(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硫黄含有量が100質量ppm以上1.0質量%以下、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm以下、TG−DTA測定による質量減少開始温度が300℃未満である水酸化ニッケル粉末を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化ニッケル微粉末製造原料用の水酸化ニッケル粉末の製造方法。
硫黄含有量が50質量ppm以下、塩素含有量が50質量ppm以下、ナトリウム含有量が100質量ppm以下であり、且つレーザー散乱法で測定したD50が0.5μm以下である酸化ニッケル微粉末を得ることを特徴とする請求項5又は6に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化ニッケル粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉やプッシャー炉等の連続炉あるいはバーナー炉等のバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル粉末は多様な用途に用いられており、例えば、電子部品材料としての用途では、酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合された後、焼結されることによりフェライト部品等として広く用いられている。
【0003】
上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、その生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、一般的に使用する原料としては微細な粉末が用いられる。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温且つ短時間の焼成処理で反応が均一に進むことが知られている。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料粉末の粒径を小さくすることが生産効率向上の重要な要素となる。
【0004】
また、近年では固体酸化物形燃料電池が環境及びエネルギーの両面から新しい発電システムとして期待され、その電極材料として酸化ニッケル粉末が使用されている。一般に、固体酸化物形燃料電池のセルスタックは、空気極、固体電解質及び燃料極を有する単セルが順次積層された構造を有している。通常、燃料極としては、例えばニッケル又は酸化ニッケルと安定化ジルコニアからなる固体電解質を混合したものが用いられている。燃料極は、発電時に水素や炭化水素といった燃料ガスにより還元されてニッケルメタルとなり、ニッケルと固体電解質と空隙からなる三相界面が燃料ガスと酸素の反応場となるため、フェライト部品の場合と同様に原料粉末の粒径を小さくして微細にすることが発電効率向上の重要な要素となる。
【0005】
ところで、粉体が微細であることを測る指標としては、粒径以外に比表面積も用いられている。粒径と比表面積には下記数式1の関係があることが知られている。下記数式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、粒径が小さいほど比表面積は大きくなることが分る。
【0006】
[数式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
【0007】
近年においては、フェライト部品の高機能化、並びに酸化ニッケル粉末のフェライト部品以外の電子部品等への用途の拡大に伴い、酸化ニッケル粉末に含有される不純物元素の低減が求められている。これら不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極の劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることから、できるだけ低減することが望ましいとされる。また、ナトリウムは、フェライト部品の焼成時に焼結を阻害するため、低減することが望ましいとされる。
【0008】
従来から、酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、原料として硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が知られている。例えば、特許文献1に記載されているように、硫酸ニッケルを原料として、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度を950〜1000℃未満とする第1段焙焼と、焙焼温度を1000〜1200℃とする第2段焙焼とを行う酸化ニッケル粉末の製造方法がある。特許文献1によれば、この方法によって平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られるとしている。
【0009】
また、特許文献2には、450〜600℃の仮焼による原料の硫酸ニッケルの脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。特許文献2によれば、この方法によって硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できるとしている。
【0010】
更に、特許文献3には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として硫酸ニッケルを焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られるとしている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1〜3のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると、得られる酸化ニッケル粉末の粒径が粗大になってしまい、また、粒子を微細にするために焙焼温度を下げると、得られる酸化ニッケル粉末中の硫黄品位が高くなってしまうという欠点があった。更に、上記の方法では加熱する際にSOxを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備を設ける必要があった。
【0012】
一方、酸化ニッケル粉末を製造する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も考えられる。例えば、特許文献4には、ニッケル粉を製造する際の中間生成物ではあるが、水酸化ニッケルを酸化性雰囲気下にて2段階の加熱処理を行うことによって、酸化ニッケル粉末が得られることが記載されている。
【0013】
このような水酸化ニッケルを焙焼する方法においては、SOxのような陰イオン成分由来のガスの発生がほとんどないため簡易な設備でよく、低コストでの製造が可能であると考えられる。しかしながら、水酸化ニッケルの製造条件によっては、数パーセントの陰イオン由来成分が混入する場合があり、長期間の製造によって設備の腐食が起こるなどの問題が発生する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、酸化ニッケル微粉末製造原料用の水酸化ニッケル粉末の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケル粉末を得る工程Aと、得られた水酸化ニッケル粉末を炭酸根含有水溶液で洗浄する工程Bとを具えている。また、本発明における酸化ニッケル微粉末の製造方法は、上記工程A〜Bで得られた水酸化ニッケル粉末を非還元性雰囲気中において850℃を超え980℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル微粉末を形成する工程Cと、該熱処理の際に焼結により連接した酸化ニッケル粒子を解砕する工程Dとを具えている。
【0024】
[水酸化ニッケル粉末及びその製造方法(工程A〜B)]
上記工程Aにおいて、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和することにより、水酸化ニッケルを沈殿生成させる。硫酸ニッケル水溶液の濃度及び中和条件等は公知の技術を適用することができる。原料に使用する硫酸ニッケルは、特に限定されないが、本発明によって最終的に得られる酸化ニッケル微粉末を電子部品用として用いるためには、硫酸ニッケル中の不純物は100質量ppm未満であることが好ましい。
【0025】
上記硫酸ニッケル水溶液のニッケル濃度は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、水溶液中のニッケル濃度として50〜180g/lの範囲が好ましく、50〜120g/lの範囲が更に好ましい。ニッケル濃度が50g/l未満では生産性が悪くなり、逆にニッケル濃度が180g/lを超えると、水溶液中の硫酸基などの陰イオン濃度が高くなり、生成した水酸化ニッケル中の硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
【0026】
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されないが、反応液中のニッケル残留量を考慮すると水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましく、更にコストをも考慮すると水酸化ナトリウムが特に好ましい。尚、上記アルカリは固体又は液体のいずれの状態で硫酸ニッケル水溶液に添加してもよいが、取り扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。また、均一な特性の水酸化ニッケルを得るためには、十分に撹拌されている反応槽内に、ニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液をダブルジェット方式で添加することが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液としては、純水にアルカリを添加して、所定のpHに調整した液が好ましい。
【0027】
中和反応におけるpHは、8.3〜9.0の範囲とすることが好ましく、この範囲内でpHを一定とすることが特に好ましい。pHが8.3よりも低いと、水酸化ニッケル中に残存する塩素や硫酸といった陰イオン成分が増大し、酸化ニッケル製造時の工程Cで熱処理する際に大量の塩酸やSOxが発生することがあるため好ましくない。一方、pHが9.0より高くなると、得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、濾過が困難になることがある。また、工程Cで焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケルを得ることが困難になることがある。尚、pH9.0以下では水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、その場合には、中和反応の終了後に水酸化ニッケルスラリーのpHを10程度まで上げてニッケルを晶析させることが好ましい。
【0028】
中和反応時の液温は、室温であってもよいが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために50〜70℃の範囲とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル中への硫酸基としての硫黄の巻き込みを抑制し、最終的に酸化ニッケル微粉末の硫黄含有量を低減させることができる。液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が十分ではなく、水酸化ニッケル中への硫黄の巻き込み多くなる。また、液温が70℃を超えると、水の蒸発が激しくなり、水溶液中の硫黄濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル中の硫黄含有量が高くなることがある。
【0029】
次の工程Bにおいては、上記工程Aでの中和反応により析出し、濾過回収された水酸化ニッケル粉末を、炭酸根含有水溶液(洗浄液)で洗浄する。この炭酸根含有水溶液での洗浄により、ナトリウムなどのアルカリ成分の含有量を抑制したまま、上記陰イオン成分及び硫黄を効率よく除去することができる。炭酸根含有水溶液としては、炭酸イオンあるいは炭酸水素イオンを含有する水溶液であればよいが、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸アルカリ水溶液が好ましく、その中でも炭酸ナトリウム水溶液が特に好ましい。
【0030】
上記工程Bを含む本発明の水酸化ニッケル粉末の製造方法により、不純物の含有量、特に硫黄含有量を、酸化ニッケル微粉末製造原料用の水酸化ニッケル粉末として好適な範囲に制御することができる。尚、上記炭酸根含有水溶液の洗浄液で洗浄することにより陰イオン成分及び硫黄が効率よく除去できる理由は明らかではないが、晶析した水酸化ニッケル粒子表面に吸着している陰イオン成分、特に硫酸基と炭酸根がイオン交換により除去される、あるいは表面に被膜化している炭酸ニッケルが洗浄液により溶解されて被膜が除去されることで、陰イオン成分と硫黄が効率よく洗浄除去されるものと推定される。
【0031】
上記洗浄液として炭酸ナトリウム水溶液を用いた場合、その洗浄液の炭酸ナトリウム濃度は1〜20g/lの範囲とすることが好ましく、2〜10g/lの範囲が更に好ましい。洗浄液の炭酸ナトリウム濃度が1g/l未満では、洗浄による陰イオン成分の除去効果が十分得られないことがあり、逆に20g/lを超えると残留するナトリウム含有量が多くなり過ぎることがある。
【0032】
上記炭酸根含有水溶液による洗浄では、加温することにより洗浄効果が増大するが、温度を上げすぎると水の蒸発や炭酸根の揮発が生じるため、水の蒸発や炭酸根が揮発せず且つ洗浄可能な液温とすることが好ましい。例えば、炭酸アルカリ水溶液を洗浄液として用いる場合、洗浄液の温度は100℃以下とすることが好ましく、20〜80℃とすることが更に好ましい。洗浄液の温度が100℃を超えると、水の蒸発や炭酸根の揮発が激しく、十分な洗浄効果が得られないばかりか、高温のために安全上も好ましくない。
【0033】
上記洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、工程Aで得られた水酸化ニッケル粉末を洗浄液でスラリー化し、撹拌することにより洗浄することができる。また、スラリー化した後、湿式解砕、例えば粉体同士を衝突させる方法により解砕しながら洗浄することもでき、この方法によれば不純物をより一層低減することができる。更に、フィルタープレスやロータリーフィルター等を用いて、フィルター中の水酸化ニッケル粉末に洗浄液を通液して洗浄することもできる。
【0034】
水酸化ニッケル粉末と洗浄液の混合比は、特に限定されるものではなく、水酸化ニッケル粉末を良好に分散させることができ、水酸化ニッケル粉末に含まれる陰イオン、特に硫酸イオンが十分に除去できる混合比とすればよい。例えば、水酸化ニッケル粉末/洗浄液の混合比を50〜300g/lの範囲とることが好ましく、80〜120g/lの範囲とすることが更に好ましい。また、洗浄時間についても、処理条件に応じて、残留陰イオンが十分に低減される時間とすればよい。尚、1回の洗浄で陰イオンが十分に低減されない場合には、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。
【0035】
上記炭酸根含有水溶液の洗浄液として特に炭酸アルカリ水溶液を用いた場合には、炭酸アルカリ水溶液での洗浄後の水酸化ニッケル粉末を更に水洗して、残存する不純物を十分に除去することが好ましい。水洗に用いる水としては、特に純水を用いることが好ましい。
【0036】
上記工程A〜Bの方法により製造される酸化ニッケル微粉末製造原料用の水酸化ニッケル粉末は、不純物品位、特に硫黄、塩素、ナトリウムの含有量が少なく、且つ、従来よりも低温で脱水して酸化ニッケルとなり得ることから、電子部品材料用あるいは燃料電池電極材料用の酸化ニッケル微粉末を製造するための原料として好適である。具体的な不純物含有量は、硫黄含有量が100質量ppm以上1.0質量%以下、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm以下である。また、TG−DTA測定による質量減少開始温度(水酸基の脱離温度)が300℃未満である。
【0037】
尚、本発明において、TG−DTA測定による質量減少開始温度とは、TG−DTA測定装置を用い、水酸化ニッケルを大気雰囲気中において10℃/分で昇温させ、ΔTGの減少開始点(測定開始時の質量から5質量%減少した時の温度と定義される)とした。
【0038】
上記本発明の工程A〜Bで得られる水酸化ニッケル粉末は、酸化ニッケル微粉末の製造原料であり、熱処理することにより水酸化ニッケル結晶中の水酸基が離脱して酸化ニッケルとなる。この熱処理の際に、粒径の微細化が起こると共に、抑制されているものの高温の影響で酸化ニッケル粒子同士の焼結がある程度進行する。しかし、上記のごとく本発明の水酸化ニッケル粉末は硫黄や塩素などの陰イオン成分が十分に低減され且つ水酸基の脱離温度が低いため、温度を上げて陰イオン成分を揮発させていた従来の製造方法に比べて、より低温の熱処理で不純物含有量が少ない酸化ニッケル微粉末を得ることが可能である。
【0039】
即ち、硫黄含有量が1.0質量%を超えるか、あるいは塩素含有量が50質量ppm以上であると、これらの陰イオン成分を揮発させるために熱処理温度を高くする必要があるが、高温になると微細な酸化ニッケル微粉末が得られない。また、陰イオン成分、特に硫酸基は焼結を促進させる作用があるため、多量に残留していると熱処理によって得られる酸化ニッケルが粗粒化する。しかし、微量の硫黄は焼結を抑制する効果があるため、水酸化ニッケル粉末の硫黄含有量は100質量ppm以上1.0質量%以下、好ましくは200質量ppm以上1.0質量%以下、より好ましくは500質量ppm以上1.0質量%以下とする。一方、ナトリウムは熱処理によっても揮発せずに残留するが、その含有量が100質量ppmを超えると、得られる酸化ニッケル微粉末に含有されるナトリウム量が多くなり過ぎ、粒子の焼結を促進するため好ましくない。
【0040】
[酸化ニッケル微粉末及びその製造方法(工程C〜D)]
本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法における工程Cでは、上記工程A〜Bで得られた水酸化ニッケル粉末を原料として、該水酸化ニッケル粉末を非還元性雰囲気中において850℃を超え980℃未満の温度で熱処理することにより、酸化ニッケル微粉末を形成する。
【0041】
上述したように、工程Cおいて酸化ニッケル微粉末製造原料として用いる水酸化ニッケル粉末は、陰イオン成分が十分に低減されているため、850℃を超え980℃未満、好ましくは900〜970℃の温度で熱処理することで、微細な酸化ニッケル粒子が得られる。850℃以下の熱処理温度では、結晶性の良い酸化ニッケルが得られず、電子部品材料や電極材料として用いる場合の取り扱い性が悪くなる。また、熱処理時の揮発が十分でなく、不純物の残留量が多くなることがある。一方、熱処理温度が980℃を超えると、形成された酸化ニッケル粒子が焼結するため、微細な酸化ニッケル粒子が得られない。
【0042】
また、上記熱処理温度における保持時間は、1〜10時間とすることが好ましい。保持時間が1時間未満では、酸化ニッケル微粉末の硫黄及び塩素の含有量が50質量ppmを超えることがある。また、保持時間が10時間を超えると、経済的でないばかりか、酸化ニッケル粒子間の焼結が進行してしまい、解砕してもD50が0.5μmを超えることがあるため好ましくない。
【0043】
上記熱処理時の非還元性雰囲気としては、水酸化ニッケルが分解して酸化ニッケルとなる雰囲気であれば良いが、中でも酸化性雰囲気であることが好ましく、取り扱いの容易な大気雰囲気が特に好ましい。また、非還元性雰囲気ガスは、水酸化ニッケルの分解により発生する水蒸気を十分に除去することが可能な流量で供給することが好ましい。
【0044】
次の工程Dにおいて、上記工程Cの熱処理で得られた酸化ニッケル粉末を解砕することにより、本発明の酸化ニッケル微粉末が得られる。上記工程Cでは低温での熱処理が可能であり、且つ陰イオン成分による酸化ニッケル粒子の焼結促進も抑制されているため、得られる酸化ニッケル粒子は微細である。しかし、熱処理の際に、焼結により連結した酸化ニッケル粒子も一部で発生するため、焼結により連結した酸化ニッケル粒子を解砕することによって、レーザー散乱法で測定したD50が0.5μm以下の酸化ニッケル微粉末が得られる。
【0045】
上記解砕処理については、ボールミルやビーズミルなどのメディアを用いた処理も可能であるが、その場合はメディアから不純物が混入する虞がある。従って、メディアからの不純物混入を防ぐため、メディアを用いず、酸化ニッケル粒子同士を衝突させることにより解砕することが好ましい。粒子同士を衝突させることにより解砕する方法としては、例えば、(株)徳寿工作所などから市販されているナノグラインディングミル等のジェットミルの使用が好ましい。また、ジェットミルによる解砕の場合でも、湿式解砕では乾燥時に凝集が生じて粒度分布が悪化する要因となるため、乾式解砕を行うことが好ましい。
【0046】
上記した工程A〜Dを具える方法によって得られる本発明の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が50質量ppm以下、塩素含有量が50質量ppm以下、ナトリウム含有量が100質量ppm以下であり、且つレーザー散乱法で測定したD50が0.5μm以下であることを特徴とする。尚、粉末の取り扱い性を考慮すると、D50は0.05〜0.5μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることが更に好ましい。
【0047】
また、上記した工程A〜Dはマグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が酸化ニッケル微粉末中に不純物として含まれることは実質的にありえない。更に、解砕メディアを用いることなく解砕を行えば、ジルコニアなどの混入を防止することができる。従って、本発明の酸化ニッケル微粉末は、ジルコニア及び第2族元素の含有量をいずれも30質量ppm以下にすることができる。
【0048】
このように本発明の酸化ニッケル微粉末は、不純物含有量が非常に少なく、微細な粒子から構成されているため、フェライト部品などの電子部品用材料として、あるいは固体酸化物形燃料電池の電極材料として極めて好適なものである。しかも、簡易な製造方法により、大量の塩素やSOxガスを発生させることなく、生産性良く製造することができる。また、有害なSOxを除害処理するための高価な設備も不要であることから、その製造コストも低く抑えることができる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。尚、実施例及び比較例における硫黄と塩素及びナトリウムの分析は、ICP発光分光分析法及び蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製、Magix)を用い、検量線法で評価することによって行った。
【0050】
また、酸化ニッケル微粉末の粒径はレーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算50%での粒径D50を求めた。また、重量減少開始温度(水酸基の脱離温度)は、TG−DTA2000(ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて測定し、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0051】
[実施例1]
(工程A)
10リットルのビーカーで水酸化ナトリウムを純水に溶解し、pH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液1500mlを準備した。この水酸化ナトリウム水溶液に、硫酸ニッケルを純水に溶解してニッケル濃度を120g/lに調整した硫酸ニッケル水溶液と12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを、pH8.5を中心として変動幅が絶対値で0.2以内となるようにpHを調整しながら連続的に添加混合して、水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。
【0052】
尚、上記硫酸ニッケル水溶液は24ml/分の速度で添加した。また、液温は60℃とし、撹拌羽により200rpmで撹拌した。硫酸ニッケル水溶液を3リットル添加した後、3時間ほど撹拌を続けながら熟成させた。その後、濾過と30分の純水レパルプを4回繰り返し、水酸化ニッケルの濾過ケーキを得た。
【0053】
(工程B)
得られた水酸化ニッケルの濾過ケーキを、洗浄液である濃度2g/lの炭酸ナトリウム水溶液と混合して、濃度100g/lのスラリーとした。このスラリーを5時間撹拌して洗浄した後、濾過と30分の純水レパルプを4回繰り返して、水酸化ニッケルの濾過ケーキを得た。この洗浄後の濾過ケーキを大気中にて送風乾燥機を用いて110℃で24時間乾燥し、試料1の水酸化ニッケル粉末を得た。
【0054】
得られた試料1の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が0.6質量%、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は250℃であった。
【0055】
上記工程Bにおいて、炭
酸ナトリウムの濃度を10g/lとした以外は上記試料1と同様にして、試料2の水酸化ニッケル粉末を得た。得られた試料2の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が0.7質量%、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は250℃であった。
【0056】
上記工程Bにおいて、洗浄液として炭酸ナトリウム水溶液に代えて純水10リットルに炭酸ガスを1リットル/分で30分間吹き込んで得た炭酸水を用いた以外は上記試料1と同様にして、試料3の水酸化ニッケル粉末を得た。得られた試料3の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が1.0質量%、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は250℃であった。
【0057】
[比較例1]
上記実施例1の工程Bにおいて、洗浄液として純水を用いた以外は上記試料1と同様にして、試料4の水酸化ニッケル粉末を得た。得られた試料4の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が1.7質量%、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は300℃であった。
【0058】
また、上記実施例1の工程Bにおいて、洗浄液として濃度10g/lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた以外は上記試料1と同様にして、試料5の水酸化ニッケル粉末を得た。得られた試料5の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が0.6質量%、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が200質量ppmであった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は250℃であった。
【0059】
上記実施例1の試料1〜3及び比較例1の試料4〜5について、使用した洗浄液、得られた水酸化ニッケル粉末の硫黄含有量、塩素含有量、ナトリウム含有量及びTG−DTA測定での質量減少開始温度を下記表1にまとめて示した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記の結果から分るように、本発明の実施例である試料1〜3の各水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が100質量ppm以上1.0質量%以下、塩素含有量が50質量ppm未満及びナトリウム含有量が100質量ppm以下であって、TG−DTAでの質量減少開始温度(水酸基の脱離温度)が250℃と低温であり、酸化ニッケル微粉末製造原料用として好適である。
【0062】
一方、比較例である試料4では、炭酸根含有水溶液での洗浄を行っていないため、硫黄含有量が1.7質量%と高くなっており、質量減少開始温度も300℃と高い。また、試料5では、洗浄液として水酸化ナトリウム水溶液を使用したため、ナトリウム含有量が200質量%と極めて高くなり、酸化ニッケル微粉末製造原料用として好適でないことが分る。
【0063】
[実施例2]
(工程A〜B)
上記実施例1における工程A及び工程Bを試料1と同様に実施したが、工程Bで洗浄液である炭酸ナトリウム水溶液の濃度を試料1での2g/lに代えて5g/lとして、試料6の水酸化ニッケル粉末を得た。得られた試料6の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が0.39質量%、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は250℃であった。
【0064】
(工程C)
得られた水酸化ニッケル粉末200gを転動式バッチ焼成炉に供給し、空気を連続的に供給しながら940℃で2時間熱処理することにより、酸化ニッケル微粉末を得た。
【0065】
(工程D)
得られた酸化ニッケル微粉末から分取した150gを、ナノグラインディングミル(徳寿工作所製)を用いて、プッシャーノズル圧力1.0MPa、グラインディング圧力0.9MPaにて粉砕し、試料6の酸化ニッケル微粉末を得た。
【0066】
得られた試料6の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が50質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.43μmであった。
【0067】
上記工程Cにおいて、熱処理時間を3時間とした以外は上記試料6と同様にして、試料7の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料7の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が32質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.44μmであった。
【0068】
また、上記工程Cにおいて、熱処理時間を5時間とした以外は上記試料6と同様にして、試料8の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料8の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が11質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.46μmであった。
【0069】
[比較例2]
上記比較例1の試料4の水酸化ニッケル粉末(炭酸ナトリウム水溶液による洗浄を行わずに純水で洗浄)を用いた以外は上記実施例2と同様にして、試料9の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料9の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が64質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.44μmであった。
【0070】
また、上記比較例2の工程Cにおいて熱処理時間を3時間とした以外は上記比較例2の試料9と同様にして、試料10の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料10の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が34質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.55μmであった。
【0071】
上記比較例2の工程Cにおいて熱処理時間を5時間とした以外は上記比較例2の試料9と同様にして、試料11の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料11の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が13質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.57μmであった。
【0072】
上記比較例2の工程Cにおいて熱処理温度を960℃及び熱処理時間を3時間とした以外は上記比較例2の試料9と同様にして、試料12の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料12の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が10質量ppm、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.61μmであった。
【0073】
[比較例3]
上記実施例1の工程Aにおいて、硫酸ニッケル水溶液の代わりに塩化ニッケル水溶液を用いた以外は上記実施例1の試料1と同様にして、試料13の水酸化ニッケル粉末を得た。得られた試料13の水酸化ニッケル粉末は、硫黄含有量が50質量ppm未満、塩素含有量が210質量ppm、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、TG−DTA測定での質量減少開始温度は250℃であった。
【0074】
得られた試料13の水酸化ニッケル粉末を用いた以外は上記実施例2の試料6と同様にして、試料13の酸化ニッケル微粉末を得た。得られた試料13の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が50質量ppm未満、塩素含有量が50質量ppm未満、ナトリウム含有量が100質量ppm未満であった。また、D50は0.85μmであった。
【0075】
上記した実施例2の試料6〜8、比較例2の試料9〜12及び比較例3の試料13について、得られた水酸化ニッケル粉末の硫黄含有量、塩素含有量、ナトリウム含有量及びTG−DTA測定での質量減少開始温度を下記表2にまとめて示した。また、上記各試料について、工程Cでの焼成温度と保持時間を下記表3に、得られた酸化ニッケル微粉末の硫黄含有量、塩素含有量及びナトリウム含有量、D50値を下記表3にまとめて示した。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
上記の結果から分るように、本発明の実施例である試料6〜8の酸化ニッケル微粉末は、硫黄含有量が50質量ppm以下、塩素含有量が50質量ppm以下及びナトリウム含有量が100質量ppm以下であると共に、D50値が0.5μm以下と高純度で且つ微細であり、フェライト部品などの電子部品材料あるいは固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適である。
【0079】
一方、比較例である試料9〜11の酸化ニッケル微粉末は、炭酸ナトリウム水溶液による洗浄を行わずに得た硫黄含有量が高い水酸化ニッケル粉末を原料として用いているため、硫黄含有量が50質量ppmを超えるか、D50が0.5μmを超えている。また、試料12の酸化ニッケル微粉末は、熱処理温度が高いため、D50が0.5μmを超えており、いずれの試料も電子部品材料用として好適であるとは言えないものとなっている。更に、試料13の酸化ニッケル微粉末は、水酸化ニッケルの製造原料として塩化ニッケルを用いているため水酸化ニッケル粉末中の硫黄含有量が少なくなり、粒子の焼結を有効に抑制することができず、D50が0.5μmを超えている。