(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
核酸医薬は、疾患に対する作用機序が明確で、副作用も少なく、次世代の医薬品として記載されている。例えば、RNA干渉(RNAi)を用いた核酸医薬は、細胞に存在する標的遺伝子のmRNAの分解を惹起し、標的遺伝子の発現を阻害することができる。その結果、特定の遺伝子または遺伝子群の異常な発現原因となって生じる疾患・症状を軽減または治療することができる。このようなRNA干渉を利用した核酸医薬においては、例えば、siRNAなどの核酸が利用されるが、これらの核酸に機能を発現させるためには、核酸を細胞内に送達することが必要である。
【0003】
核酸を細胞内に効果的に送達する方法として一般にキャリア(ベクター)が用いられる。キャリア(ベクター)には、ウイルス性キャリアと非ウイルス性キャリアが挙げられる。ウイルス性キャリアは、病原性、免疫原生および細胞毒性の安全性の面で不明点が多いため、安全性の観点から非ウイルス性キャリアの使用が望まれている。
【0004】
非ウイルス性キャリアとしては、核酸がアニオン性であることから、静電相互作用により核酸を保持できるカチオン性キャリアが用いられる。カチオン性キャリアの例としては、特定構造のカチオン脂質を用いたカチオン性リポソームまたはカチオン性ポリマーを用いた複合体などが一般に知られている。
【0005】
カチオン性リポソームの例としては、非特許文献1には、カチオン脂質とDOPE(1,2−ジオレオイル−3−sn−ホスファチジルエタノールアミン)とポリエチレングリコール脂質からなるリポソームが記載されている。また、特許文献1には、50mol%から85mol%のカチオン脂質を含む脂質粒子とともに、第一のカチオン脂質、第二のカチオン脂質、中性脂質、ポリエチレングリコール脂質からなる脂質粒子が記載されている。
さらに、カチオン性ポリマーを用いた複合体についても知られている(非特許文献2)。
【0006】
また、カチオン脂質を用いたカチオン性キャリアの更なる改良手段として、例えば、特許文献2には、カチオン性脂質とアニオン性脂質を組み合わせた両性リポソームが記載され、特許文献3には両性の両親媒性脂質からなる両性リポソームが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0016】
(1)脂質粒子の成分
本発明の脂質粒子は、下記一般式(1):
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、同一または異なって、炭素数10〜22のアルキル基である)で表される化合物とともに、ステロール、中性脂質およびポリエチレングリコール(以下、「PEG」と称する)鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質、および核酸を含む脂質粒子である。
【0017】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の脂質粒子は、下記一般式(1)で表される化合物を脂質構成成分として含む。
【化5】
式中、R
1およびR
2は、同一または異なって、炭素数10〜22のアルキル基を意味し、好ましくは、炭素数14〜18のアルキル基であり、より好ましくはヘキサデシル基である。
【0018】
一般式(1)で表される化合物は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つのイミダゾイル基を有する。アミノ基は静電的な相互作用により核酸を強く保持することができる。また、イミダゾイル基は、低pHでは、プロトン化して正電荷を有するようになる。したがって、一般式(1)で表される化合物を脂質粒子に導入することにより、脂質粒子と細胞膜またはエンドソーム膜との融合が容易に起こり、標的細胞内で核酸が放出されやすくなる。
【0019】
一般式(1)で表される化合物は、特に限定されないが、例えば下記の方法により合成することができる。
【0021】
式中、PGは保護基を表し、Xは活性エステルを構成する脱離基を表す。R
1およびR
2は、上記と同様である。
【0022】
すなわち、適切な保護基により保護されたヒスチジンの活性エステル(A)と、アミン誘導体(B)を塩基存在下で反応させ、化合物(C)を得た後、適切な脱保護方法によって、一般式(1)で表される化合物を合成することができる。
【0023】
ここで、ヒスチジンの活性エステル(A)において使用できる保護基としては、例えば、W.グリーン(W.Greene)ら、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)第4版、第255〜265頁、2007年、ジョン・ウィリイ・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons,INC.)に記載の保護基などが挙げられる。具体的には、Boc基(tert-ブトキシカルボニル基)、Z基(ベンジルオキシカルボニル基)などが好ましい例として挙げられる。
【0024】
使用できる活性エステルの例としては、フェニルエステル、トリフルオロフェニルエステル、ペンタフェニルエステル、ヒドロキシスクシンイミドエステルなどを挙げることができ、原料入手性または安定性の観点から、ヒドロキシスクシンイミドエステルが好ましい。
【0025】
使用できる塩基としては、無機塩基、有機塩基を挙げることができる。無機塩基の例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを挙げることができ、有機塩基の例としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどを挙げることができる。使用する塩基は、反応に用いるヒスチジンの活性エステル(A)の保護基によって、適切な塩基を用いることが好ましい。
【0026】
使用できる溶媒としては、特に限定されないが、一般的な有機溶媒を用いることができる。具体的には、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤、ハロゲン系溶剤を用いることができ、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶剤が好ましい例として挙げられる。
【0027】
使用できる脱保護反応としては、例えば、W.グリーン(W.Greene)ら、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)第4版、第255〜265頁、2007年、ジョン・ウィリイ・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons,INC.)に記載の方法などが挙げられる。
【0028】
本発明において、一般式(1)で表される化合物としては、式(2)で表される化合物(2−アミノ−N,N−ジヘキサデシル−3−(1H−イミダゾール−5−イル)プロパンアミド)[本明細書中において化合物Aとも称する]を使用することがより好ましい。
【0030】
本発明において、一般式(1)で表される化合物の配合量は、脂質粒子の脂質構成成分全量に対して15mol%〜60mol%であることが好ましく、20mol%〜50mol%であるがより好ましい。
【0031】
[ステロール]
本発明の脂質粒子はステロールを含む。ステロールは、膜流動性を低下させる特性を有するため、本発明の脂質粒子において膜の安定化剤として機能する。
本発明に用いられるステロールとしては、特に限定されないが、コレステロール、フィトステロール(シトステロール、スチグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロールなど)、エルゴステロール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル−2’−ヒドロキシエチルエーテル。コレステリル−4’−ヒドロキシブチルエーテルなどを挙げることができる。
本発明において、ステロールの配合量は、脂質粒子の構成成分全量に対して10mol%〜50mol%であることが好ましく、15mol%〜30mol%であることがより好ましい。
【0032】
[中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質]
本発明の脂質粒子は、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質を含む。本発明の脂質粒子では、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質のうち少なくとも一方を含むことにより、本発明の効果を得ることができるが、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質の両方を含むことが好ましい。両方の脂質を含むことで、脂質粒子に対するさらなる安定化効果が予想外にも得られる。
【0033】
(中性脂質)
本発明に用いられる中性脂質としては、特に限定されないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、セラミドなどが挙げられ、ホスファチジルコリンが好ましい。また、中性脂質としては、単独でも、複数の異なる中性脂質を組み合わせても良い。
【0034】
ホスファチジルコリンとしては、特に限定されないが、大豆レシチン(SPC)、水添大豆レシチン(HSPC)、卵黄レシチン(EPC)、水添卵黄レシチン(EPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPC)などが挙げられ、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)が好ましい。これらの中でも、相転移温度の観点から、ホスファチジルコリンとしては、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)が好ましい。
【0035】
ホスファチジルエタノールアミンとしては特に限定されないが、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン(DLoPE)、ジフィタノイルホスファチジルエタノールアミン(D(Phy)PE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジテトラデシルホスファチジルエタノールアミン、ジヘキサデシルホスファチジルエタノールアミン、ジオクタデシルホスファチジルエタノールアミン、ジフィタニルホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。
【0036】
スフィンゴミエリンとしては、特に限定されないが、卵黄由来スフィンゴミエリン、牛乳由来スフィンゴミエリンなどが挙げられる。
セラミドとしては、特に限定されないが、卵黄由来セラミド、牛乳由来セラミドなどが挙げられる。
【0037】
(PEG鎖を有する脂質)
本発明に用いられるPEG鎖を有する脂質としては、特に限定されないが、PEG修飾ホスホエタノールアミン、ジアシルグリセロールPEG誘導体、ジアルキルグリセロールPEG誘導体、コレステロールPEG誘導体、セラミドPEG誘導体などが挙げられ、PEG修飾ホスホエタノールアミンが好ましい。
PEG鎖の重量平均分子量は、500〜5000が好ましく、750〜2000がより好ましい。
PEG鎖は分岐していてもよく、ヒドロキシメチル基のような置換基を有していてもよい。
【0038】
本発明おいて、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質の配合量は、脂質粒子の構成成分全量に対して3mol%〜55mol%であることが好ましい。
【0039】
[核酸]
本発明に用いられる核酸としては、公知の任意の形態の核酸が含まれる。核酸の具体例としては、一般的なRNA、DNA、およびそれらの誘導体を挙げることができ、一本鎖DNAもしくはRNAであってもよく、二本鎖DNAもしくはRNAであってもよく、DNA−RNAハイブリッドであってもよい。本発明に用いることのできる核酸としては、具体的には、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、DNAエンザイム、リボザイム、siRNA、shRNA、miRNA、aiRNA、piRNA、デコイ核酸、アプタマーなどを挙げることができる。本発明に用いられる核酸としては、siRNA、miRNA、aiRNA、アンチセンスDNA、アンチセンスRNAを使用することが好ましい。
【0040】
本発明で用いられる核酸は、天然型に限定されるものではなく、ヌクレアーゼ耐性など、生体内における安定性を高めるために、そのヌクレオチドを構成している糖またはリン酸バックボーンなどの少なくとも一部が修飾されているような非天然型であってもよい。
糖部が修飾されている非天然型核酸としては、2’−O−メチルRNA、2’−O−(2−メトキシ)エチルRNA、2’−デオキシ−2’−フルオロアラビノ核酸、架橋型核酸(LNA/BNA)などが挙げられる。また、糖部をペプチドに置き換えたペプチド核酸(PNA)、モルフォリノに置き換えたモルフォリノ核酸なども、非天然型核酸の一例として挙げることができる。
リン酸バックボーンが修飾されている非天然型核酸としては、ホスホロチオエート体、ホスホロジチオエート体などが挙げられる。
【0041】
本発明において、核酸の配合量は、脂質粒子の構成成分全量に対してモル比で1:10〜1:5000であることが好ましく、1:100〜1:1000であることがより好ましい。
【0042】
(2)脂質粒子
本発明において、脂質粒子とは、脂質から構成される粒子を意味し、特に限定されない。本発明の脂質粒子には、脂質二分子膜より構成される閉鎖小胞体であるラメラ構造を持つリポソームが含まれる。リポソームとしては、多重リポソーム(MLV)、小さな一枚膜リポソーム(SUV)、巨大一枚膜リポソームなどの構造が知られているが、特に限定されるものではない。本発明の脂質粒子には、前述のリポソームのような脂質二分子膜構造(ラメラ構造)を持たない、粒子内部も構成成分が詰まった構造を持つ粒子も含まれる。
【0043】
脂質形成の形態は、電子顕微鏡観察またはエックス線を用いた構造解析などにより確認できる。例えば、Cryo透過型電子顕微鏡観察(CryoTEM法)を用いた方法により、リポソームのように脂質粒子が脂質二分子膜構造(ラメラ構造)および内水層を持つ構造、またはリポソームのように脂質粒子が脂質二分子膜構造(ラメラ構造)および内水層を持たず粒子内部に電子密度が高いコアを持っていることから、脂質をはじめとする構成成分が詰まった構造を有していることを確認できる。エックス線小角散乱(SAXS)測定によっても、脂質粒子が脂質二分子膜構造(ラメラ構造)の有無を確認できる。
【0044】
本発明の脂質粒子の粒子径は特に限定されないが、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは50〜500nmであり、さらに好ましくは75〜350nmである。脂質粒子の粒子径は、一般的な方法(例えば、動的光散乱法、レーザー回折法など)により測定することができる。
【0045】
(3)脂質粒子の製造
本発明の脂質粒子は、下記一般式(1):
【化8】
(R
1およびR
2は、上記と同様である)で表される化合物、ステロール、および中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質、アルコール、およびエステルを含む油相を加熱溶解する工程(a);
工程(a)で得た油相と、核酸を含む水相と、を混合する工程(b);
工程(b)で得た油相および水相を含む混合液(以下、油相−水相混合液と称することがある)を冷却し、脂質粒子を晶出する工程(c);
工程(c)で得られた油相−水相混合液からアルコールおよびエステルを除去する工程(d);により調製される。
得られた脂質粒子の分散液は、必要に応じてサイジングまたは濃縮などを行うことができる。なお、油相とは、一般式(1)で表される化合物、ステロール、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質、アルコール、およびエステルを混合して得られる組成物中に含まれる油性成分を意味する。
【0046】
工程(a)において、油相を加熱する際の温度は、40〜70℃であることが好ましく、45〜65℃であることがより好ましい。
【0047】
工程(b)において、水相は、核酸を、水または緩衝液に溶解することで得ることができる。さらには、必要に応じて酸化防止剤などの成分を添加してもよい。水相と油相を混合する比率(質量比)は、3.0:1.0〜1.0:1.0が好ましく、1.6:1.0〜1.1:1.0がより好ましい。
【0048】
工程(b)において、水相と油相を混合する際の温度は、40〜70℃であることが好ましく、45〜65℃であることがより好ましい。また、混合する時間は、液全体が均一になっていることが確認できればよく、特に限定されない。また、加熱時間は、液全体の温度が均一に所望の温度になっていることが確認できればよく、特に限定されない。
【0049】
工程(c)において、油相−水相混合液を冷却し、脂質粒子を晶出する工程では、油相−水相混合液の冷却条件は10〜30℃が好ましく、15〜25℃がより好ましい。
【0050】
工程(d)において、脂質粒子を晶出させた油相−水相混合液からアルコールおよびエステルを除去する方法としては、特に限定されず、一般的な手法により除去することができる。
【0051】
本製造法によって得られる脂質粒子は、必要に応じてサイジングを施すことができる。サイジングの方法は、特に限定されないが、エクストルーダーなどを用いて粒子径を小さくすることができる。
【0052】
(4)脂質粒子の利用
本発明の脂質粒子の一例としては、本発明の脂質粒子をin vitroで細胞に導入することによって、細胞に核酸(遺伝子)を導入することができる。
また、本発明の脂質粒子に含まれる核酸として、医薬用途を有する核酸を使用する場合には、本発明の脂質粒子は、核酸医薬として生体に投与することができる。
【0053】
本発明の脂質粒子を核酸医薬として使用する場合には、本発明に脂質粒子は単独で、または薬学的に許容される投与媒体(例えば、生理食塩水またはリン酸緩衝液)と混合して、生体に投与することができる。薬学的に許容される担体との混合物中における脂質粒子の濃度は特に限定されず、一般的には0.05質量%から90質量%とすることができる。また、本発明の脂質粒子を含む核酸医薬には、薬学的に許容される他の添加物質、例えばpH調製緩衝剤、浸透圧調整剤などを添加してもよい。
【0054】
本発明の脂質粒子を含む核酸医薬をin vivoで投与する際の投与経路は特に限定されず、任意の方法で投与することができる。投与方法としては、経口投与、非経口投与(関節内投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉投与など)が挙げられる。本発明の脂質粒子を含む核酸医薬は、疾患部位に直接注射することにより投与することもできる。
【0055】
本発明の脂質粒子の剤形は、特に限定されないが、経口投与を行う場合には、本発明の脂質粒子は、適当な賦形剤と組み合わせて、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、丸剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態で使用することができる。また、非経口投与に適した製剤には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌薬、および等張滅菌注射剤、懸濁化剤、溶解補助剤、粘稠化剤、安定化剤または保存料などの添加剤を適宜含めることができる。
【0056】
(5)核酸送達キャリア
本発明によれば、下記一般式(1):
【化9】
(式中、R
1およびR
2は、上記と同様である)で表される化合物、ステロール、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種の脂質、および核酸を含む脂質粒子は、核酸送達キャリア(以下、本発明の核酸送達キャリアと称することがある)として用いることができる。本発明の核酸送達キャリアは、標的細胞内で効率よく核酸が放出され、非常に良好な薬効を得ることができ、非常に有用である。すなわち、本発明によれば、一般式(1)で表される化合物と、ステロールと、中性脂質およびPEG鎖を有する脂質からなる群より選択される少なくとも1種と、核酸と、を含む核酸送達キャリアを提供することができる。
【0057】
本発明の核酸送達キャリアは、例えば、核酸と混合して、得られた脂質粒子を細胞にin vitroでトランスフェクション等をすることにより、細胞に核酸を導入することができる。また、本発明の核酸送達キャリアは、核酸医薬における核酸送達キャリアとしても有用である。
【実施例】
【0058】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
また、本発明において、コレステロールは、ディッシュマン社製コレステロールHPを、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)は、日油社製CATSOME−MC6を、DSPE−PEG(ポリエチレングリコール修飾ホスホエタノールアミン、PEG鎖分子量:2000)は、日油社製SUNBRIGHT DSPE−020CNを、使用した。
【0059】
[合成例1:式(1)で表される化合物(化合物A)の合成]
第一工程
テトラヒドロフラン230mLに、ジヘキサデシルアミン23gおよびトリエチルアミン5.52gを加え、攪拌しながらBoc-His(1-Boc)-OSU 24.6gを添加し、室温で1時間攪拌し、50℃で5時間攪拌した。その後、テトラヒドロフランを減圧留去し、反応物にクロロホルム450mLおよび水200mLを加えた。有機層を分取し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、10%クエン酸水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1〜3/1)で精製し、油状物の保護体24gを得た。
【化10】
【0060】
第二工程
トリフルオロ酢酸35mLに、第一工程で得られた保護体21.7gを少しずつ加え、室温で24時間攪拌した。その後、飽和炭酸水素ナトリウム40gを含む水溶液600mLに徐々に添加し、1時間攪拌した。得られた反応液にクロロホルム500mLを加え、有機層を分取し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=10/1)で精製し、無色固体の化合物Aを11.6g得た。化合物の同定は、NMRおよびMSにより行った。
【0061】
[合成例2:比較用化合物(化合物B)の合成]
反応容器に、N−アセチル−ヒスチジン3.00g、ジメチルアセトアミド225mL、トリエチルアミン4.2mLを取り、内温25℃で攪拌した。更に、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩2.92gを加え、内温45℃で攪拌して均一溶液とした。ジヘキサデシルアミン7.09gを加え、内温45℃で8時間攪拌した。反応混合物を冷却した後、酢酸エチルで有機層を抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、下記式で表される化合物Bを1.11g得た。
【0062】
【化11】
【0063】
[実施例1]
(コアセルベーション法)
油相の調製
L−α−ジパルミトイルホスファチジルコリン、化合物A、コレステロール、N−(カルボニル−メトキシポリエチレングリコール2000)−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンナトリウム塩(以下、DSPE−PEG)を、26/26/44/4のモル比となるように、それぞれ37mg、30mg、33mg、20mg量り取り、エタノールを0.3mL、酢酸エチルを0.7mL加えて溶解させ、油相を得た。
核酸保持脂質粒子の調製
上述の工程で得た油相に、後述のsiRNA5mgを滅菌水0.263mLで溶解した核酸水溶液0.25mL、さらに滅菌水を1.0mL添加し、55℃で10分間過熱した。その後攪拌しながら室温で放冷した。つづいて100mMヒスチジン溶液を用いて室温で透析し、エタノール/酢酸エチル混合溶液を除去した。得られた溶液をエクストルーダー(Avanti Polar Lipids社製Mini Extruder)を用い、0.4μmフィルターを通過させることで整粒し、核酸を保持する脂質粒子(以下、核酸保持脂質粒子と称することがある)を得た。
【0064】
[実施例2〜4、6/比較例1、2]
実施例2〜4、6、比較例1、2は、それぞれ表1に示す処方にて、実施例1と同様の方法で調製し、目的とする脂質粒子分散液を得た。
【0065】
細胞における標的mRNA残存率の評価
実施例1〜4、6、比較例1、2について、以下の手法によりmRNA残存率の評価を行った。
【0066】
(1)脂質粒子の細胞へのトランスフェクション
0.9×10
3個のTOV112D細胞(ヒト卵巣癌細胞株)を播種した24穴プレートに対し、翌日、培地を200μLのOpti-MEM(登録商標)に交換した。次に、300nMになるようにOpti-MEM(登録商標)で希釈した実施例1〜4、6、比較例1、2で調製したリポソーム分散液を24穴プレートに100μL添加し、最終濃度を100nMになるように調整した(全液量300μl)。その後、5%CO
2インキュベーター中で24時間から48時間培養した。
【0067】
(2)全RNA抽出
培養後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社、登録商標)を用いて細胞から全RNAを抽出した。抽出後の全RNA濃度の吸光度を測定後、RNA濃度が5ng/μLとなるようにRNase free水で希釈した。
【0068】
(3)定量PCR反応
逆転写反応とPCR反応はQUANTIFAST PROBE RTPCR KIT(QIAGEN社、登録商標)を用いて行った。用いたsiRNA遺伝子に対するプライマー/プローブはTaqMan Gene expression assay(ABI、登録商標)を使用し、Mx3000P(アジレント・テクノロジー株式会社、登録商標)を用いて定量PCRを実施した。PCRのコンディションは50℃ 30分;95℃ 15分; 94℃ 15秒;60℃ 30秒 (40 サイクル)とした。内部標準はTaqMan Encogeneous Control Human ACTB(ABI、登録商標)を使用した。得られたデータは△△CT法を用いトランスフェクション未処理に対する相対定量でmRNA残存率として算出した。
【0069】
[実施例5]
実施例5は、脂質粒子への細胞のトランスフェクション時に、opti-MENを10%血清の入ったopti-MENに交換して実施する以外は、実施例1と同様に実施した。
【0070】
siRNAは以下の配列のものを使用した。
5’−GUUCAGACCACUUCAGCUU−3’(sense鎖)(配列番号1)
3’−CAAGUCUGGUGAAGUCGAA−5’(antisense鎖)(配列番号2)
【0071】
示す実施例1〜6、比較例1、2を使用した場合におけるmRNA産生抑制率を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、実施例1〜6に示すリポソーム分散液は、非常に高いmRNAの産生抑制効果を示し、細胞外(血中)で核酸分子を安定に保持することができ、速やかに細胞質中で核酸を放出して標的細胞内で効率よく核酸本来の機能を発揮させることができることを見出した。