特許第6242800号(P6242800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6242800-焼結型導電性ペースト 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242800
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】焼結型導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20171127BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20171127BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20171127BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171127BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20171127BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20171127BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20171127BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B5/14 Z
   C09D201/00
   C09D7/12
   C09D5/24
   H01B1/00 L
   H05K1/09 A
   H05K3/12 610G
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-542187(P2014-542187)
(86)(22)【出願日】2013年10月18日
(86)【国際出願番号】JP2013078260
(87)【国際公開番号】WO2014061765
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-231664(P2012-231664)
(32)【優先日】2012年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125106
【弁理士】
【氏名又は名称】石岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉井 喜昭
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−149356(JP,A)
【文献】 特開2007−123301(JP,A)
【文献】 特開2006−313744(JP,A)
【文献】 特開2006−196421(JP,A)
【文献】 特開昭63−119105(JP,A)
【文献】 特開平04−230002(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0277831(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0209751(US,A1)
【文献】 特表2004−525490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00−1/22
H01B 5/14
C09D 5/24,7/12,201/00
H05K 1/09
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(D)成分を含有し、
(A)銀粉
(B)ガラスフリット
(C)有機バインダ
(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末
前記(A)銀粉100質量部に対して、前記(D)粉末を0.1〜5.0質量部含有し、
前記(A)銀粉100質量部に対して、マンガンを0.0001〜0.9質量部含有する、焼結型導電性ペースト。
【請求項2】
前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む金属の混合粉である請求項1記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項3】
前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む合金粉である請求項1記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項4】
前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む化合物粉である請求項1記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項5】
前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンのうちいずれか1つ以上の酸化物もしくは水酸化物を含む請求項1または請求項4に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項6】
銅の含有量を1としたときの錫の含有量が、質量比で、0.01〜0.3である請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項7】
銅の含有量を1としたときのマンガンの含有量が、質量比で、0.01〜2.5である請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項8】
前記(A)銀粉の平均粒径が0.1μm〜100μmである、請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項9】
さらに、(E)酸化コバルトを含有する請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項10】
さらに、(F)酸化ビスマスを含有する請求項1から請求項9のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項11】
粘度が50〜700Pa・sである請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペースト。
【請求項12】
請求項1から請求項11のうちいずれか1項に記載の焼結型導電性ペーストを基板上に塗布した後、その基板を500〜900℃で焼成して得られるプリント配線板。
【請求項13】
請求項12に記載のプリント配線板上に電子部品をはんだ付けして得られる電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント配線板の導体パターンの形成に用いることのできる焼結型導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
有機バインダと溶媒からなるビヒクル中に、金属粒子を分散させた導電性ペーストが知られている。導電性ペーストは、プリント配線板の導体パターンの形成や、電子部品の電極の形成等に用いられている。この種の導電性ペーストは、樹脂硬化型と、焼成型とに大別できる。樹脂硬化型の導電性ペーストは、樹脂の硬化によって金属粒子同士が接触して導電性が確保される導電性ペーストである。焼成型の導電性ペーストは、焼成によって金属粒子同士が焼結して導電性が確保される導電性ペーストである。
【0003】
導電性ペーストに含まれる金属粒子としては、例えば銅粉や銀粉が用いられる。銅粉は導電性に優れかつ銀粉よりも安価であるという利点を有する。しかし、銅粉は大気雰囲気中で酸化しやすいため、例えば基板上に導体パターンを形成した後、導体パターンの表面を保護材によって被覆しなければならないという欠点がある。一方、銀粉は大気中で安定であり、大気雰囲気での焼成によって導体パターンを形成できるという利点があるが、エレクトロマイグレーションが発生しやすいという欠点がある。
【0004】
エレクトロマイグレーションを防止する技術として、特許文献1には、銀粉100質量部に対してマンガン及び/又はマンガン合金の粉末1〜100質量部を含むことを特徴とする銀粉を主導電材料とする導電性塗料が開示されている。特許文献2には、バインダ樹脂、Ag粉末、及びTi、Ni、In、Sn、Sbの群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物を含有することを特徴とする導電性ペーストが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1、2に開示された導電性ペーストは、基板への密着性やはんだ耐熱性が不十分であり、基板上への導体パターンの形成に用いるには実用性に問題があった。
【0006】
そこで、導電性ペーストのはんだ耐熱性を向上させるための技術として、特許文献3には、銀の焼結を抑制する第1金属成分と、銀の焼結を促進する第2金属成分とを含む材料によって銀粉が被覆されたことを特徴とする導電性ペーストが開示されている。
【0007】
しかし、特許文献3に開示された導電性ペーストは、はんだ耐熱性はある程度向上するものの、銀の焼結性が抑制されるために、導電性ペーストを焼成して得られる導体パターンの導電性が低下するという問題があった。また、銀粉の表面に金属材料を被覆する工程が必要となるために、製造工程が複雑になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−149356号公報
【特許文献2】特開2003−115216号公報
【特許文献3】特開2006−196421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性に優れる焼結型導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性を十分に満たすことのできる焼結型導電性ペーストについて鋭意研究を行った。その結果、銀粉、ガラスフリット、及び有機バインダに加えて、銅、錫、及びマンガンを含む粉末を添加することが有効であることを発見し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、以下の通りである。
(1)以下の(A)〜(D)成分を含有することを特徴とする導電性ペースト。
(A)銀粉
(B)ガラスフリット
(C)有機バインダ
(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末
【0012】
(2)前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む金属の混合粉である上記(1)記載の導電性ペースト。
【0013】
(3)前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む合金粉である上記(1)記載の導電性ペースト。
【0014】
(4)前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む化合物粉である上記(1)記載の導電性ペースト。
【0015】
(5)前記(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンのうちいずれか1つ以上の酸化物もしくは水酸化物を含む上記(1)から(4)のうちずれかに記載の導電性ペースト。
【0016】
(6)前記(A)銀粉100質量部に対して、前記(D)粉末を0.1〜5.0質量部含有する上記(1)から(5)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0017】
(7)銅の含有量を1としたときの錫の含有量が、質量比で、0.01〜0.3である上記(1)から(6)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0018】
(8)銅の含有量を1としたときのマンガンの含有量が、質量比で、0.01〜2.5である上記(1)から(7)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0019】
(9)前記(A)銀粉の平均粒径が0.1μm〜100μmである、上記(1)から(8)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0020】
(10)さらに、(E)酸化コバルトを含有する上記(1)から(9)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0021】
(11)さらに、(F)酸化ビスマスを含有する上記(1)から(10)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0022】
(12)粘度が50〜700Pa・sである上記(1)から(11)のうちいずれかに記載の導電性ペースト。
【0023】
(13)上記(1)から(12)のうちいずれかに記載の導電性ペーストを基板上に塗布した後、その基板を500〜900℃で焼成して得られるプリント配線板。
【0024】
(14)上記(13)に記載のプリント配線板上に電子部品をはんだ付けして得られる電子装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性に優れる焼結型導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】導電性ペーストの耐エレクトロマイグレーションの評価方法を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る導電性ペーストは、
(A)銀粉と、
(B)ガラスフリットと、
(C)有機バインダと、
(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末と、を含有することを特徴とする。
【0028】
(A)銀粉
本発明の導電性ペーストは、導電性粒子として(A)銀粉を含む。本発明における銀粉としては、銀または銀を含む合金からなる粉末を用いることができる。銀粉粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状、粒状、フレーク状、あるいは鱗片状の銀粉粒子を用いることが可能である。
【0029】
本発明において用いる銀粉の平均粒径は、0.1μm〜100μmが好ましく、より好ましくは0.1μm〜20μmであり、最も好ましくは0.1μm〜10μmである。ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により得られる体積基準メジアン径(d50)を意味する。
【0030】
導電性ペーストに高い導電性を発現させるためには、導電性ペーストに含まれる銀粉の粒径を大きくするのが好ましい。しかし、銀粉の粒径が大きすぎる場合、導電性ペーストの基板への塗布性や作業性が損なわれることになる。したがって、導電性ペーストの基板への塗布性や作業性が損なわれない限りにおいて、粒径の大きい銀粉を用いることが好ましい。これらのことを勘案すると、本発明において用いる銀粉の平均粒径は、上記の範囲であることが好ましい。
【0031】
銀粉の製造方法は、特に限定されず、例えば、還元法、粉砕法、電解法、アトマイズ法、熱処理法、あるいはそれらの組合せによって製造することができる。フレーク状の銀粉は、例えば、球状または粒状の銀粒子をボールミル等によって押し潰すことによって製造することができる。
【0032】
(B)ガラスフリット
本発明の導電性ペーストは、(B)ガラスフリットを含有する。導電性ペーストがガラスフリットを含有することによって、導電性ペーストを焼成して得られる導体パターンの基板への密着性が向上する。本発明に用いるガラスフリットは、特に限定されず、好ましくは軟化点300℃以上、より好ましくは軟化点400〜1000℃、さらに好ましくは軟化点400〜700℃のガラスフリットを用いることができる。ガラスフリットの軟化点は、熱重量測定装置(例えば、BRUKER AXS社製、TG−DTA2000SA)を用いて測定することができる。
【0033】
ガラスフリットの例として、具体的には、ホウケイ酸ビスマス系、ホウケイ酸アルカリ金属系、ホウケイ酸アルカリ土類金属系、ホウケイ酸亜鉛系、ホウケイ酸鉛系、ホウ酸鉛系、ケイ酸鉛系、ホウ酸ビスマス系、ホウ酸亜鉛系等のガラスフリットを挙げることができる。ガラスフリットは、環境への配慮の点から鉛フリーであることが好ましく、その例として、ホウケイ酸ビスマス系、ホウケイ酸アルカリ金属系等のガラスフリットを挙げることができる。
【0034】
ガラスフリットの平均粒径は、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.2〜10μm、最も好ましくは0.5〜5μmである。ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により得られる体積基準メジアン径(d50)のことを意味する。
【0035】
本発明の導電性ペーストにおいて、(B)ガラスフリットの含有量は、(A)銀粉100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部である。ガラスフリットの含有量がこの範囲よりも少ない場合、導電性ペーストを焼成して得られる導体パターンの基板への密着性が低下する。反対に、ガラスフリットの含有量がこの範囲よりも多い場合、導電性ペーストを焼成して得られる導体パターンの導電性が低下する。
【0036】
(C)有機バインダ
本発明の導電性ペーストは、(C)有機バインダを含有する。本発明における有機バインダは、導電性ペースト中において銀粉同士をつなぎあわせるものであり、かつ、導電性ペーストの焼成時に焼失するものである。有機バインダとしては、特に限定するものではないが、例えば、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0037】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等を用いることができる。
これらの樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0038】
本発明の導電性ペーストにおいて、(C)有機バインダの含有量は、(A)銀粉100質量部に対して好ましくは0.5〜30質量部であり、より好ましくは、1.0〜10質量部である。
導電性ペースト中の(C)有機バインダの含有量が上記の範囲内の場合、導電性ペーストの基板への塗布性が向上し、微細なパターンを高精度に形成することができる。一方、(C)有機バインダの含有量が上記の範囲を超えると、導電性ペースト中に含まれる有機バインダの量が多すぎるため、焼成後に得られる導体パターンの緻密性が低下する場合がある。
【0039】
(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末
本発明の導電性ペーストは、(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末を含有する。この(D)粉末は、銅、錫、及びマンガンを含む金属の混合粉であってもよいし、銅、錫、及びマンガンを含む合金粉であってもよいし、銅、錫、及びマンガンを含む化合物粉であってもよい。
【0040】
銅、錫、及びマンガンを含む金属の混合粉とは、銅または銅合金、錫または錫合金、及び、マンガン又はマンガン合金の混合粉のことである。
銅、錫、及びマンガンを含む合金粉とは、銅、錫、及びマンガンを含む合金の粉末のことである。
銅、錫、及びマンガンを含む化合物粉とは、銅の化合物、錫の化合物、及びマンガンの化合物を含む粉末のことである。
【0041】
(D)粉末に含まれる銅、錫、及びマンガンは、それぞれ、単体金属であってもよいし、酸化物であってもよい。例えば、銅は、単体金属(Cu)でもよいし、酸化物(例えばCuO)でもよい。錫は、単体金属(Sn)でもよいし、酸化物(例えばSnO)でもよい。マンガンは、単体金属(Mn)でもよいし、酸化物(例えばMnO)でもよい。
【0042】
また、(D)粉末に含まれる銅、錫、及びマンガンは、導電性ペーストの焼成時に酸化物に変化する化合物(例えば水酸化物)であってもよい。例えば、銅は、Cu(OH)でもよい。錫は、Sn(OH)でもよい。マンガンは、Mn(OH)でもよい。
【0043】
マンガンの単体金属は非常に硬度が高いため、均一の粒径の金属粉を得ることが困難である。したがって、マンガンは、酸化物(例えばMnO)または合金の形態であることが好ましい。
【0044】
本発明によれば、マンガンおよび錫は極めて少ない添加量でも効果を生ずる。このため、導電性ペースト中に(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末を均一に分散させるためには、マンガン及び錫の合金粉を用いることが好ましい。
【0045】
導電性ペーストが(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末を含有することによって、導電性ペーストの耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性のすべてが向上する。このような画期的な効果は、本発明者らによって初めて発見されたものである。このような効果が得られる理由は明らかではないが、このような効果が得られるという事実は本発明者らによって実験的に確かめられている。
【0046】
本発明の導電性ペーストにおいて、(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末の含有量は、(A)銀粉100質量部に対して好ましくは0.1〜5.0質量部であり、より好ましくは0.2〜3.0質量部であり、さらに好ましくは0.3〜1.0質量部である。
【0047】
導電性ペースト中の(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末の含有量が上記の範囲内の場合、導電性ペーストの耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が顕著に向上する。
【0048】
本発明の導電性ペーストにおいて、銅(Cu)の元素換算含有量は、(A)銀粉100質量部に対して好ましくは0.005〜2.85質量部、より好ましくは0.015〜2質量部である。
【0049】
本発明の導電性ペーストにおいて、錫(Sn)の元素換算含有量は、(A)銀粉100質量部に対して好ましくは0.0025〜2.85質量部、より好ましくは0.015〜1質量部であり、さらに好ましくは0.02〜0.075質量部である。
【0050】
本発明の導電性ペーストにおいて、マンガン(Mn)の元素換算含有量は、(A)銀粉100質量部に対して好ましくは0.0001〜0.9質量部、より好ましくは0.0003〜0.7質量部である。
【0051】
本発明の導電性ペーストにおいて、銅の含有量を1としたときの錫の元素換算の含有量は、質量比で、0.01〜0.3であることが好ましい。
【0052】
本発明の導電性ペーストにおいて、銅の含有量を1としたときのマンガンの元素換算の含有量は、質量比で、0.01〜2.5であることが好ましい。
【0053】
銅、錫、及びマンガンの含有量が上記の範囲に調整されることによって、導電性ペーストの耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性がさらに向上する。また、導電性ペーストが、銅、錫、及びマンガンを含有する場合、これらのうち2成分のみを含有する場合よりも、導電性ペーストのはんだ濡れ性が向上する。
【0054】
本発明の導電性ペーストは、粘度調整等のために、溶媒を含有してもよい。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、酢酸エチレン等の有機酸類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のN−アルキルピロリドン類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、テルピネオール(TEL)、ブチルカルビトール(BC)等の環状カーボネート類、及び水等が挙げられる。
溶媒の含有量は、特に限定されないが、(A)銀粉100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは5〜60質量部である。
【0055】
本発明の導電性ペーストの粘度は、好ましくは50〜700Pa・s、より好ましくは100〜300Pa・sである。導電性ペーストの粘度がこの範囲に調整されることによって、導電性ペーストの基板への塗布性や取り扱い性が良好になり、導電性ペーストを均一の厚みで基板へ塗布することが可能になる。
【0056】
本発明の導電性ペーストは、その他の添加剤、例えば、分散剤、レオロジー調整剤、顔料などを含有してもよい。
【0057】
本発明の導電性ペーストは、さらに、無機充填剤(例えば、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルクなど)、カップリング剤(例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートなどのチタネートカップリング剤など)、シランモノマー(例えば、トリス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)イソシアヌレート)、可塑剤(例えば、カルボキシル基末端ポリブタジエン‐アクリロニトリルなどのコポリマー、シリコーンゴム、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、アクリル樹脂パウダーなどの樹脂パウダー)、難燃剤、酸化防止剤、消泡剤などを含有してもよい。
【0058】
本発明の導電性ペーストは、金属酸化物を含有してもよい。金属酸化物としては、酸化銅、酸化ビスマス、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化タングステン等が挙げられる。これらのうち、酸化コバルトははんだ耐熱性を向上させる。酸化ビスマスは、銀粉の焼結を促進するとともに、はんだ濡れ性を向上させる。
【0059】
本発明の導電性ペーストは、上記の各成分を、例えば、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等を用いて混合することで製造することができる。
【0060】
次に、本発明の導電性ペーストを用いて基板上に導体パターンを形成する方法について説明する。
まず、本発明の導電性ペーストを基板上に塗布する。塗布方法は任意であり、例えば、ディスペンス、ジェットディスペンス、孔版印刷、スクリーン印刷、ピン転写、スタンピングなどの公知の方法を用いて塗布することができる。
【0061】
基板上に導電性ペーストを塗布した後、基板を電気炉等に投入する。そして、基板上に塗布された導電性ペーストを、500〜1000℃、より好ましくは600〜1000℃、さらに好ましくは700〜900℃で焼成する。これにより、導電性ペーストに含まれる銀粉同士が焼結するとともに、導電性ペーストに含まれる有機バインダ等の成分が焼失する。
【0062】
このようにして得られた導体パターンは、導電性が非常に高い。また、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が優れている。
【0063】
本発明の導電性ペーストは、電子部品の回路の形成や電極の形成、あるいは電子部品の基板への接合等に用いることが可能である。例えば、プリント配線板の導体回路の形成や、積層セラミックコンデンサの外部電極の形成等に用いることができる。また、本発明の導電性ペーストは、LEDリフレクタ用のアルミナ基板への導体パターン(回路パターン)の形成に用いることができる。これらの用途においては、導電性ペーストを用いて形成された導体パターンに部品やリード線等がはんだ付けされることから、本発明の導電性ペーストの良好なはんだ耐熱性を活かすことが可能である。したがって、本発明の導電性ペーストを用いれば、電気的特性に優れるプリント配線板及び電子製品を製造することが可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0065】
[導電性ペーストの原料]
以下の(A)〜(F)成分を、表1及び表2に記載した実施例1〜12、及び、表3に記載した比較例1〜7の割合で混合して導電性ペーストを調製した。なお、表1〜3に示す各成分の割合は、全て質量部で示している。
(A)銀粉
平均粒径5μmの球状銀粉。
【0066】
(B)ガラスフリット
平均粒径5.2μm、軟化点440℃のBi・B系ガラスフリット。
【0067】
(C)有機バインダ
有機バインダとして、エチルセルロース樹脂をブチルカルビトールに溶解させたものを使用した。エチルセルロース樹脂とブチルカルビトールの混合比は、30:70(質量比)である。
【0068】
(D−1)銅、錫、及びマンガンを含む合金粉
Cu:Mn:Sn = 90.5:7.0:2.5の組成で、ガスアトマイズ法によって製造された平均粒径3μmの球状合金粉。
【0069】
(D−2)銅、錫、及びマンガンを含む金属の混合粉
銅:平均粒径3μmの球状銅粉
錫:平均粒径3μmの球状錫粉
マンガン:平均粒径3μmの球状マンガン粉
【0070】
(D−3)銅、錫、及びマンガンの酸化物を含む混合粉
酸化銅(II)と、酸化錫(IV)と、酸化マンガン(IV)とを混合した粉末。
【0071】
(E)酸化コバルト
平均粒径3μmのCoO(酸化コバルト(II))粉末
【0072】
(F)酸化ビスマス
平均粒径3μmのBi(酸化ビスマス(III))粉末
【0073】
[導体パターンの作製]
実施例1〜12及び比較例1〜7の導電性ペーストを、孔版印刷法によってアルミナ基板に塗布した。図1(a)は、アルミナ基板に塗布した導電性ペーストの形状(パターン)を示している。
つぎに、図1(b)に示すように、アルミナ基板を電気炉に投入して850℃で60分間焼成した。これにより、アルミナ基板上に、先端部が約1.5mm離れた2つの導体パターンを作製した。
【0074】
[耐エレクトロマイグレーション性の測定]
実施例1〜12及び比較例1〜7の導電性ペーストを用いて作製した導体パターンの耐エレクトロマイグレーション性を、以下の手順で測定した。
まず、図1(c)に示すように、2つの導体パターンの先端部が覆われるようにして超純水を滴下した。
つぎに、図1(d)に示すように、2つの導体パターンの間に電圧(40V、0.1A)を印加した。
そして、2つの導体パターン間に流れる電流値が0からショート(短絡)に達するまでの時間を測定し、このような測定を5回繰り返してその平均値を算出した。
ショートに達するまでの時間が長いほど、導体パターンの耐エレクトロマイグレーション性が優れていることを意味する。ショートに達するまでの時間が30秒以上の場合、耐エレクトロマイグレーション性が優れていると評価した。
【0075】
[はんだ耐熱性の測定]
実施例1〜12及び比較例1〜7の導電性ペーストを用いて作製した導体パターンのはんだ耐熱性を、JIS C 0054「表面実装部品(SMD)のはんだ付け性、電極の耐はんだ食われ性及びはんだ耐熱性試験方法」に規定された方法に従って測定した。
具体的には、導体パターンが形成された基板を260℃のはんだ槽に浸漬し、はんだ槽から基板を引き上げた後、基板上に残存する導体パターンを目視で観察した。そして、導体パターンの面積の5%が失われるまでの浸漬時間を測定した。浸漬時間が20秒以上の場合、導体パターンのはんだ耐熱性が優れていると評価した。
【0076】
[基板密着性の測定]
実施例1〜12及び比較例1〜7の導電性ペーストを用いて作製した導体パターンの基板への密着性を、以下の手順で測定した。
まず、導電性ペーストをアルミナ基板上に孔版印刷法を用いて2mmφの大きさで塗布した。
基板上に塗布した導電性ペースト上に、32mm×16mmの試験片を載置した後、この基板を電気炉に投入して850℃で60分間加熱した。
卓上万能試験機(アイコーエンジニアリング(株)社製1605HTP)を用いて基板に対する試験片の剪断強度(N/mm)を測定した。
測定された剪断強度が70N/mm以上の場合、導体パターンの基板への密着性が優れていると評価した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表1、2に示す結果を見れば分かる通り、実施例1〜12の導電性ペーストを焼成して得られる導体パターンは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が優れていた。これに対し、表3に示す結果を見れば分かる通り、比較例1〜7の導電性ペーストを焼成して得られる導体パターンは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が劣っていた。
【0081】
実施例1と実施例2の結果を比較すれば分かる通り、酸化コバルトと酸化ビスマスを含有する導電性ペーストは、酸化コバルトと酸化ビスマスを含有しない導電性ペーストよりも、耐マイグレーション性及びはんだ耐熱性が優れていた。
【0082】
実施例1〜12の結果を見れば分かる通り、(D)銅、錫、及びマンガンを含む粉末が、(A)銀粉100質量部に対して0.1〜3.0質量部含有されている導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が優れていた。
【0083】
実施例1〜12の結果を見れば分かる通り、銅(Cu)が(A)銀粉100質量部に対して0.0905〜2.715質量部含有されている導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が優れていた。
【0084】
実施例1〜12の結果を見れば分かる通り、錫(Sn)が(A)銀粉100質量部に対して0.0025〜0.075質量部含有されている導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が優れていた。
【0085】
実施例1〜12の結果を見れば分かる通り、マンガン(Mn)が(A)銀粉100質量部に対して0.0033〜0.21質量部含有されている導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が優れていた。
【0086】
比較例1の結果を見れば分かる通り、銅、錫、及びマンガンを含有しない導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が劣る結果となった。
【0087】
比較例2の結果を見れば分かる通り、銅のみを含有する導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が劣る結果となった。
【0088】
比較例3の結果を見れば分かる通り、マンガンのみを含有する導電性ペーストは、はんだ耐熱性及び基板への密着性が劣る結果となった。
【0089】
比較例4の結果を見れば分かる通り、錫のみを含有する導電性ペーストは、耐エレクトロマイグレーション性、はんだ耐熱性、及び基板への密着性が劣る結果となった。
【0090】
比較例5の結果を見れば分かる通り、銅及びマンガンのみを含有する導電性ペーストは、はんだ耐熱性及び基板への密着性が劣る結果となった。
【0091】
比較例6の結果を見れば分かる通り、マンガン及び錫のみを含有する導電性ペーストは、はんだ耐熱性及び基板への密着性が劣る結果となった。
【0092】
比較例7の結果を見れば分かる通り、銅及び錫のみを含有する導電性ペーストは、はんだ耐熱性及び基板への密着性が劣る結果となった。
図1