(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素化合物の割合が6質量%以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記セルロースエーテル化合物の他に、さらに、結着剤としてスチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸又はその金属塩、粒子状のポリフッ化ビニリデンのうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記炭酸リチウムは、前記ケイ素化合物に対して、0.5質量%以上4質量%以下の範囲で含まれるものであることを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記ケイ素化合物は、その表層にフッ化リチウム、酸化リチウムのうち少なくとも1種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記炭素被膜の被覆量は、前記ケイ素化合物と前記炭素被膜の合計に対し0.1質量%〜15質量%であることを特徴とする請求項11に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記ケイ素化合物は、その表層に、カルボキシル基を有する結着剤を介して炭素粒子が付着しているものであることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
前記カルボキシル基を有する結着剤は、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩と、ポリアクリル酸又はその金属塩のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の非水電解質二次電池用負極。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極および負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から、電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上の要素として、負極活物質材として、ケイ素を用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。活物質形状は、炭素材で標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO
2、M
yO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiO
x(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
【0011】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm
−1及び1580cm
−1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I
1330/I
1580が1.5<I
1330/I
1580<3となっている。
【0012】
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、ケイ素と炭素の混合電極を作成しケイ素比率を5wt%以上13wt%以下で設計している(例えば、特許文献13参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。しかしながら、炭素材を主材として用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電池容量の増加、サイクル特性及び初期充放電特性を向上させることが可能な負極電極、及びこの負極電極を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明によれば、負極活物質として、内部にLi化合物が含まれるケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含む非水電解質二次電池用負極であって、前記非水電解質二次電池用負極はセルロースエーテル化合物を含み、前記セルロースエーテル化合物は、エーテル化度が0.6以上1.5以下、平均重合度が500以上1800以下であり、1%水溶液の25℃におけるpHが7.1以上12.5以下のものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0017】
このような負極は、充放電に伴う電解液との表面反応を抑制することが可能であり、ケイ素化合物を負極活物質として用いる場合の課題である初期効率を向上させることができる。また、ケイ素化合物のバルク内部の一部にLi化合物を生成することで、正極から、負極のケイ素化合物に挿入される不可逆Li成分を除去できるため電池容量の向上へとつながる。また、バインダーとして含まれるセルロースエーテル化合物のエーテル化度、pH、平均重合度が、上記範囲であれば、負極を作製するためのスラリーの粘度低下を抑制でき、安定したサイクル特性を得ることができる。
【0018】
このとき、前記セルロースエーテル化合物は、エーテル化度が0.7以上1.5以下、平均重合度が1000以上1500以下であり、1%水溶液の25℃におけるpHが8.1以上12.5以下であることが好ましい。
【0019】
セルロースエーテル化合物のエーテル化度、平均重合度、pHを、これらのような範囲のものにすることで、上記スラリーを安定化することができ、負極においてより安定したサイクル特性を得ることができるものとなる。
【0020】
またこのとき、前記セルロースエーテル化合物が、2種類以上の化合物の混合物であることが好ましい。
【0021】
このようにすることで、セルロースエーテル化合物全体のエーテル化度、平均重合度、pHを、上記で規定する範囲に容易に調整することができる。
【0022】
このとき、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素化合物の割合が6質量%以上のものであることが好ましい。
【0023】
このようなものであれば、電池の体積エネルギー密度を向上させることができるものとなる。
【0024】
またこのとき、前記セルロースエーテル化合物が、カルボキシメチルセルロース塩を含み、かつ、前記負極活物質の総量に対して前記セルロースエーテル化合物が0.95質量部以上3.5質量部以下の範囲で含まれるものであることが好ましい。
【0025】
本発明では、セルロースエーテル化合物が、カルボキシメチルセルロースまたはその塩を含むことが好適である。また、負極活物質の総量に対してセルロースエーテル化合物が0.95質量部以上であれば、結着力の向上効果が大きく、負極からの負極材の剥離(粉落ち)や、電極構造の破壊を防止できる。また、上記割合が3.5質量部以下であれば、セルロースエーテル化合物が負極において、ほとんど抵抗成分とならず、電池へほとんど悪影響を及ぼさない。
【0026】
このとき、前記カルボキシメチルセルロース塩は、ナトリウム塩及びリチウム塩を含むことが好ましい。
【0027】
本発明では、カルボキシメチルセルロース塩がナトリウム塩及びリチウム塩を含むものであれば、スラリーの安定性がより高くなる。
【0028】
またこのとき、前記セルロースエーテル化合物の他に、さらに、結着剤としてスチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸又はその金属塩、粒子状のポリフッ化ビニリデンのうち少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0029】
結着剤としては、セルロースエーテル化合物と共に、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸の金属塩を、主結着剤であるスチレンブタジエンゴムやポリフッ化ビニリデンに添加して使用し、計2種以上の化合物を用いると、スラリーの安定性をより向上させることができる。
【0030】
このとき、前記ケイ素化合物が炭酸リチウムを表層に含むものであることが好ましい。
【0031】
ケイ素化合物が表層に炭酸リチウムを含むことで、特に顕著な初期効率の向上効果が得られる。
【0032】
またこのとき、前記炭酸リチウムは、前記ケイ素化合物に対して、0.5質量%以上4質量%以下の範囲で含まれるものであることが好ましい。
【0033】
炭酸リチウムがケイ素化合物に対して0.5質量%以上含まれていれば、初期効率の向上効果が十分に得られる。また、炭酸リチウムを4質量%以下とすれば、スラリー安定性を維持することができる。
【0034】
このとき、前記ケイ素化合物は、その表層にフッ化リチウム、酸化リチウムのうち少なくとも1種以上を含むものであることが好ましい。
【0035】
ケイ素化合物が表層にフッ化リチウム、又は酸化リチウムを含むことで、サイクル特性の向上効果が得られる。中でもフッ化リチウムは、サイクル特性の向上効果が得られるだけでなく、耐水性を付与することができる。
【0036】
またこのとき、前記ケイ素化合物は、表面に炭素被膜を有することが好ましい。
【0037】
ケイ素化合物が表面に炭素被膜を有することにより、導電性を大きく向上させることが可能である。
【0038】
このとき、前記炭素被膜の被覆量は、前記ケイ素化合物と前記炭素被膜の合計に対し0.1質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0039】
炭素被膜の被覆量が0.1質量%以上であれば、十分な導電性を得ることができる。また、被覆量が15質量%以下であれば、電池容量を十分に確保できる。
【0040】
またこのとき、前記ケイ素化合物は、その表層に、カルボキシル基を有する結着剤を介して炭素粒子が付着しているものであることが好ましい。
【0041】
炭素粒子が表層に付着しているケイ素化合物を負極活物質として含む負極であれば、負極活物質粒子間のコンタクトをスムーズに取ることができる。また、炭素粒子は、カルボキシル基を有する結着剤を使用すれば、負極活物質の粒子に強固に付着させることができる。
【0042】
このとき、前記ケイ素化合物の表層に付着した前記炭素粒子は、メジアン径が20nm〜200nmのものであることが好ましい。
【0043】
炭素粒子のメジアン径が20nm以上であれば、負極活物質粒子間のコンタクトが十分に取れる。炭素粒子のメジアン径が200nm以下であれば、負極活物質粒子間のコンタクトが得られる炭素粒子の割合が増え、コンタクトを取るために必要な炭素粒子の量が少なく済むため、炭素粒子を必要以上に多く加える必要が無く、電池容量を十分に確保できる。
【0044】
またこのとき、前記カルボキシル基を有する結着剤は、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩と、ポリアクリル酸又はその金属塩のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0045】
炭素粒子をケイ素化合物の表層に付着させる結着剤としてはこれらのようなものが好適である。
【0046】
また、前記ケイ素化合物が、その内部にLi
2SiO
3、Li
6Si
2O
7、Li
4SiO
4のうち、少なくとも一種以上のLi化合物を含むものであることが好ましい。
【0047】
リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO
2成分部を予め、これらのようなLi化合物に改質させたものであれば、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。
【0048】
前記ケイ素化合物が電気化学的手法を含む工程で作製されたものであることが好ましい。
【0049】
電気化学的手法により、ケイ素化合物のSiO
2成分部を改質されたものであれば、熱改質(熱ドープ法)、蒸着Li法などのランダムに化合物化する手法で改質されたものよりも、安定した物質となる。
【0050】
前記ケイ素化合物が、X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であると共に、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが好ましい。
【0051】
ケイ素化合物のSi成分の結晶性は低いほどよく、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)、及びその結晶面に起因する結晶子サイズは上記範囲である事が望ましい。Si成分の結晶性を低くすることで電池特性を向上させることができる。
【0052】
前記ケイ素化合物はメジアン径が0.5μm以上20μm以下のものであることが好ましい。
【0053】
メジアン径が0.5μm以上であれば、負極活物質粒子の表面における副反応量を抑制することができる。また、メジアン径が20μm以下であれば、充放電に伴う体積変化の影響を受けにくくなり、負極活物質粒子の崩壊が起こり難い。
【0054】
本発明の負極は、さらに、カーボンナノチューブを含むものであることが好ましい。
【0055】
カーボンナノチューブ(CNT)は膨張率及び収縮率が高いケイ素化合物と炭素系活物質などの他の活物質との電気コンタクトを得ることに適しており、負極に良好な導電性を付与することができる。
【0056】
また、本発明によれば、上記のいずれかの本発明の非水電解質二次電池用負極を用いたことを特徴とする非水電解質二次電池用負極が提供される。
【0057】
このような非水電解質二次電池であれば、高容量であるとともに良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られるものとなる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の非水電解質二次電池用負極であれば、ケイ素化合物が、リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO
2成分部が予め別の化合物に改質させたものであるため、充電時に発生する不可逆容量を低減することが可能となる。また、このケイ素化合物を使用するのに適したバインダー構成として、セルロースエーテル化合物のエーテル化度を0.6以上1.5以下、平均重合度を500以上1800以下、pHを7.1〜12.5の範囲とすることで安定した電池特性(サイクル特性)及び、高い初期効率を得ることができる。また、本発明の非水電解質二次電池用負極を使用した非水電解質二次電池においても同様に、安定した電池特性(サイクル特性)及び、高い初期効率を得る事ができる。また、本発明の非水電解質二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
前述のように、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素化合物を主材として用いた負極を非水電解質二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素化合物を用いた非水電解質二次電池は、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いた非水電解質二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0062】
そこで、本発明者らは、非水電解質二次電池用負極として、良好なサイクル特性が得られる負極電極について鋭意検討を重ね、本発明に至った。本発明の非水電解質二次電池用負極は、負極活物質として、内部にLi化合物が含まれるケイ素化合物(SiOx:0.5≦x≦1.6)を含む非水電解質二次電池用負極である。そして、この負極は、エーテル化度が0.6以上1.5以下、pHが7.1以上12.5以下、平均重合度が500以上1800以下であるセルロースエーテル化合物を含むことを特徴とするものである。なお、ここでいうセルロースエーテル化合物のpHとは、1%水溶液の25℃におけるpHを意味する。
【0063】
このような本発明の非水電解質二次電池用負極について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極の断面構成を表している。
【0064】
[負極の構成]
図1に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の非水電解質二次電池用負極においては、負極集電体11はなくてもよい。
【0065】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0066】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0067】
負極集電体11の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0068】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な粒子状の負極活物質とバインダー(負極結着剤)を含んでおり、電池設計上、さらに導電助剤等の他の材料を含んでいても良い。
【0069】
本発明の負極は、負極活物質として、内部にLi化合物が含まれるケイ素化合物(SiOx:0.5≦x≦1.6)を含む。もちろん、負極活物質として、ケイ素化合物以外にも、炭素系活物質などを含んでも良い。そして、負極結着剤の一部としてセルロースエーテル化合物を含み、このセルロースエーテル化合物はエーテル化度が0.6以上1.5以下、平均重合度が500以上1800以下、pHが7.1以上12.5以下のものである。また、セルロースエーテル化合物は、エーテル化度が0.7以上1.5以下、平均重合度が1000以上1800以下、pHが8.1以上12.5以下であることが好ましい。なお、ここでいうセルロースエーテル化合物のpHとは、1%水溶液の25℃におけるpHを意味する。
【0070】
また、上記の負極活物質を水で撹拌するとアルカリ性を示すため、pHが中性から酸性よりであるセルロースエーテル化合物を負極結着剤(バインダー)の一部として用いると、負極活物質、導電助剤、負極結着剤等を混合したスラリー(負極を作製するためのスラリー)に経時変化が発生し、スラリーの粘度が低下してしまう。これに対し、本発明は、pHが7.1以上12.5以下の塩基性のセルロースエーテル化合物を使用したものであるためスラリーの粘度の低下を抑制できる。なお、pHを12.5以下とするのは、pHが12.5より大きいセルロースエーテル化合物を得るのが実質的に困難であるからである。また、セルロースエーテル化合物のエーテル化度が、0.6より低い場合、スラリーの安定性が悪くなり、このスラリーから作製した負極のサイクル特性が悪化する。また、エーテル化度が、1.5より高い場合、平均重合度が高くなる傾向にあるため、溶解性が低下し、その結果、スラリーの固形分が低下してしまう。また、平均重合度が500未満であると十分な粘度が得られず、1800より大きいとセルロースエーテル化合物の溶解性が低下する。本発明は、セルロースエーテル化合物のエーテル化度、平均重合度、pHを上記範囲内で変化させることで、スラリーの粘度を適切に調整することができるため、安定したサイクル特性を得ることができるものとなる。
【0071】
また、異なる2種以上のセルロースエーテル化合物を混合することでエーテル化度、重合度、pHを変化させても良い。例えば、前述のように、エーテル化度を高くすると平均重合度が高くなる傾向にあり、スラリーの固形分が低下してしまう。そこで、エーテル化度は若干小さいが重合度が低い化合物を用い、2種以上のセルロースエーテル化合物を混合させるなどして、全体としてのエーテル化度、平均重合度、pHを調整をすることができる。本発明においては、負極に含有されるセルロースエーテル化合物全体で測定した数値が、上記エーテル化度、平均重合度、pHの規定を満たせばよい。
【0072】
また、本発明の負極に用いられるケイ素化合物は酸化ケイ素材(SiO
x:0.5≦x≦1.6)であり、その組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。本発明におけるケイ素材組成は、必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0073】
また、本発明の負極は、負極に含まれる負極活物質の総量に対するケイ素化合物の割合が6質量%以上であることが好ましい。これは、炭素材に対して高電位放電であるケイ素材であっても電池の体積エネルギー密度を向上させることができるからである。
【0074】
更に、本発明の負極に含まれるセルロースエーテル化合物が、カルボキシメチルセルロース塩を含み、かつ、セルロースエーテル化合物が負極活物質の総量に対して、0.95質量部以上3.5質量部以下であることが望ましい。負極活物質の総量に対してセルロースエーテル化合物が0.95質量部以上であれば、結着力の向上効果が大きく、負極からの負極材の剥離(粉落ち)や、電極構造の破壊を防止できる。また、上記割合が3.5質量部以下であれば、セルロースエーテル化合物が負極において、ほとんど抵抗成分とならず、電池へほとんど悪影響を及ぼさない。
【0075】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極は、バインダー(負極結着剤)として、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩などのセルロースエーテル化合物に加え、ポリアクリル酸又はその金属塩、スチレンブタジエン系ゴム、及び粒子状のポリフッ化ビニリデンのうち少なくとも1種以上とを含んでもよい。例えば、カルボキシメチルセルロースは、その一部がナトリウム塩となっているものでも良い。ポリアクリル酸の金属塩の好適な例としては、例えばポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0076】
また、本発明において、ケイ素化合物の表層の少なくとも一部は炭酸リチウムで覆われていることが好ましい。これは、特に電池初期効率の向上効果が得られるからである。また、被覆する炭酸リチウムのケイ素化合物に対する量は、0.5質量%以上4質量%以下の範囲が望ましい。炭酸リチウムが、ケイ素化合物に対して0.5質量%以上含まれていれば、初期効率の向上効果が十分に得られる。また、4質量%以下とすれば、スラリー安定性を維持することができる。
【0077】
さらに、ケイ素化合物の表層の少なくとも一部にフッ化リチウム及び酸化リチウムの少なくとも一方が存在すると良い。ケイ素化合物が表層にフッ化リチウム又は酸化リチウムを含むことで、サイクル特性の向上効果が得られる。中でもフッ化リチウムは、サイクル特性の向上効果が得られるだけでなく、耐水性を付与することができる。
【0078】
また、ケイ素化合物は表面に炭素被膜を有することが好ましい。このとき、炭素被膜の被覆量は、特に限定されないが、ケイ素化合物と炭素被膜の合計に対し0.1質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0079】
炭素被膜の被覆量が0.1質量%以上であれば、十分な導電性を得ることができる。また、被覆量を15質量%以下とすれば、電池容量を十分に確保できる。
【0080】
さらに、本発明の負極に含まれているケイ素化合物は、その表層に、カルボキシル基を有する結着剤を介して炭素粒子が付着しているものであることが好ましい。特に、ケイ素化合物を覆う炭素被膜の上部に粒状の炭素材を付着させるとよく、この炭素粒子を、カルボキシル基を有する結着剤を介して、強固に付着させると良い。これにより、負極活物質粒子間のコンタクトをスムーズに取ることが可能なものとなる。
【0081】
このとき、ケイ素化合物の表層に付着している炭素粒子は、メジアン径が20nm〜200nmのものであることが好ましい。炭素粒子のメジアン径が20nm以上であれば、負極活物質粒子間のコンタクトが十分に取れる。炭素粒子のメジアン径が200nm以下であれば、負極活物質粒子間のコンタクトが得られる炭素粒子の割合が増え、コンタクトを取るために必要な炭素粒子の量が少なく済むため、炭素粒子を必要以上に多く加える必要が無く、電池容量を十分に確保できる。
【0082】
また、本発明の負極に含まれるケイ素化合物は、内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することにより得ることができる。なかでも、Li
4SiO
4、Li
2SiO
3、Li
6Si
2O
7は特に良い特性を示す。これはリチウム対極に対する電位規制や電流規制などを行い、条件を変更することで選択的化合物の作製が可能となる。
【0083】
Li化合物はNMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置、
・X線源: 単色化Al Kα線、
・X線スポット径: 100μm、
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV 2mm×2mm。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0084】
選択的化合物の作製方法、すなわち、ケイ素化合物の改質は、電気化学的手法により行うことが好ましい。
【0085】
このような改質(バルク内改質)方法を用いて負極活物質粒子を製造することで、Si領域のLi化合物化を低減、又は避けることが可能であり、大気中、又は水系スラリー中、溶剤スラリー中で安定した物質となる。また、電気化学的手法により改質を行うことにより、ランダムに化合物化する熱改質(熱ドープ法)やLi蒸着法に対し、より安定した物質を作ることが可能である。
【0086】
ケイ素化合物のバルク内部に生成したLi
4SiO
4、Li
2SiO
3、Li
6Si
2O
7は少なくとも1種以上存在することで特性向上となるが、より特性向上となるのはこれら2種の共存状態である。
【0087】
また、電気化学的手法で、内部にLi化合物を生成すると同時に、ケイ素化合物の最表層に、フッ化リチウムなどの反応抑制物を生成することができる。これにより、負極活物質の粉末の保存特性が飛躍的に向上する。もちろん、手法は特に限定されないが、電気化学法が最も好ましい。
【0088】
また、本発明の負極活物質に含まれるケイ素化合物の結晶性は低いほどよい。具体的には、ケイ素化合物の、X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが望ましい。このように、特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的なLi化合物の生成をすることができる。
【0089】
ケイ素化合物のメジアン径は、特に限定されないが、0.5μm〜20μmであることが好ましい。この範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、粒子が割れにくくなるからである。このメジアン径が0.5μm以上であれば表面積が大きすぎないため、電池不可逆容量を低減することができる。一方、メジアン径が20μm以下であれば、粒子が割れにくく新生面が出にくいため好ましい。
【0090】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上があげられる。特にカーボンナノチューブは膨張収縮率が高いケイ素材と炭素材の電気コンタクトを得ることに向いている。
【0091】
[負極の製造方法]
最初に本発明の非水電解質二次電池用負極に含まれるケイ素化合物の粒子の製造方法を説明する。まず、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素系活物質を作製する。次に、ケイ素系活物質にLiを挿入することにより、ケイ素系活物質の内部にLi化合物を生成させることができる。より具体的には、負極活物質粒子は、例えば、以下の手順により製造される。
【0092】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0093】
次に、得られた粉末材料の表面に炭素被膜を生成することができるが、この工程は必須ではない。しかしながら、より電池特性を向上させるには、炭素被膜を生成することが効果的である。
【0094】
得られた粉末材料の表面に炭素被膜を生成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内にセットした酸化ケイ素粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、活物質粒子の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、C
nH
m組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性が良いからである。
【0095】
バルク内改質は電気化学的にLiを挿入・脱離し得ることが望ましい。特に装置構造を限定することはないが、例えば
図2に示すバルク内改質装置20を用いて、バルク内改質を行うことができる。バルク内改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源、改質源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、酸化ケイ素の粉末22が格納される。
【0096】
上記のように、得られた改質粒子は、炭素被膜を含んでいなくても良い。ただし、バルク内改質処理において、より均一な制御を求める場合、電位分布の低減などが必要であり、炭素被膜が存在することが望ましい。
【0097】
浴槽27内の有機溶媒23として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどを用いることができる。また、有機溶媒23に含まれる電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などを用いることができる。
【0098】
陽電極21はLi箔を用いてもよく、また、Li含有化合物を用いてもよい。Li含有化合物として、炭酸リチウム、酸化リチウム、コバルト酸リチウム、オリビン鉄リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸バナジウムリチウムなどがあげられる。
【0099】
続いて、改質後の内部にLi化合物を含むケイ素化合物と必要に応じて炭素系活物質を混合するとともに、これらの負極活物質とバインダー(負極結着剤)、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0100】
このとき、本発明ではバインダーとして、エーテル化度が0.7以上1.5以下、平均重合度が1000以上1800以下、pHが8.1以上12.5以下であるセルロースエーテル化合物を加えることを必須とする。セルロースエーテル化合物としては、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩、特には、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を加えることができる。また、バインダーとして、さらに、ポリアクリル酸又はその金属塩、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデンのうち少なくとも1種以上を加えることができる。
【0101】
セルロースエーテル化合物は、所望するエーテル化度、平均重合度、pHに設定するために、2種以上の化合物を混合しても良い。たとえば、2種以上のカルボキシメチルセルロース又はその金属塩を混合しても良い。このように、負極合剤全体のバランスを考慮し、エーテル化度、平均重合度、pHを調整したセルロースエーテル化合物を加えることで、粘度調整を行うことが可能である。
【0102】
次に、負極集電体11の表面に、この負極合剤のスラリーを塗布し、乾燥させて
図1に示す負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行っても良い。以上のようにして、本発明の非水電解質二次電池用負極を製造できる。
【0103】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記した本発明の負極を用いた非水電解質二次電池の具体例として、リチウムイオン二次電池について説明する。
【0104】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0105】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0106】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0107】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0108】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0109】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0110】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0111】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0112】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0113】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0114】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0115】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0116】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0117】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0118】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0119】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0120】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0121】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0122】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0123】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0124】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0125】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
【0126】
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0127】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0128】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図1を参照)。
【0129】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【0130】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池30等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例】
【0131】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0132】
(実施例1−1)
以下の手順により、
図3に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0133】
最初に正極を作製した。正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を95質量部と、正極導電助剤2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0134】
次に、負極を作製した。ケイ素系活物質は以下のように作製した。
まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料(気化出発材ともいう)を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、熱分解CVDを行うことで、炭素被膜を、ケイ素化合物と炭素被膜の合計に対して5質量%となるように被覆した。次に、メジアン径が35nmである炭素粒子を、ポリアクリル酸を介して酸化ケイ素の粉末に付着させた。作製した粉末はエチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの体積比が3:7の混合溶媒(電解質塩として、LiPF
6を1.3mol/kgの濃度で含んでいる。)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。
【0135】
バルク改質後のケイ素化合物は、内部にLi
2SiO
3、Li
4SiO
4を含み、その表層には炭酸リチウム、フッ化リチウム、酸化リチウムが含まれていた。また、炭酸リチウムは、ケイ素化合物に対して、1.5質量%含まれていた。また、ケイ素化合物は、SiO
xで表されるケイ素化合物のxの値が0.5であり、メジアン径D
50が4μm、X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が2.593°、その結晶面に起因する結晶子サイズが3.29nmであった。
【0136】
続いて、ケイ素化合物を、負極活物質の総量に対する割合が10質量%となるように、炭素系活物質である天然黒鉛(メジアン径20μm)と混合し、負極活物質を作製した。
【0137】
次に、作製した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50μmの炭素微粒子)、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する。)を93.05:1:1.25:2.5:2.2の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。尚、上記のSBR及びCMCは負極バインダー(負極結着剤)である。また、CMCは、そのナトリウム塩も含んでいる。更に、CMCはそのエーテル化度が0.85、平均重合度が1300、pHが8.5であった。また、負極活物質の総量に対してCMCは、2.2質量部の割合で含まれていた。
【0138】
また、負極集電体としては、電解銅箔(厚さ15μm)を用いた。最後に、負極合剤のスラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃〜180℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は5mg/cm
2であった。本実験で用いるポリアクリル酸は特に限定する事は無いが、25万〜125万の分子量範囲が望ましく、より望ましいのは100万である(例えば、和光純薬工業株式会社製品を使用できる)。
【0139】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0140】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0141】
(実施例1−2、実施例1−3、比較例1−1、比較例1−2)
ケイ素化合物のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1−1と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させ堆積される酸素量を調整した。実施例1−1〜1−3、比較例1−1、1−2における、SiO
xで表されるケイ素化合物のxの値を表1中に示した。
【0142】
実施例1−1〜1−3、比較例1−1、1−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0143】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、%表示のため100を掛け、容量維持率(以下では単に維持率と呼ぶ場合もある)を算出した。サイクル条件として、4.2Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、4.2Vの電圧に達した段階で4.2V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0144】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。充放電条件はサイクル特性の測定条件の電流密度の0.2倍で行った。すなわち、4.2Vに達するまで定電流密度、0.5mA/cm
2で充電し、電圧が4.2Vに達した段階で4.2V定電圧で電流密度が0.05mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0145】
【表1】
【0146】
表1からわかるように、酸素が十分にない場合(比較例1−1、x=0.3)、初期効率は向上するものの容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合(比較例1−2、x=1.8)、導電性の低下が生じSiO材の容量が発現しなかった。
【0147】
(実施例2−1〜2−8、比較例2−1)
セルロースエーテル化合物であるCMCのエーテル化度、pH、重合度を変化させたこと以外、実施例1−2と同様に、二次電池の製造を行った。実施例2−1〜2−8、比較例2−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0148】
【表2】
【0149】
エーテル化度が0.6未満の場合(比較例2−1)、スラリーの安定性を得ることが難しく、初期効率は良好であるが、維持率が低下しサイクル特性が悪化した。これは、スラリーが不安定であるため結着性が低下し、負極の構造破壊が起きたためと考えられる。一方で、エーテル化度が0.6以上1.5以下であり、かつ、pHが7.1以上12.5以下、平均重合度が500以上1800未満の条件を満たす実施例2−1〜2−8では、維持率及び初期効率が良好な値となり、安定した電池特性が得られた。
【0150】
(実施例3−1〜実施例3−7)
セルロースエーテル化合物であるCMCのエーテル化度、pH、重合度を変化させたこと以外、実施例2−1と同様に、二次電池の製造を行った。実施例3−1〜実施例3−7では、CMCのpHを、7近辺(7.1〜7.4)に調整している。実施例3−1〜3−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0151】
【表3】
【0152】
表3からわかるように、実施例3−1〜実施例3−7では、維持率及び初期効率が良好な値となり、安定した電池特性が得られた。このようにpHが、7近辺(7.1〜7.4)であっても十分に良好な電池特性が得られるが、表2及び後述する実施例4の表4の結果より、pHが8.1以上12.5以下の方がより良好な電池特性が得られることが分かった。また、pHを7以下にすることは、CMCの性質上難しい。また、エーテル化度が高いと平均重合度も高くなる傾向にあり、スラリー作成時の粘度が高く、塗布が困難な傾向にある。その場合には、重合度が低くエーテル化度が比較的低い(0.7近辺など)材料を混合し、調整する事も可能である。
【0153】
(実施例4−1〜実施例4−6)
セルロースエーテル化合物であるCMCのエーテル化度、pH、重合度を変化させたこと以外、実施例2−1と同様に、二次電池の製造を行った。実施例4−1〜実施例4−6では、CMCのpHを、よりアルカリ側に調整した。尚、実施例4−1では、pHが8のCMCを得るためにpHが7.1とpHが8.5のCMCを混合した。実施例4−1〜4−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0154】
【表4】
【0155】
表4の実施例4−1〜4−6から分かるように、pHをよりアルカリ側に変化させた場合、維持率及び初期効率が良好な値となり、安定した電池特性が得られた。尚、pHが12.5以上のCMCは実質的に作製が困難であるため測定は行っていない。
【0156】
(実施例5−1〜5−5)
負極活物質の総量に対するケイ素化合物の割合を変化させたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池の製造を行った。実施例5−1〜5−5の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0157】
【表5】
【0158】
ケイ素化合物の割合が小さくなり、炭素系活物質の割合が大きくなるほど、炭素系活物質の特性が得られやすくなり電池特性が良好になる。しかしながら一般的な炭素材の可逆容量が330mAh/g程度であり、1500mAh/g(0V−1.2V)で得られるケイ素材は十分に容量が高く、実質的な使用方法として、ケイ素材を添加する事で電池容量維持率は低下するが、電池容量が大幅に向上する。特にケイ素材は炭素材に対して放電電位が高く、電池容量を考慮した場合、実質的な容量向上に繋がりづらい。そこで実際に得られたケイ素材をもって容量向上がどの領域から得られるか算出したところ、6質量%程度添加すれば容量向上となることがわかった。
【0159】
図4に、負極活物質の総量に対するケイ素化合物の割合と二次電池の電池容量の増加率との関係を表すグラフを示す。
図4中のAで示す曲線は、負極活物質中において本発明におけるケイ素化合物の割合を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。一方、
図4中のBで示す曲線は、Liをドープしていないケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。
図4から分かるように、負極活物質中での本発明におけるケイ素化合物の割合が6質量%以上となると、電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、体積エネルギー密度が、特に顕著に増加する。
【0160】
(実施例6−1〜実施例6−5)
負極活物質の総量に対するセルロースエーテル化合物の割合、すなわち、負極活物質の総量に対するCMCの割合を変化させたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池の製造を行った。このとき、負極活物質の総量を変化させることで、CMCの割合を変化させた。実施例6−1〜6−5の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0161】
【表6】
【0162】
表6から分かるように、実施例6−1よりも、実施例6−2〜6−4の二次電池の方が良好な電池特性が得られた。これは、CMCの割合が0.95質量部以上の場合、十分な結着力が得られ、充放電時に起きるケイ素化合物の膨張、収縮による負極活物質層の崩落が起こり難いからであると考えられる。なお、CMCの割合が3.5質量部よりも高い場合、維持率、初期効率は良好ではあるものの、負荷成分が強く、電池データが悪化する傾向にあったため、CMCの割合は3.5質量部以下とすることが好ましいことが分かった。
【0163】
(実施例7−1)
セルロースエーテル化合物をナトリウム塩及びリチウム塩を含むCMCとしたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池の製造を行った。実施例7−1の場合、CMCのリチウム塩を作製することで、pHの調整を行っている。尚、pHの調整は、例えばLiOHの滴定を行って、リチウム塩を作製することでも可能であり、また、本発明の負極に含まれるケイ素化合物を洗浄したCMC溶液を用いても良い。実施例7−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0164】
【表7】
【0165】
表7から分かるように、CMCがナトリウム塩及びリチウム塩を含むものであると、維持率及び初期効率が向上した。
【0166】
(実施例8−1、実施例8−2)
添加する負極結着剤(バインダー)を、実施例8−1では、ナトリウム塩を含むCMCに加え、SBRとポリアクリル酸(以下、PAAと称する)としたこと、実施例8−2では、ナトリウム塩を含むCMCに加え、粒子状のポリフッ化ビニリデン(以下、Pvdfと称する)としたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。尚、SBR、PAA、Pvdfは主結着剤であり、CMCは、負極活物質の総量に対して2.2質量部添加した。また、PAAは酸性であるため、添加量は適量が望まれる。実施例8−1では活物質層内での割合を最大1質量%として、スラリーを中性化している。また、実施例8−2では、粒子状のPvdfを用いた。これは、水に分散させたPvdfを用い、電極を形成した後に180℃で乾燥を行うことで結着性を向上させている。実施例8−1、8−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0167】
【表8】
【0168】
表8から分かるように、いずれの実施例も良好な維持率、初期効率を有しており、SBR、PAA、粒子状のPvdfは、本発明において、バインダーとしてセルロースエーテル化合物と併用するのに好適であることが分かった。
【0169】
(実施例9−1〜実施例9−6)
ケイ素化合物の表層に含まれる炭酸リチウムの、ケイ素化合物に対する割合を変化させたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。但し、実施例9−1では、炭酸リチウムの割合を0.0%、すなわち、表層に炭酸リチウムを含まないケイ素化合物を使用して電池を作製している。実施例9−1〜実施例9−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0170】
【表9】
【0171】
炭酸リチウムは、充放電に伴う電解液の分解を抑制するだけではなく、負極合剤の水系スラリーを安定化させることができる。特に、炭酸リチウムの、ケイ素化合物に対する割合を0.5質量%〜4質量%とすれば、初期効率の向上効果が高い。これは、スラリー中に溶け出す炭酸リチウムの量を低減できるため、CMC等のバインダーの結着性を適切な維持できるからである。
【0172】
(実施例10−1)
表層にフッ化リチウム、酸化リチウムを含まないケイ素化合物を使用したこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。実施例10−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0173】
【表10】
【0174】
表10に示すように、表層にフッ化リチウム、酸化リチウムを含むケイ素化合物を使用すれば、より良好な維持率及び初期効率を得られることが分かった。
【0175】
(実施例11−1〜実施例11−6)
ケイ素化合物の表層に付着させる炭素粒子のメジアン径を変化させたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。実施例11−1〜実施例11−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表11に示した結果が得られた。
【0176】
【表11】
【0177】
表11から分かるように、炭素粒子のメジアン径が20nm以上200nm以下(実施例2−4、実施例11−2〜実施例11−5)であれば、より良好な維持率及び初期効率が得られることが分かった。このように、炭素粒子のメジアン径が20nm以上であれば、メジアン径が20nm未満の場合(実施例11−1)に比べて、負極活物質粒子間のコンタクトをより十分に取れる。炭素粒子のメジアン径が200nm以下であれば、メジアン径が200nmより大きい場合(実施例11−6)に比べて、負極活物質粒子間のコンタクトが得られる粒子の割合が増え、コンタクトを取るために必要な炭素粒子の量が少なく済むため、炭素粒子を必要以上に多く加える必要が無く、電池容量を十分に確保できる。
【0178】
(実施例12−1〜実施例12−3)
ケイ素化合物の内部に含まれるLi化合物を変化させたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。これは、ケイ素化合物の、電気化学的手法によるバルク改質時における、Li化合物作製時の電位、電流を制御し、ケイ素化合物に生成される含有物の状態を変化させることで可能となる。これによってあらかじめ安定したLiを粒子内に生成する事ができるため、電池特性を向上させることができる。尚、Li化合物は、前述した条件における、NMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。実施例12−1〜実施例12−3の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
【0179】
【表12】
【0180】
表12からわかるように、ケイ素化合物の内部に、特に、Li
2SiO
3、Li
6Si
2O
7、Li
4SiO
4のうち、少なくとも一種以上のLi化合物を含むことで維持率及び初期効率を向上させることができる。
【0181】
(実施例13−1〜実施例13−6)
ケイ素化合物に被覆する炭素被膜の、ケイ素化合物と炭素被膜の合計に対する割合を変化させたこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。実施例13−1では、炭素被覆処理を行わなかった。また、炭素被膜の被覆量は、熱分解CVDにおける、温度、時間を変化させることで調整した。実施例13−1〜実施例13−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表13に示した結果が得られた。
【0182】
【表13】
【0183】
表13から分かるように、炭素被膜を少量でも有すると導電性の向上が得られ、維持率、初期効率が向上した。一方で、炭素被膜のケイ素化合物と炭素被膜の合計に対する割合が15質量%より大きくになると(実施例13−6)、電池特性は良好であるが、実質的にケイ素化合物による容量向上効果が得づらいため、炭素被膜の割合は15質量%以下とすることが好ましい。
【0184】
(実施例14−1、実施例14−2)
ケイ素化合物のバルク内改質を、実施例14−1では熱ドープ法により、実施例14−2では、Li蒸着法により行ったこと以外、実施例2−4と同様に、二次電池を作製した。実施例14−1、実施例14−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表14に示した結果が得られた。
【0185】
【表14】
【0186】
いずれの改質方法においても、良好な電池特性が得られたが、特に、電気化学法を使用すると、他の方法より良好な電池特性が得られた。また、改質においてLiの挿入・脱離は、複数回行うことがより望ましい。
【0187】
(実施例15−1〜実施例15−9)
ケイ素化合物の結晶性を変化させた他は、実施例2−4と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例15−1〜15−9のケイ素系活物質の半値幅を表15に示した。実施例15−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例15−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。実施例15−1〜実施例15−9の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表15に示した結果が得られた。
【0188】
【表15】
【0189】
表15に示すように、それらの結晶性に応じて容量維持率および初回効率が変化した。特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率、初期効率が得られた。特に、非結晶領域では最も良い電池特性が得られた。
【0190】
(実施例16−1〜実施例16−7)
ケイ素化合物のメジアン径を変えたこと以外、実施例2−4と同様に二次電池の製造を行った。実施例16−1〜実施例16−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表16に示した結果が得られた。
【0191】
【表16】
【0192】
メジアン径が0.5μm以上20μm以下であれば、より電池特性が向上した。メジアン径が0.5μm以上であれば、ケイ素化合物粒子の反応面積が大きくなり過ぎず、特性低下を抑制することができる。また、メジアン径が20μm以下であれば、充放電に伴う膨張収縮が小さいため、粒子が崩壊し難く、新生面が出現し難い。そのため不可逆成分が発生難く電池特性の低下を抑制できる。
【0193】
(実施例17−1)
基本的に実施例2−4と同様に二次電池の製造を行ったが、実施例17−1では、負極合剤スラリーの作製の際、導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT)を添加しなかった。実施例17−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表17に示した結果が得られた。
【0194】
【表17】
【0195】
表17から分かるように、CNTを添加した方が容量維持率、初期効率が共により向上することが確認された。このように、負極中にCNTを添加すれば、ケイ素系活物質(SiO材)及び炭素系活物質間の電子コンタクトを得られるため、電池特性が向上することが分かった。
【0196】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。