(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239425
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ワイヤハーネスクランプ、ワイヤハーネス及び内張部材の固定方法
(51)【国際特許分類】
H02G 3/30 20060101AFI20171120BHJP
F16B 19/00 20060101ALI20171120BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20171120BHJP
F16L 3/12 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
H02G3/30
F16B19/00 M
F16B19/00 Q
B60R16/02 623C
F16L3/12 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-68316(P2014-68316)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-192534(P2015-192534A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】足立 貴博
【審査官】
木村 励
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−258138(JP,A)
【文献】
特開2008−162393(JP,A)
【文献】
実公昭62−22675(JP,Y2)
【文献】
実開昭53−132699(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/30
B60R 16/02
B62D 25/04
F16B 19/00
F16L 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ボディに設けた係止孔に差込係止可能な差込部と、ワイヤハーネスに固定可能な固定部とからなるワイヤハーネスクランプであって、
前記差込部に、別部材に設けた係止部を前記差込部の差込方向と反対側から差し込み可能で、且つ差し込まれた前記係止部を抜け止め可能な受け入れ部が設けられていると共に、
前記固定部と前記受け入れ部との間に、両者間を仕切って前記受け入れ部に差し込まれる前記係止部と前記固定部に固定された前記ワイヤハーネスとの干渉を阻止する仕切部材が設けられていることを特徴とするワイヤハーネスクランプ。
【請求項2】
車両ボディに設けた係止孔に差込係止可能な差込部と、ワイヤハーネスに固定可能な固定部とからなるワイヤハーネスクランプであって、
前記差込部に、別部材に設けた係止部を前記差込部の差込方向と反対側から差し込み可能で、且つ差し込まれた前記係止部を抜け止め可能な受け入れ部が設けられていると共に、
前記差込部は、帯状の板体をU字状に折り曲げて内側に前記受け入れ部を形成してなり、前記板体の外周側に、前記係止孔の外縁に係止する外突起が、内周側に、前記係止部が係止する内突起がそれぞれ形成されたものであることを特徴とするワイヤハーネスクランプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワイヤハーネスクランプの固定部にワイヤハーネスを固定し、差込部を車両ボディに設けた係止孔に差込係止させることで、前記車両ボディに前記ワイヤハーネスを固定すると共に、車両の内張部材に設けた係止部を前記差込部の受け入れ部に差し込むことで、前記車両ボディに前記内張部材を固定することを特徴とするワイヤハーネス及び内張部材の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に配設されるワイヤハーネスをピラー等のボディ側に固定するためのワイヤハーネスクランプと、ワイヤハーネス及び車両の内張部材を車両ボディに固定するための固定方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
車両へのワイヤハーネスの固定は、例えば特許文献1に開示のように、係止突起を備えたワイヤハーネスクランプを、ワイヤハーネスの長手方向に沿って所定間隔をおいて複数取り付け、各係止突起を、ピラー等の車両ボディに設けた係止孔に係止させることで行われる。
また、ワイヤハーネスの外側にピラートリム等の内張部材を固定する場合も、内張部材に設けた複数の係止突起を車両ボディに設けた係止孔に係止させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−232700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように車両ボディには、ワイヤハーネスの固定用の係止孔(第1係止孔)と、内張部材の固定用の係止孔(第2係止孔)とをそれぞれ設ける必要があるが、第2係止孔が2つの第1係止孔の間に位置した場合、左右方向に配設されたワイヤハーネスにたるみが生じると第2係止孔と近接し、内張部材を取り付ける際に係止突起と第2係止孔との間にワイヤハーネスが噛み込んでしまうおそれがある。
この噛み込み防止のため、ワイヤハーネスに保護材を装着したり、第1係止孔と第2係止孔とを近接させて設けたりする対策が講じられているが、保護材を採用するとコストアップに繋がる上、保護材の装着作業が新たに必要となって作業効率が低下する。係止孔を近接させると、係止孔を間違えて組み付けるおそれが生じるため、係止孔の形状を変えたりする対策が必要となり、作業者にも余計な注意が要求されてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、ワイヤハーネスに加えてさらに内張部材等を取り付ける場合でも、コストアップを招くことなく、誤組み付けのおそれもなくして良好な作業性で両者を固定できるワイヤハーネスクランプと、ワイヤハーネス及び内張部材の固定方法とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両ボディに設けた係止孔に差込係止可能な差込部と、ワイヤハーネスに固定可能な固定部とからなるワイヤハーネスクランプであって、差込部に、別部材に設けた係止部を差込部の差込方向と反対側から差し込み可能で、且つ差し込まれた係止部を抜け止め可能な受け入れ部
が設けられていると共に、固定部と受け入れ部との間に、両者間を仕切って受け入れ部に差し込まれる係止部と固定部に固定されたワイヤハーネスとの干渉を阻止する仕切部材が設けられていることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、
車両ボディに設けた係止孔に差込係止可能な差込部と、ワイヤハーネスに固定可能な固定部とからなるワイヤハーネスクランプであって、差込部に、別部材に設けた係止部を差込部の差込方向と反対側から差し込み可能で、且つ差し込まれた係止部を抜け止め可能な受け入れ部が設けられていると共に、差込部は、帯状の板体をU字状に折り曲げて内側に受け入れ部を形成してなり、板体の外周側に、係止孔の外縁に係止する外突起
が、内周側に、係止部が係止する内突起
がそれぞれ形成
されたものであることを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項
3に記載の発明は、ワイヤハーネス及び内張部材の固定方法であって、請求項1
又は2に記載のワイヤハーネスクランプの固定部にワイヤハーネスを固定し、差込部を車両ボディに設けた係止孔に差込係止させることで、車両ボディにワイヤハーネスを固定すると共に、車両の内張部材に設けた係止部を差込部の受け入れ部に差し込むことで、車両ボディに内張部材を固定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1
乃至3に記載の発明によれば、1つの係止孔を利用してワイヤハーネスと内張部材等との同時固定が可能となる。よって、車両ボディに設ける係止孔の数が削減される上、ワイヤハーネスに噛み込み防止用の保護材を装着する必要もなくなり、コスト低減に繋がる。また、誤組み付けのおそれもなくなって良好な作業性で両者を固定できる。
さらに、仕切部材の採用により、係止部が差し込まれる際のワイヤハーネスとの干渉を確実に防止でき、ワイヤハーネスの噛み込みをより効果的に防止可能となる。
特に、請求項
2に記載の発明によれば、
上記効果に加えて、受け入れ部を簡単に形成可能な差込部が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ワイヤハーネスクランプの説明図で、(A)が側面、(B)が正面をそれぞれ示す。
【
図2】ワイヤハーネスクランプによるワイヤハーネス及び内張部材の固定手順の説明図で、(A)がワイヤハーネスの固定状態、(B)が内張部材の固定状態をそれぞれ示す。
【
図3】
図2(B)のワイヤハーネスクランプの係止部分の拡大図である。
【
図4】ワイヤハーネスクランプの変更例の説明図である。
【
図5】ワイヤハーネスクランプの変更例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、ワイヤハーネスクランプの一例を示す説明図で、ワイヤハーネスクランプ1は、樹脂製の一体成形品で、車両ボディに差込係止される差込部2と、ワイヤハーネスに固定される固定部3とからなる。
図1(A)の左側を前方として説明する。
まず差込部2は、帯状の板体4をU字状に折り曲げた前端部形状を有し、板体4の外面には、前側を前下がりの傾斜面、後側を上下方向の平面とした上下一対の外突起5,5が形成され、その後方には、固定対象となるピラー等の車両ボディの板厚分の間隔をおいて上下一対の板状のリブ6,6が形成されている。また、板体4の内面には、前側を前下がりの急斜面、後側を後下がりの緩斜面とした上下一対の内突起7,7が形成されている。これにより、板体4の内側に、ピラートリム等の内張部材に設けた係止ピンを後方から差し込んで抜け止め可能な受け入れ部8が形成される。
【0010】
さらに、リブ6,6の後方で板体4の上下の端部には、後方へ行くに従って上下方向に離間するテーパ状となる一対の案内板9,9が連設されている。上側の案内板9は、固定部3と受け入れ部8との間を仕切る仕切部材としても機能する。
そして、固定部3は、
図1(B)に示すように、上側のリブ6の後方でリブ6と平行に形成される連結片10の上端に、左右方向の帯板11を連設した正面視T字状で、左右両端には、前側へ向けた折曲部12,12が形成されている。
【0011】
以上の如く構成されたワイヤハーネスクランプ1を用いてワイヤハーネスを車両ボディに配設する際には、
図2(A)に示すように、車両ボディ20に設けた係止孔21の位置で、固定部3の後側で帯板11に沿ってワイヤハーネスWをあてがい、帯板11の両端とワイヤハーネスWとに跨がってテープ22を巻き付けて、固定部3にワイヤハーネスWを取り付ける。
【0012】
次に、差込部2を係止孔21に差し込み、外突起5,5が係止孔21を通過するまで前方へ押し込むと、車両ボディ20が外突起5,5とリブ6,6との間に嵌合して差込部2が抜け止めされ、ワイヤハーネスWはワイヤハーネスクランプ1を介して車両ボディ20に固定される。この差し込み時に、外突起5,5が係止孔21の内縁に当接するが、傾斜面によって板体4を内側へ撓ませながら係止孔21を乗り越えるため、差し込みはスムーズに行われる。係止孔21を乗り越えると、板体4の弾性によって外突起5,5が車両ボディ20の前側に位置して差込部2を抜け止めすることになる。
【0013】
この係止孔21の位置は、内張部材30の内面に突設した係止部としての係止ピン31の位置に対応しており、ワイヤハーネスクランプ1を係止孔21に係止させた状態で、
図2(A)のように内張部材30を、車両ボディ20への組み付け位置の後方から前進させて、先端部32が鏃状となる係止ピン31をワイヤハーネスクランプ1の差込部2に後方から差し込む。すると、
図2(B)に示すように、係止ピン31の先端部32が、上下の案内板9,9に案内されて受け入れ部8に進入し、板体4越しに係止孔21に差し込まれる。この案内板9の案内により、係止ピン31によるワイヤハーネスWの噛み込みは防止される。
【0014】
係止ピン31が差し込まれる際、先端部32が板体4の内突起7,7に当接すると、傾斜面によって板体4を外側へ撓ませながら内突起7,7を乗り越え、先端部32は受け入れ部8の奥まで到達する。この状態では
図3にも示すように、先端部32の後方に内突起7,7が位置するため、係止ピン31は差込部2を介して係止孔21内で抜け止めされ、内張部材30の固定が完了する。内張部材30の固定状態で差込部2の板体4は、内部に係止ピン31が差し込まれることで内側への撓みが規制されるため、外突起5,5と係止孔21との係止状態は維持されて係止孔21から脱却しにくくなる。
【0015】
このように、上記形態のワイヤハーネスクランプ1及びワイヤハーネスWと内張部材30との固定方法によれば、差込部2に、内張部材30に設けた係止ピン31を後方から差し込み可能で、且つ差し込まれた係止ピン31を抜け止め可能な受け入れ部8を設けたことで、1つの係止孔21を利用してワイヤハーネスWと内張部材30との同時固定が可能となる。よって、車両ボディ20に設ける係止孔21の数が削減される上、ワイヤハーネスWに噛み込み防止用の保護材を装着する必要もなくなり、コスト低減に繋がる。また、誤組み付けのおそれもなくなって良好な作業性で両者を固定できる。
【0016】
特にここでは、固定部3と受け入れ部8との間に、両者間を仕切って受け入れ部8に差し込まれる係止ピン31と固定部3に固定されたワイヤハーネスWとの干渉を阻止する案内板9を設けたことで、係止ピン31が差し込まれる際のワイヤハーネスWとの干渉を確実に防止でき、ワイヤハーネスWの噛み込みをより効果的に防止可能となる。
また、差込部2を、帯状の板体4をU字状に折り曲げて内側に受け入れ部8を形成してなり、板体4の外周側に、係止孔21の外縁に係止する外突起5を、内周側に、係止ピン31が係止する内突起7をそれぞれ形成した構造としているので、受け入れ部8を簡単に形成可能な差込部2が得られる。
【0017】
なお、ワイヤハーネスクランプの構造は上記形態に限らず、例えば差込部と固定部とを別体で成形して両者を連結したり、案内板の上側を残して下側を省略したり、上下共に案内板を省略したり等、適宜変更可能である。差込部と固定部とを上下逆にして使用することも勿論可能である。また、上記形態では案内板を仕切部材と兼用しているが、案内板を短くする等して仕切部材を別に設けることもできる。
【0018】
さらに、
図4に示すワイヤハーネスクランプ1Aのように、固定部3の帯板11に締め付け用のバンド13を設ければ、ワイヤハーネスWを容易に固定できる。この場合、帯板11の両端にそれぞれバンド13を設けてもよいし、帯板11を短くしてバンド13を1つだけ設けてもよい。
一方、
図5に示すワイヤハーネスクランプ1Bのように、差込部2の先端を球形として全体が先細りの円錐状となるように形成することも可能である。この場合、外突起5や内突起7、リブ6はそれぞれ差込部2の周方向に沿ってリング状に形成され、案内板9も円錐リング状となるが、これらを周方向へ断続的に形成してもよい。勿論この形態で固定部3に
図4のようなバンドを設けることも考えられる。
【0019】
そして、ワイヤハーネスクランプを用いて固定される内張部材としては、インストルメントパネル等、車両ボディに設けた係止孔に係止部を差し込んで固定する構造であれば、ピラートリムに限定されない。
但し、ワイヤハーネスクランプは、内張部材の固定に限定されるものではなく、例えば別部材となる他のワイヤハーネスに設けた係止部を差し込み係止させることで、1つの係止孔に2つのワイヤハーネスを固定するといった使用も考えられる。
【符号の説明】
【0020】
1,1A,1B・・ワイヤハーネスクランプ、2・・差込部、3・・固定部、4・・板体、5・・外突起、6・・リブ、7・・内突起、8・・受け入れ部、9・・案内板、11・・帯板、20・・車両ボディ、21・・係止孔、30・・内張部材、31・・係止ピン、32・・先端部、W・・ワイヤハーネス。