特許第6241966号(P6241966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241966単核ルテニウム錯体およびそれを使用した有機合成反応
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241966
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】単核ルテニウム錯体およびそれを使用した有機合成反応
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20171127BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20171127BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 291/10 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 5/03 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 9/16 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 15/073 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 15/18 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 33/20 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 29/147 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 211/04 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 209/50 20060101ALI20171127BHJP
   C07F 9/141 20060101ALI20171127BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20171127BHJP
   C07D 213/22 20060101ALI20171127BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C07F19/00CSP
   C07F15/00 A
   C07F7/08 B
   C07C291/10
   C07F7/08 X
   C07C5/03
   C07C9/16
   C07C13/18
   C07C15/073
   C07C15/18
   C07C31/125
   C07C31/20 Z
   C07C33/20
   C07C29/147
   C07C211/04
   C07C209/50
   C07F9/141
   B01J31/22 Z
   C07D213/22
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2016-507467(P2016-507467)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2015056200
(87)【国際公開番号】WO2015137194
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-46121(P2014-46121)
(32)【優先日】2014年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)委託者 独立行政法人科学技術振興機構,事業名 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST),研究題目 配位子場制御による鉄触媒設計指針の確立と展開,研究担当者 国立大学法人九州大学 先導物質化学研究所 教授 永島英夫ほか,研究期間 平成24年4月1日〜平成27年3月31日。産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永島 英夫
(72)【発明者】
【氏名】砂田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】大串 元
(72)【発明者】
【氏名】作田 晃司
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−178968(JP,A)
【文献】 国際公開第96/005207(WO,A1)
【文献】 Organometallics,2010年,29(4),p.1026-1031
【文献】 Journal of Physical Chemistry C,2008年,112(41),p.16070-16077
【文献】 Chemical Communications,2007年,(38),p.3963-3965
【文献】 Organometallics,2002年,21(24),p.5347-5357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 19/00
B01J 31/00
C07C 5/00
C07C 9/00
C07C 13/00
C07C 15/00
C07C 29/00
C07C 31/00
C07C 33/00
C07C 209/00
C07C 211/00
C07C 291/00
C07D 213/00
C07F 7/00
C07F 9/00
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2)で表されることを特徴とする中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【化1】
(式中、R1〜R6は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、前記R1〜R3のいずれか1つと、R4〜R6のいずれか1つとが一緒になって、−C=C−、炭素数1〜10のアルキレン基および炭素数6〜30のアリーレン基から選ばれる架橋置換基を形成し、
1は、イソニトリル、含窒素ヘテロ環、およびホスファイトから選ばれる少なくとも1種の二電子配位子を表し、L1が複数存在する場合、2個のL1が互いに結合していてもよく、
前記イソニトリルは、RNCで表され、
前記ホスファイトは、(RO)3Pで表され、
これらRは、互いに独立して、置換もしくは非置換の、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数7〜30のアラルキル基を表し、
前記含窒素ヘテロ環は、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、オキサゾリン、およびイソオキサゾリンから選ばれる少なくとも1種であり、
2は、H−SiR789およびH−SiR101112で表され、これらR7〜R12は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になって、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、およびYで置換されていてもよいo−フェニレン基(Yは、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、Yが複数存在する場合それらは互いに同一でも異なっていてもよい)から選ばれる架橋置換基を形成していてもよいトリオルガノヒドロシランの二電子配位子を表し、
1およびm2は、いずれも2である。)
【請求項2】
前記L2が、H−SiR789およびH−SiR101112で表され、これらR7〜R12は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になって、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、およびYで置換されていてもよいo−フェニレン基(Yは、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、Yが複数存在する場合それらは互いに同一でも異なっていてもよい)から選ばれる架橋置換基を形成しているトリオルガノヒドロシランの二電子配位子を表す請求項1記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項3】
前記L2が、H−SiR789およびH−SiR101112(式中、R7〜R12は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。)で表され、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になってYで置換されていてもよいo−フェニレン基(Yは前記を同じ意味を表す。)を形成しているトリオルガノヒドロシランの二電子配位子を表す請求項1記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項4】
前記R7〜R12が、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基であるが、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成している請求項3記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項5】
前記R1〜R6が、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表すが、前記R1〜R3のいずれか1つと、R4〜R6のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成している請求項1〜3のいずれか1項記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項6】
前記R1〜R3のいずれか2つがメチル基であり、かつ、前記R4〜R6のいずれか2つがメチル基であり、前記R1〜R3のいずれか1つと、R4〜R6のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成し、
前記R7〜R9のいずれか2つがメチル基であり、かつ、R10〜R12のいずれか2つがメチル基であり、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成している請求項1記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項7】
前記イソニトリルが、RNCで表され、このRが、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアルキル基の置換基を有するフェニル基であり、
前記含窒素ヘテロ環が、ピリジン環であり、
前記ホスファイトが、(RO)3Pで表され、このRが、炭素数1〜10のアルキル基である請求項1〜6のいずれか1項記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項8】
前記イソニトリルが、メチルイソシアニド、エチルイソシアニド、n−プロピルイソシアニド、シクロプロピルイソシアニド、n−ブチルイソシアニド、イソブチルイソシアニド、sec−ブチルイソシアニド、t−ブチルイソシアニド、n−ペンチルイソシアニド、イソペンチルイソシアニド、ネオペンチルイソシアニド、n−ヘキシルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、シクロヘプチルイソシアニド、1,1−ジメチルヘキシルイソシアニド、1−アダマンチルイソシアニド、2−アダマンチルイソシアニド、フェニルイソシアニド、2−メチルフェニルイソシアニド、4−メチルフェニルイソシアニド、2,4−ジメチルフェニルイソシアニド、2,5−ジメチルフェニルイソシアニド、2,6−ジメチルフェニルイソシアニド、2,4,6−トリメチルフェニルイソシアニド、2,4,6−トリt−ブチルフェニルイソシアニド、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアニド、1−ナフチルイソシアニド、2−ナフチルイソシアニド、2−メチル−1−ナフチルイソシアニド、ベンジルイソシアニド、およびフェニルエチルイソシアニドから選ばれる請求項1〜6のいずれか1項記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項9】
前記含窒素ヘテロ環が、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,2′−ビピリジン、4,4′−ジメチル−2,2′−ビピリジン、5,5′−ジメチル−2,2′−ビピリジン、4,4′−ジエチル−2,2′−ビピリジン、および4,4′−ジtert−ブチル−2,2′−ビピリジンから選ばれる請求項1〜6のいずれか1項記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項10】
前記ホスファイトが、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリn−ブチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリn−デシルホスファイト、4−メチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン(トリメチロールエタンサイクリックホスファイト)、および4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン(トリメチロールプロパンホスファイト)から選ばれる請求項1〜6のいずれか1項記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体からなるヒドロシリル化反応、水素化反応およびカルボニル化合物の還元反応から選ばれる少なくとも1つの反応に活性を有する触媒。
【請求項12】
請求項11記載の触媒の存在下、脂肪族不飽和結合を有する化合物と、Si−H結合を有するヒドロシランまたはオルガノヒドロポリシロキサンとをヒドロシリル化反応させることを特徴とする付加化合物の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の触媒の存在下、脂肪族不飽和結合を有する化合物を水素化させることを特徴とするアルカン化合物の製造方法。
【請求項14】
請求項11記載の触媒の存在下、アミド化合物をSi−H結合を有するシランまたはオルガノヒドロポリシロキサンで還元することを特徴とするアミン化合物の製造方法。
【請求項15】
請求項11記載の触媒の存在下、アルデヒド化合物、ケトン化合物またはエステル化合物をSi−H結合を有するシランまたはオルガノヒドロポリシロキサンで還元することを特徴とするアルコール化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム−ケイ素結合を有する単核ルテニウム錯体に関し、さらに詳述すると、工業的に有用なヒドロシリル化反応、水素化反応、およびカルボニル化合物の還元反応の少なくとも1つの反応に触媒活性を有する単核ルテニウム錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素−炭素二重結合や同三重結合を有する化合物に対してSi−H官能性化合物を付加反応するヒドロシリル化反応は、有機ケイ素化合物を合成する有用な手段であり、工業的にも重要な合成反応である。
このヒドロシリル化反応の触媒としては、Pt、Pd、Rh化合物が知られており、その中でも最も多く用いられているものはSpeier触媒、Karstedt触媒に代表されるPt化合物である。
【0003】
Pt化合物を触媒とする反応の問題点としては、末端オレフィンにSi−H官能性化合物を付加する際、オレフィンが内部転位する副反応が生じることが挙げられる。この系では内部オレフィンに対しては付加反応性を示さず、未反応オレフィンが付加生成物中に残留してしまうことから、反応を完結させるためには、副反応で残留する分を見込んであらかじめ過剰のオレフィンを用いる必要がある。
また、オレフィンの種類により、α付加体とβ付加体の選択性が劣るという問題もある。
【0004】
最も大きな問題点は、中心金属であるPt,Pd,Rhはいずれも極めて高価な貴金属元素であるということであり、より安価に使用できる金属化合物触媒が望まれていることから、数多くの研究が進められている。特に、Ruは貴金属に属するものの、比較的安価に入手できる金属であることから、Pt,Pd,Rhの代替としての機能が求められている。
【0005】
このRu化合物について、η6−アレーン基を有し、かつ中心金属であるRuにオルガノポリシロキサンが結合、あるいはビニルシロキサンが配位した化合物が報告されている(特許文献1)。この化合物は、メチルハイドロジェンポリシロキサンとメチルビニルポリシロキサンとの付加反応に有効であることが示されているものの、120℃の反応では収率が低く、高収率を得るためには160℃の高温下で反応させなければならない。
また、この特許文献1には先行文献としてRu触媒に関する多くの特許が引用されているが(特許文献2〜6)、反応性、選択性、経済性の観点からいずれも貴金属元素系触媒に勝っているとは言えない。
【0006】
一方、オレフィンの水素化反応も工業的に重要な反応であるが、従来の触媒はPt、Pd、Rh等の貴金属が用いられており、貴金属の中でも安価なルテニウムの利用が望まれている。例えば、非特許文献1に示されるような3核ルテニウム錯体を用いたものなどがあるが、反応温度や収率等の観点から、さらに改良が望まれている。
また、非特許文献2には反応収率が低いとされている4置換オレフィンの水素化反応に有効な単核ルテニウム錯体が開示されているが、ターンオーバー数が低く、また高圧条件下での反応条件が必要である。
【0007】
カルボニル化合物を還元する方法としては、アルミニウムやホウ素の水素化合物や貴金属触媒存在下で水素を用いる方法がある。カルボニル化合物のうち、ケトンやアルデヒドについては温和な条件で反応を進行させ得る、安定で取り扱いやすいヒドリド反応剤や水素化用貴金属触媒が知られているが、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体の還元には、リチウムアルミニウムヒドリド、ボラン等の強力な還元剤を用いる方法が主に用いられている(非特許文献3)。しかし、これらの還元剤は発火性、禁水性物質であるため取り扱いに難がある。また、反応後のアルミニウム、あるいはホウ素化合物を目的物から除去する時にも取り扱いに注意が必要である。加えて、カルボン酸誘導体の還元には高温高圧の水素が必要である。
空気中で安定かつ取り扱いが容易なヒドロシラン化合物、メチルハイドロジェンポリシロキサンを還元剤として使用する方法が数多く報告されているが、反応には強い酸またはルイス酸の添加や、高価な貴金属触媒を必要とする。最近、比較的安価なルテニウムを触媒とするカルボニル化合物の還元反応が報告されており、そのうちの一部は、従来法では過酷な条件を必要とするアミドの還元反応に適用した例も出ている。具体的なルテニウム触媒の例として非特許文献4〜7が挙げられるが、より高いターンオーバー数を示す高活性触媒が望まれている。
【0008】
ルテニウムとケイ素間のσ結合を有している単核錯体化合物として、六電子配位子を有する二価錯体(非特許文献8、9)、二電子配位子を有する四価錯体(非特許文献10、11)、六電子配位子を有する四価錯体(非特許文献9、12)、ケイ素上にチオ尿素基を有する二価錯体(非特許文献13)、ケイ素上にハロゲンを有する二価錯体(非特許文献14)、アニオン錯体(非特許文献15)、二電子配位子としてアゴスティックなSi−H配位子を有する二価錯体(非特許文献15、16)が知られている。
また、ルテニウムとケイ素間にσ結合を有さず、二電子配位子としてアゴスティックなSi−H配位子を有する二価錯体(非特許文献16,17)も知られている。
さらに、二電子配位子としてイソニトリルを有する単核錯体化合物としては、2つのルテニウムおよびケイ素間のσ結合と、COと、ケイ素上にハロゲン基を有する二価錯体(非特許文献18)、2つのルテニウムおよびケイ素間のσ結合と、COとを有する二価錯体(非特許文献19)、1つのルテニウムおよびケイ素間のσ結合と、COとを有する二価錯体(非特許文献20)、2つのルテニウムおよびケイ素間のσ結合と、ケイ素上にハロゲン基とを有する二価錯体(非特許文献21)、ルテニウムおよびケイ素間のσ結合が1つのみである二価錯体(非特許文献22)、ルテニウムおよびケイ素間にσ結合を有しない二価錯体(非特許文献17)が知られている。
しかしながら、上記の非特許文献8〜22では、それらに開示されているルテニウム錯体が、ヒドロシリル化反応、オレフィンの水素反応、および/またはカルボニル化合物の還元反応に対して触媒活性を有している可能性をなんら示唆していない。
一方、ルテニウム錯体を触媒に用いた反応例としては、エチレンとジメチルクロロシランとの付加反応(非特許文献23)が報告されているが、その反応性と選択性は低いものである。
また、ジシランとエチレンの付加反応例(非特許文献24)が報告されており、推定される反応機構には中間体としてのジシラメタラサイクル構造が提案されている。しかしながら、配位子を含んだ錯体構造は明らかにされておらず、ジメタラサイクル構造を示唆することの同定もなされていない。さらに、ここで報告されている反応例も、反応性と選択性が低いものであり、十分な触媒活性を示す錯体であるとは言えない。しかも、同反応機構による主生成物は、脱水素シリル化によるビニルシランまたは環状シランであり、付加体は微量しか存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5032561号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0092759号明細書
【特許文献3】米国特許第5559264号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開0403706号明細書
【特許文献5】米国特許第5248802号明細書
【特許文献6】西独国特許出願公開第2810032号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】G. S▲u▼ss-Fink, et al., J. Mol. Cat. 1982, 16, 231
【非特許文献2】C.H.Lau, et al., Organometallics, 1997, 16, 34
【非特許文献3】W. R. Brown, Organic Reactions, 1941, 6, 470
【非特許文献4】K. Miyamoto, et al., Chem. Lett. 2012, 229
【非特許文献5】K. Matsubara, et al., J. Org. Chem. 2002, 67, 4985
【非特許文献6】Y. Motoyama, et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 13150
【非特許文献7】H. Sasakuma, et al., Chem. Commun. 2007, 4916
【非特許文献8】F. R. Lemke, et al., Organometallics, 2003, 22, 4928
【非特許文献9】H. Nagashima, et al., Organometallics, 2013, 32, 2112
【非特許文献10】S. Sabo-Etienne, et al., Inorg. Chem., 2013, 52, 2654
【非特許文献11】D. H. Berry, et al., J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 8936
【非特許文献12】D. H. Berry, et al., Organometallics, 1994, 13, 2551
【非特許文献13】A. F. Hill, et al., Organometallics, 2010, 29, 1026
【非特許文献14】P. Svoboda, et al., Collection of Czechosiovak Chemical Communication, 1974, 39, 1324
【非特許文献15】J. C. Peters, et al., Organometallics, 2009, 28, 3744
【非特許文献16】S. Sabo-Etienne, et al., Inorg. Chem., 2013, 52, 9798
【非特許文献17】S. Sabo-Etienne, et al., J. Am. Chem. Soc., 1999, 121, 6668
【非特許文献18】R. K. Pomeroy, et al., Inorg. Chem., 1980, 19, 3729
【非特許文献19】H. Tobita, et al., Organometallics, 2008, 27, 918
【非特許文献20】H. Tobita, et al., Organometallics, 2009, 28, 3963
【非特許文献21】N. J. Cooper, et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1992, 32, 83
【非特許文献22】H. Tobita, et al., Organometallics, 1997, 16, 3870
【非特許文献23】S. Lachaize, et al., Chem. Commun. 2003, 214
【非特許文献24】F. Delpech, et al., Organometallics, 2000, 19, 5750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ヒドロシリル化反応、水素化反応、およびカルボニル化合物の還元反応の三反応の少なくとも1つの反応に優れた触媒活性を発揮し得る、ルテニウム−ケイ素結合を有する単核ルテニウム錯体、およびこの錯体を使用して温和な条件下で各反応を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ルテニウム−ケイ素結合を有する所定の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体が、ヒドロシリル化反応、水素化反応およびカルボニル化合物の還元反応の少なくとも1つの反応に優れた触媒活性を発揮し得、温和な条件下でそれぞれの反応が進行することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. 式(2)で表されることを特徴とする中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
【化1】
(式中、R1〜R6は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、前記R1〜R3のいずれか1つと、R4〜R6のいずれか1つとが一緒になって、−C=C−、炭素数1〜10のアルキレン基および炭素数6〜30のアリーレン基から選ばれる架橋置換基を形成し、
1は、イソニトリル、含窒素ヘテロ環、およびホスファイトから選ばれる少なくとも1種の二電子配位子を表し、L1が複数存在する場合、2個のL1が互いに結合していてもよく、
前記イソニトリルは、RNCで表され、
前記ホスファイトは、(RO)3Pで表され、
これらRは、互いに独立して、置換もしくは非置換の、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数7〜30のアラルキル基を表し、
前記含窒素ヘテロ環は、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、オキサゾリン、およびイソオキサゾリンから選ばれる少なくとも1種であり、
2は、H−SiR789およびH−SiR101112で表され、これらR7〜R12は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になって、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、およびYで置換されていてもよいo−フェニレン基(Yは、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、Yが複数存在する場合それらは互いに同一でも異なっていてもよい)から選ばれる架橋置換基を形成していてもよいトリオルガノヒドロシランの二電子配位子を表し、
1およびm2は、いずれも2である。)
2. 前記L2が、H−SiR789およびH−SiR101112で表され、これらR7〜R12は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表すが、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になって、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、およびYで置換されていてもよいo−フェニレン基(Yは、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、Yが複数存在する場合それらは互いに同一でも異なっていてもよい)から選ばれる架橋置換基を形成しているトリオルガノヒドロシランの二電子配位子を表す1の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
3. 前記L2が、H−SiR789およびH−SiR101112(式中、R7〜R12は、互いに独立して、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。)で表され、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になってYで置換されていてもよいo−フェニレン基(Yは前記を同じ意味を表す。)を形成しているトリオルガノヒドロシランの二電子配位子を表す1の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
4. 前記R7〜R12が、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基であるが、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成している3の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
5. 前記R1〜R6が、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表すが、前記R1〜R3のいずれか1つと、R4〜R6のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成している1〜3のいずれかの中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
6. 前記R1〜R3のいずれか2つがメチル基であり、かつ、前記R4〜R6のいずれか2つがメチル基であり、前記R1〜R3のいずれか1つと、R4〜R6のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成し、
前記R7〜R9のいずれか2つがメチル基であり、かつ、R10〜R12のいずれか2つがメチル基であり、R7〜R9のいずれか1つと、R10〜R12のいずれか1つとが一緒になってo−フェニレン基を形成している1の中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
7. 前記イソニトリルが、RNCで表され、このRが、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアルキル基の置換基を有するフェニル基であり、
前記含窒素ヘテロ環が、ピリジン環であり、
前記ホスファイトが、(RO)3Pで表され、このRが、炭素数1〜10のアルキル基である1〜6のいずれかの中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
8. 前記イソニトリルが、メチルイソシアニド、エチルイソシアニド、n−プロピルイソシアニド、シクロプロピルイソシアニド、n−ブチルイソシアニド、イソブチルイソシアニド、sec−ブチルイソシアニド、t−ブチルイソシアニド、n−ペンチルイソシアニド、イソペンチルイソシアニド、ネオペンチルイソシアニド、n−ヘキシルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、シクロヘプチルイソシアニド、1,1−ジメチルヘキシルイソシアニド、1−アダマンチルイソシアニド、2−アダマンチルイソシアニド、フェニルイソシアニド、2−メチルフェニルイソシアニド、4−メチルフェニルイソシアニド、2,4−ジメチルフェニルイソシアニド、2,5−ジメチルフェニルイソシアニド、2,6−ジメチルフェニルイソシアニド、2,4,6−トリメチルフェニルイソシアニド、2,4,6−トリt−ブチルフェニルイソシアニド、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアニド、1−ナフチルイソシアニド、2−ナフチルイソシアニド、2−メチル−1−ナフチルイソシアニド、ベンジルイソシアニド、およびフェニルエチルイソシアニドから選ばれる1〜6のいずれかの中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
9. 前記含窒素ヘテロ環が、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,2′−ビピリジン、4,4′−ジメチル−2,2′−ビピリジン、5,5′−ジメチル−2,2′−ビピリジン、4,4′−ジエチル−2,2′−ビピリジン、および4,4′−ジtert−ブチル−2,2′−ビピリジンから選ばれる1〜6のいずれかの中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
10. 前記ホスファイトが、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリn−ブチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリn−デシルホスファイト、4−メチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン(トリメチロールエタンサイクリックホスファイト)、および4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン(トリメチロールプロパンホスファイト)から選ばれる1〜6のいずれかの中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体、
11. 1〜10のいずれかの中性またはカチオン性単核ルテニウム二価錯体からなるヒドロシリル化反応、水素化反応およびカルボニル化合物の還元反応から選ばれる少なくとも1つの反応に活性を有する触媒、
12. 11の触媒の存在下、脂肪族不飽和結合を有する化合物と、Si−H結合を有するヒドロシランまたはオルガノヒドロポリシロキサンとをヒドロシリル化反応させることを特徴とする付加化合物の製造方法、
13. 11の触媒の存在下、脂肪族不飽和結合を有する化合物を水素化させることを特徴とするアルカン化合物の製造方法、
14. 11の触媒の存在下、アミド化合物をSi−H結合を有するシランまたはオルガノヒドロポリシロキサンで還元することを特徴とするアミン化合物の製造方法、
15. 11の触媒の存在下、アルデヒド化合物、ケトン化合物またはエステル化合物をSi−H結合を有するシランまたはオルガノヒドロポリシロキサンで還元することを特徴とするアルコール化合物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の単核ルテニウム錯体を触媒として用い、脂肪族不飽和基含有化合物とSi−H基を有するシラン、あるいはポリシロキサンとのヒドロシリル化反応を行うと、室温〜100℃以下の条件下で付加反応が可能になる。特に工業的に有用なポリシロキサン、並びにトリアルコキシシランおよびジアルコキシシランとの付加反応が良好に進行する。さらに、公知文献では同反応において、不飽和基への付加反応よりも、脱水素シリル化反応による不飽和基含有化合物が生成する反応が優先して進行することがたびたび示されているが、本発明の触媒を用いると不飽和基への付加反応が優先的に進行する。
水素化反応は、室温および水素ガス1気圧の温和な条件下で行うことができ、しかも従来の方法では困難であった多置換アルケンの水素化にも有効である。また、触媒は温度や圧力に対して耐性を持ち、80℃、あるいは10気圧といった加温加圧条件でも活性を示す。
カルボニル化合物の還元反応では、アミド化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物、エステル化合物を、取り扱いが容易なSi−H基を有するシラン、あるいはポリシロキサンと反応させることによって目的とする還元化合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られたルテニウム錯体Aの構造を示す図である。
図2】実施例1で得られたルテニウム錯体Aの1H−NMRスペクトル図である。
図3】実施例2で得られたルテニウム錯体Bの構造を示す図である。
図4】実施例2で得られたルテニウム錯体Bの1H−NMRスペクトル図である。
図5】実施例3で得られたルテニウム錯体Cの1H−NMRスペクトル図である。
図6】実施例4で得られたルテニウム錯体Dの1H−NMRスペクトル図である。
図7】実施例5で得られたルテニウム錯体Eの構造を示す図である。
図8】実施例5で得られたルテニウム錯体Eの1H−NMRスペクトル図である。
図9】実施例6で得られたルテニウム錯体Fの構造を示す図である。
図10】実施例6で得られたルテニウム錯体Fの1H−NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る単核ルテニウム錯体は、式(1)で表されるように、2つのRu−Si結合を有し、かつ、Ruに一酸化炭素(CO)およびチオ尿素配位子以外の二電子配位子Lが3個または4個配位している中性またはカチオン性の二価錯体である。
【0017】
【化3】
【0018】
式(1)において、R1〜R6は、互いに独立して、水素原子、Xで置換されていてもよい、アルキル基、アリール基、アラルキル基、オルガノオキシ基、モノオルガノアミノ基、ジオルガノアミノ基、モノオルガノホスフィノ基、ジオルガノホスフィノ基、モノオルガノシリル基、ジオルガノシリル基、トリオルガノシリル基、またはオルガノチオ基を表すか、R1〜R3のいずれかとR4〜R6のいずれかの少なくとも1組が一緒になった架橋置換基を表し、Xは、ハロゲン原子、オルガノオキシ基、モノオルガノアミノ基、ジオルガノアミノ基、またはオルガノチオ基を表す。
アルキル基としては、直鎖、分岐鎖、環状のいずれでもよく、また、その炭素数も特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−エイコサニル基等の直鎖または分岐鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル基等のシクロアルキル基などが挙げられる。
【0019】
アリール基としても、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20のアリール基であり、その具体例としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、アントリル、フェナントリル、o−ビフェニリル、m−ビフェニリル、p−ビフェニリル基等が挙げられる。
アラルキル基としても、その炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20のアラルキル基であり、その具体例としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
オルガノオキシ基としては、特に限定されるものではないが、RO(Rは、置換もしくは非置換の、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。)で示されるアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1〜30、特に炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、c−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキソキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、n−ノニルオキシ、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、特に限定されるものではないが、炭素数6〜30、特に炭素数6〜20のアリールオキシ基が好ましく、その具体例としては、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ、アントリルオキシ、フェナントリルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、特に限定されるものではないが、炭素数7〜30、特に炭素数7〜20のアラルキルオキシ基が好ましく、ベンジルオキシ基、フェニルエチルオキシ、フェニルプロピルオキシ、1または2−ナフチルメチルオキシ、1または2−ナフチルエチルオキシ、1または2−ナフチルプロピルオキシ基等が挙げられる。
オルガノチオ基としては、上記オルガノオキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基等が挙げられる。
【0021】
モノオルガノアミノ基としては、特に限定されるものではないが、RNH2(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n−ブチルアミノ、イソブチルアミノ、s−ブチルアミノ、t−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、n−ヘキシルアミノ、n−ヘプチルアミノ、n−オクチルアミノ、n−ノニルアミノ、n−デシルアミノ、n−ウンデシルアミノ、n−ドデシルアミノ、n−トリデシルアミノ、n−テトラデシルアミノ、n−ペンタデシルアミノ、n−ヘキサデシルアミノ、n−ヘプタデシルアミノ、n−オクタデシルアミノ、n−ノナデシルアミノ、n−エイコサニルアミノ基等の直鎖または分岐鎖モノアルキルアミノ基;シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、シクロヘプチルアミノ、シクロオクチルアミノ、シクロノニルアミノ基等のモノシクロアルキルアミノ基;アニリノ、1または2−ナフチルアミノ基等のモノアリールアミノ基;ベンジルアミノ、フェニルエチルアミノ、フェニルプロピルアミノ、1または2−ナフチルメチルアミノ基等のモノアラルキルアミノ基などが挙げられる。
【0022】
ジオルガノアミノ基としては、特に限定されるものではないが、R2NH(Rは互いに独立して、上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ−n−プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ−n−ブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジ−s−ブチルアミノ、ジ−t−ブチルアミノ、ジ−n−ペンチルアミノ、ジ−n−ヘキシルアミノ、ジ−n−ヘプチルアミノ、ジ−n−オクチルアミノ、ジ−n−ノニルアミノ、ジ−n−デシルアミノ、ジ−n−ウンデシルアミノ、ジ−n−ドデシルアミノ、ジ−n−トリデシルアミノ、ジ−n−テトラデシルアミノ、ジ−n−ペンタデシルアミノ、ジ−n−ヘキサデシルアミノ、ジ−n−ヘプタデシルアミノ、ジ−n−オクタデシルアミノ、ジ−n−ノナデシルアミノ、ジ−n−エイコサニルアミノ、N−エチルメチルアミノ、N−イソプロピルメチルアミノ、N−ブチルメチルアミノ基等の直鎖または分岐鎖ジアルキルアミノ基;ジシクロプロピルアミノ、ジシクロブチルアミノ、ジシクロペンチルアミノ、ジシクロヘキシルアミノ、ジシクロヘプチルアミノ、ジシクロオクチルアミノ、ジシクロノニルアミノ、シクロペンチルシクロヘキシルアミノ基等のジシクロアルキルアミノ基;N−メチルアニリノ、N−エチルアニリノ、N−n−プロピルアニリノ基等のアルキルアリールアミノ基;ジフェニルアミノ、4,4′−ビスナフチルアミノ、N−フェニル−1または2−ナフチルアミノ基等のジアリールアミノ基;ジベンジルアミノ、ビス(フェニルエチル)アミノ、ビス(フェニルプロピル)アミノ、ビス(1または2−ナフチルメチル)アミノ基等のジアラルキルアミノ基などが挙げられる。
【0023】
モノオルガノホスフィノ基としては、特に限定されるものではないが、RPH(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、メチルホスフィノ、エチルホスフィノ、n−プロピルホスフィノ、イソプロピルホスフィノ、n−ブチルホスフィノ、イソブチルホスフィノ、s−ブチルホスフィノ、t−ブチルホスフィノ、n−ペンチルホスフィノ、n−ヘキシルホスフィノ、n−ヘプチルホスフィノ、n−オクチルホスフィノ、n−ノニルホスフィノ、n−デシルホスフィノ、n−ウンデシルホスフィノ、n−ドデシルホスフィノ、n−トリデシルホスフィノ、n−テトラデシルホスフィノ、n−ペンタデシルホスフィノ、n−ヘキサデシルホスフィノ、n−ヘプタデシルホスフィノ、n−オクタデシルホスフィノ、n−ノナデシルホスフィノ、n−エイコサニルホスフィノ基等の直鎖または分岐鎖モノアルキルホスフィノ基;シクロプロピルホスフィノ、シクロブチルホスフィノ、シクロペンチルホスフィノ、シクロヘキシルホスフィノ、シクロヘプチルホスフィノ、シクロオクチルホスフィノ、シクロノニルホスフィノ基等のモノシクロアルキルホスフィノ基;フェニルホスフィノ、1または2−ナフチルホスフィノ基等のモノアリールホスフィノ基;ベンジルホスフィノ基等のモノアラルキルホスフィノ基などが挙げられる。
【0024】
ジオルガノホスフィノ基としては、特に限定されるものではないが、R2P(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、ジメチルホスフィノ、ジエチルホスフィノ、ジ−n−プロピルホスフィノ、ジイソプロピルホスフィノ、ジ−n−ブチルホスフィノ、ジイソブチルホスフィノ、ジ−s−ブチルホスフィノ、ジ−t−ブチルホスフィノ、ジ−n−ペンチルホスフィノ、ジ−n−ヘキシルホスフィノ、ジ−n−ヘプチルホスフィノ、ジ−n−オクチルホスフィノ、ジ−n−ノニルホスフィノ、ジ−n−デシルホスフィノ、ジ−n−ウンデシルホスフィノ、ジ−n−ドデシルホスフィノ、ジ−n−トリデシルホスフィノ、ジ−n−テトラデシルホスフィノ、ジ−n−ペンタデシルホスフィノ、ジ−n−ヘキサデシルホスフィノ、ジ−n−ヘプタデシルホスフィノ、ジ−n−オクタデシルホスフィノ、ジ−n−ノナデシルホスフィノ、ジ−n−エイコサニルホスフィノ基等の直鎖または分岐鎖ジアルキルホスフィノ基;ジシクロプロピルホスフィノ、ジシクロブチルホスフィノ、ジシクロペンチルホスフィノ、ジシクロヘキシルホスフィノ、ジシクロヘプチルホスフィノ、ジシクロオクチルホスフィノ、ジシクロノニルホスフィノ基等のジシクロアルキルホスフィノ基;シクロヘキシルフェニルホスフィノ基等のアルキルアリールホスフィノ基;ジフェニルホスフィノ、ビス(1または2−ナフチル)ホスフィノ基等のジアリールホスフィノ基;ジベンジルホスフィノ、ビス(フェニルエチル)ホスフィノ、ビス(1または2−ナフチルメチル)ホスフィノ基等のジアラルキルホスフィノ基などが挙げられる。
【0025】
モノオルガノシリル基としては、特に限定されるものではないが、RSiH2(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、メチルシリル、エチルシリル、n−プロピルシリル、イソプロピルシリル、n−ブチルシリル、イソブチルシリル、s−ブチルシリル、t−ブチルシリル、n−ペンチルシリル、n−ヘキシルシリル、n−ヘプチルシリル、n−オクチルシリル、n−ノニルシリル、n−デシルシリル、n−ウンデシルシリル、n−ドデシルシリル、n−トリデシルシリル、n−テトラデシルシリル、n−ペンタデシルシリル、n−ヘキサデシルシリル、n−ヘプタデシルシリル、n−オクタデシルシリル、n−ノナデシルシリル、n−エイコサニルシリル基等の直鎖または分岐鎖モノアルキルシリル基;シクロプロピルシリル、シクロブチルシリル、シクロペンチルシリル、シクロヘキシルシリル、シクロヘプチルシリル、シクロオクチルシリル、シクロノニルシリル基等のモノシクロアルキルシリル基;フェニルシリル、1または2−ナフチルシリル基等のモノアリールシリル基;ベンジルシリル、フェニルエチルシリル、フェニルプロピルシリル、1または2−ナフチルメチルシリル基等のモノアラルキルシリル基などが挙げられる。
【0026】
ジオルガノシリル基としては、特に限定されるものではないが、R2SiH(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、ジメチルシリル、ジエチルシリル、ジ−n−プロピルシリル、ジイソプロピルシリル、ジ−n−ブチルシリル、ジイソブチルシリル、ジ−s−ブチルシリル、ジ−t−ブチルシリル、ジ−n−ペンチルシリル、ジ−n−ヘキシルシリル、ジ−n−ヘプチルシリル、ジ−n−オクチルシリル、ジ−n−ノニルシリル、ジ−n−デシルシリル、ジ−n−ウンデシルシリル、ジ−n−ドデシルシリル、ジ−n−トリデシルシリル、ジ−n−テトラデシルシリル、ジ−n−ペンタデシルシリル、ジ−n−ヘキサデシルシリル、ジ−n−ヘプタデシルシリル、ジ−n−オクタデシルシリル、ジ−n−ノナデシルシリル、ジ−n−エイコサニルシリル、エチルメチルシリル、イソプロピルメチルシリル、ブチルメチルシリル基等の直鎖または分岐鎖ジアルキルシリル基;ジシクロプロピルシリル、ジシクロブチルシリル、ジシクロペンチルシリル、ジシクロヘキシルシリル、ジシクロヘプチルシリル、ジシクロオクチルシリル、ジシクロノニルシリル、シクロペンチルシクロヘキシルシリル基等のジシクロアルキルシリル基;(メチル)フェニルシリル、(エチル)フェニルシリル、(n−プロピル)フェニルシリル基等のアルキルアリールシリル基;ジフェニルシリル、ビス(1または2−ナフチル)シリル、フェニル−1または2−ナフチルシリル基等のジアリールシリル基;ジベンジルシリル、ビス(フェニルエチル)シリル、ビス(フェニルプロピル)シリル、ビス(1または2−ナフチルメチル)シリル基等のジアラルキルシリル基などが挙げられる。
【0027】
トリオルガノシリル基としては、特に限定されるものではないが、R3Si(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、Rにおける好ましい炭素数は上記アルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ基と同様である。その具体例としては、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリ−n−プロピルシリル、トリイソプロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、トリイソブチルシリル、トリ−s−ブチルシリル、トリ−t−ブチルシリル、トリ−n−ペンチルシリル、トリ−n−ヘキシルシリル、トリ−n−ヘプチルシリル、トリ−n−オクチルシリル、トリ−n−ノニルシリル、トリ−n−デシルシリル、トリ−n−ウンデシルシリル、トリ−n−ドデシルシリル、トリ−n−トリデシルシリル、トリ−n−テトラデシルシリル、トリ−n−ペンタデシルシリル、トリ−n−ヘキサデシルシリル、ジ−n−ヘプタデシルシリル、ジ−n−オクタデシルシリル、ジ−n−ノナデシルシリル、トリ−n−エイコサニルシリル、エチルジメチルシリル、ジイソプロピルメチルシリル、ジブチルメチルシリル基等の直鎖または分岐鎖トリアルキルシリル基;トリシクロプロピルシリル、トリシクロブチルシリル、トリシクロペンチルシリル、トリシクロヘキシルシリル、トリシクロヘプチルシリル、トリシクロオクチルシリル、トリシクロノニルシリル基等のトリシクロアルキルシリル基;(メチル)ジフェニルシリル、(エチル)ジフェニルシリル、(n−プロピル)ジフェニルシリル基等のアルキルアリールシリル基;トリフェニルシリル、トリ(1または2−ナフチル)シリル、ジフェニル−1または2−ナフチルシリル基等のトリアリールシリル基;トリベンジルシリル、トリ(フェニルエチル)シリル、トリ(フェニルプロピル)シリル、トリ(1または2−ナフチルメチル)シリル基等のトリアラルキルシリル基などが挙げられる。
【0028】
なお、上記各置換基は、R上の少なくとも1つの水素原子が置換基Xで置換されていてもよく、Xとしては、ハロゲン原子、オルガノオキシ基、モノオルガノアミノ基、ジオルガノアミノ基、またはオルガノチオ基等が挙げられ、オルガノオキシ基、モノオルガノアミノ基、ジオルガノアミノ基、オルガノチオ基としては上記と同様のものが挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられるが、フッ素原子が好ましく、好適なフッ素置換アルキル基として、トリフロロプロピル基、ノナフロロヘキシル基、ヘプタデシルフロロデシル基等が挙げられる。
【0029】
上記各置換基の中でも、R1〜R6は、互いに独立して、Xで置換されていてもよい、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基がより好ましい。
【0030】
また、R1〜R3のいずれかとR4〜R6のいずれかの少なくとも1組が結合した架橋置換基としては、二つのSi原子を架橋可能な置換基であれば特に限定されるものではなく、例えば、−O−、−S−、−NH−、−NR−(Rは上記と同じ。)、−PR−(Rは上記と同じ。)、−NH−(CH2k−NH−(kは1〜10の整数を表す。)、−NR−(CH2k−NR−(kは上記と同じ。Rは互いに独立して上記と同じ。)、−PH−(CH2k−PH−(kは上記と同じ。)、−PR−(CH2k−PR−(kは上記と同じ。Rは互いに独立して上記と同じ。)、−C=C−、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基、炭素数7〜30のアラルキレン基、−(CH2O)k−(kは上記と同じ。)、−(CH2k−O−(CH2k−(kは互いに独立して上記と同じ。)、−O−(CH2k−O−(Rおよびkは上記と同じ。)、−R′−O−(CH2k−O−R′−(R′は、互いに独立して炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基、または炭素数7〜30のアラルキレン基を表し、kは上記と同じ。)、−(CH2S)k−(kは上記と同じ。)、−(CH2k−S−(CH2k−(kは互いに独立して上記と同じ。)、−S−(CH2k−S−(kは上記と同じ。)、−R′−S−(CH2k−O−R′−(R′は、互いに独立して上記と同じ意味を表し、kは上記と同じ。)、−SiR2−(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)、−(CH2k−SiR2−(CH2k−(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表し、kは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)等が挙げられる。
【0031】
炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
炭素数6〜30のアリーレン基としては、o−フェニレン(1,2−フェニレン)、1,2−ナフチレン、1,8−ナフチレン、2,3−ナフチレン基等が挙げられる。
炭素数7〜30のアラルキレン基としては、−(CH2k−Ar−(Arは、炭素数6〜20のアリーレン基を表し、kは上記と同じ意味を表す。)、−Ar−(CH2k−(Arおよびkは上記と同じ意味を表す。)、−(CH2k−Ar−(CH2k−(Arは上記と同じ意味を表し、kは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)等が挙げられる。
なお、上記アルキレン、アリーレン、アラルキレン基は、それらの水素原子の少なくとも1つが、置換基X(Xは上記と同じ。)で置換されていてもよい。
【0032】
架橋置換基をZとして表記すると、2つのケイ素原子をつなぐZの数は1〜3であり、このような架橋置換基Zを有する単核ルテニウム錯体は下記式で示される。
【0033】
【化4】
(式中、R1,R2,R5,R6,Lおよびmは上記と同じ意味を表し、Zは架橋置換基を表す。)
【0034】
具体的な架橋置換基を有するジシラメタラサイクル構造としては下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
【化5】
(式中、Meはメチル基を意味する。)
【0036】
式中、R1,R2,R4およびR5は、上記と同じ意味を表し、R17〜R20(置換基Y)は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R25〜R30は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の非置換もしくは置換の一価炭化水素基を表すが、R17〜R20およびR25〜R30が、水素原子のものが好適である。
一価炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、これらの具体例としては、上記と同様のものが挙げられる。
なお、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0037】
一方、Lは、配位子に含まれる2つの電子がルテニウムに配位する、COおよびチオ尿素配位子以外の二電子配位子である。
二電子配位子としては、COおよびチオ尿素配位子以外であれば特に限定されるものではなく、金属錯体の二電子配位子として従来用いられている任意の配位子を用いることができるが、典型的には、窒素、酸素、イオウ、リン等の非共有電子対(不対電子)を含む、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、ホスファイト、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド等の化合物;π電子を含む、アルケン、アルキン;不対電子とπ電子双方を含む、アルデヒド、ケトン、ニトリル、イソニトリル等の化合物;アゴスティック相互作用で結合する、分子状水素(H−H結合に含まれるσ電子が配位する)、ヒドロシラン(Si−H結合に含まれるσ電子が配位する)などが挙げられる。
本発明において、二電子配位子Lの配位数mは、3または4であるが、好ましくは4である。
【0038】
アミンとしては、R3N(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示される3級アミンが挙げられる。
イミンとしては、RC(=NR)R(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
含窒素へテロ環としては、例えば、ピロール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、オキサゾリン、イソオキサゾリン等が挙げられる。
ホスフィンとしては、例えば、R3P(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
ホスファイトとしては、例えば、(RO)3P(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
アルシンとしては、例えば、R3As(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
アルコールとしては、例えば、ROH(Rは上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
チオールとしては、上記アルコールの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
【0039】
エーテルとしては、例えば、ROR(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
スルフィドとしては、上記エーテルの酸素原子を硫黄原子で置換したものが挙げられる。
ケトンとしては、例えば、RCOR(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
イソニトリルとしては、例えば、RNC(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
アルケンとしては、例えば、エテン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等の炭素数2〜30のアルケンが挙げられる。
アルキンとしては、例えば、エチン、プロピン、1−ブチン、2−ブチン、1−ペンチン、2−ペンチン、1−ヘキシン、1−ヘプチン、1−オクチン、1−ノニン、1−デシン等の炭素数2〜30のアルケンが挙げられる。
ヒドロシランとしては、例えば、トリオルガノヒドロシランが挙げられ、具体的にはトリ炭素数1〜30オルガノヒドロシランが挙げられ、より具体的には、R123SiH(R1〜R3は上記と同じ意味を表す。)で示されるものが挙げられる。
【0040】
これらの中でも、二電子配位子Lとしては、分子状水素、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、ホスファイト、アルシン、アルコール、チオール、エーテル、スルフィド、ニトリル、イソニトリル、アルデヒド、ケトン、炭素数2〜30のアルケン、炭素数2〜30のアルキン、トリオルガノヒドロシランが好ましい。
【0041】
なお、2個のLが互いに結合し、2つの配位性の二電子官能基を含む配位子を構成していてもよい。その代表例としては、エチレンジアミン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ブタジエンや、下記式で示されるようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ただし、本発明の単核ルテニウム錯体では、Lが3個以上存在する場合に、その中の3個が結合して3つの配位性2電子官能基を含む配位子、例えば、η6−アリーレン構造はとらない。
【0042】
【化6】
(式中、Meはメチル基を、Phはフェニル基を意味する。R7、R9、R10、R11およびZは上記と同じ意味を表す。)
【0043】
また、本発明の単核ルテニウム錯体では、触媒活性を考慮すると、二電子配位子Lの少なくとも1つが、イソニトリル、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、ホスファイトおよびスルフィドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、このような二電子配位子をL1とすると、式(2)で表される単核ルテニウム錯体が好ましい。
【0044】
【化7】
(R1〜R6は、上記と同じ意味を表す。)
【0045】
ここで、L1は、上述のとおり、イソニトリル、アミン、イミン、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、ホスファイトおよびスルフィドから選ばれる少なくとも1種の二電子配位子を表すが、中でも、イソニトリル、含窒素ヘテロ環、ホスフィン、およびホスファイトから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、イソニトリル、含窒素ヘテロ環およびホスファイトから選ばれる少なくとも1種であることがより一層好ましく、特に、一酸化炭素と同じ電子配置を有するイソニトリルが最適である。
1は、1〜4の整数を表すが、2が好ましい。なお、m1が2〜4の場合、2個のL1が、互いに結合していてもよい。
【0046】
イソニトリルの具体例としては、上記のとおり、RNC(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で表されるものが挙げられるが、特に、Rが、置換もしくは非置換の、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基のものが好ましく、炭素数6〜10のアリール基のものがより好ましく、炭素数1〜10のアルキル基等の置換基を有するフェニル基のものがより一層好ましい。
使用可能なイソニトリルとしては、メチルイソシアニド、エチルイソシアニド、n−プロピルイソシアニド、シクロプロピルイソシアニド、n−ブチルイソシアニド、イソブチルイソシアニド、sec−ブチルイソシアニド、t−ブチルイソシアニド、n−ペンチルイソシアニド、イソペンチルイソシアニド、ネオペンチルイソシアニド、n−ヘキシルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、シクロヘプチルイソシアニド、1,1−ジメチルヘキシルイソシアニド、1−アダマンチルイソシアニド、2−アダマンチルイソシアニド等のアルキルイソシアニド;フェニルイソシアニド、2−メチルフェニルイソシアニド、4−メチルフェニルイソシアニド、2,4−ジメチルフェニルイソシアニド、2,5−ジメチルフェニルイソシアニド、2,6−ジメチルフェニルイソシアニド、2,4,6−トリメチルフェニルイソシアニド、2,4,6−トリt−ブチルフェニルイソシアニド、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアニド、1−ナフチルイソシアニド、2−ナフチルイソシアニド、2−メチル−1−ナフチルイソシアニド等のアリールイソシアニド;ベンジルイソシアニド、フェニルエチルイソシアニド等のアラルキルイソシアニドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
含窒素ヘテロ環の具体例としては、上記のとおりであるが、中でもピリジン環が好ましい。
使用可能なピリジン環含有化合物としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン等のピリジン類、2,2′−ビピリジン、4,4′−ジメチル−2,2′−ビピリジン、5,5′−ジメチル−2,2′−ビピリジン、4,4′−ジエチル−2,2′−ビピリジン、4,4′−ジtert−ブチル−2,2′−ビピリジン等のビピリジン類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
ホスファイトとしては、上記のとおり、(RO)3P(Rは互いに独立して上記と同じ意味を表す。)で表されるものが挙げられるが、特に、Rが、置換もしくは非置換の、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基のものが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基のものがより一層好ましい。
使用可能なホスファイト化合物としては、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリn−ブチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリn−デシルホスファイト、4−メチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン(トリメチロールエタンサイクリックホスファイト),4−エチル−2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン(トリメチロールプロパンホスファイト)等のトリアルキルホスファイト類、メチルジフェニルホスファイト等のアルキルアリールホスファイト類、トリフェニルホスファイト等のトリアリールホスファイト類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
一方、L2は、CO、チオ尿素配位子およびL1以外の二電子配位子を表し、その具体例は上記Lと同様のものが挙げられる。m2は0〜3の整数を表すが、2が好ましい。また、m1+m2は、上記mと同様に3または4を満たすが、好ましくは4である。なお、m2が2または3の場合、2個のL2が、互いに結合していてもよい。
【0050】
本発明において、二電子配位子L2は、ルテニウムと比較的弱く結合するものが触媒活性という点から有利であることから、上記で例示したLの中でも、特に、チオール、スルフィド、トリオルガノヒドロシランがより好ましく、特に、SiHR789およびSiHR101112(R7〜R12は、互いに独立して、Xで置換されていてもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、Xは上記と同じ意味を表す。)で表される2つのトリオルガノヒドロシランや、SR1314およびSR1516(R13〜R16は、互いに独立して、水素原子、Xで置換されていてもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、Xは上記と同じ意味を表す。)で表される2つのスルフィドまたはチオールがより一層好ましい。
ここで、アルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例としては、先に例示した基と同様のものが挙げられるが、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基がより好ましい。
【0051】
なお、式(2)の単核ルテニウム錯体には、例えば、L1が2個、L2が2個(それらをL2a,L2bとして区別する)の場合、下記式で示されるような配位構造異性体が存在するが、本発明の単核ルテニウム錯体はそれら全ての配位構造異性体を含む。
【0052】
【化8】
(式中、R1〜R6およびL1は上記と同じ意味を表し、L2aおよびL2bは上記L2と同じ意味を表す。)
【0053】
なお、L2が、SiHR789およびSiHR101112(R7〜R12は上記と同じ意味を表す。)で表されるトリオルガノヒドロシランの場合、単核ルテニウム錯体を構成する4つのケイ素原子の2つ以上は、上述した架橋置換基Zにより繋がれていてもよい。ケイ素原子の組み合わせは、ケイ素−ルテニウム共有結合をもつケイ素原子どうし、Si−Hで配位しているケイ素原子どうし、ケイ素−ルテニウム共有結合と、Si−Hで配位しているケイ素原子の組み合わせのいずれでもよい。この場合、2つのケイ素原子をつなぐZの数は1〜3であり、一方、錯体全体に含まれるZの総数は、1〜12である。
このような架橋置換基Zを有する単核ルテニウム錯体を1つの配位構造を用いて表現した場合、下記式で示されるような構造が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、また、上述のとおりこれ以外の配位構造異性体も存在し、その場合にも同様の架橋置換基Zを有する構造が存在する。
【0054】
【化9】
(式中、R1〜R12、L1およびZは上記と同じ意味を表す。)
【0055】
具体的なジシラメタラサイクル構造を有する単核ルテニウム錯体の構造としては下記式(L1を除いて表現している)で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
【化10】
(式中、Meはメチル基を意味する。)
【0057】
特に、本発明においては、L1が2つ配位するとともに、二電子配位子であるトリオルガノヒドロシランのSi−Hがアゴスティック配位している単核ルテニウム錯体が好ましい。このようなルテニウム錯体を、1つの配位構造を用いて便宜的に表現すると、式(3)で示されるような構造が挙げられるが、上述のとおり、本発明ではこれ以外の配位構造異性体であってもよい。
【0058】
【化11】
(式中、L1は上記と同じ意味を表す。)
【0059】
式(3)において、R1〜R12は上記と同じ意味を表すが、R1〜R6は、互いに独立して、X(Xは上記と同じ意味を表す。)で置換されていてもよい、アルキル基、アリール基またはアラルキル基が好ましい。
ここで、アルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例としては、先に例示した基と同様のものが挙げられるが、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基がより好ましい。
上記式(3)においても、単核ルテニウム錯体を構成する4つのケイ素原子の2つ以上は架橋置換基により繋がれていてもよく、具体的には、R1〜R3のいずれかと、R4〜R6のいずれかの少なくとも1組もしくはR7〜R9のいずれかの少なくとも1組が一緒になって、またはR10〜R12のいずれかと、R4〜R6のいずれかの少なくとも1組もしくはR7〜R9のいずれかの少なくとも1組が一緒になってアルキレン基、アリーレン基やアラルキレン基といった架橋置換基を形成していてもよく、またはR1〜R3のいずれかと、R4〜R6のいずれかの少なくとも1組またはR7〜R9のいずれかの少なくとも1組が一緒になってアルキレン基、アリーレン基やアラルキレン基といった架橋置換基を形成し、かつ、R10〜R12のいずれかと、R4〜R6のいずれかの少なくとも1組およびR7〜R9のいずれかの少なくとも1組が一緒になってアルキレン基、アリーレン基やアラルキレン基といった架橋置換基を形成していてもよい。
ここで、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の具体例としては、先に例示した基と同様のものが挙げられるが、それぞれ炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数7〜20のアリーレン基、炭素数7〜20のアラルキレン基が好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数7〜20のアリーレン基がより好ましい。
【0060】
本発明で好適に用いることのできる単核ルテニウム錯体を典型的な配位構造を用いて表すと、式(4)または(5)で示されるものが挙げられ、具体的には式(6)〜(11)で示されるものが挙げられ、より具体的にはA〜Fで示されるものが挙げられるが、これらに限られるものではなく、また、上述のとおり、これらの配位構造異性体も好適に用いることができる。
【0061】
【化12】
(式中、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10、R11、R17〜R20およびL1は、上記と同じ意味を表す。)
【0062】
【化13】
(式中、R1、R2、R4、R5、R6、R7、R10、R11およびR17〜R20は、上記と同じ意味を表し、Meはメチル基を表す。)
【0063】
【化14】
(式中、Meはメチル基を意味する。)
【0064】
本発明の単核ルテニウム錯体は、公知の有機合成反応を組み合わせて製造できる。
例えば、上記ルテニウム錯体A〜Fは、シクロヘキサジエニル基やシクロオクタジエニル基等のシクロアルカジエニル基およびアリル基や2−メチルアリル基等のアルケニル基を配位子として有するルテニウム−オレフィン錯体と、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン等のビスシリル化合物およびt−ブチルイソシアニド等のイソニトリル化合物、ホスファイト化合物、またはビピリジン化合物とを、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、有機溶媒中で反応させて得ることができる。
この場合、ビスシリル化合物の使用量は、ルテニウム−オレフィン錯体に対して、1〜10モル倍程度とすることができるが、2〜5モル倍が好ましい。
イソニトリル化合物、ホスファイト化合物、ビピリジン化合物の使用量は、ルテニウム−オレフィン錯体に対して、1〜10モル倍程度とすることができるが、2〜5モル倍が好ましい。
また、有機溶媒としては、反応に影響を及ぼさない限りにおいて各種の溶媒類が使用でき、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類などを用いることができる。
反応温度は、有機溶媒の融点から沸点の範囲で適宜設定すればよいが、10〜100℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。
反応時間は、通常、1〜48時間程度である。
反応終了後は、溶媒を留去した後、再結晶法等の公知の精製法にて目的物を得ることができるが、調製したルテニウム錯体を単離せずに目的とする反応の触媒として用いてもよい。
【0065】
本発明の単核ルテニウム錯体は、既に述べたとおり、ヒドロシリル化反応、水素化反応、カルボニル化合物の還元反応のいずれか1つ以上の反応に触媒活性を発揮するが、2つの反応に触媒活性を発揮するものも、3つの反応すべてに触媒活性を発揮するものも存在する。
本発明の単核ルテニウム錯体を触媒として使用し、脂肪族不飽和結合を含有する、オレフィン化合物、シラン化合物またはオルガノポリシロキサン化合物等の脂肪族不飽和結合を有する化合物と、Si−H結合を有する、シラン化合物またはオルガノポリシロキサン化合物とのヒドロシリル化反応を行う場合、触媒の使用量は特に限定されるものではないが、室温〜100℃程度の温和な条件下で反応を進行させて収率よく目的物を得ることを考慮すると、触媒の使用量は0.005モル%以上とすることが好ましい。
本発明の単核ルテニウム錯体を触媒として使用し、脂肪族不飽和結合を含有するオレフィン化合物を水素ガスによって還元し、飽和化合物を得る反応を行う場合も、触媒の使用量は特に限定されるものではないが、室温下、かつ、水素圧が1気圧程度の温和な条件下で反応を進行させて収率よく目的物を得ることを考慮すると、触媒の使用量は0.05モル%以上とすることが好ましい。
【0066】
本発明の単核ルテニウム錯体を触媒として使用し、カルボニル化合物をSi−H基を含有するシランまたはシロキサンで還元する場合も、触媒の使用量は特に限定されるものではないが、温和な条件下で反応を進行させて収率よく目的物を得ることを考慮すると、触媒の使用量は0.1モル%以上とすることが好ましい。
還元反応に供し得るカルボニル化合物としては、アミド、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボン酸、カルボン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)基等を有する化合物が挙げられ、これらを本発明のルテニウム錯体触媒の存在下、Si−H基を含有するシランまたはシロキサンと反応させることによって、それぞれ対応するアミンやアルコール化合物へと導くことができる。
なお、いずれの反応においても、触媒使用量の上限は特に制限はないが、経済的な観点から5モル%程度である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
ルテニウム錯体の合成は、シュレンクテクニックまたはグローブボックスを用いてすべての操作をアルゴン雰囲気下で行い、遷移金属化合物の調製に用いた溶媒は、全て公知の方法で脱酸素、脱水を行った後に用いた。
アルケンのヒドロシリル化反応、水素化反応、およびアミドの還元反応および溶媒精製は、全て不活性ガス雰囲気下で行い、各種反応に用いた溶媒等は、全て予め公知の方法で精製、乾燥、脱酸素を行ったものを用いた。
1H,13C,29Si−NMRの測定は日本電子(株)製JNM−ECA600,JNM−LA400を、IR測定は日本分光(株)製FT/IR−550を、元素分析はPerkin Elmer製2400II/CHNを、X線結晶構造解析は(株)リガク製VariMax、MoKα線0.71069オングストロームを用いてそれぞれ行った。
なお、以下に示す化学構造式においては慣用的な表現法に従って水素原子を省略している。また、Meはメチル基を表す。
【0068】
(1)ルテニウム錯体の合成
[実施例1]ルテニウム錯体Aの合成
【化15】
【0069】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に(η4−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ビス(η3−2−メチルアリル)錯体(200mg,0.63mmol)、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(243mg,1.26mmol)、およびt−ブチルイソシアニド(104mg,1.26mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したヘキサン(30mL)を加え、55℃で18時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥し、得られた乾燥物をヘキサン(40mL)に溶解させ、遠心分離にて副生した少量の褐色不溶物を取り除いた。その後、ヘキサン溶液を減圧乾燥し、ヘキサメチルジシロキサン(10mL)で洗浄後、残った白色粉末をヘキサン10mLに溶解させ、−35℃で再結晶して上記式で代表的に表されるルテニウム錯体A(49mg/0.08mmol/12%)を得た。得られたルテニウム錯体Aの構造を図1に、1H−NMRの測定結果を図2にそれぞれ示す。
【0070】
1H NMR(C66,600MHz)δ=−7.64(br s,2H,Si−H),0.59(s,18H,CMe3),0.94(s,24H,SiMe2),7.33−7.38(m,4H,C64),7.81−7.86(m,4H,C64).
13Si NMR(C66,119MHz)δ=27.2.
IR(KBr pellet):ν=1930(νSi-H),2116(νRu-CN)cm-1
Anal. Calcd. for C30522RuSi4:C,55.08;H,8.01;N,4.28 Found:C,55.21;H,7.89;N,4.01
【0071】
[実施例2]ルテニウム錯体Bの合成
【化16】
【0072】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に(η4−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ビス(η3−2−メチルアリル)錯体(200mg,0.63mmol)、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(243mg,1.26mmol)、および1−イソシアノアダマンタン(203mg,1.26mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したヘキサン(30mL)を加え、55℃で18時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥し、得られた乾燥物をヘキサン(40mL)に溶解させ、遠心分離にて副生した少量の褐色不溶物を取り除いた。その後、ヘキサン溶液を減圧乾燥し、ヘキサメチルジシロキサン(10mL)で洗浄後、残った白色粉末をヘキサン10mLに溶解させ、−35℃で再結晶して上記式で代表的に表されるルテニウム錯体B(51mg/0.06mmol/10%)を得た。得られたルテニウム錯体Bの構造を図3に、1H−NMRの測定結果を図4にそれぞれ示す。
【0073】
1H NMR(C66,600MHz)δ=−7.62(br s,2H,Si−H),0.93−1.09(m,12H,CH2),1.04(s,24H,SiMe2),1.38−1.44(br s,18H,CH2 and CH of adamantyl)7.34−7.41(m,4H,C64),7.87−7.92(m,4H,C64).
13Si NMR(C66,119MHz)δ=21.1.
IR(KBr pellet):ν=1928(νSi-H),2118(νRu-CN)cm-1
Anal. Calcd. for C42642RuSi4:C,62.25;H,7.96;N,3.46 Found:C,62.53;H,8.24;N,3.22
【0074】
[実施例3]ルテニウム錯体Cの合成
【化17】
【0075】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に(η4−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ビス(η3−2−メチルアリル)錯体(200mg,0.63mmol)、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(243mg,1.26mmol)、および2,4,6−トリメチルフェニルイソシアニド(183mg,1.26mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したヘキサン(30mL)を加え、55℃で18時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥し、得られた乾燥物をトルエン(40mL)に溶解させ、遠心分離にて副生した少量の褐色不溶物を取り除いた。その後、トルエン溶液を減圧乾燥し、ヘキサン(10mL)で洗浄後、残った白色粉末をトルエン5mLに溶解させ、−35℃で再結晶して上記式で代表的に表されるルテニウム錯体C(74mg/0.09mmol/10%)を得た。得られたルテニウム錯体Cの1H−NMRの測定結果を図5に示す。
【0076】
1H NMR(C66,600MHz)δ=−7.05(br s,2H,Si−H),1.02(s,24H,SiMe2),1.75(s,6H,para−Me of C62Me3),1.76(s,12H,ortho−Me of C62Me3),6.20(s,4H,C62Me3),7.36−7.39(m,4H,C64),7.81−7.85(m,4H,C64).
IR(KBr pellet):ν=1917(νSi-H),2082(νRu-CN)cm-1
Anal. Calcd. for C40562RuSi4:C,61.73;H,7.25;N,3.60 Found:C,61.86;H,7.02;N,3.82
【0077】
[実施例4]ルテニウム錯体Dの合成
【化18】
【0078】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に(η4−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ビス(η3−2−メチルアリル)錯体(200mg,0.63mmol)、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(243mg,1.26mmol)、および2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアニド(236mg,1.26mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したヘキサン(30mL)を加え、55℃で18時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥し、得られた乾燥物をテトラヒドロフラン(40mL、以下、THF)に溶解させ、遠心分離にて副生した少量の褐色不溶物を取り除いた。その後、トルエン溶液を減圧乾燥し、ヘキサン(10mL)で洗浄後、残った白色粉末をTHF5mLに溶解させ、−35℃で再結晶して上記式で代表的に表されるルテニウム錯体D(60mg/0.07mmol/11%)を得た。得られたルテニウム錯体Dの1H−NMRの測定結果を図6に示す。
【0079】
1H NMR(C66,600MHz)δ=−7.09(br s,2H,Si−H),0.78(d,JH-H=6.9Hz,24H,CHMe2),0.99(s,24H,SiMe2),2.92(sept,JH-H=6.9Hz,4H,CMe2),6.70(d,JH-H=6.9Hz,4H,meta−C63),6.82(t,JH-H=6.9Hz,2H,para−C63),7.32−7.36(m,4H,C64),7.78−7.83(m,4H,C64).
IR(KBr pellet):ν=1928(νSi-H),2081(νRu-CN)cm-1
Anal. Calcd. for C46682RuSi4:C,64.06;H,7.95;N,3.25Found:C,63.87;H,8.34;N,3.62
【0080】
[実施例5]ルテニウム錯体Eの合成
【化19】
【0081】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に(η4−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ビス(η3−2−メチルアリル)錯体(200mg,0.63mmol)、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(243mg,1.26mmol)、およびトリメチロールプロパンホスファイト(204mg,1.26mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したヘキサン(30mL)を加え、55℃で18時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥し、得られた乾燥物をトルエン(40mL)に溶解させ、遠心分離にて副生した少量の褐色不溶物を取り除いた。その後、トルエン溶液を減圧乾燥し、ヘキサン(10mL)で洗浄後、残った白色粉末をトルエン10mLに溶解させ、−35℃で再結晶して上記式で代表的に表されるルテニウム錯体E(61mg/0.08mmol/12%)を得た。得られたルテニウム錯体Eの構造を図7に、1H−NMRの測定結果を図8にそれぞれ示す。
【0082】
1H NMR(C66,600MHz)δ=−8.52(t,JH-P=12.6Hz,2H,Si−H),−0.16(t,JH-H=6.9Hz,6H,CH23),0.06(q,JH-H=6.9Hz,4H,C2CH3),1.13(s,24H,SiMe2),3.03(s,12H,OCH2),7.28−7.34(m,4H,C64),7.81−7.86(m,4H,C64).
13Si NMR(C66,119MHz)δ=27.7
【0083】
[実施例6]ルテニウム錯体Fの合成
【化20】
【0084】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に(η4−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ビス(η3−2−メチルアリル)錯体(200mg,0.63mmol)、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(243mg,1.26mmol)、および4,4’−ジt−ブチル−2,2’―ビピリジン(169mg,0.63mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したヘキサン(30mL)を加え、55℃で18時間撹拌した。反応終了後、減圧乾燥し、得られた乾燥物をトルエン(50mL)に溶解させ、遠心分離にて副生した少量の褐色不溶物を取り除いた。その後、トルエン溶液を減圧乾燥し、ヘキサン(10mL)で洗浄後、残った赤色粉末をトルエン30mLに溶解させ、−35℃で再結晶して上記式で代表的に表されるルテニウム錯体F(67mg/0.09mmol/14%)を得た。得られたルテニウム錯体Fの構造を図9に、1H−NMRの測定結果を図10にそれぞれ示す。
【0085】
1H NMR(C66,600MHz)δ=−11.2(t,JH-Si=12.4Hz,2H,Si−H),−0.07−1.05(br s,24H,SiMe2),0.87(s,18H,C(CH33),6.45(d,JH-H=6.9Hz,2H,C53N),7.21−7.27(m,4H,C64),7.58−7.70(br s,4H,C64),8.00(s,2H,C53N),8.53(d,JH-H=6.9Hz,2H,C53N).
13Si NMR(C66,119MHz)δ=13.2.
IR(KBr pellet):ν=2028(νSi-H)cm-1
Anal. Calcd. for C38582RuSi4:C,60.35;H,7.73;N,3.70 Found:C,60.03;H,7.56;N,3.46
【0086】
(2)ルテニウム錯体を用いたスチレンの1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサンによるヒドロシリル化
【化21】
【0087】
[実施例7]ルテニウム錯体Aを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体A(6.5mg,0.01mmol)を加えた。ここにスチレン(104mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg.1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー1として表1に示す。
【0088】
1,1,1,3,3−pentamethyl−3−(2−phenylethyl)−disiloxane(上記化合物(I))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=−0.03(s,6H,Si(C32),−0.02(s,9H,Si(C33),0.775−0.81(m,2H,SiC2),2.52−2.57(m,2H,C265),7.09−7.13(m,2H,C65),7.17−7.22(m,3H,C65).
1,1,1,3,3−pentamethyl−3−[(1E)−2−phenylethenyl]−disiloxane(上記化合物(II))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.11(s,6H,Si(CH32),0.22(s,9H,Si(CH33),6.42(d,JH-H=19.3Hz,1H,−CH=CH−),6.93(d,JH-H=19.3Hz,1H,−CH=CH−),7.24−7.29(m,1H,C65),7.31−7.39(m,2H,C65),7.43−7.47(m,2H,C65).
Ethylbenzene(上記化合物(III))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=1.26(t,2H,JH-H=7.7Hz,CH3),2.67(q,2H,JH-H=7.7Hz,CH2),7.16−7.24(m,3H,C65),7.27−7.33(m,2H,C65).
【0089】
[実施例8]ルテニウム錯体Bを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体B(2.4mg,0.003mmol)を加えた。ここにスチレン(104mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg.1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー2として表1に示す。
【0090】
[実施例9]ルテニウム錯体Cを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(2.3mg,0.003mmol)を加えた。ここにスチレン(104mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg.1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー3として表1に示す。
【0091】
[実施例10]ルテニウム錯体Dを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体D(0.9mg,0.001mmol)を加えた。ここにスチレン(1040mg,10mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(1630mg,11mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(1080mg,10mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー4として表1に示す。
【0092】
[実施例11]ルテニウム錯体Fを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体F(2.3mg,0.003mmol)を加えた。ここにスチレン(104mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg.1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー5として表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
(3)ルテニウム錯体を用いたスチレンのジメチルフェニルシランによるヒドロシリル化
【化22】
【0095】
[実施例12]ルテニウム錯体Aを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体A(3.2mg,0.005mmol)を加えた。ここにスチレン(1040mg,10mmol)を加え、さらにジメチルフェニルシラン(1500mg,11mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(1080mg,10mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー1として表2に示す。
【0096】
[dimethyl(2−phenylethyl)silyl]−benzene(上記化合物(I))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.19(s,6H,Si(C32),0.98−1.07(m,2H,SiCH2),2.49−2.59(m,2H,C265),7.02−7.11(m,3H,C65),7.12−7.16(m,2H,C65),7.24−7.31(m,3H,C65),7.39−7.47(m,2H,C65).
[dimethyl[(1E)−2−phenylethenyl]silyl]−benzene(上記化合物(II))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.17(s,6H,Si(C32),6.49(d,JH-H=19.3Hz,1H,SiC=CH−),7.01−7.09(m,3H,C65),7.12−7.15(m,3H,C65 and SiCH=C−),7.25−7.32(m,3H,C65),7.37−7.46(m,2H,C65).
【0097】
[実施例13]ルテニウム錯体Cを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(3.9mg,0.005mmol)を加えた。ここにスチレン(1040mg,10mmol)を加え、さらにジメチルフェニルシラン(1500mg,11mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(1080mg,10mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー2として表2に示す。
【0098】
[実施例14]ルテニウム錯体Dを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体D(0.9mg,0.001mmol)を加えた。ここにスチレン(1040mg,10mmol)を加え、さらにジメチルフェニルシラン(1500mg,11mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(1080mg,10mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー3として表2に示す。
【0099】
[実施例15]ルテニウム錯体Eを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体E(8.1mg,0.01mmol)を加えた。ここにスチレン(104mg,1.0mmol)を加え、さらにジメチルフェニルシラン(150mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー4として表2に示す。
【表2】
【0100】
(4)ルテニウム錯体を用いた1−オクテンの1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサンによるヒドロシリル化反応
【化23】
【0101】
[実施例16]1−オクテンの1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサンによるヒドロシリル化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体A(2.0mg,0.003mmol)を加えた。ここに1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を80℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー1として表3に示す。
【0102】
[実施例17]ルテニウム錯体Bを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体B(2.4mg,0.003mmol)を加えた。ここに1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー2として表3に示す。
【0103】
[実施例18]ルテニウム錯体Cを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(2.3mg,0.003mmol)を加えた。ここに1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー3として表3に示す。
【0104】
[実施例19]ルテニウム錯体Dを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体D(4.3mg,0.005mmol)を加えた。ここに1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を80℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー4として表3に示す。
【0105】
1,1,1,3,3−pentamethyl−3−octyl−disiloxane(上記化合物(I))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.03(s,6H,Si(C32),0.06(s,9H,Si(C33),0.45−0.55(m,2H,SiC2),0.88(t,JHH=7.2Hz,3H,CH23),1.20−1.34(m,12H,(C26).
1,1,1,3,3−pentamethyl−3−(1E)−1−octen−1−yl−disiloxane(上記化合物(II))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.09(s,9H,Si(C33),0.12(s,6H,Si(C32),0.90(t,3H,JHH=7.6Hz),1.30−1.41(m,8H,C2),2.11(q,2H,JHH=7.6Hz,C2−CH=CH),5.6(d,1H,JHH=18.2Hz,Si−C=CH),6.11(dt,1H,JHH=18.2Hz,Si−CH=C
1,1,1,3,3−pentamethyl−(2E)−2−octen−1−yl−disiloxane(上記化合物(III))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.08(s,9H,Si(C33),0.14(s,6H,Si(C32),0.88(t,3H,JHH=7.6Hz),1.28−1.42(m,8H,CH2),2.12(q,2H,JHH=7.6Hz,C2−CH=CH),5.15−5.46(m,2H,Si−CH2−C=CH).
2−octene(上記化合物(IV))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.90(t,JHH=7.2Hz,3H,CH3),1.11−1.51(m,4H,−(CH26−),1.54−1.62(m,5H,−(CH26− and C3−CH=CH),2.03(m,2H,−C2−CH=CH),5.19−5.66(m,2H,CH3−C=CH),
n−octane(上記化合物(V))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.88(t,JHH=7.2Hz,6H,CH3),1.16−1.36(m,12H,−(CH26−).
1,1,1,3,3,5,5−heptamethyl−5−octyl−trisiloxane(上記化合物(VI))
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=−0.13(s,6H,−Si(C32−),−0.13(s,6H,−Si(C32−),0.01(s,6H,−Si(C32−),0.31−0.38(m,2H,SiC2),0.79(t,JHH=7.2Hz,3H,CH23),1.12−1.24(m,12H,(C26).
【0106】
[実施例20]ルテニウム錯体Eを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体E(24mg,0.03mmol)を加えた。ここに1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を80℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー5として表3に示す。
【0107】
[実施例21]ルテニウム錯体Fを用いたヒドロシリル化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加え、5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体F(2.3mg,0.003mmol)を加えた。ここに1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加え、さらに1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン(163mg,1.1mmol)を加えた後、溶液を25℃で23時間撹拌した。冷却後、内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。これらの結果をエントリー6として表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
(5)ルテニウム錯体を用いた1−オクテンの水素化反応
【化24】
【0110】
[実施例22]ルテニウム錯体Aを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体A(3.3mg,0.005mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で3時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー1として表4に示す。
【0111】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.88(t,JHH=7.2Hz,6H,CH3),1.16−1.36(m,12H,−(CH26−).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=14.27,22.86,29.48,32.10.
【0112】
[実施例23]ルテニウム錯体Bを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体B(4.0mg,0.005mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で3時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー2として表4に示す。
【0113】
[実施例24]ルテニウム錯体Cを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(3.9mg,0.005mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で3時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー3として表4に示す。
【0114】
[実施例25]ルテニウム錯体Dを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体D(4.3mg,0.005mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で6時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー4として表4に示す。
【0115】
[実施例26]ルテニウム錯体Fを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体F(3.8mg,0.005mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、1−オクテン(112mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で3時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー5として表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
(6)ルテニウム錯体を用いたスチレンの水素化
【化25】
【0118】
[実施例27]ルテニウム錯体Aを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体A(0.65mg,0.001mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、スチレン(104mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で18時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー1として表5に示す。
【0119】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=1.13(t,JHH=7.2Hz,3H,CH23),2.54(q,JHH=7.2Hz,2H,C2CH3),7.02−7.11(m,3H,C65),7.11−7.20(m,2H,C65).
13C NMR(100MHz,CDCl3)=15.6,28.8,125.6,127.8,128.3,144.3.
【0120】
[実施例28]ルテニウム錯体Bを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体B(0.8mg,0.001mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、スチレン(104mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で18時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー2として表5に示す。
【0121】
[実施例29]ルテニウム錯体Cを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(0.77mg,0.001mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、スチレン(104mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で6時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー3として表5に示す。
【0122】
[実施例30]ルテニウム錯体Dを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体D(0.86mg,0.001mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、スチレン(104mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で18時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー4として表5に示す。
【0123】
[実施例31]ルテニウム錯体Eを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体E(2.44mg,0.003mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、スチレン(104mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で1.5時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー5として表5に示す。
【0124】
[実施例32]ルテニウム錯体Fを用いた水素化反応
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体F(0.76mg,0.001mmol)を加え、THF(2mL)に溶解させた。この溶液に、スチレン(104mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で6時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー6として表5に示す。
【0125】
【表5】
【0126】
(7)ルテニウム錯体Cを用いたオレフィンの水素化
【化26】
【0127】
[実施例33]メチル−10−ウンデセノエートの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(3.9mg,0.005mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、メチル−10−ウンデセノエート(198mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で1.5時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー1として表6に示す。
【0128】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.88(t,3H,JH-H=7.4Hz,−CH3),1.17−1.35(m,14H,−CH2−),1.53−1.67(m,2H,−CH2−),2.30(t,2H,JH-H=7.7Hz,−CH2C(=O)−),3.66(s,3H,OMe).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=14.25,22.83,25.12,29.31,29.40,29.45,29.60,29.70,32.04,34.28,51.57,174.50.
【0129】
[実施例34]シクロヘキセンの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(2.3mg,0.003mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、シクロヘキセン(82mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で4時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー2として表6に示す。
【0130】
1H NMR(400MHz,CDCl3,)δ=1.43(s,12H,CH2).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=27.0.
【0131】
[実施例35]エチル−2,3−ジメチルアクリレートの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(2.3mg,0.003mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、エチル−2,3−ジメチルアクリレート(128mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で6時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー3として表6に示す。
【0132】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.93−0.96(m,6H,Me),1.28(t,3H,OCH23),2.00−2.04(m,1H,CHandCH2C(=O)),4.19(q,2H,OC2CH3).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=14.6,22.9,26.0,43.6,60.3,173.5.
【0133】
[実施例36]2,3−ジメチル−2−ブテンの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(3.9mg,0.005mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、2,3−ジメチル−2−ブテン(84mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で6時間撹拌した。内標としてアニソール(108mg,1.0mmol)を加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー4として表6に示す。
【0134】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.84(d,JH-H=6.7Hz,12H,CH3),1.40(septet,JH-H=6.7Hz,12H,CH).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=19.4,33.7.
【0135】
[実施例37]トランス−スチルベンの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(2.3mg,0.003mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、トランス−スチルベン(180mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で6時間撹拌した。内標としてアニソールを加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー5として表6に示す。
【0136】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=2.93(s,4H,CH2),7.12−7.23(m,6H,C65),7.24−7.32(m,4H,C65).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=37.9,125.9,128.3,128.5,141.8.
【0137】
[実施例38]1−メチル−1−シクロヘキセンの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(2.3mg,0.003mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、1−メチル−1−シクロヘキセン(96mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液を凍結脱気し、シュレンクチューブ内を水素雰囲気に置換した後、溶液を室温で3時間撹拌した。内標としてアニソールを加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー6として表6に示す。
【0138】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.86(d,JHH=5.8Hz,3H,CH3),1.04−1.28(m,4H,CH2),1.28−1.39(m,1H,CH),1.54−1.72(m,6H,CH2).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=22.9,26.3,26.4,32.7,35.4.
【0139】
[実施例39](±)−リモネンの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(7.7mg,0.010mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、(±)−リモネン(136mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液をオートクレーブ内に移し、オートクレーブ内を水素で置換した。その後、溶液を10気圧の水素雰囲気下、室温で6時間撹拌した。内標としてアニソールを加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した(trans:cis=1:1)。これらの結果をエントリー7として表6に示す。
【0140】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.847(d,2H,JHH=6.8Hz,CH(CH32 of trans−isomer),0.859(d,3H,JHH=6.8Hz,CH3 of trans−isomer),0.860(d,2H,JHH=6.8Hz,CH(CH32 of cis−isomer),0.909(d,3H,JHH=6.8Hz,CH3 of cis−isomer),0.87−1.09(m,2H,CH and CH2),1.18−1.58(m,6H,CH and CH2),1.62−1.77(m,3H,CH2).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=19.5,20.0,20.4,22.9,25.5,29.3,29.7,31.6,33.0,33.1,35.8,43.2,44.0.
【0141】
[実施例40]イソプロピリデンマロン酸ジエチルの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(7.7mg,0.010mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、イソプロピリデンマロン酸ジエチル(200mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液をオートクレーブ内に移し、オートクレーブ内を水素で置換した。その後、溶液を10気圧の水素雰囲気下、室温で9時間撹拌した。内標としてアニソールを加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー8として表6に示す。
【0142】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.99(d,JHH=6.3Hz,3H,CH3),1.26(t,JHH=7.3Hz,3H,CH3),2.38(doublet of septet,JHH=6.3,8.7Hz,1H,CHMe2),3.10(d,JHH=8.7Hz,1H,Me2CH−CH−),4.82(q,JHH=7.3Hz,2H,CH2).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=14.3,20.5,28.9,59.3,61.3,169.0.
【0143】
[実施例41]2,3−ジメチル−1H−インデンの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(7.7mg,0.010mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、2,3−ジメチル−1H−インデン(144mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液をオートクレーブ内に移し、オートクレーブ内を水素で置換した。その後、溶液を10気圧の水素雰囲気下、80℃で6時間撹拌した。内標としてアニソールを加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー9として表6に示す。
【0144】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.94(d,3H,J=6.9Hz,CH3CHCH2),1.14(d,3H,J=7.2Hz,CH3CH),2.49−2.61(m,2H),2.94(m,1H),3.17,(quintet,1H,J=6.9Hz,CH3CH),7.06−7.24(m,4H,C64).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=14.5,15.0,37.8,39.2,42.6,123.5,124.3,126.0,126.1,142.8,149.0.
【0145】
[実施例42]酢酸シンナミルの水素化
20mLのシュレンクチューブに磁気撹拌子を加えて5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、シュレンクチューブ内をアルゴン雰囲気に置換した。そのシュレンクチューブに、触媒としてルテニウム錯体C(7.7mg,0.010mmol)を加え、トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液に、酢酸シンナミル(176mg,1.0mmol)を加えた。得られた溶液をオートクレーブ内に移し、オートクレーブ内を水素で置換した。その後、溶液を10気圧の水素雰囲気下、室温で6時間撹拌した。内標としてアニソールを加え、1H−NMRスペクトルを測定し、生成物の構造および収率を決定した。得られた化合物は、1H,13C−NMRスペクトルによりその構造を確認した。これらの結果をエントリー10として表6に示す。
【0146】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=1.96(m,2H,PhCH2CH2CH2−),2.06(s,3H,Me),2.70(m,2H,2H,PhCH2CH2CH2−),4.09(t,2H,J=6.8Hz,PhCH2CH2CH2−),7.17−7.23(m,3H,Ph),7.27−7.32(m,2H,Ph).
13C NMR(100MHz,CDCl3)δ=21.1,30.3,32.3,64.0,126.2,128.5,128.6,141.3,171.3.
【0147】
【表6】
【0148】
(8)ルテニウム錯体を用いたN,N−ジメチルホルムアミドの還元
【化27】
【0149】
[実施例43]ルテニウム錯体Cを用いた反応
NMRチューブを5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、触媒としてルテニウム錯体C(39mg,0.05mmol)を加え、重ベンゼン0.4mLをシリンジで加えた。その後、ジメチルフェニルシラン(600mg,4.4mmol)を加え、さらにN,N−ジメチルホルムアミド(73mg,1.0mmol、以下、DMF)を加えた後、減圧下でNMRチューブを焼き切り真空封管した。溶液を120℃で5時間撹拌した後、1H−NMRスペクトルによりアミンの生成を確認した。これらの結果をエントリー1として表7に示す。
【0150】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ=2.12(s,9H,NMe2).
【0151】
[実施例44]ルテニウム錯体Eを用いた反応
NMRチューブを5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、触媒としてルテニウム錯体E(4.1mg,0.005mmol)を加え、重ベンゼン0.4mLをシリンジで加えた。その後、ジメチルフェニルシラン(600mg,4.4mmol)を加え、さらにDMF(73mg,1.0mmol)を加えた後、減圧下でNMRチューブを焼き切り真空封管した。溶液を120℃で5時間撹拌した後、1H−NMRスペクトルによりアミンの生成を確認した。これらの結果をエントリー2として表7に示す。
【0152】
[実施例45]ルテニウム錯体Fを用いた反応
NMRチューブを5Paに減圧しながら加熱乾燥した後、触媒としてルテニウム錯体F(38mg,0.05mmol)を加え、重ベンゼン0.4mLをシリンジで加えた。その後、ジメチルフェニルシラン(600mg,4.4mmol)を加え、さらにDMF(73mg,1.0mmol)を加えた後、減圧下でNMRチューブを焼き切り真空封管した。溶液を120℃で5時間撹拌した後、1H−NMRスペクトルによりアミンの生成を確認した。これらの結果をエントリー3として表7に示す。
【0153】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10