特許第6243322号(P6243322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243322機械振動子測定装置および機械振動子制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243322
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】機械振動子測定装置および機械振動子制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   G01H9/00 Z
   G01H9/00 C
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-255924(P2014-255924)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-114576(P2016-114576A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】日達 研一
(72)【発明者】
【氏名】石澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀樹
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−261911(JP,A)
【文献】 特開2009−116242(JP,A)
【文献】 特開2005−274495(JP,A)
【文献】 特開2011−158413(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0310968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 − 17/00
G02B 6/00
H03H 9/00 − 9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続したレーザー光である光源光と、
所望とする周波数の信号を生成する周波数発振手段と、
前記周波数発振手段で生成された信号を用いて前記光源光を位相変調して光パルス列を生成する位相変調手段と、
前記位相変調手段で生成された光パルス列の強度を前記周波数発振手段で生成された信号を用いて変調してポンプ光を生成する強度変調手段と、
前記ポンプ光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と
を備えることを特徴とする機械振動子制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の機械振動子制御装置において、
前記周波数発振手段が生成する周波数の信号の位相を制御する位相制御手段を備える
ことを特徴とする機械振動子制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の機械振動子制御装置において、
連続したレーザー光であるプローブ光生成用のプローブ光源光と、
前記周波数発振手段とは異なり、設定された値だけ小さな周波数の信号を生成するプローブ光用周波数発振手段と、
前記プローブ光用周波数発振手段で生成された信号を用いて前記プローブ光源光を位相変調して光パルス列を生成するプローブ光用位相変調手段と、
前記プローブ光用位相変調手段で生成された光パルス列の強度を前記プローブ光用周波数発振手段で生成された信号を用いて変調してプローブ光を生成するプローブ光用強度変調手段と、
前記プローブ光および前記ポンプ光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、
前記機械振動子を反射した前記プローブ光の反射光の強度を測定する光強度測定手段と
を備え、
前記光強度測定手段の測定結果は、所望とする前記周波数の制御にフィードバックされる
ことを特徴とする機械振動子制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の機械振動子制御装置において、
連続したレーザー光を発生するレーザーを備え、
前記レーザーより出力されたレーザー光を分岐して前記光源光および前記プローブ光源光を生成する
ことを特徴とする機械振動子制御装置。
【請求項5】
請求項4記載の機械振動子制御装置において、
前記強度変調手段で生成された第1偏光状態のポンプ光の偏光を90°回転させて第2偏光状態とする偏光板と、
前記偏光板を通過したポンプ光と、プローブ光用強度変調手段で生成された第1偏光状態のプローブ光とを合波して合波光とする合波手段と、
前記合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する前記光照射手段と、
前記合波光が前記機械振動子を反射した反射光より第1偏光状態の前記プローブ光を取り出す偏光分離手段と、
前記偏光分離手段で取り出された前記プローブ光の強度を測定する前記光強度測定手段と
を備えることを特徴とする機械振動子制御装置。
【請求項6】
請求項3記載の機械振動子制御装置において、
前記光源光となる第1波長の連続した第1レーザー光を発生する第1レーザーと、
前記プローブ光源光となり、前記第1レーザー光とは異なる波長の連続した第2レーザー光を発生する第2レーザーと、
プローブ光用強度変調手段で生成した前記プローブ光と、強度変調手段で生成した前記ポンプ光とを合波して合波光とする合波手段と、
前記合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する前記光照射手段と、
前記合波光が前記機械振動子を反射した反射光より前記第1波長の前記プローブ光を取り出す波長分離手段と、
前記波長分離手段で取り出された前記プローブ光の強度を測定する前記光強度測定手段と
を備えることを特徴とする機械振動子制御装置。
【請求項7】
連続したレーザー光である第1光源光と、
基準となる第1周波数の信号を生成する第1周波数発振手段と、
前記第1周波数発振手段で生成された前記第1周波数の信号を用いて前記第1光源光を位相変調し、前記第1周波数の光パルス列を生成する第1位相変調手段と、
前記第1位相変調手段で生成された光パルス列の強度を前記第1周波数の信号を用いて変調してプローブ光を生成する第1強度変調手段と、
連続したレーザー光である第2光源光と、
前記第1周波数より、設定された値だけ大きな周波数の第2周波数の信号を生成する第2周波数発振手段と、
前記第2周波数発振手段で生成された前記第2周波数の信号を用いて前記第2光源光を位相変調し、前記第2周波数の光パルス列を生成する第2位相変調手段と、
前記第2位相変調手段で生成された光パルス列の強度を前記第2周波数の信号を用いて変調してポンプ光を生成する第2強度変調手段と、
前記プローブ光および前記ポンプ光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、
前記機械振動子を反射した前記プローブ光の反射光の強度を測定する光強度測定手段と
を備えることを特徴とする機械振動子測定装置。
【請求項8】
請求項7記載の機械振動子測定装置において、
連続したレーザー光を発生するレーザーを備え、
前記レーザーより出力されたレーザー光を分岐して前記第1光源光および前記第2光源光を生成する
ことを特徴とする機械振動子測定装置。
【請求項9】
請求項8記載の機械振動子測定装置において、
前記第2強度変調手段で生成された第1偏光状態のポンプ光の偏光を90°回転させて第2偏光状態とする偏光板と、
前記偏光板を通過したポンプ光と、第2強度変調手段で生成された第1偏光状態のプローブ光とを合波して合波光とする合波手段と、
前記合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する前記光照射手段と、
前記合波光が前記機械振動子を反射した反射光より第1偏光状態の前記プローブ光を取り出す偏光分離手段と、
前記偏光分離手段で取り出された前記プローブ光の強度を測定する前記光強度測定手段と
を備えることを特徴とする機械振動子測定装置。
【請求項10】
請求項7記載の機械振動子測定装置において、
前記第1光源光となる第1波長の連続した第1レーザー光を発生する第1レーザーと、
前記第2光源光となり、前記第1レーザー光とは異なる第2波長の連続した第2レーザー光を発生する第2レーザーと、
第1強度変調手段で生成した前記プローブ光と、第2強度変調手段で生成した前記ポンプ光とを合波して合波光とする合波手段と、
前記合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する前記光照射手段と、
前記合波光が前記機械振動子を反射した反射光より前記第1波長の前記プローブ光を取り出す波長分離手段と、
前記波長分離手段で取り出された前記プローブ光の強度を測定する前記光強度測定手段と
を備えることを特徴とする機械振動子測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光周波数コムの繰り返し周波数可変性を利用して機械振動子の測定および制御を行う機械振動子測定装置および機械振動子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高感度センサー(非特許文献1)や機械演算デバイス(非特許文献2)、量子効果の観測(非特許文献3)などに向け、微小機械振動子の研究が精力的に行われている。機械振動子は、半導体加工技術によって作製されたデバイスであり、小さい質量と高いQ値が特徴である(非特許文献4)。
【0003】
機械振動子の励振は、電気的・光学的に行われる。電気的手法では、振動子に形成した電極に電気信号を加えることで振動を誘起するため、機械振動子の振動特性には必然的に電極の質量による影響を受ける。これに対し、パルスレーザーを用いた光学的な手法では、ポンプ光を機械振動子に照射して機械振動子を励振させ、ポンプ光照射から時刻tだけ経過した後にプローブ光を照射し、プローブ光の反射光強度を測定する。この方法では、励振に電極が不要なため、機械振動子本来のQ値測定が可能である。
【0004】
このような光学的な手法を利用して、これまで励振特性を測定することはもちろん、外界の温度で決まるようなブラウン運動による機械振動子揺らぎを抑える(cooling)研究が精力的に行われてきた(非特許文献5)。
【0005】
機械振動子を特徴づけるパラメータとして、n次の共振周波数fn、Q値(quality factor)などがある。Q値は、振動の状態を表す無次元数である。Q値が低いと機械振動子系の散逸エネルギーが大きくなり、振動がすぐに減少する性質がある。反対に、Q値が高いと一旦振動が開始されると振動が長く続く。例として、図8の(a)に示すように、Q値がQ=10の場合およびQ=100の場合を図8の(a)および(b)に示す。Q値が小さい場合には、実時間上での振動の観測によりQ値を求めることができる。しかしながら、図8の(b)に示すように、Q値が大きくなると振動子振幅はほとんど変化がないため、この方法でQ値を求めることは難しい。
【0006】
Q値のもう1つの定義は、周波数領域における共振スペクトルで定義される。共振スペクトルは、共振周波数fn付近の周波数でポンプ光を照射し、このときの振動の大きさを周波数の関数としてプロットすると得られる。図8の(c)に示すように、得られた共振スペクトルの半値全幅(FWHM)をΔfnとすると、Q=fn/Δfnで与えられる。
【0007】
一般的に、振動子の場合にはQ値が高い方が望ましいが、逆にQ値が高いほど応答がわるくなり、起動時間が長くなるという面もある。正確なQ値測定は、機械振動子の設計や製作の精度を知る上で重要である。
【0008】
機械振動子の実時間における機械振動子を測定するための方法の1つは、ポンプ・プローブ法である。この方法では、図9に示すように、レーザー901,合分波器902,ミラー903,ミラー904,合分波器905,ディレーステージ906を備える光源装置を用いる。この光源装置では、繰り返し周波数が機械振動子907の共振周波数のパルスレーザー901を出射したレーザー光の中で、合分波器902を透過し、ミラー903,ミラー904を反射し、合分波器905を透過したポンプ光911と、合分波器902を反射し、ディレーステージ906を通過して合分波器905を反射したプローブ光912とを、機械振動子907に照射する。
【0009】
ポンプ光911を機械振動子907に照射して機械振動子907を励振し、時刻tだけ経過した後に、プローブ光912を機械振動子907に照射し、この結果得られる反射光強度から機械振動子907の振動状態を測定する。この実験系では、ディレーステージ906を動かすことで、ポンプ光911とプローブ光912の時間間隔tを変え、プローブ光912の反射光強度を測定する。時間間隔tを変えて測定したデータは、図8の(a)または(b)のように変化する。
【0010】
しかしながら、上述したポンプ・プローブ法では、時間間隔tを形成するためにディレーステージ906を動かすことになるが、ディレーステージ906を動かすと、プローブ光912のビーム位置がずれる。例えば、時刻差を0から1ns(=1×10-9s)まで動かす場合には、ディレーステージ906を(3.0×108)×(1×10-9)/2=0.15m動かさなければならない。このようにディレーステージ906を0.15m動かすと、プローブ光912とポンプ光911との空間的重なりが変化する。
【0011】
さらに、時刻差が10nsとなると、ディレーステージ906を1.5m動かさなければならないが、距離が長くなるにつれて、プローブ光912のビーム位置とポンプ光911のビーム位置とをずらさずに動かすことは実験的に困難である。従って、ポンプ・プローブ法では、ディレーステージ906を動かしたときにプローブ光912のビーム位置がずれない程度のダイナミクスを調べるのには向いているが、10〜100ns程度のダイナミクスを調べるのには向いていない。
【0012】
上述したポンプ・プローブ法では測りづらいダイナミクスを調べるのに有効な方法として、ASOPS(asynchronous optical sampling)がある。これは、繰り返し周波数のわずかに異なる2台のモードロックレーザーを用意し(繰り返しはそれぞれfrepとfrep+Δfrep)、繰り返しfrep+Δfrepのレーザーをポンプ光、繰り返しfrepのレーザーをプローブ光とする。例えば、frep=999.99MHz、Δfrep=0.01MHzのときの実時間におけるポンプ・プローブ光の様子を図10に示す(非特許文献6)。
【0013】
ポンプ光の繰り返しがプローブ光の繰り返しに比べてわずかに大きいため、ポンプ光とプローブ光の時刻差が時々刻々とずれる。ポンプ光は1/(frep+Δfrep)=1ns間隔で機械振動子に照射され、ポンプ光とプローブ光の時刻は毎回1/frep−1/(frep+Δfrep)=10fs(=10×10-15s)ずつずれる。ポンプ光とプローブ光が揃っているときを時刻0とすると、時刻50μs(=50×10-6s)のときにポンプ光が2つのプローブ光の間に位置し、時刻100μs(=1/Δfrep)でポンプ光とプローブ光が時間軸上で一致する。この一致する間において、プローブ光の反射光強度を所定間隔で測定することで、機械振動子の測定を行う。
【0014】
この方法の利点は、ポンプ・プローブの時間差を変えるのにディレーステージを必要としないため、ビーム位置は常に固定される点にある。また、100μs(=1/Δfrep)の間でポンプ・プローブ測定ができるため、短い積算時間でSN比の高いプローブ光強度変化が取れる点にある。2台のレーザーはどこかの時間で一致することから、これらの同期を取る必要はなく、その意味で「asynchronous(日本語で「非同期な」)optical sampling」と呼ばれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】A. N. Cleland and M. L. Roukes, "Ananometre-scale mechanical electrometer", Nature, vol.392, pp.160-162,1998.
【非特許文献2】I. Mahboob and H. Yamaguchi, "Bit storage and bit flip operations in an electromechanical oscillator", Nature anotechnology, vol.3, pp.275-279,2008.
【非特許文献3】A. D. O'Connell et al., "Quantum ground state and single-phonon control of a mechanical resonator", Nature, vol.464, pp.687-703,2010.
【非特許文献4】http://www.brl.ntt.co.jp/j/activities/file/report11/report15.html
【非特許文献5】C. H. Metzger and K. Karrai, "Cavity cooling of a microlever", Nature, vol.432, pp.1002-1005,2004.
【非特許文献6】A. Bartels et al., "Ultrafast time-domain spectroscopy based on high-speed asynchronous optical sampling", Review of Scientific Instrument, vol.78, 035107, 2007.
【非特許文献7】A. Bruchhausen et al., "Subharmonic Resonant Optical Excitation of Confined Acoustic Modes in a Free-Standing Semiconductor Membrane at GHz Frequencies with a High-Repetition-Rate Femtosecond Laser", Physical Review Letters, vol.106, 077401, 2011.
【非特許文献8】T. Kobayashi et al., "Optical Pulse Compression Using High-Frequency Electrooptic Phase Modulation", IEEE Journal of quantum electronics, vol.24, no.2, pp.382-387, 1988.
【非特許文献9】A. Ishizawa et al., "Octave-spanning frequency comb generated by 250 fs pulse train emitted from 25 GHz externally phase-modulated laser diode for carrier-envelope-offset-locking", Electronics Letters, vol.46, no.19, 1343, 2010.
【非特許文献10】T. Otsuji et al., "10.80-Gb/s Highly Extinctive Electrooptic Pulse Pattern Generation", IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol.2, no.3, pp.643-649,1996.
【非特許文献11】W. Kester, "Converting Oscillator Phase Noise to Time Jitter", Analog Devices MT-008 tutorial, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述した技術では、レーザーの繰り返し周波数frepを機械振動子の共振周波数fnに合わせることが難しいという問題がある。前述のように、機械振動子のQ値が高い場合には、Q値測定に共振周波数fn付近の共振スペクトルを調べる必要があるが、通常のモードロックレーザーの繰り返し周波数の可動範囲は数MHz程度であるため、繰り返し周波数frepを共振周波数fnに合わせることは難しい。
【0017】
モードロックレーザーのfrepを998から1002MHzまで振ったときの機械振動子の振幅の大きさを測定し、この大きさからQ値を求めた例もある(非特許文献7)。しかしながら、機械振動子の設計がレーザーの繰り返し周波数にあうようにしなければならず、機械振動子の固有振動数がひとたび変わると、Q値測定や振動の実時間測定を得ることができない。これらのように、従来の光学的な手法では、様々な共振周波数の機械共振器を共振させることが容易ではないという問題があった。
【0018】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、光学的な手法により、様々な共振周波数の機械共振器を共振させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る機械振動子制御装置は、連続したレーザー光である光源光と、所望とする周波数の信号を生成する周波数発振手段と周波数発振手段で生成された信号を用いて光源光を位相変調して光パルス列を生成する位相変調手段と、位相変調手段で生成された光パルス列の強度を周波数発振手段で生成された信号を用いて変調してポンプ光を生成する強度変調手段と、ポンプ光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段とを備える。
【0020】
上記機械振動子制御装置において、周波数発振手段が生成する周波数の信号の位相を制御する位相制御手段を備えるようにすればよい。
【0021】
上記機械振動子制御装置において、連続したレーザー光であるプローブ光生成用のプローブ光源光と、周波数発振手段とは異なり、設定されただけ値小さな周波数の信号を生成するプローブ光用周波数発振手段と、プローブ光用周波数発振手段で生成された信号を用いてプローブ光源光を位相変調して光パルス列を生成するプローブ光用位相変調手段と、プローブ光用位相変調手段で生成された光パルス列の強度をプローブ光用周波数発振手段で生成された信号を用いて変調してプローブ光を生成するプローブ光用強度変調手段と、プローブ光およびポンプ光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、機械振動子を反射したプローブ光の反射光の強度を測定する光強度測定手段とを備え、光強度測定手段の測定結果は、所望とする周波数の制御にフィードバックされるようにしてもよい。
【0022】
上記機械振動子制御装置において、連続したレーザー光を発生するレーザーを備え、レーザーより出力されたレーザー光を分岐して光源光およびプローブ光源光を生成するようにすればよい。
【0023】
また、強度変調手段で生成された第1偏光状態のポンプ光の偏光を90°回転させて第2偏光状態とする偏光板と、偏光板を通過したポンプ光と、プローブ光用強度変調手段で生成された第1偏光状態のプローブ光とを合波して合波光とする合波手段と、合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、合波光が機械振動子を反射した反射光より第1偏光状態のプローブ光を取り出す偏光分離手段と、偏光分離手段で取り出されたプローブ光の強度を測定する光強度測定手段とを備えるようにしてもよい。
【0024】
また、光源光となる第1波長の連続した第1レーザー光を発生する第1レーザーと、プローブ光源光となり、第1レーザー光とは異なる波長の連続した第2レーザー光を発生する第2レーザーと、プローブ光用強度変調手段で生成したプローブ光と、強度変調手段で生成したポンプ光とを合波して合波光とする合波手段と、合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、合波光が機械振動子を反射した反射光より第1波長のプローブ光を取り出す波長分離手段と、波長分離手段で取り出されたプローブ光の強度を測定する光強度測定手段とを備えるようにしてもよい。
【0025】
また、本発明に係る機械振動子測定装置は、連続したレーザー光である第1光源光と、基準となる第1周波数の信号を生成する第1周波数発振手段と、第1周波数発振手段で生成された第1周波数の信号を用いて第1光源光を位相変調し、第1周波数の光パルス列を生成する第1位相変調手段と、第1位相変調手段で生成された光パルス列の強度を第1周波数の信号を用いて変調してプローブ光を生成する第1強度変調手段と、連続したレーザー光である第2光源光と、第1周波数より、設定された値だけ大きな周波数の第2周波数の信号を生成する第2周波数発振手段と、第2周波数発振手段で生成された第2周波数の信号を用いて第2光源光を位相変調し、第2周波数の光パルス列を生成する第2位相変調手段と、第2位相変調手段で生成された光パルス列の強度を第2周波数の信号を用いて変調してポンプ光を生成する第2強度変調手段と、プローブ光およびポンプ光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、機械振動子を反射したプローブ光の反射光の強度を測定する光強度測定手段とを備える。
【0026】
上記機械振動子測定装置において、連続したレーザー光を発生するレーザーを備え、 レーザーより出力されたレーザー光を分岐して第1光源光および第2光源光を生成すればよい。
【0027】
上記機械振動子測定装置において、第2強度変調手段で生成された第1偏光状態のポンプ光の偏光を90°回転させて第2偏光状態とする偏光板と、偏光板を通過したポンプ光と、第2強度変調手段で生成された第1偏光状態のプローブ光とを合波して合波光とする合波手段と、合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、合波光が機械振動子を反射した反射光より第1偏光状態のプローブ光を取り出す偏光分離手段と、偏光分離手段で取り出されたプローブ光の強度を測定する光強度測定手段とを備えるようにしてもよい。
【0028】
また、第1光源光となる第1波長の連続した第1レーザー光を発生する第1レーザーと、第2光源光となり、第1レーザー光とは異なる第2波長の連続した第2レーザー光を発生する第2レーザーと、第1強度変調手段で生成したプローブ光と、第2強度変調手段で生成したポンプ光とを合波して合波光とする合波手段と、合波光を対象とする機械振動子の設定された箇所に照射する光照射手段と、合波光が機械振動子を反射した反射光より第1波長のプローブ光を取り出す波長分離手段と、波長分離手段で取り出されたプローブ光の強度を測定する光強度測定手段とを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したことにより、本発明によれば、光学的な手法により、様々な共振周波数の機械振動子の特性測定が、容易に実施できるようになる。また、様々な共振周波数の機械共振器を共振させることができるようになる。これにより、様々や共振周波数の機械振動子の動作制御が、容易に実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の実施の形態における機械振動子測定装置および機械振動子制御装置の構成を示す構成図である。
図2図2は、光周波数コムの周波数軸上における線スペクトルの状態を示す説明図(a)、および光周波数コムにおける光搬送波について示す説明図(b)である。
図3図3は、光周波数コムの位相ノイズの測定結果例を示した特性図である。
図4図4は、機械振動子制御に対する位相制御(a)およびオンオフ制御(b)における照射するポンプ光の状態を説明するための説明図である。
図5図5は、機械振動子振動をシミュレーションするための力学系を模式的に示した構成図である。
図6図6は、時刻200nsで位相シフトが0の場合[1]およびπの場合[2]における機械振動子の変位を時刻0から400nsまで計算した説明図(a)、(a)における変位を時刻300から310nsまで計算した結果を示す特性図(b)、および機械振動子を止めるために、時刻200nsで自然減衰させた場合[3]、1段の逆パルスをかけた場合[4]、2段の逆パルスをかけた場合[5]の機械振動子の変位を計算した結果を示す特性図(c)である。
図7A図7Aは、実施例1における機械振動子測定装置の構成を示す構成図である。
図7B図7Bは、実施例2における機械振動子測定装置の構成を示す構成図である。
図7C図7Cは、実施例3における機械振動子測定装置の構成を示す構成図である。
図8図8は、機械振動子の実時間による振動とQ値の定義を説明する説明図(a),(b)、および機械振動子の共振スペクトルを模式的に示した説明図(c)である。
図9図9は、ポンプ・プローブ法を実施するための装置の構成を示す構成図である。
図10図10は、実時間上におけるASOPSによるポンプ光(繰り返し周波数frep+Δfrep)およびプローブ光(繰り返し周波数frep)の状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0032】
はじめに、本発明の概念について説明する。本発明では、図1に示すように、プローブ用位相/強度変調レーザー101およびポンプ用位相/強度変調レーザー102を用いる。プローブ用位相/強度変調レーザー101より生成されたプローブ光と、ポンプ用位相/強度変調レーザー102より生成されたポンプ光とを、レンズなどから構成された光照射部103により、対象とする機械振動子104の設定された箇所に照射する。また、機械振動子104を反射したプローブ光の反射光の強度を、フォトディティクター(PD)105およびデジタイザー106などを備える光強度測定手段で測定する。また、位相制御部107により、ポンプ用位相/強度変調レーザー102より生成されるポンプ光の位相を制御する。
【0033】
位相/強度変調レーザーは、外部のマイクロ波発振器(周波数発振手段)などより得られた周波数frepの信号を用い、狭線幅CW(Continuous Wave)レーザー光の位相/強度を周波数frepで変調することで、繰り返し周波数frepのパルス列を生成する(非特許文献8,9,10)。この位相/強度変調レーザーの繰り返し周波数frepの可変範囲は、位相変調器・強度変調器の変調範囲で決まり、広い範囲に設定可能である。
【0034】
位相/強度変調レーザーは、狭線幅の連続したレーザー光である光源光を発生するレーザーダイオードと、位相変調器と、強度変調器とで構成される(非特許文献8,9)。外部からのマイクロ波発信器より得られる周波数frepの電圧を、位相変調器および強度変調器に印加することで、レーザーダイオードから発生するレーザー光の位相・強度を制御し、レーザーダイオードの中心周波数(f0=ω0/2π)から整数倍のfrep離れたところにサイドバンドを作る。これにより、図2の(a)に示すような、等しい周波数間隔frepで櫛状に並ぶ多数のモード(線スペクトル)の集合体である光周波数コムが生成できる。この光周波数コムは、図2の(b)に示すように、「光搬送波包絡線」に示すような時間軸上に等しい時間間隔Tで並ぶ(繰り返し周波数がfrepの)パルス電場となるため、機械振動子測定のためのポンプ光およびプローブ光として利用できる。
【0035】
プローブ用位相/強度変調レーザー101では、レーザーダイオードより発生するレーザー光の位相および強度を、周波数frepで変調することで、繰り返し周波数frepの光コムを生成し、これをプローブ光とする。また、ポンプ用位相/強度変調レーザー102では、レーザーダイオードより発生するレーザー光の位相および強度を周波数frep+Δfrepで変調させることで、繰り返し周波数frep+Δfrepの光コムを生成し、これをポンプ光とする。
【0036】
次に、位相変調器および強度変調器について説明する。位相変調器により光の位相を周波数frepで振動させたときの光の電場は、非特許文献8より、ベッセル関数Jq(x)を用いて以下の式(1)として表すことができる。
【0037】
【数1】
【0038】
式(1)において、qは整数である。これは、レーザーダイオードより発生するレーザー光の中心周波数f0(=ω0/2π)から周波数qfrepだけ離れた光の電場が、E0q(Δθ)であることを示していて、全体として光コムを形成している。
【0039】
このままでもパルス電場が生成するが、強度変調器によりアップチャープ部分を取り除くことよって、パルス波形に出てくるDC成分を取り除くことができる(非特許文献9,10)。
【0040】
上述したように、位相変調器と強度変調器と用いることにより、繰り返し周波数frepの光コムが生成できる。さらに余計なウイングを取り除くために光学フィルターなどを用いることもある(非特許文献10)。
【0041】
上述したように生成できる光コムの周波数frepを、機械振動子の共振周波数fn付近に持っていくことができれば、機械振動子を共振させることができる。
【0042】
上述した構成により、まず、機械振動子の特性評価が実施できるようになる。機械振動子のn次モード共振周波数fnと、共振周波数fn付近の共振スペクトルを求めることにより、実時間振動情報のみでは測定が困難な機械振動子に対しても、Q値測定が行える。
【0043】
また、機械振動子の振動状態を所望とする状態に制御できるようになる。機械振動子の位相制御、および振動のON・OFF制御が行える。
【0044】
まず、特性評価について説明する。プローブ用位相/強度変調レーザー101より生成するプローブ光の繰り返し周波数をfrepとし、ポンプ用位相/強度変調レーザー102より生成するポンプ光の繰り返し周波数をfrep+Δfrepとする。PD105では、プローブ光の反射光強度のみを検出する。また、PD105で光電変換された信号より、デジタイザー106で電圧を読みだす。プローブ光の反射光強度は、機械振動子104の共振条件にあえば強く振動するが、これ以外の条件ではほとんど振動しない。
【0045】
上述した測定状態で、外部のマイクロ波発振器による周波数frepを順次変化させていきながら、プローブ光反射光強度を測定する。機械振動子104の共振周波数fnにあうまで周波数frepを変化させることができれば、機械振動子104のn次の固有振動数に対する共振スペクトルを得ることができ、これにより、機械振動子104のQ値を決定することができる。
【0046】
対象とする機械振動子104の共振周波数fnに、frepを合わせるもう1つの方法は、光コムであるプローブ光およびポンプ光より、所定の間隔でコムを間引くことで、繰り返し周波数をfrep/n(nは自然数)に落とす方法がある。この方法を光ゲートと呼んでいる。位相/変調レーザーの繰り返し周波数が低い場合には、単純に低い周波数を位相・強度変調器に印加するよりも、光ゲートを用いる方が、ポンプ光およびプローブ光の短パルス発生ができる。これにより、広い周波数範囲で様々な機械振動子の共振周波数の共振スペクトルを求めることが可能である。
【0047】
また、ポンプ光とプローブ光とを、個別の光路で機械振動子に照射するようにしてもよいが、これらを合波して同一の光路(同軸)で機械振動子に照射することも可能である。例えば、プローブ光の偏光状態とポンプ光の偏光状態とを互いに90°異なる状態で合波して機械振動子に照射し、反射光より一方の偏光状態を取り出すことで、プローブ光を取り出すようにすればよい。また、プローブ光の波長をポンプ光の波長とは異なる状態で合波して機械振動子に照射し、反射光より一方の波長を取り出すことで、プローブ光を取り出すようにすればよい。
【0048】
次に、この測定方法の時間分解能について述べる。この測定でどれくらいの時間分解能が必要であるのかについては、どのくらいの振動成分を取りだすのかによる。フーリエ変換によりパルス幅100fsで5THz、パルス幅1psで500GHzまでの振動成分を抽出することが可能である。時間分解能を決めるのは、パルスレーザーのパルス幅とタイミング・ジッターによる。パルス幅は、光周波数コムの波長軸上での広がり方に依存し、どのくらい広がるのかは位相変調の深さに依存する。パルス幅tと位相変調深さΔθ、繰り返し周波数frepとの関係式は「τ〜0.7/(2Δθfrep)・・・(2)」で表される(非特許文献8)。なお、位相変調の深さΔθは式(1)にも現れている。
【0049】
例えば、繰り返し周波数をfrep=1GHzとすると、Δθ=1000πのときのパルス幅tは100fs、Δθ=100πのときのパルス幅tは1psである。また、繰り返し周波数frep=10GHzなどと速くした後に、光ゲートなどによって時間軸上で10本に1本だけコムを取り出すことによって、パルス幅を狭くする方法もある。この場合、Δθ=100πのときのパルス幅tは100fs、Δθ=10πのときのパルス幅tは1psである。これにより、変調深さがそれほど大きくない位相変調器に対してもパルス幅の狭い光コムを生成することが可能である。
【0050】
時間分解能を決めるもう1つの要因は、レーザーのタイミング・ジッターである。タイミング・ジッターとは、時間領域において単一周期で繰り返される理想波形に対する実際の波形のずれを表す。タイミング・ジッターの指標の1つであるRMSジッターは、パルスレーザーの位相ノイズを測定することによって決まる。図3に位相ノイズ測定例を示す。ここでは、計算を簡単にするため、位相ノイズを10kHzから2GHzまで−150dBcで一様に広がっているものと仮定している。
【0051】
発生させた光周波数コムの位相ノイズが、−150dBc/Hzで10kHzから2GHzまで広がっていたとする。このときの積分した位相ノイズAは、−57dBc(=−150dBc+10log10[2000×106−0.01×106])である(非特許文献11)。
【0052】
RMSジッター(RMS Phase Jitter)は、次の式(3)で定義される。
【0053】
【数2】
【0054】
例えば、frepを1GHzとするとRMSジッターは、318fsである。
【0055】
次に、機械振動子の振動状態の制御について説明する。機械振動子の振動振幅および位相制御、また、振動のオンオフが制御できる。まず、振動振幅は、ポンプ光の光強度を変えれば良いだけで、自明である。
【0056】
以下では、位相制御およびオンオフについて説明する。これらの制御は、機械振動子104の共振周波数付近で、ポンプ用位相/強度変調レーザー102にかける正弦波frepの位相を、位相制御部107によりある時刻で変えることで実施可能である。なお、機械振動子104の制御の場合、プローブ用位相/強度変調レーザー101、PD105、デジタイザー106などの測定系はなくてもよい。ただし、これら測定系を用い、測定結果を位相制御部107にフィードバックして制御を実施してもよい。一方、前述した測定の場合、位相制御部107はなくてもよい。
【0057】
まず、振動の位相制御は、振動ONの状態から、図4の(a)に示すように、照射するポンプ光の位相をφだけずらす。これを実現するためには、例えば位相制御部107を用い、ポンプ用位相/強度変調レーザー102の位相変調器および強度変調器に印加する電圧(マイクロ波)の周波数の位相を、ある時刻t0でφだけずらす。言い換えると、マイクロ波波形をAcos(ωt)(t<t0)からAcos(ωt+φ)(t>t0)とする。これにより、機械振動子104の振幅は1度減衰し、再度増幅するが、最終的には一定強度で位相がφだけずれた振動状態に移る。このように、frepの位相を変えることで、機械振動子104の位相制御が可能となる。
【0058】
次に、オンオフ制御について、図4の(b)を用いて説明する。まず、振動ONの状態から照射するポンプ光の位相をある時刻t0からt1でπだけずらす。これを実現するためには、マイクロ波波形をAcos(ωt)(t<t0)の状態からAcos(ωt+π)(t0<t<t1)の状態とする。これにより、機械振動子104には時刻t0までの強制振動とは反対方向の力が加わり、機械振動子104の振幅が落ちる。振幅がゼロ付近になる時刻t1で、機械振動子104の励振をやめると、振動OFFの状態が実現できる。
【0059】
さらに、振幅がゼロ付近になったところで、小さい振幅の振動をしばらく与えることもできる。これを実現するためには、マイクロ波波形をBcos(ωt+π)(t1<t<t2)とする。これにより、振動振幅をさらに速く抑えることができる。このようなオンオフ制御は、機械振動子104の自然減衰による励振OFFに比べると、格段に速く振動を止めることができる。
【0060】
次に、機械振動子の制御について、機械振動子の運動シミュレーションを実施した結果について説明する。以下では、図5に示すように、質量mの機械振動子501に、バネ502およびダンパー503が接続された系としてシミュレーションを実施した。この系の運動方程式は、機械振動子501の中心位置からの変位をx、固有振動数をω0、外力F(t)=mf(t)として、以下の式(4)として示すことができる。
【0061】
【数3】
【0062】
ω0=2π×109、Q=50とし、初期条件x(0)=0,v(0)=0で、f(t)を機械振動子の位相制御およびOFF制御の各々の場合で与えたときの、時刻tにおける変位x(t)を4次のRunge−Kutta法で計算した。
【0063】
位相制御においては、時刻0から200nsまで共振周波数と同じ周期でポンプ光を照射し、図6の(a)および(b)に示すように、時刻200から400nsまでポンプ光の周期を半周期ずらしたとき[1]と、ずらさなかったとき[2]の機械振動子変位xを計算し、両者を比較した。図7の(a)は、時刻0から400nsまでの機械振動子変位を表す。図7の(a)に示すように、t=200nsでポンプ光の周期をπずらすと、振動子振幅強度は、[1]で示す時刻210nsまで減少してゼロになり、再び増加して定常状態に落ち着く。
【0064】
また、時刻300から310nsまでの機械振動子変位を図7の(b)に示す。図7の(b)において、[1]と[2]との比較より、ポンプ光の周期をπずらすと、変位が逆転していることがわかる。同様にポンプ光のタイミングをφだけずらすと、位相がずらした量だけシフトする。これらのことより、ポンプ光のタイミングを変えることにより位相シフトが実現できることがわかる。
【0065】
OFF制御においては、時刻0から200nsまで共振周波数と同じ周期でポンプ光を当て、図7の(c)に示すように、時刻200nsからポンプ光を切ったとき[3]と、時刻200から210nsまでポンプ光の周期を半周期ずらしたとき[4]と、時刻200から210nsまでポンプ光の周期を半周期ずらし、時刻210から218nsまでポンプ光の周期を半周期ずらしてパワーを1/10にしたとき[5]の機械振動子変位xを計算し、これらを比較した。
【0066】
ポンプ光を切った場合[3]に比べて、ポンプ光の周期を半周期ずらした場合[4]、およびポンプ光の周期を半周期ずらしてパワーを減らした場合[5]の方が振動の減衰が速くなることがわかる。これらのことは、機械振動子の振幅が0になるまで、ポンプ光の周期を半周期ずらすことが効果的であることを意味している。
【0067】
次に、機械振動子測定装置について実施例を用いてより詳細に説明する。
【0068】
[実施例1]
はじめに、実施例1について、図7Aを用いて説明する。図7Aは、実施例1における機械振動子測定装置の構成を示す構成図である。この機械振動子測定装置は、光源701,第1周波数発振器702,第1位相変調器703,第1強度変調器704,第2周波数発振器705,第2位相変調器706,第2強度変調器707,光照射機構708,フォトディティクター(PD)709,およびデジタイザー710を備える。
【0069】
光源701は、連続したレーザー光である光源光を生成する。光源701より生成された光源光は、ビームスプリッタ711を直進し、第1光源光として第1位相変調器703に入射する。第1周波数発振器702は、基準となる第1周波数(frep)の信号を生成する。第1位相変調器703は、第1周波数発振器702で生成された第1周波数の信号を用いて第1光源光を位相変調し、第1周波数の光パルス列を生成する。第1強度変調器704は、第1位相変調器703で生成された光パルス列の強度を第1周波数の信号を用いて変調してプローブ光を生成する。
【0070】
また、光源701より生成された第1光源光は、ビームスプリッタ711で分岐され、ミラー712で反射し、連続したレーザー光である第2光源光として第2位相変調器706に入射する。第2周波数発振器705は、上記第1周波数より、設定された値(Δfrep)だけ大きな周波数(frep+Δfrep)の第2周波数の信号を生成する。第2位相変調器706は、第2周波数発振器705で生成された第2周波数の信号を用いて第2光源光を位相変調し、第2周波数の光パルス列を生成する。第2強度変調器707は、第2位相変調器706で生成された光パルス列の強度を第2周波数の信号を用いて変調してポンプ光を生成する。
【0071】
以上のようにして生成されたプローブ光およびポンプ光は、レンズなどから構成された光照射機構708により、対象とする機械振動子751の設定された箇所に照射される。また、照射されて機械振動子751を反射したポンプ光の反射光の強度が、PD709で検出され、PD709で光電変換された信号より、デジタイザー710で電圧を読みだす。
【0072】
第1周波数発振器702が生成する信号の第1周波数および第2周波数発振器705が生成する信号の第2周波数を順次変化させ、デジタイザー710で読み出される電圧の変化を観察する。機械振動子751の共振周波数にあうまで、frepを変化させて第1周波数および第2周波数を変化させることで、読み出される電圧変化により、機械振動子751のn次の固有振動数に対する共振スペクトルを得ることができ、これにより、機械振動子751のQ値を決定することができる。
【0073】
[実施例2]
次に、実施例2について、図7Bを用いて説明する。図7Bは、実施例2における機械振動子測定装置の構成を示す構成図である。この機械振動子測定装置は、光源701,第1周波数発振器702,第1位相変調器703,第1強度変調器704,第2周波数発振器705,第2位相変調器706,第2強度変調器707,光照射機構708,フォトディティクター(PD)709,およびデジタイザー710を備える。これらの構成は、前述した実施の形態1と同様である。
【0074】
実施例2では、ポンプ光とプローブ光とを同じ光路(同軸)で機械振動子751に照射するために、偏光ビームスプリッタ713,ミラー714,偏光板715,偏光ビームスプリッタ716を備える。
【0075】
実施例2において、第1強度変調器704で生成された第1偏光状態(例えばP波)のプローブ光は、偏光ビームスプリッタ713を直進する。一方、第2強度変調器707で生成された第1偏光状態のポンプ光は、ミラー714を反射して偏光板715により偏光を90°回転させられて第2偏光状態(例えばS波)とされ、偏光ビームスプリッタ713でプローブ光に合波される。
【0076】
以上のようにして合波された互いに偏光状態が異なるプローブ光およびポンプ光は、光照射機構708により、対象とする機械振動子751の設定された箇所に照射される。このようにして照射されて機械振動子751を反射したプローブ光およびポンプ光は、偏光ビームスプリッタ716により、分波される。偏光ビームスプリッタ716では、第1偏光状態の光が直進し、第2偏光状態の光が分岐される。また、偏光ビームスプリッタ716を直進した光が、PD709で検出される。従って、第1偏光状態のプローブ光が、偏光ビームスプリッタ716を直進してPD709で検出される。このようにしてPD709で光電変換された信号より、デジタイザー710で電圧が読みだされる。
【0077】
実施例2においても、第1周波数発振器702が生成する信号の第1周波数および第2周波数発振器705が生成する信号の第2周波数を順次変化させ、デジタイザー710で読み出される電圧の変化を観察する。機械振動子751の共振周波数にあうまで第2周波数を変化させることで、読み出される電圧変化により、機械振動子751のn次の固有振動数に対する共振スペクトルを得ることができ、これにより、機械振動子751のQ値を決定することができる。
【0078】
前述した実施例1の構成では、ポンプ光とプローブ光とを、異なる光路で機械振動子751に照射するため、機械振動子751が微小になるほど、反射したプローブ光のみを取り出すことが困難になる。これに対し、実施例2のように、ポンプ光とプローブ光とを合波して同じ光路で機械振動子751に照射し、同じ光路で反射した合波光よりプローブ光のみを取り出すようにすることで、より微小な機械振動子751に対応させることが容易となる。
【0079】
[実施例3]
次に、実施例3について、図7Cを用いて説明する。図7Cは、実施例3における機械振動子測定装置の構成を示す構成図である。この機械振動子測定装置は、光源(第1レーザー)701,第1周波数発振器702,第1位相変調器703,第1強度変調器704,第2周波数発振器705,第2位相変調器706,第2強度変調器707,光照射機構708,フォトディティクター(PD)709,およびデジタイザー710を備える。これらの構成は、前述した実施の形態1と同様である。
【0080】
実施例3では、ポンプ光とプローブ光とを同じ光路(同軸)で機械振動子751に照射するために、光源(第2レーザー)717,ビームスプリッタ718,ミラー719,光学フィルター(波長分離手段)720を備える。光源717は、光源701が発生する第1波長の第1レーザー光とは、波長が異なる第2波長の連続した第2レーザー光を発生する。また、光学フィルター720は、第1波長の光を透過し、第2波長の光を反射する。
【0081】
実施例3では、光源701より生成された光源光を第1光源として用い、第1位相変調器703に入射させ、第1周波数発振器702で生成された第1周波数の信号を用いて第1光源光を位相変調して第1周波数の光パルス列を生成し、第1強度変調器704で、光パルス列の強度を第1周波数の信号を用いて変調してプローブ光を生成する。このプローブ光は、第1波長となる。
【0082】
一方、光源717より生成された光源光を第2光源光として用い、第2位相変調器706に入射させ、第2周波数発振器705で生成された第2周波数の信号を用いて第2光源光を位相変調して第2周波数の光パルス列を生成し、第2強度変調器707で、光パルス列の強度を第2周波数の信号を用いて変調してポンプ光を生成する。このポンプ光は、第2波長となる。
【0083】
実施例3において、第1強度変調器704で生成された第1波長のプローブ光は、ビームスプリッタ718を直進する。一方、第2強度変調器707で生成された第2波長のポンプ光は、ミラー719を反射し、ビームスプリッタ718でプローブ光に合波される。
【0084】
以上のようにして合波された互いに異なる波長のプローブ光およびポンプ光は、光照射機構708により、対象とする機械振動子751の設定された箇所に照射される。このようにして照射されて機械振動子751を反射したプローブ光およびポンプ光のうち、第1波長のプローブ光が光学フィルター720を透過する。第2波長のポンプ光は、光学フィルター720で反射される。また、光学フィルター720を透過した光が、PD709で検出される。従って、第1波長のプローブ光が、光学フィルター720を透過してPD709で検出される。このようにしてPD709で光電変換された信号より、デジタイザー710で電圧が読みだされる。
【0085】
実施例3においても、第1周波数発振器702が生成する信号の第1周波数および第2周波数発振器705が生成する信号の第2周波数を順次変化させ、デジタイザー710で読み出される電圧の変化を観察する。機械振動子751の共振周波数にあうまで第2周波数を変化させることで、読み出される電圧変化により、機械振動子751のn次の固有振動数に対する共振スペクトルを得ることができ、これにより、機械振動子751のQ値を決定することができる。
【0086】
以上に説明したように、実施例3においても、ポンプ光とプローブ光とを合波して同じ光路で機械振動子751に照射し、同じ光路で反射した合波光よりプローブ光のみを取り出すようにしたので、より微小な機械振動子751に対応させることが容易となる。
【0087】
以上に説明したように、本発明では、連続したレーザー光である光源光を、位相変調手段により、周波数発振手段で生成された信号を用いて位相変調して光パルス列を生成し、強度変調手段によりこの光パルス列の強度を周波数発振手段で生成された信号を用いて変調してポンプ光やプローブ光を生成するようにしたので、光学的な手法により、様々な共振周波数の機械共振器を共振させることができる。
【0088】
これにより、様々や共振周波数の機械振動子の動作制御が、容易に実現できるようになる。また、様々な共振周波数の機械振動子の特性測定が容易に実施できるようになる。
【0089】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【0090】
例えば、実施例で示した機械振動子測定装置の構成において、第2周波数発振器705が生成する周波数がfrep+Δfrepの信号の周期(位相)をずらす制御により、機械振動子751の位相制御やオンオフ制御が可能である。また、実施例の構成によれば、このような制御に対し、第1周波数発振器702,第1位相変調器703,第1強度変調器704によるプローブ光を用いた機械振動子の測定結果をフィードバックすることができる。
【0091】
また、実施例で示した構成に限るものではなく、機械振動子の大きさにより、光源,位相変調器,強度変調器の数などを適宜に徹底すればよい。また、実施例2の構成と実施例3の構成とを組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
101…プローブ用位相/強度変調レーザー、102…ポンプ用位相/強度変調レーザー、103…光照射部、104…機械振動子、105…フォトディティクター(PD)、106…デジタイザー、107…位相制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10