(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241891
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】セッション継続システムおよびその方法
(51)【国際特許分類】
H04L 12/721 20130101AFI20171127BHJP
H04L 12/751 20130101ALI20171127BHJP
【FI】
H04L12/721 Z
H04L12/751
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-5723(P2015-5723)
(22)【出願日】2015年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-131353(P2016-131353A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】特許業務法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 利幸
(72)【発明者】
【氏名】松林 泰則
【審査官】
速水 雄太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−229130(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0210416(US,A1)
【文献】
今井和雄,五十嵐健,コンピューティング連携型ネットワーク仮想化とその実現技術,電子情報通信学会論文誌 (J95−B) 第6号,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2012年 6月 1日,第707−716頁
【文献】
中村孝幸ほか,データセンタ間のVNFの分散・集約に応じた経路制御方式の検討,電子情報通信学会2014年通信ソサイエティ大会講演論文集2 B−7−35,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2014年 9月 9日,第92頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/721
H04L 12/751
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ端末を接続する第1の通信装置とそれ以外の第2の通信装置とを少なくとも含んで構成される通信キャリアのWANを介して、複数のデータセンタにそれぞれ配置されたセッション制御を行うネットワークサービス機能のいずれかに当該ネットワークサービス機能を利用するユーザ端末を収容するに当たって、データセンタ側通信装置と前記第1の通信装置との間に設定されるネットワークサービス機能毎かつ第1の通信装置毎のトンネルを通じて行う場合において、ユーザ端末の収容先ネットワークサービス機能が変更されても変更前のセッションの切断を回避するためのセッション継続システムであって、
ネットワークサービス機能とデータセンタ側通信装置との間に設けられ、ユーザ端末とネットワークサービス機能との間で送受信されるパケットのみを参照し、当該パケットがユーザ端末の収容先ネットワークサービス機能の変更前に開始されたセッションに属するかどうかを識別し、変更前に開始されたセッションに属するパケットは変更前のネットワークサービス機能に対応するデータセンタ側通信装置へ振り分け、それ以外は変更後のネットワークサービス機能へ振り分けるパケット振分機能と、
データセンタのネットワークサービス機能を管理し、ネットワークサービス機能の追加または削除を行い、ネットワークサービス機能を追加または削除したデータセンタのデータセンタ側通信装置、あるいは前記データセンタ側通信装置に接続された第2の通信装置に対して経路追加または経路削除の経路広告を送信するとともに、ネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報を前記パケット振分機能に設定するネットワークサービス機能管理装置とを具備した
ことを特徴とするセッション継続システム。
【請求項2】
収容先ネットワークサービス機能変更後にユーザ端末とネットワークサービス機能との間で送受信されるパケットのみから、新規セッションの確立要求パケットか、収容先ネットワークサービス機能変更前に開始されたセッションに属するパケットか、について判別困難な場合に、収容先ネットワークサービス機能変更直後から一定期間内にユーザ端末とネットワークサービス機能との間で送受信されるパケットの有無に基づき振り分けを行うパケット振分機能を具備するとともに、
ネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報として、学習時間および学習対象に関する情報を設定するネットワークサービス機能管理装置を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載のセッション継続システム。
【請求項3】
収容先ネットワークサービス機能変更後にユーザ端末とネットワークサービス機能との間で送受信されるパケットのみから、新規セッションの確立要求パケットが判別可能な場合に、収容先ネットワークサービス機能変更直後から開始されたセッションかどうかを判別し、振り分けを行うパケット振分機能を具備するとともに、
ネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報として、振分機能にて判別対象となるセッションに関する情報を設定するネットワークサービス機能管理装置を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載のセッション継続システム。
【請求項4】
パケット振分機能における収容先変更前のネットワークサービス機能に対応するデータセンタ側通信装置への振分対象のセッション数を監視し、前記データセンタ側通信装置への振分対象のセッションが観測されなくなった時点で、前記データセンタ側通信装置と同データセンタ内に配置されたネットワークサービス機能との間の通信経路を、パケット振分機能を経由しない経路に変更させるネットワークサービス機能管理装置を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載のセッション継続システム。
【請求項5】
ユーザ端末を接続する第1の通信装置とそれ以外の第2の通信装置とを少なくとも含んで構成される通信キャリアのWANを介して、複数のデータセンタにそれぞれ配置されたセッション制御を行うネットワークサービス機能のいずれかに当該ネットワークサービス機能を利用するユーザ端末を収容するに当たって、データセンタ側通信装置と前記第1の通信装置との間に設定されるネットワークサービス機能毎かつ第1の通信装置毎のトンネルを通じて行う場合において、ユーザ端末の収容先ネットワークサービス機能が変更されても変更前のセッションの切断を回避するためのセッション継続方法であって、
ネットワークサービス機能とデータセンタ側通信装置との間に設けられ、ユーザ端末とネットワークサービス機能との間で送受信されるパケットのみを参照し、当該パケットがユーザ端末の収容先ネットワークサービス機能の変更前に開始されたセッションに属するかどうかを識別し、変更前に開始されたセッションに属するパケットは変更前のネットワークサービス機能に対応するデータセンタ側通信装置へ振り分け、それ以外は変更後のネットワークサービス機能へ振り分けるパケット振分機能と、
データセンタのネットワークサービス機能を管理し、ネットワークサービス機能の追加または削除を行い、ネットワークサービス機能を追加または削除したデータセンタのデータセンタ側通信装置、あるいは前記データセンタ側通信装置に接続された第2の通信装置に対して経路追加または経路削除の経路広告を送信するとともに、ネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報を前記パケット振分機能に設定するネットワークサービス機能管理装置とを用い、
ネットワークサービス機能管理装置が、所定のデータセンタに対するネットワークサービス機能の追加を行う工程と、
ネットワークサービス機能管理装置が、前記ネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報を前記所定のデータセンタのパケット振分機能に設定する工程と、
ネットワークサービス機能管理装置が、前記所定のデータセンタのデータセンタ側通信装置、あるいは前記データセンタ側通信装置に直結された第2の通信装置に対して経路追加の経路広告を送信する工程と、
前記第2の通信装置が、前記経路追加の経路広告を契機に、追加前のネットワークサービス機能宛のパケットのルートを前記所定のデータセンタのデータセンタ側通信装置に切り替える工程と、
前記所定のデータセンタのパケット振分機能が、収容先ネットワークサービス機能の変更前に開始されたセッションに属するパケットを変更前のネットワークサービス機能に対応するデータセンタ側通信装置へ振り分ける工程とを少なくとも含む
ことを特徴とするセッション継続方法。
【請求項6】
ユーザ端末を接続する第1の通信装置とそれ以外の第2の通信装置とを少なくとも含んで構成される通信キャリアのWANを介して、複数のデータセンタにそれぞれ配置されたセッション制御を行うネットワークサービス機能のいずれかに当該ネットワークサービス機能を利用するユーザ端末を収容するに当たって、データセンタ側通信装置と前記第1の通信装置との間に設定されるネットワークサービス機能毎かつ第1の通信装置毎のトンネルを通じて行う場合において、ユーザ端末の収容先ネットワークサービス機能が変更されても変更前のセッションの切断を回避するためのセッション継続方法であって、
ネットワークサービス機能とデータセンタ側通信装置との間に設けられ、ユーザ端末とネットワークサービス機能との間で送受信されるパケットのみを参照し、当該パケットがユーザ端末の収容先ネットワークサービス機能の変更前に開始されたセッションに属するかどうかを識別し、変更前に開始されたセッションに属するパケットは変更前のネットワークサービス機能に対応するデータセンタ側通信装置へ振り分け、それ以外は変更後のネットワークサービス機能へ振り分けるパケット振分機能と、
データセンタのネットワークサービス機能を管理し、ネットワークサービス機能の追加または削除を行い、ネットワークサービス機能を追加または削除したデータセンタのデータセンタ側通信装置、あるいは前記データセンタ側通信装置に接続された第2の通信装置に対して経路追加または経路削除の経路広告を送信するとともに、ネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報を前記パケット振分機能に設定するネットワークサービス機能管理装置とを用い、
ネットワークサービス機能管理装置が、所定のデータセンタのネットワークサービス機能において制御するセッションに応じた情報を前記所定のデータセンタと同一のネットワークサービス機能を有する他のデータセンタのパケット振分機能に設定する工程と、
ネットワークサービス機能管理装置が、前記所定のデータセンタのデータセンタ側通信装置、あるいは前記データセンタ側通信装置に直結された第2の通信装置に対して経路削除の経路広告を送信する工程と、
前記第2の通信装置が、前記経路削除の経路広告を契機に、削除前のネットワークサービス機能宛のパケットのルートを前記他のデータセンタのデータセンタ側通信装置に切り替える工程と、
前記他のデータセンタのパケット振分機能が、収容先ネットワークサービス機能の変更前に開始されたセッションに属するパケットを変更前のネットワークサービス機能に対応するデータセンタ側通信装置へ振り分ける工程と、
ネットワークサービス機能管理装置が、前記所定のデータセンタに対するネットワークサービス機能の削除を行う工程とを少なくとも含む
ことを特徴とするセッション継続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信キャリアが有するWAN(Wide Area Netwrok)内の複数のデータセンタ(Data Center:DC)に対し、セッション制御を行う仮想化されたネットワークサービス機能(Virtual Network Function:VNF)を配置した場合において、ユーザ端末の収容先を或るDC内のVNFから他のDC内のVNFへ変更した際にセッション継続を可能とする技術、特にユーザ端末とVNFとの間で送受信されるパケットの情報から各セッションが収容先VNFの変更前後のいずれの時点から開始されたかを識別し、パケットの振り分け先を決定する技術に関する。
【0002】
なお、本願でいう「パケット」には、一定単位のデータからなり、宛先を示す情報等に従って伝送されるフレームやセルを含むものとする。
【背景技術】
【0003】
近年、通信キャリアのネットワークが有するネットワークサービス機能を仮想化し、DC等に配備された汎用サーバ上で実現する技術が注目されている。通常、VNFの配置拠点となるDCは、大規模災害等によるビル罹災を考慮し、地理的に分散された複数の拠点にある。このとき、新規サービスの迅速な提供およびVNFへの効率的なリソース割当の観点から、サービス開始時にはVNFを特定のDCに集約し、サービスの利用ユーザ数増加等に伴う使用リソース増加時に複数のDCへ分散させること、あるいはその逆にサービスの利用ユーザ数減少等に伴うリソース減少時に特定のDCへ集約することが有効と考えられる。このようなDC間のVNFの分散・集約に際し、通信キャリアのWAN内におけるトラヒック流通の効率化のためには、ユーザ端末の通信を制御する、すなわちユーザ端末の収容先VNFを、各ユーザ端末に対し直近のDCに配置されたVNFとする必要がある。
【0004】
ユーザ端末の収容先VNFを直近のDC内のVNFとするための経路切替技術として、非特許文献1にてWAN内のコアルータのルーティング機能を利用することで経路切替を迅速に実施可能とする方式が提案されている。以降では、本方式をルーティング切替方式と記す。
【0005】
ルーティング切替方式の概要について
図1を用いて説明する。ルーティング切替方式では、ユーザ端末を収容するエッジルータとDCが有するゲートウェイ(DC−GW)との間にVNF毎かつエッジルータ毎のトンネル通信路(以下、「トンネル」と略す。)を設定する。このとき、複数のDC−GW間で各トンネルの端点が有するIPアドレスを共用する、すなわち当該トンネルに対応するVNF宛のパケットをエッジルータからDC−GWに対して送信する際に、パケットに付与されるトンネルヘッダにおける送信先アドレスとなるIPアドレスを共用する。
【0006】
これにより、VNFの分散または集約に際しては、VNFを追加または削除したDC内のDC−GWより、当該VNFに対応するトンネルのDC−GWが有する端点IPアドレスについて、経路追加あるいは経路削除をコアルータに対して経路広告することで、エッジルータから送信される当該VNF宛パケットの経路を、直近のDC−GWに向かう経路に切り替えることが可能となる。
【0007】
以上で説明した通り、ルーティング切替方式では、経路切替前後でエッジルータとDC−GWとの間のVNF毎かつエッジルータ毎のトンネルのうちDC−GW側の端点が、或るDC−GWから別のDC−GWに変更となる。これに伴い、ユーザ端末の収容先VNFも変更となる。
【0008】
ここで、VNFがコンテンツ配信を行うキャッシュ機能(vCDN)等のように、TCPセッション等のセッションの状態を管理し、セッション単位の制御を行うVNF(以降、セッション制御型VNF)の場合を考える。このとき、ルーティング切替方式によりユーザ端末の収容先VNFが変更となることで、経路切替前より開始されたセッションを管理・制御するセッション制御型VNFも変更となる。変更先のセッション制御型VNFは、経路切替前より開始されたセッションの状態を保持していないため、当該セッションの切断が発生する。これにより、キャリアサービスとして要求されるサービス可用性が満たされなくなることや、キャッシュ機能からのデータ配信時のダウンロード時間増加によるユーザの体感品質が劣化する等のサービス品質が劣化するという問題が発生する。そのため、ルーティング切替方式を用いる場合、収容先VNF変更に伴うセッション断を回避する必要がある。
【0009】
ルーティング切替方式に伴うセッション断の回避を可能とする従来技術として、非特許文献2に挙げられている通り、切替前後のセッション制御型VNF間で状態同期を行う技術(従来技術1)および、収容先VNFの変更前より継続するセッションは当該セッション状態を保持する変更前のセッション制御型VNFへ、経路切替後に開始されたセッションは変更後のセッション制御型VNFに振り分ける技術(従来技術2)がある。
【0010】
従来技術1の概要について、
図2を用いて説明する。従来技術1では、経路切替に先立ち、収容先VNF変更前にユーザ端末を収容しているセッション制御型VNFのセッション状態を、変更後にユーザ端末を収容するセッション制御型VNFと同期させる。これにより、収容先VNF変更後にユーザ端末の収容先となるセッション制御型VNFがセッション状態を保持することとなり、収容先VNF変更前に開始されたセッションの制御が可能となり、セッション断を回避することができる。
【0011】
従来技術2の概要について、
図3を用いて説明する。従来技術2では、セッション制御型VNFからユーザ端末宛に送信するパケット内におけるバージョン情報等を示すヘッダフィールドにセッション開始時刻の情報を埋め込む。本情報を埋め込まれたパケットを受信したユーザ端末では、多くの場合、受信したパケット内のセッション開始時刻の情報を持ち回り、ユーザ端末からVNF宛に送信するパケットにも当該情報を付与することとなる。
【0012】
また、従来技術2では、ユーザ端末とVNFとの間に本セッション開始時刻の情報に基づきユーザ端末からのパケットを各VNFに振り分ける機能(図中では「振分機能」と表記する。)を配置する。ルーティング切替方式による経路切替後は、振分機能にてセッション開始時刻に基づき、経路切替時刻より前に開始されたセッションであれば変更前の収容先であるセッション制御型VNFに、経路切替時刻後に開始されたセッションであれば変更後の収容先であるセッション制御型VNFに振り分ける。これにより、経路切替後にユーザ端末の収容先であるセッション制御型VNFにおいて、経路切替前に開始されたセッションの制御を可能とすることで、セッション断を回避することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1では、ユーザ端末の収容先VNF変更前後において、セッション制御型VNF間の状態不整合によるセッション断の発生を防ぐために、一時的にユーザ端末からの新規のセッション開始要求の受付を規制し、その間に両VNF間の差分状態を同期する必要がある。これにより、接続損失や接続遅延が発生し、接続品質が劣化することが課題となる。また、状態同期のために、収容先VNF変更前後のセッション制御型VNFやVNFを収容するサーバの負荷が増大することが課題となる。
【0014】
従来技術2では、セッション制御型VNFにおいて、セッション制御型VNF毎に使用するプロトコルのヘッダフォーマット等に応じて、セッション開始時刻の情報をパケットに埋め込む機能が必要となる。ここで、多様なサービスを提供する通信キャリアにおいては、様々なセッション制御型VNFを配備することが考えられる。このとき、全てのVNFをキャリア自ら内製することなく、市販されているVNF製品も活用することで、開発費用削減や新規サービス提供の迅速が期待される。一方で、市販のVNF製品に対し前述の機能の追加が必要となる。すなわち、従来技術2では、市販のVNF製品を活用する際に機能追加に伴う開発費用や検証稼働が増えることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、前記目的を達成するため、VNFとDC−GWとの間に、ユーザ端末とVNFとの間で送受信されるパケットのみを参照し、当該パケットがユーザ端末の収容先VNFの変更前に開始されたセッションに属するかどうかを識別可能な振分機能を設ける。当該振分機能では、収容先VNFの変更前に開始されたセッションに属するパケットは変更前のVNFに対応するDC−GWへ振り分ける。また、その他のパケットは変更後の収容先VNFへ振り分ける。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セッション制御を行うVNFの場合において、ユーザ端末の収容先VNFの変更に際し、接続品質の劣化やVNFの負荷増大、あるいはVNFへの機能追加を伴うことなく、収容先の変更前より開始したセッションの切断を回避することができる。これにより、サービスの可用性やユーザの体感品質の劣化を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】セッション断を回避可能な従来技術1の概要を示す説明図
【
図3】セッション断を回避可能な従来技術2の概要を示す説明図
【
図4】本発明のセッション継続システムの実施形態の一例を示すネットワーク構成図
【
図5】本発明のセッション継続システムの実施例1を示す説明図
【
図6】本発明のセッション継続システムの実施例1を示す動作シーケンス図
【
図7】本発明のセッション継続システムの実施例2を示す説明図
【
図8】本発明のセッション継続システムの実施例2を示す動作シーケンス図
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態の構成>
図4は本発明のセッション継続システムの実施形態の一例、ここではルーティング切替方式による経路切替前に開始されたセッションの切断を回避することを実現するネットワークの構成を示すもので、図中、10はエッジルータ、20はコアルータ、30はVNF、40はDC−GW、50はVNF毎かつエッジルータ毎のトンネル、60は振分機能、70は管理システムである。なお、以下の説明において#1、#2等の記号により各装置を特定する場合、符号10、20、…は省略するものとする。
【0019】
ここで、上述した各構成と特許請求の範囲における各構成との関係について述べると、エッジルータ10が第1の通信装置に相当し、コアルータ20が第2の通信装置に相当し、VNF30がネットワークサービス機能に相当し、DC−GW40がデータセンタ側通信装置に相当し、トンネル50がネットワークサービス機能毎かつ第1の通信装置毎のトンネルに相当し、振分機能60がパケット振分機能に相当し、管理システム70がネットワークサービス機能管理装置に相当する。
【0020】
基本的な構成は
図3とほぼ同様であるが、振分機能60および管理システム70に配備する機能が異なる。
【0021】
なお、ルーティング切替方式による経路切替後において、経路切替前に開始されたセッションを制御するVNF30が配備されたDC(
図4中のDC#1)のDC−GW#1から、経路切替後に接続先DC−GWが変更となるエッジルータ(
図4中のエッジルータ#2)までのトンネル50の経路(下り方向の通信経路)は、
図4の通り、コアルータ20を介して接続される経路のほか、ユーザ端末からVNF30までの上り方向の経路、すなわち振分機能60を経由する経路としても良い。ここで、ルーティング切替方式では、経路切替により変わるのは、エッジルータ10からDC−GW40に向かう方向(上り方向)のトンネル50の経路であり、
図4中に記載の両DC−GW(DC−GW#1、DC−GW#2)からエッジルータ10に向かう方向(下り方向)のトンネル50は、いずれも両DC−GWからエッジルータ10まで到達可能なことに変更はない。
【0022】
ネットワークの構成要素の機能を以下に示す。なお、以降では、
図4の通り、ユーザ端末の収容先となるVNF30について収容先VNF変更前のものをDC#1内のVNF#1、収容先VNF変更後のものをDC#2内のVNF#1、DC#1のDC−GWをDC−GW#1、DC#2のDC−GWをDC−GW#2と表記する。
【0023】
≪振分機能≫
振分機能60は、ユーザ端末とセッション制御型のVNF30との間で送受信されるパケットのみを参照し、当該パケットがユーザ端末の収容先VNF30の変更前に開始されたセッションに属するかどうかを識別し、収容先VNF変更前に開始されたセッションに属するパケットはDC−GW#1へ、それ以外、即ち収容先VNF変更後に開始されたセッションに属するパケットはDC#2内のVNF#1へ振り分ける機能を有する。
【0024】
より具体的に、本振分機能60の実現方式としては、ユーザ/セッション識別情報学習方式と、新規セッション判別方式とが挙げられる。各方式の詳細を以下に示す。
【0025】
・ユーザ/セッション識別情報学習方式
本方式では、収容先VNF変更後にユーザ端末とVNF30との間で送受信されるパケットのみから、新規セッションの確立要求パケットか、収容先VNF変更前に開始されたセッションに属するパケットか、について判別困難な場合に、収容先VNF変更直後から一定期間内にユーザ端末とVNFとの間で送受信されるパケットの有無に基づき振り分けを行う。具体的には以下の通りの方式である。
【0026】
ルーティング切替方式による収容先VNF変更直後は、パケットのヘッダ内に含まれるIPアドレスやMACアドレス、ポート番号等のユーザ端末を識別可能な情報(ユーザ識別情報)、あるいはセッションを一意に識別可能なセッション情報(セッション識別情報)を記録する学習時間を設けるとともに、パケットを全てDC−GW#1へ振り分ける。予め設定された学習時間中は本動作を続け、収容先VNF変更前に開始されたセッションを使用するユーザ識別情報あるいはセッション識別情報の記録が完了した後、記録されたユーザ識別情報あるいはセッション識別情報に合致するパケットはDC−GW#1へ振り分け、その他のユーザ識別情報あるいはセッション識別情報を有するパケットはDC#2内のVNF#1へ振り分ける。
【0027】
ここで、前述の学習時間としては、VNFにおいてセッション確立中にユーザ端末より最後にパケットが到着してから、それ以降のパケットが到着しない場合にセッション断と検知されるまでの時間とする方法が挙げられる。セッション断と検知される時間とは、例えば、ユーザ端末からのパケットの到着確認がVNF30にて実施できずにタイムアウトが発生する時間や、ユーザ端末に対するセッションのキープアライブを行う間隔の時間に設定することが考えられる。これにより収容先VNF変更前より開始されたセッションが継続中にもかかわらず、学習時間中にパケットが振分機能60に到着せず、学習されないセッションの発生を防ぐことが可能となる。
【0028】
また、学習時間中に記録されたユーザ端末が収容先VNF変更前に開始したセッションを終了した後、新たなセッションを開始した際には、当該セッションに属するパケットは長経路となるDC−GW#1ではなく、DC#2内のVNF#1に振り分ける。これを実現するために、学習時間中に記録したユーザ識別情報あるいはセッション識別情報毎に、最後にパケットが到着してから経過した時間を記録し、一定時間にパケットが到着しない場合に記録から消去する。ここで、記録を消去するまでの一定時間をエージングタイマと呼ぶ。このエージングタイマは、収容先VNF変更前に開始されたセッションが継続中にもかかわらず、当該セッションのユーザ識別情報あるいはセッション識別情報が記録から消去されることを防ぐために、学習期間と同様にセッション確立中にユーザ端末から最後にパケットが到着してから以降のパケットが到着しない場合にセッション断と検知される時間とする方法が挙げられる。
【0029】
・新規セッション判別方式
本方式では、収容先VNF変更後にユーザ端末とVNFとの間で送受信されるパケットのみから、新規セッションの確立要求パケットが判別可能な場合に、収容先VNF変更直後から開始されたセッションかどうかを判別し、振り分けを行う。具体的には以下の通りの方式である。
【0030】
ユーザ端末から送信されるセッション確立要求のパケットをDC#2内のVNF#1に振り分ける。また、前記パケットや、当該セッション確立要求のパケットに対しDC#2内のVNF#1からユーザ端末に送信されるパケットの情報を基に、ユーザアドレスやセッションID等のセッションを一意に特定可能なセッション情報を記録する。以降、当該セッション情報に属するパケットをDC#2内のVNF#1に振り分ける。また、以上に該当しないパケットは収容先VNF変更前に開始されたセッションに属することとなるため、DC−GW#1に振り分ける。
【0031】
≪管理システム≫
本システムはVNFの追加や削除、各機器の設定変更等のNW全体を管理するシステムを総称して記載している。本管理システム70は、前記振分機能60と連携する以下の機能を有する。
【0032】
管理システム70は、VNF30の追加や削除に伴い、DC−GW#2に対し、ルーティング切替方式よる経路切替のためにコアルータに対する経路追加や経路削除の広告を行うことを指示する。このとき、前記振分機能60がユーザ/セッション識別情報学習方式を用いる場合、VNF30において制御するセッション等に応じて、学習時間および学習対象に関する情報を設定する。また、前記振分機能60が新規セッション判別方式を用いる場合、VNF30において制御するセッション等に応じて、振分機能60にて判別対象となるセッションに関する情報を設定する。
【0033】
また、収容先VNF変更前に開始したセッションは時間経過に伴い次第に減少し、ある期間が経過するとDC−GW#1への振分対象通信が全て完了することが想定される。このとき、ユーザ端末とVNF30との間に振分機能60を介在させないことによって、スループット等への通信影響を極力排除することが有効となる。そのため、管理システム70より、振分機能60におけるDC−GW#1への振分対象のセッション数を監視し、DC−GW#1への振分対象のセッションが観測されなくなった時点で、DC−GWと同DC内に配置されたVNFとの間の通信経路を、振分機能60を経由しない経路に変更させる機能を配備する。
【0034】
<実施形態の動作>
[実施例1]
実施例1として、DC#2近傍エリア内のユーザ端末#1がDC#1内のVNF#1に収容され、既にセッションを開始している状態において、VNF#1をDC#2に追加し、VNF#1を分散配置する場合の本発明におけるセッション継続方法を説明する。本実施例の概要を
図5、シーケンスを
図6に示す。
【0035】
まず、エッジルータ#2配下のユーザ端末#1がDC#1内のVNF#1とセッションを開始しており、通信継続中とする。本状態から、管理システム70よりVNF#1をDC#2に追加する(1)。このとき、VNF#1にて、ユーザ端末毎に設定された有害サイトフィルタのようにユーザ端末毎の契約情報に応じたサービス制御を行う場合には、DC#2内のVNF#1にはDC#2近傍のエッジルータに収容されたユーザ端末毎の設定を投入する。
【0036】
管理システム70は、振分機能#2においてユーザ/セッション識別情報学習方式を用いる場合、必要に応じて学習時間および学習対象に関する情報の設定を変更する。また、振分機能#2において新規セッション判別方式を用いる場合、必要に応じて判別対象のセッションに関する情報を設定する。さらに、以降、管理システム70は、振分機能#2よりDC−GW#1への振分対象のセッション数を監視し続ける(2)。
【0037】
以上の設定が完了した後、管理システム70はDC−GW#2に対して、VNF#1の追加が完了した後、VNF#1に対応するDC−GWとエッジルータとの間のトンネル50の端点のIPアドレスであるIP:Bの経路追加の経路広告を行うように設定する(3)。
【0038】
コアルータ#2は、DC−GW#2からの経路追加の広告(4)を契機に、IP:B宛のルートをコアルータ#1からDC−GW#2に切り替える(5)。
【0039】
以降、DC−GW#2を経由して振分機能#2にユーザ端末#1からのVNF#1宛のパケットが到着するようになる。振分機能#2では、ユーザ/セッション識別情報学習方式もしくは新規セッション判別方式を用いて、ユーザ端末#1からのVNF#1宛のパケットをDC−GW#1向けのトンネル80に振り分ける(6)。これにより、ルーティング切替方式に伴う収容先VNF変更前後で、ユーザ端末#1については引き続きVNF#1に収容されるため、セッション断を回避することが可能となる。
【0040】
この後、ユーザ端末#1がVNF#1との通信が完了し、セッションを切断したとする。セッション切断後、再度ユーザ端末#1がVNF#1との通信の開始のためにセッションを確立した際は、振分機能#2にてDC#2内に追加されたVNF#1に振り分ける。ただし、振分機能#2がユーザ/セッション識別情報学習方式を用いる場合には、ユーザ端末#1とVNF#1との通信が完了後、再開するまでの時間がエージングタイマ以上経過している場合に限る。
【0041】
ユーザ端末#1と同様に、DC#2近傍のユーザ端末の中で、収容先VNF変更前から開始したセッションを継続するユーザ端末は、収容先VNF変更後から時間経過とともに次第に減少する。管理システム70は、振分機能#2よりDC−GW#1への振分対象のセッション数を収容先VNF変更後より監視し続けるが、当該セッションが観測されなくなった時点で、DC−GW#2とDC#2内のVNF#1との間の経路を、振分機能#2を経由せず、直結する経路に変更する(7)。
【0042】
以上より、VNF#1の集約配置から分散配置への変更に際して、ルーティング切替方式を用いて収容先VNF変更を実施した際に、収容先VNF変更前に開始したセッションの切断が回避可能となる。
【0043】
[実施例2]
実施例2として、VNF#1が実施例1で示した通りDC#1とDC#2に分散配置されている状態から、DC#2よりVNF#1を削除し、VNF#1をDC#1に集約配置する場合の本発明におけるセッション継続方法を説明する。本実施例の概要を
図7、シーケンスを
図8に示す。
【0044】
まず、実施例1の終了時点と同様に、エッジルータ#2配下のユーザ端末#1がDC#2内のVNF#1とセッションを開始しており、通信継続中とする。
【0045】
VNF#1にてユーザ端末毎に設定された有害サイトフィルタのようにユーザ端末毎の契約情報に応じたサービス制御を行う場合には、管理システム70よりDC#1のVNF#1に対し、DC#2近傍のエッジルータに収容されたユーザ端末毎の設定を投入する。
【0046】
管理システム70は、振分機能#1においてユーザ/セッション識別情報学習方式を用いる場合、必要に応じて学習時間および学習対象に関する情報の設定を変更する。また、振分機能#1において新規セッション判別方式を用いる場合、必要に応じて判別対象のセッションに関する情報を設定する。さらに、以降、管理システム70は、振分機能#1よりDC−GW#2への振分対象のセッション数を監視し続ける(1)。
【0047】
管理システム70はDC−GW#2に対して、VNF#1に対応するDC−GWとエッジルータとの間のトンネル50の端点のIPアドレスであるIP:Bの経路削除の経路広告を行うように設定する(2)。
【0048】
コアルータ#2は、DC−GW#2からの経路削除の広告(3)を契機に、IP:B宛のルートをDC−GW#2から初期状態と同様のコアルータ#1に切り替える(4)。
【0049】
以降、DC−GW#1を経由して振分機能#1にユーザ端末#1からのVNF#1宛のパケットが到着するようになる。振分機能#1では、ユーザ/セッション識別情報学習方式もしくは新規セッション判別方式を用いて、ユーザ端末#1からのVNF#1宛のパケットをDC−GW#2向けのトンネル80に振り分ける(5)。
【0050】
この後、ユーザ端末#1がVNF#1との通信が完了し、セッションを切断したとする。セッション切断後、再度ユーザ端末#1がVNF#1との通信の開始のためにセッションを確立した際は、振分機能#1にてDC#1内のVNF#1に振り分ける。ただし、振分機能#1がユーザ/セッション識別情報学習方式を用いる場合には、ユーザ端末#1とVNF#1との通信が完了後、再開するまでの時間がエージングタイマ以上経過している場合に限る。
【0051】
ユーザ端末#1と同様に、DC#2近傍のユーザ端末の中で、収容先VNF変更前から開始したセッションを継続するユーザ端末は、収容先VNF変更後に時間経過とともに次第に減少する。管理システム70は、振分機能#1よりDC−GW#2への振分対象のセッション数を収容先VNF変更後より監視し続けるが、当該セッションが観測されなくなった時点で、DC−GW#1とDC#1内のVNF#1との間の経路を、振分機能#1を経由せず、直結する経路に変更する(6)。また、本タイミングにて、DC#2内のVNF#1にて制御するセッションが無くなることから、管理システム70は、当該VNF#1をDC#2より削除する(7)。
【0052】
以上より、VNF#1の分散配置から集約配置への変更に際して、ルーティング切替方式を用いて収容先VNF変更を実施した際に、収容先VNF変更前に開始したセッションの切断が回避可能となる。
【0053】
なお、
図3、
図5〜
図8において、ユーザ端末の収容先VNFの変更前のパケットの流れは実線、変更後のパケットの流れは一点鎖線でそれぞれ表した。
【符号の説明】
【0054】
10:エッジルータ、20:コアルータ、30:VNF、40:DC−GW、50:VNF毎かつエッジルータ毎のトンネル、60:振分機能、70:管理システム、80:振分機能とDC−GWとの間のトンネル。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0055】
【非特許文献1】中村 孝幸、倉橋 利幸、小松原 重之、松林 泰則、“データセンタ間のVNFの分散・集約に応じた経路制御方式の検討”、電子情報通信学会ソサイエティ大会 B-7-35、2014
【非特許文献2】岩佐 絵里子、入江 道生、金子 雅志、福元 健、上田 清志、“高可用サーバクラスタにおける動的構成変更方式”、電子情報通信学会論文誌B、Vol.J97-B、No.1、pp.19-30、2014