特許第6241958号(P6241958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241958
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】高耐圧半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20171204BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20171204BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20171204BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H01L29/78 652C
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 652S
   H01L29/78 658A
   H01L29/78 652F
   H01L29/78 652M
   H01L29/06 301D
   H01L29/06 301V
   H01L29/78 652D
   H01L29/78 658E
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-530769(P2015-530769)
(86)(22)【出願日】2014年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2014068633
(87)【国際公開番号】WO2015019797
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-165624(P2013-165624)
(32)【優先日】2013年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】岩室 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】原田 信介
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/036655(WO,A1)
【文献】 特開2011−258635(JP,A)
【文献】 特開2002−270839(JP,A)
【文献】 特開平11−195655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/04
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/06
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体基板と、
前記第1導電型半導体基板上に形成され、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の表面に選択的に形成された高濃度の第2導電型高濃度半導体層と、
前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に形成された前記第2導電型高濃度半導体層よりも低濃度の第2導電型低濃度半導体層と、
前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に形成された第1導電型ソース領域と、
前記第2導電型低濃度半導体層の表面から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達するように形成された第1導電型ウェル領域と、
前記第1導電型ソース領域と前記第1導電型ウェル領域とに挟まれた前記第2導電型低濃度半導体層の表面露出部上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極層と、
前記第1導電型ソース領域と前記第2導電型低濃度半導体層とに接触するソース電極と、
前記第1導電型半導体基板の裏面に設けられたドレイン電極を有する縦型の高耐圧半導体装置において、
前記第2導電型低濃度半導体層の前記ドレイン電極側の全面下に前記第2導電型高濃度半導体層が設けられ、前記第2導電型高濃度半導体層の前記ドレイン電極側の一部にさらに第2導電型高濃度領域が設けられ、当該第2導電型高濃度半導体層は、隣に配置される前記第2導電型高濃度半導体層と、前記第1導電型ウェル領域の前記ドレイン電極側の領域で部分的に結合されていることを特徴とする高耐圧半導体装置。
【請求項2】
第1導電型半導体基板と、
前記第1導電型半導体基板上に形成され、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層の表面に選択的に形成された高濃度の第2導電型高濃度半導体層と、
前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に形成された前記第2導電型高濃度半導体層よりも低濃度の第2導電型低濃度半導体層と、
前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に形成された第1導電型ソース領域と、
前記第2導電型低濃度半導体層の表面から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達するように形成された第1導電型ウェル領域と、
前記第1導電型ソース領域と前記第1導電型ウェル領域とに挟まれた前記第2導電型低濃度半導体層の表面露出部上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極層と、
前記第1導電型ソース領域と前記第2導電型低濃度半導体層とに接触するソース電極と、
前記第1導電型半導体基板の裏面に設けられたドレイン電極を有する縦型の高耐圧半導体装置において、
前記第2導電型低濃度半導体層の前記ドレイン電極側の全面下に前記第2導電型高濃度半導体層が設けられ、前記第2導電型高濃度半導体層の前記ドレイン電極側の一部にさらに第2導電型高濃度領域が設けられ、当該第2導電型高濃度半導体層は、隣に配置される前記第2導電型高濃度半導体層と、前記第1導電型ウェル領域の前記ドレイン電極側の領域で部分的に結合されており、
おもて面側から前記第2導電型低濃度半導体層および前記第2導電型高濃度半導体層を貫通して前記第2導電型高濃度領域に達するトレンチをさらに備え、
前記ソース電極は、前記トレンチの内部に埋め込まれるように設けられていることを特徴とする高耐圧半導体装置。
【請求項3】
前記第1導電型半導体基板の材料が炭化ケイ素であることを特徴とする請求項1または2に記載の高耐圧半導体装置。
【請求項4】
前記第1導電型半導体基板の結晶学的面指数は(000−1)に対して平行な面もしくは10度以内に傾いた面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の高耐圧半導体装置。
【請求項5】
前記第1導電型半導体基板の結晶学的面指数は(0001)に対して平行な面もしくは10度以内に傾いた面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の高耐圧半導体装置。
【請求項6】
第1導電型半導体基板上に、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層をエピタキシャル成長させる第1の工程と、
イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域を選択的に形成する第2の工程と、
イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域よりも浅い深さで、かつ第2導電型高濃度領域に接するように第2導電型高濃度半導体層を形成する第3の工程と、
前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に、第2導電型低濃度半導体層をエピタキシャル成長法により形成する第4の工程と、
前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に第1導電型ソース領域と、おもて面側から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達する第1導電型ウェル領域とをイオン注入法により形成する第5の工程と、
を有し、
前記第3の工程では、前記第2導電型高濃度半導体層の一部が前記第1導電型ウェル領域の下の領域で部分的に結合されるように前記第2導電型高濃度半導体層を形成することを特徴とする高耐圧半導体装置の製造方法。
【請求項7】
第1導電型半導体基板上に、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層をエピタキシャル成長させる第1の工程と、
イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域を選択的に形成する第2の工程と、
イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域よりも浅い深さで、かつ第2導電型高濃度領域に接するように第2導電型高濃度半導体層を形成する第3の工程と、
前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に、第2導電型低濃度半導体層をエピタキシャル成長法により形成する第4の工程と、
前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に第1導電型ソース領域と、おもて面側から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達する第1導電型ウェル領域とをイオン注入法により形成する第5の工程と、
記第1導電型半導体層の表面から前記第2導電型高濃度半導体層を貫通するトレンチ溝を形成し、当該トレンチ溝の底面に前記第2導電型高濃度領域をイオン注入法により形成し、前記トレンチを金属電極で埋め込む第6の工程と、を有し、
前記第3の工程では、前記第2導電型高濃度半導体層の一部が前記第1導電型ウェル領域の下の領域で部分的に結合されるように前記第2導電型高濃度半導体層を形成することを特徴とする高耐圧半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高耐圧大電流を制御できるパワー半導体装置、特にワイドバンドギャップ材料のひとつである炭化ケイ素を半導体として用いた縦型の高耐圧半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高耐圧、大電流を制御するパワー半導体素子の材料として、シリコン単結晶が用いられている。パワー半導体素子にはいくつかの種類があり、用途に合わせてそれらが使い分けられているのが現状である。例えば、バイポーラトランジスタやIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は、電流密度は多く取れるものの高速でのスイッチングができず、バイポーラトランジスタでは数kHzの周波数が、IGBTでは20kHz程度の周波数がその使用限界である。
【0003】
一方、パワーMOSFETは、大電流は取れないものの、数MHzの周波数までの高速でのスイッチングに使用できる。しかしながら、市場では大電流と高速性を兼ね備えたパワーデバイスへの要求は強く、IGBTやパワーMOSFETはその改良に力が注がれ、現在ではほぼ材料限界に近いところまで開発が進んできた。
【0004】
図17は、従来のMOSFETを示す断面図である。n型の半導体基板1上にnドリフト層2が積層形成される。このnドリフト層2の表面層に、pベース層4が選択的に形成されている。pベース層4の表面層にnソース層7を選択的に形成し、nドリフト層2とpベース層4、ならびにnソース層7の上に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極8が形成されている。さらに最近では、ドリフト層を、不純物濃度を高めたn型の領域とp型の領域とを交互に配置した並列pn層としたMOSFET(以下、超接合型MOSFETとする)が注目を浴びている。
【0005】
図18は、従来のシリコン超接合MOSFETの断面図である。また、図19は、従来の多段エピタキシャル法によるシリコン超接合MOSFETの断面図である。図20は、従来のトレンチ埋め込み法によるシリコン超接合MOSFETの断面図である。
【0006】
これら超接合型MOSFETは、藤平らが1997年にこの理論を発表し(下記非特許文献1参照。)、1998年にDeboyらによってCoolMOSFETとして製品化されたことが知られている(下記非特許文献2参照。)。これらはn-ドリフト層に縦方向に(基板深さ方向に)p層を柱状構造に形成することで、ソース・ドレイン間の耐圧特性を劣化させることなくオン抵抗を格段に向上できることを特徴としている。
【0007】
また、パワー半導体素子の観点からの材料検討も行われ、Shenaiらが報告しているように(下記非特許文献3参照。)、炭化ケイ素(SiC)が次世代のパワー半導体素子として、低オン電圧、高速・高温特性に優れた素子であることから、最近特に注目を集めている。このSiCは化学的に非常に安定な材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用できるからである。また、SiCは、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいからである。SiCはシリコンにおける材料限界を超える可能性が大きいことからパワー半導体用途、特にMOSFETでは今後の伸長が大きく期待される。特にそのオン抵抗が小さいことが期待されているが高耐圧特性を維持したままより一層の低オン抵抗を有する縦型SiC−MOSFETが期待できる。
【0008】
一般的なSiC−MOSFETの断面構造はシリコンと同様、前述の図17に示すものである。n-ドリフト層2の表面層に、pベース層3が選択的に形成される。pベース層3の表面層に選択的に形成されたn+ソース層4を形成し、n-ドリフト層2とpベース層3、ならびにn+ソース層4の上に、ゲート絶縁膜6を介してゲート電極7が形成されて、半導体基板1の裏面にドレイン電極8が形成される。
【0009】
このように形成されたSiC−MOSFETはスイッチングデバイスとして、低オン抵抗で高速スイッチングが可能な素子としてモータコントロール用インバータや無停電電源装置(UPS)などの電力変換装置に活用されることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7923320号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tatsuhiko Fujihira、"Theory of Semiconductor Superjunction Devices"、Jpn.J.Appl.Phys、Vol.36、pp.6254−6262、Part1、No.10、Oct.1997
【非特許文献2】G.Deboy外5名、"A new generation of high voltage MOSFETs breaks the limit line of silicon"、IEEE IEDM pp.683−685、1998
【非特許文献3】KRISHNA SHENAI外2名、"Optimum Semiconductors for High−Power Electronics"、IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES、vol.36、p.1811−1823、1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
SiCはワイドバンドギャップ半導体材料であるために、破壊電界強度がシリコンの約10倍と高くオン抵抗が十分小さくなることが期待されるが、その反面、半導体の破壊電界強度が約10倍高くなることから、特に高電圧印加時の酸化膜への電界の負荷がシリコン素子に比べて大きくなる。
【0013】
そのため、シリコンパワーデバイスでは酸化膜に大きな電界が加わる前にシリコンの破壊電界強度に達するために問題にならなかったことがSiCになることにより酸化膜が破壊してしまうということが懸念される。具体的には、図1に示すSiC−MOSFETのゲート酸化膜6に大きな電界強度が印加されることになり、ゲート酸化膜破壊や信頼性に大きな問題が生じる可能性がある。これはSiC−MOSFETだけでなく、SiC−IGBTにも言えることである。これに関しては、SiC−MOSFETにおけるゲート酸化膜への電界強度に注意を要する記述の文献がある(上記特許文献1参照。)。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、低オン抵抗で破壊耐量が大きく、さらに高速スイッチング特性が得られる高耐圧半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の高耐圧半導体素子は、第1導電型半導体基板と、前記第1導電型半導体基板上に形成され、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層と、前記第1導電型半導体層の表面に選択的に形成された高濃度の第2導電型高濃度半導体層と、前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に形成された前記第2導電型高濃度半導体層よりも低濃度の第2導電型低濃度半導体層と、前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に形成された第1導電型ソース領域と、前記第2導電型低濃度半導体層の表面から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達するように形成された第1導電型ウェル領域と、前記第1導電型ソース領域と前記第1導電型ウェル領域とに挟まれた前記第2導電型低濃度半導体層の表面露出部上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極層と、前記第1導電型ソース領域と前記第2導電型低濃度半導体層とに接触するソース電極と、前記第1導電型半導体基板の裏面に設けられたドレイン電極を有する縦型の高耐圧半導体装置において、前記第2導電型低濃度半導体層の前記ドレイン電極側の全面下に前記第2導電型高濃度半導体層が設けられ、前記第2導電型高濃度半導体層の前記ドレイン電極側の一部にさらに第2導電型高濃度領域が設けられ、当該第2導電型高濃度半導体層は、隣に配置される前記第2導電型高濃度半導体層と、前記第1導電型ウェル領域の前記ドレイン電極側の領域で部分的に結合されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の高耐圧半導体装置は、第1導電型半導体基板と、前記第1導電型半導体基板上に形成され、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層と、前記第1導電型半導体層の表面に選択的に形成された高濃度の第2導電型高濃度半導体層と、前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に形成された前記第2導電型高濃度半導体層よりも低濃度の第2導電型低濃度半導体層と、前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に形成された第1導電型ソース領域と、前記第2導電型低濃度半導体層の表面から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達するように形成された第1導電型ウェル領域と、前記第1導電型ソース領域と前記第1導電型ウェル領域とに挟まれた前記第2導電型低濃度半導体層の表面露出部上にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極層と、前記第1導電型ソース領域と前記第2導電型低濃度半導体層とに接触するソース電極と、前記第1導電型半導体基板の裏面に設けられたドレイン電極を有する縦型の高耐圧半導体装置において、前記第2導電型低濃度半導体層の前記ドレイン電極側の全面下に前記第2導電型高濃度半導体層が設けられ、前記第2導電型高濃度半導体層の前記ドレイン電極側の一部にさらに第2導電型高濃度領域が設けられ、当該第2導電型高濃度半導体層は、隣に配置される前記第2導電型高濃度半導体層と、前記第1導電型ウェル領域の前記ドレイン電極側の領域で部分的に結合されており、おもて面側から前記第2導電型低濃度半導体層および前記第2導電型高濃度半導体層を貫通して前記第2導電型高濃度領域に達するトレンチをさらに備え、前記ソース電極は、前記トレンチの内部に埋め込まれるように設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、上記の高耐圧半導体装置において、前記第1導電型半導体基板の材料が炭化ケイ素であることを特徴とする。
【0020】
また、上記の高耐圧半導体装置において、前記第1導電型半導体基板の結晶学的面指数は(000−1)に対して平行な面もしくは10度以内に傾いた面であることを特徴とする。
【0021】
また、上記の高耐圧半導体装置において、前記第1導電型半導体基板の結晶学的面指数は(0001)に対して平行な面もしくは10度以内に傾いた面であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の高耐圧半導体装置の製造方法は、第1導電型半導体基板上に、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層をエピタキシャル成長させる第1の工程と、イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域を選択的に形成する第2の工程と、イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域よりも浅い深さで、かつ第2導電型高濃度領域に接するように第2導電型高濃度半導体層を形成する第3の工程と、前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に、第2導電型低濃度半導体層をエピタキシャル成長法により形成する第4の工程と、前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に第1導電型ソース領域と、おもて面側から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達する第1導電型ウェル領域とをイオン注入法により形成する第5の工程と、を有し、前記第3の工程では、前記第2導電型高濃度半導体層の一部が前記第1導電型ウェル領域の下の領域で部分的に結合されるように前記第2導電型高濃度半導体層を形成することを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1導電型半導体基板上に、前記第1導電型半導体基板よりも低濃度な第1導電型半導体層をエピタキシャル成長させる第1の工程と、イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域を選択的に形成する第2の工程と、イオン注入法により、前記第1導電型半導体層の表面層に第2導電型高濃度領域よりも浅い深さで、かつ第2導電型高濃度領域に接するように第2導電型高濃度半導体層を形成する第3の工程と、前記第1導電型半導体層ならびに前記第2導電型高濃度半導体層の上に、第2導電型低濃度半導体層をエピタキシャル成長法により形成する第4の工程と、前記第2導電型低濃度半導体層の表面層に選択的に第1導電型ソース領域と、おもて面側から前記第2導電型低濃度半導体層を貫通して前記第1導電型半導体層に達する第1導電型ウェル領域とをイオン注入法により形成する第5の工程と、記第1導電型半導体層の表面から前記第2導電型高濃度半導体層を貫通するトレンチ溝を形成し、当該トレンチ溝の底面に前記第2導電型高濃度領域をイオン注入法により形成し、前記トレンチを金属電極で埋め込む第6の工程と、を有し、前記第3の工程では、前記第2導電型高濃度半導体層の一部が前記第1導電型ウェル領域の下の領域で部分的に結合されるように前記第2導電型高濃度半導体層を形成することを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、第1導電型半導体層ならびに第1導電型ウェル領域の不純物濃度を大きく上げて、オン抵抗を十分下げてもn型半導体ウェル領域(n打ち返し層)の上のゲート酸化膜に大きな電界がかからず、ソース・ドレイン間に高電圧を印加した場合でも(ソースが0V、ドレインに+電圧を印加)、十分な素子耐圧を保持することができる。また第2導電型高濃度半導体層の間、ならびに第2導電型低濃度半導体層の間の距離を広げてオン抵抗を十分下げても、第1導電型ウェル領域の上のゲート酸化膜に大きな電界がかからず十分な素子耐圧を保持することができる。
【0027】
さらには負荷短絡条件下などの高電圧、大電流が素子に同時に印加・導通される状態においても、電界強度が緩和されるため大きな素子破壊耐量を示すことができる。これは第2導電型低濃度半導体層および第2導電型高濃度半導体層と第1導電型ウェル領域との間のpn接合から第1導電型ウェル領域に広がる空乏層が第2導電型高濃度半導体層に沿って横方向に広がりやすくなるためである。その結果、第1導電型低濃度半導体層、ならびに第1導電型ウェル領域の不純物濃度を従来のMOSFETよりも高く設定しても、空乏層が広がりやすい設計なので、第2導電型高濃度半導体層の間、ならびに第2導電型低濃度半導体層の間の距離を広げて素子耐圧、素子破壊耐量を十分保ちつつオン抵抗を小さくできる。
【0028】
さらに、本発明の第2導電型低濃度半導体層をエピタキシャル成長法によって形成した場合、表面荒れがほとんどないくらいに平坦にできるため、表面のMOSFET部分の移動度が極めて大きくなり、その結果、オン抵抗をさらに小さくすることができる。
【0029】
さらに、第1導電型半導体基板の材料が炭化ケイ素の場合において、第1導電型半導体基板の結晶学的面指数は(000−1)に対して平行な面もしくは10度以内、または第1導電型半導体基板の結晶学的面指数は(0001)に対して平行な面もしくは10度以内に設定することにより、ゲート酸化膜と半導体界面の界面準位密度を低減できることからMOSFET部分の移動度をさらに向上させることができる。その結果、オン抵抗を極めて小さくすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、低オン抵抗で破壊耐量が大きく、さらに高速スイッチング特性が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その1)。
図2図2は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その2)。
図3図3は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その3)。
図4図4は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その4)。
図5図5は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その5)。
図6図6は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その6)。
図7図7は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である(その7)。
図8A図8Aは、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETのp+層とセルの配置を表す平面図である。
図8B図8Bは、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETのp+層とセルの配置と従来の平面図との比較を表す平面図である。
図9図9は、各実施例のSiC−MOSFETの電気特性の測定結果を示す図表である。
図10図10は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETの耐圧性能を示す図表である。
図11図11は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETの負荷短絡耐量の測定結果を示す図表である。
図12図12は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETのターンオフ破壊耐量の評価結果を示す図表である。
図13図13は、本発明の実施例2にかかるSiC−MOSFETの断面図である。
図14図14は、本発明の実施例9にかかるSiC−MOSFETのp+層とセルの配置を表す平面図である。
図15図15は、本発明の各実施例のSiC−MOSFETのターンオフスイッチング波形である。
図16図16は、本発明の各実施例のSiC−MOSFETのターンオンスイッチング波形である。
図17図17は、従来のMOSFETを示す断面図である。
図18図18は、従来のシリコン超接合MOSFETの断面図である。
図19図19は、従来の多段エピタキシャル法によるシリコン超接合MOSFETの断面図である。
図20図20は、従来のトレンチ埋め込み法によるシリコン超接合MOSFETの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施の形態)
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる高耐圧半導体装置およびその製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。また、ミラー指数の表記において、"−"はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に"−"を付けることで負の指数を表している。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0033】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1について、図面を参照して説明する。図1図7は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFET製造工程の断面図である。各図において、(a)は、p+層3が結合していない部分の断面図、(b)は、p+層3が結合している部分の断面図である。この実施例1では、縦型プレーナーゲートMOSFETとして、半導体材料として炭化ケイ素を用い、素子耐圧1200VのMOSFETを示した。
【0034】
まず、図1に示すように、n+型SiC半導体基板1を用意する。ここでは、不純物として窒素を2×1019cm-3程度含む低抵抗のn+型SiC半導体基板1とした。このn+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数(000−1)に対して4°ほど傾いた面の上に、窒素を1.0×1016cm-3程度含むn-型SiC層2を10μm程度エピタキシャル成長させる。
【0035】
次に、図2に示すように、n-型SiC層2の表面層に幅2μmで深さ0.3μmのp+層31をイオン注入法で選択的に形成する。その後加速エネルギーを減少させて、幅13μmで深さ0.5μmのp+層3をイオン注入法で形成する。その際のイオンはアルミニウムを用いた。また、p+層31はp+層3の中心に配置するようにした。これらp+層31とp+層3の不純物濃度は、1.0×1018cm-3となるようにドーズ量を設定した。
【0036】
その際、後の工程で形成するn打ち返し層6の下(ドレイン電極側)でp+層3の一部を互いに結合部13(図8A図8B参照)により結合するようにする。
【0037】
その後、図3に示すように、pベース層4をエピタキシャル成長法により0.5μm厚でp+層3ならびにn-型SiC層2上に形成する。その際の不純物はアルミニウムとし、不純物濃度は5.0×1016cm-3となるようにした。
【0038】
その後、図4に示すようにイオン注入によりpベース層4の一部をn型に打ち返してなるn打ち返し層6として窒素イオンが5.0×1016cm-3で深さ1.5μm、幅2.0μmになるように選択的に注入する。
【0039】
この後、図5に示すように、n+ソース層7、p+コンタクト層5をpベース層4内に選択的に形成する。その後、活性化アニールを実施する。熱処理温度・時間は1800℃・2分である。
【0040】
その後、図6に示すように、ゲート酸化膜100nmの厚さを熱酸化で形成し、水素雰囲気中にて1000℃付近でアニールする。リンがドープされた多結晶シリコン層をゲート電極8として形成、パターニングする。
【0041】
この後、図7に示すように、層間絶縁膜9として、リンガラスを1.0μm厚で成膜、パターニング後に熱処理し、1%シリコンを含んだアルミニウムを表面にスパッタ法にて厚さ5μmで成膜し、p+コンタクト層5とn+ソース層7との表面に共通に接触するソース電極10を設ける。最後に、素子裏面にニッケルを成膜し、970℃で熱処理後、裏面電極(ドレイン電極)11としてTi/Ni/Auを順に成膜した。そして保護膜をソース電極10側の表面に付加して素子は完成する。
【0042】
図8Aは、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETのp+層とセルの配置を表す平面図である。図8Bは、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETのp+層とセルの配置と従来の平面図との比較を表す平面図である。図8Aでは、ソース電極、ゲート電極、ゲート酸化膜は不図示とした。p+層3でpベース層4下のp+層3を結合部13により接続する。図8Bは、p+層3のベースパターンを示す。本実施例ではp+層3を6角形セルパターンにて作製したが、4角形セルなど他の多角形状としてもよい。また、互いに結合していないところのp+層3間の距離は2μmとした。
【0043】
上記構成によれば、n-型SiC層2ならびにn型半導体ウェル領域(n打ち返し層)6の不純物濃度を大きく上げて、オン抵抗を十分下げても、またはp+層3の間、ならびにpベース層4の間の距離を広げてオン抵抗を十分下げても、ソース・ドレイン間に高電圧を印加した場合でも(ソースが0V、ドレインに+電圧を印加)、n型半導体ウェル領域(n打ち返し層)6の上のゲート酸化膜に大きな電界がかからず十分な素子耐圧を保持することができる。さらには負荷短絡条件下などの高電圧、大電流が素子に同時に印加・導通される状態においても、電界強度が緩和されるため大きな素子破壊耐量を示すことができる。これはpベース層4およびp+層3とn型半導体ウェル領域6との間のpn接合からn型半導体ウェル領域6に広がる空乏層がp+層3に沿って横方向に広がりやすくなるためである。その結果、n-型SiC層2、ならびにn打ち返し層6の不純物濃度を従来のMOSFETよりも高く設定しても、空乏層が広がりやすい設計なので、p+層3の間、ならびにpベース層4の間の距離を広げて素子耐圧、素子破壊耐量を十分保ちつつオン抵抗を小さくできる。
【0044】
さらに、本発明のpベース層4をエピタキシャル成長法によって形成した場合、表面荒れがほとんどないくらいに平坦にできるため、表面のMOSFET部分の移動度が極めて大きくなり、その結果、オン抵抗をさらに小さくすることができる。
【0045】
図9は、各実施例のSiC−MOSFETの電気特性の測定結果を示す図表である(1200V/25A素子)。実施例1のチップサイズは3mm角であり、活性領域の面積は5.27mm2であり、定格電流は25Aである。活性領域とは、オン状態のときに電流が流れる領域である。この実施例1では、室温(RT)における素子耐圧およびオン抵抗について、オン抵抗(RonA)は3.2mΩcm2と十分低い値を示し、初期の素子耐圧も1450Vと、1200V素子として十分良好な特性を示している。比較のために、p+層3をまったく結合させないようにして作製したSiC−MOSFET(図8B参照)を測定したところ、オン抵抗は同等の3.2mΩcm2と十分低い値を示したが、ソース・ドレイン間に880V印加したところで、ゲート酸化膜が破壊してしまった。このことから本発明の半導体素子は十分な素子耐圧を維持しながら、極めて小さいオン抵抗を示していることが分かる。
【0046】
図10は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETの耐圧性能を示す図表である。縦軸は素子耐圧(V)、横軸は、n打ち返し層6の幅、すなわちp+層3の間隔(μm)である。比較のために従来技術により作製したp+層3を全く結合させず、かつp+層31を形成させないSiC−MOSFETについても図示してある。
【0047】
上述した素子の各層の濃度および厚さとした結果、本発明の実施例1の方が、1200Vデバイスとして十分な耐圧特性である1400V以上の高耐圧特性を実現していることがわかる。なお、この時のオン抵抗は両条件とも同一であった。比較のために用いた従来のSiC−MOSFETにより本実施例1と同等の1400V以上の高耐圧特性を満足させるには、p+層3の間の距離を1.0μm以下にし、かつn-打ち返し層6の不純物濃度を5分の1まで低減させなくてはならないことがわかった。その時のオン抵抗は12.8mΩcm2と極めて高い値を示した。つまり、本発明は、オン抵抗と素子耐圧特性を同時によくすることができるのである。
【0048】
ところで、特許第3214274号公報には、隣接するpベース層をつなげることで素子耐圧の劣化を防ぐ例が開示されている。しかしながら、この方法は、pベース層を部分的につなげることでそのつながった部分の表面蓄積層を無くすことになり、その結果、つながった部分のMOSFETが動作しない。その結果、オン抵抗が大きくなってしまう。しかしながら本発明は、pベース層4をつなげるのではなく、p+層3をつなげるので、表面蓄積層は残ることになり、その結果、オン抵抗は十分低くできるのである。これを検証するため、p+層3ではなくpベース層4をつなげた素子を試作して特性を評価した結果、耐圧は1440Vと変わらないもののオン抵抗が5.0mΩcm2と約50%も劣化した。
【0049】
図11は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETの負荷短絡耐量の測定結果を示す図表である。この負荷短絡耐量試験では、電源電圧を直接ソース―ドレイン間に印加し、その状態でゲート電極にVg=20Vの電圧を印加し、破壊時間(何μsec破壊しないか)を評価した。横軸は時間、縦軸は電流および電圧値、電源電圧Vds=800Vとし、また測定温度Tjは175℃である。その結果、最大電流が素子定格の5倍であるIp=125Aを導通としても破壊せず、さらに15μsecでも破壊しないという十分な特性を示した。
【0050】
図12は、本発明の実施例1にかかるSiC−MOSFETのターンオフ破壊耐量の評価結果を示す図表である。横軸は時間、縦軸は電流および電圧値である。さらにターンオフ耐量を評価したところ、ソース・ドレイン間電圧は1650Vにクランプされ(図12中のVdsclamp)、破壊することなく100A(定格電流の4倍)を150℃にてオフできることを確認した。このことから、本発明の素子は低オン抵抗を実現し、かつ負荷短絡耐量、ターンオフ耐量が極めて大きい素子であるということができる。また、図9の従来技術の欄に示すように、比較のために作製した各種SiC−MOSFETの耐量を評価したところ、素子耐圧が十分でないために負荷短絡耐量、ターンオフ耐量とも実施例1の素子に大きく劣る結果となった。
【0051】
なお、上述したn+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数は(000−1)に対して0°、2°、8°、10°傾いた面上同様に成膜し、作製した素子についても素子評価を行ったところ、特性の変化はほとんどなく良好であった。
【0052】
このように、半導体材料が炭化ケイ素の場合において、n+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数は(000−1)に対して平行な面もしくは10°以内、またはn+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数は(0001)に対して平行な面もしくは10度以内に設定することにより、ゲート酸化膜と半導体界面の界面準位密度を低減できることからMOSFET部分の移動度をさらに向上させることができる。その結果、オン抵抗を極めて小さくすることができる。
【0053】
(実施例2)
図13は、本発明の実施例2にかかるSiC−MOSFETの断面図である。上述した実施例1と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。ただし、本実施例2ではp+層31の形成法を、pベース層4表面からトレンチをp+層3を貫通するまで掘り、その後、トレンチの底面におけるn-型SiC層2にアルミニウムをイオン注入させて形成した。その後、トレンチは金属電極ニッケルならびにアルミニウムで埋め込むように形成した。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗、負荷短絡耐量とも実施例1と同等の特性を示しており良好であることがわかる。
【0054】
(実施例3)
実施例3は、実施例1と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。本実施例3では、p+層3に代えて、n-型SiC層2の表面層にpベース層4を選択的に形成し、さらにこのpベース層4およびn-型SiC層2上にpベース層4を堆積する。または、p+層3に代えて、n-型SiC層2の表面層にpベース層4を形成する。そして、pベース層4に、pベース層4を貫通しない深さでn打ち返し層6を形成する。
【0055】
その他の工程、セル構造は実施例1と同一である。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗は実施例1に対し、10%ほど増加しているものの、通常のSiC−MOSFETに対しては十分良好な抵抗特性を示していることがわかる。
【0056】
(実施例4)
実施例4は、実施例2と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。本実施例4においても実施例3同様に、p+層3に代えて、n-型SiC層2の表面層にpベース層4を選択的に形成し、さらにこのpベース層4およびn-型SiC層2上にpベース層4を堆積する。または、p+層3に代えて、n-型SiC層2の表面層にpベース層4を形成する。そして、pベース層4に、pベース層4を貫通しない深さでn打ち返し層6を形成する。
【0057】
その他の工程、セル構造は実施例2と同一である。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗は実施例1に対し、10%ほど増加しているものの、通常のSiC−MOSFETに対しては十分良好な抵抗特性を示していることがわかる。
【0058】
なお、上記の実施例1〜4において、n+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数は(000−1)または(0001)に対して0°、2°、8°、10°傾いた面上に同様に成膜し、作製した素子についても素子評価を行ったところ、特性の変化はほとんどなく良好であった。
【0059】
(実施例5)
実施例5では、上記の実施例1〜4に対し、不純物の導電型を変えたpチャネルMOSFETを作製しその特性を評価した。実施例5は、実施例1のp型とn型とを反転させたものであり、実施例1と同じ符号を付して説明する。まず、p+型SiC半導体基板1を用意する。ここでは、不純物としてアルミニウムを2×1019cm-3程度含む低抵抗のp+型SiC半導体基板1とした。前記p+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数は(0001)に対して4°ほど傾いた面の上にアルミニウムを1.0×1016cm-3程度含むp-型SiC層2を10μm程度エピタキシャル成長させる。このp-型SiC層2の表面層に幅2μmで深さ0.3μmのn+層31をイオン注入法で形成する。その後加速エネルギーを減少させて、幅13μmで深さ0.5μmのn+層3をイオン注入法で形成する。その際のイオンはリンを用いた。またn+層31はn+層3の中心に配置するようにした。
【0060】
これらn+層31およびn+層3の不純物濃度は、1.0×1018cm-3となるようにドーズ量を設定した。その際、後の工程で形成するp打ち返し層6の下でn+層3の一部を結合部13(図8A図8B参照)により互いに結合するようにする。本実施例5では6角形セルパターンにて作製したが、4角形セルなど他の多角形状としてもよい。また、結合していないところのn+層3間の距離は2μmとした。
【0061】
その後、nベース層4をエピタキシャル成長法により0.5μm厚でn+層3ならびにp-型SiC層2上に形成する。その際の不純物は窒素とし、不純物濃度は5.0×1016cm-3となるようにした。その後、イオン注入によりnベース層4の一部をp型に打ち返してなるp打ち返し層6としてアルミニウムイオンが5.0×1016cm-3で深さ1.5μm、幅2.0μmになるように選択的に注入し、p+ソース層、n+コンタクト層をnベース層4内に選択的に形成する。その後活性化アニールを実施する。熱処理温度・時間は1800℃・2分である。
【0062】
その後、ゲート酸化膜100nmの厚さを熱酸化で形成し、水素雰囲気中にて1000℃付近でアニールする。リンがドープされた多結晶シリコン層をゲート電極8として形成、パターニングした後、層間絶縁膜9としてリンガラスを1.0μm厚で成膜、パターニングし熱処理する。そして、1%シリコンを含んだアルミニウムを表面にスパッタ法にて厚さ5μmで成膜して、ソース電極10を形成する。素子裏面にはニッケルを成膜し970℃で熱処理後、裏面電極11をTi/Ni/Auの積層により成膜した。そして保護膜をソース電極10側の表面に付加して素子は完成する。
【0063】
このようにして作製した実施例5のpチャネルSiC−MOSFETの電気特性の測定結果を図9に示す。チップサイズは3mm角であり、活性領域の面積は5.27mm2であり、定格電流は25Aである。オン抵抗(RonA)は5.2mΩcm2と十分低い値を示し、初期の素子耐圧も−1430Vと、1200V素子として十分良好な特性を示している。比較のために、n+層3を全く結合させないようにして作製したSiC−MOSFETを測定したところ、オン抵抗は同等の5.2mΩcm2と十分低い値を示したが、ソース・ドレイン間に700V印加したところで、ゲート酸化膜が破壊してしまった。このことから本発明の半導体素子は十分な素子耐圧を維持しながら、極めて小さいオン抵抗を示していることがわかる。
【0064】
(実施例6)
実施例6は、実施例5と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。ただし本実施例6ではn+層31の形成法を、nベース層4表面からトレンチをn+層3を貫通するまで掘り、トレンチの底面におけるp-型SiC層2に窒素またはリンをイオン注入させて形成した。その後、トレンチは金属電極(ニッケルならびにアルミニウム)で埋め込むように形成した。断面構造図は図13と同じで、不純物の導電型が逆転した構造となる。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗、負荷短絡耐量とも実施例5とほぼ同等の特性を示しており良好であることがわかった。
【0065】
(実施例7)
実施例7は、実施例5と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。ただし本実施例7においても、実施例3同様に、n+層3を形成せず、nベース層4をイオン注入法で形成する。その他の工程、セル構造は実施例5と同一である。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗は実施例5に対し、15%ほど増加しているが通常のSiC−MOSFETに対しては十分良好な抵抗特性を示していることがわかる。
【0066】
(実施例8)
実施例8は、実施例6と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。この本実施例8においても、実施例3同様に、n+層3を形成せず、nベース層4をイオン注入法で形成する。その他の工程、セル構造は実施例6と同一である。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗は実施例5に対し、15%ほど増加しているが通常のSiC−MOSFETに対しては十分良好な抵抗特性を示していることがわかる。
【0067】
なお、上記の実施例5〜8において、p+型SiC半導体基板1の結晶学的面指数は(000−1)または(0001)に対して0°、2°、8°、10°傾いた面上に同様に成膜し、作製した素子についても素子評価を行ったところ、特性の変化はほとんどなく良好であった。
【0068】
(実施例9)
図14は、本発明の実施例9にかかるSiC−MOSFETのp+層とセルの配置を表す平面図である。実施例9は、実施例1、2と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。本実施例9ではストライプセルパターンで設計した。そのため、p+層3の配置は図14に示す構造でp+層3同士を結合させている。その他の工程は実施例1、2と同一である。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗は実施例1に対し、10%ほど増加するものの、他の特性はほとんど劣化せず通常のSiC−MOSFETに対しては十分低いオン抵抗特性と高耐圧特性を示していることがわかる。
【0069】
(実施例10)
実施例10は、実施例5、6と同様の製造工程にて1200V、25AのMOSFETを作製した。本実施例10ではストライプセルパターンで設計した。そのため、n+層3の配置は、図14同様の構造によりn+層3同士を結合させている。その他の工程は実施例5,6と同一である。作製した素子の電気特性評価結果を図9に示す。オン抵抗は実施例5,6に対し、20%ほど増加するものの、他の特性はほとんど劣化せず通常のSiC−MOSFETに対しては十分低いオン抵抗特性と高耐圧特性を示していることがわかる。
【0070】
図15は、本発明の各実施例のSiC−MOSFETのターンオフスイッチング波形、図16は、本発明の各実施例のSiC−MOSFETのターンオンスイッチング波形である。各図の(a)は室温、(b)は200℃の温度環境であり、横軸は時間、縦軸は電圧、電流である。上記実施例1〜10で作製したSiC−MOSFETのスイッチング損失評価を行ったところ、図15に示すターンオフ損失、および図16に示すターンオン損失ともに、同一定格のSi−IGBT(1200V、25A)に対し、60%以上もの低減が図られていることを確認した。
【0071】
また、本発明は、MOSFETとは異なる導電型の半導体基板を用いたIGBTにも適用できる。IGBTの場合、実施例1〜4,9ではn+型SiC半導体基板1の導電型をp型にすればく、実施例5〜8,10ではp+型SiC半導体基板1の導電型をn型にすればよい。
【0072】
SiCはシリコンにおける材料限界を超える可能性が大きいことからパワー半導体用途、特にMOSFETでは今後の伸長が大きく期待されている。SiCは、特に、オン抵抗が小さいことが期待されているが、上記の実施の形態によれば、高電圧印加時においても、半導体そのものの破壊、ゲート酸化膜の破壊を防止でき、信頼性が劣化することなく低オン抵抗を有することができる縦型SiC−MOSFET、IGBT構造とその簡便な製造法を提供できるようになる。
【0073】
また、本発明の実施の形態によれば、基板の結晶面方位によらず十分な素子耐圧特性を保持したまま、低オン抵抗で破壊耐量が大きく、さらに高速スイッチング特性が得られるMOSFETならびにIGBTを提供することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明にかかる高耐圧半導体装置およびその製造方法は、例えば、パワーデバイス等の電力用半導体装置や、産業用のモータ制御やエンジン制御に使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 半導体基板
2 第1導電型半導体層
3 第2導電型高濃度半導体層
4 第2導電型低濃度半導体層
5 第1導電型ソース領域
6 第1導電型ウェル領域
8 ゲート電極層
10 ソース電極
11 ドレイン電極
13 結合部
31 第2導電型領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20