特許第6241842号(P6241842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241842
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】化学物質合成装置及び化学物質合成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20171127BHJP
   B01J 19/26 20060101ALI20171127BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20171127BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   B01J19/12 A
   B01J19/26
   !B22F9/24 E
   !B22F9/24 B
   !C07F15/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-179452(P2013-179452)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-47535(P2015-47535A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
(72)【発明者】
【氏名】宮川 正人
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−093593(JP,A)
【文献】 特開2009−154138(JP,A)
【文献】 特開2004−223355(JP,A)
【文献】 特開昭57−119823(JP,A)
【文献】 特開2007−038117(JP,A)
【文献】 特開2001−247907(JP,A)
【文献】 特開2006−095481(JP,A)
【文献】 特開平07−010912(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0104111(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00− 12/02
B01J 14/00− 19/32
B22F 9/24
C07F 15/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波透過性で鉛直方向に延設された直管状の反応管と、
前記反応管内に、前記反応管の一端側から原料物質を分散ないし溶解させたマイクロ波吸収性の反応溶液と非相溶でマイクロ波透過性の保護液を充満させて導入する保護液導入部と、
前記保護液で充満された前記反応管内に、前記反応管の一端側から前記反応溶液を液滴として導入する反応溶液導入部と、
前記反応管外から前記反応管内にマイクロ波を照射し、前記反応管内を流通する前記液滴を加熱するマイクロ波加熱部と、を有し、
前記反応溶液導入部が、前記反応管の内径をDとし、前記液滴の直径をDとしたとき、次式、D≦0.9Dの関係を満たすように、前記液滴を前記反応管内に導入することを特徴とする化学物質合成装置。
【請求項2】
反応管の一部又は全部が、石英、セラミック、アルミナ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂のいずれかで形成される請求項1に記載の化学物質合成装置。
【請求項3】
反応溶液導入部が、保護液中に反応溶液を液滴として吐出するノズル部を有する請求項1から2のいずれかに記載の化学物質合成装置。
【請求項4】
反応液導入部が、更に、ノズル部に供給される反応溶液の量及び前記反応溶液に加える圧力のいずれかを変動させて、前記ノズル部から吐出される液滴の保護液に対する供給速度を調整する液滴供給速度調整部を有する請求項3に記載の化学物質合成装置。
【請求項5】
マイクロ波加熱部が、マイクロ波発生部と、導電性材料で形成され、前記マイクロ波発生部から照射されるマイクロ波の入射口及び入射用アンテナのいずれかを有するとともに内部に前記マイクロ波の照射空間を有するマイクロ波照射容器と、を有し、前記マイクロ波照射容器内に前記反応管の一部又は全部が前記照射空間を通過するように配される請求項1から4のいずれかに記載の化学物質合成装置。
【請求項6】
マイクロ波照射容器が、照射空間内にマイクロ波の定在波を形成するシングルモード空胴共振器とされ、前記定在波の電界強度及び磁界強度のいずれかの強度の極大値に対し、その極大値の80%以上を示す前記照射空間の領域に反応管の一部又は全部が配される請求項5に記載の化学物質合成装置。
【請求項7】
シングルモード空胴共振器の照射空間内に形成される定在波が、n及びmが1以上の整数であるTEn0及びTM0m0モードの定在波であり、反応管が配される領域内において、前記定在波の電界強度及び磁界強度のいずれかの強度における最大値と最小値との差が、前記最大値に対して20%以内である請求項6に記載の化学物質合成装置。
【請求項8】
マイクロ波透過性で鉛直方向に延設された直管状の反応管内に、前記反応管の一端側から原料物質を分散ないし溶解させたマイクロ波吸収性の反応溶液と非相溶でマイクロ波透過性の保護液を充満させて導入する保護液導入工程と、
前記保護液で充満された前記反応管内に、前記反応管の一端側から前記反応溶液を液滴として導入する反応溶液導入工程と、
前記反応管外から前記反応管内にマイクロ波を照射し、前記反応管内を流通する前記液滴を加熱するマイクロ波加熱工程と、を含み、
前記反応溶液導入工程は、前記反応管の内径をDとし、前記液滴の直径をDとしたとき、次式、D≦0.9Dの関係を満たすように、前記液滴を前記反応管内に導入することを特徴とする化学物質合成方法。
【請求項9】
保護液導入工程及び反応溶液導入工程が、鉛直方向に延設された直管状の反応管に対し、反応管上部から保護液及び反応溶液を導入し、前記保護液及び前記反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させる工程であり、前記保護液を前記反応管内に供給する速度をFとし、前記液滴を前記反応管内に供給する速度をFとしたとき、次式、F/F<2の関係を満たす請求項8に記載の化学物質合成方法。
【請求項10】
反応管内を流れる全液流のレイノルズ数Reが、500未満である請求項8から9のいずれかに記載の化学物質合成方法。
【請求項11】
保護液導入工程及び反応溶液導入工程が、鉛直方向に延設された直管状の反応管に対し、前記反応管の一端側から保護液及び反応溶液を導入し、前記反応管に充満された前記保護液の流通を制限するとともに、前記反応管内に導入された前記反応溶液の液滴を鉛直下向きに自由落下させるか又は鉛直上向きに浮上させる工程であり、下記式(1)で表される前記液滴の前記反応管内を流れる終端速度uが、前記保護液及び前記液滴の前記反応管内を流れる線速度の和をvとしたとき、次式、v/u<2の関係を満たす請求項8に記載の化学物質合成方法。
【数1】
ただし、前記式(1)中、ρdは、前記液滴の密度を示し、ρsは、前記保護液の密度を示し、gは、重力加速度を示し、ηsは、前記保護液の粘度を示す。
【請求項12】
マイクロ波加熱工程が、マイクロ波としてn及びmが1以上の整数であるTEn0及びTM0m0モードの定在波を照射する工程である請求項8から11のいずれかに記載の化学物質合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相中の原料を反応管内で加熱して目的とする化学物質を合成する化学物質合成装置及び化学物質合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液相中の原料を加熱して目的物質としての化学物質を合成する場合、原料溶液を適切な反応容器に一定時間保持し、温度及び圧力を制御することが一般的である。この時、前記原料溶液の一部は、前記反応容器に接触することになるが、化学反応の種類によっては、前記反応容器の内壁面で目的外反応が進行することがある。特に、前記反応容器の外側から反応容器内に熱を伝播させて前記反応溶液の温度を調整する場合、前記反応溶液全体の温度より前記反応容器壁面の温度が高く、前記反応容器の内壁近傍では、前記目的外反応が進行しやすい状況となる。
【0003】
前記目的外反応が生じた場合、前記目的物質以外の固体が前記反応容器の内壁面に析出することで、前記反応容器の内壁面が汚染され、その析出物が脱落することや、浸食や腐食により製品中に前記目的物質以外の物質が混入され、品質の劣化を招くほか、前記反応容器の閉塞や破損を招く。そのため、製品の品質向上及び化学プロセスの安定的かつ安全な実施のためには、前記反応容器の定期的な交換や洗浄などが必要となる。
【0004】
特に、超微粒子合成プロセスにおいては、製品である超微粒子の粒子径分布が狭いことが品質に要求されることが多く、このため、前記反応容器壁面での固体析出の抑制は、重要な制御項目となる。
前記固体析出抑制方法としては、前記反応溶液中の原料濃度を下げることで、前記反応容器の内壁面での固体析出反応を抑制することが挙げられるが、前記原料濃度を下げると、生産性が悪くなること、化学反応後に濃縮工程が必要になること、廃液処理量が増加することなどの問題を生ずる。
【0005】
こうしたことから、本発明者らは、これまでに前記反応溶液をマイクロ波で加熱する方法を提案している(特許文献1参照)。前記マイクロ波で加熱する方法では、前記反応溶液自体を直接加熱することから、前記反応容器の内壁面の温度上昇が抑えられ、前記反応容器の内壁面近傍での前記目的外反応を抑制できるほか、前記反応溶液を急速に加熱できるため、前記反応容器全体の温度分布が狭くなり、前記超微粒子の粒子径分布を揃えることができる。
しかしながら、こうした提案においても、前記反応溶液と前記反応容器を接触させていることから、前記反応溶液に不純物が含まれている場合には、前記反応容器の内壁面で前記目的外反応が生じることがある。また、前記マイクロ波で加熱する方法では、反応終了後の冷却に時間を要するため、その冷却過程において、副反応による目的外反応が生じることがある。
そのため、前記反応溶液をマイクロ波で加熱する場合に、その特性を損なわず、より品質を向上させるとともに、前記反応容器の劣化を抑制することができる技術の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−137226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、液相中の原料を反応管内で加熱することにより合成される化学物質を高品質で得るとともに、前記反応管の劣化を抑制することが可能な化学物質合成装置及び化学物質合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> マイクロ波透過性で鉛直方向に延設された直管状の反応管と、前記反応管内に、前記反応管の一端側から原料物質を分散ないし溶解させたマイクロ波吸収性の反応溶液と非相溶でマイクロ波透過性の保護液を充満させて導入する保護液導入部と、前記保護液で充満された前記反応管内に、前記反応管の一端側から前記反応溶液を液滴として導入する反応溶液導入部と、前記反応管外から前記反応管内にマイクロ波を照射し、前記反応管内を流通する前記液滴を加熱するマイクロ波加熱部と、を有し、前記反応溶液導入部が、前記反応管の内径をDとし、前記液滴の直径をDとしたとき、次式、D≦0.9Dの関係を満たすように、前記液滴を前記反応管内に導入することを特徴とする化学物質合成装置。
<2> 反応管の一部又は全部が、石英、セラミック、アルミナ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂のいずれかで形成される前記<1>に記載の化学物質合成装置。
<3> 反応溶液導入部が、保護液中に反応溶液を液滴として吐出するノズル部を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の化学物質合成装置。
<4> 反応液導入部が、更に、ノズル部に供給される反応溶液の量及び前記反応溶液に加える圧力のいずれかを変動させて、前記ノズル部から吐出される液滴の保護液に対する供給速度を調整する液滴供給速度調整部を有する前記<3>に記載の化学物質合成装置。
<5> マイクロ波加熱部が、マイクロ波発生部と、導電性材料で形成され、前記マイクロ波発生部から照射されるマイクロ波の入射口及び入射用アンテナのいずれかを有するとともに内部に前記マイクロ波の照射空間を有するマイクロ波照射容器と、を有し、前記マイクロ波照射容器内に前記反応管の一部又は全部が前記照射空間を通過するように配される前記<1>から<4>のいずれかに記載の化学物質合成装置。
<6> マイクロ波照射容器が、照射空間内にマイクロ波の定在波を形成するシングルモード空胴共振器とされ、前記定在波の電界強度及び磁界強度のいずれかの強度の極大値に対し、その極大値の80%以上を示す前記照射空間の領域に反応管の一部又は全部が配される前記<5>に記載の化学物質合成装置。
<7> シングルモード空胴共振器の照射空間内に形成される定在波が、n及びmが1以上の整数であるTEn0及びTM0m0モードの定在波であり、反応管が配される領域内において、前記定在波の電界強度及び磁界強度のいずれかの強度における最大値と最小値との差が、前記最大値に対して20%以内である前記<6>に記載の化学物質合成装置。
<8> マイクロ波透過性で鉛直方向に延設された直管状の反応管内に、前記反応管の一端側から原料物質を分散ないし溶解させたマイクロ波吸収性の反応溶液と非相溶でマイクロ波透過性の保護液を充満させて導入する保護液導入工程と、前記保護液で充満された前記反応管内に、前記反応管の一端側から前記反応溶液を液滴として導入する反応溶液導入工程と、前記反応管外から前記反応管内にマイクロ波を照射し、前記反応管内を流通する前記液滴を加熱するマイクロ波加熱工程と、を含み、前記反応溶液導入工程は、前記反応管の内径をDとし、前記液滴の直径をDとしたとき、次式、D≦0.9Dの関係を満たすように、前記液滴を前記反応管内に導入することを特徴とする化学物質合成方法。
<9> 保護液導入工程及び反応溶液導入工程が、鉛直方向に延設された直管状の反応管に対し、反応管上部から保護液及び反応溶液を導入し、前記保護液及び前記反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させる工程であり、前記保護液を前記反応管内に供給する速度をFとし、前記液滴を前記反応管内に供給する速度をFとしたとき、次式、F/F<2の関係を満たす前記<8>に記載の化学物質合成方法。
<10> 反応管内を流れる全液流のレイノルズ数Reが、500未満である前記<8>から<9>のいずれかに記載の化学物質合成方法。
<11> 保護液導入工程及び反応溶液導入工程が、鉛直方向に延設された直管状の反応管に対し、前記反応管の一端側から保護液及び反応溶液を導入し、前記反応管に充満された前記保護液の流通を制限するとともに、前記反応管内に導入された前記反応溶液の液滴を鉛直下向きに自由落下させるか又は鉛直上向きに浮上させる工程であり、下記式(1)で表される前記液滴の前記反応管内を流れる終端速度uが、前記保護液及び前記液滴の前記反応管内を流れる線速度の和をvとしたとき、次式、v/u<2の関係を満たす前記<8>に記載の化学物質合成方法。
【数1】
ただし、前記式(1)中、ρdは、前記液滴の密度を示し、ρsは、前記保護液の密度を示し、gは、重力加速度を示し、ηsは、前記保護液の粘度を示す。
<12> マイクロ波加熱工程が、マイクロ波としてn及びmが1以上の整数であるTEn0及びTM0m0モードの定在波を照射する工程である前記<8>から<11>のいずれかに記載の化学物質合成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、液相中の原料を反応管内で加熱することにより合成される化学物質を高品質で得るとともに、前記反応管の劣化を抑制することが可能な化学物質合成装置及び化学物質合成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る化学物質合成装置の概略構成を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る化学物質合成装置を用いた化学物質の合成方法を説明する説明図である。
図3】実施例1における反応管出口温度の経時変化のグラフを示す図である。
図4】実施例1におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のUV−VISスペクトルを示す図である。
図5】実施例1におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す図である。
図6】実施例2におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す図である。
図7】実施例2におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す図である。
図8】マイクロ波加熱した後の反応管の写真を示す図である。
図9】実施例3におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す図である。
図10】実施例4におけるマイクロ波加熱前後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す図である。
図11】参考例12,13における反応管出口温度の経時変化のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(化学物質合成装置)
本発明の化学物質合成装置は、反応管と、保護液導入部と、反応溶液導入部と、マイクロ波加熱部とを有し、必要に応じて、その他の部材を有する。
【0012】
<反応管>
前記反応管は、マイクロ波透過性の管状部材である。
前記反応管の形成材料としては、前記マイクロ波透過性を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、石英、セラミック、アルミナ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ガラス、サファイア、ポリエチレン樹脂等が挙げられるが、中でも、石英、セラミック、アルミナ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が好ましい。
また、前記反応管としては、特に制限はないが、反応溶液との接触を避けるため、前記反応溶液に含まれる溶媒の種類に応じて内壁面を表面処理されていてもよい。例えば、前記溶媒が水である場合には、前記内壁面の表面に紫外線、超音波及び放射線を照射することで疎水化処理することとしてもよく、シランカップリング剤や前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂等の疎水性材料を用いて疎水化処理することとしてもよい。
【0013】
前記反応管の管長方向の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、直線状(直管)であっても、らせん状などの緩やかな曲線で曲がる管(曲管)であってもよい。また、前記反応管の断面形状としては、円形、楕円形、矩形であってもよいが、前記反応管内に導入する液滴の形状に応じて、円形が好ましい。
前記反応管の管壁の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05mm〜10mmが好ましく、0.1mm〜2mmがより好ましい。前記厚みが0.05mm未満であると、前記反応管に必要な強度を維持できず、前記反応管内の圧力変動により破損が生じることがあり、10mmを超えると、マイクロ波の伝達ロスにより加熱効率が低下することがある。
【0014】
<保護液導入部>
前記保護液導入部は、前記反応管内に、原料物質を分散ないし溶解させたマイクロ波吸収性の反応溶液と非相溶でマイクロ波透過性の保護液を充満させて導入する部材である。
前記保護液導入部の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記保護液を前記反応管に送液する送液ポンプが取付けられた前記保護液を貯留する公知の容器を接続部を介して前記反応管に接続した構造が挙げられる。
【0015】
前記保護液導入部から前記反応管内に導入される前記保護液としては、前記反応溶液と非相溶であることが必要である。即ち、前記保護液に前記反応溶液が相溶であると、前記保護液中に溶け出した前記反応溶液が前記反応管の内壁面と接触し、前記化学物質の品質向上の妨げとなるとともに、前記反応管を劣化させる要因となる。
本明細書において、「非相溶」とは、大気圧、25℃における前記反応溶液の前記保護液に対する飽和溶解度が、10vol%以下であることを指し示す。
また、前記保護液としては、マイクロ波吸収性の前記反応溶液と比較して前記マイクロ波の吸収が少なく、加熱しづらい材料であることが必要である。即ち、前記マイクロ波の吸収により、前記保護液が加熱すると、前記保護液中を流通する前記反応溶液の液滴のうち、前記保護液と接する側が必要以上に加熱され易くなり、加熱ムラとなって合成される化学物質の品質を低下させる。そのため、前記保護液としては、前記マイクロ波の吸収が少ないマイクロ波透過性の液体であることが必要である。
本明細書において、「マイクロ波吸収性」とは、照射されるマイクロ波における誘電損失(ε’’)が1.5以上であることを指し示し、前記保護液が「マイクロ波透過性」であるとは、前記反応溶液と前記保護液の前記誘電損失(ε’’)の比(反応溶液/保護液)が2以上であることを指し示す。
このように、用いる前記保護液をマイクロ波透過性とし、前記反応溶液をマイクロ波吸収性とすることで、前記マイクロ波加熱部により、前記反応溶液の液滴のみを選択的にマイクロ波加熱することができるとともに、前記マイクロ波加熱後の前記液滴を前記マイクロ波加熱されていない前記保護液により急速に冷却させることができる。
したがって、前記原料物質の効率的な加熱を行うことができるとともに、加熱後の余熱による副反応に基づいて、前記原料物質から合成される化学物質の品質が劣化することを抑制することができる。
前記保護液としては、これらの特性を有するものであれば、特に制限はなく、前記反応溶液の構成に応じて、適宜選択することができ、例えば、ヘプタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等のアルカン類、ベンゼン、シクロヘキサン等の芳香族類、四塩化炭素、パーフルオロカーボン等のフロン類、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0016】
<反応溶液導入部>
前記反応溶液導入部は、前記保護液で充満された前記反応管内に、前記反応溶液を液滴として導入する部材である。この前記反応溶液導入部は、前記反応管の内径をDrとし、前記液滴の直径をDdとしたとき、次式、Dd≦0.9Drの関係を満たすように、前記液滴を前記反応管内に導入することが重要である。即ち、前記式の関係を満たす条件においては、前記液滴を前記反応管の内壁に対して非接触で流通させることが可能とされ、目的とする前記化学物質を高品質で得るとともに、前記反応管の劣化を抑制することが可能となる。このような観点から、更に、次式、Dd≦0.5Drの関係を満たすことが好ましい。なお、前記反応管の断面形状を楕円形、矩形とする場合、前記Ddは、内径が最小となる位置での径とする。
前記反応溶液導入部の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記保護液中に前記反応溶液を前記液滴として吐出するノズル部を有する構造が挙げられる。前記ノズル部を有する場合、更に、前記ノズル部に供給される前記反応溶液の量及び前記反応溶液に加える圧力のいずれかを変動させて、前記ノズル部から吐出される前記液滴の前記保護液に対する供給速度を調整する液滴供給速度調整部を有する構造とすることが好ましい。こうした構造によれば、前記ノズル部から吐出される前記液滴の直径を適宜制御することができる。
前記液滴供給速度調整部としては、特に制限はなく、例えば、前記反応溶液の量を変動させる部材として、マスフローコントローラ、プランジャポンプ等が挙げられ、前記圧力を変動させる部材として、圧電素子、ソレノイド、プランジャ等が挙げられる。
なお、前記各式の関係を満たすように、前記反応管の内径を適宜調整してもよい。
【0017】
前記原料物質としては、前記反応溶液中に分散ないし溶解する物質であれば、特に制限はなく、目的とする前記化学物質の種類に応じて、公知の原料物質の中から適宜選択することができる。
前記化学物質としては、液相中の原料物質を加熱することにより合成可能な物質を広く挙げることができ、例えば、金属微粒子や高分子化合物等が挙げられる。
前記金属微粒子として、例えば、銀ナノ粒子を合成する場合、前記原料物質としては、硝酸銀を代表的に用いることができる。
【0018】
前記反応溶液としては、前述の通り、マイクロ波吸収性であり、マイクロ波吸収性を有する物質として知られる水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセロール、ベンジルアルコール、ジプロピレングリコール等のアルコール類、酢酸、硝酸、ギ酸等の酸性溶媒、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水等の塩基性溶媒などが挙げられる。
前記金属微粒子を合成する場合、特に制限はないが、前記反応溶液に分散剤を加え、生成する前記金属微粒子の凝集を防止し、分散安定性を高めることが好ましい。
このような分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、公知の高分子分散剤等や、脂肪酸ナトリウム、アルキルジメチルアミンオキシドなどの界面活性剤を挙げることができる。前記高分子分散剤としては、例えば、特開平11−80647号公報に例示されるものを好適に用いることができる。
【0019】
<マイクロ波加熱部>
前記マイクロ波加熱部は、前記反応管外から前記反応管内に前記マイクロ波を照射し、前記反応管内を流通する前記液滴を加熱する部材である。
前記マイクロ波加熱部の構造としては、前記マイクロ波を照射することができれば、特に制限はなく、公知のマイクロ波発生部と、アルミニウム、銅、真鍮等の導電性材料で形成され、前記マイクロ波発生部から照射される前記マイクロ波を入射させるための導波管等の入射口及びループアンテナ、ダイポールアンテナ、ヘリカルアンテナ等の入射用アンテナのいずれかを有するとともに、内部に前記マイクロ波の照射空間を有するマイクロ波照射容器と、を有し、前記マイクロ波照射容器内に前記反応管の一部又は全部が前記照射空間を通過するように配される構造が挙げられる。
このようなマイクロ波照射容器を用いる場合、前記マイクロ波を特定の部位に集中して照射する機構として、前記マイクロ波照射容器が、前記照射空間内に前記マイクロ波の定在波を形成するシングルモードの空胴共振器とされ、前記定在波の電界強度及び磁界強度のいずれかの強度の極大値に対し、その極大値の80%以上を示す前記照射空間の領域に前記反応管の一部又は全部が配されることが好ましい。前記シングルモード空胴共振器中では、電磁界強度の強い場所と弱い場所の時間的変化がないため、強い場所に前記マイクロ波加熱の対象となる前記液滴、延いては前記反応管を配するように構成すれば、効果的な加熱を行うことが可能となる。
このようなシングルモード空胴共振器を用いる場合、特に制限はないが、前記照射空間内にn及びmが1以上の整数であるTEn0及びTM0m0モードの定在波を形成し、前記反応管が配される領域内において、前記定在波の前記電界強度及び前記磁界強度のいずれかの強度における最大値と最小値との差が、前記最大値に対して20%以内とするように構成することが特に好ましい。ここで、前記TEn0及びTM0m0モードの定在波としては、例えば、円筒型の前記シングルモード空胴共振器内の前記照射空間を画成する内径寸法を調整することで形成することができ、前記TM010モードの定在波を形成する場合、例えば、用いる前記マイクロ波の周波数が2.5GHzであれば、前記内径を91mmとすることで形成することができる。
また、前記シングルモード空胴共振器によるマイクロ波照射では、前記反応溶液の前記液滴が前記反応管の容積に対して、過剰に供給されると、前記液滴での前記マイクロ波の吸収が大きくなり、前記マイクロ波が共振しなくなることがある。こうしたことから、前記反応管内を流通する前記液滴の体積を、前記反応溶液が前記水である場合には、前記反応管の容積に対して1/450以下とすることが好ましく、また、前記反応溶液が前記アルコール類である場合には、前記反応管の容積に対して1/200以下とすることが好ましい。
なお、前記シングルモードキャビティのマイクロ波照射装置としては、特開2011−137226号公報に記載の装置を参照することができる。
【0020】
前記反応管に照射する前記マイクロ波の照射強度としては、特に制限はなく、目的とする前記化学物質に応じて適宜選択することができるが、前記金属微粒子を合成する場合には、0.1mW〜20kWが好ましく、1mW〜500Wがより好ましい。
前記照射強度が0.1mW未満であると、前記金属微粒子を合成できないことがあり、20kWを超えると、前記シングルモード空胴共振器内での放電を抑制するなど別途対策が必要になることがある。
【0021】
<その他部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応管から取得される前記マイクロ波加熱後の前記反応溶液から合成された前記化学物質を分離して回収する公知の分離回収部等が挙げられる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る化学物質合成装置10を図1を参照しつつ説明する。なお、図1は、本発明の一実施形態に係る化学物質合成装置の概略構成を示す概略図である。
化学物質合成装置10は、反応管1と、保護液導入部2と、反応溶液導入部3と、保護液貯留部4と、反応溶液貯留部5と、図示しないマイクロ波照射装置を有して構成される。
【0023】
反応管1は、鉛直方向に延設された直管状の円筒管であり、上方に保護液導入部2が接続される。反応溶液導入部3は、保護液導入部2から反応管1内の上部に反応管1の中心軸に沿って垂設される細管状の部材として構成され、反応管1内の端部から前記反応溶液を液滴7a〜7cとして吐出可能とされる。
保護液導入部2は、保護液6を貯留する保護液貯留部4に接続され、図示しない送液ポンプにより保護液貯留部4からの保護液6の送液が調整され、反応管1に対する保護液6の供給速度が制御可能とされる。
また、反応溶液導入部3は、前記反応溶液を貯留する反応溶液貯留部5に接続され、図示しない圧電素子により反応溶液貯留部5からの液滴7a〜7cの送液が調整され、反応管1に対する液滴7a〜7cの供給速度が制御可能とされる。
前記マイクロ波照射装置は、反応管1外に配され、矢印方向から反応管1内に前記マイクロ波を照射する。
【0024】
保護液導入部2から反応管1内に保護液6を導入すると、反応管1内を充満しながら、保護液6が反応管1を鉛直下向きに流通する。この状態で、反応溶液導入部3から反応管1内に前記反応溶液を液滴7a〜7cとして導入すると、液滴7a〜7cが反応管1内を鉛直下向きに落下して流通する。
落下する液滴7a〜7cに対して、前記マイクロ波照射装置から前記マイクロ波を照射して(図中の矢印方向)、液滴7a〜7cを加熱し、前記液滴に含まれる前記原料物質から目的物質としての前記化学物質を合成する。なお、図中、液滴7b,7cが前記マイクロ波加熱された液滴である。
この際、保護液6は、前記反応溶液に対して非相溶で、マイクロ波透過性であり、前記反応溶液がマイクロ波吸収性であることから、液滴7a〜7cのみを選択的に加熱することができ、また、液滴7a〜7cの直径を制御することで、液滴7a〜7cを反応管1の内壁と接触させずに流通させることが可能となる。
【0025】
化学物質合成装置10の具体的な運転状況として、前記化学物質の合成方法を図2を参照しつつ説明する。この図2は、本発明の一実施形態に係る化学物質合成装置10を用いた化学物質の合成方法を説明する説明図である。なお、図中の符号8は、円筒型の前記シングルモード空胴共振器を示し、側面のマイクロ波入射口から前記マイクロ波が内部に導入される。
図2に示すように、反応溶液導入部3から導入される液滴7a〜7cの直径Dを、反応管1の内径Dに対して、次式、D≦0.9D[m]の関係を満たすように調整すれば、液滴7a〜7cを反応管1の内壁と接触させずに流通させることが可能となる。
【0026】
また、この際、保護液6を反応管1内に供給する速度F[m/s]と、液滴7a〜7cを反応管1内に供給する速度F[m/s]とが、次式、F/F<2の関係を満たすことが好ましい。
/Fが2以上となると、反応管1内を流通する液滴7a〜7cの鉛直下向きの落下挙動に乱れが生じ、液滴7a〜7cが反応管1の内壁に接触することがある。
ただし、Fが0であるか、非常に小さい値であると、液滴7a〜7cの反応管1内における流通は、保護液6と液滴7a〜7cの密度差に応じて、鉛直下向きに自由落下するか又は鉛直上向きに浮上する挙動が支配的となり、前記式に依存しない。この点は、Fが0であるか、非常に小さい値をとる条件とともに後述する。
【0027】
また、前記式、F/F<2の関係を満たす場合であっても、反応管1内を流れる全液流のレイノルズ数Reが、500未満であることが好ましい。
前記レイノルズ数Reが500以上であると、反応管1内を流れる全液流の層流に乱れが生じるか、全液流が乱流となり、反応管1内を流通する液滴7a〜7cが反応管1の内壁に接触することがある。
【0028】
が0であるか、非常に小さい値をとる条件であると、前述の通り、保護液6及び液滴7a〜7cの密度差に応じて、液滴7a〜7cを鉛直下向きに自由落下させるか又は鉛直上向きに浮上させるように挙動させることができる。このような条件としては、例えば、前記自由落下現象を利用する場合には、例えば、反応管1の保護液6及び前記反応溶液が導入される端部側と反対の端部側を有底とし、この底部の反応管1の中心軸位置に、液滴7a〜7cを射出させるための小さな射出孔を形成し、反応管1内に充満された保護液6の流通を制限することが挙げられる。また、前記浮上現象を利用する場合には、例えば、反応管1の保護液6及び前記反応溶液が導入される端部側と反対の端部側を有底とし(前記射出孔は形成しない)、反応管1内に充満された保護液6の流通をなくすことが挙げられる。この場合、反応管1の頂部側において、浮上するマイクロ波加熱後の液滴7a〜7cを掬い上げるように構成することができる。前記各条件の構成によれば、保護液6の使用量を低減させ、廃液量を低減させることができる。
また、Fが0であるか、非常に小さい値をとる場合、下記式(1)で表される液滴7a〜7cの反応管1内を流れる終端速度u[m/s]が、保護液6及び液滴7a〜7cの反応管1内を流れる線速度の和をv[m/s]としたとき、次式、v/u<2の関係を満たすことが好ましい。v/uが2以上であると、反応管1内を流通する液滴7a〜7cの鉛直下向きの前記自由落下又は鉛直上向きの前記浮上の挙動に乱れが生じ、液滴7a〜7cが反応管1の内壁に接触することがある。
【0029】
【数2】
ただし、前記式(1)中、ρdは、液滴7a〜7cの密度を示し、ρsは、保護液6の密度を示し、gは、重力加速度を示し、ηsは、保護液6の粘度を示す。
【0030】
また、前述の通り、反応管の上部から保護液及び液滴を導入し、これらを鉛直下向きに流通させる場合について説明をしたが、前記保護液の密度(比重)が前記液滴の密度(比重)よりも過大である場合、前記液滴の浮力を利用して、前記反応管の下部から前記保護液及び前記液滴を導入し、これらを鉛直上向きに流通させる方が、前記保護液の前記反応管内における流通速度を過大とすることなく、延いては、前記反応管内を流通する液流のレイノルズ数Reを低く抑えることができ、好ましい。また、前記保護液や前記反応溶液の組み合わせのバリエーションを増やすことができる観点からも、好ましい。なお、この場合においても、前記式、F/F<2の関係を満たすことが好ましく、前記レイノルズ数Reが、500未満であることが好ましい。また、前記式、F/F<2の関係を満たさない場合には、前記式(1)を満たすことが好ましい。
【0031】
また、前述の図1図2を用いた説明では、反応管として、鉛直方向に延設された直管状の管を用いた場合の説明としたが、前記化学物質合成装置では、前記直管状の管を鉛直方向から傾けて用いてもよく、また、らせん状などの緩やかな曲線で曲がる管を用いてもよい。特に、前記反応管をらせん状の管形状とすれば、前記管形状を直管とした場合に比べて、前記化学物質合成装置の大きさを維持したままで前記マイクロ波を照射可能な管長を長く設定できる。
なお、これら前記直管状の管を鉛直方向から傾けた場合やらせん状を用いた場合、前記反応管内を流通する前記液滴が、前記反応管の内壁面と接触するのを避けるため、前記保護溶液と前記反応溶液の密度及び前記反応管内の線速度を調整し、前記液滴が傾斜した前記反応管の中心軸上から鉛直上方又は鉛直下方に移動しないように制御する。
【0032】
(化学物質合成方法)
本発明の化学物質合成方法は、保護液導入工程と、反応溶液導入工程と、マイクロ波加熱工程とを含み、必要に応じて、その他の工程を含む。
【0033】
前記保護液導入工程は、マイクロ波透過性の反応管内に、反応物質を分散ないし溶解させたマイクロ波吸収性の反応溶液と非相溶でマイクロ波透過性の保護液を充満させて導入する工程であり、前記反応溶液導入工程は、前記保護液で充満された前記反応管内に、前記反応溶液を液滴として導入する工程であり、前記マイクロ波加熱工程は、前記反応管外から前記反応管内にマイクロ波を照射し、前記反応管内を流通する前記液滴を加熱する工程であり、前記反応溶液導入工程は、前記反応管の内径をDとし、前記液滴の直径をDとしたとき、次式、D≦0.9Dの関係を満たすように、前記液滴を前記反応管内に導入することを特徴とする。
【0034】
前記反応管内を流通する前記液滴の挙動に乱れがあると、前記反応管の内壁に前記液滴が接触するおそれがある。そのため、こうした挙動の乱れを抑制するため、更に、以下の条件により、前記化学物質合成方法を実施することが好ましい。
即ち、前記保護液導入工程及び前記反応溶液導入工程を、鉛直方向に延設された直管状の前記反応管に対し、前記反応管上部から前記保護液及び前記反応溶液を導入し、前記保護液及び前記反応溶液の前記液滴を鉛直下向きに流通させる工程とする場合、前記保護液を前記反応管内に供給する速度をFとし、前記液滴を前記反応管内に供給する速度をFとしたとき、次式、F/F<2の関係を満たすことが好ましい。
/Fが2以上となると、前記反応管内を流通する前記液滴の鉛直下向きの落下挙動に乱れが生じ、前記液滴が前記反応管の内壁に接触することがある。
【0035】
また、前記式、F/F<2の関係を満たす場合であっても、前記反応管内を流れる全液流のレイノルズ数Reが、500未満であることが好ましい。
前記レイノルズ数Reが500以上であると、前記反応管内を流れる全液流の層流に乱れが生じるか、全液流が乱流となり、前記反応管内を流通する前記液滴が前記反応管の内壁に接触することがある。
【0036】
ただし、Fが0であるか、非常に小さい値であると、前記液滴の前記反応管内における流通は、前記保護液と前記液滴の密度差に応じて、鉛直下向きに自由落下するか又は鉛直上向きに浮上する挙動が支配的となり、前記式に依存しない。
即ち、前記保護液導入工程及び反応溶液導入工程は、鉛直方向に延設された直管状の前記反応管に対し、前記反応管上部から前記保護液及び反応溶液を導入し、前記反応管に充満された前記保護液の流通を制限するとともに、前記反応管内に導入された前記反応溶液の前記液滴を鉛直下向きに自由落下させるか又は鉛直上向きに浮上させる工程とすることができる。このような工程においては、前記保護液の使用量を低減させることができるため、廃液量を低減させることができる。
また、この場合、下記式(1)で表される前記液滴の前記反応管内を流れる終端速度uが、前記保護液及び前記液滴の前記反応管内を流れる線速度の和をvとしたとき、次式、v/u<2の関係を満たすことが好ましい。
即ち、v/uが2以上であると、前記反応管内を流通する前記液滴の鉛直下向きの前記自由落下又は鉛直上向きの前記浮上の挙動に乱れが生じ、前記液滴が前記反応管の内壁に接触することがある。
【0037】
【数3】
ただし、前記式(1)中、ρdは、前記液滴の密度を示し、ρsは、前記保護液の密度を示し、gは、重力加速度を示し、ηsは、前記保護液の粘度を示す。
【0038】
前記反応溶液加熱工程としては、特に制限はないが、前記マイクロ波としてn及びmが1以上の整数であるTEn0及びTM0m0モードの定在波を照射する工程であることが好ましい。このような工程であれば、前記反応管内を流通する前記液滴に電界を集中させた効率的なマイクロ波加熱を行うことができる。
【0039】
また、前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応管から取得される前記マイクロ波加熱後の前記反応溶液から合成された前記化学物質を分離して回収する分離回収工程等が挙げられる。
【0040】
なお、以上の各工程は、本発明の前記化学物質合成装置により実施することができ、その詳細は、前記化学物質合成装置について説明した事項を適用することができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
前述の化学物質合成装置10(図1参照)の構成に基づき、化学物質合成装置を作製し、実施例1に係る化学物質の合成を行った。この化学物質合成装置においては、反応管として、内径4mmの直管型の石英管を用い、これを鉛直方向に配して構成した。反応溶液導入部としては、内径0.25mmの注射針を用い、直径が約2mmの液滴を吐出するように構成した。前記反応管に対する保護液の供給速度の制御は、保護液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行い、前記反応溶液の供給速度の制御は、反応液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行った。
また、マイクロ波加熱部としては、周波数変調型のマイクロ波発生器(2.5GHz±200MHz,100W)と、TM010モードの定在波を形成する円筒型のシングルモード空胴共振器とを有する電界集中型マイクロ波照射装置を用い、前記シングルモード空胴共振器の中心軸上に前記反応管を設置して構成した。
【0042】
前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。ここでは、銀ナノ粒子のポリオール合成を行うこととし、前記反応溶液としては、硝酸銀(5mM)と、ポリビニルピロリドン(PVP,質量平均分子量10,000,0.15wt%)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
【0043】
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を5mL/h(1.4×10−9/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を3mL/h(8.3×10−9/sとした。このときのレイノルズ数Reは、0.38である。なお、レイノルズ数Reは、下記式(2)により、算出した。
【0044】
【数4】
ただし、前記式(2)中、ρは、前記保護液の密度を示し、vtは、前記保護液及び前記液滴の前記反応管内を流れる線速度の和を示し、Dは、前記反応管の内径を示し、μは、前記保護液の粘性係数を示す。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する前記液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約4秒であり、前記液滴の落下間隔は、約10秒である。
前記マイクロ波加熱部により加熱された前記液滴及び前記保護液の温度計測は、前記反応管の出口側に直径0.25mmのK型熱電対(坂口電熱製、T35型K0.25φx100L)を設置して行った。
合成された化学物質(銀ナノ粒子)については、前記反応管の出口に設置されたビーカーで反応溶液ごと採取し、前記保護液から分離抽出して評価を行った。
合成された化学物質(銀ナノ粒子)の評価には、UV−vis吸光光度計(日立製、U−3310)およびTEM(FEI製、TECNAI G2)を用いた。
【0045】
以上のようにして行った実施例1の実施結果について、以下に説明する。
先ず、前記反応管内に導入された前記保護液及び前記液滴の全液流は、層流を形成し、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズ(直径約2mm)を保ちながら前記反応管の出口まで落下することが目視により確認した。なお、前記液滴の直径は、カメラ撮影した画像をもとに計測した。
次に、図3に前記反応管における出口温度の経時変化のグラフを示す。この図3に示すように、前記液滴が前記K型熱電対に接触した時のみ温度が上昇し、その上昇温度は、ほぼ一定であることから、前記液滴のみを選択的かつ正確な温度でマイクロ波加熱することができていることがわかる。
次に、図4に実施例1におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す。この図4に示すように、マイクロ波加熱後の前記反応溶液では、波長400nm前後に銀ナノ粒子の生成を反映する表面プラズモン吸収が確認される。
また、図5に実施例1におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す。この図5から観察されるように、平均粒子径15nm前後の粒径が揃った銀ナノ粒子を確認することができる。
【0046】
(実施例2)
実施例2として、実施例1に係る化学物質合成装置を用い、銅ナノ粒子の合成を行った。具体的には、次のように行った。
先ず、前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。前記反応溶液としては、酢酸銅(10mM)と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000,5wt%)と、還元剤であるヒドラジン(50mM)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10−8/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10−8/s)とした。このときのレイノルズ数Reは、4.8である。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約2秒であり、前記液滴の落下間隔は、約0.5秒である。また、マイクロ波照射強度は、10Wである。
【0047】
以上のようにして行った実施例2の実験結果について、以下に説明する。
先ず、前記反応管内に導入された前記保護液及び前記液滴の全液流は、層流を形成し、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズ(直径約2mm)を保ちながら前記反応管の出口まで落下することが目視により確認した。
合成された化学物質(銅ナノ粒子)の評価には、前記UV−vis吸光光度計及びTEMを用いた。
図6に実施例2におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す。この図6に示すように、波長580nm前後に銅ナノ粒子の生成を反映する表面プラズモン吸収が確認される。
次に、図7に実施例2におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す。この図7から観察されるように、平均粒子径20nm前後の粒径が揃った銅ナノ粒子を確認することができる。
次に、図8に前記反応溶液を合計10mL流通させ、マイクロ波加熱した後の反応管の写真を示す。図8の写真より、前記反応管内壁への金属析出は、皆無であることが確認される。
【0048】
(比較例1)
比較例1として、前記反応管内に前記保護液を充満させずに、前記反応溶液のみでマイクロ波加熱を行った実験結果について説明する。この実験では、前記反応管に、外径3mm、内径1mmのテトラフルオロエチレン製の反応管を用いた。前記反応溶液の液滴は、層流としてマイクロ波照射空間に供給され、滞留時間は、約2秒である。この他の条件は、実施例2と同様である。
【0049】
下記表1に実施例2と比較例1にて合成された銅ナノ粒子の平均粒子径と標準偏差を示す。ここで、平均粒子径とは、TEM写真に撮影された100個の粒子直径の平均値である。実施例2で合成された銅ナノ粒子の平均粒子径は、22.9nmで、標準偏差は、7.5であり、一方、比較例1で合成された銅ナノ粒子の平均粒子径は、22.0nmで、標準偏差は、8.4であった。このことから、実施例2で合成された銅ナノ粒子の方が粒子径が揃っていることがわかる。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例3)
実施例3として、実施例1に係る化学物質合成装置を用い、パラジウムナノ粒子の合成を行った。具体的には、次のように行った。
先ず、前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。前記反応溶液としては、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(10mM)と、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000,1.5wt%)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を10mL/h(2.8×10−9/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10−8/s)とした。このときのレイノルズ数Reは、2.9である。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約2秒であり、前記液滴の落下間隔は、約2秒である。また、マイクロ波照射強度は、10Wである。
【0052】
以上のようにして行った実施例3の実験結果について、以下に説明する。
先ず、前記反応管内に導入された前記保護液及び前記液滴の全液流は、層流を形成し、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズ(直径約2mm)を保ちながら前記反応管の出口まで落下することが目視により確認した。
合成された化学物質(パラジウムナノ粒子)の評価には、前記TEMを用いた。
図9に実施例3におけるマイクロ波加熱後の反応溶液のTEM写真像を示す。この図9から観察されるように、平均粒子径8nm前後の粒径が揃ったパラジウムナノ粒子を確認することができる。
【0053】
(実施例4)
実施例4として、実施例1に係る化学物質合成装置を用い、金属ナノ粒子以外の合成例として、蛍光試薬の合成を行った。具体的には、次のように行った。
先ず、前記反応管内に、保護液としてのドデカンを導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に反応溶液の液滴を鉛直下向きに流通させた。前記反応溶液としては、塩化ルテニウム(2mM)と、2,2’−ビピリジン(10mM)とをエチレングリコール中に溶解させた混合溶液を用いた。
本実施例では、前記保護液の前記反応管に対する供給速度を10mL/h(2.8×10−9/s)とし、前記反応溶液の前記反応管に対する供給速度を50mL/h(1.4×10−8/s)とした。このときのレイノルズ数Reは、2.9である。
この条件において、前記マイクロ波加熱部により、前記反応管内を落下する液滴の加熱を行った。マイクロ波照射空間での前記液滴の滞留時間は、約2秒であり、前記液滴の落下間隔は、約2秒である。また、マイクロ波照射強度は、10Wである。
【0054】
以上のようにして行った実施例4の実験結果について、以下に説明する。
合成された化学物質(ルテニウム錯体)の評価には、前記UV−vis吸光光度計を用いた。
図10に実施例4におけるマイクロ波加熱前後の反応溶液のUV−visスペクトルを示す。マイクロ波加熱後の反応溶液においては、460nm前後に蛍光試薬が合成されたことを反映する吸収が確認される。
【0055】
(参考例1〜15)
反応管内における保護液と反応溶液(液滴)の挙動及びマイクロ波加熱状況を確認するため、以下に説明する参考例1〜15に示す条件に各条件を変更しながら、前記反応溶液のマイクロ波加熱実験を行った。なお、ここでは、前記反応溶液として、原料物質を含まない模擬反応液を用いている。
【0056】
<参考例1>
前述の化学物質合成装置10(図1参照)の構成に基づき、化学物質合成装置を作製した。この化学物質合成装置においては、反応管として、外径0.4cm内径0.2cmの直管型の石英管を用い、これを鉛直方向に配して構成した。反応溶液導入部としては、注射針を用い、液滴を吐出するように構成した。前記反応管に対する保護液の供給速度の制御は、保護液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行い、前記反応溶液の供給速度の制御は、反応液貯留部に設置されたシリンジポンプにより行った。
また、マイクロ波加熱部としては、周波数変調型のマイクロ波発生器(2.5GHz±200MHz,100W)と、TM010モードの定在波を形成する円筒型のシングルモード空胴共振器とを有する電界集中型マイクロ波照射装置を用い、前記シングルモード空胴共振器の中心軸上に前記反応管を設置して構成した。前記シングルモード空胴共振器における前記反応管の管長方向の長さ(前記反応管内におけるマイクロ波照射空間の管長方向の長さ)は、10cmとした。
【0057】
参考例1では、前記保護液として、ドデカン(密度ρ=0.75g/cm、粘度η=1.38mPa・s)を導入し、前記反応管内を充満させつつ、鉛直下向きに流通させた後、その中に、前記模擬反応液としてのエチレングリコール(密度1.11g/cm)の液滴を鉛直下向きに流通させた。安定した状態での前記保護液の前記反応管に対する供給速度Fは、1,200mL/hであり、前記液滴として導入する前記模擬反応液の前記反応管に対する供給速度Fは、10mL/hであり、F/F<2を満たす条件とした。また、前記反応管を流通する全液流のレイノルズ数Reは、115.84であった。
この時の液滴径Dは、0.1cm以下であり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.5Dの条件を満たした。前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。なお、液滴径Dは、前記反応溶液導入部としての注射針(内径0.25mm)から導入される前記液滴の種類及び前記反応管に対する供給速度F、前記保護液の種類及び前記反応管に対する供給速度F、並びに、前記反応管を流通する全液流の線流速vtにより、調整される。
また、流通する前記液滴に対し、前記マイクロ波発生器からマイクロ波(100W)を照射したとき、模擬反応液の温度は、前記保護液の温度より5℃以上高い温度に加熱することが可能であった。
以上に説明した参考例1の条件を、前記反応管を流通する全液流の線流速vt、及び前記反応管に導入された前記液滴の前記式(1)より導出される終端速度utとともに、下記表2にまとめて示す。また、前記保護液及び前記模擬反応液として用いた溶液の2.45GHzにおける誘電損率および誘電正接を、誘電率測定プローブキット(アジレントテクノロジー製 85070E)で測定した結果を表3に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
<参考例2>
参考例1において、前記反応管として、外径が0.6cm、内径が0.4cmの直管型の石英管を用い、前記反応管内を流通する前記保護液の供給速度を360mL/hとしたこと以外は、参考例1と同様にして、参考例2に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例2に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.1cm以下であり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、17.71であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より5℃以上高い温度に加熱することが可能であった。
【0061】
<参考例3,4>
参考例2において、前記反応管内を流通する前記保護液の供給速度を上記表2に示す条件としたこと、マイクロ波照射強度を10Wに変更したこと以外は、参考例2と同様にして、参考例3,4に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例3,4に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ1.44(参考例3),0.96(参考例4)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より5℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0062】
<参考例5,6>
参考例2において、前記反応管内を流通する前記保護液の供給速度を上記表2に示す条件としたこと、マイクロ波照射強度を10Wに変更したこと以外は、参考例2と同様にして、参考例5,6に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例5,6に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の前記反応管内における流通が制限され、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係が、F/F<2の条件を満たさないものの、前記線流速vtと、前記終端速度utとの関係が、vt/ut<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ0.57(参考例5),0.48(参考例6)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで自由落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0063】
<参考例7,8>
参考例3において、前記反応管内を流通する前記保護液及び前記液滴の供給速度を上記表2に示す条件としたこと以外は、参考例3と同様にして、参考例7,8に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例7,8に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ1.20(参考例7),2.39(参考例8)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0064】
<参考例9,10>
参考例3において、前記反応管内を流通する前記保護液及び前記液滴の供給速度を上記表2に示す条件としたこと以外は、参考例3と同様にして、参考例9,10に係る各マイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例9,10に係る各マイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の前記反応管内における流通が制限され、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係が、F/F<2の条件を満たさないものの、前記線流速vtと、前記終端速度utとの関係が、vt/ut<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、それぞれ3.35(参考例9),5.74(参考例10)であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで自由落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0065】
<参考例11>
参考例3において、前記反応管内を流通する前記保護液及び前記液滴の供給速度を上記表2に示す条件としたこと以外は、参考例3と同様にして、参考例11に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例11に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.25cm〜0.35cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、2.87であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、約2秒であった。
【0066】
<参考例12>
参考例7において、前記反応管として、外径が1.0cm、内径が0.8cmの直管型の石英管を用い、前記シングルモード空胴共振器における前記反応管の管長方向の長さ(前記反応管内におけるマイクロ波照射空間の管長方向の長さ)を、5cmとしたこと以外は、参考例7と同様にして、参考例12に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例12に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.4cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.5Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.6であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、1.1秒であった。
【0067】
<参考例13>
参考例12において、前記模擬反応液の種類を水としたこと以外は、参考例12と同様にして、参考例13に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例13に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.5cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.60であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より40℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、1.4秒であった。
ここで、参考例12と参考例13のマイクロ波加熱に関して、図11に前記反応管における出口温度の経時変化のグラフを示す。なお、この出口温度は、熱電対(坂口電熱製、T35型K0.25φx100L)を、前記反応管内の前記マイクロ波照射空間から出口側へ5cm離れた位置に挿入し、測定したものである。
【0068】
<参考例14>
参考例12において、前記保護液の種類をシリコーンオイル(信越シリコーン製、KF96−50cs、密度ρs=0.96g/cm、粘度ηs=48mPa・s)としたこと以外は、参考例12と同様にして、参考例14に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例14に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.6cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.9Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.02であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の出口まで落下することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より20℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、5秒であった。
【0069】
<参考例15>
前記保護液として、パーフルオロカーボン(3M社製フロリナートFC−43、密度ρs=1.88g/cm、粘度ηs=5.26mPa・s)を用いた。ここで、参考例15では、参考例1〜14と異なり、前記保護液の密度ρs(1.88g/cm)は、前記模擬反応液の密度ρd(1.11g/cm)よりも過大であるため、前記保護液及び前記模擬反応液とも、前記反応管の下部から供給し、前記液滴を鉛直上向きに浮上させて行った。これ以外は、参考例12と同様にして、参考例15に係るマイクロ波加熱実験を行った。諸条件を上記表2に示す。
この参考例15に係るマイクロ波加熱実験の条件では、液滴径Dは、0.3cmであり、反応管内径Dとの関係は、D≦0.5Dの条件を満たした。また、前記保護液の供給速度Fと、前記液滴の供給速度Fとの関係は、F/F<2の条件を満たし、前記反応管内を流通する全液流のレイノルズ数Reは、0.39であった。
その結果、前記液滴は、前記反応管の内壁に接触することなく、一定のサイズを保ちながら前記反応管の頂部まで浮上することが確認された。
また、前記液滴に対してマイクロ波を照射したとき、前記液滴を前記保護液の温度より10℃以上高い温度に加熱することが可能であった。なお、前記液滴がマイクロ波照射空間を通過する時間は、0.5秒であった。
【0070】
以上のように、本発明では、前記反応溶液の前記液滴を前記反応管の内壁に接触させずに、前記反応管内を流通する全液流から選択的にかつ正確な温度で加熱することができるため、液相中の原料を加熱することにより合成される化学物質を高品質で得ることが可能であるとともに、反応管の劣化を抑制することが可能であり、液相中の原料を加熱して目的物質を合成する化学プロセス全般への応用が期待される。
【符号の説明】
【0071】
1 反応管
2 保護液導入部
3 反応溶液導入部
4 保護液貯留部
5 反応溶液貯留部
6 保護液
7 反応溶液
7a,7b,7c 液滴
8 シングルモード空胴共振器
10 化学物質合成装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11