【実施例】
【0041】
(実施例1)
前述の化学物質合成装置10(
図1参照)の構成に基づき、化学物質合成装置を作製し、実施例1に係る化学物質の合成を行った。この化学物質合成装置においては、反応管として、内径4mmの直管型の石英管を用い、これを鉛直方向に配して構成した。反応溶液導入部としては、内径0.25mmの注射針を用い、直径が約2mmの液滴を吐出するように構成した。前記反応管に対する保護液の供給速度の制御は、保護液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行い、前記反応溶液の供給速度の制御は、反応液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行った。
また、マイクロ波加熱部としては、周波数変調型のマイクロ波発生器(2.5GHz±200MHz,100W)と、TM
010モードの定在波を形成する円筒型のシングルモード空胴共振器とを有する電界集中型マイクロ波照射装置を用い、前記シングルモード空胴共振器の中心軸上に前記反応管を設置して構成した。
【0042】
前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。ここでは、銀ナノ粒子のポリオール合成を行うこととし、前記反応溶液としては、硝酸銀(5mM)と、ポリビニルピロリドン(PVP,質量平均分子量10,000,0.15wt%)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
【0043】
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を5mL/h(1.4×10
−9m
3/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を3mL/h(8.3×10
−9m
3/sとした。このときのレイノルズ数Reは、0.38である。なお、レイノルズ数Reは、下記式(2)により、算出した。
【0044】
【数4】
ただし、前記式(2)中、ρ
sは、前記保護液の密度を示し、vtは、前記保護液及び前記液滴の前記反応管内を流れる線速度の和を示し、D
rは、前記反応管の内径を示し、μ
sは、前記保護液の粘性係数を示す。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する前記液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約4秒であり、前記液滴の落下間隔は、約10秒である。
前記マイクロ波加熱部により加熱された前記液滴及び前記保護液の温度計測は、前記反応管の出口側に直径0.25mmのK型熱電対(坂口電熱製、T35型K0.25φx100L)を設置して行った。
合成された化学物質(銀ナノ粒子)については、前記反応管の出口に設置されたビーカーで反応溶液ごと採取し、前記保護液から分離抽出して評価を行った。
合成された化学物質(銀ナノ粒子)の評価には、UV−vis吸光光度計(日立製、U−3310)およびTEM(FEI製、TECNAI G2)を用いた。
【0045】
以上のようにして行った実施例1の実施結果について、以下に説明する。
先ず、前記反応管内に導入された前記保護液及び前記液滴の全液流は、層流を形成し、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズ(直径約2mm)を保ちながら前記反応管の出口まで落下することが目視により確認した。なお、前記液滴の直径は、カメラ撮影した画像をもとに計測した。
次に、
図3に前記反応管における出口温度の経時変化のグラフを示す。この
図3に示すように、前記液滴が前記K型熱電対に接触した時のみ温度が上昇し、その上昇温度は、ほぼ一定であることから、前記液滴のみを選択的かつ正確な温度でマイクロ波加熱することができていることがわかる。
次に、
図4に実施例1におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す。この
図4に示すように、マイクロ波加熱後の前記反応溶液では、波長400nm前後に銀ナノ粒子の生成を反映する表面プラズモン吸収が確認される。
また、
図5に実施例1におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す。この
図5から観察されるように、平均粒子径15nm前後の粒径が揃った銀ナノ粒子を確認することができる。
【0046】
(実施例2)
実施例2として、実施例1に係る化学物質合成装置を用い、銅ナノ粒子の合成を行った。具体的には、次のように行った。
先ず、前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。前記反応溶液としては、酢酸銅(10mM)と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000,5wt%)と、還元剤であるヒドラジン(50mM)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10
−8m
3/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10
−8m
3/s)とした。このときのレイノルズ数Reは、4.8である。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約2秒であり、前記液滴の落下間隔は、約0.5秒である。また、マイクロ波照射強度は、10Wである。
【0047】
以上のようにして行った実施例2の実験結果について、以下に説明する。
先ず、前記反応管内に導入された前記保護液及び前記液滴の全液流は、層流を形成し、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズ(直径約2mm)を保ちながら前記反応管の出口まで落下することが目視により確認した。
合成された化学物質(銅ナノ粒子)の評価には、前記UV−vis吸光光度計及びTEMを用いた。
図6に実施例2におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す。この
図6に示すように、波長580nm前後に銅ナノ粒子の生成を反映する表面プラズモン吸収が確認される。
次に、
図7に実施例2におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す。この
図7から観察されるように、平均粒子径20nm前後の粒径が揃った銅ナノ粒子を確認することができる。
次に、
図8に前記反応溶液を合計10mL流通させ、マイクロ波加熱した後の反応管の写真を示す。
図8の写真より、前記反応管内壁への金属析出は、皆無であることが確認される。
【0048】
(比較例1)
比較例1として、前記反応管内に前記保護液を充満させずに、前記反応溶液のみでマイクロ波加熱を行った実験結果について説明する。この実験では、前記反応管に、外径3mm、内径1mmのテトラフルオロエチレン製の反応管を用いた。前記反応溶液の液滴は、層流としてマイクロ波照射空間に供給され、滞留時間は、約2秒である。この他の条件は、実施例2と同様である。
【0049】
下記表1に実施例2と比較例1にて合成された銅ナノ粒子の平均粒子径と標準偏差を示す。ここで、平均粒子径とは、TEM写真に撮影された100個の粒子直径の平均値である。実施例2で合成された銅ナノ粒子の平均粒子径は、22.9nmで、標準偏差は、7.5であり、一方、比較例1で合成された銅ナノ粒子の平均粒子径は、22.0nmで、標準偏差は、8.4であった。このことから、実施例2で合成された銅ナノ粒子の方が粒子径が揃っていることがわかる。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例3)
実施例3として、実施例1に係る化学物質合成装置を用い、パラジウムナノ粒子の合成を行った。具体的には、次のように行った。
先ず、前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。前記反応溶液としては、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(10mM)と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000,1.5wt%)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を10mL/h(2.8×10
−9m
3/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10
−8m
3/s)とした。このときのレイノルズ数Reは、2.9である。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約2秒であり、前記液滴の落下間隔は、約2秒である。また、マイクロ波照射強度は、10Wである。
【0052】
以上のようにして行った実施例3の実験結果について、以下に説明する。
先ず、前記反応管内に導入された前記保護液及び前記液滴の全液流は、層流を形成し、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズ(直径約2mm)を保ちながら前記反応管の出口まで落下することが目視により確認した。
合成された化学物質(パラジウムナノ粒子)の評価には、前記TEMを用いた。
図9に実施例3におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す。この
図9から観察されるように、平均粒子径8nm前後の粒径が揃ったパラジウムナノ粒子を確認することができる。
【0053】
(実施例4)
実施例4として、実施例1に係る化学物質合成装置を用い、金属ナノ粒子以外の合成例として、蛍光試薬の合成を行った。具体的には、次のように行った。
先ず、前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。前記反応溶液としては、塩化ルテニウム(2mM)と、2,2’−ビピリジン(10mM)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を10mL/h(2.8×10
−9m
3/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10
−8m
3/s)とした。このときのレイノルズ数Reは、2.9である。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約2秒であり、前記液滴の落下間隔は、約2秒である。また、マイクロ波照射強度は、10Wである。
【0054】
以上のようにして行った実施例4の実験結果について、以下に説明する。
合成された化学物質(ルテニウム錯体)の評価には、前記UV−vis吸光光度計を用いた。
図10に実施例4におけるマイクロ波加熱前後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す。マイクロ波加熱後の反応溶液においては、460nm前後に蛍光試薬が合成されたことを反映する吸収が確認される。
【0055】
(参考例1〜15)
反応管内における保護液と反応溶液(液滴)の挙動及びマイクロ波加熱状況を確認するため、以下に説明する参考例1〜15に示す条件に各条件を変更しながら、前記反応溶液のマイクロ波加熱実験を行った。なお、ここでは、前記反応溶液として、原料物質を含まない模擬反応液を用いている。
【0056】
<参考例1>
前述の化学物質合成装置10(
図1参照)の構成に基づき、化学物質合成装置を作製した。この化学物質合成装置においては、反応管として、外径0.4cm内径0.2cmの直管型の石英管を用い、これを鉛直方向に配して構成した。反応溶液導入部としては、注射針を用い、液滴を吐出するように構成した。前記反応管に対する保護液の供給速度の制御は、保護液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行い、前記反応溶液の供給速度の制御は、反応液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行った。
また、マイクロ波加熱部としては、周波数変調型のマイクロ波発生器(2.5GHz±200MHz,100W)と、TM
010モードの定在波を形成する円筒型のシングルモード空胴共振器とを有する電界集中型マイクロ波照射装置を用い、前記シングルモード空胴共振器の中心軸上に前記反応管を設置して構成した。前記シングルモード空胴共振器における前記反応管の管長方向の長さ(前記反応管内におけるマイクロ波照射空間の管長方向の長さ)は、10cmとした。
【0057】
参考例1では、前記保護液として、ドデカン(密度ρ
s=0.75g/cm
3、粘度η
s=1.38mPa・s)を導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に、前記模擬反応液としてのエチレングリコール(密度1.11g/cm
3)の液滴を鉛直下向きに流通させた。安定した状態での前記保護液の前記反応管に対する供給速度F
sは、1,200mL/hであり、前記液滴として導入する前記模擬反応液の前記反応管に対する供給速度F
dは、10mL/hであり、F
d/F
s<2を満たす条件とした。また、前記反応管を流通する全液流のレイノルズ数Reは、115.84であった。
この時の液滴径D
dは、0.1cm以下であり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.5D
rの条件を満たした。前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。なお、液滴径D
rは、前記反応溶液導入部としての注射針(内径0.25mm)から導入される前記液滴の種類及び前記反応管に対する供給速度F
d、前記保護液の種類及び前記反応管に対する供給速度F
s、並びに、前記反応管を流通する全液流の線流速vtにより、調整される。
また、流通する前記液滴に対し、前記マイクロ波発生器からマイクロ波(100W)を照射したとき、模擬反応液の温度は、前記保護液の温度より5℃以上高い温度に加熱することが可能であった。
以上に説明した参考例1の条件を、前記反応管を流通する全液流の線流速vt、及び前記反応管に導入された前記液滴の前記式(1)より導出される終端速度utとともに、下記表2にまとめて示す。また、前記保護液及び前記模擬反応液として用いた溶液の2.45GHzにおける誘電損率および誘電正接を、誘電率測定プローブキット(アジレントテクノロジー製 85070E)で測定した結果を表3に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
<参考例2>
参考例1において、前記反応管として、外径が0.6cm、内径が0.4cmの直管型の石英管を用い、前記反応管内を流通する前記保護液の供給速度を360mL/hとしたこと以外は、参考例1と同様にして、参考例2に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例2に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.1cm以下であり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、17.71であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より5℃以上高い温度に加熱することが可能であった。
【0061】
<参考例3,4>
参考例2において、前記反応管内を流通する前記保護液の供給速度を上記表2に示す条件としたこと、マイクロ波照射強度を10Wに変更したこと以外は、参考例2と同様にして、参考例3,4に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例3,4に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ1.44(参考例3),0.96(参考例4)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より5℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0062】
<参考例5,6>
参考例2において、前記反応管内を流通する前記保護液の供給速度を上記表2に示す条件としたこと、マイクロ波照射強度を10Wに変更したこと以外は、参考例2と同様にして、参考例5,6に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例5,6に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の前記反応管内における流通が制限され、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係が、F
d/F
s<2の条件を満たさないものの、前記線流速vtと、前記終端速度utとの関係が、vt/ut<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ0.57(参考例5),0.48(参考例6)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで自由落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0063】
<参考例7,8>
参考例3において、前記反応管内を流通する前記保護液及び前記液滴の供給速度を上記表2に示す条件としたこと以外は、参考例3と同様にして、参考例7,8に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例7,8に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ1.20(参考例7),2.39(参考例8)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0064】
<参考例9,10>
参考例3において、前記反応管内を流通する前記保護液及び前記液滴の供給速度を上記表2に示す条件としたこと以外は、参考例3と同様にして、参考例9,10に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例9,10に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の前記反応管内における流通が制限され、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係が、F
d/F
s<2の条件を満たさないものの、前記線流速vtと、前記終端速度utとの関係が、vt/ut<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ3.35(参考例9),5.74(参考例10)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで自由落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0065】
<参考例11>
参考例3において、前記反応管内を流通する前記保護液及び前記液滴の供給速度を上記表2に示す条件としたこと以外は、参考例3と同様にして、参考例11に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例11に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、2.87であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0066】
<参考例12>
参考例7において、前記反応管として、外径が1.0cm、内径が0.8cmの直管型の石英管を用い、前記シングルモード空胴共振器における前記反応管の管長方向の長さ(前記反応管内におけるマイクロ波照射空間の管長方向の長さ)を、5cmとしたこと以外は、参考例7と同様にして、参考例12に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例12に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.4cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.5D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.6であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、1.1秒であった。
【0067】
<参考例13>
参考例12において、前記模擬反応液の種類を水としたこと以外は、参考例12と同様にして、参考例13に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例13に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.5cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.60であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より40℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、1.4秒であった。
ここで、参考例12と参考例13のマイクロ波加熱に関して、
図11に前記反応管における出口温度の経時変化のグラフを示す。なお、この出口温度は、熱電対(坂口電熱製、T35型K0.25φx100L)を、前記反応管内の前記マイクロ波照射空間から出口側へ5cm離れた位置に挿入し、測定したものである。
【0068】
<参考例14>
参考例12において、前記保護液の種類をシリコーンオイル(信越シリコーン製、KF96−50cs、密度ρs=0.96g/cm
3、粘度ηs=48mPa・s)としたこと以外は、参考例12と同様にして、参考例14に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例14に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.6cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.9D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.02であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より20℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、5秒であった。
【0069】
<参考例15>
前記保護液として、パーフルオロカーボン(3M社製フロリナートFC−43、密度ρs=1.88g/cm
3、粘度ηs=5.26mPa・s)を用いた。ここで、参考例15では、参考例1〜14と異なり、前記保護液の密度ρs(1.88g/cm
3)は、前記模擬反応液の密度ρd(1.11g/cm
3)よりも過大であるため、前記保護液及び前記模擬反応液とも、前記反応管の下部から供給し、前記液滴を鉛直上向きに浮上させて行った。これ以外は、参考例12と同様にして、参考例15に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例15に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径D
dは、0.3cmであり、反応管内径D
rとの関係は、D
d≦0.5D
rの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度F
sと、前記液滴の供給速度F
dとの関係は、F
d/F
s<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.39であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の頂部まで浮上することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、0.5秒であった。
【0070】
以上のように、本発明では、前記反応溶液の前記液滴を前記反応管の内壁に接触させずに、前記反応管内を流通する全液流から選択的にかつ正確な温度で加熱することができるため、液相中の原料を加熱することにより合成される化学物質を高品質で得ることが可能であるとともに、反応管の劣化を抑制することが可能であり、液相中の原料を加熱して目的物質を合成する化学プロセス全般への応用が期待される。