(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非点補正又は偏向の電場がない場合、物理的アパーチャでの第1の電極の電場の向きに沿った各座標での電位と、前記磁極の内側表面上の各点での電位とが同一であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームの非点補正の四重極子の電場の一部を形成する第2の電場を準備することを含む請求項13又は14に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
いくつかの集束イオンビーム(FIB)カラムは、複数のイオン種を放出するイオン源
を使用するように設計されている。基板上に集束されるビームについて、これらのイオン
種のうち一つだけを選択するため、FIBカラムは一般的には質量フィルタを含む。質量
フィルタの一種である「ウィーンフィルタ」は、交差する電場と磁場(E×B)を用い、
不要なイオン種を軸外に偏向させて、不要なイオン種を質量分離アパーチャに衝突させる
。「ウィーンフィルタ」は「E×Bフィルタ」とも呼ばれる。電場と磁場の相対的な強さ
は、所望のイオン種が偏向せずに質量分離アパーチャを通過するように設定され、かかる
イオン種は、質量フィルタを通過した後、最終的には基板表面上に集束する。
【0003】
イオンは、ウィーンフィルタの「物理的アパーチャ」内を通過する。これは電極と磁極
の面で囲まれた領域である。理想的には、磁場と電場は、電極と磁極によって囲まれたフ
ィルタ全体の空間において相互に直交するものである。電場及び磁場は各極の端の方では
歪み、フィルタ領域の中心の方のみで、理想的な垂直の向きに近づき、かつ、正確な正し
い磁場と電場の強度比B/Eに近づくので、「光学的」アパーチャ(すなわち、質量分離
が可能である範囲内のアパーチャ)は、質量フィルタ内のビーム径よりは大きいが、物理
的アパーチャよりはずっと小さなものとなることが多い。磁極及び電極は、各極の端部が
フィルタ領域から離れるように、両端方向へビーム軸から十分に離れて物理的アパーチャ
を越えて外側に延びることが好ましい。これによれば、物理的アパーチャ内での電場及び
磁場をもっと均一にすることができ、実際に受け入れできるアパーチャを引き延ばす。し
かしながら、電極と磁極とが物理的に相互に干渉してしまうので、このことは不可能であ
る。
【0004】
粒子源と基板との間の中間にクロスオーバーを有する集束イオンビームカラムでは、そ
のビーム径が比較的小さいので、小さな光学的アパーチャでも許容できることがある。多
くの集束イオンビーム(FIB)カラムは、通常、FIBカラム内の複数のレンズの間に
、一つ以上のクロスオーバーを含む。クロスオーバーによれば、カラムにおいてクロスオ
ーバーなしで達成可能である場合よりも、粒子源とターゲットとの間の倍率範囲をより広
くすることが可能となる。質量フィルタを通過した後、ビームをクロスオーバーするよう
に集束させる場合、ほぼ同一の平面全体において多様なクロスオーバーが生じる可能性が
あり、そこでは、各クロスオーバーはビーム中で異なる質量電荷比に対応するものとなる
。例えば、シリコン−金の合金の液体金属イオン源(LMIS)では、典型的には、1価
及び2価に帯電したシリコン及び金の単原子イオン、並びに、1価又は多価に帯電したシ
リコン及び/又は金の多原子イオンによる複数のクロスオーバーが生じることがある。
【0005】
十分に小さいアパーチャの開口部(一般的にクロスオーバーの直径よりも大きい)を有
する質量フィルタアパーチャがこれらのクロスオーバーの面に配置された場合、これらの
イオン種のただ一つのみが、アパーチャを通過して、次いでターゲット上で集束される。
一方、他のすべてのイオン種はアパーチャ板に衝突し、そのため、FIBカラムの下部へ
向かうことが阻止される。クロスオーバーを持つと、クロスオーバーなしの場合に比べて
、各種のイオン種を完全に分離する際に、質量フィルタで僅かに分散させるだけで足りる
という利点がある。質量フィルタアパーチャでのクロスオーバーは、質量フィルタの下方
のプローブ成形光学系の仮想光源として機能する。しかしながら、イオンビームでの避け
られないエネルギー拡散によって、質量散乱の軸に沿ってクロスオーバーにぼけが生じ、
その結果、ターゲット上での集束ビームにぼけが生じる可能性がある。
【0006】
クロスオーバーにも欠点がある。(1)クロスオーバーそれ自体によって各粒子が相互
に接近するにつれて、静電反発力が増大する。(2)ビームは、クロスオーバーに起因し
て、カラム全体にかけて一般的に小さいものとなり、空間電荷の反発力が増大する。(3
)質量分離アパーチャ板での高いビーム電流密度によって、質量分離アパーチャへのスパ
ッタ損傷が増大する。空間電荷の作用による静電反発力は、ビームを放射状に広げ(レフ
ラー効果(Loeffler effect))、エネルギー拡散を広げる(ベルシュ効果(Boersch eff
ect))。両効果ともワークピース表面でのビーム電流密度を低減させる傾向がある。
【0007】
中間のクロスオーバーがない集束イオンビームカラムでは、ビーム径が大きい。典型的
な従来の質量フィルタのより小さい光学的アパーチャであれば、さらに多くの問題が生じ
る可能性がある。従来技術において大きな光学的アパーチャを有するE×B質量フィルタ
の例があるが、かかる従来の質量フィルタは他の欠点を持っている。大きな光学的アパー
チャを有する従来の質量フィルタの一例が、「コリメートビームの集束イオンビームカラ
ム用の色収差のない2段のステージを有するE×B質量フィルタ(Achromatic two-stage
E x B mass filter for a focused ion beam column with collimated beam)」Teicher
t,J.、Tiunov,M.A.著,「Measurement Science and Technology」第4巻(1993年)
第754〜763頁(
図5〜8参照)に記載されている。この従来技術の質量フィルタで
は(
図5参照)、おおよそ電極の間隔の水平方向、及び垂直方向の寸法を有する光学的ア
パーチャにかけて比較的均一な電場を形成するために、静電電極(
図5の物理的アパーチ
ャの垂直方向の寸法)は、電極の間隔(
図5の物理的アパーチャの水平方向の寸法)より
もずっと広い。すなわち、光学的アパーチャは略正方形であるが、物理的アパーチャは垂
直方向においてかなり大きい寸法を持つ矩形である。物理的アパーチャの面積の大部分で
円形ビームが使用可能であることから、矩形の物理アパーチャよりも正方形の物理的アパ
ーチャの方がずっと好ましい。磁極(幅広の電極になる)は、相対的に遠く離す必要があ
る(
図5の垂直方向)。磁極片の間隔(垂直の間隔)に対する磁極の幅(水平方向に測定
)の高い比を実現するために、この従来技術のE×B設定では、物理的アパーチャの幅よ
りも数倍大きい磁極片の幅が必要となる(
図5参照)。このことは、磁気回路を比較的非
効率なものとしてしまい、物理的アパーチャにおいて十分な電場強度を達成するために永
久磁石の強さ又は磁気コイルの励起を大幅に増すことが必要になる。この引用文献の第3
節によれば、電極と磁極とを離す従来技術の設計手法を示唆しており、電極と磁極は両極
とも導電体であり、いずれも電気的な抵抗を持たない。Teichert及びTiunovは、この従来
技術の設計手法の制約の範囲内で、幅と間隔を調整することによって、E×Bフィルタの
質量分離の特性を最適化することを検討している。
【0008】
Parker及びRobinsonらによる米国特許第4929839号「集束イオンビームカラム」
によれば、二組の三重の静電レンズを備えた静電のFIBカラムが記載されており、4k
eV〜150keVのエネルギー範囲で基板上にイオンビームを集束することができる。
このカラムは、E×Bウィーンフィルタ、及び静電ブランカを含む。最終レンズの下方の
一つの静電八極子は、ビームを基板上で走査する。最終レンズの下方の大きな作動距離は
、電荷の中和及び/又はイメージング又はSIMSのための二次イオンの収集のために、
追加の光学素子を挿入することを可能にする。ウィーンフィルタでのビームエネルギーは
比較的高く(30keV)、そのため質量分離によって誘導される色収差を低減すること
ができる。中間のクロスオーバーが第1(上部)のレンズによってカラム内に形成される
。このクロスオーバーは、通常、以下のウィーンフィルタのアパーチャの面に存在する。
【0009】
Parkerによる米国特許4789787号「ウィーンフィルタの設計」によれば、光学的
アパーチャが物理的アパーチャの寸法のかなりの割合を占めるようなウィーンE×B質量
フィルタあるいは速度フィルタが記載されている。かかる特許では、ウィーンフィルタを
通過するイオンビームの方向に対してほぼ垂直な磁場を形成するためにフェライトの磁極
片を使用することが記載されている。フェライトを流れる電流によって、磁極片に起因す
る影響を受けずに、電極片の間に均一な電場を形成することができる。二つのフェライト
の磁極片は、各々、二つの電極片の両方と物理的及び電気的な接続端子で接続される。電
極片は、ステンレス鋼、又はその他の非磁性の導電性材料で構成されてもよい。電場を形
成するために電極の両端に印加される電圧は、電極片に接続するフェライトを通って流れ
る電流を生じさせる。二つの電極に印加される電圧とは独立してフェライトに電圧を供給
するような個別の電気的な接続端子はない。この電流は、ウィーンフィルタにおける電気
力線を真っすぐにする。このように上述のウィーンフィルタは、ウィーンフィルタの二つ
の電気極間の電場の向きに平行な二つのフェライトの磁極片中を流れる電流から発生する
電場の囲い込みのプロセスを達成するように、電極片と磁極片との接続を有するものとし
て特徴付けられている。
【0010】
電極片に印加される電圧における小さな変動によって、電場の軸に沿ってビームを端か
ら端まで導くことができる。この特許に記載されたウィーンフィルタは、磁場の軸に沿っ
た偏向の電場を適用する機能を持たない。さらに、ビームを非点補正する四重極子の電場
を適用する機能がない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態は、典型的な従来技術の質量フィルタと集束イオンビームシステムよ
りも一つ以上の利点を提供することができる。すべての実施形態ですべての利点が提供さ
れるわけではない。本発明の一実施形態では、イオン種の質量電荷比に基づいてビーム中
のイオン種を分離することができるE×B質量フィルタを提供する。本発明の一実施形態
では、質量フィルタについて大開口の光学的アパーチャを提供する。本発明の一実施形態
では、質量フィルタにおいて交差する電場と磁場によって誘導される非点収差の補正を提
供する。本発明の一実施形態では、電場に平行な方向においてビームの静電偏向を提供す
る。本発明の一実施形態では、磁場に平行な方向においてビームの静電偏向を提供する。
Teichert及びTiunovとは異なって、本発明では、極片の間隔が物理的アパーチャのサイズ
であるので、より効率的な磁気回路が可能である。極片の間隔が小さいことから、物理的
アパーチャ内で均一な磁場に必要となる同一の間隔対幅の比を得るための極片の幅も小さ
くできる可能性がある。
【0033】
一実施形態では、磁極がフィルタ領域を超えて拡張され、磁極の両端部がフィルタ領域
から離れるので、それによって、フィルタ領域ではより均一な磁場を形成できる。一実施
形態では、磁極と電極の内側表面で定義される物理的アパーチャにおける電場は、磁極の
両端(すなわち、基準のE×Bの電場方向に対して平行)に線形の電位の勾配が形成され
ることによって、さらに均一なものとすることができる。また、磁極上の線形の勾配の電
位は、磁場に対して平行に、又はE×Bの電場に対して平行にビームを偏向させることが
できる。さらに、調整可能な電場は、非点補正に必要な四重極子の静電場を形成すること
も可能である。物理的アパーチャの片側の抵抗材料の両端に電圧が印加されることによっ
て電位が生じ、それによって、抵抗材料の両端に電圧降下が生じる。抵抗材料は、典型的
には、磁極又は磁極に取り付けられる材料である。調整可能な電場が物理的アパーチャの
対向する両側にある二つの抵抗材料の両端に生じる。一方又は両方の抵抗材料の両端での
電圧を調整することによって、フィルタ領域内の電場を調整することができる。
【0034】
図1は、集束イオンビーム(FIB)カラム104におけるウィーン(E×B)質量フ
ィルタ102の側断面図であり、集束イオンビームカラムは基板表面112上にイオンビ
ームを集束させるよう組み合わされた上部レンズ106及び下部レンズ108を含む。三
つの異なるイオン種を含むイオン110は、粒子源の先端部114と引出電極(図示せず
)との間に印加される電圧によって誘導されて粒子源の先端部114から放出されるよう
に示されている。この粒子源の構造は、典型的には液体金属イオン源(LMIS)である
が、本発明では他の形式のイオン源を用いてもよい。次いで、イオン110は、上部のレ
ンズ106によって平面120の質量分離アパーチャ122に集束される。ウィーンフィ
ルタ102(
図2で詳細に示す)は、静電場を形成する電極130と、二つの磁極132
(一つのみ示す)とを含む。磁極132は、
図1の紙面の前後に存在し、
図1の紙面の後
ろにある磁極132のみが示されている。コイルを流れる電流又は永久磁石によって、各
磁極132の間に磁場を発生させることができる。ウィーンフィルタ102は、低質量イ
オン136及び高質量イオン138を軸から離すように偏向させ、中質量イオンを大きく
偏向させない。そして、これらの中質量イオン140は、アパーチャ122を通過し、下
部レンズ108によって基板表面112上に集束される。低質量イオン136は、同じビ
ームエネルギーにおいて、高質量イオンより速度が大きい。電気力はすべてのイオン(同
じ電荷を有する)に対して同一であるが、磁気力は速度に比例するので、高速な低質量イ
オン136は、低速な高質量イオン138よりも、磁場によってさらに大きく偏向する。
したがって、低質量イオンは磁気力が作用する方向(左)へ偏向するが、高質量イオンは
電気力が作用する方向(右)へ偏向する。中質量イオン140については、電気力と磁気
力とが釣り合い(すなわち、反対方向に等しい大きさを有する)、真の力が作用しない。
【0035】
E×Bフィルタ102は、当技術分野でよく知られている原理に従って動作する。つま
り、交差する電場及び磁場(一般的にはどちらも質量フィルタを通過するビーム方向に対
して垂直である)は、ビーム中のイオンにビームの動きに対して横方向に反対向きの力を
与える。これら二つの力の相対的な強さは、電場及び磁場の強さによって定められ、これ
らは電極130及び磁極132にエネルギーを与える電圧及び電流の供給量によって制御
される。
【0036】
図1では、電場142は紙面において横向きである(左側の正の電極130から右側の
負の電極130へ向かう方向を指し、したがって正イオンに電気力が作用すると右へ偏向
する)。一方、磁場144は、紙面に垂直に向こうから手前に向かう(正イオンに作用す
る左への力を生じる)。イオン源114が異なる電荷対質量比で複数のイオン種を放出す
る場合、1種が偏向されずにE×B質量フィルタを通過するように電場142及び磁場1
44を設定することが可能である。
図1では、この種は中質量イオン140に相当する。
低質量イオン136と高質量イオン138は、図示のとおり、それぞれ、左側と右側に偏
向する。中質量イオン140のみが質量分離アパーチャ122を通過し、次いで、下部レ
ンズ108によって基板表面112上に集束される。E×B質量フィルタ102の上端と
下端では、終端フィールドプレートが電場及び磁場を遮断し、それによって収差を低減す
る。イオンカラム104は、質量選択アパーチャ122の平面120におけるクロスオー
バーを含むが、他の実施形態では、上方の先端部114又は下方の基板112のいずれか
に仮想光源が配置され、クロスオーバーを含まなくてもよい。
【0037】
図2は、二つの静電電極130R、130Lを用いる質量フィルタ200の実施形態を
示し、各電極は離れており、それぞれ電気的な接続端子を持つ。ビームの動きは、概ねZ
軸(紙面に垂直)に沿うものと仮定される。第1電極130Rは、+X軸上のY軸(垂直
な中心線)から距離LX1の位置に設けられ、電圧VAが印加される。第2電極片130
Lは、−X軸上のY軸から距離LX1の位置に設けられ、電圧VCが印加される。静電電
極の各面はYZ平面に平行に向けられる。VA及びVCの値は、諸条件で動作する標準的
なウィーンフィルタに基づいて選択してよい(以下参照)。
【0038】
二つの磁極202U及び202Lがあり、それらの各面はXZ平面に平行となるように
、+Y軸上の+LYの位置、及び−Y軸上の−LYの位置に設けられる。コイル及び/又
は永久磁石によって、磁極202U及び202Lを励磁し、Y軸に平行な磁場を形成する
ことができる。磁極202U及び202Lは、フェライト又はいくらか類似する抵抗性の
磁性材料から製造され、典型的には抵抗率において10
6〜10
8Ω・cmの範囲である。上部(+Y軸)の磁極は、二つ電気的な接続端子を有し、一方は+X側端部(VB1)にあり、他方は−X型端部(VB2)にある。下部(−Y軸)の磁極も、二つの電気的な接続端子を有し、一方は+X側端部(VD1)にあり、他方は−X側端部(VD2)にある。
【0039】
[四つの動作モードの実施例の場合の極片の電圧]
以下に提示される四つの実施例は、本発明の質量フィルタ102における各種動作モー
ドについて、VA、VC、VB1、VB2、VD1及びVD2の設定可能な電圧値を示す
。
【0040】
[実施例1] 偏向又は非点補正がない場合の電圧設定
質量分離のみが求められ、ビームステアリング又は非点補正が必要ない場合、磁極に与
えられる電圧は以下のとおり設定してよい。
VB1=VD1=(LX2/LX1)Vms
VB2=VD2=−(LX2/LX1)Vms
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms
VC=−Vms
Vmsの値は、質量分離のための電場の条件に基づいて選択される。かかる条件では、ビ
ーム中の基板に向ける所望のイオン種に対して、イオンへの電気力及び磁気力が釣り合い
、例えば、
図1での中質量イオン140がレンズ108によって基板112上に集束する
。
【0041】
この例において、ウィーンフィルタ全体の通常モードの電圧は0Vに設定される。イオ
ン源とウィーンフィルタとの間の電圧の差が「Vaccel」である場合、1価のイオンエネ
ルギーは、ウィーンフィルタを介して「e・Vaccel」となる。正イオンの場合、ウィー
ンフィルタのバイアス電圧に対して、イオン源に+Vaccelのバイアス電圧を印加する場合に相当する。なお、この検討では、ウィーンフィルタは必ずしも接地電位であるとは仮定されていない。上記の従来技術の米国特許第4929839号における実際のウィーンフィルタでは、イオン源の150kVとウィーンフィルタの30kVとの間の電位差をもって、接地電位に対して120kVに上げられている。
【0042】
なお、この第1の実施例では、軸上の静電電圧が0Vである。VB1とVB2の間の電
圧降下は、磁極202Uの長さにわたって分布する。同様に、VD1とVD2の間の電圧
降下は、磁極202Lにわたって分布する。VB1=VD1であり、VB2=VD2であ
るので、磁極202U及び202L上で同一のX座標を有する点は、同一の電位を有し、
130Lと130Rの間のX軸上の同一の座標での電位も同じである。磁極202U及び
202Lで規定される物理的アパーチャの二つの境界面に沿って変化する電位は静電電極
130Lと130Rの間の空間で変化する電位に等しいため、電気力線は、物理的アパー
チャ全体でX軸に平行のままであり、磁極202U及び202Lの内部にも広がる(
図7
参照)。
【0043】
[実施例2] Y軸方向への偏向があり非点補正がない場合の電圧設定
第2の実施例では、質量分離及びY軸偏向が求められ、磁極に与えられる電圧は以下の
ように設定してよい。
VB1=(LX2/LX1)Vms+VY
VB2=−(LX2/LX1)Vms+VY
VD1=(LX2/LX1)Vms−VY
VD2=−(LX2/LX1)Vms−VY
ここで、電極に与えられる電圧は第1の実施例と同様に以下のとおりである。
VA=Vms
VC=−Vms
この例において、ウィーンフィルタ200の通常モードの電圧は0Vに設定される。二
つの磁極に印加される
±VY電圧によってY軸の静電偏向場が一つ形成される。重ね合わせによれば、Vmsに比例する(水平方向
の)電場の作用は、VYに比例する(垂直方向
の)電場の偏向の作用とは別々に検討できる。質量フィルタを通過するように選択された質量数のイオン種、例えば、
図1の中質量イオン140の場合、(水平の)電場142(上記の方程式中のVB1、VB2、VD1及び上記VD2のはじめの用語)に起因する中質量イオン140に作用する力はX軸に沿って反対方向に向かう磁気力によって打ち消されるので、中質量イオン140に作用する真の力は
±VY電圧によって誘導されるY軸(垂直)の電場に起因する一方向である。垂直方向の静電気力は、質量分離の軸(X軸)に垂直であるので、したがって、
±VY電圧によって誘導される垂直の電場は、質量フィルタ200の質量選択動作を妨げないと考えられる。
【0044】
[実施例3] 非点補正があり偏向がない場合の電圧設定
第3の実施例では、質量分離及び非点補正が求められる。磁極への電圧は以下のとおり
設定してよい。
VB1=(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)
2Vstig
VB2=−(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)
2Vstig
VD1=(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)
2Vstig
VD2=−(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)
2Vstig
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms+Vstig
VC=−Vms+Vstig
第1及び第2の実施例の場合と同様に、Vmsは質量分離のために必要な電極電圧である
。この実施例では、ウィーンフィルタ全体の通常モード電圧は、0Vに設定される。非点
補正の四重極子の静電場は、静電極及び磁極に印加され、Vstigに比例する電圧によって
形成される。なお、電極(間隔2LX)と磁極(間隔2LY)との異なる間隔を補償する
ために、磁極に作用する電圧には係数(LY/LX1)
2が用いられる。VB1、VB2
、VD1及びVD2の方程式で非点補正の条件の乗数が「2」となるのは、ビームの非点
補正に用いられる四重極子の電圧が軸からの距離の二乗にしたがって増加し、上記の第2
の実施例における双極子のY軸方向への偏向のとおり線形でないからである。Vstigの値
は、非点収差の極性に応じて、正又は負のいずれかである。
【0045】
[実施例4] 質量分離、X−Y偏向及び非点補正のある包括的な場合
第4の実施例では、質量分離、XY偏向及び非点補正のすべてが同時に求められ、磁極
に与えられる電圧は以下のように設定される。
VB1=(LX2/LX1)(Vms+VX)+VY−(LY/LX1)
2Vstig
VB2=(LX2/LX1)(−Vms-VX)+VY−(LY/LX1)
2Vstig
VD1=(LX2/LX1)(Vms+VX)−VY−(LY/LX1)
2Vstig
VD2=(LX2/LX1)(−Vms−VX)−VY−(LY/LX1)
2Vstig
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms+VX+Vstig
VC=−Vms−VX+Vstig
この最も包括的な場合では、電圧は以下のとおり定義される。
Vms=適切な質量分離に求められる電圧
VX=X軸偏向の電圧(質量分離の軸に対して平行)
VY=Y軸偏向の電圧(質量分離の軸に対して垂直)
【0046】
[従来のE×B質量フィルタにおける磁場及び電場]
図4は、従来技術におけるウィーン質量フィルタ400内の磁力線406、408及び
410の例である。磁場は、上部(北)極412と下側(南)極414との間に生じる。
電極402及び404が非磁性材料で製造されているとすると、図示されたように、磁力
線410は、固定された電極402及び404を介して広がる。垂直方向の中心線に沿っ
て、磁力線406は、適切な指向方向を有する(すなわち、(完全に垂直な)Y軸に正確
に沿ったものとなる)。X軸に平行な磁極412と414との幅が狭いため、E×B質量
フィルタの物理的アパーチャ内での磁力線408は、中心線から離れるにしたがって、外
側に膨らむように観察できる。この膨らみは、磁場によってB≠0の位置での空間で積分
されたB
2に比例する蓄積された合計のエネルギーが低減する傾向があることから生じる
。軸からもっと離れると、磁力線410の場合のように、この膨らみはさらに顕著になる
。
図4から、磁場の磁力線408が適切なE×B質量分離の基準を満たしていないことが
明らかである。すなわち、局所的な磁場の磁力線は、局所的な電場の電気力線(
図5参照
)に対して垂直ではない。
【0047】
図5は、
図4に示した従来のウィーン質量フィルタ400における電気力線506、5
08及び510の例である。正の電圧が電極402に印加され、負の電圧が電極404に
印加される。これによって、図示のとおり、図の左側へ向かう水平な電場が生じる。磁極
412及び414には両方とも、質量フィルタ400上の通常モードの0Vに対応して、
0Vのバイアスが印加される。X軸に沿って、電気力線506は、完全に水平である。図
4との比較では、その結果として、X軸に沿って一つのE×Bの動作基準が満たされてい
ることを示す。つまり、電場が完全に水平であり、磁場(
図4参照)も完全に垂直であっ
て、各場は直交する。E×B質量フィルタがY軸に対して左右対称性を有するので、Y軸
に沿うところでは、電気力線は水平である。したがって、Y軸に沿うところでは直交性の
基準も満たされる。追加の問題として、所望のイオン種を偏向させずに通過させる電気力
と磁気力との適当な打ち消しのために、電場と磁場の大きさが適当な比を有することが必
要となる。このため、二つの場の間にさらに直交性が求められるのである。磁場の場合と
同様に、電場は、電場においてE≠0の空間にかけて積分されたE
2に比例する合計の蓄
積エネルギーが低減するために外側に向かって膨む傾向を示す。磁場及び電場が膨らむこ
とから、
図4及び
図5の比較によって、磁場についてはY軸に沿って中心(X軸とY軸の
交線)で最も弱く、磁極412及び414に向かって増加することが分かる。電場につい
てはX軸に沿って同じ振る舞いを示す。つまり、中心で最も弱く、電極402及び404
に向かって増加する。このように、電場及び磁場がE×Bの直交性の条件を満たすX軸及
びY軸にあっても、各場の強さは適切なE×B動作のための基準に反して変化する。最も
外側の電気力線510は、図示されたように、磁極412及び414に「短絡」する。質
量フィルタを通過するイオンビームについては電気力線510ほど軸から大きく外れない
ので、このことは大きな問題ではない。
【0048】
[E×B質量分離のための電場及び磁場の基準]
本発明のいくつかの実施形態では、適切なE×B質量分離のための二つの基準を満たし
、上記の問題を改善するための構造を提供する。
(1)電場及び磁場は直交し、電場がX軸に平行に向けられ、かつ磁場がY軸に平行に向
けられるものでなければならない。
(2)電場及び磁場は、同一の質量電荷比のイオンに適用される磁気力によって電気力を
取り消すために、すべての点で同一の強度比B/Eを有するものでなければならない。
【0049】
適切な質量フィルタリング(すなわち、いずれにおいても同一の質量電荷比のために力
が打ち消される)によって質量フィルタを通過するイオンを最大とする場合、可能な限り
大開口のアパーチャで、これらの二つの基準を満たすことが必要である。
図6及び7は、
本発明の磁場及び電場を示すものであり、各々、従来技術の
図4及び5に対応する。
【0050】
[実施例1の電場 質量分離のみ]
図6は、上記の第1の実施例に従う本発明の一形態600の場合の磁力線606、608及び610の例である。上部(北)磁極612と下部(南)磁極614は、E×B質量フィルタの物理的アパーチャに比較してずっと幅広いものであることが分かる。ここで、「物理的アパーチャ」とは、電極60
2と電極60
4と磁極612と磁極614との四つの内面で囲まれた質量フィルタを介する物理的な開口部として定義される。本発明において磁極をより幅広く形成する理由が
図7に示される。幅広い磁極612及び614のため、物理的アパーチャの端部付近の磁力線608は、中央のB場の線606と同様にY軸に平行である。
図7との比較によれば、E×Bの垂直性の基準は、物理的アパーチャの大部分にかけて満足されることを示す。磁力線610では磁場の膨らみが依然として発生するが、この膨らみは物理的アパーチャの外側にあるため、質量フィルタ600の動作に影響を与えない。第1から第4のすべての実施例で、磁場の分布は
図6のとおりである。
【0051】
図7は、
図6に示した本発明の一形態600における電気力線706及び708の例で
ある。電圧VA(本例では正で示される。
図2参照)が電気的な接続端子644を介して
電極602に印加され、電圧VC(負で示される)が電気的な接続端子648を介して電
極604に印加される。電圧VAとVCとの間の電位差は、図の左側に向かう全体的に水
平な電場を形成する。
図2で説明したとおり、磁極612及び614は、電気抵抗材料か
ら製造されている。電圧VB1(
図2参照)が電気的な接続端子654を介して磁極61
2の右端部652に印加される。同様に、電圧VB2、VD1及びVD2が、それぞれ、
電気的な接続端子658、664及び668を介して磁極612及び614の端部656
、662及び666に印加される。VB1とVB2との間の電位差は、磁極612を介し
て水平方向の電流710を生成する。磁極612は抵抗性であるので、オームの法則によ
って、磁極612の内側の両端に線形の電圧勾配を生成する。VD1とVD2との間の電
位差に起因して、抵抗性の磁極614にも同様の考察が当てはまる。
図6及び
図7は上記
の第1の実施例を適用したものであり、質量分離に必要な電場に追加される、XY偏向の
双極子又は非点補正の四重極子の電場は存在しない。
【0052】
[第2の実施例の場合の電場 質量分離及びY軸偏向]
図8及び
図9は、上記の本発明の第2の実施例のE×B質量フィルタ内に、Y軸ビーム
偏向のために追加する双極子の電場の作用を示したものである。
図8では、Y軸偏向の双
極子の場を発生させるために追加された電場及び電圧の極性のみを示す。上記の第2の実
施例で説明したように、電場の重ね合わせによれば、この追加されるY軸の双極子の電場
の作用は、E×B質量フィルタの質量分離の動作に必要なX軸の電場の作用とは切り離し
て検討することができる。Y軸上では、電場806はY軸に平行となり、完全に垂直なビ
ームの偏向を与える。軸から離れると、導電性の電極602及び604の作用に起因して
、電場の電気力線808は図示したようにやや膨らむ。したがって、所望する完全なY軸
偏向からは小さな偏りが生じる。適切な偏向電場を形成するため、電圧+VYが電気的な
接続端子654及び658を介してそれぞれ磁極612の両端652及び656に印加さ
れ、かつ、電圧−VYが電気的な接続端子664及び668を介してそれぞれ磁極614
の両端662及び666に印加される(上記の第2の実施例の数式参照)。Y軸の双極子
の電場を形成するのみの場合(すなわち、E×BのX軸の電場を無視する場合)、電極6
02及び604上の電圧は0Vであってよく、電気的な接続端子644及び648を介し
てそれぞれ印加される。
【0053】
図9は、
図7のX軸のE×Bの電場と
図8のY軸の偏向双極子の電場との重ね合わせを
示す。この例の電場の組み合わせはX成分とY成分との両方を含み、これによって電場は
図示されたように下方に傾いて左方向に向かう結果となる。本発明の電極の動作の正確な
コンピュータモデリングによれば、E×Bの動作に必要なX軸の電場よりもY軸の電場が
小さい場合、十分に均一な電場を実現することができることが示されている。すなわち、
物理的アパーチャにかけてY軸偏向は十分に均一とすることができ、質量分離のための適
切なX軸の電場はY軸の電場の追加によってほとんど影響を受けない。したがって、中央
の電場の電気力線906と、外側の電気力線908、912とは、X軸に対してほぼ同じ
角度を有する。追加されたY軸の双極子の電場を用いると、外側の電気力線908は抵抗
性の磁極614上の910で終わることがある。他方の外側の電気力線912は、抵抗性
の磁極612上の914で始まることがある。
【0054】
[第3の実施例の場合の電場 質量分離及び非点補正]
図10及び
図11は、上記の本発明の第3の実施例のE×B質量フィルタ内でのビーム
の非点補正のために追加する四重極子の電場の作用を示したものである。
図10は、非点
補正の四重極子の電場を発生させるために追加された電場及び電圧の極性のみを示す。第
3の実施例で説明したように、電場の重ね合わせによれば、この追加された四重極子の電
場の作用は、E×B質量フィルタの質量分離の動作に必要なX軸の電場の作用とは切り離
して検討することができる。
【0055】
この適切な四重極子の電場を形成するため、電圧−(LY/LX1)
2Vstigが、電気
的な接続端子654及び658を介して、それぞれ、磁極612の両端652及び656
に印加され、かつ、同じ電圧−(LY/LX1)
2Vstigが、電気的な接続端子664及
び668を介して、それぞれ、磁極614の両端662及び666に印加される(上記の
第3の実施例の数式参照)。四重極子の電場を形成するのみの場合(すなわち、E×Bの
X軸の電場を無視する場合)、電極602及び604の電圧は両方とも+Vstigであって
、それぞれ電気的な接続端子644及び648を介して印加される。
【0056】
図11は、
図7のX軸のE×Bの電場と
図10の非点補正の四重極子の電場との重ね合
わせを示す。電気力線1106、1108及び1110で示される組み合わされた電場は
、電極602から現れ、やや弱くなって電極604に入る。これは
図10における電場の
向きの観察から直感的に理解しやすい。一部の外側の電気力線1110は、抵抗性の磁極
612及び614上で終わり、これもまた
図10から直感的に理解しやすい。ほとんどの
電気力線は、依然として
図7のように電極602、604上で、始まり、終わる。したが
って、四重極子の電場強度は、E×B動作に必要なX軸の双極子の電場より大幅に低いも
のと推測される。
【0057】
磁極612と614との間の典型的な磁場強度は、3000〜6000ガウスの範囲で
よく、さらに好ましくは4000〜5000ガウスの範囲である。電極602及び604
に印加される典型的な電圧(VA及びVC)は、1000〜5000Vの範囲でよく、さ
らに好ましくは2000〜3500Vの範囲である。磁極612及び磁極614の両端に
印加される典型的な電圧は、
図2での式2に従って、電圧VA及びVCに比例して設定さ
れる。電極602と604とのX軸に平行な間隔は5〜20mmの範囲でよく、さらに好
ましくは10〜15mmの範囲である。磁極612と614とのY軸に平行な間隔は5〜
20mmの範囲でよく、さらに好ましくは10〜15mmの範囲である。軸方向の長さ(
すなわち、Z軸について平行な電極と磁極の長さ)は、15〜80mmの範囲でよく、さ
らに好ましくは25〜40mmである。
【0058】
[本発明の一実施形態での集束イオンビームカラム]
図3は、本発明の二つのE×B質量フィルタを含むウィーン質量フィルタ304を備え
たイオンカラム302を示し、上部E×Bフィルタ306U及び下部E×Bフィルタ30
6Lは、両方とも
図1及び
図2のように構成されたものである。このようなシステムは、
ビームから中性物質を取り除く収差補正のウィーンE×B質量フィルタとして記述され、
出願される。イオン370は、液体金属イオン源(LMIS)の先端部314から放出さ
れる。ただし、LMISイオン源は例示の目的のためのみにここに示されているのであっ
て、本発明では、代わりに、他の種類のイオン源、例えば、誘導結合型プラズマ(ICP
)イオン源も使用することができる。次いで、イオン370は、上部レンズ306によっ
て平行又は略平行に集束され、ビーム310を形成する。完全に平行なビーム310では
、ビーム310内の各イオンの軌跡は、光軸380に沿ってマイナス方向の無限遠方に置
かれた仮想光源(図示せず)から外挿されたものと仮定してよい。「略平行」なビームは
、マイナス方向の無限遠方に仮想光源が必要とされないビームであるが、外挿されたイオ
ンの軌跡は、イオン源の先端部(上部又は下部)からイオンカラム302の全長に対して
少なくとも数倍の位置で光軸380と交差する。上部E×Bフィルタ306Uは、電極3
14U、終端フィールドプレート316U、及び二つの磁極318U(一つのみ図示)を
有する磁場の発生源を含む。電極314Uは、図の平面において電場を形成し、これは矢
印320Uによって示される(左側の正の電極314Uから右側の負の電極314Uを指
し示し、したがって、正のイオンに作用する電気力は右方向になる)。磁場の発生源は、
紙面から手前に向かう磁場を形成し、これは丸印322Uで示される(正イオンに対して
左側に向う磁気力を形成する)。下部E×Bフィルタ306Lは、電極314L、終端フ
ィールドプレート316L、及び、二つの磁極318L(一つのみ図示)を有する磁場の
発生源を含む。上部及び下部のE×Bの各場は、
図3に示すように設定される。電極31
4Lは、紙面において矢印320Lによって示される電場を形成し、上部E×Bフィルタ
306Uの電場320Uと大きさが等しく、方向が反対である。下部E×Bフィルタ30
6Lの磁場の発生源は、バツ印322Lによって示されるような紙面の向こう側に進む磁
場を形成し、上部E×Bフィルタ306Uの磁場322Uと方向が反対で大きさが等しい
。下部E×Bフィルタ306Lは、上部E×Bフィルタ306Uと対称であり、通常、同
一の構造を有し、方向が反対で大きさが等しい電場及び磁場を形成する。
【0059】
イオン310は図示のように四つの異なるイオン種を含む。すなわち、低質量イオン3
30、中低質量イオン332、中高質量イオン334、及び高質量イオン336である。
低質量イオン330、中高質量イオン334、及び高質量イオン336は、質量分離アパ
ーチャ板340に衝突し、アパーチャ342を通過して下部レンズ308に到達しない。
中低質量イオン332は、図示のように、上部E×Bフィルタ306Uと下部E×Bフィ
ルタ306Lの両方を通過する。次いで、イオン332は、質量分離アパーチャ342を
通過し、下部レンズ308によって基板表面312上に集束される。従来技術では、E×
Bフィルタは、一般的には偏向を伴わないで、所望のイオン(本例では中低質量)を通過
させるように調整される。
図3の実施形態では、所望のイオンは偏向されてアパーチャ3
42を通過し、一部の望ましくないイオン(本例では、中高質量334)は、中性粒子3
46とともに、偏向されないでアパーチャ板340に衝突する。他の望ましくないイオン
は、磁場によって大きく偏向されるか(例えば、低質量330)、あるいは小さく偏向さ
れて(例えば、高質量336)、アパーチャ342を通過することができない。
【0060】
中性粒子346は、E×B質量フィルタ304の電場及び磁場によって偏向されず、こ
のため、真っすぐ通過し、アパーチャ板340の孔342(E×Bフィルタ304の出口
の軸を規定する)がE×Bフィルタ304の入射軸380から変位量326だけずらして
設けられているので、質量分離アパーチャ板340に衝突する。
図3の概略図では、レン
ズ306によって偏向されない中性粒子について、基板312への経路が存在しないこと
が明確にはなっていないが、当業者であれば、実際のシステムの幾何構造において、上部
E×Bフィルタ306Uへの入り口側のアパーチャ、及び/又は、カラムにおける質量フ
ィルタ304の下方のいずれかのアパーチャのような経路を、様々な手段によって排除す
ることが可能である。
【0061】
質量フィルタは、上記では集束イオンビーム(FIB)カラムに使用されるように説明
されているが、質量フィルタは、電子(この場合E×Bフィルタはビーム310中の電子
のエネルギー拡散を低減するようなモノクロメーターとして使用することができる)、及
び帯電した粒子のクラスタを含む、いずれの荷電粒子ビームを使用することもできる。
【0062】
上記の説明では、抵抗材料、例えば、極片612及び614を、磁極片として述べたが
、他の実施形態では、電気的な抵抗材料を磁極片612及び614の表面に付着させても
よい。さらに別の実施形態では、抵抗材料は、極片612及び614の表面に絶縁層を介
して付着させてもよい。これら二つの代替の実施形態では、
図2で説明したように、電気
的な接続端子654、658、664及び668などを抵抗材料の両端に接続して、電圧
VB1、VB2、VD1及びVD2を供給してもよい。
【0063】
「物理的アパーチャ」の代わりの用語として、「フィルタリング領域」があり、質量フ
ィルタリングのプロセスが物理的アパーチャ内で生じることを強調するものである。E×
Bフィルタはここでは質量フィルタとして特徴付けられているが、磁気力が速度に比例し
、電気力が速度とは無関係であることから、電気力と磁気力の均衡をとるためのE×Bの
条件は、速度フィルタリングの機能である。したがって、走査型電子顕微鏡(SEM)、
透過型電子顕微鏡(TEM)、あるいは走査透過型電子顕微鏡(STEM)などにおける
電子ビームカラムへの適用では、本発明のE×Bフィルタは、電子ビームカラム内での電
子のエネルギー範囲を絞るための速度フィルタとして用いることができる。
【0064】
本発明及びその利点について詳細に説明したが、ここに記載された実施形態に対しては
、添付された特許請求の範囲により定められる本発明の趣旨及び範囲から逸脱することな
く、様々な変更、置換及び修正が可能であると理解されるべきである。さらに、本出願の
範囲については、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及
びステップの特定の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明、プロ
セス、機械、製造物、組成物、手段、方法又はステップの開示によって、既存の技術、又
は本明細書に記載された実施形態に対応し、実質的に同じ機能を果たしたり、実質的に同
じ効果を奏したりする将来技術についても、本発明に従って利用可能であると容易に理解
することができる。したがって、添付された特許請求の範囲は、上記のようなプロセス、
機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップをその範囲に含むものである。