特許第6244214号(P6244214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6244214芳香族化合物の水素化システム及びこれを備えた水素貯蔵・輸送システム並びに芳香族化合物の水素化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244214
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】芳香族化合物の水素化システム及びこれを備えた水素貯蔵・輸送システム並びに芳香族化合物の水素化方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/09 20060101AFI20171127BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 5/10 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 7/04 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 3/14 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C07C7/09
   C01B3/00 Z
   C07C13/18
   C07C5/10
   C07C7/04
   B01D3/14 A
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-18650(P2014-18650)
(22)【出願日】2014年2月3日
(65)【公開番号】特開2015-145347(P2015-145347A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】河合 裕教
(72)【発明者】
【氏名】白髪 昌斗
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠介
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−155730(JP,A)
【文献】 特表2012−526741(JP,A)
【文献】 特開2008−266315(JP,A)
【文献】 特開2004−315380(JP,A)
【文献】 特開2007−269522(JP,A)
【文献】 特開2004−250255(JP,A)
【文献】 特開2003−040601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/09
B01D 3/14
C01B 3/00
C07C 5/10
C07C 7/04
C07C 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する固定床多管式反応器からなる水素化反応装置と、
前記水素化反応装置の生成物を前記水素化芳香族化合物の沸点以上に維持した状態で気液分離する第1分離装置と、
前記第1分離装置によって分離された気体に含まれる前記水素化芳香族化合物を分離する第2分離装置と
を備えたことを特徴とする芳香族化合物の水素化システム。
【請求項2】
前記水素化反応装置の生成物を前記水素化芳香族化合物の沸点以上の所定の温度まで冷却する第1冷却器を更に備え、
前記第1分離装置は、前記第1冷却器によって冷却された前記生成物を気液分離することを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項3】
前記第1冷却器の冷却能は、前記第1分離装置に設けられた温度計の検出値に基づき制御されることを特徴とする請求項2に記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項4】
前記第1分離装置で分離された液体には、ビフェニル、ビシクロヘキシル、4,4‐ジメチルビシクロヘキシル、3,3‐ジメチルビシクロヘキシルのうちの少なくとも1つが含まれる請求項1から請求項3のいずれかに記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項5】
前記第1分離装置において気液分離される前記生成物を冷却する第2冷却器を更に備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項6】
前記第1分離装置において気液分離される前記生成物の温度は、100℃〜220℃の範囲内に維持されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項7】
前記第1分離装置によって分離された液体を蒸留する蒸留装置を更に備え、
前記蒸留装置の留出物は、前記第2分離装置によって分離された前記水素化芳香族化合物に混合されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項8】
前記蒸留装置は、前記水素化反応装置の反応熱を利用して蒸留を行うことを特徴とする請求項に記載の芳香族化合物の水素化システム。
【請求項9】
請求項1から請求項の何れかに記載の芳香族化合物の水素化システムと、
前記第2分離装置によって分離された前記水素化芳香族化合物から脱水素反応によって水素を生成する脱水素反応装置と
を備えたことを特徴とする水素貯蔵・輸送システム。
【請求項10】
固定床多管式反応器を用いて行われ、水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応工程と、
前記水素化反応工程の生成物を前記水素化芳香族化合物の沸点以上に維持した状態で気液分離する第1分離工程と、
前記第1分離工程によって分離された気体に含まれる前記水素化芳香族化合物気液分離する第2分離工程と
を有することを特徴とする芳香族化合物の水素化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の水素化システム及びこれを備えた水素貯蔵・輸送システム並びに芳香族化合物の水素化方法に関し、特に、芳香族化合物を水素化することにより水素化芳香族化合物の状態で水素の貯蔵や輸送を行う有機ケミカルハイドライド法への適用に好適な芳香族化合物の水素化システム及びこれを備えた水素貯蔵・輸送システム並びに芳香族化合物の水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トルエンなどの芳香族化合物を水素化し、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)の状態で水素の貯蔵や輸送を行う有機ケミカルハイドライド法が開発されている。この手法によれば、水素は、生産地において水素化芳香族化合物に転換され、水素化芳香族化合物の形態で輸送される。そして、都市等の水素使用地に隣接したプラントや水素ステーション等において、水素化芳香族化合物の脱水素反応により水素と芳香族化合物とが生成される。脱水素反応によって生じた化合物は、再び水素生産地に輸送され、水素化反応に利用される。
【0003】
一方、上記脱水素反応に用いられる脱水素触媒は、水素化芳香族化合物に含まれる被毒物質(水素化前の芳香族化合物に含まれる不純物、或いは水素化反応によって生成した不純物等)によって触媒機能が低下することにより、その寿命に悪影響を受けるという問題がある。そのような被毒物質となり得る不純物の種類や発生量は水素化反応の反応条件によって変化するが、それら不純物の殆どは、水素化芳香族化合物よりも沸点が高い高沸点成分に含まれる。
【0004】
そこで、従来、有機ケミカルハイドライド法による水素の貯蔵・輸送システムにおいて、水素化反応装置の後段に脱水素触媒の被毒物質を除去するための蒸留装置を設置することにより、水素化反応の生成物中に水素化芳香族化合物(メチルシクロヘキサン等)と共に存在する被毒物質を所定の濃度以下に維持し、これにより、脱水素触媒の長寿命化を図る技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4907210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来技術では、脱水素触媒の被毒物質を除去するために、水素化反応装置の後段に設けた蒸留装置によって水素化芳香族化合物の全量を処理する構成であるため、その処理に大量のエネルギーを必要とするという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、水素化反応の生成物中に水素化芳香族化合物と共に存在する高沸点成分(脱水素触媒の被毒物質を含む)の濃度を低下させるための処理に必要なエネルギーを抑制する芳香族化合物の水素化システム及びこれを備えた水素貯蔵・輸送システム並びに芳香族化合物の水素化方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面では、芳香族化合物の水素化システム(2)は、水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応装置(11)と、前記水素化反応装置の生成物を前記水素化芳香族化合物の沸点以上に維持した状態で気液分離する第1分離装置(12)と、前記第1分離装置によって分離された気体に含まれる前記水素化芳香族化合物を分離する第2分離装置(13)とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この第1の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、水素化芳香族化合物の沸点以上の温度で気液分離された気体(すなわち、脱水素触媒の被毒物質を含む高沸点成分の濃度を低下させた生成物)に含まれる水素化芳香族化合物を分離する構成としたため、水素化反応の生成物中に水素化芳香族化合物と共に存在する高沸点成分の濃度を低下させるための処理に必要なエネルギーを抑制することが可能となる。
【0010】
本発明の第2の側面では、上記第1の側面に関し、前記第1分離装置において気液分離される前記生成物を冷却する冷却器(19)を更に備えたことを特徴とする。
【0011】
この第2の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、第1分離装置において気液分離される生成物の温度を所望の温度範囲に安定的に収めることが可能となるため、第1分離装置で分離された気体(すなわち、脱水素触媒の被毒物質を含む高沸点成分の濃度を低下させた生成物)の回収率と、その気体に含まれる脱水素触媒の被毒物質の濃度とを容易に制御することができる。
【0012】
本発明の第3の側面では、上記第1または第2の側面に関し、前記第1分離装置において気液分離される前記生成物の温度は、100℃〜220℃の範囲内に維持されることを特徴とする。
【0013】
この第3の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、第1分離装置で分離された気体に含まれる脱水素触媒の被毒物質の濃度を確実に低下させつつ、その気体の回収率を向上させることができる。
【0014】
本発明の第4の側面では、上記第1から第3の側面のいずれかに関し、前記第1分離装置によって分離された液体を蒸留する蒸留装置(51)を更に備え、前記蒸留装置の留出物は、前記第2分離装置によって分離された前記水素化芳香族化合物に混合されることを特徴とする。
【0015】
この第4の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、第1分離装置によって分離された液体(すなわち、水素化芳香族化合物の一部において脱水素触媒の被毒物質を含む高沸点成分が濃縮された生成物)を蒸留することにより、生成物の全量を蒸留する場合に比べて蒸留に必要なエネルギーを抑制することができ、また、蒸留装置の留出物(水素化芳香族化合物)を第2分離装置によって分離された水素化芳香族化合物に混合することにより、脱水素触媒の被毒物質と共に除去されてしまう水素化芳香族化合物の損失を低減することが可能となる。
【0016】
本発明の第5の側面では、上記第4の側面に関し、前記蒸留装置は、前記水素化反応装置の反応熱を利用して蒸留を行うことを特徴とする。
【0017】
この第5の側面による芳香族化合物の水素化システムでは、水素化反応装置の反応熱を利用することにより、蒸留装置におけるエネルギーコストを低減することができる。
【0018】
本発明の第6の側面では、水素貯蔵・輸送システム(1)は、上記第1から第5の側面のいずれかの芳香族化合物の水素化システムと、前記第2分離装置によって分離された前記水素化芳香族化合物から脱水素反応によって水素を生成する脱水素反応装置(3)とを備えたことを特徴とする。
【0019】
この第6の側面による水素貯蔵・輸送システムでは、芳香族化合物を水素貯蔵・輸送システム内で循環させた場合に、大きなエネルギーコストを必要とすることなく脱水素触媒の被毒物質がシステム内に濃縮されることを防止(すなわち、脱水素触媒を長寿命化)することができ、これにより、有機ケミカルハイドライド法に基づく水素の供給を長期にわたって安定的に実現することができる。
【0020】
本発明の第7の側面では、芳香族化合物の水素化方法は、水素化反応により芳香族化合物に水素を付加して、水素化芳香族化合物を生成する水素化反応工程と、前記水素化反応工程の生成物を前記水素化芳香族化合物の沸点以上に維持した状態で気液分離する第1分離工程と、前記第1分離装置によって分離された気体に含まれる前記水素化芳香族化合物を分離する第2分離工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、水素化反応の生成物中に水素化芳香族化合物と共に存在する高沸点成分(脱水素触媒の被毒物質を含む)の濃度を低下させるための処理に必要なエネルギーを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る水素貯蔵・輸送システムの概略構成を示すブロック図
図2】第1分離装置における気液分離温度とメチルシクロヘキサン中の被毒物質の濃度との関係ならびに気液分離温度とメチルシクロヘキサンが重質液に液体として残留することによるメチルシクロヘキサンの随伴量との関係の一例を示すグラフ
図3図2に示した関係について圧力条件を変更した変形例を示すグラフ
図4】第2実施形態に係る水素貯蔵・輸送システムの概略構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る水素貯蔵・輸送システム1の概略構成を示すブロック図であり、図2は第1分離装置における気液分離温度とメチルシクロヘキサン中の被毒物質(すなわち、水素化システム2で回収される最終生成物と共に存在する被毒物質)の量との関係ならびに気液分離温度とメチルシクロヘキサンが重質液に液体として残留することによるメチルシクロヘキサンの随伴量との関係の一例(シミュレーション結果)を示すグラフであり、図3図2に示した関係について圧力条件を変更した変形例を示すグラフである。
【0025】
図1に示すように、水素貯蔵・輸送システム1は、芳香族化合物(ここでは、トルエン)に水素を付加することにより貯蔵・輸送用としての水素化された芳香族化合物である水素化芳香族化合物(ここでは、メチルシクロヘキサン)を生成する水素化システム2と、その水素化芳香族化合物の脱水素により水素と芳香族化合物とを生成する脱水素システム3とから主として構成される。
【0026】
水素化システム2は、水素化反応によりトルエンに水素を付加することにより、メチルシクロヘキサン(以下「MCH」という。)を生成する水素化反応装置11と、この水素化反応装置11の生成物を気液分離する第1分離装置12と、この第1分離装置12によって分離された気体を再び気液分離する第2分離装置13と、この第2分離装置13によってMCH(主生成物)が液体として分離された後の残留物(気体)の少なくとも一部を水素化反応装置11に循環する輸送装置14と、第2分離装置13によって分離された水素化システム2の最終生成物である高純度のMCH(以下、「回収MCH」という。)を貯蔵する第1貯蔵装置15とを主として備える。
【0027】
この水素化システム2では、芳香族化合物供給ラインL1を介して水素化反応の反応物であるトルエンが供給される。芳香族化合物供給ラインL1には、予熱器16が設けられており、後に詳述する水素化反応の生成物との熱交換によりトルエンが予熱される。一方、水素化システム2では、水素供給ラインL2を介して水素化反応の反応物である水素が供給される。
【0028】
トルエンおよび水素は、合流部17で混合された後、原料供給ラインL3を介して水素化反応装置11に導入される。このとき、トルエンおよび水素は、水素化反応装置11への導入前に、原料供給ラインL3に設けられた予熱器18によって所定の温度まで予熱される。予熱器16、18については、それぞれトルエンおよび水素の必要な予熱を行うことが可能な限りにおいて任意の公知の構成を採用することができる。
【0029】
水素化反応装置11では、水素化反応によりトルエンおよび水素からMCHが生成される(水素化反応工程)。水素化反応装置11の生成物は、第1生成物輸送ラインL4を介して第1分離装置12に送られる。この生成物は、MCHを主生成物とし、未反応の残留水素及び後に詳述する脱水素反応装置42で用いられる脱水素触媒の被毒物質となり得る不純物等を含む。第1生成物輸送ラインL4は、予熱器16に接続されており、生成物はトルエンとの熱交換により冷却される。また、第1生成物輸送ラインL4における予熱器16の下流側には、第1冷却器19が設けられており、この第1冷却器19によって生成物はMCHの沸点以上の所定の温度までさらに冷却される。第1冷却器19については、生成物の必要な冷却を行うことが可能な限りにおいて水冷、空冷等の冷却方式を問わず任意の公知の構成を採用することができる。また、本発明における「冷却器」の用語についても、厳密に解釈される必要はなく、生成物の必要な冷却を実質的に行うことが可能な限りにおいて、公知の温度調節装置、熱伝達装置、及び放熱装置などを適宜採用することができる。
【0030】
その後、水素化反応の生成物は、第1分離装置12において気液分離される(第1分離工程)。この第1分離装置12は、公知の構成を有する気液分離器からなるが、生成物をMCHの沸点以上で、且つ生成物の一部を凝縮させる温度以下に維持した状態で気液分離を行う点に特徴がある。第1分離装置12において分離された液体(以下、「重質液」という。)は、気体状MCHの一部が凝縮した液体状MCH及びMCHよりも沸点が高い高沸点成分とからなり、これらは重質液排出ラインL5を介して排出されることにより、水素化システム2の最終生成物から除去される。
【0031】
第1分離装置12によって分離された被分離ガス(気体)は、その後、第2生成物輸送ラインL6を介して第2分離装置13に送られる。第2生成物輸送ラインL6には、第2冷却器21が設けられている。第1分離装置12からの被分離ガスは、重質液(すなわち、高沸点成分に含まれる脱水素触媒の被毒物質)が除去された比較的高純度のMCHを含み、第2冷却器21によって液化(すなわち、MCHの沸点以下の所定の温度まで冷却)された後に第2分離装置13に供給される。第2分離装置13は、公知の構成を有する気液分離器からなり、第2冷却器21で冷却された被分離ガスをMCHの沸点以下に維持した状態で気液分離する(第2分離工程)。なお、第2分離装置13としては、MCHを効率良く分離可能な限りにおいて、任意の公知の分離装置を用いることができる。
【0032】
第2分離装置13において液体として分離された回収MCHは、第1MCH回収ラインL7を介して貯蔵タンクからなる第1貯蔵装置15に送られて貯蔵される。一方、気体として分離された残留物(未反応の残留水素、副生成物等のガス)は、残留ガス循環ラインL8を介して水素供給ラインL2の合流部20に送られ、そこで水素に混合される(循環工程)。これにより、未反応の残留水素等が水素化反応装置11に循環される。この残留物の循環は、残留ガス循環ラインL8に設けられた輸送装置14によって行われる。輸送装置14は、公知の構成を有する昇圧用のコンプレッサからなるが、これに限らず同様の機能を有する他の公知の装置を用いてもよい。
【0033】
また、残留ガス循環ラインL8のガス排出部22には、ガス排出ラインL9が接続されている。水素化システム2では、ガス排出ラインL9に設けられた調節弁23の開閉を制御して残留物の一部を外部に排出することにより、水素化システム2内(特に、残留ガス循環ラインL8内の残留物)の圧力を調整することができる。
【0034】
詳細は図示しないが、水素化反応装置11は、熱交換型の固定床多管式反応器からなり、水素化触媒(固体触媒)が充填された複数の反応管がシェル内に収容された公知の構成を有している。後に詳述するように、水素化反応は発熱反応であるため、反応温度の上昇による転化率の低下を回避するために、反応熱を適切に除去する必要がある。固定床多管式反応器のシェルには冷却用ジャケットが設けられており、この冷却用ジャケットには熱媒体(オイル、水、蒸気等)が流通する。水素化反応の反応熱により加熱された熱媒体は、熱媒体循環ラインL10を介して冷却装置31に送られ、そこで冷却された後に熱媒体循環ラインL10を介して固定床多管式反応器に循環される。このような水素化反応装置11の冷却機構により、水素化反応の反応温度は適切に調整される。なお、L10から排出される熱媒体に蒸気を用いる場合には、加熱・加湿用蒸気、動力用蒸気として、工業的に利用することも可能である。
【0035】
なお、水素化反応装置11については、本発明による水素化反応を実現可能な限りにおいて、上記構成に限らず他の公知の構成を採用することができる。また、詳細な説明は省略したが、水素化システム2における上述のラインL1〜L10は、図示しない管路、弁及びポンプ等を備えた公知の構成を有している(後述する脱水素システム3におけるラインL12〜L15についても同様)。
【0036】
水素化反応装置11では、以下の化学反応式(1)に基づく水素化反応により水素をトルエン(C)に化学的に付加する。この水素化反応は発熱反応(ΔH298=-205kJ/mol)である。これにより、トルエンは、MCH(C14)に転換される。
【化1】
【0037】
ここで、水素化反応の反応温度は、150℃〜250℃の範囲内にあり、より好ましくは160℃〜220℃の範囲内にある。上述の分離装置13においてMCHと分離された残留物中に存在する副生成物の量(すなわち、水素化反応における発生量)は、水素化反応の反応温度の上昇を抑制することによって抑制することが可能である。水素化反応の反応圧力は、0.1MPaG〜5MPaGの範囲内にあり、より好ましくは0.5MPaG〜3MPaGの範囲内にある。トルエンおよび水素の水素化反応装置11への供給量比(トルエン/水素(モル比))は、化学量論比では1/3となるが、1/2〜1/10とすることが好ましく、より好ましくは1/2.5〜1/5である。特に、1/3〜1/4とすることが好ましい。ここで、トルエンおよび水素の水素化反応装置11への供給量比の下限を最適化することにより、トルエンを十分に反応させることができる一方、供給量比の上限を最適化することにより、水素化システム2に供給される気体の量が過剰とならずに、輸送装置14の動力を低減することができる。なお、トルエンに対する水素の余剰分は、水素化反応の残留物に含有されることになり、トルエンの水素化反応を十分に行うとともに、余剰の水素を次回の水素化反応にリサイクルすることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、水素化反応に用いられる水素のみを供給する構成としたが、実際上は、水素化反応を阻害しない限りにおいて、水素以外の他の成分が含まれていてもよい。例えば、水素のみを用いる代わりに、所定の希釈用ガス(例えば、メタンや窒素等)によって希釈された希釈水素を用いることもできる。例えば、メタンによる希釈では、水素化反応における希釈水素(残留物が混合される場合には残留物中の水素およびメタン等を含む)におけるメタンの濃度は、5vol%〜70vol%の範囲内とし、より好ましくは10vol%以上かつ30vol%未満とするとよい。その場合、希釈水素における水素の濃度は、メタンによる希釈によって30vol%〜95vol%の範囲内となり、より好ましくは70vol%よりも大きく且つ90vol%以下となる。
【0039】
水素化反応装置11での水素化に用いられる芳香族化合物は、特にトルエンに限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、キシレン等の単環式芳香族化合物や、ナフタレン、テトラリン、メチルナフタレン等の2環式芳香族化合物や、アントラセン等の3環式芳香族化合物を単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0040】
また、水素化反応装置11の主生成物である水素化芳香族化合物は、上記芳香族化合物を水素化したものであり、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族化合物や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族化合物や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族化合物等の単独、或いは2種以上の混合物となる。有機ハイドライドとしては、貯蔵や輸送の便宜を考慮して、常温、常圧で安定な液体として取り扱うことができるものを選択するとよい。ただし、MCHとは異なる水素化芳香族化合物(すなわち、トルエンとは異なる芳香族化合物)を用いる場合には、水素化システム2の運転条件(水素化反応装置11における水素化反応の条件、第1冷却器19及び第2冷却器21における冷却条件、及び第1分離装置12及び第2分離装置13における気液分離の温度条件等)は、その水素化芳香族化合物の種類に応じて適宜変更される。
【0041】
また、水素化触媒は、アルミナ、シリカアルミナ、及びシリカから選ばれた担体に、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)から選ばれた少なくとも1種の活性金属を担持されたものであるが、これに限らず、芳香族化合物を水素化するために使用される公知の触媒を用いることができる。
【0042】
また、主に水素化反応において発生し、脱水素触媒の被毒物質となり得る不純物としては、芳香族化合物をトルエンとした本実施形態では、高沸点成分であるビフェニル(標準沸点:約256℃)、ビシクロヘキシル(標準沸点:約227℃)、4,4‐ジメチルビシクロヘキシル(標準沸点:約241℃)、3,3‐ジメチルビシクロヘキシル(標準沸点:約264℃)などが挙げられる。また一般に、この種の水素化反応の生成物において脱水素触媒の被毒物質となり得る不純物としては、芳香族化合物がトルエン、ベンゼン等の単環芳香族類である場合には、6員環化合物の2量体または3量体以上の重合生成物及び5員環化合物の2量体または3量体以上の重合生成物等が考えられ、また、芳香族化合物がナフタレン等の2環芳香族類の場合には、上記重合生成物等に加え、2環芳香族類の2量体または3量体以上の重合生成物等が考えられる。
【0043】
第1分離装置12は、混相流(気液二相流)における気体および液体を比重差などを利用して効率的に分離するための構成を有している。第1分離装置12による気液分離は、第2分離装置13における回収MCHの高い回収率を維持しつつ、この回収MCHに含まれる脱水素触媒の被毒物質の濃度を目的濃度以下に維持することを目的として実施される。
【0044】
そこで、第1分離装置12は、水素化反応の生成物を好ましくは100℃〜220℃の温度範囲内、より好ましくは105℃〜190℃の温度範囲内、特に好ましくは110℃〜160℃の温度範囲内に維持した状態で気液分離を行う。このような気液分離温度の好適な範囲は、主として(1)トルエンおよび水素の水素化反応装置11への供給量比(以下、「トルエン/水素比」という。)、(2)水素化反応装置11における反応容器内の圧力(以下、「水素化反応圧力」という。)、(3)希釈用ガス濃度(だたし、水素を希釈する場合に限る)に左右される。トルエン/水素比および水素化反応圧力は、水素化反応装置11の反応容器出口におけるMCHの分圧を左右し、このMCHの分圧の上昇に伴い、好適な気液分離温度はより高くなる傾向がある。また、水素化反応圧力の上昇に伴い、好適な気液分離温度はより高温となる傾向がある一方、水素化反応圧力の低下に伴い、好適な気液分離温度はより低温となる傾向がある。特に、水素化反応圧力が0.5MPaG〜3.0MPaGの範囲内にある場合には、気液分離温度の範囲を上述の100℃〜220℃程度とするとよいことを本発明者らは見出した。
【0045】
図2の実施例は、水素を窒素によって希釈し、希釈水素中の窒素濃度を17vol%、トルエン/水素比を1/6.6、水素化反応圧力を2.8MPaGとした場合である。図2に示すように、本実施形態における水素化システム2では、水素化反応において脱水素触媒の被毒物質としてビフェニルが発生すると仮定した場合、破線で示した回収MCH中のビフェニルの濃度(wt ppm)は、第1分離装置12の温度が低下する(MCHの沸点(標準沸点:約101℃)側に近づく)のに伴って減少する傾向にある。一方、実線で示した全MCH量に対する重質液中のMCH量(すなわち、MCHが重質液に液体として残留することによるMCHの随伴量)の割合(随伴MCH)は、第1分離装置12の温度の低下に伴って増大する傾向にある。つまり、第1分離装置12における気液分離の温度の変化に対し、回収MCH中のビフェニルの濃度の低減と、MCHの随伴量の低減とは、相反する関係にある。したがって、第1分離装置12では、回収MCH中のビフェニルの濃度を目標濃度以下に維持しつつ、MCHの随伴量を抑制する(例えば、MCHの随伴量を25wt%以下とする)ように適切な温度制御を行う必要がある。脱水素触媒の被毒の抑制を考慮して設定される回収MCH中におけるビフェニル等の被毒物質の目標濃度は、500(wt ppm)以下であり、より好ましくは100(wt ppm)以下である。
【0046】
図2の実施例において、残留ビフェニル等の量を500wt ppm以下に維持するためには、気液分離温度を157℃以下に維持する必要がある。特に、残留ビフェニル等の量をより好ましい100wt ppm以下に維持するためには、気液分離温度を149℃以下に維持する必要がある。一方で、気液分離温度を下げるほど、MCHの随伴量(後に詳述する、高沸点成分を含むMCHの蒸留装置への供給量に相当)が増加するため、MCHの回収エネルギーも増加することになる。
【0047】
一般に、第1分離装置12での水素化反応の生成物の温度が100℃未満(図2中には図示せず)になると、高沸点成分(すなわち、脱水素触媒の被毒物質)と共に液体として分離されるMCHが増大することにより、気体(回収MCH)の回収率が著しく低下する。そこで、MCHの随伴量を一定の範囲内に留めるように、気液分離温度の下限が設定される。気液分離温度の下限は、MCHの随伴量を30wt%以下、より好ましくは25wt%以下となるように設定するとよい。
【0048】
また、図3の変形例は、水素を窒素によって希釈し、希釈水素中の窒素濃度を17vol%、トルエン/水素比を1/6.2、水素化反応圧力を1.0MPaGとした場合である。図3の変形例において、残留ビフェニル等の量を500wt ppm以下に維持するためには、気液分離温度を120℃以下に維持する必要がある。特に、残留ビフェニル等の量をより好ましい100wt ppm以下に維持するためには、気液分離温度を117℃以下に維持する必要がある。このように、図2の場合と比べて水素化反応圧力を低下させることにより、好適な気液分離温度の操作範囲はより低温側となる。
【0049】
なお、本実施形態では、気液分離温度の好適な範囲を左右する(1)トルエン/水素比、(2)水素化反応圧力、(3)希釈用ガス濃度に関し、特定の条件を適用した場合についてのみ示したが、当業者であれば、本明細書の記載に基づき、技術常識と照らしあわせてそれらの条件を適宜選択できることは明らかである。また、このような気液分離温度の条件は、水素化システム2に適用可能な水素化芳香族化合物の種類に拘わらず概ね適用可能である。
【0050】
本実施形態では、第1分離装置12に設けられた温度計(図示せず)の検出値に基づき、第1冷却器19の冷却能を制御することにより、第1分離装置12で気液分離される水素化反応の生成物の温度が制御される。これにより、第1分離装置12において気液分離される生成物の温度を所望の温度範囲に安定的に収めることが可能となるため、第1分離装置12における気体(すなわち、回収MCH)の回収率と、回収MCHに含まれる脱水素触媒の被毒物質の濃度とを容易に制御することができる。ただし、第1生成物輸送ラインL4の予熱器16における熱交換や輸送中の放熱等によって気液分離の温度を上記温度範囲内に収めることができる場合には、第1冷却器19を省略してもよい。また、第1分離装置12に冷却機能(実質的な冷却器)を付加することにより、第1冷却器19の代わりに、或いは第1冷却器19と共に気液分離の温度を制御してもよい。
【0051】
水素化反応の主生成物のMCHの標準沸点は約101℃であるため、第1分離装置12においてMCHの多くは、気体として第2生成物輸送ラインL6を介して第2分離装置13に送られる。一方、水素化反応の生成物中の高沸点成分(後に詳述する脱水素反応装置42で用いられる脱水素触媒の被毒物質となり得る不純物を含む)は、第1分離装置12の気液分離の温度範囲よりも高い沸点を有しているため、気体状MCHの一部が凝縮した液体状MCHと共に液体(重質液)として重質液排出ラインL5を介して排出される。
【0052】
一方、脱水素システム3は、回収MCHを貯蔵する第2貯蔵装置41と、回収MCHから水素を発生させる脱水素反応装置42と、この脱水素反応装置42の反応生成物から水素とトルエンとを分離する水素分離装置43とを主として備える。
【0053】
水素化システム2における第1貯蔵装置15の回収MCHは、MCH輸送ラインL11を介して貯蔵タンクからなる第2貯蔵装置41に送られて貯蔵される(MCH輸送・貯蔵工程)。ここで、MCH輸送ラインL11は、第1貯蔵装置15と第2貯蔵装置41とを接続する配管(パイプライン等)からなるが、MCH輸送ラインL11は、配管のように必ずしも常設されている形態である必要はない。例えば、第1貯蔵装置15と第2貯蔵装置41との間でMCHを輸送可能な公知の輸送手段(例えば、タンク車等の車両やタンカー等の船舶)をMCH輸送ラインL11に適用することができる。
【0054】
その後、回収MCHは、原料供給ラインL12を介して脱水素反応装置42に送られる。脱水素反応装置42は、触媒存在下における脱水素反応によって回収MCHから主として水素およびトルエンを発生させる(脱水素反応工程)。脱水素反応装置42の反応生成物は、第3生成物回収ラインL13を介して水素分離装置43に送られる。水素分離装置43は、公知の気液分離器からなる。脱水素反応装置42では、反応生成物が図示しない冷却装置によって冷却されることにより、液化したトルエンが水素を含む生成ガスから分離される(水素生成工程)。なお、脱水素反応装置42の後段には、生成ガス中に含まれるトルエンや未反応のMCHの蒸気成分を除去可能な公知の吸着装置等を配置することができ、これにより、生成ガス中の水素の純度を高めることができる。
【0055】
分離されたトルエンは、トルエン回収ラインL14を介して図示しない貯蔵装置に送られて貯蔵される。その後、トルエンは、上述のMCHの輸送手段と同様の手段により、水素化システム2に循環される。一方、水素を含む生成ガスは、水素回収ラインL15を介して図示しない貯蔵装置(高圧タンク等)に送られて貯蔵され、必要に応じて所定の水素使用地に輸送される。
【0056】
脱水素反応装置42は、熱交換型の固定床多管式反応器からなり、脱水素触媒(固体触媒)が充填された複数の反応管がシェル内に収容された公知の構成を有している。脱水素反応装置42の各反応管に供給された回収MCHは、触媒に接触しながら流れる。シェルには、図示しない熱輸送ラインから高温の熱媒体(オイル、空気、蒸気等)が供給され、これにより、反応管との間で熱交換が行われ、回収MCHおよび脱水素触媒が加熱される。脱水素反応装置42では、上述の化学反応式(1)の逆反応に基づく脱水素反応により、水素とトルエンが生成される。
【0057】
脱水素触媒は、アルミナ、シリカアルミナ、及びシリカから選ばれた担体(例えば、表面積150m/g以上、細孔容積0.40cm/g以上、平均細孔径90〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が50%以上である多孔性γ-アルミナ担体)に、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)から選ばれた少なくとも1種の活性金属を担持されたものであるが、これに限らず、水素化芳香族化合物の脱水素反応に用いられる公知の触媒を用いることができる。
【0058】
脱水素反応装置42において、回収MCHに含有される脱水素触媒の被毒物質は、その脱水素により脱水素触媒上に残留しやすく、触媒活性を低下させるコーキング反応等を生じさせ得る。しかしながら、上述の水素貯蔵・輸送システム1では、水素化システム2において回収MCHに含まれる高沸点成分(脱水素触媒の被毒物)の濃度を予め低下させるため、脱水素システム3における脱水素触媒の被毒を抑制することができる。特に、水素貯蔵・輸送システム1では、水素化システム2の第1分離装置12においてMCH(水素化芳香族化合物)の沸点以上の温度で気液分離された気体(すなわち、脱水素触媒の被毒物質を含む高沸点成分の濃度を低下させた生成物)を、第2分離装置13においてMCHの沸点以下の温度で気液分離する構成としたため、高沸点成分(脱水素触媒の被毒物)の濃度を低下させるための処理に必要なエネルギーを抑制することが可能となる。
【0059】
なお、水素貯蔵・輸送システム1において、有機ハイドライドの貯蔵、及びその有機ハイドライドから水素を発生する方法については、有機ケミカルハイドライド法に基づき行われる。
【0060】
有機ケミカルハイドライド法の詳細については、例えば、岡田 佳巳 他, 有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発(Development of dehydrogenation catalyst for organic chemical hydride method), 触媒, 2004, 46(6), p510-512, ISSN 05598958.、岡田 佳巳 他, 有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発と水素エネルギー・チェーン構想(Dehydrogenation catalyst development for organic chemical hydride method and hydrogen energy chain vision), 触媒, 2009, 51(6), p496-498, ISSN 05598958.、岡田 佳巳 他, 水素エネルギーの大量長距離貯蔵輸送技術の確立を目指した有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発, 化学工学, 2010, 74(9), p468-470, ISSN 03759253.、岡田 佳巳 他, 水素貯蔵・輸送における有機ケミカルハイドライド法脱水素触媒の開発 (新春特集 GSCシンポジウム2005), ファインケミカル, 2006, 35(1), p5-13, ISSN 09136150.を参照することにより、明細書の記載内容を省略する。
【0061】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態に係る水素貯蔵・輸送システム1の概略構成を示すブロック図である。図3では、上述の第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してあり、また、脱水素システム3については図示を省略している。また、第2実施形態については、以下で特に言及する事項を除いて、第1実施形態と同様とする。
【0062】
第2実施形態に係る水素貯蔵・輸送システム1では、水素化反応装置11における第1分離装置12の下流側に蒸留装置51が設けられ、また、この蒸留装置51において水素化反応装置11における反応熱を利用する点において、第1実施形態の場合とは異なる。
【0063】
水素化システム2において、第1分離装置12において分離された液体(重質液)は、重質液排出ラインL5を介して蒸留装置51に供給される。蒸留装置51は、例えば棚段数が3〜8段程度、塔効率が50%以上で、理論段数2〜4段程度の蒸留操作を行う公知の構成を有する蒸留塔からなり、塔頂からの留出液(留出物)として高純度のMCHが回収される。ここで、留出液の割合は、蒸留装置51に供給される重質液の80〜99wt%である。蒸留装置51で回収されたMCHは、第1MCH回収ラインL7の合流部52に接続された第2MCH回収ラインL22を介して、第2分離装置13からの回収MCHに混合される。一方、蒸留装置51の残留液(残留物)には、脱水素触媒の被毒物質となり得る不純物が濃縮されており、これらは残留液排出ラインL23を介して排出されることにより、水素化システム2の回収MCHから除去される。ここで、残留液の割合は、蒸留装置51に供給される重質液の約1〜20wt%である。
【0064】
蒸留装置51は、供給される原料(重質液)を加熱する加熱器(図示せず)を備えており、この加熱器には、水素化反応装置11における水素化反応の反応熱により加熱された熱媒体(ここでは、蒸気)の少なくとも一部が冷却装置31から熱媒体供給ラインL20を介して送られる。これにより、蒸留装置51におけるエネルギーコストを低減することができる。なお、蒸留装置51としては、少なくとも高純度のMCH(例えば、脱水素触媒の被毒物質となり得る不純物の濃度が100wt ppm以下)を抽出可能な限りにおいて、任意の公知の装置を用いることができる。場合によっては、蒸留操作を単蒸留としてもよい。また、水素化反応の反応熱は、上述の加熱器に限らず、リボイラーの加熱や、蒸留塔本体の直接的な加熱に用いることもできる。
【0065】
このように、第2実施形態に係る水素化システム2では、第1分離装置12によって分離された液体(すなわち、脱水素触媒の被毒物質を含む高沸点成分が濃縮された生成物)を蒸留することにより、生成物の全量を蒸留する場合に比べて蒸留に必要なエネルギーを抑制することができる。また、第2実施形態に係る水素化システム2では、蒸留装置51の留出液(高純度のMCH)を第2分離装置によって分離された液体(回収MCH)に混合することにより、脱水素触媒の被毒物質と共に除去されるMCHを低減する(すなわち、回収MCHの回収率を向上させる)ことが可能となる。
【0066】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。なお、上述の実施形態に示した本発明に係る芳香族化合物の水素化システム及びこれを備えた水素貯蔵・輸送システム並びに芳香族化合物の水素化方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。また、上述の実施形態に示した複数の装置の機能を有する複合的な装置を用いることもできる。
【符号の説明】
【0067】
1 水素貯蔵・輸送システム
2 水素化システム
3 脱水素システム
11 水素化反応装置
12 第1分離装置
13 第2分離装置
14 輸送装置
15 第1貯蔵装置
19 第1冷却器
41 第2貯蔵装置
42 脱水素反応装置
43 水素分離装置
51 蒸留装置
図1
図2
図3
図4