(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水性塩基性バニリン含有組成物を、最初に塩基性吸着剤の吸着床を通過させ、次いで塩基性吸着剤を、少なくとも1種の有機溶媒中又は水性溶媒と有機溶媒との混合物中の酸の希薄溶液を用いて溶離する、請求項1に記載の方法。
リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液が、少なくとも1種のリグニンを含む材料をアルカリ水溶液中に溶解又は懸濁させることによって調製され、リグニンを含む材料が、黒液からのリグニン、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸塩、アルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、及び製紙業、パルプ又はセルロース製造からの対応する残留物から選択される、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
塩基性バニリン含有組成物が、リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の酸化によって調製され、酸化において形成されたバニリンを、前記酸化の間に、塩基性バニリン含有組成物を塩基性吸着剤で処理することによって、得られた塩基性バニリン含有組成物から除去する、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
酸化中に生じる塩基性バニリン含有組成物を、塩基性吸着剤の吸着床を通し、次いで塩基性吸着剤を少なくとも1種の有機溶媒中又は水-有機溶媒混合物中の酸の希薄溶液により溶離する、請求項11に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従って、本発明は、水性塩基性バニリン含有組成物から、とりわけ、リグニンを含む水性アルカリ性組成物の酸化、特に電気分解による酸化において生じる組成物からバニリンを製造するための方法であって、水性塩基性バニリン含有組成物、とりわけ、リグニンを含む水性アルカリ性組成物の酸化、特に電気分解による酸化において生じる組成物の、塩基性固体吸着剤、特にアニオン交換体による少なくとも1つの処理を含む方法に関する。
【0017】
本発明による方法は、多数の利点と関連している。即ち、バニリンがアルカリ性水性組成物中に、大部分又は完全にアニオン型の弱酸、即ち、バニレートとして存在しているため、バニリンは吸着剤によって吸着され、その後、適当な溶離剤、典型的には酸、特に有機溶媒中又は水-有機溶媒混合物中の鉱酸の希薄溶液による処理によって簡単なやり方で遊離又は溶離され得る。塩基性又はアルカリ性組成物中への酸の導入はそれによって回避することができる。これは、リグニンを含む組成物の水性アルカリ性組成物の酸化において生ずる水性組成物の場合、まず第一に、バニリンの過酸化の危険性が減少され、第二に、バニリンが除去され、リグニンを含む水性組成物が直接酸化反応に戻され得るよう、酸化反応中の酸化において形成されるバニリンの放出を可能にする。このようにして、リグニンの変換を最大化し、芳香族化合物の全収率を増大させることができる。これにより、再生可能な原材料リグニンの実質的に完全な利用が可能になる。吸着剤から遊離されたバニリンは、さらに高度に予備精製されており、従来技術の方法よりはるかに少ない量のリグニンを含む。加えて、全体の塩基性反応混合物を中和する必要はなく、吸着剤に結合したバニレートだけを中和すればよいので、塩の含量を著しく減少させることができる。
【0018】
この方法は、主として、少なくとも10のpH、特に少なくともpH12でも、又は13より高いpHであっても、多量の不純物をまだ含んでいる可能性のあるバニリンの塩基性又はアルカリ性溶液を用いて直接実施することができるという利点を有する。バニリン酸アニオンの比較的低い電荷密度及びこれらのpHにおける比較的高いOH
-イオンの濃度のため、OH
-イオンはバニリン酸アニオンと置換し、塩基性吸着剤へのバニレートの大きな吸着は起こらないと予想されるため、これらのpHにおいてさえバニリンが塩基性溶液から塩基性吸着剤によって吸着されることは驚くべきことである。
【0019】
本発明による方法は、このように、アルカリ性媒体中でのリグニンの反復又は連続酸化を可能にし、同時、反復、又は連続するバニリンの製造を可能にする。固体塩基性吸着剤は容易に再生することができ、バニリンを製造するために繰り返し使用することができるので、この塩基性吸着剤を用いるバニリンの製造は特に経済的である。
【0020】
本明細書においてはこれ以降、語句の「塩基性バニリン溶液」、「アルカリ性バニリン溶液」、「塩基性組成物」、「アルカリ性組成物」、「水性塩基性バニリン含有組成物」、「水性アルカリ性バニリン含有組成物」、「塩基性バニリン溶液」、「アルカリ性バニリン溶液」及び「アルカリ性組成物」は、同義語として使用される。これらは、場合によって不純物に加えてバニリンを溶解された形で含み、一般的に9より高い、多くの場合少なくとも10のpH、とりわけ少なくとも12のpH、特に13より高いpHの塩基性又はアルカリ性のpHを有する水性組成物を意味するものと解釈される。
【0021】
塩基性又はアルカリ性組成物を塩基性吸着剤、特にアニオン交換樹脂で処理するためには、例えば吸着剤を、バニリンを含む水性アルカリ性組成物に加えることができる。一定の滞留時間の後、塩基性吸着剤を、バニリンを含む水性アルカリ性組成物から分離し、その後バニリンを吸着剤から溶離剤による処理によって遊離させる。分離は、固液分離の通常の方法によって、例えば濾過、沈降分離又は遠心分離によって進めることができる。
【0022】
好ましくは、まず組成物を塩基性吸着剤の床又は固定床、例えば吸着剤を充填したカラムに通過させ、その後、塩基性吸着剤を溶離剤で溶離させる。
【0023】
適切な吸着剤は、基本的に塩基性の基を含むか又は水酸化物イオンによって処理された全ての物質である。これらには、アルカリ化活性炭、塩基性酸化アルミニウム、粘土、塩基性吸着樹脂、特にアニオン交換体又はアニオン交換樹脂が含まれる。アニオン交換体又はアニオン交換樹脂は、一般的に、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基及び第四級ホスホニウム基から選択される官能基を含む。
【0024】
使用されるアニオン交換体は好ましくは、カチオン基、例えば第四級アンモニウム基、第四級ホスホニウム基、イミダゾリウム基又はグアニジニウム基、特に第四級アンモニウム基又はイミダゾリウム基を含む架橋有機ポリマー樹脂である。
【0025】
好ましい実施形態において、使用される塩基性吸着剤は、架橋ポリスチレン樹脂群(以後、群iのイオン交換体と称する)から選択されるアニオン交換樹脂であって、架橋ポリスチレンのフェニル環の一部が第四級アンモニウム基、特に式I:
【0026】
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、互いに独立して、C
1-C
8アルキルであり、基R
1、R
2又はR
3の1つはC
1-C
8ヒドロキシアルキルでもあってもよく、Aは、C
1-C
4アルカンジイルであり、#は、ポリスチレン樹脂のフェニル基への結合部位を示す)
の第四級アンモニウム基を有するものである。
【0027】
本明細書においてはこれ以降、C
1-C
8アルキルは、1〜8個の炭素原子、特に1〜4個の炭素原子を有する(C
1-C
4アルキル)直鎖又は分枝脂肪族炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、2-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル又はn-オクチルなどを意味する。
【0028】
本明細書においてはこれ以降、C
1-C
8ヒドロキシアルキルは、1〜8個の炭素原子、特に2〜4個の炭素原子を有する(C
2-C
4ヒドロキシアルキル)OH基を有する直鎖又は分枝脂肪族炭化水素基である。そのような基の例は、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル及び6-ヒドロキシヘキシルを意味する。
【0029】
本明細書においてはこれ以降、C
1-C
4アルカンジイルは、1〜4個の炭素原子を有する二価の脂肪族炭化水素基、例えばメチレン(CH
2)、エタン-1,1-ジイル、エタン-1,2-ジイル、プロパン-2,2-ジイル、プロパン-1,2-ジイル、プロパン-1,3-ジイル、ブタン-1,1-ジイル、ブタン-2,2-ジイル、ブタン-1,2-ジイル、ブタン-1,3-ジイル、ブタン-2,3-ジイル又はブタン-1,4-ジイルなどを意味する。
【0030】
群i)の吸着剤の中では、主として、A、R
1、R
2及びR
3が、互いに独立して、及び特に好ましくは一緒に、以下の意味:
R
1、R
2及びR
3は、互いに独立して、メチル又はエチル、特にメチルであり、
Aは、メチレンである、
を有するものが好ましい。
【0031】
群i)の吸着剤は、既知であり、市販されており、例えばAmberlite(登録商標)タイプIRA400、IRA401、IRA402、IRA410、IRA458、IRA478、IRA900、IRA904、IRA910、FPA40、FPA 90、FPA 91 (Dow)、Amberlyst(登録商標) A26 (Dow)、Amberjet(登録商標)タイプ4200、4400及び4600 (Dow)、Ambersep(登録商標)タイプ900及び920U (Dow)、Dowex(登録商標)タイプDowex Monosphere 550A OH、Dowex 1X100、1X850及び1X850 (Dow)並びにApplexion(登録商標)タイプXA4001、XA 4013、XA4023、XA4041、XA4042及びXA4043である。
【0032】
さらなる好ましい実施形態において、使用される塩基性吸着剤は、架橋ポリビニルピリジンの群(以後、群iiのイオン交換体と称する)から選択されるアニオン交換樹脂であって、ピリジン基の一部が、四級化された形、例えば式IIa又はIIb、とりわけIIa:
【0033】
【化2】
(式中、R
4は、C
1-C
8アルキル、とりわけC
1-C
4アルキル、特にメチルであり、#は、ポリビニルピリジン樹脂のポリマー骨格の炭素原子への結合部位を示す)
の基として存在するものである。
【0034】
群ii)の吸着剤は、既知であり、市販されており、例えば、Reillex (登録商標)HPQなどの四級化されたReillex(登録商標)HPタイプである。
【0035】
さらなる好ましい実施形態において、使用される塩基性吸着剤は、架橋アクリル樹脂の群(以後、群iiiのイオン交換体と称する)から選択されるアニオン交換樹脂であって、共重合モノマーの一部が、例えば式III:
【0036】
【化3】
(式中、R
5、R
6及びR
7は、互いに独立して、C
1-C
8アルキルであり、A'は、C
2-C
4アルカンジイルであり、#は、アクリル樹脂のポリマー骨格に結合しているカルボキシル基又はカルボキサミド基の酸素原子又は窒素原子への結合部位を示す)
の基のような四級アンモニウム基を含むものである。
【0037】
群iii)の吸着剤は、既知であり、市販されており、例えば、Applexion(登録商標)タイプXA 4122及びXA 4141(Novasep)である。
【0038】
適切な吸着剤は、又、N-C
1-C
8アルキルイミダゾリウム基を含むポリマー(以後、群ivのイオン交換体と称する)である。これらのポリマーにおいて、N-C
1-C
8アルキルイミダゾリウム基は、ポリマー骨格に直接又はスペーサーを介して結合している。そのようなポリマーは、N-C
1-C
8アルキルイミダゾール化合物とのポリマー類似反応によって、例えばハロアルキル基、とりわけクロロベンジル基を含むポリマー、例えば、スチレンとクロロメチルスチレンのコポリマーを、N-C
1-C
8アルキルイミダゾールと反応させることによって得ることができる。そのようなポリマーを、例えばフリーラジカル重合によって、又はRAFT若しくはATRPのような制御ラジカル重合によって、イミダゾリウム基を含むモノマー、例えば、(N-C
1-C
8アルキルイミダゾリウム)メチルスチレン、N-ビニル-N-C
1-C
8アルキルイミダゾリウム、ω-(N-C
1-C
8-アルキルイミダゾリウム)-C
2-C
8-アルキルアクリレート又はω-(N-C
1-C
8-アルキルイミダゾリウム)-C
2-C
8-アルキルメタクリレートの単独重合、又は場合によってコモノマー、例えばC
1-C
8-アルキルアクリレート、C
1-C
8-アルキルメタクリレート、C
2-C
8-ヒドロキシアルキルアクリレート、C
2-C
8-ヒドロキシアルキルメタクリレート又はスチレンなどとの共重合によって製造することが同様に可能である。そのようなポリマーは既知であり、例えば、J. Yuan、M. Antonietti、Polymer、2011、52、1469〜1482頁、J. Huang、C.Tao、Q. An、W. Zhang、Y. Wu、X. Li、D. Shen、G. Li、Chemical Communications、2010、46、967、R. Marcilla、J. Alberto Blazquez、J. Rodriguez、J. A. Pomposo、D.Mecerreyes、Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry、2004、42、208〜212、J. Tang、H. Tang、W. Sun、M. Radosz、Y. Shen、Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry、2005、43、5477〜5489、J. Tang、Y. Shen、M. Radosz、W. Sun、Industrial & Engineering Chemistry Research、2009、48、9113〜9118、に記載されている。
【0039】
群i)、ii)、iii)及びiv)のアニオン交換樹脂は、マクロ多孔性又はゲルタイプであってもよく、ゲルタイプのアニオン交換樹脂、とりわけ群i)のゲルタイプのアニオン交換樹脂が好適である。
【0040】
典型的に、電荷密度、即ち、本発明に従って適切なアニオン交換樹脂中のイオン基の数は、イオン交換樹脂(乾燥)の1g当たり、0.5〜5mmolの範囲、とりわけ1〜4.5mmolの範囲である。典型的に、吸着剤又はアニオン交換樹脂は、0.1〜3当量/l(リットル当たりのモル当量、湿潤)の範囲、特に0.3〜2.5当量/l(湿潤)の範囲、とりわけ0.5〜2当量/lの範囲で水酸化物(OH
-)イオンに対する交換容量を有する。
【0041】
塩基性吸着剤は、微粒子状である。微粒子状の吸着剤の平均粒径(例えば篩線(sieve lines)によって測定された重量平均粒子径)は、典型的には10μm〜2500μmの範囲、特に100μm〜1000μmの範囲、とりわけ400〜1000μmの範囲である。この吸着剤は、一般的には10〜650メッシュ、特に15〜350メッシュの範囲、とりわけ15〜60メッシュの範囲の粒径を有する。
【0042】
本発明による好ましいポリマー樹脂(アニオン交換体又はアニオン交換樹脂)は、ゲルタイプのもの又はマクロ多孔性のものであってもよい。微粒子状樹脂は、典型的には肉眼で見えるポリマー粒子の形態をしており、例えば粉末又は微粉化した顆粒の形態をしている。アニオン交換体の平均粒径は、典型的には10μm〜2000μmの範囲、特に100μm〜1000μmの範囲、とりわけ400〜1000μmの範囲(ふるい分けにより測定された重量平均)である。それらは典型的には、10〜650メッシュの範囲、特に15〜350メッシュの範囲、とりわけ15〜60メッシュの範囲の粒径を有する。
【0043】
本発明による方法において、吸着剤、とりわけアニオン交換樹脂は、OH形態で使用することができ、即ち、吸着剤中、とりわけアニオン交換樹脂中に電荷中和のために存在する基は、OH
-イオンである。吸着剤、とりわけアニオン交換樹脂は、塩形態で使用することもでき、即ち、電荷中和のためにアニオン交換樹脂中に存在するカチオン基は塩化物又は硫酸塩のような非塩基性の対イオンである。さらにOH形態は、塩基性の水性バニリン組成物によっても発生し、実際の吸着剤の役割を果たす。
【0044】
水性塩基性バニリン含有組成物の処理の間に吸着剤によって吸着されたバニリンは、吸着剤の少なくとも1種の溶離液による処理によって吸着剤から脱着され、このようにして溶離液から精製された形で製造することができる。適切な溶離液は、特に有機溶媒中の酸、とりわけ鉱酸の溶液であり、それに加えて有機溶媒と水性溶媒との混合物中の酸、とりわけ鉱酸の溶液である。吸着剤の溶離液による処理を通して、吸着剤によって吸着されたバニリネート(vanillinate)イオンは、中和されてバニリンを生じ、その後吸着剤から脱着される。
【0045】
適切な有機溶媒は、特に、22℃で水と無制限に混和性であるか、又は22℃で水に少なくとも200g/lの量で少なくとも溶解するものである。これらとしては、特に、ジメチルスルホキシド、アセトン、C
1-C
4アルカノール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール及びtert-ブタノール、アルカンジオール類、例えば、グリコール、1,4-ブタンジオール、及び、環状エーテル類、例えば、ジオキサン、メチルテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフラン、窒素複素環類、例えば、ピリジン又はN-メチルピロリドン並びに混合物が挙げられる。優先されるのはC
1-C
4アルカノール類、特にメタノールである。これらの有機溶媒は、水との混合物として使用することもできる。水の割合は好ましくは、有機溶媒と水の全容積に基づいて、70容積%、特に50容積%、とりわけ30容積%を超えない。溶離液として、有機溶媒と水性溶媒との混合物中の酸、とりわけ鉱酸の溶液が使用される場合、鉱酸、例えば、塩酸、リン酸、とりわけ硫酸などの溶液が特に適切である。有機カルボン酸及びスルホン酸、とりわけ1〜3個の炭素原子を有するもの、例えば、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸などの溶液も特に適している。好ましくは、その酸の溶液は、0.01〜10モル/kg
-1、とりわけ0.1〜5モル/kg
-1の範囲の酸の濃度を有する。
【0046】
水性塩基性バニリン含有組成物は、吸着剤、とりわけアニオン交換樹脂により、一般的に150℃より低い温度で、しばしば100℃より低い温度で、好ましくは10〜150℃、特に10〜100℃、とりわけ10〜70℃又は15〜50℃の範囲の温度で処理される。
【0047】
水性塩基性バニリン含有組成物を吸着剤で処理するためには、即ち、吸着剤、とりわけアニオン交換樹脂にバニリンを装填するためには、好ましくは、バニリンを含む塩基性組成物を、吸着剤の配列の中を、即ち、1つ以上の吸着剤の固定床、例えば吸着剤(例えばアニオン交換体)を充填した1つ以上のカラム中を通常のやり方で通過させる。その通過は、上から下の方向に進行させてもよいし、又は下から上の方向に進行させてもよい。その通過は、0.2〜35吸着床体積/時間、とりわけ0.5〜10吸着床体積/時間、とりわけ1〜10吸着床体積/時間の範囲の特定の流速(特定負荷)又は0.1〜50m/時間の範囲の体積流量で好ましくは進行する。
【0048】
水性アルカリ性組成物と吸着剤の相対量は通常、水性アルカリ性組成物中に存在するバニリンの少なくとも35%、とりわけ少なくとも50%が吸着剤によって吸着されるように選択される。水性アルカリ性組成物の量は、一般的に吸着床体積の量の1〜1500倍、とりわけ2〜1000倍である。吸着の度合いによって、吸着剤配列、例えば、吸着剤を充填したカラムの出口で生ずる流出物がそれでもなおバニリンを含む可能性があるため、場合によって流出物をさらなる吸着剤の配列、例えば吸着剤を充填したカラムに通してもよい。
【0049】
装填プロセスに続いて、洗浄段階を行うことができる。このために水がその吸着剤配列の中を通される。洗浄水の量は、この段階では吸着床体積の通常0.1〜10倍、とりわけ0.5〜5倍である。洗浄水は、一般的に0.2〜35吸着床体積/時間、とりわけ0.5〜10吸着床体積/時間、とりわけ1〜10吸着床体積/時間の範囲の特定の流速(特定負荷)又は0.1〜50m/時間の範囲の体積流量で通される。得られたその洗浄水は、少量のバニリンを含む可能性があり、装填の間に生じる流出物と組み合わせてもよい。従来技術の方法とは対照的に、そのような洗浄段階は、必須ではなく、そこで本発明による方法の好ましい実施形態は、洗浄段階は含まずに、溶離が装填の直後に進行する。
【0050】
装填段階又は場合によって行われる洗浄段階の後に、バニリンの溶離が続く。このために、溶離剤が吸着剤の配列を通される。バニリンはこれによって脱着されて溶離され、吸着剤、例えばアニオン交換樹脂は、再生される。溶離剤の量は、吸着床体積の量の一般的に0.1〜20倍、とりわけ0.5〜10倍、例えば1〜8倍である。溶離剤は一般的に、0.5〜20吸着床体積/時間、とりわけ1〜10吸着床体積/時間、とりわけ2〜8吸着床体積/時間の範囲の特定の流速(特定負荷)で通される。溶離後、吸着剤中のカチオン基はどれも塩形態で存在する。場合によっては、それ故、次の装填の前に、OH形の再生を、例えば、アルカリ金属水酸化物の水溶液により、例えばNaOH水溶液により処理することによって行うことができる。
【0051】
温度及び流速に関しては、装填について述べたことが当てはまる。溶離は、下から上の方向で行ってもよいし、又は上から下の方向に行ってもよい。溶離は、装填と同じ方向又はそれとは逆の方向で行うことができる。
【0052】
溶離の後には、場合によっては存在する不純物を除去するためにさらなる洗浄段階を続けることができる。このために、水がアニオン交換体の配列の中を通される。洗浄水の量は、通常は吸着床体積の0.1〜10倍、とりわけ0.5〜5倍、例えば2〜4倍である。洗浄水は、一般的に0.5〜20吸着床体積/時間、とりわけ1〜10吸着床体積/時間、とりわけ2〜8吸着床体積/時間の範囲の特定の流速(特定負荷)で通される。洗浄段階の間に生ずる流出物は、一般的に、廃水として通常の廃水処理又はその他の後処理に送られる。
【0053】
吸着剤の配列は、バッチ式で運転することができ、その場合、1つ以上、例えば2、3又は4つが直列接続された吸着剤を充填した、静止した固定床を含む。それは連続運転することもでき、その場合、一般的に、例えば「真の移動床(True Moving Bed)」の配列(K. Tekeuchi、J. Chem. Eng. Jpn.、1978、11、216〜220頁を参照)、「連続循環環状(Continuous Circulating Annular)」の配列(J. P. Martin、Discuss. Farraday Soc.、1949、7頁を参照)又は例えば米国特許第2,985,589号及び国際公開第01/72689号及びG.J.RossiterらによるProceedings of AIChE Conference、カリフォルニア州ロサンジェルス、1991年11月、又はH. J. Van Walsemら、J. Biochtechnol.、1997、59、127頁、に記載されているような「疑似移動床(Simulated Moving Bed)」の配列の構成材であってもよい5〜50個、とりわけ15〜40個の吸着剤床を含む。
【0054】
溶離の間に生ずる溶離液は、バニリンを製造するために通常のやり方で処理される。一般的に、最初に酸が、例えば水性抽出後処理によるか、又は塩基の添加によって中和され、形成された塩が分離されることによって除去される。場合によって、その溶離液は、例えば通常の蒸発器配列における溶媒除去によって予め凝縮することができる。得られた凝縮液は、例えばその後の溶離において再使用され得る。
【0055】
このようにして、バニリンを含む粗生成物は得られ、それは場合によって他の低分子量成分、例えば、アセトバニロン又はバニリン酸など、及び場合によって使用された水性組成物のその他の成分、例えばリグニンを含む。
【0056】
原則として、本発明による方法においては、一般的にpHが9より上で、しばしば少なくとも10、特に少なくとも12、とりわけ少なくとも13又は13より高い塩基性のpHを有する、バニリンを含む任意の水性組成物が使用され得る。
【0057】
バニリンを含む水性組成物中のバニリンの濃度は、典型的に1〜5000mg/kg、とりわけ5〜2000mg/kgの範囲である。特別な実施形態において、バニリン濃度は、5〜500mg/kgの範囲、特に10〜250mg/kgの範囲である。別の実施形態において、バニリン濃度は、10〜5000mg/kgの範囲、とりわけ20〜2000mg/kgの範囲である。
【0058】
バニリンを含む水性組成物は、典型的には、組成物の全重量に基づいて一般的に少なくとも30重量%、しばしば少なくとも50重量%、とりわけ少なくとも60重量%の水分含量を有している液体である。バニリンを含む水性組成物が固体を含む場合、吸着剤による処理の前に濾過を実施することができるが、これは絶対に必要というわけではない。
【0059】
本発明による方法は、とりわけ、水性塩基性バニリン含有組成物が、バニリンに加えて、リグニン又はリグニン成分としてリグニン誘導体、例えば、硫酸リグニン、スルホン酸リグニン、クラフトリグニン、アルカリリグニン、ソーダリグニン、又はオルガノソルブリグニン或はそれらの混合物を含み、アルカリ性のpH、一般的に、少なくとも9、しばしば少なくとも10、とりわけ少なくとも12、特に少なくとも13又は13より高いpHを有する、リグニンを含む水性アルカリ性組成物であるときに特に利点を有する。リグニンを含む水性アルカリ性組成物は、一般的に、リグニンを含む水性組成物の全重量に基づいて、0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%、とりわけ1〜10重量%のリグニンを含む。
【0060】
本発明による方法は、とりわけ、リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の部分酸化、特に電気分解によって得られた水性塩基性バニリン含有組成物からバニリンを製造するのに適している。
【0061】
部分酸化のために使用されるリグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液は典型的に、少なくとも10、とりわけ少なくとも12、特に少なくとも13又は13より高いpHを一般的に有する。酸化のために使用されるリグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液は一般的に、リグニンを含む水性組成物の全重量に基づいて、0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%、とりわけ1〜10重量%のリグニンを含む。
【0062】
部分酸化のために使用されるアルカリ性水性溶液又は懸濁液は、産業プロセス、例えば、用紙、パルプ又はセルロースの製造などにおける副産物として生じる水性溶液又は懸濁液、例えば、黒液など、及び亜硫酸法、硫酸塩法、オルガノセル又はオルガノソルブ法、ASAM法、クラフト法又は天然パルプのパルプ化法からのリグニンを含む廃水流であってもよい。酸化のために使用されるアルカリ性水性溶液又は懸濁液は、アルカリ水溶液中のリグニン又はリグニン誘導体、例えば硫酸リグニン、スルホン酸リグニン、クラフトリグニン、アルカリリグニン、ソーダリグニン又はオルガノソルブリグニン、或は、用紙、パルプ又はセルロースの製造などの産業プロセスで生ずるリグニン、例えば黒液、亜硫酸法、硫酸塩法、オルガノセル又はオルガノソルブ法、ASAM法、クラフト法又は天然パルプのパルプ化法からのリグニンを溶解することによって調製される水性溶液又は懸濁液であってもよい。
【0063】
リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液のpHを調整するための塩基としては、特に無機塩基、例えば、NaOH又はKOH等のアルカリ金属水酸化物、水酸化アンモニウム等のアンモニウム塩及び例えばソーダの形態の炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩が使用され得る。優先されるのは、アルカリ金属水酸化物、とりわけNaOH及びKOHである。リグニンを含む水性の懸濁液又は溶液中の無機塩基の濃度は、5モル/l、とりわけ4モル/lを超えるべきではなく、典型的には0.01〜5モル/lの範囲、とりわけ0.1〜4モル/lの範囲である。
【0064】
リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の部分酸化は、それ自体既知のやり方で、例えば最初に引用した従来技術に記載されている方法に従って、特に、大気中の酸素による適切な遷移金属触媒、例えば銅又はコバルト触媒の存在下での高温での制御酸化(H. R. Bjorsvik、Org. Proc. Res. Dev.、1999、3、330〜340を参照)により、或は特に、例えば、国際公開第87/03014号、国際公開第2009/138368号又はC. Z. Smithら、J. Appl. Electrochem.、2011、DOI10.1007/s10800-010-0245-0又は本明細書の以降に記載されているリグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の電気分解によって実施することができる。
【0065】
バニリンを含むアルカリ性水性組成物の調製において、リグニン又はリグニンを含む物質を含み、水性懸濁液又は溶液の形態で存在する水性電解液をアルカリ性条件下で電気分解にかける。この場合、存在するリグニン又はリグニン誘導体の酸化はアノードにおいて起こる。カソードにおいては、典型的に、例えば水素の形成を伴って、水性電解液の還元が進行する。
【0066】
電気分解のために使用される電極物質は、これらの目的のために知られている電極物質、例えば、ニッケル、銀、RuO
xTiO
x混合酸化物、白金メッキした金属、例えば白金メッキしたチタン又は白金メッキしたニオブ、白金、グラファイト又は炭素の中で、或はベース合金と称されるもの、例えばNiベース合金、Coベース合金、Feベース合金、Cuベース合金又はAgベース合金などの中で選択され得る。ベース合金の使用は、従来技術においてはこの目的のためには今日まで記載されておらず、平行して行っている特許出願の主題である。電気分解において使用される電極、少なくともアノードが、Coベース合金、Feベース合金、Cuベース合金、Agベース合金及びNiベース合金から、特にCo及びNiベース合金から選択される電極物質を含む場合、有利であることが証明されている。
【0067】
ベース合金は、少なくとも50重量%、特に少なくとも55重量%、とりわけ少なくとも58重量%、例えば、50〜99重量%、好ましくは50〜95重量%、とりわけ55〜95重量%、とりわけ好ましくは55〜90重量%、特に58〜90重量%のそれぞれのベース金属(Coベース合金の場合はCo、Cuベース合金の場合はCu、Niベース合金の場合はNi、Agベース合金の場合はAg、及びFeベース合金の場合はFe)と、少なくとも1種のさらなる合金成分を含み、ベース金属とは異なる全てのさらなる合金成分の合計量が典型的には少なくとも1重量%、とりわけ少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%であり、例えば、1〜50重量%の範囲、好ましくは5〜50重量%の範囲、とりわけ5〜45重量%の範囲、特に好ましくは10〜45重量%の範囲、とりわけ10〜42重量%の範囲である(但し、重量%での全ての数字は、それぞれの場合において、合金の全重量に対するものである)合金を意味するものと解釈される。典型的なさらなる合金成分は、特に、Cu、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Mo、V、Nb、Ti、Ag、Pb及びZnであるが、又Si、C、P及びSでもある。それ故、少なくとも1種のベース金属とは異なるさらなる上記の合金成分を含むベース合金が優先される。特に同時に良好な選択性を有するそれらの安定性に関しては、Niベース合金、Feベース合金及びCoベース合金、とりわけNiベース合金及びCoベース合金が優先される。特に同時に満足のいく安定性を有するそれらの選択性に関しては、Cuベース合金及びAgベース合金が優先される。
【0068】
典型的なニッケルベース合金は、実質的に、即ち、少なくとも95重量%、特に少なくとも98重量%、とりわけ少なくとも99重量%の
a1) 50〜95重量%、特に55〜95重量%、特に好ましくは55〜90重量%、とりわけ58〜90重量%のNi並びに
b1) 5〜50重量%、特に5〜45重量%、特に好ましくは10〜45重量%、とりわけ10〜42重量%の、Cu、Fe、Co、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、Si、Al、C及びSから選択される少なくとも1種のさらなる合金成分
を含む。
【0069】
Niベース合金の中ではさらなる合金成分として5〜35重量%、とりわけ10〜30重量%のCuを含むものがとりわけ優先される。これらの合金は、以降では群1.1と示される。ベース合金の群1.1は、Cuに加えて1種以上の次の合金成分: Fe、Co、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、Si、Al、C及びSを最高45重量%、とりわけ最高40重量%の量で含むことができる。群1.1のNiベース合金の例は、EN略称NiCu30F(Monel 400)及びNiCu30Alの合金、並びに以下の組成: 63重量%のNi、30重量%のCu、2重量%のFe、1.5重量%のMn、0.5重量%のTi、のNi-Cu合金(Monel 500K)である。
【0070】
Niベース合金の中では、さらなる合金成分として、5〜40重量%、とりわけ15〜30重量%のCrを含むものがとりわけ優先される。これらの合金は、以降では群1.2と示される。群1.2のベース合金は、Crに加えて最高で40重量%まで、とりわけ最高で35重量%までの量の次の合金成分、Fe、Co、Mn、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、Si、Al、C及びSの1種以上を含むことができる。群1.2のNiベース合金の中では、さらなる合金成分として、とりわけ合計1〜30重量%の量のMo、Nb及び/又はFeを含むものがとりわけ優先される。群1.2のNiベース合金の例は、EN略称NiCr19NbMo(Inconel(登録商標)合金718)及びNiCr15Fe(Inconel(登録商標)合金600)、NiCr22Mo19Fe5(Inconel(登録商標)625)、NiMo17Cr16FeWMn(Hastelloy(登録商標) C276)、72〜76重量%のニッケル含量、18〜21重量%のCr含量、0.08〜0.13重量%のC含量及び5重量%のFe含量を有するNi-Cr-Fe合金、並びに48〜60重量%のニッケル含量、19重量%のCr含量、13.5重量%のCo含量及び4.3重量%のMo含量を有するNi-Cr-Co-Mo合金(Waspaloy(登録商標))の合金である。Niベース合金の中では、さらなる合金成分として、5〜35重量%、とりわけ10〜30重量%のMoを含むものが同様にとりわけ優先される。これらの合金は、以降では群1.3と示される。群1.3のベース合金は、Moに加えて最高で40重量%まで、とりわけ最高で35重量%までの量の次の合金成分、Fe、Co、Mn、Cu、Cr、W、V、Nb、Ti、Si、Al、C及びSの1種以上を含むことができる。群1.3のNiベース合金の中では、さらなる合金成分として、とりわけ合計1〜30重量%の量のCr、Nb及び/又はFeを含むものがとりわけ優先される。群1.3のNiベース合金の例は、EN略称NiMo28(Hastelloy(登録商標)B及びNiMo29Cr(Hastelloy(登録商標)B-3)である。
【0071】
典型的なコバルトベース合金は、実質的に、即ち、少なくとも95重量%、特に少なくとも98重量%、とりわけ少なくとも99重量%の
a1) 50〜95重量%、特に55〜95重量%、特に好ましくは55〜90重量%、とりわけ58〜90重量%のCo及び
b1) 5〜50重量%、特に5〜45重量%、特に好ましくは10〜45重量%、とりわけ10〜42重量%の、Cu、Fe、Ni、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、Si、P及びCから選択される少なくとも1種のさらなる合金成分、
を含む。
【0072】
Coベース合金の中ではさらなる合金成分として5〜40重量%、とりわけ7〜30重量%のCrを含むものがとりわけ優先される。これらの合金は、以降では群2.1と示される。ベース合金の群2.1は、Crに加えて1種以上の次の合金成分: Fe、Ni、Mn、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、Si、C及びPを最高40重量%、とりわけ最高35重量%の量で含むことができる。群2.1のCoベース合金の中では、さらなる合金成分として、とりわけ合計1〜30重量%の量のMo、W及び/又はFeを含むものがとりわけ優先される。群2.1のCoベース合金の例は、以下の組成の合金:
i. 53重量%のCo、31重量%のCr、14重量%のFe、1.2重量%のC(Stellite(登録商標)4)、
ii. 65重量%のCo、28重量%のCr、4.5重量%のW、1.2重量%のC、1.1重量%のSi(Stellite(登録商標)6)、
iii. 66.5重量%のCo、28重量%のCr、5重量%のMo、0.5重量%のC(Stellite(登録商標)21)、
iv. 58〜62重量%のCo、25〜30重量%のCr、5〜10重量%のMo(ビタリウム(Vitallium)タイプ、例えばヘインズ合金21)、
v. 59重量%のCo、8.5重量%のCr、29.5重量%のMo、2.1重量%のSi(T 400)、
である。
【0073】
典型的な鉄ベース合金は、高合金ステンレス鋼である。それらは、実質的に、即ち、少なくとも95重量%、特に少なくとも98重量%、とりわけ少なくとも99重量%の
a1) 50〜95重量%、特に55〜95重量%、特に好ましくは55〜90重量%、とりわけ58〜90重量%のFe、及び
b1) 5〜50重量%、特に5〜45重量%、特に好ましくは10〜45重量%、とりわけ10〜42重量%の、Cu、Co、Ni、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、Si、P、S及びCから選択される少なくとも1種のさらなる合金成分、
を一般的に含む。
【0074】
Feベース合金の中では、ベース金属に加えて、合金成分としてのCrを含み、クロム含量が、一般的に5〜30重量%、とりわけ10〜25重量%の範囲であるクロムを含むステンレス鋼がとりわけ優先される。これらの合金は、以降では群3.1と示される。群3.1のベース合金は、Crに加えて最高で40重量%まで、とりわけ最高で35重量%までの量の次の合金成分、Co、Ni、Mn、Cu、Mo、V、Nb、Ti、Si、C、S及びPの1種以上を含むことができる。群3.1のFeベース合金の中では、さらなる合金成分として、とりわけ合計1〜30重量%の量のNi、Mo、V、Ti、Si及び/又はNbを含むものがとりわけ優先される。群3.1のFeベース合金の例は、クロム鋼、例えば、X12Cr13、X6Cr17及びX20Cr13、クロム-ニッケル鋼、例えば、X2CrNi12、X5CrNi18-10、X8CrNiS18-9、X2CrNi19-11、X2CrNi18-9、X10CrNi18-8、X1CrNi19-9、X2CrNiMo17-12-2、X2CrNiMo19-12、X2CrNiMo18-14-3、X2CrNiMoN18-14-3、X13CrNiMoN22-5-3、X6CrNiTi18-10、X6CrNiMoTi17-12-2、GX5CrNiMoNb19-11-2及びX15CrNiSi25-21、クロム-モリブデン鋼、例えば、X12CrMoS17及び25CrMo4、及びクロム-バナジウム鋼である。
【0075】
典型的な銅ベース合金は、実質的に、即ち、少なくとも95重量%、特に少なくとも98重量%、とりわけ少なくとも99重量%の
a1) 50〜95重量%、特に55〜95重量%、特に好ましくは55〜90重量%、とりわけ58〜90重量%のCu及び
b1) 5〜50重量%、特に5〜45重量%、特に好ましくは10〜45重量%、とりわけ10〜42重量%の、Ag、Pb、Ni及びZnから選択される少なくとも1種のさらなる合金成分、
を一般的に含む。
【0076】
群3.1のCuベース合金の例は、洋銀(62重量%のCu、18重量%のNi及び20重量%のZnの合金)及び白銅(75重量%のCu及び25重量%のNiの合金)である。
【0077】
原則として、アノードとしては当業者には公知の任意の電極タイプが使用され得る。これは、全面的にそれぞれの電極材料を含むか又は電極材料により被覆されている導電性支持体を有する支持電極であってもよい。アノードとして使用される電極は、例えば、エキスパンドメタル、グリッド又は金属板の形の電極であってもよい。
【0078】
カソードとしては、原則として、当業者には公知の、水溶液系の電気分解に適する任意の電極が使用され得る。還元過程は、カソードで起こり、リグニンはアノードで酸化されるために、例えば、ニッケルのカソード等の重金属の電極が使用されるとき、この重金属と一緒のバニリンの負荷はとても低いので、得られたバニリンは食品産業において問題なく使用することができる。好ましくは、電極材料は、低い水素過電圧を示す。ここでは、ニッケル、Niベース合金、Coベース合金、Feベース合金、Cuベース合金、銀、Agベース合金、即ち少なくとも50重量%の銀含量を有する銀が豊富な合金、RuO
xTiO
x混合酸化物、白金メッキチタン、白金、グラファイト又は炭素の中で選択された電極材料を有する電極が優先される。とりわけ、カソードの電極材料は、Niベース合金、Coベース合金、Feベース合金、Cuベース合金の中で、とりわけ好ましくは、Niベース合金、Coベース合金及びFeベース合金の中で、特に群1.1、1.2、1.3、2.1及び3.1の中で選択される。
【0079】
原則として、カソードとしては当業者には公知の任意の電極タイプが使用され得る。これらは、全面的にそれぞれの電極材料を含むか又は電極材料により被覆されている支持体を有する支持電極であってもよい。それぞれの電極材料、とりわけ上記のベース合金の1つ、特に群1.1、1.2、1.3、2.1及び3.1のベース合金の1つを含む電極が優先される。カソードとして使用されるこの電極は、例えば、エキスパンドメタル、グリッド又は金属板の形の電極であってもよい。
【0080】
アノード及びカソードの配列は、制限されず、例えば、極性が交互に並んでいる複数のシリンダーの形でも配置され得るシリンダー状の形をしたグリッド、格子又はチューブの交互に並んでいる極性及びシリンダー状の配置の複数の積み重ねの形でも配置され得る平面格子及び/又は板の配置を含む。
【0081】
最適な時空収率を達成するために、さまざまな電極形状が当業者には知られている。有利な電極形状は、複数個の電極の二極配置の、ロッド型のアノードがシリンダー状のカソードによって取り囲まれている配置、又はアノードとカソードの両方がワイヤグリッドを含み、これらのワイヤグリッドが、1つが他の上に置かれ、シリンダー状に巻き上げられる配置である。
【0082】
このアノードとカソードは、隔離板によって互いから隔離することができる。原則として、隔離板としては、電解セルにおいて通常使用される全ての隔離板が適する。隔離板は、典型的には、電極の間に配置された多孔性の平板的構造のもので、例えば、電解条件下で不活性である非導電性材料、例えば、プラスチック材料、とりわけテフロン(登録商標)材料、又はテフロン(登録商標)をコートしたプラスチック材料でできている格子、グリッド、織布又は不織布である。
【0083】
電気分解のためには、当業者には公知の任意の電解セル、例えば、分割又は非分割連続フローセル、キャピラリーギャップセル(capillary gap cell)又はプレートスタックセル(plate stack cell)などが使用され得る。とりわけ優先されるのは、非分割連続フローセル、例えば、電解液が電極を循環して通過して連続的に導電される循環を伴う連続フローセルである。この方法は、不連続式及び連続式の両方で首尾よく行うことができる。この電気分解は、工業規模で同様に行うことができる。対応する電解セルは、当業者には公知である。本発明の全ての実施形態は実験室規模だけでなく工業規模にも関する。
【0084】
好ましい実施形態において、電解セルの中身は混合される。このセルの中身の混合のために、当業者に公知の任意の機械攪拌機を使用することができる。その他の混合方法の使用、例えばウルトラタラックス(Ultraturrax)、超音波又はジェットノズルの使用なども同様に好ましい。
【0085】
アノードとカソードに電解電圧を適用することによって、電流が電解液を伝導する。副反応、例えば過酸化及び起爆ガスの形成などを避けるために、電流密度は、一般的に、1000mA/cm
2、とりわけ100mA/cm
2を超えない。この方法が行われる電流密度は、一般的に1〜1000mA/cm
2、好ましくは1〜100mA/cm
2である。とりわけ好ましくは、本発明によるこの方法は、1と50mA/cm
2の間の電流密度で行われる。
【0086】
合計電解時間は、電解セル、使用される電極及び電流密度にはっきりと依存する。最適時間は、当業者により、通例の実験によって、例えば電解中のサンプリングによって決定され得る。
【0087】
電極への堆積を避けるために、極性は短い時間間隔で変化させることができる。極性の変化は、30秒〜10分の間隔で進行することができる。30秒〜2分の間隔が優先される。このためには、アノード及びカソードは同じ材料を含むことが好都合である。
【0088】
電気分解は、一般的に0〜160℃、好ましくは50〜150℃の範囲の温度で行われ、上記のベース合金でできているアノードは、選択性の喪失が起こることなく、比較的低温で電気分解が行われることを可能にする。その場合、電気分解は、10〜100℃の範囲、特に50〜95℃の範囲、とりわけ70〜90℃の範囲の温度で好ましくは進行する。電気分解は、一般的に2000kPaより下、好ましくは1000kPaより下、とりわけ150kPaより下、例えば50〜1000kPa、とりわけ80〜150kPaの範囲の圧力で行われる。大気圧の範囲の圧力(101±20kPa)で本発明による方法を実施するのがとりわけ好ましい。
【0089】
本発明の特別な利点は、とりわけ、バニリンを含む塩基性組成物が、リグニンを含むアルカリ性水性懸濁液又は溶液の酸化、とりわけ電気分解によって調製され、バニリンを含む塩基性組成物を吸着剤で処理することによって、酸化において形成されたバニリンが、得られたバニリンを含む塩基性組成物から酸化の間に除去される又は低減されるときに有用となる。このようにして、バニリンの過酸化が減少され、使用されたリグニンに基づくバニリンの収率は著しく増加させることができる。
【0090】
酸化において生ずる水性アルカリ性反応混合物からのバニリンの除去又は減少は、間隔を置いて又は連続して進めることができる。間隔を置いてのバニリンの除去又は減少においては、リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の酸化は、中断され、得られた水性のアルカリ性反応混合物が、吸着剤、とりわけアニオン交換体により上記のやり方で処理される。連続式のバニリンの除去又は減少においては、一般的に、酸化において生ずる水性のアルカリ性反応混合物流が、酸化反応器、例えば電解セルから放出され、流れは、吸着剤、とりわけアニオン交換体により処理され、このやり方でバニリンを低減させた流れは、酸化反応器に戻される。
【0091】
酸化で生ずる水性のアルカリ性反応混合物からの間隔を置いた又は連続的なバニリンの除去又は減少のためには、好ましくは、反応混合物又は反応混合物の放出流は、上記のやり方で吸着剤の吸着床を通され、次いで吸着剤は、少なくとも1種の有機溶媒又は水-有機溶媒混合物中の鉱酸の希薄溶液により処理され、吸着剤によって吸着されたバニリンは溶離される。
【実施例】
【0092】
本明細書の以降の実施例は、本発明のより詳細な説明に役立つ。
【0093】
分析:
反応生成物は、ガスクロマトグラフィーによって分析した。この過程において、使用した固定相は、長さ30m、直径0.25mm及び層厚さ1μmのAgilent社のHP-5カラムであった。このカラムを、10℃/分の加熱速度で10分が経過する温度プログラムによって50℃〜290℃まで加熱した。この温度は15分間保持した。キャリヤーガスとしては46.5mL/分の流速を有する水素を使用した。
【0094】
使用したアニオン交換体:
Dow社のAmberlite(登録商標)IRA402(OH):50〜60%の水分含量を有するゲルタイプ粒子(20〜25メッシュ)の形態を有する、CH
2を介して結合したトリメチルアンモニウム基を有する架橋スチレン/ジビニルベンゼンコポリマーのOH形態。このアニオン交換体は、水で膨潤したアニオン交換体の吸着床に基づいて、1.2meq/ml、又は固体に基づいて4.1meq/g(塩化物の形で約1.3meq/ml)の交換容量を有する。
【0095】
Vertellius Specialities(Sigma Aldrich)社のReillex(登録商標)HPQ:塩化メチルにより四級化されており、55%の水分含量を有するゲルタイプ粒子(粒径300〜1000μm)の形態を有する架橋ポリ-4-ビニルピリジンのCl形態。このアニオン交換体は、固体に基づいて4.1meq/gの交換容量を有する。
【0096】
Dow社のDowex Monosphere 550A OH:55〜65%の水分含量を有するゲルタイプ粒子(平均粒径590μm)の形態を有する、CH
2を介して結合したトリメチルアンモニウム基を有する架橋スチレン/ジビニルベンゼンコポリマーのOH形態。このアニオン交換体は、水で膨潤したアニオン交換体の吸着床に基づいて、1.0meq/mlの交換容量を有する。
【0097】
Rohm & Haas(現在はDow)社のAmbersep900 OH:65%の水分含量を有するゲルタイプ粒子(20〜25メッシュ)の形態を有するCH
2を介して結合したトリメチルアンモニウム基を有する架橋スチレン/ジビニルベンゼンコポリマーのOH形態。このアニオン交換体は、水で膨潤したアニオン交換体の吸着床に基づいて、0.8meq/mlの交換容量を有する。
【0098】
Dow社のAmberlite(登録商標)IRA910(Cl):52%の水分含量を有するマクロ多孔性粒子(16〜50メッシュ)の形態を有するCH
2を介して結合したジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム基を有する架橋スチレン/ジビニルベンゼンコポリマーのCl形態。このアニオン交換体は、水で膨潤したアニオン交換体の吸着床に基づいて1.0meq/ml、又は固体に基づいて3.8meq/gの交換容量を有する。
【0099】
1-メチルイミダゾリウム変性樹脂I
99.7gのポリ(スチレン-co-クロロメチルスチレン)(75〜150μm、ローディング(クロロメチルスチレン):0.94mmol/g)を1000mlのトルエン中に懸濁し、46.97gの1-メチルイミダゾールと混合した。反応混合物を110℃で17.5時間撹拌した。樹脂を濾別し、300mlのトルエン、250mlの0.1MのHCl、600mlの脱塩したH
2O及び300mlのメタノールで連続して洗浄した。その後、樹脂を凍結乾燥法により乾燥した。重量: 110.30g。
元素分析: C 85.74、H 8.33、N 2.44
乾燥樹脂は、900mlのメタノール/H
2O(2:1)中で1日膨潤させ、その後濾過した。
【0100】
そのようにして製造された1-メチルイミダゾリウム樹脂の5mlを分離カラム(直径: 0.5〜1.0cm)中に充填し、最初に脱塩されたH
2Oにより、次に1MのNaOH水溶液により、次に0.1MのAgNO
3水溶液により、塩素イオンが検出されなくなるまで洗浄した。その後、カラムを脱塩H
2Oにより、洗浄水がpH=7を有するまで洗浄した。活性を酸塩基滴定によって検査した。カラムを、次に100mlの2.5重量%濃度のNaCl水溶液により洗い、次に脱塩水により洗浄った。洗浄液を250mlの容量フラスコに収集した。洗液は、50mlのアリコート中で滴定した。複数の連続活性化サイクル後の滴定分析の結果を次の表にまとめる。
【0101】
【表1】
【0102】
1-プロピルイミダゾリウム変性樹脂II(製造)
49.35gのポリ(スチレン-co-クロロメチルスチレン)(75〜150μm、ローディング(クロロメチルスチレン): 0.94mmol/g)を500mlのトルエン中に懸濁し、30.87gの1-プロピルイミダゾールと混合した。反応混合物を110℃で23時間撹拌した。樹脂を濾別し、300mlのトルエン、300mlの0.1MのHCl、600mlの脱塩したH
2O及び300mlのメタノールで連続して洗浄した。その後、樹脂を凍結乾燥法により乾燥した。重量: 57.49g。元素分析: C 84.98、H 9.02、N 2.38
乾燥樹脂は、450mlのメタノール/H
2O(2:1)中で1日膨潤させ、その後濾別した。
【0103】
1-ペンチルイミダゾリウム変性樹脂III(製造)
49.70gのポリ(スチレン-co-クロロメチルスチレン)(75〜150μm、ローディング(クロロメチルスチレン): 0.94mmol/g)を500mlのトルエン中に懸濁し、38.78gの1-ペンチルイミダゾールと混合した。反応混合物を、110℃で23時間撹拌した。樹脂を濾別し、300mlのトルエン、300mlの0.1MのHCl、600mlの脱塩したH
2O及び900mlのメタノールで連続して洗浄した。その後、樹脂を凍結乾燥法により乾燥した。重量: 55.82g。
元素分析: C 85.12、H 9.69、N 2.19
乾燥樹脂は、450mlのメタノール/H
2O(2:1)中で1日膨潤させ、その後濾別した。
【0104】
実施例1
2.513gのクラフトリグニンを、冷却ジャケットのないワンポット槽(V=600mL)に入れ、300gの1MのNaOH中に撹拌しながら溶解した。11枚のニッケル板(それぞれ5.0cm×2.1cm)を、槽が10個のハーフチャンバを含む方法で0.3cmの間隔をあける二極様式で接続した。溶液を、約9.7時間にわたって電気分解した(Q=700C、電解液:Q=7000Cに基づく)。達成された槽電圧は、3.0〜3.2Vの範囲であった。電荷を流した後、槽の中身を室温にし、Amberlite(登録商標)IRA402(OH)カラム吸着床(m
Amberlite=10.072g、d
column=2cm、h=5cm)上に載せた。使用されたイオン交換体は、予め水中で数時間膨潤させた。反応溶液をカラム材料(i)に完全に通過させた後(液滴速度: 1滴/秒)、濾液(ii)を、上記の条件の下で再び電気分解した。合計で、溶液を5回、電気分解し、濾過した。
【0105】
アニオン交換体により吸着されたバニリンの製造のために、アニオン交換体をメタノール中のHClの2重量%濃度の溶液を用いて分割して洗浄した(V
tot=250mL、液滴速度: 1滴/秒)。得られた濾液を150mLのH
2Oと混合し、各回とも100mLのジクロロメタンにより3回抽出した。合わせた有機相を80mLの飽和食塩水により洗浄し、Na
2SO
4によって脱水し、減圧下で溶媒を除去した。残留したブロンズ色の泡を、カラムクロマトグラフィー(d=2cm、h=20cmのシリカゲル60)(溶離剤:容積比3:2のシクロヘキサン/酢酸エチル)により精製した。使用されたクラフトリグニンを基にして、8重量%のアセトバニロンを含んだ2.59重量%のバニリンが得られた(GC画分)。
【0106】
濾液の後処理のために、濾液を濃塩酸により冷却しながら酸性にし、酸性化濾液を、沈殿したリグニンを除去するために珪藻土の吸着床を通して濾過した。珪藻土の吸着床をジクロロメタンにより十分にすすいだ。水相は、各回とも100mLのジクロロメタンにより3回抽出した。合わせた有機相を100mLの飽和食塩水により洗浄し、Na
2SO
4によって脱水し、減圧下で溶媒を除去した。粘性固体が残留した(m
RP=17.2mg、使用されたクラフトリグニンを基にして、0.68重量%)。ガスクロマトグラフィー分析は、次の典型的な組成(GC画分)を示した: 68.9%バニリン、9.5%アセトバニロン、21.6%バニリン酸。
【0107】
実施例2
電気分解を、以下の点を変更し、実施例1と同様の方法で行った。即ち、反応溶液を、電荷を流し充電量を流し、室温まで冷却した後、Amberlite(登録商標)IRA402(OH)(m
Amberlite=50g、d
column=2cm、h=24.5cm)のカラム吸着床上に載せた。電気分解及び濾過を5回行った後、実施例1と同様のやり方で後処理を進める。
【0108】
有機粗生成物のカラムクロマトグラフィー精製は、使用されたクラフトリグニン(重量%)に基づいて以下の典型的な組成を示した: 2.54重量%のバニリン、2.45重量%のグアイヤコール。
【0109】
実施例3
2.011gのクラフトリグニンを、冷却ジャケットのないワンポット槽(V=600mL)に入れ、300gの3MのNaOH中に撹拌しながら溶解した。11枚のモネル400Kの板(4.9cm×2.1cm)を、槽が10個のハーフチャンバを含む方法で0.3cmの間隔をあける二極様式で接続した。溶液を、約7.8時間にわたって電気分解した(Q=560C、電解液:Q=5600Cに基づく)。達成された槽電圧は、3.0〜3.1Vの範囲であった。電荷を流した後、槽の中身を室温にし、Amberlite(登録商標)IRA402(OH)カラム吸着床(m
Amberlite=40g、d
column=2cm、h=20cm)上に載せた。使用されたイオン交換体は、前もって水中で数時間膨潤させた。反応溶液がカラム材料を完全に通過した後(液滴速度: 1滴/秒)、濾液を、上記の条件の下で再び電気分解した。合計で、溶液を5回、電気分解し、濾過した。
【0110】
アニオン交換体により吸着されたバニリンの製造のために、アニオン交換体を、メタノール中のHClの2重量%濃度の溶液を用いて分割して洗浄した(V
tot=350mL、液滴速度: 1滴/秒)。得られた濾液は、100mLのH
2Oと混合し、各回とも150mLのジクロロメタンにより3回抽出した。合わせた有機相を約100mLの飽和食塩水により洗浄し、Na
2SO
4によって脱水し、減圧下で溶媒を除去した。残留したブロンズ色に着色した泡を、カラムクロマトグラフィー(d=2cm、h=20cmのシリカゲル60)(溶離剤:容積比3:2のシクロヘキサン/酢酸エチル)により精製した。使用されたクラフトリグニンを基にして、8重量%のアセトバニロン(GC画分)で汚染された2.47重量%のバニリンを得た。
【0111】
濾液の後処理のために、濾液を濃塩酸により冷却しながら酸性にし、酸性化濾液は、沈殿したリグニンを除去するために珪藻土の吸着床を通して濾過した。珪藻土の吸着床はジクロロメタンにより十分にすすいだ。水相は、各回とも150mLのジクロロメタンにより3回抽出した。合わせた有機相を100mLの飽和食塩水により洗浄し、Na
2SO
4によって脱水し、減圧下で溶媒を除去した。粘性固体が残った(m
RP=11.9mg、使用されたクラフトリグニンを基にして、0.59重量%)。ガスクロマトグラフィー分析は、次の典型的な組成(GC画分)を示した: 75.2%バニリン、11.0%アセトバニロン。
【0112】
実施例4
バニリン各50mgを、それぞれ、スクリューキャップ付きの瓶中の50mlの1Mの水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、前もってオーバーナイトで約18時間、蒸留水中で膨潤させた1gのイオン交換樹脂と混合した。懸濁液を約300rpmで45分間振とうし、次いでフリットを通して濾過し、10mlの水で2回すすいだ。
【0113】
アニオン交換体により吸着されたバニリンの回収のために、アニオン交換体をフリットを通してバニリンの塩基性溶液から濾別し、フリットから20mlの酸のメタノール溶液(90%メタノール、10%濃塩酸)を含むねじぶた付きの瓶の中に移した。フリットは、その後ジクロロメタンで十分にすすいだ。懸濁液は、約300rpmで45分間再び振とうし、フリットを通して再び濾過し、そしてこれを約15mlのジクロロメタンで十分にすすいだ。濾液を、2μlのn-ヘキサデカン及び30mlの水と混合し、各回とも30mlのジクロロメタンにより3回抽出し、30mlの飽和食塩水で洗浄し、次いでNa
2SO
4により脱水した。溶媒を減圧下で除去し、残留している淡黄色固体をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0114】
濾液の後処理のために、2μlのn-ヘキサデカンを濾液に加え、溶液を、氷で冷却しながら濃塩酸を加えることによって酸性化した。水相を3回、各回とも30mlのジクロロメタンで抽出した。合わせた有機相を、飽和食塩水で洗浄し、次いでNa
2SO
4により脱水した。溶媒を減圧下で除去し、残留している淡黄色固体をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0115】
2つの画分から各回に回収されたバニリンの量(最初に使用した量の少なくとも95%、即ち>47.3mg)は、内部標準n-ヘキサデカンを使用するガスクロマトグラムから測定した。
【0116】
さまざまなイオン交換樹脂を使用する塩基性バニレート溶液におけるイオン交換実験の結果を、表1にまとめる。
【0117】
【表2】
【0118】
実施例5
本明細書の上文に記載されている1-メチルイミダゾリウム樹脂の5mlを分離カラム(直径:0.5〜1.0cm)中に充填し、最初に脱塩したH
2Oで、次に1MのNaOH水溶液で、0.1MのAgNO
3水溶液により洗い、塩素イオンはもはや検出されなかった。イオン交換樹脂は、脱塩されたH
2Oにより、洗浄水がpH=7を有するまで洗った。その後、25mlの1MのNaOH水溶液中のバニリン49.4mgの溶液を、イオン交換樹脂中にN
2超過圧力又は重力によって通した。次いで、樹脂を、洗浄水がpH=7を有するまで脱塩された25mlのH
2Oにより洗った。その後、イオン交換樹脂を、4重量%濃度のHCl溶液及びメタノールにより連続して洗浄した。2つのメタノール液の画分を合わせ、溶媒を除去し、残留物を脱塩されたH
2Oと混合した。得られた混合物を酢酸エチルにより抽出し、合わせた有機相を、脱水し、溶媒を除去した。残留物を酢酸エチル中に取り、バニリン含量をガスクロマトグラフィー分析により定量化した。このようにして、使用された42.2mgのバニリン(使用されたバニリンの86%に等しい)を回収した。使用された樹脂の再活性化後、滴定によって再生可能なTECを達成した。
【0119】
実施例6
1MのNaOH(50ml)中に溶解した49.2mgのバニリンを、1.03gのイオン交換樹脂(Dowex Monosphere(登録商標)550a OH)と混合し、1時間振とうする(振動数:300rpm)。イオン交換樹脂を濾別し、残留物を、10mlの脱塩されたH
2Oにより洗浄した。洗浄されたイオン交換樹脂を、次いで、20mlの5重量%のH
2SO
4メタノール溶液及びさらに10mlのメタノールと混合し、1時間振とうした(振動数: 300rpm)。イオン交換樹脂を濾別し、濾液の溶媒は減圧下で除去した。得られた残留物を、H
2Oと混合し、水相をトルエンにより抽出し、合わせた有機相はMgSO
4により脱水した。
トルエンの除去後、残留物を酢酸エチル中に取り、バニリン含量をガスクロマトグラフィー分析により定量化した。このようにして、40.1mgのバニリン(使用されたバニリンの82%に等しい)を回収した。
【0120】
実施例7
手順は実施例6と同様に実施し、48.0mgのバニリンの1MのNaOH(50ml)中の溶液を使用し、1.01gのイオン交換樹脂(Dowex Monosphere(登録商標)550a OH)と混合し、懸濁液を1時間振とうした(振動数:300rpm)。10mlの脱塩されたH
2Oによる洗浄後、濾過されたイオン交換樹脂を、20mlの10重量%濃度の酢酸のメタノール溶液及びさらに10mlのメタノールと混合し、1時間振とうした(振動数:300rpm)。後処理後、39.3mgのバニリン(使用されたバニリンの82%に等しい)を回収した。
【0121】
実施例8
手順は実施例6と同様に実施し、49.2mgのバニリンの1MのNaOH(50ml)中の溶液を使用し、1.02gのイオン交換樹脂(Dowex Monosphere(登録商標)550a OH)と混合し、懸濁液を1時間振とうした(振動数:300rpm)。濾別されたイオン交換樹脂を、10mlの脱塩されたH
2Oによる洗浄後、20mlの10重量%濃度の酢酸の酢酸エチル中の溶液及びさらに10mlの酢酸エチルと混合し、1時間振とうした(振動数:300rpm)。イオン交換樹脂の濾過及び減圧での溶媒の除去後、得られた残留物を酢酸エチル中に取り、バニリン含量をガスクロマトグラフィー分析により定量化した。このようにして、42.2mgのバニリン(使用されたバニリンの82%に等しい)を回収した。
本発明の実施形態として例えば以下を挙げることができる。
[実施形態1]
水性塩基性バニリン含有組成物からバニリンを製造するための方法であって、水性塩基性バニリン含有組成物の塩基性固体吸着剤による少なくとも1つの処理を含む方法。
[実施形態2]
水性塩基性バニリン含有組成物を、最初に塩基性吸着剤の吸着床を通過させ、次いで塩基性吸着剤を、少なくとも1種の有機溶媒中又は水性溶媒と有機溶媒との混合物中の酸の希薄溶液を用いて溶離する、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
酸の希薄溶液が、鉱酸、とりわけ硫酸のアルコール溶液及び水/アルコール溶液から選択される、実施形態2に記載の方法。
[実施形態4]
塩基性吸着剤が、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基及び第四級ホスホニウム基から選択される官能基を含む架橋有機ポリマー樹脂である、実施形態1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態5]
塩基性吸着剤が、第四級アンモニウム基又は第四級ホスホニウム基を含む架橋有機ポリマー樹脂である、実施形態1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態6]
ポリマー樹脂が、1リットル(湿潤)当たり0.1〜3モル当量の官能基を含む、実施形態4又は5に記載の方法。
[実施形態7]
塩基性吸着剤が、
(i)式I:
【化4】
(式中、R1、R2及びR3は、互いに独立して、C1-C8アルキルであり、基R1、R2又はR3の1つはC1-C8ヒドロキシアルキルでもあってもよく、Aは、C1-C4アルカンジイルであり、#は、ポリスチレン樹脂のフェニル基への結合部位を示す)
の官能基を含む架橋ポリスチレン樹脂、
(ii)式IIa及び/又はIIb:
【化5】
(式中、R4は、C1-C8アルキルであり、#は、ポリビニルピリジン樹脂のポリマー骨格の炭素原子への結合部位を示す)
の官能基を含む架橋ポリビニルピリジン樹脂、
(iii)式III:
【化6】
(式中、R5、R6及びR7は、互いに独立して、C1-C8アルキルであり、A'は、C2-C4アルカンジイルであり、#は、アクリル樹脂のポリマー骨格に結合しているカルボキシル基又はカルボキサミド基の酸素原子又は窒素原子への結合部位を示す)
の官能基を含む架橋アクリル樹脂
から選択される、実施形態4〜6のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態8]
塩基性吸着剤が、N-C1-C8-アルキルイミダゾリウム基を含むポリマーから選択される、実施形態1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態9]
水性塩基性バニリン含有組成物が、少なくとも10、特に少なくとも12のpH、とりわけ13より高いpHを有する、実施形態1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態10]
水性塩基性バニリン含有組成物が、リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の酸化によって得られたものである、実施形態1〜9のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態11]
水性塩基性バニリン含有組成物が、リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の電気分解によって得られたものである、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]
リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液が、少なくとも10、とりわけ少なくとも12、特に13より高いpHを有する、実施形態10又は11に記載の方法。
[実施形態13]
リグニンを含む水性懸濁液又は溶液として、用紙、パルプ又はセルロースの製造からの水性リグニン含有流が使用される、実施形態10、11又は12のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態14]
リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液が、少なくとも1種のリグニンを含む材料をアルカリ水溶液中に溶解又は懸濁させることによって調製され、リグニンを含む材料が、黒液からのリグニン、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸塩、アルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、及び製紙業、パルプ又はセルロース製造からの対応する残留物から選択される、実施形態10〜13のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態15]
塩基性バニリン含有組成物が、リグニンを含む水性アルカリ性懸濁液又は溶液の酸化、とりわけ電気分解によって調製され、酸化において形成されたバニリンを、前記酸化の間に、塩基性バニリン含有組成物を塩基性吸着剤で処理することによって、得られた塩基性バニリン含有組成物から除去する、実施形態10〜14のいずれか一項に記載の方法。
[実施形態16]
酸化中に生じるバニリンを含む塩基性組成物を、塩基性吸着剤の吸着床を通し、次いで塩基性吸着剤が少なくとも1種の有機溶媒中又は水-有機溶媒混合物中、酸の希薄溶液により溶離される、実施形態15に記載の方法。