特許第6241789号(P6241789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241789
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】送信機
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20171127BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H04B1/04 R
   H03F1/32
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-157142(P2014-157142)
(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公開番号】特開2016-34121(P2016-34121A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】加保 貴奈
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽
(72)【発明者】
【氏名】中川 匡夫
(72)【発明者】
【氏名】安藤 生真
(72)【発明者】
【氏名】タン ザカン
(72)【発明者】
【氏名】荒木 純道
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−084146(JP,A)
【文献】 特開2012−239129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H03F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数帯域の送信信号を同じタイミングで増幅し、少なくとも1つの周波数帯域の送信信号を送信する送信部と、
前記送信信号が増幅される際に生じる非線形歪みを補償するために必要となる非線形歪み特性と、前記送信信号が直交変調される際に生じる直交変調誤差を補償するために必要となる直交変調誤差特性と、を学習するために前記送信信号の前記非線形歪み特性及び前記直交変調誤差特性を解析する解析部と、
増幅された前記送信信号を前記解析部にフィードバックするフィードバック部と、
を備える送信機であって、
前記送信部は、
前記送信信号を生成する信号生成部と、
前記非線形歪みを前記非線形歪み特性に基づいて補償する歪み補償部と、
前記直交変調誤差を前記直交変調誤差特性に基づいて補償する直交変調補償部と、
を備え、
前記解析部は、
前記非線形歪み特性を解析し、前記非線形歪み特性を示す非線形歪み係数を取得し、前回の解析において取得された非線形歪み係数を、取得した前記非線形歪み係数で更新する非線形歪み解析部と、
前記直交変調誤差を解析し、前記直交変調誤差特性を示す直交変調補償係数を取得し、前回の解析において取得された直交変補償差係数を、取得した直交変調補償係数で更新する直交変調誤差解析部と、
が縦続接続された構成である送信機。
【請求項2】
複数の周波数帯域の送信信号を同じタイミングで増幅し、少なくとも1つの周波数帯域の送信信号を送信する送信部と、
前記送信信号が増幅される際に生じる非線形歪みを補償するために必要となる非線形歪み特性と、前記送信信号が直交変調される際に生じる直交変調誤差を補償するために必要となる直交変調誤差特性と、を学習するために前記送信信号の前記非線形歪み特性及び前記直交変調誤差特性を解析する解析部と、
増幅された前記送信信号を前記解析部にフィードバックするフィードバック部と、
を備える送信機であって、
前記送信部は、
前記送信信号を生成する信号生成部と、
前記非線形歪みを前記非線形歪み特性に基づいて補償する歪み補償部と、
前記直交変調誤差を前記直交変調誤差特性に基づいて補償する直交変調補償部と、
を備え、
前記解析部は、
前記非線形歪み特性を解析し、前記非線形歪み特性を示す非線形歪み係数を取得し、前回の解析において取得された非線形歪み係数を、取得した前記非線形歪み係数で更新する非線形歪み解析部と、
前記直交変調誤差を解析し、前記直交変調誤差特性を示す直交変調補償係数を取得し、前回の解析において取得された直交変補償差係数を、取得した直交変調補償係数で更新する直交変調誤差解析部と、
を備え、
前記フィードバック部は、
複数の局部発振器から出力される局部発振信号と、複数の周波数帯域の送信信号とを合成し、前記複数の周波数帯域の送信信号を一括してIF帯にダウンコンバートする周波数変換部と、
周波数変換された前記送信信号を一括してデジタル信号に変換するAD変換部と、
を備える送信機。
【請求項3】
複数の周波数帯域の送信信号を同じタイミングで増幅し、少なくとも1つの周波数帯域の送信信号を送信する送信部と、
前記送信信号が増幅される際に生じる非線形歪みを補償するために必要となる非線形歪み特性と、前記送信信号が直交変調される際に生じる直交変調誤差を補償するために必要となる直交変調誤差特性と、を学習するために前記送信信号の前記非線形歪み特性及び前記直交変調誤差特性を解析する解析部と、
増幅された前記送信信号を前記解析部にフィードバックするフィードバック部と、
を備える送信機であって、
前記送信部は、
前記送信信号を生成する信号生成部と、
前記非線形歪みを前記非線形歪み特性に基づいて補償する歪み補償部と、
前記直交変調誤差を前記直交変調誤差特性に基づいて補償する直交変調補償部と、
を備え、
前記解析部は、
前記非線形歪み特性を解析し、前記非線形歪み特性を示す非線形歪み係数を取得し、前回の解析において取得された非線形歪み係数を、取得した前記非線形歪み係数で更新する非線形歪み解析部と、
前記直交変調誤差を解析し、前記直交変調誤差特性を示す直交変調補償係数を取得し、前回の解析において取得された直交変補償差係数を、取得した直交変調補償係数で更新する直交変調誤差解析部と、
を備え、
前記フィードバック部は、
前記送信信号をアンダーサンプリングすることによって、複数の周波数帯域の前記送信信号を一括してIF帯にダウンコンバートするAD変換部を備える送信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の高度化にしたがって多種多様な無線システムが実現されている。このような多種多様な無線システムを統合的に収容するために、複数の周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅する送信機が検討されている。
送信機は生成した送信信号を増幅器によって増幅しアンテナから送信する。一般的に、増幅器は非線形歪み特性を有する。そのため、高品質な信号送信を実現するためには、送信信号の非線形歪みを補償することが必要となる。そのため、送信機において、非線形歪み特性を予め記憶し、増幅する前の送信信号に対して、増幅器によって生じる非線形歪みを補償することが検討されている。具体的には、送信機は、非線形歪み特性に基づいて推定される非線形歪みが、増幅によってキャンセルされるように送信信号を整形する。このように、予め入力信号を整形することによって出力信号を補償する手法をプリディストーションという。
【0003】
しかしながら、直交変調後の信号にはIQ(In-phase and Quadrature channels)インバランス及びDC(Direct Current)オフセットが生じる場合がある。このIQインバランス及びDCオフセットを直交変調誤差と呼ぶ。そして、この直交変調誤差は信号の非線形歪み成分に影響を及ぼす。そのため、直交変調誤差は、信号の非線形歪みを補償する精度を劣化させる要因となる。
【0004】
そのため、送信機は、増幅器に入力する前に送信信号の直交変調誤差を補償する必要がある。直交変調誤差を補償する手法として、増幅器に入力する前の送信信号をフィードバックすることにより補償すべき直交変調誤差の特性(以下、「直交変調誤差特性」という。)を学習し、プリディストーションにより補償する手法がある。しかしながら、この手法では、直交変調誤差特性を学習するためのフィードバック系の回路を別途実装する必要があり、送信機を構成する部品の数が増加するという問題がある。
また、フィードバックする信号として、送信信号ではなく学習用の信号を用いる手法もある。この場合、学習用の信号として低電力の信号を入力し増幅器を線形領域で動作させる。しかしながら、この手法では、増幅器において生じる非線形歪みを補償する前に直交変調誤差を学習する必要があり、信号の生成から送信までに要する時間が増加するという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、非線形歪み特性及び直交変調誤差特性を一括して学習し、送信信号をプリディストーションにより補償する手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1では、複数の周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅するときの非線形歪み特性を表現する多項式が提案されている。また、非特許文献2及び3には、上記の非線形歪み特性を表現する多項式に、直交変調誤差特性を表現する多項式を組み合わせた結合多項式モデルが提案されている。
【0006】
非特許文献2では、2つの周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅するときの結合多項式モデルを用いてIチャネルの信号の補償とQチャネルの信号の補償とを分け、プリディストーションにより信号を補償する手法が提案されている。この手法では、IチャネルとQチャネルとのそれぞれでフィードバックによる学習を行い、適応的に多項式係数を更新することによって、非線形歪み特性及び直交変調誤差特性を一括して学習し、補償することを可能としている。
【0007】
さらに、非特許文献3では、非線形歪み特性を表現する多項式にボルテラモデルを適用することによって、結合多項式の多項式係数の数を削減している。
【数1】
【0008】
式1は、P個の周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅する場合において、プリディストーションによる信号の補償を行うときの結合多項式モデルを表す。式1は、結合多項式モデルの一例であり、非線形歪みとして混変調歪みのみを考慮したp番目の周波数帯域に関するモデルである。なお、式1はボルテラモデルによる多項式係数の削減を行っていない。
式1において、xは結合多項式モデルにおけるp番目の周波数帯域の複素入力信号を表す。yは結合多項式モデルにおけるp番目の周波数帯域の複素出力信号を表す。kは結合多項式の次数を表し、Kを最大値とする。Tはサンプリングの間隔を表す。すなわち式1は、ある時刻における出力が、その時刻における入力のみならず、過去の時刻における入力の影響を受ける「メモリ効果」を伴う。nは、Tの時間間隔でサンプリングされた時間軸において時刻を表す変数である。mはメモリの深さを表し、Mを最大値とする。すなわちメモリの深さmは、結合多項式モデルにおいて、過去のどれだけの期間を対象としてメモリ効果を補償するかを表す。αはIチャネルの非線形歪み及びIQインバランスに関する係数(以下、「チャネル補償係数」という。)である。βはQチャネルのチャネル補償係数である。γはDCオフセットに関する係数(以下「DCオフセット補償係数」という。)である。
【0009】
式1より、各チャネルの1周波数帯域あたりのチャネル補償係数の数がLである場合、P個の周波数帯域の結合多項式モデルでは、α、β及びγはそれぞれPL個、PL個及びP個となり、合計P(2L+1)個の多項式係数の学習が必要になる。
【0010】
図5は、従来構成の送信機90の機能構成を示す機能ブロック図である。
送信機90は、送信系92、フィードバック系96及び解析部97を備える。送信系92は、送信信号を生成するための機能部の集合を表す。フィードバック系96は、送信信号をフィードバックするための機能部の集合を表す。解析部97は、送信系92で生成された送信信号と、フィードバック系96によってフィードバックされた信号と、に基づいて非線形歪み特性及び直交変調誤差特性を学習する機能部である。
送信系92は、解析部97によって学習された非線形歪み特性及び直交変調誤差特性に基づいて、送信信号を補償する。具体的には、送信系92は、Iチャネル及びQチャネルのチャネル補償係数を結合多項式に適用することによって、送信信号を補償する。
【0011】
以下、解析部97の詳細について説明する。なお、送信系92のIチャネル用歪み補償部922−1〜922−Pは、解析部97のIチャネル用歪み補償部971−1〜971−Pと同様のため説明を省略する。同様の理由により、送信系92のQチャネル用歪み補償部923−1〜923−P及びDCオフセット補償部924−1〜924−Pについても説明を省略する。また、送信系92のその他の機能部及びフィードバック系96については、実施形態にて詳細を説明するため、同図での説明を省略する。
【0012】
Iチャネル用歪み補償部971−1〜971−Pは、それぞれフィードバック系96から出力されたフィードバック信号に基づいて、フィードバック信号のIチャネル成分の非線形歪み及びIQインバランスを補償する。Iチャネル用歪み補償部971−1〜971−Pは、自装置が保持するIチャネルのチャネル補償係数αを式1の結合多項式に適用することによってフィードバック信号を補償する。このときフィードバック信号の補償に用いられるチャネル補償係数αは、フィードバック信号が生成された元の送信信号の補償に用いられたチャネル補償係数αである。Iチャネル用歪み補償部971−1〜971−Pは、非線形歪み及びIQインバランスが補償されたフィードバック信号を、それぞれ加算器974−1〜974−Pに出力する。
【0013】
Qチャネル用歪み補償部972−1〜972−Pは、それぞれフィードバック系96から出力されたフィードバック信号に基づいて、フィードバック信号のQチャネル成分の非線形歪み及びIQインバランスを補償する。Qチャネル用歪み補償部972−1〜972−Pは、自装置が保持するQチャネルのチャネル補償係数βを式1の結合多項式に適用することによってフィードバック信号を補償する。このときフィードバック信号の補償に用いられるチャネル補償係数βは、フィードバック信号が生成された元の送信信号の補償に用いられたチャネル補償係数である。Qチャネル用歪み補償部972−1〜972−Pは、非線形歪み及びIQインバランスが補償されたフィードバック信号を、それぞれ加算器974−1〜974−Pに出力する。
【0014】
DCオフセット補償部973−1〜973−Pは、それぞれフィードバック系96から出力されたフィードバック信号のDCオフセットを補償する。具体的には、DCオフセット補償部973−1は、自装置が保持するDCオフセット補償係数γを加算器974−1に出力する。DCオフセット補償部973−2は、自装置が保持するDCオフセット補償係数γを加算器974−2に出力する。同様に、DCオフセット補償部973−3〜973−Pは、自装置が保持するDCオフセット補償係数γを加算器974−3〜974−Pに出力する。このとき、DCオフセット補償部973−1〜973−Pは、対応する周波数帯域(1〜P)のDCオフセット補償係数γを出力する。そして、フィードバック信号の補償に用いられるDCオフセット補償係数γは、フィードバック信号が生成された元の送信信号の補償に用いられたDCオフセット補償係数である。
加算器974−1は、Iチャネル用歪み補償部971−1、Qチャネル用歪み補償部923−1及びDCオフセット補償部973−1の出力を合成する。加算器974−2は、Iチャネル用歪み補償部971−2、Qチャネル用歪み補償部923−2及びDCオフセット補償部973−2の出力を合成する。同様に、加算器974−Pは、Iチャネル用歪み補償部971−P、Qチャネル用歪み補償部923−P及びDCオフセット補償部973−Pの出力を合成する。加算器974−1〜974−Pは、上記の合成によって非線形歪み及び直交変調誤差が補償された送信信号を生成する。加算器974−1〜974−Pは、生成した送信信号を係数更新部975に出力する。
【0015】
係数更新部975は、加算器974−1〜974−Pによって合成された各周波数帯域のフィードバック信号と、送信系92から出力された各周波数帯域の送信信号と、を比較することによって、非線形歪み特性及び直交変調誤差特性を学習する。具体的には、係数更新部975は、送信系92から出力された各周波数帯域の送信信号と、加算器974−1〜974−Pによって合成された各周波数帯域のフィードバック信号と、の差分が最小となるように結合多項式の係数を決定する。係数更新部975は、自装置が保持する結合多項式の係数を、決定した係数で更新する。係数更新部975が、結合多項式の係数を決定することによって、非線形歪み特性及び直交変調誤差特性が学習される。
【0016】
図6は、送信機90が信号を送信する流れを示すフローチャートである。
以下の説明では説明を簡単にするために、各機能部の符号について周波数帯域の識別子を省略して記載する。例えば、特に区別しない限り信号生成部921−1〜921−Pを信号生成部921と記載する。
【0017】
まず、各信号生成部921が対応する周波数帯域で送信されるベースバンドのデジタル信号(以下、「ベースバンド信号」という。)を生成する(ステップS201)。各信号生成部921は、生成したベースバンド信号をIチャネル用歪み補償部922−1〜922−P及びQチャネル用歪み補償部923−1〜923−Pのそれぞれに出力する。Iチャネル用歪み補償部922は、ベースバンド信号のIチャネル成分について非線形歪み及びIQインバランスを補償する。Qチャネル用歪み補償部923は、ベースバンド信号のQチャネル成分について非線形歪み及びIQインバランスを補償する。DCオフセット補償部924は、ベースバンド信号のDCオフセットを補償する。上記処理によって送信機90は、非線形歪み及び直交変調誤差を補償する(ステップS202)。
【0018】
Iチャネル用歪み補償部922、Qチャネル用歪み補償部923及びDCオフセット補償部924は、それぞれ補償したベースバンド信号を加算器974に出力する。加算器974は、Iチャネル用歪み補償部922、Qチャネル用歪み補償部923及びDCオフセット補償部924から出力されたベースバンド信号を合成する。加算器974は、合成したベースバンド信号をDA変換器925に出力する。また、加算器974は、合成したベースバンド信号を係数更新部975に出力する(ステップS203)。DA変換器925は、ベースバンド信号をアナログ信号に変換する(ステップS204)。DA変換器925は、アナログ信号に変換されたベースバンド信号を直交変調部926に出力する。直交変調部926は、アナログ信号に変換されたベースバンド信号を直交変調する(ステップS205)。直交変調部926は、直交変調によって取得した送信信号を増幅器93に出力する。増幅器93は、送信信号を増幅する(ステップS206)。増幅器93は、増幅した送信信号をアンテナ94に出力する。アンテナ94は、送信信号を無線送信する(ステップS207)。
【0019】
一方、増幅器93によって増幅された送信信号は、カプラ95によってフィードバック系96に分配される。そして、分配された送信信号は、フィードバック信号としてフィードバック系96に出力される(ステップS208)。フィードバック系96は、フィードバック信号から各周波数帯域のベースバンド信号を取得する。フィードバック系96は、取得したベースバンド信号を、周波数帯域ごとのIチャネル用歪み補償部971、Qチャネル用歪み補償部972及びDCオフセット補償部973に出力する。
【0020】
Iチャネル用歪み補償部971、Qチャネル用歪み補償部972及びDCオフセット補償部973は、ステップS202と同様の処理を行って、フィードバック信号の非線形歪み及び直交変調誤差を補償する。Iチャネル用歪み補償部971、Qチャネル用歪み補償部972及びDCオフセット補償部973は、それぞれ補償したフィードバック信号を加算器974に出力する。加算器974は、Iチャネル用歪み補償部971、Qチャネル用歪み補償部972及びDCオフセット補償部973から出力された信号を合成し、係数更新部975に出力する。係数更新部975は、非線形歪み及び直交変調誤差が補償された送信信号と、非線形歪み及び直交変調誤差が補償されたフィードバック信号と、の差分が最小となるように結合多項式の係数を決定する(ステップS209)。係数更新部975は、自装置が保持する結合多項式の係数を、決定した係数で更新する。
【0021】
このように、送信機90は、非線形歪みの補償と直交変調誤差の補償とを並列して実行する。また、送信機90は、結合多項式の係数の学習において、Iチャネル及びQチャネルのチャネル補償係数及びDCオフセット係数をまとめて決定し、更新する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】S. A. Bassam, M. Helaoui, and F. M. Ghannouchi, “2-D digital predistortion (2-D-DPD) architecture for concurrent dual-band transmitters,” IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol. 59, no. 10, pp. 2547-2553, Oct. 2011.
【非特許文献2】Y.J. Liu, W. Chen, J. Zhou, B.H. Zhou, and Y.N. Liu, “Joint predistortion of IQ impairments and PA nonlinearity in concurrent dual-band transmitters,” in Proc. of the 42nd European Microwave Conference, pp. 132-135, Oct. 2012.
【非特許文献3】M. Younes, and F. M. Ghannouchi, “On the Modeling and Linearization of a Concurrent Dual-Band Transmitter Exhibiting Nonlinear Distortion and Hardware Impairments,” IEEE Trans. on Circuits and Systems, vol. 60, no. 11, Nov. 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、従来の結合多項式では、求める多項式係数が多く非線形歪み特性及び直交変調誤差特性の学習に時間を要するという問題があった。
【0024】
上記事情に鑑み、本発明は、複数の周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅する送信機において、送信信号をプリディストーションにより補償するための非線形歪み特性及び直交変調誤差特性の学習に要する時間を削減することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様は、複数の周波数帯域の送信信号を同じタイミングで増幅し、少なくとも1つの周波数帯域の送信信号を送信する送信部と、前記送信信号が増幅される際に生じる非線形歪みを補償するために必要となる非線形歪み特性と、前記送信信号が直交変調される際に生じる直交変調誤差を補償するために必要となる直交変調誤差特性と、を学習するために前記送信信号の前記非線形歪み特性及び前記直交変調誤差特性を解析する解析部と、増幅された前記送信信号を前記解析部にフィードバックするフィードバック部と、を備える送信機であって、前記送信部は、前記送信信号を生成する信号生成部と、前記非線形歪みを前記非線形歪み特性に基づいて補償する歪み補償部と、前記直交変調誤差を前記直交変調誤差特性に基づいて補償する直交変調補償部と、を備え、前記解析部は、前記非線形歪み特性を解析し、前記非線形歪み特性を示す非線形歪み係数を取得し、前回の解析において取得された非線形歪み係数を、取得した前記非線形歪み係数で更新する非線形歪み解析部と、前記直交変調誤差を解析し、前記直交変調誤差特性を示す直交変調補償係数を取得し、前回の解析において取得された直交変補償差係数を、取得した直交変調補償係数で更新する直交変調誤差解析部と、を備える送信機である。
【0026】
本発明の一態様は、上記の送信機であって、前記フィードバック部は、複数の局部発振器から出力される局部発振信号と、複数の周波数帯域の送信信号とを合成し、前記複数の周波数帯域の送信信号を一括してIF帯にダウンコンバートする周波数変換部と、周波数変換された前記送信信号を一括してデジタル信号に変換するAD変換部と、を備える。
【0027】
本発明の一態様は、上記の送信機であって、前記フィードバック部は、前記送信信号をアンダーサンプリングすることによって、複数の周波数帯域の前記送信信号を一括してIF帯にダウンコンバートするAD変換部を備える。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、本発明は、複数の周波数帯域の信号を同じタイミングで増幅する送信機において、非線形歪み特性及び直交変調誤差特性の学習に要する時間を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態の送信機1の機能構成を示す機能ブロック図である。
図2】第1実施形態の送信機1の処理の流れを示すフローチャートである。
図3】第2実施形態の送信機1aの機能構成を示す機能ブロック図である。
図4】第3実施形態の送信機1bの機能構成を示す機能ブロック図である。
図5】従来構成の送信機90の機能構成を示す機能ブロック図である。
図6】送信機90が信号を送信する流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の送信機1の機能構成を示す機能ブロック図である。
送信機1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、送信機制御プログラムを実行することによって、送信系2、増幅器3、アンテナ4、カプラ5、フィードバック系6、非線形歪み解析部7及び直交変調誤差解析部8を備える装置として機能する。なお、送信機1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。送信機制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。送信機制御プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0031】
送信系2(送信部)は、送信信号を生成するための機能部の集合である。送信系2は、信号生成部21−1〜21−P、歪み補償部22−1〜22−P、直交変調補償部23−1〜23−P、DA変換器24−1〜24−P、直交変調部25−1〜25−P及び加算器26を備える。なお、各符号に含まれるPは、当該機能部が機能部ごとにP個並列して構成されることを示している。Pは、送信機1によって同じタイミングで送信される信号の周波数帯域を区別するための識別子である。Pは1以上の整数である。
【0032】
信号生成部21−1〜21−Pは、それぞれ、対応する周波数帯域で送信される信号のベースバンド信号DS_1〜DS_Pを生成する。生成されるベースバンド信号はIチャネル及びQチャネルの成分を有する。信号生成部21−1は、生成したベースバンド信号DS_1を歪み補償部22−1〜22−Pに出力する。信号生成部21−2は、生成したベースバンド信号DS_2を歪み補償部22−1〜22−Pに出力する。同様に、信号生成部21−3〜21−Pは、生成したベースバンド信号DS_3〜DS_Pを歪み補償部22−1〜22−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限り信号生成部21−1〜21−Pを信号生成部21と記載する。
【0033】
歪み補償部22−1〜22−Pは、自装置が保持する歪み補償係数を歪み補償多項式に適用し、それぞれベースバンド信号DS_1〜DS_Pの非線形歪みを補償する。歪み補償係数及び歪み補償多項式の詳細は後述する。ベースバンド信号DS_1〜DS_Pは、非線形歪みの補償によってそれぞれ歪み補償信号DS_1〜DS_Pに変換される。歪み補償部22−1〜22−Pは、歪み補償信号をそれぞれ直交変調補償部23−1〜23−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限り歪み補償部22−1〜22−Pを歪み補償部22と記載する。
【0034】
直交変調補償部23−1〜23−Pは、自装置が保持する直交変調補償係数を直交変調補償多項式に適用し、それぞれ歪み補償信号DS_1〜DS_Pの直交変調誤差を補償する。直交変調補償係数及び直交変調補償多項式の詳細は後述する。歪み補償信号DS_1〜DS_Pは、直交変調誤差の補償によってそれぞれ直交変調補償信号DS_1〜DS_Pに変換される。直交変調補償部23−1〜23−Pは、直交変調補償信号をそれぞれDA変換器24−1〜24−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限り直交変調補償部23−1〜23−Pを直交変調補償部23と記載する。
【0035】
DA変換器24−1〜24−Pは、それぞれ直交変調補償信号DS_1〜DS_Pをアナログ信号に変換する。直交変調補償信号DS_1〜DS_Pは、DA変換によってそれぞれ直交変調補償信号S_1〜S_Pに変換される。DA変換器24−1〜24−Pは、アナログ信号に変換された直交変調補償信号をそれぞれ直交変調部25−1〜25−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限りDA変換器24−1〜24−PをDA変換器24と記載する。
【0036】
直交変調部25−1〜25−Pは、それぞれ直交変調補償信号S_1〜S_Pに対して直交変調を行う。直交変調部25−1〜25−Pは、直交変調補償信号S_1〜S_PのIチャネル成分及びQチャネル成分を、それぞれ対応する周波数の第1局部発振信号と、第1局部発振信号に対して90度の位相差を有する第2局部発振信号と、を用いてアップコンバートする。そして、アップコンバートした両チャネルの信号を合成し直交変調信号Sqm_1〜Sqm_Pを生成する。直交変調部25−1〜25−Pは、直交変調信号を加算器26に出力する。以下の説明では、特に区別しない限り直交変調部25−1〜25−Pを直交変調部25と記載する。
【0037】
加算器26は、直交変調信号Sqm_1〜Sqm_Pを合成し、合成信号Siを生成する。加算器26は、合成信号Siを増幅器3に出力する。
増幅器3は、合成信号Siを増幅し、増幅信号Soを生成する。増幅器3は、増幅信号Soをアンテナ4に出力する。
アンテナ4は、増幅信号Soを無線送信する。
カプラ5は、増幅信号Soを分配する分配器である。カプラ5は、増幅信号Soから分配されたフィードバック信号Sfをフィードバック系6に出力する。カプラ5の分配によって、フィードバック信号Sfは増幅信号Soが分配損失により減衰した信号となる。
【0038】
フィードバック系6(フィードバック部)は、フィードバック信号Sfを復調して非線形歪み解析部7に出力するための機能部の集合を表す。フィードバック系6は、減衰器61、BPF62−1〜62−P、周波数変換器63−1〜63−P、AD変換器64−1〜64−P及び直交復調部65−1〜65−Pを備える。
【0039】
減衰器61は、フィードバック信号Sfのうち増幅器3の線形利得によって得られた信号をさらに減衰させる。これは、送信系2から出力された歪み補償信号との電力レベルを合わせるためである。なお、上記の増幅器3の線形利得は、歪み補償部22による非線形歪みの補償によって得られた線形利得である。減衰器61は、減衰させたフィードバック信号SfをBPF62−1〜62−Pに出力する。
【0040】
BPF62−1〜62−Pは、送信系2の各周波数帯域に対応するBPF(Band Pass Filter)である。BPF62−1〜62−Pは、フィードバック信号Sfのうち対応する周波数帯域の信号のみを通過させ、それぞれフィードバック信号Sb_1〜Sb_Pを取得する。BPF62−1〜62−Pは、取得したフィードバック信号Sb_1〜Sb_Pをそれぞれ周波数変換器63−1〜63−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限りBPF62−1〜62−PをBPF62と記載する。
【0041】
周波数変換器(周波数変換部)63−1〜63−Pは、それぞれフィードバック信号Sb_1〜Sb_PをIF(Intermediate Frequency)帯の信号にダウンコンバートし、フィードバック信号Sif_1〜Sif_Pを取得する。周波数変換器63−1〜63−Pは、取得したフィードバック信号Sif_1〜Sif_Pを、それぞれAD変換器64−1〜64−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限り周波数変換器63−1〜63−Pを周波数変換器63と記載する。
【0042】
AD変換器(AD変換部)64−1〜64−Pは、それぞれフィードバック信号Sif_1〜Sif_Pをデジタル信号に変換し、フィードバック信号DSa_1〜DSa_Pを取得する。AD変換器64−1〜64−Pは、取得したフィードバック信号DSa_1〜DSa_Pを、それぞれ直交復調部65−1〜65−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限りAD変換器64−1〜64−PをAD変換器64と記載する。
【0043】
直交復調部65−1〜65−Pは、それぞれフィードバック信号DSa_1〜DSa_Pを直交復調し、それぞれIチャネル及びQチャネルの複素成分を有するフィードバック信号DSf_1〜DSf_Pを生成する。直交復調部65−1は、生成したフィードバック信号DSf_1を、非線形歪み解析部7の歪み補償部71−1〜71−Pに出力する。直交復調部65−2は、生成したフィードバック信号DSf_2を、非線形歪み解析部7の歪み補償部71−1〜71−Pに出力する。同様に、直交復調部65−3〜65−Pは、生成したフィードバック信号DSf_3〜DSf_Pを、非線形歪み解析部7の歪み補償部71−1〜71−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限り直交復調部65−1〜65−Pを直交復調部65と記載する。
【0044】
非線形歪み解析部7は、インダイレクトラーニングによる非線形歪みの補償に用いる非線形歪み補償多項式の係数(以下、「歪み補償係数」という。)を学習するための機能部の集合である。具体的には、非線形歪み解析部7は、送信系2において非線形歪みが補償された信号と、フィードバック系6によってフィードバックされた信号と、を比較することによって歪み補償係数を決定する。非線形歪み解析部7は、歪み補償部71−1〜71−P及び歪み補償係数更新部72を備える。
【0045】
歪み補償部71−1〜71−Pは、それぞれフィードバック信号DSf_1〜DSf_Pに対して歪み補償部22と同様の処理を行って非線形歪みを補償する。その際、歪み補償部71−1〜71−Pは、歪み補償部22が用いた歪み補償係数を用いる。歪み補償部71−1〜71−Pは、非線形歪みの補償により、それぞれフィードバック信号DSfp_1〜DSfp_Pを取得する。歪み補償部71−1〜71−Pは、取得したフィードバック信号DSfp_1〜DSfp_Pを、歪み補償係数更新部72に出力する。また、歪み補償部71−1〜71−Pは、取得したフィードバック信号DSfp_1〜DSfp_Pを、それぞれ直交変調誤差解析部8の直交変調補償部81−1〜81−Pに出力する。以下の説明では、特に区別しない限り歪み補償部71−1〜71−Pを歪み補償部71と記載する。
【0046】
歪み補償係数更新部72は、フィードバック信号DSfp_1〜DSfp_Pと、送信系2から出力された歪み補償信号DSp_1〜DSp_Pと、を比較することによって歪み補償係数を決定する。歪み補償係数更新部72は、自装置が保持する歪み補償係数を、決定した歪み補償係数で更新する。
【0047】
直交変調誤差解析部8は、インダイレクトラーニングによる直交変調誤差の補償に用いる直交変調補償多項式の係数(以下、「直交変調補償係数」という。)を学習するための機能部の集合である。具体的には、直交変調誤差解析部8は、送信系2において直交変調誤差が補償された信号と、フィードバック系6によってフィードバックされた信号と、を比較することによって直交変調補償係数を決定する。直交変調誤差解析部8は、直交変調補償部81−1〜81−P及び直交変調補償係数更新部82を備える。
【0048】
直交変調補償部81−1〜81−Pは、それぞれ非線形歪み解析部7から出力されたフィードバック信号DSfp_1〜DSfp_Pに対して直交変調補償部23と同様の処理を行って直交変調誤差を補償する。その際、直交変調補償部81−1〜81−Pは、直交変調補償部23が用いた直交変調補償係数を用いる。直交変調補償部81−1〜81−Pは、直交変調誤差の補償により、それぞれフィードバック信号DSfc_1〜DSfc_Pを取得する。直交変調補償部81−1〜81−Pは、取得したフィードバック信号DSfc_1〜DSfc_Pを、直交変調補償係数更新部82に出力する。以下の説明では、特に区別しない限り直交変調補償部81−1〜81−Pを直交変調補償部81と記載する。
【0049】
直交変調補償係数更新部82は、フィードバック信号DSfc_1〜DSfc_Pと、送信系2から出力された直交変調補償信号DSc_1〜DSc_Pと、を比較することによって直交変調補償係数を決定する。直交変調補償係数更新部82は、自装置が保持する直交変調補償係数を、決定した直交変調補償係数で更新する。
【0050】
次に非線形歪み補償多項式及び直交変調補償多項式について説明する。
非線形歪み補償多項式及び直交変調補償多項式は、上述した結合多項式を変形することによって、それぞれ次の式2及び式3のように表される。なお、式2及び式3において、式1と同じ記号は式1と同様の意味を表す。
【数2】
【0051】
式2は、非線形歪み補償多項式である。式2において、uは非線形歪み補償多項式におけるp番目の周波数帯域の複素出力信号を表す。λは歪み補償係数である。歪み補償係数更新部72は、送信系2から出力された歪み補償信号DSp_1〜DSp_Pと、フィードバック信号DSfp_1〜DSfp_Pとの差分が最小となるように歪み補償係数を決定する。
【0052】
式3は、直交変調補償多項式である。式3において、α’はIチャネルのIQインバランスに関する係数「以下、IQインバランス補償係数」という。)である。β’はQチャネルのIQインバランス補償係数である。γ’はDCオフセット補償係数である。IQインバランス補償係数α’及びβ’とDCオフセット補償係数γ’とを総称して直交変調補償係数と呼ぶ。直交変調補償係数更新部82は、送信系2から出力された直交変調補償信号DSc_1〜DSc_Pと、フィードバック信号DSfc_1〜DSfc_Pとの差分が最小となるように直交変調補償係数を決定する。
【0053】
なお、式3のZはIQインバランスの周波数特性を補償するためのタップ数を表す。一般に、タップ数Z及び歪み補償係数の数Lとの関係はL>2Zである。これは、結合多項式の非線形性をより高次の次数で表すほどLが増加し、かつ、周波数帯域の数Pが増すほど多項式の組み合わせの数(K)が増加し、Lが増加するからである。さらにメモリ効果(M)を補償する場合においても、タップ数に従ってLが増加する。メモリ効果とは、ある時刻における出力信号が、その時刻における入力信号のみならず、過去の時刻における入力信号の影響を受けることを意味する。例えば、2つの周波数帯域の5次非線形歪みを2つのタップで補償する場合、1つの周波数帯域あたりのLは12となる。一方、IQインバランス補償係数の数は、Iチャネル及びQチャネルのチャネル数2と、時間変動を補償するタップ数Zとによって決定される。例えば、IQインバランスを2つのタップで補償する場合は、1つの周波数帯域あたりのIQインバランス補償係数の数は4となる。
【0054】
実施形態の送信機1は、式2によって歪み補償係数をインダイレクトラーニングで学習する非線形歪み解析部7と、式3によって直交変調補償係数をインダイレクトラーニングで学習する直交変調誤差解析部8と、が縦続接続で構成される。この構成によって、歪み補償係数の数、IQインバランス補償係数の数及びDCオフセット補償係数の数がそれぞれPL、2PZ、Pとなり、非線形歪み補償及び直交変調補償に用いる多項式係数の数はP(L+2Z+1)となる。例えば、上記の例の場合、非線形歪み補償及び直交変調補償に用いる多項式係数の数は、従来の結合多項式では50=P(2L+1)であるのに対し、実施形態の多項式では34=P(L+2Z+1)となる。すなわち、実施形態の多項式では従来の結合多項式よりも16個の係数が削減される。
【0055】
さらに、実施形態の送信機1は、歪み補償係数及び直交変調補償係数を個別に学習するため、非線形歪み及び直交変調誤差の変動速度の差が大きい場合には、収束の状況に応じて各係数の更新頻度を個別に設定することができる。このように、各係数の更新頻度を個別に設定することによって、ある更新タイミングで学習する係数の数をさらに削減することができる。
【0056】
図2は、第1実施形態の送信機1の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、信号生成部21が各周波数帯域で送信されるベースバンド信号DSを生成する(ステップS101)。信号生成部21は、ベースバンド信号DSを歪み補償部22に出力する。歪み補償部22は、歪み補償係数を用いてベースバンド信号DSの非線形歪みを補償する(ステップS102)。歪み補償部22は、非線形歪みが補償された歪み補償信号DSpを直交変調補償部23に出力する。このとき、歪み補償部22は、歪み補償信号DSpを歪み補償係数更新部72にも出力する(ステップS103)。
【0057】
直交変調補償部23は、直交変調補償係数を用いて歪み補償信号DSpの直交変調誤差を補償する(ステップS104)。直交変調補償部23は、直交変調誤差が補償された直交変調補償信号DScをDA変換器24に出力する。このとき、直交変調補償部23は、直交変調補償信号DScを直交変調補償係数更新部82にも出力する(ステップS105)。DA変換器24は、直交変調補償信号DScをアナログ信号に変換する(ステップS106)。DA変換器24は、この変換によって直交変調補償信号Scを取得する。DA変換器24は、直交変調補償信号Scを直交変調部25に出力する。
【0058】
直交変調部25は、直交変調補償信号Scに対して直交変調を行う(ステップS107)。直交変調部25は、直交変調によって直交変調信号Sqmを生成する。直交変調部25は、直交変調信号Sqmを加算器26に出力する。加算器26は、各周波数帯域に対応する直交変調部25から出力された直交変調信号Sqmを合成し、合成信号Siを生成する。加算器26は、合成信号Siを増幅器3に出力する。増幅器3は、合成信号Siを増幅し、増幅信号Soを生成する(ステップS108)。増幅器3は、増幅信号Soをアンテナ4に出力する。アンテナ4は、増幅信号Soを無線送信する(ステップS109)。
【0059】
一方、ステップS108において増幅器3からアンテナ4に出力された増幅信号Soは、カプラ5によって分配され、フィードバック信号Sfとして減衰器61に出力される(ステップS110)。減衰器61は、フィードバック信号Sfを減衰させてBPF62に出力する。各BPF62は、対応する周波数帯域の信号のみを通過させ、フィードバック信号Sbを取得する。BPF62は、取得したフィードバック信号Sbを周波数変換器63に出力する。周波数変換器63は、フィードバック信号SbをIF帯の信号にダウンコンバートし、フィードバック信号Sifを取得する。周波数変換器63は、取得したフィードバック信号SifをAD変換器64に出力する。AD変換器64は、フィードバック信号Sifをデジタル信号に変換する。AD変換器64は、この変換によってフィードバック信号DSaを取得する。AD変換器64は、フィードバック信号DSaを直交復調部65に出力する。直交復調部65は、フィードバック信号DSaに対して直交復調を行う。直交復調部65は、直交復調によってフィードバック信号DSfを生成する。直交復調部65は、生成したフィードバック信号DSfを歪み補償部71に出力する。
【0060】
歪み補償部71は、フィードバック信号DSfに対して歪み補償部22と同様の処理を行って非線形歪みを補償する。その際、歪み補償部71は、歪み補償部22が用いた歪み補償係数を用いる。歪み補償部71は、非線形歪みが補償されたフィードバック信号DSfpを歪み補償係数更新部72及び直交変換補償部81に出力する。歪み補償係数更新部72は、フィードバック信号DSfpと歪み補償部22から出力された歪み補償信号DSpとの差分が最小となるように歪み補償係数を決定する(ステップS111)。歪み補償係数更新部72は、自装置が保持する歪み補償係数を、決定した歪み補償係数で更新する。
【0061】
一方、直交変調補償部81は、フィードバック信号DSfpに対して直交変調補償部23と同様の処理を行って直交変調誤差を補償する。その際、直交変調補償部81は、直交変調補償部23が用いた直交変調補償係数を用いる。直交変調補償部81は、直交変調誤差が補償されたフィードバック信号DSfcを直交変調補償係数更新部82に出力する。直交変調補償係数更新部82は、フィードバック信号DSfcと直交変調補償部23から出力された直交変調補償信号DScとの差分が最小となるように直交変調補償係数を決定する(ステップS112)。直交変調補償係数更新部82は、自装置が保持する直交変調補償係数を、決定した直交変調補償係数で更新する。
【0062】
このように構成された第1実施形態の送信機1は、送信信号の歪み補償係数を決定し非線形歪み特性を学習する非線形歪み解析部と、送信信号の直交変調補償係数を決定し直交変調誤差特性を学習する直交変調誤差解析部とを備える。このように、歪み補償係数及び直交変調補償係数の学習が独立して行われることによって、非線形歪み及び直交変調誤差の補償における多項式係数が削減される。そのため、非線形歪み及び直交変調誤差の補償における計算量が削減され、送信信号の補償処理の性能を向上させることが可能となる。
【0063】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態の送信機1aの機能構成を示す機能ブロック図である。
第2実施形態の送信機1aは、フィードバック系6に代えてフィードバック系6aを備える点で第1実施形態の送信機1と異なる。
フィードバック系6aは、周波数変換器63−1〜63−Pに代えて一括周波数変換器63aを備える点、AD変換器64−1〜64−Pに代えてAD変換器64aを備える点でフィードバック系6と異なる。また、フィードバック系6aとフィードバック系6とでは、周波数変換器の数及びAD変換器の数が異なる。さらに、フィードバック系6aとフィードバック系6とでは、BPF、周波数変換器およびAD変換器の接続構成が異なる。
【0064】
一括周波数変換器63aは、減衰器61から出力されたフィードバック信号Sfに含まれる各周波数帯域の信号Sf_1〜Sf_Pを、IF帯域の信号に一括してダウンコンバートする。一括周波数変換器63aは、ダウンコンバートによってフィードバック信号Sif_1〜Sif_Pを取得する。一括周波数変換器63aは、各周波数帯域に対応する局部発振信号LO_1〜LO_Pを用いて、フィードバック信号Sif_1〜Sif_Pの周波数帯域が重複しないように制御する。一括周波数変換器63aは、取得したフィードバック信号Sif_1〜Sif_Pを、AD変換器64aに出力する。
【0065】
AD変換器64aは、フィードバック信号Sif_1〜Sif_Pをデジタル信号に変換する。AD変換器64aは、この変換によってフィードバック信号DSa_1〜DSa_Pを取得する。AD変換器64aは、取得したフィードバック信号DSa_1〜DSa_PをBPF62−1〜BPF62−Pに出力する。フィードバック信号DSa_1〜DSa_Pは、BPF62及び直交復調部65の処理によってフィードバック信号DSf_1〜DSf_Pに変換され、歪み補償部71に出力される。
【0066】
このように構成された第2実施形態の送信機1aでは、フィードバック系6aにおけるアナログ部(一括周波数変換器63a及びAD変換器64a)が一系統で構成される。すなわち、フィードバック信号は、アナログ部において周波数帯域ごとの信号に分割されない。そのため、フィードバック信号が複数のアナログ部を通過することによって生じる、経路差による誤差が発生しない。その結果、フィードバック信号の精度が向上する。そのため、送信機1aは、歪み補償及び直交変調補償の精度を向上させることが可能となる。
【0067】
[第3実施形態]
図4は、第3実施形態の送信機1bの機能構成を示す機能ブロック図である。
第3実施形態の送信機1bは、フィードバック系6aに代えてフィードバック系6bを備える点で第2実施形態の送信機1aと異なる。
フィードバック系6bは、一括周波数変換器63aに代えてLPF66を備える点、AD変換器64aに代えてAD変換器64bを備える点でフィードバック系6aと異なる。
【0068】
LPF66は、AD変換器63bを用いてフィードバック信号Sfをダウンコンバートするために、フィードバック信号Sfから高周波成分を除去するためのLPF(Low Pass Filter)である。LPF66は、高周波成分が除去されたフィードバック信号SfをAD変換器63bに出力する。
【0069】
AD変換器63bは、高周波成分が除去されたフィードバック信号Sfに対してアンダーサンプリングを行うことによって、フィードバック信号Sfに含まれる各周波数帯域の信号Sb_1〜Sb_Pを一括してダウンコンバートする。AD変換器63bは、このダウンコンバートによってフィードバック信号Sif_1〜Sif_Pを取得する。AD変換器63bは、サンプリングレートを調節することによって、フィードバック信号Sif_1〜Sif_Pの周波数帯域が重複しないように制御する。そして、AD変換器63bは、フィードバック信号Sif_1〜Sif_Pをデジタル信号に変換し、フィードバック信号DSif_1〜DSif_Pを取得する。AD変換器63bは、取得したフィードバック信号DSif_1〜DSif_PをBPF62−1〜BPF62−Pに出力する。フィードバック信号DSif_1〜DSif_Pは、BPF62及び直交復調部65の処理によってフィードバック信号DSf_1〜DSf_Pに変換され、歪み補償部71に出力される。
【0070】
このように構成された第3実施形態の送信機1bでは、AD変換器64b及びLPF66を用いてフィードバック信号をダウンコンバートする。そのため、送信機1bは、周波数変換器を備える必要がない。送信機1bが周波数変換器を備えないことによって、フィードバック系6bにおけるアナログ部(周波数変換器)が有する非線形特性の影響が低減される。その結果、フィードバック信号の精度が向上する。そのため、送信機1bは、歪み補償及び直交変調補償の精度を向上させることが可能となる。
【0071】
上述した実施形態における送信機1、1a及び1bをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0072】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1、1a、1b…送信機, 2…送信系, 21、21−1〜21−P…信号生成部, 22、22−1〜22−P…歪み補償部, 23、23−1〜23−P…直交変調補償部, 24、24−1〜24−P…DA変換器, 25、25−1〜25−P…直交変調部, 26…加算器, 3…増幅器, 4…アンテナ, 5…カプラ, 6、6a、6b…フィードバック系, 61…減衰器, 62、62−1〜62−P…BPF(Band Pass Filter), 63、63−1〜63−P…周波数変換器, 63a…一括周波数変換器, 64、64a、64b、64−1〜64−P…AD変換器, 65、65−1〜65−P…直交復調部, 66…LPF(Low Pass Filter), 7…非線形歪み解析部, 71、71−1〜71−P…歪み補償部, 72…歪み補償係数更新部, 8…直交変調誤差解析部, 81、81−1〜81−P…直交変調補償部, 82…直交変調補償係数更新部, 90…送信機, 92…送信系, 921、921−1〜921−P…信号生成部, 922、922−1〜922−P…Iチャネル用歪み補償部, 923、923−1〜923−P…Qチャネル用歪み補償部, 924、924−1〜924−P…DCオフセット補償部, 925、925−1〜925−P…DA変換器, 926、926−1〜926−P…直交変換部, 927…加算器, 93…増幅器, 94…アンテナ, 95…カプラ, 96…フィードバック系, 961…減衰器, 962、962−1〜962−P…BPF, 963、963−1〜963−P…周波数変換器, 964、964−1〜964−P…AD変換器, 965、965−1〜965−P…直交復調部, 97…解析部, 971、971−1〜971−P…Iチャネル用歪み補償部, 972、972−1〜972−P…Qチャネル用歪み補償部, 973、973−1〜973−P…DCオフセット補償部, 974、974−1〜974−P…加算器, 975…係数更新部
図1
図2
図3
図4
図5
図6