特許第6243614号(P6243614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243614
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】粉状スクラップからの金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/00 20060101AFI20171127BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20171127BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20171127BHJP
   C22B 26/12 20060101ALN20171127BHJP
   C22B 47/00 20060101ALN20171127BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20171127BHJP
   C22B 3/04 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C25C1/00 301Z
   H01M10/54
   !C22B7/00 C
   !C22B26/12
   !C22B47/00
   !C22B23/00 102
   !C22B3/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-48151(P2013-48151)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-173157(P2014-173157A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年9月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−036111(JP,A)
【文献】 特開昭54−018418(JP,A)
【文献】 特開平01−162789(JP,A)
【文献】 特開2003−157913(JP,A)
【文献】 特開昭53−095804(JP,A)
【文献】 特開昭47−000352(JP,A)
【文献】 特開2014−070261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00
H01M 10/54
C22B 7/00
C22B 23/00
C22B 26/12
C22B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物からなるスクラップ、アルコールアミンを含有する水溶液に懸濁させた懸濁液を電解液として用いて懸濁電解を行う工程を含み、前記金属がアルコールアミンとの配位が生じる金属である、粉状スクラップからの金属の回収方法。
【請求項2】
前記アルコールアミンが、モノエタノールアミン及び/又はトリエタノールアミンである請求項1に記載の粉状スクラップからの金属の回収方法。
【請求項3】
前記電解液中のアルコールアミンの濃度が1〜40mass%である請求項1又は2に記載の粉状スクラップからの金属の回収方法。
【請求項4】
前記電解液の温度を50℃以上に調整して懸濁電解を行う請求項1〜3のいずれかに記載の粉状スクラップからの金属の回収方法。
【請求項5】
前記電解液のpHが7超である請求項1〜4のいずれかに記載の粉状スクラップからの金属の回収方法。
【請求項6】
懸濁電解で用いるアノードが、ステンレスで形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の粉状スクラップからの金属の回収方法。
【請求項7】
前記粉状スクラップが、Li、Ni、Co及びMnからなる群から選択された1種又は2種以上を含むリチウムイオン2次電池用正極材である請求項1〜6のいずれかに記載の粉状スクラップからの金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉状スクラップからの金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクラップからの金属回収は、通常、酸アルカリ等での湿式処理が用いられ、さらに湿式処理の中には懸濁電解を用いる手法がある。当該懸濁電解には、通常、アルカリ溶融塩等が用いられている。このような技術として、例えば、特許文献1に、金属酸化物粉末の電解還元による金属の製造方法であって、該金属酸化物粉末を塩化カルシウム等の溶融塩中に懸濁させ陰極表面で還元することを特徴とする製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1、実施例等)。また、特許文献1に記載されているように、電解還元を行う温度は、500℃以上という非常に特殊な高温での電解条件が採用されている(特許文献1の段落0043等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−16293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の粉状スクラップからの金属の回収方法によれば、電解液が高温状態で不安定になる、電解電極部材が電解液の作用により腐食する、電解により生成した金属水酸化物や金属酸化物が溶解できずに析出してしまい、安定的に継続して電気分解を行うことが困難となるという問題が生じている。
【0005】
そこで、本発明は、電解電極材の種類の制限が緩和され、且つ、安定的に継続して懸濁電解を行うことが可能な粉状スクラップからの金属の回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討し、懸濁電解の電解液として、アルコールアミンに着目した。アルコールアミンは、沸点が高く高温で安定である等の種々の懸濁電解に有用な特性を有している。そのため、アルコールアミンを懸濁電解液として用いることで、上記課題を解決することが可能となる。
【0007】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物からなるスクラップ、アルコールアミンを含有する水溶液に懸濁させた懸濁液を電解液として用いて懸濁電解を行う工程を含み、前記金属がアルコールアミンとの配位が生じる金属である、粉状スクラップからの金属の回収方法である。
【0008】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は一実施形態において、前記アルコールアミンが、モノエタノールアミン及び/又はトリエタノールアミンである。
【0009】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は別の一実施形態において、前記電解液中のアルコールアミンの濃度が1〜40mass%である。
【0010】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は更に別の一実施形態において、前記電解液の温度を50℃以上に調整して懸濁電解を行う。
【0011】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は更に別の一実施形態において、前記電解液のpHが7超である。
【0012】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は更に別の一実施形態において、懸濁電解で用いるアノードが、ステンレスで形成されている。

【0013】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は更に別の一実施形態において、前記粉状スクラップが、Li、Ni、Co及びMnからなる群から選択された1種又は2種以上を含むリチウムイオン2次電池用正極材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、アルコールアミンを電解液として用いることで粉状スクラップの懸濁電解を行う。アルコールアミンは、沸点が高く高温で安定である。また、電解電極部材に対して腐食作用も無い。さらに、アルコールアミンは、懸濁電解で生成した金属水酸化物や金属酸化物を良好に溶解させて懸濁させることができる。このため、本発明によれば、電解電極材の種類の制限が緩和され、且つ、安定的に継続して懸濁電解を行うことが可能な粉状スクラップからの金属の回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明において、粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物からなるスクラップは、半導体及び電子部品、液晶ディスプレイ、工具コーティング、ガラスコーディング、光ディスク、ハードディスク、太陽電池、リチウムイオン2次電池用正極材等に用いるスパッタリングターゲット材を粉砕して作製した粉状スクラップが挙げられる。このため、これらの構成材料に含まれている金属(例えば、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、In、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Sn、Ta、Ti、W、それらの合金、それらの導電性酸化物等)が、本発明に係る回収対象となる金属である。具体的な金属の種類を、各種用途とともに以下に列挙する:
・半導体及び電子部品:Ag, Al, Au, AuAs, AuSb, AuSi, AuSn, Al2O3, Cr, Cu, CuCr, CrNiAl, CrSi, GeS2, Hf, Ir, Mo, Ni, NiV, OsRu, Pd, Pt, PtNi, Rh, Ru, Si, Ta, TaAl, Ti, WTi, WTiなど
・液晶ディスプレイ:Ag, Ag合金, Al, AlNd, Cr, InSn, ITO, Mo, MoW, Si, SiO2, Ta, Ti, W, ZnAl, ZAO(ZnO+Al2O3)など
・工具コーティング:Cr, CrAl, Ti, TiAlなど
・ガラスコーティング:Ag, Ag合金, Al, Bi, Cr, InSn, ITO, Nb, Nb2O5, NiCr, Si, SiO2, Sn, Ta2O5, Ti, W, ZAO(ZnO+Al2O3), Znなど
・光ディスク:Al2O3, C, Co合金, Cr, Fe合金, Ta, Tb合金, Te合金, Pt, Pt合金など
・ハードディスク:Al2O3, C, CoCr, CoCrTa, CoCrPt, Cr, Cr合金, Cr酸化物, MgO, Mo, NiAl, NiSi, SiC, Ta, Ta2O5, Ti酸化物, V, Wなど
・太陽電池:Ag, Al, CIG(Cu+In+Ga), CuGa, ITO, Mo, Ni/NiV, Sn, ZAO(ZnO+Al2O3)など
・リチウムイオン2次電池用正極材:正極材としてLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、Li(CoxNiyMnz)O2 〔x+y+z=1〕など、金属としてNi、Co、Mnなど、合金としてNiCoなど
【0017】
本発明に係る粉状スクラップからの金属の回収方法は、まず、処理対象となる粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物を含有する原料混合物を準備する。当該原料混合物としては、金属又は導電性金属酸化物のスクラップを粉砕した、いわゆるリサイクル材等が挙げられる。
【0018】
次に、アノード及びカソード、電解液を備えた電解槽を準備し、電解液に上記粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物を含有する原料混合物を投入して懸濁させて、電解液を攪拌しながら電気分解を行う。電気分解を行うと、電解液中で懸濁している粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物が、カソードから供給された電子により還元されてカソード表面に析出する。次に、カソード表面に析出した金属を回収する。本発明では電解液にアルコールアミンを用いているため、懸濁電解で生成した金属水酸化物や金属酸化物を良好に溶溶解させて懸濁させることができる。このため、安定的に継続して懸濁電解を行うことができる。
【0019】
本発明で用いる電解液が電解電極部材に対して腐食作用も無いアルコールアミンであるため、電解槽のアノード及びカソードとしては、特に限定されず、ステンレス、Pbアノード、その他、通常の電極材に用いられる材料を用いることができる。
【0020】
本発明において、電解液としてアルコールアミンを用いる。アルコールアミンとしては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、アミノプロパノール、メチルエタノールアミン等が挙げられる。特に、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンは安価である点で好ましい。
【0021】
電解液中のアルコールアミンの濃度は、1〜40mass%であるのが好ましい。電解液中のアルコールアミンの濃度が1mass%未満であると、導電性が低くなり過ぎて電気分解が不安定になる。電解液中のアルコールアミンの濃度が40mass%超であると、電解液の種類によっては水への溶解度を超えてしまうし、必要以上に濃度が高くなり、コストの面で不利となる。電解液中のアルコールアミンの濃度は、より好ましくは2〜10mass%である。
【0022】
電気分解の際の電解液の温度は室温でもかまわないが、高温の方が良く、特に50℃以上に調整するのが好ましい。高温である方が電解液の導電性が大きくなるためである。
【0023】
電解液のpHは、電解液がアルカリ性(pH=7超)となるように調整され、好ましくは9以上、より好ましくは10以上である。pHが9未満であると、生成した金属又は合金に係るイオンが溶解していられなくなり、化合物を形成して析出し、結果として電解溶解を阻害してしまう可能性がある。
【0024】
電解液中に分散させる粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物の粒径は、0.01〜1000μmが好ましく、0.1〜100μmがより好ましく、0.1〜10μmがさらに好ましい。粉状の金属又は粉状の導電性金属酸化物の粒径が0.01μm未満であると体積が大きくなって取り扱いが困難となるおそれがあり、粒径が1000μm超であると電解液に懸濁し難くなるおそれがある。
【0025】
本発明では、上述のように、アルコールアミンを電解液として用いることで粉状スクラップの懸濁電解を行う。アルコールアミンは、沸点が高く高温で安定である。また、電解電極部材に対して腐食作用も無い。さらに、アルコールアミンは、懸濁電解で生成した金属水酸化物や金属酸化物を良好に溶解させて懸濁させることができる。明確な理由は不明であるが、おそらく溶解した金属がアルコールアミンと配位することで、安定化することが起因していると考えられる。このため、本発明によれば、電解電極材の種類の制限が緩和され、且つ、安定的に継続して懸濁電解を行うことが可能な粉状スクラップからの金属の回収方法を提供することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0027】
(実施例1)
Li、Ni、Co及びMnの酸化物からなるリチウムイオン2次電池用正極材のスクラップ粉をアルコールアミン20mass%のpH12の水溶液に懸濁させた。その懸濁液を電解液として、両極にSUS電極を用いて、設定電圧10V、電流密度を5A/dm2とし、1Aの定電流で60℃で電解を行った。10時間後、カソード側の電極表面に、Ni及びCoの合金が析出し、Li及びMnは電解液に溶解した。電流効率は30%であった。析出した合金を回収して品位を測定したところ、4Nと高かった。
【0028】
(実施例2)
Li、Ni、Co及びMnの酸化物からなるリチウムイオン2次電池用正極材のスクラップ粉をアルコールアミン5mass%のpH11の水溶液に懸濁させた。その懸濁液を電解液として、両極にSUS電極を用いて、設定電圧10V、電流密度を5A/dm2とし、1Aの定電流で60℃で電解を行った。10時間後、カソード側の電極表面に、Ni及びCoの合金が析出し、Li及びMnは電解液に溶解した。電流効率は25%であった。析出した合金を回収して品位を測定したところ、4Nと高かった。
【0029】
(比較例1)
亜硫酸ナトリウム10mass%の水溶液に懸濁させた以外は実施例1と同様の条件にてLi、Ni、Co及びMnの酸化物からなるリチウムイオン2次電池用正極材のスクラップ粉に対して電気分解を行ったが、電解溶解しなかった。