【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 平成25年5月17日 ウェブサイトのアドレス https://embs.papercept.net/conferences/scripts/rtf/EMBC13_ContentListWeb_1.html#thb24 ウェブサイトの掲載日 平成25年5月21日 ウェブサイトのアドレス http://www.cleopr−oecc−ps2013.org/ 発行者名 IEEE 刊行物名 CLEO−PR & OECC/PS 2013 Conference Program & Abstracts,第197頁 頒布日 平成25年6月30日 発行者名 The Printing House,Inc. 刊行物名 2013 35th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society(EMBC)proceedings,第1214〜1217頁 頒布日 平成25年7月3日 集会名 CLEO−PR & OECC/PS 2013 開催日 平成25年7月3日 集会名 IEEE EMBC 2013 35th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society in conjunction with 52nd Annual Conference of Japanese Society for Medical and Biological Engineering(JSMBE) 開催日 平成25年7月4日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記散乱係数算出手段は、前記生体の吸収係数が未知の場合、前記光強度検出手段により検出された前記光強度に基づいて、前記光の照射位置と前記光強度検出手段との距離に対する前記光強度の減衰度を線形化し、得られた直線の傾きから前記生体内における光の散乱係数を算出し、前記直線の切片から前記生体の吸収係数を算出する、
請求項1に記載の非侵襲型生体脂質濃度計測器。
前記散乱係数算出工程では、前記生体の吸収係数が未知の場合、前記光強度検出工程で検出された前記光強度に基づいて、前記光の照射位置と前記光強度検出手段との距離に対する前記光強度の減衰度を線形化し、得られた直線の傾きから前記生体内における光の散乱係数を算出し、前記直線の切片から前記生体の吸収係数を算出する、
請求項7に記載の非侵襲による生体脂質濃度計測方法。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る非侵襲型生体脂質濃度計測器、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器、非侵襲による生体脂質濃度計測方法および非侵襲による生体脂質代謝機能検査方法の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0035】
本実施形態の非侵襲型生体脂質濃度計測器1は、
図1に示すように、生体外から生体に向けて光を照射する照射手段2と、生体外の所定の検出位置31における光強度を検出する光強度検出手段3と、この光強度検出手段により検出された前記光強度に基づき生体内における光の散乱係数μ
sを算出する散乱係数算出手段4と、この散乱係数算出手段4により算出された光の散乱係数μ
sに基づき生体内における脂質濃度を算出する脂質濃度算出手段5とを有している。つまり、本実施形態の非侵襲型生体脂質濃度計測器1は、採血不要の検査を実現するために、生体を透過しやすい光を用いて血中脂質の定量分析を行うものである。
【0036】
以下、各構成について詳細に説明する。
【0037】
照射手段2は、
図1に示すように、生体外から生体に向けて、所定の照射位置21に光を照射するものであり、光を照射するための光源22を有している。前記光源22は、照射する光の波長を自在に調整することができるようになっており、その波長範囲を血漿の無機物によって光が吸収される波長範囲以外に調整することができる。また、本実施形態における光源22は、血液の細胞成分によって光が吸収される波長範囲以外に調整することもできる。ここで、血液の細胞成分とは、血中の赤血球、白血球および血小板のことであり、血漿の無機物とは、血中の水および電解質のことである。
【0038】
また、血漿の無機物により光を吸収する波長範囲とは、主に、血漿の無機物による光の吸収が強い範囲を示すものであり、
図2に示すような範囲である。同様に、血液の細胞成分により光を吸収する波長範囲とは、主に、血液の細胞成分による光の吸収が強い範囲を示すものであり、
図2に示すような範囲である。つまり、それら以外の波長範囲では、血漿の無機物による光の吸収や血液の細胞成分による光の吸収が起きているものと考えられるが、実験や生体計測レベルにおいて無視できる程度である。
【0039】
つまり、光源22として用いられる波長範囲は、
図2に示すように、血漿の無機物により光を吸収する波長範囲を考慮して約1400nm以下および約1500nm〜約1860nmとするのが好ましく、さらに、血液の細胞成分によって光が吸収される波長範囲を考慮して約580nm〜約1400nmおよび約1500nm〜約1860nmとするのがより好ましい。
【0040】
このように、光源22として用いられる波長範囲を上記範囲とすことにより、後述する光強度検出手段3により検出される光において、血漿の無機物による光の吸収の影響および血液の細胞成分により光の吸収の影響を抑制している。これにより、物質を特定するほどの吸収は存在せず、吸収による光エネルギー損失は無視できるほど小さくなるため、血中の光は血中の脂質による散乱によって遠くまで伝搬し、体外へ放出されようになる。
【0041】
また、本実施形態の照射手段2は、後述する散乱係数算出手段4による散乱係数μ
sの算出方法に応じて、光の連続的な照射や光のパルス状の照射等の光を照射する時間長さを任意に調整することができ、かつ照射する光の強度または光の位相を任意に変調することができる。
【0042】
なお、照射手段2は、波長が固定された光源22を用いてもよく、複数の波長の光を混合したものであってもよい。
【0043】
光強度検出手段3は、光を受光してその光強度を検出するものであり、生体から生体外に放出される光を受光し、その光強度を検出できるようになっている。また、複数の光強度検出手段3を用いる場合は、照射位置21を中心として各々異なる距離に設置される。本実施形態では、
図1に示すように、照射位置21から所定の間隔で同一面上でかつ直線状に第一光強度検出手段31および第二光強度検出手段32が順に並べられいる。
【0044】
また、照射位置21から検出位置33までの距離を照射検出間距離ρとしており、本実施形態では、
図1に示すように、照射位置21から第一光強度検出手段31による第一検出位置331までの距離を第一照射検出間距離ρ
1とし、照射位置21から第二光強度検出手段32による第二検出位置332までの距離を第二照射検出間距離ρ
2としている。
【0045】
このように、光を生体に照射する照射位置21と、生体から放出される光強度を検出する検出位置33との間に所定の距離を設けることにより、
図3に示すように、照射した光が生体表面および表面近傍の散乱体により反射して直接的に生体から放出される光の影響を抑制し、血液や脂質が存在する深さに達したのち、血中脂質によって光が反射することによる散乱を経て生体から放出される後方散乱光による光強度を検出するようになっている。また、照射位置21と検出位置33との距離を長くすることで、光路長は長くなるため、脂質との衝突回数が増え、検出される光は散乱の影響を多く受けることにより、これまでは弱く、検出しにくかった散乱の影響を捉えやすくしている。
【0046】
また、計測対象である、「血中脂質」は、
図4に示すように、アポタンパク等に覆われた球状構造をしており、リポタンパクと呼ばれている。また、脂質そのものも疎水性物質であり血液に溶けにくい物質である。そのため、血中脂質は血中において固体のような状態で存在しており、光を反射する性質を有し、特に、粒子径や比重の大きいカイロミクロン(CM)やVLDL等は脂質を多く含み、かつ光をより散乱させ易い特性を有している。よって、光強度検出手段3により検出される光強度には、血中脂質による光の散乱の影響が含まれていると考えられる。
【0047】
なお、複数の検出位置33を設ける場合の配列は、照射位置21を中心として各々異なる距離に配置されるのであれば直線状に限定されるものではなく、円状、波状、ジグザグ状など、適宜選択することができる。また、照射位置21から検出位置33までの第一照射検出間距離ρ
1や第二照射検出間距離ρ
2、検出位置331,332同士の間隔は、一定の間隔に限定されるものではなく、適宜選択されるものである。
【0048】
散乱係数算出手段4は、光強度検出手段3により検出された光強度に基づき生体内における光の散乱係数μ
sを算出するものである。上述のとおり、光強度検出手段3により検出された光強度は、血中脂質による光の散乱の影響が含まれており、そのことから散乱係数μ
sを算出しようとするものである。なお、本実施形態における散乱係数μ
sは、一般的な散乱過程の効率を数値化したものに限定されるものではなく、散乱現象を考慮して散乱の影響を一定の条件下で数値化したものも含むものである。以下、詳細に説明する。
【0049】
本実施形態における散乱係数算出手段4は、
図1に示すように、光強度/距離算出部41、光強度比算出部42、光強度差算出部43、減衰時間算出部44、最強時間算出部45および光密度波形算出部46の6つの算出部を有している。以下、各算出部について詳細に説明する。
【0050】
光強度/距離算出部41は、検出位置33で検出された光強度と、照射位置21から検出位置33までの照射検出間距離ρとの比から散乱係数μ
sを算出するものである。つまり、照射した光が検出位置までの距離を遠くするにつれて散乱により減衰していく散乱現象に基づき散乱係数μ
sを算出するものである。つまり、
図5に示すように、血中に散乱を生じさせる粒子が無ければ照射した光は透過し、散乱は生じない(左から1つめの図)。一方、散乱粒子があり、散乱を生じた場合は、照射した光は反射し生体から放出される。このとき、粒子の濃度によって、照射位置21から近い場所で弱い光が届く場合(左から2つめの図)、照射位置21から遠い場所まで光が届く場合(左から3つめの図)、照射位置21から近い場所で強い光が届く場合(左から4つめの図)と、濃度に応じた分布を示す。
【0051】
よって、ここで検出される光強度には、上述のとおり、光が血中において粒子状に存在する脂質の濃度に依存して散乱している情報、および照射位置21と検出位置33との距離が遠くなるほど光強度が減衰する情報が含まれている。よって、光強度/距離算出部41は、この光強度と、設定に応じて既知の値となる照射位置21と検出位置33との距離との比、いわゆる距離に対する減衰率を算出し、これを散乱係数μ
sとすることで、血中脂質の濃度に依存する散乱係数μ
sを得るようにしたものである。
【0052】
本実施形態における光強度/距離算出部41は、前記照射手段2により連続光を照射するとともに、第一光強度検出手段31により検出された光強度R(ρ)と照射検出間距離ρ
1とを、下記式(1)および式(2)に代入することで散乱係数μ
sを算出するようになっている。
【数1】
【数2】
ここで、μ
aは吸収係数、μ
effは有効減衰係数(Effective Attenuation Coefficient)、S
0は照射手段2により照射された光の光強度である。
【0053】
なお、上記式(1)および式(2)は以下のように導き出される。
【0054】
まず、
図1に示すように、生体外から生体内に向けて所定の光強度S
0を有する光を連続光として照射するとともに、照射位置21から検出位置33までの距離を照射検出間距離ρとすると、その後方散乱光によって生体外に放射される光の分布は、以下の式(4)で表される。
【0055】
【数4】
ここで、z
0は光源の深さ、つまり散乱が開始する深さであって、下記式(5)で表される。
【数5】
ここで、μ
sは散乱係数を表している。
【0056】
また、μ
effは有効減衰係数であり、下記式(6)で表される。
【数6】
ここで、Dは拡散係数、μ
aは吸収係数をそれぞれ表している。
【0057】
また、皮膚表面や表面近傍の血管での散乱を想定すると、照射検出間距離ρと光源の深さz
0との関係は下記式(7)のように近似する事ができる。
【数7】
ただし、
【0058】
さらに、本発明における計測対象は、上述のとおり血中の脂質であり、血中脂質による散乱は吸収よりも大きいと考えられる。そのため、有効減衰係数μ
effは下記式(8)のように近似する事ができる。
【数8】
ただし、
【0059】
以上の式(7)および式(8)を式(4)に代入すると、下記式(9)の近似式となる。
【数9】
【0060】
ここで、照射検出間距離ρと有効減衰係数μ
effとに関して、下記式(10)のような関係を有する場合、式(9)は下記式(11)のように表される。ここでμ
eff=5.77mm(μ
s=1/mm、μ
a=0.01/mm)とする。
【数10】
【数11】
そして、上記式(11)を対数表示させると、上記式(1)が導き出される。
【0061】
また、照射検出間距離ρと有効減衰係数μ
effとに関して、下記式(12)のような関係を有する場合、式(9)は下記式(13)のように表される。
【数12】
【数13】
そして、上記式(13)を対数表示させると、上記式(2)が導き出される。
【0062】
なお、強度/距離算出部41は、本実施形態のように上記式(1)および式(2)によるものに限定されるものではなく、適宜選択されるものであり、例えば、検出された光強度R(ρ)と散乱係数μ
sとが単純に比例しているものとしてもよい。
【0063】
また、強度/距離算出部41は検出位置33が一点のものに限定されるものではない。実際の計測に置いては、多くの計測ノイズが発生することが想定される。そのような場合は、検出位置33を多数設置し、照射検出間距離ρに応じた連続的な光強度から散乱係数を導くこともできる。つまり、強度/距離算出部41において、計測点が少数である各計測データのノイズが相対的に大きくなる場合、検出位置33を増やすことで、実測で想定されるノイズの影響を軽減させることが可能である。
【0064】
次に、光強度比算出部42は、複数の光強度検出手段3により検出された光強度のそれぞれの比から散乱係数μ
sを算出するものである。基本的には光強度/距離算出部41と同様であり、照射した光が、検出位置33までの距離を遠くするにつれて散乱により減衰していく散乱現象に基づき散乱係数μ
sを算出するものである。
【0065】
本実施形態では、照射手段2により所定の光強度の連続光を照射し、照射位置21から第一光強度検出手段31による第一検出位置331までの第一照射検出間距離ρ
1と、照射位置21から第二光強度検出手段32による第二検出位置332までの第二照射検出間距離ρ
2と、第一光強度検出手段31により検出された第一光強度R(ρ
1)と、第二光強度検出手段32により検出された第二光強度R(ρ
2)とを下記式(3)に代入することで散乱係数μ
sを算出する。
【数3】
【0066】
なお、上記式(3)は、以下のように導き出される。
【0067】
まず、上記式(13)において、照射位置21から異なる距離ρ
1、ρ
2離れた点における光強度R(ρ
1)および光強度R(ρ
2)を測定すれば、体内の光伝搬領域の散乱係数μ
sは、下記式(14)の表される。
【数14】
ここで、上記式(14)を対数表示させると、下記式(15)になる。
【数15】
【0068】
そして、上記式(15)に上記式(8)を代入することにより、上記式(3)が導き出される。
【0069】
このように、上記式(3)では、検出位置33を少なくすることができるため、装置の大きさが小さく、そして安価に製造することがで、家庭用に適している。
【0070】
なお、光強度比算出部42は、本実施形態のように上記式(3)によるものに限定されるものではなく、適宜選択されるものであり、第一検出位置331,および第二検出位置332同士の間の距離に対する減衰率を算出し、その減衰率から散乱係数μ
sを算出するようにしてもよい。
【0071】
また、上記式(3)を使用した装置は、家庭用に限定されるものではなく、医療用・臨床用であってもよい。
【0072】
光強度差算出部43は、複数の光強度検出手段3により検出された光強度の差から散乱係数μ
sを算出するものである。この散乱係数μ
sは、検出位置33同士の間の距離に対応した2点間の差を算出し、その算出した値を散乱係数μ
sとしたものである。よって、光強度/距離算出部41や光強度比算出部42と同様、照射した光が、検出位置33までの距離を遠くするにつれて散乱により減衰していく散乱現象に基づき散乱係数μ
sを算出するものである。
【0073】
本実施形態における光強度差算出部43は、第一検出位置331および第二検出位置332における光強度R(ρ
1)および光強度R(ρ
2)を取得し、その差を算出し、散乱係数μ
sとしている。
【0074】
次に、減衰時間算出部44は、照射手段2によりパルス状の光を照射した時から、光強度検出手段3により検出された光強度が所定の強度に減衰するまでの時間の長さから散乱係数μ
sを算出するものである。つまり、パルス状に照射した光が、散乱により時間が進むにつれて減衰していく散乱現象に基づき散乱係数μ
sを算出するものである。
【0075】
よって、ここで検出される光強度には、光が血中脂質の濃度に依存して散乱している情報、および照射した時から検出されるまでの時間が長くなるほど光強度が減衰する情報が含まれている。よって、減衰時間算出部44は、その光強度の減衰から血中脂質の濃度に依存する散乱係数μ
sを得るようにしたものである。
【0076】
本実施形態における減衰時間算出部44は、照射位置21とそれに隣接する検出位置33における光強度を取得し、所定の光強度に減衰するまでの時間を算出し、その値を散乱係数μ
sとしている。
【0077】
最強時間算出部45は、照射手段2によりパルス状の光を照射した時から、光強度検出手段3により検出された光強度が最も強くなる時までの時間の長さから散乱係数μ
sを算出するものである。つまり、減衰時間算出部414と同様、パルス状に照射した光が、散乱により時間が進むにつれて減衰していく散乱現象に基づき散乱係数μ
sを算出するものである。
【0078】
本実施形態では、上述のとおり、照射位置21から検出位置33までに所定の距離を有しており、その距離の間で散乱が起きている。そのため、光強度検出手段3により検出される光強度が最も強くなるまでのタイムラグがある。よって、最強時間算出部45は、そのタイムラグを利用して血中脂質の濃度に依存する散乱係数μ
sを得るようにしたものである。
【0079】
よって、本実施形態における最強時間算出部45は、照射位置21とそれに隣接する検出位置33における光強度を取得し、光強度が最も強くなる時までの時間を算出し、その値を散乱係数μ
sとしている。
【0080】
光密度波形算出部46は、光密度波形より血液の散乱係数μ
sおよび吸収係数を算出するものである。光密度波形は、照射手段2により照射する光の強度または光の位相を変調させることで、その波形が変化する。この光密度波形の変化は、血液の濃度に依存しており、血液の散乱係数μ
sおよび吸収係数を算出することができる。
【0081】
本実施形態における光密度波形算出部46は、照射位置21とそれに隣接する検出位置31aにおける光強度を取得し、その光密度波形の時間変化を算出し、その時間変化から血液の散乱係数μ
sおよび吸収係数を算出している。
【0082】
なお、散乱係数算出手段4による散乱係数μ
sの算出方法は、上記の各算出によるものに限定されるものではなく、光強度に含まれる血中脂質の濃度情報を算出する方法から適宜選択されるものである。
【0083】
脂質濃度算出手段5は、散乱係数算出手段4により算出された散乱係数μ
sに基づいて血中脂質の濃度を算出するものである。なお、後述の実施例5において説明するが、散乱係数μ
sと脂質濃度とは相関があり、散乱係数μ
sの値に基づいて脂質濃度を算出するものである。本実施形態では、散乱係数μ
sと血中脂質濃度との関係について統計データを取り、散乱係数μ
sと、前記統計データとを比較することにより、実際の血中脂質濃度を算出するようになっている。
【0084】
例えば、特定の生体A氏の血中脂質濃度を計測対象とする場合は、A氏の血中脂質濃度を採血などの他の血中脂質濃度計測方法等により計測した計測結果と、算出された散乱係数μ
sとを比較して、A氏個人の統計データを作成して、濃度を算出できるようにすることができる。
【0085】
若しくは、A氏の血中脂質の濃度を他の血中脂質の濃度の測定方法等により測定した測定結果と、検出された光強度より得られた濃度の測定結果とを比較して、その比較により得られた濃度と、一般的な生体の場合の前記統計データにおける濃度との誤差を算出し、その誤差を修正するキャリブレーションすることで、A氏個人の統計データを作成してもよい。
【0086】
なお、統計データの形式は特に限定されるものではなく、例えば、性別、身長、体重、BMI等で分類されていてもよく、表やグラフ、関数式等を用いて算出できるようにしてもよい。
【0087】
また、臨床現場において、濃度と濁度とは同義で使われることがあり、本発明における濃度には濁度の概念も含まれる。よって、脂質濃度算出手段は、その算出結果として、濃度のみならず単位量当たりの粒子数やホルマジン濁度とすることができる。
【0088】
次に、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10の構成について説明する。非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1により算出された散乱係数μ
sまたは脂質濃度、またはその両方を取得し、その時間変化から生体脂質代謝機能を計測するものである。本実施形態における非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10は、
図1に示すように、非侵襲型生体脂質濃度計測器1に通信回線等を介して接続されており、非侵襲型生体脂質濃度計測器1により算出された散乱係数μ
sや脂質濃度を所定時間毎に取得する算出値取得手段101と、この算出値取得手段101により取得された散乱係数μ
sや脂質濃度の時間変化に応じて生体脂質機能を判断する生体脂質機能代謝判断手段102とを有する。
【0089】
算出値取得手段101は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1に算出された散乱係数μ
sや脂質濃度を通信回線等を介して所定時間毎に取得するようになっている。取得する時間間隔は特に限定されるものではないが、検査対象に応じて数秒間隔から数十分間隔、あるいはそれ以上の時間間隔で調整できるようになっている。
【0090】
なお、散乱係数μ
sや脂質濃度の取得は、通信回線を介したものに限定されるものではなく、非侵襲型生体脂質濃度計測器1により算出された脂質濃度値等を手入力により入力して取得するようにしてもよい。また、本実施形態では、非侵襲型生体脂質濃度計測器1と、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10とを別体として構成したが、これに限定されるものではなく、一体的に構成するようにしてもよく、いずれか一方の計測器が他の計測器の機能を有していてもよい。
【0091】
生体脂質機能代謝判断部102は、算出値取得部101により取得された散乱係数μ
sや脂質濃度の時間変化から被験者の生体脂質代謝について判断する。例えば、散乱係数μ
sや脂質濃度が最大値になるまでの時間は、胃や小腸による脂質の消化・吸収を表しており、その時間の長さに応じて健康か否かを判断する。また、散乱係数μ
sや脂質濃度が空腹時と同じ値になるまでの時間から、肝臓による脂肪分解能力を判断する。さらに、脂質濃度であれば、これらの値に基づく危険度をより正確に判断する。最終的には、これらを総合的に判断し、健康状態の総合的な判断をする。
【0092】
次に、本実施形態の非侵襲型生体脂質濃度計測器1および非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10を用いた非侵襲による生体脂質濃度計測方法および非侵襲による生体脂質代謝機能検査方法の作用について説明する。
【0093】
まず、非侵襲型生体脂質濃度計測器1および非侵襲による生体脂質濃度計測方法の作用について散乱係数算出手段4の各算出部ごとに説明する。
【0094】
「光強度/距離算出部411を用いた濃度計測」
本実施形態における照射工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1の照射手段2を用いて実行される。光強度/距離算出部41を用いた濃度計測の場合、照射手段2は照射位置21に対して所定の光強度S
0の連続光を体外から体内に向けて照射する。生体に照射する光を連続光とすることで、光強度検出手段3により検出される光強度が、時間による減衰の影響を含まれないようにしている。
【0095】
また、本実施形態では、血漿の無機物によって光が吸収される波長範囲以外および血液の細胞成分によって光が吸収される波長範囲以外の光源による光を照射している。そのため、血中を通過する際に、血漿の無機物や血液の細胞成分により光が吸収されるのを抑制し、光強度検出手段3により検出される光強度に血中脂質による散乱の影響が残るようにしている。
【0096】
本実施形態における光強度検出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1の光強度検出手段3のを用いて実行される。本実施形態では、第一光強度検出手段31が、第一検出位置331における光強度を検出する。検出した光強度は、散乱係数算出工程へと送られる。
【0097】
本実施形態における散乱係数算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における散乱係数算出手段4の光強度/距離算出部41を用いて実行される。光強度/距離算出部41では、上述のとおり、光強度検出工程により検出された光強度、光強度R(ρ)と前記照射検出間距離ρとを、下記式(1)および式(2)に代入することで散乱係数μ
sを算出を行う。算出した散乱係数μ
sは、脂質濃度算出工程へと送られる。
【数1】
【数2】
【0098】
脂質濃度算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における脂質濃度算出手段5を用いて実行される。脂質濃度算出手段5では、血中脂質濃度と散乱係数μ
sとが相関関係を有することに基づき、前記散乱係数μ
sに所定の係数をかけることで、血中脂質の濃度等を算出する。
【0099】
つまり、本実施形態における散乱係数算出手段4および散乱係数算出工程は、光強度を得て所定の式に代入することで、即時的に散乱係数μ
sを取得することが可能である。また、脂質濃度算出手段5および脂質濃度算出工程では、その散乱係数μ
sに所定の係数をかけることで容易に血中脂質濃度または濁度等を算出することができる。よって、演算処理スピードが速くなり、リアルタイム計測が可能になる。
【0100】
「光強度比算出部42を用いた濃度計測」
照射工程では、光強度/距離算出部41と同様に、照射手段2を用いて照射位置21に対して連続光を照射する。
【0101】
光強度検出工程では、第一光強度検出手段31を用いて第一検出位置331における光強度を検出するとともに、第二光強度検出手段32を用いて第二検出位置332の光強度を検出する。第一検出位置331および第二検出位置332で検出された光強度は、散乱係数算出工程へと送られる。
【0102】
散乱係数算出工程では、散乱係数算出手段4の光強度比算出部42、取得した第一検出位置331および第二検出位置332それぞれの光強度の比を算出し、その比から散乱係数μ
sを算出する。本実施形態では、照射位置21から第一光強度検出手段31による第一検出位置331までの第一照射検出間距離ρ
1と、照射位置21から第二光強度検出手段32による第二検出位置332までの第二照射検出間距離ρ
2と、第一光強度検出手段31により検出された第一光強度R(ρ
1)と、第二光強度検出手段32により検出された第二光強度R(ρ
2)とを下記式(3)に代入することで散乱係数μ
sを算出する。算出した散乱係数μ
sは、脂質濃度算出工程へと送られる。
【数3】
【0103】
脂質濃度算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における脂質濃度算出手段5を用いて実行される。脂質濃度算出手段5では、前記散乱係数μ
sに所定の係数をかけることで、血中脂質の濃度等を算出する。
【0104】
「光強度差算出部43を用いた濃度計測」
照射工程では、光強度/距離算出部41や光強度比算出部42と同様に、照射手段2を用いて照射位置21に対して連続光を照射し、光強度検出工程では、第一光強度検出手段31を用いて第一検出位置331における光強度を検出するとともに、第二光強度検出手段32を用いて第二検出位置332の光強度を検出する。第一検出位置331および第二検出位置332で検出された光強度は、散乱係数算出工程へと送られる。
【0105】
散乱係数算出工程では、第一検出位置331における第一光強度と、第二検出位置332における第二光強度との差を算出し、それを散乱係数μ
sとする。算出した散乱係数μ
sは、脂質濃度算出工程へと送られる。
【0106】
脂質濃度算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における脂質濃度算出手段5を用いて実行される。脂質濃度算出手段5では、前記散乱係数μ
sに所定の係数をかけることで、血中脂質の濃度等を算出する。
【0107】
「減衰時間算出部44を用いた濃度計測」
照射工程では、照射手段2を用いて照射位置21に対してパルス状の光を照射する。生体に照射する光をパルス状の光とすることで、光強度検出手段3により検出される光強度が時間による減衰の影響を含むようにしている。
【0108】
光強度検出工程では、第一光強度検出手段3を用いて第一検出位置331の光強度を時間的に連続して検出する。そして、第一検出位置331で検出された光強度は所定時間毎に散乱係数算出工程へと送られる。
【0109】
散乱係数算出工程では、減衰時間算出部44が、第一検出位置331における所定時間毎の光強度を取得し、その光強度が所定の光強度以下に減衰したか否かを判別し、減衰したと判別した場合は、照射手段2によりパルス状の光を照射した時から、減衰したと判別するまでの時間の長さを算出し、これを散乱係数μ
sとする。算出した散乱係数μ
sは、脂質濃度算出工程へと送られる。
【0110】
脂質濃度算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における脂質濃度算出手段5を用いて実行される。脂質濃度算出手段5では、前記散乱係数μ
sを予め用意された統計データとを比較をして血中脂質の濃度等を算出する。
【0111】
「最強時間算出部45を用いた濃度計測」
照射工程では、減衰時間算出部44と同様に、照射手段2を用いて照射位置21に対してパルス状の光を照射する。光強度検出工程では、第一光強度検出手段31を用いて第一検出位置331の光強度を時間的に連続して検出する。そして、第一検出位置331で検出された光強度は所定時間毎に散乱係数μ
s算出工程へと送られる。
【0112】
散乱係数算出工程では、最強時間算出部45が、第一検出位置331における所定時間毎の光強度を取得し、その光強度が強い値か否かを判別し、最も強い値と判別した場合は、照射手段2によりパルス状の光を照射した時から、最も強い値が検出されたとする時間の長さを算出し、これを散乱係数μ
sとする。算出した散乱係数μ
sは、脂質濃度算出工程へと送られる。
【0113】
脂質濃度算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における脂質濃度算出手段5を用いて実行される。脂質濃度算出手段5では、前記散乱係数μ
sを予め用意された統計データとを比較をして血中脂質の濃度等を算出する。
【0114】
「光密度波形算出部46を用いた濃度計測」
照射工程では、照射手段2を用いて照射位置21に対して照射する光の強度または光の位相を変調させた光を照射する。光強度検出工程では、第一光強度検出手段31を用いて第一検出位置331の光強度を検出する。第一検出位置331で検出された光強度は所定時間毎に散乱係数算出工程へと送られる。
【0115】
散乱係数算出工程では、光密度波形算出部46が、第一検出位置331における所定時間毎の光強度を取得し、その光強度の時間変化に基づき光密度波形を算出するとともに、この光密度波形に基づき前記血液の散乱係数μ
sおよび吸収係数を算出する。算出した散乱係数μ
sは、脂質濃度算出工程へと送られる。
【0116】
脂質濃度算出工程は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1における脂質濃度算出手段5を用いて実行される。脂質濃度算出手段5では、光密度波形算出部416により算出された散乱係数μ
sおよび吸収係数から、予め用意された統計データとを比較をして血中脂質の濃度等を算出する。
【0117】
次に、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10および非侵襲型生体脂質代謝機能計測方法の作用について説明する。
【0118】
まず、非侵襲型生体脂質代謝機能計測方法の算出値取得工程は、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10の算出値取得手段101を用いて実行される。算出値取得手段101は、非侵襲型生体脂質濃度計測器1にアクセスし、算出された散乱係数μ
sや脂質濃度を通信回線を介して所定時間毎に取得する。本実施形態では、散乱係数μ
sと脂質濃度とを両方取得し、生体脂質機能代謝判断工程に送る。
【0119】
生体脂質機能代謝判断工程は、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10の生体脂質機能代謝判断手段102を用いて実行される。生体脂質機能代謝判断手段102は、取得した散乱係数μ
sおよび脂質濃度の時系列の変化を監視し、生体脂質代謝機能を示す所定の値を得る。本実施形態では、散乱係数μ
sおよび脂質濃度の最大値、最大値になるまでの時間、および最大値を経て空腹時の値に戻るまでの時間を得ている。
【0120】
そして、各値が、予め用意された統計データとを比較をして正常値であれば正常値と判断し、正常値から外れるのであれば、生体脂質代謝機能に異常があると判断する。
【0121】
例えば、散乱係数μ
sや脂質濃度の最大値が正常値内にある場合は、脂質の基礎代謝が正常であると判断し、正常値外にある場合は、異常であると判断する。同様に、散乱係数μ
sや脂質濃度が最大値になるまでの時間が正常値内にある場合は、胃や小腸による脂質の消化・吸収機能は正常であると判断し、正常値外にある場合は、胃や小腸による何等かの消化・吸収機能の異常があると判断する。また、散乱係数μ
sや脂質濃度が空腹時と同じ値になるまでの時間が正常値内にある場合は、肝臓による脂肪分解能力が正常であると判断し、正常値外である場合は、異常であると判断する。
【0122】
臨床現場においては、これらの正常・異常を総合的に判断し、健康状態の総合的な判断が行われる。
【0123】
以上のような本実施形態の非侵襲型生体脂質濃度計測器1、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器10、非侵襲による生体脂質濃度計測方法および非侵襲による生体脂質代謝機能検査方法によれば、以下の効果を得ることができる。
1.光強度から生体内における散乱係数μ
sを求めることにより、非侵襲により血中脂質の濃度を得ることができる。
2.採血等の人を傷つける処置が必要なくなり、被験者への苦痛や負担を軽減することができる。
3.採血等の医療行為を必要としないため家庭でも血中脂質を計測することができる。
4.光強度から散乱係数μ
sや脂質濃度の算出過程が単純であるため、即時的なデータ取得が可能である。
5.時間的に連続した血中脂質やこの血中脂質に相関性の良い散乱係数μ
sを算出することが可能であるため、食後高脂血症などの代謝異常の検査に応用することができる。
6.生体に照射する光の波長範囲を血漿の無機物により吸収される光の波長範囲以外として、ノイズとなる吸収の影響を抑え、血中脂質濃度の計測精度を高めることができる。
7.血液の細胞成分により吸収される光の波長範囲も除外することで、赤血球等の細胞成分による吸収の影響も抑制され、より正確な血中脂質濃度を測定することができる。
8.血中脂質による光の散乱と血中脂質の濃度との関係を考慮することにより、様々な計算手法により散乱係数μ
sおよび脂質濃度を算出することができる。
9.脂質濃度算出手段5または脂質濃度算出工程では、臨床現場のニーズに応じて濃度(mg/dL)等の単位のみではなく、粒子数への換算やホルマジン濁度などへの換算も可能である。
【実施例】
【0124】
<実施例1>脂質摂取による血中脂質の変動
(1)全血の変化
まず、被験者に脂質を摂取し後の血中脂質等の濃度が時間変化することを確かめた。被験者はA氏およびB氏であり、それぞれに脂質(オフトクリーム;上毛食品社)を摂取させた。
【0125】
血中脂質の濃度計測は、脂質摂取前(0分)ならびに摂取後60、150、180、210、240、270、300、330および360分経過毎に採血して血液サンプルを採取し、その血液サンプルを自動分析装置H−7170(日立ハイテクノロジーズ社)に供して、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDLおよびLDLの濃度を計測した。その結果を
図6および
図7に示す。これらの図において、横軸は被験者が脂質を摂取してからの時間、縦軸は総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDLおよびLDLの濃度である。
【0126】
図6および
図7に示すように、A氏では60分、B氏では150分経過後において中性脂肪(TG)の濃度が上昇した。一方、総コレステロール(TC)、HDLおよびLDLの濃度は変化が少なかった。これらの結果より、脂質の摂取によって、血液中の中性脂肪(TG)濃度が支配的に上昇することが明らかになった。
【0127】
(2)各リポタンパク中の変化
次に、中性脂肪(TG)の上昇に寄与している物質を特定するため、本実施例1(1)の血液サンプルを高速液体クロマトグラフィー (High Performance Liquid Chromatography:HPLC)に供して、カイロミクロン(CM)/VLDL、LDLおよびHDLに分画し、CM/VLDL、LDLおよびHDL中の総コレステロール(TC)および中性脂肪(TG)の濃度を計測した。その結果を
図8〜
図11に示す。これらの図において、横軸は被験者が脂質を摂取してからの時間、縦軸はCM/VLDL、LDLおよびHDL中の中性脂肪(TG)濃度または総コレステロール(TC)である。また、「カイロミクロン(CM)/VLDLの濃度」とは、カイロミクロン(CM)とVLDLとを合算した濃度である。
【0128】
図8および
図9に示すように、CM/VLDL中の中性脂肪(TG)濃度は脂肪摂取後、A氏の場合は約270分まで、B氏の場合は約210分後までそれぞれ増加したのに対して、LDLおよびHDL中のTG濃度は時間経過においては殆ど変化しなかった。また、
図10および
図11に示すように、CM/VLDL、LDLおよびHDL中の総コレステロール(TC)濃度は、いずれも時間経過においては殆ど変化しなかった。
【0129】
これらの結果より、脂肪摂取による血中の中性脂肪(TG)濃度の上昇は、総コレステロール(TC)やLDLおよびHDLの中性脂肪(TG)に殆ど変化がないことを考慮すると、CM/VLDLなどの大型リポタンパク質中のTGが増加したためであることが明らかになった。
【0130】
<実施例2>波長の検討
次に、本実施例2では、非侵襲に光を体外から体内に向けて照射して、体外へと放射される光の光強度より散乱係数μ
sを求めるに当たり、ノイズとなる光の吸収する光の波長を検討した。検討には、被験者から血液を採取し、その全血を分光光度計に供して、波長300〜3300nmの光に対する血液の吸光度を計測し、吸収スペクトルを得た。その結果を
図12に示す。この図において、横軸は光の波長、縦軸は吸光度である。
【0131】
図12に示すように、波長が約1400〜1500nmおよび約1860nm以上においては、吸光度が上下に変動する。これは、その波長範囲における光は、血漿の無機物による吸収の影響が大きいためであると考えられる。つまり、この波長範囲の光を用いると、吸光度の変動の大きさから、照射した光に対する検出した光強度の減少が吸収によるものか、散乱によるものかが不明確になる。そのため、血中脂質の濃度を測定するために用いる光の波長は、血漿の無機物による光の吸収の影響が小さい波長である約1400nm以下の範囲や約1500〜1860nmの範囲が好ましいことが明かになった。また、約580nm以下の範囲では、血液の細胞成分による光の吸収の影響が現れている。よって、血中脂質の濃度を測定するために用いる光の波長は、約580nm〜約1400nm以下の範囲や約1500〜1860nmの範囲がより好ましいことが明かになった。
【0132】
<実施例3>透過光の検討
次に、本実施例3では、非侵襲に光を体外から体内に向けて照射して、体外へと放射される光の光強度より散乱係数μ
sを求めることで血中脂質の濃度を計測すること、および透過光による計測の有効性について検討した。
(1)脂質濃度の変化に伴う血液、血球および血清の吸光度の変化
まず、A氏について、実施例1(1)に記載の方法により、血液サンプルを得て血中脂質の濃度を計測した。その結果を以下の表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
ここで、表1に示した、中性脂肪(TG)濃度が390.1、408.4、518.2および499.6mg/dLである血液サンプルを、それぞれサンプルa、b、cおよびdとした。
【0135】
続いて、サンプルa、b、cおよびdを分光光度計に供して、波長300〜1000nmの光に対する血液の吸光度を計測し、吸収スペクトルを得た。また、サンプルa、b、cおよびdの血清および血球を得て、これらについても、同様の方法により吸収スペクトルを得た。その結果を
図13〜
図15に示す。これらの図において、横軸は光の波長、縦軸は吸光度である。
【0136】
図13および
図14に示すように、血液および血球の吸光度は、サンプルa、b、cおよびdにおいて、ほとんど同じであった。これに対して、
図15に示すように、血清の吸光度はサンプルc>d>b>aの結果が得られた。すなわち、脂質濃度が変化しても血液および血球の吸光度は変化しないのに対して、血清の吸光度は脂質濃度の上昇に伴って上昇することが明らかになった。この結果から、脂質濃度が上昇すると、血清が濁ることが明らかになった。よって、血中脂質の濃度の変化は、この濁りを示す散乱係数μ
sを求めることで計測が可能になることがわかった。
【0137】
(2)吸収スペクトルの検討
また、同様にA氏から血液を採取して、血液、血球および血清を得た。これらを分光光度計に供して、波長300〜1000nmの光に対する血液の吸光度を計測し、吸収スペクトルを得た。なお、分光光度計の基本原理は、計測対象物に光を照射しその透過光を解析することで行うものである。血液、血球および血清の吸収スペクトルを重ねて表した結果を
図16に示す。
【0138】
図16に示すように、血清の吸光度は、血液および血球の吸光度と比較すると極めて小さかった。すなわち、血液の吸光度は血球の吸光度を反映しており、血清の吸光度を反映していないことが明らかになった。この結果から、脂質濃度の上昇に伴って生じる血清の濁りは、血液の透過光を検出することによっては確認しずらい、またはできないことが明らかになった。
【0139】
<実施例4>時間分解計測法に基づく脂質濃度の測定
本実施例4では、本発明の非侵襲型生体脂質濃度計測器1を用い、照射した光が散乱により時間的に減衰していく散乱現象に基づき脂質濃度を計測可能か否かを確かめた。
(1)光が出尽くすまでの時間(波形の拡がり)の検討
被験者の手の甲の中央部の血管の上の皮膚に、照射位置21を設定した。また、照射位置を設定したのと同じ血管の上の皮膚に、照射位置21からの間隔を10mmとして検出位置31を設定した。照射位置21の光源22には、Ti:Spphireレーザ Chameleon Ultra II(波長可変式、パルス幅:140fs FWHM、平均出力:400mW、繰り返し周波数:80MHz;コヒレント社)を、検出位置31の光強度検出手段3にはストリークカメラをそれぞれ用いた。
【0140】
被験者に脂質を摂取させ、脂質摂取前および脂質摂取後に、照射位置21に波長853nmのパルス状の光を照射し、検出位置31において検出した光強度を経時的に計測した。その結果を
図17および
図18に示す。これらの図において、横軸は被験者が脂質を摂取してからの時間、縦軸は光強度である。
【0141】
図17および
図18に示すように、脂肪摂取後は、脂肪摂取前と比較して、波形が拡がっている。すなわち、血中脂質濃度の増加に伴って、血液における光の散乱強度が増大している。この結果から、採血せずとも、体外から光を照射し、検出した光から散乱に影響する光強度を検出していることが示された。
【0142】
(2)peak top timeの検討
次に、散乱係数μ
sを求めるため、検出した光強度が最大となるまでの時間(peak top time)について検討した。その結果を、
図19に示す。この図において、横軸は被験者が脂質を摂取してからの時間、縦軸は光強度である。
【0143】
図19に示すように、脂肪摂取後は、脂肪摂取前と比較して、検出した光強度が最大となるまでの時間(peak top time)が増大していたことから、血液における光強度が増大したことが明らかになった。すなわち、血中脂質濃度の増加に伴って、血液における光の散乱が増大したものと考えられる。この結果から、採血せずとも、生体外から光を照射し、検出した光強度より血中脂質による散乱の影響を算出することにより、血中脂質濃度を測定できることが示された。
【0144】
<実施例5>空間分解計測法に基づく脂質濃度の測定
次に、本実施例5では、本発明の非侵襲型生体脂質濃度計測器1を用い、照射した光が散乱により距離に応じて減衰していく散乱現象に基づき脂質濃度を計測可能か否かを確かめた。
(1)複数の検出位置33における光強度の計測
被験者A氏およびB氏の手の甲の中央部の血管の上の皮膚に、照射位置21を設定した。また、照射位置21を設定したのと同じ血管の上の皮膚に、照射位置21からの間隔を10mm、15mmおよび20mmとして、計3箇所の検出位置33を設定した。照射位置21の光源22は、Ti:Spphire(Ti:S)レーザ Chameleon Ultra(自動波長掃引 フェムト秒レーザ;コヒレント社)を用い、検出位置31の光強度検出手段3にはフェムトワットフォトレシーバー FWPR−20−SI(フェムト社)を用いた。
【0145】
被験者A氏およびB氏に脂質(オフトクリーム;上毛食品社)を摂取させ、脂質摂取前(0分)ならびに摂取後60、150、180、210、240、270、300、330および360分経過毎に、照射位置21に波長800nm、809nm、850nmおよび1000nmのレーザー光を照射し、各検出位置31において検出した光強度を計測した。その結果を表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
この表2において、例えば、左欄1000−10は波長1000mm、照射受光部間距離10mmを示しており、それぞれの条件においてA氏およびB氏の上記各受光部における光強度(フォトダイオードで検出された電圧mV)である。
【0148】
(2)光強度の比に基づく散乱係数μ
sの算出
続いて、各検出位置33において検出した光強度の比を算出し、散乱係数μ
sとした。この散乱係数μ
sの値は照射した光の血中脂質による散乱を示す指標である。散乱係数μ
sの値をグラフに表したものを
図20および
図21に示す。これらの図において、横軸は被験者が脂質を摂取してからの時間、縦軸は従来法であるHPLCにより計測されたCM/VLDLにおけるTG濃度または各検出位置33において検出した光強度の比から求めた散乱係数μ
sである。
【0149】
図20および
図21に示すように、散乱係数μ
sの値のグラフは、従来法であるHPLCにより測定したCM/VLDLにおける中性脂肪(TG)濃度のグラフと同様の形状であった。
【0150】
また、散乱係数μ
sの値を横軸、HPLCにより測定したCM/VLDLにおける中性脂肪(TG)濃度を縦軸として
図22を作成した。ここで、ダイヤ型のプロットは照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、15mmにおける検出位置の光強度の比の値であり、四角型のプロットは、照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、20mmにおける検出位置の光強度の比の値である。
【0151】
この
図22に示すように、散乱係数μ
sの値とHPLCにより測定したCM/VLDLにおける中性脂肪(TG)濃度とは、相関することが明らかになった。すなわち、散乱係数μ
sの値が大きいほど、中性脂肪(TG)濃度が大きかったことから、検出された光強度が大きいほど、中性脂肪(TG)濃度が大きいという関係が成立することが明らかになった。この結果から、採血せずとも、生体外から光を照射し、検出した光強度より血中脂質による散乱の影響を算出することにより、血中脂質濃度を測定できることが示された。
【0152】
また、このように、時間経過に従って連続的に中性脂肪の濃度変化を計測できれば、従来、困難とされてきた非侵襲による脂質代謝機能を計測する事が可能となり、動脈硬化のみならず肝機能評価の可能性も期待できる。
【0153】
(3)光強度の差に基づく散乱係数μ
sの算出
また、各検出位置33において検出した光強度の差を算出し、散乱係数μ
sとした。その散乱係数μ
sの値をグラフに表したものを
図23および
図24に示す。これらの図において、横軸は被験者が脂質を摂取してからの時間、縦軸は各検出位置31において検出した光強度の差から求めた散乱係数μ
sである。また、ダイヤ型のプロットは照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、15mmにおける検出位置の光強度の差の値であり、四角型のプロットは、照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、20mmにおける検出位置の光強度の差の値であり、三角型のプロットは照射位置21からの間隔が15mmにおける検出位置の光強度と、20mmにおける検出位置の光強度の差の値である。
【0154】
図23および
図24と
図8および
図9とを比較すると、差の値のグラフ(
図23および
図24)は、従来法であるHPLCにより測定したCM/VLDLにおける中性脂肪(TG)濃度のグラフ(
図8および
図9)と同様の形状であった。すなわち、差の値が大きいほど、中性脂肪(TG)濃度が大きかったことから、検出された光強度が大きいほど、中性脂肪(TG)濃度が大きいという関係が成立することが明らかになった。この結果から、採血せずとも、生体外から光を照射し、検出した光強度より血中脂質による散乱の影響を算出することにより、血中脂質濃度を測定できることが示された。
【0155】
<実施例6>シミュレーションおよび実験による式(1)および式(2)の検討
本実施例6では、生体組織模擬ファントムを用いた実験および理想的な散乱現象をモンテカルロシミュレーションを用いて計算し、その値を用いて下記式(1)および下記式(2)について検討を行った。
【数1】
【数2】
【0156】
(1)モンテカルロシミュレーションによる式(1)および式(2)の検討
まず、モンテカルロシミュレーションにより、照射検出間距離ρと検出される光子数についてシミュレーションを行った。シミュレーションの条件は、吸収係数が0.01、照射する光子数が10×10
9個である。そして、散乱係数μ
sを0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5および5としてそれぞれ計算を行った。計算結果を
図25に示す。この図において、横軸は照射検出間距離ρ、縦軸は検出される光子数である。
【0157】
図25に示すように、照射検出間距離ρが遠くなるほど散乱により検出できる光子数が少なくなることがわかる。
【0158】
次に、このモンテカルロシミュレーションによる結果を上記式(1)に代入した。その結果を
図26に示す。この図において、横軸は照射検出間距離ρ、縦軸は入射光に対する光の減衰度合いであり、本実施例6では入射光減衰率としている。
【0159】
ここで、実際の計測においては、照射検出間距離は1cm以上必要になることが想定されるため、傾きおよび切片の計算範囲は、1cm〜3cmで設定した。このとき、上記式(1)より、これらの値の傾きは有効減衰係数μ
effに相当し、切片は下記式(16)に相当する。
【数16】
【0160】
すなわち、
図26に示す入射光減衰率のグラフの切片から吸収係数μ
aが求まる。吸収係数μ
aを求めた結果を
図27に示す。この図において、横軸は散乱係数μ
s、縦軸は切片から求まった吸収係数μ
aである。
図27に示すように、吸収係数μ
aは計算条件とした理論値0.01に対し0.008に漸近する結果であり、数値的に近似した結果であった。
【0161】
さらに、
図26に示す入射光減衰率のグラフの傾きから有効減衰係数μ
effを算出し、下記式(8)から散乱係数μ
sを算出した。
【数8】
その結果を
図28に示す。この図において横軸が計算条件とした理論値であり、縦軸が上記式(8)に基づき算出された計算値である。
【0162】
図28に示すように、理論値と計算値はよく一致しており、理論値と計算値との直線近似では、その相関関数0.99以上の一致を示した。
【0163】
(2)生体組織模擬ファントムに基づく実験による式(1)および式(2)の検討
次に、イントラリピッドを用いて、散乱係数μ
sが既知の生体組織模擬ファントムを作成し、それに基づき実験を行った。具体的には、散乱係数μ
sを0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5および5の生体組織模擬ファントムを作成し、それら生体組織模擬ファントムに照射手段2により連続光を照射するとともに、光強度検出手段4により光強度を検出し、その検出した光強度を、本実施例(1)と同様に、式(1)および式(2)に代入することで、散乱係数μ
sを算出した。その結果を
図29に示す。この図において、横軸は生体組織模擬ファントムの散乱係数μ
s、縦軸は、検出した光強度を式(1)および式(2)に代入したことによって算出された散乱係数μ
sである。
【0164】
図29に示すように、実験においても、理論値と実験値とはよく一致しており、理論値と実験値との直線近似では、その相関関数0.92以上の一致を示した。よって、実験においても非常に高い精度で計測することができた。
【0165】
以上の結果から、吸収係数μ
aが未知の場合でも、式(1)および式(2)を用いることで、散乱係数μ
sを計測することが可能であることが示された。また、相関係数に見られるように、実際の生体測定においてノイズが多い場合であっても、複数点の計測により高精度で散乱係数を算出することが可能であることが確認できた。
【0166】
<実施例7>シミュレーションおよび実験による式(3)の検討
本実施例7では、生体組織模擬ファントムを用いた実験および理想的な散乱現象をモンテカルロシミュレーションを用いた計算により下記式(3)について検討を行った。
【数3】
【0167】
(1)照射検出間距離の検討
上記式(3)より、散乱係数μ
sは、第一検出位置における光強度R(ρ
1)、R(ρ
2)の比が大きいほど、感度がよいことが予想される。そのためには、ρ
1、ρ
2の距離差が大きいほどよい。しかし、照射検出間距離ρが大きくなるほど光強度R(ρ)は指数関数的に小さくなり、計測における信号量 (signal) と雑音量 (noise)との比であるSN比は急速に大きくなり計測精度は劣化する。またρ
1、ρ
2の距離差が大きくなると、それぞれの地点における光強度の散乱体内部伝搬領域の共通部分が小さくなり、さらに計測精度が劣化する。そこで、良好な計測条件を求めるべく、実用範囲内でρ
1、ρ
2を変化させて、計測条件について検討を行った。
【0168】
(2)生体組織模擬ファントムによる照射検出間距離ρの検討
まずは、イントラリピッドを用いて、散乱係数μ
sが既知の生体組織模擬ファントムを作成した。実験では、このイントラリピッドを用いて、散乱係数μ
sに対するR(ρ
1)/R(ρ
2)の変化を計測した。計測結果の代表例を
図30に示す。この図において横軸は散乱係数であり、縦軸は光強度である。また、ダイヤ型のプロットは照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、15mmにおける検出位置の光強度の比の値であり、四角型のプロットは、照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、20mmにおける検出位置の光強度の比の値であり、三角型のプロットは照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、25mmにおける検出位置の光強度の比の値であり、バツ型のプロットは照射位置21からの間隔が10mmにおける検出位置の光強度と、30mmにおける検出位置の光強度の比の値である。
【0169】
ここで、(ρ
1)/R(ρ
2)の計測結果からμ
sを推定する較正曲線としては、安定した単調変化が望ましい。このような観点から
図30を見てみると、ρ
1=10 mm、ρ
2 =20mmの場合が最良であった。このような解析を通し、以後の当該生体組織模擬ファントムを用いた実験およびモンテカルロシミュレーションによるシミュレーションでは、ρ
1=10 mm、ρ
2 =20mmの位置を検出位置として実験を行った。
【0170】
(3)モンテカルロシミュレーションによる式(3)の検討
式(3)の妥当性を検証するため、モンテカルロシミュレーションにて検証を行った。シミュレーション条件は、吸収係数μ
aを0.01、0.05および0.1とした。そして、散乱係数μ
sを0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5および4としてそれぞれの組み合わせの計算を行った。また、照射検出間距離ρは、上述のとおり、ρ
1=10 mm、ρ
2 =20mmとした。そして、得られた値を上記式(3)に代入し、計算を行った。その計算結果を
図31に示す。この図において、横軸は、シミュレーション条件でもある理論的な散乱係数μ
s、縦軸は式(3)を用いて計算された散乱係数μ
sである。
【0171】
図31に示すように、理論的な散乱係数μ
sと、式(3)を用いて計算された散乱係数μ
sとは、よく一致しており、理論値と計算値との直線近似では、傾きは1〜3パーセント程度の誤差範囲であり、相関係数はすべて0.99以上という結果であった。
【0172】
さらに検出される光強度に対してノイズ(±5パーセント)を加味した場合についても同様に理論的な散乱係数μ
sおよび式(3)を用いて計算された散乱係数μ
sについても検討を行った。計算結果を
図32に示す。この図において、横軸は、シミュレーション条件でもある理論的な散乱係数μ
s、縦軸は式(3)を用いて計算された散乱係数μ
sである。
【0173】
図32に示すように、ノイズを加味した場合においても、理論値と計算値とはよく一致した。
【0174】
(4)生体組織模擬ファントムに基づく実験による式(3)の検討
上記モンテカルロシミュレーションの結果を踏まえて、生体組織模擬ファントムを用いた実験により式(3)の検討をおこなった。計測結果を
図32に示す。横軸は、生体組織模擬ファントムの散乱係数μ
s、縦軸は実験によって光強度を算出しその結果を式(3)を用いて計算された散乱係数μ
sである。
【0175】
図33に示すように、吸収係数が大きくなるにつれて、精度が低下している。しかし、通常の生体の吸収係数μ
aは、0.01/mm程度であり、この吸収係数μ
aの場合においては、生体組織模擬ファントムの散乱係数μ
sと式(3)によって計算された散乱係数μ
sとはよく一致した。生体組織模擬ファントムの散乱係数μ
sと計算値との直線近似では、相関係数は0.97という結果であった。
【0176】
よって、通常の生体条件下において、式(3)を用いることにより散乱係数μ
sを算出できる事が証明された。
【0177】
なお、本発明に係る非侵襲型生体脂質濃度計測器、非侵襲型生体脂質代謝機能計測器、非侵襲による生体脂質濃度計測方法および非侵襲による生体脂質代謝機能検査方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0178】
例えば、照射される光や受光する光以外の光を遮断するために照射手段2や光強度検出手段3は遮光性の覆いを被せたり、暗い中で測定するようにしてもよい。
【0179】
また、本実施形態では、生体に対する非侵襲として記載したが、試験管等内の血液検査や血清検査を前記試験管に対して非侵襲的に計測するものにも応用可能である。これにより、血液検査前の血清情報(溶血、高ビリルビン、乳び等)における濁度計測等に用いることができる。