特許第6242917号(P6242917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6242917ビーム反転モジュールおよびそのようなビーム反転モジュールを有する光パワー増幅器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6242917
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ビーム反転モジュールおよびそのようなビーム反転モジュールを有する光パワー増幅器
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20171127BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20171127BHJP
   G02B 5/04 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H01S3/10 Z
   H01S3/10 D
   G02B5/08 A
   G02B5/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-556400(P2015-556400)
(86)(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公表番号】特表2016-507900(P2016-507900A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】EP2013052574
(87)【国際公開番号】WO2014121844
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】シャール ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ミュエンツ ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】シュスター イングリット
(72)【発明者】
【氏名】アンデルル ヴィリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】バウアー マルクス
(72)【発明者】
【氏名】エルクスマイアー ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ル メール ミシェル
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−130652(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0227956(US,A1)
【文献】 特開2000−124534(JP,A)
【文献】 特表2012−522376(JP,A)
【文献】 米国特許第04156852(US,A)
【文献】 特開2003−050413(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0071179(US,A1)
【文献】 特表2002−507784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
G02F 1/29−1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に伝搬する入来レーザビーム(28、28a)を受けて前記第1の方向とは異なる第2の方向に反射するための少なくとも1つの反射面(44、64、86)を備える、レーザ機構の光パワー増幅器(10)用のビーム反転モジュールであって、前記少なくとも1つの反射面(44、64、86)が第1のミラー(42、62、82)の反射面であり、
前記少なくとも1つの反射面(44、64)の下流に配置された下流のビーム偏向素子(46、66)であって、前記少なくとも1つの反射面(44、64)で反射された前記レーザビーム(28b)を、前記ビーム偏向素子(46、66)で偏向された前記レーザビーム(28c)が前記第1の方向に伝搬する前記レーザビーム(28、28a)と交差させるように、前記第1の方向および前記第2の方向とは異なる第3の方向へ偏向する下流のビーム偏向素子(46、66)をさらに備え
前記下流のビーム偏向素子(46、66)が、入射面(50、76)および出口面(52、78)を有する透過性の光学素子であり、前記透過性の光学素子が、前記少なくとも1つの反射面(44、64)で反射された前記レーザビーム(28b)に対して、前記レーザビーム(28b)が前記入射面(50、76)から前記出口面(52、78)へ前記透過性の光学素子を通って内部全反射なしで伝搬するように配置されており、
前記少なくとも1つの反射面(44、64)の1つの反射面のみが、前記下流のビーム偏向素子(46、66)との組合せで使用される、
ビーム反転モジュール。
【請求項2】
前記入射面(50、76)および前記出口面(52、78)の少なくともどちらか一方反射防止コーティングでコーティングされている請求項1に記載のビーム反転モジュール。
【請求項3】
前記下流のビーム偏向素子(46、66)がプリズムである請求項1または2に記載のビーム反転モジュール。
【請求項4】
前記少なくとも1つの反射面(44、64)の上流に配置された上流のビーム偏向素子(68)であって、前記入来ビーム(28)を前記第1の方向に偏向する上流のビーム偏向素子(68)をさらに備える請求項1から3までのいずれか1項に記載のビーム反転モジュール。
【請求項5】
前記上流のビーム偏向素子(68)が、入射面(72)および出口面(74)を有する透過性の光学素子であり、前記透過性の光学素子が、前記入来レーザビーム(28)に対して、前記レーザビーム(28)が前記入射面(72)から前記出口面(74)へ前記透過性の光学素子を通って内部全反射なしで伝搬するように配置されている請求項4に記載のビーム反転モジュール。
【請求項6】
前記入射面(72)および前記出口面(74)の少なくともどちらか一方が反射防止コーティングでコーティングされている請求項5に記載のビーム反転モジュール。
【請求項7】
前記上流のビーム偏向素子(68)がプリズムである請求項4から6までのいずれか1項に記載のビーム反転モジュール。
【請求項8】
前記上流のビーム偏向素子(68)および前記下流のビーム偏向素子(66)が、単一のモノリシック光学素子として、好ましくは単一のプリズムとして一緒に実施されている請求項1から4まで、および請求項4から7までの、いずれか1項に記載のビーム反転モジュール。
【請求項9】
前記ビーム反転モジュールの前記光学素子(40、60、80、100)のうち少なくとも1つを、この光学素子(100)の表面上またはその内部におけるレーザビームの位置(140、142)に従って光学素子(100)の面にわたって変化するパージ率で直接パージするように適合されたパージ装置(134)をさらに備える請求項1から8までのいずれか1項に記載のビーム反転モジュール。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載のビーム反転モジュール(40、60、80、100)を備える、レーザ機構の光増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ機構の光パワー増幅器用のビーム反転モジュールに関するものである。
さらに、本発明は、ビーム反転モジュールを備えたレーザ機構の光パワー増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第2010/0098120号は、レーザ機構、具体的にはエキシマレーザの光パワー増幅器を開示している。エキシマレーザは放電ガスタイプのレーザである。高出力用途向けに、そのようなレーザは、主発振器/電力増幅器または電力発振器の構成を有し、電力発振器は、これも発振器である電力リング増幅器として構成されてよく、または電力リング増幅器と称されてもよい。本説明で用いられる「光パワー増幅器」という用語は、これらの構成をすべて対象として含むものと理解されたい。
米国特許出願公開第2010/0098120号によるレーザ機構は、たとえば半導体リソグラフィ用途で光源として使用される。
光パワー増幅器の一部分はビーム反転モジュールである。米国特許出願公開第2010/0098120号では、ビーム反転モジュールはプリズムとして設計されており、入来レーザビームがプリズムに入るレーザビーム入射面を有する。このプリズムがさらに有する第1の内部全反射(TIR:total internal reflection)面は、プリズムに入るレーザビーム受けて、これを第1のTIR面に対して約90°の角を成す第2のTIR面へ反射するためのものである。最後に、このプリズムはレーザビーム出口面を有し、第2のTIR面で反射されたレーザビームがレーザビーム出口面を通ってプリズムから出て来る。
【0003】
具体的には半導体リソグラフィ用途で光源として使用するとき、強化された出力パワーを有するレーザの生産が要求されている。しかしながら、レーザの出力パワーをたとえば60Wから120Wへ増加させると、電力増幅器には、電力増幅器の光学素子を通って伝搬するレーザビームの電力吸収が増加することに起因して熱負荷が増大するという技術的問題がある。
【0004】
電力増幅器の光学素子の熱負荷が増加すると、電力増幅器のいくつかまたはすべての光学素子の加熱が強化され、いわゆる熱レンズ効果をもたらす。熱レンズ効果は、光学素子における温度勾配によって誘起される効果である。これらの温度勾配は、横方向に不均質な熱膨張または熱的に誘起された機械的応力に起因する光学部品の曲がりによって、屈折率および/または面の変形の、いくらかの横方向の勾配をもたらす可能性がある。光学素子の加熱が屈折率の勾配または光学面の変形をもたらすかどうかということにかかわらず、光学素子の光学的結像特性が変化して、レーザビームの波面のずれまたは歪みをもたらすことがあり、最悪の場合、レーザビームが、低デューティサイクルから高デューティサイクルに変化すると、レーザの遠距離場では崩壊する可能性がある。
具体的には、米国特許出願公開第2010/0098120号に開示されている光パワー増幅器によるビーム反転モジュールは、熱負荷が高くなって熱レンズ効果を被りやすい。高エネルギー密度の用途については、CaF2面は、劣化しないように保護するためにコーティングする必要がある。むき出しのCaF2面をコーティングによって改修すると、完全に反射されるビームが、面を通り抜けるビームよりもかなり強く吸収されるように作用することが判明している。そのため、TIRについては(少なくともCaF2の場合)吸収のレベルが強度に過小評価され、高い光学的負荷の下では、TIR面の熱的に誘起される変形が、レーザビーム特性の全体としての熱ドリフトに対する最も重要な原因のうちの1つであることに本発明者は気付いた。それに加えて、既知のビーム反転モジュールのプリズムは比較的大きくかさばったものであり、その結果、プリズムを通るレーザビームの光学的伝搬路は比較的長いものである。吸収が媒体を通る光の光学的伝搬路に比例するので、伝搬路が長ければ吸収が増加するわけである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、レーザのより大きい出力が必要なとき、既知のビーム反転モジュールで生じる熱レンズ効果を少なくとも低減する、レーザ機構の光パワー増幅器用のビーム反転モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、この目的は、第1の方向に伝搬する入来レーザビームを受けて第1の方向とは異なる第2の方向へ反射するための少なくとも1つの第1のミラーの高反射面を備えた、レーザ機構の光パワー増幅器用のビーム反転モジュールによって達成される。
本発明のこの態様によるビーム反転モジュールがレーザビームを反転するために使用するのはTIR面ではなく、既知のビーム反転モジュールのTIR面のうち少なくとも1つを置換する少なくとも1つの高反射ミラーである。
TIR面での吸収が大きければ熱勾配が大きくなり、反射面の変形が熱的に誘起され、したがってレーザビームの波面も変形することになる。既知のビーム反転モジュールのTIR面を少なくとも1つの高反射性ミラーで置換することによって、熱レンズ効果を低減することができる。
【0007】
好ましい改良では、ビーム反転モジュールは、少なくとも1つの反射面の下流に配置された下流のビーム偏向素子をさらに備え、これは、少なくとも1つの反射面で反射されたレーザビームを、ビーム偏向素子で偏向されたレーザビームが第1の方向に伝搬するレーザビームと交差させるように、第1の方向および第2の方向とは異なる第3の方向へ偏向する。
下流のビーム偏向素子により、既知のビーム反転モジュールと同一の光学的機能を、既知のビーム反転モジュールの場合よりも熱レンズ効果のリスクを低減して得ることができる。
前述の改良の状況では、下流のビーム偏向素子は、入射面および出口面を有する透過性の光学素子であることがさらに好ましく、透過性の光学素子は、少なくとも1つの反射面で反射されたレーザビームに対して、レーザビームが入射面から出口面へ透過性の光学素子を通って内部全反射なしで伝搬するように配置されている。
【0008】
この改良は、ビーム反転モジュールにおける熱レンズ効果を防止するかまたは少なくとも低減するために、ビーム反転モジュールにおけるTIR面を、可能な限り、好ましくは完全に回避するという本発明の概念に従うものである。
さらに、前述の改良に伴う状況では、入射面および/または出口面は反射防止コーティングでコーティングされている。
反射防止コーティングにより、透過性のビーム偏向素子の入射面および/または出口面における反射によるレーザ光損失が低減する。
さらなる好ましい改良では、下流のビーム偏向素子はプリズムである。
この改良には、ビーム偏向素子の生産に関して単純設計という利点がある。
さらなる好ましい改良では、ビーム反転モジュールは、少なくとも1つの反射面の上流に配置された上流のビーム偏向素子をさらに備え、これによって入来ビームが第1の方向に偏向される。
上流のビーム偏向素子は、下流のビーム偏向素子の代わりに、または下流の偏向素子に加えて使用され得る。
下流のビーム偏向素子の場合と同様に、上流のビーム偏向素子は、好ましくは入射面および出口面を有する透過性の光学素子であって、入来レーザビームに対して、レーザビームが入来面から出口面へ透過性の光学素子を通って内部全反射なしで伝搬するように配置されている。
【0009】
さらに、上流のビーム偏向素子の透過性の光学素子の入来面および/または出口面は、反射防止コーティングでコーティングされている。
上流のビーム偏向素子は、好ましくはプリズムである。
さらなる好ましい改良では、上流のビーム偏向素子および下流のビーム偏向素子は、単一のモノリシック光学素子として、好ましくは単一のプリズムとして一緒に実施される。
【0010】
この改良には、上流のビーム偏向素子と下流のビーム偏向素子の両方を、1つの単一のプリズムとして簡単に生産することができるという利点がある。
さらなる好ましい改良では、少なくとも1つの反射面は第1の反射面であり、ビーム反転モジュールがさらに備える少なくとも1つの第2の反射面が、第1の反射面で反射されたレーザビームを受けて第1の方向とは異なる方向に反射し、少なくとも1つの第2の反射面は、少なくとも1つの第2のミラーの高反射面である。
【0011】
この改良では、既知のビーム反転モジュールの両方のTIR面が高反射性のミラー面で置換され、したがって熱レンズ効果がさらに低減される。さらに、この改良により、さらなる好ましい改良によって提供されるように、既知のビーム反転モジュールの場合と同様、第1の反射面と少なくとも1つの第2の反射面が、少なくとも1つの第2の反射面で反射されたレーザビームが入来レーザビームと交差するように設定された角を形成するように配置され得るので、下流のビーム偏向素子および/または上流のビーム偏向素子を省くことができる。
前述の改良の状況では、第1のミラーおよび少なくとも1つの第2のミラーは、第1の反射面と少なくとも1つの第2の反射面の間に形成される角度を定義するベースプレート上に、光学的に接合されている。
【0012】
さらなる好ましい改良では、前述の角度は約85°〜約95°の範囲に設定され、好ましくは約90°に設定される。
さらに、第1のミラーおよび第2のミラーは、レーザビームが約40°〜約50°の範囲の入射角で、好ましくは約45°の入射角で第1の反射面および少なくとも1つの第2の反射面に当たるように配置されるのが好ましい。
本発明の第2の態様によれば、本発明の基をなす目的は、入来レーザビームが入るレーザビーム入射面を有するプリズムと、プリズムに入って来るレーザビームを受けるための第1のTIR面と、第1のTIR面で反射されたレーザビームを受けるための第2のTIR面であって、60°を上回る角度を形成する第1のTIR面および第2のTIR面と、第2のTIR面で反射されたレーザビームがプリズムから出るレーザビーム出口面とを備える、レーザ機構の光パワー増幅器用のビーム反転モジュールであって、入射面が、入来レーザビームに対して、入来レーザビームの入射角がブルースター角を上回るように配置され、その結果、レーザビームが、増加したビーム幅を有してプリズムを通って伝搬するビーム反転モジュールを提供することによって達成される。
本発明のこの態様によれば、このビーム反転モジュールは、既知のビーム反転モジュールと同様にプリズムを備える。しかしながら、既知のビーム反転モジュールのプリズムは、入来ビームに対して、入射角が(レーザ光の波長に応じて)ブルースター角に等しくなるように配置されるのに対し、本発明のこの態様によるビーム反転モジュールでは入射角がブルースター角よりも大きく、その結果、プリズムを通って伝搬するレーザビームのビーム幅が、既知のビーム反転モジュールのプリズムを伝搬するレーザ光のビーム幅と比較して増加される。
プリズムを通って伝搬するレーザビームの内部のビーム幅が増加することにより、エネルギー密度およびTIR面上の熱負荷の勾配が低減し、したがって熱レンズ効果のリスクを低減することができる。
さらに、プリズムの入射面および/または出口面は、高いレーザ耐久性(HLD:High Laser Durability)の反射防止コーティングでコーティングされているのが好ましい。
【0013】
さらなる好ましい改良では、第1および第2の内部全反射面は、面吸収を最小化するやり方でこれらの面に関する電界条件を変化させる面保護コーティングを有する。
本発明のこの態様によるビーム反転モジュールを改良するための別の方策には、プリズムを通るレーザビームの光学的伝搬路を短縮するようにプリズムの厚さを低減することがある。
本発明のこの態様のさらなる改良には、0.2×10-4cm/mJ未満のリニアレーザ誘起吸収係数を有するCaF2で製作されたプリズムを提供するものがある。
【0014】
第1の態様によるビーム反転モジュールならびに第2の態様によるビーム反転モジュールに関連して用いられ得るさらなる好ましい改良では、ビーム反転モジュールがさらに備えるパージ装置が、ビーム反転モジュールの光学素子のうち少なくとも1つを、この光学素子の表面上またはその内部におけるレーザビームの位置に従って光学素子の面にわたって変化するパージ率で直接パージするように適合されている。
この改良は、ビーム反転モジュールの光学素子上またはその内部における熱勾配を低減することにより、熱レンズ効果を低減することするためのさらなる方策を提供するものである。たとえば、本発明の第1の態様による上流のビーム偏向素子および/または下流のビーム偏向素子あるいは本発明の第2の態様によるビーム反転プリズムは、レーザビームによって部分的にしか使用されず、これらの光学素子において、上記で説明された熱勾配がもたらされる。これらの光学素子を、光学素子上またはその内部におけるレーザビームの位置に従って光学素子の面にわたって変化するパージ率でパージすることにより、光学素子の熱勾配を低減することができる。したがって、パージ率は、光学素子の、レーザビームが通過する部分に相当する「熱い部位」ではより高く設定され、レーザビームが通過しない位置またはレーザビームの強度が低い位置に相当する「冷たい部位」では低いものになる。
【0015】
本発明によるレーザ機構の光増幅器が備えるビーム反転モジュールは、本発明の第1の態様、または本発明の第2の態様、および/または前述の改良のうちの任意のものによるものである。
以下の説明および添付図面から、さらなる特徴および利点が明らかになるであろう。
前述の特徴および以下でさらに説明される特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、所与の組合せばかりなく他の組合せで、または独立して用いられ得ることを理解されたい。
本発明の例示的実施形態が、添付図面を参照しながら以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来技術によるレーザ機構の一部分としての光パワー増幅器を示す図である。
図2図1から独立して拡大された図1の光パワー増幅器のビーム反転モジュールの光学素子を示す図である。
図3図1の光パワー増幅器において、図1に示されたビーム反転モジュールの代わりに使用されるビーム反転モジュールの第1の実施形態を示す図である。
図4図1の光パワー増幅器において、図1に示されたビーム反転モジュールの代わりに使用されるビーム反転モジュールの第2の実施形態を示す図である。
図5図1の光パワー増幅器において、図1に示されたビーム反転モジュールの代わりに使用されるビーム反転モジュールのさらなる実施形態を示す図である。
図6図1の光パワー増幅器において、図1に示されたビーム反転モジュールの代わりに使用される図2の光学素子の修正形態について説明するために図2の光学素子を示す図である。
図7】光学素子をパージするためのパージ装置を示す図である。
図8図7のパージ装置によって加えられるパージ率の空間依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、さらなる説明のために参照によってここで本出願に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0098120号で説明されているような、従来技術による、参照数字10で全体的にラベルが付けられた光パワー増幅器を示すものである。
光パワー増幅器10はレーザ機構の一部分を形成するものであり、たとえば主発振器またはシードレーザといったレーザ機構の他の部分は図面には示されていない。
光パワー増幅器10は、ビーム反転モジュール12と、電力アンプ室14と、レーザビームの拡張およびアウトカップリングのための光ユニット16とを備える。より詳細には、光ユニット16は、3つのプリズム18、20および22、折り畳み式ミラー24ならびにアウトカップリングミラー26を備える。
【0018】
主発振器またはシードレーザ(図示せず)から生じて光パワー増幅器に送り込まれるレーザビーム28は、光パワー増幅器10内で循環し、電力増幅が行われる電力増幅チャンバ14は、たとえばArF、KrFといったガスのようなレーザ活性媒質を含有している。
レーザビーム28は、光パワー増幅器10内で循環するとき、光パワー増幅器10の一端を形成するビーム反転モジュール12で反転される。
【0019】
米国特許出願公開第2010/0098120号によるビーム反転モジュール12は、入来レーザビーム28aがプリズム30に入るレーザビーム入射面38を有するビーム反転プリズム30と、プリズム30に入った後のレーザビーム28を受けるための第1の内部全反射(TIR)面36と、第1のTIR面36で反射されたレーザビーム28を受けるための第2のTIR面34であって、約90°または約90°をわずかに下回る角を形成する第1のTIR面36および第2のTIR面34とを備える。第2のTIR面34で反射されたレーザビーム28は、次いで、この場合はレーザ入射面38と一致するレーザビーム出口面32から出て来る。入来レーザビーム28aと出て来るレーザビーム28bとは、電力増幅チャンバ14内の交点39で交差する。
図2は、独立して拡大されたビーム反転プリズム30を示すものである。
【0020】
面コーティングによる光学面の吸収を測定するために、測定学の設定が確立されている。この方法は、光学面におけるレーザ光の透過(大部分)とTIR吸収の両方を0.01%未満の吸収レベルで検出することができるものである。ビーム反転プリズム30の面吸収を測定するとき、TIRの条件下では、透過において測定されたものと比較して、吸収がかなり増加することが判明した。これは、TIRで動作している光学部品の場合、波面における熱レンズを生ぜしめる大きな熱勾配をもたらすものである。
以下で、既知のビーム反転プリズム30に生じる熱レンズ効果の有害作用を改善するビーム反転モジュールの実施形態を説明する。
以下で説明されるビーム反転モジュールは、図1の光パワー増幅器10においてビーム反転モジュール12の代わりに使用され得、すなわち、以下で説明されるビーム反転モジュールは、ビームの反転および配向の点で同一の光学的機能を有するように設計されているものである。
以下で説明されるビーム反転モジュールの実施形態のいくつかは、ビーム反転プリズム30が他の光学素子で置換される新規の設計に基づくものであり、以下で説明されるビーム反転モジュールのいくつかの実施形態は、ビーム反転プリズム30の修正形態である。
図3はビーム反転モジュール40の第1の実施形態を示すものであり、図1のビーム反転プリズム30が2つの光学素子で置換されている。第1の光学素子は、高反射面面44を有するミラー42である。
【0021】
ビーム反転モジュール40は、プリズム48として構成されている下流のビーム偏向素子46をさらに備える。
第1の方向に伝搬する入来光ビーム28aは、ミラー42の高反射面44によって受けられて高反射面44で第2の方向へ反射され、反射されたレーザビーム28bになる。反射されたレーザビーム28bは、下流のビーム偏向素子46によって第3の方向へ方向を変えられるかまたは偏向されて、偏向されたレーザビーム28cになる。偏向されたレーザビーム28cは、電力増幅器チャンバ14内にレーザビームの交点39が存在するという図1に示された光学的機能を満たすために、図3に示されるように、入来レーザビーム28aと交差するような方向に伝搬する。
【0022】
下流の偏向素子は、図3に示されるように、入射面50および出口面52を有する透過性の光学素子であり、下流のビーム偏向素子46はミラー42の高反射面44で反射されたレーザビーム28bに対して、レーザビーム28bが、プリズム48を通って入射面50から出口面52へTIRなしで伝搬するように配置されている。
ビーム反転モジュール40により、ビーム反転プリズム30のTIR面34および36がなしで済まされ、その結果、TIR吸収はもはや問題ではない。さらに、下流のビーム偏向素子46のプリズム48が薄いことにより、プリズム48を通るレーザビーム28bの光学的伝搬路が比較的短く、その結果、レーザ誘起吸収も、ビーム反転プリズム30を通る長い光学的伝搬路と比較して大いに低減される。
【0023】
したがって、図1の光パワー増幅器10におけるビーム反転モジュール12の代わりにビーム反転モジュール40を使用すると、熱レンズ効果が大いに低減されるかまたは防止される。
入射面50および出口面52は、これらの面における反射損失を低減するために反射防止コーティングでコーティングされている。
図4は、図3のビーム反転モジュール40の修正形態であるビーム反転モジュール60の別の実施形態を示すものである。
【0024】
ビーム反転モジュール60は、高反射面64を有するミラー62を備える。
ビーム反転モジュール60は、下流のビーム偏向素子66および上流のビーム偏向素子68をさらに備える。下流のビーム偏向素子66および上流のビーム偏向素子68のために、個別の光学素子を、特に個別のプリズムとして用意することも可能であるが、この設計では、上流のビーム偏向素子68および下流のビーム偏向素子66は、単一のモノリシック光学素子として、この場合は単一のプリズム70として一緒に実施される。
上流のビーム偏向素子68は入射面72および出口面74を有し、下流のビーム偏向素子66は入射面76および出口面78を有し、出口面74および入射面76は、プリズム70の同一の面によって形成されている。
上流のビーム偏向素子68は透過性の光学素子であり、入来レーザビーム28は、上流のビーム偏向素子68を通って入射面72から出口面74へとTIRなしで伝搬する。
面72、74、76、78は、反射損失を最小化するために反射防止コーティングでコーティングされている。
入来レーザビーム28は、上流のビーム偏向素子68によって第1の方向へ偏向されてレーザビーム28aになる。レーザビーム28aは、高反射面64によって第2の方向へ反射されてレーザビーム28bになり、次いで、入来レーザビーム28と交差するように第3の方向へ偏向されてレーザビーム28cになる。
熱レンズ効果を低減するかさらには防止することに関するビーム反転モジュール60の利点は、ビーム反転モジュール40の利点と同等である。
図5はビーム反転モジュール80の別の実施形態に示すものであり、ビーム反転モジュール80は、第1のミラー82および第2のミラー84を備えることがビーム反転モジュール40および60とは異なる。第1のミラー82は高反射面86を有し、第2のミラー84は高反射面88を有する。反射面86および88は、図1のビーム反転モジュール12のTIR面34および36を置換する。
【0025】
入来レーザビーム28aは、反射面86で反射面88に向けて反射され、レーザビーム28cとしてビーム反転モジュール80を出る。
反射面86と反射面88の間に形成される角度90は、反射面88で反射されたレーザビーム28bが入来レーザビーム28aと交差するように設定されている。
特定の実施形態では、ミラー82および84が光学的に接合されているベースプレート92が、角度90を定義する角度98を形成する2つの側面94、96を有して設計されているという事実によって角度90を定義する。
【0026】
角度90は、約85°〜約95°の範囲に設定されている。
ミラー82および84は、入来レーザビーム28aに対して、レーザビーム28aが約40°〜約50°の範囲の入射角で、好ましくは約45°の入射角で反射面86に当たるように配置されている。反射面86で反射されたレーザビーム28bは、約40°〜約50°の範囲の入射角で、好ましくは約45°の入射角で反射面88に当たる。
【0027】
以下で、図1の既知のビーム反転プリズム30の修正形態であるビーム反転モジュールの別の実施形態を説明する。
図6は、図1のビーム反転モジュール12の場合と同様にプリズム102を備えるビーム反転モジュール100を示すものである。
プリズム102は、レーザビーム入射面104と、第1のTIR面106と、第2のTIR面108と、レーザビーム入射面104と一致するレーザビーム出口面110とを有する。
TIR面106と108は、その間に60°よりも大きい角度112を形成し、図6に示された実施形態では角度112は約90°である。
【0028】
熱レンズ効果を低減するかまたは防止するために、以下の方策を考慮に入れるべきである。
方策の1つには、入射面104を、入来レーザビーム28aに対して、入射角114がブルースター角を上回るように配置することによって、プリズム102を通って伝搬するときのレーザビームのビーム幅を増加させるものがある。プリズム102内でビーム幅が増加すると、TIR面106および108に対する熱負荷が低減され得る。入射面におけるp偏光の光の反射が、もはやブルースター角よりも大きな入射角に抑制されないので、入射面104をHLD(高いレーザ耐久性)の反射防止コーティングでコーティングする必要がある。
TIR面106、108におけるTIR吸収を低減するための別の方策には、CaF2上の電界を最小化する適切なコーティングによってTIR面106、108の電界条件を変化させるものがある。
熱レンズ効果を低減するためのさらなる方策には、0.2×10-4cm/mJ未満のリニアレーザ誘起吸収係数を有するCaF2をプリズム102の材料に用いるものがある。
図7は、たとえばパージガス136、138といったパージする媒体で光学素子100を直接パージするためのパージ装置134が配置されている図6Aの光学素子100を再び示すものである。パージ装置134は、レーザビームが光学素子100のTIR面106、108に当たるときの位置140、142に依拠するパージ率で光学素子100をパージするように適合されている。矢印146、148は、レーザビームの位置に依存した局所的パージ率を示すものである。パージ率はレーザビームの位置140、142で最も高く、レーザビームの位置140、142の外側の光学素子100の部位の上では低下する。
【0029】
図8は、光学素子100の位置POSに対するパージ率PRの依存性を示すものである。
【0030】
図7および図8を参照しながら説明した、熱レンズ効果を低減するかまたは防止するための方策は、図3図5に関して説明した実施形態および方策と組合せ可能であることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8