(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241841
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】玉繭用区画蔟及び玉繭の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/04 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
A01K67/04 307E
A01K67/04 306J
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-175961(P2013-175961)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-43708(P2015-43708A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英二
(72)【発明者】
【氏名】中島 健一
(72)【発明者】
【氏名】井波 勇二
(72)【発明者】
【氏名】中村 薫
(72)【発明者】
【氏名】三澤 利彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 好二
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭29−004670(JP,Y1)
【文献】
実開昭55−042926(JP,U)
【文献】
特公昭27−001566(JP,B1)
【文献】
実公昭48−016872(JP,Y1)
【文献】
特公昭28−005077(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅39〜40cm×長さ54〜55cm×深さ(高さ)3cmの大きさを有する長方形の枠部材と該枠部材内を1区画が幅3cm×長さ4.5cm×深さ(高さ)3cmに区画可能な幅39〜40cm×深さ(高さ)3cmの大きさ及び長さ54〜55cm×深さ(高さ)3cmの大きさを有する複数の仕切部材とを用い、前記枠部材を前記仕切部材により、各区画が幅×長さ=3cm×9cm、3cm×13.5cm、6cm×4.5cm、6cm×9cm、6cm×13.5cm、9cm×4.5cm、9cm×9cm、又は9cm×13.5cmの大きさを有するように仕切ったものであることを特徴とする玉繭用区画蔟。
【請求項2】
幅39〜40cm×長さ54〜55cm×深さ(高さ)3cmの大きさを有する長方形の枠部材と該枠部材内を1区画が幅3cm×長さ4.5cm×深さ(高さ)3cmに区画可能な幅39〜40cm×深さ(高さ)3cmの大きさ及び長さ54〜55cm×深さ(高さ)3cmの大きさを有する複数の仕切部材とを用い、前記枠部材を前記仕切部材により、各区画が幅6cm×長さ4.5cmの大きさ、又は幅3cm×長さ9cmの大きさを有し、但し、幅6cm×長さ4.5cmの大きさの場合、任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ4.5cmの大きさを有するように仕切ったものであることを特徴とする玉繭用区画蔟。
【請求項3】
前記玉繭用区画蔟が回転蔟として用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉繭用区画蔟。
【請求項4】
長方形の枠部材と該枠部材内を区画する仕切部材とを備えてなり、該枠部材が該仕切部材によって複数に仕切られた区画を有し、各区画が幅×長さ=3cm×9cm、3cm×13.5cm、6cm×4.5cm、6cm×9cm、6cm×13.5cm、9cm×4.5cm、9cm×9cm、又は9cm×13.5cmの大きさを有し、深さ(高さ)が3cmである玉繭用区画蔟又は長方形の枠部材と該枠部材内を区画する仕切部材とを備えてなり、該枠部材と該仕切部材とによって仕切られた区画が、それぞれ、幅6cm×長さ4.5cmの大きさ、又は幅3cm×長さ9cmの大きさを有し、深さ(高さ)が3cmであり、但し、幅6cm×長さ4.5cmの大きさの場合、任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ4.5cmの大きさを有する玉繭用区画蔟を用いて玉繭を生産する方法であって、垂直に立てた該玉繭用区画蔟の下端付近に所定頭数の熟蚕を広げ、該熟蚕が取り付いた区画蔟を回転枠に吊り下げて回転可能な状態にした後、上記熟蚕が各区画内を移動して所定の区画内に入り、該区画内で営繭及び結繭することにより、玉繭を生産することを特徴とする玉繭の生産方法。
【請求項5】
前記熟蚕が、玉繭を高率で結繭する品種であることを特徴とする請求項4に記載の玉繭の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉繭用区画蔟及び玉繭の生産方法に関し、特に所定の大きさの区画を有する玉繭用区画蔟及びこの玉繭用区画蔟を用いて玉繭を効率的に生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の単繭に蚕2頭以上(好ましくは2頭)で1つの繭を作る玉繭(同功繭)を一定の割合(通常、3割程度)で混ぜて繰糸して得られる糸である「玉糸」は、ランダムな節が多くみられる趣のある糸である。国内市場においては、通常の単繭からの生糸が4〜5千円/kgで取引されているのに対し、玉糸はその数倍の価格で取引されている。
【0003】
近年、玉糸は紬や特徴のある織物に用いられ、着物愛好家の間では人気が高い糸である。例えば、結城(茨城、栃木)、牛首(石川)、大島(鹿児島)、久米島(沖縄)などの産地で作られた紬は、重要無形文化財としても知られている。また、シルクシャンタンなど洋装分野においても用いられており、根強い人気がある糸である。
【0004】
国産の玉糸生産を増加させるために、牛首紬、大石紬(山梨県)等の産地からの強い要望により実用玉繭系統の開発は開始された。また、現在、沖縄県の浦添織、久米島紬、鹿児島県の大島紬の産地では、沖縄県由来の多蚕系統(複数個体で1つの繭を作る形質)である琉球多蚕繭を飼育するなど、養蚕復活の活動を起こす動きがあり、琉球多蚕繭を由来とした育成蚕系統が開発された。例えば、育成蚕系統としては後述の日701号×中701号(珠里丸
(R))が知られている。
【0005】
しかしながら、現在の生産方法では玉繭を高率で生産できないため、業界の需要に応える量の国内産の玉糸を供給することができていないのが現状であり、生糸業界では、玉繭を高率で生産する蚕系統の開発と効率の良い上蔟方法とが求められていた。なお、上蔟(じょうぞく)とは、成熟した蚕を、繭を作らせるため、蔟(まぶし)に移し入れることである。
【0006】
玉繭を高率に生産するには、玉繭を高率に作る蚕系統の開発と共に、玉繭を高率に生産するための上蔟方法の開発が必要となる。そのためには、玉繭を高率的に生産可能な蔟の開発が不可欠である。蔟は、蚕が繭を作るときの足場にするものであり、一般的に、ボール紙などを井桁(いげた)に組んで区画したものが用いられ、1区画に1つの繭を作らせる。現在は、通常の繭や玉繭をつくるために、下記に説明するような2種類の蔟(区画蔟及び山型蔟)を使った上蔟方法が一般的に行われている。
【0007】
第1の上蔟方法としては、区画蔟(ボール蔟)による回転蔟を使用して単繭を生産する方法が行われている。大半の養蚕農家では、
図1(a)及び(b)に示す区画蔟を用いて1区画に1つの単繭を作らせる上蔟方法を行っている。この区画蔟は、ボール紙が素材として使用されているので、折りたたんでコンパクトに収納可能である。かつ、この区画蔟から得られる繭質は良好であることが知られている。区画蔟の全体の大きさは、外枠が幅39〜40cm程度×長さ54〜55cm程度×高さ3cmであって、区画された部分は、幅3cm×長さ4.5cm×深さ3cm/区画であり、その区画が縦13列×横12列で、総数156区画/枚を有する蔟が標準的な規格品として一般的に用いられている。前記形状の蔟が標準規格品なので、飼育に使用されている様々な器具、例えば、蚕箔、回転蔟用器具、蔟から繭を集める収繭機等は、前記形状の区画蔟に対応する規格で作られている。
【0008】
図1(a)及び(b)に示すように、上記標準規格品は、枠部材11と仕切り板12及び13とから構成されている。区画蔟は、上記したように、蚕が1頭ずつ繭をつくることができるように、ボール紙などでマス状の区画を井桁に組んで作られている。枠部材11の大きさは、上記したように、幅39〜40cm程度×長さ54〜55cm程度であり、その高さは3cmである。仕切り板12及び13により区画された1区画は、幅3cm×長さ4.5cmの大きさを有する。
【0009】
上記回転蔟は、通常、
図1に示す区画蔟10枚を回転枠に取り付け、回転枠の中心を支点として回転するように回転軸押さえに吊したものであり、これを1組として所定の組数を用いて上蔟する(
図2)。熟蚕(じゅくさん=糸を吐く準備ができた蚕)は足場糸を吐いて繭を作り始めるまで、上へ這い上がる習性があり、回転蔟は、この習性を利用した器具である。まず、区画蔟をほぼ垂直に立てて置く。次にその蔟の下部付近に熟蚕を適当数ばらまく(振り込む)と、適当数の熟蚕が区画蔟に取り付いた状態になる。その蔟を回転枠に吊すと、蚕は上記に示したような習性により蔟上部へ移動していく。上方へ多数の蚕が移動し過ぎると上部が重くなり、この蚕の重みで熟蚕の取り付いた区画蔟は自然に回転する。この回転により、区画蔟の上下が繰り返し入れ替わり、適当数の熟蚕が空き区画を選んで均一に区画内に入っていき、上蔟を始める。養蚕農家では、この回転蔟を用いる飼育方法が普及しており、この回転蔟に合わせた形での自動収繭毛羽取り機等の周辺機器の機械化も進んでおり、省力的に繭を作ることができる。
【0010】
図2において、21は区画蔟の1枚であり、22は回転軸であり、23a及び23bは回転枠であり、そして24は回転軸押さえである。
【0011】
第2の上蔟方法としては、山型蔟(樹脂製網蔟、千年蔟;図示せず)を使用して行われるものがある。この山型蔟は、何連にもつながった山型の網状をしており、蚕座(さんざ=蚕を飼育する、竹やスチール等でできた台)の上にのせることで、繭をつくる足場とする器具である。一般的には、サンピー蚕箔(縦108.5cm×横79.5cm)に蚕座紙を敷き、その上に載せて使用する。このサンピー蚕箔の大きさに対しては、蔟1つあたり約200頭〜250頭の蚕を用いることが標準的であり、研究所等で少量多品種を飼育する際に用いられる。回転蔟が普及する以前は、藁製や紙製の山型蔟が農家でも使用されていた。なお、蚕箔は、蚕の飼育に用いられる長方形または円形の容器であり、蚕架(蚕棚)に載せて使われる。
【0012】
昭和30年代より繭生産用として養蚕農家で使用され、現在主流となっているのは、上記回転蔟を用いた上蔟方法である。本来、玉繭は糸質としては不良な繭であり、良質の生糸を得るために、玉繭を作らせないような器具の開発が行われてきた。養蚕農家に普及している上記に示した回転蔟は、玉繭を作らせないようにするために考案されたものである。そのため、現状では玉繭を生産する際には用いられておらず、業界では、玉繭生産には上記千年蔟を用いた上蔟方法が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。千年蔟を使用して玉繭を生産した場合には、玉繭を高率に生産できることが一般的に知られている。
【0013】
玉繭を高効率に作らせる方法としては、以下説明するような複数の方法が知られている。
【0014】
(1)蔟への蚕の振り込み頭数を増やして、玉繭を作らせる方法
玉繭を高率で作る蚕系統「TND×CND」を用い、区画蔟を使用して、1区画あたり通常1頭収まるように作られた区画に、1区画内に1頭より多く収まるようにすることにより、強制的に玉繭を作らせようとした生産方法である。しかしながら、区画内の蚕の頭数密度が高くなると、玉繭蚕数割合は増加する(表1及び2)ものの、外部汚染繭や奇形繭が多くなってしまい、良質な繭を得ることができないという欠点が生じると報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
(2)玉繭用の蔟で玉繭を生産する方法
1区画が幅3〜4.5cm、長さ4.0〜5.6cm、深さ3〜5.5cmの区画蔟を用いて玉繭を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、別の方法として1区画の幅及び長さが、それぞれ4.0〜4.5cm、高さが3.5〜5.0cmの区画蔟を用いて玉繭を得る方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。これらの方法で用いる区画蔟は、標準規格品の区画蔟に比べて奥行きが深いことから、既存の収繭機等の機械を使用することができないため、繭を集める作業を手作業で行う必要があり、多くの労力を要するという問題があった。
【0018】
また、1区画の広さが4.0×4.0cm、4.0×4.5cmで、高さが3.5〜5.5cmの区画蔟を用いることにより、玉繭歩合の高い玉繭を得ることができることが知られている(例えば、非特許文献3参照)。この場合、良質な玉繭を多く作らせる適当な1区画の高さとしては5.0cm内外、広さが4.0×4.0cmが適当であるとされている。しかしながら、この方法では、常に安定して効率よく良好な玉繭を生産することはできないという問題があった。
【0019】
上記に示したように、一般に、養蚕農家で多く用いられている回転蔟は、単繭を高率に生産するために開発された器具であり、玉繭が低い割合でしか生産されないことが知られている。一方、玉繭を効率的に生産できる千年蔟は、従来使用されている周辺機器としての収繭機等を使用できず、繭を集める作業が手作業となるため、多くの労力を要するという問題がある。
【0020】
本発明者らは、玉繭を高率に生産するために、玉繭を高率で作る性質を持つ蚕系統である実用玉繭蚕系統「日701号×中701号」の開発を行った。他に、実用玉繭蚕系統としては、玉小石
(R)、N玉×C玉、日112号×支110号等が知られている。しかしながら、これらの玉繭を高率に作る性質を持つ蚕系統を使用しても、実際、従来の区画蔟を使用した上蔟方法では、高率で玉繭を生産することは困難であった。そのため、上記実用玉繭蚕系統の持っている性質を最大限に発揮することができる玉繭を高率に生産可能な玉繭生産方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特公昭27−1566号公報
【特許文献2】特公昭28−5077号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】大日本蚕糸会、シルクだより(No.34、2009年5月)
【非特許文献2】山梨県蚕業試験場研究要報、広瀬ら、34号、5−8頁、1995
【非特許文献3】蠶絲研究、長瀬ら、11号、4−12頁、1955
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、具体的には、収繭機等の従来から一般的に使用されている機器を使用することができ、かつ、玉繭を高率で生産することができる玉繭用区画蔟(回転蔟等)を提供すること、特に玉繭を高率に作る性質を持つ蚕系統の性質を発揮させることができる玉繭用区画蔟(回転蔟等)を提供すること、及びこの玉繭用区画蔟を用いて玉繭を高率で生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の玉繭用区画蔟の第1の発明は、長方形の枠部材と該枠部材内を区画する仕切部材とを備えてなり、該枠部材が該仕切部材によって複数に仕切られた区画を有し、各区画が幅×長さ=3cm×9cm、3cm×13.5cm、6cm×4.5cm、6cm×9cm、6cm×13.5cm、9cm×4.5cm、9cm×9cm、又は9cm×13.5cmの大きさを有することを特徴とする。
【0025】
本発明の玉繭用区画蔟の第2の発明は、長方形の枠部材と該枠部材内を区画する仕切部材とを備えてなり、該枠部材と該仕切部材とによって仕切られた区画が、それぞれ、幅6cm×長さ4.5cmの大きさ、又は幅3cm×長さ9cmの大きさを有し、但し、幅6cm×長さ4.5cmの大きさの場合、任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ4.5cmの大きさを有することを特徴とする。
【0026】
前記玉繭用区画蔟の第1〜2の発明において、玉繭用区画蔟が回転蔟として用いられることを特徴とする。
【0027】
本発明の玉繭の生産方法の第1の発明は、前記玉繭用区画蔟の第1〜2の発明の玉繭用区画蔟を用いて玉繭を生産する方法であって、垂直に立てた該玉繭用区画蔟の下端付近に所定頭数の熟蚕を広げ、該熟蚕が取り付いた区画蔟を回転枠に吊り下げて回転可能な状態にした後、上記熟蚕が各区画内を移動して所定の区画内に入り、該区画内で営繭及び結繭することにより、玉繭を生産することを特徴とする。
【0028】
本発明の玉繭の生産方法の第2の発明は、前記玉繭用区画蔟の第1〜2の発明の玉繭用区画蔟を用いて玉繭を生産する方法であって、蚕箔に蚕座紙を敷き、所定頭数の熟蚕を全体に広げ、その上に該玉繭用区画蔟を区画の開口部が上を向くように平置きし、前記熟蚕が各区画内を移動しながら所定の区画内に収納されると共に、前記開口部を網目部材で覆って自然上蔟させることにより、玉繭を生産することを特徴とする。
【0029】
前記熟蚕が、玉繭を高率で結繭する品種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の玉繭用区画蔟によれば、従来、玉繭を高率で生産することができないと考えられていた区画蔟(回転蔟)で、玉繭を高率で生産することができるという格別な効果を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来の区画蔟の構成を模式的に示す構成図であり、(a)はその斜視図、(b)はA−A線で切断した断面図。
【
図3】本発明の玉繭用区画蔟の構成を模式的に示す構成図であり、(a)はその斜視図、(b)はB−B線で切断した断面図。
【
図4】本発明の玉繭用区画蔟の別の構成を模式的に示す構成図であり、(a)はその斜視図、(b)はC−C線で切断した断面図。
【
図5】本発明の玉繭用区画蔟を蚕箔上に置いた場合の状態を模式的に示す断面図。
【
図6】区画内に結繭した本発明の玉繭用区画蔟から玉繭を外す動作を模式的に示す断面図であり、(a)は玉繭用区画蔟に対して収繭機(収繭器)をセットした状態の断面図であり、(b)は玉繭を外す際の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態について説明する前に、上蔟の際に用いる熟蚕の飼育方法の例について説明するが、この飼育方法に制限される訳ではなく、熟蚕が得られれば、他の飼育方法でも良い。
【0033】
4〜10頭の雌が産卵した卵を混合して孵化させ、孵化した幼虫を羽箒を用いて蚕卵台紙から蚕座である容器内に移して掃立てを行う。
【0034】
1〜3齢の稚蚕期の飼育には、フィッシュコンテナーB(型番01120;三甲株式会社)内に蚕座紙(クラフト用紙)、防乾紙(パラフィン紙)又はその両方を重ねて敷いた容器を用いる。湿度や容器内の状態により、防乾紙、アクリル、又はメッシュの蓋をする。餌には刻んだ桑生葉を用い、1日2回給桑を行って飼育する。
【0035】
4〜5齢の壮蚕期には、桑生葉を枝から扱きとって葉のみを与える桑葉育、もしくは、枝付きの桑を与える条桑育を行って飼育し、熟蚕を得る。
【0036】
桑葉育の場合は、巾850mm、奥行き765mm、高さ140mmのステンレス製の枠に、蚕座紙を敷き、湿度条件に応じ防乾紙をかぶせて行う。1枠で400頭飼育する。
【0037】
条桑育の場合は、巾1200mm、奥行き3500mm、高さ800mm樹脂パイプ(イレクタ)製の枠にネットを取り付けて行う。頭数は5000頭とする。
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
【0039】
本発明の第1の実施の形態に係る玉繭用区画蔟は、長方形の枠部材(幅39〜40cm程度×長さ54〜55cm)と該枠部材内を区画する仕切部材とを備えてなり、該枠部材が該仕切部材によって複数に仕切られた区画を有し、各区画が幅×長さ=3cm×9cm、3cm×13.5cm、6cm×4.5cm、6cm×9cm、6cm×13.5cm、9cm×4.5cm、9cm×9cm、又は9cm×13.5cmの大きさを有してなる。幅6cm×長さ4.5cmの場合、長手方向の任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ4.5cmであり、幅6cm×長さ9cmの場合、長手方向の任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ9cmであり、幅6cm×長さ13.5cmの場合、長手方向の任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、3cm×13.5cmであり、幅9cm×長さ4.5cmの場合、長手方向の任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、3cm×4.5cmであり、幅9cm×長さ9cmの場合、長手方向の任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ9cmであり、幅9cm×長さ13.5cmの場合、長手方向の任意の1列のみの仕切られた区画が、それぞれ、幅3cm×長さ13.5cmである。そして仕切部材の深さは、3cm程度の高さに設定されている。この区画蔟は、回転蔟用としても平置き用としても用いることができる。
【0040】
本発明の第2の実施の形態に係る玉繭用区画蔟は、
図3(a)及び(b)に示すように、上部及び下部が開放された長方形の枠部材31と、該枠部材31内を区画する仕切部材32及び33とを備えてなる。枠部材31は、幅39〜40cm程度×長さ54〜55cm程度×深さ(高さ)3cm程度の大きさを有し、玉繭を生産する仕切られた区画は、それぞれ、幅6cm前後×長さ4.5cm前後の大きさを有するか、又は幅3cm×長さ9cmの大きさを有する。但し、幅6cm×長さ4.5cmの大きさを有する場合、図面では、長手方向の端の1列のみの仕切られた区画の大きさが異なるもの(例えば、それぞれ、幅3cm×長さ4.5cmの大きさ)として示したが、任意の1列のみの仕切られた区画の大きさが異なっていれば良い。そして仕切部材32及び33の深さは、3cm程度の高さに設定されている。この区画蔟は、回転蔟用としても平置き用としても用いることができる。以下、本発明を、主として、この第2の実施の形態に係る玉繭用区画蔟に基づいて説明する。
【0041】
上記したように、枠部材31の大きさを幅39〜40cm程度×長さ54〜55cm程度としたのは、その素材がボール紙であるので、製品により多少のバラツキが出ることと、枠部材の厚み等を考慮に入れたためであり、機能的に問題が生じない大きさであればよい。
【0042】
本発明の玉繭用区画蔟は、蚕が2頭以上、好ましくは2頭ずつ繭をつくることができる区画(例えば、幅6cm前後×長さ4.5cm前後、又は幅3cm前後×長さ9cm前後)となるように、例えば、ボール紙などでマス状の所定の大きさの区画を井桁に組んで作られている。なお、幅6cm×4.5cmの区画の蔟の場合、幅3cm×長さ4.5cmの大きさの区画にも結繭するが、多くは玉繭ではなく、単繭であるが、この繭に関しても単繭として利用可能である。
【0043】
本発明は、1枚の玉繭用区画蔟において、例えば、上記したように、仕切られた1区画の大きさを幅6cm前後×長さ4.5cm前後×深さ3cmとした区画を12×6=72区画作り、さらに長手方向の任意の1列のみの仕切られた1区画の大きさを幅3cm×長さ4.5cm×深さ3cmとした12区画を加え、合計84区画を有する区画蔟である。この玉繭用区画蔟は、標準の区画蔟に使用できる収繭機等の従来使用されている周辺機器をそのまま使用することができるように構成されている。
【0044】
本発明の玉繭用区画蔟の大きさを幅39〜40cm×長さ54〜55cmとし、例えば、1区画の大きさを幅6cm×長さ4.5cm×深さ3cmの区画を6区画×12区画=72区画とし、任意の1列だけを幅3cm×長さ4.5cm×深さ3cmとしたのは、上記したように、従来からある収繭機等を利用し、省力化するためである。このような玉繭用区画蔟は、従来の区画蔟の標準規格品において、例えば、端の1列だけを幅3cm×長さ4.5cmとする場合には、長さ方向の仕切板を1枚おきに6枚取り除くことにより簡単に製造できる。また、1区画の大きさが幅6cm×長さ4.5cm以外の上記第1の実施の形態に係る玉繭用区画蔟も、長さ方向及び/又は幅方向の仕切板を所定の枚数取り除くことにより、同様に製造できる。勿論、従来の標準規格品の製造プロセスに従って上記区画数になるように製造することもできる。
【0045】
上記第1の実施の形態において、1区画の大きさに関し、長さを最大13.5cmとしたのは、13.5cmより大きくした場合、熟蚕3頭以上が1区画に入ってしまう可能性があり、そこで繭を製造するが、3個以上の単繭になるか、2頭又は3頭以上で1つの繭を作る可能性があると共に、蔟の強度が弱くなる可能性があるからである。なお、3頭以上で1つの繭を作った場合にも、2頭の場合と繰糸の条件を変更すれば、繰糸は可能である。また、上記第2の実施の形態において、幅6cm×長さ4.5cm、又は幅3cm×長さ9cmとしたのは、熟蚕が3頭以上1区画に入り難い傾向があり、効率良く2頭で1つの繭を作り、好ましい玉繭を製造できる可能性があるからである。
【0046】
次に、本発明に係る玉繭用区画蔟の第3の実施の形態について説明する。この区画蔟は、
図4(a)及び(b)に示すように、上部及び下部が開放された長方形の枠部材41と、該枠部材41内を区画する仕切部材42及び43とを備えてなる。枠部材41は、幅39〜40cm程度×長さ54〜55cm程度×深さ(高さ)3cm程度の大きさを有し、仕切られた区画は、それぞれ、例えば、幅6cm前後×長さ4.5cm前後の大きさを有する。但し、長手方向の端の1列のみの仕切られた区画は、それぞれ、幅3cm×長さ4.5cmの大きさを有する。そして仕切部材42及び43の深さに関しては、ばらまかれた熟蚕の上に置かれた区画蔟の区画の下方でも熟蚕が自由に移動して各区画内に入れるように、仕切部材42及び43の下方には1cm程度の隙間44が設けられて、区画の下方が連通されるように構成されている。このように隙間44を設けた区画蔟は、主に平置き用として用いることができる。この第3の実施の形態の変形として、上記した第1の実施の形態のような大きさの区画を有していても良い。
【0047】
上記第3の実施の形態に係わる玉繭用区画蔟の各構成要素については、隙間以外は
図3(a)及び(b)に示した区画蔟と同じであるので、その説明は省略する。
【0048】
本発明に係わる玉繭の生産方法の第1の実施の形態について説明する。この方法は、
図3(a)及び(b)に示す玉繭用区画蔟を用いて玉繭を生産する方法である。例えば、この玉繭用区画蔟2枚をつなげて1セットとし、所定の数のセット(例えば10セット)を1組とし、この1組みの区画蔟をほぼ垂直に立て、この立てた区画蔟の下端付近に所定の頭数の熟蚕(玉繭を高率で作る蚕系統としての実用玉繭系統、例えば、日701号×中701号や玉小石
(R)、TND×CND、N玉×C玉、日112号×支110号等由来の熟蚕)を広げ、熟蚕が取り付いた(例えば、一晩で殆どが取り付く)区画蔟を回転枠に吊り下げて回転可能な状態にする。その後、熟蚕がその習性により区画蔟の上方へ移動して上部が重くなると、この重みで区画蔟は自然に回転し、この回転により、区画蔟の上下が繰り返し入れ替わり、適当数の熟蚕が空き区画を選んで区画内に均一に入っていき、上蔟を始める。その後、熟蚕を各区画内で営繭させ、結繭させ、玉繭を生産する。上記した熟蚕の区画蔟への取り付けは、1セットごとに実施しても、複数の組みごとに実施しても良い。
【0049】
本発明に係わる玉繭の生産方法の第2の実施の形態について説明する。この方法は、
図3(a)及び(b)並びに
図4(a)及び(b)に示す玉繭用区画蔟を用いて玉繭を生産する方法である。例えば、蚕箔に蚕座紙を敷き、その蚕座紙の上に、所定の頭数の熟蚕(玉繭を高率で作る蚕系統としての実用玉繭系統、例えば、日701号×中701号や玉小石
(R)、TND×CND等由来の熟蚕)を全体に広げ、この上に玉繭用区画蔟を平置きする。その際、玉繭用区画蔟の底部と蚕箔の底面との間に熟蚕が移動できるような隙間が形成できるように蚕箔の傾斜側壁部分の上に玉繭用区画蔟(特に、
図3(a)及び(b)の場合)を載せ、その上部をメッシュで覆って蓋をし、自然上蔟させ、熟蚕を区画の下方を自由に移動させて、所定の各区画内に取り入れ、そこで営繭させ、結繭させ、玉繭を生産することからなる。例えば、
図5に示すように、蚕箔51の傾斜側壁の所定の部分に玉繭用区画蔟52を載せ、区画蔟の底面と蚕箔の底面との間に隙間が形成されるようにすれば良い。蚕箔の側壁が傾斜しておらず垂直である場合には、スペーサー等を用いてその上に区画蔟を載せても良いし、隙間を形成する手段に制限はない。また、
図4(a)及び(b)に示す区画蔟を用いる場合には、
図3(a)及び(b)に示す区画蔟の場合と同様にしても良いが、このような隙間を強制的に形成することは必須ではない。
【0050】
本発明に係わる玉繭の生産方法における熟蚕の振り込み頭数は、例えば、6cm×4.5cmの区画に2頭、3cm×4.5cmの区画に1頭が営繭するように計算した場合に(合計156頭)、その80〜100%の頭数であることが望ましい。この範囲内であれば、良好な玉繭を生産できる。
【0051】
以下、本発明の実施例を比較例と対照させて説明する。
【実施例1】
【0052】
本実施例では、従来の標準規格品である区画蔟1枚及び
図3(a)及び(b)に示す本発明の玉繭用区画蔟1枚をセットにして用いて行った平置き上蔟(蓋無し)について説明する。熟蚕として、日701号×中701号及び日137号×支146号を用いた。
【0053】
1区画が幅3cm×長さ4.5cm×深さ3cmであって、全部で12×13=156区画/枚を有する
図1に示す区画蔟(幅39〜40cm×長さ54〜55cm×高さ3cm)と、1区画が幅6cm×長さ4.5cm×深さ3cmであり、長手方向の端の1列のみにおいて1区画が幅3cm×長さ3cm×深さ3cmであり、全部で12×6+12×1=84区画/枚を有する
図3に示す玉繭用区画蔟(幅39〜40cm×長さ54〜55cm×高さ3cm)とを用いて上蔟した。この標準規格品である区画蔟と玉繭用区画蔟との2枚を並べて置くことが可能な蚕箔上に蚕座紙を敷き、熟蚕250頭を蚕座紙全体に広げた。250頭で2枚の区画蔟の蔟穴数156+84=240個の約104%に当たる。この広げた熟蚕の上に、
図5に示すような状態で、玉繭用区画蔟と標準区画蔟とを2枚並べて平置きし、各区画蔟の上に蓋をすることなく自然上蔟させた。各蔟の枠部分が、蚕箔の側壁部分に支えられ、区画蔟の下に隙間ができるため、熟蚕はその隙間を通り抜けて自由に移動することができる。所定の区画内に入り結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を以下の表3に示す。
【実施例2】
【0054】
本実施例では、従来の標準規格品である区画蔟1枚及び
図3(a)及び(b)に示す本発明の玉繭用区画蔟1枚を1セットとして用いて行った平置き上蔟(蓋有り)について説明する。熟蚕として、日701号×中701号及び日137号×支146号を用いた。
【0055】
実施例1の記載に従って、広げた熟蚕の上に玉繭用区画蔟と標準区画蔟とを2枚並べて平置きした後、蔟の上部に熟蚕が通り抜けられない網目サイズの樹脂製メッシュをかぶせて自然上蔟させた。各蔟の枠部分が、蚕箔の側壁部分に支えられ、区画蔟の下に隙間ができるため、熟蚕はその隙間を通り抜けて自由に移動することができる。熟蚕が、所定の区画内に入った状態で、結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を表3に示す。
【実施例3】
【0056】
本実施例では、従来の標準規格品である区画蔟1枚及び
図3(a)及び(b)に示す本発明の玉繭用区画蔟1枚を1セットとして用いて、回転蔟により上蔟を行った場合について説明する。熟蚕として、日701号×中701号及び日137号×支146号を用いた。
【0057】
実施例1に記載の玉繭用区画蔟と標準規格品である区画蔟とを交互に配置して1セットとし、10セットを1組とし、通常の標準区画蔟の場合の上蔟と同様に蔟穴数(156穴×10=1560穴)の約80%(1560×0.8=1248≒1200頭)に当たる1200頭を振り込んだ。
【0058】
具体的には、1組の区画蔟をほぼ垂直に立て、この立てた区画蔟の下端の周辺に上記した頭数の熟蚕を広げ、熟蚕が各区画蔟に取り付いた(一晩で殆どが取り付いた)組を回転枠に吊り下げて回転可能な状態にすると、熟蚕がその習性により区画蔟の上方へ移動して空き区画へ入り、上方が重くなるとその重みにより蔟が回転する。この回転が繰り返された結果として熟蚕が空き区画に均一に入ったその後、熟蚕は、区画蔟の枠部材や仕切部材等に沿って自由に移動し、営繭する区画内へ入った。その状態のまま結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を表3に示す。
【0059】
(比較例1)
比較のために、千年蔟を用いて、4令起蚕時頭数を400頭とし、千年蔟1枚に全頭を振り込み、上蔟させた。その状態で結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3から明らかなように、本発明の玉繭用区画蔟を用いた場合、日701号×中701号は、上記のいずれの上蔟方法でも、従来の標準規格品である区画蔟を用いた場合と比べて、高い確率で玉繭を結繭することが分かった。また、本発明の玉繭用区画蔟を用いた場合、従来から使用されている足踏み式収繭器を
図6に示す方法で問題なく使用することができた。
【0062】
すなわち、
図6(a)に示すように、幅6cm×長さ4.5cmの区画内に結繭した玉繭用区画蔟(まぶし)に対して収繭器を対向させ、収繭器が備えている各棒状部材が各区画内の玉繭を押し出せるようにセットし、
図6(b)に示すように、棒状部材を降下させて玉繭を押し出す。この棒状部材は、縦13列×横12列(総数156本)で構成され、各棒状部材は、その横断面が縦2cm×横3cmの大きさであり、縦方向に配置された各棒状部材の間隔は、1cmであり、横方向に配置された各棒状部材の間隔は1.5cmである。
【0063】
日701号×中701号であっても、標準規格品である区画蔟を用いた場合は、玉繭率は20%程度にとどまった。また、標準蚕系統である日137号×支146号の場合、玉繭用区画蔟を用いた場合でも、玉繭はあまり結繭しなかった。さらに、玉繭用区画蔟を用いた場合、千年蔟を用いた場合と比べて、高率で玉繭を生産できることが分かった。
【実施例4】
【0064】
本実施例では、従来の標準規格品である区画蔟(幅39〜40cm×長さ54〜55cm)から作製した
図7に示すように大きさの区画(3×4.5cm、6×4.5cm、9×4.5cm、3×9cm、6×9cm、9×9cm、3×13.5cm、6×13.5cm、9×13.5cm)を有する区画蔟の10枚を1セットとして用いて、上記実施例3に記載したように回転蔟により上蔟を行った。熟蚕として、日701号×中701号及び日137号×支146号を用い、それぞれ、1200頭を振り込んだ。この区画蔟への熟蚕の取り付きを確認後、吊り下げ、回転可能な状態にした。次いで、熟蚕が営繭する区画内へ入った後、結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を表4(日701号×中701号の場合)及び表5(日137号×支146号の場合)に示す。なお、日701号×中701号の場合、上蔟中に1枚の蔟が壊れてしまったため、得られた結果は9枚の蔟に基づいている。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表4から明らかなように、日701号×中701号の場合、区画の大きさが3×4.5cm(従来の標準規格品の場合の区画の大きさ)以外の区画では、いずれも高い率の玉繭蚕数割合で玉繭を結繭し、特に、幅6cm×長さ4.5cmの場合に玉繭蚕数割合は最も高く、幅3cm×長さ9cmの場合に2頭の蚕からなる玉繭のみが作られる結果が得られた。区画の好ましい大きさは、幅6cm×長さ4.5cm及び幅3cm×長さ9cmであると思われる。また、表5から明らかなように、標準蚕系統である日137号×支146号の場合、いずれの区画でも玉繭蚕数割合は極めて低かった。なお、面積が大きい区画ほど結繭率は低く、繭を作り難くなる傾向がある。
【実施例5】
【0068】
本実施例では、実施例3で用いた
図3(a)及び(b)に示す玉繭用区画蔟を1枚回転蔟枠にセットして、上記実施例3に記載したように上蔟を行った。熟蚕として、実用玉繭蚕系統のN玉×C玉を用い、140頭を振り込んだ。この区画蔟への熟蚕の取り付きを確認後、吊り下げ、回転可能な状態にした。次いで、熟蚕が営繭する区画内へ入った後、結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
表6から明らかなように、N玉×C玉においても、区画の大きさを6cm×4.5cmにすることで高率で玉繭を結繭することが確認された。
【実施例6】
【0071】
本実施例では、
図3(a)及び(b)に示す本発明の玉繭用区画蔟2枚を1セットとし、10セットを用い、実施例3に記載したように上蔟を行った。得られた繭数を計数した。この上蔟を3回繰り返し実施した。得られた結果を表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
表7から明らかなように、実施例3と異なり全て玉繭用区画蔟(区画の大きさを6cm×4.5cm)を用いて上蔟した結果、高率で玉繭を結繭することが確認され、また、3回の繰り返し実験でも、得られた結果は安定していることが確認できた。
【0074】
(比較例2)
比較のために、比較例1と同様に、千年蔟を用いて、上蔟した。すなわち、4令起蚕時頭数400頭を千年蔟3枚のそれぞれに振り込み、上蔟させた。結繭するまで放置し、繭数を計数した。得られた結果を表8に示す。
【0075】
【表8】
【0076】
表8から明らかなように、千年蔟を用いた場合の玉繭蚕数割合は、本発明の玉繭用区画蔟に比べて、その区画の大きさにもよるが低いことが分かる。
【0077】
上述した実施例によれば、従来から、養蚕農家に普及しており、収繭機等の機器を利用することができるが、本来玉繭生産に不向きと考えられていた回転蔟を用いて、玉繭を高率で生産することができる。特に、玉繭を高率に作る性質を持つ蚕系統と組み合わせることにより、一層高率に玉繭を生産することが可能となる。しかも、現在玉繭を生産する際に一般的に行われている千年蔟を用いる上蔟方法で問題となっている収繭(繭集め)が完全な手作業となり多くの労力を要する点を改善し、養蚕農家の負担が大きい収繭(繭集め)の労力を大幅に軽減することができるという効果を達成できる。
【0078】
さらに、上述した実施例にある特定の玉繭用区画蔟を使用して玉繭を生産することにより、従来玉繭生産に用いられてきた千年蔟の場合と比較すると、玉繭生産が高率であるだけでなく、結果として解じょ率(繭のほぐれやすさ)が改善され、糸質が良くなるという予期せぬ効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、特定の玉繭用区画蔟(回転蔟)を用いることにより、従来から使用されている収繭機等の繭生産用の機器を利用して、高率で玉繭を生産することができ、玉繭の収繭(繭集め)の労力を大幅に軽減することができるので、玉繭生産の技術分野で利用可能である。
【0080】
なお、本発明の玉繭用区画蔟は、玉繭系統の繭とほぼ同じ大きさの繭を生産する蚕系統であれば利用可能である。例えば、綿蚕等がある。
【符号の説明】
【0081】
11 枠部材
12、13 仕切り板
21 区画蔟
22 回転軸
23a、23b 回転枠
31 枠部材
32、33 仕切部材
41 枠部材
42、43 仕切部材
44 隙間
51 蚕箔
52 区画蔟