特許第6241941号(P6241941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241941硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法
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  • 特許6241941-硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法 図000041
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241941
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/58 20060101AFI20171127BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 309/24 20060101ALI20171127BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20171127BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20171127BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20171127BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20171127BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20171127BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20171127BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20171127BHJP
【FI】
   C08F20/58
   C08J5/22 101
   C08J5/22CEY
   C07C309/24
   H01B1/06 A
   H01M8/02 P
   B01D71/40
   B01J39/20
   B01J47/12
   B01J20/26 D
   !H01M8/10
【請求項の数】10
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-49187(P2014-49187)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172160(P2015-172160A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】小玉 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】神長 邦行
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/011272(WO,A1)
【文献】 特開2007−146108(JP,A)
【文献】 特開2012−153853(JP,A)
【文献】 特開昭61−212550(JP,A)
【文献】 特開昭61−047458(JP,A)
【文献】 特開2014−195798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/58
C08F 120/58
C08F 220/58
B01D 71/40
B01J 20/26
B01J 39/20
B01J 47/12
C07C 309/24
C08J 5/22
H01B 1/06
H01M 8/02
H01M 8/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミドモノマーを含む硬化性組成物。
【化1】
一般式(1−1)、(1−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(b)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【化2】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(b)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す。
【請求項2】
前記一般式(1−1)で表される水溶性アクリルアミドモノマーが、下記一般式(2)で表される請求項1に記載の硬化性組成物。
【化3】
一般式(2)において、MおよびMは各々独立に、水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硬化性組成物を重合硬化してなる高分子機能性硬化物。
【請求項4】
下記一般式(I−1)または(I−2)で表される構造単位を有する高分子を含む高分子機能性硬化物。
【化4】
一般式(I−1)、(I−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(c)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【化5】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(c)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す。
【請求項5】
前記一般式(I−1)で表される構造単位が、下記一般式(II)で表される構造単位である請求項に記載の高分子機能性硬化物。
【化6】
一般式(II)において、MおよびMは各々独立に、水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
【請求項6】
前記高分子機能性硬化物がイオン交換膜、プロトン伝導膜、逆浸透膜、正浸透膜、高分子電解質または吸水性樹脂である請求項のいずれか1項に記載の高分子機能性硬化物。
【請求項7】
下記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミド化合物。
【化7】
一般式(1−1)、(1−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(b)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【化8】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(b)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す。
【請求項8】
前記一般式(1−1)で表される水溶性アクリルアミド化合物が、下記一般式(2)で表される請求項に記載の水溶性アクリルアミド化合物。
【化9】
一般式(2)において、MおよびMは各々独立に、水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
【請求項9】
下記一般式(3−1)または(3−2)で表されるオレフィン化合物、アクリロニトリルおよび発煙硫酸を反応させる水溶性アクリルアミド化合物の製造方法。
【化10】
一般式(3−1)、(3−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。ここで、m個の−[C(R)=C(R)(R)]、m個の−[L−C(R)=C(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよい。
【請求項10】
前記一般式(3−1)で表されるオレフィン化合物が、ジビニルベンゼンである請求項に記載の水溶性アクリルアミド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、電気脱塩(EDI:Electrodeionization)、連続的な電気脱塩(CEDI:Continuous Electrodeionization)、電気透析(ED:Electrodialysis)、逆電気透析(EDR:Electrodialysis reversal)等に用いられ、しかも一般用途だけでなく、医療用途でも使用され、最近では固体高分子電解質型燃料電池でも使用される。
ここで、電気脱塩(EDI)は、イオン輸送を達成するためにイオン交換膜と電位を使用して、水性液体からイオンが取り除かれる水処理プロセスである。従来のイオン交換のような他の浄水技術と異なり、酸または苛性ソーダのような化学薬品の使用を要求せず、超純水を生産するために使用することができる。電気透析(ED)および逆電気透析(EDR)は、水および他の流体からイオン等を取り除く電気化学の分離プロセスである。
【0003】
イオン交換膜には、主にポリマー中に、第四級アンモニウムのようなカチオン性基を有するアニオン交換膜(例えば、特許文献1参照)とスルホン塩のようなアニオン性基を有するカチオン交換膜(例えば、特許文献2参照)があり、いずれに対しても改良研究が盛んに行われている。また、イオン交換膜ではないが、ビスアミドアルキルスルホン酸も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/011273号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2013/011272号パンフレット
【特許文献3】米国特許第4,034,001号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン交換膜の主要性能である、低透水率、低電気抵抗、高イオン選択性は、膜のイオン交換容量、架橋密度、空孔サイズに大きく支配されている。
本発明者らのこれまでの研究において、イオン性モノマーと架橋性モノマーを塗布、硬化させる際の溶液濃度が高いほど、空孔サイズが低減し、イオン交換膜性能が良化することを明らかにしてきた。
しかしながら、市販のアクリルアミド架橋剤は、水溶性が低く高濃度で塗布することが困難であった。
【0006】
これに対し、イオン性基と架橋性基を併せ持つモノマー(チャージドクロスリンカー)を使用することで、モノマーの水溶性が改善し、高濃度塗布が可能となった。さらにイオン交換容量や架橋密度が向上したことにより、イオン交換膜性能が大幅に良化することがわかった。
しかしながら、イオン性基と架橋性基を併せ持つモノマーのうち、カチオン交換膜用は合成が煩雑であり、高コストであった。また、一般的に用いられている芳香族スルホン酸モノマーは、芳香環1つにスルホン酸を2つ以上導入することが困難なため、イオン交換容量と架橋密度に上限があり、イオン交換膜性能にも限界があった。
【0007】
従って、本発明は、イオン交換膜、特にカチオン交換膜としての性能に優れ、簡便、かつ安価に製造できる硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法を提供することを課題とする。
特に、イオン交換膜の性能のなかでも、膜の電気抵抗と透水率がともに低く、かつ選択透過性(輸率)が高い硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スルホ基とアクリルアミド基を複数有する水溶性アクリルアミドモノマー(化合物)の開発が重要と考え、種々検討し、新たな水溶性アクリルアミドモノマー(化合物)に至り、上記課題解決が可能であることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成された。
【0009】
<1>下記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミドモノマーを含む硬化性組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
一般式(1−1)、(1−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(b)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【0012】
【化2】
【0013】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(b)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す
>一般式(1−1)で表される水溶性アクリルアミドモノマーが、下記一般式(2)で表される<1>に記載の硬化性組成物。
【0014】
【化3】
【0015】
一般式(2)において、MおよびMは各々独立に、水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
>前記<1>または2>に記載の硬化性組成物を重合硬化してなる高分子機能性硬化物。
>一般式(I−1)または(I−2)で表される構造単位を有する高分子を含む高分子機能性硬化物。
【0016】
【化4】
一般式(I−1)、(I−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(c)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【0017】
【化5】
【0018】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(c)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す
>一般式(I−1)で表される構造単位が、下記一般式(II)で表される構造単位である<4>に記載の高分子機能性硬化物。
【0019】
【化6】
【0020】
一般式(II)において、MおよびMは各々独立に、水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
>高分子機能性硬化物がイオン交換膜、プロトン伝導膜、逆浸透膜、正浸透膜、高分子電解質または吸水性樹脂である<>〜<>のいずれかに記載の高分子機能性硬化物。
>下記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミド化合物。
【0021】
【化7】
【0022】
一般式(1−1)、(1−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(b)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【0023】
【化8】
【0024】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(b)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す
>一般式(1−1)で表される水溶性アクリルアミド化合物が、下記一般式(2)で表される<7>に記載の水溶性アクリルアミド化合物。
【0025】
【化9】
【0026】
一般式(2)において、MおよびMは各々独立に、水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
>下記一般式(3−1)または(3−2)で表されるオレフィン化合物、アクリロニトリルおよび発煙硫酸を反応させる水溶性アクリルアミド化合物の製造方法。
【化10】
【0027】
一般式(3−1)、(3−2)において、mは2または3を表し、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合を表す。LおよびLは単合またはアルキレン基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。ここで、m個の−[C(R)=C(R)(R)]、m個の−[L−C(R)=C(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよい
10>一般式(3−1)で表されるオレフィン化合物が、ジビニルベンゼンである<9>に記載の水溶性アクリルアミド化合物の製造方法。
【0028】
本明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、各一般式において、特に断りがない限り、複数存在する同一符号の基がある場合、これらは互いに同一であっても異なってもよく、同じく、複数の部分構造の繰り返しがある場合は、これらの繰り返しが同一の繰り返しでも、また規定する範囲で異なった繰り返しの混合の両方を意味するものである。
さらに、各一般式における二重結合の置換様式である幾何異性体は、表示の都合上、異性体の一方を記載したとしても、特段の断りがない限り、E体であってもZ体であっても、これらの混合物であっても構わない。
本発明において、「アクリル」とは、アクリルやメタクリルのようなアシル基のα位にメチル基だけでなくアルキル基が置換したものをも含み、これらの酸もしくはその塩、ならびにエステルもしくはアミドを総称するものとして使用する。すなわち、アクリル酸エステル、アミドまたは酸もしくはその塩と、α−アルキル置換アクリル酸エステル、アミドまたは酸もしくはその塩、の両方を包含するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、イオン交換膜としての性能に優れ、簡便、かつ安価に製造できる硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法が提供可能となった。
特に、イオン交換膜の性能のなかでも、膜の電気抵抗と透水率がともに低く、かつ選択透過性(輸率)が高い硬化性組成物、高分子機能性硬化物、水溶性アクリルアミド化合物およびその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】膜の透水率を測定するための装置の流路を模式的に表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<<硬化性組成物>>
本発明の硬化性組成物は、下記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミドモノマーを含む。
【0032】
【化11】
【0033】
一般式(1−1)、(1−2)において、mは2以上の整数を表し、Lはm価の基または単結合を表す。ただし、Lが単結合の場合、mは2である。LおよびLは各々独立に、単結合または2価の連結基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子または置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が下記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(b)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、下記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【0034】
【化12】
【0035】
一般式(a)において、Mは水素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。ここで、無機イオンおよび有機イオンは2価以上のイオンであってもよい。
一般式(b)において、Rは水素原子またはアルキル基を表す。
【0036】
ここで、前記一般式(1−1)または(1−2)で表される化合物は、水溶性アクリルアミドモノマーであり、水溶性であるが、本発明において、水溶性とは、25℃で水100mlに5g以上溶解するものであり、20g以上溶解するものが好ましく、100g以上溶解するものがより好ましい。
【0037】
本発明において、mは、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましく、2がさらに好ましい。
【0038】
Lにおけるm価の基は、鎖状の炭化水素の場合、炭素数1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、環状の炭化水素の場合、炭素数3〜20が好ましく、5〜20がより好ましく、芳香環の基の場合、炭素数6〜20が好ましく、6〜12がより好ましい。
【0039】
Lが2価の基の場合、単結合、アルキレン基、アリーレン基が好ましい。
アルキレン基としては、炭素数1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1または2が特に好ましく、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ヘキサメチレンが挙げられる。
アリーレン基としては、炭素数6〜20が好ましく、6〜12がより好ましく、例えば、フェニレン、ナフチレンが挙げられ、フェニレンが好ましい。
【0040】
およびLにおける2価の連結基はアルキレン基、アリーレン基が好ましく、該アルキレン基、アリーレン基の好ましい範囲は、前記Lにおけるアルキレン基、アリーレン基と同じである。
【0041】
〜Rにおける置換基は、後述の置換基群αが挙げられ、アルキル基、アリール基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
〜Rは、水素原子、アルキル基、アリール基が好ましく、水素原子、アルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
アルキル基は直鎖もしくは分岐のアルキル基で、炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1または2が特に好ましく、1が最も好ましく、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−デシルが挙げられる。
アリール基としては、炭素数6〜20が好ましく、6〜12がより好ましく、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
【0042】
一般式(1−2)においては、RとRが互いに結合して環を形成してもよく、この場合、下記一般式(1−2a)として表すことができる。
【0043】
【化13】
【0044】
一般式(1−2a)において、m、R、R、R、R、LおよびLは前記一般式(1−2)におけるm、R、R、R、R、LおよびLと同義であり、好ましい範囲も同じである。Lは単結合または2価の連結基を表す。
【0045】
における2価の連結基は、LおよびLにおける2価の連結基と同じものが挙げられ、好ましい範囲も同じである。
【0046】
とRが結合して形成された環は、5〜16員環が好ましく、5〜14員環がより好ましく、6〜12員環が特に好ましい。また形成される環はシクロアルカンが好ましく、なかでもシクロヘキサンまたはシクロドデカンが好ましい。
【0047】
における無機イオンは、アルカリ金属イオンが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンが挙げられ、好ましい。
における有機イオンは、第四級アンモニウムイオンなどが挙げられる。
は、水素イオン、無機イオンが好ましく、水素イオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンがより好ましい。
【0048】
におけるアルキル基は直鎖もしくは分岐のアルキル基で、炭素数は1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1が特に好ましく、例えば、アルキル基の具体例として、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−デシルなどが挙げられる。
は、水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0049】
本発明において、前記一般式(1−1)で表される水溶性アクリルアミドモノマーが、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0050】
【化14】
【0051】
一般式(2)において、MおよびMは、それぞれ前記一般式(a)におけるMと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0052】
以下に、一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミドモノマーの具体例を、参考例を含めてす。
【0053】
【化15】
【0054】
本発明の硬化性組成物は、前記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミドモノマーに加え、下記一般式(M)で表される水溶性アクリルアミドモノマーを含んでもよい。
【0055】
【化16】
【0056】
一般式(M)において、Rは前記一般式(b)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同じである。Mは、前記一般式(a)におけるMと同義であり、好ましい範囲も同じである。LLは、アルキレン基またはアリーレン基を表し、lは0〜10の整数を表す。
【0057】
LLにおけるアルキレン基の炭素数は1〜12が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜4がさらに好ましく、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、テトラメチレンなどが挙げられ、*−C(CHCH−がなかでも好ましい。ここで*はアミドの窒素原子に結合する位置を示す。
LLにおけるアリーレン基の炭素数は6〜16が好ましく、6〜12がより好ましく、例えば、フェニレン、ナフチレンが挙げられる。
【0058】
lは0〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1または2がさらに好ましい。
【0059】
以下に、一般式(M)で表される水溶性アクリルアミドモノマーの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
【化17】
【0061】
硬化性組成物を形成するモノマー成分100質量部のうち、前記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミドモノマーの含有量は、10〜100質量部が好ましく、40〜100質量部がより好ましく、60〜100質量部がさらに好ましく、100質量部が特に好ましい。前記一般式(M)で表される水溶性アクリルアミドモノマーの含有量は、0〜70質量部が好ましく、0〜60質量部がより好ましく、0〜40質量部がさらに好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0062】
ここで、置換基群αを説明する。
置換基群αは、以下の置換基からなる置換基の群である。
【0063】
(置換基群α)
置換基群αとして、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数3〜20、特に好ましくは炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、例えばシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルキニル基であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(アミノ基、アルキルアミノ基、アリ−ルアミノ基を含み、好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のヘテロ環オキシ基であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、
【0064】
アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルオキシ基であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、
【0065】
アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(スルファモイル基、アルキルもしくはアリールスルファモイル基を含み、好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、
【0066】
カルバモイル基(カルバモイル基、アルキルもしくはアリールカルバモイル基を含み、好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のヘテロ環チオ基であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、
【0067】
アルキルもしくはアリールスルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルもしくはアリールスルホニル基であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルもしくはアリールスルフィニル基であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子が挙げられる)、
【0068】
シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環基であり、環構成ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましく、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリル基であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリルオキシ基であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)などが挙げられる。
【0069】
これらの置換基は、更に上記置換基群αより選択されるいずれか1つ以上の置換基により置換されてもよい。
なお、本発明において、1つの構造部位に複数の置換基があるときには、それらの置換基は互いに連結して環を形成していたり、上記構造部位の一部または全部と縮環して芳香族環もしくは不飽和複素環を形成していたりしてもよい。
【0070】
<重合開始剤>
本発明の前記組成物は、重合開始剤の共存下で重合硬化を行うことが好ましく、従って、前記組成物中に重合開始剤を含むことが好ましい。
【0071】
重合開始剤の中でも、本発明においては、活性放射線照射で重合させることが可能な光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機化酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びにアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0072】
芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキシド化合物、および、チオ化合物の好ましい例としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」,pp.77〜117(1993)に記載のベンゾフェノン骨格又はチオキサントン骨格を有する化合物等が挙げられる。より好ましい例としては、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特公平1−34242号公報、米国特許第4,318,791号明細書、欧州特許出願公開第0284561A1号明細書に記載のα−アミノベンゾフェノン類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類等を挙げることができる。また、特開2008−105379号公報、特開2009−114290号公報に記載の重合開始剤も好ましい。また、加藤清視著「紫外線硬化システム」(株式会社総合技術センター発行:平成元年)の第65〜148頁に記載されている重合開始剤などを挙げることができる。
【0073】
本発明では、水溶性の重合開始剤が好ましい。
ここで、重合開始剤が水溶性であることは、25℃において蒸留水に0.1質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の光重合開始剤は、25℃において蒸留水に1質量%以上溶解することがさらに好ましく、3質量%以上溶解することが特に好ましい。
【0074】
本発明において、重合開始剤の含有量は、組成物中の全固形分質量100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、0.3〜2質量部がさらに好ましい。
【0075】
<重合禁止剤>
本発明においては、前記組成物中に重合禁止剤を含むことも好ましい。
重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤が使用でき、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、アミン化合物、メルカプト化合物などが挙げられる。
フェノール化合物の具体例としては、ヒンダードフェノール(オルト位にt−ブチル基を有するフェノールで、代表的には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールが挙げられる)、ビスフェノールが挙げられる。ハイドロキノン化合物の具体例としては、モノメチルエーテルハイドロキノンが挙げられる。また、アミン化合物の具体例としては、N−ニトロソ―N−フェニルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
なお、これらの重合禁止剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
重合禁止剤の含有量は、組成物中の全固形分質量100質量部に対し、0.01〜5質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.01〜0.5質量部がさらに好ましい。
【0076】
<溶媒>
本発明の組成物は、溶媒を含んでいてもよい。組成物中の溶媒の含有量は、全組成物に対し、5〜35質量%が好ましく、10〜35質量%がより好ましく、10〜27質量%がさらに好ましい。
溶媒を含むことで、硬化(重合)反応が、均一にしかもスムーズに進行する。また、多孔質支持体へ組成物を含浸させる場合に含浸がスムーズに進行する。
【0077】
溶媒は、水、または水と水に対する溶解度が5質量%以上の溶媒の混合溶媒が好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。このため、水および水溶性溶媒から選択される溶媒が好ましい。
水溶性溶媒としては、特に、アルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒であるエーテル系溶媒、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒、ニトリル系溶媒、有機リン系溶媒が好ましい。
アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
また、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶媒として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトンまたはアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0078】
<その他の成分>
本発明の組成物は、前記成分の他に、界面活性剤、高分子分散剤、粘度向上剤、表面張力調整剤、防腐剤およびクレーター防止剤等を含んでいてもよい。
【0079】
<<高分子機能性硬化物>>
高分子機能性硬化物は、下記一般式(I−1)または(I−2)で表される構造単位を有する高分子を含む。
【0080】
【化18】
【0081】
一般式(I−1)、(I−2)において、mは2以上の整数を表し、Lはm価の基または単結合を表す。ただし、Lが単結合の場合、mは2である。LおよびLは各々独立に、単結合または2価の連結基を表す。R〜Rは各々独立に、水素原子または置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよく、また、L、LまたはLと結合して環を形成してもよい。RおよびRは、いずれか一方が前記一般式(a)で表される基を表し、残りの一方が下記一般式(c)で表される基を表す。ここで、m個の−[C(R)(R)−C(R)(R)(R)]、m個の−[L−C(R)(R)−C(R)(R)−L]−は、各々で互いに同一でも異なってもよく、前記一般式(a)で表される基がm個の間で、RとRが置き換わって混在していてもよい。
【0082】
一般式(I−1)、(I−2)におけるR、Rおよびmは、それぞれ前記一般式(1−1)、(1−2)におけるR、Rおよびmと同義であり、好ましい範囲も同じである。一般式(I−1)におけるRおよびLは、それぞれ前記一般式(1−1)におけるRおよびLと同義であり、好ましい範囲も同じである。一般式(I−2)におけるR、R、LおよびLは、それぞれ前記一般式(1−2)におけるR、R、LおよびLと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0083】
【化19】
【0084】
一般式(c)におけるRは、一般式(b)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0085】
本発明では、前記一般式(I−1)で表される構造単位は、下記一般式(II)で表される構造単位が好ましい。
【0086】
【化20】
【0087】
一般式(II)において、MおよびMは、それぞれ前記一般式(a)におけるMと同義であり、好ましい範囲も同じである。
ここで、本発明では、一般式(1−1)、(1−2)、(3−1)および(3−2)において、mは2または3であり、Lはアルキレン基、アリーレン基または単結合であり、LおよびLは単結合またはアルキレン基であって、R〜Rは各々独立に、水素原子またはアルキル基である。
【0088】
<支持体>
本発明の高分子機能性硬化物をイオン交換膜、特にカチオン交換膜として使用する場合は、本発明の高分子機能性硬化物は支持体を有していてもよい。以下、高分子機能性硬化物をイオン交換膜に置き換えて説明する。
良好な機械的強度を有するイオン交換膜を提供するために、多くの技術を用いることができる。例えば、膜の補強材料として支持体を用いることができ、好ましくは多孔質支持体を使用することができる。この多孔質支持体は、本発明の前記組成物を塗布およびまたは含浸させた後硬化反応させることにより膜の一部を構成することができる。
補強材料としての多孔質支持体としては、例えば、合成織布または合成不織布、スポンジ状フィルム、微細な貫通孔を有するフィルム等が挙げられる。本発明の多孔質支持体を形成する素材は、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミドおよびそれらのコポリマーであるか、あるいは、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルミド(polyethermide)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレンおよびそれらのコポリマーに基づく多孔質膜であることができる。これらのうち、本発明では、ポリオレフィンが好ましい。
【0089】
市販の多孔質支持体および補強材料は、例えば、日本バイリーンやFreudenbergFiltration Technologies(Novatexx材料)およびSefar AGから市販されている。
【0090】
なお、多孔質支持体および補強材料は光重合硬化反応を行う場合は、照射光の波長領域を遮らない、すなわち、重合硬化に用いられる波長の照射を通過させることが要求されるが、熱重合硬化の場合は、この点を考慮する必要はない。また、多孔質支持体や補強材料は、イオン交換膜を形成する硬化性組成物が浸透しやすいものが好ましい。
【0091】
多孔質支持体や補強材料は親水性を有することが好ましい。支持体に親水性を付与するには、コロナ処理、オゾン処理、硫酸処理、シランカップリング剤処理などの一般的な方法を使用することができる。
【0092】
本発明の膜の厚さは、支持体を有する場合は支持体を含めて、30〜150μmが好ましく、50〜130μmがより好ましく、60〜110μmが特に好ましい。
【0093】
<<イオン交換膜の特性>>
本発明の高分子機能性硬化物をイオン交換膜として使用する場合、以下の特性を有することが好ましい。
【0094】
選択透過性(輸率):0.95以上が好ましく、0.97以上がより好ましく、0.99以上がさらに好ましく、1.00が特に好ましい。
【0095】
膜の電気抵抗(Ω・cm)と透水率(mL/m/Pa/hr)の積:2.0×10−4以下が好ましく、1.7×10−4以下がより好ましく、1.6×10−4以下がさらに好ましく、1.5×10−4以下が特に好ましい。下限は、特に制限されるものではないが、1,0〜10−6が現実的である。
【0096】
<<高分子機能性硬化物の製造方法>>
本発明の高分子機能性硬化物の製造方法をその用途の最も好ましいイオン交換膜の製造方法で説明する。
【0097】
本発明の高分子機能性硬化物であるイオン交換膜は、固定された支持体を用いてバッチ式で調製(バッチ方式)することが可能であるが、移動する支持体を用いて連続式で膜を調製(連続方式)することもできる。支持体は、連続的に巻き戻されるロール形状でもよい。なお、連続方式で膜を調製する場合、連続的に動かされるベルト上に支持体を載せ、イオン交換膜を形成する硬化性組成物である塗布液の連続的な塗布と重合硬化して膜を形成する工程を連続して行うことができる。ただし、塗布工程と膜形成工程の一方のみを連続的に行ってもよい。
なお、支持体と別に、イオン交換膜を形成する硬化性組成物を多孔質支持体に浸漬させ、重合硬化反応が終わるまでの間、仮支持体(重合硬化反応終了後、仮支持体から膜を剥がす)を用いてもよい。
このような仮支持体は、物質透過を考慮する必要がなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやアルミ板等の金属板を含め、膜形成のために固定できるものであれば、どのようなものでも構わない。
また、イオン交換膜を形成する硬化性組成物を多孔質支持体に浸漬させ、多孔質支持体以外の支持体を用いずに重合硬化させることもできる。
【0098】
イオン交換膜を形成する硬化性組成物は、種々の方法、例えば、カーテンコーティング、押し出しコーティング、エアナイフコーティング、スライドコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、ロッドバーコーティングまたは噴霧コーティングにより、多孔質支持体に塗布もしくは浸漬することができる。複数の層の塗布は、同時または連続して行うことができる。同時重層塗布するには、カーテンコーティング、スライドコーティング、スロットダイコーティングおよび押し出しコーティングが好ましい。
【0099】
イオン交換膜の連続方式での製造は、イオン交換膜を形成する硬化性組成物を、移動している支持体に連続的に、より好ましくは、硬化性組成物塗布部と、該硬化性組成物を重合硬化するための照射源と、形成された膜を収集する膜収集部と、支持体を前記硬化性組成物塗布部から照射源および膜収集部に移動させるための手段とを含む製造ユニットにより製造する。
【0100】
本製造例では、(i)本発明の高分子機能性硬化物であるイオン交換膜を形成する硬化性組成物を支持体(好ましくは多孔質支持体)に塗布および/または含浸し、(ii)該硬化性組成物を活性放射線照射または加熱により重合硬化反応し、(iii)所望により形成された膜を支持体から取り外す、という過程を経てイオン交換膜が製造される。
なお、工程(ii)において、加熱は活性放射線照射に組み合わせて行ってよい。工程(i)では、前記硬化性組成物を支持体に含浸させることが好ましい。
【0101】
[活性放射線照射]
前記製造ユニットでは、硬化性組成物塗布部は照射源に対し上流の位置に設け、照射源は膜収集部に対し上流の位置に置かれる。
高速塗布機で塗布する際に十分な流動性を有するために、イオン交換膜を形成する硬化性組成物の35℃での粘度は、4000mPa・s未満が好ましく、1〜1000mPa・sがより好ましく、1〜500mPa.sが最も好ましい。スライドビードコーティングの場合に35℃での粘度は1〜100mPa・sが好ましい。
【0102】
高速塗布機では、イオン交換膜を形成する硬化性組成物である塗布液を、15m/分を超える速度で、移動する支持体に塗布することができ、400m/分を超える速度で塗布することもできる。
【0103】
特に機械的強度を高めるために支持体を使用する場合、本発明の硬化性組成物を支持体の表面に塗布する前に、この支持体を、例えば支持体の湿潤性および付着力を改善するために、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理などに付してもよい。
【0104】
イオン交換膜を形成する硬化性組成物の重合硬化は、該硬化性組成物を支持体に塗布もしくは含浸して、好ましくは60秒以内、より好ましくは15秒以内、特に5秒以内、最も好ましくは3秒以内に開始する。
重合硬化の活性放射線照射は、好ましくは10秒未満、より好ましくは5秒未満、特に好ましくは3秒未満、最も好ましくは2秒未満である。連続法では照射を連続的に行い、該硬化性組成物が照射ビームを通過して移動する速度を考慮して、重合硬化反応時間を決める。
【0105】
強度の高い紫外線(UV光)を重合硬化反応に用いる場合、かなりの量の熱が発生するため、過熱を防ぐために、光源のランプおよび/または支持体/膜を冷却用空気などで冷却することが好ましい。著しい線量の赤外線(IR光)がUVビームと一緒に照射される場合、IR反射性石英プレートをフィルターにしてUV光を照射する。
【0106】
活性放射線は紫外線が好ましい。照射波長はイオン交換膜を形成する硬化性組成物、該硬化性組成物中に包含される任意の重合開始剤の吸収波長と波長が適合することが好ましく、例えばUV−A(400〜320nm)、UV−B(320〜280nm)、UV−C(280〜200nm)である。
【0107】
紫外線源は、水銀アーク灯、炭素アーク灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、旋回流プラズマアーク灯、金属ハロゲン化物灯、キセノン灯、タングステン灯、ハロゲン灯、レーザーおよび紫外線発光ダイオードである。中圧または高圧水銀蒸気タイプの紫外線発光ランプがとりわけ好ましい。これに加えて、ランプの発光スペクトルを改変するために、金属ハロゲン化物などの添加剤が存在していてもよい。200〜450nmに発光極大を有するランプがとりわけ適している。
【0108】
照射源のエネルギー出力は、好ましくは20〜1000W/cm、好ましくは40〜500W/cmであるが、所望の暴露線量を実現することができるならば、これより高くても低くても構わない。暴露強度により、膜の重合硬化を調整する。暴露線量は、High Energy UV Radiometer(EIT−Instrument Markets製のUV Power PuckTM)により、該装置で示されたUV−A範囲で測定して、好ましくは少なくとも40mJ/cm以上、より好ましくは100〜2,000mJ/cm、もっとも好ましくは150〜1,500mJ/cmである。暴露時間は自由に選ぶことができるが、短いことが好ましく、最も好ましくは2秒未満である。
【0109】
速いコーティング速度において所望の線量に到達させるためには、複数の光源を使用しても構わない。これらの光源は暴露強度が同じでも異なってもよい。
【0110】
[加熱による重合硬化]
本発明の高分子機能性硬化物であるイオン交換膜は、熱重合硬化によって製膜してもほぼ同様の性能を示す膜が得られる。この熱重合硬化において、加熱温度は40〜200℃が好ましく、60〜180℃がより好ましく、70〜150℃が特に好ましい。加熱時間は5分から12時間が好ましく、10分から10時間がより好ましく、10分から8時間が特に好ましい。
【0111】
<<水溶性アクリルアミド化合物>>
水溶性アクリルアミドモノマーは水溶性アクリルアミド化合物であり、「モノマー」は用途である。
従って、本発明の水溶性アクリルアミド化合物は、前記水溶性アクリルアミドモノマーと同様の化合物が好ましい。
【0112】
<<水溶性アクリルアミド化合物の製造方法>>
本発明の前記一般式(1−1)または(1−2)で表される水溶性アクリルアミド化合物もしくはモノマーは、下記一般式(3−1)または(3−2)で表されるオレフィン化合物、アクリロニトリルおよび発煙硫酸を反応させることで、1ステップでの製造が可能となる。
【化21】
【0113】
一般式(3−1)、(3−2)において、m、L、L、L、R〜Rは前記一般式(1−1)、(1−2)におけるm、L、L、L、R〜Rと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0114】
このうち、一般式(3−1)で表されるオレフィン化合物は、ジビニルベンゼンが好ましい。
【0115】
以下に、一般式(3−1)または(3−2)で表されるオレフィン化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0116】
【化22】
【0117】
発煙硫酸は、濃度5〜50%の発煙硫酸が好ましく、15〜35%の発煙硫酸がより好ましい。
【0118】
一般式(3−1)または(3−2)で表される化合物のエチレン1当量に対して、アクリロニトリルは1〜50当量が好ましく、2〜40当量がより好ましく、5〜30当量がさらに好ましい。
一般式(3−1)または(3−2)で表される化合物のエチレン1当量に対して、発煙硫酸のSOは、1〜10当量が好ましく、1〜7当量がより好ましく、1〜5当量がさらに好ましい。
【0119】
なお、反応は、アクリロニトリルを反応溶媒と使用してもよく、また、他の溶媒を使用してもよい。
他の溶媒としては、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。
ここで、通常、前記一般式(3−1)または(3−2)で表されるオレフィン化合物は液体であるので、溶媒を使用しないで反応する。
【0120】
反応温度は、−10〜60℃が好ましく、0〜50℃がより好ましく、10〜40℃がさらに好ましい。
【0121】
反応によりスルホン酸(−SOH)化合物が得られ、このスルホン酸化合物を、無機もしくは有機の塩基で中和することで、スルホン酸の無機もしくは有機の塩が得られ、M、M、Mの塩とすることができる。
【0122】
<<高分子機能性硬化物の用途>>
本発明の高分子機能性硬化物は、前述のように、イオン交換膜、特にカチオン交換膜と、プロトン伝導膜として有用であり、電気脱塩、連続的な電気脱塩、電気透析、逆電気透析逆浸透膜、正浸透膜、高分子電解質または吸水性樹脂、ガス分離膜等に使用することができ、しかも一般用途だけでなく、医療用途でも使用することができ、最近では固体高分子電解質型燃料電池でも使用できる。
【実施例】
【0123】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0124】
<本発明の水溶性アクリルアミドモノマー(化合物)の合成例>
(化合物(M−1)の合成)
以下の合成スキームで化合物(M−1)を合成した。
【0125】
【化23】
【0126】
ジビニルベンゼン42.04mL(0.30mol、東京化成工業製)、アクリロニトリル884.3mL(13.5mol、東京化成工業製)の混合溶液に対し、25%発煙硫酸115.2mL(2.34mol、和光純薬工業製)を−10〜−5℃で添加した後、室温で3時間撹拌した。続いて水300mL、炭酸水素ナトリウム394gを0℃で添加し、メタノール2.4Lを加え、析出物をろ別した。ろ液を濃縮後、アセトニトリル3Lを加えてろ過し、淡黄色結晶として、化合物(M−1)を37.5g得た。
【0127】
H−NMR(DMSO−d6)
δ:2.73(dd、2H、J=3.2Hz、13.8Hz、CHSO)、2.95(dd、2H、J=9.8Hz、13.8Hz、CHSO)、5.14(ddd、2H、J=3.2Hz、9.8Hz、7.0Hz、ArCH)、5.55(dd、2H、J=2.6Hz、10.1Hz、−CH=CH)、6.03(dd、2H、J=2.6Hz、17.1Hz、−CH=CH)、6.25(dd、2H、J=10.1Hz、17.1Hz、−CH=CH)、7.00−7.24(m、4H、Ar)、8.51(d、2H、J=7.0Hz、NH)
【0128】
(化合物(M−2)の合成)
以下の合成スキームで化合物(M−2)を合成した。
【0129】
【化24】
【0130】
ジビニルベンゼンの代わりに1,5−ヘキサジエン(東京化成工業製)を等モル量用いることで、化合物(M−1)と同様の方法で、化合物(M−2)を得た。
【0131】
(化合物(M−3)の合成)
以下の合成スキームで化合物(M−3)を合成した。
【0132】
【化25】
【0133】
ジビニルベンゼンの代わりにイソプレン(東京化成工業製)を等モル量用いることで、化合物(M−1)と同様の方法で、化合物(M−3)を得た。
【0134】
(化合物(M−4)の合成)
以下の合成スキームで化合物(M−4)を合成した。
【0135】
【化26】
【0136】
ジビニルベンゼンの代わりに1,4−ペンタジエン(Aldrich製)を等モル量用いることで、化合物(M−1)と同様の方法で、化合物(M−4)を得た。
【0137】
(化合物(M−5)の合成)
以下の合成スキームで化合物(M−5)を合成した。
【0138】
【化27】
【0139】
ジビニルベンゼンの代わりに1,5,9−シクロドデカトリエン(東京化成製)を等モル量用いることで、化合物(M−1)と同様の方法で、化合物(M−5)を得た。
【0140】
実施例1
(イオン交換膜の作成)
下記表1に示す組成の組成物からなる塗布液をアルミ板に、150μmのワイヤ巻き棒を用いて、手動で約5m/分の速さで塗布し、続いて、不織布(Freudenberg社製 FO−2226−14)に塗布液を含浸させた。ワイヤの巻いていないロッドを用いて余分な塗布液を除去した。塗布時の塗布液の温度は約50℃であった。UV露光機(Fusion UV Systems社製、型式Light Hammer LH6、D−バルブ、速度15m/分、100%強度)を用いて、上記のようにして得た塗布液含浸支持体に、0.47秒間露光し、重合硬化時間0.8秒で、重合硬化反応し、カチオン交換膜を調製した。得られた膜をアルミ板から取り外し、0.1M NaCl水溶液中で少なくとも12時間保存し、イオン交換膜を作成した。
【0141】
実施例2〜10および比較例1〜6
実施例1のイオン交換膜の作成において、組成を下記表1に記載の組成に変えた以外は、実施例1と同様にして実施例2〜10および比較例1〜6のイオン交換膜をそれぞれ作成した。
【0142】
実施例1〜10および比較例1〜6で作成したイオン交換膜について、下記項目を評価した。
【0143】
[選択透過性(輸率)]
選択透過性は、静的膜電位測定により膜電位(V)を測定し、算出した。2つのセル(cell:電解槽)は、測定対象の膜により隔てられている。測定前に、膜を0.05M NaCl水溶液中で約16時間平衡化した。その後、異なる濃度のNaCl水溶液を、測定対象の膜の相対する側の電解槽に、それぞれ、注いだ。
すなわち、一方のセルに0.05M NaCl水溶液100mLを注いだ。また、他方のセルに0.5M NaCl水溶液100mLを注いだ。
恒温水槽により、セル中のNaCl水溶液の温度を25℃に安定に保った後、両液を膜面に向かって流しながら、両電解槽とAg/AgCl参照電極(スイスのMetrohm社製)を、塩橋で接続して膜電位(V)を測定し、下記式(a)により選択透過性tを算出した。
なお、膜の有効面積は1cmであった。
【0144】
t=(a+b)/2b 式(a)
【0145】
式(a)における各符号は、下記を意味する。
a:膜電位(V)
b:0.5915log(f/f)(V)
,f:両cellのNaCl活量係数
,c:両cellのNaCl濃度(M)
【0146】
[膜の電気抵抗(Ω・cm)]
2時間、0.5M NaCl水溶液中に浸漬した膜の両面を乾燥ろ紙で拭い、2室型セル(有効膜面積1cm、電極にはAg/AgCl参照電極(Metrohm社製)に挟んだ。両室に同一濃度のNaCl水溶液を100mL満たし、25℃の恒温水槽中に置いて平衡に達するまで放置し、セル中の液温が正しく25℃になってから、交流ブリッジ(周波数1,000Hz)により電気抵抗rを測定した。測定NaCl水溶液濃度は0.5M、0.7M、1.5M、3.5M、4.5Mとし、低濃度液から順番に測定した。次に膜を取り除き、0.5M NaCl水溶液のみとして両極間の電気抵抗rを測り、膜の電気抵抗rをr−rとして求めた。
【0147】
下記表1では、「膜の電気抵抗」を「膜抵抗」と省略して記載した。
【0148】
[透水率(mL/m/Pa/hr)]
膜の透水率を図1に示す流路10を有する装置により測定した。図1において、符号1は膜を表し、符号3および4は、それぞれ、フィード溶液(純水)およびドロー溶液(3M NaCl水溶液)の流路を表す。また、符号2の矢印はフィード溶液から分離された水の流れを示す。
フィード溶液400mLとドロー溶液400mLとを、膜を介して接触させ(膜接触面積18cm)、各液はペリスタポンプを用いて符号5の矢印の向きに流速0.11cm/秒で流した。フィード溶液中の水が膜を介してドロー溶液に浸透する速度を、フィード液とドロー液の質量をリアルタイムで測定することによって解析し、透水率を求めた。
【0149】
なお、表1では、透水率は、10倍した値で示した。すなわち、実施例1の8.8は、8.8×10−5(mL/m/Pa/hr)である。
ここで、膜の電気抵抗と透水率の積の値でも評価を行っているが、膜の電気抵抗は低く、透水率も低い方がよく、この結果、膜の電気抵抗と透水率の積の値は低い方がよい。
また、、「膜の電気抵抗と透水率の積」の値についても、「(膜抵抗)×(透水率)」と省略し、10倍した値で示した。すなわち、実施例1の1.5は、15×10−4(Ω・cm・mL/m/Pa/hr)である。
【0150】
[ピンホール試験]
測定用の膜を厚さ1.5nmのPtでコーティングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1mm中のピンホール数を調べた。
【0151】
(測定条件)
測定機種:Hitachi S−3200H SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製
加速電圧:2kV
作動距離:4mm
絞り:4
倍率:×1,000倍
視野の傾斜:3°
【0152】
SEM画像から、以下の観点でピンホール評価を行った。
【0153】
(評価基準)
A:合格、ピンホールが観察されなかった。
B:欠陥、ピンホールが1〜2個観察された。
C:欠陥、ピンホールが3個以上観察された。
【0154】
得られた結果をまとめて、下記表1に示す。
【0155】
なお、表1に記載した化合物の略号は、以下の化合物である。
ここで、重合性基を1つ有するものを単官能モノマー、2つ以上有するものを架橋剤と分類して示した。
【0156】
・単官能モノマー(一般式(M)で表される水溶性アクリルアミドモノマー)
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東京化成工業製)
・架橋剤
MBA:メチレンビスアクリルアミド(東京化成工業製)
BAP:1,4−ビス(アクリロイル)ピペラジン(Aldrich製)
EGDM:エチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業製)
TEGDM:トリエチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業製)
【0157】
・重合禁止剤
MEHQ:モノメチルエーテルハイドロキノン(東京化成工業製)
・重合開始剤
Darocur 1173:商品名、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製
Irgacure 2959:商品名、BASF・ジャパン社製
【0158】
【化28】
【0159】
ここで、BAMPSは、米国特許第4,034,001号明細書に記載の化合物である。
【0160】
【表1】
【0161】
上記表1から明らかなように、本発明の規定を満たす実施例1〜10のイオン交換膜は、選択透過性がいずれも高い値を示しており、かつ膜の電気抵抗と透水率の積がいずれも低い値を示しており、高性能なイオン交換膜であることがわかる。これに対し、本発明の規定を満たさない比較例1のイオン交換膜は、膜の電気抵抗が大きく電気透析等に不向きであることがわかる。比較例2および3は、膜の電気抵抗は比較例1ほど高くないが、膜の電気抵抗と透水率の積が大きかった。比較例4〜6のイオン交換膜は欠陥が多く膜性能を評価できなかった。このことから、本発明記載のイオン交換膜はイオン交換膜の基本特性の観点で十分な優位性を有していると言える。
【符号の説明】
【0162】
1 膜
2 フィード溶液中の水が膜を介してドロー溶液に浸透することを示す矢印
3 フィード溶液の流路
4 ドロー溶液の流路
5 液体の進行方向
10 透水率測定装置の流路
図1