化強調部109からの出力からは110秒前後に変化の成分として大きな値の増減として得られている。この図から、本実施例により原波形では不明瞭であった変化の成分を明確に検出できていることがわかる。