特許第6240066号(P6240066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240066
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】軟骨形成促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/44 20060101AFI20171120BHJP
   A61K 38/40 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20171120BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20171120BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20171120BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20171120BHJP
【FI】
   A61K38/44
   A61K38/40
   A61K35/20
   A61P43/00 111
   A61P19/02
   A23L33/19
   A23K20/189
   A23K20/147
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-513374(P2014-513374)
(86)(22)【出願日】2013年4月30日
(86)【国際出願番号】JP2013062525
(87)【国際公開番号】WO2013164992
(87)【国際公開日】20131107
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-105509(P2012-105509)
(32)【優先日】2012年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】奈良 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
(72)【発明者】
【氏名】森田 如一
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−151331(JP,A)
【文献】 特開2001−346519(JP,A)
【文献】 特開平09−191858(JP,A)
【文献】 特表2009−514804(JP,A)
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集,2002年,Vol.2002,p.105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/44
A23K 20/147
A23K 20/189
A23L 33/19
A61K 35/20
A61K 38/40
A61P 19/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とし、前記乳由来塩基性タンパク質画分は、
1)ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分子量が3,000〜80,000の範囲の数種のタンパク質よりなり、
2)95重量%以上がタンパク質であって、その他少量の脂肪、灰分を含み、
3)タンパク質は主としてラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼよりなり、
4)タンパク質のアミノ酸組成は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を15重量%以上含有するプロテオグリカン合成促進用組成物。
【請求項2】
請求項1記載のプロテオグリカン合成促進用組成物を配合してなるプロテオグリカン合成促進用飲食品及び/または飼料。
【請求項3】
乳由来塩基性タンパク質画分の分解物を有効成分し、
前記乳由来塩基性タンパク質画分は、
1)ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分子量が3,000〜80,000の範囲の数種のタンパク質よりなり、
2)95重量%以上がタンパク質であって、その他少量の脂肪、灰分を含み、
3)タンパク質は主としてラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼよりなり、
4)タンパク質のアミノ酸組成は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を15重量%以上含有し、
前記乳由来塩基性タンパク質画分の分解物が、乳由来塩基性タンパク質画分をタンパク質分解酵素で処理して得られるものであるプロテオグリカン合成促進用組成物。
【請求項4】
前記タンパク質分解酵素が、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン及びパパインよりなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項3に記載のプロテオグリカン合成促進用組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載のプロテオグリカン合成促進用組成物を配合してなるプロテオグリカン合成促進用飲食品及び/または飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とする、軟骨形成を促進する軟骨形成促進剤、及びこの軟骨形成促進剤を配合した軟骨形成促進用食品又は飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
軟骨は、関節や鼻部、耳介部などに存在するが、このうち、関節軟骨は個体の運動機能を補助する役割を有している。
2009年のROADプロジェクト調査結果によると、日本の変形性関節症(Osteoarthritis、OA)患者数は、膝については2500万人、腰椎については3800万人と報告されており、その男女の内訳は、膝は男性860万人、女性1670万人、腰椎は男性1890万人、女性1900万人であるが、この数は年々増加している。OAは骨粗鬆症と並び高齢者の日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を低下させることから、根治的な治療方法の確立が望まれている。
関節軟骨組織は、軟骨細胞が産生するコラーゲンやヒアルロン酸、プロテオグリカンから構成され、網目構造を取るコラーゲン繊維間にプロテオグリカンやヒアルロン酸が存在することで、多量の水分を保持している。つまり、関節軟骨は、コラーゲンならびにプロテオグリカンによりそのクッション性を保持している。
関節周囲の血行が悪くなり酸素の供給が低下すると、軟骨細胞によるプロテオグリカンなどの産生が低下することや、死滅した軟骨細胞が滑膜を刺激、炎症を起こし、関節に痛みが生じることとなる。さらに、炎症時のサイトカインの放出により、さらに軟骨細胞死を誘導し、痛みの症状が激化する。
このため、OAの対症療法としては、痛み止めや抗炎症製剤の投与、高分子ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)の関節腔内への注入等があげられ、また、対症療法以外の方法としては、近年、軟骨細胞の分化促進または軟骨細胞の肥大化の抑制、軟骨細胞によるコラーゲン、プロテオグリカンの転写、合成促進などのアプローチが取られ始めている。
【0003】
軟骨の構成成分の一つであるプロテオグリカンは、糖鎖の一種である硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)とコアタンパクからなり、GAGとコアタンパクが共有結合した構成となっている。プロテオグリカンについては、上述したOAに対する効果のほか、軟骨細胞中のプロテオグリカン量は、前駆軟骨細胞から軟骨細胞への分化、増殖の過程において増加することが知られており (非特許文献1)、軟骨形成に重要な役割をもつことが示唆されている。また、サケ軟骨に含まれるプロテオグリカンに抗肥満剤、抗糖尿病剤としての効果(特許文献1)や、炎症性疾患や自己免疫疾患の予防治療、臓器移植時の拒絶反応の抑制、アレルギーの処置に有用であることが報告されている(特許文献2)。また、生体におけるプロテオグリカンの合成を促進することにより、抗老化用皮膚外用剤としての効果も報告されている(特許文献3)。
【0004】
一方、プロテオグリカンの生合成については、転写因子であるSox9を高発現させた細胞において、軟骨細胞分化が促進し、プロテオグリカンやII型コラーゲンの産生が増加するという報告(非特許文献2)や、硫酸化グリコサミノグリカン上のコンドロイチン4硫酸のGalNAcの四位に硫酸基を転移するコンドロイチン4-O-硫酸基転移酵素−1(C4ST−1)を変異させたマウスでは、コンドロイチン硫酸の合成量が減少し、軟骨形成不全の症状が観察されたとの報告がある (非特許文献3)。このため、プロテオグリカンの生合成に関しては、Sox9及びC4ST−1の活性促進が重要であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−126461号公報
【特許文献2】特開2007−131548号公報
【特許文献3】特開2006−028071号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Biol. Chem., 265, 10, 5903-5909, 1990
【非特許文献2】Biochem. Biophys. Res. Commun. 301, 2, 338-343, 2003
【非特許文献3】BMC Musculoskelet Disord. 26 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、新規の軟骨形成促進剤の提供を課題とする。また本願発明は、新規のプロテオグリカン合成促進剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成からなるものである。
(1)乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とする軟骨形成促進剤。
(2)前記軟骨形成促進が、プロテオグリカンの合成促進によるものであることを特徴とする(1)記載の軟骨形成促進剤。
(3)乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とするプロテオグリカン合成促進剤。
(4)乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とする関節疾患の予防、改善、治療剤。
(5)前記関節疾患が変形性関節疾患である(4)記載の関節疾患の予防、改善、治療剤。
(6)乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とする関節疾患の予防・改善用サプリメント。
(7)前記関節疾患が、変形性関節疾患である(6)記載の関節疾患の予防・改善用サプリメント。
(8)(1)乃至(2)記載の軟骨形成促進剤を配合してなる軟骨形成促進用飲食品及び/または飼料。
(9)(3)記載のプロテオグリカン合成促進剤を含有する飲食品及び/または飼料。
(10)乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする軟骨形成促進剤。
(11)前記軟骨形成促進が、プロテオグリカンの合成促進によるものであることを特徴とする(10)記載の軟骨形成促進剤。
(12)乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とするプロテオグリカン合成促進剤。
(13)乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする関節疾患の予防、改善、治療剤。
(14)前記関節疾患が、変形性関節疾患である(13)記載の関節疾患の予防、改善、治療剤。
(15)乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする関節疾患の予防・改善用サプリメント。
(16)前記関節疾患が、変形性関節疾患である(15)記載の関節疾患の予防・改善用サプリメント。
(17)(10)乃至(11)記載の軟骨形成促進剤を配合してなる軟骨形成促進用飲食品及び/または飼料。
(18)(12)記載のプロテオグリカン合成促進剤を含有する飲食品及び/または飼料。
(19)前記乳由来塩基性タンパク質画分分解物が、乳由来塩基性タンパク質画分をタンパク質分解酵素で処理して得られるものであることを特徴とする(10)または(11)に記載の軟骨形成促進剤。
(20)前記タンパク質分解酵素が、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン及びパパインよりなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする(19)に記載の軟骨形成促進剤。
(21)乳由来塩基性タンパク質画分及び/または乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg/日以上摂取することによる関節疾患の予防、改善、治療方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟骨形成促進剤は、軟骨細胞分化制御因子であるSox9およびコンドロイチン4-O-硫酸基転移酵素-1(C4ST−1)のmRNAの発現を促進することにより軟骨細胞の分化やプロテオグリカンの合成を促進し、効果的に軟骨形成を促進することができる。また本発明のプロテオグリカン合成促進剤は、プロテオグリカンの合成を促進し、関節疾患に対する予防・改善・治療効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】乳由来塩基性タンパク質画分によるC4ST−1 mRNA発現への濃度依存的影響を示す。
図2】乳由来塩基性タンパク質画分によるC4ST−1 mRNA発現への時間依存的影響を示す。
図3】乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨分化制御因子Sox9 mRNA発現への濃度依存的影響を示す。
図4】乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨分化制御因子Sox9 mRNA発現への時間依存的影響を示す。
図5】乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成量への影響を示す。
図6】乳由来塩基性タンパク質画分による変形性膝関節症への効果を示す。
図7】乳由来塩基性タンパク質画分分解物によるプロテオグリカン合成量への影響を示す。
図8】乳由来塩基性タンパク質画分分解物による変形性膝関節症への効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とすることを特徴としている。
本発明の乳由来塩基性タンパク質画分は、次の性質を有している。
1)ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によると分子量3,000〜80,000の範囲の数種のタンパク質よりなる。
2)95重量%以上がタンパク質であって、その他少量の脂肪、灰分を含む。
3)タンパク質は主としてラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼよりなる。
4)タンパク質のアミノ酸組成は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を15重量%以上含有する。
【0012】
この乳由来塩基性タンパク質画分は、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳など哺乳類の乳から得ることができ、例えば、乳または乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させて塩基性タンパク質を吸着させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質画分を、pH5を越え、イオン強度0.5を越える溶出液で溶出して得る方法(特開平5−202098号公報)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特開昭61−246198号公報)、無機の多孔性粒子を用いて乳清から得る方法(特開平1−086839号公報)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特開昭63−255300号公報)などが知られており、本発明では、このような方法で得られた乳由来塩基性タンパク質画分を用いることができる。また得られた乳由来塩基性タンパク質画分をさらに、タンパク質分解酵素で処理して平均分子量4,000以下の乳由来塩基性タンパク質画分分解物として用いることもできる。なお、タンパク質分解酵素としては、市販されているプロテアーゼA「アマノ」SD(商品名)、サモアーゼPC10F(商品名)、プロチンSD−AY10(商品名)等の食品・工業用プロテアーゼが使用できるほか、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン、パパイン等の酵素を挙げることができる。また、これらのタンパク質分解酵素を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明では、上記の乳由来塩基性タンパク質画分をそのまま軟骨形成促進剤、又はプロテオグリカン合成促進剤として用いることが可能であり、また、乳由来塩基性タンパク質画分の他に、糖類や脂質、タンパク質、ビタミン類、ミネラル類、フレーバー等、他の医薬品、飲食品や飼料に通常使用する原材料等を混合することや、さらに常法に従い粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などに製剤化することも可能である。また、塗布剤としては、乳液、クリーム、ローション、パックなど通常の塗布形態で用いることができる。これらの塗布剤は常法により製造し、本発明の有効成分である乳由来塩基性タンパク質画分をその製造過程で適宜配合すればよい。
また、乳由来塩基性タンパク質画分に加えて、他の軟骨形成促進効果を示す成分や、関節疾患の改善効果を有する他の成分と併用することも可能である。
【0014】
本発明の軟骨形成促進剤の配合量としては、特に制限はないが、成人一人一日あたり、乳由来塩基性タンパク質画分を10mg以上摂取することにより軟骨形成促進効果、プロテオグリカン合成促進効果が期待できるので、この量を確保できるようにすればよい。
【0015】
本発明の乳由来の軟骨形成促進用飲食品、プロテオグリカン合成促進用飲食品としては、通常の飲食品、例えばヨーグルト、乳飲料、ウエハース、デザート等に乳由来塩基性タンパク質画分を配合すればよい。これらの軟骨形成促進用飲食品については、成人一人一日あたり、乳由来塩基性タンパク質画分を10mg以上摂取させるために、飲食品の形態にもよるが飲食品100gあたり塩基性タンパク質画分を1〜100mg配合することが好ましい。また、本発明の軟骨形成促進剤は、通常の飼料、例えば家畜用飼料やペットフード等に乳由来塩基性タンパク質画分を配合すればよい。たとえばこれらの飼料について、乳由来塩基性タンパク質画分を配合する場合、飼料100gあたり乳由来塩基性タンパク質画分を1〜100mg配合することが好ましい。
【0016】
本発明では、乳由来塩基性タンパク質画分を配合する方法に特に制限はないが、例えば、溶液中で添加、配合するには、乳由来塩基性タンパク質画分を脱イオン水に懸濁あるいは溶解し、撹拌混合した後、医薬品、飲食品や飼料の形態に調製して使用する。撹拌混合の条件としては、乳由来塩基性タンパク質画分が均一に混合されればよく、ウルトラディスパーサーやTKホモミクサー等を使用して撹拌混合することも可能である。また、当該組成物の溶液は、医薬品、飲食品や飼料に使用しやすいように、必要に応じて、RO膜等での濃縮や、凍結乾燥して使用することができる。本発明では、医薬品、飲食品や飼料の製造に通常使用される殺菌処理が可能であり、粉末状であっては乾熱殺菌も可能である。従って、本発明の乳由来塩基性タンパク質画分を含有する液状、ゲル状、粉末状、顆粒状等様々な形態の医薬品、飲食品や飼料を製造することができる。
【0017】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40l(pH6.7)を流速25ml/分で通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、0.98M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透膜(RO膜)により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥して、乳由来塩基性タンパク質画分粉末21gを得た(実施例品1)。得られた乳由来塩基性タンパク質画分について、ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により測定したところ、分子量は3,000〜80,000の範囲に分布しており、成分組成は表1に示すとおりであった。また、6N塩酸で110℃、24時間加水分解した後、アミノ酸分析装置(L−8500型、日立製作所製)でそのアミノ酸組成を分析した結果、表2に示したように塩基性アミノ酸が15重量%以上含まれていた。さらに、ELISA法により、そのタンパク質組成を分析したところ、表3に示すように、40%以上のラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼが含まれていた。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
[試験例1]
乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成酵素のmRNA発現への影響についてリアルタイムPCR法を用いて検討を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。細胞は、マウスEC由来間葉系細胞であるATDC5細胞を用いた。ATDC5細胞を24穴プレートに0.5×10cells/wellになる様に播種し、DMEM/F12培地(シグマ社製)にて37℃、5%CO環境下にて1週間培養した。
乳由来塩基性タンパク質画分及び対照区として精製したラクトフェリンをそれぞれ0.1%、0.5%、1%(w/v)になるようDMEM/F12培地に溶解したものを培養した細胞に添加し、12時間培養した。
培養した細胞からtotal RNAの回収およびcDNA合成を行った。すなわち、培養した細胞にRNA抽出剤であるISOGEN(ニッポンジーン社製)を0.5ml添加し5分間静置した後、ピペッティングにて可溶化させた細胞液を1.5ml容チューブに回収した。細胞液に0.1mlのクロロホルムを添加し、十分に攪拌した後、二層に分離した上層(水層)を新たな1.5ml容チューブに回収した。回収液に0.25mlの2−プロピルアルコールを添加し、10分間静置後、15,000rpm、4℃にて15分間遠心し、total RNAの沈殿物を得た。得られた沈殿物は、70%エタノールにて洗浄した後、DEPC水に溶解しRNA液とした。1μg分のRNAからTakara PrimeScriptTMRT reagent Kit を用いてcDNAを合成した。
得られたcDNAをテンプレートとして、SYBR Green (Takara SYBR Prime Ex Taq II)を使用したリアルタイムPCRを行った。反応条件は、95℃、30秒の初期変性後、95℃、5秒の変性、57℃、15秒のアニーリング、72℃、20秒の伸張を40サイクル反応させた。プライマーは表4に記載のC4ST1用プライマーを使用した。結果を図1に示す。なお、※は対照群と比較して有意差があることを示す(p<0.05)。
【0023】
【表4】
【0024】
図1より、乳由来塩基性タンパク質画分によるC4ST−1のmRNA発現は、乳由来塩基性タンパク質画分の濃度に依存して亢進することが明らかとなった。また、乳タンパク質の一つであるラクトフェリンに比較してより高いC4ST−1のmRNA発現亢進効果を有することが明らかとなった。
【0025】
[試験例2]
乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成酵素のmRNA発現への作用時間による影響についてリアルタイムPCR方法を用いて検討した。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。
方法は試験例1に記載の方法に準じた。すなわち、乳由来塩基性タンパク質画分を2時間から48時間までATDC5細胞に添加した後、totalRNAを回収しcDNAを合成し、リアルタイムPCRを行った。対照区は、乳由来塩基性タンパク質画分を投与せず、2時間から48時間まで培養したATDC5細胞からtotalRNAを回収し、cDNAを合成してリアルタイムPCRを行った。結果を図2に示す。
【0026】
図2により、乳由来塩基性タンパク質画分によるC4ST−1のmRNA発現は、乳由来塩基性タンパク質画分にてATDC細胞に作用させてから4時間で有意に亢進し、12時間から24時間でピークに達し、48時間では減少した。
【0027】
[試験例3]
乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨分化制御因子のmRNA発現への影響についてリアルタイムPCR方法を用いて検討を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。また、試験例1と同じく、対照区として精製したラクトフェリンを用いた。方法は試験例1に記載の方法に準じた。プライマーは表5に記載のSox9用プライマーを使用した。結果を図3に示す。
【0028】
【表5】
【0029】
図3により、乳由来塩基性タンパク質画分によるSox9のmRNA発現は、ホエー分解物の濃度に依存して亢進することが明らかとなった。また、乳タンパク質の一つであるラクトフェリンに比較してより高いSox9のmRNA発現亢進効果を有することが明らかとなった。
【0030】
[試験例4]
乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨分化制御因子のmRNA発現への作用時間による影響についてリアルタイムPCR方法を用いて検討した。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。
方法は試験例1に記載の方法に準じた。すなわち、乳由来塩基性タンパク質画分を2時間から48時間までATDC5細胞に添加した後、totalRNAを回収しcDNAを合成し、リアルタイムPCRを行った。対照区は、乳由来塩基性タンパク質画分を投与せず、2時間から48時間まで培養したATDC5細胞からtotalRNAを回収し、cDNAを合成してリアルタイムPCRを行った。結果を図4に示す。
【0031】
図4により、乳由来塩基性タンパク質画分によるSox9のmRNA発現は、乳由来塩基性タンパク質画分をATDC細胞に作用させてから2時間で有意に上昇し、4時間から6時間でピークに達し、12時間以降は減少した。
【0032】
[試験例5]
乳由来塩基性タンパク質画分によるプロテオグリカン合成への影響について、酸性ムコ多糖測定キット(プライマリーセル AK03)を用いて、プロテオグリカン量(コンドロイチン硫酸量)の測定を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。測定は、以下の方法で行った。
ATDC5細胞を1×10cells/wellになるように12穴プレートに播種し、DMEM/F12培地にて37℃、CO環境下で培養した。培養4日後、キット中の酵素溶液(一袋/10ml水)を200μl/wellなるよう添加し細胞可溶化させ、可溶化液を1.5ml容チューブに回収した後60℃にて1時間処理しサンプルとした。サンプルおよび標準用コンドロイチン硫酸液(1〜50μg/ml)を100μlずつチューブに分注し、反応液(発色原液0.4ml/緩衝液12.6ml)を1.3ml添加し、10〜20分後内にOD650nmにて吸光値を測定した。標準用コンドロイチン硫酸液の吸光値から求めた標準曲線及びサンプルの吸光値より濃度を決定した。結果を図5に示す。
【0033】
図5より、乳由来塩基性タンパク質画分の濃度に依存して、プロテオグリカン量が有意に上昇した。
【0034】
[試験例6]
乳由来塩基性タンパク質画分による軟骨形成への影響について、変形性膝関節症自然発症マウスであるSTR/ORTマウスを用いた乳由来塩基性タンパク質画分投与試験を行った。乳由来塩基性タンパク質画分として実施例品1を用いた。測定は、以下の方法で行った。15週齢のSTR/ORTマウスを10匹ずつ生理食塩水群と乳由来塩基性タンパク質画分をマウス体重1kg当たり10mg投与する群に分け、投与はそれぞれマウス用金属製胃ゾンデにより1日あたり1回の強制経口投与を行った。正常対照群として正常マウス(CBA/JN)10匹も設定した。12週間の飼育終了後、各群のマウスを屠殺し、後肢の膝関節を切除し取り出した後、骨軟骨組織を4℃のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBSに希釈した4%パラフォルムアルデヒドで4℃、18時間の固定を行い、さらに一晩かけて70%から100%のエタノール系列にて脱脂し、10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むリン酸緩衝液に組織を浸潤させ、4℃にて2週間かけて脱灰した。組織をパラフィン包埋し、4μmの薄切標本を作製した。組織標本は脱パラフィン、再親水化した後、Safranin‐O染色を行い、関節炎の進展度のスコアであるMankinスコア(表6)に従ってスコア化した。
結果を図6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
図6により、乳由来塩基性タンパク質画分投与により、生理食塩水投与に比較してSTR/ORTマウスのMankinスコアが有意に低下した。これは、乳由来塩基性タンパク質画分投与によりマウスの軟骨形成が促進されたことにより、変形性膝関節症の症状が緩和されたことを示す。
【実施例2】
【0037】
(液状栄養組成物の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分5gを4995gの脱イオン水に溶解し、TKホモミクサー(TKROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6000rpmで30分間撹拌混合して乳由来塩基性タンパク質画分100mg/100gの乳由来塩基性タンパク質画分溶液を得た。この乳由来塩基性タンパク質画分溶液5.0kgに、カゼイン4.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS−4CRTGN、日阪製作所社製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の液状栄養組成物50kgを製造した。このようにして得られた液状栄養組成物には、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この液状栄養組成物は、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分を10mg含有し、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【実施例3】
【0038】
(ゲル状食品の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分2gを708gの脱イオン水に溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAXT−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明のゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られたゲル状食品には、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、このゲル状食品には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が200mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【実施例4】
【0039】
(飲料の調製)
酸味料2gを706gの脱イオン水に溶解した後、実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分4gを溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAXT−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた飲料には、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この飲料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が400mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【実施例5】
【0040】
(飼料の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、TKホモミクサー(MARKII 160型;特殊機化工業社製)にて、3600rpmで40分間撹拌混合して乳由来塩基性タンパク質画分を2g/100g含有する乳由来塩基性タンパク質画分溶液を得た。この乳由来塩基性タンパク質画分溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ 用飼育飼料100kgを製造した。なお、このイヌ用飼育飼料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が200mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【実施例6】
【0041】
(錠剤の調製)
表4に示す配合で原料を混合後、常法1gに成型、打錠して本発明の錠剤を製造した。なお、この錠剤1g中には、乳由来塩基性タンパク質画分が100mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【0042】
【表7】
【実施例7】
【0043】
実施例1と同様の方法によって得られた乳由来塩基性タンパク質画分粉末50gを蒸留水10リットルに溶解した後、1%パンクレアチン(シグマ社製)を添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させた後、乳由来塩基性タンパク質画分分解物48.3gを得た(実施例品7)。
【実施例8】
【0044】
実施例1と同様の方法によって得られた乳由来塩基性タンパク質画分120gを精製水1.8リットルに溶解した後、45℃に保持してプロテアーゼA「アマノ」SD(天野エンザイム社製)を20g添加し、2時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させた後、凍結乾燥して乳由来塩基性タンパク質画分分解物を95g得た(実施例品8)。
【0045】
[試験例7]
実施例品7および実施例品8を用いて乳由来塩基性タンパク質画分分解物によるプロテオグリカン合成への影響を検証した。試験方法は試験例5の方法にしたがって実施した。結果を図7に示す。
【0046】
図7より、乳由来塩基性タンパク質画分分解物は、プロテオグリカン量を有意に上昇した。
【0047】
[試験例8]
実施例品7および実施例品8を用いて乳由来塩基性タンパク質画分分解物による軟骨形成への影響を検証した。STR/ORTマウスへの乳由来塩基性タンパク質画分分解物の投与量はマウス体重1kg当たり10mgとしたほか、試験方法は試験例6の方法にしたがって実施した。結果を図8に示す。
【0048】
図8の結果から、乳由来塩基性タンパク質画分と同様に、乳由来塩基性タンパク質画分分解物投与により、生理食塩水投与に比較してSTR/ORTマウスのMankinスコアが有意に低下した。つまり、乳由来塩基性タンパク質画分分解物投与によりマウスの軟骨形成が促進し、変形性膝関節症の症状が緩和された。
【0049】
(飲料の調製)
酸味料2gを706gの脱イオン水に溶解した後、実施例品7の乳由来塩基性タンパク質画分分解物4gを溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAXT−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた飲料には、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この飲料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分分解物が400mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【実施例9】
【0050】
(錠剤の調製)
表8に示す配合で原料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の錠剤を製造した。なお、この錠剤1g中には、乳由来塩基性タンパク質画分分解物が100mg含まれており、軟骨形成促進及び/またはプロテオグリカン合成促進効果を有していた。
【実施例10】
【0051】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8