特許第6244259号(P6244259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社 国都化▲学▼の特許一覧

<>
  • 特許6244259-高純度ビスフェノールFの製造方法 図000005
  • 特許6244259-高純度ビスフェノールFの製造方法 図000006
  • 特許6244259-高純度ビスフェノールFの製造方法 図000007
  • 特許6244259-高純度ビスフェノールFの製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244259
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】高純度ビスフェノールFの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/74 20060101AFI20171127BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 37/20 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 1/22 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C07C37/74CSP
   C07C39/16
   C07C37/20
   B01D1/22 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-95858(P2014-95858)
(22)【出願日】2014年5月7日
(65)【公開番号】特開2015-212245(P2015-212245A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501479710
【氏名又は名称】株式会社 国都化▲学▼
【氏名又は名称原語表記】KOKDO CHEMICAL CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100089406
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100096563
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 榮四郎
(72)【発明者】
【氏名】宅和 成剛
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】野口 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】申 泰圭
(72)【発明者】
【氏名】李 鎭洙
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−128183(JP,A)
【文献】 特開2011−068760(JP,A)
【文献】 特開2011−184658(JP,A)
【文献】 特開平03−238001(JP,A)
【文献】 特開2000−300901(JP,A)
【文献】 特開平05−294877(JP,A)
【文献】 特開2014−018708(JP,A)
【文献】 特表2007−507329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/74
B01D 1/22
C07C 37/20
C07C 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用することを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法。
【請求項2】
蒸留工程において、圧力1〜10mmHg、熱媒温度250〜320℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1mあたり30〜200kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら高純度ビスフェノールFを得る請求項1に記載の高純度ビスフェノールFの製造方法。
【請求項3】
蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器である請求項1または2に記載の製造方法に用いられる、高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸留によって高純度ビスフェノールFを得る効率的な高純度ビスフェノールFの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、汎用ビスフェノールFは2核体を85〜93重量%、好ましくは90〜93重量%程度を含有するビスフェノールFであり、低粘度エポキシ樹脂の原料として有用に用いられている。汎用ビスフェノールFは、フェノールとホルムアルデヒドとの反応モル比(P/F)を25〜50とすることにより、エポキシ樹脂の原料として有用なビスフェノールFが得られる。それに対し、高純度ビスフェノールFは、汎用ビスフェノールFよりもさらに2核体を多く含むビスフェノールFであり、塗料用エポキシ樹脂の原料として有用に用いられる。例えば、2核体を95重量%以上含有するビスフェノールFから得られたエポキシ樹脂を構成成分とする塗料は、2核体を92重量%含有するビスフェノールFから得られたエポキシ樹脂を構成成分とする塗料よりも、塗膜の耐食性、耐薬品性等の点で優れる。また、2官能エポキシ樹脂と2価フェノール化合物から高分子量2官能エポキシ樹脂を製造する方法では、2価フェノール化合物の2核体純度が95重量%以上あることが必須でそれ以下の純度では高分子量体を製造時に不溶化(ゲル化)が起こり目的とするエポキシ樹脂が得られない。フェノールとホルムアルデヒドとの反応によって2核体の含量が98重量%以上である高純度ビスフェノールFを得ることは、たとえ反応モル比P/Fを100以上にしたとしても達成できず、工業的には不可能である。そこで、高純度ビスフェノールFを製造する方法として、2段以上の多段蒸留によって高純度ビスフェノールFを得る方法や2核体を主とする混合物を再結晶を行い高純度ビスフェノールFを得る方法である。また、蒸発器内部で多段蒸留構造を蒸発装置も提案されている(特許文献1)。そして、蒸留によって高純度ビスフェノールFを得る高純度ビスフェノールFの製造方法での蒸留装置として特に規定した例はない(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−238001号公報
【特許文献2】特開平6−128183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安定した性状の高純度ビスフェノールFを単蒸留において高収率で得ることができる製造方法および高純度ビスフェノールF製造用の縦型回転式薄膜蒸発器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高純度ビスフェノールFを、粗ビスフェノールFや粗フェノールノボラック樹脂から2核体成分として蒸留で回収することで高収率で得るために、最も効率的な蒸留装置を規定するとともに、その蒸留条件を見出し、環境負荷が少なく、コスト的にも有利な高純度ビスフェノールFの製造方法を見出し、本発明に完成した。
【0006】
即ち、本発明は、
酸触媒の存在下、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して得られる粗ビスフェノールF及び/または粗フェノールノボラック樹脂を、蒸留工程によって分離して蒸留成分として高純度ビスフェノールFを得る、高純度ビスフェノールFの製造方法において、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器を使用することを特徴とする高純度ビスフェノールFの製造方法であり、
【0007】
上記蒸留工程において、圧力1〜10mmHg、熱媒温度250〜320℃に保たれた蒸発器に、該粗ビスフェノールFまたは該粗フェノールノボラック樹脂を該蒸発器の伝熱面積1mあたり30〜200kg/hrの供給量となるように連続的に供給し、蒸発成分と缶出物を該蒸発器から連続的に取り出しながら高純度ビスフェノールFを得ることが好ましく、
【0008】
また、上記製造方法で得られる、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)測定による2核体含有量が95面積%以上である高純度ビスフェノールFである。
【0009】
そして、上記製造方法に用いられる縦型回転式薄膜蒸発器は、蒸留工程で用いる蒸発器が外面に加熱手段、上部に液供給口と蒸気抜出口、下部に残渣排出口を有している、主体部が円筒状の蒸発器本体と、その内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法は、高純度ビスフェノールFを高収率で得るとともに、総合的に、環境負荷が少なく、コスト的にも有利な高純度ビスフェノールFの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る薄膜蒸発器の1例の縦断面概念図。
図2】本発明に係る薄膜蒸発器の他の1例の縦断面概念図。
図3図1の翼付き内部回転体に取り付けられているワイパーの例の概念図。
図4図2の翼付き内部回転体に取り付けられているワイパーの例の概念図。
【符号の説明】
【0012】
1:加熱用ジャケット、2:主体部、3:内部回転体、4:モーター、5:回転軸、6:撹拌翼、7:液供給口、8:蒸発成分抜出口、9:缶底部、10:残渣排出口、11:ワイパー、12:ワイパー取り付け部、13:バネ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本願発明の高純度ビスフェノールFは、一般式(1)である2核体が95質量%以上のものであり、98重量%以上が好ましく、99重量%以上がより好ましい。また、蒸留に供給される粗ビスフェノールFや汎用ビスフェノールFは、一般式(1)を主成分とし、不純物として一般式(2)を7〜15質量%含有しているものがほとんどで、原料フェノール、反応触媒、または反応副生物はほとんど無視できるレベルまで低減されている。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
従って、蒸留による高純度化ビスフェノールFを得ることは、汎用ビスフェノールFから一般式(2)の三核体成分の分離にする行為に他ならない。一般式(1)と一般式(2)の蒸気圧は大きく差があり、共沸しないので、いわゆる単蒸留でも充分分離が可能である。しかしながら従来の蒸留器で必要以上に分離能を持たせている。また、低温での蒸留を求めていて必要以上の低真空条件を必要にしている。
【0017】
また、縦型回転式薄膜蒸発器にも、コンデンサーを内部に持つものや外部に設置するもの、撹拌翼にワイパーの有るものや無いもの、内部回転部の空隙率が多いものや、撹拌翼が斜めに取り付けてあるもの等、様々なタイプがある。
【0018】
本願発明で、単蒸留で必要十分な分離により高純度ビスフェノールFが得られる縦型回転式薄膜蒸発器は、コンデンサーを外部に設置するタイプであり、撹拌翼にワイパーが付いているタイプであり、内部回転体の空隙率が高いものである。
【0019】
本願発明で、外部コンデンサーは必須条件である。内部コンデンサータイプでは、ミストセパレータがついていても、蒸留工程に供給される汎用ビスフェノールF、粗ビスフェノールF、または粗フェノールノボラック樹脂(以下、供給液とする)が、蒸留成分中に飛沫同伴する量が多く、結果的に蒸留成分が高純度ビスフェノールFにならない。蒸留条件を工夫して飛沫同伴する量を減らすこともできるが、その場合は蒸発器への供給液の供給速度を極端に減らすことになり、生産性が悪化し総合的なコストアップの要因になる。
また、外部コンデンサータイプで、分縮比を設定し、より精度よく蒸留するタイプもあるが、ビスフェノールFの蒸留ではその必要がなく、一般に過剰品質であり、コストアップの要因になっている。
【0020】
また内部回転体にはワイパーが必須であり、溝付きワイパーが好ましい。ワイパーの取り付け方式は任意であるが、円筒の内壁面にワイパーを密着させる必要があるので、固定式のワイパーより、バネ付の可動タイプや遠心力による可動タイプがより好ましい。固定式のワイパーの場合は円筒の内壁面とワイパーの間隔は1mm以下にする必要があるが、円筒の内壁面にワイパーが接地するとワイパーが削れるため好ましくない。また溝付きワイパーは供給液が素早く薄膜化し加熱部分で均一化するため好ましい。
また、ワイパーの材質としては、薄膜蒸発器の内壁面を傷つけないような材質のものが好ましく、カーボンに樹脂や金属を真空加圧含浸させ機械的強度を向上させた高温下においても使用可能なハイブリットカーボンや腐食に強いフッ素樹脂等がより好ましく、長期形状安定性に優れ高温下においても使用可能なハイブリットカーボンがさらに好ましい。
【0021】
また、内部回転体は回転軸に回転翼を付けたタイプでも、円筒形の骨組タイプでもよいが、内部回転体を円筒と見做したきの空隙率が70容量%以上が好ましく、85容量%以上がより好ましい。内部回転体の空隙率は大きいほど、蒸留成分を流出が容易になるので好ましいが、反面、内部回転体の強度低下が起こりやすく、両者のバランスから空隙率は85容量%程度が好ましい。
また、内部回転体の上部は蒸発成分が蒸発成分抜出口への通り道になるため、その流出が容易になるように、必要十分な強度を保ちながら、通路用の穴を有したり、格子状になっていることが好ましい。
図1及び3は、回転軸(5)に撹拌翼(6)が4枚付いている回転体(3)の例であり、その撹拌翼の端の全部または一部にワイパー(11)が取り付けられ、加熱用ジャケット(1)の内壁にバネによってよりワイパーを密着させる構造の1例である。撹拌翼の枚数は4枚である必要はなく、大きさにもよるが3〜12枚のいずれでも良い。また、ワイパーの設置も撹拌翼の端全面である必要はない。図2及び4は、上下の円盤を4つの柱で繋いだ円筒形の回転体の例であり、柱の枚数は4本である必要はなく、大きさにもよるが3〜24本のいずれでも良い。柱は上下を繋ぐためだけではなくワイパーを設置するためでもある。この例では、溝付きの柱の内部にワイパーを設置し、遠心力によって加熱用ジャケットの内壁にワイパーを密着させる構造の1例である。密着力が不足する場合等はバネを使用して強制的に密着させることも可能である。また、上部は蒸発成分の通路のために、下部は供給液の溜まりをなくすために、図4のように穴をあける必要がある。なお、強度があれば、穴付き円盤でも、格子状に加工したものでも良い。
【0022】
図1〜2に本発明に係る縦型回転式薄膜蒸発器の1例の縦断面概略図を示すが、本発明はその要旨を越えない限り、この例に限定されるものではない。本装置は外面に加熱用ジャケット(1)を有する円筒形の主体部(2)を持つ薄膜蒸発器であり、内部回転体(3)と、それを回転させるモーター(4)を有している。内部回転体は回転軸(5)に撹拌翼(6)が取り付けられているタイプでもよい。内部回転体に取り付けられたワイパー(11)は、主体部の壁面に接して回転する。薄膜蒸発器上部の液供給口(7)より供給された被処理液は、回転するワイパーによって主体部の内壁に沿って、膜状に押し広げられつつ、重力により流下する。この流下する過程で、加熱用ジャケットからの熱によって供給液中の上記一般式(1)成分が蒸発する。蒸発した一般式(1)成分は薄膜蒸発器の上部にある蒸発成分抜出口(8)より系外へ導かれ、蒸発成分の大部分が除去されて流動性が悪くなった蒸発残渣は缶底部(9)に導かれ、薄膜蒸発器の下部にある残渣排出口(10)より抜き出される。一般式(1)成分は流下する過程で蒸発するため、内部回転体の空隙率が重要であり、蒸発を妨げない構造にすることが重要である。
【0023】
また、外部コンデンサーの設置個所は、蒸気出口より少し離れた場所が好ましい。蒸気出口に近いと内部コンデンサーを同様に供給液の飛沫同伴の影響が受け易く好ましくない。設計上、外部コンデンサーを蒸気出口の近くにする場合は両者の間にミストセパレータを必ず設置する必要がある。飛沫同伴を防ぐため、外部コンデンサーの設置場所は蒸発器の長さの2倍程度が好ましく、外部コンデンサーに接続する配管径は蒸発器の内径の1/2〜3/5が好ましい。
【0024】
本願発明の、高純度ビスフェノールFを得る蒸留条件は、圧力1〜10mmHg、熱媒温度250〜320℃に保たれた蒸発器に、供給液を蒸発器の伝熱面積1mあたり30〜200kg/hrの供給量となるように連続的に供給することが好ましい。
蒸留条件の圧力は、3〜8mmHgがより好ましく、4〜7mmHgがさらに好ましく、5〜6mmHgが最も好ましい。圧力が低い場合、熱媒温度が高いと、蒸発量が多くなり、それに伴う供給液の飛沫同伴が多くなり好ましくない。蒸発量に合わせ熱媒温度下げると、熱媒温度が高く圧力が高い場合に比較して、目的物である上記一般式(1)の蒸発量が減り好ましくない。
熱媒温度は、260〜300℃がより好ましく、270〜290℃がさらに好ましい。低温の場合、特に250℃未満では、圧力を大幅に低下させないと蒸発量が維持できないし、その場合は飛沫同伴を量も増えるため、結果的に高純度ビスフェノールFが得られない恐れがある。また、高温になると、供給液の分解や着色が起こり、目的物である高純度ビスフェノールFの物性が悪化する恐れがある。
蒸発器への供給液量は、蒸発器の伝熱面積1mあたり30〜150kg/hrがより好ましく、50〜120kg/hrがさらに好ましく、70〜100kg/hrが最も好ましい。供給量が多いと目的物である上記一般式(1)と供給液の分離が不十分となり高純度ビスフェノールFにならない恐れがある。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。実施例において、特に断りがない限り「部」は質量部を表し、「%」は質量%を表す。なお、実施例及び比較例における2核体純度の測定は、下記の方法により実施した。
【0026】
2核体純度:GPC測定した面積%で求めた。GPCの測定条件は下記の通りである。
カラム:G4000HXL+G2500HXL+G2000HXL×2本(東ソー株式会社製)
カラム温度:40度
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min
試料濃度:0.1g/10mLテトラヒドロフラン
検出器:RI検出
【0027】
実施例1
本願発明に係る薄膜蒸発器(加熱伝面0.21m,外部コンデンサー伝面1.3m、バネ止めフッ素樹脂製ワイパー付)を用いて、加熱ジャケットには280℃の熱媒を流し、外部コンデンサーには120℃の加温水を流し、ロータ回転数を250rpmとし、真空度を5〜6mmHgで運転している状態の薄膜蒸発器に21kg/hrで連続的に1時間供給し、蒸発成分および缶出成分を連続的に抜き出し、それぞれ、ビスフェノールFおよびフェノールノボラック樹脂を得た。
【0028】
実施例2
本願発明に係る薄膜蒸発器(加熱伝面0.21m,外部コンデンサー伝面1.3m、バネ止めフッ素樹脂製ワイパー付)を用いて、加熱ジャケットには260℃の熱媒を流し、外部コンデンサーには120℃の加温水を流し、ロータ回転数を250rpmとし、真空度を3〜4mmHgで運転している状態の薄膜蒸発器に8kg/hrで連続的に1時間供給し、蒸発成分および缶出成分を連続的に抜き出し、それぞれ、ビスフェノールFおよびフェノールノボラック樹脂を得た。
【0029】
実施例3
本願発明に係る薄膜蒸発器(加熱伝面0.21m,外部コンデンサー伝面1.3m、バネ止めフッ素樹脂製ワイパー付)を用いて、加熱ジャケットには300℃の熱媒を流し、外部コンデンサーには120℃の加温水を流し、ロータ回転数を250rpmとし、真空度を6〜7mmHgで運転している状態の薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に1時間供給し、蒸発成分および缶出成分を連続的に抜き出し、それぞれ、ビスフェノールFおよびフェノールノボラック樹脂を得た。
【0030】
比較例1
本願発明と異なる薄膜蒸発器(加熱伝面0.40m,内部コンデンサー伝面1.3m、バネ止めフッ素樹脂製ワイパー付)を用いて、加熱ジャケットには280℃の熱媒を流し、外部コンデンサーには120℃の加温水を流し、ロータ回転数を250rpmとし、真空度を5〜6mmHgで運転している状態の薄膜蒸発器に40kg/hrで連続的に1時間供給し、蒸発成分および缶出成分を連続的に抜き出し、それぞれ、ビスフェノールFおよびフェノールノボラック樹脂を得た。
【0031】
比較例2
本願発明と異なる薄膜蒸発器(加熱伝面0.30m,外部コンデンサー伝面1.3m、ワイパー無、主体部と内部回転体のクリアランス1.5mm)を用いて、加熱ジャケットには280℃の熱媒を流し、外部コンデンサーには120℃の加温水を流し、ロータ回転数を1470rpmとし、真空度を5〜6mmHgで運転している状態の薄膜蒸発器に30kg/hrで連続的に1時間供給し、蒸発成分および缶出成分を連続的に抜き出し、それぞれ、ビスフェノールFおよびフェノールノボラック樹脂を得た。
【0032】
実施例1〜3と比較例1、2で得られたビスフェノールFの2核体純度を表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
本願特許に係る薄膜蒸発器、即ち内部に設置されている蒸発器本体の内壁面に沿って周方向に移動する翼付き内部回転体を有する縦型回転式薄膜蒸発器であって、翼付き内部回転体は本体器胴の内周面の加熱蒸発面に直接接触する溝付きワイパー状の部品を有し、かつ該溝付きワイパー状の部品を支持する部分以外に蒸気通路用の空間を有し、コンデンサーが薄膜蒸発器の外部に設置されている縦型回転式薄膜蒸発器であれば、蒸留条件を変えても単蒸留で高純度ビスフェノールFが得られる。それに引き替え、本願発明と異なる薄膜蒸発器を使用した比較例では2核体純度が低く高純度ビスフェノールFが得られていない。
図1
図2
図3
図4