特許第6241824号(P6241824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241824酸化物焼結体、その製造方法及び酸化物焼結体製造用原料粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241824
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、その製造方法及び酸化物焼結体製造用原料粉末
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20171127BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20171127BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C04B35/453
   C01G15/00 Z
   C23C14/34 A
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-165093(P2014-165093)
(22)【出願日】2014年8月14日
(62)【分割の表示】特願2011-518430(P2011-518430)の分割
【原出願日】2010年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-6984(P2015-6984A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2014年8月14日
【審判番号】不服2016-9489(P2016-9489/J1)
【審判請求日】2016年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-135806(P2009-135806)
(32)【優先日】2009年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】長田 幸三
(72)【発明者】
【氏名】掛野 崇
(72)【発明者】
【氏名】高見 英生
(72)【発明者】
【氏名】生澤 正克
(72)【発明者】
【氏名】矢作 政隆
【合議体】
【審判長】 新居田 知生
【審判官】 大橋 賢一
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−322335(JP,A)
【文献】 特開2009−114013(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/33355(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/14409(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00 35/453
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなり、式InxGayZnzOa[式中、x/(x+y)が0.2〜0.8、z/(x+y+z)が0.1〜0.5、a=(3/2)x+(3/2)y+z]で表される酸化物焼結体の製造方法であって、酸として塩酸、アルカリ溶液としてアンモニア水を用い、中和法で水酸化ガリウムを得た後、当該水酸化ガリウムの粉量に対して20倍量以上の純水で洗浄し、1200℃以上で焙焼して、塩化濃度が10ppm未満である酸化ガリウム粉末を製造し、得られた酸化ガリウム粉末に、塩素濃度がそれぞれ10ppm未満である酸化インジウム及び酸化亜鉛粉末を配合して、1450℃(但し、1450℃を除く)〜1490℃で焼結することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置や有機EL表示装置中の薄膜トランジスタの活性層等に使用される透明半導体IGZO膜を、スパッタリング法で製造する際に、スパッタリングターゲットとして使用されるIGZO酸化物焼結体、その製造方法及び該酸化物焼結体の製造用原料として使用される酸化物粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリックス型液晶表示装置等の表示素子には、各画素駆動用駆動用のシリコン系材料を活性層とする薄膜トランジスタが使用されているが、可視光吸収防止用光遮断層による開口率の減少、高温成膜が必要等の欠点から、近年、透明酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの開発が行われている。
【0003】
透明酸化物半導体は、低温成膜可能、高移動度等の観点から注目されており、中でも、インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素を構成元素とするIn−Ga−Zn−O系材料(以下、「IGZO」と記載する。)からなる非晶質IGZO膜の移動度は、アモルファスシリコンの移動度より高く、非晶質IGZO膜を活性層に用いた電界効果型トランジスタはオンオフ比が高い等の特性を有するため、有望視されている(非特許文献1、特許文献1参照)。
【0004】
非晶質IGZO膜の作製方法としては、量産性に優れているスパッタリング法が、最も適切であり、そのためには、IGZOターゲットは高密度である必要がある。
【0005】
しかしながら、これまでに高密度IGZOターゲットを製造できる場合もあったが、生産継続中に焼結体の密度が低下し、更に生産を継続していくと、また、高密度ターゲットができるようになるといったことがあり、その原因として、焼結条件等のターゲット製造プロセス条件の不適切が予想されたが、結局、原因は不明ということがあった。
【0006】
一方、酸化物焼結体ターゲット中の不純物濃度の種類やその許容濃度について、これまでに報告されている例としては、以下のものがある。
【0007】
特許文献2には、塩素濃度が50質量ppm以下の酸化インジウム粉を用いた酸化インジウム系スパッタリングターゲットの製造方法について記載されている。しかしながら該明細書で開示されているのは酸化インジウム粉に含まれる塩素濃度の効果のみである。
【0008】
特許文献3には、ハロゲン元素の含有量が少ない酸化インジウム粉当に関する記載がある。しかしながら、実施例では、原料としては、硝酸インジウムが用いられているのみである。
【0009】
つまり、これまでの先行技術における酸化物焼結体ターゲット中の不純物に関する報告としては、酸化インジウム粉に含まれる塩素等に関するものであり、本発明で開示するIGZO透明半導体ターゲットの原料である酸化ガリウム(Ga)に含有される不純物の種類や濃度が焼結体密度に与える影響についてのものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−173580号公報
【特許文献2】特開2008−308385号公報
【特許文献3】特開平10−182150号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K. Nomura et al. "Room-temperature fabrication of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors", Nature,432, p488-492(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、透明半導体IGZO膜のスパッタ法での成膜に必要なスパッタリングターゲットとして使用されるIGZOターゲットを高密度で製造する製造方法、該製造方法で得られるIGZO焼結体、および該IGZO焼結体製造用原料として適切な、不純物濃度が低い酸化物原料紛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、主としてインジウム、ガリウム、亜鉛及び酸素を構成元素とする透明半導体膜作製用スパッタリングターゲットであって、これらの元素の濃度比が所定の範囲内にある酸化物焼結体の焼結時に、焼結体に破裂、膨れ、密度低下等の問題が発生することがあり、その原因を鋭意究明したところ、これらの問題が、原料である酸化物粉末中に含有される特定不純物の濃度と相関があることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
かかる知見を基礎として完成した本発明は、以下のように特定することができる。
【0015】
1)インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなり、式InxGayZnzOa[式中、x/(x+y)が0.2〜0.8、z/(x+y+z)が0.1〜0.5、a=(3/2)x+(3/2)y+z]で表される酸化物焼結体であって、該酸化物焼結体に含有される揮発性不純物の濃度が20ppm以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
2)揮発性不純物が、塩素化合物、硝酸化合物、硫酸化合物、アンモニウム化合物の中から選ばれた1以上を含有する化合物であることを特徴とする上記1記載の酸化物焼結体。
3)揮発性不純物が、塩素化合物であることを特徴とする上記1又は請求項2に記載の酸化物焼結体。
4)揮発性不純物が、塩素とガリウムとの化合物であることを特徴とする上記1乃至請求項3のいずれか一項に記載の酸化物焼結体。
5)相対密度が95%以上であり、バルク抵抗値が5.0×10−2Ωcm以下であることを特徴とする上記1乃至4のいずれか一項に記載の酸化物焼結体。
6)相対密度が98%以上であることを特徴とする5)記載の酸化物焼結体。
7)相対密度が99%以上であることを特徴とする5)記載の酸化物焼結体。
【0016】
8)インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなり、式InxGayZnzOa[式中、x/(x+y)が0.2〜0.8、z/(x+y+z)が0.1〜0.5、a=(3/2)x+(3/2)y+z]で表される酸化物焼結体の製造方法であって、揮発性不純物濃度がそれぞれ20ppm以下である酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛原料粉末を使用して焼結することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
9)揮発性不純物が、塩素化合物、硝酸化合物、硫酸化合物、アンモニウム化合物の中から選ばれた1以上を含有する化合物であることを特徴とする上記8)記載の酸化物焼結体の製造方法。
10)揮発性不純物が、塩素化合物であることを特徴とする上記8)又は9)記載の酸化物焼結体の製造方法。
11)揮発性不純物が、塩素とガリウムとの化合物であることを特徴とする上記8)乃至10)のいずれか一項に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【0017】
12)揮発性不純物濃度が、それぞれ20ppm以下である酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛粉末からなる酸化物焼結体製造用原料粉末。
13)揮発性不純物が、塩素化合物、硝酸化合物、硫酸化合物、アンモニウム化合物の中から選ばれた1以上を含有する化合物であることを特徴とする上記12)に記載の酸化物焼結体製造用原料粉末。
14)揮発性不純物が、塩素化合物であることを特徴とする上記12)又は13)記載の酸化物焼結体製造用原料粉末。
15)揮発性不純物が、塩素とガリウムとの化合物であることを特徴とする上記12)乃至14)のいずれか一項に記載の酸化物焼結体製造用原料粉末。
【発明の効果】
【0018】
以上の様に、本発明によれば、透明半導体IGZO膜作製用のスパッタリングターゲットとして使用される高密度IGZO酸化物焼結体の製造方法、該焼結体を提供できるので、該高密度IGZO酸化物焼結体を用いて、スパッタリング成膜することで、アーキング等の異常放電もなく、長時間の使用でも、表面にノジュールが発生して悪影響を及ぼすこともなく、アクティブマトリックス駆動の液晶表示素子や有機EL表示素子中の薄膜トランジスタの活性層部分となる良好な透明半導体IGZO膜を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の内容、特に、発明を規定する語句の意味や発明特定事項の範囲の設定理由等について詳細に説明する。
【0020】
本発明に使用する酸化物焼結体は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)を構成元素とする。該酸化物焼結体に含有される元素のうちに上記4種類が、他の元素よりも高濃度であり、本焼結体作製過程において混入してくる、あるいは原料から混入する不純物濃度よりも非常に高濃度であることを意味している。
【0021】
本発明に係る酸化物焼結体は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなり、式InxGayZnzOa[式中、x/(x+y)が0.2〜0.8、z/(x+y+z)が0.1〜0.5、a=(3/2)x+(3/2)y+z]で表され、例えば、x:y:z=1:1:1の場合は、InGaZnOと、x:y:z=2:2:1の場合は、InGaZnOと表すことができる。
【0022】
インジウムとガリウムの合量に対するインジウムの原子数比x/(x+y)が0.8を超えると、スパッタ成膜して得られる膜のキャリア濃度が高過ぎてしまい、その膜を活性層とする薄膜トランジスタ特性の重要な指標であるon/off比が悪くなってしまう。一方、このインジウム比が0.2未満になると、スパッタ成膜して得られる膜のキャリア濃度が低くなり過ぎてしまうと共に、膜の移動度も低下してしまって、素子特性上、好ましくない。
【0023】
また、本発明に係る酸化物焼結体は、インジウムとガリウムと亜鉛の合量に対する亜鉛の原子数比z/(x+y+z)が0.5を超えると、スパッタ成膜して得られる膜の安定性、耐湿性等が劣化してしまう。一方、この亜鉛比が0.1未満になると、スパッタ成膜して得られる膜の非晶質性が弱くなり、結晶化し易くなってしまう。
結晶化膜は膜特性の面内ばらつきが大きく、素子特性のばらつきを大きくしてしまう。更に、Zn比の減少とは、InとGaの合計比の増加であり、これら2種類の金属は比較的高価であるため、酸化物焼結体のコストアップとなってしまう。
【0024】
本明細書中において、aは化学的量論組成と一致した場合についての記載をしているが、本発明の酸化物焼結体中の酸素量は、化学的量論組成からずれて、多少酸素欠損していることの方が常態であり、本発明はそのように酸素欠損を有した酸化物焼結体をも包含するのである。
【0025】
本願明細書で説明する「不純物」とは、原料として使用される酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛に含まれるに含まれるインジウム、ガリウム、亜鉛、酸素以外の元素であり、不純物濃度は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析法で求めることができる。
本発明では、SIIナノテクノロジ−社製型式SPS3000を用いて、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析法を行って、原料中及び酸化物焼結体中の不純物濃度を評価した。
【0026】
本願明細書で説明する「不純物が揮発性である」とは、不純物の温度を上げていった際に、不純物が気体状態となって、原料から離脱するということである。一般に、物質の温度を上げていくと、固体から直接気体になるものや、液体を経由してから気体にあるものなどがあり、最終的には全て気体となるとも言えるので、全ての物質が揮発性を有することにもなるが、ここでは、原料からの離脱する温度が、酸化物焼結体の焼結温度の上限以下である1500℃以下であることを意味するものとする。
【0027】
本発明の酸化物焼結体の相対密度は、95%以上とすることが可能であり、また98%以上に、さらには99%以上を達成することができる。酸化物焼結体の相対密度が95%未満であると、膜のキャリア濃度のばらつきが大きくなることに加えて、その酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて、スパッタ成膜した場合、スパッタ時間の経過に伴って、ノジュールの発生が多くなり、異常放電の発生頻度が高くなり、得られる膜特性が劣化するという不利があるので、本願発明の優位性は明らかである。
【0028】
酸化物焼結体の相対密度の測定方法は、まず、各組成に対して、各構成元素と形態から酸化物焼結体の相対密度が100%となる密度の値が決定でき、次に、実際に作製した酸化物焼結体の密度をアルキメデス法等で求めて、相対密度が100%の密度の値で除したものとして求めることができる。
酸化物焼結体の結晶構造は、X線回折装置を用いて評価することができる。本発明では、リガク社製RINT−1100X線回折装置を用いて結晶構造を評価した。
【0029】
(酸化物焼結体の製造方法)
上記の本発明に係る酸化物焼結体の製造工程の代表例を示すと、次の通りである。
原料としては、酸化インジウム(In)、酸化ガリウム(Ga)、及び酸化亜鉛(ZnO)を使用することができる。不純物による電気特性への悪影響を避けるために、純度4N以上の原料を用いることが望ましい。各々の原料粉を所望の組成比となるように秤量する。なお、上記の通り、これらに不可避的に含有される不純物は含まれるものである。
【0030】
次に、混合と粉砕を行う。粉砕が不充分であると、製造したターゲット中に各成分が偏析して、高抵抗率領域と低抵抗率領域が存在することになり、スパッタ成膜時に高抵抗率領域での帯電等によるアーキングなどの異常放電の原因となってしまうので、充分な混合と粉砕が必要である。
スーパーミキサーにて各原料を混合した後、必要に応じて、これらをアルミナ製匣鉢に詰め、温度950〜1350°Cの範囲で仮焼する。仮焼の保持時間は、2〜10hr、大気雰囲気で行う。
【0031】
次に、これらの原料を、少量の場合は、例えば1バッチ1000g単位でアトライター(φ3mmジルコニアビーズ、アジテータ回転数300rpm)又はLMZ(スターミル:アシザワファインテック製)にて2〜5hr程度、微粉砕する。
大量の場合は、原料を1バッチ30kg単位で、LMZ(スターミル:アシザワファインテック製)にて2〜5hr程度微粉砕(φ0.5mmジルコニアビーズ、投入電力3.0kW・Hr)する。
【0032】
次に、微粉砕後のスラリーを熱風乾燥機で、100〜150°C×5〜48hr乾燥して、目開き250μm篩で篩別して粉を回収する。なお、微粉砕の前後で、それぞれの粉末の比表面積を測定する。1000gのIGZO粉にPVA水溶液(PVA固形分3%)を20cc混合し、目開き500μm篩で篩別する。
【0033】
次に、φ210mmの金型に、粉末1000gを充填し、面圧400〜1000kgf・cmでプレスして成型体を得る。この成型体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIPする。そして、所定の温度で焼結を行ない(保持時間5〜24hr、酸素雰囲気中)、焼結体を得る。
ターゲットの製作に際しては、上記によって得られた酸化物焼結体の外周の円筒研削、面側の平面研削をすることによって、例えば152.4φ×5tmmのターゲットに加工する。これをさらに、例えば銅製のバッキングプレートに、インジウム系合金などをボンディングメタルとして、貼り合わせることでスパッタリングターゲットとする。
【0034】
(原料酸化物粉末の製造方法)
本発明に係る原料酸化物粉末の製造方法としては、各種の方法が有り得るが、最も一般的なのは中和法である。例えば、酸化ガリウム粉を製造する場合は、まず、原料ガリウム金属を酸に溶解させる。この際に使用される酸としては、塩酸、硝酸、硫酸またはこれらの混合酸などがある。その後、溶解液をアルカリ溶液で中和する。
この際に使用されるアルカリ溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウムなどがある。中和によって水酸化ガリウム(Ga(OH))が沈殿して、その後、水酸化ガリウムから水分子が取れて、オキシ水酸化ガリウム(GaOOH)に変化する。
これらの水酸化物を良く洗浄してから、乾燥させることで、酸化ガリウム粉末を得ることができる。他の原料である酸化インジウム、酸化亜鉛の原料粉を得る方法もほぼ同様である。
【0035】
上記の様に中和法による酸化物粉末を得る際に、乾燥前の洗浄工程での洗浄が充分に行われない場合、溶液に残留している不純物が、原料酸化物粉末中に混入してしまう。
特に、酸化ガリウム製造時、酸として塩酸、アルカリ溶液としてアンモニア水を用いる場合は、塩化アンモニウムが残り易い。また、原料粉が微細であると、特に原料紛の凝集隙間や原料粉自体の細孔等に入り込んでしまい易く、単に、純水での洗浄では、不純物がなかなか取りきれず、充分に取り除こうとすると、非常に多くの時間と労力を要してしまう。
【0036】
また、従来の知見では、残留不純物濃度、特に、揮発性不純物については、酸化物焼結体の原料として使用されるのであれば、焼結時の比較的低温度で離脱してしまうので、焼結への悪影響はないだろうと思われており、実際、比較的低温で離脱する揮発性不純物もあるので、残留不純物濃度を規定するという意識がないことが多かった。
【0037】
しかしながら、揮発性不純物の中には、例えば、塩化ガリウム(GaCl)の様に、1300℃を超えて初めて、離脱する化合物もあることを本発明において初めて見出した。また、単体では比較的低温で気化離脱する化合物であっても、酸化物原料粉に付着、細孔内に残存する状態では、より高温になって初めて離脱するものも有る。
特に、有害な塩化ガリウム(GaCl)は原料Ga中に残留する。この塩化ガリウムが焼結中に揮発すれば良いのであるが、焼結温度付近でも1気圧程度と蒸気圧が低く、揮発し難い物質である。したがって、原料粉又は原料粉の調合段階で、含有する塩化ガリウム(GaCl)の合計量を低減させることが望ましいと言える。
【0038】
塩化物の濃度を下げる具体的な方法としては、次の方法を提案できる。
a)酸化ガリウム前駆体(水酸化ガリウム)を十分に洗浄する方法。
具体的には、粉量に対して20倍量の純水で洗浄した後、1000°Cで焙焼する。これによって、塩化物濃度を200wwtppmにまで低減化する。
b)ガリウム水酸化物から酸化ガリウムへ酸化させる際に、焙焼温度を1200°C以上の高温で熱処理する方法。
具体的には、粉量に対して20倍量の純水で洗浄した水酸化物を、焙焼温度1200°Cで焙焼することによって、塩化物濃度を10wtppm以下に低減化する。
以上に示すように、塩化物の濃度を低減させるためには、水洗を十分に行うこと、さらに焙焼温度を高温で行うことによって、達成することが可能である。
【0039】
一方、原料紛の乾燥前の洗浄時に、容器に超音波を加えて超音波振動による不純物の除去や窒素ガスバブリング等の方法を加えることによって、原料粉に付着した不純物の除去を促進させることができる。また、逆に洗浄をわざと不充分に行うことにより、残留不純物濃度を多くすることができる。本実施例中の比較例で記載されている不純物濃度が高い酸化物原料粉は上記の様にして作製できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0041】
実施例に使用した原料粉は、表1に示す通りである。この原料について、IGZOをメタル比でIn:Ga:Zn=2:2:1(モル比で、In:Ga:ZnO=1:1:1)又はIn:Ga:Zn=1:1:1(モル比で、In:Ga:ZnO=1:1:2)となるよう原料を調合し、これらの原料組合せと製造条件(微粉砕、仮焼温度、焼結温度)を変えて、ターゲットを作製し、各種の試験を行った。これらの詳細を、表2の実施例1〜実施例7に示す。
なお、上記モル配合比(1:1:1)は、IGZOターゲットの代表的なものである。本発明の目的とするターゲットのノジュール発生を防止するためには、IGZOの配合比は特に問題とはならないが、実施例1〜実施例6については、In:Ga:ZnO=1:1:1となるよう原料を調合して実施した。
【0042】
下記に示す実施例及び比較例において、各種の分析測定や評価が必要となるが、その条件・装置名等を以下に示す。
(粒径の測定)
粒径の測定は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、Microtrac MT3000)を用いて行った。
(塩素濃度の測定)
塩素濃度の測定は、塩素・硫黄分析装置(株式会社三菱アナリティック製、TOX-2100H)を用いて行った。
(密度の測定)
密度の測定は純水を溶媒として用いたアルキメデス法にて測定を行った。相対密度の算出に用いた理論密度は、JCPDSカードで報告されている密度を引用した(In:Ga:Zn=2:2:1についてはInGaZnO(カード番号:381097)、In:Ga:Zn=1:1:1についてはInGaZnO(カード番号:381104)である)。
(バルク抵抗値の測定)
バルク抵抗値の測定は、抵抗率測定器(エヌピイエス株式会社製、Σ−5+)を用いて、四探針法で行った。
(比表面積の測定)
比表面積(BET)の測定は、自動表面積計ベータソープ(日機装株式会社製、MODEL-4200)で行なった。
【0043】
(スパッタリング条件)
作製したターゲットの試験片については、表3に示すスパッタリング条件でスパッタリングし、ノジュールの発生を目視観察した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
(実施例1)
本実施例1では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(1)粒径5.6μm、比表面積9.1m/g、塩素濃度18ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合した(仮焼せず)。粉砕前の比表面積(BET)は6.0m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は17.8m/gであった。この差は、10.8m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。この結果、造粒粉の塩素濃度は14ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0048】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、実施例1では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.20g/cm、相対密度は95.5%(本実施例1の組成の真密度は6.495g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は3.0mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例1のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0049】
(実施例2)
本実施例2では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(1)粒径5.6μm、比表面積9.1m/g、塩素濃度18ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合し、950°Cで仮焼した。粉砕前の比表面積(BET)は2.6m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は17.0m/gであった。この差は、14.4m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は13ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0050】
焼結は1300°Cで実施した。以上の結果、実施例2では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.46g/cm、相対密度は99.5%(本実施例2の組成の真密度は6.495g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は5.2mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例2のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0051】
(実施例3)
本実施例3では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(1)粒径5.6μm、比表面積9.1m/g、塩素濃度18ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合し、950°Cで仮焼した。粉砕前の比表面積(BET)は2.6m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は17.0m/gであった。この差は、14.4m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。この結果、造粒粉の塩素濃度は11ppmとなった。
ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0052】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、実施例3では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.22g/cm、相対密度は95.8%(本実施例3の組成の真密度は6.495g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は2.2mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例3のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0053】
(実施例4)
本実施例4では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(2)粒径4.6μm、比表面積11.9m/g、塩素濃度12ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合し、950°Cで仮焼した。粉砕前の比表面積(BET)は3.1m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は14.7m/gであった。この差は、11.6m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は<10ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0054】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、実施例4では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.26g/cm、相対密度は96.4%(本実施例4の組成の真密度は6.495g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は6.0mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例4のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0055】
(実施例5)
本実施例5では、In原料として、上記(1)粒径0.7μm、比表面積13.7m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(2)粒径4.6μm、比表面積11.9m/g、塩素濃度12ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合した(仮焼せず)。粉砕前の比表面積(BET)は13.8m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は22.1m/gであった。この差は、8.3m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は<10ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0056】
焼結は1400°Cで実施した。以上の結果、実施例5では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.48g/cm、相対密度は99.8%(本実施例5の組成の真密度は6.495g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は4.0mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例5のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0057】
(実施例6)
本実施例6では、In原料として、上記(1)粒径0.7μm、比表面積13.7m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(2)粒径4.6μm、比表面積11.9m/g、塩素濃度12ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合した(仮焼せず)。粉砕前の比表面積(BET)は13.8m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は22.1m/gであった。この差は、8.3m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は<10ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0058】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、実施例6では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.44g/cm、相対密度は99.2%(本実施例6の組成の真密度は6.495g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は2.6mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例6のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0059】
(実施例7)
本実施例7では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(3)粒径4.2μm、比表面積9.3m/g、塩素濃度<10ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=1:1:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合した(仮焼せず)。粉砕前の比表面積(BET)は1.7m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は11.5m/gであった。この差は、9.8m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は<10ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0060】
焼結は1490°Cで実施した。以上の結果、実施例7では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.34g/cm、相対密度は99.4%(本実施例7の組成の真密度は6.379g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は18.0mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例6のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0061】
(実施例8)
本実施例8では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(3)粒径4.2μm、比表面積9.3m/g、塩素濃度<10ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=1:1:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合した(仮焼せず)。粉砕前の比表面積(BET)は1.7m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は11.5m/gであった。この差は、9.8m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表2に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は<10ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0062】
焼結は1490°Cで実施した。以上の結果、実施例8では、焼結体の塩素濃度は、検出限界以下、すなわち10ppm未満であった。密度は6.27g/cm、相対密度は98.3%(本実施例8の組成の真密度は6.379g/cm)と高密度であり、バルク抵抗値は24.0mΩ・cmで、DCスパッタリングが十分可能である低バルク抵抗値を有していた。また、実施例6のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は認められなかった。
DCスパッタリングを上記条件で行った結果、パーティクルの発生やノジュール数は減少し、スパッタリング中の異常放電が殆ど認められなかった。
【0063】
(比較例1)
比較例1では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(4)粒径3.0μm、比表面積9.4m/g、塩素濃度156ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合した(仮焼せず)。粉砕前の比表面積(BET)は2.6m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は17.0m/gであった。この差は、14.4m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表4に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は40ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0064】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、比較例1では、焼結体の塩素濃度は、28ppmとなり、本願発明の条件を満たしていなかった。密度は5.72g/cm、相対密度は88.1%(本比較例1の組成の真密度は6.495g/cm)と低密度であり、バルク抵抗値は測定しなかった。DCスパッタリングが不能であった。また、比較例1のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は多数認められた。
DCスパッタリングに替え、スパッタリング効率が悪い高周波(RF)スパッタリングを行った結果、パーティクルの発生やノジュール数が多量に発生し、スパッタリング中の異常放電が見られた。以上の結果を、表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
(比較例2)
比較例2では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(4)粒径3.0μm、比表面積9.4m/g、塩素濃度156ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合し、これを950°Cで仮焼した。粉砕前の比表面積(BET)は3.3m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は10.2m/gであった。この差は、6.9m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表4に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は38ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0067】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、比較例2では、焼結体の塩素濃度は、26ppmとなり、本願発明の条件を満たしていなかった。密度は5.63g/cm、相対密度は86.7%(本比較例2の組成の真密度は6.495g/cm)と低密度であり、バルク抵抗値は測定しなかった。DCスパッタリングが不能であった。また、比較例2のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は多数認められた。
DCスパッタリングに替え、スパッタリング効率が悪い高周波(RF)スパッタリングを行った結果、パーティクルの発生やノジュール数が多量に発生し、スパッタリング中の異常放電が見られた。以上の結果を、表4に示す。
【0068】
(比較例3)
比較例3では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(4)粒径3.2μm、比表面積9.6m/g、塩素濃度300ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=2:2:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合し、これを950°Cで仮焼した。粉砕前の比表面積(BET)は3.2m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は11.4m/gであった。この差は、8.2m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を表4に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は55ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0069】
焼結は1450°Cで実施した。以上の結果、比較例3では、焼結体の塩素濃度は、35ppmとなり、本願発明の条件を満たしていなかった。密度は5.63g/cm、相対密度は85.0%(本比較例3の組成の真密度は6.495g/cm)と低密度であり、バルク抵抗値は測定しなかった。DCスパッタリングが不能であった。また、比較例3のIGZO焼結体ターゲットの膨れや割れの発生は多数認められた。
DCスパッタリングに替え、スパッタリング効率が悪い高周波(RF)スパッタリングを行った結果、パーティクルの発生やノジュール数が多量に発生し、スパッタリング中の異常放電が見られた。以上の結果を、表4に示す。
【0070】
(比較例4)
比較例4では、In原料として、上記(1)粒径10.7μm、比表面積4.4m/g、塩素濃度<10ppmのIn粉末を用い、Ga原料として、上記(5)粒径3.2μm、比表面積9.6m/g、塩素濃度300ppmのGa粉末を用い、ZnO原料として、上記(1)粒径1.1μm、比表面積3.8m/g、塩素濃度<10ppmのZnO粉末を用いた。これらの粉末を、メタル比で、In:Ga:Zn=1:1:1となるよう原料を調合した。
次に、これらの粉末を混合し、これを1050°Cで仮焼した。粉砕前の比表面積(BET)は1.7m/gであった。また、粉砕後の比表面積(BET)は8.3m/gであった。この差は、6.6m/gであった。その他、粉末の混合、粉砕、仮焼、焼結、ターゲット製造条件の詳細を、表4に示す。
この結果、造粒粉の塩素濃度は62ppmとなった。ここでは、条件の主なものを記載する。また、各種の測定や評価は、上記段落[0025],[0028],[0042]に記載する方法により実施した。
【0071】
焼結は1490°Cで実施した。以上の結果、比較例5では、焼結体の塩素濃度は、38ppmとなり、本願発明の条件を満たしていなかった。
密度は5.80g/cm、相対密度は90.9%(本比較例4の組成の真密度は6.379g/cm)と密度は高いが、バルク抵抗値は58mΩ・cmであり、DCスパッタリングを行うのが難しかった。また、比較例4のIGZO焼結体ターゲットでは、膨れや割れの発生が多数認められた。
強引にDCスパッタリングを行った結果、パーティクルの発生やノジュール数が多量に発生し、スパッタリング中の異常放電が見られた。以上の結果を、表4に示す。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなり、式InxGayZnzOa[式中、x/(x+y)が0.2〜0.8、z/(x+y+z)が0.1〜0.5、a=(3/2)x+(3/2)y+z]で表される酸化物焼結体であって、該酸化物焼結体に含有される揮発性不純物の濃度が20ppm以下であることを特徴とする酸化物焼結体及びその製造方法であるが、これによってターゲットを高密度化することができ、またバルク抵抗値を低減することが可能となり、ターゲットの製造工程中の膨れや割れを防止すると共に、さらにスパッタリング中のノジュールの発生を最小限に押さえ、異常放電を抑制し、かつ安定したDCスパッタリングが可能であるという優れた効果を有する。
さらに、ターゲットライフも長くすることができ、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができる。このIn−Ga−Zn−O系(IGZO)材料は、電子キャリア濃度が1018/cm未満であるアモルファス酸化物が得られるので、電界効果型トランジスタに有用である。また、IGZOターゲットとして、広範囲な用途に支障なく使用できるので、産業上の利用価値は高い。