(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電流リードの冷却構造では、電流リードとサーマルアンカーを平板で熱接触させているため、十分な冷却能力を得ようとする場合、電流リードとサーマルアンカーとの接触面積を多くする必要がある。そのため、従来の構造では、高温超電導コイルを収納するクライオスタット全体が大きくなり、装置全体の大型化、高コスト化を免れないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、例えば高温超電導コイルを収納するクライオスタット全体の小型化、低コスト化が図れる超電導導体の冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、超電導導体を内包した内槽と、前記超電導導体に接続され、前記内槽を貫通して導出された電流リードと、前記内槽及び前記電流リードの間に配された絶縁体と、前記内槽を冷却する冷却機構とを有し、前記内槽及び前記電流リードは互いに対向する面に凹凸部を備えており、前記絶縁体を介して各凹凸部が結合されたことを特徴とする。
この場合において、前記各凹凸部がボルトによって結合されていてもよい。
この発明では、内槽及び電流リードが凹凸部を備え、絶縁体を挟んで、凹凸部を結合したため、内槽及び電流リードの接触面積が増大する。
したがって、内槽を冷却する冷却機構からの冷熱により、電流リードを通じた超電導導体への熱侵入を抑制できる。
【0007】
前記電流リードの凹凸部が基体部とフィン部を有し、前記基体部の両端にリード導体を備えてもよい。
この発明では、超電導導体の電流リードが、一端のリード導体と、基体部と、他端のリード導体とにより一体的に形成されてもよい。このとき、一端のリード導体が基体部の一端側に接続され、他端のリード導体が基体部の他端側に接続されることが好ましい。
基体部全体で電流リードが冷却されることで、電流リードがより効率的に冷却される。
前記凹凸部の凹部及び凸部が台形状であってもよい。
この発明では、内槽及び電流リードの接触部に容易に圧力をかけられるため、熱接触がよくなり、冷却が効率化する。
【0008】
絶縁体は、柔らかい素材、例えば、前記絶縁体の室温での引張弾性率が10GPa以下であってもよい。具体的には、前記絶縁体がカプトン(登録商標)、テフロン(登録商標)の何れかであってもよい。このような柔らかい素材を用いることで、電流リード及び内槽との接触熱抵抗を低減することができ、結合をより強固にすることができる。
また、絶縁体は硬い素材を用いることもでき、例えば、前記絶縁体のヤング率が200GPa以上であってもよい。具体的には、前記絶縁体がサファイア、アルミナ、窒化アルミニウムの何れかであってもよい。このような硬い素材を用いることで、熱伝導率を高くすることができ、より冷却を効果的に行うことができる。
前記超電導導体が超電導コイルであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内槽及び電流リードが凹凸部を備え、絶縁体を挟んで、凹凸部を結合したため、熱接触が良好であり、かつ、電気絶縁が良好であり、内槽及び電流リードの接触面積が増大する。
したがって、内槽を冷却する冷却機構からの冷熱により、電流リードを通じた超電導導体への熱侵入を抑制できる。また、例えば高温超電導コイルを収納するクライオスタット全体を小型化できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、超電導フライホイール電力貯蔵装置(以下、電力貯蔵装置という。)の概略構成図である。
電力貯蔵装置1は、モータ/発電機11と、フライホイール13と、このフライホイール13の回転軸14を回転自在に支持する超電導磁気軸受15とを有し、電力によりモータ/発電機11を回転させることによりフライホイール13を回転させ、電力を回転力に変換して蓄え、また、フライホイール13の回転力によりモータ/発電機11を回転させて発電することにより回転力を電力に変換して出力するように構成されている。
【0012】
この電力貯蔵装置1はケース体17を有し、このケース体17内にフライホイール13及び回転軸14が格納されている。ケース体17の上面部には、モータ/発電機11が配置されている。このモータ/発電機11と回転軸14の上端14A(他端)との間には、非接触式(空隙式)の電磁クラッチ装置19が配置され、両者間に非接触で回転が伝達されるように構成されている。
ケース体17は、ベース板21上に脚片部23を介して配置されており、ベース板21とケース体17との間の空間に超電導磁気軸受15が配置されている。
具体的には、ケース体17の下方には冷却容器25が取り付けられ、この冷却容器25内に超電導磁気軸受15が格納される。冷却容器25は、断熱性の高い材料を用いて形成され、電力貯蔵装置1が設置された空間の雰囲気温度が超電導磁気軸受15に伝達されることを抑制している。
【0013】
つぎに、超電導磁気軸受15を説明する。
図2は、この超電導磁気軸受15を模式的に示している。
超電導磁気軸受15は、回転軸14の下端14B(一端)に設けられる超電導バルク体31と、この超電導バルク体31の周囲を囲むように配置される超電導コイル(超電導導体)33と、この超電導コイル33を内包する内槽35と、この内槽35に接続されて回転軸14の外周を覆うように延材する筒状のスロート部37とを備える。
超電導コイル33には、電流リード51が接続され、電流リード51は、内槽35を貫通し、電流リード冷却部50を通り、電源(不図示)に接続されている。
なお、電流リード51が内槽を貫通する箇所には、電流リード51の周囲に絶縁リング65が設けられている。
【0014】
内槽35は、冷却容器25の底面に不図示の支持部材によって支持されており、この支持部材は、熱侵入が極力防止し、かつ十分な強度を持つ材質、形態が選択される。
超電導バルク体31は、超電導コイル33に対して浮上状態となるように配置されるため、
図1参照の超電導バルク体31が設けられた回転軸14及びフライホイール13は、超電導コイル33と非接触状態で回転することができるように構成される。
【0015】
超電導磁気軸受15には、超電導コイル33を臨界温度以下に冷却するための熱伝導型の冷却装置41(冷却源)が取り付けられている。この冷却装置41は、
図1に示すように、例えばHe圧縮器42とHe冷却器等の極低温冷却器43とを備えて構成され、極低温冷却器43は、冷却容器25内に配置されて、内槽35の冷却と共に、熱伝導部材34を介して超電導コイル33と伝熱可能となっている。
ここで、内槽35内には、例えば、ヘリウム(He)ガスが充填されている。これにより、超電導バルク体31は、臨界温度以下に冷却された超電導コイル33からの輻射熱で冷却されると共に、ヘリウムガスを介して伝熱によって冷却されるため、超電導バルク体31を効率良く冷却することができる。
【0016】
図3は、電流リード冷却部50の模式図である。
電流リード冷却部50は、電流リード51と、内槽35とを熱的に結合し、冷却された内槽35の冷熱で、電流リード51を通じて侵入する熱を冷却する。
電流リード51には、電流リード51の裏面51bから垂直方向に、凹凸部52が設けられている。凹凸部52は、交互に繰り返す、複数の凸部52a、52a…と、複数の凹部52b、52b…を備えている。また、内槽35には、凹凸部53が設けられている。凹凸部53は、交互に繰り返す、複数の凸部53a、53a…と、複数の凹部53b、53b…を備えている。
各凹凸部52、53の凹凸は、
図3に示すように、絶縁体55を挟んで嵌合されて、複数のボルト60A、60Bにより結合されている。凹凸部52、53の凹及び凸は、台形状とすることで、凹凸部52、53の接触面積が増大する。
【0017】
上記構成では、超電導コイル33を囲む内槽35を基体部とし、そこに直接、凹凸部53を設けたが、これに限定されず、例えば、
図4に示すように、内槽35とは別に冷却ステージ36を設け、冷却ステージ36に凹凸部53を設けてもよい。冷却ステージ36と凹凸部53は一体に形成してもよい。
図4における構成では、電流リード51の凹凸部52が、基体部52Xと凸部(フィン部)52a、52a…を備え、基体部52Xの両端にリード導体51X、51Yが接続されている。したがって、電流リード冷却部50では、基体部52Xの両端にリード導体51X、51Yが接続されることで、基体部52X及び凸部(フィン部)52aの全長に亘って熱交換が促進し、電流リード51を通じた侵入熱(熱流)を効率よく冷却できる。
【0018】
図5は、
図3、
図4とはさらに別の実施形態を示す。
この実施形態では、電流リード51の凹凸部52の凹凸形状、および内槽35の凹凸部53の凹凸形状が、いわば平行フィンの形状である。
この実施の形態では、各凹凸部52、53の凹凸形状が、平行フィンの形状であるため、容易に表面の平坦性を確保することができる。
したがって、絶縁体55を挟んだ状態で、各凹凸部52、53の熱接触を増大することができる。この場合に、
図4の変形例は適用が可能である。
【0019】
絶縁体55の材質として、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウム等の硬いが熱伝導率の高い物質を選択することもできるが、本構成では、望ましくはカプトン、テフロン等、熱伝導率が低いが柔らかい物質が選択できる。
絶縁体55の柔らかさを引張弾性率(≒ヤング率)で規定すると、カプトンの引張弾性率は、3.5GPaであり、他のテフロン等の柔らかい樹脂の引張弾性率は、数GPaの範囲である。絶縁体55の引張弾性率が、10GPa以下の場合には、凹凸部52、53の結合時に、絶縁体55が凹凸の隙間に馴染み易く、接触面積の増大が確認されている。なお組立工程は室温で行うので、室温での引張弾性率として規定する。
なお、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウム等の硬いが熱伝導率の高い物質については、絶縁体55には、少なくとも200GPaより高いヤング率の物質が選択できる。例えば、サファイアのヤング率は330GPaである。
【0020】
絶縁体55の厚さLの最小値は、コイルが生じる最大電圧と、絶縁体55の絶縁破壊電圧で決まる。
通常、コイルは微小な電圧しか生じないが、たとえば強制消磁を行う場合に比較的大きな電圧が生じうる。この最大電圧をVとする。コイルの通電電流をI、保護抵抗をRとした場合に、最大IRの電圧が生じる。通電電流200A、保護抵抗2Ωの場合、最大電圧は0.4kVである。
また、絶縁体55の絶縁破壊電圧は、(厚みあたりの絶縁破壊電圧)×(絶縁体55の厚さ)と計算できる。
例えば、カプトンの厚みあたりの絶縁破壊電圧はおよそ400kV/mmである。最大電圧0.4kVのとき、絶縁体55の厚さLを(0.4/400)=0.001mm以上にすれば、絶縁破壊を生じない。
【0021】
絶縁体55の厚さLの最大値および接触面積は、熱抵抗と熱設計で制限される。電流リード51と、サーマルアンカー(内槽35)の間に許容される温度差ΔTは、機器の設計により規定される。通常、温度差ΔTは1K程度となることが望ましい。温度差ΔTが大きすぎると、冷凍機の能力をコイル冷却に生かせないだけでなく、コイル温度上昇によるクエンチの危険も増すためである。
また、電流リード51からサーマルアンカー35への熱流Qも、機器の設計により規定される。これは、冷凍機の能力や、クライオスタット・冷却系の構造によって設計されるものである。
ここで、ΔT=Rth×Qと書くことができる。
Rthは熱抵抗であり、この熱抵抗は、Rth=R_bulk+R_contact と分けられる。
【0022】
R_bulkは絶縁体55の熱伝導率λを反映した、バルクの熱抵抗である。接触面積S、絶縁体55の厚さLとすると、
R_bulk=L/S/λと書ける。
λは、サファイア、アルミナ、窒化アルミニウムのような硬い物質で高く、カプトン、テフロンのようなやわらかい物質で低い。ただし、λが大きく、硬い物質は、加工しにくく、力を加えると割れ易い。
硬い物質は、例えば、凹凸部52、53の金属材料が柔らかい場合(銅でなくアルミニウムを使用している場合)や、凹凸部52、53の金属材料および絶縁体55の面の平坦度が高い場合に使用できる。
具体的には凹凸部52、53の凹凸が、
図5に示すように、並行フィンの形状である場合や、凹凸部52、53の金属材料を分厚くでき、平坦度を確保できる設計の場合などに使用できる。
【0023】
R_contactは、絶縁体55と電流リード51もしくはサーマルアンカー35の間の接触熱抵抗である。この値は一概には決定できないが、表面がなめらかであるほど、凹凸部52、53の固着時の圧力が大きいほど、また絶縁体55が柔らかいほど、小さくなる傾向がある。カプトン、テフロンのような柔らかい物質であれば、接触熱抵抗を下げることができる。
上記の式で、絶縁体55の厚さLを大きくしてゆくと、どこかの時点で温度差ΔTが閾値(1K程度)を超える。
温度差ΔTが閾値(1K程度)を超えたときの値が、絶縁体55の厚さLの値の最大値となる。熱抵抗は接触面積Sに反比例する。そのため、接触面積Sを増やし、温度差ΔTを小さくすることが望ましい。
内槽35の表面積が大きいと、それだけ輻射による侵入熱が増加するので、いかなる場合でもコンパクト化が要求される。風力発電向けコイルや、磁気浮上式鉄道では、特にコンパクト化に意義がある。
【0024】
つぎに、2つの実施例を説明する。
図3に示すように、電流リード51およびサーマルアンカー35に、波型の嵌めあい構造を作成した。それらの間に、絶縁体55としてカプトンフィルムを挟み込み、ボルトを用いて固着した。電流リード51およびサーマルアンカー35は、無酸素銅製である。カプトンフィルムの厚さは0.05mmである。また、サーマルアンカー35と電流リード51の接触面積は、10000mm
2となるよう形成した。この場合、絶縁耐圧19kVであり、電流リード51およびサーマルアンカー35間の温度差ΔTは0.5K以下となる。コイルの通電電流は100A、最大電圧は1kV、運転温度を30K、電流リード1本あたりによる熱負荷を5Wと想定した。
この実施例1では、凹凸部52、53の熱接触が良好に保てるため、電流リード51から超電導コイル33への侵入熱が減少し、超電導コイル33の温度上昇が抑えられ、超電導コイル33の運転温度を低く保つことができた。
【0025】
図5に示すように、電流リード51およびサーマルアンカー35に、平板状のフィンをとりつけ、それらの間に、絶縁体55としてアルミナ平板を挟み込み、ボルト(不図示)で固着した。電流リード51およびサーマルアンカー35は、無酸素銅製である。アルミナ平板の厚さは0.5mmである。
サーマルアンカー35と電流リード51の接触面積は、10000mm
2となるように形成した。この場合、絶縁耐圧25kVであり、電流リード51およびサーマルアンカー35間の温度差は0.5K以下となる。コイルの通電電流は100A、最大電圧は1kV、運転温度を30K、電流リード1本あたりによる熱負荷を5Wと想定した。
この実施例2でも、凹凸部52、53の熱接触が良好に保てるため、電流リード51から超電導コイル33への侵入熱が減少し、超電導コイル33の温度上昇が抑えられ、超電導コイル33の運転温度を低く保つことができた。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態に係る電流リード51の冷却構造によれば、電流リード51とサーマルアンカー35は、絶縁体55を互いの凹凸部52,53間に挟み、嵌め込まれるため、電流リード51とサーマルアンカー35の各々の凹凸部52、53は、接触面積が増大する。
したがって、電流リード51とサーマルアンカー35とを接触させるためのスペースを小さくでき、ひいては、高温超電導コイル33を収納するクライオスタット全体を小型化することができる。
【0027】
図6は、別の実施形態を示す。
この実施形態では、外側容器121の内側に内側容器122が配置され、内側容器122の内側に内槽123が配置されている。
この内槽123の内部と、内側容器122の内部は真空である。内槽123の内部にはコイル124が配置されている。コイル124には電流リード125が接続されている。電流リード125は内槽123を貫通し、電流リード冷却部126を経て、外側容器121の蓋体127を貫通して導出されている。
上記の内槽123は、冷却装置128により冷却されている。この冷却装置128は、上記の内槽123を冷却すると共に、熱伝導部材129を介してコイル124と伝熱可能となっている。
【0028】
電流リード冷却部126は、
図7に示すように、電流リード125と、内槽123を熱的に結合し、冷却された内槽123の冷熱により、電流リード125を通じて侵入する熱を冷却する。
電流リード125には、凹凸部132が設けられている。凹凸部132は、交互に繰り返す、複数の凸部132a、132a…と、複数の凹部132b、132b…を備えている。また、内槽123には、凹凸部133が設けられている。凹凸部133は、交互に繰り返す、複数の凸部133a、133a…と、複数の凹部133b、133b…を備えている。
各凹凸部132、133の凹凸は、絶縁体135を挟んで嵌合されて、複数のボルト136A、136B、136C、136Dにより結合されている。凹凸部132、133の凹及び凸は、台形状とすることで、凹凸部132、133の接触面積が増大する。
【0029】
本実施の形態に係る電流リード125の冷却構造によれば、電流リード125と内槽123は、互いの凹凸部132、133間に絶縁体135を挟むことで、嵌め込まれるため、電流リード125と内槽123の各々の凹凸部132、133における接触面積が増大する。したがって、電流リード125と内槽123を接触させるためのスペースを小さくでき、ひいては、装置全体を小型化できる。