特許第6244494号(P6244494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6244494
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】野菜エキス組成物、調味料及び食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20171127BHJP
【FI】
   A23L27/10 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-147607(P2017-147607)
(22)【出願日】2017年7月31日
【審査請求日】2017年7月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 美帆
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 也寸志
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−023018(JP,A)
【文献】 特開2007−166902(JP,A)
【文献】 特開平10−191924(JP,A)
【文献】 特開2006−298871(JP,A)
【文献】 Eatsmart, "【カロリー】「コープ 野菜ブイヨン 箱80g」の栄養バランス(2012/2/24調べ)", [online], 平成24年2月24日, [平成29年8月31日検索], インターネット:<URL: https://www.eatsmart.jp/do/caloriecheck/detail/param/foodCode/1025480003405>
【文献】 日本生活協同組合連合会, "野菜ブイヨン80g(8g×10袋)<調味料>ブイヨン・コンソメ<コープ商品情報検索", [online], 平成29年7月, [平成29年8月31日検索], インターネット:<URL: http://mdinfo.jccu.coop/bb/shohindetail/4902220344352/?_ga=2.108903556.781308690.1504147210-458549736.1504147209>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40;27/60
A23L 5/00− 5/30;29/00−29/10
A23L 23/00−25/10;35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥固形分中に、
白菜成分を22〜77質量%、
タマネギ成分を8〜60質量%、
キャベツ成分を2〜35質量%
含有する野菜エキス組成物。
【請求項2】
各成分の配合比が、全窒素比で、白菜成分:タマネギ成分:キャベツ成分=25〜79:7〜58:2〜33である請求項1に記載の野菜エキス組成物。
【請求項3】
更に、乾燥固形分全質量あたり、ニンジン成分を2〜32質量%、及び/又は、ジャガイモ成分を4〜41質量%含有する請求項1又は2に記載の野菜エキス組成物。
【請求項4】
ニンジン成分及びジャガイモ成分の両方を含有し、
各成分の配合比が、全窒素比で、白菜成分:タマネギ成分:キャベツ成分:ニンジン成分:ジャガイモ成分=25〜79:7〜58:2〜33:1〜19:2〜22である請求項3に記載の野菜エキス組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の野菜エキス組成物を含有する調味料。
【請求項6】
前記野菜エキス組成物を0.03〜34質量%含有する請求項に記載の調味料。
【請求項7】
請求項又はに記載の調味料を用いて製造された食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の野菜成分を含む野菜エキス組成物、この組成物を用いた調味料及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、惣菜類調理用の合わせ調味料には、砂糖、塩、醤油及び味噌などの味付け用調味料の他に、風味や旨味を向上させるために、畜肉系エキス、魚介系エキス、野菜系エキスなどのエキス類が添加されている(特許文献1〜4参照)。一般に、畜肉系エキスや魚介系エキスは、風味や旨味が強く、濃厚感やコクを付与する効果が高いが、野菜エキスはこれらの効果が動物系エキスよりも低いため、加工食品において単独で用いられることは少なく、畜肉系エキスや魚介系エキスと組み合わせて用いられることが多い。
【0003】
一方、食物アレルギー患者、菜食主義者及び自然派志向者などように、動物性食品の摂取を避けたり、制限したりする必要がある人向けの調味料では、畜肉系エキス及び魚介系エキスの使用が制限される。このような理由から、近年、肉や魚などの動物性原料を用いない調味料への要求が高まっている。
【0004】
畜肉系エキス及び魚介系エキスに代わるエキス類としては、野菜エキスが挙げられる。従来、調味料に配合される野菜エキスには、ニンニク、ショウガ、ネギ及びセロリなどの香味野菜や、白菜、キャベツ及びほうれん草などの葉物野菜、ニンジンなどの根野菜、マッシュルームや椎茸などのキノコ類などの各種野菜が、目的や用途に応じて適宜組み合わせされて使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−191924号公報
【特許文献2】特開2007−259744号公報
【特許文献3】特開2008−5746号公報
【特許文献4】特開2017−23018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、野菜エキスは、動物系エキスに比べて旨味などの呈味性が弱く、また、多量に使用すると野菜特有の青臭さや苦み・えぐみなどの好ましくない味が生じることがあるという問題点がある。更に、ネギやショウガなどの香味野菜を原料とするエキスは、特有の香味を有するため、料理全体の香味のバランスが崩れたり、素材の香りや風味がマスキングされたりすることがある。
【0007】
野菜由来の香味を抑える方法としては、香りが少ない野菜のみを原料とするエキスを用いることが考えられるが、その場合、調味料や食品に配合した際の風味や旨味の向上効果も低下する。また、特許文献1に記載の調味料では、野菜由来の好ましくない臭いの発生を防ぐために、アルコール類、食品添加物の酸味料、アルカリ性物質や醸造酢又は梅酢エキスなどを用いて加熱前にpHを3.0〜7.0に調整しているが、この方法では、野菜エキス以外の調味料の風味が強くなるため、適用可能な料理が限定されると共に、製造時の作業工程を増やすことになる。
【0008】
そこで、本発明は、野菜由来の過剰な香味を低減し、単独で使用しても旨味を向上させることができ、汎用性のある野菜エキス組成物、調味料及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、野菜エキス組成物を構成する野菜を特定の組み合わせとし、その配合比を特定の範囲にすることで、野菜臭さを抑えつつ、旨味に由来する濃厚感やコクを相乗的に向上できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明に係る野菜エキス組成物は、乾燥固形分中に、白菜成分を22〜77質量%、タマネギ成分を8〜60質量%、キャベツ成分を2〜35質量%含有する。
本発明の野菜エキス組成物は、各成分の配合比を、全窒素比で、白菜成分:タマネギ成分:キャベツ成分=25〜79:7〜58:2〜33とすることができる。
本発明の野菜エキス組成物は、更に、乾燥固形分全質量あたり、ニンジン成分を2〜32質量%、及び/又は、ジャガイモ成分を4〜41質量%含有していてもよい。
ニンジン成分及びジャガイモ成分の両方を含有する場合、各成分の配合比を、全窒素比で、白菜成分:タマネギ成分:キャベツ成分:ニンジン成分:ジャガイモ成分=25〜79:7〜58:2〜33:1〜19:2〜22とすることができる
【0010】
本発明に係る調味料は、前述した野菜エキス組成物を含有するものである。
前記野菜エキス組成物の含有量は、例えば0.03〜34質量%とすることができる。
【0011】
本発明に係る食品は、前述した調味料を用いて製造されたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、素材の味を生かしつつ料理の風味を向上し、様々なジャンルの惣菜に適用することができる調味料が得られ、動物系エキスや化学調味料などを用いず、単独で使用しても青臭さなどの野菜由来の過剰な香味を抑えながら、旨味に由来する濃厚感やコクを適度に有する食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず本発明の第1の実施形態に係る野菜エキス組成物について説明する。本実施形態の野菜エキス組成物は、白菜成分と、タマネギ成分と、キャベツ成分とを少なくとも含有し、更に、必要に応じて、ニンジン成分やジャガイモ成分が配合されている。
【0015】
[白菜成分:乾燥固形分中に22〜77質量%]
白菜は、本実施形態の野菜エキス組成物の必須の成分であり、グルタミン酸やアスパラギン酸などの様々なアミノ酸を含んでおり、甘味と濃厚感を付与する効果がある。また、白菜には、野菜臭さを出さずに、料理や食品に煮込み感を付与する効果もある。
【0016】
ただし、野菜エキス組成物中の白菜に由来する成分(白菜成分)の量が、乾燥固形分全質量あたり、22質量%未満の場合、前述した効果が得られず、全体として濃厚感を感じられない香味となる。また、白菜成分の量が、乾燥固形分全質量あたり、77質量%を超えると、相対的に他の成分の配合量が減るため、成分間の相乗効果が得られず、濃厚感やコクが感じられないものとなる。よって、白菜成分は、乾燥固形分中の含有量が22〜77質量%になるように配合する。なお、濃厚感やコクの向上、野菜由来の香味の適正化の観点から、乾燥固形分中の白菜成分量は、36〜68質量%とすることが好ましい。
【0017】
[タマネギ成分:乾燥固形分中に8〜60質量%]
タマネギは、本実施形態の野菜エキス組成物の必須の成分であり、辛みや香りの元である硫化アリルを含んでおり、他の野菜成分から生じる香味が過剰にならないよう抑制する効果がある。また、タマネギには、料理の風味をまろやかにし、甘味とコクを付与する効果もある。
【0018】
ただし、野菜エキス組成物中のタマネギに由来する成分(タマネギ成分)の量が、乾燥固形分全質量あたり、8質量%未満の場合、前述した効果が得られず、濃厚感やコクが不十分になったりする。また、タマネギ成分の量が、乾燥固形分全質量あたり、60質量%を超えると、タマネギエキスに起因する香味が際立ち、料理全体の香味のバランスが崩れたり、素材の香りや風味がマスキングされたりすることがある。更に、タマネギ成分の量が多くなると、相対的に他の成分の配合量が減るため、成分間の相乗効果が得られず、濃厚感やコクが感じられないものとなる。よって、タマネギ成分は、乾燥固形分中の含有量が8〜60質量%になるように配合する。
【0019】
なお、乾燥固形分中のタマネギ成分量は、29〜40質量%とすることが好ましい。これにより、前述したタマネギ成分の効果を高め、濃厚感やコクを向上し、野菜由来の過剰な香味のない野菜エキス組成物が得られる。
【0020】
[キャベツ成分:乾燥固形分中に2〜35質量%]
キャベツは、本実施形態の野菜エキス組成物の必須の成分であり、ビタミン類を多く含むと共に、特有の風味により濃厚感とコクを向上させる効果がある。ただし、野菜エキス組成物中のキャベツに由来する成分(キャベツ成分)の量が、乾燥固形分全質量あたり、2質量%未満の場合、前述した効果が得られず、濃厚感やコクが感じられないものとなり、また、35質量%を超えると、キャベツに由来する香味が強くなり、濃厚感が低下する。よって、キャベツ成分は、乾燥固形分中の含有量が2〜35質量%になるように配合する。
【0021】
なお、乾燥固形分中のキャベツ成分量は、5〜27質量%とすることが好ましい。これにより、前述したキャベツ成分の効果を高め、濃厚感やコクを向上し、野菜由来の過剰な香味のない野菜エキス組成物が得られる。
【0022】
[ニンジン成分:乾燥固形分中に2〜32質量%]
ニンジンは、特有の甘みがあり、濃厚感を付与する効果があるため、必要に応じて用いられる。ただし、野菜エキス組成物中のニンジンに由来する成分(ニンジン成分)の量が、乾燥固形分全質量あたり、2質量%未満の場合、十分な添加効果が得られず、また、36質量%を超えると、野菜由来の過剰な香味が目立ち、相対的に他の成分の配合量が減ることになるため、却って濃厚感やコクを低下させることになる。よって、ニンジン成分を配合する場合は、乾燥固形分中の成分量が2〜32質量%になるようにする。
【0023】
[ジャガイモ成分:乾燥固形分中に4〜41質量%]
ジャガイモは、澱粉が主成分であるが、ビタミンやミネラルも多く含んでおり、甘みが強く、コクを与える効果がある。そこで、本実施形態の野菜エキス組成物では、必要に応じてジャガイモを用いる。ただし、野菜エキス組成物中のジャガイモに由来する成分(ジャガイモ成分)の量が、乾燥固形分全質量あたり、4質量%未満の場合、十分な添加効果が得られない。また、ジャガイモ成分を、乾燥固形分全質量あたり、41質量%を超えて添加すると、食した際にざらつき感が目立って食感が悪くなったり、野菜由来の過剰な香味が感じられるようになったりする。よって、ジャガイモ成分を配合する場合は、乾燥固形分中の成分量が4〜41質量%になるようにする。
【0024】
[各成分の配合比]
前述した各野菜成分の配合比は、全窒素比で、白菜成分:タマネギ成分:キャベツ成分=25〜79:7〜58:2〜33であることが好ましい。これにより、野菜由来の過剰な香味が抑えられると共に、濃厚感やコクが強くなり、料理において汎用性のある野菜エキス組成物とすることができる。また、ニンジン成分とジャガイモ成分を配合する場合は、濃厚感やコクの更なる向上の観点から、全窒素比で、白菜成分:タマネギ成分:キャベツ成分:ニンジン成分:ジャガイモ成分=25〜79:7〜58:2〜33:1〜19:2〜22とすることが好ましい。
【0025】
[その他の成分]
本実施形態の野菜エキス組成物は、液体状、ペースト状、粉末状などの各種形態をとることができ、液体状又はペースト状の場合、前述した各成分に加えて、水分調整用の水が添加されていてもよい。また、本実施形態の野菜エキス組成物には、前述した各エキス成分に加えて、保存安定性向上のために、食塩や砂糖などが添加されていてもよい。更に、本実施形態の野菜エキス組成物は、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、他の野菜エキスが添加されていてもよい。
【0026】
なお、当然ながら、本実施形態の野菜エキス組成物は、その他の成分を含まず、「白菜成分、タマネギ成分及びキャベツ成分のみ」、又は、「白菜成分、タマネギ成分及びキャベツ成分に加えて、ニンジン成分及びジャガイモ成分のうち少なくとも1種の成分のみ」で構成されていてもよい。
【0027】
[製造方法]
次に、本実施形態の野菜エキス組成物の製造方法について説明する。本実施形態の野菜エキス組成物は、原料となる白菜、タマネギ、キャベツ、必要に応じて、ニンジン及びジャガイモの各野菜のエキス(以下、野菜エキスという。)をそれぞれ個別に準備し、乾燥固形分中の成分量が前述した範囲になるよう各野菜エキスを混合することで製造することができる。また、白菜、タマネギ、キャベツなどの各原料野菜から抽出したエキスよりも野菜成分の濃度が薄い液(抽出液)を、所定割合で混合した後、濃縮して野菜エキス組成物としてもよい。更に、液状又はペースト状の野菜エキス組成物を、乾燥して粉末状にしてもよい。
【0028】
なお、本実施形態の野菜エキス組成物で用いる「野菜エキス」や「野菜成分の抽出液」の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の手法を適用することができる。野菜からエキスを抽出する方法としては、例えば、特許文献4の段落0016に記載されているように、原料である野菜を粉砕後、必要に応じて加熱し、水や有機溶媒で抽出して固液分離する方法、及び、原料である野菜の煮汁を酸や酵素で分解した後濃縮する方法などがあり、本実施形態の野菜エキス組成物は、何れの方法で製造されたものも用いることができる。
【0029】
「野菜エキス」や「野菜成分の抽出液」を製造する際は、遠心分離機、ろ過装置や電気透析機などを用いた精製工程を行ってもよく、また、加熱による濃縮、減圧濃縮、低温濃縮、真空濃縮、凍結濃縮及び逆浸透濃縮などの濃縮工程を行ってもよい。なお、「野菜エキス」や「野菜成分の抽出液」の製造に用いる原料野菜の部位や形態も、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
【0030】
以上詳述したように、本実施形態の野菜エキス組成物は、白菜成分、タマネギ成分及びキャベツ成分を主成分とし、特定の割合で含有しているため、野菜以外原料からなるエキス類や化学調味料などを併用しなくても、食品の風味や旨味を向上させつつ、調理に用いる素材の味を生かすことができる。また、本実施形態の野菜エキス組成物は、全体のバランスがよく、様々なジャンルの料理に適用できるため、汎用性に優れており、更に、動物性原料を用いていないため、食物アレルギー患者、菜食主義者及び自然派志向者など向けの調味料や食品に好適である。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、本実施形態の第2の実施形態に係る調味料について説明する。前述した野菜エキス組成物は、単独で使用してもよいが、他の成分を配合して調味料とすることもできる。具体的には、第1の実施形態の野菜エキス組成物は、液体調味料、ペースト状調味料、固体調味料、粉体調味料などの各種調味料に用いることができ、特に、惣菜料理を簡単に調理するための液体状の合わせ調味料に好適に用いられる。
【0032】
[野菜エキス組成物含有量:0.03〜34質量%]
本実施形態の調味料における野菜エキス組成物の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、惣菜用の液体調味料の場合は、野菜エキス組成物を全体の0.03〜34質量%の範囲で配合することが好ましい。野菜エキス組成物含有量をこの範囲にすることで、風味、コク及び濃厚感の向上効果が高い調味料が得られる。
【0033】
食品へのコク付与効果向上の観点から、調味料における野菜エキス組成物の配合量は、0.1〜19質量%であることが好ましく、より好ましくは0.4〜5質量%である。これにより、惣菜などの食品に用いたときに、旨味の持続性に優れた調味液を得ることができる。
【0034】
[その他の成分]
本実施形態の調味料に配合される野菜エキス組成物以外の成分としては、例えば、醤油、塩、砂糖、味噌、酢、みりん及び酒などの味付け用調味料、畜肉系エキス、魚介系エキス及び酵母エキスなどの野菜以外のエキス類、各種オイル、香辛料、増粘剤などが挙げられる。更に、本実施形態の調味料には、肉類、魚介類、野菜類、乾物、穀類、キノコ類、ナッツ類などの具材が配合されていてもよい。
【0035】
[用途]
本実施形態の調味料は、洋風、和風、中華風の各種惣菜の他、スープ類や、加工食品など、各種食品に用いることができるが、特に、和風惣菜に好適である。
【0036】
本実施形態の調味料は、白菜成分、タマネギ成分及びキャベツ成分を主成分とする野菜エキス組成物を用いているため、風味の向上効果が高く、化学調味料などを併用せず、単独で使用しても、食品にコクを付与することができる。また、本実施形態の調味料は、野菜由来の過剰な香味がなく、素材の味をじゃましないため、汎用性が高く、様々な分野の食品に適用することができる。更に、本実施形態の調味料は、野菜エキス組成物以外の成分についても、植物性などの動物由来でない原料のみを用いたものに限定することで、動物性原料不使用の調味料を実現することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0038】
(第1実施例)
先ず、本発明の第1実施例として、所定の割合で、白菜エキス、タマネギエキス及びキャベツエキスを配合し、得られた実施例及び比較例の各野菜エキス組成物を、官能試験により評価した。なお、下記表1に示すNo.A1〜A12の組成物は本発明の範囲内で作製した実施例であり、No.A13〜A23の組成物は本発明の範囲から外れる比較例である。
【0039】
[評価方法]
実施例及び比較例の各野菜エキス組成物を水で10倍に希釈したサンプルについて、4名の分析型官能評価専門パネル(訓練期間:9〜24年)により、「i.濃厚感」、「ii.コク」、「iii.野菜由来の過剰な香味」、「iv.ざらつき」の4項目を評価した。官能試験は、(1)サンプルの提示、(2)官能評価項目のすり合わせ、(3)試し評価・キャリブレーション、(4)本評価の順に行った。
【0040】
(1)サンプルの提示
官能評価におけるパネルのバイアス(偏り)を排除し、評価の精度を高めるために、サンプル提供を次の通りに設定した。常温(25℃)にしたサンプル40mlを、発泡スチロール製サーモカップ(容量180ml)に注ぎ、シャーレで蓋をした後、各パネルに提示した。その際、サンプルの試験区番号や野菜成分の比率はパネルに知らせず、各試験区のサンプルをランダムに提示した。
【0041】
(2)官能評価項目のすり合わせ
評価を実施するにあたり、パネル全体で討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。総合評価についても、官能評価の結果をもとに基準化できるように、パネル全体で事前に協議した上で設定した。
【0042】
<i.濃厚感>
「濃厚感」は、喫食時における味(旨味)の強さ(濃さ)である。本実施例では、下記の5段階評価法により評価した。
5:非常に強い
4:強い
3:やや強い
2:やや弱い
1:効果なし
【0043】
<ii.コク>
「コク」は、喫食時において、口腔内に留まる味(旨味)の持続性である。本実施例では下記の5段階評価法で評価した。
5:非常に強い
4:強い
3:やや強い
2:やや弱い
1:効果なし
【0044】
<iii.野菜由来の過剰な香味>
「野菜由来の過剰な香味」は、野菜の青臭さや各野菜特有の香りや風味である所謂「野菜臭さ」を、下記の5段階評価法で評価した。
5:感じない
4:ほぼ感じない
3:やや感じる
2:感じる
1:非常に強く感じる
【0045】
<iv.ざらつき>
「ざらつき」は、喫食時において、舌の上に残る繊維状の食感である。本実施例では下記3段階評価法で評価した。
5:感じない
3:やや感じる
1:非常に強く感じる
【0046】
<総合評価>
「総合評価」は、前述した4項目の評価結果から、下記の基準により◎、○、△、×の4段階で評価した。
◎:「満足感」、「コク」、「野菜臭さ」、「ざらつき」の評価がすべて5
○:「満足感」、「コク」、「野菜臭さ」、「ざらつき」の評価がいずれも3以上で、かつ「満足感」、「コク」、「野菜臭さ」の評価点の合計が10〜14
△:「満足感」、「コク」、「野菜臭さ」、「ざらつき」の評価がいずれも2以上で、かつ「満足感」、「コク」、「野菜臭さ」の評価点の合計が6から9
×:「満足感」、「コク」、「野菜臭さ」、「ざらつき」の評価のうち、1項目以上2未満
【0047】
(3)試し評価・キャリブレーション
いくつかの野菜エキス組成物を用いて、各評価項目について強度評価の訓練を行った。訓練に際しては、パネル自身の評価結果を伝えることで、繰り返し評価における再現性を確認させた。
【0048】
(4)本評価
前述した訓練により各パネリストの強度評価の妥当性を担保した後、実施例及び比較例のサンプルを用いて官能評価を行った。香りはカップに直接鼻を近づけて評価し、風味、味及び食感は計量スプーンで小さじ1杯(約5ml)分計量したサンプルを味わうことにより評価した。
【0049】
また、各野菜成分及び野菜エキス組成物の乾燥固形分量は、105℃で35時間乾燥し、乾燥後に残った固形分の質量を測定して求めた。また、各エキスの全窒素量は、ケルダール法により測定した。以上の結果を、下記表1及び表2にまとめて示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
上記表2に示すように、No.A13の組成物は、タマネギ成分量が本発明の範囲を超えているため野菜臭さが強く、また、白菜成分が本発明の範囲に満たないため、濃厚感が感じられなかった。No.A14の組成物は、白菜成分量が本発明の範囲を超え、タマネギ成分量が本発明の範囲に満たないため、濃厚感やコクが感じられないものであった。同様に、No.A15の組成物は、白菜成分量が本発明の範囲を超えているため、タマネギやキャベツとの間の相乗効果が発揮されず、濃厚感やコクが感じられないものであった。
【0053】
No.A16の組成物は、キャベツ成分量が本発明の範囲を超えているため、野菜臭さが強く、濃厚感も感じられなかった。No.A17の組成物は、キャベツ成分量が本発明の範囲に満たないため、濃厚感やコクが感じられなかった。また、白菜成分、タマネギ成分又はキャベツ成分のみからなるNo.A18〜A20の組成物は、濃厚感やコクが感じられず、No.A19及びNo.A20の組成物は、更に野菜臭さも際立っていた。白菜成分、タマネギ成分及びキャベツ成分のうち2種を組み合わせたNo.A21〜A23の組成物も同様に濃厚感やコクが感じられず、No.A21及びNo.A23の組成物は更に野菜臭さも顕著であった。
【0054】
これに対して、上記表1に示す本発明の実施例であるNo.A1〜A12の野菜エキス組成物は、濃厚感やコクがあり、かつ野菜臭さも感じられず、惣菜用途に好適なものであった。
【0055】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例として、所定の割合で、白菜エキス、タマネギエキス、キャベツエキス、ニンジンエキス及びジャガイモエキスを混合し、得られた各野菜エキス組成物について、前述した第1実施例と同様の方法及び条件で、官能試験を行った。その結果を下記表3に示す
【0056】
【表3】
【0057】
上記表3に示すように、32質量%を超えてニンジン成分を添加したNo.B4,B5の野菜エキス組成物は、ニンジン成分を含まないNo.A6の野菜エキス組成物に比べて、濃厚感、コク及び野菜臭さのいずれも評価が低かった。一方、ニンジン成分量が2質量%未満であるNo.B1の野菜エキス組成物は、No.A6の野菜エキス組成物と同等の評価結果であり、濃厚感やコクの底上げ効果は得られなかった。
【0058】
また、41質量%を超えてジャガイモ成分を添加したNo.B10,B11の野菜エキス組成物は、ジャガイモ成分を含まないNo.A6の野菜エキス組成物に比べて、濃厚感、コク及び野菜臭さのいずれも評価が低くなり、更に、ざらつきが目立ち、食感が悪くなった。一方、ジャガイモ成分量が4質量%未満であるNo.B6の野菜エキス組成物は、No.A6の野菜エキス組成物と同等の評価結果であり、濃厚感やコクの底上げ効果は得られなかった。
【0059】
これに対して、ニンジン成分を2〜32質量%、又は、ジャガイモ成分を4〜41質量%含有するNo.B2,B3,B7,B8,B9の野菜エキス組成物は、No.A6の野菜エキス組成物よりも濃厚感やコクが向上していた。更に、ニンジン成分とジャガイモ成分の両方を含有するNo.B12の野菜エキス組成物は、濃厚感及びコク共に大幅に向上していた。
【0060】
(第3実施例)
次に、第3実施例として、野菜エキス組成物の配合量が異なる複数の調味液を調製し、各調味液を用いて惣菜を調理し、野菜エキス組成物の添加効果について、官能試験により確認した。野菜エキス組成物には、第1実施例のNo.A6の組成物を用いた。また、調味液は、下記表4に示す配合とした。なお、上記表4に示す調味液成分の残部は水である。
【0061】
【表4】
【0062】
[調理方法]
評価に用いる惣菜は、煮豆腐とした。評価用の煮豆腐を調理する際は、豆腐200gを所定の大きさに切り、フライパンで炒めた後、調味液100gを絡めた。
【0063】
[評価方法]
4名の分析型官能評価専門パネルにより、野菜エキス組成物を添加していないものを基準とし、各惣菜の「濃厚感」と「コク」を、下記の4段階で評価した。
◎:非常に高い
○:高い
△:効果あり
×:差がない又は味のバランスが崩れた
【0064】
ここで、「濃厚感」とは、惣菜の喫食時における味(旨味)の強さ(濃さ)のことであり、「コク」とは、惣菜の喫食時における口腔内に留まる味(旨味)の持続性のことである。そして、「濃厚感」及び「コク」を評価する際は、パネル全体で討議して、各評価項目の特性に対してすり合わせを行い、各パネルが共通認識を持つようにした。また、各評価項目について強度評価の訓練では、パネル自身の評価結果を伝えることで、繰り返し評価における再現性を確認させた。各パネリストの強度評価の妥当性を訓練により担保した後に、実施例の各試験区について官能評価を行った。
【0065】
以上の評価結果を下記表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
上記表5に示すように、野菜エキス組成物含有率が0.025質量%の調味液を用いたNo.C2の惣菜(煮豆腐)は、野菜エキス組成物を配合していない調味液を用いたNo.C1の惣菜と、味に差は感じられなかった。また、野菜エキス組成物を、35質量%及び50質量%と多量に含有する調味液を用いたNo.C10及びNo.C11の惣菜は、野菜エキスの味が強くなり、味のバランスが崩れた。
【0068】
これに対して、野菜エキス組成物を0.05〜30質量%の範囲で含有する調味液を用いたNo.C3〜C9の惣菜は、野菜エキス組成物を配合していない調味液で調理したNo.C1の惣菜に比べて、濃厚感とコクが向上していた。これらの結果から、本発明の野菜エキス組成物を適量配合することで、惣菜に濃厚感とコクを付与できることが確認された。特に、野菜エキス組成物の含有量が0.4〜5質量%の調味液では、コクの付与効果が高かった。
【0069】
(第4実施例)
次に、第4実施例として、本発明の野菜エキス組成物を配合した調味液を用いて、煮豆腐以外の惣菜を調理し、野菜エキス組成物の添加効果について、官能試験により確認した。なお、野菜エキス組成物には、第1実施例のNo.A6の組成物を用いた。
【0070】
<惣菜I:コーンスープ>
クリームコーン200gに、醤油を3.5質量%、野菜エキス組成物を2質量%含有し、残部が水の調味液Iを加え、軽く沸騰させてコーンスープを作製した。
【0071】
<惣菜II:なすとピーマンの甘味噌炒め>
所定の大きさに切ったなす200gとピーマン60gを、サラダ油をひき、熱したフライパンに投入し、火が通るまで炒めた。その後、醤油を20質量%、甜麺醤を40質量%、清酒を30質量%、野菜エキス組成物を2質量%含有し、残部が水の調味液IIを入れ、具材(なす・ピーマン)に絡めた。
【0072】
[評価方法]
野菜エキス組成物を添加していないものを基準とし、各惣菜の「濃厚感」及び「コク」を、4名の分析型官能評価専門パネルにより、前述した実施例3と同様の方法及び条件で評価した。その評価結果を下記表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
上記表6に示すように、洋風のコーンスープ(惣菜I)や、中華風のなすとピーマンの甘味噌炒め(惣菜II)においても、本発明の野菜エキス組成物を含有する調味液を用いると、惣菜に、濃厚感とコクを付与すると共に、風味を増強できた。これにより、本発明の野菜エキス組成物は、和風惣菜だけでなく、洋風惣菜や中華惣菜においても、好適に使用できることが確認された。
【要約】
【課題】野菜由来の過剰な香味を低減し、単独で使用しても旨味を向上させることができ、汎用性のある野菜エキス組成物、調味料及び食品を提供する。
【解決手段】例えば、白菜エキスと、タマネギエキスと、キャベツエキスとを特定の割合で配合するか、又は、白菜抽出物と、タマネギ抽出物と、キャベツ抽出物を特定割合で混合した後、濃縮することにより、乾燥固形分中に、白菜成分が22〜77質量%、タマネギ成分が8〜60質量%、キャベツ成分が2〜35質量%含有される野菜エキス組成物とし、この野菜エキス組成物を用いて調味料や食品を製造する。
【選択図】なし