(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239408
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】フライ麺の麺塊強度改善方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20171120BHJP
A23L 7/13 20160101ALI20171120BHJP
A21C 9/08 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
A23L7/109 B
A23L7/13
A21C9/08 F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-44927(P2014-44927)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-167517(P2015-167517A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 充
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−049050(JP,A)
【文献】
特開昭62−029944(JP,A)
【文献】
特開昭63−313554(JP,A)
【文献】
特開昭61−128854(JP,A)
【文献】
特開昭56−005062(JP,A)
【文献】
特開昭59−059162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
A21C 9/08
A23L 7/13
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/BIOSIS/FSTA(STN)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライ麺における油熱乾燥工程の前処理として、フライ後の麺塊密度が0.282〜0.363g/mLとなるように麺線をリテーナに収納し、前記麺線をリテーナに収納後、加圧気体の噴射前に、前記麺線に触れるようリテーナ上部から蓋をし、さらに前記麺線に対してリテーナ下部より加圧気体を上部に向けて噴射し、前記麺線を浮上させる工程を経る、フライ麺の麺塊強度改善方法。
【請求項2】
前記加圧気体の噴射時間が2秒以内であり、リテーナに収納される前記麺線は、蒸煮後に水分を付与する工程を経る、請求項1に記載のフライ麺の麺塊強度改善方法。
【請求項3】
フライ後の麺塊密度が0.282〜0.363g/mLとなるように麺線をリテーナに収納し、麺線をリテーナに収納後、加圧気体の噴射前に、前記麺線に触れるようリテーナ上部から蓋をし、さらに前記麺線に対してリテーナ下部より加圧気体を上部に向けて噴射し、前記麺線を浮上させた後、油熱乾燥処理を経る、フライ麺の製造方法。
【請求項4】
前記加圧気体の噴射時間が2秒以内であり、リテーナに収納される前記麺線は、蒸煮後に水分を付与する工程を経る、請求項3に記載のフライ麺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ麺における麺塊強度を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ麺は、切り出された生麺線をα化処理した後、油熱乾燥工程によって乾燥させたものであり、熱湯を注加して3〜5分程度放置するだけ、あるいは1〜3分程度炊いて調理するだけで簡単に喫食することができる、極めて簡便性の高い即席食品である。
【0003】
しかしながら、かかるフライ麺は、乾燥の際に麺線が柔軟性のない一つの塊状(いわゆる麺塊)となるため、麺塊の割れや欠けといった脆さの問題をはらんでいる。すなわち、袋フライ麺においては、輸送時や販売時、保管時の物理的衝撃により麺塊に割れや欠けが生じやすく、また、容器付フライ麺においては、輸送時等における麺塊に割れや欠けが生じる他、麺塊の割れや欠けによって容器内において麺塊が反転し又は傾き、さらにはこれらに起因して添付の軟包材や具材などが容器底部へ落下するなど、諸問題が生じる。このような問題は、フライ麺の商品価値を著しく低下させるものであり、改善が求められている。
【0004】
麺塊の割れや欠けを防止する方法として、乾燥工程において急激な水分蒸散を起こさないようにして、かつ、乾燥ムラを極力生じさせないよう乾燥する方法が提案されている(特許文献1,2)。しかしながら、これらの方法は、ノンフライ麺におけるものであり、乾燥工程を油中で行うフライ麺ではそのまま適用できるものでない。
また、麺原料に特定の添加物を用いることで、フライ麺における麺塊の割れや欠けを防止する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、麺塊の割れや欠けを防止する上で十分に効果を発揮できるものでなく、また、添加物を別途原材料に混合するため味や食感などに影響を及ぼすおそれがある。
さらに、麺塊を圧縮成形し、麺塊内の空隙を少なくすることにより、麺塊に耐衝撃性を付与する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−95854号公報
【特許文献2】特開平10−313805号公報
【特許文献3】特開昭63−248364号公報
【特許文献4】特開2007−60904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる事情を鑑みて開発されたものであり、リテーナに収納された麺線群を所定の立体位置に配置し油熱乾燥処理を実施することで、フライ麺の麺塊強度を改善し、麺塊の割れや欠けが防止されることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、油熱乾燥工程の前処理として、従来のフライ麺よりも高麺塊密度となるように麺線をリテーナに収納し、該麺線に対してリテーナ下部より加圧気体を上部に向けて噴射し、該麺線を浮上させることで、フライ麺の麺塊強度を改善し、麺塊の割れや欠けを防止できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の態様を有するフライ麺の麺塊強度改善方法に関する。
(1)フライ麺における油熱乾燥工程の前処理として、フライ後の麺塊密度が0.28g/mL以上となるように麺線をリテーナに収納し、該麺線に対してリテーナ下部より加圧気体を上部に向けて噴射し、該麺線を浮上させる工程を経る、フライ麺の麺塊強度改善方法。
(2)麺線をリテーナに収納後、前記加圧気体の噴射前に、さらに該麺線に触れるよう上部から蓋をする工程を経る、前記(1)に記載のフライ麺の麺塊強度改善方法。
【0009】
また、本発明は、以下の態様を有するフライ麺の製造方法に関する。
(3)フライ後の麺塊密度が0.28g/mL以上となるように麺線をリテーナに収納し、該麺線に対してリテーナ下部より加圧気体を上部に向けて噴射し、該麺線を浮上させた後、油熱乾燥処理を経る、フライ麺の製造方法。
(4)麺線をリテーナに収納後、前記加圧気体の噴射前に、さらに該麺線に触れるよう上部から蓋をする工程を経る、前記(3)に記載のフライ麺の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明を実施することにより、フライ麺の麺塊強度が改善され、麺塊の割れや欠けが生じにくいフライ麺を提供することができる。
また、従来、一定以上の麺線密度である麺線群は、油熱乾燥において麺塊中心部の水分が十分に発散されず長時間の油熱乾燥処理を要するところ、本発明を実施することによって、油熱乾燥処理を長時間実施せずとも麺塊中心部が十分に乾燥されている高麺塊密度のフライ麺を得ることができる。
【0011】
すなわち、本発明によれば、製造設備の大幅な変更や導入、原材料の変更や追加を要することなく、輸送時における麺塊の割れや欠けが生じにくいフライ麺を得ることができ、商品価値の損失を防ぐことができると同時に、副次的な効果として、生産速度の低下や製造コストの増大を伴うことなく「生揚げ」していない高麺塊密度のフライ麺を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の方法を使用して製造されたフライ麺(上図)、及び、従来技術により製造されたフライ麺(下図)における断面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフライ麺としては、特に限定されず、中華麺、和風麺又はパスタ等、いかなる種類や太さ、硬さの麺についても使用することができる。
【0014】
本発明のフライ麺の主原料としては、本発明の性質上特に限定されないが、小麦粉、そば粉、ライ麦粉、大麦粉又は澱粉等の粉体原料が挙げられ、これらを単独または組み合わせて用いられる。小麦粉としては、麺類の製造に用いられるすべての種類が使用可能である。また、本発明のフライ麺の麺塊強度改善方法において、リテーナに麺線を収納させるまでの工程は、フライ麺の製造方法であればいかなる方法も使用することができる。
【0015】
なお、本発明で使用するリテーナは、丸型や角型のいずれも使用でき、また、径の大きさ、深さ等は問わない。また、本発明のリテーナは、リテーナの底に油や加圧気体が流通するための孔が複数配置されているものを使用する。
【0016】
さらに、リテーナに収納される麺線は、蒸煮後に着味液等水分を付与する工程を経たものが好ましい。蒸煮後に水分を付与する工程として、麺線を水中に浸漬する工程、麺線を着味液中に浸漬する工程、麺線に水又は着味液を噴霧する工程、麺線をボイルする工程などが挙げられる。本発明において、リテーナに収納された麺線の水分含量としては、45〜65質量%が例示される。
【0017】
本発明のフライ麺の麺塊強度改善方法は、麺塊密度(フライ後の麺質量/1食分のリテーナ容積)が0.28g/mL以上であることを特徴とし、好ましくは0.30g/mL以上が例示される。なお、本発明においては、麺塊密度の上限は特に特定されないが、0.4g/mLを超えると麺塊内部の揚げが不十分になりやすい。0.4g/mLを超えるフライ麺を製造する場合、リテーナ形状の工夫やフライ方法の改善など、麺塊が生揚げしない策や条件を適宜選択することができる。
【0018】
本発明のフライ麺の麺塊強度改善方法においては、リテーナ下部から加圧気体を上部に向けて噴射することを特徴とする。当該加圧気体はノズル等の加圧気体供給口から噴出される。加圧気体の諸条件については、麺線群の大きさ、形、質量により、または、他の加圧気体の条件、リテーナの形状等によって適宜選択することができるが、本発明の効果を十分に享受するための加圧気体の噴射に関する条件として、以下(1)〜(5)に一例を掲げる。
(1)加圧気体の種類は、空気、窒素又は水蒸気等実施形態により適宜使用することができる。
(2)加圧気体の噴射態様は、噴射機の性能や生産ラインの態様等によって適宜選択することができるが、1食分のリテーナあたり、例えば2秒以内の瞬時に高圧の気体を噴射するパルス噴射が例示される。
(3)加圧気体の噴射回数は、噴射機の性能や生産ラインの態様等によって適宜選択することができるが、1食分のリテーナあたり、1回の噴射でも十分に効果を享受しうる。
(4)加圧気体の供給口の位置は、リテーナ底部の水平部に上向きに設置することができ、製造ラインの態様等リテーナの傾斜部分に供給口を設置する必要がある場合は、麺塊内の麺線に偏りが発生しないように加圧気体の噴射方向の角度を調整することができる。
(5)麺線の飛散を防止し、高密度である麺塊形状を維持するため、リテーナの上部に蓋を使用することができる。
【0019】
本発明でいう「麺線を浮上」とは、リテーナに収納された麺線全体が一体として一時に宙に浮かせることのみを意味しているのではなく、リテーナ上部から見た際、加圧気体の影響によりリテーナ内の麺線が跳ねていると視認できる程度の「浮上」の意味も含まれる。
【0020】
前記リテーナ内の麺線が浮上する加圧気体の噴射条件の例として、1食分のリテーナあたり、口径がφ0.5〜5mmである加圧気体の供給口により、加圧気体を0.1〜0.8MPaの圧力で噴射することが挙げられる。このように加圧気体を噴射することにより、リテーナに収納された麺線群は所定の立体位置に配置される。その結果、フライ麺としたとき、一定以上の麺塊強度を付与することができ、同時に、油熱乾燥工程において麺塊内の油の流れが良好となることで、高麺塊密度フライ麺で問題となる「生揚げ」も解消される。
【0021】
さらに、本発明のフライ麺の麺塊強度改善方法において、リテーナに収納された麺線は、前記加圧気体の噴射後に、再び自重により麺線が底部に沈む前に油熱乾燥工程を開始することが好ましい。加圧気体の噴射終了後、油熱乾燥工程開始までの時間は、30秒以内、好ましくは15秒以内が挙げられる。30秒以内であれば本発明の効果を享受することができ、また、15秒以内であれば本発明の効果が顕著に発揮される。
【0022】
本発明による油熱乾燥工程については、特に限定されず、フライ麺の製造において一般的に使用される油熱乾燥方法を使用することができる。油熱乾燥の一例として、130〜160℃で1〜3分間が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の内容を実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0024】
(実施例1〜4)
小麦粉950gに澱粉50gを粉体混合し、これに食塩8g、かんすい3g及びポリリン酸ナトリウム1gを溶解した練り水340mlを加えてミキサーで約15分間混練してドウを形成した。これを麺帯化し、圧延機で段階的に0.7mmまで圧延し、角刃20番で切り出して幅1.5mmの麺線とし、約2分間蒸し器で蒸してα化処理した。この麺線を、1000mlの水に対して食塩100g、グルタミン酸ソーダ50g、醤油150mlを溶かした着味液に約5秒浸漬した。このようにして得られた麺線について、1食分あたりの質量を下記表1に記載した値になるようにカットし、底に孔の開いた丸型リテーナ(φ112mm、容積280.9cm
3)に収納した。
1食分の麺線をリテーナに収納した後、上部から麺線に触れるよう蓋をし、リテーナ底5cmの距離から上部に向けて、φ5.0mm、1穴のノズルより0.2MPa、2秒間の加圧気体をリテーナ底部にムラ無く当たるように動かしながら噴射し(2秒間隔で2回)、該麺線を浮上させた。麺線は、前記工程を経た後10秒後に150℃のパーム油に投入し、麺線から泡が発生しなくなるまで油熱乾燥処理を施して、実施例1〜4のフライ麺を得た。
【0025】
(比較例1)
実施例1〜4と同様の配合、工程により得られた麺線を、1食分あたりの質量が148gとなるように麺線をカットして、実施例1〜4と同様のリテーナに収納して、上部から麺線に触れるよう蓋をした後、加圧気体を噴射せずに150℃のパーム油に投入し、180秒間油熱乾燥処理を施して、麺塊密度が0.376g/mLのフライ麺を得た。なお、本フライ麺は、180秒間フライを行っても麺線から泡が発生し続けており、これ以上フライを継続すると麺塊が焦げると判断し、180秒間で油熱乾燥処理を終了した。
【0026】
(比較例2)
実施例1と同様の配合、工程により得られた麺線を、1食分あたりの質量が110gとなるように麺線をカットして、実施例1〜4と同様のリテーナに収納して、上部から麺線に触れるよう蓋をした後、実施例1と同様の条件により加圧気体を噴射後10秒後に150℃のパーム油に投入し、麺線から泡が発生しなくなるまで油熱乾燥処理を施して、麺塊密度が0.259g/mLのフライ麺を得た。
【0027】
実施例及び比較例のサンプルは、油熱乾燥処理時間を測定した上で、麺塊強度を試験した。
麺塊強度は、麺塊を縦に置いた場合及び横に置いた場合のそれぞれの最大荷重(N)を引張圧縮試験機(オリエンテック社製、テンシロン)により測定することで得た。麺塊を縦に置いた場合は、フライ麺を縦に固定して、100mm/minの速度で変位10mmまで圧縮した。また、麺塊を横に置いた場合は、フライ麺の天面を下にして置き、100mm/minの速度で変位5mmまで圧縮した。
試験結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に示したとおり、本発明の方法を使用した実施例1〜4のフライ麺は、比較例2のフライ麺に比べて、縦に対する麺塊強度及び横に対する麺塊強度のいずれもが改善されていることが確認された。この麺塊強度については、麺塊密度が増すにつれて強まる傾向が見られ、麺塊密度が0.336g/mLを超えると劇的に麺塊強度が改善された。
なお、本実験例において、比較例1のフライ麺はフライ時間を180秒間としても麺塊の内部が生揚げ状態であった。
また、実施例3と比較例1は、リテーナに収納した麺線の質量が同一であったにもかかわらず、麺塊密度及びフライ時間が異なるという結果であった。すなわち、実施例3と比較例1の麺塊密度の差分は、比較例1の麺線にフライを経て残った水分を意味する。したがって、本発明には、フライ時間を短縮できるという効果も有することが示された。