(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241943
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/25 20170101AFI20171127BHJP
【FI】
C01B32/25
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-52173(P2014-52173)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-174793(P2015-174793A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 真
(72)【発明者】
【氏名】浦井 純一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 成美
【審査官】
神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−009147(JP,A)
【文献】
特開2008−133172(JP,A)
【文献】
特開2010−097914(JP,A)
【文献】
特開2010−248023(JP,A)
【文献】
特表2012−501954(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0110024(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0210004(US,A1)
【文献】
特許第5376274(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素又はホウ素化合物とダイヤモンドナノ粒子との混合物を準備する工程と、
水素雰囲気下で、前記混合物を加熱し、該混合物中のダイヤモンドナノ粒子に前記ホウ素をドープする工程と、を有する、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の平均粒径が100nm以下である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱は、700〜1000℃で行う、請求項1又は2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素をドープしたダイヤモンド(ボロンドープダイヤモンド)は、電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいといった電気化学的特性を有するため、高感度な電気化学センサや高効率な電解用電極としての利用が期待されている。特に、粒子状のボロンドープダイヤモンドは、加工が容易であるため、ボロンドープダイヤモンドの利用分野の拡大につながる。
【0003】
特許文献1には、ホウ素とダイヤモンド粒子とアルカリ土類炭酸塩粉末との混合物において、5.0〜8.0GPaの加圧条件下で1300〜1800℃の温度で加熱することにより、ボロンをダイヤモンド粒子にドープし、ボロンドープダイヤモンド粒子を製造する方法が開示されている。該文献は、ドープ工程後に、6.0〜9.0GPaの加圧条件下で1600〜2500℃に加熱してアルカリ土類炭酸塩を溶融させることによって、ボロンドープダイヤモンド粒子間隙に溶融したアルカリ土類炭酸塩を溶浸充填させ、導電性ダイヤモンド焼結体を得ることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5376274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のボロンドープダイヤモンド粒子の平均粒径は1μm〜8μmであるところ、ダイヤモンド粒子は、比表面積が大きい方が、燃料電池触媒担体や電気二重層キャパシタ用電極として使用する場合は、性能が高くなるため、より比表面積が大きいもの、すなわち、ボロンドープダイヤモンド粒子の平均粒径がより小さいものが望まれる。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水素雰囲気下で、加熱によりホウ素をダイヤモンドナノ粒子にドープすることで、ダイヤモンドがグラファイト化しにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1)ホウ素又はホウ素化合物とダイヤモンドナノ粒子との混合物を準備する工程と、
水素雰囲気下で、前記混合物を加熱し、該混合物中のダイヤモンドナノ粒子に前記ホウ素をドープする工程と、を有する、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法。
【0009】
(2)前記ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の平均粒径が100nm以下である、(1)記載の製造方法。
【0010】
(3)前記加熱は、700〜1000℃で行う、(1)又は(2)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0014】
本発明のボロンドープダイヤモンドナノ粒子の製造方法は、ホウ素又はホウ素化合物とダイヤモンドナノ粒子との混合物を準備する工程と、水素雰囲気下で、該混合物を加熱し、該混合物中のダイヤモンドナノ粒子にホウ素をドープする工程とを有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0015】
<準備工程>
本発明の準備工程は、ホウ素又はホウ素化合物とダイヤモンドナノ粒子との混合物を準備する工程である。
【0016】
上記混合物を準備する方法は、特に限定されず、例えば、ホウ素又はホウ素化合物とダイヤモンドナノ粒子とを、湿式混合、乾式混合等することによって行ってもよいが、湿式混合が好ましい。
【0017】
湿式混合は、従来の公知の方法のいずれでもよいが、例えば、自動乳鉢、超音波分散装置、ボールミル、遊星ボールミル等を用いてよく、手動で攪拌混合してもよい。また、湿式混合で用いる液体も、特に限定されず、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸エチル等を用いることができる。
【0018】
上記混合物全体の質量に対する、ホウ素又はホウ素化合物の質量は、特に限定されないが、30〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましく、60〜75質量%がさらに好ましい。
【0019】
上記混合物全体の質量に対する、ダイヤモンドナノ粒子の質量は、特に限定されないが、10〜70質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、25〜40質量%がさらに好ましい。
【0020】
ホウ素又はホウ素化合物の形状は、例えば、粉状等のものを使用することができる。
【0021】
ホウ素化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化ホウ素(B
2O
3)、炭化ホウ素(B
4C)、窒化ホウ素(BN)、ホウ酸(メタホウ酸、オルトホウ酸、四ホウ酸等)等が挙げられる。
【0022】
ダイヤモンドナノ粒子は、従来の公知のものであれば、いずれのものを使用してもよく、例えば、ナノ炭素研究所社製のNano Amando(登録商標)等の市販のものを使用してもよい。
【0023】
ダイヤモンドナノ粒子の平均粒径は、特に限定されず、例えば、1〜500nmであってもよいが、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、5nm以下が最も好ましい。
【0024】
<ドープ工程>
ドープ工程は、水素雰囲気下で、ホウ素又はホウ素化合物とダイヤモンドナノ粒子との混合物を加熱し、該混合物中のダイヤモンドナノ粒子にホウ素をドープする工程である。ダイヤモンドナノ粒子は、粒径が小さいため、グラファイト化しやすい。しかし、本発明の製造方法は、水素雰囲気下で、混合物を加熱するため、ダイヤモンドナノ粒子がグラファイト化しにくい。これにより、本発明の製造方法は、グラファイト化を抑制して、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子を得ることができる。
【0025】
加熱する温度は、特に限定されず、例えば、500〜1200℃で行ってよいが、ドープする効率がよいという点で、700℃以上が好ましく、800℃以上がさらに好ましい。また、ダイヤモンドナノ粒子のグラファイト化を抑制するためには、1000℃以下が好ましく、900℃以下がさらに好ましい。
【0026】
加熱時間は、特に限定されず、加熱温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、900〜1000℃で加熱した場合、1〜30時間加熱することができる。このときの加熱時間によって、ドープ量を制御することができる。
【0027】
本発明のドープ工程の雰囲気は水素雰囲気下であれば、特に限定されないが、不活性ガスをさらに含んでいてもよい。
【0028】
本発明は、上記の工程以外に、他の工程を有してもよい。例えば、準備工程の前に、ダイヤモンドナノ粒子を空気雰囲気化で、300〜500℃で加熱してもよい。これにより、不純物である非ダイヤモンド炭素成分を除去することができる。
【0029】
また、ドープ工程後に、混合物中に残存したホウ素又はホウ素化合物を除去し、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子を回収する工程を有してもよい。
【0030】
混合物中に残存したホウ素又はホウ素化合物を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、HNO
3等を用いて酸処理することによって除去することができる。
【0031】
ボロンドープダイヤモンドナノ粒子の回収は、例えば、ホウ素又はホウ素化合物を除去した後に、遠心分離、上澄みの廃棄、乾燥を行うことによって、することができる。
【実施例】
【0032】
ダイヤモンドナノ粒子(爆轟法ダイヤモンド、平均粒径4.9±0.1nm、Nano Amando(登録商標)、ナノ炭素研究所社製)0.5gを、空気雰囲気下、425℃で5時間加熱した。その後、ボロン粉末1.0gと混合し、メノウ乳棒・乳鉢を用いて、30分間湿式混合した。混合後、水素雰囲気下で、900℃で24時間加熱した。加熱後、35%HNO
390mlで2日間酸処理を行った。その後、30分間遠心分離し、上澄みを廃棄した。イオン交換水を30ml加え、さらに遠心分離を行った後、2日間乾燥した。その後、XRD解析を行い、グラファイト化されずに、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子が製造されていることを確認した。これにより、水素雰囲気下で、混合物を加熱することによって、グラファイト化を抑制して、ボロンドープダイヤモンドナノ粒子を得ることができることが示された。
【0033】
加熱前のダイヤモンドナノ粒子と、24時間の加熱後のダイヤモンドナノ粒子の導電率を測定した。導電率は、内径1.0mmのガラスキャピラリー内に加熱後のダイヤモンドナノ粒子を充填し、その両端を0.8mm径の銅線と接触させ、電流−電圧測定を行い、その傾きから算出した。その結果、加熱前のダイヤモンドナノ粒子の導電率が2.0×10
−6Scm
−1であったのに対し、加熱後のダイヤモンドナノ粒子の導電率は、2.7×10
−3Scm
−1であり、3桁以上増加していることが確認された。