(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで前記酸化が行われるプロセスとしては、例えばALD(Atomic Layer Deposition)が知られており、このALDを用いてウエハの表面にシリコン酸化物(SiO
2)などの薄膜を形成する処理が行われる場合がある。このようなALDを行う成膜装置では、その内部が真空雰囲気とされる処理容器(真空容器)内にウエハの載置部が設けられる。そして載置されたウエハに対してのシリコンの原料を含む原料ガスの供給と、ウエハに吸着された原料の酸化と、が交互に繰り返し複数回行われる。
【0005】
前記原料の酸化は、ウエハに酸素やオゾンなどの酸化ガスを供給したり、水素及び酸素をウエハに供給して酸素ラジカルを発生させたり、真空容器内に酸素によるプラズマを形成することで行われていた。しかし、前記酸化ガスを供給する場合、当該酸化ガスを前記原料と化学反応させるためにウエハを比較的高い温度に加熱する必要がある。また、酸素ラジカルを発生させる場合は当該ラジカルを発生させるために、同様にウエハを比較的高い温度に加熱する必要がある。前記酸素プラズマを用いる場合は、室温であってもウエハに堆積した原料ガスの成分を酸化することができるが、イオンや電子からなるプラズマ活性種の直進性によって、ウエハのパターンの平面部と側面部とで膜質が異なってしまい、側面部の膜質が平面部の膜質に比べて劣る。そのような理由により、微細なパターンへの適応が困難である。
【0006】
そのために、従来は成膜装置にヒーターなどの加熱機構を設けている。しかしそのように加熱機構を設けることは装置の製造コストや運用コストが嵩むし、ウエハを真空容器に搬入後、当該ウエハが加熱されて所定の温度に達するまで前記原料の酸化を行えないため、処理時間の短縮化が図り難かった。前記特許文献1において、上記のALDに対して適用される技術については記載されていない。また、特許文献2には、減圧雰囲気に酸素ガス、窒素ガス及び水素ガスを供給して混合することで反応種(原子状酸素)が発生するとしている。しかし、この原子状酸素を生成させるために、各ガスが供給される雰囲気の温度がヒーターにより400℃〜1200℃とされることから、上記の問題を解決できるものではない。
【0007】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、基板への原料の吸着と、当該原料の酸化とからなるサイクルを繰り返し行って前記基板に酸化膜を成膜するにあたり、基板を加熱する加熱機構を用いずに前記酸化を十分に行い、良好な性質の酸化膜が得られる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の成膜方法によれば、真空雰囲気中で基板の表面に酸化物の分子層を積層して薄膜を得る成膜方法において、
原料を含む原料ガスを真空容器内の前記基板に対して供給し、基板に原料を吸着させる原料ガス供給工程と、
次いで、前記真空容器内に連鎖分解反応を起こす濃度以上の濃度のオゾンを含むオゾン雰囲気を形成するオゾン雰囲気形成工程と、
続いて、前記オゾン雰囲気にエネルギーを供給してオゾンを強制的に分解させることにより酸素の活性種を発生させ、当該活性種により前記基板の表面に吸着されている原料を酸化して前記酸化物を得る酸化工程と、からなるサイクルを複数回繰り返し行
い、
前記酸化工程は、オゾンと化学反応して前記強制的な分解を起こすための反応ガスを前記オゾン雰囲気に供給する反応ガス供給工程を含み、
前記反応ガス供給工程は、前記オゾン雰囲気が形成された真空容器から区画された前記反応ガスの貯留部に、当該貯留部と、真空容器との間に差圧が形成されるように反応ガスを供給する工程と、
次いで、前記真空容器と前記貯留部とを連通させて、反応ガスとオゾンとを接触させる工程と、
を含むことを特徴とする。
本発明の他の成膜方法によれば、真空雰囲気中で基板の表面に酸化物の分子層を積層して薄膜を得る成膜方法において、
原料を含む原料ガスを真空容器内の前記基板に対して供給し、基板に原料を吸着させる原料ガス供給工程と、
次いで、前記真空容器内に連鎖分解反応を起こす濃度以上の濃度のオゾンを含むオゾン雰囲気を形成するオゾン雰囲気形成工程と、
続いて、前記オゾン雰囲気にエネルギーを供給してオゾンを強制的に分解させることにより酸素の活性種を発生させ、当該活性種により前記基板の表面に吸着されている原料を酸化して前記酸化物を得る酸化工程と、からなるサイクルを複数回繰り返し行
い、
前記酸化工程は、オゾンと化学反応して前記強制的な分解を起こすための反応ガスを前記オゾン雰囲気に供給する反応ガス供給工程を含み、
前記反応ガス供給工程は、基板に対向するように真空容器に形成された供給口から、前記反応ガスを当該真空容器内へ供給する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、真空容器内に連鎖分解反応を起こすことが可能なオゾン雰囲気を形成し、この連鎖分解反応により発生した酸素の活性種を用いて、基板に吸着された原料を酸化している。基板の表面には前記連鎖分解反応により極めて短い時間、比較的大きなエネルギーが加わり、前記活性種と原料とが反応するので、基板をヒーターなどの加熱機構により加熱しなくても前記酸化が十分に行われ、良好な性質の酸化膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の成膜方法を実施するための成膜装置1について、
図1の縦断側面図を参照しながら説明する。この成膜装置1はALDにより、基板であるウエハWに酸化シリコン膜を形成する。図中11は、その内部に真空雰囲気を形成することができる真空容器(処理容器)である。真空容器11内の処理空間は当該空間の外部から加熱及び冷却がなされない、即ち室温であり、後述の各反応は室温で進行する。図中12はウエハWを水平に載置するステージである。図中13は排気口であり、例えば真空容器11の側壁の下部側に開口している。図中14は、排気口13にその一端が接続される排気管である。排気管14の他端は、排気量調整部15を介して排気機構16に接続されている。排気機構16は、例えば真空ポンプにより構成されている。排気量調整部15は例えばバルブを含み、排気口13からの排気流量を調整することができる。それによって、真空容器11内を所望の圧力の真空雰囲気にすることができる。
【0012】
真空容器11の側壁には、ガス供給口21、22、23が開口している。ガス供給口21には配管24の一端が接続され、配管24の他端は、バルブV1を介してO
3(オゾン)ガス供給源25に接続されている。O
3ガス供給源25は、例えば対酸素比率8〜100vol.%のO
3ガスを、配管24に供給することができる。また、前記ガス供給口22には配管26の一端が接続され、配管26の他端は、バルブV2を介してN
2(窒素)ガス供給源27に接続されている。
【0013】
ガス供給口23には配管31の一端が接続され、配管31の他端はバルブV3、V4をこの順に介して液体原料タンク32に接続されている。この液体原料タンク32には、SiO
2(酸化シリコン)の成膜原料となる液体のアミノシランが貯留されており、前記配管31は、この液体原料タンク32の気層部に開口している。前記アミノシランとしては、酸化により酸化シリコン膜を形成できるものであればよく、この例ではBTBAS(ビスターシャルブチルアミノシラン)が貯留されている。また、この液体原料タンク32の気層部には、配管33の一端が開口しており、当該配管33の他端はバルブV5を介して、配管26のバルブV2の上流側に接続されている。図中34で示す配管は、その一端が配管31のバルブV3、V4間に接続されている。配管34の他端は、配管33のバルブV5の上流側に接続されている。配管34にはバルブV6が介設されている。
【0014】
上記の構成により、N
2ガス供給源27のN
2ガスがキャリアガスとして液体原料タンク32に供給され、タンク32内のアミノシランを気化させる。そして気化したアミノシランと前記N
2ガスとの混合ガスが、真空容器11内のウエハWに供給される。成膜原料となるのは気化した前記アミノシランであるが、前記キャリアガスが含まれた前記混合ガスについて、成膜原料ガスと表記する場合がある。また、図中バルブV4〜V6及び液体原料タンク32を、原料供給部30として示している。
【0015】
真空容器11の天井部には、ステージ12に載置されるウエハWに対向するようにガス供給口36が開口している。ガス供給口36には配管37の一端が接続され、配管37の他端は、バルブV7、V8をこの順に介してNO(一酸化窒素)ガス供給源38に接続されている。後述するように、配管37のバルブV7、V8間は、NOガスをガス供給口36から真空容器11内に向けて供給するにあたり、当該NOガスを一時的に貯留するガス貯留部に相当する。
【0016】
成膜装置1は制御部10を備えており、この制御部10は例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなる。この制御部10は、成膜装置1の各部に制御信号を送信し、各バルブVの開閉や排気量調整部15の排気流量の調整などの各動作を制御する。そして、このような制御信号を出力するために、ステップ(命令)群が組まれたプログラムが、前記記憶部に記憶されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0017】
詳しくは後述するように、この実施形態ではウエハWが搬入された真空容器11内にオゾン雰囲気を形成した状態でNOガスを供給することにより、オゾンを分解させる。この分解は、NOによりオゾンが分解されて酸素のラジカルなどの活性種を発生させ、その活性種が周囲のオゾンを分解させてさらに酸素の活性種を生じさせるように強制的に起こる連鎖分解反応である。
図2のグラフは、縦軸に圧力(単位:Torr)、横軸に雰囲気中のオゾン濃度(単位:vol%)を夫々設定している。グラフ中の各プロットは実験により、実際に上記の連鎖分解反応が起きたことが確認された圧力及びオゾン濃度を示している。グラフの線は、各プロットから得られる上記の連鎖分解反応が発生する圧力限界及びオゾンの濃度限界、即ち起爆限界を示している。後述のようにウエハWに酸化を行うにあたりNOガスを真空容器11に供給したときに、真空容器11内がこのグラフで示す限界以上の圧力、且つこのグラフで示す限界濃度以上のオゾン濃度とされる。
【0018】
続いて、上記の成膜装置1の動作について、各バルブの開閉状態を示した
図3〜
図9を参照しながら説明する。
図3〜
図9では、矢印により各ガスの流れについても示している。ウエハWが図示しない搬送口を介して真空容器11内に搬入され、ステージ12上に載置される。各バルブV1〜V8が閉じられた状態で真空容器11が真空引きされ、当該真空容器11内が所定の圧力の真空雰囲気に調整される。続いて、バルブV6が開かれ、当該バルブV6の上流側の流路の圧力が調整される。次に当該バルブV6が閉じられると共にバルブV3、V4、V5が開かれ、N
2ガス供給源27より原料供給部30の液体原料タンク32にN
2ガスが供給される。このN
2ガスにより液体原料タンク32内のアミノシランが気化し、このアミノシランとN
2ガスとからなる成膜原料ガスが真空容器11内に供給され、アミノシランの分子がウエハWの表面に吸着されて、当該アミノシランの分子層が形成される(ステップS1、
図3)。
【0019】
バルブV3、V4、V5が閉鎖され、真空容器11への成膜原料ガスの供給が停止される。然る後、バルブV2が開かれて真空容器11内にN
2ガスが供給される。このN
2ガスにより、真空容器11にてウエハWに吸着されていない余剰のアミノシランがパージされ、真空容器11内から除去される(ステップS2、
図4)。
【0020】
続いてバルブV2が閉じられると共にバルブV1が開かれ、真空容器11内にO
3ガスが供給されて、真空容器11内のオゾンの圧力が上昇する(ステップS3、
図5)。然る後、排気量調整部15による排気が一旦停止され、バルブV1が閉じられ、真空容器11内にO
3ガスが封入される。このときの真空容器11内のオゾンの濃度は、後のステップで真空容器11内にNOガスが供給されることで希釈されても
図2で説明した前記連鎖分解反応が発生する限界以上の濃度が維持される濃度である。この例では、このオゾン封入時の真空容器11の圧力は30Torr(4.0×10
3Pa)とされる。従って、
図2のグラフより、真空容器11のオゾンの濃度は30vol%を超える濃度とされる。
【0021】
前記オゾンが封入された状態で、バルブV8が開かれ、配管37のバルブV7の上流側にNOガスが貯留される(ステップS4、
図6)。その後、バルブV8が閉じられ(ステップS5、
図7)、配管37のバルブV7、V8間が真空容器11内よりも高い圧力とされる。このように真空容器11内と、配管37の前記バルブV7、V8間とに差圧を形成するのは、NOガスを真空容器11内に確実に供給して、上記のO
3の連鎖分解反応を発生させるためである。この差圧としては、10Torr(1.3×10
3Pa)以上とすることが好ましく、この例では30Torr(4.0×10
3Pa)の差圧を形成する。つまり、配管37のバルブV7、V8間の圧力は、60Torr(8.0×10
3Pa)とされる。
【0022】
その後、バルブV7が開かれる。上記のように差圧を形成していることでNOガスが、速やかに真空容器11内へ向けて流入し、真空容器11内のオゾンと接触する。それによって既述のように当該オゾンが強制的に分解され、発生した酸素の活性種がウエハW表面に吸着したアミノシランの分子層と反応し、当該アミノシランを酸化して、酸化シリコンの分子層が形成される(ステップS6、
図8)。
【0023】
前記活性種は不安定であるため、発生から例えば数ミリ秒経過すると酸素に変化し、酸化が終了する。然る後バルブV7が閉じられ、排気量調整部15により所定の流量で真空容器11内が排気される。また、バルブV2が開かれて真空容器11内にN
2ガスが供給される。このN
2ガスにより、真空容器11に残留する前記酸素がパージされ、真空容器11内から除去される(ステップS7、
図9)
【0024】
このステップS1〜S7を1つのサイクルとすると、以降、このサイクルが繰り返し複数回実行され、サイクルが1回行われる度にウエハWに酸化シリコンの分子層が積層される。2回目以降のサイクルが行われる時のウエハWの表面状態の変化について、
図10〜
図15の模式図を参照しながら説明する。
図10は、あるサイクルが開始される直前の状態を示し、
図11は、当該サイクルのステップS1が実行され、ウエハW表面にアミノシラン(BTBAS)の分子42が吸着した状態を示している。各図中の41は、既にウエハWに形成された酸化シリコンの分子である。
図12は、同サイクルのステップS3で真空容器11内にオゾンガスが供給された状態を示し、オゾンの分子を43で示している。
【0025】
図13は、その後のステップS6においてNOガスが真空容器11内に供給された瞬間を示している。上記のようにNOとオゾンとが化学反応を起こし、オゾンにエネルギーが与えられ、オゾンが強制的に分解されて酸素の活性種44を生じる。そして活性種44によりオゾンが強制的に分解され、生じた活性種44によりさらにオゾンが分解される。このようにオゾンが連鎖分解され、真空容器11内のオゾンが瞬間的に活性種44に変化する(
図14)。
【0026】
そして、このオゾンの連鎖分解反応が起きる空間に曝されているアミノシランの分子42には、当該連鎖分解反応で放出された熱及び光のエネルギーが加わり、当該分子42のエネルギーが瞬間的に上昇して、当該分子42の温度が上昇する。そして、このように温度が上昇して活性化されたアミノシランの分子42の周囲には、当該分子42と反応可能な活性種44が存在するので、これら分子42と酸素の活性種44との反応が起きる。つまりアミノシラン分子42が酸化されて、酸化シリコンの分子41が生じる(
図15)。
【0027】
このようにオゾンの連鎖分解反応により発生するエネルギーをアミノシランの分子が受けることになるので、背景技術で説明したようなヒーターによるウエハWの加熱を行わなくても、当該アミノシランの酸化を行うことができる。2回目以降のサイクルのステップS1〜S7で、アミノシラン分子42が酸化される様子を説明したが、1回目のサイクルのステップS1〜S7でも同様に、オゾンの分解によるエネルギーがアミノシランの分子42に加わり、当該分子42が酸化される。上記のサイクルが所定の回数繰り返し行われて、所望の膜厚の酸化シリコン膜が成膜されると、ウエハWが真空容器11内から搬出される。
【0028】
この成膜装置1により行われる成膜方法によれば、既述のように真空容器11内に比較的高い濃度のオゾン雰囲気を形成し、室温にてこのオゾンをNOガスにより連鎖分解させ、この連鎖分解により生じた活性種によりウエハW表面のアミノシランを酸化させて酸化膜を形成している。後述する評価試験で示すように、このように形成した酸化膜は、ウエハWを加熱して形成した酸化膜と同様の膜質を有している。従って、この成膜方法においては、酸化を行うためにウエハWを加熱するためのヒーターなどを設ける必要が無いので、成膜装置1の製造コスト及び運用コストの削減を図ることができる。また、前記ヒーターによりウエハWが所定の温度になることを待たずに、アミノシランの酸化を行うことができる。従って、成膜処理に要する時間を短縮し、スループットの向上を図ることができる。
【0029】
上記の成膜装置1において、NOガスの供給口36はステージ12に載置されるウエハW表面に対向して設けられる。既述のようにオゾンの分解反応は瞬間的に進行するが、このようにガス供給口36が開口していることで、その僅かな時間の間に当該分解反応は真空容器11内を上方から下方へ向かって伝搬する。このように反応が伝搬することで、ウエハWは下方へ向かう力を受けてステージ12に押し付けられ、当該ステージ12に固定された状態で既述の酸化が行われる。つまり、オゾンの強制分解による真空容器11内の圧力変化によって、ウエハWがステージ12から離脱してしまうことを防ぐことができる。
【0030】
上記のステップS5において、配管37のバルブV7、V8間と、真空容器11内の圧力との間に差圧を形成するにあたり、前記バルブV7、V8間の方が、真空容器11内よりも低い圧力になるようにしてもよい。その場合、ステップS4でバルブV7が開かれると、真空容器11のオゾンガスが配管37に流入してNOガスと接触し、当該配管37内で連鎖分解反応が開始され、この分解反応が真空容器11へ伝搬して、ウエハW表面のアミノシランが酸化される。その場合、配管37は、この分解反応時に発生する熱及び圧力に耐えられるように構成されることになる。
【0031】
上記の例ではNOとオゾンとの化学反応により、オゾンにエネルギーを供給して既述の連鎖分解反応を開始させているが、この連鎖分解反応が開始されるようにエネルギーを供給することができれば、当該化学反応を起こすことには限られない。例えば、真空容器11内にレーザー光線を照射できるように成膜装置1を構成し、当該レーザー光線の照射によりオゾンにエネルギーを与えて前記連鎖分解反応を開始させてもよい。また、真空容器11内に電極を設け、当該電極に電圧を印加し、放電を起こせるように構成する。この放電のエネルギーを与えることにより、前記連鎖分解反応が開始されるようにしてもよい。ただし、装置の構成を簡素にする観点と、前記放電用の電極を構成する金属がウエハWに飛散することを防ぐ観点から、上記のような化学反応を起こすことで前記連鎖分解反応を起こすことが好ましい。当該化学反応を起こすためにはNOガスの他に、オゾンガスと急激な反応を起こすガスを用いることができる。
【0032】
ところで、例えば上記の成膜装置1でアンモニアガス、メタンガス、ジボランガスなどをオゾンガスと共に真空容器11内に封入しておき、NOガスを真空容器11内に供給してもよい。O
3が分解されるときにこれらのガスも分解されてアミノシランと化学反応し、これらのガスを構成する元素がドープされた酸化シリコン膜を形成することができる。具体的には、アンモニア、メタンガス、ジボランガスを真空容器11に封入することで、夫々N(窒素)、C(炭素)、B(ホウ素)がドープされた酸化シリコン膜を形成することができる。
【0033】
上記の実施の形態に適用される原料ガスとしては、上述のように酸化シリコン膜を形成するものに限られない。例えばTMA[トリメチルアルミニウム]、TEMHF[テトラキスエチルメチルアミノハフニウム]、Sr(THD)
2[ストロンチウムビステトラメチルヘプタンジオナト]、Ti(MPD)(THD)[チタニウムメチルペンタンジオナトビステトラメチルヘプタンジオナト]などを用いて、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ストロンチウム、酸化チタニウムなどを成膜するようにしてもよい。
【0034】
評価試験
本発明に関連して行われた評価試験について説明する。評価試験1として、成膜装置1を用いて上記の
図3〜
図15で説明した手法により、ウエハWに酸化シリコン膜を形成した。そして、形成された酸化シリコン膜をウエットエッチングし、エッチングレートを測定した。この評価試験1においてはウエハWの一端側のエッチングレート、他端側のエッチングレートを夫々測定した。
【0035】
比較試験1−1として、真空容器内で酸素ガスをプラズマ化できる成膜装置を用いてウエハWに酸化シリコン膜の成膜を行った。より詳しく説明すると、この成膜装置は、成膜装置1と同じく真空容器11内へ成膜原料ガスの供給を行うことができると共に、真空容器11内へ供給された酸素をプラズマ化することができる。そして、前記成膜原料ガスの供給と、前記プラズマ化による原料の酸化とを交互に行うことで、前記成膜を行うことができる。この比較試験1−1は、評価試験1と同じく室温で前記酸化を行った。成膜後は評価試験1と同様に酸化シリコン膜のウエットエッチングを行い、エッチングレートを測定した。
【0036】
比較試験1−2として、真空容器内のウエハWをヒーターにより所定の温度に加熱しながら、当該ウエハWに前記成膜原料ガスとオゾンガスとを交互に繰り返し供給し、ウエハWに酸化シリコン膜を形成した。つまり、この比較試験1−2では、上記のオゾンの連鎖分解反応を行わず、ウエハWを加熱することでウエハWに熱エネルギーを与え、ウエハWに吸着したアミノシランをオゾンにより酸化させている。成膜後は、他の各試験と同様にエッチングレートを測定した。
【0037】
図16は、評価試験1及び各比較試験のエッチングレートの測定結果を示すグラフであり、縦軸が前記エッチングレート(単位:Å/分)を示している。グラフに示されるように、評価試験1のウエハWについては、一端側のエッチングレートが4.8Å/分、他端側のエッチングレートが3.4Å/分と、略同様の値となっている。そして、比較試験1−1のエッチングレートは、54.2Å/分であり、比較試験1−2のエッチングレートは、4.7Å/分であった。つまり、評価試験1のエッチングレートは、同じ室温で処理を行った比較試験1−1のエッチングレートよりも明らかに低く抑えられており、酸化を行うためにヒーターによる加熱を行った比較試験1−2のエッチングレートと略同じである。つまり、評価試験1では、成膜中に加熱を行って形成した酸化シリコン膜と、略同等の膜質を持つ酸化シリコン膜が形成されていることが示された。従ってこの評価試験の結果から、上記の実施形態で説明したように、本発明の手法を用いることで、ヒーターによる加熱を行わなくても良好な膜質を有する酸化シリコン膜を形成できることが示された。
【0038】
続いて、上記の実施形態に従って処理を行うことで形成される酸化シリコン膜の熱履歴について調べた評価試験2について説明する。この評価試験2では、シリコンからなる複数の基板に、イオンインプランテーションによって各々P(リン)を注入した。このイオンインプランテーションは、2keV、1E15ions/cm
2で行った。そして、前記Pを注入した基板について、上記の成膜装置1を用いて酸化シリコン膜の形成を行った。この酸化シリコン膜を形成するにあたり、上記のサイクルは100回行った。また、各サイクルのステップS3では真空容器11内のオゾン濃度が77.7vol%となるようにオゾンガスを供給した。そして、酸化シリコン膜の形成後、当該酸化シリコン膜の抵抗値を測定した。また、上記のPを注入した基板の内、前記酸化シリコン膜を形成していないものについては、リファレンスとして互いに異なる温度で5分間加熱処理を行った。加熱処理後、これらリファレンスの抵抗値を測定した。
【0039】
図17は、この評価試験2の結果を示すグラフである。黒く塗りつぶしたプロットがリファレンスの抵抗値であり、白抜きのプロットが成膜装置1で成膜した酸化シリコン膜の抵抗値である。グラフに示されるように上記の酸化シリコン膜の抵抗値は、200℃で加熱されたリファレンスの抵抗値に相当する。つまり、実施形態で説明したサイクルを100回行うことは、基板に200℃の熱を5分間加えることに相当する。即ち、上記の連鎖分解反応によって、基板には熱が加えられており、実施形態で説明したように、このように熱が加えられることにより、既述したようにヒーターなどによって基板を加熱することなく、アミノシランの酸化を行うことができることが推測される。