(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーボン及びバインダーを含む第一の層と、カーボン及びバインダーを含み、前記第一の層よりも水に対する接触角が大きい表面を有する第二の層からなる二層型空気極シートであって、前記第二の層の表面が水に対して140deg以上の接触角を有する二層型空気極シートを準備する工程と、
前記二層型空気極シートを、ルテニウム金属塩を含む水溶液中に含侵し、次いでアルカリ性水溶液を前記二層型空気極シートに滴下して、前記第一の層に酸化ルテニウムを担持する工程と
を含むことを特徴とするリチウム空気電池用空気極の製造方法。
カーボン及びバインダーを含む第一の層と、カーボン及びバインダーを含み、前記第一の層よりも水に対する接触角が大きい表面を有する第二の層からなる二層型空気極シートであって、前記第二の層の表面が水に対して140deg以上の接触角を有する二層型空気極シートを準備する工程と、
前記空気極シートを110℃以上200℃以下の範囲の温度で加熱し、次いで第一の層上部からルテニウムイオンを含む水溶液をスプレーして、第一の層に酸化ルテニウムを担持する工程と
を含むことを特徴とするリチウム空気電池用空気極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.リチウム空気電池
以下に、図面を参照しつつ、本発明に係るリチウム空気電池について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を示す例示であり、本発明はこれに限定されない。
【0018】
[リチウム空気電池の構成]
本発明のリチウム空気電池100は、
図1(a)に示されるように、空気極102、負極108、及び、有機水電解質(本明細書では非水電解質とも称する)110を少なくとも含み、前記空気極102が正極として機能する。
【0019】
本発明のリチウム空気電池の空気極102は、
図1(b)に示されるように、二層構造を有し、この空気極102は反応層108及びガス拡散層110からなる。本発明では、反応層は、酸化ルテニウム(触媒)、カーボン及びバインダーを含み、ガス拡散層はカーボン及びバインダーを含む。また、負極104は金属リチウム又はチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質を含む。更に、有機電解質106は、正極と負極の間に配置される。以下にこれらの構成について説明する。なお、本明細書において、電解液とは、電解質が液体形態である場合をいう。従って、有機電解質が液体状態の場合、有機電解質は有機電解液と同義である。
【0020】
(I)空気極(正極)
本明細書では、上記二層型空気極の二層のうち、
図1(b)に示すように、触媒を含有し電解質に接触する層を反応層と定義し、空気に接触する層をガス拡散層と定義する。
【0021】
従って、本発明のリチウム空気電池は、負極/有機電解液/反応層(空気極)/ガス拡散層(空気極)/空気となるように配置される。ここで、「/」の記号は、当該記号の両側に記載される要素が互いに隣接して配置されることを示す。なお、
図1(b)に示したように、空気極の空気側にはチタンメッシュのような金属メッシュ112等を配置することができる。
【0022】
本発明では、反応層108は、カーボン、触媒及びバインダーを少なくとも含む。また、本発明では、ガス拡散層110は、カーボン及びバインダーを少なくとも含む。
【0023】
本発明の空気極の反応層108は、触媒を含む。この触媒は、リチウム空気電池の充放電反応に対して高活性なものである。反応層に含まれる触媒は、充放電反応を効率的に行うことができるものであれば特に限定されず、リチウム空気電池で使用される一般的な触媒を使用できるが、本発明では特に、酸化ルテニウム(RuO
2)が好ましい。
【0024】
本発明では、反応層に含まれる触媒の含有量は、反応層に含まれるカーボン、触媒及びバインダーの総重量に基づいて、0.1〜40重量%、好ましくは0.4〜10重量%である。
【0025】
前記反応層及びガス拡散層に含まれるカーボンは、特に限定されないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類、カーボンファイバー類、カーボンシート、カーボンクロス等を挙げることができる。これらの材料を二層のいずれかに用いることができる。また、これらのカーボンは、例えば市販品として、又は合成により入手することが可能である。
【0026】
空気極の反応層及びガス拡散層はバインダーを含む。このバインダーは、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴムなどを例として挙げることができる。
【0027】
本発明のリチウム空気電池では、前記反応層に含まれるカーボン及びバインダーの含有量は、反応層に含まれるこれらの材料の全量を基準にして、カーボンを50〜99重量%及びバインダーを1〜50重量%含むことが好ましい。
【0028】
本発明のリチウム空気電池では、前記ガス拡散層に含まれるカーボン及びバインダーの含有量は、ガス拡散層に含まれるこれらの材料の全量を基準にして、カーボンを60〜80重量%、及びバインダーを20〜40重量%含むことが好ましい。
【0029】
本発明では、空気極の二層は、それぞれの層の表面の接触角が異なる。具体的には、本発明の空気極は、反応層と、これより表面の接触角が大きいガス拡散層を含み、反応層がリチウム空気電池の有機水電解質(非水電解質)と接触し、ガス拡散層が空気に接触するように、空気極内で配置される。本発明では、ガス拡散層の表面の接触角が、水に対して140deg(°又は度)以上であることが好ましく、反応層の表面の接触角は、これよりも小さいことが好ましい。
【0030】
このような構成をとることで、ガス拡散層110は、反応層よりも大きな接触角を有するので、反応層よりも有機電解質をよりはじくことができる。従って、本発明のリチウム空気電池の空気極は、有機電解質が空気極側から漏出するのを効率的に防止することができる。本発明では、反応層に酸化ルテニウム(RuO
2)触媒を使用し、ガス拡散層に表面の接触角が水に対して140deg以上のものを使用することで、電池特性の優れたリチウム空気電池を提供することができる。
【0031】
反応層及びガス拡散層の表面の接触角は、これらの層に含まれる材料、各層の表面の状態などにより変化するが、各層の材料(例えばカーボン)を適切に選択することで接触角を所望の範囲とすることができる。その他、例えば、反応層及びガス拡散層の表面を適切な手段で処理すること(例えば、酸又はアルカリに浸漬する、或いは表面を酸素処理するなど)で、表面の接触角を所望の値に設定することができる。
【0032】
次に、リチウム空気電池では、電解液/触媒+カーボン/空気(酸素)の三相部分において、正極の電極反応が進行する。電池の効率を上げるためには、電極反応を引き起こす反応サイトがより多く存在することが望ましい。即ち、この電極反応は、前記「触媒+カーボン」部位において起こるので、これらの材料が存在する反応層中に反応サイトが多く存在することが好ましい。このような観点から、触媒及びカーボンの比表面積はなるべく大きい方がよいと考えられる。
【0033】
例えば、反応層中に含まれるカーボンの比表面積は、1000m
2/g以上、好ましくは、1300m
2/g以上であることが望ましい。反応層に含まれるカーボンの比表面積の上限は、特に限定されないが、カーボンの製造上の観点から3000m
2/g以下が好ましく、2000m
2/g以下であることがより好ましい。また、本発明で使用する触媒の比表面積は、10m
2/g以上、好ましくは、20m
2/g以上、より好ましくは40m
2/g以上である。
【0034】
一方、ガス拡散層に含まれるカーボンは、上記のようにその表面の接触角が大きくなり、且つガスの供給を阻害しないように、比表面積が小さいカーボンであることが望ましい。本発明では、反応層に含まれるカーボンよりもガス拡散層に含まれるカーボンの比表面積が小さいことが好ましい。具体的には、反応層に含まれるカーボンの比表面積は、ガス拡散層に含まれるカーボンの比表面積よりも1000m
2/g以上、好ましくは、1200m
2/g以上、より好ましくは1500m
2/g以上大きいことが好ましい。即ち、反応層に含まれるカーボンの比表面積とガス拡散層に含まれるカーボンの比表面積との差が1000m
2/g以上であるこことが好ましい。
【0035】
以上のように、本発明では、空気極は、反応層と、反応層より比表面積が小さいガス拡散層を含むことが好ましい。また、前記反応層がリチウム空気電池の有機電解質と接触し、前記ガス拡散層が空気に接触することが好ましい。
【0036】
(II)負極
本発明のリチウム空気電池は、負極に負極活物質を含む。この負極活性物質は、リチウム電池の負極材料として用いることができる材料であれば特に制限されない。例えば、金属リチウムを挙げることができる。或いは、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質である、リチウムと、シリコン又はスズとの合金、或いはLi
2.6Co
0.4Nなどのリチウム窒化物を例として挙げることができる。
【0037】
なお、上記のシリコン又はスズの合金を負極として用いる場合、負極を合成する時にリチウムを含まないシリコン又はスズなどを用いる場合には、空気電池の作製に先立って、化学的手法又は電気化学的手法(例えば、電気化学セルを組んで、リチウムとシリコン又はスズとの合金化を行う方法)によって、シリコン又はスズが、リチウムを含む状態にあるように処理しておく必要がある。具体的には、作用極にシリコン又はスズを含み、対極にリチウムを用い、有機電解液中で還元電流を流すことによって合金化を行う等の処理をしておくことが好ましい。
【0038】
本発明のリチウム空気二次電池の負極は、公知の方法で形成することができる。例えば、リチウム金属を負極とする場合には、複数枚の金属リチウム箔を重ねて所定の形状に成形することで、負極を作製すればよい。
【0039】
(III)電解質
本発明のリチウム空気電池は、電解質を含む。この電解質は、例えば、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)などのリチウムイオンを含む金属塩を、例えば炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)(体積比1:1)の混合溶媒、EC及び炭酸ジエチル(DEC)などのような混合溶媒、又は炭酸プロピレンのような単独溶媒に溶解した非水系有機電解質(有機電解液)などであることが好ましい。
【0040】
本発明のリチウム空気電池の他の電解質として、リチウムイオンを通す固体電解質(例えば、Li
2SやP
2S
5を含む硫化物系固体電解質など)、リチウムイオンを通すポリマー電解質(例えば、ポリエチレンオキシド系、具体的には、例えば、上記有機電解液とポリエチレンオキシドをコンポジット化した物質など)等を挙げることができる。但し、本発明は、これらに限定されず、リチウム電池で使用される公知のリチウムイオンを通す固体電解質又はリチウムイオンを通すポリマー電解質であれば好適に使用することができる。
【0041】
(IV)他の要素
本発明のリチウム空気電池は、上記構成要素に加え、セパレータ、電池ケース、金属メッシュ(例えばチタンメッシュ)などの構造部材、その他のリチウム空気電池に要求される要素を含むことができる。これらは、従来公知のものを使用することができる。
【0042】
本発明のリチウム空気二次電池は、以下に示す空気極の製造方法により得られる空気極、負極及び電解質を、所望のリチウム空気電池の構造に基づいた他の必要な要素と共に、ケースなどの適切な容器内に適切に配置することで作製することができる。これらのリチウム空気電池の製造手順は、従来から知られている方法を適用することができる。
【0043】
2.リチウム空気電池に用いる空気極の製造方法
本発明は、上記リチウム空気電池に使用できる、二層型空気極の製造方法を包含する。
【0044】
この製造方法の第一の実施形態は、以下の工程を含む。
【0045】
(第一の工程)カーボン及びバインダーを含む第一の層と、カーボン及びバインダーを含み、前記第一の層よりも水に対する接触角が大きい表面を有する第二の層からなる二層型空気極シートを準備する工程と、
(第二の工程)前記二層型空気極シートを、ルテニウム金属塩を含む水溶液中に含侵し、次いでアルカリ性水溶液を前記二層型空気極シートに滴下して、前記第一の層に酸化ルテニウムを担持する工程。
【0046】
上記製造方法の第二の実施形態は、以下の工程を含む。
【0047】
(第一の工程)カーボン及びバインダーを含む第一の層と、カーボン及びバインダーを含み、前記第一の層よりも水に対する接触角が大きい表面を有する第二の層からなる二層型空気極シートを準備する工程と、
(第二の工程)前記二層型空気極シートをルテニウムイオン含有めっき液に含侵し、該空気極シートに通電することによって空気極シートの第一の層をめっきし、次いで熱処理を行い、第一の層に酸化ルテニウムを担持する工程。
【0048】
上記製造方法の第三の実施形態は、以下の工程を含む。
【0049】
(第一の工程)カーボン及びバインダーを含む第一の層と、カーボン及びバインダーを含み、前記第一の層よりも水に対する接触角が大きい表面を有する第二の層からなる二層型空気極シートを準備する工程と、
(第二の工程)前記空気極シートを110℃以上200℃以下の範囲の温度で加熱し、次いで前記第一の層上部からルテニウムイオンを含む水溶液をスプレーして、前記第一の層に酸化ルテニウムを担持する工程。
【0050】
以下に、上記の各工程について説明する。
【0051】
(i)第一の工程
本発明のリチウム空気電池の空気極の製造方法における上記各実施形態の第一の工程は、共通であり、以下のような手順を含む。
【0052】
第一の層及び第二の層は以下のように乾式法又は湿式法で調製することができる。例えば、乾式方では、まず、第二の層用のカーボン粉末とバインダー粉末の混合物を金属メッシュなどの支持体上に圧延又は圧着することにより第二の層を形成する。次いで、第二の層上に、第一の層用のカーボン粉末とバインダー粉末の混合物を圧延又は圧着することにより第一の層を形成する。使用できるカーボン及びバインダーの種類は、リチウム空気電池の説明で例示したものと同様である。
【0053】
なお、上記の「第一の層」及び「第二の層」の語は、第一の層が、最終的に反応層となる層であり、第二の層は最終的にガス拡散層になる層である。具体的には、第一の層は、カーボン及びバインダーからなる触媒を含まない反応層に対応する層である。また、第二の層は、カーボン及びバインダーからなるガス拡散層に対応する層である。
図1を参照すれば、第一の層は最終的に反応層108となる層であり、第二の層は、ガス拡散層110に対応する層である。
【0054】
本発明では、第二の層の表面の水に対する接触角を140deg以上とすることが好ましく、第一の層の表面の水に対する接触角を第二の層よりも小さくする。第一の層の表面の水に対する接触角は、好ましくは、後述する第二の工程において、第一の層に触媒が担持されるような接触角とすることが好ましい。例えば、第一の層の表面の水に対する接触角は、80deg〜120degが好適である。
【0055】
本発明では、少なくとも第二の層の水に対する接触角を140degとすることで、第二の層に触媒が担持されないような表面を構築することができる。なお、本発明では、第二の層とガス拡散層は同じ構成を有するため、その表面の接触角は、空気極の製造の前後で変化することはない。
【0056】
本発明では、第一の層及び第二の層のカーボン粉末とバインダーの種類をそれぞれの層で異なるようにすること、及び/又は、カーボン粉末とバインダーの含有量をそれぞれの層で異なるようにすることによって、第二の層の表面の水に対する接触角を、第一の層の表面の水に対する接触角より大きくすることができる。
【0057】
次に、第一の層(最終的に反応層となる層。本明細書では反応層用シートとも称する)及び第二の層(最終的にガス拡散層となる層。本明細書ではガス拡散層用シートとも称する)の調製方法の別法(湿式法)として、以下の方法を挙げることができる。まず、第二の層用のカーボン粉末とバインダーを有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状にする。このスラリーを、金属メッシュ上に塗布し、乾燥して第二の層を形成する。次いで、第一の層用のカーボン粉末とバインダーを有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状にする。この第一の層用の混合物を第二の層上に塗布し、乾燥することにより第一の層を形成する。この方法の場合も、カーボン及びバインダーの種類及び含有量を調節することで、第一の層及び第二の層の表面の水に対する接触角を所望の通りに調節することができる。
【0058】
上記の乾式法及び湿式法による二層型空気極シートの調製方法は、第一の層及び第二の層を別々に作製し、これを冷間プレス等により圧着するようにしてもよい。この場合、第一の層及び第二の層の表面の接触角は、それぞれの層を別々に作成した際に調節してもよく、圧着後に、それぞれの露出した表面の接触角を調節してもよい。なお、二層型空気極シートの製造にホットプレスを適用することによって、より安定性に優れた二層型空気極シートを作製することもできる。
【0059】
また、第一の層及び第二の層の表面の接触角を所望の値とするには、上記のカーボン及びバインダーの種類及び含有量を調製する方法の他、例えば、第一の層及び第二の層の表面を適切な手段で処理すること(例えば、酸又はアルカリに浸漬する、或いは表面を酸素処理するなど)で、表面の接触角を所望の値に設定することができる。なお、上記の第一の層及び第二の層の表面を適切な手段で処理する方法を適用すれば、二層型空気極シートを作製した後、必要に応じて、該シートの露出した表面の接触角を所望の値に設定することもできる。
【0060】
本発明で用いることができるカーボンは、粉末状のものだけでなく、繊維状のカーボンもであってもよい。例えば、繊維状のカーボンは、これを網目状構造に織り上げたカーボンメッシュとして用いることができる。或いは、繊維状のカーボンを既知の手法(具体的には、カーボンと布地をプレスすること、若しくは、カーボン分散液を布地に含浸させて乾燥させることなど)で布地に織り込んだカーボンクロスとして使用することができる。このようなシート及びクロスは、空気極の支持体を併せもつ材料として好適である。
【0061】
また、カーボンメッシュ又はカーボンクロスは、以下のような別の方法でも得ることができる。即ち、バインダーを含む分散液にカーボン粒子を混合し、これを、空隙を有する適切な支持体(例えば、チタンメッシュのようなメッシュ状支持体、又はろ紙のようなシート状部材)に塗布して乾燥すれば、支持体の空隙にカーボン及びバインダーが充填された、カーボンメッシュ又はカーボンクロスを得ることができる。このようなカーボンメッシュまたはカーボンクロスは、空隙にカーボン又はバインダーが充填されているので、このようなカーボンメッシュ又はカーボンクロスを介して有機電解質が漏出するのを防止できる。
【0062】
このように、空隙にカーボン粒子又はバインダーが充填されたカーボンメッシュ又はカーボンクロスは、空気極のガス拡散層となる第二の層として用いることが好適である。なお、カーボンクロスは、カーボン粉末と比較すると比表面積が小さいため、比表面積が反応層より小さいことが求められるガス拡散層となる第二の層で用いることがより好ましい。
【0063】
上記のようなカーボンメッシュ又はカーボンクロスは、本発明において使用するバインダーによって、その疎水性を調節することが可能である。即ち、本発明で使用しうるバインダーの多くは疎水性が高い。従って、水中にバインダーを分散した分散液を、カーボンメッシュ又はカーボンクロス上に、塗布し、乾燥することにより、カーボンメッシュ又はカーボンクロスの疎水性を調節することができる。これによって、第二の層の表面の接触角を所望の値に調整することができる。
【0064】
本発明の別の実施形態では、前記空気極の第一の層及び第二の層に、空隙を含む網目構造を有するメッシュ状のバインダーシートを用いることができる。メッシュ状のバインダーシートは、空気極の第一の層及び第二の層に用いる場合、各層中において大きな体積を占めることとなる。またバインダーの多くは疎水性が高い。このため、メッシュ状のバインダーシートを含む層は非常に疎水性が高くなる。従って、ある程度の電解液に対する濡れ性が求められる反応層となる第一の層よりも、ガス拡散層となる第二の層へメッシュ状のバインダーシートを用いることが好ましい場合がある。なお、バインダーシートに空隙が含まれない場合は、ガス透過性が低いため、空気極の材料として適さない場合がある。
【0065】
上述のような、バインダー又はカーボン粒子が担持されたカーボンメッシュ又はカーボンクロス上に、所望のカーボンとバインダーの混合物を圧延又は圧着することにより、或いは、所望のカーボン粉末とバインダーを有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状にして、バインダー又はカーボン粒子が担持されたカーボンメッシュ又はカーボンクロス上に塗布することにより、二層型空気極シートを得ることができる。
【0066】
本発明では、第一の層及び第二の層は、それぞれの表面の接触角を上述のように調製することが必要である。これは、第一の層及び第二の層において、カーボン及びバインダーの種類、及び/又は、それぞれの層におけるカーボン及びバインダーの割合を適宜異なるようにすればよい。このようなカーボン及びバインダーの種類、並びに、これらの含有量若しくは割合は、これらの材料に依存して非常に広い範囲にわたって変化する。
【0067】
本発明のリチウム空気電池の空気極の製造方法では、前記第一の層に含まれるカーボン及びバインダーの含有量は、第一の層に含まれるこれらの材料の全量を基準にして、カーボンを50〜99重量%及びバインダーを1〜50重量%含むことが好ましい。
【0068】
本発明のリチウム空気電池の空気極の製造方法では、前記第二の層に含まれるカーボン及びバインダーの含有量は、第二の層に含まれるこれらの材料の全量を基準にして、カーボンを60〜80重量%、及びバインダーを20〜40重量%含むことが好ましい。
【0069】
例えば、一実施形態として、第一の層にカーボン粉末としてケッチェンブラックEC600JD(ライオン(株))を、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、第二の層として、カーボン粉末としてAB−7(電気化学工業(株))を、バインダーとしてPTFEを使用した場合、第一の層のカーボン粉末:バインダーの割合を5:5〜9:1とし、第二の層のカーボン粉末:バインダーの割合を5:5〜8:2とすることができる。
【0070】
本発明のリチウム空気電池では、上述のように、空気極の第一の層及び第二の層の表面の接触角は、所定の関係を有することが望ましい。また、空気極の第一の層に使用する触媒及びカーボンの比表面積、並びに、第二の層に使用するカーボンの比表面積も、所定の関係を有することが望ましい。
【0071】
なお、接触角及び比表面積の測定は、市販の装置を用いて行うことができる。例えば、接触角の測定は、市販の測定装置を用いて、リチウム空気電池で使用される非水電解質溶液[例えば1.0mol/L LiPF
6/PC(炭酸プロピレン)]を用いて、電極シートに適量を摘下するというような手順で測定することができる。また、比表面積は、市販の測定装置を用いて、液体窒素を冷却媒として使用するような手順で測定することができる。
【0072】
(ii)第二の工程
第二の工程は、上記第一の工程で調製した触媒未担持の二層型空気極の第一の層(反応層となる層)に触媒を担持する工程である。
【0073】
本発明では、以下に示す、第一の実施形態から第三の実施形態の何れかの手法を用いて、前記触媒未担持の二層型空気極の第一の層に、酸化ルテニウム触媒を担持することができる。
【0074】
(a)第一の実施形態
本発明における、触媒未担持の二層型空気極の第一の層に酸化ルテニウムを担持させるための第一の実施形態は、第一の工程で得られた二層型空気極シートを、ルテニウム金属塩を含む水溶液中に含侵し、次いでアルカリ性水溶液を前記二層型空気極シートに滴下して、前記第一の層に酸化ルテニウムを担持する、というものである。
【0075】
具体的には、ルテニウム金属塩(例えば、塩化ルテニウムなどのハロゲン化ルテニウム等)を含む水溶液中に、第一の工程で調製した二層型空気極シートを含侵する。次いで、得られたルテニウム金属塩を含む空気極シートに水酸化ナトリウムなどのアルカリ性水溶液を滴下し、所定時間静置することで、第一の層に酸化ルテニウムを担持する。なお、本発明においては、上記の含浸の操作において、第二の層は非常に疎水性が強いため、ルテニウム金属塩を含む水溶液は二層型空気極シート上ではじかれ、ルテニウム金属塩は第二の層にはほとんど含浸されない。このため、酸化ルテニウム触媒は、第一の層にのみ担持される。特に、本発明では、少なくとも第二の層の水に対する接触角を140degとすることで、第二の層に触媒が担持されないような表面を構築することができる。
【0076】
本実施形態の触媒の担持量は、塩化ルテニウムなどのルテニウム金属塩水溶液中のルテニウム金属塩の濃度により調整できる。例えば、好ましいルテニウム金属塩水溶液の濃度は、0.01〜0.5mol/Lである。
【0077】
本発明の製造方法では、上記浸漬条件は、例えば、15〜30℃の温度のルテニウム金属塩を含む溶液に、30分〜12時間浸漬することが含まれる。
【0078】
また、使用するアルカリは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニウム水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液等を挙げることができ、これらの濃度は、0.1〜10mol/Lであることが好ましい。アルカリ性水溶液を滴下した後の静置の時間は、好ましくは1〜12時間である。
【0079】
本発明では、第一の層に触媒である酸化ルテニウムが担持され、第二の層にはほとんど酸化ルテニウムが担持されないので、コスト的に有利である。
【0080】
(b)第二の実施形態
本発明における、触媒未担持の二層型空気極の第一の層に酸化ルテニウムを担持させるための第二の実施形態は、第一の工程で得られた二層型空気極シートを、ルテニウムイオンを含有するめっき液に含侵し、該空気極シートに通電することによって空気極シートの第一の層をめっきし、次いで熱処理を行い、第一の層に酸化ルテニウムを担持するというものである。
【0081】
具体的には、塩化ルテニウムなどを含む水溶液のようなルテニウムイオンを含有するめっき液に、第一の工程で調製した二層型空気極シートを含侵し、当該空気極シートをカソードとし、白金(Pt)電極のような対電極をアノードとして、カソード−アノード間で通電する。これによってルテニウムが、二層型空気極シートの第一の層にめっきされる。
【0082】
なお、本発明においては、上記のメッキ液への含浸の操作において、第二の層は非常に疎水性が強いため、ルテニウム金属塩を含む水溶液は二層型空気極シート上ではじかれ、メッキ操作でルテニウム金属塩はほとんど第二の層にメッキされない。特に、本発明では、少なくとも第二の層の水に対する接触角を140degとすることで、第二の層に触媒が担持されないような表面を構築することができる。
【0083】
次に、得られた二層型空気極シートを、100〜200℃の温度で空気中においてアニーリングを行う。これによってルテニウムが酸化され、第一の層に酸化ルテニウムが担持される。アノードとしては、白金(Pt)の他に、金(Au)などの金属電極を用いることができる。めっき液としては、市販のルテニウム用のめっき液を用いることができる。
【0084】
本発明の製造方法では、上記メッキ条件は、例えば、5〜30重量%のルテニウム濃度を有し、40℃以上の温度のメッキ液に、0.1〜15A/dm
2の電流密度で、1〜600秒間通電することが含まれる。また、アニーリングの条件は、乾燥機中のような乾燥条件下、100〜200℃の温度で、0.5〜2時間加熱することが含まれる。
【0085】
本実施形態では、第一の層に触媒である酸化ルテニウムが担持され、第二の層にはほとんど酸化ルテニウムが担持されないので、コスト的に有利である。
【0086】
(c)第三の実施形態
本発明における、触媒未担持の二層型空気極の第一の層に酸化ルテニウムを担持させるための第三の実施形態は、第一の工程で得られた二層型空気極シートを、110℃以上200℃以下の範囲の温度で加熱し、次いで前記第一の層上部からルテニウムイオンを含む水溶液をスプレーして、前記第一の層に酸化ルテニウムを担持する、というものである。
【0087】
具体的には、第一の工程で得られた触媒未担持の二層型空気極シートを、110℃以上好ましくは200℃以下の範囲で加熱し、第一の層の上部から、例えば塩化ルテニウムを含有する水溶液のようなルテニウムイオンを含む水溶液をスプレー照射し、第一の層に酸化ルテニウムを担持する。
【0088】
第一の層への触媒の担持量は、ルテニウム金属塩を含む水溶液のルテニウムイオンの濃度及びスプレーの照射時間によって調整することができる。具体的には、例えば、ルテニウム金属塩(例えば、塩化ルテニウム等)を含む水溶液の濃度は、0.001〜1mol/Lであることが好ましい。また、スプレーの照射時間は、10〜600秒であることが好ましい。
【0089】
なお、本実施形態においては、上記のスプレー照射の操作において、第二の層は非常に疎水性が強いため、スプレーされるルテニウム金属塩を含む水溶液は二層型空気極シート上ではじかれ、スプレー操作でルテニウム金属塩は第二の層に堆積されない。特に、本発明では、少なくとも第二の層の水に対する接触角を140degとすることで、第二の層に触媒が担持されないような表面を構築することができる。また、スプレー照射の際に、二層型空気極シートを、110℃以上好ましくは200℃以下の範囲で加熱することで、スプレー照射を行いながら、スプレーにより空気極シート上に堆積されたルテニウム金属塩を効率的に酸化ルテニウムに酸化することが可能となる。
【0090】
本発明では、スプレーするルテニウム金属塩を含む水溶液に、適宜、アルコール、界面活性剤又はこれらの混合物を添加することができる。アルコール又は界面活性剤を添加することで、より微細な粒子の酸化ルテニウムを担持することができる。本発明では、アルコール、界面活性剤又はこれらの混合物の添加量は、好ましくは1〜10wt%である。
【0091】
アルコールは、小さな分子量を有し、揮発性であり、空気極中に残存しにくいメタノール、エタノール、プロパノールが好適である。また、界面活性剤は、イオンに解離せずルテニウムイオンとの相互作用がない非イオン性界面活性剤が好適である。
【0092】
本実施形態では、第一の層に触媒である酸化ルテニウムが担持され、第二の層にはほとんど酸化ルテニウムが担持されないので、コスト的に有利である。
【0093】
本発明の上記空気極の製造方法では、第一の層に含まれる触媒の含有量は、第一の層に含まれるカーボン、触媒及びバインダーの総重量に基づいて、0.1〜40重量%、好ましくは0.4〜10重量%である。
【0094】
上記の第一の実施形態から第三の実施形態で説明した手法は、カーボンと酸化ルテニウムをらいかい機などで機械的に混合する方法よりも、第一の層中のカーボン上に酸化ルテニウムを高分散で担持することができる。このため、本発明の空気極の製造方法は、空気極を高活性にすることができ、且つ触媒の担持量を低減することができる、優れた方法である。
【0095】
また、本発明の上記空気極の製造方法における、酸化ルテニウムを第一の層に担持するための各種条件は、高分散で触媒を担持し、空気極を高活性にでき、且つ触媒の担持量を低減するための条件であり、本発明における有効な条件である。
【実施例】
【0096】
以下、図面を参照して、本発明に係るリチウム空気電池についての実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0097】
(実施例1)
空気極を以下の方法により作製した。なお、カーボン粉末のBET比表面積、反応層用シート(第一の層)、ガス拡散層用シート(第二の層)の水に対する接触角は、それぞれ市販の分析装置を用いて測定した。
【0098】
(反応層用シート)
カーボン粉末(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン(株)製、BET比表面積:1270m
2/g)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を50:50の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形して、シート状電極(厚さ:0.5mm)を作製した。そして、シート状電極を直径23ミリメートルの円形に切り抜き、反応層用シートを作製した。なお、このシートの水に対する接触角は、80degであった。
【0099】
(ガス拡散層)
カーボン粉末(AB−7、電気化学工業(株)製、BET比表面積:74m
2/g)粉末とPTFE粉末を70:30の重量比で用いて、反応層用シートの作製と同様のプロセスで、直径23ミリメートルの円形のガス拡散層用シート(厚さ:0.2mm)を作製した。このシートの水に対する接触角は140degであり、非常に電解液などの溶液を弾くことを目視で確認した。
【0100】
(積層法)
上記のようにして得られた反応層用シート及びガス拡散層用シートを重ね合わせ、10MPa/cm
2の圧力で冷間プレスすることにより触媒未担持の二層型空気極シートを得た。
【0101】
(酸化ルテニウム触媒の担持)
前記の触媒未担持の二層型空気極シートを、0.001mol/LのRuCl
3水溶液200mlに浸漬した。数時間、静置したのちに、1mol/LのNaOH水溶液を、pH8.0になるまで滴下し、静置(12時間)した。その後、溶液からシートを取り出し、蒸留水で洗浄して、110℃で一晩乾燥した。X線回折装置により、RuO
2に一致する回折ピークを確認した。また、形成された反応層及びガス拡散層の一部を剥ぎ取り、TG−DTA分析を行い、金属含有成分(RuO
2)が、反応層に5wt%、ガス拡散層には0.02wt%が含まれていることを確認した。この結果より、反応層の組成はRuO
2:カーボン:PTFE=5:47.5:47.5であり、ガス拡散層にはRuO
2が殆ど担持されていないことが分かった。
【0102】
(リチウム空気電池セルの作製)
図2に示す断面構造を有する、円柱形のリチウム空気二次電池セルを作製した。
図2は、このリチウム空気電池セルの断面図である。リチウム空気電池セルは、露点がマイナス50℃以下の乾燥空気中で、以下の方法により作製した。
【0103】
前記のRuO
2を担持した空気極を、ガス拡散層がチタンメッシュに接触するように軽く圧着した。この空気極(正極1)を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆された正極支持体2の凹部に配置し、正極固定用のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆されたリング3で固定した。
【0104】
なお、正極1と正極支持体2とが接触する部分は、電気的接触をとるために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)による被覆を施さないものとした。また、正極1と空気とが接触する電極の有効面積を2cm
2(平方センチメートル)とした。
【0105】
続いて、正極1と大気とが接触する面とは逆面に、リチウム空気電池セル用のセパレータ5を凹部の底面に配置した。続いて、
図2に示すように、負極固定用座金7の上部に、負極8である厚さ150μm(マイクロメートル)の4枚の金属リチウム箔(有効面積:2cm
2)を同心円上に重ねて圧着した。
【0106】
続いて、負極固定用のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)リング6を、正極1を設置する凹部と対向する逆の凹部に配置し、中央部に金属リチウムが圧着された負極固定用座金7を更に配置した。続いて、Oリング9を、
図2に示すように、正極支持体2の底部に配置した。
【0107】
続いて、リチウム空気二次電池セルの内部(正極1と負極8との間)に、有機電解液10をそれぞれ充填し、負極支持体11を被せて、セル固定用ねじ12でセル全体を固定した。有機電解液は、リチウム含有金属塩であるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を濃度1mol/Lでジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒に溶解した市販試薬を用いた。
【0108】
続いて、正極端子4を正極支持体2に設置し、負極端子13を負極支持体11に設置した。そして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆されたセル固定用ねじ12を用いて、リチウム空気二次電池セルを固定することでセルの作製を完了した。なお、
図2に示す正極端子4および負極端子13は、電池性能の測定試験で用いられるものである。
【0109】
電池の充放電サイクル試験は、市販の充放電測定システム(BioLogic社製、VMP−3)を用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.1mA/cm
2を通電し、放電終止を2.0Vのカットオフとし、充電終止を4.2Vのカットオフもしくは(放電容量)=(充電容量)となるような条件で行った。電池の充放電試験は、湿度を制御しない生活環境下の恒温槽中(25℃)で測定を行った。なお、充放電容量(mAh/g)は、空気極重量で規格化した。
【0110】
図3に、実施例1で作製したリチウム空気電池の初回の充放電曲線を示す。図に示すように、実施例1によるリチウム空気電池は、初回放電量が1140mAh/gと非常に大きな値を示し、高エネルギー密度の電池としての特性を有することが確認できる。表1に、初回放電容量と、50回目及び150回目の放電における容量維持率を示す。本実施例によるリチウム空気電池は、ある程度のサイクル安定性を有し、150回目の放電容量は、855mAh/gであった。表2には、初回サイクル、50回目、150回目のサイクルでの平均放電電圧と平均充電電圧を示す。初回において、ΔV(=平均充電電圧−平均放電電圧)は約0.5Vであり、1V以上であったこれまでの報告よりも小さい値であった。なお、ΔVは、充放電エネルギー効率と同様の指標であり、ΔVが小さいほど、充放電エネルギー効率は100%に近づく。表より、本発明の空気電池は、サイクルの進展に伴い、ΔVは増加し、充放電エネルギー効率は低下することがわかる。しかしながら、ΔVは、150サイクル後でも約1.0Vであり、これまでの報告と比較すると低い値であり、本発明による手法が、電池性能の改善に有効であることがわかった。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
(実施例2)
実施例1と同様にして、チタンメッシュに圧着した触媒未担持の二層型空気極シートを作製した。この空気極シートをカソード、白金電極をアノードとし、ビーカー内のルテニウム用めっき液(日鉱商事(株)製W−Ru・2)に両電極を設置した。めっき浴は、ルテニウム濃度5g/l、pH1.2、浴温60℃とした。カソード−アノード間に電流密度0.2A/dm
2で2秒間の通電を行い、めっきを行った。空気極シートを取り出し、蒸留水で丁寧に洗浄を行った。その後、空気極シートは、110℃に維持された乾燥機に、12時間静置することによって熱処理を行った。このようにして得られた空気極のX線回折測定により、RuO
2に一致する回折ピークを確認し、RuO
2が担持されていることがわかった。また、反応層とガス拡散層の一部を剥ぎ取り、TG−DTA分析を行い、金属含有成分(RuO
2)が、反応層に6wt%、ガス拡散層には0.01wt%が含まれていることを確認した。この結果より、反応層の組成はRuO
2:カーボン:PTFE=6:47:47であり、ガス拡散層にはRuO
2は殆ど担持されていないことが分かった。
【0114】
空気電池セルの作製及び充放電サイクル試験は、実施例1と同様にして行った。その結果を表1及び表2に、実施例1と併せて示す。表1より、実施例1と比較して、放電容量は10%ほど増加し、50回目、150回目の放電容量維持率も改善されている。また、表2より、サイクルの進展に伴い平均放電電圧の低下と平均充電電圧の上昇が見られるものの、150回目のサイクル後でも、ΔVは0.8V程度であった。本実施例が、実施例1よりも安定したサイクル特性を示すのは、めっきによってより強固に酸化ルテニウムが担持されているためであると考えられる。このように、本発明の手法は、充放電サイクル特性の改善に有効な空気極作製法であることを確認した。
【0115】
(実施例3)
実施例1と同様にして、チタンメッシュに圧着した触媒未担持の二層型空気極シートを作製した。この空気極シートを、ホットプレート上に設置し、110℃に加熱した。反応層用シート側の上部から、0.001mol/LのRuCl
3水溶液を充填したスプレーガン(空気圧2.5〜3.0kg/cm
2)を用いて、10秒間RuCl
3水溶液を噴霧した。その後、蒸留水で二層型空気極シートを丁寧に洗浄し、110℃で12時間の乾燥を行った。このようにして得られた空気極のX線回折測定を行ったところ、RuO
2に一致する回折ピークを確認し、RuO
2が担持されていることを確認した。また、反応層とガス拡散層の一部を剥ぎ取り、TG−DTA分析を行い、金属含有成分(RuO
2)が、反応層に5wt%、ガス拡散層には0.02wt%が含まれていることを確認した。この結果より、反応層の組成はRuO
2:カーボン:PTFE=5:47.5:47.5であり、ガス拡散層にはRuO
2は殆ど担持されていないことが分かった。
【0116】
空気電池セルの作製及び充放電サイクル試験は、実施例1と同様にして行った。その結果を表1及び表2に、実施例1と併せて示す。表1より、実施例1と比較して、放電容量は5%ほど増加し、50回目、150回目の放電容量維持率も改善されている。また、表2より、サイクルの進展に伴い平均放電電圧の低下と平均充電電圧の上昇が見られるものの、150回目のサイクル後でも、ΔVは0.8V程度であった。このように、本発明の手法は、充放電サイクル特性の改善に有効な空気極作製法であることを確認した。
【0117】
(実施例4及び5)
実施例3と同様の手法で、スプレーガンに充填するRuCl
3水溶液(0.001mol/L)に、以下のアルコールまたは界面活性剤を添加し、RuO
2を担持した二層型空気極を作製した。
【0118】
(実施例4)スプレーガンの充填液として、97wt% RuCl
3水溶液(0.001mol/L)、3wt%エタノールを用いた。
【0119】
(実施例5)スプレーガンの充填液として、99wt%RuCl
3水溶液(0.001mol/L)、1wt%ポリ(オキシエチレン)−5−ノニルフェニルエーテルを用いた。
【0120】
このようにして得られた両実施例による空気極のX線回折測定を行ったところ、RuO
2に一致する回折ピークを確認し、RuO
2が担持されていることを確認した。また、両実施例とも反応層とガス拡散層の一部を剥ぎ取り、TG−DTA分析を行い、金属含有成分(RuO
2)が、反応層に5wt%、ガス拡散層には0.02wt%が含まれていることを確認した。この結果より、反応層の組成はRuO
2:カーボン:PTFE=5:47.5:47.5であり、ガス拡散層にはRuO
2は殆ど担持されていないことが分かった。
【0121】
セルの作製及び充放電サイクル試験は、実施例3と同様にして行った。その結果を表1及び表2に、実施例1と併せて示す。表1より、実施例4では1500mAh/gを超える放電容量、実施例5では1600mAh/gを超える放電容量を示し、本実施例の手法が放電容量の増大に効果的であることがわかる。また、50回目、150回目の放電容量維持率も改善され、両実施例とも90%を超えていた。また、表2より、両実施例とも、他の実施例よりも平均放電電圧が高い値を示す傾向にあり、サイクルの進展に伴い平均放電電圧の低下と平均充電電圧の上昇が見られるものの、150回目のサイクル後でも、ΔVは0.7〜0.8V程度であった。このように、本本発明の手法は、放電容量及び充放電サイクル特性の改善に有効な空気極作製法であることがわかった。なお、実施例3〜5の手法は、コンベアーなどを用いる流れ作業プロセスでの空気極の作製に有効であり、空気極の大面積化や低コスト化に資すると考えられる。
【0122】
(比較例1)
比較のために、本発明と異なる手法で空気極を作製した。本比較例では、機械的にRuO
2触媒をカーボンに混合した空気極を作製した。
【0123】
0.001mol/LのRuCl
3水溶液200mlに、1mol/LのNaOH水溶液を、pH8.0になるまで滴下し、12時間の撹拌を行った。その後、沈殿物をろ過することによって回収し、回収物をさらに蒸留水で洗浄し、110℃で一晩乾燥した。得られた粉末のX線回折測定により、RuO
2に一致する回折ピークを確認した。
【0124】
得られたRuO
2粉末、ケッチェンブラックEC600JD粉末、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を5:47.5:47.5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シート(厚さ:0.5mm)を作製した。そして、シート状電極を直径23ミリメートルの円形に切り抜き、反応層用シートを作製した。ガス拡散層用シートは、実施例1と同様にして作成した。
【0125】
このようにして得られた反応層用シートを用いて、実施例1と同様にして、空気極及び空気電池セルの作製と充放電サイクル試験を行った。
【0126】
図3に、初回充放電曲線を表1に、初回充放電容量、50回目及び150回目の放電容量維持率を示し、表2に、初回サイクル、50回目、150回目のサイクルでの平均放電電圧と平均充電電圧を示す。
図3より、平均放電電圧は2.75Vと良好な値であるのに対し、平均充電電圧は約3.7Vと非常に高い値を示した。また、放電容量は、殆ど組成が同じ空気極を用いた実施例1の50%程度であった。一方、表1及び表2に示される放電容量維持率、並びに平均放電電圧及び平均充電電圧は良好な値であった。
【0127】
以上の結果より、RuO
2を触媒として用いる本発明の二層型空気極を含むリチウム空気電池は、基本的に優れたサイクル安定性を有することが確認された。更に、本発明の空気極の製造方法により、最適な触媒担持法を採用することで、リチウム空気電池の放電容量の増大が可能となることが確認された。
【0128】
(比較例2)
上記の比較例1においては、触媒の混合量を増加することによって、放電容量の増大及び充電電圧の低下が見られた。種々のRuO
2混合量の反応層を用いた空気極を作製し、比較例1と同様にして、空気電池セルの作製及び充放電サイクル試験を行った。放電容量は、反応層の組成が、RuO
2:ケッチェンブラックEC600JD:PTFE=15:42.5:42.5の時、最も大きな値を示し、さらに最も低い充電電圧を示した。この時の充放電曲線を、
図3に示す。表1に、初回充放電容量、50回目及び150回目の放電容量維持率、表2に、初回サイクル、50回目、150回目のサイクルでの平均放電電圧と平均充電電圧を示す。
図3より、触媒混合量を増加することにより、実施例1と類似した充放電曲線が得られた。しかしながら、本比較例の空気電池セルは、表1に示すように優れた放電容量維持率を示すものの、全体的には放電容量が小さな値しか示さなかった。一方、充放電電圧は、実施例1と同様の優れた値及び安定性を示した。このように、触媒量を増大することによって、ある程度の電池特性の改善は可能であったが、本発明による空気極の製造方法で得られる空気極を用いたリチウム空気電池と比較すると、その効果は限定的である。また、従来の空気極の製造方法に従って製造された空気極を含むリチウム空気電池では、電池特性を改善するには、触媒の混合量を多くする必要があり、コスト的にも不利である。
【0129】
以上の結果から、本発明のリチウム空気電池の空気極の製造方法は、RuO
2を担持した二層型空気極を用いるリチウム空気電池において、RuO
2を高分散で担持し、電池性能を向上することができ、しかもコストを低減する有効な方法であることが確認された。また、このような方法で得られた空気極を含む、本発明のリチウム空気電池は、従来のリチウム空気電池に比べて、すぐれた電池特性を示すことが確認された。