(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高屈折率膜と、前記高屈折率膜に対して前記透明基板側とは反対側に隣接して配置される前記低屈折率膜とからなる積層単位を複数有し、前記透明基板に最も近い積層単位および前記透明基板から最も離れた積層単位を除いた残部の積層単位の部分について、前記高屈折率膜の光学膜厚L1および前記低屈折率膜の光学膜厚L2から以下の式により求められる光学膜厚比Lが0.22を超えて0.50未満である積層単位の個数が2以下である請求項1乃至8のいずれか1項記載の近赤外線カットフィルタ。
L=L1/L2
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、近赤外線カットフィルタの実施形態について説明する。
【0016】
図1は、近赤外線カットフィルタ10の一実施形態を示す断面図である。近赤外線カットフィルタ10は、透明基板11と、この透明基板11上に設けられた光学多層膜12とを有する。
【0017】
透明基板11は、可視波長域の光を透過できるものであれば特に限定されない。透明基板11の材料として、例えば、ガラス、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。透明基板11の波長500nmにおける屈折率は、1.46以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、透明基板11の波長500nmにおける屈折率は、1.8以下が好ましく、1.6以下がより好ましい。
【0018】
透明基板11には、近赤外波長域の光を吸収するものを使用できる。近赤外波長域の光を吸収する透明基板11を用いることで、人間の視感度特性に近い画質を得ることができる。近赤外波長域の光を吸収する透明基板11としては、例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラスにCu
2+(イオン)が添加された吸収型ガラスが挙げられる。また、樹脂材料中に近赤外線を吸収する吸収剤を添加したものを使用してもよい。吸収剤としては、例えば、染料、顔料、金属錯体系化合物が挙げられ、具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属系錯体系化合物が挙げられる。
【0019】
光学多層膜12は、例えば、
図2に示すように、波長500nmにおける屈折率が2.0以上である高屈折率膜12aと、波長500nmにおける屈折率が1.6未満である低屈折率膜12bとの交互積層構造を有する。光学多層膜12は、透明基板11の一方の主面にのみ設けられることが好ましいが、透明基板11の両主面に分割して設けられてもよい。
【0020】
光学多層膜12は、近赤外線カットフィルタ10の分光透過率特性が光の入射角に応じて以下の特性を満たすように構成される。なお、赤外カットフィルタ10の光透過面に垂直に光が入射する場合、光の入射角を0度とする。
【0021】
光の入射角が0度(垂直入射)のとき、450nm以上550nm未満の波長範囲の少なくとも一部に、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1からの透過率T
2の差(T
1−T
2)が1.65%以上となる部分を有する。
【0022】
光の入射角が40度のとき、450nm以上550nm未満の波長範囲の少なくとも一部に、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
3からの透過率T
4の差(T
3−T
4)が3.5%以上となる部分を有する。また、光の入射角が40度のとき、450nm以上550nm未満の波長範囲の全域で、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
3からの透過率T
4の差(T
3−T
4)が7.0%以下である。
【0023】
従来の近赤外線カットフィルタは、主として光の入射角が小さいときのリップルの発生を抑制している。例えば、光の入射角が0度のとき、透過帯の一部である450nm以上550nm未満の波長範囲の全域で、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1からの透過率T
2の差(T
1−T
2)が1.65%未満となるようにしている。一方、従来の近赤外線カットフィルタでは、光の入射角が大きいときのリップルの発生は抑制されていない。例えば、光の入射角が40度のとき、450nm以上550nm未満の波長範囲に、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
3からの透過率T
4の差(T
3−T
4)が7.0%を超えるような大きなリップルが発生する。
【0024】
実施形態の近赤外線カットフィルタ10では、特定の分光透過率特性とすることで、光の入射角によらずに過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制できる。具体的には、光の入射角が小さいときに、特定の波長範囲に一定程度の大きさのリップルを有するとともに、光の入射角が大きいときに、特定の波長範囲に一定程度の大きさのリップルを有する構成とすることで、光の入射角によらずに過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制できる。
【0025】
以下、近赤外線カットフィルタ10の分光透過率特性について具体的に説明する。
【0026】
まず、光の入射角が0度のときの分光透過率特性について説明する。分光透過率特性は、例えば、450〜700nmの波長範囲に平均透過率T
1が85%以上となるような透過帯を有する。通常、透過帯の紫外側には紫外側阻止帯が形成され、また透過帯の赤外側には赤外側阻止帯が形成される。450〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1は、87%以上が好ましく、89%以上がより好ましい。
【0027】
450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1からの透過率T
2の差(T
1−T
2)が1.65%以上となる部分は、450nm以上550nm未満の波長範囲にあればよいが、500nm以上550nm未満の波長範囲にあることが好ましい。以下、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1からの透過率T
2の差を単に透過率差(T
1−T
2)と記す。また、450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1を単に平均透過率T
1と記す。
【0028】
透過率差(T
1−T
2)が1.65%以上となる部分のうち、透過率差(T
1−T
2)が最も大きくなる部分、すなわち透過率T
2が最も低くなる部分は、500nm以上550nm未満の波長範囲にあることが好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制できる。
【0029】
さらに、透過率差(T
1−T
2)が1.65%以上となる部分は、500nm以上550nm未満の波長範囲にあるとともに、450nm以上500nm未満の波長範囲にあることが好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制できる。
【0030】
透過率差(T
1−T
2)が1.65%以上となる部分は、リップルの極小値部分、すなわち透過率T
2の極小値部分であることが好ましい。すなわち、450nm以上550nm未満の波長範囲に、平均透過率T
1からの極小値の差が1.65%以上となるリップルを少なくとも1つ有することが好ましい。500nm以上550nm未満の波長範囲に、平均透過率T
1からの極小値の差が1.65%以上となるリップルを少なくとも1つ有することがより好ましい。
【0031】
特に、500nm以上550nm未満の波長範囲に平均透過率T
1からの極小値の差が1.65%以上となるリップルを少なくとも1つ有するとともに、450nm以上500nm未満の波長範囲に、平均透過率T
1からの極小値の差が1.65%以上となるリップルを少なくとも1つ有することが好ましい。なお、少なくとも極小値が上記範囲内にあれば、上記範囲内にリップルがあるものとする。
【0032】
450nm以上550nm未満の波長範囲の透過率T
2は、その全域で85%以上が好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を効果的に抑制できる。450nm以上550nm未満の波長範囲の透過率T
2は、その全域で88%以上がより好ましく、92%以上がさらに好ましい。
【0033】
550nm以上700nm未満の波長範囲の透過率T
5は、その全域で90%以上が好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を効果的に抑制できる。550nm以上700nm未満の波長範囲の透過率T
5は、その全域で91%以上がより好ましく、92%以上がさらに好ましく、93%以上が特に好ましい。
【0034】
次に、光の入射角が40度のときの分光透過率特性について説明する。450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
3からの透過率T
4の差(T
3−T
4)が3.5%以上となる部分は、450nm以上550nm未満の波長範囲にあればよい。上記部分は、450nm以上500nm未満の波長範囲にあることが好ましく、455nm以上490nm未満の波長範囲にあることがより好ましい。このような分光透過率特性とすることで、入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制できる。透過率差(T
3−T
4)が3.5%以上となる部分は、さらに透過率差(T
3−T
4)が3.9%以上となる部分を有することが好ましい。
【0035】
また、透過率差(T
3−T
4)が3.5%以上となる部分のうち、透過率差(T
3−T
4)が最も大きくなる部分、すなわち透過率T
4が最も低くなる部分は、450nm以上500nm未満の波長範囲にあることが好ましく、455nm以上490nm未満の波長範囲にあることがより好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制できる。
【0036】
透過率差(T
3−T
4)が3.5%以上となる部分は、リップルの極小値部分、すなわち透過率T
4の極小値部分であることが好ましい。すなわち、450nm以上550nm未満の波長範囲に、平均透過率T
3からの極小値の差が3.5%以上となるリップルを少なくとも1つ有することが好ましい。また、このような平均透過率T
3からの極小値の差が3.5%以上となるリップルを含めて、450nm以上550nm未満の波長範囲に、平均透過率T
3からの極小値の差が1.0%以上となるリップルを2つ以上有することが好ましく、3つ以上有することがより好ましい。さらに、平均透過率T
3からの極小値の差が1.0%以上となるリップルが複数ある場合、平均透過率T
3からの極小値の差が3.5%以上となるリップルから高波長側のリップルに向かって、極小値が高くなることが好ましい。
【0037】
450nm以上550nm未満の波長範囲の透過率T
4は、その全域で85%以上が好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を効果的に抑制できる。450nm以上550nm未満の波長範囲の透過率T
4は、その全域で86%以上がより好ましく、87%以上がさらに好ましい。
【0038】
550nm以上700nm未満の波長範囲の透過率T
6は、その全域で90%以上が好ましい。このような分光透過率特性とすることで、さらに入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を効果的に抑制できる。550nm以上700nm未満の波長範囲の透過率T
6は、その全域で91%以上がより好ましく、92%以上がさらに好ましい。
【0039】
近赤外線カットフィルタ10は、上記分光透過率特性に加えて、入射角が0度のときの分光透過率特性が以下を満たすことが好ましい。
【0040】
透過帯に対して紫外側となる半値波長(透過率が50%となる波長)と近赤外側となる半値波長との差(半値波長差)は、200nm以上が好ましく、250nm以上がより好ましく、300nm以上がさらに好ましい。半値波長差は、500nm以下が好ましい。
【0041】
透過帯に対して紫外側となる半値波長は、350〜450nmが好ましく、380〜420nmがより好ましく、390〜405nmがさらに好ましい。透過帯に対して近赤外側となる半値波長は、650〜900nmが好ましく、700〜870nmがより好ましく、750〜860nmがさらに好ましい。
【0042】
透過帯に対して紫外側となる半値波長の入射角が0度と40度のときの差(紫外側移動量)は、25nm以下が好ましく、23nm以下が好ましい。紫外側移動量は、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。一方、透過帯に対して近赤外側となる半値波長の入射角が0度と40度のときの差(近赤外側移動量)は、65nm以下が好ましく、63nm以下がより好ましい。近赤外側移動量は、50nm以上が好ましく、55nm以上がより好ましい。
【0043】
近赤外線カットフィルタ10は、光の入射角が0度から40度のとき、870〜1100nmの波長範囲の平均透過率が3%以下であることが好ましい。このような条件を満足する場合、近赤外線を十分に遮断して、近赤外線カットフィルタとしての特性に優れたものとなる。上記平均透過率は、2%以下であることがより好ましい。
【0044】
さらに、近赤外線カットフィルタ10は、光の入射角が0度〜80度のいずれでも無彩色(白色)の反射色を有することが好ましい。なお、反射色は、便宜的に「JIS Z8110:1995 色の表示方法−光源色の色名」の「参考付
図1 系統色名」における一般的な色度区分に基づく。
【0045】
光学多層膜12は、例えば、((L/2)(M/2)H(M/2)(L/2))構造部と、((L/2)H(L/2))構造部と、中屈折率膜Mが高屈折率膜Hと低屈折率膜Lとに振り分けられた等価膜置換の構造と、を有する。このような構成とするとともに、後述するような方法によって各膜の厚さを微調整することで、所定の分光透過率特性を得ることができる。
【0046】
ここで、「(L/2)(M/2)H(M/2)(L/2)」は、光学膜(L/2)、光学膜(M/2)、光学膜H、光学膜(M/2)、および光学膜(L/2)が順に積層されていることを意味する。「(L/2)H(L/2)」は、光学膜(L/2)、光学膜H、および光学膜(L/2)が順に積層されていることを意味する。
【0047】
光学膜Hは、1/4波長の光学膜厚の高屈折率膜を意味する(波長500nmでは、125nmの光学膜厚)。光学膜(M/2),(L/2)はそれぞれ、1/8波長の光学膜厚の中屈折率膜、低屈折率膜を意味する(波長500nmでは、62.5nmの光学膜厚)。
【0048】
高屈折率膜は、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の光学膜である。中屈折率膜は、波長500nmにおける屈折率が1.6以上かつ前記高屈折率膜の屈折率未満の光学膜である。低屈折率膜は、波長500nmにおける屈折率が1.6未満の光学膜である。
【0049】
光学多層膜12は、例えば、((L/2)H(L/2))構造部が((L/2)(M/2)H(M/2)(L/2))構造部によって挟持された構造を有する。また、((L/2)(M/2)H(M/2)(L/2))構造部と((L/2)H(L/2))構造部とは、透明基板11側からこの順に、またはこれとは逆の順に積層されてもよい。((L/2)(M/2)H(M/2)(L/2))構造部、((L/2)H(L/2))構造部は、それぞれ2以上の部分に分割されて積層できる。なお、これらの場合にも、中屈折率膜Mが高屈折率膜Hと低屈折率膜Lとに振り分けられた等価膜置換の構造を有することが好ましい。このような構成とすることで、効果的に所定の分光透過率特性を得ることができる。
【0050】
光学多層膜12の具体的構成は、例えば、入射角を0度として適正化を行うとともに、入射角を40度として適正化を行うことにより得られる。例えば、高屈折率膜12aおよび低屈折率膜12bの各膜の厚さは、入射角を0度として適正化を行うとともに、入射角を40度として適正化を行うことにより得られる。具体的には、入射角を0度としてリップルの発生を評価した後、入射角を40度としてリップルの発生を評価する。このような一連の工程を繰り返して行い、入射角が0度のときのリップルの発生と入射角が40度のときのリップルの発生とのいずれもが少なくなるように各層の厚さを微調整する。このような工程は、膜構造から光学多層膜の分光透過率特性をシミュレーションできるソフトウエアを活用して行うことができる。
【0051】
なお、上記シミュレーションは、入射角が0度と40度との組み合わせに限定されない。入射角の組み合わせは、デジタルカメラ等の光学機器の広角化に伴って求められる固体撮像素子への入射角を適宜使用できる。例えば、入射角が0度と45度との組み合わせによりシミュレーションを行うことにより、各層の厚さを適正化してもよい。
【0052】
高屈折率膜12aは、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の材料からなるものであれば特に限定されない。屈折率が高いほど、少ない層数、薄い膜厚で遮断帯を形成できる。屈折率は、2.2以上がより好ましい。このような高屈折率の材料としては、例えば、酸化チタン(TiO
2)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
5)またはこれらの複合酸化物からなるものが好適に挙げられる。また、屈折率が2.0以上であれば、添加物を含有していても構わない。なお、屈折率が高過ぎると透過帯のリップルが発生しやすくなる等の問題により光学設計が難しくなる。このため、屈折率は、2.8以下が好ましく、信頼性の点から2.5以下がより好ましい。
【0053】
低屈折率膜12bは、波長500nmにおける屈折率が1.6未満の材料からなるものであれば特に限定されない。屈折率が低いほど、少ない層数、薄い膜厚で遮断帯を形成できる。屈折率は、1.5未満がより好ましい。このような低屈折率の材料としては、例えば、酸化ケイ素(SiO
2)が好適に挙げられる。また、屈折率が1.6未満であれば、添加物を含有していても構わない。なお、屈折率が低過ぎると透過帯のリップルが発生しやすくなる等の問題により光学設計が難しくなる。このため、屈折率は、1.2以上が好ましく、信頼性の点から1.3以上がより好ましい。
【0054】
高屈折率膜12aと低屈折率膜12bとを合わせた全体の層数は、35以上80以下が好ましい。高屈折率膜12aと低屈折率膜12bとを合わせた全体の物理膜厚は、3μm以上6μm以下が好ましい。高屈折率膜12aおよび低屈折率膜12bの中では、透明基板11から最も離れた膜は低屈折率膜12bが好ましい。
【0055】
光学多層膜12は、基本的に高屈折率膜12aとこれに隣接する低屈折率膜12bとからなる複数の積層単位を有する。なお、各積層単位を構成する低屈折率膜12bは、通常、高屈折率膜12aの両主面側のうち透明基板11から離れた主面側に配置される低屈折率膜12bである。
【0056】
光学多層膜12が複数の積層単位から構成される場合、透明基板11に最も近い積層単位および透明基板11から最も離れた積層単位を除いた残部の積層単位の部分については、高屈折率膜12aの光学膜厚L
1および低屈折率膜12bの光学膜厚L
2から以下の式により求められる光学膜厚比Lが0.22を超えて0.50未満である積層単位の個数が2以下であることが好ましい。なお、光学膜厚L
1、L
2は、各膜の物理膜厚と屈折率との積として求められる。
L=L
1/L
2
【0057】
透明基板11に最も近い積層単位については、透明基板11との屈折率の調整のために光学膜厚比Lが上記範囲の範囲外となる場合がある。透明基板11から最も離れた積層単位は、光学多層膜12の表面に機能膜が形成されるときの機能膜との屈折率の調整、または機能膜が形成されないときの空気との屈折率の調整等のために光学膜厚比Lが上記範囲の範囲外となる場合がある。光学多層膜12における両端部の積層単位を除いた残部の積層単位の部分について、光学膜厚比Lが0.22を超えて0.50未満である積層単位の個数が2以下である場合、リップルの発生および反射色の変化を効果的に抑制できる。同部分については、光学膜厚比が0.22を超えて0.50未満である積層単位の個数は、1以下であることが好ましく、0がより好ましい。
【0058】
高屈折率膜12a、低屈折率膜12bは、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法により形成することができる。特に、高屈折率膜12a、低屈折率膜12bは、スパッタリング法、真空蒸着法により形成することが好ましい。透過帯は、CCD、CMOS等の固体撮像素子の受光に利用される波長帯域であり、その膜厚精度が重要となる。スパッタリング法、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法は、薄膜を形成する際の膜厚制御に優れる。このため、高屈折率膜12a、低屈折率膜12bの膜厚の精度を高めることができ、その結果、リップルを抑制することができる。
【0059】
なお、近赤外線カットフィルタ10には、光学多層膜12に加えて、光学多層膜12以外の機能膜が設けられていてもよい。機能膜は、光学多層膜12の両主面のうち透明基板11が設けられる主面とは反対側の主面等に設けられることが好ましい。なお、機能膜は、透明基板11の両主面のうち光学多層膜12が設けられる主面とは反対側の主面に設けられてもよい。機能膜としては、付着力強化層、帯電防止層、防汚層としての防指紋表面加工層(AFP:Anti Finger Print)等が挙げられる。機能膜は、屈折率が低いほど界面反射が小さくなる。このため、機能膜の波長500nmにおける屈折率は、1.5未満が好ましく、1.4未満がより好ましい。また、機能膜の波長500nmにおける屈折率は、材料の入手のしやすさから、1.1以上が好ましく、信頼性の点から1.2以上がより好ましい。
【0060】
近赤外線カットフィルタ10は、撮像装置、自動露出計等の視感度補正フィルタとして好適に使用できる。撮像装置は、固体撮像素子を有するとともに、この固体撮像素子の撮像面側に少なくとも近赤外線カットフィルタ10を有するものである。
【0061】
図3は、近赤外線カットフィルタ10が適用される撮像装置の一実施形態を示す構成図である。
【0062】
撮像装置100は、例えば、カバーガラス110、レンズ群120、絞り130、ローパスフィルタ140、固体撮像素子150、および筐体160を有する。カバーガラス110、レンズ群120、絞り130、ローパスフィルタ140、および固体撮像素子150は、光軸に沿って配置される。
【0063】
カバーガラス110は、固体撮像素子150の撮像面側(レンズ群120側)に配置され、外部環境から固体撮像素子150を保護する。
【0064】
レンズ群120は、固体撮像素子150の撮像面側に配置される。レンズ群120は、複数のレンズL1、L2で構成され、入射する光を固体撮像素子150の撮像面へと導光する。
【0065】
絞り130は、レンズ群120のレンズL1とレンズL2との間に配置される。絞り130は、通過する光の量を調整可能に構成されている。
【0066】
ローパスフィルタ140は、レンズ群120と固体撮像素子150との間に配置される。ローパスフィルタ140は、モアレや偽色を抑制する。
【0067】
固体撮像素子150は、例えば、Charge Coupled Device(CCD)イメージセンサやComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)イメージセンサである。固体撮像素子150は、入力される光を電気信号に変換して、図示しない画像信号処理回路へ出力する。
【0068】
筐体160は、レンズ群120、絞り130、ローパスフィルタ140、および固体撮像素子150を収容する。
【0069】
撮像装置100では、被写体側より入射した光が、カバーガラス110、レンズ群120、絞り130、およびローパスフィルタ140を通って固体撮像素子150に入射する。この入射した光が固体撮像素子150によって電気信号に変換され、画像信号として出力される。
【0070】
近赤外線カットフィルタ10は、例えば、カバーガラス110、レンズ群120、すなわち、レンズL1、L2、ローパスフィルタ140として用いられる。言い換えれば、近赤外線カットフィルタ10の光学多層膜12は、従来の撮像装置のカバーガラス、レンズ群、ローパスフィルタを透明基板11とし、この透明基板11の表面に設けられる。
【0071】
カバーガラス110、レンズ群120、ローパスフィルタ140に近赤外線カットフィルタ10を適用することで、入射角によらず過度なリップルの発生および過度な反射色の変化を抑制でき、特性に優れるとともに、外観も良好にできる。
【0072】
なお、近赤外線カットフィルタ10の適用範囲は、必ずしも、カバーガラス110、レンズ群120、ローパスフィルタ140に限定されない。例えば、近赤外線カットフィルタ10は、これらのものから独立して設けてもよく、また固体撮像素子もしくはそのパッケージに直接貼着してもよい。
【0073】
このような撮像装置100は、例えば、撮像機能を有する電子機器の内部に配置されて使用される。電子機器は、図示しないが、例えば、機器本体と、この機器本体の内部に少なくとも一部が収容されるとともに、他の部分が外部に露出して配置される撮像装置100とを有する。撮像装置100は、例えば、カバーガラス110が外部に露出するように機器本体に収容される。
【0074】
カバーガラス110が外部に露出する場合、このカバーガラス110が外部から視認できることから外観が良好であることが求められる。このようなカバーガラス110に実施形態の近赤外線カットフィルタ10を適用することで、光の入射角によらずに過度なリップルの発生を抑制して良好な撮像画質を得られるとともに、光の入射角によらずに過度な反射色の変化を抑制して外観を良好にできる。
【0075】
電子機器としては、携帯電話機、スマートフォン、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等が挙げられる。これらの中でも、携帯電話機、スマートフォン、デジタルスチルカメラ等の携帯型電子機器が好適なものとして挙げられ、特に、携帯電話機、スマートフォンが好ましい。
【実施例】
【0076】
次に実施例を参照して具体的に説明する。
【0077】
(実施例1)
近赤外線カットフィルタは、透明基板(白板ガラス、厚さ0.45mm)と、この透明基板の一方の主面に光学多層膜が設けられたものとした。光学多層膜は、表1に示すような酸化ニオブ(高屈折率膜、波長500nmにおける屈折率2.38)と酸化ケイ素(低屈折率膜、波長500nmにおける屈折率1.46)との交互積層構造を有するものとした。なお、表中、層数は透明基板側からの層数を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例2)
光学多層膜の構成を表2に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。
【0080】
【表2】
【0081】
(実施例3)
光学多層膜の構成を表3に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。
【0082】
【表3】
【0083】
(実施例4)
透明基板をサファイア(厚さ0.3mm)に変更し、光学多層膜の構成を表4に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。
【0084】
【表4】
【0085】
(実施例5)
光学多層膜を表5に示すような酸化チタン(高屈折率膜、波長500nmにおける屈折率2.47)と酸化ケイ素(低屈折率膜、波長500nmにおける屈折率1.46)との交互積層構造とした以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。
【0086】
【表5】
【0087】
(実施例6)
光学多層膜を表6に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。
【0088】
【表6】
【0089】
(比較例1)
光学多層膜の構成を表7に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。なお、比較例1の近赤外線カットフィルタは、入射角を0度としてのみリップルの発生の評価を行い、入射角を40度としたリップルの発生の評価は行わずに、各膜の厚みを微調整したものである。
【0090】
【表7】
【0091】
(比較例2)
光学多層膜の構成を表8に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様の近赤外線カットフィルタとした。なお、比較例2の近赤外線カットフィルタは、入射角を0度としてのみリップルの発生の評価を行い、入射角を40度としたリップルの発生の評価は行わずに、各膜の厚みを微調整したものである。
【0092】
【表8】
【0093】
実施例および比較例の近赤外線カットフィルタについて、自作の光学薄膜シミュレーションソフトと市販のソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて、入射角を変化させたときの分光特性を求めた。
【0094】
図4〜27に、各実施例および比較例の近赤外線カットフィルタの分光特性を示す。なお、分光特性は、各実施例および比較例の近赤外線カットフィルタについて、分光透過率特性(350〜1050nmの波長範囲および350〜850nmの波長範囲)、分光反射率特性(350〜850nm)の順に示した。ここで分光反射率は透明基板側から入射した光に対する反射率を表わす。
【0095】
表9に、各実施例および比較例の近赤外線カットフィルタについて、入射角が0度と40度のときの450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率T
1、T
3、450nm以上550nm未満の波長範囲の透過率T
2、T
4の最小値T
7、T
8、平均透過率T
1、T
3と最小値T
7、T
8との差(T
1−T
7)、(T
3−T
8)を示す。表10に、各実施例および比較例の近赤外線カットフィルタについて、入射角が0度と40度のときの半値波長を示す。表11に、各実施例および比較例の近赤外線カットフィルタについて、入射角が、0度、10度、20度、30度、および40度のときの450nm〜700nmの波長範囲の平均透過率を示す。
【0096】
【表9】
【0097】
【表10】
【0098】
【表11】
【0099】
さらに、表12〜14に、各実施例および比較例の近赤外線カットフィルタについて、青、緑、赤の平均反射率、およびCIE1931表色系において算出される色度(x,y)を示す。また、表12〜14の色度(x,y)を
図28〜35に示す。色度(x,y)は、透明基板側からみた反射に対する色度である。
【0100】
なお、本発明では、波長500nmにおける透明基板および各膜の屈折率を代表値として使用しているが、シミュレーション上は屈折率の波長依存性を考慮した。屈折率には、分散などと呼ばれる波長依存性がある。例えば、300〜1300nmの波長範囲において、本発明に使用される透明基板材料および膜物質などでは、波長が短いほど屈折率が大きく、波長が長くなると屈折率は小さくなる傾向がある。これら波長−屈折率の関係は線形関係ではない。
【0101】
【表12】
【0102】
【表13】
【0103】
【表14】
【0104】
上記結果から明らかなように、実施例の近赤外線カットフィルタは、入射角によらず平均透過率からの透過率の差が7.0%以下となり、過度なリップルの発生が抑制されている。また、実施例の近赤外線カットフィルタは、入射角によらず過度な反射色の変化が抑制されている。一方、比較例の近赤外線カットフィルタは、入射角が小さいときにはリップルが抑制されているが、入射角が大きくなると平均透過率からの透過率の差が7.0%を超えるような大きなリップルが発生する。
【0105】
上記は入射角0度および40度で適正化を行った結果であるが、入射角0度と40度と異なる入射角(たとえば45度)で適正化を行うことにより、過度なリップルの発生および過度の反射色の変化を抑制しても良い。