特許第6242816号(P6242816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242816
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】リグノセルロース材料の蒸解方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   D21C3/02
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-556736(P2014-556736)
(86)(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公表番号】特表2015-510050(P2015-510050A)
(43)【公表日】2015年4月2日
(86)【国際出願番号】US2013025379
(87)【国際公開番号】WO2013119977
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2016年2月5日
(31)【優先権主張番号】61/596,904
(32)【優先日】2012年2月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド ドゥローチャー
(72)【発明者】
【氏名】トマス シー. フリエル
(72)【発明者】
【氏名】ケネス エル. ザック
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/112703(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/005721(WO,A1)
【文献】 特開2001−064888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース材料の蒸解方法であって、以下の工程:
A.リグノセルロース材料を提供する工程;
B.少なくとも10のpHを有し且つ
(i)水、
(ii)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び
(iii)組成物の全質量を基準として1質量パーセントまでの以下の構造;
【化1】
(式中、Aは少なくとも1つのアルキレンオキシ基であり、それぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、nは0又は1であり、Bは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基であり、XはH又はB−O−(A)mであり、それぞれのmは独立して3〜30の平均値である)
を有する分枝鎖状の蒸解添加剤
を含む、苛性組成物を提供する工程であって、
前記苛性組成物がASTM D2281を用いて測定されるように100秒未満のドレーブス濡れ時間を有する前記工程;
C.リグノセルロース材料と苛性組成物とを組み合わせて混合物を形成する工程;及び
D.リグノセルロース材料及び苛性組成物を加熱してリグノセルロース材料を蒸解する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記分枝鎖状の蒸解添加剤が以下の構造:
【化2】
(式中、それぞれのAは独立して少なくとも1つのアルキレンオキシ基であり、それぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、それぞれのmは独立して3〜14の平均値であり、それぞれのBは独立して8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基又はトリデシル基である)
を有する化合物の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記苛性組成物が以下の構造:
【化3】
(式中、Aは少なくとも1つのアルキレンオキシ基であり、その際、それぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、mは3〜14であり、且つBは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状脂肪族炭化水素基である)
を有する追加の分枝鎖状の蒸解添加剤を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物が以下の構造:
【化4】
(式中、それぞれのDはプロピレンオキシ基であり、それぞれのEはエチレンオキシ基であり、その際、xは0〜4の平均値であり且つyは3〜14の平均値である)
の化合物を有する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
追加の分枝鎖状の蒸解添加剤が以下の構造:
【化5】
(式中、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、その際、xは0〜4の平均値であり且つyは3〜14の平均値である)
を有するものとして更に規定される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物が以下の構造:
【化6】
(式中、それぞれのAは少なくとも1つのエチレンオキシ基であり、それぞれのmは5の平均値であり、且つそれぞれのBは10個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基である)
の化合物を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が以下の構造:
【化7】
(式中、それぞれのDがプロピレンオキシ基であり、それぞれのEがエチレンオキシ基であり、その際、それぞれのxは2の平均値であり且つそれぞれのyは5の平均値である)
の化合物を有する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項8】
苛性組成物が2種の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤を含み、その際、第1の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤が以下の構造:
【化8】
を有し且つ第2の分枝鎖状の蒸解添加剤が以下の構造:
【化9】
(式中、それぞれのDはプロピレンオキシ基であり、それぞれのEはエチレンオキシ基であり、その際、それぞれのxは1〜2の平均値であり、且つそれぞれのyは5の平均値である)
を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
分枝鎖状の蒸解添加剤が以下の構造:
【化10】
(式中、Aは少なくとも1つのアルキレンオキシ基であり、その際、それぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、mは3〜14であり、且つBは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基である)
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
分枝鎖状の蒸解添加剤が以下の構造:
【化11】
(式中、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、その際、xは0〜4の平均値であり且つyは3〜14の平均値である)
を有するものとして更に規定される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野
本開示は概してリグノセルロース材料の蒸解方法に関する。更に詳細には、本方法は、特定の分枝鎖状の蒸解添加剤を含む苛性組成物を利用する。
【0002】
関連技術の説明
当該技術分野でよく知られているように、木材チップなどのリグノセルロース材料としては、リグニン及びセルロースが挙げられる。リグニン及びセルロースは一緒にリグノセルロース材料を結合させる。セルロースは、リグノセルロース材料から回収されて、他の製品を形成するために使用され得る。木材パルプを作製するためのクラフト法では、木材チップは、ダイジェスタ内にて苛性溶液中で高温で蒸解される。木材チップが苛性溶液中で膨潤することで、苛性溶液を木材チップに浸透させる。苛性溶液は、木材チップ及び木材チップ中のリグニンを溶解し、セルロースを再生させる。通常、木材チップの全てが溶解するわけではなく、その結果、苛性溶液からスクリーニングして除去しなければならない多数の木材チップが生じる。このスクリーニングは、回収され得るセルロースの最終的な収量を低下させ、処理時間を増やし、そしてコストを増加させる。従って、改善された方法を開発する機会が残っている。
【0003】
本開示の概要と利点
本開示は、リグノセルロース材料の蒸解方法を提供する。本方法は、リグノセルロース材料を提供し、少なくとも約10のpHを有する苛性組成物を提供する工程を含む。苛性組成物は、分枝鎖状の蒸解添加剤の組成物の総質量を基準として約1質量%までの、水、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む。分枝鎖状の蒸解添加剤は、以下の構造:
【化1】
(式中、Aは少なくとも1つのアルキレンオキシ基であり、それぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、nは0又は1であり、Bは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基であり、XはH又はB−O−(A)であり、それぞれのmは独立して3〜30の平均値である)
を有し、苛性組成物は、ASTM D2281を用いて測定されるように100秒未満のドレーブス濡れ時間を有する。上記の工程に加えて、本方法はまた、混合物を形成するためにリグノセルロース材料及び苛性組成物を組み合わせて混合物を形成し、リグノセルロース材料及び/又は苛性組成物を加熱してリグノセルロース材料を蒸解する工程を含む。
【0004】
分枝鎖状の蒸解添加剤は、リグノセルロース材料の湿潤を、苛性組成物を順次リグノセルロース材料に浸透させ、且つ溶解させる水によって容易にする。分枝鎖状の蒸解添加剤のリン酸基が、含まれる場合、通常、苛性組成物中の分枝鎖状の蒸解添加剤の溶解度が増大し、それによって一般的に、苛性組成物が湿潤してリグノセルロース材料に浸透する能力が高まる。分枝鎖状の蒸解添加剤のアルキレンオキシ基は、通常、分枝鎖状の蒸解添加剤の親水性を高め、苛性組成物がリグノセルロース材料に浸透する能力を高める。分枝鎖状脂肪族炭化水素基は、通常、分枝鎖状の蒸解添加剤の疎水性を高め、更なる蒸解に役立つリグノセルロース材料と相互作用する苛性組成物の能力を増大させる。100秒未満のドレーブス濡れ時間は、分枝鎖状の蒸解添加剤が、水及び苛性組成物がリグノセルロース材料と相互作用し、浸透するように、リグノセルロース材料を効果的に湿潤させることを示す。ドレーブス濡れ時間によって、より低い温度、より短い滞留時間、及びあまり極端でないアルカリ度を含む、あまり激しくない使用されるべき条件に対する要求が生じ得る。
【0005】
図面の複数の視点の簡単な説明
本開示の他の利点は、添付の図面に関連して考慮する場合、以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるので、容易に理解されるであろう。
【0006】
図1は、実施例で評価された組成物及び比較組成物のそれぞれが、全ての組成物が一緒に編成され且つ全ての比較組成物が一緒に編成されるように記載されてソートされた、第1表を含む。第1表はそれぞれの組成物及び比較組成物のドレーブス濡れ時間を含む。
【0007】
図2は、実施例で評価された組成物及び比較組成物のそれぞれがドレーブス濡れ時間に対して昇順で記載されてソートされた第2表を含む。第2表は第1表と同一のデータを含む。
【0008】
図3A、3B、及び3Cは、それぞれ、実施例で評価された組成物及び比較組成物のそれぞれが温度によって記載され且つドレーブス濡れ時間に対して昇順でソートされた第3A表、第3B表、及び第3C表を含む。
【0009】
図4A及び4Bは、それぞれ、組成物及び比較組成物のそれぞれが添加剤の質量パーセントによって記載され且つドレーブス濡れ時間に対して昇順でソートされた、第4A表及び第4B表を含む。
【0010】
図5A、5B、5C、5D、5E、及び5Fは、それぞれ、実施例で評価された組成物及び比較組成物のそれぞれが水酸化ナトリウムの質量パーセントで記載され且つドレーブス濡れ時間に対して昇順でソートされた、第5A表、第5B表、第5C表、第5D表、第5E表、及び第5F表を含む。
【0011】
図6は、実施例に記載されるように、表面年齢の関数として9%のNaOH中の0.2%の蒸解添加剤の動的表面張力の線グラフである。
【0012】
図7は、実施例に記載されるように、濃度の関数としての9%のNaOH中の蒸解添加剤の臨界ミセル濃度の線グラフである。
【0013】
図8は、実施例に記載されるように、時間の関数としてのノーザンホワイトバーチ上の9%のNaOH中の0.05%の蒸解添加剤の液滴の接触角の線グラフである。
【0014】
本開示の詳細な説明
本開示は、リグノセルロース材料の蒸解方法を提供する。最も典型的には、リグノセルロース材料はリグニン及びセルロースの両方を含む。「リグノセルロース材料」との用語は、特に限定されず、木材、バガス、わら、亜麻残渣、ナッツの殻、穀粒の殻、又はリグニン及びセルロースを含む任意の材料、及びそれらの組み合わせから誘導された材料(又はそれらの前駆体)を含む、それらから本質的になる(例えば、非リグノセルロース材料を含まない)、又はそれらからなるものとして更に規定され得る。様々な実施態様では、リグノセルロース材料は、当該技術分野において理解されるように、多様な種類の硬材及び/又は軟材から製造される。リグノセルロース材料は、例えば、丸太、工業用木材残渣、枝、荒いパルプ材等を、おがくず、チップ、フレーク、ウエハー、ストランド、スクリム、繊維、シート等の形で一片に粉砕することによる、様々な方法から誘導され得る。最も典型的には、リグノセルロース材料は、木材チップ、木片、又は木材パルプとして更に定義される。
【0015】
本開示の方法は、上記のリグニンを部分的に又は完全に蒸解、又は分解し、典型的にはセルロースをリグノセルロース材料から回収させる。換言すれば、本方法は、通常、セルロースをそこから回収できるようにリグノセルロース材料を製造するために使用されている。セルロースは当該技術分野で知られるような多くの異なる方法を用いて回収され得る。当該方法は、セルロースの回収に対して1つ以上のかかる方法の工程を含み得るが、かかる工程は要求されていない。
【0016】
本開示の方法は、リグノセルロース材料を提供する工程を含む。提供する工程は、特に限定されてなく、送達、供給等を含んでよい。様々な実施態様では、提供する工程は、リグノセルロース材料又はそれらの前駆体を、研削、チッピング、微粉砕、粉砕、破砕、及び切断することによって、上記のような1つ以上の形でリグノセルロース材料を供給することとして更に定義され得る。
【0017】
苛性組成物:
本方法はまた、少なくとも約10のpHを有する苛性組成物を提供する工程を含む。約10、例えば、±0.1、0.2、0.3、0.4、又は0.5以上で、小数値を含む、任意のpHを有し得ることが考えられる。上記の通り、提供する工程は、特に限定されない。一実施態様では、苛性組成物は購入される。別の実施態様では、苛性組成物は製剤化されるか又は作られる。苛性組成物もアルカリ組成物として記載され得る。苛性組成物は少なくとも約10のpHを有し、様々な実施態様では、10〜14、11〜13、12〜13等(小数値を含む)のpHを有する。苛性組成物が14を超えるpHを有し得ることも可能である。苛性組成物は、分枝鎖状の蒸解添加剤の組成物の全質量を基準として、約1質量パーセント以下の水、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む。
【0018】
水:
水は特に種類又は純度で限定されず、蒸留水、井戸水、水道水等を含んでもよい。また、苛性組成物中に存在する水の量も特に限定されるものではない。様々な実施態様では、水は、100質量部の苛性組成物当たり、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99質量部を上回る量で存在する。他の実施態様では、水は、100質量部の苛性組成物当たり90〜99質量部又は95〜99質量部の量で存在する。1つ以上の前述の値が、前述の範囲内の、全部及び一部の、任意の値又は値の範囲であってよく及び/又は±5%、±10%、±15%、±20%、±25%、±30%等だけ変化し得ることが考えられる。
【0019】
アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物:
金属水酸化物に関して、金属水酸化物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、及び/又はアルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物の組み合わせとして更に規定され得る。これらの金属水酸化物も通常、強塩基として記載される。通常、金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、例えば、周期律表の第IA属又はIIA属の金属の水酸化物として更に規定されている。当該技術分野では、金属水酸化物が水に添加される時に、金属水酸化物は、部分的に又は完全に解離して、金属イオン及び水酸化物イオンを形成することが理解されている。従って、「金属水酸化物」との用語は、金属イオン及び水酸化物イオンを含む、金属水酸化物自体(解離前)及び/又は金属水酸化物の解離生成物の両方を記載し得る。換言すれば、苛性組成物は、水中での金属水酸化物の解離から形成された金属イオン及び水酸化物イオンを含み得る。
【0020】
苛性組成物中の金属水酸化物(又はそれらの解離生成物)の量は、苛性組成物が少なくとも約10のpHを有する限り、特に制限されない。金属水酸化物は、それ自体、苛性組成物のpHを少なくとも約10まで上げるのに十分ではない量で使用されるので、苛性組成物は、苛性組成物のpHを少なくとも約10のpHまで上げるために、追加の塩基(又は約10〜13を上回るpKaを有する弱酸)で補充され得ることが考えられる。例えば、かかる実施態様では、苛性組成物は、金属水酸化物及び別の塩基(又は弱酸)を含み得る。従って、1種以上の追加の化合物が、苛性組成物のpHを少なくとも約10まで上げるために、金属水酸化物と一緒に、苛性組成物に添加され得ることも考えられる。金属水酸化物(又はそれらの解離生成物)の量が苛性組成物のpHを少なくとも約10まで上げるのに十分であっても、上記のように、1種以上の追加の化合物がなお利用され得る。
【0021】
様々な実施態様では、金属水酸化物は、解離前に、100質量部の苛性組成物当たり1〜20、1〜15、1〜10、2〜8、3〜7、4〜6、又は4〜5質量部の量で、苛性組成物中に存在するか又は添加される。金属水酸化物が、苛性組成物中に、1種以上の金属水酸化物に対する溶解/飽和限度まで及びそれを超える量で存在し得ると考えられる。言い換えれば、金属水酸化物は、苛性組成物を金属水酸化物で飽和させる量に等しいか又はそれを超える量(例えば、10、15、20等を上回る)で、苛性組成物に添加され得る。かかる実施態様では、苛性組成物中に残っている過剰な(非溶解)金属水酸化物が存在し得る。
【0022】
分枝鎖状の蒸解添加剤:
上で最初に説明されたように、苛性組成物は、組成物の全質量を基準として約1質量パーセントまでの分枝鎖状の蒸解添加剤も含む。分枝鎖状の蒸解添加剤は、それぞれの化合物が独立して以下の式
【化2】
(式中、Aは少なくとも1種のアルキレンオキシ基であり且つそれぞれのアルキレンオキシ基は独立して2〜4個の炭素原子を有し、nは0又は1であり、Bは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基であり、XはH又はB−O−(A)であり、mは独立して3〜30の平均値である)
を有する限り、単一の化合物又は2種以上の化合物の混合物であってよい。
【0023】
通常、分枝鎖状の蒸解添加剤がエステルを含み、分枝鎖状の蒸解添加剤はジエステルも含む。例えば、分枝鎖状の蒸解添加剤は以下の構造:
【化3】
(式中、B、A、m及びnは上記又は下記の通りである)
を有するモノエステル及び/又はジエステルを含み得る。
【0024】
少なくとも1種のアルキレンオキシ基としては、エチレンオキシ基(2個の炭素原子)、プロピレンオキシ基(3個の炭素原子)、ブチレンオキシ基(4個の炭素原子)、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ブチレンオキシ基としては、1,2−ブチレンオキシド基、2,3−ブチレンオキシド基、及びイソブチレンオキシド基のいずれか又は全てが挙げられる。一実施態様では、Aは1個以上のエチレンオキシ基(2個の炭素原子)として更に規定される。別の実施態様では、Aはエチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基の混合物として更に規定される。更に別の実施態様では、Aは1個以上のプロピレンオキシ基(3個の炭素原子)として更に規定される。Aが2個以上のアルキレンオキシ基を含むか又は該基であるとして更に規定される場合、基の配向/順序は特に限定されないので、アルキレンオキシ基はブロック、ランダム等として配置され得る。
【0025】
更に、この式では、それぞれのmは独立して3〜30の平均値である。それぞれのmはより高い、例えば、35又は40であってよいと考えられる。様々な実施態様では、それぞれのmは独立して3〜25、3〜20、3〜15、3〜14、4〜13、5〜12、6〜11、7〜10、8〜9の平均値である。換言すれば、分枝鎖状の蒸解添加剤は、分枝鎖状の蒸解添加剤自体1モル当たりに平均3〜30(又は35又は40)モルのアルキレンオキシ基を含み得る。また、mが分枝鎖状の蒸解添加剤中に存在するアルキレン基の平均モル量を表す上記の範囲内で分数平均値であってよいことも考えられる。当該技術分野で知られているように、ポリマー中のモノマー単位の繰り返しのための添え字の値は、上記の通り、平均値として報告され易い。また、この式において、nは0又は1である。言い換えれば、分枝鎖状の蒸解添加剤は、ホスフェート基を含むか又はホスフェート基を含まなくてよい。通常、ホスフェート基は、以下に示すように、炭素−酸素−リンの結合を通してアルキレンオキシ基に結合される:
【化4】
(式中、Aは上記又は下記の通りである)。
【0026】
更に、Bは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基である。Bがそれぞれ8、9、10、11、12、13、14、又は15個の炭素原子を有する異なる脂肪族炭化水素基の混合物を含み得ることが考えられる。様々な実施態様では、分枝鎖状の脂肪族炭化水素基は、9〜14個、10〜13個、又は11〜12個の炭素原子を有する。あるいは、Bは8個の炭素原子、9個の炭素原子、10個の炭素原子、11個の炭素原子、12個の炭素原子、13個の炭素原子、14個の炭素原子、又は15個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基であってよい。
【0027】
一実施態様では、Bは10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である。10個の炭素原子を有する特に好適な炭化水素基の例としては、2−プロピルヘプタン基が挙げられるが、これに限定されない。「2−プロピルヘプタン基」との用語がC1022基を意味することが理解されるべきである。記述目的のみのために、2−プロピルヘプタン基の化学構造を以下に示す:
【化5】
【0028】
一実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤は、更に以下の構造:
【化6】
(式中、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、xは0〜4の平均値であり且つyは3〜14の平均値である)
を有するものとして規定される。
【0029】
更に別の実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤は、更に以下の構造:
【化7】
(式中、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、xは0〜4の平均値であり、yは3〜14の平均値である)
を有するものとして規定され得る。
【0030】
更に別の実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤は、更に以下の構造:
【化8】
(式中、それぞれのDはプロピレンオキシ基であり、それぞれのEはエチレンオキシ基であり、それぞれのxは約2の平均値であり、それぞれのyは約5の平均値である)
を有する化合物の混合物として規定される。あるいは、更に別の実施態様では、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、xは0〜4の平均値であり、yは3〜10の平均値である。
【0031】
別の実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤は、以下の構造:
【化9】
(式中、それぞれのAは独立して少なくとも1つのアルキレンオキシ基であり、それぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、それぞれのmは独立して3〜14の平均値であり、それぞれのBは独立して8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素である)
を有する化合物の混合物を含む。
【0032】
更に別の実施態様では、Bは更にトリデシルアルコール基として規定される。また、分枝鎖状の蒸解添加剤は、
2−プロピルヘプタン基、約1.8個のプロピレンオキシ基、及び約5個のエチレンオキシ基;
2−プロピルヘプタン基、約1.8個のプロピレンオキシ基、及び約7個のエチレンオキシ基;
2−プロピルヘプタン基、約1.8個のプロピレンオキシ基、及び約8個のエチレンオキシ基;
2−プロピルヘプタン基及び約7個のエチレンオキシ基;
2−プロピルヘプタン基及び約10個のエチレンオキシ基;
2−プロピルヘプタン基及び約14個のエチレンオキシ基;
2−プロピルヘプタン基、約4個のエチレンオキシ基、及びリン酸エステル基;
2−プロピルヘプタン基、約5個のエチレンオキシ基、及びリン酸エステル基;
分枝鎖状C10〜C12基、約2個のプロピレンオキシ基、約13個のエチレンオキシ基、及びリン酸エステル基の混合物;
分枝鎖状C13基及び約10個のエチレンオキシ基;
分枝鎖状C13基及び約3個のエチレンオキシ基;
分枝鎖状C13基、約3個のエチレンオキシ基、及びリン酸エステル基;
分枝鎖状C13基、約6個のエチレンオキシ基、及びリン酸エステル基;
分枝鎖状C13基及び約8個のエチレンオキシ基;
分枝鎖状Cポリエチレングリコール基及びリン酸エステル基;及び
分枝鎖状C〜C11基、約1.5個のブチレンオキシ基、及び約7個のエチレンオキシ基、及び/又はそれらの組み合わせを含むものとして更に規定され得ることも考えられる。
【0033】
別の実施態様では、苛性組成物(及び/又は分枝鎖状の蒸解添加剤自体)は、8個未満の炭素原子及び/又は15個を上回る炭素原子を有する脂肪族炭化水素(又は基)を実質的に含まない。「実質的に含まない」との用語は、苛性組成物及び/又は分枝鎖状の蒸解添加剤の、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%未満、更に一層好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.1質量%未満のかかる炭化水素(又は基)の量を意味する。
【0034】
「分枝鎖状の脂肪族炭化水素基」との用語は、直鎖状ではない少なくとも1つの基(及び全体として分枝鎖状の蒸解添加剤)、例えば、1つ以上の炭素原子がそれぞれ3つ以上の独立した炭素原子に結合される基を意味する。一実施態様では、分枝鎖状の脂肪族炭化水素基は、骨格から懸垂する基を含む少なくともC以上の炭素を含む基として更に規定される。別の実施態様では、分枝鎖状の脂肪族炭化水素基は、当業者に理解されるように、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は99パーセント分枝しているとして更に規定される。あるいは、分枝鎖状の脂肪族炭化水素基は、80〜100、85〜100、90〜100、95〜100、又は約100パーセント分枝鎖状であってよい。一実施態様では、分枝鎖状の消費添加剤は、米国特許第7,671,006号に記載されており、本願明細書に参照により明確に援用されているが、本開示を限定するものではない。
【0035】
分枝鎖状の蒸解添加剤は、苛性組成物の全質量を基準として、例えば、約1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01質量パーセントまでの量で存在する。様々な実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤は、100万質量部の苛性組成物当たり500〜5,000、500〜4,000、500〜3,000、500〜2,000、又は500〜1,000質量部の量で存在する。他の実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤は、苛性組成物の全質量を基準として0.5〜1、0.6〜0.9、又は0.7〜0.8質量パーセントの量で存在する。様々な実施態様では、苛性組成物は、前述の分枝鎖状の蒸解添加剤のうちいずれかを2種以上含み得る。
【0036】
追加の分枝鎖状の蒸解添加剤:
苛性組成物は、上記の分枝鎖状の蒸解添加剤の他に、1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤も含み得る。1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、通常、上記の分枝鎖状の蒸解添加剤とは異なる。通常、1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、上記と同じ又は類似の分枝鎖を有するものとして更に規定される。しかしながら、これは必要ではない。
【0037】
一実施態様では、追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、以下の構造:
【化10】
(式中、Aは2〜4個の炭素原子を有するアルキレンオキシ基であり、mは3〜14であり、且つBは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基である)
を有する。通常、この実施態様では、リン原子は、アルキレンオキシ基の酸素原子に結合される。別の実施態様では、追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、以下の構造:
【化11】
(式中、Aは2〜4個の炭素原子を有するアルキレンオキシ基であり、mは3〜14であり、且つBは8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基である)
を有する。更に一層、追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、以下の構造:
【化12】
(式中、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、xは0〜4の平均値であり、yは3〜10の平均値である)
を有するものとして更に規定され得る。追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、Bがトリデシル基として更に規定されるように、更に規定され得る。1つ以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤が上記の通りであることも考えられる。
【0038】
1つ以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤も、苛性組成物の全質量を基準として約1質量パーセントまでの量で存在し得る。様々な実施態様では、1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、苛性組成物の全質量を基準として、0.05〜0.5質量パーセント、0.05〜0.4質量パーセント、0.05〜0.3質量パーセント、0.05〜0.2質量パーセント、0.2〜0.3質量パーセント、又は0.05〜0.1質量パーセントの量で存在する。他の実施態様では、1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、苛性組成物の全質量を基準として、0.5〜1質量パーセント、0.6〜0.9質量パーセント、0.7〜0.8質量パーセントの量で存在する。
【0039】
分枝鎖状の蒸解添加剤及び/又は1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、当該技術分野で知られた任意の方法によって形成され得る。非限定的な一実施態様では、分枝鎖状の蒸解添加剤及び/又は1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、リン酸エステルを生成するための亜化学量論的〜超化学量論的量でアルコールアルコキシレートとP又はポリリン酸とのリン酸化を用いて形成される。通常、分枝鎖状の蒸解添加剤及び/又は1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤は、ホスフェート基を含まず、任意の公知の合成法が添加剤を形成するために使用され得る。
【0040】
追加の添加剤:
金属水酸化物の他に、分枝鎖状の蒸解添加剤及び/又は1種以上の追加の分枝鎖状の蒸解添加剤及び/又は苛性組成物は、1種以上の追加の添加剤、例えば、限定されずに、塩及び/又は塩基、硫化物(例えば、硫化ナトリウム)、水硫化物、スルホン酸塩、カルボン酸、炭化水素、及びそれらの組み合わせを含み得る。非限定的な一実施態様では、苛性組成物は、米国特許第4,426,254号及び/又は第6,551,452号に記載されるような1種以上の追加の添加剤を含み、これらの添加剤に関してそれぞれが参照により本願明細書に明確に援用されているが、本開示を特に限定するものではない。別の実施態様では、苛性組成物が8個未満の炭素原子及び/又は15個を上回る炭素原子を有する1種以上の脂肪族炭化水素、1種以上の芳香族、フェニル、又はベンジル炭化水素、1種以上のアルカン、アルケン、又はアルキン、及び/又はそれらの組み合わせを含み得ることが代替的に考えられる。
【0041】
ドレーブス濡れ時間:
苛性組成物はASTM D2281を用いて測定された100秒未満のドレーブス濡れ時間を有する。様々な実施態様では、苛性組成物は、ASTM D2281を用いて測定されるように、全ての小数値及び上記の範囲内の小数値を含む、95秒、90秒、85秒、80秒、75秒、70秒、65秒、60秒、55秒、50秒、45秒、40秒、35秒、30秒、25秒、20秒、15秒、10秒又は5秒未満、又はそれらの任意の範囲のドレーブス濡れ時間を有する。他の実施態様では、苛性組成物は、ASTM D2281を用いて測定されるように、1〜20秒、2〜18秒、3〜17秒、4〜16秒、5〜15秒、6〜14秒、7〜13秒、8〜12秒、9〜11秒、又は10〜11秒のドレーブス濡れ時間を有する。100秒未満のドレーブス濡れ時間は、分枝鎖状の蒸解添加剤が、水と苛性組成物がリグノセルロース材料と相互作用して、浸透するように、リグノセルロース材料を効果的に湿潤させることを示す。様々な実施態様では、特に、苛性組成物が任意のドレーブス濡れ時間、又は約ゼロから約100秒までの、全部及び部分の両方の、時間の範囲を有し得ることが考えられる。
【0042】
追加の方法工程:
前述の工程の他に、該方法は、混合物を形成するためにリグノセルロース材料と苛性組成物とを組み合わせる工程も含む。リグノセルロース材料は、苛性組成物に添加されるか又は逆にバッチ式に又は段階的に添加されてよい。また、リグノセルロース材料の様々な部分が、苛性組成物の1つ以上の部分に、又はその逆に添加され得ることも考えられる。リグノセルロース材料及び/又は苛性組成物は、任意の順番で及び任意の容器内で合わされてよい。通常、それらは、当該技術分野で公知のように、蒸解釜内で合わされる。しかしながら、それらは最初に第2の容器内で合わされて、蒸解釜に移され得る。あるいは、当該技術分野で公知の任意の他の容器、例えば、限定されずに、押出機、混合機、反応器等が使用されてよい。
【0043】
様々な実施態様では、混合物は、混合物の全質量を基準として、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、又は95質量パーセントのリグノセルロース材料及び/又は苛性組成物を含む。通常、混合物は、リグノセルロース材料及び苛性組成物のみを含む。しかしながら、混合物が、当該技術分野で知られるように(例えば、当該技術分野で知られるクラフトプロセス、硫酸塩プロセス、又は任意の他の木材パルプ又は蒸解プロセスにおいて使用されるように)、他の添加剤又は成分を含み得ることが考えられる。
【0044】
本方法は、リグノセルロース材料を溶解させるためにリグノセルロース材料及び/又は苛性組成物を加熱する工程も含む。リグノセルロース材料は、それ自体が、苛性組成物とは無関係に加熱されてよい。同様に、苛性組成物は、それ自体が、リグノセルロース材料とは無関係に加熱されてよい。最も典型的には、リグノセルロース材料及び苛性組成物(即ち、混合物)は一緒に加熱される。加熱工程は、100℃〜200℃、120℃〜190℃、又は130℃〜180℃の温度まで加熱することとして更に定義され得る。様々な非限定的な実施態様では、本方法は、米国特許第4,426,254号;同第6,551,452号;及び/又は同第6,649,023号のうち1つ以上に記載されるような1つ以上の方法又は処理工程を含み、そのそれぞれが明確に参照により本願明細書に援用されている。本方法はまた、通常、クラフトプロセスに含まれることで知られた1つ以上の追加の工程も含み得る。
【0045】
追加の実施態様:
本開示は、その中にセルロースを抽出させるセルロース及びリグニンを含む木材チップを蒸解する方法も提供する。本方法の実施態様は、リグニン及びセルロースを含む木材チップを提供し、少なくとも約10のpHを有し且つ水、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含み、且つ以下の構造:
【化13】
(式中、Dはプロピレンオキシ基であり、Eはエチレンオキシ基であり、xは0〜4の平均値であり、yは3〜14の平均値である)
を有する蒸解添加剤の組成物の全質量を基準として約0.5質量パーセントまでの苛性組成物を提供する工程を含み、その際、苛性組成物はASTM D2281を用いて測定されて10秒未満のドレーブス濡れ時間を有する。本方法のこの実施態様は、更に、混合物を形成するために木材チップと苛性組成物とを組み合わせる工程及び該混合物を加熱して木材チップを蒸解する工程を含む。
【0046】
代替的な一実施態様では、苛性組成物は、本質的に(i)水、(ii)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(iii)蒸解添加剤からなる。「本質的になる」との用語は、一般的に、苛性組成物が、他の添加剤を含まないか又は苛性組成物の全質量を基準として10、5、1、0.5、0.1質量パーセント未満の他の添加剤含む(上記のもののうち1種以上の分枝鎖状の蒸解添加剤を含まない)ことを説明している。苛性組成物は、(i)、(ii)、(iii)及び約0.5質量パーセントの第2の蒸解添加剤から本質的になり、該添加剤は、上記の分枝鎖状の蒸解添加剤とは異なり且つ以下の構造:
【化14】
を有するか、又は以下の構造
【化15】
(式中、それぞれのAは少なくとも1種のアルキレンオキシ基であり且つそれぞれのアルキレンオキシ基は2〜4個の炭素原子を有し、それぞれのmは独立して3〜14の平均値であり、nは0又は1であり、それぞれのBは独立して8〜15個の炭素原子を有する分枝鎖状の脂肪族炭化水素基である)
を有する化合物の混合物を含むことも考えられる。更に、xは1〜2又は約2の平均値として更に規定されてよく、yは約5の平均値として更に規定されてよいことが考えられる。あるいは、xはゼロとして更に規定されてよく、yは約5の平均値として更に規定されてよい。
【0047】
本開示は、苛性組成物とリグノセルロース材料を含むリグノセルロース材料蒸解系も提供する。この系は、本開示の方法を使用して利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、添加剤の商品名、組成物の温度、NaOHの質量パーセント、添加剤の質量パーセント、平均ドレーブス濡れ時間、及び外観を記載した第1表を示す。
図2図2は、ドレーブス濡れ時間に対して記載され、ソートされた第2表を示す。
図3図3は、温度によって記載され且つドレーブス濡れ時間に対して昇順でソートされた第3A表、第3B表、及び第3C表を示す。
図4図4は、添加剤の質量パーセントによって記載され且つドレーブス濡れ時間に対して昇順でソートされた、第4A表及び第4B表を示す。
図5図5は、水酸化ナトリウムの質量パーセントで記載され且つドレーブス濡れ時間に対して昇順でソートされた、第5A表、第5B表、第5C表、第5D表、第5E表、及び第5F表を示す。
図6図6は、表面年齢の関数として9%のNaOH中の0.2%の蒸解添加剤の動的表面張力の線グラフである。
図7図7は、濃度の関数としての9%のNaOH中の蒸解添加剤の臨界ミセル濃度の線グラフである。
図8図8は、時間の関数としてのノーザンホワイトバーチ上の9%のNaOH中の0.05%の蒸解添加剤の液滴の接触角の線グラフである。
【0049】
実施例
一連の苛性組成物(組成物1〜40)を本開示に従って形成する。一連の比較組成物(比較組成物1〜32)も形成するが、本開示を表さない。それぞれの組成物及び比較組成物は、それぞれ、組成物の全質量を基準として、3〜9質量パーセントの水酸化ナトリウム(従って少なくとも約10のpHを有する)、0.1〜0.3質量パーセントの添加剤、及び残りの水を含む。組成物1〜40を形成するために利用される添加剤は、本開示の様々な実施態様の典型的な分枝鎖状の蒸解添加剤である。比較組成物1〜32を形成するために利用される添加剤は、本開示の典型的な分枝鎖状の蒸解添加剤ではないので、本開示を表すものではない。それぞれの添加剤は、商品名を用いて表/図面に記載されている。
【0050】
形成後に、それぞれの組成物及び比較組成物を50℃〜70℃の温度に加熱し、その温度で、ASTM D2281を用いてドレーブス濡れ時間を測定する。以下に報告されたドレーブス濡れ時間は、それぞれの組成物及び比較組成物に対する2〜4回の個別の試験に基づく平均時間である。より短い時間は、改善された湿潤を示し、リグノセルロース材料の改善された湿潤に相関し得るので、苛性組成物はリグノセルロース材料とより効率的に相互作用し且つ該材料を溶解することができる。
【0051】
更に、それぞれの組成物及び比較組成物を、視覚的に評価し、それぞれが透明、濁った、又は曇ったかどうかを測定する。透明は、一般的に、組成物又は比較組成物における添加剤の(近似的に)完全な溶解性を示す。濁り及び曇りは、それぞれ、組成物又は比較組成物における添加剤の溶解性の低下を示す。
【0052】
図1として記載された、第1表において、それぞれの組成物及び比較組成物を、全ての組成物が一緒に編成され、全ての比較組成物が一緒に編成されるように記載し且つソートする。添加剤の商品名、それぞれの組成物の温度、水酸化ナトリウムの質量パーセント、添加剤の質量パーセント、平均ドレーブス濡れ時間、及びそれぞれの組成物の外観を記載する。第1表に記載されたデータは、本開示の組成物が概してより優れた性能を示す、即ち、比較組成物よりも短い湿潤時間を有することを明確に示す。上記の通り、これらの改善された湿潤時間は、向上し且つより完全なリグノセルロース材料の湿潤及びそれらの蒸解に相関し得る。更に、第1表に記載のデータは、本開示の典型例である添加剤の大部分が(ほぼ)完全に〜適度に種々の組成物に溶解することを示す。
【0053】
図2に記載の第2表では、それぞれの組成物及び比較組成物は、ドレーブス濡れ時間に関して昇順で記載され且つソートされる。第2表は、第1表と同一のデータを含む。この表に記載されたデータは、単に理解を容易にするために再ソートされるに過ぎない。上記のように、この表に記載されたデータは、本開示の組成物が概してより優れた性能を示す、即ち、比較組成物よりも短い濡れ時間を有することを明確に示す。
【0054】
図3A、3B及び3Cとして記載される、第3A表、第3B表及び第3C表では、組成物及び比較組成物のそれぞれがドレーブス濡れ時間の測定中の組成物の温度に関して記載され且つソートされる。言い換えれば、これらの表は、温度が一定になるように編成されている。第3A表〜第3C表は、上の表と同一のデータを含む。上記と同様に、このデータは、本開示の組成物が概して優れた性能を示す、即ち、異なる温度で比較する場合でも、比較組成物よりも短い湿潤時間を有することを示す。
【0055】
以下の図4A及び4Bに記載される、以下の第4A表及び第4B表では、それぞれの組成物及び比較組成物は、添加剤の質量パーセントに対して記載され且つソートされる。言い換えれば、これらの表は、添加剤の質量パーセントが一定であるように編成されている。第4A表及び第4B表は上の表と同一のデータを含む。上記と同様に、このデータは、本開示の組成物が概して優れた性能を示す、即ち、添加剤の量が変化する場合でも、比較組成物よりも短い湿潤時間を有することを示す。
【0056】
図5A、5B、5C、5D、5E及び5Fに記載される、第5A表、第5B表、第5C表、第5D表、第5E表、及び第5F表では、それぞれの組成物及び比較組成物は、水酸化ナトリウムの質量パーセントに対して記載され且つソートされる。水酸化ナトリウムのより高い質量パーセントは、組成物及び比較組成物の上昇したpHに相関する。これらの表は、水酸化ナトリウムの質量パーセント、及び対応するpHが一定になるように編成されている。第5A表〜第5F表は上の表と同一のデータを含む。上記と同様に、このデータは、本開示の組成物が概して優れた性能を示す、即ち、水酸化ナトリウムの量(及び対応するpH)が変化する場合でも、比較組成物よりも短い湿潤時間を有することを示す。言い換えれば、本開示の組成物は、高苛性溶液中で比較組成物よりも良好な湿潤剤として作用する。
【0057】
動的表面張力:
本開示では、動的表面張力は、分枝鎖状の蒸解添加剤がどのように溶液の表面張力を速やかに低減させるかを示す。動的表面張力のデータは、試料中に存在する添加剤分子がどのように分散し且つ新たに作られた表面で配向し得るかの情報を提供する。非常に低い表面年齢では、分子が表面で拡散し且つ配向する時間が全くないので、溶液の表面張力は、純水の表面張力(72ダイン/cm)に近い。非常に高い表面年齢では、表面張力は平衡した表面張力値に近づく。
【0058】
一連の追加の組成物では、組成物41〜45も本開示に従って形成される。追加の比較組成物(比較組成物33)も形成されるが、本開示を表すものではない。組成物41〜45及び比較組成物33のそれぞれが、組成物の全質量を基準として、それぞれ、9質量パーセントの水酸化ナトリウム(従って少なくとも約10のpHを有する)、0.2質量パーセントの添加剤、並びに残りの水を含む。組成物41〜45を形成するために使用される添加剤は、本開示の種々の実施態様の典型的な分枝鎖状の蒸解添加剤である。比較組成物33を形成するために使用される添加剤は、本開示の代表的な分枝鎖状の蒸解添加剤ではないので、本開示を表すものではない。更に詳細には、組成物41はルテンゾール(Lutensol)A12Nリン酸エステルを含む。組成物42はルテンゾールTDA3PEを含む。組成物43はルテンゾールXP50PEを含む。組成物44はルテンゾールXL70を含む。組成物45はルテンゾールXL50PEを含む。比較組成物33は、プルロニックL62/プルロニックF68のブレンド1:1を含む。
【0059】
形成後、前述の組成物及び比較組成物のそれぞれを、動的表面張力を測定するために評価する。動的表面張力を、当該技術分野で知られた、クルス(Kruess)BP100機器を使用して測定する。更に詳細には、既知の容量の気泡を、既知量の種々の前述の組成物の試料にポンプで送り込み、表面張力を測定する。気泡の速度が上昇するにつれて、表面積(年齢)も増加する。表面張力は、表面積の増加につれて増加する。換言すれば、添加剤がこの新たな表面に移動するのにかかる時間は、表面張力の増加をもたらす。これらの評価の結果を図6の線グラフに記載する。低い表面張力は、一般的に、本開示では最も速い速度でのものが望ましい。図6に記載された結果は、正の結果が本開示の種々の組成物によって達成されることを示す。
【0060】
臨界ミセル濃度:
臨界ミセル濃度(CMC)は添加剤効果の目安である。ミセルは多数の表面活性材料の分子から構成されたアグリゲート単位である。CMCは通常、かなりの数のミセルが形成される添加剤濃度である。ミセルの形成は、別の非相容性物質の乳化、可溶化、及び分散を可能にする。CMCに達する前に、表面張力は通常、添加剤の濃度で変化する。CMCに達した後、表面張力は通常、比較的一定であるか又は低い勾配で変化する。所与の媒体中の所与の添加剤のCMCの値は、通常、温度、圧力、及び他の物質及び電解質の存在及び濃度に応じて変化する。ミセルは臨界ミセル温度を超えて初めて形成され易い。より低いCMCは、より少ない添加剤が界面を飽和し且つミセルを形成するために必要とされることを示す。コロイド化学及び表面化学では、臨界ミセル濃度(CMC)は、通常、ミセルが形成し且つ系に添加される界面活性剤がミセルになるよりも高い添加剤濃度として記載される。
【0061】
臨界ミセル濃度は、当該技術分野で知られた、クルスK100機器を用いて測定されている。更に詳細には、一連の9%の水酸化ナトリウムの水溶液が作られ、種々の添加剤は増加量で添加される。添加後に、表面張力を順次に測定する。言い換えれば、少量の添加剤を添加し、表面張力を測定する。このプロセスは、曲線が、図7に記載されるように、完全である限り、連続的に繰り返される。更に詳細には、以下の添加剤を使用する:ルテンゾールA12N PE(本発明)、ルテンゾールTDA3PE(本発明)、ルテンゾールXP50PE(本発明)、プルロニックL62/F68(比較)、及びルテンゾールXL70PE(本発明)。これらの評価の結果を図8に記載する。
【0062】
最短時間で低い表面張力をもたらし得る添加剤の最低濃度が、通常、本開示で望ましい。図7に記載された結果は、肯定的な結果が、本開示の種々の組成物によって達成されることを実証する。
【0063】
接触角:
接触角θは、液体による固体の湿潤の量的指標である。これは通常、液体、気体及び固体が交差する3つの相境界で液体によって形成される角として幾何学的に規定される。低い接触角(θ)の値は、液体がよく分散するか又は湿潤することを示し易いが、高い接触角は、通常、不良な湿潤を示す。角度θが90°未満の場合、液体は通常、固体を湿潤するものとして記載されている。角度が90°よりも高い場合、液体は通常、非湿潤であると記載されている。ゼロの接触角は完全な湿潤を表す。
【0064】
9%の水性水酸化ナトリウム(NaOH)中の一連の様々な本開示の添加剤の0.05%の溶液を形成する。これらの溶液の液滴を、当該技術分野で公知のように、ノーザンホワイトバーチ片の上に置き、接触角をクルスDSA100機器を用いて高速カメラによって測定する。更に詳細には、以下の添加剤を使用する:ルテンゾールA12N PE(本発明)、ルテンゾールTDA3PE(本発明)、ルテンゾールXP50PE(本発明)、プルロニックL62/F68(比較)、及びルテンゾールXL70PE(本発明)、及びルテンゾールXL50PE(本発明)。最も低い接触角は、通常、最大湿潤を示し、通常、本開示において望ましい。図8に記載された結果は、肯定的な結果が本開示の種々の組成物によって達成されることを実証する。
【0065】
分散が本開示の範囲内にとどまる限り、上記の値のうち1つ以上が±5%、±10%、±15%、±20%、±25%、±30%等だけ変化し得ることが理解されるべきである。更に、前述の値内又はその間の、全体及び部分の両方の、全ての値及び値の範囲は、明確に種々の非限定的実施態様内であると考えられる。添付の特許請求の範囲は、該範囲内に入る特定の実施態様の間で変化し得る、詳細な説明に記載された表現及び特定の化合物、組成物、又は方法に限定されないことも理解されるべきである。特定の特徴又は様々な実施態様の態様を記載するために本願明細書に依存するマーカッシュ群に関しては、異なる、特別な、及び/又は予期しない結果が、全ての他のマーカッシュ要素とは無関係にそれぞれのマーカッシュ群の各要素から得られ得ることが理解されるべきである。マーカッシュ群の各要素は、個々に又は組み合わせて依存し且つ添付の特許請求の範囲内の特別な実施態様のための適切な根拠を提供し得る。
【0066】
本開示の種々の実施態様を説明する際に依拠する任意の範囲及びサブ範囲は、添付の特許請求の範囲内に無関係に且つまとめて入ることも理解されるべきであり、かかる値がそこに明確に記載されていない場合でも、そこにある整数値及び/又は小数値を含む全ての範囲を記載し且つ考慮することが理解されている。当業者は、列挙された範囲及び部分的範囲が本開示の様々な実施態様を十分に説明し且つ可能にし、かかる範囲及びサブ範囲が関連する半分、3分の1、4分の1、5分の1等に更に線引きされ得ることを容易に認識している。ほんの一例として、「0.1から0.9までの」範囲は、下3分の1、即ち、0.1〜0.3、中3分の1、即ち、0.4〜0.6、及び上3分の1、即ち、0.7〜0.9に更に線引きされてよく、これは個々に且つまとめて添付の特許請求の範囲内に入り、そして添付の特許請求の範囲内の特定の実施態様のための適切な根拠に個々に及び/又はまとめて依存し且つこれを提供し得る。更に、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「わずか」等の範囲を規定又は変更する用語に関しては、かかる用語はサブ範囲及び/又は上限又は下限を含むことが理解されるべきである。別の例として、「少なくとも10」の範囲は、固有に、少なくとも10〜35のサブ範囲、少なくとも10〜25のサブ範囲、25〜35等のサブ範囲等を含み、それぞれのサブ範囲は、添付の特許請求の範囲内の特別な実施態様のための適切な根拠に個々に及び/又はまとめて依存し且つこれを提供し得る。最終的に、開示された範囲内の個別の数は、添付の特許請求の範囲内の特別な実施態様のための適切な根拠に依存し且つ提供し得る。例えば、「1から9までの」範囲は、様々な個々の整数、例えば、3、並びに小数点(又は小数部)を含む個々の数、例えば、4.1を含み、これは添付の特許請求の範囲内の特別な実施態様のための適切な根拠に依存し且つ提供し得る。
【0067】
単項従属及び多項従属の両方の、独立項及び従属項の全ての組み合わせの主題は、本願明細書で明確に考慮されているが、簡略化のために詳細に記載されていない。本開示は例示的に記載されており、使用された用語は限定ではなく説明の用語の範疇に入ることが意図されていることが理解されるべきである。本開示の多くの変更及び変形が上記の教示に照らして可能であり、本開示は特に説明されたもの以外の方法でも実施され得る。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図6
図7
図8