(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に記載する本発明における構成要素の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0011】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において固形分濃度とは、組成物の総質量に対する、溶剤を除く他の成分の質量の質量百分率である。固形分とは、25℃における固形分をいう。
本明細書において、重量平均分子量は、GPC測定によるポリスチレン換算値として定義される。本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、HLC−8220(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel Super AWM―H(東ソー(株)製、6.0mmID×15.0cmを用いることによって求めることができる。溶離液は特に述べない限り、10mmol/L リチウムブロミドNMP(N−メチルピロリジノン)溶液を用いて測定したものとする。
【0012】
<保護膜組成物>
本発明の保護膜組成物は、水溶性樹脂と、レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセルと、水系溶媒とを含有する。
本発明の保護膜組成物を用いることで、厚みのある基板に対しても、レーザーダイシングにおいて、良好な切削形状を与えることができる。このような効果が得られるメカニズムとしては、以下によるものと推測される。レーザー光吸収剤を樹脂カプセルで内包することで、詳細な理由は分からないが、レーザー照射によるレーザー光吸収剤の性能劣化を抑制できた。更には、上記樹脂カプセルは、保護膜中で分散して存在すると考えられ、レーザー光の吸収と、レーザー光の散乱の2つの効果が得られ、保護膜中におけるレーザー光の広がりを効率よく抑制できた。ダイシング対象の基板の厚みを大きくするに伴い、保護膜に照射されるレーザー光の照射エネルギーを大きくする必要があるが、本発明によれば、レーザー照射によるレーザー光吸収剤の性能劣化が生じにくく、更には、保護膜中におけるレーザー光の広がりを効率よく抑制できることから、厚みのある基板をレーザーダイシングする際にも、保護膜によりレーザー光による光の広がりを効率よく抑制でき、その結果、良好な切断形状を与えることが可能になったと考えられる。更には、デブリの発生を抑制でき、デバイス表面の保護性能も良好である。
また、本発明の保護膜組成物は、水溶性樹脂を含むので、水洗により、基板表面から簡単に除去することができる。
本発明の保護膜組成物は、レーザーダイシング用の保護膜組成物として好ましく用いることができる。
以下、本発明の保護膜組成の各成分について説明する。
【0013】
<<水溶性樹脂>>
本発明の保護膜組成物は、水溶性樹脂を含む。本発明における水溶性樹脂は、20℃における水に対する溶解量が1質量%以上である樹脂をいう。
本発明で用いる水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性多糖類(水溶性のセルロース(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、プルラン、プルラン誘導体、デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン、キトサン、シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリグリセリン等を例示することができる。ポリアクリル酸の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体などを挙げることができる。その他にも、水溶性樹脂として、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどを使用することができる。これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、これらの中から、主鎖構造が相違する2種以上を選択して使用してもよく、共重合体として使用してもよい。
なかでも、水溶性樹脂は、ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルピロリドンが好ましい。ポリビニルアルコールを用いることにより、基板との密着性が良好で、水洗により除去しやすい保護膜を形成することができる。また、ポリビニルピロリドンを用いることにより、熱安定性が良好で、水洗により除去しやすい保護膜を形成することができる。
水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを用いる場合、ケン化度は、70mol%〜95mol%が好ましく、80mol%〜90mol%がより好ましい。
【0014】
水溶性樹脂の重量平均分子量は、GPC法によりポリスチレン換算値として、好ましくは500〜1,000,000であり、より好ましくは2,000〜800,000、更に好ましくは3,000〜700,000である。
また、水溶性樹脂は、重量平均分子量が異なる2種以上を選択して使用してもよい。
水溶性樹脂の分散度(分子量分布)は、通常1.0〜3.0であり、好ましくは1.0〜2.6の範囲のものが好ましく使用される。
本発明の保護膜組成物において、水溶性樹脂の含有量は、保護膜組成物の全固形分に対して、80〜99.9質量%が好ましい。下限は、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。上限は、99.8質量%以下がより好ましく、99質量%以下が更に好ましい。
本発明の保護膜組成物において、水溶性樹脂の含有量は、保護膜組成物の全質量(溶剤を含む)に対して、1〜60質量%が好ましい。下限は、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。上限は、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0015】
<<レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセル>>
本発明の保護膜組成物は、レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセルを含む。なお、本発明において、「レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセル」とは、樹脂で形成されたカプセル壁の内部に、レーザー光吸収剤が存在している状態を意味する。
樹脂カプセルに内包されるレーザー光吸収剤としては、特に限定はないが、波長250〜700nmの範囲に、極大吸収波長を有する化合物が好ましい。極大吸収波長は、300〜550nmの範囲に有することがより好ましく、300〜400nmの範囲に有することが更に好ましい。
レーザー光吸収剤の例としては、サリチル酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
サリチル酸系化合物としては、例えば、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2',4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられる。
シアノアクリレート系化合物としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3'−ジフェニルアクリレート)等が挙げられる。
トリアジン系化合物としては、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0016】
本発明において、樹脂カプセルは、本発明の保護膜組成物に用いる水系溶媒に対して不溶であることが好ましい。なお、本発明において、水系溶媒に不溶であるとは、例えば、20℃における水系溶媒に対する溶解量が0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることが更に好ましい。
樹脂カプセルのカプセル壁を構成する材料としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルホンアミド樹脂、尿素ホルマリン樹脂、メラミン尿素樹脂、フェノールホルマリン樹脂等が挙げられる。なかでも、水系溶媒への分散性が良好であるという理由からアクリル樹脂が好ましい。
【0017】
樹脂カプセルの製造方法としては、界面重合法による製造方法が挙げられる。界面重合法とは、疎水性モノマーと親水性モノマーが組み合わさりエマルション液滴界面での化学反応を利用する方法である。例えば、レーザー光吸収剤などの芯物質を含む油相成分と、カプセル壁を構成する材料するモノマーと、水とを混合して乳化させ、芯物質が油相として存在する水中油型エマルションを形成し、芯物質を含む油滴の周囲でモノマーを重合させてカプセル壁を形成してカプセル化する方法が挙げられる。
【0018】
樹脂カプセルは、レーザー光吸収剤を5〜50質量%含有することが好ましく、10〜40質量%含有することがより好ましい。
樹脂カプセルの平均一次粒子径は、0.1〜100μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。なお、本発明において、樹脂カプセルの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で撮影し画像解析により粒径を測定した値である。
レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセルは、市販されており、たとえば、TINUVIN 99−DW、400−DW、477−DW、479−DW、5333‐DW(BASF社製)などが挙げられ、これらを好ましく用いることができる。
本発明の保護膜組成物において、レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセルの含有量は、保護膜組成物の全固形分に対して、0.1〜10質量%が好ましい。下限は、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。上限は、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
本発明の保護膜組成物において、レーザー光吸収剤の含有量は、保護膜組成物の全固形分に対して、0.001〜5質量%が好ましい。下限は、0.05質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましい。上限は、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
本発明の保護膜組成物において、レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセルの含有量は、保護膜組成物の全質量(溶剤を含む)に対して、0.05〜5質量%が好ましい。下限は、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。上限は、4質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0019】
<<水系溶媒>>
本発明の保護膜組成物は、水系溶媒を含む。
水系溶媒としては、水、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。
有機溶媒は、水に対して可溶なものが用いられる。なお、本発明において、有機溶媒が「水に対して可溶」とは、20℃の水100gに対して、有機溶剤が0.1g以上溶解することを意味する。
有機溶媒としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、4−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、5−メチル−1−ヘキサノール、1−オクタノール、6−メチル−1−ヘプタノール、1−ノナノール、1−デカノール等の第一級アルコール類;(2)2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、2−ノナノール、2−デカノール等の第二級アルコール類;(3)t−ブタノ−ル、t−アミルアルコール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、2−メチル−2‐ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、3−エチル−2−メチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル‐2−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,3、4−トリメチル−3−ペンタノール、3,4、4−トリメチル−3−ペンタノール等の第三級アルコール類;(4)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;(5)プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類等を挙げることができる。上記の有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。
本発明において、水系溶媒は、水、水と第一級アルコール類との混合溶媒、水と第二級アルコール類との混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
保護膜組成物は、固形分濃度が0.5〜50質量%となる割合で、水系溶媒を含有することが好ましく、1〜40質量%がより好ましく、2〜30質量%が更に好ましい。固形分濃度を上記範囲とすることでより均一に塗布することができる。
【0020】
本発明の保護膜組成物は、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤を含むことにより、塗布性が向上する。
界面活性剤としては、表面張力を低下させるものであれば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤など、どのようなものでもかまわない。
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンステアレート等のポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンアルキルエステル類、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレート等のモノグリセリドアルキルエステル類等、フッ素あるいはシリコンを含有するオリゴマー等、アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物等が挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ペンチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ヘキシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、オクチルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、ドデシルスルホン酸ソーダ等のアルキルスルホン酸塩類、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸エステル塩類等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン等のアルキルベタイン類、アミノ酸類等が挙げられる。
保護膜組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、保護膜組成物の全固形分に対して、0.02〜5質量%が好ましい。下限は、0.03質量%以上がより好ましく、0.04質量%以上が更に好ましい。上限は、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
また、界面活性剤の含有量は、保護膜組成物の全質量(溶剤を含む)に対して、0.002〜3質量%が好ましい。下限は、0.003質量%以上がより好ましく、0.004質量%以上が更に好ましい。上限は、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0021】
<<可塑剤>>
本発明の保護膜組成物は、さらに可塑剤を含有することができる。可塑剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エタノールアミン、グリセリン、ソルビトール、グリセロールエステル、三酢酸グリセロール、脂肪酸トリグリセライド等を例示することができ、一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。
保護膜組成物が可塑剤を含む場合、可塑剤の含有量は、保護膜組成物の全質量(溶剤を含む)に対して、1〜50質量%が好ましい。下限は、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。上限は、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。
【0022】
<保護膜組成物の調製>
保護膜組成物は、上述の各成分を混合して調製することができる。各成分の混合は、通常、0℃〜100℃の範囲で行われる。また、各成分を混合した後、例えば、フィルタでろ過することが好ましい。ろ過は、多段階で行ってもよいし、多数回繰り返してもよい。また、ろ過した液を再濾過することもできる。
フィルタとしては、従来からろ過用途等に用いられているものであれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂(高密度、超高分子量を含む)等によるフィルタが挙げられる。これら素材の中でもポリプロピレン(高密度ポリプロピレンを含む)およびナイロンが好ましい。
フィルタの孔径は、例えば、0.5〜100μm程度が適している。この範囲とすることにより、ろ過詰まりを抑えつつ、組成物に含まれる不純物や凝集物など、微細な異物を確実に除去することが可能となる。
フィルタを使用する際、異なるフィルタを組み合わせても良い。その際、第1のフィルタでのフィルタリングは、1回のみでもよいし、2回以上行ってもよい。異なるフィルタを組み合わせて2回以上フィルタリングを行う場合は1回目のフィルタリングの孔径より2回目以降の孔径が同じ、もしくは小さい方が好ましい。また、上述した範囲内で異なる孔径の第1のフィルタを組み合わせてもよい。ここでの孔径は、フィルタメーカーの公称値を参照することができる。市販のフィルタとしては、例えば、日本ポール株式会社、アドバンテック東洋株式会社、日本インテグリス株式会社(旧日本マイクロリス株式会社)又は株式会社キッツマイクロフィルタ等が提供する各種フィルタの中から選択することができる。
【0023】
<半導体装置の製造方法、レーザーダイシング方法>
次に、本発明の半導体装置の製造方法およびレーザーダイシング方法について説明する。
本発明の半導体装置の製造方法およびレーザーダイシング方法は、本発明の保護膜組成物を基板上に適用して保護層を形成する工程(工程1)と、
保護層を介して基板にレーザー光を照射して、レーザーダイシングを行う工程(工程2)と、
レーザーダイシング後の基板を、水洗して、保護層を基板から除去する工程(工程3)とを含む。
本発明のレーザーダイシング方法について、半導体装置の製造に適用した例を挙げて、以下説明するが、本発明のレーザーダイシング方法は、半導体装置の製造以外にも、基板をダイシングする用途全般に適用することができる。
以下、本発明の半導体装置の製造方法およびレーザーダイシング方法の各工程について説明する。
【0024】
<<工程1>>
工程1では、本発明の保護膜組成物を基板上に適用して保護層を形成する。
基板は、例えば、半導体装置において公知のものを制限なく使用することができ、例えば、シリコン基板、化合物半導体基板などが挙げられる。化合物半導体基板の具体例としては、SiC基板、SiGe基板、ZnS基板、ZnSe基板、GaAs基板、InP基板、GaN基板などが挙げられる。
基板の表面には、機械構造や回路が形成されていてもよい。機械構造や回路が形成された基板としては、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、パワーデバイス、イメージセンサ、マイクロセンサー、LED、光学デバイス、インターポーザー、埋め込み型デバイス、マイクロデバイスなどが挙げられる。
基板の厚みは、10μm以上が好ましく、20μm以上が更に好ましく、50μm以上が一層好ましい。上限は、例えば、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下が一層好ましい。本発明は、Low−k材等を含むもろい材質の基板に対しても、レーザーダイシングにおいて、良好な切削形状を与えることができる。
【0025】
保護膜組成物の適用方法としては、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、ラングミュア−ブロジェット(Langmuir−Blodgett)(LB)法などを挙げることができる。本発明においては、キャスト法、スピンコート法、およびインクジェット法を用いることがさらに好ましい。
【0026】
保護膜の厚みは、特に限定はない。目的及び用途に応じて適宜調整できる。例えば、0.5〜20μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
【0027】
<<工程2>>
次に、保護層を介して基板にレーザー光を照射し、基板のダイシング加工すべきラインに沿ってレーザー光を走査してレーザーダイシングを行う。
上記保護膜は、レーザー光吸収剤を内包した樹脂カプセルを含むため、高いレーザー光吸収能を有しており、レーザー光が保護膜を通して基板に照射されると、膜内でのレーザー光の広がりを抑えつつ、レーザー光の照射部位で、基板の熱分解と同時、あるいは、基板の熱分解に先立って、保護膜の熱分解が生じて破断が生じる。
また、レーザー光が照射されていない部分においては、基板は保護膜で覆われているため、基材の熱分解物などによるデブリから、基材表面を保護でき、デブリの付着などを防止できる。
そして、この保護膜は、レーザー照射によるレーザー光吸収剤の性能劣化が生じにくく、更には、保護膜中におけるレーザー光の広がりを効率よく抑制できることから、厚みのある基板をレーザーダイシングする際にも、保護膜によりレーザー光による光の広がりを効率よく抑制でき、その結果、良好な切断形状を与えることができる。
【0028】
レーザーダイシングに用いるレーザー光源としては、特に限定はない。例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、YLF(リチウム・イットリウム・フロライド)レーザー、YVO4(イットリウム・バナデート)レーザ、エキシマレーザ、半導体レーザ等が挙げられる。
レーザー光の波長は、200〜600nmが好ましく、300〜500nmがより好ましい。レーザー光のスポット径は、特に限定はないが、例えば、0.1〜50μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。
なお、レーザー光のスポット径(D)は、パルスレーザー光が集光器の対物集光を通して照射される場合は、下記式(1)により算出できる。
D=4×λ×f/(π×W) ・・・(1)
式中、Dは、レーザー光のスポット径(μm)
λは、パルスレーザー光線の波長(μm)、
Wは、対物集光レンズに入射されるパルスレーザー光の直径(mm)、
fは、対物集光レンズの焦点距離(mm)
【0029】
<<工程3>>
次に、レーザーダイシング後の基板を、水洗して、保護層を基板から除去する。
保護膜は、水溶性樹脂で構成されているため、水洗により簡単に基板上から除去できる。また、保護膜の除去と共に、保護膜上に付着したデブリなども洗い流される。
保護膜の水洗条件は、特に限定はない。保護膜の厚みなどに応じて適宜調整できる。
このようにして、個片化された半導体チップなどの半導体装置が得られる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」および「部」は質量基準である。
【0031】
<保護膜組成物の調製>
下記表に示す各成分を混合してた後、10μmのポアサイズを有するポリテトラフルオロエチレン製フィルタを用いてろ過して、保護膜組成物を調製した。
【表1】
【0032】
表1中の略号は以下の通りである。
A−1:ポリビニルアルコール(PXP−05、日本酢ビ・ポバール株(株)製)
A−2:ポリビニルピロリドン(ピッツコール K−30、第一工業製薬(株)製)
B−1:TINUVIN 99−DW(BASF社製、レーザー光吸収剤を内包する樹脂カプセル(アクリルポリマービーズにレーザー光吸収剤を内包させてカプセル化)、レーザー光吸収剤の含有量= 24 質量%)
B−2:TINUVIN 447−DW(BASF社製、レーザー光吸収剤を内包する樹脂カプセル(アクリルポリマービーズにレーザー光吸収剤を内包させてカプセル化)、レーザー光吸収剤の含有量= 20 質量%)
B−3:フェルラ酸(水溶性レーザー吸収剤)
B−4:TINUVIN 1130(BASF社製、粉末状のレーザー光吸収剤)
【0033】
<評価>
厚さ150μmのシリコン酸化膜を積層したシリコンウエハ(300mmφ)に、上記保護膜組成物を、スピンコートし、100℃で1分乾燥させて保護膜を形成した。保護膜の膜厚は3μmであった。
次に、保護膜が形成されたシリコンウエハを、レーザー加工機(DISCO社製)レーザーダイシングを行い、完全に切削しないハーフダイシングを実施した。
レーザーダイシング後の切削形状を、上面から光学顕微鏡で観察して、以下の基準で評価した。
次に、保護膜を純水にて洗い流した。
−切削形状−
A:切削面がスムーズで、ラフネスが少ない。
B:切削面にラフネスがあるが、実用上問題ない。
C:切削面にラフネスがあり、実用上問題がある。
【0034】
【表2】
【0035】
上記結果より、実施例は、レーザーダイシングにおいて、良好な切削形状を与えることができた。更には、レーザースポット径とほぼ同等の切削幅で切削できた。また、保護膜を除去後のシリコンウエハの表面には、デブリの付着がなかった。
実施例1〜4において、水系溶媒を水とメタノールとの混合溶媒(混合比率50:50質量%)に替えても、良好な結果を得ることができた。
一方、比較例は、レーザーダイシングにおいて、良好な切削形状を与えることができなかった。