(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記(メタ)アクリレートモノマーが、単官能の(メタ)アクリレートモノマーおよび多官能の(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリレートモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
<接着剤組成物>
本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィン構造を有するポリマーと、当該ポリマーに相溶する(メタ)アクリレートモノマーとを含む。
【0010】
本発明に係る接着剤組成物は、基板(ウエハ)と支持体とを接着するために用いることができる。また、当該接着剤組成物を用いて、接着層を基板又は支持体に形成し、当該接着層を介して、基板と支持体とを貼り合わせることによって積層体を形成してもよい。
【0011】
基板は、支持体に支持された状態で、薄化、実装等のプロセスに供されるものである。本発明に係る積層体が備える基板は、ウエハに限定されず、薄いフィルム基板、フレキシブル基板等の任意の基板を採用することができる。また、基板における接着層側の面には、電気回路等の電子素子の微細構造が形成されていてもよい。
【0012】
支持体は、基板を支持するものであり、基板の薄化、搬送、実装等のプロセス時に、基板の破損又は変形を防ぐために必要な強度を有していればよい。以上の観点から支持体としては、ガラス、シリコン、アクリル樹脂からなるもの等が挙げられる。
【0013】
ガラスとしては、低アルカリガラスが挙げられ、その具体例としては、SCHOTT社製のTEMPAX、Corning社製のEAGLE XGまたはEAGLE 2000などが挙げられる。
【0014】
本発明に係る接着剤組成物を基板又は支持体に塗布して接着層を形成した後、当該接着層を加熱する。これにより、接着層を形成している(メタ)アクリレートモノマーの重合が起こり、基板又は支持体表面との相互作用により密着性が向上する。結果として、本発明に係る接着剤組成物は、ヒートサイクル特性が向上し、例えば、光学部材の永久接着剤として用いることができる。
【0015】
(シクロオレフィン構造を有するポリマー)
本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィン構造を有するポリマーを含んでいる。シクロオレフィン構造を有するポリマーは、透過率などに優れているため、本発明に係る接着剤組成物は光学部材の永久接着剤として用いることができる。
【0016】
シクロオレフィン系ポリマー(シクロオレフィン構造を有するポリマー)としては、具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂などが挙げられる。
【0017】
前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーがより好ましい。
【0018】
シクロオレフィン構造を有するポリマーは、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、炭素数2〜10のアルケンモノマーが挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィンが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0019】
また、シクロオレフィン構造を有するポリマーは、シクロオレフィンモノマーを含有するため、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)を有している。シクロオレフィン構造を有するポリマーを構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、シクロオレフィン構造を有するポリマーを構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性および溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0020】
また、シクロオレフィン構造を有するポリマーの単量体成分として、直鎖状または分岐鎖状のアルケンモノマーを含有していてもよい。シクロオレフィン構造を有するポリマーを構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性および柔軟性の観点からは10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
【0021】
なお、シクロオレフィン構造を有するポリマーは、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
【0022】
単量体成分を重合するときの重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0023】
シクロオレフィン構造を有するポリマーの重量平均分子量は、50,000以上、150,000以下の範囲であることが好ましく、80,000以上、120,000以下の範囲であることがより好ましい。シクロオレフィン構造を有するポリマーの重量平均分子量が50,000以上であることにより、当該ポリマーの軟化温度をガラスとの貼り合わせに適した温度にすることができる。シクロオレフィン構造を有するポリマーの重量平均分子量が120,000以下であることにより、当該ポリマーに適当な溶剤溶解性を付与することができる。
【0024】
シクロオレフィン構造を有するポリマーとして用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」および「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」などが挙げられる。
【0025】
シクロオレフィン構造を有するポリマーのガラス転移点(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。シクロオレフィン構造を有するポリマーのガラス転移点が60℃以上であると、高温環境に曝されたときに接着層の軟化を抑制することができる。
【0026】
((メタ)アクリレートモノマー)
また、本発明に係る接着剤組成物は、(メタ)アクリレートモノマーを含んでいる。
【0027】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、単官能の(メタ)アクリレートモノマーまたは多官能の(メタ)アクリレートモノマー等が好ましい。つまり、上記(メタ)アクリレートモノマーは、単官能の(メタ)アクリレートモノマーおよび多官能の(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも一種の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。接着剤組成物を基板等に塗布した後、加熱することによって、(メタ)アクリレートモノマーの重合が起こり、当該基板と(メタ)アクリレート重合体との相互作用により密着性が向上する。
【0028】
上記単官能の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、フタル酸誘導体のハーフ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら単官能の(メタ)アクリレートモノマーは、単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記多官能の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、グリセリントリアクリレート、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート(即ち、トリレンジイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応物、等が挙げられる。これら多官能の(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記(メタ)アクリレートモノマーの中でも、特に環式基を有する(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、及びプロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0031】
本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィン構造を有するポリマー100重量部に対して、(メタ)アクリレートモノマーを、1重量部以上、30重量部以下の範囲で含むことが好ましく、5重量部以上、15重量部以下の範囲で含むことがより好ましい。シクロオレフィン構造を有するポリマー100重量部に対して、(メタ)アクリレートモノマーが1重量部以上であることにより、シリコンなどの基板との密着性を高めることができる。シクロオレフィン構造を有するポリマー100重量部に対して、(メタ)アクリレートモノマーが30重量部以下であることにより、過剰なモノマーが接着界面に染み出すことによる密着性の低下を防ぐことができる。
【0032】
(シクロオレフィン構造を有する低分子ポリマー)
本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィン構造を有する低分子ポリマーをさらに含んでいてもよい。シクロオレフィン構造を有する低分子ポリマーを含むことにより、接着剤組成物を熱可塑させるための温度を下げることができ、より低温にて基板と支持体との貼り合せを行うことができる。
【0033】
シクロオレフィン構造を有する低分子ポリマーの重量平均分子量は、5,000以上、20,000以下の範囲であることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィン構造を有するポリマー100重量部に対して、シクロオレフィン構造を有する低分子ポリマーを10重量部以上、30重量部以下の範囲でさらに含むことが好ましい。
【0035】
(熱重合開始剤)
本発明に係る接着剤組成物は、(メタ)アクリレートモノマーの重合反応を促進させる熱重合開始剤をさらに含んでいてもよい。
【0036】
熱重合開始剤は、(メタ)アクリレートモノマーの重合反応を促進させることができればよく、特に限定されるものではないが、例えば、過酸化物、アゾ系重合開始剤等が挙げられる。これら熱重合開始剤は、加熱されることによりラジカルを発生させて(メタ)アクリレートモノマーの重合反応を促進させる。
【0037】
過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル等が挙げられる。具体的には、過酸化アセチル、過酸化ジクミル、過酸化tert−ブチル、過酸化t−ブチルクミル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル(BPO)、過酸化2−クロロベンゾイル、過酸化3−クロロベンゾイル、過酸化4−クロロベンゾイル、過酸化2,4−ジクロロベンゾイル、過酸化4−ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ブチル、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過ギ酸tert−ブチル、過酢酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、過フェニル酢酸tert−ブチル、過4−メトキシ酢酸tert−ブチル、過N−(3−トルイル)カルバミン酸tert−ブチル等が挙げられる。市販されている過酸化物としては、例えば、日本油脂株式会社製の商品名「パークミル(登録商標)」、商品名「パーブチル(登録商標)」等が挙げられる。
【0038】
アゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスプロパン、2,2’−ジクロロ−2,2’−アゾビスプロパン、1,1’−アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)硝酸塩、2,2’−アゾビスイソブタン、2,2’−アゾビスイソブチルアミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオン酸メチル、2,2’−ジクロロ−2,2’−アゾビスブタン、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、2−(4−メチルフェニルアゾ)−2−メチルマロノジニトリル4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、3,5−ジヒドロキシメチルフェニルアゾ−2−アリルマロノジニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸ジメチル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンニトリル、2,2’−アゾビス−2−プロピルブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンニトリル、2,2’−アゾビス−2−プロピルブチロニトリル、1,1’−アゾビス−1−クロロフェニルエタン、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘプタンニトリル、1,1’−アゾビス−1−フェニルエタン、1,1’−アゾビスクメン、4−ニトロフェニルアゾベンジルシアノ酢酸エチル、フェニルアゾジフェニルメタン、フェニルアゾトリフェニルメタン、4−ニトロフェニルアゾトリフェニルメタン、1,1’−アゾビス−1,2−ジフェニルエタン、ポリ(ビスフェノールA−4,4’−アゾビス−4−シアノペンタノエート)、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2’−アゾビスイソブチレート)等が挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリレートモノマー100重量部に対する熱重合開始剤の割合は、0.5重量部以上、5重量部以下であることが好ましく、1重量部以上、3重量部以下であることがより好ましい。
【0040】
〔溶剤〕
本発明に係る接着剤組成物に含まれる溶剤は、シクロオレフィン構造を有するポリマー及び当該ポリマーに相溶する(メタ)アクリレートモノマーを溶解する機能を有するものであればよく、例えば、非極性の炭化水素系溶剤、極性及び無極性の石油系溶剤等を用いることができる。
【0041】
好ましくは、溶剤は、縮合多環式炭化水素を含み得る。溶剤が縮合多環式炭化水素を含むことによって、接着剤組成物を液状形態で(特に低温にて)保存したときに生じ得る白濁化を避けることができ、製品安定性を向上させることができる。
【0042】
炭化水素系溶剤としては、直鎖状、分岐状または環状の炭化水素が挙げられる。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン等の飽和脂肪族炭化水素、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、α−ピネン、β−ピネン、α−ツジョン、β−ツジョン等が挙げられる。
【0043】
また、石油系溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレンなどが挙げられる。
【0044】
また、縮合多環式炭化水素とは、2つ以上の単環がそれぞれの環の辺を互いに1つだけ供給してできる縮合環の炭化水素であり、2つの単環が縮合されてなる炭化水素を用いることが好ましい。
【0045】
そのような炭化水素としては、5員環及び6員環の組み合わせ、または2つの6員環の組み合わせが挙げられる。5員環及び6員環を組み合わせた炭化水素としては、例えば、インデン、ペンタレン、インダン、テトラヒドロインデン等が挙げられ、2つの6員環を組み合わせた炭化水素としては、例えば、ナフタレン、テトラヒドロナフタリン(テトラリン)及びデカヒドロナフタリン(デカリン)等が挙げられる。
【0046】
また、溶剤が上記縮合多環式炭化水素を含む場合、溶剤に含まれる成分は上記縮合多環式炭化水素のみであってもよいし、例えば、飽和脂肪族炭化水素等の他の成分を含有していてもよい。この場合、縮合多環式炭化水素の含有量が炭化水素系溶剤全体の40重量部以上であることが好ましく、60重量部以上であることがより好ましい。縮合多環式炭化水素の含有量が炭化水素系溶剤全体の40重量部以上である場合には、上記樹脂に対する高い溶解性を発揮することができる。縮合多環式炭化水素と飽和脂肪族炭化水素との混合比が上記範囲内であれば、縮合多環式炭化水素の臭気を緩和させることができる。
【0047】
なお、本発明の接着剤組成物における溶剤の含有量としては、当該接着剤組成物を用いて成膜する接着層の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えば、接着剤組成物の全量を100重量部としたとき、20重量部以上、90重量部以下の範囲であることが好ましい。溶剤の含有量が上記範囲内であれば、粘度調整が容易となる。
【0048】
(熱重合禁止剤)
本発明において、接着剤組成物は熱重合禁止剤を含有していてもよい。熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有する。具体的には、熱重合禁止剤はラジカルに対して高い反応性を示すため、モノマーよりも優先的に反応してモノマーの重合を禁止する。そのような熱重合禁止剤を含む接着剤組成物は、高温環境下(特に、250℃〜350℃)において重合反応が抑制される。
【0049】
例えば半導体製造工程において、支持体が接着されたウエハを250℃で1時間加熱する高温プロセスがある。このとき、高温により接着剤組成物の重合が起こると高温プロセス後にウエハから支持体を剥離する剥離液への溶解性が低下し、ウエハから支持体を良好に剥離することができない。しかし、熱重合禁止剤を含有している本発明の接着剤組成物では熱による酸化及びそれに伴う重合反応が抑制されるため、高温プロセスを経たとしてもサポートプレートを容易に剥離することができ、残渣の発生を抑えることができる。
【0050】
熱重合禁止剤としては、熱によるラジカル重合反応を防止するのに有効であれば特に限定されるものではないが、フェノールを有する熱重合禁止剤が好ましい。これにより、大気下での高温処理後にも良好な溶解性を確保することができる。そのような熱重合禁止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いることが可能であり、例えば、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリデントリス(2−メチルフェノール)、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名IRGANOX1010、BASF社製)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。熱重合禁止剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
熱重合禁止剤の含有量は、シクロオレフィン構造を有するポリマーの種類、当該ポリマーに相溶する(メタ)アクリレートモノマーの種類、並びに接着剤組成物の用途及び使用環境に応じて適宜決定すればよいが、例えば、シクロオレフィン構造を有するポリマーの量を100重量部としたとき、0.1重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。熱重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、熱による重合を抑える効果が良好に発揮され、高温プロセス後において、接着剤組成物の剥離液に対する溶解性の低下をさらに抑えることができる。
【0052】
(添加溶剤)
また、本発明に係る接着剤組成物は、熱重合禁止剤を溶解し、シクロオレフィン構造を有するポリマー及び当該ポリマーに相溶する(メタ)アクリレートモノマーを溶解するための溶剤とは異なる組成からなる添加溶剤を含有する構成であってもよい。添加溶剤としては、特に限定されないが、接着剤組成物に含まれる成分を溶解する有機溶剤を用いることができる。
【0053】
有機溶剤としては、例えば、接着剤組成物の各成分を溶解し、均一な溶液にすることができればよく、任意の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
有機溶剤の具体例としては、例えば、極性基として酸素原子、カルボニル基またはアセトキシ基等を有するテルペン溶剤が挙げられ、例えば、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファーが挙げられる。また、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、上記多価アルコール類または上記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
【0055】
添加溶剤の含有量は、熱重合禁止剤の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、シクロオレフィン構造を有するポリマーを溶解する溶剤(主溶剤)と熱重合禁止剤を溶解する溶剤(添加溶剤)との合計を100重量部としたとき、1重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、1重量部以上、30重量部以下であることがさらに好ましい。添加溶剤の含有量が上記範囲内であれば、熱重合禁止剤を十分に溶解することができる。
【0056】
(その他の成分)
接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。
【0057】
<接着フィルム>
本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、液状のまま、半導体ウエハなどの被加工体の上に塗布して接着層を形成する方法を用いてもよいし、本発明に係る接着フィルム、すなわち、予め可撓性フィルムなどのフィルム上に上記何れかの接着剤組成物を含む接着層を形成した後、乾燥させておき、このフィルム(接着フィルム)を、被加工体に貼り付けて使用する方法(接着フィルム法)を用いてもよい。
【0058】
このように、本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、上記何れかの接着剤組成物を含有する接着層を備える。
【0059】
接着フィルムは、接着層にさらに保護フィルムを被覆して用いてもよい。この場合には、接着層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着層を重ねた後、接着層から上記フィルムを剥離することによって被加工体上に接着層を容易に設けることができる。
【0060】
したがって、この接着フィルムを用いれば、被加工体の上に直接、接着剤組成物を塗布して接着層を形成する場合と比較して、膜厚均一性及び表面平滑性の良好な接着層を形成することができる。
【0061】
接着フィルムの製造に使用する上記フィルムとしては、フィルム上に製膜された接着層を当該フィルムから剥離することができ、接着層を保護基板やウエハなどの被処理面上に転写できる離型フィルムであればよく、特に限定されるものではない。例えば、膜厚15〜125μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、及びポリ塩化ビニルなどの合成樹脂フィルムからなる可撓性フィルムが挙げられる。上記フィルムには、必要に応じて、転写が容易となるように離型処理が施されていることが好ましい。
【0062】
上記フィルム上に接着層を形成する方法としては、所望する接着層の膜厚や均一性に応じて適宜、公知の方法を用いて、フィルム上に接着層の乾燥膜厚が10〜1000μmとなるように、本発明に係る接着剤組成物を塗布する方法が挙げられる。
【0063】
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムとしては、接着層から剥離することができる限り限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリエチレンフィルムが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンをコーティングまたは焼き付けしてあることが好ましい。接着層からの剥離が容易となるからである。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、15〜125μmが好ましい。保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保することができるからである。
【0064】
接着フィルムの使用方法は、特に限定されるものではないが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、これを剥離した上で、被加工体の上に露出した接着層を重ねて、フィルム上(接着層の形成された面の裏面)から加熱ローラを移動させることにより、接着層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムは、順次巻き取りローラなどのローラでロール状に巻き取れば、保存し再利用することが可能である。
【0065】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0066】
〔接着剤組成物の調製〕
(実施例1)
三井化学株式会社製のAPL8008T(下記化学式(I)、Mw=100,000、Mw/Mn=2.1、m:n=80:20(モル比)) 100重量部に、新中村化学工業株式会社製のADCP(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)を5重量部加えて、デカヒドロナフタリンで溶解し、さらに酢酸ブチルに溶解させた。そして、BASF社製のIRGANOX1010を樹脂分に対して1重量部添加し、粘度調整を行い、実施例1の接着剤組成物を調製した。
【0067】
【化1】
【0068】
(実施例2)
APL8008T 100重量部に、新中村化学工業株式会社製のDCP(トリシクロデカンジメタノールジメタアクリレート)を5重量部加えて、デカヒドロナフタリンで溶解し、さらに酢酸ブチルに溶解させた。そして、IRGANOX1010を樹脂分に対して1重量部添加し、粘度調整を行い、実施例2の接着剤組成物を調製した。
【0069】
(実施例3)
ポリプラスチックス株式会社製のTOPAS8007(下記化学式(II)、Mw=95,000、Mw/Mn=1.9、m:n=35:65(モル比)) 100重量部に、ADCPを5重量部加えて、デカヒドロナフタリンで溶解し、さらに酢酸ブチルに溶解させた。そして、IRGANOX1010を樹脂分に対して1重量部添加し、粘度調整を行い、実施例3の接着剤組成物を調製した。
【0070】
【化2】
【0071】
(実施例4)
APL8008T 100重量部に、ADCPを5重量部、日本油脂株式会社製のパーミクルDを3重量部加えて、デカヒドロナフタリンで溶解し、さらに酢酸ブチルに溶解させた。そして、IRGANOX1010を樹脂分に対して1重量部添加し、粘度調整を行い、実施例4の接着剤組成物を調製した。
【0072】
(実施例5)
APL8008T 100重量部に、ADCPを5重量部、日本油脂株式会社製のパーブチルCを3重量部加えて、デカヒドロナフタリンで溶解し、さらに酢酸ブチルに溶解させた。そして、IRGANOX1010を樹脂分に対して1重量部添加し、粘度調整を行い、実施例5の接着剤組成物を調製した。
【0073】
(実施例6〜8)
以下の表1に示す組成比に基づき、それぞれ実施例6〜8の接着剤組成物を調製した。なお、表1に記載のADCP、DCP、パーミクルDおよびパーブチルCの値は、それぞれ樹脂(APL8008T)100重量部に対する重量部を表している。
【0074】
(比較例1)
APL8008T 100重量部をデカヒドロナフタリンで溶解し、さらに酢酸ブチルに溶解させた。そして、IRGANOX1010を樹脂分に対して1重量部添加し、粘度調整を行い、比較例1の接着剤組成物を調製した。
【0075】
実施例1〜8、比較例1に係る接着剤組成物を構成する各成分の組成比および当該接着剤組成物への各試験の結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(評価用サンプル作製)
半導体ウエハ基板(12インチ、シリコン)に上記接着剤組成物をスピン塗布し、90℃、160℃、220℃の温度で各4分間ベークし、溶剤を揮発させ、接着層を形成した(膜厚50μm)。次に、接着層が形成されたウエハを200℃の窒素雰囲気下の加熱炉で1時間キュア(硬化)を行い、接着層に含まれるモノマーの硬化を完成させた。その後、キュア前後において、400nmの透過率を分光光度計(瞬間マルチ測光システムMCPD3000、大塚電子株式会社製)で測定した。その結果、全ての評価用サンプルでキュア後の透過率が98%以上であったため、キュア後の透過率の結果を全て「○」とした。
【0078】
(耐熱透過率試験)
評価用サンプルを265℃に加熱したホットプレートにそれぞれ載せ、10分間加熱した。加熱前後において、400nmの透過率を分光光度計で測定した。全ての評価用サンプルでキュア後の透過率が98%以上であったため、耐熱透過率試験の結果は全て「○」とした。
【0079】
(ヒートサイクル試験)
評価用サンプル(実施例1〜8、比較例1)を冷熱衝撃試験機TSE−11−A(ESPEC Corp.)に投入し、当該サンプルを、それぞれ−40℃の恒温槽および100℃の恒温槽間を移動させた。各恒温槽でのサンプルの保持時間は30分間であり、合計1時間でヒートサイクル1サイクルとした。100サイクルまでヒートサイクル試験を実施した後、目視により接着層の状態を観察した。100サイクル終了後に、接着層が基板から剥がれていないサンプルを「○」とし、接着層が基板から剥がれているサンプルを「×」とした。
【0080】
キュア後の透過率の結果および耐熱透過率試験により、シクロオレフィン構造を有するポリマーに(メタ)アクリレートモノマーを相溶させても、加熱後の透過率がほとんど劣化しないことが分かった。
【0081】
ヒートサイクル試験の結果から、(メタ)アクリレートを含んでいない接着剤組成物から形成された接着層は、基板貼り付け後のヒートサイクルによる熱衝撃によって、基板から剥がれが生じてしまうことが分かった。一方、(メタ)アクリレートを含んでいる接着剤組成物から形成された接着層は、基板貼り付け後のヒートサイクルによる熱衝撃によって、基板から剥がれが生じにくいことが分かった。