特許第6241862号(P6241862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241862高清浄環境システムの構成方法、高清浄環境装置の使用方法およびデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241862
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】高清浄環境システムの構成方法、高清浄環境装置の使用方法およびデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/06 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   F24F7/06 C
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-32710(P2013-32710)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-163543(P2014-163543A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 晃
(72)【発明者】
【氏名】原 史朗
【審査官】 関口 知寿
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/011547(WO,A1)
【文献】 特開平05−231685(JP,A)
【文献】 特開2007−210329(JP,A)
【文献】 特開平06−342841(JP,A)
【文献】 特開2012−054414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの高清浄環境装置と、
デバイス製造プロセスのうちの単一プロセスを処理する密閉可能な内部空間を有する少なくとも1つの単位処理装置または少なくとも1つの医療設備とを有し、
上記高清浄環境装置は、
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は、長方形の閉回路の短辺側の両端部を同一方向に直角に折り曲げた折り曲げ部を有するコの字形状を有し、かつ折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸気口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用を有する材料で構成されており、
上記包囲体の内部に上記単位処理装置または上記医療設備が少なくとも1つ設けられる高清浄環境システムの構成方法であって、
上記単位処理装置または上記医療設備の前面または背面から上記骨格を上記折り曲げ部からスライドさせることにより上記骨格を少なくとも1つの上記単位処理装置または上記医療設備を取り囲むようにして配置した後、上記高清浄環境装置の上記骨格以外の構成を追加することにより上記高清浄環境装置を構成し、それによって上記高清浄環境システムを構成することを特徴とする高清浄環境システムの構成方法。
【請求項2】
上記包囲部の少なくとも一部がダスト微粒子を100%は通さず、気体分子は通す隔壁で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の高清浄環境システムの構成方法。
【請求項3】
上記包囲部が、短波長光成分を上記包囲体の内部へ透過させない透明シートおよび上記隔壁で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の高清浄環境システムの構成方法。
【請求項4】
上記骨格は、上記骨格の内部に形成された中空部に気体または液体を注入することにより、上記包囲部が上記骨格によって張られた時に上記包囲部を支える程度の剛性が得られるチューブ構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高清浄環境システムの構成方法。
【請求項5】
上記高清浄環境装置は、上記包囲体に接して設けられた前室をさらに有し、
上記前室は、移動可能かつ折り畳み可能な前室包囲体を有し、
上記前室包囲体は、上記前室包囲体を支える折り畳み可能な前室骨格と、上記前室骨格を覆うようにして上記前室骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の前室包囲部とを有し、上記前室包囲部は上記前室骨格によって張られることで密閉可能な前室閉空間を形成し、上記前室骨格は折り畳み時に、上記前室閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記前室閉空間内に吸気口および排気口を有し、上記前室閉空間と隔絶して、上記前室閉空間の上記排気口から流出する気体の全量が上記前室閉空間の上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記前室閉空間の上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記前室包囲部の少なくとも一部が防塵作用を有する材料で構成されており、
上記閉空間と上記前室閉空間とは、上記包囲部および/または上記前室包囲部を介して接しており、上記包囲部および/または上記前室包囲部は開閉部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高清浄環境システムの構成方法。
【請求項6】
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は、長方形の閉回路の短辺側の両端部を同一方向に直角に折り曲げた折り曲げ部を有するコの字形状を有し、かつ折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸気口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用を有する材料で構成されている高清浄環境装置の使用方法であって、
デバイス製造プロセスのうちの単一プロセスを処理する密閉可能な内部空間を有する単位処理装置または医療設備の前面または背面から上記骨格を上記折り曲げ部からスライドさせることにより上記骨格を少なくとも1つの上記単位処理装置または上記医療設備を取り囲むようにして配置した後、上記高清浄環境装置の上記骨格以外の構成を追加することにより上記高清浄環境装置を構成し、
上記高清浄環境装置を駆動して上記包囲体の内部を清浄化した後、上記包囲体の内部で、上記単位処理装置のメンテナンス、上記単位処理装置の連結または上記医療設備を用いた治療を行うことを特徴とする高清浄環境装置の使用方法。
【請求項7】
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は、長方形の閉回路の短辺側の両端部を同一方向に直角に折り曲げた折り曲げ部を有するコの字形状を有し、かつ折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸気口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用を有する材料で構成されている高清浄環境装置を用いた、デバイス製造プロセスのうちの単一プロセスを処理する密閉可能な内部空間を有する複数の単位処理装置で構成されたデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法であって、
上記単位処理装置の前面または背面から上記骨格を上記折り曲げ部からスライドさせることにより上記骨格を少なくとも1つの上記単位処理装置を取り囲むようにして配置した後、上記高清浄環境装置の上記骨格以外の構成を追加することにより上記高清浄環境装置を構成し、
上記高清浄環境装置を駆動して上記包囲体の内部を清浄化した後、上記包囲体の内部で、上記単位処理装置の連結、立ち上げまたはメンテナンスを行うことを特徴とするデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法。
【請求項8】
上記デバイス製造装置の立上げにおいては、追加される上記単位処理装置を上記高清浄環境装置の内部に設け、上記高清浄環境装置を駆動して上記包囲体の内部を清浄化した後に、上記デバイス製造装置を構成する上記単位処理装置に連結し、
上記デバイス製造装置の原料注入またはメンテナンスにおいては、上記単位処理装置を上記高清浄環境装置の内部に設け、上記高清浄環境装置を駆動して上記包囲体の内部を清浄化した後に、原料注入またはメンテナンスを行い、
上記デバイス製造装置の立下げにおいては、上記デバイス製造装置から分離される上記単位処理装置を上記高清浄環境装置の内部に設け、上記高清浄環境装置を駆動して上記包囲体の内部を清浄化した後に上記デバイス製造装置から分離することを特徴とする請求項7に記載のデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高清浄環境装置、高清浄環境システム、高清浄環境装置の使用方法およびデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法に関し、半導体デバイス等の変種変量生産に適合するデバイス製造装置の組み立て、立ち上げ、修理、原料(材料)補給等、あるいは災害現場等における無菌環境治療環境の実現に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの製造ラインは、広大なクリーンルーム内に、同種機能の処理装置を纏めたベイと呼ばれるユニットを複数備え、そのベイ間を搬送ロボットやベルトコンベアで接続するジョブショップ方式を採用したレイアウトが主流であった。そして、そのような製造ラインで処理されるワーク(被処理物)に、12インチ等の大口径のウェハが使用され、1枚のウェハから数千個の半導体チップが製造される生産システムが用いられていた。
【0003】
このため、製造ライン全体としてのスループットは向上してきたものの、このようなメガファブを構築するには数千億円もの設備投資が必要とされ、近年では総投資額が巨額化していた。また、このように製造ラインが巨大化するに伴い、装置制御が複雑化して、搬送系での搬送時間や待ち時間が飛躍的に増大していた。このため、製造ライン内で滞留する仕掛かりウェハ数もそれに応じて飛躍的に増加し、使用される大口径のウェハの単価は非常に高いので、仕掛かり枚数が増大するとコスト上昇を招いていた。
【0004】
そこで、上記の問題を解決すべく、次世代のデバイス製造装置およびこれを用いたシステムの提案がなされ、半導体デバイス等の各種デバイスの変種変量生産に柔軟に対応することのできるデバイス製造装置およびデバイス製造方法が急速に実現されつつある。
【0005】
図12はこのようなデバイス製造装置(ミニマルファブと呼ばれる)200を示す(例えば、特許文献1参照。)。図12に示すように、デバイス製造装置200は、少なくとも1つの単位処理装置(ミニマルファブモジュールと呼ばれる)101を有し、典型的には複数の単位処理装置101を組み合わせて構成される。単位処理装置101は、製造ラインを形成するためのレール状に形成されたガイドウェイ102上に単位処理装置101のガイド部等が載置されることで、床上に予め設定されたライン上に位置決めされる。各単位処理装置101においては、例えば、レシピID等がその外側面に記録される。このレシピIDによって、例えば、単位処理装置101が、プロセス処理におけるどのような単一の処理(レシピに対応した処理)を行う装置であるかを識別する。また、ガイドウェイ102と平行して、ウェハを収納する密閉搬送容器103を搬送するための搬送装置104が設けられている。この搬送装置104は、例えば、ベルト式やメカニカル式等の半導体製造装置等に通常用いられる機構を用いることができる。搬送装置104は、単位処理装置101毎に設けられたウェハ入出用の前室105と外部との間で、密閉搬送容器103を搬送するように構成されている。前室105内には、例えば、密閉搬送容器103のドッキングポートが備えられており、また、密閉搬送容器103からウェハを取り出して外部空間と完全に遮断されたウェハを処理する部屋(プロセス処理部)へ搬入する搬入装置が備えられている。前室105に密閉搬送容器103が入ると、前室105の内部は密閉された後に高清浄化され、上記の搬入装置によってウェハが取り出されプロセス処理部に搬入される。また、単位処理装置101は、レイアウト装置106によって配置の変更等が行われ、例えば、デバイス製造レシピに応じて再配置等が行われる。単位処理装置101同士の連結に関しては、ウェハが密閉搬送容器103内に収められ、さらに前室を介して搬送されるので、プロセス処理部を直接連結する必要が無い。
【0006】
図13は、デバイス製造装置200を用いた量産型半導体製造ラインの配置例を示す。図13に示すように、この配置例では、クリーンルーム化されていない通常の建屋内に、複数台の単位処理装置101がフローショップ方式により工程順に配置されている。このデバイス製造装置200は、1ウェハ1デバイスの枚葉処理を特徴とし、さらに、製造に用いるウェハ面積が非常に小さいことから、従来のメガファブにおける工程数を大幅に短縮することができ、その工程数に対応した単位処理装置台数とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−54414号公報
【特許文献2】国際公開第04/114378号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】[平成25年2月8日検索]、インターネット〈URL:http://www.taiyokogyo.co.jp/maku_quick/〉
【非特許文献2】[平成25年2月8日検索]、インターネット〈URL:http://sv01.inter-bus.jp/〜toku_icu/2009/10/〉
【非特許文献3】A.Ishibashi, H.Kaiju, Y.Yamagata and N.Kawaguchi : Electron. Lett.41,735(2005)
【非特許文献4】H.Kaiju, N.Kawaguchi and A.Ishibashi : Rev. Sci. Instrum. 76, 085111(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ローマは一日にして成らずというように、上述したように進化し、完成形に近づきつつあるミニマルファブであるが、その完成度の“スペクトル”の全体に亘って、実際に使えるようにする下支えをする方法があれば、それは重要である。スペクトルの最上位端である、図12および図13に示したようなミニマルファブモジュールは、塵埃の多い通常空間にあっても、所定の方式に則って連結するだけで、ユーザーの目的に適う多品種少量生産システムが形成されると期待される。
【0010】
一方で、大学や中小企業等、資金的に潤沢でなく、最上位端のミニマルファブは買えないけれども、必要最小限の機能を備えたミニマルファブは是非欲しいといったニーズは非常に多い。そこで、このようなユーザーに応えるような、上記のスペクトルの下位に属する謂わば「廉価版ミニマルファブ」を、いち早く試用しかつ、実働ミニマルファブの構成要素として実際に用いられるよう持って行くことは重要である。これを実現するためには、ミニマルファブを簡易な構成で低コストに生産可能であることが要求される。
【0011】
この廉価版ミニマルファブの一例を挙げると、単位処理装置のプロセス処理部を密閉して接続することで、使用の際に上述した密閉搬送容器を用いない形態が挙げられる。この形態においては、各ミニマルファブモジュールの主目標機能は十分満たすも、複数のミニマルファブモジュールを連結する場合における気密性の確保(気密連結性)、ミニマルファブモジュールへの原料(材料)供給時の気密性の確保(気密原料(材料)補給可能性)などの、連結時、分離時等においてミニマルファブモジュールにあまねく要求される“プロトコル”機能に関しては、必ずしも完璧に備えていない。
【0012】
また、図12に示したような密閉搬送容器を用いるミニマルファブにおいても、ミニマルファブモジュールのメンテナンス時における気密性の確保(気密メンテナンス性)の問題があった。すなわち、複数のミニマルファブモジュールが連結されることで構成されるミニマルファブにおいては、密閉搬送容器を用いた局所クリーン生産方式をとっているため、ウェハはミニマルファブの設置環境には依存せず常に高清浄環境の下に置くことができる。このことから、通常のプロセス操作では、ミニマルファブモジュール群が設置されている環境の清浄度をことさら向上させる必要が無い。しかしながら、例えば、ミニマルファブモジュールのメンテナンス時などにおいては、ミニマルファブモジュールの内部を開放するために、設置環境における汚染物質がミニマルファブモジュールのプロセス処理部などの内部へ侵入してしまう。このため、メンテナンス時においては、ミニマルファブを大型のクリーンルームに移設する必要が生じたり、ミニマルファブ自体を大型のクリーンルーム内に設置する必要が生じたりする。このように、メンテナンスを含めたミニマルファブシステムの実用化においては、ミニマルファブシステムの大きな特長である局所クリーン化のメリットが殆ど生かせないという大きな問題を抱えている。すなわち、上述のミニマルファブを実用に供するシステムとするには、メンテナンス時などにおける、内部への汚染進入の問題を解決しなければならない。
また、災害や事故等の現場での、緊急を要する手術や医療行為のための環境として、エアテント(非特許文献1、2参照。)があるが、清浄度が高いものは得られていない。
【0013】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、ミニマルファブモジュール等の単位処理装置を複数用いて構成されるデバイス製造装置の、単位処理装置のメンテナンス時や、単位処理装置を複数連結する場合等において、1つまたは複数の単位処理装置単位で局所クリーン化を実現することができ、単位処理装置の内部の汚染を防止することができる高清浄環境装置およびこれを用いた高清浄環境システムを提供することである。
【0014】
また、この発明が解決しようとする別の課題は、ミニマルファブ等の単位処理装置による生産システムによって、できるだけ早期に既存の生産システムを置き換え、今後のシステム半導体等のデバイス製造に関する研究開発の成果を、実際の製造ラインに早期かつ容易に組み込むことができるデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法を提供することである。
さらに、装置価格や製造物製造コスト、あるいはメンテナンスコストを大きく低減することができるミニマルファブを早期に実現し、社会資本化することである。
【0015】
また、この発明が解決しようとする別の課題は、高度半導体素子作製環境に勝るともおとらない無塵・無菌環境を要する、災害や事故等の現場での、緊急を要する手術や医療行ための機動性に富む高清浄環境プラットフォームを提供することである。
また、この発明が解決しようとする別の課題は、単位処理装置のメンテナンス、連結等を行う場合に単位処理装置の内部の汚染を防止することができ、人や動物が無塵・無菌環境で生活、居住、滞在等することができ、あるいは治療等を受けることができる高清浄環境装置の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、この発明は、
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸入口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用をもつ材料で構成されていることを特徴とする高清浄環境装置である。
【0017】
包囲体の形状は、種々の形状であってよく、必要に応じて選ばれるが、具体例を挙げると、直方体状または立方体状、直方体または立方体を変形した形状などであってよい。また、包囲体によって形成される閉空間の大きさは、基本的には使用目的等に応じて設計により適宜決定することができる。
【0018】
また、骨格は、包囲部と組み合わせることで閉空間が形成されるようなものであれば基本的にはどのような構成を有していてもよく、例えば、中空の棒状・丸太状構造体や、中空の断面がI字状やL字状の構造体等が挙げられる。例えば、棒状構造体は、複数の棒状体を組み合わせて形成されたもの、一体の棒状体を彎曲、屈曲、折り曲げ等させて形成されたもの、これらを組み合わせて形成されたもの等が挙げられる。骨格を複数の棒状体を組み合わせて構成する場合にあっては、例えば、棒状体同士を回転可能なヒンジなどで接続することが好ましい。このヒンジを回転させることで、例えば、複数の棒状体を一体に纏めることができ、格納時に少数本数の棒状構造体に縮約することができる。また、目的のサイズに応じて、大小のエアテント様の構造を取ることもできる。
【0019】
また、棒状体の形状は、直柱形状を有することが好ましく、その断面形状は適宜選択することができるが、例えば、円形状、正方形状、長方形状などであることが好ましい。また、棒状体は、例えば、中空部を有する中空形状を有することが好ましく、その中空率は例えば70%以上であることが好ましい。また、棒状体を構成する材料は、例えば、弾性を有する材料で構成されることが好ましい。中空部を有する棒状体としては、具体的には、例えば、パイプ、チューブ、ホース等が挙げられる。この中空部を有する棒状体が、例えば弾性体で構成され、中空部に、例えば空気等の気体などが封入されると内部圧力によって弾性体に張力が発生し、これにより剛性を得て包囲体の躯体を支える骨格を構成することができる。この場合、骨格は、空気等の気体が封入されていない折り畳み時における体積が、空気等の気体が封入される骨格形成時の体積と比較して100分の1以下の体積に縮小可能であることが好ましい。また、中空部に空気等の気体が封入されていない場合には、例えば、人間が容易に折り曲げられる程度の可撓性を有することが好ましく、また、例えば、中空部に空気等の気体が封入されている場合には、人間が容易に折り曲げられない程度の剛性を有することが好ましい。弾性体は、特に限定されるものではなく、従来公知の弾性体を用いることができるが、具体的には、例えば、ゴム、樹脂等の高分子材料が挙げられる。また、中空部に封入されるものは、気体に限られず水等の液体であってもよい。骨格12が上記のように構成されることで、その場立ち上げ、その場しまいこみの可能な骨格12を形成することが可能となる。
【0020】
また、例えば、複数の、中空部を有する棒状体を組み合わせて骨格を形成することで、骨格の一部を気体流路として用いることもできる。この場合、例えば、チューブに空気等の気体を封入して骨格を形成する場合においては、気体が封入されない気体流路を構成する骨格の一部と、気体が封入される骨格の一部とが一体に構成される。また、骨格は、例えば、棒状体による閉じた回路によって形成されることが好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば、端部を有する「盲腸様」の回路によって形成されていてもよい。
【0021】
シート状の包囲部は、骨格と組み合わせることで、閉空間が形成されるようなものであれば基本的にはどのようなものであってもよく、一体に形成されたものであっても、複数の部材を組み合わせて形成されたものであってもよいが、少なくとも一部が防塵作用を有する壁材で構成されることが好ましい。この壁材としては、防塵作用を有していれば基本的には限定されるものではないが、例えば、軽量で可撓性を有するものであることが好ましく、この可撓性は、例えば、人間の力で容易に折れ曲る程度の可撓性であることが好ましい。この可撓性を有する壁材としては、例えば、シート状、フィルム状等の可撓体である薄膜体が挙げられる。薄膜体としては、具体的には、例えば、フレキシブルシート、フレキシブルフィルム等が挙げられ、例えば、ビニールシート、ポリエチレンシート等の樹脂シート、PETフィルム等の樹脂フィルム、ゴムシート、不織布、障子紙等の紙パルプ等が挙げられる。
【0022】
また、高清浄環境装置の用途によっては、包囲部は、例えば、短波長光成分を包囲体の内部へ透過させないように構成された透明壁材で構成されることが好ましい。この透明壁材は、短波長光成分を透過させないように構成されていれば、基本的には限定されるものではないが、それ以外の構成を、例えば、上述した壁材と同様な構成とすることができ、例えば、薄膜体で構成することが特に好ましい。この透明壁材としては、例えば、紫外線吸収材、紫外線反射材等を混入して形成されたもの、紫外線吸収材、紫外線反射材等が、可視光が入射または透過する面に設けられているものが挙げられ、具体的には、例えば、UVカット透明ガラス・樹脂、UVカット透明シート、UVカット透明フィルム等の他、外観上は典型的にはオレンジ色を有する透明ガラス・樹脂、透明シート、透明フィルム等が挙げられる。また、これらから選ばれる少なくとも2つの材料の積層構造であってもよい。また、例えば、包囲部の少なくとも一部が上記の透明壁材で構成される場合にあっては、上記の透明壁材以外の壁材が、例えば、光を完全に遮断するもので構成されていることが好ましい。光を完全に遮断するものとしては、具体的には、例えば、光入射面が光、特に可視光を全反射するように構成されているもの、例えば、光入射面に金属を蒸着させて鏡面とした壁材が挙げられる、また、例えば、光入射面が光、特に可視光を全吸収するように構成されているもの、例えば、光入射面が黒色の材料、黒色に染色された材料で構成された壁材等が挙げられ、また、例えば、これらの構成を組み合わせた構造、例えば、これらの構成の積層構造等が挙げられる。また、壁材は、例えば、上記に挙げたものの中から適宜選択ができ、例えば、薄膜体で構成されることが好ましい。また、包囲体の内壁を構成する包囲部の面には、発塵を抑えるために、例えば、この包囲部のうち可視光透過部を除く全部または一部にポリテトラフルオロエチレンのコーティングを施すようにしてもよい。典型的な一例を挙げると、包囲部は、短波長光成分を透過させない透明シートおよびダスト微粒子を100%は通さず、気体分子は通す隔壁で構成される。
【0023】
また、例えば、包囲部の少なくとも一部が、ダスト微粒子を100%は通さず、気体分子は通す隔壁により形成されていてもよい。こうすることで、包囲体の内外で酸素濃度や二酸化炭素濃度を平衡に保つことができる。ここで、「ダスト微粒子を100%は通さず」とは、例えば、ダスト微粒子の阻止率(透過率)が、100%(0%)ではなくとも、少なくとも95%以上(5%以下)、望ましくは99%以上(1%以下)である。また、ダスト微粒子を100%は通さず、気体分子は通す隔壁は、典型的には、ガス交換膜が挙げられる。また、ダスト微粒子を100%は通さず、気体分子は通す隔壁は、例えば、非光透過性、すなわち光遮断性を有することが好ましく、例えば、光吸収材、光反射材等で構成されたガス交換膜などが挙げられ、具体的には、例えば、黒色の材料で構成されたガス交換膜、全体が黒色に着色されたガス交換膜、例えば、墨汁を含浸させた不織布、フィルター材、障子紙等が挙げられる。
【0024】
気体流路は、包囲体の内部に設けられてもよく、外部に設けられてもよいが、包囲体の内部に設けられることが好ましい。包囲体の内部に設けられる場合にあっては、気体流路は、例えば、包囲体の床部に載置されたファン・フィルターユニットの排気口に気密性を持って接続され、この気体流路が天井部まで延び、先端部に排気口が設けられる。
【0025】
ここで、この高清浄環境装置において包囲体の内部が清浄化される原理について説明する。
【0026】
包囲体の内部のダスト微粒子密度nは場所の関数となり、同じく単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子脱離レートσも最も一般的に場所の関数と考えられる。注目している閉空間の内部で、塵が発生したり、消滅したりすることはない。このとき、注目している閉空間内の場所xにおける時刻tのダスト微粒子密度n(x,t)は、その閉空間の境界(エッジ)(閉空間の内側の2次元面)からの影響が伝播して来て、その変化が決まる。包囲体の内部の清浄化する閉空間の体積をV、その閉空間の内面積をS、単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子の脱離レートをσ、包囲体の設置環境(即ち外気) のダスト微粒子密度をN0 、塵埃フィルターのダストの捕集効率をγとすると、ダスト微粒子密度nは、
【数1】
なる微分方程式を満たす。
【0027】
閉空間内の空気の流れが至るところ均一で場所依存性がないと近似することができる場合は、
【数2】
が得られる(特許文献2、非特許文献3、4参照。)。十分時間が経ち、定常状態になると、式(2)の左辺はゼロとなり、到達ダスト微粒子密度nは
【数3】
となる。
【0028】
この包囲体では、清浄度を支配するパラメータが、従来のクリーンルームとは全く異なる。従来のクリーンルームの性能で重要な要素は塵埃フィルターのダスト捕集効率γであり、これが1に限りなく近い方が良い(中性能フィルターよりHEPAフィルター、HEPAフィルターよりULPAフィルターが求められる所以である)。こうして、フィルターのダスト微粒子の除去能力がクリーンルームの性能に直接効いてくるために、高価なHEPAフィルターやULPAフィルターが使われるが、このフィルターの片側は、常に外気に接しているために、プレフィルターが用いられてはいるものの、フィルターは2〜3年程度で取り替えられている。他方、上記の包囲体では、フィルターのダスト捕集効率はそれほど支配的ではなく、むしろ包囲体の内部空間におけるダストの湧き出しの方が重要になってくる。到達清浄度は包囲体の内部環境にのみ支配され、式(3)にN0 が現れないことから分かる通り、包囲体の設置環境には全く影響されないという好ましい特性を有する。これは従来のスーパークリーンルームとは大きく異なる利点である。即ち、上記の包囲体は、建設コストの高い従来型スーパークリーンルームと異なり、製造ラインでも研究室でも、雨露をしのげる環境であれば、場所を選ばず設置が可能となる。また、式(3)から分かるように、γが1に近くなくても、γ=1の究極の場合に比べても、清浄度の劣化がほとんどない点が大きな特長である。
【0029】
この高清浄環境装置は、必要に応じて、例えば、包囲体に接して設けられた前室を備えるようにすることができる。以下においては、必要に応じて、前室が設けられる包囲体に囲まれる空間を主室と呼ぶ。この前室は、例えば、高清浄環境装置として上記に挙げたものと同様に構成することができる。前室は、具体的には、例えば、移動可能かつ折り畳み可能な前室包囲体を有し、この前室包囲体は、前室包囲体を支える折り畳み可能な前室骨格と、前室骨格を覆うようにして前室骨格に対し着脱自在に設けられた前室包囲部とを有して構成される。前室包囲部は前室骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成することができる。また、前室骨格は、例えば、折り畳み時に、上記の前室閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能である。前室骨格としては、高清浄環境装置の骨格として上記に挙げたものの中から適宜選択することができる。また、前室骨格は、骨格(主室骨格)と別々に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。また、前室包囲部も、高清浄環境装置の包囲部として上記に挙げたものの中から適宜選択することができる。また、前室包囲部は、前室と主室との全体を一体に包囲することで前室包囲体を含む包囲体を形成してもよい。
【0030】
また、前室閉空間内には吸入口および排気口を有し、前室閉空間と隔絶して、前室閉空間内の排気口から流出する気体の全量が前室閉空間内の吸気口から再流入する気体流路が設けられている。この気体流路の一部には、例えば、ファン・フィルターユニットが組み込まれている。また、例えば、主室の閉空間と前室閉空間とは、少なくとも一部に、ダスト微粒子を100%は通さず、気体分子は通す隔壁を備えた開閉可能な包囲部および/または前室包囲部(間仕切り)を介して接しており、包囲部および/または前室包囲部は開閉部を有する。
【0031】
また、この発明は、
少なくとも1つの高清浄環境装置と、
少なくとも1つの単位処理装置とを有し、
上記高清浄環境装置は、
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸入口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用をもつ材料で構成されており、
上記単位処理装置は、デバイス製造プロセスのうちの単一プロセスを処理する密閉された内部空間を有し、
上記包囲体の内部に上記単位処理装置が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする高清浄環境システムである。
【0032】
単位処理装置(例えば、ミニマルファブモジュール)は、デバイス製造装置(例えば、ミニマルファブ)の構成のうち最小のものであって、デバイス製造プロセスのうちの単一プロセスを処理する内部空間を有するものであれば、基本的には限定されないが、ワーク対象のウェハを、極小単位のデバイスを作製するウェハサイズとすることが好ましい。また、上記ウェハを1枚毎に処理する枚葉式処理方式とすることが好ましい。また、「単一の処理プロセス」とは、従来のデバイス処理プロセスのうちの1つの処理プロセスを示すほかに、従来の処理プロセスを複数含むものや、あるいは従来は1つの処理プロセスで行っているものを複数に分割したものであってもよい。この単位処理装置は、例えば、プロセス処理が割り当てられたものが複数連結されることによってデバイス製造装置が構成される。
【0033】
また、単位処理装置は、上記の内部空間が外部空間と連通する場合に高清浄環境装置の内部に設けられることが好ましい。すなわち、典型的には、ファン・フィルターユニットを駆動することによって包囲体の内部を清浄化した状態で、上記の閉空間と上記の内部空間とを連通させる。高清浄環境装置の内部に設けられる単位処理装置は、基本的にはどのように配置されてもよいが、例えば、単位処理装置の境界(エッジ)の部分が、高清浄環境装置の包囲体で囲い込まれるようにして設けられることが好ましく、この場合、複数の単位処理装置の中央に上記包囲体が来るように設けられることが好ましいが、隣接する単位処理装置とセカンドニアレストユニットとの中間の接続部が中央となるように上記包囲体が設けられてもよい。また、高清浄環境装置を、例えば、上述した、その場立ち上げ、その場しまいこみの可能なように構成すると、複数の単位処理装置のうち、一部の単位処理装置に高清浄環境が必要になったときに、その単位処理装置を迅速に高清浄環境下に置くことが可能となる。
【0034】
また、この発明は、
高清浄環境装置の使用方法であって、
上記高清浄環境装置は、
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸入口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用をもつ材料で構成されており、
上記包囲体の内部で、単位処理装置のメンテナンス、単位処理装置の連結、生活、居住、滞在または治療を行う高清浄環境装置の使用方法である。
ここで、単位処理装置のメンテナンスには、修理、クリーニング、原料(材料)供給等が含まれる。
【0035】
また、この発明は、
複数の単位処理装置で構成されたデバイス製造装置の組み立て、立ち上げまたはメンテナンス方法であって、
移動可能かつ折り畳み可能な包囲体を有し、
上記包囲体は、上記包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、上記骨格を覆うようにして上記骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とを有し、上記包囲部は上記骨格によって張られることで密閉可能な閉空間を形成し、上記骨格は折り畳み時に、上記閉空間の体積の十分の一以下の体積に縮小可能であり、
上記閉空間内に吸入口および排気口を有し、上記閉空間と隔絶して、上記排気口から流出する気体の全量が上記吸気口から再流入する気体流路が設けられており、上記気体流路の一部にファン・フィルターユニットが組み込まれており、上記包囲部の少なくとも一部が防塵作用をもつ材料で構成されており、
上記単位処理装置は、デバイス製造プロセスのうちの単一プロセスを処理する密閉可能な内部空間を有し、
上記包囲体の内部に上記単位処理装置が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする高清浄環境システムである。
【0036】
この高清浄環境システムを、例えば、ミニマルファブに適用する場合には、例えば、高清浄環境装置を適用するミニマルファブモジュールに対してその場で立ち上げ、高清浄環境装置内にミニマルファブモジュール(単位処理装置)を収納し、高清浄環境装置内においてミニマルファブモジュールの条件出しや、ミニマルファブ(デバイス製造装置)への接続を行うことができる。
【0037】
このように、この高清浄環境システムを例えば上述のミニマルファブに適用することにより、ミニマルファブを構成するミニマルファブモジュールを、そのミニマルファブモジュールの本来の目標が達成される仕様となった時点にて、全体ラインへの接続が可能となるので、ミニマルファブの早期立ち上げが可能であり、また、雨露さえ凌げる環境さえあれば、どこでもミニマルファブを立ち上げることができる。また、ミニマルファブの立上げ、(移設等に伴う)立ち下げという、謂わば“併進対称性”を破る地点の助けとなる。また、ミニマルファブの各ユニットの完成版、完全自律版の露払い役を果たすことで、ミニマルファブ完全版の辺縁系を成す。これにより、廉価なシステムの構築を結果として可能とし、大学等、高価なフルバージョン、セルフコンテインド(self-contained)バージョンのミニマルファブシステムを費用的に持てないユーザーにも、ミニマルファブシステムのミニマルコアエッセンスのエンジョイを可能とすることができ、トータルな導入のユーザーの裾野が広がる。また、この高清浄環境システムを、例えば、高清浄度医療環境に適用することで、災害現場等でその場立上げができる高清浄度医療環境を提供することができる。すなわち、この高清浄環境システムは、包囲体を構成する骨格を収納時には大幅に縮小するように構成したので、装置のメンテナンス、医療活動等のオペレーションが必要となった時に、その場で即時に立ち上げが可能で、このオペレーションが終り次第、直ちに撤収でき、かつ、移動時にかさばることの無い、総合高清浄環境を提供することができる。
【0038】
また、任意の単位処理装置を高清浄環境下で接続することが可能であるので、密閉容器を有しなくても、連結時における気密性の確保など(気密連結性、気密原料(材料)補給可能性など)の、連結時、分離時等においてミニマルファブモジュールにあまねく要求される“プロトコル”機能を備えることができる。これによって、密閉搬送容器を有しないデバイス製造装置においても、製造レシピに応じてミニマルファブの構成を簡易に変更することができる「廉価版ミニマルファブ」とすることができる。これによって、ミニマルファブのラインアップを側面支援することができる。また、異なる構成の単位処理装置であっても高清浄環境下での連結が容易に可能となるので、ミニマルファブの同工異曲版が出てきても、それごと、この高清浄環境システムとすることで、逆に、ミニマルファブの併置版の存在を許さず、ミニマルファブの“真似システム”を、本家ミニマルに収斂させる、側面支援システムを形成することができる。
【発明の効果】
【0039】
この発明によれば、高清浄環境装置を構成する包囲体を、包囲体を支える折り畳み可能な骨格と、骨格を覆うようにして骨格に対し着脱自在に設けられたシート状の包囲部とで構成したので、例えば、骨格が弾性体からなるチューブによって形成される場合には、その場立ち上げ、その場しまいこみの可能な高清浄環境装置を実現することができる。また、この高清浄環境装置を少なくとも1つの単位処理装置に用いることによって、単位処理装置を、その装置本来の目標のみの仕様を達成した時点で、他の単位処理装置との連結が可能となる。また、単位処理装置単独でも、クリーンな環境下で使えるようになる。さらに、複数の単位処理装置の間で、連結・分解等の共通プロトコル対応の機能が無くとも、実用に早期に資することができる。また、廉価に高性能ミニマルファブシステムを立ち上げることができ、また、同様に修理することができる。さらにまた、震災や津波等の被災地における、迅速な高度医療環境の立上げが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】この発明の第1の実施の形態による高清浄環境装置およびこの高清浄環境装置を構成する骨格を示す斜視図ならびにこの高清浄環境装置の動作特性の一例を示す略線図である。
図2】この発明の第1の実施の形態による高清浄環境装置を構成する骨格の一例を示す図面代用写真である。
図3】この発明の第2の実施の形態による高清浄環境システムに用いられる単位処理装置を示す斜視図である。
図4】この発明の第2の実施の形態による高清浄環境システムを示す斜視図である。
図5】この発明の第2の実施の形態による高清浄環境システムがデバイス製造装置に適用される例を示した平面図である。
図6】この発明の第3の実施の形態による高清浄環境システムを示す斜視図である。
図7】この発明の第4の実施の形態による高清浄環境システムを示す斜視図である。
図8】この発明の第4の実施の形態による高清浄環境システムを構成する骨格の一例を示す図面代用写真である。
図9】この発明の第6の実施の形態による高清浄環境システムを構成する前室のみの骨格と前室一体型の骨格とを示す斜視図である。
図10】この発明の第6の実施の形態による高清浄環境システムに設けられた前室の骨格とこの発明の第6の実施の形態による高清浄環境システムとを示す斜視図である。
図11】この発明の第7の実施の形態による高清浄環境システムに用いられる気体流路一体型の骨格を示す斜視図である。
図12】デバイス製造装置の一例を示す斜視図である。
図13】デバイス製造装置の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
【0042】
<1.第1の実施の形態>
図1Aは、第1の実施の形態による高清浄環境装置10を示す。図1Bは、高清浄環境装置10を構成する骨格12を示す。図1Aに示すように、この高清浄環境装置10は、縦長の直方体状の包囲体11を有する。包囲体11は、包囲体11を支える折り畳み可能な骨格12と、骨格12を覆うようにしてこの骨格12に対し着脱自在に設けられた包囲部11aとからなる。包囲部11aには、開閉することで人間が出入り可能に設けられた入退室用気密ファスナー14が設けられている。また、包囲部11aの少なくとも一部にはガス交換膜16が設けられている。ガス交換膜16は、例えば、包囲体11の内部において、特定の気体、例えば、酸素などを必要とする場合などに設けられる。包囲部11aは、例えば、骨格12による張力を受けることによって、直方体状の包囲体11を形成する。これにより、包囲体11の内部には、包囲体11の内寸と同一の大きさの閉空間13が形成されている。
【0043】
閉空間13の内部には、吸気口21を有するファン・フィルターユニット20が設けられている。ファン・フィルターユニット20の排気口には気体流路23が気密性を持って接続されている。この気体流路23は、包囲体11の側面に沿って天井部まで延び、天井部で直角に折れ曲がって天井部に沿って延びるように設けられている。この気体流路23は、閉空間13と隔絶して設けられている。ファン・フィルターユニット20と気体流路23とは、例えば、入退出用気密ファスナー14およびガス交換膜16を塞がないような形態で設けられている。気体流路23の先端部には排気口22が設けられている。排気口22は、例えば、包囲体11の底面に対向するようにして設けられている。排気口22がこのように設けられる場合には、例えば、吸気口21のほぼ真上に設けられることが好ましい。排気口22は、必要に応じて、例えば、包囲体11の側面に対向するようにして設けられてもよい。閉空間13内において気体流路23が上記のように構成されることで、ファン・フィルターユニット20を駆動させると排気口22から流出する気体の全量が吸気口21から再流入する100%密閉循環フードバック系が形成される。
【0044】
包囲部11aの材料は、上記に挙げたものの中から適宜選択することができるが、好適には、例えば樹脂シートが選ばれる。樹脂シートとしては、好適には、例えば、ビニールシートが選ばれる。また、樹脂シートは、透明であっても不透明であってもよいが、例えば、少なくとも一部が紫外線を遮断する透明シートで構成され、その他の部分が、例えば、光を完全に遮断するシートで構成されることが好ましい。
【0045】
骨格12は、上記に挙げたものの中から適宜選択することができるが、好適には、例えば、弾性体で形成されたチューブが選ばれる。弾性体で形成されたチューブとしては、例えば、ゴムチューブ、樹脂チューブ等が挙げられる。また、骨格12の形状は、図1Bに示すように、長方形状の閉回路である骨格の短辺側の両端部を同一方向に直角に折り曲げた折り曲げ部を有するCの字(コの字)形状を有する。この場合、骨格12の高さ、折り曲げ部の長さ等は、基本的には限定されるものではなく、包囲体11の内部に収容する装置や人等によって適宜選択することができるが、対向する二つの折り曲げ部の長さは同じ長さであることが好ましい。例えば、包囲体11の内部に後述の単位処理装置30(ミニマルファブモジュール)を収容する場合には、骨格12の高さ、折り曲げ部の長さ等は、用いる単位処理装置30の大きさ等によって適宜選択することができる。このとき、骨格12の折り曲げ部が、単位処理装置30の上部投影面を構成する辺のうち骨格12に平行する辺の長さに対応し、骨格12の中間部の長さが、単位処理装置30の高さに対応し、骨格12の幅(短辺)の長さが単位処理装置30の幅に対応するようにすることが好ましい。骨格12がこのように構成されることで、折り曲げ部の長さは、骨格12の高さよりも短くなり、また、前面に開口を有し、前面上下部にチューブを有しないので、スライドさせること等によって単位処理装置30を容易に囲い込むことができる。例えば、囲まれる空間の体積Vと骨格を構成するチューブ(例えば、半径約2cm〜4cm)の体積vの比は、典型的にはV=50cm×120cm×180cm〜106 cm3 に対し、v=3.14×(2cm〜4cm)2 ×(50cm×2+120cm×4+180cm×2)〜(12〜50)×900cm〜(1.1〜5)×104 cm3 であるので、vはVの十分の一以下となる。これは、上記のコの字型が床に対して立っている場合(先の計算)や床に被さっている場合(先の式で120cmと180cmとを入れ替える)でも満たしている。
【0046】
また、骨格12には注入口15が設けられており、この注入口15から骨格12の内部に空気等の気体や水等の液体が封入されて膨らむことによって、直方体形状の骨格12が形成される。また、空気等の気体や水等の液体の封入によって骨格12の剛性が高まることにより、この骨格12によって包囲部11aが張られて包囲体11の側面を支えることができ、これにより閉空間13が形成される。図2は骨格12の一例を示す。図2に示すように、骨格12は、ゴムチューブを連結することによって閉じた回路を形成している。骨格12をゴムチューブで形成することによって、骨格12全体の重量を小さくすることができ、また、例えば、内部に空気等が封入されない収納時の体積が、内部に空気等が封入される骨格形成時の体積の十分の一以下に縮小可能となる。これらのことにより、骨格12を手軽に持ち運ぶことが可能となり、さらに、例えば、気体流路23を蛇腹などの伸縮材で構成し、ファン・フィルターユニット20として小型のものを選べば高清浄環境装置10を手軽に持ち運ぶことが可能となる。
この高清浄環境装置10の組み立て方法について説明する。最初、骨格12およびシート状の包囲部11aともコンパクトに折り畳まれているとする。まず、骨格12の注入口15から骨格12の内部に空気等の気体や水等の液体を封入して膨ませることによって、図1Bに示すように直方体形状の骨格12を形成する。次に、シート状の包囲部11aを広げて骨格12の上から被せ、形状を整えることで直方体状の包囲体11を形成する。次に、入退出用気密ファスナー14を開けて包囲体11の底面にファン・フィルターユニット20を設置する。次に、このファン・フィルターユニット20の排気口に気体流路23を気密性を持って接続するとともに、この気体流路23を包囲体11の側面および天井に固定する。このようにして高清浄環境装置10を組み立てることができる。
こうして作製した高清浄環境装置10を動作させた。高清浄環境装置10の底面積は0.9m×0.9mで、高さは約1.8mである。ここでファン・フィルターユニット20には、市販のファン・フィルターユニット[パナソニック ナノイー VXG35]を用い、風量1.6m3 /分で動作させた。図1Cに、高清浄環境装置10内部の塵埃粒子数の時間変化を示す。図1Cの縦軸は、1立方フィート(1f3 )当たりの0.5μm以上の塵埃粒子の総数である。図1Cの内挿図は、粒径別の塵埃粒子数の減少率を示す。今回、動作した環境では、1μm粒径の粒子数が通常の典型的な環境におけるものより多いが、全体としては、10分後には、1f3 当たりの0.5μm以上の塵埃粒子の総数が10のオーダーになることが分る。即ち、US209Dクラス10級の清浄度に、動作開始後約10分で到達することが分かる。医療機関の手術室の清浄度が同クラス100であることを考えると、この高清浄環境装置10は、機動性に富みながらも、場所を選ばず、約10分で、病院の手術室の清浄度を越えるクラス10級の清浄度を達成するので、災害や事故現場における緊急医療・手術の環境として十分な性能を発揮することが分る。図1Cの結果は、ミニマルファブシステムのアシストを想定した比較的小ぶりの清浄環境であるが、災害現場での手術等、やや大きいスペースを構成する必要がある場合でも、式(2)から分る時定数、V/(γF)に基づくスケーリングによって、所定の塵埃粒子数収束時間を得るのに必要な風量や、逆に、風量を所定のものに設定した場合の、塵埃粒子数収束時間を厳密に知ることが出来ることは言うまでもない。
【0047】
以上のように、この第1の実施の形態による高清浄環境装置10によれば、密閉可能な包囲体11の内部に100%循環フードバック系が構成されているため、包囲体11の内部を短時間で、半導体製造が可能な程度の高清浄空気環境にすることができる。また、包囲体11を、折り畳み可能な骨格12とシート状の包囲部11aとで構成し、骨格12は折り畳み時に包囲体11の内部の閉空間の体積の百分の一以下の体積に縮小可能であるので、これらの骨格12および包囲部11aをそれぞれ折り畳んでコンパクトな大きさにした状態で持ち運ぶことができる。また、骨格12を弾性体からなるチューブで形成し、包囲部11aを樹脂シートで形成することにより、骨格12および包囲部11aとも軽量に構成することができるので、高清浄環境装置10を構成するもののうち最大容積を占める包囲体11が持ち運び可能となり、高清浄環境装置10を手軽に持ち運ぶことが可能となる。
【0048】
<2.第2の実施の形態>
第2の実施の形態においては、単位処理装置を有する高清浄環境システムについて説明する。
図3は、単位処理装置(例えば、ミニマルファブモジュール)の一例を示す斜視図である。図3に示すように、単位処理装置30は、装置上部30dと、装置下部30eと、これらを連結する上下連結スペーサ30fとからなり、上下連結スペーサ30fにより装置上部30dと装置下部30eとが必要に応じて分離可能に構成されている。装置上部30dは、単一の処理プロセスを行うための処理空間を有するプロセス処理本体部30aを構成している。
【0049】
また、プロセス処理本体部30aの側面には、他の単位処理装置30との接続部31が設けられている。接続部31には、例えば、ウェハ入出前室が設けられていてもよい。この場合、ウェハ入出前室が設けられる側面には、例えば、ウェハ入出前室とプロセス処理本体部30aとを空間的に導通してウェハを一時的に通過させる扉部(図示せず)が形成される。
【0050】
また、装置下部30eにはプロセス処理本体部30aに対する原料供給系や排気系、制御装置等が内蔵されており、外筐部には、単位処理装置側コネクタ部30bが設けられている。コネクタ部30bには、原料供給配管や、製造プロセスにおける排出物を排出するための排出管、更には、外部の中央制御装置とを結ぶ制御信号線や外部の電力源とを結ぶ電力線等が纏められ、配管コネクタ30gを介して後述するポストへ連結される。さらに、装置下部30eの底部には、単位処理装置30の移動に伴い、所定の位置に位置決めを行うガイド部30cが設けられている。
【0051】
図4は、第2の実施の形態による高清浄環境システム40を示す。この図においては、明瞭化のために高清浄環境装置10のうち骨格12のみを図示し、その他の構成は省略するが、高清浄環境装置10の構成は第1の実施の形態において述べた通りである。図4に示すように、この高清浄環境システム40は、高清浄環境装置10の閉空間13内に単位処理装置30が一台収納されている。
【0052】
高清浄環境装置10と単位処理装置30との配置関係は、高清浄環境装置10によって単位処理装置30の少なくとも一部が収納されるようにして配置される限り、特に限定されるものではないが、高清浄環境装置10が配置される範囲は、隣接する単位処理装置30の中央に来る場合と、隣接する単位処理装置30とセカンドニアレストの単位処理装置30との中間の接続部31に来る場合とが挙げられる。
【0053】
高清浄環境システム40は、具体的には、例えば、骨格12が単位処理装置30および接続部31を取り囲むようにして配置された後に、高清浄環境装置10の骨格12以外の構成(包囲部11a、ファン・フィルターユニット20、気体流路23等)が追加されて構成されることが好ましい。このとき、単位処理装置30に対して骨格12を移動させて配置することで高清浄環境システム40を構成してもよいし、骨格12に対して単位処理装置30を移動させて配置することで高清浄環境システム40を構成してもよいが、前者のように単位処理装置30に対して骨格12を移動させて配置することで高清浄環境システム40を構成することが好ましい。この場合、例えば、単位処理装置30の前面または背面から骨格12をスライドさせるようにして配置する方法と、骨格12を単位処理装置30の上部から被せるようにして配置する方法とが挙げられるが、前者のように単位処理装置30の前面または背面から骨格12をスライドさせるようにして配置することが好ましい。その場合、骨格12は上述した長方形状の閉回路の短辺側の両端部を同一方向に直角に折り曲げたCの字(コの字)形状を有することが好ましく、骨格12は、折り曲げ部から単位処理装置30の前面または背面にスライドさせるようにして配置される。
【0054】
また、例えば、骨格12が上述のように持ち運び可能に構成されている場合には、配置前に注入口15から骨格12の内部に空気等の気体あるいは水等の液体を封入し、骨格12の形状が包囲体11の外郭となるようにする。骨格12の配置後には、図示は省略するが、包囲部11aを、閉空間13を形成するように骨格12を覆うようにして設けることで包囲体11が形成され、こうして形成された閉空間13内に、ファン・フィルターユニット20と気体流路23とが設けられ、ファン・フィルターユニット20の排気口と気体流路23とが気密性を有するように接続されることによって100%循環フードバック系が形成される。
【0055】
この高清浄環境システム40は、ファン・フィルターユニット20を駆動させると、閉空間13内の清浄度は、上述した数式に従って短時間で飛躍的に向上するので、閉空間13内に設けられた単位処理装置30を高清浄環境下において作業することができる。また、上述したように手軽に持ち運び可能なように高清浄環境装置10を構成することによって、通常環境においても、高清浄環境が必要な場合に素早く高清浄環境を構築することができる。これは、例えば、デバイス製造装置の構築において、“エッジ”の部分を構成する単位処理装置30に対して高清浄環境装置10を用い、そこで、デバイス製造装置であるミニマルファブユニットの立上げ、つなぎ込み、原料注入等の、立上げに必要な種々のことを行うことができる。
【0056】
図5Aは、デバイス製造装置の立上げ時における単位処理装置30の連結を示す平面図である。また、図5Bは、単位処理装置30への原料注入、メンテナンス等を示す平面図である。また、図5Cは、デバイス製造装置の立下げ時における単位処理装置30の分離を示す平面図である。図5Aに示すように、デバイス製造装置50の立上げにおいては、追加される単位処理装置30が高清浄環境装置10の内部に設けられ、高清浄環境装置10を駆動後にデバイス製造装置50を構成する単位処理装置30に連結される。図5Bに示すように、デバイス製造装置50の原料注入、メンテナンス等においては、単位処理装置30が高清浄環境装置10の内部に設けられ、高清浄環境装置10を駆動して清浄化後に、原料注入等が行われる。図5Cに示すように、デバイス製造装置50の立下げにおいては、デバイス製造装置50から分離される単位処理装置30が高清浄環境装置10の内部に設けられ、高清浄環境装置10を駆動して清浄化後にデバイス製造装置50から分離される。その他のことは第1の実施の形態と同様である。図5Aにおいて、高清浄環境装置10の向かって左側の側面は、内包する単位処理装置30の左側面を共有するように設定することで、高清浄環境装置10の内部を外界から隔離することも有効である。
【0057】
以上のように、この第2の実施の形態によれば、単位処理装置30を高清浄環境装置10の閉空間13内に設けたので、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、単位処理装置30に対する各種の作業を高清浄環境下で行うことが可能となる。また、上述したように手軽に持ち運び可能なように高清浄環境装置10を構成することによって、通常環境においても、高清浄環境が必要な場合に素早く高清浄環境を構築することができる。すなわち、高清浄環境装置10を極めてコンパクトに押しつぶした状態で搬送することができるので、任意の単位処理装置30付近において高清浄環境装置10が使用できる状態にする「その場立ち上げ」をすることができ、デバイス製造装置の構築を支援するシステムとすることができる。また、例えば、高清浄環境装置10を鞄やアタッシュケースなどに入れて移動し、日常活動の現場や、ビジネス先で「その場立ち上げ」をし、無菌、無塵環境を災害地医療、実験の解析等に用いることができる。また、この高清浄環境システム40をミニチュア化することで、無菌、無塵環境が極めて簡便に低コストで実現できることを、大衆の目の前等の任意の場所で示すことが可能となるので、啓蒙活動を行う支援ツールとして有効利用することができる。
【0058】
<3.第3の実施の形態>
図6は、第3の実施の形態による高清浄環境システム40を示す。図6においては、明瞭化のために高清浄環境装置10のうち骨格12のみを図示し、その他の構成は省略するが、高清浄環境装置10の構成は第1の実施の形態において述べた通りである。図4に示すように、この高清浄環境システム40は、高清浄環境装置10の閉空間13内に、複数台(図6においては3台の例が示されている)の単位処理装置30が互いに連結されて収納されている。この場合、骨格12の幅(短辺)の長さが、互いに連結された3台の単位処理装置30に対応する。その他のことは第2の実施の形態と同様である。
【0059】
この第3の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0060】
<4.第4の実施の形態>
図7は、第4の実施の形態による高清浄環境システム40を示す。図7においては、明瞭化のために高清浄環境装置10のうち骨格12のみを図示し、その他の構成は省略するが、高清浄環境装置10の構成は第1の実施の形態において述べた通りである。図7に示すように、この高清浄環境システム40には、単位処理装置30が1台収納されている。この場合、骨格12の折り曲げ部の長さが、単位処理装置30の高さに対応し、骨格12の中間部の長さが、単位処理装置30の上部投影面を構成する辺のうち骨格12に平行する辺の長さに対応する。
【0061】
図8は骨格12の一例を示す。図8に示すように、骨格12は、ゴムチューブを連結することによって閉じた回路を形成している。この場合、骨格12の配置方法は、例えば、単位処理装置30の側面から骨格12をスライドさせるようにして配置する方法と、骨格12を単位処理装置30の上部から被せるようにして配置する方法とが挙げられるが、前者のように単位処理装置30の側面から骨格12をスライドさせるようにして配置することが好ましい。その場合、骨格12は対向する折り曲げ部と単位処理装置30の前面および背面とが互いに対向するようにして設けられる。また、例えば、骨格12の中間部の長さが、例えば、単位処理装置30の上部投影面を構成する辺のうち骨格12に平行する辺の長さよりも長く形成されることもできる。この場合、折り曲げ部が単位処理装置30よりも手前に迫り出すようにして骨格12が配置されることによって、単位処理装置30と包囲体11との間に間隔が生まれ、その間隔から包囲体11の内部へのアクセス、例えば、装置等の出し入れが可能となる。その他のことは第2または3の実施の形態と同様である。
【0062】
この第4の実施の形態によれば、第2および第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0063】
<5.第5の実施の形態>
この第5の実施の形態による高清浄環境システム40においては、第4の実施の形態による高清浄環境システム40における単位処理装置30の代わりに、人がそばで作業する一定の大きさの手術台等の医療設備が高清浄環境装置10の内部に収納される。その他のことは第4の実施の形態と同様である。
【0064】
この第5の実施の形態によれば、必要な場所で、必要な時に、必要な期間だけ、高清浄環境を機動性良く実現することができ、災害現場等での緊急医療や治療に用いて好適である。
【0065】
<6.第6の実施の形態>
図9Aは、第6の実施の形態による高清浄環境システム40に設けられる前室の骨格を示す。図9Bは、第5の実施の形態の高清浄環境システム40の、前室、主室一体型の骨格を示す。ここでは、主室は特に限定されないが、例えば、第1〜第4の実施の形態のいずれかの実施の形態において用いられる高清浄環境装置10を用いるものとする。図9Aに示すように、前室骨格62は、下方の折り曲げ部の端部が開口していること以外は、骨格12と同様な構成を有する。前室骨格62の2つの下端部はそれぞれ閉塞されており、注入口65から気体や液体が注入されても、下端部から漏れ出すことは無い。図9Bに示すように、この骨格67は、骨格12と前室骨格62とを組み合わせたような形状を有し、一体に形成されている。骨格67の形状は、骨格12の前面部と前室骨格62の背面部とが接するように一体となった形状を有し、それぞれの骨格の中空部は互いに連通している。注入口65から空気等の気体や水等の液体が骨格67の内部に封入されると、前室と主室との骨格を一度に形成することができる。
【0066】
図10Aは、高清浄環境装置10に前室60が追加して設置される場合に高清浄環境装置10に設けられた前室骨格62を示す。図10Bは、前室60が設けられた高清浄環境装置10を有する高清浄環境システム40を示す。
【0067】
図10Aに示すように、前室骨格62は、高清浄環境装置10(以下においては、必要に応じて主室と言う)の入退出用気密ファスナー14とガス交換膜16とを有する面に、前室骨格62の折り曲げ部の端部(端辺)が接するように設けられる。前室骨格62は、注入口65から内部に空気等の気体や水等の液体が封入されることで、骨格12と同様に前室包囲体61の一部を構成することができる。主室は、例えば、第1の実施の形態による高清浄環境装置10および第2〜第4の実施の形態のいずれかの実施の形態の高清浄環境システム40を構成する高清浄環境装置10の中から適宜選ばれる。
【0068】
また、図10Bに示すように、この高清浄環境システム40は、図10Aで示した前室骨格62を覆うようにして前室包囲部61aが設けられ、前室60を構成する前室包囲体61が形成されている。このように形成されることで、前室60は、主室(高清浄環境装置10)の入退出用気密ファスナー14とガス交換膜16とを有する面を覆うようにして設けられる。前室包囲体61の内部には密閉可能な前室閉空間63が形成されており、前室閉空間63の内部には吸気口71を有するファン・フィルターユニット70が設けられており、ファン・フィルターユニット70の排気口には気体流路73が気密性を持って接続されている。ファン・フィルターユニット70と気体流路73とは、入退出用気密ファスナー14およびガス交換膜16を塞がないようにして設けられる限り、基本的にはどのように設けられてもよいが、例えば、上記に述べたファン・フィルターユニット20と気体流路23と同様に設けられる。前室包囲部61aの前室包囲体61の側面を構成する部分には、例えば、人間等が外部空間と前室60との間を出入り可能に構成された入退出用気密ファスナー64が設けられている。この場合、入退出用気密ファスナー14は、高清浄環境装置10と前室60との間を出入り可能に構成される。また、前室包囲部61aの外部空間と接する部分の少なくとも一部はガス交換膜66で構成されている。
【0069】
次に、この高清浄環境システム40の動作について説明する。まず、外部空間から、入退出用気密ファスナー64を開けて前室60に人が入り、入退出用気密ファスナー64を閉めた後、前室60において、例えば、数十秒〜数分待つ。この間にファン・フィルターユニット70を駆動させることで100%密閉循環フィードバック系が機能し、前室60の内部の清浄度が飛躍的に向上する。こうして前室60の内部の清浄度が十分に向上した後に入退出用気密ファスナー14を開けて主室の内部へ入った後、入退出用気密ファスナー14を閉める。こうすることで、単位処理装置30を有する主室内部の清浄度を一切劣化させること無く、外部空間から主室内部に人が入ることができる。一方で、人間などが退出するときも、入退出用気密ファスナー14を開けて主室から前室60に入った後、入退出用気密ファスナー14を閉じ、その後、入退出用気密ファスナー64を開けて外部へ出ることで、主室の清浄度を一切劣化させること無く、外部空間へ出ることができる。この場合、前室60内部の酸素は、ガス交換膜66を介して外部から供給され、また、主室内の酸素はガス交換膜16を介して前室60から供給されるので、両室の内部に入った人間等が窒息することはない。その他のことは第1〜4の実施の形態と同様である。
【0070】
以上のように、この第6の実施の形態によれば、主室である高清浄環境装置10を構成する包囲体11のうち入退出用気密ファスナー14とガス交換膜16とを有する面を覆うようにして設けられた前室60が新たに設けられたので、第1〜4の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、単位処理装置30を有する主室内部の清浄度を一切劣化させること無く、外部空間から主室内部へ人が入ることができ、また、主室の清浄度を一切劣化させること無く、外部空間へ出ることができる。
【0071】
<7.第7の実施の形態>
図11は、第7の実施の形態による高清浄環境システム40に用いられる高清浄環境装置10の骨格を示す。図11に示すように、この骨格12は、気体流路23と一体に形成されている。ここで、気体流路23は、管状でなく、図11の鉛直方向の側面の一つの平行な、例えば、ビニール製の膜を用い、この膜をもって、ファン・フィルターユニット20の吸気面と送風面とを仕切ることによっても形成できる。
【0072】
気体流路23は、排気口22とファン・フィルターユニット20の排気口に接続される吸気口24とを両端部に有していて貫通形状を有している。気体流路23を構成する材料は、例えば、骨格12を構成する材料として上記に挙げたものの中から適宜選択することができるが、例えば、人間の力で折り曲げられる程度の可撓性を有する可撓体で構成されることが好ましい。気体流路23を可撓体で構成することによって、骨格12に空気を封入しない収納時において折り畳むことで収納面積を小さくすることができる。また、骨格12の中空部と気体流路23の流路部とは互いに独立して形成されており、骨格12の中空部に封入される空気等の気体あるいは水等の液体が気体流路23の流路部に流れ込むことはない。
【0073】
収納時の骨格12の内部に注入口15から空気等の気体や水等の液体が注入されると、例えば、上述したように、内部圧力によって骨格12を構成する弾性体などに張力が発生し、この張力を気体流路23が受けることによって気体流路23が、使用時の骨格12の高さと同様の高さまで伸張し、気体流路23が使用可能な状態となる。その他のことは、第1〜第5の実施の形態のいずれかの実施の形態と同様である。この骨格12は、第2〜第5の実施の形態において用いられるいずれかの高清浄環境装置10に適用が可能である。
【0074】
以上のように、この第7の実施の形態によれば、高清浄環境装置10の骨格12を気体流路23と一体に構成し、収納時においては折り畳み可能なように構成したので、第1〜第6の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、高清浄環境装置10の収納面積を小さくすることができ、また、高清浄環境装置10の立ち上げを素早く行うことができる。
【0075】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0076】
例えば、ゴムチューブの代わりに、木製折り畳み式物差し様の構造体を用いることもできる。この場合、上記構造体が持つ、細長い扁平な板材を一軸の周りで回転可能に束ねる構造を、本発明の骨格構造形成上有効に働かせるため、上記の軸は、空間次元を構成する3方向を分担して担えるように望ましくは3種類、最低2種類設けることが望ましい。空間の縦・横・奥行の3方向のうちまた、一方向(一軸)の周りのみで回転可能な構造を用いる場合には、上記木製折り畳み式物差し様の構造体のセグメントの途中で90度折り曲げられる構造を用いることが極めて有効である。また、ガス交換膜は、黒色の繊維等による不織布等を用いることで、例えば、感光を防止する必要があるプロセス途中の素子を内包している単位処理装置の修理等を行う上での精度をより一層高めることが可能となる。また、本発明の実施方法の一つであるエアテント状構造を使用する場合、このエアテントの骨格へ入れる空気は、封入密閉してもよいし、或いは、100%循環フィードバックシステムの送風ファンによる空気流を、上記骨格内に導入することで、上記エアテントを支えることに利用することも有効である。この場合、常に、この骨格内からテント内に、目の細かいフィルター状膜等を通して、一定の清浄空気流が定常的に流入することとなる。
【0077】
また、例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、材料、形状、配置などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、形状、配置などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10…高清浄環境装置、11…包囲体、11a…包囲部、12…骨格、13…閉空間、14…入退室用気密ファスナー、15…注入口、16…ガス交換膜、20…ファン・フィルターユニット、21…吸気口、22…排気口、23…気体流路、30…単位処理装置、31…接続部、40…高清浄環境システム、50…デバイス製造装置、60…前室、61…前室包囲体、61a…前室包囲部、62…前室骨格
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13