(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発光素子に、第1のタイミングでプリバイアス電圧振幅値に対応した電流の供給を開始し、第2のタイミングでメインバイアス電圧振幅値に対応した電流の供給を開始する電源部と、
前記第1のタイミングから前記第2のタイミングまでの時間をバイアス調整時間としたときに、前記発光素子が発光を開始するまでのタイミングを表す電圧と時間とに関する、前記発光素子のサージ光が許容値を超えないプリバイアス条件を満たす前記プリバイアス電圧振幅値と前記バイアス調整時間との組が記憶され、該組のプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間とに基づいて前記電源部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部に記憶されている前記プリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組は、
前記プリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組の複数の中から1つを第1の組と定め、
前記第1の組のバイアス調整時間およびプリバイアス電圧振幅値のいずれか一方を設定分解能だけ小さくした設定において、前記発光素子から許容値を超えるサージ光が測定された場合、前記第1の組のバイアス調整時間を前記設定分解能だけ小さくした設定の場合には前記第1の組のバイアス調整時間を前記設定分解能だけ大きくし、前記第1の組のプリバイアス電圧振幅値を前記設定分解能だけ小さくした設定の場合には前記第1の組のプリバイアス電圧振幅値を前記設定分解能だけ小さくし、かつ、前記プリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値と該バイアス調整時間との組を第2の組とする
ことを特徴とする発光素子駆動装置。
発光素子に、第1のタイミングでプリバイアス電圧振幅値に対応した電流の供給を開始し、第2のタイミングでメインバイアス電圧振幅値に対応した電流の供給を開始する電源部と、前記第1のタイミングから前記第2のタイミングまでの時間をバイアス調整時間としたときに、前記発光素子が発光を開始するまでのタイミングを表す電圧と時間とに関する、前記発光素子のサージ光が許容値を超えないプリバイアス条件を満たす前記プリバイアス電圧振幅値と前記バイアス調整時間との組が記憶された制御部とを備えた発光素子駆動装置を用いた発光素子駆動方法であって、
前記制御部に記憶されている前記プリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組に基づいて、前記第1のタイミングでプリバイアス電圧振幅値に対応した電流の供給を開始し、前記第2のタイミングでメインバイアス電圧振幅値に対応した電流の供給を開始するように、前記制御部が前記電源部を制御し、
前記制御部に記憶されている前記プリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組は、
前記プリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組の複数の中から1つを第1の組と定め、
前記第1の組のバイアス調整時間およびプリバイアス電圧振幅値のいずれか一方を設定分解能だけ小さくした設定において、前記発光素子から許容値を超えるサージ光が測定された場合、前記第1の組のバイアス調整時間を前記設定分解能だけ小さくした設定の場合には前記第1の組のバイアス調整時間を前記設定分解能だけ大きくし、前記第1の組のプリバイアス電圧振幅値を前記設定分解能だけ小さくした設定の場合には前記第1の組のプリバイアス電圧振幅値を前記設定分解能だけ小さくし、かつ、前記プリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値と該バイアス調整時間との組を第2の組とする
ことを特徴とする発光素子駆動方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る発光素子駆動装置および発光素子駆動方法について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る発光素子駆動装置100の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、発光素子駆動装置100は、電源部110と制御部120とを備えている。発光素子駆動装置は、例えばLD(Laser Diode)等の発光素子101に適切なタイミングで電流を供給し、発光素子101を発光させる装置である。
【0022】
電源部110は、プリバイアス電圧振幅値とメインバイアス電圧振幅値との2つの電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給するための機器である。制御部120は、第1のタイミングでプリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給することを開始し、第2のタイミングでメインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給することを開始するように電源部110を制御するための機器である。
【0023】
図1に示されるように、電源部110は、プリバイアス源111とメインバイアス源112とスイッチ113とを備えている。
【0024】
プリバイアス源111は、プリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給するための電源であり、メインバイアス源112は、メインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給するための電源である。
【0025】
スイッチ113は、バイアス調整時間を制御するためのものであり、例えば電界効果トランジスタによって構成されている。すなわち、プリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給するタイミングを第1のタイミングとし、メインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子101に供給するタイミングを第2のタイミングとしたときに、スイッチ113は、第1のタイミングから第2のタイミングまでの時間であるバイアス調整時間の長さを制御するために構成されている。
【0026】
図1に示されるように、メインバイアス源112は、スイッチ113を介して発光素子101に接続されている。したがって、スイッチ113の開閉によってメインバイアス源112から発光素子101への電流の供給を制御することが可能である。当該構成により、スイッチ113は、第2のタイミングで回路をオンにしてメインバイアス源112から発光素子101へ電流を供給することにより、バイアス調整時間を制御する。
【0027】
制御部120は、電源部110のプリバイアス源111とメインバイアス源112とスイッチ113とを制御するための制御機器である。制御部120は、プリバイアス源111およびメインバイアス源112の起動および停止を制御し、かつ、スイッチ113の開閉を制御する。なお、プリバイアス源111の起動タイミングが第1のタイミングに対応し、スイッチ113をオン状態に制御するタイミングが第2のタイミングに対応している。本構成によれば、プリバイアス電圧振幅値に対応した電流が発光素子101に供給される時間がスイッチ113の開閉によって制御されるので、矩形波に近い波形の電流が発光素子101に供給される。
【0028】
制御部120は、記憶手段121を備えており、記憶手段121には、プリバイアス電圧振幅値、メインバイアス電圧振幅値、第1のタイミング、および第2のタイミング等、制御部120が電源部110の制御に用いる設定パラメータが記憶されている。記憶手段121は、書換え可能な記憶装置を用いて構成されることが好ましく、必要に応じて制御部120の外部から設定パラメータを書き換え可能に構成されていることが好ましい。
【0029】
なお、
図1に示されるように、インダクタ114をプリバイアス源111と発光素子101との間に追加配置する構成としてもよく、抵抗器102を発光素子101とグランドとの間に追加配置する構成としてもよい。
【0030】
次に、スイッチ113がオフ状態において、プリバイアス源111が発光素子101に印加するプリバイアス電圧V
tとその際に発光素子101に流れる電流I
tとの時間応答の関係について説明する。電流I
tは、プリバイアス電圧V
tの時間変化に対して、回路や発光素子であるLD等によって決まる時定数τ
LDを有する時間変化となる。そのため、プリバイアス電圧V
tがステップ応答したと仮定した場合、電流I
tは時間tに対して下記式(1)で表すことができる。
【0032】
また、発光素子101に注入された電流量により発光素子101の光出力が得られるが、その光出力はキャリア密度Nと光子密度Sで決まる。この関係は、下記式(2)および式(3)に示されるレート方程式に従うことが知られている。
【0034】
ここで、G(N)は誘導放出係数、τ
Nはキャリア寿命時間、τ
Pは光子寿命時間、kは自然放出光係数、Jは注入電流密度、eはキャリアの電荷、dは活性層の厚さである。レーザ利得が現れるキャリア密度N
g以下のキャリア密度の範囲では、式(2)および式(3)の誘導放出項G(N)Sは零である。一方、レーザ利得が現れるキャリア密度N
gを超えると式(3)に誘導放出項G(N)Sが発生し、光子量が急激に増大することでレーザ発振に至る。
【0035】
上記議論により、キャリア密度の増加量は、式(2)より注入電密度Jによって決まり、さらに注入電密度Jは式(1)の発光素子101に流れる電流I
tにより決まるので、レーザ発振が開始するタイミングは、発光素子101に流れる電流I
tがある電流値I
xに達するタイミングと相関する。
【0036】
ここで、発光素子101に供給される電流I
tの時間応答は
図2に示されるような波形となる。
図2は、プリバイアス電圧V
tと電流I
tとの時間応答の関係のグラフを示す図である。
図2(b)は、
図2(a)に示される電圧V
1が印加された場合の時間応答を示し、
図2(d)は、
図2(c)に示される電圧V
2が印加された場合の時間応答を示している。
【0037】
図2に示されるように、発光素子101に供給される電流I
tがある電流値I
xに達するまでの時間は、プリバイアス電圧V
tの大きさによって変わることが解る。プリバイアス電圧がV
1の場合は時間T
1であり、プリバイアス電圧がV
2の場合は時間T
2である。一般に、プリバイアス電圧の関係がV
1<V
2となる場合、ある電流値I
xに達するまでの時間はT
1>T
2となる。
【0038】
このことから、プリバイアス源111が発光素子101にプリバイアス電圧V
tを印加してから発光素子101が発光を開始する時間T
Xは、プリバイアス電圧V
tによって定まることが解る。ここで、発光素子101が発光を開始するとは、式(2)および式(3)において誘導放出項G(N)Sが発生するキャリア密度N
gに達することをいう。
図3は、プリバイアス電圧V
tとそのプリバイアス電圧V
tで発光素子101が発光を開始する時間T
Xとの関係を示す図である。
【0039】
図3に示されるように、プリバイアス電圧V
tとそのプリバイアス電圧V
tで発光素子101が発光を開始する時間T
Xとの関係をグラフ化すると、時間T
Xに関して単調減少の曲線L
1になる。
【0040】
スイッチ113は、この発光素子101が発光を開始する時間T
Xのタイミングでメインバイアス電圧を印加させる。すなわち、所与のプリバイアス電圧V
tにおいて発光素子101が発光を開始する時間T
Xをバイアス調整時間とし、メインバイアス電圧を発光素子101に印加することを開始する。
【0041】
図3に加えて、
図4を参照しながらより具体的に説明する。
図4は、発光素子101のアノード・カソード間に印加される電圧の時間波形を模式的に表す図である。
【0042】
本実施形態では、発光素子101が発光を開始することを表す条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組が設定パラメータとして用いられている。以下、この発光素子101が発光を開始することを表すプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との間の条件をプリバイアス条件と云う。
【0043】
ここで、プリバイアス条件は、例えば
図3に示されるような曲線L
1によって表現される。つまり、ある発光素子のプリバイアス条件が
図3の曲線L
1によって表現される場合、プリバイアス電圧V
3とバイアス調整時間T
3とがプリバイアス条件を満たすことになる。
【0044】
そして、制御部120は、このプリバイアス電圧V
3とバイアス調整時間T
3との組を用いて、
図4に示されるような時間波形の電圧を発光素子101のアノード・カソード間に印加するように電源部110を制御する。
図4には、プリバイアス電圧の時間波形P
1が実線で、メインバイアス電圧の時間波形P
2が破線で記載されている。具体的には、制御部120は、プリバイアス源111によってプリバイアス電圧V
3を発光素子101に印加し、そのタイミング(第1のタイミング)からバイアス調整時間T
3の経過後(第2のタイミング)、スイッチ113をオン状態に変更して、メインバイアス源112によってメインバイアス電圧を発光素子101に印加するように電源部110を制御する。
【0045】
メインバイアス源112がメインバイアス電圧を発光素子101に印加する時間T
p1は、所望の光出力のパルス幅に応じて、スイッチ113の開閉を制御することで調整する。なお、プリバイアス源111が印加するプリバイアス電圧は、第2のタイミングから時間T
p1以内に停止されればよい。
【0046】
ここで、
図5〜
図8を参照しながら、第1のタイミングから第2のタイミングまでの時間であるバイアス調整時間が、プリバイアス条件から外れた場合の光出力について説明する。
【0047】
図5は、サージ光発生時の光出力波形を示す図であり、
図6および
図7は、タイミングが不適当な場合の光出力波形を示す図であり、
図8は、サージ光除去時の光出力波形を示す図である。
図5〜
図8は、発光素子から出力される光出力波形をサンプリングオシロースコープにより測定したものである。
【0048】
図5に示される光出力波形は、プリバイアス電圧を印加せずに、メインバイアス電圧のみを印加して発光素子101を駆動した場合の光出力波形を示している。メインバイアス電圧のみを印加して発光素子101を駆動した場合、
図5に示されるように、非常に大きなサージ光Z
1が発生する。これは、メインバイアス電圧のみを印加する場合、キャリア密度および光子密度が急激に増大してしまうからである。
【0049】
図6に示される光出力波形は、プリバイアス電圧を印加するものの、プリバイアス電圧振幅値が低過ぎる、またはバイアス調整時間が短過ぎる場合の光出力波形を示している。つまり、
図6に示される光出力波形は、プリバイアス条件が
図3の曲線L
1によって表現される場合、曲線L
1の左下の領域に対応したプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組で発光素子を駆動した場合の光出力波形を示している。
【0050】
この場合、プリバイアス電圧の印加によって式(3)のG(N)S項が発生する前にメインバイアス電圧を印加することになり、メインバイアス電圧を印加した瞬間に光子密度の増加量が大きくなり、プリバイアス電圧を印加しないよりは発光強度が小さいもののサージ光Z
2が発生する。
図6に示さるようなサージ光Z
2であっても、得られた光出力を増幅する場合、サージ光Z
2によって増幅部が破壊される可能性や特性を悪化させる恐れがある。
【0051】
なお、プリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間の組み合わせが
図3に示される曲線L
1から左下へ遠ざかるほど、メインバイアス電圧を印加した時の光子密度の増加量が大きくなるため、サージ光の発光強度も大きくなる。
【0052】
一方、
図7に示される光出力波形は、プリバイアス電圧を印加するものの、プリバイアス電圧が高過ぎる、またはバイアス調整時間が長過ぎる場合の光出力波形を示している。つまり、
図7に示される光出力波形は、プリバイアス条件が
図3の曲線L
1によって表現される場合、曲線L
1の右上の領域に対応したプリバイアス電圧とバイアス調整時間との組で発光素子を駆動した場合の光出力波形を示している。
【0053】
この場合、プリバイアス電圧の印加によって式(3)のG(N)S項が発生してしまい、メインバイアス電圧を印加する前にオフセット光Z
3が発光されてしまう。
図7に示されるような低いオフセット光Z
3であっても、得られた光出力を増幅し、パルス幅に対しパルス間隔が長い場合、発光時のパルス幅が相対的に短いので平均出力が小さくなる一方、オフセット光Z3によって消光時の平均出力が上がってしまうので、消光比が大きく悪化することになる。
【0054】
なお、プリバイアス電圧およびバイアス調整時間の組み合わせが
図3に示される曲線L
1から右上へ遠ざかるほど、プリバイアス電圧の印加によって式(3)のG(N)S項が発生してからメインバイアス電圧が与えられるまでの時間が長くなるため、消光比も悪化することになる。
【0055】
図8に示される光出力波形は、プリバイアス電圧とバイアス調整時間との組み合わせがプリバイアス条件を満たしている場合の光出力波形を示している。プリバイアス電圧とバイアス調整時間との組み合わせがプリバイアス条件を満たしている場合とは、プリバイアス条件が
図3の曲線L
1によって表現される場合、曲線L
1上のプリバイアス電圧とバイアス調整時間との組み合わせであることである。
【0056】
この場合、プリバイアス電圧の印加によって式(3)のG(N)S項が発生する瞬間にメインバイアス電圧が印加されるので、
図8に示されるように、サージ光の発生もオフセット光も発生しない。
【0057】
以上の理由により、本実施形態では、プリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組が設定パラメータとして用いられている。
【0058】
以上の構成の発光素子駆動装置100は、発光素子101が発光を開始することを表すプリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組が制御部120に記憶されており、そのプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組を用いて、電源部110が発光素子101に電流を供給するので、高い消光比とサージ光の除去とを実現した光出力を得ることができる。
【0059】
ところで、先述の式(2)および式(3)から解るように、注入電流量Jの時間変化が小さいほどキャリア密度および光子密度の変化が小さくなることから、プリバイアス電圧振幅値が小さく、バイアス調整時間が長いときほど、誤差等の要因でプリバイアス条件からプリバイアス電圧振幅値またはバイアス調整時間が外れた場合においてもキャリア密度、光子密度に急激な変化が起こり難い。
【0060】
図9は、プリバイアス条件に対する誤差が許容される範囲を示す図である。
図9は、曲線L
1によって表現されるプリバイアス条件に対する許容される誤差の範囲を破線L
2に囲まれる領域によって模式的に示している。
図9に示されるように、プリバイアス条件に対する許容される誤差の範囲は、プリバイアス電圧振幅値が小さく、バイアス調整時間が長いときほど、広くなっている。
【0061】
一方、バイアス調整時間も際限なく長くできるわけではなく、また、プリバイアス電圧振幅値も際限なく小さくできるわけではない。バイアス調整時間は、バイアス調整時間の最大値T
4よりも短くすることが好ましく、プリバイアス電圧振幅値は、プリバイアス電圧振幅値の最小値V
4よりも高くすることが好ましい。
【0062】
図10を参照しながら、バイアス調整時間の最大値T
4の定義を説明する。
図10は、発光素子のアノード・カソード間に印加される電圧とキャリア密度との時間波形の関係を模式的に示した図である。
図10には、破線で示された電圧の時間波形と実線で示されたキャリア密度の時間波形とが模式的に記載されている。
【0063】
図10に示されるように、プリバイアス電圧の印加およびメインバイアス電圧の印加によりキャリア密度は上昇している。一方、発光素子のアノード・カソード間に印加される電圧を零にしたとしても、直ちにキャリア密度は零にはならない。したがって、発光素子のアノード・カソード間に印加される電圧を零にしてから次周期の電圧印加までの時間が短いと、キャリア密度が零ではない状態から電圧印加が始まってしまうことになる。キャリア密度が零ではない状態から電圧印加を始めた場合、必要以上にプリバイアス電圧を印加することになり、オフセット光Z
3の発生の原因となる。
【0064】
そこで、バイアス調整時間とメインバイアス電圧の印加時間と励起寿命と設定分解能とを含めた総時間が1周期以下となるようにバイアス調整時間を設定する。すなわち、
図10に示されるように、バイアス調整時間の最大値T
4とメインバイアス電圧の印加時間T
p1と励起寿命T
p2と設定分解能αとを足した時間が光出力の繰り返し周期P
cに一致するように設定する。なお、ここで、メインバイアス電圧の印加時間T
p1は発光素子の光出力時間から定まる時間であり、励起寿命は、印加電圧が零になってからキャリア密度が零になるまでの時間である。また、バイアス調整時間の設定分解能αは、例えば0.1ns〜1nsとする。
【0065】
以上のことから、バイアス調整時間の最大値T
4は、以下のように規定される。
【0066】
バイアス調整時間の最大値T
4 = 光出力の繰り返し周期P
c − メインバイアス電圧の印加時間T
p1 − 励起寿命T
p2 − 設定分解能α ・・・(4)
【0067】
また、プリバイアス電圧振幅値の最小値V
4は以下のように定まる。なお、順方向電圧とは、発光素子に順方向の電流を流したとき、発光素子の両端に加わる電圧のことである。また、プリバイアス電圧振幅値の設定分解能βは、例えば1mV〜100mVとする。
【0068】
プリバイアス電圧振幅値の最小値V
4 = 発光素子の順方向電圧値 + 設定分解能β ・・・(5)
【0069】
次に、
図11と
図12を参照しながら、以上説明した条件を満たすプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間の中で、最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する方法について説明する。
図11は、最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する方法を示す図であり、
図12は、最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索するアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0070】
なお、以下の説明では
図1に記載の構成も参照するが、以下で説明する最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する方法は、
図1に記載の構成に限定されるものではない。また、以下で説明する最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する方法は、制御部120における自動処理として実装してもよいが、オペレータ等の手動の調整または設計として実行しても構わない。
【0071】
図11に示されるように、曲線L
1で表現されるプリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組C
1を一つ選択する。なお、最初の組C
1の選択方法に特段の制限はない。
【0072】
その後、
図12に示されるフローチャートに従い最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する。
【0073】
まず、組C
1におけるバイアス調整時間を設定分解能αだけ小さくする(ステップS1)。そして、この設定分解能αだけ小さくした設定で発光素子101にプリバイアス電圧およびメインバイアス電圧を印加し、許容値以上のサージ光Z
2が発生するか否かを測定する(ステップS2)。
【0074】
サージ光Z
2の発生が確認され、許容値を超える場合(ステップS2;Yes)、組C
1のバイアス調整時間を設定分解能αだけ大きくし、かつ、バイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組C
2を新たに選択する(ステップS3)。
図11には、バイアス条件を満たす組C
1から新たな組C
2を選択する方法が図示されている。
【0075】
一方、サージ光Z
2の発生が確認されない、または許容値を超えない場合(ステップS2;No)、上記組C
1をそのまま組C
2として選択し(ステップS4)、ステップS7へ進む。
【0076】
次に、ステップS3にて選択された組C
2に関して、バイアス調整時間がバイアス調整時間の最大値T
4よりも大きいか否かを判断する(ステップS5)。バイアス調整時間がバイアス調整時間の最大値T
4よりも大きい場合(ステップS5;Yes)、ステップS3にて選択された組C
2は不適当であるので、元の組C
1を組C
2として選択し(ステップS6)、ステップS7へ進む。
【0077】
一方、バイアス調整時間がバイアス調整時間の最大値T
4よりも大きくない場合(ステップS5;No)、ステップS3で選択した組C
2をそのまま採用し、ステップS7へ進む。
【0078】
次に、組C
2におけるプリバイアス電圧振幅値を設定分解能βだけ小さくする(ステップS7)。そして、この設定で発光素子101にプリバイアス電圧およびメインバイアス電圧を印加し、許容値以上のサージ光Z
2が発生するか否かを測定する(ステップS8)。
【0079】
サージ光Z
2の発生が確認され、許容値を超える場合(ステップS8;Yes)、組C
2のプリバイアス電圧振幅値を設定分解能βだけ小さくした場合のバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組C
3を選択する(ステップS9)。なお、
図11には、バイアス条件を満たす組C
2から新たな組C
3を選択する方法が図示されている。
【0080】
一方、サージ光Z
2の発生が確認されない、または許容値を超えない場合(ステップS8;No)、上記組C
2をそのまま組C
3として選択し(ステップS10)、ステップS13へ進む。
【0081】
次に、ステップS9にて選択された組C
3に関して、プリバイアス電圧振幅値がプリバイアス電圧振幅値の最小値V
4よりも小さいか否かを判断する(ステップS11)。プリバイアス電圧振幅値がプリバイアス電圧振幅値の最小値V
4よりも小さい場合(ステップS12;Yes)、ステップS9にて選択された組C
3は不適当であるので、元の組C
2を組C
3として選択し(ステップS12)、ステップS13へ進む。
【0082】
一方、プリバイアス電圧振幅値がプリバイアス電圧振幅値の最小値V
4よりも小さくない場合(ステップS11;No)、ステップS9で選択した組C
3をそのまま採用し、ステップS13へ進む。
【0083】
その後、以上のように選択されたプリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組C
1,C
2,C
3に関して、すべてが一致するか否かを判断する(ステップS13)。
【0084】
組C
1,C
2,C
3のすべてが一致する場合(ステップS13;Yes)、組C
1,C
2,C
3におけるプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間とが最適解となっているので、処理を終了する。
【0085】
一方、組C
1,C
2,C
3に一致しないものがある場合(ステップS13;No)、組C
3を新たに組C
1として選択し(ステップS14)、ステップS1へ戻り上記フローチャートを再び行う。
【0086】
以上のように規定されたプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組は、誤差等の要因でプリバイアス条件から外れた場合においても安定して高い消光比とサージ光の除去とを実現することができるという性質を有する。
【0087】
(第2実施形態)
図13は、第2実施形態に係る発光素子駆動装置200の概略構成を示す図である。
図13に示されるように、発光素子駆動装置200は、電源部210と制御部220とを備えている。発光素子駆動装置200は、例えばLD(Laser Diode)等の発光素子201に適切なタイミングで電流を供給し、発光素子201を発光させる装置である。
【0088】
電源部210は、プリバイアス電圧振幅値とメインバイアス電圧振幅値との2つの電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給するための機器である。制御部220は、第1のタイミングでプリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給することを開始し、第2のタイミングでメインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給することを開始するように電源部210を制御するための機器である。
【0089】
図13に示されるように、電源部210は、プリバイアス源211とメインバイアス源212とスイッチ213とコンデンサ214と抵抗器215とを備えている。
【0090】
プリバイアス源211は、プリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給するための電源であり、メインバイアス源212は、コンデンサ214を介して、メインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給するための電源である。すなわち、メインバイアス源212は、抵抗器215を通じてコンデンサ214に電力を蓄え、コンデンサ214に蓄えられた電力を解放することによって、メインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給する。
【0091】
スイッチ213は、バイアス調整時間を制御するための回路である。すなわち、プリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給するタイミングを第1のタイミングとし、メインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子201に供給するタイミングを第2のタイミングとしたときに、スイッチ213は、第1のタイミングから第2のタイミングまでの時間であるバイアス調整時間の長さを制御する。
【0092】
図13に示されるようにメインバイアス源212は、コンデンサ214を介して発光素子201に接続されている。一方、メインバイアス源212およびコンデンサ214は、スイッチ213を介してアースされている。したがって、スイッチ213をオンにすることにより、コンデンサ214に蓄えられた電力を解放することができ、発光素子201に電流が供給される。なお、コンデンサ214から発光素子201に供給されるパルス電流の大きさとパルス幅は、メインバイアス源212の電圧およびコンデンサ214の静電容量によって定まる。
【0093】
制御部220は、電源部210のプリバイアス源211とメインバイアス源212とスイッチ213とを制御するための制御機器である。制御部220は、プリバイアス源211およびメインバイアス源212の起動および停止を制御し、かつ、スイッチ213の開閉を制御する。なお、プリバイアス源211の起動タイミングが第1のタイミングに対応し、スイッチ213をオン状態に制御するタイミングが第2のタイミングに対応している。本構成によれば、コンデンサ214に蓄えられた電力をスイッチ213の開閉によって解放するので、パルス幅の短い電流を発光素子201に供給することができる。
【0094】
制御部220は、記憶手段221を備えており、記憶手段221には、プリバイアス電圧振幅値、メインバイアス電圧振幅値、第1のタイミング、および第2のタイミング等、制御部220が電源部210の制御に用いる設定パラメータが記憶されている。記憶手段221は、書換え可能な記憶装置を用いて構成されることが好ましく、必要に応じて制御部220の外部から設定パラメータを書き換え可能に構成されていることが好ましい。
【0095】
なお、
図13に示される構成において、インダクタ217をプリバイアス源211と発光素子201との間に追加配置する構成としてもよく、抵抗器202を発光素子201とアースとの間に追加配置する構成としてもよく、コンデンサ214と発光素子201との間の回路をダイオード216を介してアースしてもよい。
【0096】
なお、プリバイアス源211が発光素子201に印加するプリバイアス電圧V
tとその際に発光素子201に流れる電流I
tとの時間応答の関係は、回路や発光素子であるLD等によって決まる時定数τ
LDを有する時間変化となる。そのため、プリバイアス電圧V
tがステップ応答したと仮定した場合、電流I
tは時間tに対して下記式(6)で表すことができる。
【0098】
また、発光素子201から得られる光出力は、キャリア密度Nと光子密度Sで決まり、第1実施形態と同様に、式(2)および式(3)に従う。
【0099】
したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、プリバイアス源211が発光素子201にプリバイアス電圧を印加してから発光素子201が発光を開始する時間T
Xは、プリバイアス電圧V
tによって定まる。
図14は、プリバイアス電圧V
tとそのプリバイアス電圧V
tで発光素子201が発光を開始する時間T
Xとの関係を示す図である。
【0100】
図14に示されるように、プリバイアス電圧V
tとそのプリバイアス電圧V
tで発光素子201が発光を開始する時間T
Xとの関係をグラフ化すると、時間T
Xに関して単調増加の曲線L
3になる。また、
図15は、発光素子201のアノード・カソード間に印加される電圧の時間波形を模式的に表す図である。
【0101】
第2実施形態では、プリバイアス条件は、例えば
図14に示されるような曲線L
3によって表現される。つまり、ある発光素子のプリバイアス条件が
図14の曲線L
3によって表現される場合、プリバイアス電圧V
5とバイアス調整時間T
5とがプリバイアス条件を満たすことになる。
【0102】
そして、制御部220は、このプリバイアス電圧V
5とバイアス調整時間T
5との組を用いて、
図15に示されるような時間波形の電圧を発光素子201のアノード・カソード間に印加するように電源部210を制御する。
図15には、プリバイアス電圧の時間波形P
3が実線で、コンデンサ214からのパルス電流によって引き起こされる電圧(メインバイアス電圧)の時間波形P
4が破線で記載されている。
【0103】
具体的には、制御部220は、プリバイアス源211によってプリバイアス電圧−V
5を発光素子201に印加し、そのタイミング(第1のタイミング)からバイアス調整時間T
5の経過後(第2のタイミング)、スイッチ213をオン状態に変更して、コンデンサ214からのパルス電流によって引き起こされる電圧を発光素子201に印加するように電源部210を制御する。
【0104】
コンデンサ214からのパルス電流によって引き起こされる電圧を発光素子201に印加する時間T
p3は、所望の光出力のパルス幅に応じて、メインバイアス源212の電圧またはコンデンサ214の静電容量を変更することにより調整する。なお、プリバイアス源211が印加するプリバイアス電圧は、第2のタイミングから時間T
p3以内に停止されればよい。
【0105】
以上の構成の発光素子駆動装置200も、発光素子201が発光を開始することを表すプリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組が制御部220に記憶されており、そのプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組を用いて、電源部210が発光素子201に電流を供給するので、高い消光比とサージ光の除去とを実現した光出力を得ることができる。
【0106】
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する方法を採用することができる。したがって、そのように最適化されたプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組は、誤差等の要因でプリバイアス条件から外れた場合においても安定して高い消光比とサージ光の除去とを実現することができるという性質を有する。
【0107】
(第3実施形態)
図16は、第3実施形態に係る発光素子駆動装置300の概略構成を示す図である。
図16に示されるように、発光素子駆動装置300は、電源部310と制御部320とを備えている。発光素子駆動装置300は、例えばLD(Laser Diode)等の発光素子301に適切なタイミングで電流を供給し、発光素子301を発光させる装置である。
【0108】
電源部310は、プリバイアス電圧振幅値とメインバイアス電圧振幅値との2つの電圧振幅値に対応した電流を発光素子301に供給するための機器である。制御部320は、記憶手段321に記憶された設定パラメータに基づいて、第1のタイミングでプリバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子301に供給することを開始し、第2のタイミングでメインバイアス電圧振幅値に対応した電流を発光素子301に供給することを開始するように電源部310を制御するための機器である。
【0109】
第1実施形態とは異なり、第3実施形態に係る発光素子駆動装置300は、電源部310のみでプリバイアス電圧振幅値とメインバイアス電圧振幅値との2つの電圧振幅値に対応した電流を発光素子301に供給する構成である。しかしながら、第3実施形態に係る発光素子駆動装置300は、多くの点で第1実施形態と同様に作用するので、共通する説明部分を適宜省略する。
【0110】
図17は、発光素子301のアノード・カソード間に印加される電圧の時間波形を模式的に表す図である。第3実施形態に係る発光素子駆動装置300においても、第1実施形態と同様に、プリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧V
3とバイアス調整時間T
3との組を用いて、
図17に示されるような時間波形の電圧を発光素子301のアノード・カソード間に印加する。
図17には、プリバイアス電圧とメインバイアス電圧との合波の時間波形P
5が実線で記載されている。
【0111】
図17に示されるように、電源部310は、プリバイアス電圧V
3を発光素子301に印加し、そのタイミング(第1のタイミング)からバイアス調整時間T
3の経過後(第2のタイミング)、所望のメインバイアス電圧を発光素子301に印加する。なお、メインバイアス電圧を発光素子301に印加する時間T
p1は、所望の光出力時間から設定される。
【0112】
以上の構成の発光素子駆動装置300も、発光素子301が発光を開始することを表すプリバイアス条件を満たすプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組が制御部320に記憶されており、そのプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組を用いて、電源部310が発光素子301に電流を供給するので、高い消光比とサージ光の除去とを実現した光出力を得ることができる。
【0113】
また、第3実施形態においても、第1実施形態と同様の最適なプリバイアス電圧振幅値およびバイアス調整時間を探索する方法を採用することができる。したがって、そのように最適化されたプリバイアス電圧振幅値とバイアス調整時間との組は、誤差等の要因でプリバイアス条件から外れた場合においても安定して高い消光比とサージ光の除去とを実現することができるという性質を有する。
【0114】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。