特許第6243581号(P6243581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243581高光電変換効率太陽電池セル及び高光電変換効率太陽電池セルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6243581
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】高光電変換効率太陽電池セル及び高光電変換効率太陽電池セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   H01L31/04 262
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-519700(P2017-519700)
(86)(22)【出願日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2016005045
【審査請求日】2017年6月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽子
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛之
【審査官】 河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−290105(JP,A)
【文献】 特開平06−196741(JP,A)
【文献】 特開2007−207957(JP,A)
【文献】 特開2012−069594(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0230119(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−10/40、30/00−50/15、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の第一主表面上に、銀とガラスを含むフィンガー電極と、複数のバスバー電極とを有する裏面電極型太陽電池セルであって、
前記第一主表面は、前記裏面電極型太陽電池セルの非受光面であり、
少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆されており、
前記絶縁材料を含む材料は、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものであり、
前記絶縁材料を含む材料は導電性粒子を含むものであることを特徴とする裏面電極型太陽電池セル。
【請求項2】
前記絶縁材料を含む材料は熱硬化性の材料であることを特徴とする請求項1に記載の裏面電極型太陽電池セル。
【請求項3】
前記絶縁材料を含む材料は、少なくともシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から一つ以上選択された樹脂を含有する材料からなるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の裏面電極型太陽電池セル。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の裏面電極型太陽電池セルが内蔵されていることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記太陽電池モジュールが充填剤を含むものであり、
前記充填剤がエチレンビニルアセテートを含有する材料であることを特徴とする請求項4に記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の太陽電池モジュールを有することを特徴とする太陽光発電システム。
【請求項7】
半導体基板の第一主表面上に銀とガラスを含むフィンガー電極を形成する工程と、
前記半導体基板の第一主表面上に複数のバスバー電極を形成する工程と、
少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆する工程とを含み、
前記第一主表面を、太陽電池セルの非受光面とし、
前記絶縁材料を含む材料として、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものであり、導電性粒子を含むものを用いることを特徴とする裏面電極型太陽電池セルの製造方法。
【請求項8】
前記絶縁材料を含む材料として熱硬化性の材料を用いることを特徴とする請求項7に記載の裏面電極型太陽電池セルの製造方法。
【請求項9】
前記絶縁材料を含む材料として、少なくともシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から一つ以上選択された樹脂を含有する材料からなるものを用いることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の裏面電極型太陽電池セルの製造方法。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の裏面電極型太陽電池セルを用い、該裏面電極型太陽電池セルが内蔵された太陽電池モジュールを製造することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項11】
前記太陽電池モジュールを充填剤を含むものとし、
前記充填剤としてエチレンビニルアセテートを含有する材料を用いることを特徴とする請求項10に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光電変換効率太陽電池セル及び高光電変換効率太陽電池セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶N型シリコン基板を用いた高光電変換効率太陽電池の概観を図2に、断面構造の模式図を図3に示す。太陽電池セル(以下、単に太陽電池とも称する)200は、N型基板110の受光面の集電電極として、フィンガー電極(以下、単にフィンガーとも称する)121、322と呼ばれる百〜数十μm幅の電極を多数有する。隣接フィンガー電極の間隔は1〜3mm程度が一般的である。また、太陽電池セルを連結するための集電電極としてバスバー電極(以下、単にバスバーとも称する)231を2〜4本有する。これら電極の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法等が挙げられるが、コストの面から、Ag等の金属微粒子を有機バインダーに混ぜた金属ペーストを、スクリーン版等を用いて印刷し、数百度で熱処理を行って基板と接着する方法が広く利用されている。電極以外の部分は窒化シリコン膜等の反射防止膜345で覆われている。基板の表面は基板の導電型と反対のP型層312が形成される。裏面側にもフィンガー電極323が形成され、電極以外の部分は窒化シリコン等の膜344で覆われている。裏面の最表層には基板と同じ導電型の高濃度N型層313が形成されている。
【0003】
また、更に高光電変換効率の太陽電池構造としては裏面電極型太陽電池がある。裏面電極型太陽電池400の裏面の概観を図4に示す。基板110の裏面には、エミッタ層312及びベース層313が交互に配列され、それぞれの層上に沿ってフィンガー電極(エミッタ電極322、ベース電極323)が設けられている。更に、これらの電極から得られる電流を更に集電するためのバスバー電極(エミッタ用バスバー電極432、ベース用バスバー電極433)が設けられている。機能上、バスバー電極はフィンガー電極と直交していることが多い。エミッタ層312の幅は数mm〜数百μm、ベース層313の幅は数百μm〜数十μmである。また、電極幅は数百〜数十μm程度が一般的である。裏面電極型太陽電池400の断面構造の模式図を図5に示す。基板110の裏面の最表層近傍にエミッタ層312及びベース層313が形成されている。エミッタ層312及びベース層313の各層厚はせいぜい1μm程度である。各層上にはフィンガー電極322、323が設けられ、非電極領域(電極が形成されていない領域)の表面は窒化シリコン膜や酸化シリコン膜等の誘電体膜(裏面保護膜344)で覆われている。太陽電池400の受光面側には反射損失を低減する目的で、反射防止膜345が設けられる。受光面に電極が存在しないため、入射光が遮られることなく基板内に入るので、図3の構造に比べ光電変換効率は高くなる。
【0004】
上記のような太陽電池は、太陽電池モジュールに加工される。図10に太陽電池モジュールの一例の概観を示す。上記により作製された太陽電池1000は、太陽電池モジュール1060内ではタイル状に敷き詰められた構造をなす。太陽電池モジュール1060内では、隣接する太陽電池1000同士が数枚〜数10枚電気的に直列に接続され、ストリングと呼ばれる直列回路を構成している。ストリングの概観を図11に示す。図11は、通常人目に触れることのないモジュール内部裏面側の模式図に相当する。また、フィンガーやバスバーは図示されていない。直列接続にするため、図11に示したように、隣接する太陽電池1000のPバスバー(基板のP型層に接合したフィンガー電極に接続されているバスバー電極)とNバスバー(基板のN型層に接合したフィンガー電極に接続されているバスバー電極)同士がタブリード線1161等で接続されている。太陽電池モジュールの断面模式図を図12に示す。上述のようにストリングは、複数の太陽電池1000を、バスバー電極231にタブリード線1161を接続することで構成される。該ストリングは、通常EVA(エチレンビニルアセテート)等の透光性の充填剤1272で封止され、非受光面側はPET(ポリエチレンテレフタラート)等の耐候性樹脂フィルム1273、受光面はソーダライムガラス等の透光性で機械的強度が強い受光面保護材料1271で覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−58808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モジュールの充填剤としてEVAを用いると、経時でのモジュールの光電変換効率の低下量が大きいことが知られている。モジュール内に少なからず水分が透過し、EVAが加水分解して酢酸を発生し、この酢酸が電極を侵すためと考えられている。
【0007】
特許文献1は、電極と導線を接続する接着剤で電極表面を覆い、電極内部にも接着剤を入り込ませ、電極と基板の接着強度を高めるものである。充填剤と電極の直接接触を回避させるという意味では有効な方法といえる。しかしながらこの方法によると、導線を用意するという余計な工程が必要となるだけでなく、更に、導線と電極の位置合わせが容易ではないといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、EVAを用いても、経時での光電変換効率低下を抑制する太陽電池セル及びその簡易な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極を有する太陽電池セルであって、
少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆されており、
前記絶縁材料を含む材料は、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものであることを特徴とする太陽電池セルを提供する。
【0010】
この太陽電池セルを用いて太陽電池モジュールを作製すると、絶縁材料を含む材料がEVAと電極の直接接触を妨げるため、経時での電極と基板の接着強度低下を防ぐことができる。また、モジュール製造工程等における基板破損時には、絶縁材料を含む材料が破損した基板同士をつなぎとめる役割を果たし、破片除去のための時間は短縮され、モジュール製造時のダウンタイムを減らすことができる。
【0011】
また、前記絶縁材料を含む材料は熱硬化性の材料であることができる。
【0012】
絶縁材料を含む材料は熱硬化性のものが加工がしやすいため好ましい。
【0013】
また、前記絶縁材料を含む材料は、少なくともシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から一つ以上選択された樹脂を含有する材料からなるものであることができる。
【0014】
これらの樹脂は、化学的に安定で使用可能温度が高く、パターン形成が容易であるため、本発明の太陽電池セルでは、絶縁材料を含む材料はこれらの樹脂を含有することが好ましい。
【0015】
また、前記第一主表面は、前記太陽電池セルの非受光面であることが好ましい。
【0016】
絶縁材料を含む材料が光を吸収する材料であっても、非受光面であれば光電変換特性は低下しない。
【0017】
更に本発明では、上記本発明の太陽電池セルが内蔵されていることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。
【0018】
このように、本発明の太陽電池セルは太陽電池モジュールに内蔵することができる。
【0019】
この場合、前記太陽電池モジュールが充填剤を含むものであり、
前記充填剤がエチレンビニルアセテートを含有する材料であっても良い。
【0020】
本発明の太陽電池モジュールは、充填剤をエチレンビニルアセテートとしても、経時での劣化がしにくい。
【0021】
更に本発明では、上記本発明の太陽電池モジュールを有することを特徴とする太陽光発電システムを提供する。
【0022】
このように、本発明の太陽電池セルを内蔵した太陽電池モジュールは太陽光発電システムに用いることができる。
【0023】
更に本発明では、半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極を形成する工程と、
少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆する工程とを含み、
前記絶縁材料を含む材料として、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものを用いることを特徴とする太陽電池セルの製造方法を提供する。
【0024】
この製造方法で製造された太陽電池セルを用いて太陽電池モジュールを作製すると、絶縁材料を含む材料がEVAと電極の直接接触を妨げるため、経時での電極と基板の接着強度低下を防ぐことができる。また、モジュール製造工程等における基板破損時には、絶縁材料を含む材料が破損した基板同士をつなぎとめる役割を果たし、破片除去の時間は緩和され、モジュール製造時のダウンタイムを減らすことができる。
【0025】
また、前記絶縁材料を含む材料として熱硬化性の材料を用いることができる。
【0026】
絶縁材料を含む材料は熱硬化性のものが加工がしやすいため好ましい。
【0027】
また、前記絶縁材料を含む材料として、少なくともシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から一つ以上選択された樹脂を含有する材料からなるものを用いることができる。
【0028】
これらの樹脂は、化学的に安定で使用可能温度が高く、パターン形成が容易であるため、本発明の太陽電池セルの製造方法では、絶縁材料を含む材料はこれらの樹脂を含有することが好ましい。
【0029】
また、前記第一主表面を、前記太陽電池セルの非受光面とすることが好ましい。
【0030】
絶縁材料を含む材料が光を吸収する材料であっても、非受光面であれば光電変換特性は低下しない。
【0031】
更に本発明では、上記本発明の太陽電池セルを用い、該太陽電池セルが内蔵された太陽電池モジュールを製造することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【0032】
このように、本発明の太陽電池セルを用い太陽電池モジュールを製造することができる。
【0033】
この場合、前記太陽電池モジュールを充填剤を含むものとし、
前記充填剤としてエチレンビニルアセテートを含有する材料を用いても良い。
【0034】
本発明の太陽電池モジュールの製造方法であれば、充填剤としてエチレンビニルアセテートを含有する材料を用いても、経時での劣化がしにくい太陽電池モジュールを製造することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の太陽電池セルは高い光電変換効率を有するものである。特に、本発明の太陽電池セルは、フィンガー電極をEVA以外の絶縁材料を含む材料(加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないもの)で被覆したものであるため、長期間使用しても高い光電変換効率を維持することができる。本発明の太陽電池セルの製造方法であれば、比較的簡易な方法でモジュール化後の経時劣化を大幅に改善できる。更に、材料として導電材料を混合したものを用いれば、初期特性も改善できる。裏面電極型太陽電池に適用する場合においては、工数の増加もない。また、太陽電池セルの機械的強度を改善することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る、フィンガー電極近傍の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明を適用できる一般的な両面電極型太陽電池の概観図である。
図3】本発明を適用できる一般的な両面電極型太陽電池の断面模式図である。
図4】本発明を適用できる一般的な裏面電極型太陽電池の裏面概観図である。
図5】本発明を適用できる一般的な裏面電極型太陽電池の断面模式図である。
図6】本発明に係る、裏面電極型太陽電池の一例を示す裏面概観図である。
図7】実施例1において絶縁材料をフィンガー上及び異なる導電型用のバスバーとフィンガーが交差する領域にパターン状に印刷した後の基板の裏面を示す図である。
図8】実施例2において絶縁材料を異なる導電型用のバスバーとフィンガーが交差する領域にのみ塗布した後の基板の裏面を示す図である。
図9】実施例1、2、3における裏面電極型太陽電池の裏面概観図である。
図10】本発明を適用できる一般的な太陽電池モジュールの概観図である。
図11】本発明を適用できる一般的な太陽電池モジュールの裏面内部模式図である。
図12】本発明を適用できる一般的な太陽電池モジュールの断面模式図である。
図13】本発明に係る、太陽光発電システムの一例を示す模式図である。
図14】本発明に係る、実施例1、2、3及び比較例の経時での光電変換効率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0038】
EVA(エチレンビニルアセテート)を用いた太陽電池モジュールは、耐湿性が不十分で経時変化により光電変換効率が低下することが知られている。従って、EVAを用いても、経時での光電変換効率低下を抑制する太陽電池セルが求められている。
【0039】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、
半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極を有する太陽電池セルであって、
少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆されており、
前記絶縁材料を含む材料は、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものであることを特徴とする太陽電池セルが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0040】
更に、上記のように、EVAを用いても、経時での光電変換効率低下を抑制する太陽電池セルの簡易な製造方法が求められている。
【0041】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、
半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極を形成する工程と、
少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆する工程とを含み、
前記絶縁材料を含む材料として、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものを用いることを特徴とする太陽電池セルの製造方法が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0042】
以下の詳細な説明では、本発明の全体の理解、及び特定の具体例でどのように実施するかを提供するために、多くの特定の細部が説明される。しかしながら、本発明は、それらの特定の細部無しに実施できることが理解されるであろう。以下では、公知の方法、手順、及び技術は、本発明を不明瞭にしないために、詳細には示されない。本発明は、特定の具体例について特定の図面を参照しながら説明されるが、本発明はこれに限定されるものでは無い。ここに含まれ記載された図面は模式的であり、本発明の範囲を限定しない。また図面において、図示目的で幾つかの要素の大きさは誇張され、それゆえに縮尺通りではない。
【0043】
[太陽電池セル]
本発明の太陽電池セルの特徴を図1を用い説明する。図1は本発明の太陽電池セルのフィンガー電極近傍の断面模式図である。本発明の太陽電池セルは、半導体基板110の第一主表面上にフィンガー電極121を有する。本発明の太陽電池セルは、フィンガー電極121の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料(絶縁材料を含む層)151で被覆されている。この構造を有することで、モジュール化された際、電極は充填剤と直接接触しなくなるため、充填剤が起因の経時劣化は発生しない。充填剤が起因の経時劣化とは、例えば、EVAが吸湿、加水分解して酢酸を発生し、これが電極を侵すような場合が考えられる。更に、原因は不明であるが、PID(Potential Induced Degradation:モジュールに高電圧が印可されることによるモジュール出力の低下)現象が抑制される。
【0044】
また、この構造を有することで、太陽電池の機械的強度が高まる。具体的には、絶縁材料を含む材料151が基板をつなぎとめる役割を果たすため、基板を破損した場合の破片の数を少なくすることができる。これは、例えばモジュール製造時等における基板破損時の復旧時間を短くでき、装置のダウンタイムを減少させることができる。
【0045】
こういった理由から、絶縁材料を含む材料151は少なくとも電極を覆うだけの幅があればよく、例えば最大幅が電極幅より10〜200μm大きく、電極から測った厚みは1〜20μmあればよい。また、電極が被覆されてさえいれば、基板全面を覆ってもかまわない。
【0046】
また、絶縁材料を含む材料151は、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものである。この材料を用いれば、絶縁材料を含む材料自体により電極を侵されてしまうといった問題が生じない。絶縁材料を含む材料は、上記性質を有するものであれば特に限定されないが、熱硬化性の材料であることができる。絶縁材料を含む材料は熱硬化性のものが加工がしやすいため好ましい。より具体的には、絶縁材料を含む材料は、少なくともシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から一つ以上選択された樹脂を含有する材料からなるものとすることができる。これらの材料の混合物でもかまわないし、金属粉等を混合して、他機能を付与させてもよい。これらの樹脂は、化学的に安定で使用可能温度が高く、パターン形成が容易であるため、本発明の太陽電池セルでは、絶縁材料を含む材料はこれらの樹脂を含有することが好ましい。なお、上記の樹脂のうち、加水分解しないものはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂である。また、加水分解した際にカルボン酸を発生しないものはシリコーン樹脂である。モジュール化した際劣化しやすくなるため、EVA(すなわち、加水分解した際に酢酸を発生するもの)は使用できない。
【0047】
上記絶縁材料を含む材料が光を吸収してしまう材料の場合は、非受光面側に使用することができる。すなわち、第一主表面は、太陽電池セルの非受光面であることが好ましい。非受光面側に使用すれば、絶縁材料を含む材料による光電変換効率の低下は生じない。光(例えば波長300〜1200nm程度の範囲)を吸収しない材料であれば、もちろん受光面に用いても何ら問題ない。また、受光面及び非受光面の両面において絶縁材料を含む材料でフィンガー電極を被覆しても良い。
【0048】
なお、図示されていないが、電極直下には高濃度のドーパント層が形成されていてもよく、また、基板表面には窒化シリコン膜のような誘電体膜が形成されていてもよい。
【0049】
本発明の太陽電池セルにおいて、フィンガー電極の配置は特に限定されない。本発明は、従来の太陽電池セル(図2〜5に示す構造)のいずれにも適用できる。すなわち、図2〜5において外部に露出したフィンガー電極を、フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆し、本発明の太陽電池セルとすることができる。
【0050】
また、本発明は、図6に示すバスバーを基板内に複数本配置した構造にも適用可能である。図6は本発明に係る、裏面電極型太陽電池の一例を示す裏面概観図である。図6に示すように、太陽電池600は、半導体基板110を備える。ここで、半導体基板110は第1導電型を有している。また、半導体基板110の第1主表面に、第1導電型と反対の導電型である第2導電型を有するエミッタ層312と、エミッタ層312に接するエミッタ電極322と、第1導電型を有するベース層313と、ベース層313に接するベース電極323と、エミッタ層312とベース層313の電気的短絡を防ぐ絶縁膜605とを備える。また、図6に示すように、太陽電池600は、ベース電極323から得られる電流を更に集電するためのベース用バスバー電極433を備える。また、エミッタ電極322から得られる電流を更に集電するためのエミッタ用バスバー電極432を備える。
【0051】
本発明では、図6において外部に露出したフィンガー電極を、フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆する。この構造、すなわち、図6のフィンガー部が絶縁材料を含む材料で覆われたものを示したものが、図9である。図9は本発明の裏面電極型太陽電池の裏面概観図であり、後述する実施例ではこの構造の裏面電極型太陽電池を製造している。図9に示すように、太陽電池900は、図6において外部に露出したフィンガー電極(ベース電極323、エミッタ電極322)の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料151で被覆されている。図9における絶縁材料を含む材料151以外の構成は図6と同じであるため説明を省略する。図9に示すように、絶縁材料を含む材料がフィンガー電極に沿った形状であっても良い。この場合、絶縁材料を含む材料を全面に形成する場合と比べて、絶縁材料を含む材料の面積を小さくすることができる。その結果、絶縁材料を含む材料の使用量を減らすことができ、経済的である。一方で、絶縁材料を含む材料を全面に形成することもできる。この場合は、絶縁材料を含む材料をパターン形成する必要がないので、簡便に形成することができ、フィンガー電極と絶縁材料を含む材料との位置合わせをする必要がない。
【0052】
このように本発明の太陽電池セルは、モジュール化した際に、充填剤とフィンガー電極との間に絶縁材料を含む材料が介在するため、充填剤とフィンガー電極が接触しないものである。従って、充填剤が起因の経時劣化は発生しない。
【0053】
[太陽電池モジュール]
更に本発明では、上記本発明の太陽電池セルが内蔵されていることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。このように、本発明の太陽電池セルは太陽電池モジュールに内蔵することができる。太陽電池モジュールの構造は特に限定されないが、上述の図10〜12に示す構造とすることができる。図12に示すように、本発明では、太陽電池モジュール1060における太陽電池セル1000が、タブリード線1161を接続する箇所以外は充填剤1272で被覆されていても良い。上記のように本発明の太陽電池セルは、フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆されている。従って、本発明の太陽電池セルは、モジュール化された際、タブリード線1161を接続する箇所以外が充填剤1272で被覆されていたとしても、フィンガー電極と充填剤の直接接触を防ぐことができる。従って、充填剤が起因の経時劣化は発生しない。従って、本発明は図12に示す構造の太陽電池モジュールに適用できる。
【0054】
この場合、太陽電池モジュールが充填剤を含むものであり、充填剤がエチレンビニルアセテートを含有する材料であっても良い。上記の通り、本発明の太陽電池モジュールは、充填剤をエチレンビニルアセテートとしても、経時での劣化がしにくい。
【0055】
[太陽電池セルの製造方法]
以下に、具体的な太陽電池製造方法をN型基板の場合を例に説明する。なお、以下では、第一主表面が裏面(非受光面)である場合を例に説明する。
【0056】
まず、高純度シリコンにリン、ヒ素、又はアンチモンのような5価元素をドープし、比抵抗0.1〜5Ω・cmとしたアズカット単結晶{100}N型シリコン基板を準備する。単結晶シリコン基板は、CZ(Czochralski)法、FZ(Floating zone)法いずれの方法によって作製されてもよい。基板は必ずしも単結晶シリコンである必要はなく、多結晶シリコンでもかまわない。
【0057】
次に、スライス及び研削時に形成される基板表面の機械的ダメージを、濃度5〜60%の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような高濃度のアルカリ、若しくは、ふっ酸と硝酸の混酸等を用いてエッチングする。次工程のテクスチャ形成条件によっては、この工程は必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。
【0058】
引き続き、基板表面にテクスチャと呼ばれる微小な凹凸形成を行う。テクスチャは太陽電池の反射率を低下させるための有効な方法である。テクスチャは、加熱した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ溶液(濃度1〜10%、温度60〜90℃)中に10分から30分程度浸漬することで作製される。上記溶液中に、所定量の2−プロパノールを溶解させ、反応を促進させることが多い。
【0059】
テクスチャ形成後、上記のようにテクスチャを形成した基板を、塩酸、硫酸、硝酸、ふっ酸等、若しくはこれらの混合液の酸性水溶液中で洗浄する。過酸化水素を混合し清浄度を上げることもできる。
【0060】
引き続き、P型層を形成する。P型層の形成には、気相拡散法や塗布拡散法を用いることができ、いずれを用いてもよい。気相拡散法の例としては、基板を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、BBrと酸素の混合ガスを導入して950〜1050℃で熱処理する方法が可能である。キャリアガスとしては窒素やアルゴンが好適である。また、塗布拡散法の例としては、ホウ素源を含有させた塗布剤を第一主表面全面に塗布し、950〜1050℃で熱処理する方法が可能である。塗布剤としては、例えばホウ素源としてホウ酸1〜4%、増粘剤としてポリビニルアルコール0.1〜4%、を含有させた水溶液が利用できる。
【0061】
次にN型層を形成する。N型層の形成には、気相拡散法、塗布拡散法を用いることができ、いずれを用いてもよい。気相拡散法の例としては、基板を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、830〜950℃、オキシ塩化リンと窒素及び酸素混合ガス雰囲気下で基板を熱処理する方法が可能である。塗布拡散法は、リンを含有する材料をスピン塗布したり、印刷したりしてから熱処理する方法であり、いずれの方法を用いてもかまわない。
【0062】
次に、表面のガラスをふっ酸等で除去する。
【0063】
次いで、受光面の反射防止膜形成を行う。反射防止膜としては、窒化シリコン膜や酸化シリコン膜が利用できる。窒化シリコン膜の場合はプラズマCVD装置を用い約100nm製膜する。反応ガスとして、モノシラン(SiH)及びアンモニア(NH)を混合して用いることが多いが、NHの代わりに窒素を用いることも可能であり、また、プロセス圧力の調整、反応ガスの希釈のため、反応ガスに水素を混合することもある。酸化シリコン膜の場合は、CVD法でもよいが、熱酸化法により得られる膜の方が高い特性が得られる。
【0064】
裏面にも受光面同様に窒化シリコン膜や酸化シリコン膜で保護膜を形成することが望ましい。表面の保護効果を高めるため、あらかじめ基板表面に1〜20nm程度の薄い酸化アルミニウム膜や熱酸化膜を形成してから、上記の窒化シリコン膜や酸化シリコン膜を形成してもよい。
【0065】
次いで、半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極を形成する。まず、裏面電極として、例えばAg粉末を含有するペーストをスクリーン印刷法で形成する。印刷パターンは櫛歯状として、フィンガーとバスバーを同時に形成してしまうのが最も簡便である。フィンガー幅は40〜200μm程度、バスバー幅は0.5〜2mm程度が好適である。
【0066】
受光面電極形成にもスクリーン印刷法を用い、Ag粉末とガラスフリットを有機物バインダと混合したAgペーストを印刷する。印刷パターンは裏面同様櫛歯状として、フィンガーとバスバーを同時に形成してしまうのが最も簡便である。フィンガー幅は40〜100μm程度、バスバー幅は0.5〜2mm程度が好適である。
【0067】
以上の表裏面電極印刷の後、熱処理(焼成)により窒化シリコン膜にAg粉末を貫通させ(ファイアースルー)、電極とシリコンを導通させる。裏面電極及び受光面電極の焼成は一度に行うことも可能であるし、別々に行ってもかまわない。焼成は、700〜850℃の温度で数秒〜数分間処理することで行われる。
【0068】
最後に、フィンガー電極上に絶縁材料を含む層を形成する。すなわち、少なくともフィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆する。本発明の太陽電池セルの製造方法では、絶縁材料を含む材料として、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものを用いる。絶縁材料を含む材料の詳細は上述の太陽電池セルの項で説明した通りである。ペースト状の絶縁材料を用意しておき、スクリーン印刷やディスペンサー等で塗布する。フィンガー電極に沿って塗布してもよいし、基板全面に塗布してもよい。また、絶縁材料が透明であれば、受光面側に用いても変換効率の低下は生じない。また、材料は絶縁材料に限定されない。すなわち、AgやCu等の粒子を分散させた樹脂等を使用してもかまわない。この場合、実質的にフィンガー電極の断面積が増加したことになり、フィンガー電極としての電気抵抗を低減することができる。裏面に用いれば変換効率が向上する。
【0069】
上記のように、絶縁材料を含む材料は銀等の導電性粒子を含むことができる。ここで、EVAが加水分解して発生する酢酸が変換効率に影響を及ぼす理由は、太陽電池セルの半導体基板と直接接合するフィンガー電極(コンタクト電極)に含まれる銀等の導電性粒子そのものよりもフィンガー電極(コンタクト電極)と基板の接触抵抗を悪化させるからと考えられる。従って、絶縁材料を含む材料が導電性粒子を含む場合、仮に当該絶縁材料を含む材料が酢酸により侵されたとしても、当該材料の下にあるフィンガー電極が無事であるため変換効率が低下しない。すなわち、フィンガー電極を当該材料で覆うことで、フィンガー電極の接触抵抗悪化を食い止めることができると考えられる。なお、本発明ではバスバー電極が絶縁材料を含む材料で被覆されなくても良い。これは、上記と同様、基本的にフィンガー電極(コンタクト電極)さえ保護されていれば変換効率が悪くならない、すなわち、バスバー電極が酸により多少侵されたとしても特に問題はないためである。すなわち、本発明の趣旨は基本的にはフィンガー電極と基板のコンタクト抵抗維持であるため、基板と直接コンタクトをとる必要がないバスバー電極は被覆しなくても特に問題はない。
【0070】
以上、N型基板の場合を例に述べたが、P型基板の場合はN型層形成にリン、ヒ素、アンチモン等を拡散させ、P型層形成にはホウ素、Al等を拡散させればよく、本発明の太陽電池セルの製造方法が利用可能である。
【0071】
更に、裏面電極型太陽電池へ応用した一例も以下に説明する。
【0072】
N型基板の場合を例に説明する。N型シリコン基板を用意し、表面のスライスダメージを高濃度のアルカリ、若しくは、ふっ酸と硝酸の混酸等を用いてエッチングする。単結晶シリコン基板は、CZ法、FZ法いずれの方法によって作製されてもよい。基板は必ずしも単結晶シリコンである必要はなく、多結晶シリコンでもかまわない。
【0073】
引き続き、前述の方法で基板表面にテクスチャ形成を行う。
【0074】
テクスチャ形成後、上記のようにテクスチャを形成した基板を、塩酸、硫酸、硝酸、ふっ酸等、若しくはこれらの混合液の酸性水溶液中で洗浄する。過酸化水素を混合し清浄度を向上させてもよい。
【0075】
この基板の第一主表面に、エミッタ層を形成する。エミッタ層は基板と逆の導電型(この場合P型)で厚みが0.05〜1μm程度である。エミッタ層はBBr等を用いた気相拡散によって形成できる。また、ホウ素源を含有させた塗布剤を第一主表面に塗布し、熱処理する方法で形成が可能である。
【0076】
エミッタ層を形成したら、次工程であるベース層形成のためのマスクを両主表面上に形成する。マスクとしては誘電体膜である酸化シリコン膜若しくは窒化シリコン膜等を用いることができる。CVD法を用いれば、導入するガス種を適宜選択することにより、いずれの膜も形成可能である。酸化シリコン膜の場合は、基板を熱酸化しても形成できる。基板を酸素雰囲気中950〜1100℃、30分〜4時間熱処理することで100nm程度のシリコン熱酸化膜が形成される。温度、時間、ガス等を適宜選択することで膜厚は任意に変更可能であるが、マスク機能及び次工程の部分開口の容易性を兼ねるためには30〜300nmの膜厚とすることが好ましい。この熱処理は上記エミッタ形成のための熱処理に引き続いて同一バッチ内で実施してもかまわない。
【0077】
次いで、ベース領域となる部分のマスクを部分的に除去(開口)する。具体的には、開口幅が50〜250μm、0.6〜2.0mm程度の間隔で平行線状に開口する。開口にはフォトリソグラフィー法やエッチングペーストが使用できるが、レーザーでの開口が簡便で好ましい。レーザー源としては、YAG系、YVO系、GdVO系等の第二次高調波が使用できるが、波長が500〜700nm程度であればいかなるレーザー源を用いてもかまわない。レーザー条件は適宜決定可能であるが、例えば出力が4〜20W、周波数が10000〜100000Hz、フルエンスが1〜5J/cm、ガルボヘッドを備え、スキャン速度が100〜5000mm/秒、等とすることができる。
【0078】
マスクを開口したら、50〜90℃に加熱したKOH、NaOH等のアルカリ水溶液中に基板を浸漬し、開口部の不要なエミッタ層を除去(エッチング)する。
【0079】
ベース層形成にはオキシ塩化リンを用いた気相拡散法が使用できる。気相拡散法の他、リンを含有する材料をスピン塗布したり、印刷したりしてから熱処理する方法でも形成可能である。
【0080】
拡散層形成の後、マスク及び表面に形成されるガラスをふっ酸等で除去する。
【0081】
次いで、第二主表面の反射防止膜の形成を行う。反射防止膜として窒化シリコン膜や酸化シリコン膜が利用できる。
【0082】
第一主表面にも、表面保護膜を形成する。表面保護膜として窒化シリコン膜や酸化シリコン膜が利用できる。
【0083】
次いで、半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極(ベース電極及びエミッタ電極)を形成する。具体的にはベース電極を、例えばスクリーン印刷法で形成する。例えば、開口幅30〜200μm、0.6〜2.0mm間隔の平行線パターンを有する製版を用意しておき、Ag粉末とガラスフリットを有機物バインダと混合したAgペーストをベース層に沿って印刷する。同様にして、エミッタ電極としてAgペーストを印刷する。ベース電極用Agペーストとエミッタ電極用Agペーストは同じでもよいし違うものを使用してもよい。以上の電極印刷の後、熱処理により窒化シリコン膜にAg粉末を貫通させ(ファイアースルー)、電極とシリコンを導通させる。なお、ベース層用電極及びエミッタ層用電極の焼成は別々に行うことも可能である。焼成は、通常700〜850℃の温度で5〜30分間処理することで行われる。
【0084】
バスバーは図4のように基板両端に配置させてもよいが、図6のように基板内に複数本配置することも可能である。以下、図6〜9を参照して裏面電極型太陽電池に本発明の太陽電池セルの製造方法を適用した場合について説明する。図9に示すように、本発明の太陽電池セルの製造方法では、フィンガー電極322、323の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料151で被覆する。また、絶縁材料を含む材料として、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものを用いる。絶縁材料を含む材料の詳細は上述の太陽電池セルの項で説明した通りである。
【0085】
まず、絶縁材料をパターン状に塗布する。Nバスバー(この場合ベース電極と接続するベース用バスバー電極)がエミッタ電極と導通しないように、更に、Pバスバー(この場合エミッタ電極と接続するエミッタ用バスバー電極)がベース電極と導通しないように、パターン状に塗布する。また、本発明においては、同時にフィンガー上にも絶縁材料を塗布することができる。基板全面でもかまわないが、バスバーとフィンガーの導通部は確保しておく必要がある(図7参照)。塗布にはスクリーン印刷法等を用いることができる。塗布した後、100〜400℃で1〜60分程度硬化させる。図7は絶縁材料をフィンガー上、及び、異なる導電型用のバスバーとフィンガーが交差する領域(以下、バスバー部とも称する)にパターン状に印刷した後の基板の裏面を示す図であり、後述する実施例1ではこのように絶縁材料を印刷している。図7に示すように、バスバーとフィンガーの導通部においてはエミッタ電極322、ベース電極323を露出させる。導通部以外の領域に形成されたエミッタ電極322、ベース電極323は絶縁材料を含む材料151で被覆する。なお、当該露出部上には次工程でバスバーが形成されるため、モジュール化した際、当該露出部が充填剤と直接接触することはない。
【0086】
最後に、バスバーを形成する。Nバスバー(ベース用バスバー電極)がベース電極と、Pバスバー(エミッタ用バスバー電極)がエミッタ電極と接続され、Nバスバーとエミッタ電極並びにPバスバーとベース電極は絶縁層を介した構成となる。バスバー材料としては、低温硬化型の導電性ペーストが使用できる。具体的には、Ag、Cu、Au、Al、Zn、In、Sn、Bi、Pbから選択される1種類以上の導電性物質と、更にシリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から選択される1種類以上の樹脂を含有する材料からなるものが使用できる。以上のような材料を例えばスクリーン印刷法やディスペンサー等を用いてパターン状に塗布した後、100〜400℃で1〜60分程度硬化させる。なお、上記絶縁材塗布をバスバー部のみに実施し、上記低温硬化型の導電性ペーストを絶縁材料を含む材料としてフィンガー上に塗布することもできる(図8参照)。図8は絶縁材料をバスバー部にのみ塗布した後の基板の裏面を示す図であり、後述する実施例2ではこのように絶縁材料を塗布している。図8に示す態様では、バスバー部のみ絶縁材料を含む材料を印刷するのは図6に示すマルチバスバーと同じである。但し、この後、低温硬化型の導電性ペーストを、バスバーと同時にフィンガー上にも印刷する。この場合、実質的にフィンガー電極の断面積が増加したことになり、フィンガー電極としての電気抵抗を低減することができ、変換効率が向上する。なお、本発明の太陽電池セルの製造方法では、最終的にフィンガー電極が露出しないように被覆されれば良く、上記のように絶縁材塗布を2回に分けて行うこともできる。
【0087】
以上、N型基板の場合を例に述べたが、P型基板の場合はエミッタ層形成にリン、ヒ素、アンチモン等を拡散させ、ベース層形成にはホウ素、Al等を拡散させればよく、本発明の太陽電池セルの製造方法が利用可能である。
【0088】
[太陽電池モジュールの製造方法]
上記により作製された太陽電池は、太陽電池モジュールに使用することができる。すなわち、本発明では、上記本発明の太陽電池セルを用い、該太陽電池セルが内蔵された太陽電池モジュールを製造することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法を提供する。このように、本発明の太陽電池セルを用い太陽電池モジュールを製造することができる。
【0089】
この場合、太陽電池モジュールを充填剤を含むものとし、充填剤としてエチレンビニルアセテートを含有する材料を用いても良い。本発明の太陽電池モジュールの製造方法であれば、充填剤としてエチレンビニルアセテートを含有する材料を用いても、経時での劣化がしにくい太陽電池モジュールを製造することができる。
【0090】
例えば、上述の図10〜12に示す構造の太陽電池モジュールを製造することができる。直列接続にするため、図11に示したように、隣接する太陽電池1000のPバスバー(基板のP型層に接合したフィンガー電極に接続されているバスバー電極)とNバスバー(基板のN型層に接合したフィンガー電極に接続されているバスバー電極)同士をタブリード線1161等で接続する。接続にははんだ等を用いることができる。複数枚を接続してストリングが得られる。
【0091】
該ストリングを、EVA等の透光性の充填剤1272で挟み、非受光面側にはPET等の耐候性樹脂フィルム1273、受光面側にはソーダライムガラス等の透光性で機械的強度が強い受光面保護材料1271を戴置して、加熱しながら加圧する。充填剤1272としては、上記EVAの他、ポリオレフィン、シリコーン、アイオノマー等を使用してもかまわない。
【0092】
[太陽光発電システム]
更にこのモジュールを用い太陽光発電システムを構成することもできる。すなわち、本発明では、上記本発明の太陽電池モジュールを有することを特徴とする太陽光発電システムを提供する。図13は本発明のモジュールを連結した太陽光発電システムの基本構成を示したものである。複数の太陽電池モジュール1316が配線1315で直列に連結され、インバータ1317を経由して外部負荷回路1318に発電電力を供給する。同図には示していないが、当該システムは発電した電力を蓄電する2次電池を更に備えていて良い。
【実施例】
【0093】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0094】
本発明の太陽電池セルの製造方法を用い裏面電極型太陽電池の作製を行った。また、この裏面電極型太陽電池を含む太陽電池モジュールの作製を行った。なお、実施例1〜3では裏面電極型太陽電池として図9に示すものを作製した。比較例では裏面電極型太陽電池として図6に示すものを作製した。
【0095】
(実施例1)
厚さ200μm、比抵抗1Ω・cmの、リンドープ{100}N型アズカットシリコン基板に対し、熱濃水酸化カリウム水溶液によりダメージ層を除去後、72℃の水酸化カリウム/2−プロパノール水溶液中に浸漬しテクスチャ形成を行い、引き続き75℃に加熱した塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った。
【0096】
次いで、基板を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、BBrと酸素とアルゴンの混合ガスを導入して1000℃で10分熱処理を行った。これにより、エミッタ層を形成した。四探針法で測定した結果、エミッタ層のシート抵抗は50Ωとなった。
【0097】
これを1000℃3時間酸素雰囲気中で熱酸化してマスク形成した。
【0098】
裏面をマスクをレーザーで開口した。レーザー源はNd:YVOの第二次高調波を用いた。開口パターンは、間隔1.2mm平行線状とした。出力は18W、スキャン速度は600mm/秒とした。
【0099】
これを80℃KOH水溶液に浸漬して開口部のエミッタ層を除去した。
【0100】
次に、オキシ塩化リン雰囲気下、870℃で受光面同士を重ね合わせた状態で40分間熱処理し、開口部にリン拡散層(ベース層)形成した。
【0101】
この後、濃度12%のふっ酸に浸漬することで表面ガラスを除去した。
【0102】
以上の処理の後、プラズマCVD装置を用いて窒化シリコン膜を両面に形成した。膜厚は表裏とも100nmとした。
【0103】
次に、Agペーストをベース層上及びエミッタ層上にそれぞれ印刷して乾燥した。これを780℃の空気雰囲気下で焼成した。
【0104】
この基板に、図7に示すように、絶縁材料をフィンガー上、及び、異なる導電型用のバスバーとフィンガーが交差する領域であるバスバー部にパターン状に印刷した。印刷にはスクリーン印刷機を用い、絶縁材料としては、信越化学工業株式会社製のシリコーン樹脂を用いた。これを200℃のベルト炉にて5分間硬化させた。絶縁材料を含む材料の最大幅はフィンガー電極の幅より100μm大きくし、フィンガー電極から測った厚みは4μmとした。
【0105】
低温硬化型のAgペーストを直線状に6本スクリーン印刷機で印刷し、300℃のベルト炉にて30分間硬化させ、バスバーとした。ここで用いた低温硬化型のAgペーストはAg粉をエポキシ樹脂に混合させたものである。
【0106】
完成した太陽電池にタブリード線をはんだ付けし、EVA及びPET、ソーダライムガラスではさみ、140℃で30分間1気圧で加圧して太陽電池1枚のモジュールを作製した。
【0107】
(実施例2)
780℃の焼成工程まで実施例1と同様に実施した後、絶縁材料を図8に示すようにバスバー部にのみ塗布し硬化させた。
【0108】
次に、実施例1と同じ低温硬化型のAgペーストをスクリーン印刷機で印刷した。印刷パターンは櫛歯状であり、バスバー6本並びに既設のフィンガー電極に沿うものとした(図9参照)。これを300℃のベルト炉にて30分間硬化させた。
【0109】
これを実施例1と同様に処理してモジュール化した。
【0110】
(実施例3)
実施例1と同じ工程で作製した太陽電池に、タブリード線をはんだ付けし、アイオノマー及びPET、ソーダライムガラスではさみ、120℃で30分間1気圧で加圧して太陽電池1枚のモジュールを作製した。
【0111】
(比較例)
780℃の焼成工程まで実施例1と同様に実施した後、絶縁材料をバスバー部にのみ塗布し硬化させた。更に、低温硬化型のAgペーストを直線状に6本スクリーン印刷機で印刷し、300℃のベルト炉にて30分間硬化させ、バスバーとした。これを実施例1と同様に処理してモジュール化した。
【0112】
(評価方法)
以上のようにして得られた太陽電池のサンプルについて、山下電装社製ソーラーシミュレータを用いてAM1.5スペクトル、照射強度100mW/cm、25℃の条件下で、電流電圧特性を測定し光電変換効率を求めた。
【0113】
更にこれを85℃湿度85%の恒温恒湿槽に入れ、1000時間ごとに取出し光電変換効率を測定した。
【0114】
得られた結果を図14に示す。図14は、本発明に係る、実施例1、2、3及び比較例の経時での光電変換効率の変化を示す図である。
【0115】
初期(時間0)特性は実施例2が高い。実質のフィンガー断面積が増加したためと考えられる。経時での劣化は、比較例に比べ実施例1、2、3とも大きく改善されている。フィンガー電極上に絶縁材料を被覆したことにより、充填剤起因の劣化を抑制できたためと考えられる。
【0116】
実施例1〜3の太陽電池モジュールは、充填剤(EVA等)以外に、絶縁材料を含む材料(シリコーン樹脂等)を有する。すなわち、実施例1〜3の太陽電池モジュールは、太陽電池モジュールに内蔵された太陽電池セルの半導体基板と直接接合するフィンガー電極(コンタクト電極)が、太陽電池モジュールの充填剤と接触しないように、充填剤とは異なる材料で被覆されている。そのため、実施例1〜3の太陽電池モジュールは、長期間使用しても光電変換効率を維持することができた。
【0117】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【要約】
本発明は、半導体基板の第一主表面上にフィンガー電極を有する太陽電池セルであって、少なくとも前記フィンガー電極の表面が露出しないように絶縁材料を含む材料で被覆されており、前記絶縁材料を含む材料は、加水分解しないもの又は加水分解した際にカルボン酸を発生しないものであることを特徴とする太陽電池セルである。これにより、EVAを用いても、経時での光電変換効率低下を抑制する太陽電池セル及びこれを用いた太陽電池モジュールが提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14