特許第6240592号(P6240592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240592
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20171120BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20171120BHJP
【FI】
   H04B7/06 956
   H04B7/0413
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-245222(P2014-245222)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2016-111439(P2016-111439A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂元 一光
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健
(72)【発明者】
【氏名】新井 麻希
(72)【発明者】
【氏名】関 智弘
(72)【発明者】
【氏名】椿 俊光
(72)【発明者】
【氏名】俊長 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】中川 匡夫
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−027347(JP,A)
【文献】 特開昭61−169003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02−7/12
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナとを備えた無線通信システムであって、
前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される電界強度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層に前記電界を印加するための電極対とを具備するレドームと、
前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定部と、
前記位相差推定部により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される電界を形成する前記電極対の印加電圧を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、
前記送信アレーアンテナの第1の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第1の経路における電波の位相回転量と前記第1の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第2の経路における電波の位相回転量との差である第1の位相差の絶対値が、前記送信アレーアンテナの第2の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第3の経路における電波の位相回転量と前記第2の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第4の経路における電波の位相回転量との差である第2の位相差の絶対値よりも大きい場合、前記第2の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率が、前記第3の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率よりも高くなるように、前記誘電体層の比誘電率を部分的に制御する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナとを備えた無線通信システムであって、
前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される温度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層の温度調節を行うための温度可変部とを具備するレドームと、
前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定部と、
前記位相差推定部により推定された前記複数の位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される温度を与える前記温度可変部の発熱を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、
前記送信アレーアンテナの第1の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第1の経路における電波の位相回転量と前記第1の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第2の経路における電波の位相回転量との差である第1の位相差の絶対値が、前記送信アレーアンテナの第2の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第3の経路における電波の位相回転量と前記第2の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第4の経路における電波の位相回転量との差である第2の位相差の絶対値よりも大きい場合、前記第2の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率が、前記第3の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率よりも高くなるように、前記誘電体層の比誘電率を部分的に制御する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
前記位相差推定部は、
前記複数の送信アンテナ素子に対応した複数の位相差を推定し、
前記制御部は、
前記位相差推定部が推定した前記複数の位相差に基づいて、前記誘電体層の異なる部位ごとに前記誘電体層の比誘電率を制御する処理を繰り返し行うことにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記誘電体層の比誘電率の任意の初期値における前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間の位置ずれ量に対する複数の位相差と、前記位置ずれ量において所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率とが対応付けされたテーブルを保持し、前記位相差推定部が推定した複数の位相差に基づいて、前記テーブルから所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率を取得し、前記誘電体層の比誘電率が前記テーブルから取得した比誘電率になるように前記誘電体層の比誘電率を制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナと、
前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される電界強度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層に前記電界を印加するための電極対とを具備する複数のレドームと、
を備えた無線通信システムによる無線通信方法であって、
前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定手順と、
前記位相差推定手順により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される電界を形成する前記電極対の印加電圧を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御手順と、
を含み、
前記制御手順では、
前記送信アレーアンテナの第1の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第1の経路における電波の位相回転量と前記第1の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第2の経路における電波の位相回転量との差である第1の位相差の絶対値が、前記送信アレーアンテナの第2の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第3の経路における電波の位相回転量と前記第2の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第4の経路における電波の位相回転量との差である第2の位相差よりも大きい場合、前記第2の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率が、前記第3の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率よりも高くなるように、前記誘電体層の比誘電率を部分的に制御する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項6】
複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナと、
前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される温度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層の温度調節を行うための温度可変部とを具備する複数のレドームと、
を備えた無線通信システムによる無線通信方法であって、
前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定手順と、
前記位相差推定手順により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される温度を与える前記温度可変部の発熱を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御手順と、
を含み、
前記制御手順では、
前記送信アレーアンテナの第1の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第1の経路における電波の位相回転量と前記第1の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第2の経路における電波の位相回転量との差である第1の位相差の絶対値が、前記送信アレーアンテナの第2の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第3の経路における電波の位相回転量と前記第2の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第4の経路における電波の位相回転量との差である第2の位相差よりも大きい場合、前記第2の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率が、前記第3の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率よりも高くなるように、前記誘電体層の比誘電率を部分的に制御する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項7】
前記位相差推定手順では、
前記複数の送信アンテナ素子に対応した複数の位相差を推定し、
前記制御手順では、
前記位相差推定手順で推定した複数の位相差に基づいて、前記誘電体層の異なる部位ごとに前記誘電体層の比誘電率を制御する処理を繰り返し行うことにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の無線通信方法。
【請求項8】
前記制御手順では、
前記誘電体層の比誘電率の任意の初期値における前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間の位置ずれ量に対する複数の位相差と、前記位置ずれ量において所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率とが対応付けされたテーブルから、前記位相差推定手順で推定した複数の位相差に基づいて、所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率を取得し、前記誘電体層の比誘電率が前記テーブルから取得した比誘電率になるように前記誘電体層の比誘電率を制御する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子から構成されるアレーアンテナを備えた無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信量の増大に伴い、限られた周波数帯域でギガビット級の高速無線通信を実現することが求められている。その実現方法の一つに、MIMO(Multiple−Input Multiple−Output)伝送技術がある。MIMO伝送では、複数の送信アンテナから、同一時間に同一周波数で異なる信号を送信し、送信機と受信機との間のマルチパス環境を利用することによって、受信機側で信号処理により各信号を分離し、復号する。これにより、使用周波数帯域を広げることなく、送受アンテナ素子数に応じて通信速度を向上させることができる。通常、MIMO伝送はマルチパス環境を前提としている。送信機と受信機との間の環境がマルチパス環境でない場合は、送受信される複数の信号の伝搬経路がほぼ等しくなり、空間相関が増加する。このため、信号分離が困難になり、チャネル容量が減少する。
【0003】
ところが、近年、例えば非特許文献1に示されているように、送信アンテナと受信アンテナとが近接して配置され、送信機と受信機との間の環境がマルチパス環境でない近距離通信においてもMIMO伝送技術が適用可能であることが注目されている。以下、近距離通信におけるMIMO伝送を近距離MIMO伝送と称する。非特許文献1の技術によれば、近距離MIMO伝送において、送信機と受信機との間の距離に応じてアレーアンテナ内の素子間隔を適切に設定することにより、マルチパス環境でない場合においてもアンテナ間の空間相関が低くなり、高いチャネル容量を達成することができる。
【0004】
また、非特許文献2では、コンクリート壁などの障害物内部を伝搬路として用いる近距離超高速無線中継システムが提案されている。この近距離超高速無線中継システムによれば、近距離であれば、壁などにより送受信アンテナの見通しが得られない環境においても、近距離MIMO伝送による高速通信が可能になる。また、非特許文献2では、近距離MIMO伝送においてチャネル容量を増大するための検討が行われている。
【0005】
しかしながら、実際のMIMO伝送を実現するためには、チャネル容量を増大させる技術に加え、送受信機における信号処理技術が必要である。この信号処理技術について、非特許文献1では、MIMO伝送の最適送受信方法として知られている固有モード伝送(以下、EM−BFと称する)の特性と、受信側のみで信号処理を行う方法として知られているゼロフォーシング(以下、ZFと称する)の特性とが比較されている。そして、非特許文献1には、アレーアンテナの最適な素子間隔によりEM−BFの特性とZFの特性とがほぼ一致することが示されている。
【0006】
現在、上述の近距離MIMO伝送をミリ波通信に適用し、情報端末(例えば、所謂キオスク端末)から携帯端末に大容量コンテンツを高速ダウンロードする非接触高速転送システムの検討が行われている。この非接触高速転送システムでは、ミリ波帯を利用することでアンテナが小型となるため、小型な端末にも複数のアンテナ素子を搭載することができる。特に、小型で安価であることから、同一基板上に複数の放射素子を配置したマイクロストリップアレーアンテナの利用が検討されている。
【0007】
図10は、近距離MIMO伝送におけるアンテナ素子の配置例を示す説明図である。図13において、送信側のアレーアンテナTXAを構成するアンテナ素子Tx(jは、1≦j≦Mの自然数であり、Mは、M≧2の自然数である。)の数と、受信側のアレーアンテナRXAを構成するアンテナ素子Rx(iは、1≦i≦Mの自然数である。)の数は、いずれもMである。また、送信側のアンテナ素子Txは平面PT上に配置されており、受信側のアンテナ素子Rxは、平面PTと平行をなす平面PR上に、送信側のアンテナ素子Txと伝搬空間FSを挟んで対向するように配置されている。これら平面PTと平面PRとの間の距離はDである。以下では、平面PTと平面PRとの間の距離Dを「送受信間隔D」と称する。また、送信機側および受信機側の双方において、隣接する任意の二つのアンテナ素子の間隔はdである。以下では、説明の簡略化のため、M=2の場合、すなわち2×2(2入力2出力)近距離MIMO伝送の場合について説明する。
【0008】
図11は、2×2近距離MIMO伝送のモデル図である。図11に示す2×2近距離MIMO伝送において、送信側のアンテナ素子Tx,Txと受信側のアンテナ素子Rx,Rxとの間の伝搬路のチャネル行列Hを式(1)で表すと、受信信号r,rは、式(2)で表される。
【0009】
【数1】
【0010】
【数2】
【0011】
ここで、式(1)および式(2)において、要素hij(i,jは、それぞれ2以下の自然数)は、送信アンテナ素子Txから受信アンテナ素子Rxへのチャネルを伝搬した信号の位相および振幅の変化率を、例えば複素数表現により示す行列要素である。また、sは送信アンテナ素子Txから送信される信号を表す行列要素であり、rは受信アンテナ素子Rxで受信される信号を表す行列要素であり、nは受信信号に付加される雑音を表す行列要素である。
【0012】
また、2×2MIMO伝送における信号分離のための受信ウェイト行列Wを式(3)のように表すと、受信ウェイト演算後に各受信回路へ出力される信号は式(4)で表される。
【0013】
【数3】
【0014】
【数4】
【0015】
式(3)および式(4)において、行列要素wij(i,jは、それぞれ2以下の自然数である。)は、送信アンテナ素子Txが送信するデータ系列S’に対応するデータ系列s’を抽出するために、受信アンテナ素子Rxが受信した信号に乗算されるウェイトを示す。
【0016】
2×2近距離MIMO伝送では、伝搬チャネルの位相差θH1=tan−1(h21/h11)=−90゜であり、且つ、θH2=tan−1(h12/h22)=−90゜である場合、すなわち伝搬チャネルの位相差が90度となるようにアンテナ素子の間隔dが設定された場合にチャネル容量が最大となる。以下では、チャネル容量が最大となるアンテナ素子の間隔dを「最適素子間隔dopt」と称する。
【0017】
アンテナ素子の間隔dを最適素子間隔doptに設定した場合、2×2近距離MIMO伝送のチャネル行列Hは式(5)で近似される。ここで、式(5)において、aは、送信アンテナ素子Txから受信アンテナ素子Rxへのチャネルを伝搬した信号の振幅と、送信アンテナ素子Txから受信アンテナ素子Rxへのチャネルを伝搬した信号の振幅との比率を表す。
【0018】
【数5】
【0019】
このとき、ZFにおける受信ウェイト行列WZFは式(6)で近似される。
【0020】
【数6】
【0021】
式(5)および式(6)から、チャネル行列と受信ウェイト行列の積は、式(7)のように対角行列で表される。すなわち、各送信アンテナから送信された信号は、受信機内で受信ウェイトを乗算することにより分離され、互いに干渉を与えることなく受信される。
【0022】
【数7】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】西森,関,本間,平賀,溝口,“近距離MIMO通信に適した伝送方法に関する検討” 信学技報,AP2009-83,Sep. 2009.
【非特許文献2】関,西森,本間,西川,“近距離超高速中継システム” 信学技報,AP2008-124,Nov. 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
前述のように、2×2近距離MIMO伝送では、伝搬チャネルの位相差θH1=tan−1(h21/h11)と位相差θH2=tan−1(h12/h22)が、それぞれ、90度の位相差となるようにアンテナ素子の間隔dを設定した場合にチャネル容量が最大となる。しかしながら、実際の利用シーンでは、送信アレーアンテナと受信アレーアンテナとの間の位置ずれが生じることが想定される。
【0025】
図12は、近距離MIMO伝送の適用例を示す図である。例えば、図12(A)に示す例では、情報端末STに対してユーザが携帯端末MTをかざしてコンテンツのダウンロードを行う場合、情報端末STのアレーアンテナSTAと携帯端末MTのアレーアンテナMTAとの間の空間がユーザから死角となり、情報端末STのアレーアンテナSTAと携帯端末MTのアレーアンテナMTAとの間の互いの位置関係を目視で確認することができない。このため、双方のアレーアンテナが理想的な対向状態になるように、双方のアンテナの位置合わせを行うことは困難である。図12(A)は、携帯端末MTが情報端末STから微小な距離離れた状況で通信を行う場合を示しているが、アレーアンテナSTAが設置された情報端末STのタッチ部(図示なし)に携帯端末MTをタッチ(接触)させて通信を行う場合においても、同様の理由によりアンテナの位置ずれが生じ得る。
【0026】
また、図12(B)に示すように、アンテナの位置合わせの他の手法として、LAN(Local Area Network)コネクタのような簡易なはめ込み形式のコネクタCNを情報端末STの設置台HDに設け、設置台HDのコネクタCNに携帯端末MTをはめ込んで固定設置する手法が挙げられる。この手法によれば、双方のアンテナ間の位置ずれを約±0.5mm以内に抑えることが可能となるが、理想的な対向状態とすることは困難である。
【0027】
また、非特許文献2に提示されている、部屋間や屋内外間の壁を挟んで両側に送信機と受信機とを対向配置して近距離MIMO伝送を行うシステムにおいても、壁により送受信機の双方のアンテナの位置関係を目視で確認できない。従って、この場合も、理想的な対向状態になるように双方のアンテナの位置合わせをすることは困難である。
【0028】
上述したように、送信機と受信機の双方のアンテナが理想的な対向状態からずれると、チャネル行列Hが対称行列とならず、すなわち、伝搬チャネルの位相差θH1と位相差θH2が、それぞれ90度の位相差とならず、近距離MIMO伝送の特性が劣化する。
【0029】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、近距離MIMO伝送を行うための送信アレーアンテナと受信アレーアンテナとの間の位置が所望の対向状態からずれ、伝搬チャネルの位相差が所望の値(例えば、90度位相差)からずれた場合においても、伝搬チャネルの位相差を所望の値に近づけることが可能な無線通信システムおよび無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明の一態様による無線通信システムは、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナとを備えた無線通信システムであって、前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される電界強度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層に前記電界を印加するための電極対とを具備するレドームと、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定部と、前記位相差推定部により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される電界を形成する前記電極対の印加電圧を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御部と、を具備することを特徴とする無線通信システムの構成を有する。
【0031】
本発明の一態様による無線通信システムは、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナとを備えた無線通信システムであって、前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される温度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層の温度調節を行うための温度可変部とを具備するレドームと、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定部と、前記位相差推定部により推定された前記複数の位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される温度を与える前記温度可変部の発熱を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御部と、を具備することを特徴とする無線通信システムの構成を有する。
【0032】
前記無線通信システムにおいて、例えば、前記制御部は、前記送信アレーアンテナの第1の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第1の経路における電波の位相回転量と前記第1の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第2の経路における電波の位相回転量との差である第1の位相差の絶対値が、前記送信アレーアンテナの第2の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第3の経路における電波の位相回転量と前記第2の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第4の経路における電波の位相回転量との差である第2の位相差の絶対値よりも大きい場合、前記第2の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率が、前記第3の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率よりも高くなるように、前記誘電体層の比誘電率を部分的に制御することを特徴とする。
【0033】
前記無線通信システムにおいて、例えば、前記位相差推定部は、前記複数の送信アンテナ素子に対応した複数の位相差を推定し、前記制御部は、前記位相差推定部が推定した前記複数の位相差に基づいて、前記誘電体層の異なる部位ごとに前記誘電体層の比誘電率を制御する処理を繰り返し行うことにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御することを特徴とする。
【0034】
前記無線通信システムにおいて、例えば、前記制御部は、前記誘電体層の比誘電率の任意の初期値における前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間の位置ずれ量に対する複数の位相差と、前記位置ずれ量において所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率とが対応付けされたテーブルを保持し、前記位相差推定部が推定した複数の位相差に基づいて、前記テーブルから所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率を取得し、前記誘電体層の比誘電率が前記テーブルから取得した比誘電率になるように前記誘電体層の比誘電率を制御することを特徴とする。
【0035】
本発明の一態様による無線通信方法は、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナと、前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される電界強度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層に前記電界を印加するための電極対とを具備する複数のレドームと、を備えた無線通信システムによる無線通信方法であって、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定手順と、前記位相差推定手順により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される電界を形成する前記電極対の印加電圧を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御手順と、を含むことを特徴とする無線通信方法の構成を有する。
【0036】
本発明の一態様による無線通信方法は、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナと、前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される温度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と前記誘電体層の温度調節を行うための温度可変部とを具備する複数のレドームと、を備えた無線通信システムによる無線通信方法であって、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定手順と、前記位相差推定手順により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される温度を与える前記温度可変部の発熱を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御手順と、を含むことを特徴とする無線通信方法の構成を有する。
【0037】
前記無線通信方法において、例えば、前記制御手順は、前記送信アレーアンテナの第1の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第1の経路における電波の位相回転量と前記第1の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第2の経路における電波の位相回転量との差である第1の位相差の絶対値が、前記送信アレーアンテナの第2の送信アンテナ素子から前記受信アレーアンテナの第1の受信アンテナ素子への第3の経路における電波の位相回転量と前記第2の送信アンテナ素子から第2の受信アンテナ素子への第4の経路における電波の位相回転量との差である第2の位相差よりも大きい場合、前記第2の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率が、前記第3の経路上に位置する前記誘電体層の部位の比誘電率よりも高くなるように、前記誘電体層の比誘電率を部分的に制御することを特徴とする。
【0038】
前記無線通信方法において、例えば、前記位相差推定手順では、前記複数の送信アンテナ素子に対応した複数の位相差を推定し、前記制御手順では、前記位相差推定手順で推定した複数の位相差に基づいて、前記誘電体層の異なる部位ごとに前記誘電体層の比誘電率を制御する処理を繰り返し行うことにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御することを特徴とする。
【0039】
前記無線通信方法において、例えば、前記制御手順では、前記誘電体層の比誘電率の任意の初期値における前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間の位置ずれ量に対する複数の位相差と、前記位置ずれ量において所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率とが対応付けされたテーブルから、前記位相差推定手順で推定した複数の位相差に基づいて、所望のチャネル容量が得られる位相差に近づけるための比誘電率を取得し、前記誘電体層の比誘電率が前記テーブルから取得した比誘電率になるように前記誘電体層の比誘電率を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、送信アレーアンテナと受信アレーアンテナとの位置が理想的な対向状態からずれた場合においても、送信アレーアンテナと受信アレーアンテナとの間の伝搬チャネルの位相差を所望の位相差に近づけることができる。従って、チャネル容量の低下を抑制し、近距離MIMO伝送の特性の劣化を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の第1の実施形態における無線通信システムの概略構成を示す構成図である。
図2A】本発明の第1の実施形態におけるレドームの構成を示す説明図である。
図2B】本発明の第1の実施形態におけるレドーム131,132を構成する誘電体層に印加される電界と誘電体層の比誘電率との関係を説明するための図である。
図3】本発明の第1の実施形態における位相差調整手順を示すフローチャートである。
図4】本発明の第1の実施形態における位相差調整効果を示す説明図である。
図5】本発明の第2の実施形態におけるレドームの構成を示す説明図である。
図6】本発明の第2の実施形態における位相差調整手順を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施形態における位相差調整効果を示す説明図である。
図8】本発明の第3の実施形態における無線通信システムの概略構成を示す構成図である。
図9】本発明の第3の実施形態における位相差調整手順を示すフローチャートである。
図10】近距離MIMO伝送におけるアンテナ素子の配置例を示す説明図である。
図11】2×2近距離MIMO伝送のモデル図である。
図12】近距離MIMO伝送の適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態における無線通信システム1の概略構成を示す構成図である。無線通信システム1は、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナ120と、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナ210とを備えた無線通信システムであって、2×2MIMO(2入力2出力のMIMO)伝送により、情報端末STから携帯端末MTへの、2系列(データ系列S1およびデータ系列S2)のデータ通信を行う。具体的には、無線通信システム1は、情報端末100と、携帯端末200とを具備する。情報端末100は、送信部111,112と、アンテナ素子Tx,Txと、レドーム131,132と、制御部140とを具備する。携帯端末200は、アンテナ素子Rx,Rxと、ウェイト演算部220と、受信部231,232と、位相差推定部240を具備する。
【0043】
アンテナ素子Tx,Txは、前述の図10に例示する平面PT上に間隔dだけ相互に離れて配列され、アンテナ素子Rx,Rxは、前述の図10に例示する平面PR上に間隔dだけ相互に離れて配列されている。以下では、同一平面上に配置される複数のアンテナ素子を具備するアンテナをアレーアンテナと称する。本実施形態では、アンテナ素子Txとアンテナ素子Txとで送信アレーアンテナ120を構成し、アンテナ素子Rxとアンテナ素子Rxとで受信アレーアンテナ210を構成する。
【0044】
送信部111は、データ系列S1を取得し、符号化や変調等の処理を行って、データ系列S1の送信信号を生成し、生成した送信信号をアンテナ素子Txに出力する。同様に、送信部112はデータ系列S2を取得し、符号化や変調等の処理を行って、データ系列S2の送信信号を生成し、生成した送信信号をアンテナ素子Txに出力する。ここで、データ系列S1とデータ系列S2とは、互いに独立したデータ系列であってもよいし、相関を有するデータ系列であってもよい。
アンテナ素子Txは、送信部111から出力される送信信号を無線送信する。同様に、アンテナ素子Txは、送信部112から出力される送信信号を無線送信する。
【0045】
図2Aは、第1の実施形態におけるレドーム131,132の構成を示す説明図であり、電極対の配置例を示す。図2Bは、レドーム131,132を構成する誘電体層1310,1320に印加される電界と誘電体層の比誘電率との関係を説明するための図である。なお、図2Bでは、図2Aに示す電極対は省略されている。
レドーム131は、送信アレーアンテナ120のアンテナ素子Txと受信アレーアンテナ210のアンテナ素子Rxとの間に位置するように配置される。図2Aに示すように、レドーム131は、印加される電界強度によって比誘電率が変化する誘電体で構成された誘電体層1310と、誘電体層1310の両面に配置された2組の電極対1311P,1311Qと、同じく誘電体層1310の両面に配置された2組の電極対1312P,1312Qとから構成される。上記の電極対1311P,1311Qおよび電極対1312P,1312Qは、誘電体層1310に電界を部分的に印加して誘電体層1310の比誘電率を部分的に変化させるためのものである。ここで、電極対1311P,1311Qは、誘電体層1310を挟むようにして配置され、このうち、電極1311Pは、アンテナ素子Tx側に対向するようにして誘電体層1310上に配置されている。同様に、電極対1312P,1312Qは、誘電体層1310を挟むように配置され、このうち、電極1312Pは、アンテナ素子Tx側に対向するように誘電体層1310上に配置されている。
【0046】
図2Aの例では、1組の電極対1311P,1311Qが、誘電体層1310の上辺の一端側(第1端側)のコーナー部分に配置され、残りの1組の電極対1311P,1311Qが、誘電体層1310の上辺の他端側(第2端側)のコーナー部分に配置されている。2組の電極対1311P,1311Qの印加電圧を設定することにより、図2Bに示す誘電体層1310の領域R1の比誘電率εを制御することができる。また、1組の電極対1312P,1312Qが、誘電体層1310の下辺の一端側(第1端側)のコーナー部分に配置され、残りの1組の電極対1312P,1312Qが、誘電体層1310の下辺の他端側(第2端側)のコーナー部分に配置されている。2組の電極対1312P,1312Qの印加電圧を設定することにより、図2Bに示す誘電体層1310の領域R2の比誘電率εを制御することができる。レドーム131は、アンテナ素子Txの前方(電波の放射方向)に配置され、アンテナ素子Txから無線送信された信号は、レドーム131内を通過した後、伝搬空間に放射される。
【0047】
同様に、レドーム132は、送信アレーアンテナ120のアンテナ素子Txと受信アレーアンテナ210のアンテナ素子Rxとの間に位置するように配置される。レドーム132は、印加される電界強度によって比誘電率が変化する誘電体で構成された誘電体層1320と、誘電体層1320の両面に配置された2組の電極対1321P,1321Qと、同じく誘電体層1320の両面に配置された2組の電極対1322P,1322Qとから構成される上記の電極対1321P,1321Qおよび電極対1322P,1322Qは、誘電体層1320に電界を部分的に印加して、誘電体層1320の比誘電率を部分的に変化させるためのものである。ここで、電極対1321P,1321Qは、誘電体層1320を挟むように配置され、このうち、電極1321Pは、アンテナ素子Tx側に対向するようにして誘電体層1320上に配置されている。また、電極対1322P,1322Qは、誘電体層1320を挟むように配置され、このうち、電極1322Pは、アンテナ素子Tx側に対向するようにして誘電体層1320上に配置されている。
【0048】
図2Aの例では、1組の電極対1321P,1321Qが、誘電体層1320の上辺の一端側(第1端側)のコーナー部分に配置され、残りの1組の電極対1321P,1321Qが、誘電体層1320の上辺の他端側(第2端側)のコーナー部分に配置されている。2組の電極対1321P,1321Qの印加電圧を設定することにより、図2Bに示す誘電体層1320の領域R3の比誘電率εを制御することができる。また、1組の電極対1322P,1322Qが、誘電体層1320の下辺の一端側(第1端側)のコーナー部分に配置され、残りの1組の電極対1322P,1322Qが、誘電体層1320の下辺の他端側(第2端側)のコーナー部分に配置されている。2組の電極対1322P,1322Qの印加電圧を設定することにより、図2Bに示す誘電体層1320の領域R4の比誘電率εを制御することができる。レドーム132は、アンテナ素子Txの前方(電波の放射方向)に配置され、アンテナ素子Txから無線送信された信号は、レドーム132内を通過した後、伝搬空間に放射される。
【0049】
レドーム131では、後述の制御部140の制御の下、電極対1311P,1311Qに電圧が印加されると、電極1311Pと電極1311Qとの間に電界が形成され、その電界強度に応じて誘電体層1310のアンテナ素子Tx側の部位の比誘電率εが変化する。無線通信システムで使用する電波の周波数をfとし、その自由空間波長をλとすると、誘電体層1310内では電波の波長は1/√ε倍に短縮される。同様に、制御部140の制御の下、電極対1312P,1312Qに電圧が印加されると、電極1312Pと電極1312Qとの間に電界が形成され、その電界強度に応じて誘電体層1310のアンテナ素子Tx側の部位の比誘電率εが変化し、誘電体層1310内における電波の波長は1/√ε倍に短縮される。
【0050】
このように、誘電体層1310の比誘電率に応じて誘電体層1310内における電波の波長が変化すると、誘電体層1310内を伝搬する間の信号の位相回転量も変化する。電極対1311P,1311Qと電極対1312P,1312Qとで異なる強度の電界を印加することにより、誘電体層1310のアンテナ素子Tx側の部位とアンテナ素子Tx側の部位とで比誘電率に差を作ることができる。
【0051】
レドーム132においても同様に、後述の制御部140の制御の下、電極対1321P,1321Qと電極対1322P,1322Qとで異なる強度の電界を印加することにより、誘電体層1320のアンテナ素子Tx側の部位の比誘電率εとアンテナ素子Tx側の部位の比誘電率εとの間に差を作ることができる。このようにして比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εの各値を適切に制御することにより、伝搬チャネルの位相差θH1=tan−1(h21/h11)と位相差θH2=tan−1(h12/h22)とを調整することができ、アレーアンテナ2の位置ずれよって生じる90度の位相差からのずれを補償することができる。
【0052】
具体的には、図2Bに示すように、例えば受信アレーアンテナ210の位置が、アンテナ素子Rxからアンテナ素子Rxに向かう方向にΔxだけずれた場合、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長と、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長の差が大きくなるため、伝搬チャネルの位相差θH1の絶対値|θH1|も大きくなる。一方、この場合、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長と、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長の差は小さくなるため、伝搬チャネルの位相差θH2の絶対値|θH2|も小さくなる。従って、絶対値|θH1|または絶対値|θH2|の値を参照することにより、受信アレーアンテナ210の位置ずれの方向を検出することができる。
【0053】
また、このとき、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの信号とアンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの信号は共に、レドーム131の誘電体層1310のアンテナ素子Tx側の部位を通過する。また、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの信号は、レドーム132の誘電体層1320のアンテナ素子Tx側の部位を通過し、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの信号は、レドーム132の誘電体層1320のアンテナ素子Tx側の部位を通過する。従って、誘電体層1310の比誘電率εを小さくすることで、誘電体層1310内での信号の位相回転量を減少させ、伝搬チャネルの位相差θH1を90度位相差に近づけることができる。
【0054】
また、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長と、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長は等しいため、制御部140は、誘電体層1320の比誘電率εが比誘電率εと同じ値となるように制御する。さらに、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長と比較して、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路長は短いため、制御部140が、比誘電率εをεより高くなるように制御することで、両方の経路における信号の位相回転量が等しくなる方向に調整することができる。
【0055】
以上のように、ε>ε=εとなるように誘電体層1310,1320の各比誘電率を部分的に制御することにより、伝搬チャネルの位相差θH1と位相差θH2との両方を90度の位相差に近づけることができる。受信アレーアンテナ210の位置がアンテナ素子Rx側にずれた場合は、制御部140が、ε>ε=εとなるように各比誘電率を制御することにより、伝搬チャネルの位相差θH1と位相差θH2との両方を90度の位相差に近づけることができる。
なお、第1の実施形態では、送信アレーアンテナ120の二つのアンテナ素子Tx,Txに対応させて二つのレドーム131,132を備えるものとしているが、位相差θH1および位相差θH2を制御することができることを限度として、二つのレドーム131,132を一体化してもよい。この場合、レドーム131を構成する誘電体層1310とレドーム132を構成する誘電体層1320とを一体化してもよい。即ち、一つの誘電体層上に上記の各電極対を配置してもよい。
【0056】
制御部140は、後述する位相差推定部240により推定された上記の伝搬チャネルの位相差θH1と位相差θH2とに基づいて、誘電体層1310,1320に印加される電界を形成する上記の電極対の印加電圧を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように誘電体層1310,1320の比誘電率を制御するための要素である。
制御部140は、伝搬チャネルの位相差θH1および位相差θH2に関する情報を基に、レドーム131の電極対1311P,1311Qおよび電極対1312P,1312Qと、レドーム132の電極対1321P,1321Qおよび電極対1322P,1322Qにそれぞれ印加する電圧の制御を行う。より具体的には、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2を送信する前に、伝搬チャネルの位相差を推定するためのトレーニング信号を送信する。
【0057】
制御部140は、フィードバックされた位相差θH1および位相差θH2に関する情報を基に、位相差θH1と位相差θH2とがそれぞれ90度の位相差に近づくように、電極対1311P,1311Q、電極対1312P,1312Q、電極対1321P,1321Q、電極対1322P,1322Qに印加する電圧の制御を行う。
携帯端末200は、情報端末100から送信される信号からデータ系列S1およびデータ系列S2の各データを抽出する。
なお、携帯端末200の位相差推定部240で推定した上記位相差に関する情報を情報端末100の制御にフィードバックする手段は、TDD(時分割複信)やFDD(周波数分割複信)等、任意の手段を用いることができ、特定の手段に限定されるものではない。
【0058】
アンテナ素子Rxと、アンテナ素子Rxとは、いずれも、アンテナ素子Txから送信される無線信号と、アンテナ素子Txから送信される無線信号とを、両無線信号が合成された無線信号として受信し、ウェイト演算部220に出力する。ここで、アンテナ素子Rxとアンテナ素子Rxとは、上記のアンテナ素子Txとアンテナ素子Txと同様、同一平面上の間隔dだけ離れた位置に配置され、送信アレーアンテナ120と受信アレーアンテナ210とが理想的な対向状態にある場合、アンテナ素子Rxは、アンテナ素子Txの正面にアンテナ素子Txから距離Dだけ離れた位置に配置され、アンテナ素子Rxは、アンテナ素子Txの正面にアンテナ素子Txから距離Dだけ離れた位置に配置される。
【0059】
携帯端末200の位相差推定部240は、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差θH1および位相差θH2を推定する。位相差推定部240は、情報端末100から送信された上記のトレーニング信号を用いて推定した上記の位相差に関する情報を情報端末100の制御部140にフィードバックする。
ウェイト演算部220は、アンテナ素子Rxが受信した信号およびアンテナ素子Rxが受信した信号に対して、ディジタル信号処理もしくはアナログ回路により受信ウェイトを乗算することで信号分離を行う。この信号分離により得られる、アンテナ素子Txが送信するデータ系列S1の信号に対応するデータ系列S1’の信号を受信部231に出力する。また、ウェイト演算部220は、アンテナ素子Txが送信するデータ系列S2の信号に対応するデータ系列S2’の信号を受信部232に出力する。
【0060】
受信部231は、ウェイト演算部220から出力されるデータ系列S1’の信号に対して復調や復号等の処理を行って、データ系列S1を復元して出力する。受信部232は、ウェイト演算部から出力されるデータ系列S2’の信号に対して復調や復号等の処理を行って、データ系列S2を復元して出力する。
【0061】
図2Bに例示したように、制御部140は、例えば、第1の位相差θH1の絶対値が第2の位相差θH2の絶対値よりも大きい場合、送信アンテナ素子Txから受信アンテナ素子Rxへの経路上に位置する誘電体層1310の部位の比誘電率(図2Bに示す領域R2の比誘電率ε)が、送信アンテナ素子Txから受信アレーアンテナ210の受信アンテナ素子Rxへの経路上に位置する誘電体層1320の部位の比誘電率(図2Bに示す領域R3の比誘電率ε)よりも高くなるように、誘電体層1310,1320の各比誘電率を部分的に制御する。ここで、第1の位相差θH1は、送信アレーアンテナ120の送信アンテナ素子Txから受信アレーアンテナ210の受信アンテナ素子Rxへの経路における電波の位相回転量と、送信アンテナ素子Txから受信アンテナ素子Rxへの経路における電波の位相回転量との差である。また、第2の位相差θH2は、送信アレーアンテナ120の送信アンテナ素子Txから受信アレーアンテナ210の受信アンテナ素子Rxへの経路における電波の位相回転量と送信アンテナ素子Txから受信アンテナ素子Rxへの経路における電波の位相回転量との差である。
【0062】
次に、図3を参照して、本実施形態における位相差調整のフローチャートについて説明する。
まず、ユーザが情報端末100に携帯端末200をかざす、もしくは設置すると(ステップST1)、情報端末100はデータ系列S1およびデータ系列S2の信号を送信する前に、トレーニング信号を送信する(ステップST2)。携帯端末200は、上記トレーニング信号を受信し、位相差推定部240は、複数の送信アンテナ素子Tx,Txに対応した伝搬チャネルの複数の位相差を推定する。そして、位相差推定部240は、伝搬チャネルの複数の位相差を推定した後、位相差に関する情報を情報端末100の制御部140にフィードバックする(ステップST3)。
【0063】
制御部140は、位相差推定部240が推定した複数の位相差に基づいて、誘電体層1310,1320の異なる部位ごとに誘電体層の比誘電率を制御する処理を繰り返し行うことにより、所望のチャネル容量が得られるように誘電体層の比誘電率を制御する。具体的には、携帯端末200の位相差推定部240からフィードバックされた位相差の数値が90度位相差を基準とした所定の範囲内に収まっていれば(ステップST4:YES)、情報端末100の制御部140は、調整を終了し(ステップST7)、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2の信号の送信を開始する。フィードバックされた位相差の数値が90度位相差を基準とした所定の範囲内に収まっていなければ(ステップST4:NO)、制御部140は、90度の位相差に近づくように、レドーム131の電極対1311P,1311Qおよび電極対1312P,1312Q、並びにレドーム132の電極対1321P,1321Qおよび電極対1322P,1322Qに印加する電圧を制御し、印加電圧強度が制御可能範囲の上限または下限に達しているかを判定する(ステップST5)。
【0064】
そして、印加電圧強度が制御可能範囲の上限または下限に達していなければ(ステップST5:NO)、上記位相差を90度の位相差に近づけるように、レドーム131,132の各電極対に印加する電圧強度を繰り返し制御する(ステップST6)。そして、上記の繰り返し処理の過程で、90度の位相差からのずれが所定の範囲内に収まると(ステップST5:YES)、制御部140は、調整を終了し(ステップST7)、情報端末100は、信号の送信を開始する。
【0065】
次に、図4に示すシミュレーションによる評価結果を参照して本発明の有効性を示す。
図4は、本発明の第1の実施形態における位相差調整の効果を示す図である。図4において、横軸は図2に示す送信アレーアンテナ120と受信アレーアンテナ210との間の位置ずれΔx(mm)を示し、左側の縦軸は、位相差θH1と位相差θH2を示し、右側の縦軸は、誘電体層1310,1320の比誘電率を示しており、比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εが図に示す値となるときに、位相差θH1と位相差θH2図4に示す位相差の値となる。
【0066】
比較のため、図4には、本発明のレドーム131,132を用いない通常の2×2MIMO伝送の場合の位置ずれに対する位相差の特性も示されている。ここで、印加電圧強度によって比誘電率が変化する誘電体として例えば液晶があり、本評価では、液晶の比誘電率の可変範囲である2.4〜3.2を用いて評価を行った。周波数は60.48GHzであり、送受信間隔Dは30mmであり、送信アレーアンテナ120および受信アレーアンテナ210の素子間隔dは、本発明のレドーム131,132を用いる場合は7.2mmに設定し、レドーム131,132を用いない場合は8.7mmに設定した。レドーム131,132の厚さTは20mmとした。図4に示すように、レドームを用いない場合、位置ずれΔxが大きくなるにつれて、位相差θH1と位相差θH2が90度の位相差からずれていく。これに対し、本発明のレドーム131,132を用いることで、位相差θH1と位相差θH2が90度の位相差に近づいている。
【0067】
なお、図1の構成では、情報端末100のみがレドーム131,132を具備し、誘電体層1310,1320のそれぞれの比誘電率を制御する構成としているが、情報端末100および携帯端末200がそれぞれレドーム131,132を具備し、それぞれのレドームの誘電体層の比誘電率を制御する構成としてもよい。
また、レドーム131,132の各電極対の形状および配置は、図2に例示するものに限定されず、誘電体層1310,1320のアンテナ素子Tx側の部位とアンテナ素子Tx側の部位とで個別に比誘電率を制御できる構成であれば、どのような形状であってもよい。
【0068】
また、情報端末100が携帯端末200にトレーニング信号を送信し、携帯端末200の位相差推定部240で位相差θH1と位相差θH2を推定する場合について説明してきたが、情報端末100が位相差推定部240に相当する位相差推定部を具備し、携帯端末200が送信したトレーニング信号を用いて情報端末100の位相差推定部で位相差を推定する構成としてもよい。
【0069】
また、伝搬チャネルの位相差を推定するためにトレーニング信号を用いる場合について説明してきたが、トレーニング信号を用いないブラインド推定により位相差を推定してもよい。
更に、本実施形態では、伝搬チャネルの位相差を90度の位相差に近づけるものとしたが、これに限定されることなく、チャネル容量を改善することができることを限度として、伝搬チャネルの位相差を任意の所望の値に近づけるものとしてもよい。後述する他の実施形態でも同様である。
【0070】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。
上述した第1の実施形態では、誘電体層1310,1320の比誘電率を印加電圧により制御するが、第2の実施形態では、誘電体層の比誘電率を温度により制御する。第2の実施形態による無線通信システムは、図1に示す無線通信システム1の構成において、レドーム131,132に代えて、図5に示すレドーム131A,132Aを備える。また、制御部140は、レドーム131A,132Aの誘電体層の温度を部分的に制御する。その他の装置構成は、第1の実施形態と同一である。第2の実施形態では、第1実施形態の図1の構成を部分的に援用する。
【0071】
図5は、第2の実施形態におけるレドームの構成を示す説明図である。
レドーム131Aは、温度によって比誘電率が変化する誘電体で構成された誘電体層1310Aと、温度可変部1311A,1312Aとから構成される。温度可変部1311Aは、誘電体層1310A上のアンテナ素子Tx側(上辺側)に配置され、温度可変部1312Aは、アンテナ素子Tx側(下辺側)に配置される。レドーム131Aは、アンテナ素子Txの前方(電波の放射方向)に配置され、アンテナ素子Txから無線送信された信号は、レドーム131A内を通過後に伝搬空間に放射される。
【0072】
同様に、レドーム132Aは、温度によって比誘電率が変化する誘電体で構成された誘電体層1320Aと、温度可変部1321A,1322Aとから構成される。温度可変部1321Aは、誘電体層1320A上のアンテナ素子Tx側(上辺側)に配置され、温度可変部1322Aは、アンテナ素子Tx側(下辺側)に配置される。レドーム132Aは、アンテナ素子Txの前方(電波の放射方向)に配置され、アンテナ素子Txから無線送信された信号は、レドーム132A内を通過後に伝搬空間に放射される。
【0073】
レドーム131A,132Aでは、制御部140により設定される温度に応じて、誘電体層1310A,1320Aの比誘電率が変化する。第1の実施形態で述べた通り、誘電体層1310A,1320A内を伝搬する間の位相回転量は比誘電率に応じて変化する。制御部140は、温度可変部1311Aの温度を制御することにより、レドーム131Aの誘電体層1310Aのアンテナ素子Tx側の部位(図2Bに示す領域R1に対応する領域の部位)の温度を制御する。また、制御部140は、温度可変部1312Aの温度を制御することにより、レドーム131Aの誘電体層1310Aのアンテナ素子Tx側の部位(図2Bに示す領域R2に対応する領域の部位)の温度を制御する。これにより、制御部140は、誘電体層1310Aの比誘電率εと比誘電率εを変化させて、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路における位相回転量と、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路における位相回転量とを変化させ、伝搬チャネルの位相差θH1=tan−1(h21/h11)を調整する。
【0074】
同様に、制御部140は、温度可変部1321Aの温度を制御することにより、レドーム132Aの誘電体層1320Aのアンテナ素子Tx側の部位(図2Bに示す領域R3に対応する領域の部位)の温度を制御する。また、制御部140は、温度可変部1322Aの温度を制御することにより、レドーム132の誘電体層1320Aのアンテナ素子Tx側の部位(図2Bに示す領域R4に対応する領域の部位)の温度を制御する。これにより、制御部140は、誘電体層1320Aの比誘電率εと比誘電率εを変化させて、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路における位相回転量と、アンテナ素子Txからアンテナ素子Rxへの経路における位相回転量とを変化させ、伝搬チャネルの位相差θH2=tan−1(h12/h22)を調整する。
【0075】
制御部140は、伝搬チャネルの位相差θH1と位相差θH2に関する情報を基に、レドームの温度可変部1311A,1312Aおよび温度可変部1321A,1322Aの温度の制御を行う。より具体的には、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2を送信する前に、伝搬チャネルの位相差を推定するためのトレーニング信号を送信し、携帯端末200の位相差推定部240は、トレーニング信号を用いて推定した位相差情報を情報端末100の制御部140にフィードバックする。制御部140は、フィードバックされた位相差θH1とθH2の情報を基に、位相差θH1と位相差θH2がそれぞれ90度の位相差に近づくように、温度可変部1311A,1312Aおよび温度可変部1321A,1322Aの温度の制御を行う。
【0076】
即ち、制御部140は、位相差推定部240により推定された複数の位相差に基づいて、図5に示すレドーム131Aを構成する誘電体層1310Aに印加される温度を与える温度可変部1311A,1312Aの各発熱をそれぞれ制御する。また、制御部140は、位相差推定部240により推定された複数の位相差に基づいて、図5に示すレドーム132Aを構成する誘電体層1320Aに印加される温度を与える温度可変部1321A,1322Aの各発熱をそれぞれ制御する。これにより、制御部140は、所望のチャネル容量が得られるように上記誘電体層の比誘電率を制御する。
なお、第2の実施形態では、送信アレーアンテナ120の二つのアンテナ素子Tx,Txに対応させて二つのレドーム131A,132Aを備えるものとしているが、位相差θH1および位相差θH2を制御することができることを限度として、二つのレドーム131A,132Aを一体化してもよい。この場合、レドーム131Aを構成する誘電体層1310Aとレドーム132Aを構成する誘電体層1320Aとを一体化してもよい。即ち、一つの誘電体層上に上記の各電極対を配置してもよい。
【0077】
次に、図6を参照して、本実施形態における位相差調整のフローチャートについて説明する。
まず、ユーザが情報端末100に携帯端末200をかざす、もしくは設置すると(ステップST21)、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2の信号を送信する前に、トレーニング信号を送信する(ステップST22)。携帯端末200は、トレーニング信号を受信し、位相差推定部240は、複数の送信アンテナ素子Tx,Txに対応した複数の位相差を推定する。そして、位相差推定部240は、伝搬チャネルの位相差を推定した後、位相差情報を制御部にフィードバックする(ステップST23)。
【0078】
制御部140は、位相差推定部240が推定した複数の位相差に基づいて、誘電体層1310,1320の異なる部位ごとに誘電体層の比誘電率を制御する処理を繰り返し行うことにより、所望のチャネル容量が得られるように誘電体層の比誘電率を制御する。具体的には、制御部140は、携帯端末200の位相差推定部240からフィードバックされた位相差の数値が、位相差を基準とした所定の範囲内に収まっているかどうかを判定する(ステップST24)。フィードバックされた位相差の数値が90度の位相差を基準とした所定の範囲内に収まっていれば(ステップST24:YES)、制御部140は、調整を終了し(ステップST26)、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2の信号の送信を開始する。
【0079】
これに対し、携帯端末200からフィードバックされた位相差の数値が90度の位相差を基準とした所定の範囲内に収まっていなければ(ステップST24:NO)、制御部140は、90度の位相差に近づくように、レドーム131の電極対1311P,1311Qおよび電極対1312P,1312Q、並びにレドーム132の電極対1321P,1321Qおよび電極対1322P,1322Qに印加する電圧を制御し、印加電圧強度が制御可能範囲の上限または下限に達しているかを判定する(ステップST25)。そして、制御部140は、フィードバックされた位相差の数値が90度の位相差に近づくように、レドーム131Aの温度可変部1311A,1312Aおよびレドーム132Aの温度可変部1321A,1322Aの温度を制御する(ステップST26)。
【0080】
そして、印加電圧強度が制御可能範囲の上限または下限に達していなければ(ステップST25:NO)、上記位相差を90度の位相差に近づけるように、レドーム131Aの温度可変部1311A,1312Aおよびレドーム132Aの温度可変部1321A,1322Aの温度を繰り返し制御する(ステップST26)。そして、上記の繰り返し処理の過程で、90度の位相差からのずれが所定の範囲内に収まると(ステップST25:YES)、制御部140は、調整を終了し(ステップST27)、情報端末100は、信号の送信を開始する。
【0081】
次に、図7に示すシミュレーションによる評価結果を参照して本発明の有効性を示す。
図7は、本発明の第2の実施形態における位相差調整の効果を示す図である。図7において、横軸は図2に示す送信アレーアンテナ120と受信アレーアンテナ210の位置ずれΔx(mm)を示し、左側の縦軸は、位相差θH1と位相差θH2を示し、右側の縦軸は、誘電体層1310A,1320Aの比誘電率を示しており、比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εと比誘電率ε図7に示す値になるときに、位相差θH1と位相差θH2図7に示す位相差の値となる。
【0082】
比較のため、本発明のレドームを用いない通常の2×2MIMO伝送の場合の位置ずれに対する位相差の特性も示している。ここで、温度によって比誘電率が変化する誘電体として例えばポリオキシメチレン(POM)があり、本評価ではPOMの比誘電率の可変範囲である2.9〜4.7を用いて評価を行った。周波数は60.48GHz、送受信間隔Dは30mm、送信アレーアンテナ120および受信アレーアンテナ210の素子間隔dは、本発明のレドームを用いる場合は6.8mmに設定し、レドームを用いない場合は8.7mmに設定した。レドーム131A,132Aの厚さTは20mmとした。図7に示すように、レドームを用いない場合は位置ずれΔxが大きくなるにつれて、位相差θH1とθH2が90度の位相差からずれていく。これに対し、本発明のレドームを用いることで、位相差θH1と位相差θH2が90度位相差に近づいている。
なお、温度可変部の形状および配置は図5に示すものに限定されることはなく、誘電体層のアンテナ素子Tx側の部位とアンテナ素子Tx側の部位とで個別に比誘電率を制御できる構成であればよい。
【0083】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。
上述した第1の実施形態および第2の実施形態では、誘電体層の比誘電率を徐々に変化させ伝搬チャネルの位相差を90度に近づけていくものとしたが、第3の実施形態は、データベースから制御値を参照して一度の処理で90度の位相差に近づける。これにより、データ通信開始前の調整時間を短縮することを可能とする。第3の実施形態では、第1の実施形態の図1および図2Aに示す構成と、第2の実施形態の図5に示す構成を部分的に援用する。
【0084】
図8は、本発明の第3の実施形態における無線通信システム3の概略構成を示す構成図である。図8に示す第3の実施形態による無線通信システム3は、上述の図1に示す第1の実施形態による無線通信システム1の構成において、設定値DB(データベース)150を更に備える。設定値DB150は、レドーム131,132を構成する誘電体層の比誘電率の任意の初期値εにおける送信アレーアンテナ120と受信アレーアンテナ210との間の位置ずれΔxに対する複数の位相差θH1’とθH2’と、その位置ずれ量Δxにおいて位相差θH1’とθH2を所望の90度の位相差に近づけるための比誘電率の最適値ε’,ε’,ε’,ε’の組み合わせとを対応付けたテーブルを保持する。
【0085】
制御部140は、携帯端末200からフィードバックされた推定された位相差情報に基づいて、設定値DB150から位相差θH1’とθH2’を所望の90度の位相差に近づけるための誘電体層1310,1320の比誘電率の最適値ε’,最適値ε’,ε’,ε’の組み合わせを取得し、誘電体層1310,1320の比誘電率ε,ε,ε,εがそれぞれ最適値ε’,ε’,ε’,ε’になるように、図2Aに示す第1の実施形態における電極1311P,1311Q,1312P,1312Q,1321P,1321Q,1322P,1322Qの印加電圧強度を制御する。または、制御部140は、誘電体層1310,1320の比誘電率ε,ε,ε,εがそれぞれ最適値ε’,ε’,ε’,ε’になるように、図5に示す第2実施形態における温度可変部1311A,1312A,1321A,1322Aの温度を制御する。その他は第1実施形態または第2の実施形態と同様である。
【0086】
次に、図9を参照して、本実施形態における位相差調整のフローチャートについて説明する。
まず、ユーザが情報端末100に携帯端末200をかざす、もしくは設置すると(ステップST31)、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2の信号を送信する前に、トレーニング信号を送信する(ステップST32)。携帯端末200は、トレーニング信号を受信し、位相差推定部240が、伝搬チャネルの位相差を推定した後、位相差情報を制御部にフィードバックする(ステップST33)。フィードバックされた位相差の数値が90度の位相差を基準とした所定の範囲内に収まっていれば(ステップST34:YES)、制御部140は、調整を終了し(ステップST36)、情報端末100は、データ系列S1およびデータ系列S2の信号の送信を開始する。
【0087】
これに対し、携帯端末200からフィードバックされた位相差の数値が90度の位相差を基準とした所定の範囲内に収まっていなければ(ステップST34:NO)、制御部140は、設定値DB150から、位相差θH1’とθH2’を90度の位相差に近づけるための比誘電率の最適値を取得し、レドーム131,132の誘電体層の比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εが最適値になるように、図2Aに示す第1の実施形態における電極1311P,1311Q,1312P,1312Q,1321P,1321Q,1322P,1322Qの印加電圧強度を制御する(ステップST35)。または、制御部140は、レドーム131,132の誘電体層の比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εと比誘電率εが最適値になるように、図5に示す第2実施形態における温度可変部1311A,1312A,1321A,1322Aの温度を制御する(ステップST35)。その後、情報端末100は、信号の送信を開始する。
【0088】
上述した各実施形態では、本発明を無線通信システムとして表現したが、本発明は、無線通信方法として表現することもできる。この場合、第1の実施形態による無線通信システムに対応した本発明による無線通信方法は、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナと、前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される電界強度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と、前記誘電体層を挟むように配置され、前記誘電体層に前記電界を印加するための電極対とを具備する複数のレドームと、を備えた無線通信システムによる無線通信方法であって、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定手順と、前記位相差推定手順により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される電界を形成する前記電極対の印加電圧を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御手順と、を含むことを特徴とする無線通信方法として表現することができる。
上記の第1の実施形態による無線通信システムに対応した無線通信方法において、位相差推定手順は、第1の実施形態における位相差推定部240の動作または処理に相当し、制御手順は、第1の実施形態における制御部140の動作または処理に相当する。
【0089】
また、第2の実施形態による無線通信システムに対応した本発明による無線通信方法は、複数の送信アンテナ素子から構成された送信アレーアンテナと、複数の受信アンテナ素子から構成された受信アレーアンテナと、前記送信アレーアンテナと前記受信アレーアンテナとの間に配置され、印加される温度に応じて比誘電率が変化する誘電体層と、前記誘電体層に配置され、前記誘電体層の温度調節を行うための温度可変部とを具備する複数のレドームと、を備えた無線通信システムによる無線通信方法であって、前記送信アレーアンテナの各送信アンテナ素子と前記受信アレーアンテナの各受信アンテナ素子との間に形成される伝搬チャネルの位相差を推定する位相差推定手順と、前記位相差推定手順により推定された前記位相差に基づいて、前記誘電体層に印加される温度を与える前記温度可変部の発熱を制御することにより、所望のチャネル容量が得られるように前記誘電体層の比誘電率を制御する制御手順と、を含むことを特徴とする無線通信方法として表現することができる。
上記の第2の実施形態による無線通信システムに対応した無線通信方法において、位相差推定手順は、第2の実施形態における位相差推定部240の動作または処理に相当し、制御手順は、第2の実施形態における制御部140の動作または処理に相当する。
【0090】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意の変形や修正等が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1,3…無線通信システム、100…情報端末、111,112…送信部、120…アレーアンテナ、131,132,131A,132A…レドーム、140…制御部、150…設定値DB(データベース)、200…携帯端末、210…アレーアンテナ、220…ウェイト演算部、231,232…受信部、240…位相差推定部、1310,1320,1310A,1320A…誘電体層、1311P,1311Q,1312P,1312Q,1321P,1321Q,1322P,1322Q…電極、1311A,1312A,1321A,1322A…温度可変部、Tx,Tx,Rx,Rx…アンテナ素子、ST1〜ST7,ST21〜ST27,ST31〜ST36…処理ステップ。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12