特許第6242298号(P6242298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62422981−(3−ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノ−5−[(2R)−2−({2−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]インドリンまたはその塩を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242298
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】1−(3−ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノ−5−[(2R)−2−({2−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]インドリンまたはその塩を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/08 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   C07D209/08
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-122065(P2014-122065)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-3183(P2016-3183A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】志水 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 健次
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/046499(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147019(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
で示されるインドリン誘導体と下記式(2)
【化2】
(式中のXは、求核置換反応によって脱離する官能基を示す。)
で示されるN−アルキル化剤とを塩基の存在下で反応させることにより、下記式(3)
【化3】
で示されるN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法において、反応溶媒として20℃における比誘電率が2〜7である低極性有機溶媒と水との混合物を用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記インドリン誘導体の酒石酸塩と塩基と前記低極性有機溶媒と水とを混合して前記インドリン誘導体を含む一次反応液を得る中和工程、当該一次反応液と前記N−アルキル化剤とを混合して前記インドリン誘導体と前記N−アルキル化剤とを塩基の存在下、前記低極性有機溶媒と水との混合物中で反応させる反応工程を含む請求項1に記載のN−アルキル化インドリン誘導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で前記インドリン誘導体と前記N−アルキル化剤とを反応させて得られたN−アルキル化インドリン誘導体を含む二次反応液から水層が除去されたN−アルキル化インドリン誘導体の溶液を得る工程、当該溶液と酒石酸とを混合してN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩を析出させる析出工程を含むN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記インドリン誘導体と前記N−アルキル化剤との反応において、塩基の量が前記インドリン誘導体1モルに対して1.0モル以上3.0モル以下である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記低極性有機溶媒が酢酸エステル及び/または芳香族炭化水素である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記低極性有機溶媒が酢酸エステルである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法で前記N−アルキル化インドリン誘導体または前記N−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩を製造する工程、当該N−アルキル化インドリン誘導体またはN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩のフェニルエステル基を加水分解し、下記式(4)
【化4】
で示される化合物を得るエステル加水分解工程、当該化合物のシアノ基をカルバモイル基に変換し、下記式(5)
【化5】
で示されるシロドシンを得るニトリル加水分解工程を含むシロドシンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロドシン(化学名称:(−)−1−(3−ヒドロキシプロピル)−5−[[(2R)−2−({2−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]−2,3−ジヒドロ−1H−インドール−7−カルボキサミド])の合成中間体である1−(ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノ−5−[(2R)−2−({2−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]インドリンまたはその塩の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】
【0004】
で示されるシロドシンは、選択的な尿路平滑筋収縮抑制作用を有し、血圧に大きく影響を与えることなく尿道内圧を低下させ、さらにα1Aアドレナリン受容体サブタイプに選択的に作用して、前立腺肥大症に伴う排尿障害を改善する治療薬として知られている。このような治療薬として用いられるシロドシンは、非常に高純度であることが望まれることから、製造過程において不純物の生成を抑制することが極めて重要である。
【0005】
シロドシンの製造方法としては、下記式(2)
【0006】
【化2】
【0007】
で示される5−(2−アミノプロピル)−1−(3−ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノインドリン(以下、インドリン誘導体とも言う。)と、下記式(3)
【0008】
【化3】
【0009】
(式中のXは、求核置換反応によって脱離する官能基を示す。)
で示される化合物(以下、N−アルキル化剤とも言う。)とを塩基存在下、求核置換反応させて、下記式(4)
【0010】
【化4】
【0011】
で示される1−(ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノ−5−[(2R)−2−({2−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]インドリン(以下、N−アルキル化インドリン誘導体とも言う。)とし、得られたN−アルキル化インドリン誘導体のフェニルエステル基を加水分解して水酸基とし、次いで、シアノ基を加水分解してカルバモイル基とすることによって、シロドシンを製造するという方法が知られている。
【0012】
そして、上記求核置換反応について、例えば、特許文献1には、インドリン誘導体の酒石酸塩と炭酸カリウム水溶液と酢酸エチルとを混合し、インドリン誘導体の酒石酸塩を中和してインドリン誘導体とし、t−ブチルアルコールに溶媒交換した後、N−アルキル化剤と炭酸ナトリウムとを加え、加熱還流することによって求核置換反応をさせてN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法が記載されている。また、特許文献2には、インドリン誘導体の酒石酸塩と炭酸ナトリウム水溶液とジクロロメタンとを混合、中和し、t−ブチルアルコールとエタノールとの混合液に溶媒交換した後、N−アルキル化剤と炭酸ナトリウムとを加え、加熱還流することによってN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法が記載されている。また、特許文献3には、インドリン誘導体の酒石酸塩に直接N−アルキル化剤と炭酸ナトリウムとアセトニトリルとを加え、加熱還流することによってN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法が記載されている。さらに、特許文献4には、インドリン誘導体の酒石酸塩と炭酸ナトリウム水溶液とトルエンとを混合、中和し、水層を除去した後、N−アルキル化剤とリン酸水素カリウムとテトラブチルアンモニウムブロミドとを加え、加熱還流することによってN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第5049013号
【特許文献2】国際公開第2011/124704号
【特許文献3】国際公開第2012/147019号
【特許文献4】国際公開第2012/147107号
【特許文献5】特許第4634560号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、本発明者が、前記特許文献記載の条件に基づいて求核置換反応を行ったところ、N−アルキル化インドリン化合物とN−アルキル化剤が反応した化合物である、下記式(5)
【0015】
【化5】
【0016】
で示される1−(ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノ−5−[(2R)−2−(N,N−ビス{2−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ)プロピル]インドリン(以下、ジアルキル体とも言う。)が多量に副生し、特に、反応転化率が90%以上となるまで反応を行なった場合には、得られたN−アルキル化インドリン誘導体において、当該ジアルキル体が不純物として15〜20重量%程度含有されることが分かった。これは、第二級アミンであるN−アルキル化インドリン誘導体が、第一級アミンであるインドリン誘導体と比較して求核性が高く、求核置換反応が起こりやすいことから、反応が進行し、N−アルキルインドリン誘導体の反応系中に存在する量が増加するにつれて、N−アルキル化インドリン誘導体の生成量が加速度的に増加するためであると考えられる。
【0017】
したがって、本発明の目的は、インドリン誘導体とN−アルキル化剤との求核置換反応において、ジアルキル体の生成を抑制した、高純度のN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するために、インドリン誘導体とN−アルキル化剤との求核置換反応について鋭意検討を行なった。その結果、当該求核置換反応を、酢酸エステルや芳香族炭化水素等の低極性有機溶媒と水との混合物中で行うことによって、驚くべきことに、ジアルキル体の副生が抑制され、反応転化率90%以上となるまで反応を行なった場合においても、高純度のN−アルキル化インドリン誘導体が得られることが分かった。このような効果が得られる理由は明らかではないが、求核置換反応によってメタンスルホン酸と塩基による塩が発生するところ、反応溶媒として従来のように有機溶媒のみを使用した場合には当該塩の大部分が固体として析出するのに対して、反応溶媒として低極性有機溶媒と水との混合物を用いると、当該塩の大部分は水に溶解した状態で反応系内に存在することから、メタンスルホン酸の塩はN−アルキル化インドリン誘導体に配位結合し、N−アルキル化インドリン誘導体の求核性が低下して、ジアルキル体の副生が抑制されたものと考えられる。
【0019】
すなわち、本発明は、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを塩基の存在下で反応させることにより、N−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法において、反応溶媒として20℃における比誘電率が2〜7である低極性有機溶媒と水との混合物を用いることを特徴とする方法である。
【0020】
そして、本発明では、原料としてインドリン誘導体の酒石酸塩を用い、当該酒石酸塩を20℃における比誘電率が2〜7である低極性有機溶媒と水との混合物中で塩基により中和して得られるインドリン誘導体を含む一次反応液にN−アルキル化剤を加えることにより、そのまま本発明のインドリン誘導体とN−アルキル化剤との反応を行うことができ、効率的で好ましい。さらに、本発明のインドリン誘導体とN−アルキル化剤とを反応させて得られた二次反応液から水層が除去されたN−アルキル化インドリン誘導体の溶液に酒石酸を加えることによって、N−アルキルインドリン誘導体の酒石酸塩を、不純物、特にジアルキル体の含有量が低減された高純度の結晶として取得することができて好ましい。
【0021】
また、本発明は、このようにして得られたN−アルキル化インドリン誘導体またはN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩を用いて、高純度のシロドシンを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インドリン誘導体とN−アルキル化剤との求核置換反応を、低極性有機溶媒と水との混合物中で行うことによって、不純物、特にジアルキル体の含有量が低減された高純度のN−アルキル化インドリン誘導体またはその酒石酸塩を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを塩基の存在下で反応させることにより、N−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法において、反応溶媒として低極性有機溶媒と水との混合物を用いることを特徴とする方法である。
【0024】
本発明では、当該N−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法を実施するのに、原料としてインドリン誘導体の酒石酸塩を用い、当該酒石酸塩と塩基と低極性有機溶媒と水とを混合することによってインドリン誘導体の酒石酸塩を中和し、インドリン誘導体を含む一次反応液を得て、当該一次反応液にN−アルキル化剤を加えることにより、インドリン誘導体とN−アルキル化剤との反応を行うことが、効率的で好ましい。さらに、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを反応させて得られた二次反応液から水層が除去されたN−アルキル化インドリン誘導体の溶液に酒石酸を加えることによってN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩を析出させることによって、N−アルキル化インドリン誘導体を酒石酸塩として、不純物、特にジアルキル体の含有量が低減された高純度の結晶として取得することができて好ましい。
【0025】
すなわち、本発明では、インドリン誘導体の酒石酸塩と塩基と低極性有機溶媒と水とを混合してインドリン誘導体を含む一次反応液を得る中和工程、当該一次反応液とN−アルキル化剤とを混合してインドリン誘導体とN−アルキル化剤とを塩基の存在下、低極性有機溶媒と水との混合物中で反応させる反応工程、さらに、当該反応によって得られた二次反応液から水層が除去されたN−アルキル化インドリン誘導体の溶液と酒石酸とを混合してN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩を析出させる析出工程を連続して行うのが最も好ましい態様である。以下に、中和工程、反応工程、及び析出工程を順に説明する。
【0026】
((中和工程))
本発明において、中和工程は、インドリン誘導体の酒石酸塩と塩基と低極性有機溶媒と水とを混合して、インドリン誘導体の酒石酸塩を中和し、インドリン誘導体を含む一次反応液を得る工程である。
【0027】
(インドリン誘導体の酒石酸塩)
当該中和工程で使用されるインドリン誘導体の酒石酸塩は、特に制限されず、公知の方法で製造されたものを使用することができる。具体的には、例えば特許文献5に記載された方法が挙げられ、下記式(6)
【0028】
【化6】
【0029】
で示される1−(3−ベンゾイルオキシプロピル)−7−シアノ−5−(2−オキソプロピル)インドリンと、下記式(7)
【0030】
【化7】
【0031】
で示される2−フェニルエチルアミンとを反応させてイミン化合物とし、酸化白金存在下で接触還元を行ない、次いで、パラジウム炭素存在下で接触還元を行なった後、酒石酸と塩形成をすることで製造することができる。このようにして取得されたインドリン誘導体の酒石酸塩はその純度や不純物の含有量に因らず、そのまま使用することができるが、最終的に得られるN−アルキル化インドリン誘導体またはその酒石酸塩の純度をより高くするために、一般的な精製方法、例えば再結晶やリスラリー、カラムクロマトグラフィー等の方法により、必要に応じて1回以上精製したものを、当該インドリン誘導体の酒石酸塩として使用しても良い。
【0032】
また、当該インドリン誘導体の酒石酸塩の形態は特に制限されず、結晶、アモルファス、またはこれらが混合した形態であっても良く、粉末、塊状物、またはこれらが混合した形状であっても良く、無水物、水和物、溶媒和物、またはこれらが混合した形態であっても良い。また、後述する当該中和工程に使用する溶媒を含む湿体であっても良く、その他の溶媒についても、後述する析出工程に影響を及ぼさない範囲、具体的には、当該インドリン誘導体の酒石酸塩の50質量%以下の量で残留していても良いが、当該中和工程に使用する溶媒以外の溶媒を含まないことが最も好ましい。
【0033】
(塩基)
当該中和工程で使用される塩基は、インドリン誘導体の酒石酸塩を中和するのに用いられる。また、本発明では、当該塩基としてインドリン誘導体とN−アルキル化剤とを求核置換反応させるものを使用することによって、当該中和工程で得られた一次反応液にさらに塩基を加えることなく、次の反応工程を行なうことができて好ましい。そのため、当該塩基は、インドリン誘導体の酒石酸塩を中和するものであれば良く、さらに、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを求核置換反応させるものであることが好ましいものであり、水に対する溶解度が高く、求核性の低い化合物が好適に使用される。具体的には、アルカリ金属の炭酸塩、またはアルカリ金属の炭酸水素塩が挙げられ、反応性や水に対する溶解度を考慮すると、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウムを用いることが好ましく、炭酸カリウムを用いることが特に好ましい。これらの塩基は単独で用いても良いし、複数種を併せて用いることもできる。
【0034】
また、当該塩基の形態は特に制限されるものではなく、使用する塩基に固有の態様そのままを用いることができるが、特に塩基が固体である場合は、操作性や反応性等の点から水溶液の状態として当該中和工程に用いることが好ましい。塩基を水溶液として用いる場合、その濃度は特に制限されず、塩基の種類等によって決定すれば良いが、具体的には、塩基の濃度を1〜50質量%とすることが好ましく、5〜40質量%とすることがより好ましい。さらに、当該中和工程で使用する水の全量を用いた塩基の水溶液とすることによって、別に水を用いる必要がなくなることから効率的で最も好ましい。
【0035】
当該中和工程における塩基の使用量は、インドリン誘導体の酒石酸塩1モルに対して1.0モル以上であれば良く、2.0モル以上であることが好ましい。塩基を1.0モル以上使用することによって、インドリン誘導体の酒石酸塩の中和反応を十分に行なうことができる。また、塩基を2.0モル以上使用することによって、当該中和工程で消費されなかった塩基が一次反応液中に残存するため、得られた一次反応液をそのまま次の反応工程に使用する際に塩基を追加することなく、N−アルキル化剤を加えるだけで求核置換反応を行うことができ、効率的で好ましい。なお、当該中和工程において塩基を過剰量使用せず、次の反応工程において塩基を追加することもでき、この場合は、反応系中に存在する塩基の量がインドリン誘導体1モルに対して1.0モル以上となるような量を追加すれば良い。
【0036】
(低極性有機溶媒)
当該中和工程において使用される低極性有機溶媒は、20℃における比誘電率が2〜7であり、且つ、水に対する溶解度が低く、インドリン誘導体が溶解するものであれば良い。具体的には、水100mLに対する溶解量(20℃)が8g以下であることが好ましく、5g以下であることがより好ましく、さらに、インドリン誘導体1gを溶解するのに要する溶媒量(20℃)が10g以下であることが好ましく、5g以下であることがより好ましい。このような低極性有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル等の酢酸エステルや、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられ、操作性や反応性、当該中和工程で得られた一次反応液をそのまま次の反応工程、次いで析出工程に用いることを考慮すると、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピルを用いることが好ましく、酢酸ブチルを用いることが特に好ましい。これらは単独で使用することも複数種混合して使用することもできる。
【0037】
また、当該低極性有機溶媒の使用量は、使用する低極性有機溶媒の種類や後述する水の使用量、反応条件等によって適宜決定すれば良く、インドリン誘導体が溶解する量を用いれば良い。操作性や反応性を考慮すると、インドリン誘導体酒石酸塩10gに対して10mL以上500mL以下であることが好ましく、15mL以上400mL以下であることがより好ましく、20mL以上300mL以下であることが特に好ましい。
【0038】
(水)
当該中和工程において使用される水は特に制限されず、水道水、イオン交換水、純水、超純水等を使用することができる。また、当該水の使用量は、使用する低極性有機溶媒の種類や量、反応条件等によって適宜決定すれば良く、インドリン誘導体の酒石酸10gに対して10mL以上500mL以下であることが好ましく、20mL以上300mL以下であることがより好ましい。また、塩基を水溶液として使用する場合は、塩基の水溶液の量を考慮し、当該水の使用量から差し引いた量を使用すれば良いが、前述の通り、当該中和工程で使用する水の全量を用いた水溶液とすることが、効率的で最も好ましい。
【0039】
(中和工程の条件)
当該中和工程において、インドリン誘導体の酒石酸塩と塩基と低極性有機溶媒と水とを混合して、インドリン誘導体の酒石酸塩を中和し、インドリン誘導体を含む一次反応液を得る方法は特に限定されず、これら化合物及び溶媒を混合すれば良く、その方法や順序も特に限定されない。具体的には、インドリン誘導体の酒石酸塩と低極性有機溶媒とを混合し、攪拌、分散させたところに、別に調整しておいた塩基水溶液を加える方法が好ましい。当該中和工程において、反応の温度は、反応性やインドリン誘導体の溶解度を考慮すると、10℃以上60℃以下であれば良く、15℃以上55℃以下であることが好ましく、20℃以上50℃以下であることがより好ましい。また、反応時間は、インドリン誘導体の酒石酸塩が中和されるまで行えば良く、通常は10分以上2時間以下である。
【0040】
本発明において、当該中和工程で得られたインドリン誘導体を含む一次反応液は、そのまま次の反応工程に用いることができる。また、当該一次反応液には、インドリン誘導体、当該中和工程で消費されなかった塩基、有機溶媒、水の他に、反応で副生した酒石酸と塩基の塩が存在するが、当該塩については、このまま次の反応工程に用いても良く、除去しても良い。除去する場合は、分液操作により水層を除去することによって当該塩を除去することができる。
【0041】
((反応工程))
反応工程とは、本発明であるところの、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを塩基の存在下で反応させてN−アルキル化インドリン誘導体を製造する方法を、反応溶媒として低極性有機溶媒と水との混合物を用いて行うものであり、前記中和工程で得られたインドリン誘導体を含む一次反応液をそのまま使用することができる。なお、当該反応工程でインドリン誘導体とN−アルキル化剤とを反応して得られたN−アルキル化インドリン誘導体を含む反応液を二次反応液とも言う。
【0042】
(インドリン誘導体)
当該反応工程で使用されるインドリン誘導体は、特に制限されるものではなく、公知の方法で製造されたものを使用することができ、前記中和工程で得られた一次反応液をそのまま用いることが最も好ましい。当該インドリン誘導体として一次反応液以外のものを用いる場合は、固体として単離されたものや、当該求核置換反応に使用する溶媒との溶液やスラリーの状態のものを特に制限なく用いることができる。固体の場合、その形態は特に制限されず、結晶、アモルファス、またはこれらが混合した形態であっても良く、粉末、塊状物、またはこれらが混合した形態であっても良く、無水物、水和物、溶媒和物、またはこれらが混合した形態であっても良く、当該求核置換反応に使用する溶媒を含む湿体であっても良い。また、当該インドリン誘導体は、反応に影響を及ぼさない範囲でその他溶媒を含んでいても良い。
【0043】
(N−アルキル化剤)
当該反応工程で使用されるN−アルキル化剤は、前記インドリン誘導体のアミノ基をアルキル化してN−アルキル化インドリン誘導体とするものである。当該N−アルキル化剤は前記式(3)で示される化合物であり、式中のXは、求核置換反応によって脱離する官能基を示すものであって、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メタンスルホニルオキシ基、パラトルエンスルホニルオキシ基等が挙げられ、インドリン誘導体との反応性や操作性を考慮すると、式中のXがメタンスルホニルオキシ基である化合物を用いることが好ましい。本発明において、当該N−アルキル化剤は上記のような化合物であれば良く、その製造方法や形態は特に制限されない。また、当該N−アルキル化剤の使用量は、反応の効率性等を考慮すると、インドリン誘導体1モルに対して1.0モル以上2モル以下であることが好ましく、1.1モル以上1.5モル以下であることがより好ましい。
【0044】
(塩基)
当該反応工程は、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを塩基の存在下で求核置換反応させるものであり、反応系中に塩基が存在している必要がある。当該反応工程で使用される塩基は、上記のような求核置換反応に用いられるものであれば良く、弱塩基性の無機塩が使用される。具体的には、前記中和工程と同様に、水に対する溶解度が高く、求核性の低い塩基を使用することができ、前記中和工程で例示した塩基が好適に使用される。当該反応工程では、反応系中に存在する塩基の量が、インドリン誘導体1モルに対して1.0モル以上であれば良く、水に対する溶解性等を考慮すると、1.0モル以上3.0モル以下であることが好ましい。当該塩基の形態は特に制限されず、固体をそのまま用いても良く、当該反応工程で使用される低極性有機溶媒や水による溶液やスラリーとして用いても良い。
【0045】
また、当該反応工程において、インドリン誘導体として前記中和工程で得られた一次反応液を使用する場合は、一次反応液における塩基の量が上記範囲となるように適宜追加すれば良い。この際、中和工程で使用した塩基と同じものを使用しても良いし、異なるものを使用しても良く、複数種を併せて使用することもできる。また、追加する際の塩基の形態は特に制限されない。さらに、前述の通り、前記中和工程において、インドリン誘導体の酒石酸塩1モルに対して2.0モル以上の塩基を使用した場合には、一次反応液中に消費されなかった塩基が1.0モル以上残存することから、当該反応工程において塩基を追加する必要がなく、効率的で最も好ましい態様である。
【0046】
(反応溶媒)
本発明は、当該反応工程において、インドリン誘導体とN−アルキル化剤との求核置換反応の反応溶媒として低極性有機溶媒と水との混合物を用いて行なうことを特徴とする。これにより、当該求核置換反応において、ジアルキル体の副生が抑制され、効率的に、高収率で高純度のN−アルキル化インドリン誘導体を得ることができる。
【0047】
当該反応溶媒として使用される低極性有機溶媒は、前記中和工程で使用される低極性有機溶媒と同様のもの、すなわち、20℃における比誘電率が2〜7であり、且つ、水に対する溶解度が低く、インドリン誘導体が溶解するものであれば良く、具体的には、水100mLに対する溶解量(20℃)が8g以下であることが好ましく、5g以下であることがより好ましく、さらに、インドリン誘導体1gを溶解するのに要する溶媒量(20℃)が10g以下であることが好ましく、5g以下であることがより好ましい。このような低極性有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル等の酢酸エステルや、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられ、操作性や反応性、当該反応工程で得られた二次反応液をそのまま次の析出工程に用いることを考慮すると、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピルを用いることが好ましく、酢酸ブチルを用いることが特に好ましい。これらは単独で使用することも複数種混合して使用することもできる。当該低極性有機溶媒は、前記中和工程と同じ種類を使用しても良いし、異なるものを使用しても良い。また、当該反応工程における低極性有機溶媒の使用量は、使用する低極性有機溶媒の種類や水の使用量、反応条件等によって適宜決定すれば良く、インドリン誘導体が溶解する量を用いれば良い。具体的には、前記中和工程と同等の量を使用すれば良く、操作性や反応性を考慮すると、インドリン誘導体酒石酸塩10gに対して10mL以上500mL以下であることが好ましく、15mL以上400mL以下であることがより好ましく、20mL以上300mL以下であることが特に好ましい。
【0048】
一方、当該反応溶媒として使用される水は特に制限されず、水道水、イオン交換水、純水、超純水等を使用することができる。また、当該反応工程における水の使用量は、使用する低極性有機溶媒の種類や量、反応条件等によって適宜決定すれば良く、前記中和工程と同等の量を使用すれば良く、具体的には、インドリン誘導体の酒石酸10gに対して10mL以上500mL以下であることが好ましく、20mL以上300mL以下であることがより好ましい。
【0049】
なお、当該反応工程において、インドリン誘導体として前記中和工程で得られた一次反応液を使用する場合は、必要に応じて、これら反応溶媒を追加あるいは除去することにより、これらの含有量が上記範囲となるように調整することができるが、前記中和工程と当該反応工程では、使用する反応溶媒の種類及び量を同じくすることができることから、このような調整を行なわないことが効率的で好ましい。
【0050】
(反応工程の条件)
本発明において、インドリン誘導体とN−アルキル化剤とを塩基の存在下、反応溶媒として低極性有機溶媒と水との混合物を用いて反応させる方法が特に制限されず、これら化合物及び溶媒を混合すれば良く、その方法や順序も特に限定されない。具体的には、インドリン誘導体と低極性有機溶媒とを混合し、攪拌、分散させたところに、別に調整しておいた塩基水溶液を加え、さらに、N−アルキル化剤を加える方法が好ましく、インドリン誘導体として前記中和工程で得られた一次反応液を用い、当該一次反応液を攪拌、分散させているところに、N−アルキル化剤塩基水溶液を加える方法が最も好ましい。当該反応工程における反応温度は、使用する低極性有機溶媒の沸点付近とし、加熱還流させることが好ましい。また、反応時間は、反応の進行状況に応じて適宜決定すれば良く、通常は8時間以上48時間以下である。
【0051】
当該求核置換工程で得られたN−アルキル化インドリン誘導体を含む二次反応液には、適宜後処理が行なわれる。具体的には、例えば、通常の分液操作により水層を除去し、得られた有機層に、必要に応じて洗浄や乾燥等の操作を行なうことによって、N−アルキル化インドリン誘導体を含む低極性有機溶媒の溶液を得られ、当該溶液から減圧留去等により溶媒を除去することによって、N−アルキル化インドリン誘導体を粗体として取得することができる。このようにして得られたN−アルキル化インドリン誘導体の粗体は、不純物であるジアルキル体の含有量が低減された高純度のものであり、当該粗体を用いることによって、高純度のシロドシンを高収率で製造することができる。一方、N−アルキル化インドリン誘導体を含む低極性有機溶媒の溶液を次の析出工程に用いることによって、より高純度のN−アルキル化インドリン誘導体の結晶を効率的に取得することができて好ましい。
【0052】
((析出工程))
本発明において、析出工程は、前記反応工程で得られた二次反応液から水層が除去されたN−アルキル化インドリン誘導体の溶液と酒石酸とを混合してN−アルキル化インドリン誘導体を析出させる工程である。
【0053】
(N−アルキル化インドリン誘導体の溶液)
当該析出工程で使用されるN−アルキル化インドリン誘導体の溶液は、前記反応工程で得られた二次反応液について適宜後処理を行ない、水層が除去されたものである。当該溶液を為す溶媒としては、前記中和工程及び前記反応工程において使用できる酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル、その他に、アセトニトリル、イソプロピルアルコールを使用することができる。これら溶媒は、単独で使用することも複数種混合して使用することもできる。これにより、前記中和工程及び前記反応工程では、低極性有機溶媒として酢酸エステルを使用することが、当該析出工程で溶媒交換をする必要がないことから効率的で好ましい。一方で、前期中和工程及び前記反応工程において、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素を使用した場合、二次反応液におけるトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素の割合が、低極性有機溶媒全量の15容量%以上、特に30容量%以上である場合は、後処理として、当該範囲未満となるように溶媒交換をする必要がある。
【0054】
また、当該溶液における、N−アルキル化インドリン誘導体の濃度は、操作性や収率を考慮すると、N−アルキル化インドリン誘導体1gに対して3mL以上50mLであることが好ましく、5mL以上30mL以下であることがより好ましい。
【0055】
(酒石酸)
当該析出工程で使用される酒石酸は、試薬や工業用等のグレードの市販品や公知の方法で製造されたものを品等を特に制限なく使用することができる。また、当該酒石酸として、L−(+)−酒石酸を使用することにより、N−アルキル化インドリン誘導体のR体が選択的に結晶化されることから、光学純度の高いN−アルキル化インドリン誘導体を得ることができる。当該酒石酸の使用量は、前記N−アルキル化インドリン誘導体1モルに対して1.0モル以上であれば良く、溶解性や操作性を考慮すると1.0モル以上2.0モル以下であることが好ましく、1.0モル以上1.5モル以下であることがより好ましい。
【0056】
(析出工程の反応条件)
当該析出工程において、N−アルキル化インドリン誘導体を含む低極性有機溶媒の溶液と酒石酸とを混合してN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩の結晶を析出させる方法は特に制限されず、具体的には、N−アルキル化インドリン誘導体を含む低極性有機溶媒の溶液に酒石酸を加えて溶解させた後、溶液の温度を低下させることによって、N−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩の結晶を析出させれば良い。溶液に酒石酸を加えて溶解させる温度は、使用する低極性有機溶媒の種類や量等により適宜決定すれば良く、固体が完溶する温度とすれば良く、操作性や回収率等を考慮すると、45℃以上80℃以下とすることが好ましく、50℃以上75℃以下とすることがより好ましく、60℃以上75℃以下とすることがさらに好ましい。また、酒石酸を加えて溶解させた後に析出させる温度についても、使用する低極性有機溶媒の種類や量などにより適宜決定すれば良く、結晶が十分に析出する温度とすれば良く、操作性や回収率、得られる結晶の純度等を考慮すると、−20℃以上40℃以下とすることが好ましく、−15℃以上30℃以下とすることがより好ましく、−10℃以上25℃以下とすることがさらに好ましい。また、結晶を析出させる時間は、特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0057】
当該析出工程で析出したN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩の結晶は、濾過性が良く、濾過や遠心分離等の方法により容易に固液分離され、得られた固体を自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥等にて乾燥することによって、N−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩の結晶を得ることができる。
【0058】
このようにして、本発明で得られたN−アルキル化インドリン誘導体の粗体及びN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩の結晶は、公知の方法、例えば、水酸化ナトリウム等の強塩基によってフェニルエステル基を加水分解し、続いて酸化剤の存在下で水酸化ナトリウム等の強塩基を作用させてシアノ基をカルバモイル基に変換することにより、シロドシンとすることができる。
【0059】
本発明で得られるN−アルキル化インドリン誘導体及びN−アルキル化インドリン誘導体の酒石酸塩は、不純物であるジアルキル体の含有量が大きく低減されたものであり、非常に高純度である。そのため、これら化合物を用いることによって、過度な精製操作を行うことなく、効率的に、高収率で、医薬品用途とし得る高純度のシロドシンを製造することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
本実施例において、インドリン誘導体、インドリン誘導体酒石酸塩、N−アルキル化インドリン誘導体、N−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩の純度、並びに、ジアルキル体の不純物量の測定は、以下のように高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行なった。なお、本発明において、溶液の体積は25℃におけるものとする。
【0061】
<純度及び不純物量測定方法>
装置:高速液体クロマトグラフ装置(ウォーターズ社製)
検出器:紫外吸光光度検出器(ウォーターズ社製)
測定波長:225nm
カラム:Inertsil ODS−3、内径4.6mm、長さ50mm(GLサイエンス社製)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相A:リン酸2.8gを水1000mLに溶解させた水溶液にトリエチルアミンを加えて液性をpH2.4に調整した緩衝液900mLとアセトニトリル100mLとを混合した溶液緩衝液/アセトニトリル=900/100
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
流速:毎分1.0mL
測定時間:60分
【0062】
上記条件において、インドリン誘導体及びインドリン誘導体の酒石酸塩は約27分、N−アルキル化インドリン誘導体及びN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩は40分、ジアルキル体は約53分にピークが確認される。以下の実施例、比較例において、上記化合物の純度または含有量は、上記条件で測定される全ピークの面積値(溶媒由来のピークを除く)の合計に対する各化合物のピークの面積値の割合である。また、本実施例において、反応転化率は、インドリン誘導体のピーク面積値とN−アルキル化インドリン誘導体のピーク面積値の和に対するN−アルキル化インドリン誘導体のピーク面積値の割合として算出した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1
(中和工程)
攪拌翼、温度計、冷却器を取り付けた100mLの三つ口フラスコに、インドリン誘導体酒石酸塩(純度99.9%)5.0g、酢酸ブチル15mL、及び別に調整した20%炭酸カリウム水溶液14mLを加えて攪拌し、45℃付近に加温して攪拌し、固体が溶解したことを確認して、一次反応液を得た。
(反応工程)
中和工程で得られた一次反応液にN−アルキル化剤として1−(2−メタンスルホニルオキシエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン3.67gを加えて撹拌し、加熱還流下で18時間撹拌した後、30℃付近まで冷却し、二次反応液を得た(反応転化率95.4%)。当該二次反応液から水層を除去し、得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mL、10%食塩水10mLで順次洗浄し、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸ブチル溶液(純度81.0%、ジアルキル体含有量9.4%)を得た。
(析出工程)
反応工程で得られたN−アルキル化インドリン誘導体の酢酸ブチル溶液に酢酸ブチル35mL、及び酒石酸1.3gを加えて攪拌し、80℃付近に加温して攪拌した。酒石酸が溶解したことを確認した後、20℃付近まで冷却し、2時間攪拌した。析出した固体を濾取し、得られた湿体を40℃付近で減圧乾燥して、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩4.6g(純度96.1%、ジアルキル体含有量0.38%)を得た(インドリン誘導体酒石酸塩からの収率64.7%)。
【0065】
実施例2
実施例1の中和工程及び析出工程において、低極性有機溶媒を酢酸ブチルから酢酸イソプロピルに変更した以外は同様の操作を行なった。その結果、反応工程において、反応転化率92.9%で、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸イソプロピル溶液(純度80.6%、ジアルキル体含有量9.2%)が得られ、析出工程において、色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩4.5g(純度93.0%、ジアルキル体含有量0.67%)が得られた(収率63.6%)。
【0066】
実施例3
実施例1の中和工程及び析出工程において、低極性有機溶媒を酢酸ブチルから酢酸プロピルに変更した以外は同様の操作を行なった。その結果、反応工程において、反応転化率93.7%で、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸プロピル溶液(N−アルキル化インドリン誘導体純度80.8%、ジアルキル体含有量8.5%)が得られ、析出工程において、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩4.5g(純度95.1%、ジアルキル体含有量0.44%)が得られた(収率63.9%)。
【0067】
実施例4
実施例1の中和工程及び析出工程において、20%炭酸カリウム水溶液14mLを10%炭酸ナトリウム水溶液20mLに変更した以外は同様の操作を行った。その結果、反応工程において、反応転化率93.8%で、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸ブチル溶液(N−アルキル化インドリン誘導体純度80.9%、ジアルキル体含有量9.0%)が得られ、析出工程において、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩4.6g(純度95.3%、ジアルキル体含有量0.51%)を得た(収率64.7%)。
【0068】
製造例1
攪拌翼、温度計、冷却器を取り付けた100mLの三つ口フラスコに、インドリン誘導体酒石酸塩(純度99.9%)5.0g、酢酸エチル15mL、及び別に調整した20%炭酸カリウム水溶液14mLを加えて攪拌し、45℃付近に加温して攪拌し、固体が溶解したことを確認した後、水層を除去し、溶媒を減圧留去して、淡黄色油状物としてインドリン誘導体の粗体3.5g(純度99.9%)を得た。
【0069】
実施例5
(反応工程)
攪拌翼、温度計、冷却器を取り付けた100mLの三つ口フラスコに、製造例1で得られたインドリン誘導体の粗体3.5gと酢酸ブチル15mLとを加えて攪拌し、溶解させた後、N−アルキル化剤として1−(2−メタンスルホニルオキシエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン3.67g、及び別に調整した20%炭酸カリウム水溶液7mLを加えて攪拌し、加熱還流下で18時間撹拌した後、30℃付近まで冷却し、二次反応液を得た(反応転化率94.2%)。当該二次反応液から水層を除去し、得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mL、10%食塩水10mLで順次洗浄し、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸ブチル溶液(N−アルキル化インドリン誘導体純度80.3%、ジアルキル体含有量8.9%)を得た。
(析出工程)
反応工程で得られたN−アルキル化インドリン誘導体の酢酸ブチル溶液に酢酸ブチル35mL、及び酒石酸1.3gを加えて攪拌し、80℃付近に加温して攪拌した。酒石酸が溶解したことを確認した後、20℃付近まで冷却し、2時間攪拌した。析出した固体を濾取し、得られた湿体を40℃付近で減圧乾燥して、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩4.6g(純度96.3%、ジアルキル体含有量0.41%)を得た(インドリン誘導体酒石酸塩からの収率63.1%)。
【0070】
実施例6
(中和工程、反応工程)
実施例1の中和工程において、低極性有機溶媒を酢酸ブチル15mLからトルエン25mLに変更し、反応工程において、加熱還流下での攪拌時間を32時間に変更した以外は同様の操作を行い、反応転化率90.0%で、N−アルキル化インドリン誘導体のトルエン溶液(N−アルキル化インドリン誘導体純度79.8%、ジアルキル体含有量7.7%)を得た。
【0071】
製造例2
実施例6で得られたN−アルキル化インドリン誘導体のトルエン溶液からトルエンを減圧留去し、残渣として得られたN−アルキル化インドリン誘導体の粗体に酢酸エチル50mL、及び酒石酸1.3gを加えて攪拌し、75℃付近に加温して攪拌した。酒石酸が溶解したことを確認した後、20℃付近まで冷却し、2時間撹拌した。析出した固体を濾取し、得られた湿体を40℃付近で減圧乾燥して、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩4.4g(純度90.9%、ジアルキル体含有量0.34%)を得た(インドリン誘導体酒石酸塩からの収率62.3%)。
【0072】
比較例1(特許文献1に記載の方法)
攪拌翼、温度計、冷却器を取り付けた100mLの三つ口フラスコに、インドリン誘導体酒石酸塩(純度99.9%)5.0g、酢酸エチル40mL、及び別に調整した20%炭酸カリウム水溶液10mLを加えて撹拌し、固体を溶解したことを確認した後、水層を除去し、得られた有機層を10%食塩水10mLで2回洗浄し、溶媒を減圧留去して、残渣としてインドリン誘導体の粗体を得た。得られたインドリン誘導体の粗体をt−ブチルアルコール40mLに溶解させ、1−(2−メタンスルホニルオキシエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン3.67g、及び炭酸カリウム0.27gを加えて攪拌し、加熱還流下で24時間撹拌した後、30℃付近まで冷却した(反応転化率94.7%)。得られた反応液に水15mL、及び酢酸イソプロピル50mLを加えて撹拌した後、水層を除去し、得られた有機層を10%食塩水10mLで2回洗浄し、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸イソプロピル溶液(N−アルキル化インドリン誘導体純度73.5%、ジアルキル体含有量17.9%)を得た。
得られたN−アルキル化インドリン誘導体の溶液に酒石酸1.32gを加えて攪拌し、75℃付近に加温して撹拌した。酒石酸が溶解したことを確認した後、20℃付近まで冷却し、2時間撹拌した。析出した固体を濾取し、得られた湿体を40℃付近で減圧乾燥して、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩3.2g(純度95.2%、ジアルキル体含有量0.74%)を得た(インドリン誘導体酒石酸塩からの収率49.6%)。
【0073】
比較例2
(中和工程、反応工程)
攪拌翼、温度計、冷却器を取り付けた100mLの三つ口フラスコに、インドリン誘導体酒石酸塩(純度99.9%)5.0g、酢酸エチル40mL、及び別に調整した20%炭酸カリウム水溶液10mLを加えて撹拌し、固体が溶解したことを確認した後、水層を除去し、得られた有機層を10%食塩水10mLで2回洗浄し、溶媒を減圧留去して、残渣としてインドリン誘導体の粗体を得た。得られたインドリン誘導体の粗体にt−ブチルアルコール40mL、水10mL、及び炭酸カリウム0.27gとを加えて撹拌し、N−アルキル化剤として1−(2−メタンスルホニルオキシエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン3.67gを加え、加熱還流下で48時間撹拌した後、30℃付近まで冷却し、二次反応液を得た(反応転化率91.0%)。当該二次反応液に酢酸イソプロピル50mLを加えて撹拌した後、水層を除去し、得られた有機層を10%食塩水10mLで2回洗浄し、N−アルキル化インドリン誘導体の酢酸イソプロピル溶液(N−アルキル化インドリン誘導体純度67.9%、ジアルキル体含有量13.0%)を得た。
(析出工程)
反応工程で得られたN−アルキル化インドリン誘導体の酢酸イソプロピル溶液に酒石酸1.3gを加えて攪拌し、75℃付近に加温して撹拌した。酒石酸が溶解したことを確認した後、20℃付近まで冷却し、2時間撹拌した。析出した固体を濾取し、得られた湿体を40℃付近で減圧乾燥して、白色結晶としてN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩3.0g(純度86.2%、ジアルキル体含有量0.69%)を得た(インドリン誘導体酒石酸塩からの収率46.5%)。
【0074】
比較例3
実施例1の中和工程と同様にして得られた一次反応液から水層を除去し、得られた有機層にN−アルキル化剤として1−(2−メタンスルホニルオキシエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン3.67g、及び炭酸カリウム0.27gを加えて攪拌し、加熱還流下で48時間撹拌した後、30℃付近まで冷却し、二次反応液を得た(反応転化率56.1%)。
【0075】
比較例4
実施例1の中和工程と同様にして得られた一次反応液から水層を除去し、得られた有機層にN−アルキル化剤として1−(2−メタンスルホニルオキシエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ベンゼン3.67g、及びトリエチルアミン0.20gを加えて攪拌し、加熱還流下で8時間撹拌したところ、N−アルキル化剤が分解し、反応が進行しなかった。
【0076】
実施例7
実施例1で得られたN−アルキル化インドリン誘導体酒石酸塩3.0gにメタノール20mL及び20%水酸化ナトリウム水溶液10mLを加え、25℃で12時間撹拌混合した。メタノールを減圧下留去し、酢酸エチル20mLを用いて抽出した。有機層を10%食塩水5mLで2回洗浄し、溶媒を減圧下留去した。残渣にジメチルスルホキシド20mLを加えて溶解させ、反応液の温度を25℃以下にして、20%水酸化ナトリウム水溶液1.40mL、及び30%過酸化水素水0.84mLを加え、同温で12時間撹拌混合した。反応液に水5mLを加え、酢酸エチル30mLを用いて抽出した。有機層を10%食塩水10mLで2回洗浄し、有機層を20℃で12時間撹拌混合した。析出した固体を濾取し、酢酸エチル2mLを用いて2回洗浄し、減圧乾燥してシロドシン1.35g(純度99.5%、ジアルキル体未検出)を得た。(総収率43.0%)