(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特にマイクロリソグラフィの分野では、高精度を有するコンポーネントの使用だけでな
く、結像装置のコンポーネント、例えばレンズ、ミラー、及び回折格子等の光学素子の幾
位置及び何学的形状を動作中に可及的に不変に保つことで、それに対応して高い結像品質
を得るようにする必要がある。精度に関する厳しい要件(数ナノメートル以下の大きさと
する)は、それでもなお、製造する超小型電子回路の小型化を推進するために超小型電子
回路の作製で使用する光学系の分解能を小さくすることが必要であり続ける結果として生
じる。
【0003】
高分解能を得るためには、5nm〜20nm近傍(通常は約13nm)の作動波長で極
UV(EUV)範囲において作動する系の場合のように、使用する光の波長を減らしても
よく、又は使用する投影系の開口数を増やしてもよい。開口数の値を著しく大きくして1
を超えるようにする1つの可能性は、いわゆる液浸系で実現され、1よりも大きな屈折率
を有する液浸媒体を、通常は投影系の最終光学素子と被露光基板との間に配置する。開口
数をさらに大きくすることは、特に高い屈折率を有する光学素子で可能である。
【0004】
いわゆる単一(single)液浸系では、液浸素子(すなわち、少なくとも一部が浸漬状態
で液浸媒体に接触する光学素子)は、通常は被露光基板の最も近くに位置する最終光学素
子であることが理解されよう。ここで、液浸媒体は、通常はこの最終光学素子及び基板に
接触する。いわゆる二重(double)液浸系では、液浸素子は、必ずしも最終光学素子、す
なわち基板の最も近くに位置する光学素子である必要はない。こうした二重又は多重(mu
ltiple)液浸系では、液浸素子を1つ又は複数のさらに他の光学素子により基板から分離
することもできる。この場合、液浸素子を少なくとも部分的に浸漬させる液浸媒体を、例
えば光学系の2つの光学素子間に配置することができる。
【0005】
作動波長を減らすとともに開口数を大きくすると、使用する光学素子の位置決め精度及
び寸法精度に関する要件が動作全体にわたってより厳しくなるだけではない。当然ながら
、光学構成体全体の結像誤差の最小化に関する要件も増す。
【0006】
各光学素子の変形及びそれにより生じる結像誤差は、こうした状況で特に重要である。
より詳細には、光学素子に接触する浸液の蒸発作用が大きな熱擾乱を光学素子に導入する
ことで、光学素子内の比較的大きな局所温度勾配につながり得ることが判明した。これら
の大きな局所温度勾配は、光学素子にかなりの応力を導入させることとなり、これがさら
に結像誤差の増加につながる。
【0007】
これらの蒸発作用が特に望ましくないのは、理想的条件下では液浸媒体で濡らすべきで
はない液浸素子の(理想的)乾燥領域である。しかしながら、現実の動作条件下では、被
露光基板がある時点で液浸素子に対して比較的高速の相対移動を行わなければならないた
め、運動エネルギーが液浸媒体に伝達されることで、浸漬浴の特定のスロッシング運動が
生じる。このスロッシング運動は、これらの乾燥領域を、浸液膜又は浸液飛散等の液浸媒
体の一部で偶発的に濡らしてしまう。これらの通常は無作為に分布しほとんど予測不可能
な膜又は飛散は、蒸発し易いことで上述のような結像誤差に対する望ましくない結果をも
たらす傾向がある。
【0008】
この問題を解決するために、液浸素子のこれらの乾燥領域に疎水性コーティングを設け
て、蒸発するほど、したがって液浸素子著しい熱擾乱を導入するほど長く液浸素子に接触
し得る浸液の量を減らすことが提案されている。しかしながら、疎水性があるにもかかわ
らず、こうしたコーティングの使用は、乾燥領域から液浸媒体を急速に除去させるために
、浸液飛散又は浸液膜に作用する重力に依存しなければならない。したがって、特に好ま
しくない幾何学的条件下では、これらの疎水性コーティングは、著しく蒸発する前に液浸
媒体を急速に除去させるのに十分でない場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施形態
以下において、本発明による光学構成体の好適な実施形態を備える本発明による光学結
像装置の好適な第1実施形態を、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0019】
図1は、193nmの波長を有するUV範囲の光で動作するマイクロリソグラフィ装置
101の形態の、本発明による光学結像装置の好適な実施形態の概略図である。
【0020】
マイクロリソグラフィ装置101は、照明系102、マスクテーブル103を有するマ
スク装置、光軸104.1を有する対物レンズ104の形態の光学投影系、及び基板装置
105を備える。マイクロリソグラフィ装置101で実施する露光又は光学結像プロセス
では、照明系102が、マスクテーブル103上に配置したマスク103.1を193n
mの波長を有する投影光ビーム(より詳細には図示せず)で照明する。投影パターンをマ
スク104.3に形成し、これを、投影光ビームにより対物レンズ104内に配置した光
学素子を介して、基板装置105のウェーハテーブル105.2上に配置したウェーハ1
05.1の形態の基板に投影する。
【0021】
対物レンズ104は、一連の光学素子107、108により形成した光学素子群106
を備える。光学素子107、108は、対物レンズ104のハウジング104.2内に保
持される。作動波長が193nmであるため、光学素子107、108は、レンズ等の屈
折光学素子である。光学結像プロセス中にウェーハ105.1の最も近くに位置する最終
光学素子108は、いわゆる閉鎖素子又は最終レンズ素子である。
【0022】
マイクロリソグラフィ装置101は液浸系である。したがって、液浸区域109におい
て、液浸媒体109.1、例えば高純度浄水等を、ウェーハ105.1と最終レンズ素子
109との間に配置する。液浸区域109内には、液浸媒体109.1の液浸浴を設け、
この液浸浴は、一方では少なくともウェーハ105.1のうち実際に露光させる部分によ
り下方限度が定められる。液浸浴の側方限度は、液浸フレーム109.2(通常は液浸フ
ードとも称する)により少なくとも部分的に設けられる。少なくとも最終レンズ素子10
8のうち露光中に光学的に使用されて対物レンズ104の外側にある部分を、液浸浴に浸
漬させるため、最終レンズ素子108は、本発明において液浸素子となる。したがって、
最終レンズ素子108から最終レンズ素子108とウェーハ105.1との間に出る光の
経路は、液浸媒体109.1内にのみ位置する。
【0023】
液浸媒体109.1の屈折率の値が1を超えることにより、開口数NA>1が得られ、
最終レンズ素子とウェーハとの間にガス雰囲気を有する従来の系に比べて分解能が高まる
。
【0024】
図2は、液浸素子108の領域におけるマイクロリソグラフィ装置101の一部の概略
部分断面図で、本発明による光学構成体110の好適な実施形態を示す。
図2から最もよ
く分かるように、液浸素子108(光学構成体110の一部を形成する)は、光学結像プ
ロセス中に浸液109.1(同じく光学構成体110の一部を形成する)に接触してこれ
で濡れている第1表面領域108.1を有する。したがって、以下において、この第1表
面領域108.1を液浸素子108の湿潤表面領域とも称する。
【0025】
さらに、液浸素子108は第2表面領域108.2を有し、これは、第1表面領域10
8.1に隣接して位置し、光学結像プロセス中の理想的又は静的条件下では液浸浴に接触
させてはならない。したがって、この第2表面領域108.2を液浸素子の(理想的)乾
燥表面領域とも称する。
【0026】
しかしながら、マイクロリソグラフィ装置101の現実の動作条件下では、被露光ウェ
ーハ105.1がある時点で液浸素子108に対して(x方向及びy方向に)比較的高速
の相対移動を行わなければならないため、運動エネルギーが液浸媒体109.1に伝達さ
れることで、浸漬浴のある程度のスロッシング運動が生じる。このスロッシング運動は、
図2に浸液滴109.3で例示的に示すように、乾燥領域108.2を、浸液薄膜、浸液
飛散、又は浸液滴等の浸液の一部で偶発的に濡らしてしまう。詳細に上述したように、こ
れらの通常は無作為に分布しほとんど予測不可能な膜又は飛散は、蒸発し易いことで液浸
素子108内に高い局所温度勾配をもたらし、その結果として液浸素子108を介して結
像プロセスに導入される結像誤差を増やすという望ましくない作用をもたらす。
【0027】
これらの蒸発作用を少なくとも低減するために、光学構成体111は、撥液装置111
を含む。撥液装置111は、浸液109.1のうち乾燥表面領域108.2に偶発的に接
触した部分、例えば浸液滴109.3等に対して、反発力Fを加える役割を果たす。
図2
から分かるように、この反発力Fは、乾燥表面領域108.2に偶発的に接触した滴10
9.3を乾燥表面領域108.2から素早く取り払うのに役立つ方向を有する。このよう
にして、乾燥表面領域108.2と滴109.3との接触時間を少なくとも短縮すること
で、液浸素子108の局所冷却(滴109.3の一部又はさらには滴109.3全体の蒸
発により生じる)の低減をもたらす。
【0028】
撥液装置111は、
図2に示す実施形態では、湿潤表面領域108.1に位置付けた導
電素子111.1の形態の場発生素子を介してこの反発力Fを得る。導電素子111.1
は、液浸素子108の光学素子本体108.4の外表面108.3に形成した1層のコー
ティングにより形成する。コーティング111.1は、クロム(Cr)、アルミニウム(
Al)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)を(単独で又は任意の
組み合わせで)含む導電性材料、又は装置101で実施する特定の光学結像用途での使用
に承認されている他の導電性材料(すなわち、ここでは、マイクロリソグラフィ用途での
使用に承認されている任意の他の導電性材料)でできている。
【0029】
導電素子111.1は、第1電場E1を発生させ、これに浸液109.1が反応するこ
とで、滴109.3に作用する反発力Fが生じる。図示の実施形態では、電場E1は、導
電素子111.1を帯電させることにより発生させる。これは、導電素子111.1に静
電荷を与えるために導電素子111.1に一時的に電気的に接触する第1場発生装置11
1.2を介して行う。
【0030】
導電素子111.1における静電荷の極性は、浸液と滴109.3に加わる反発力とに
応じて変わる。
図2に示す実施形態では、導電素子111.1を湿潤表面領域108.1
に配置することで、導電素子111.1の静電荷により誘起され滴109.3と導電素子
111.1との間に作用する引力により、反発力Fを与える。
【0031】
図2に示す実施形態では、導電素子111.1に負(又は正)の電荷を与えて、帯電し
た素子111.1により生成された不均一静電場(100V/m
2〜10000V/m
2
、好ましくは500V/m
2〜5000V/m
2の場の勾配を示す)と帯電した素子11
1.1の静電場により電気的に分極された浸液109.1(すなわち、帯電した素子11
1.1により生成された場の結果として浸液109.1として使用する高純度浄水中で電
気双極子の向きを示す)との間の相互作用で、所望の反発力Fを得るようにする。
【0032】
これに関連して、以下の基本事項を適用する。次式に従い、乾燥表面領域108.2上
にある半径r=2mmの浸液滴109.3は、1mNのオーダにある引力A(その表面張
力及び表面領域108.2の表面との相互作用からそこに生じる約80・10
−3N/m
の表面エネルギーSEによる)を受ける。
【0034】
克服すべき静摩擦力は、1mN〜1・10
−3mNのオーダである。
【0035】
次式に従い、点電荷Qが距離dで電場Eを発生させる。
【0037】
式中、ε
0=8.85・10
−12C/(V・m)は電気定数である(真空の誘電率とも
称する)。したがって、電場勾配dΕ/drを次式に従い計算する。
【0039】
概算では、次式に従い、電場Eにおける水滴が電気分極Pを受ける。
【0041】
式中、ε
rは比誘電率である(誘電定数とも称する)。したがって、水滴について比誘電
率ε
r=80として、式(2)〜(4)を用いて、こうした電気的に分極された水滴に対
する力を次式に従い計算する。
【0043】
したがって、Q=1nC(=1.9・10
10e、eは素電荷)の点電荷が、距離d=
0.1mで、電場E=900V/m及び電場勾配dE/dr=1.8・10
4V/m
2を
誘起する。したがって、水滴は、第一近似で、6.3・10
−7Cmの双極子モーメント
を受ける。したがって、結果として水滴に加わる力はF=11・10
−3Nである。した
がって、100V/m
2〜10000V/m
2、好ましくは500V/m
2〜5000V
/m
2の場の勾配があることが好ましい。
【0044】
しかしながら、本発明の他の実施形態では、所望の反発力Fを得るために、液浸媒体自
体に対応の電荷を(適当な手段により)供給することができることが理解されよう。明ら
かに、その場合、導電素子の電荷は、液浸媒体の電荷に応じて選択される(逆もまた同様
)。
【0045】
これに関連して、以下の基本事項を適用する。荷電液浸媒体中で、電場Eにおいて電荷
Qを有する滴に作用する力Fを、次式に従い計算する。
【0047】
したがって、電場E=1・10
3V/mにおいて力F1・10
−3Nを得るためには、
Q=1・10
−6Cの電荷が必要である。
【0048】
導電素子111.1の電荷は、システムの寿命にわたってその電荷に実質的な損失が予
想されなければ、一度しか供給しなくてもよいことが理解されよう。しかしながら、
図2
に示すように、場発生装置111.2は、導電素子111.1において静電荷を所望のレ
ベルに維持するために、導電素子111.1に時々(例えば、露光するウェーハ105.
1を変えるごとに)電気的に接触させるよう構成する。
【0049】
導電素子111.1の放電を防止するために、電気絶縁素子111.3を、導電素子1
11.1の浸液109.1に面した第3表面領域111.4に設ける。電気絶縁素子11
1.3は、装置101で実施する特定の光学結像用途での使用に承認されている任意の適
当な電気絶縁材料(すなわち、ここでは、マイクロリソグラフィ用途での使用に承認され
ている任意の他の電気絶縁材料)から形成することができる。
【0050】
電気絶縁素子111.3は、導電素子111.1の外表面111.4に形成した1層の
コーティングにより形成する。コーティング111.3は、二酸化ケイ素(SiO
2)、
酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)を(単独で又は任意の組み合わせで)含む電気絶縁材料、又は任意の他の適当な
電気絶縁材料でできている。
【0051】
二酸化ケイ素(SiO
2)には、湿潤表面領域108.1に優れた湿潤特性をもたらす
親水性材料であるという利点もあることが理解されよう。しかしながら、本発明の他の実
施形態では、少なくとも1つの電気絶縁層及び少なくとも1つの親水性層の組み合わせを
、電気絶縁素子に選択することができることが理解されよう。
【0052】
本発明の他の実施形態では、放電を可及的に防止するために、導電素子をこうした電気
絶縁素子に完全に埋め込むこともできることがさらに理解されよう。
【0053】
導電素子111.1は、液浸浴の自由表面109.4が理想的に位置する領域で、すな
わち湿潤表面領域108.1と乾燥表面領域108.2との間の移行部で終端する。した
がって、乾燥表面領域108.2からの浸液部分の除去が反発力Fにより十分に補助され
る。
【0054】
図2から分かるように、図示の実施形態では、光学素子本体108.4の乾燥表面領域
108.2に疎水性コーティング112をさらに設け、乾燥表面領域108.2からの偶
発的な浸液部分の除去をさらに促す。しかしながら、本発明の他の実施形態では、こうし
た疎水性コーティングを省くこともできる。
【0055】
本発明の他の実施形態では、導電素子111.1の代わりに又はこれに加えて、
図2に
破線輪郭113で示すように、導電素子(反発力Fを誘起する電場を発生させるか又はこ
のような電場に寄与する)を液浸素子以外の場所に、例えば液浸フレーム109.2に設
けることもできることが理解されよう。こうした導電素子113の動作の実施及び原理は
、導電素子111.1の動作の実施及び原理と同一であるため、ここでは上述の説明を単
に参照されたい。
【0056】
本発明の他の実施形態では、単一の導電素子111.1の代わりに、複数の導電素子を
撥液装置で使用することができることが理解されよう。さらに、特に発生させる電場に応
じて、(事実上任意の組み合わせの)異なるサイズ及び/又は形状及び/又は材料をこれ
らの導電素子に選択することができる。
【0057】
反発力Fを、乾燥表面領域108.2の空間的向きに関係なく得ることができることが
さらに理解されよう。したがって、水平の向きの乾燥表面領域でさえも、こうした浸液滴
109.3から容易に引き離すことができる。換言すれば、本発明を使用して、重力に基
づく解決手段で通常は望ましい結果が得られない条件下で、こうした浸液膜、浸液飛散、
又は浸液滴の排除を達成することさえできる。
【0058】
重力は、本発明による撥液装置110が与える反発力Fを支援できることが理解されよ
う。換言すれば、乾燥表面領域108.2からの望ましくない浸液部分109.3のさら
なる移動が重力により少なくとも支援されるか、又はある点を越えると重力により大部分
が若しくは完全に行われる程度に、反発力Fが浸液部分109.3の移動を誘発又は誘導
すれば十分である。
【0059】
乾燥表面からの滴109.3の除去を促すことに加えて、撥液装置111は、発生した
反発力Fにより、浸液のスロッシング運動の結果としての乾燥表面領域におけるこうした
浸液部分の形成を防止するのにも役立つことが理解されよう。
【0060】
図3は、マイクロリソグラフィ装置101で実行することができ、本発明による光学結
像プロセス中の光学素子の表面における液体蒸発作用を低減する方法を含む、光学結像法
の好適な実施形態のブロック図を示す。
【0061】
最初に、ステップ114.1において、方法の実行を開始する。ステップ114.2に
おいて、マイクロリソグラフィ装置101のコンポーネントを、上述の構成を得るように
互いに対して位置決めする。
【0062】
ステップ114.3において、マスク103.1上の投影パターンの少なくとも一部を
上述したようにウェーハ105.1に投影する。ステップ114.3において、この投影
と並行して、液体反発力Fを上述したように撥液装置111により発生させる。
【0063】
ステップ114.5において、方法の実行を停止させるか否かをチェックする。停止さ
せる場合、ステップ114.6において、方法の実行を停止させる。そうでない場合はス
テップ114.3に戻る。
【0064】
第2実施形態
以下において、本発明による光学構成体210の好適な第2実施形態を、
図1、
図3、
及び
図4を参照して説明する。光学構成体210は、
図1のマイクロリソグラフィ装置1
01における光学構成体110の代わりとすることができる。光学構成体210は、その
基本的な設計及び機能性が光学構成体110と概ね対応するため、相違点のみに主に言及
する。特に、同様のコンポーネントには、100を足して同じ参照符号を付けてある。こ
うしたコンポーネントの特性に関して以下で別段の記載のない場合、上述の説明を参照さ
れたい。
【0065】
図4は、
図2と同様の概略部分断面図で光学構成体210を示す。
図4から最もよく分
かるように、液浸素子108(光学構成体210の一部を形成する)は、この場合も光学
結像プロセス中に浸液109.1(同じく光学構成体210の一部を形成する)に接触し
てこれで濡れている湿潤第1表面領域108.1を有する。さらに、液浸素子108は、
この場合も乾燥第2表面領域108.2を有し、これは、第1表面領域108.1に隣接
して位置し、光学結像プロセス中の理想的又は静的条件下では液浸浴に接触させてはなら
ない。
【0066】
浸液膜、浸液飛散、又は浸液滴109.3の蒸発作用を少なくとも低減するために、光
学構成体211は、撥液装置211を含む。撥液装置211は、浸液109.1のうち乾
燥表面領域108.2に偶発的に接触した部分、例えば浸液滴109.3等に対して、反
発力Fを加える役割を果たす。
図3から分かるように、この反発力Fは、乾燥表面領域1
08.2に偶発的に接触した滴109.3を乾燥表面領域108.2から素早く取り払う
のに役立つ方向を有する。このようにして、乾燥表面領域108.2と滴109.3との
接触時間を少なくとも短縮することで、液浸素子108の局所冷却(滴109.3の一部
又はさらには滴109.3全体の蒸発により生じる)の低減をもたらす。
【0067】
撥液装置211は、
図4に示す実施形態では、乾燥表面領域108.2に位置付けた導
電素子211.1の形態の場発生素子を介してこの反発力Fを得る。導電素子211.1
は、液浸素子108の光学素子本体108.4の外表面108.3に形成した1層のコー
ティングにより形成する。コーティング211.1は、クロム(Cr)、アルミニウム(
Al)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)を(単独で又は任意の
組み合わせで)含む導電性材料、又は装置101で実施する特定の光学結像用途での使用
に承認されている他の導電性材料(すなわち、ここでは、マイクロリソグラフィ用途での
使用に承認されている任意の他の導電性材料)でできている。
【0068】
導電素子211.1は、第1電場E1を発生させ、これに浸液109.1が反応するこ
とで、滴109.3に作用する反発力Fが生じる。図示の実施形態では、電場E1は、導
電素子211.1を帯電させることにより発生させる。これは、導電素子211.1に静
電荷を与えるために導電素子211.1に一時的に電気的に接触する第1場発生装置21
1.2を介して行う。
【0069】
導電素子211.1における静電荷の極性は、浸液と滴109.3に加わる反発力Fと
に応じて変わる。
図4に示す実施形態では、導電素子211.1を乾燥表面領域108.
2に配置することで、導電素子211.1の静電荷により誘起され滴109.3と導電素
子211.1との間に作用する斥力により、反発力Fを与える。
【0070】
図4に示す実施形態では、導電素子211.1に負(又は正)の電荷を与えて、浸液1
09.1として使用する高純度浄水中での電気双極子の向きにより形成される浸液109
.1の電気極性との相互作用で、所望の反発力Fを得るようにする。浸液109.1にお
けるこの極性は、撥液装置211のさらに別の第2場発生装置211.5により発生させ
た第2電場E2を介して得られる。
【0071】
しかしながら、本発明の他の実施形態では、所望の反発力Fを得るために、液浸媒体自
体に対応の電荷を(適当な手段により)供給することができることが理解されよう。明ら
かに、その場合、導電素子の電荷は、液浸媒体の電荷に応じて選択される(逆もまた同様
)。
【0072】
導電素子211.1の電荷は、システムの寿命にわたってその電荷に実質的な損失が予
想されなければ、一度しか供給しなくてもよいことが理解されよう。しかしながら、
図3
に示すように、場発生装置211.2は、導電素子211.1において静電荷を所望のレ
ベルに維持するために、導電素子211.1に時々(例えば、露光するウェーハ105.
1を変えるごとに)電気的に接触させるよう構成する。
【0073】
導電素子211.1の放電を防止するために、電気絶縁素子211.3を、導電素子2
11.1の浸液109.1に面した第3表面領域211.4に設ける。電気絶縁素子21
1.3は、装置101で実施する特定の光学結像用途での使用に承認されている任意の適
当な電気絶縁材料(すなわち、ここでは、マイクロリソグラフィ用途での使用に承認され
ている任意の他の電気絶縁材料)から形成することができる。
【0074】
電気絶縁素子211.3は、導電素子211.1の外表面211.4に形成した1層の
コーティングにより形成する。コーティング211.3は、ダイヤモンド状炭素(DLC
)又はテフロン(登録商標)状材料のような疎水性材料を(単独で又は任意の組み合わせ
で)含む電気絶縁材料でできているか、又は付加的な疎水性材料で最終的に被覆したSi
O
2、Al
2O
3、若しくはTa
2O
5のような親水性材料又は任意の他の適当な電気絶
縁材料でできている。
【0075】
電気絶縁材料は、乾燥表面領域108.2に優れた湿潤特性をもたらす疎水性材料であ
ることが好ましいことが理解されよう。しかしながら、本発明の他の実施形態では、少な
くとも1つの電気絶縁層及び少なくとも1つの疎水性層の組み合わせを、電気絶縁素子に
選択することができることが理解されよう。
【0076】
本発明の他の実施形態では、放電を可及的に防止するために、導電素子をこうした電気
絶縁素子に完全に埋め込むこともできることがさらに理解されよう。
【0077】
導電素子211.1は、液浸浴の自由表面109.4が理想的に位置する領域で、すな
わち湿潤表面領域108.1と乾燥表面領域108.2との間の移行部で終端する。した
がって、乾燥表面領域108.2からの浸液部分の除去が反発力Fにより十分に補助され
る。
【0078】
図4から分かるように、図示の実施形態では、光学素子本体108.4の湿潤表面領域
108.1に親水性コーティング212をさらに設け、湿潤表面108.1の十分な湿潤
を促す。しかしながら、本発明の他の実施形態では、こうした親水性コーティングを省く
こともできる。
【0079】
本発明の他の実施形態では、導電素子211.1の代わりに又はこれに加えて、
図4に
破線輪郭214で示すように、第1実施形態に関連して説明したような導電素子(反発力
Fを誘起する電場を発生させるか又はこのような電場に寄与する)を設けることもできる
ことが理解されよう。こうした導電素子214の動作の実施及び原理は、導電素子111
.1の動作の実施及び原理と同一であるため、ここでは上述の説明を単に参照されたい。
【0080】
本発明の他の実施形態では、単一の導電素子211.1の代わりに、複数の導電素子を
撥液装置で使用することができることが理解されよう。さらに、特に発生させる電場に応
じて、(事実上任意の組み合わせの)異なるサイズ及び/又は形状及び/又は材料をこれ
らの導電素子に選択することができる。
【0081】
反発力Fを、乾燥表面領域108.2の空間的向きに関係なく得ることができることが
さらに理解されよう。したがって、水平の向きの乾燥表面領域でさえも、こうした浸液滴
109.3から容易に引き離すことができる。換言すれば、本発明を使用して、重力に基
づく解決手段で通常は望ましい結果が得られない条件下で、こうした浸液膜、浸液飛散、
又は浸液滴の排除を達成することさえできる。
【0082】
重力は、本発明による撥液装置210が与える反発力Fを支援できることが理解されよ
う。換言すれば、乾燥表面領域108.2からの望ましくない浸液部分109.3のさら
なる移動が重力により少なくとも支援されるか、又はある点を越えると重力により大部分
が若しくは完全に行われる程度に、反発力Fが浸液部分109.3の移動を誘発又は誘導
すれば十分である。
【0083】
図3を参照して上述した方法を第2実施形態でも実行することができるため、ここでは
上述の説明を単に参照されたいことが理解されるであろう。
【0084】
上記では、反発力を誘起する電場が静電場である例により本発明を説明した。しかしな
がら、浸液が反応して所望の反発力Fを発生させる電気力場(electrodynamic fields)
を使用して本発明を実施することもできることが理解されよう。
【0085】
上記では、光学素子群が屈折光学素子のみからなる例により本発明を説明した。しかし
ながら、特に種々の波長で結像プロセスを実施する場合、屈折光学素子、反射光学素子、
又は回折光学素子を単独で又は任意の組み合わせで含む光学素子群と共に、本発明を当然
ながら使用することができることに、ここで言及しておく。
【0086】
さらに、上記では、マイクロリソグラフィの分野での例により本発明を説明したことに
言及しておく。しかしながら、本発明を任意の他の用途及び結像プロセスに使用すること
もできることが理解されよう。