【文献】
石橋央成, 藤本博志,NC工作機械における可変パルス数計時法を用いた主軸モータによる力センサレス切削抵抗制御,電気学会研究会資料,日本,一般社団法人電気学会,2013年 3月 7日,IIC-13, 17-32,67-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1〜3に開示される手法では、切削抵抗の変動及び切り取り厚さの変動の周期性を崩すために、主軸の回転速度を所定の変動振幅及び周期で変動させるようにしており、これによって、自励びびり振動が抑制される。したがって、主軸回転速度の変動振幅を大きくするほど自励びびり振動が抑制され、逆に、変動周期は、これが短いほど自励びびり振動が抑制される。
【0006】
主軸回転速度を、
図14に示す如く、所定の変動振幅(2×N
A)[rad/s]及び周期(T)[s]で変動させて、CAE解析手法などを用いた加工シミュレーションを行ったときの、工具の変位状態を
図15及び
図16に示す。
図15は、横軸に速度変動率RVAをとり、縦軸に速度変動周期比RVFをとって、工具の変位(振動)の大きさ(レベル)を、これに応じて色分けした状態図であって、更に、これをグレースケールで表わした状態図である。また、
図16は、縦軸に工具の変位をとり、横軸に速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをとって、同様に、工具の変位の大きさに応じ色分けして3次元的に表した状態図であって、これをグレースケールで表わした状態図である。色分けは、変位が大きいほど濃い赤色、変位が小さいほど濃い青色、中間を黄色としている。尚、前記速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFは、次式によって表される。
RVA=N
A/N
0
RVF=2π/(N
0×T)
但し、N
0は主軸の平均回転速度[rad/s]である。
【0007】
また、上記の加工シミュレーションでは、工具の送り速度Vsを2×10
−3[m/s]、切削幅aを5×10
−3[m]、固有切削力Ktを300[MPa]、動的質量Mを10[Ns
2/m]、機械インピーダンスBを200[Ns/m]、動的剛性Kを5×10
5[N/m]に設定するとともに、主軸の平均回転速度N
0を自励びびり振動が発生する262[rad/s]に設定し、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをそれぞれ0.001以上1.0未満の範囲で変化させた。
【0008】
図15及び
図16に示すように、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをそれぞれ大きくとるほど工具の変位、即ち、振動が小さくなることが分かる。また、速度変動率RVAが0.05となる付近を境に急激に工具の自励びびり振動が抑圧され、速度変動率RVAがこれより小さい領域では、工具の変位が抑えられていることが分かる。
【0009】
また、この例で、速度変動率RVAを0.1に固定して速度変動周期比RVFを変化させたときの工具の変位を
図17に示す。この場合、RVFを0.5以上に設定することで、工具の自励びびり振動が抑えられることが分かる。
【0010】
これら、
図15〜
図17から分かるように、速度変動率RVA及び速度変動周期比RVFをそれぞれ大きくとるほど、即ち、主軸回転速度の変動振幅を大きくするほど自励びびり振動が抑制され、逆に、変動周期は、これが短いほど自励びびり振動が抑制される。
【0011】
ところが、主軸回転速度の変動振幅を大きくすると、自励びびり振動を安定して抑制することができるというメリットがある反面、例えば、旋盤の場合には、ワーク1回転あたりの工具の送り量に大きな変動を生じ、また、同様に、マシニングセンタの場合には、工具1回転あたりの送り量に大きな変動を生じ、いずれの場合にも、ワーク加工面の表面粗さが不均一になる、即ち、加工精度が悪化するという問題を生じる。
【0012】
一方、主軸回転速度の変動周期についても同様に、これが短いほど自励びびり振動が抑制されるが、その反面、主軸回転速度を短い周期で変動させることによって、ワーク加工面の表面粗さにムラを生じて加工精度が悪化する傾向にあるものの、この変動周期については、これを短周期としても、上記変動振幅を大きくした場合に比べて、加工精度に与える影響は小さい。
【0013】
したがって、自励びびり振動を抑制しながら、好適な加工精度を得るには、可能な範囲で主軸回転速度の変動振幅
をできるだけ小さくする一方、変動周期をできるだけ短周期とするのが好ましい。
【0014】
ところが、本発明者らの研究によれば、主軸回転速度の変動周期を短周期にすると、主軸モータに入力される外乱としての切削抵抗が短周期で変動するため、指令回転速度と実回転速度との偏差を補償する通常のフィードバック制御では、追従誤差を好適に補償することができず、自励びびり振動を予定通りに抑圧することができない虞があるという問題を知見するに至った。
【0015】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、主軸モータの回転速度を予め定めた振幅及び周期で変動させるとともに、外乱によって生じる回転速度の追従誤差を、従来に比べてより安定的に補償することができる制御装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、工作機械の主軸を回転させる主軸モータを制御する制御装置であって、
前記主軸モータの目標回転速度に係る速度指令信号を受信し、該目標回転速度を中心として予め定めた振幅及び周期で変動する変動速度指令信号を生成して出力する変動速度信号生成部と、
前記変動速度信号生成部から入力される変動速度指令信号を基に、前記主軸モータを駆動するための電流指令信号を生成して出力する電流制御部と、
前記変動速度信号生成部から出力される変動速度指令信号と前記主軸モータの現在回転速度に係る信号との偏差を基に補正信号を生成して、前記電流指令信号に付加するフィードバック制御部と、
前記偏差を基に、加工の切削抵抗に起因した外乱成分を、前記主軸モータの予め定めた回転角度毎
、即ち位相θ[i]毎に順次算出して記憶するとともに、前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応
した前記主軸モータの
位相であって、前記主軸モータの実回転角度、即ち実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]に対応した外乱成分を、記憶した外乱成分から読み出して、該外乱成分を基に補償信号を生成し、生成した補償信号を前記変動速度指令信号に付加する学習制御部とを備えた主軸モータの制御装置に係る。
但し、前記iは1からNの整数である。
【0017】
この制御装置によれば、前記主軸モータを駆動する際に、まず、目標回転速度に係る速度指令信号が変動速度信号生成部に入力される。この目標回転速度は、例えば、NCプログラムに従って駆動される場合には、当該NCプログラム中に指定され、指定された目標回転速度に係る速度指令信号が適宜前記変動速度信号生成部に入力される。そして、速度指令信号が変動速度信号生成部に入力されると、当該変動速度信号生成部は、受信した目標回転速度を中心として予め定めた振幅及び周期で変動する変動速度指令信号を生成して、電流制御部に送信する。
【0018】
ついで、前記電流制御部は、前記変動速度信号生成部から入力される変動速度指令信号を基に、前記主軸モータを駆動するための電流指令信号を生成して出力し、主軸モータはこの電流指令信号に従って駆動される。その際、前記フィードバック制御部により、前記変動速度信号生成部から出力される変動速度指令信号と前記主軸モータの現在回転速度に係る信号との偏差を基に補正信号が生成され、生成された補正信号が前記電流指令信号に付加される。
【0019】
また、前記学習制御部により、前記偏差を基に、加工の切削抵抗に起因した外乱成分が、前記主軸モータの予め定めた
位相θ[i]毎に順次算出されて記憶されるとともに、前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応
した前記主軸モータの
位相であって、前記主軸モータの実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]に対応した外乱成分を、記憶した外乱成分から読み出して、読み出した外乱成分を基に補償信号が成され、生成された補償信号が前記変動速度指令信号に付加される。
【0020】
斯くして、本発明に係る制御装置によれば、まず、前記フィードバック制御部によって、前記変動速度信号生成部から出力される変動速度指令信号と前記主軸モータの現在回転速度に係る信号との偏差、即ち、追従誤差に応じた補正信号が生成され、この補正信号によって補正が行われる。
【0021】
この追従誤差には、主軸モータの摩擦力や切削抵抗などの外乱によって生じる誤差が含まれ、この誤差が前記フィードバック制御部によって補正されるが、主軸モータの回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させた場合、当該回転速度の周期的な変動によって、切削抵抗にも周期的な変動が生じ、一般的なフィードバック制御では、このように周期的に変動する切削抵抗に起因した追従誤差を抑制しきれない場合が生じる。特に、上述した如く、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、前記変動周期を短周期にすると、切削抵抗に起因した追従誤差を抑制することができない。
【0022】
そこで、本発明では、上述したように、前記学習制御部により、前記偏差を基に、加工の切削抵抗に起因した外乱成分を、前記主軸モータの予め定めた回転角度毎
、即ち位相θ[i]毎に順次(逐次)算出(推定)して記憶する一方、前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応
した前記主軸モータの
位相であって、前記主軸モータの実回転角度、即ち実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]に対応した外乱成分、即ち1回転前に推定した外乱成分を読み出して、読み出した外乱成分を基に、これを打ち消すような補償信号を生成して前記変動速度指令信号に付加し、当該外乱成分によって生じるであろう追従誤差を予め補正、即ち、フィードフォワード制御するようにしている。これにより、フィードバック制御では抑制しきれない、切削抵抗に起因した追従誤差を抑制することができる。
【0023】
以上のように、本発明に係る制御装置によれば、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、主軸モータの回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させて駆動する場合でも、切削抵抗に起因した追従誤差をより安定して補償することができる。
【0024】
尚、前記学習制御部は、前記外乱成分をF
θ(
z)、前記補償信号をC
Fθ(
z)として、該外乱成分F
θ(
z)及び補償信号C
Fθ(
z)をそれぞれ下式によって算出することができる。
F
θ(
z)=e
θ(
z)・(1+C(
z)・P(
z))/P(
z)
C
Fθ(
z)=F
θ(
z)・P(
z)/(1+C(
z)・P(
z))
但し、F
θ(
z)は前記主軸モータの
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータの実位相がθであるときの外乱成分、e
θ(
z)は前記主軸モータの
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータの実位相がθであるときの偏差、C
Fθ(
z)は、
前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応した前記主軸モータの回転角がθ
、即ち前記主軸モータの位相がθであるときの補償信号、C(
z)は前記フィードバック制御部において、前記補正信号を生成する際の伝達関数、P(
z)は前記主軸モータの伝達関数である。
【0025】
また、本発明において、前記学習制御部は、
前記偏差を基に、加工の切削抵抗に起因した外乱成分を、前記主軸モータの予め定めた回転角度毎
、即ち位相θ[i]毎に順次算出し、算出した外乱成分と、その
位相θ[i]における前記主軸モータの実回転速度とを、相互に関連付けて前記
位相θ[i]毎に記憶するとともに、前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応
した前記主軸モータの
位相であって、前記主軸モータの実回転角度、即ち実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]に対応した外乱成分及び実回転速度を、記憶した外乱成分及び実回転速度から読み出して、該外乱成分及び実回転速度、並びに前記変動速度指令信号を基に補償信号を生成し、生成した補償信号を前記変動速度指令信号に付加するように構成されていても良い。
【0026】
前記切削抵抗は、切屑の厚さに比例するため、前記主軸モータの回転速度に反比例し、また、定常状態において、その大きさは、主軸モータの回転角θに依存しており、次式によって表される。
切削抵抗=(k×v/ω)×g(θ)
但し、kは切削抵抗係数(N)、g(θ)は周期2πの主軸角度依存の関数、vは工具、即ち、主軸の送り速度(m/s)、ωは主軸の回転速度、即ち、主軸モータの回転速度(rad/s)である。
【0027】
このように、切削抵抗に起因した前記外乱成分は、主軸モータの回転速度に依存しているため、前記偏差を基に算出される外乱成分は、その時の主軸モータの実回転速度に応じた大きさとなっている。このため、前記変動速度指令信号に対応
した前記主軸モータの
位相において、その1回転前に推定された外乱成分は、その時の主軸モータの実回転速度と、当該変動速度指令信号に係る値とが一致していなければ、当該変動速度指令信号によって生じるであろう外乱成分の正確な推定値とはならない。言い換えれば、前記推定外乱成分は、その時の前記実回転速度と変動速度指令信号に係る値との比を用いて、これを補正しなければ、正確な値とはならない。
【0028】
そこで、上記のように、前記補償信号を、変動速度指令信号
に対応する前記主軸モータの
位相に
応じた前記外乱成分及び実回転速度と、当該変動速度指令信号を基に生成することで、より正確な補償信号を生成することができ、前記追従誤差をより効果的に抑制することができる。
【0029】
尚、この場合、前記学習制御部は、前記外乱成分をF
θ(
z)、前記補償信号をC
Fθ(
z)として、該外乱成分F
θ(
z)及び補償信号C
Fθ(
z)をそれぞれ下式によって算出することができる。
F
θ(
z)=e
θ(
z)・(1+C(
z)・P(
z))/P(
z)
C
Fθ(
z)=ω(θ)・F
θ(
z)・P(
z)/(ω
ref(θ)・(1+C(
z)・P(
z)))
但し、F
θ(
z)は前記主軸モータの
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータの実位相がθであるときの外乱成分、e
θ(
z)は前記主軸モータの
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータの実位相がθであるときの偏差、C
Fθ(
z)は、
前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応した前記主軸モータの回転角がθ
、即ち前記主軸モータの位相がθであるときの補償信号である。また、ω(θ)は前記主軸モータの
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータの実位相がθであるときの前記実回転速度であり、スカラー値である。また、ω
ref(θ)は
、前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応した前記主軸モータの回転角がθ
、即ち前記主軸モータの位相がθであるときの
当該変動速度指令信号に係る指令回転速度であり、スカラー値である。また、C(
z)は前記フィードバック制御部において、前記補正信号を生成する際の伝達関数、P(
z)は前記主軸モータの伝達関数である。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る制御装置によれば、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、主軸モータの回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させて駆動する場合でも、切削抵抗に起因した追従誤差を従来に比べて安定して補償することができる。
【0031】
また、前記補償信号を、変動速度指令信号の回転角に対応した前記外乱成分及び実回転速度と、当該変動速度指令信号を基に生成することで、より正確な補償信号を生成することができ、前記追従誤差をより効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る工作機械の概略構成を示した説明図である。同
図1に示すように、本例の工作機械1は、基台2、この基台2に回転自在に支持されるボールねじ4、ボールねじ4をその軸中心に回転させる送りモータ3、ボールねじ4に螺合し、当該ボールねじ4の回転によってその軸方向(X軸方向)に移動するテーブル5、テーブル5の上方領域に配設される主軸6、主軸6を軸中心に回転させる主軸モータ7、送りモータ3及び主軸モータ7を数値制御する制御装置10などからなる。
【0035】
尚、
図1では、便宜的に、テーブル5をX軸方向に移動させる送り機構(ボールねじ4及び送りモータ3)のみを図示しているが、当該工作機械1は、この他に、テーブル5と主軸6とを、図示Y軸方向及びZ軸方向に相対的に移動させる送り機構を備えており、この送り機構も前記制御装置10によってその作動が制御される。
【0036】
斯くして、この工作機械1では、制御装置10による制御の下で、送りモータ3及び主軸モータ7を含む送り機構によって、テーブル5と主軸6とが直交3軸方向であるX軸,Y軸及びZ軸に沿って相対的に移動する。そして、テーブル5上にワークWを載置し、主軸6に工具8を装着するとともに、当該主軸6を所定の回転速度で回転させた状態で、テーブル5と主軸6とを適宜相対的に移動させることで、ワークWを加工することができる。
【0037】
尚、言うまでもなく、工作機械としては、上記の構成に限られるものではなく、NC旋盤の他、工具とワークとの相対的な回転によってワークを切削加工する公知のあらゆる工作機械が含まれる。
【0038】
前記制御装置10は、
図2に示すように、プログラム解析部11、変動速度信号生成部12、電流制御部13、フィードバック制御部14及び学習制御部15などを備えている。尚、
図2中に図示はしていないが、本例の制御装置10は、この他に、NCプログラムを記憶する記憶部や、前記送りモータ3等を制御する制御部を備えている。
【0039】
前記プログラム解析部11は、前記記憶部に格納されたNCプログラムや、適宜入力されるNCプログラムを解析して、当該NCプログラム中に含まれる主軸モータ7の回転速度に係る指令を抽出し、抽出した速度指令信号を前記変動速度信号生成部12に送信する処理を行う。
【0040】
変動速度信号生成部12は、前記プログラム解析部11から受信した速度指令信号を基に、この速度指令信号に係る回転速度を目標回転速度とし、予め定めた振幅及び周期で変動する変動速度指令信号ω
refを生成して、前記電流制御部13に出力する。回転速度を変動させる波形としては、
図14に示した三角波を例示することができるが、これに限られるものではなく、例えば、正弦波や台形波であっても良い。尚、上述したように、N
0は目標回転速度(平均回転速度)[rad/s]であり、変動振幅は2×N
A[rad/s]、変動周期はT[s]である。
【0041】
前記電流制御部13は、前記変動速度信号生成部12から受信した変動速度指令信号ω
refを基に、前記主軸モータ7を駆動するための電流指令信号を生成し、生成した電流指令信号を前記主軸モータ7に出力して、当該主軸モータ7を駆動する。尚、主軸モータ7には、前記電流制御部13から出力される電流指令信号に応じた電流が供給される。
図2中の、B
−1(I−z
−1A)、及びH(Tu)は、それぞれ伝達関数である。また、主軸モータ7に相当するブロック中のK
t及び1/(Js+D)もそれぞれ伝達関数であり、K
tはトルク定数[Nm/A]、Jsは工具を含めた主軸6のイナーシャ[kg・m
2]、Dは主軸モータ7の摩擦係数[Nm・s]である。
【0042】
前記フィードバック制御部14は、主軸モータ7に付設されたロータリエンコーダなどによって検出される主軸モータ7の実回転速度ω[rad/s]と、変動速度信号生成部12から出力される変動速度指令ω
refのノミナル値ω
0[rad/s]との偏差(追従誤差)e[rad/s]を所定の時間間隔で算出し、得られた偏差e[rad/s]を基に、この偏差e[rad/s]を打ち消すような補正信号(電流指令信号)を逐次生成して、電流制御部13から出力される信号に付加する処理を行う。
図2中、S(Tu)は主軸モータ7の実回転速度ω[rad/s]を算出するための伝達関数であり、z
−1C及びH(Tu)は、前記ノミナル値ω
0[rad/s]を算出するための伝達関数であり、また、C(z)は、前記e[rad/s]を基に前記補正信号を生成する際の伝達関数である。
【0043】
前記学習制御部15は、前記フィードバック制御部14において算出された偏差e[rad/s]を基に、外乱成分である切削抵抗Fを、前記主軸モータ7の予め定めた回転角度(位相θ)毎に順次算出(推定)して周期信号発生器(PSG;Periodic Signal Generator)16内のメモリに記憶するとともに、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
refに対応する前記主軸モータ7の回転角(位相)に同期して、該回転角(位相)に対応した前記推定切削抵抗Fを基に補償信号を生成し、生成した補償信号を前記変動速度指令信号ω
refに付加する処理部である。
【0044】
前記位相θは、
図3に示すように、主軸モータ7の1回転をN(整数)分割して構成され、前記学習制御部15は、各位相θ[i]毎の推定切削抵抗F(θ[i])を、
図5に示すようなデータテーブルとして前記メモリ内に記憶する。但し、iは1からNの整数である。
【0045】
主軸モータ7の実回転角度(実位相θ)は、前記ロータリエンコーダなどによって検出され、或る位相θにおける切削抵抗F
θ(
z)と実回転速度ω(θ)との間には、次式が成立する。
(数式1)
ω(θ)=ω
0(θ)−(F
θ(
z)・P(
z)/(1+C(
z)・P(
z)))
【0046】
そして、上述したように、偏差e(θ)は、ノミナル値ω
0(θ)と実回転速度ω(θ)との差、即ち、
(数式2)
e(θ)=ω
0(θ)−ω(θ)
であるから、前記切削抵抗F
θ(s)は、前記数式1及び数式2から次式によって推定される。
(数式3)
F
θ(
z)=e
θ(
z)・(1+C(
z)・P(
z))/P(
z)
但し、F
θ(
z)は前記主軸モータ
7の
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータ7の実位相がθであるときの外乱成分、e
θ(
z)は前記主軸モータ
7の
実回転角がθ
、即ち前記主軸モータ7の実位相がθであるときの偏差、C(
z)は前記フィードバック制御部14において、前記補正信号を生成する際の伝達関数、P(
z)は前記主軸モータ7の伝達関数である。
【0047】
前記学習制御部15は、上記数式3に従って、各位相θ[i]毎の推定切削抵抗F(θ[i])を順次算出して、算出した推定切削抵抗F(θ[i])を、上述した周期信号発生器16のメモリ内に、
図5に示すようなデータテーブル(切削抵抗テーブル)として、順次更新しながら格納する。
【0048】
一方、前記学習制御部15は、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
refに対応する前記主軸モータ7の位相θを算出し、該位相θに対応した前記推定切削抵抗F(θ)を前記メモリから読み出して、読み出した推定切削抵抗F(θ)を基に補償信号を生成し、生成した補償信号を前記変動速度指令信号ω
refに付加する。
【0049】
前記変動速度指令信号ω
refに対応する主軸モータ7の位相θは、主軸モータ7の実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]であり、この位相θ[i+1]は、次式によって、算出される。
(数式4)
θ[i+1]=θ[i]+(ω(θ[i])+ω
ref(θ[i]))・Tu/2
但し、Tuは制御周期である。
【0050】
そして、学習制御部15は、上記数式4によって算出される位相θ[i+1]を基に、この位相θ[i+1]対応する推定切削抵抗F(θ[i+1])を前記メモリから読み出し、読み出した推定切削抵抗F(θ[i+1])を基に、次式により補償信号C
F(θ[i+1])を生成する。
(数式5)
C
Fθ(
z)=F
θ(
z)・P(
z)/(1+C(
z)・P(
z))
但し、C
Fθ(
z)は、
前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ωrefに対応した前記主軸モータ7の回転角がθ
、即ち前記主軸モータ7の位相がθであるときの補償信号、F
θ(
z)は、前記メモリに格納された前記主軸モータ7の
位相がθであるときの外乱成分、C(
z)は前記フィードバック制御部において、前記補正信号を生成する際の伝達関数、P(
z)は前記主軸モータの伝達関数である。
【0051】
尚、位相θ[i+1]の算出処理、推定切削抵抗F(θ[i])の格納処理、及び推定切削抵抗F(θ[i+1])の読み出し処理の概念的なブロックを
図4に示す。
【0052】
ついで、学習制御部15は、算出した補償信号C
F(θ[i+1])に関数Q[z]を乗じた後、これを、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に付加する処理を行う。但し、関数Q[z]は次式によって表されるQフィルタであり、γ=2である。
(数式6)
Q[z]=(1+γz
−1+z
−2)/(γ+2)
【0053】
斯くして、以上の構成を備えた本例の制御装置10によれば、前記プログラム解析部11により、適宜記憶部に格納されたNCプログラムや、適宜入力されるNCプログラムが解析され、当該NCプログラム中に含まれる主軸モータ7の回転速度に係る指令が抽出され、抽出された速度指令信号が前記変動速度信号生成部12に送信される。
【0054】
速度指令信号が変動速度信号生成部12に入力されると、当該変動速度信号生成部12は、受信した目標回転速度を中心として予め定めた振幅及び周期で変動する変動速度指令信号ω
refを生成して、電流制御部13に送信する。
【0055】
ついで、前記電流制御部13は、前記変動速度信号生成部12から入力される変動速度指令信号ω
refを基に、前記主軸モータ7を駆動するための電流指令信号を生成して出力し、主軸モータ7はこの電流指令信号に従って駆動される。その際、前記フィードバック制御部14によって、前記変動速度信号生成部12から出力される変動速度指令信号ω
refのノミナル値ω
0と前記主軸モータ7の実回転速度ωとの偏差eを基に補正信号が生成され、生成された補正信号が前記電流指令信号に付加される。
【0056】
また、前記学習制御部15により、前記偏差eを基に、加工の切削抵抗に起因した外乱成分が、前記主軸モータ7の予め定めた位相θ
[i]毎に順次算出されて記憶されるとともに、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
refに対応
した前記主軸モータ7の位相
であって、前記主軸モータ7の実回転角度、即ち実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]に対応した前記外乱成分を基に補償信号が成され、生成された補償信号が前記変動速度指令信号に付加される。
【0057】
このように、本例に係る制御装置10によれば、まず、前記フィードバック制御部14によって、前記変動速度信号生成部12から出力される変動速度指令信号ω
refのノミナル値ω
0と前記主軸モータ7の現在回転速度ωとの偏差e、即ち、追従誤差eに応じた補正信号が生成され、この補正信号によって補正が行われる。
【0058】
この追従誤差eには、主軸モータ7の摩擦力や切削抵抗Fなどの外乱によって生じる誤差が含まれ、この誤差が前記フィードバック制御部14によって補正されるが、主軸モータ7の回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させた場合、当該回転速度の周期的な変動によって、切削抵抗Fにも周期的な変動が生じ、上記フィードバック制御14では、このように周期的に変動する切削抵抗Fに起因した追従誤差eを抑制しきれない場合を生じる。特に、上述した如く、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、前記変動周期を短周期にすると、切削抵抗Fに起因した追従誤差eを抑制することができない。
【0059】
本例の制御装置10では、上述したように、前記学習制御部15により、前記偏差eを基に、加工の切削抵抗Fに起因した外乱成分を、前記主軸モータ7の予め定めた位相θ[i]毎に算出して記憶する一方、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
refに対応
した前記主軸モータ7の位相
であって、前記主軸モータ7の実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]に対応した外乱成分、即ち1回転前に推定した外乱成分を読み出して、読み出した外乱成分を基に、これを打ち消すような補償信号を生成して前記変動速度指令信号ω
refに付加し、当該外乱成分によって生じるであろう追従誤差eを予め補正、即ち、フィードフォワード制御するようにしている。これにより、フィードバック制御では抑制しきれない、切削抵抗Fに起因した追従誤差eを抑制することができる。
【0060】
以上のように、本例の制御装置10によれば、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、主軸モータ7の回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させて駆動する場合でも、切削抵抗Fに起因した追従誤差eをより安定して補償することができる。
【0061】
因みに、切削抵抗を適宜設定し、主軸モータ7の回転速度の指令値を104.7[rad/s]の一定速度に設定して加工シミュレーションを行ったときの、主軸モータ7の回転速度ω[rad/s]を
図6に示す。尚、この例では、
図2に示した前記変動速度信号生成部12に代えて、回転速度を変動させない、即ち、一定の回転速度に係る速度指令信号を生成して出力する速度信号生成部を用いた。また、前記位相θの分解能Nを10000に設定し、
図7に示すように、時刻0.5[s]以降に、前記学習制御部15によって生成される補償信号(
図7に示す補償信号)を前記速度信号生成部から出力される速度指令信号に付加するようにした。
【0062】
図6から分かるように、開始後、0.5[s]までは、主軸モータ7の回転速度が大きく変動しているが、0.5[s]以降に、学習制御部15によって生成される補償信号を付加することで、切削抵抗に起因した外乱が抑圧されている。補償信号を付加した状態でなお残る追従誤差は、Qフィルタによる遅れによるものである。尚、
図6中、黒の実線が速度指令信号ω
refを示し、グレーの実線が主軸モータ7の実回転速度ωを示している。
【0063】
また、上記と同じ切削抵抗に設定し、前記変動速度信号生成部12を用い、主軸モータ7の平均回転速度を104.7[rad/s]、速度変動率RVAを0.1、速度変動周期比RVFを1.0に設定して、主軸モータ7の回転速度の指令値を正弦波状に周期的に変動させながら加工シミュレーションを行ったときの、主軸モータ7の回転速度ω[rad/s]を
図8に示す。尚、上記と同様に、時刻0.5[s]以降に、前記学習制御部15によって生成される補償信号(
図9に示す補償信号)を、前記変動速度信号生成部12から出力される変動速度指令信号ω
refに付加するようにした。
図8中、黒の実線が変動速度指令信号ω
refを示し、グレーの破線が主軸モータ7の実回転速度ωを示している。
【0064】
図8から分かるように、0.5[s]までは追従誤差が生じているが、0.5[s]以降、学習制御部15によって生成される補償信号を付加することで、切削抵抗に起因した外乱が抑圧されている。このように、主軸モータ7の回転速度を周期的に変動させながら加工する場合でも、切削抵抗に起因した外乱を抑圧することができ、回転速度の追従誤差を低減することができる。
【0065】
また、被削材をケミカルウッドとし、直径20mm、刃数4のエンドミルを用いて、直径方向の切削幅を20mm、軸方向の切り込みを2mm、送り速度を643mm/min
−1、主軸モータ7の回転速度を104.7[rad/s]の一定速度として加工し、前記学習制御部15による補償を行わなかったときの、主軸モータ7の回転速度の追従誤差を
図10に示し、そのスペクトル解析結果を
図11に示すとともに、前記学習制御部15による補償を行ったときの、主軸モータ7の回転速度の追従誤差を
図12に示し、そのスぺクトル解析結果を
図13に示す。尚、前記位相θの分解能Nは、これを2000に設定した。
【0066】
図11に示すように、切削抵抗の影響は主軸モータ7の回転周波数16.7Hzの整数倍の周波数を持つ誤差となって表れているが、このうち、主軸モータ7の回転周期の4倍の周波数を持つ誤差は、主軸モータ7の極対数が4であるため、切削抵抗と主軸モータ7のトルクリプルに起因するものである。また、
図10と
図12、
図11と
図13をそれぞれ比較することで分かるように、前記学習制御部15による補償を行うことで、主軸モータ7の回転周波数の整数倍の追従誤差が抑圧されている。
【0067】
以上、詳述したように、本例の制御装置10を備えた工作機械1によれば、フィードバック制御では抑制しきれない、切削抵抗に起因した追従誤差を抑制することができ、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、主軸モータの回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させて駆動する場合でも、当該切削抵抗に起因した追従誤差をより安定して補償することができる。
【0068】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態に係る工作機械は、
図2示した前記制御装置10に代えて、
図18に示す制御装置10’を備えるもので、その他の構成は前記第1の実施形態に係る工作機械と同一である。尚、
図2は、本例の制御装置10’の構成を示したブロック図である。
【0069】
同
図2に示すように、本例の制御装置10’もまた、上記第1の実施形態に係る制御装置10の学習制御部15に代えて、これとは機能の異なる学習制御部15’を備えている点で、前記制御装置10とはその構成が異なる。したがって、前記制御装置10と同じ構成部分について同一の符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0070】
前記学習制御部15’は、前記フィードバック制御部14において算出された偏差e[rad/s]を基に、外乱成分である切削抵抗Fを、前記主軸モータ7の予め定めた回転角度(位相θ)毎に順次算出(推定)して、その時の前記主軸モータ7の実回転速度ωとともに、周期信号発生器(PSG;Periodic Signal Generator)16’内のメモリに記憶するとともに、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
refに対応する前記主軸モータ7の回転角(位相)に同期して、該回転角(位相)に対応した前記推定切削抵抗F、実回転速度ω
a及び当該変動速度指令信号ω
refを基に補償信号を生成し、生成した補償信号を当該変動速度指令信号ω
refに付加する処理部である。
【0071】
前記位相θは、
図3に示すように、主軸モータ7の1回転をN(整数)分割して構成され、前記学習制御部15’は、各位相θ[i]毎の推定切削抵抗F(θ[i])、及びその時の主軸モータ7の実回転速度ω(θ[i])を、
図20に示すようなデータテーブルとして前記メモリ内に記憶する。但し、iは1からNの整数である。
【0072】
主軸モータ7の実回転角度(実位相θ)及び実回転速度ωは、前記ロータリエンコーダなどによって検出され、学習制御部15’は、上記数式3に従って、各位相θ[i]毎の推定切削抵抗F(θ[i])を順次算出し、その時の実回転速度ω(θ[i])とともに、前記周期信号発生器16’のメモリ内に、
図20に示すようなデータテーブル(切削抵抗テーブル)として、順次更新しながら格納する。
【0073】
一方、前記学習制御部15’は、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
refに対応する前記主軸モータ7の位相θを算出し、該位相θに対応した前記推定切削抵抗F(θ)及び実回転速度ω(θ)を前記メモリから読み出して、読み出した推定切削抵抗F(θ)及び実回転速度ω(θ)、並びに当該変動速度指令信号ω
refを基に補償信号を生成し、生成した補償信号を当該変動速度指令信号ω
refに付加する。
【0074】
前記変動速度指令信号ω
refに対応する主軸モータ7の位相θは、主軸モータ7の実位相θ[i]よりも1位相進んだ位相θ[i+1]であり、この位相θ[i+1]は、
図19に示すように、上記数式4によって、算出される。
【0075】
そして、学習制御部15’は、上記数式4によって算出される位相θ[i+1]を基に、この位相θ[i+1]対応する推定切削抵抗F(θ[i+1])及び実回転速度ω(θ[i+1])を前記メモリから読み出し、読み出した推定切削抵抗F(θ[i+1])及び実回転速度ω(θ[i+1])と、変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])と基に、次式により補償信号C
F(θ[i+1])を生成する。
(数式7)
C
Fθ(
z)=ω(θ)・F
θ(
z)・P(
z)/(ω
ref(θ)・(1+C(
z)・P(
z)))
但し、C
Fθ(
z)は、
前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応した前記主軸モータ7の回転角がθ
、即ち前記主軸モータ7の位相がθであるときの補償信号であり、F
θ(
z)は前記メモリに格納された、前記主軸モータ7の
位相がθであるときの外乱成分、また、ω(θ)は前記メモリに格納された、前記主軸モータ7の
位相がθであるときの前記実回転速度であり、スカラー値である。また、ω
ref(θ)は
、前記変動速度信号生成部から前記電流制御部に入力される前記変動速度指令信号に対応した前記主軸モータ7の回転角がθ
、即ち前記主軸モータ7の位相がθであるときの
当該変動速度指令信号に係る指令回転速度であり、スカラー値である。また、C(
z)は前記フィードバック制御部において、前記補正信号を生成する際の伝達関数、P(
z)は前記主軸モータの伝達関数である。
【0076】
尚、
図19には、位相θ[i+1]の算出処理、推定切削抵抗F(θ[i])及び実回転速度ω(θ[i])の格納処理、並びに、推定切削抵抗F(θ[i+1])及び実回転速度ω(θ[i+1])の読み出し処理の概念的なブロックを示している。
【0077】
ついで、学習制御部15’は、算出した補償信号C
F(θ[i+1])に関数Q[z](上記数式6)を乗じた後、これを、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に付加する処理を行う。
【0078】
斯くして、以上の構成を備えた本例の制御装置10’によれば、まず、前記フィードバック制御部14によって、前記変動速度信号生成部12から出力される変動速度指令信号ω
refのノミナル値ω
0と前記主軸モータ7の現在回転速度ωとの偏差e、即ち、追従誤差eに応じた補正信号が生成され、この補正信号によって補正が行われる。
【0079】
また、前記学習制御部15’により、前記偏差eを基に、加工の切削抵抗Fに起因した外乱成分を、前記主軸モータ7の予め定めた位相θ毎に算出して記憶する一方、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される前記変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に対応する前記主軸モータ7の位相θ[i+1]に同期して、該位相θ[i+1]に対応した前記切削抵抗F(θ[i+1])、即ち、該位相θ[i+1]について1回転前に推定した切削抵抗F(θ[i+1])を読み出し、読み出した推定切削抵抗F(θ[i+1])に、実回転速度ω(θ[i+1])と変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])との比、即ち、ω(θ[i+1])/ω
ref(θ[i+1])を乗じた上記数式7に示す式により補償信号C
F(θ[i+1])を生成して、前記変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に付加し、当該外乱成分によって生じるであろう追従誤差eを予め補正、即ち、フィードフォワード制御するようにしている。
【0080】
上述したように、前記切削抵抗に起因した外乱成分は、前記主軸モータ7の回転速度に反比例する。したがって、前記変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])によって生じるであろうと推定される切削抵抗は、
1回転前の推定切削抵抗F(θ[i+1])に、その時の実回転速度ω(θ[i+1])と当該変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])との比、即ち、ω(θ[i+1])/ω
ref(θ[i+1])を乗じることで、正確に推定することができる。本例の学習制御部15’では、推定切削抵抗F(θ[i+1])にω(θ[i+1])/ω
ref(θ[i+1])を乗じることによって、前記補償信号C
F(θ[i+1])を生成するようにしているので、当該変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に応じた正確な補償信号C
F(θ[i+1])を生成することができ、切削抵抗Fに起因した追従誤差eをより効果的に抑制することができる。
【0081】
以上のように、本例の制御装置10’によれば、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、主軸モータ7の回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させて駆動する場合でも、切削抵抗Fに起因した追従誤差eをより安定して補償することができる。
【0082】
因みに、
図1に示した前記工作機械1を用い、切削抵抗を適宜設定して、前記変動速度信号生成部12により、主軸モータ7の平均回転速度を104.7[rad/s]、速度変動率RVAを0.1、速度変動周期比RVFを0.7に設定して、主軸モータ7の回転速度の指令値を三角波状に周期的に変動させながら、アルミを被削材として加工し、前記第1の実施形態に係る学習制御部15による補償を行った場合の主軸モータ7の回転速度、第2の実施形態に係る学習制御部15’による補償を行った場合の主軸モータ7の回転速度を、それぞれ測定した。
図21に、測定した主軸モータ7の回転速度ω[rad/s]を示し、
図22に、回転速度の指令値(変動速度指令)に対する追従誤差を示している。尚、
図21中、ω
refは変動速度指令であり、また、
図21及び
図22中、w/oは、学習制御部15及び学習制御部15’による補償を行わなかった場合である。
【0083】
図21及び
図22に示すように、第1の実施形態の学習制御部15による補償に比べて、第2の実施形態の学習制御部15’による補償の方が、追従誤差をより抑制できることが分かる。
【0084】
このように、本例の制御装置10’によれば、フィードバック制御では抑制しきれない、切削抵抗に起因した追従誤差を抑制することができ、加工精度を良好に維持しながら自励びびり振動を抑制すべく、主軸モータの回転速度を所定の変動振幅及び変動周期で変動させて駆動する場合でも、当該切削抵抗に起因した追従誤差をより安定して補償することができる。
【0085】
以上、本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明が採り得る態様は、何ら、上例のものに限定されるものではない。
【0086】
例えば、上記第1の実施形態及び第2の実施形態では、いずれもQフィルタを設けて、補償信号C
F(θ[i+1])に関数Q[z]を乗じた後、これを、前記変動速度信号生成部12から前記電流制御部13に入力される変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に付加するようにしたが、必ずしもQフィルタを設ける必要はなく、補償信号C
F(θ[i+1])をそのまま変動速度指令信号ω
ref(θ[i+1])に付加するようにしても良い。